(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶微粒子を付着させるステップにおいて、前記結晶微粒子を気体とともに吹き付けることで前記コーティング液に付着させる請求項1に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
前記結晶微粒子を付着させるステップにおいて、薬剤および溶媒を含む薬剤含有液を噴霧し、溶媒を揮発させて前記結晶微粒子を形成し、当該結晶微粒子を前記コーティング液に付着させる請求項1に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
前記結晶微粒子を付着させるステップにおいて、前記バルーンを回転可能に収容する収容部の内部に収容し、当該収容部の内部で、前記コーティング液に前記結晶微粒子を付着させる請求項1〜3のいずれか1項に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
前記溶媒は、水、酢酸、ベンゼン、クロロヘキサン、グリセリン、エタノール、ヘキサン、エチルアセテート、o−ジクロロベンゼン、o−キシレン、p−キシレン、シクロヘキサノール、スチレン、シクロヘキサン、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、プロパノール、ブタノール、トルエン、エチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含有している請求項1〜4のいずれか1項に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
前記水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有している請求項1〜5のいずれか1項に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0023】
本実施形態に係るバルーンカテーテルの製造方法は、
図1、2に示すように、バルーン30の外表面に薬剤の結晶が設けられた薬剤溶出型のバルーンカテーテル10を製造するための方法である。なお、本明細書では、バルーンカテーテル10の生体管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0024】
まず、バルーンカテーテル10の構造を説明する。バルーンカテーテル10は、長尺なカテーテル本体20と、カテーテル本体20の先端部に設けられるバルーン30と、バルーン30の外表面に設けられる薬剤を含むコート層40と、カテーテル本体20の基端に固着されたハブ26とを有している。
【0025】
カテーテル本体20は、先端および基端が開口した管体である外管21と、外管21の内部に配置される管体である内管22とを備えている。内管22は、外管21の中空内部に納められており、カテーテル本体20は、先端部において二重管構造となっている。内管22の中空内部は、ガイドワイヤを挿通させるガイドワイヤルーメン24である。また、外管21の中空内部であって、内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン23が形成される。内管22は、開口部25において外部に開口している。内管22は、外管21の先端よりもさらに先端側まで突出している。
【0026】
バルーン30は、基端側端部が外管21の先端部に固定され、先端側端部が内管22の先端部に固定されている。これにより、バルーン30の内部が拡張ルーメン23と連通している。拡張ルーメン23を介してバルーン30に拡張用流体を注入することで、バルーン30を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、CO
2ガス、O
2ガス、N
2ガス、Arガス、空気、混合ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体を用いることができる。
【0027】
バルーン30の軸心方向における中央部には、拡張させた際に外径が等しい円筒状のストレート部31が形成され、ストレート部31の軸心方向の両側に、外径が徐々に変化するテーパ部33が形成される。そして、ストレート部31の外表面の全体に、薬剤を含むコート層40が形成される。なお、バルーン30においてコート層40を形成する範囲は、ストレート部31のみに限定されず、ストレート部31に加えてテーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよく、または、ストレート部31の一部のみであってもよい。
【0028】
ハブ26は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する基端開口部27が形成されている。
【0029】
バルーン30の軸心方向の長さは特に限定されないが、好ましくは5〜500mm、より好ましくは10〜300mm、さらに好ましくは20〜200mmである。
【0030】
バルーン30の拡張時の外径は、特に限定されないが、好ましくは1〜10mm、より好ましくは2〜8mmである。
【0031】
バルーン30のコート層40が形成される前の外表面は、平滑であり、非多孔質である。バルーン30のコート層40が形成される前の外表面は、膜を貫通しない微小な孔があってもよい。または、バルーン30のコート層40が形成される前の外表面は、平滑であって非多孔質である範囲と、膜を貫通しない微小な孔がある範囲の両方を備えてもよい。微小な孔の大きさは、例えば、直径が0.1〜5μm、深さが0.1〜10μmであり、1つの結晶に対して、1つまたは複数の孔を有してもよい。また、微小な孔の大きさは、例えば、直径が5〜500μm、深さが0.1〜50μmであり、1つの孔に対して、1つまたは複数の結晶を有してもよい。
【0032】
バルーン30は、ある程度の柔軟性を有するとともに、血管や組織等に到達した際に拡張されて、その外表面に有するコート層40から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、バルーン30は、金属や、樹脂で構成されるが、コート層40が設けられるバルーン30の少なくとも外表面は、樹脂で構成されていることが好ましい。バルーン30の少なくとも外表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートするバルーン30の外表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p−フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、または脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、バルーン30の材料として用いられる。上記ポリアミド類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、バルーン30はポリアミドの滑らかな表面を有することが好ましい。
【0033】
バルーン30は、その外表面上に、後述する方法によって、直接またはプライマー層等の前処理層を介してコート層40が形成される。コート層40は、
図3に示すように、バルーン30の外表面に層状に配置される水溶性低分子化合物を含む添加剤41(賦形剤)と、独立した長軸を有して延在する水不溶性の薬剤結晶42とを有している。薬剤結晶42の端部は、バルーン30の外表面と直接接触してもよいが、直接接触せずに、薬剤結晶42の端部とバルーン30の外表面との間に添加剤41が存在してもよい。薬剤結晶42の端部が添加剤41の層の表面に位置して、薬剤結晶42が添加剤41から突出してもよい。複数の薬剤結晶42は、バルーン30の外表面に規則的に配置されてもよい。または、複数の薬剤結晶42は、バルーン30の外表面に不規則に配置されてもよい。
【0034】
コート層40に含まれる薬剤量は、特に限定されないが、0.1μg/mm
2〜10μg/mm
2、好ましくは0.5μg/mm
2〜5μg/mm
2の密度で、より好ましくは0.5μg/mm
2〜3.5μg/mm
2、さらに好ましくは1.0μg/mm
2〜3μg/mm
2の密度で含まれる。コート層40の結晶の量は、特に限定されないが、好ましくは5〜500、000[crystal/(10μm
2)](10μm
2当たりの結晶の数)、より好ましくは50〜50、000[crystal/(10μm
2)]、さらに好ましくは500〜5、000[crystal/(10μm
2)]である。
【0035】
薬剤結晶42は、各々独立した長軸を有する形態であってもよい。また、薬剤結晶42は、他の形態型であってもよい。複数の薬剤結晶42は、これらが組み合された状態で存在していてもよいし、隣接する複数の薬剤結晶42同士が異なる角度を形成した状態で接触して存在してもよい。複数の薬剤結晶42はバルーン表面上で空間(結晶を含まない空間)をおいて位置していてもよい。バルーン30の表面に、組み合された状態の複数の薬剤結晶42と、互いに離れて独立した複数の薬剤結晶42の両方が存在してもよい。複数の薬剤結晶42は、異なる長軸方向を有して円周状にブラシ状として配置されてもよい。各々の前記薬剤結晶42は独立して存在しており、ある長さを有し、その長さ部分の一端(基端)が、添加剤41またはバルーン30に固定されている。薬剤結晶42は隣接する薬剤結晶42と複合的な構造を形成せず、連結していない。前記結晶の長軸は、ほぼ直線状である。薬剤結晶42はその長軸が交わる基部が接する表面に対して所定の角度を形成している。
【0036】
薬剤結晶42は、互いに接触せずに独立して立っていることが好ましい。薬剤結晶42の基部は、バルーン30の基材上で他の基部と接触していてもよい。または、薬剤結晶42の基部は、バルーン30の基材上で他の基部と接触せずに独立していてもよい。
【0037】
薬剤結晶42は、中空である場合と、中実である場合がある。バルーン30の表面に、中空の薬剤結晶42と、中実の薬剤結晶42の両方が存在してもよい。薬剤結晶42は、中空である場合、少なくともその先端付近が中空である。薬剤結晶42の長軸に直角な(垂直な)面における薬剤結晶42の断面は中空を有する。当該中空を有する薬剤結晶42は長軸に直角な(垂直な)面における薬剤結晶42の断面が多角形である。当該多角形は、例えば3角形、4角形、5角形、6角形などである。したがって、薬剤結晶42は先端(または先端面)と基端(または基端面)とを有し、先端(または先端面)と基端(または基端面)との間の側面が複数のほぼ平面で構成された長尺多面体として形成される。この結晶形態型(中空長尺体結晶形態型)は基部が接する表面において、ある平面の全体または少なくとも一部を構成する。
【0038】
長軸を有する薬剤結晶42の長軸方向の長さは5μm〜20μmが好ましく、9μm〜11μmがより好ましく、10μm前後であるのがさらに好ましい。長軸を有する薬剤結晶42の径は、0.01μm〜5μmであるのが好ましく、0.05μm〜4μmであるのがより好ましく、0.1μm〜3μmであるのがさらに好ましい。長軸を有する薬剤結晶42の長軸方向の長さと径の組み合わせの例として、長さが5μm〜20μmのときに径が0.01〜5μmである組み合わせ、長さが5〜20μmのときに径が0.05〜4μmである組み合わせ、長さが5〜20μmのときに径が0.1〜3μmである組み合わせが挙げられる。長軸を有する薬剤結晶42は、長軸方向に直線状であるが、曲線状に湾曲してもよい。バルーン30の表面に、直線状の薬剤結晶42と、曲線状の薬剤結晶42の両方が存在してもよい。
【0039】
上述した長軸を有する結晶形態型は、バルーン30の外表面の薬剤結晶全体に対して50体積%以上、より好ましくは70体積%以上である。長軸を有する結晶粒子である薬剤結晶42は、バルーン30または添加剤41の外表面に対して寝ておらず立っているように形成される。添加剤41は、薬剤結晶42がある領域に存在し、薬剤結晶42がない領域にはなくてもよい。
【0040】
添加剤41は、林立する複数の薬剤結晶42の間の空間に分配されて存在する。コート層40を構成する物質の割合は、水不溶性の薬剤結晶42の方が、添加剤41よりも大きい体積を占めることが好ましい。添加剤41は、マトリックスを形成しない。マトリックスとは、比較的高分子の物質(ポリマーなど)が連続して構成された層であり、網目状の三次元構造を形成し、その中に微細な空間が存在する。したがって、結晶を構成する水不溶性薬剤はマトリックス物質中に付着していない。結晶を構成する水不溶性薬剤は、マトリックス物質中に埋め込まれてもいない。なお、添加剤41は、マトリックスを形成してもよい。
【0041】
添加剤41はバルーン30の外表面で溶媒に溶けた状態でコートされた後、乾燥して層として形成される。添加剤41はアモルファスである。添加剤41は、結晶粒子であってもよい。添加剤41は、アモルファスおよび結晶粒子の混合物として存在してもよい。
図3の添加剤41は、結晶粒子及び/または粒子状アモルファスの状態である。または、添加剤41は、フィルム状アモルファスの状態であってもよい。添加剤41は、水不溶性薬剤を含んだ層として形成されている。または、添加剤41は、水不溶性薬剤を含まない独立した層として形成されてもよい。添加剤41の厚みは、0.1〜5μm、好ましくは0.3〜3μm、より好ましくは0.5〜2μmである。
【0042】
長尺体結晶の形態型を含む層は、体内に送達する際に、毒性が低く、狭窄抑制効果が高い。中空長尺体結晶形態を含む水不溶性薬剤は、薬剤が組織に移行した時に結晶の一つの単位が小さくなるために組織への浸透性が良く、かつ、良好な溶解性を有するため、有効に作用して狭窄を抑制できる。また、薬剤が大きな塊として組織に残留することが少ないために毒性が低くなると考えられる。
【0043】
また、長尺な結晶形態型の薬剤結晶42を含む層は、組織に移行する結晶の大きさ(長軸方向の長さ)が約10μmと小さい。そのために病変患部に均一に作用し、組織浸透性が高まる。さらに、移行する薬剤結晶42の寸法が小さいために過剰量の薬剤が、過剰時間、患部に留まることがなくなるために、毒性を発現することなく、高い狭窄抑制効果を示すことが可能であると考える。
【0044】
バルーン30の外表面にコーティングされる薬剤は、非結晶質(アモルファス)型を含んでもよい。薬剤結晶42や非晶質は、コート層40において規則性を有するように配置されてもよい。または、結晶や非晶質は、不規則に配置されてもよい。
【0045】
次に、バルーンカテーテル10の製造装置50について説明する。バルーンカテーテルの製造装置50は、バルーン30にコート層40を形成することができる。製造装置50は、
図4〜6に示すように、バルーンカテーテル10を回転させる回転機構部60と、バルーンカテーテル10を支持する支持台70とを有する。製造装置50は、さらに、バルーン30の外表面にコーティング液45を塗布するディスペンシングチューブ94が設けられるコーティング液供給部90と、ディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して移動させる移動機構部80とを有する。製造装置50は、さらに、バルーン30に塗布されたコーティング液45に、薬剤の結晶微粒子120を付着させるための結晶供給部110と、製造装置50の各部位を制御する制御部100とを有する。
【0046】
回転機構部60は、バルーンカテーテル10のハブ26を保持し、内蔵されるモータ等の駆動源によってバルーンカテーテル10を、バルーン30の軸心を中心に回転させる。バルーンカテーテル10は、ガイドワイヤルーメン24内に芯材61が挿通されて保持されるとともに、芯材61によってコーティング液45のガイドワイヤルーメン24内への流入が防止されている。また、バルーンカテーテル10は、拡張ルーメン23への流体の流通を操作するために、ハブ26の基端開口部27に、流路の開閉を操作可能な三方活栓が接続される。
【0047】
支持台70は、カテーテル本体20を内部に収容して回転可能に支持する管状の基端側支持部71と、芯材61を回転可能に支持する先端側支持部72とを備えている。なお、先端側支持部72は、可能であれば、芯材61ではなしにカテーテル本体20の先端部を回転可能に支持してもよい。
【0048】
移動機構部80は、バルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動可能な移動台81と、ディスペンシングチューブ94が固定されるチューブ固定部83とを備えている。移動台81は、内蔵されるモータ等の駆動源によって、直線的に移動可能である。移動台81が移動することで、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動する。また、移動台81は、コーティング液供給部90が載置されており、コーティング液供給部90を軸心に沿う両方向へ直線的に移動させる。
【0049】
コーティング液供給部90は、バルーン30の外表面にコーティング液45を塗布する部位である。コーティング液供給部90は、コーティング液45を収容する容器92と、任意の送液量でコーティング液45を送液する送液ポンプ93と、コーティング液45をバルーン30に塗布するディスペンシングチューブ94とを備えている。
【0050】
送液ポンプ93は、例えばシリンジポンプであり、制御部100によって制御されて、容器92から吸引チューブ91を介してコーティング液45を吸引し、供給チューブ96を介してディスペンシングチューブ94へコーティング液45を任意の送液量で供給できる。送液ポンプ93は、移動台81に設置され、移動台81の移動により直線的に移動可能である。なお、送液ポンプ93は、コーティング液45を送液可能であればシリンジポンプに限定されず、例えばチューブポンプであってもよい。
【0051】
ディスペンシングチューブ94は、供給チューブ96と連通しており、送液ポンプ93から供給チューブ96を介して供給されるコーティング液45を、バルーン30の外表面へ吐出する。ディスペンシングチューブ94は、可撓性を備えた円管状の部材である。ディスペンシングチューブ94は、チューブ固定部83に上端が固定されており、チューブ固定部83から鉛直方向下方へ延在し、下端である吐出端97に開口部95が形成されている。ディスペンシングチューブ94は、移動台81を移動させることで、移動台81に設置される送液ポンプ93とともに、バルーンカテーテル10の軸心方向に沿う両方向へ直線的に移動可能である。ディスペンシングチューブ94はバルーン30に押し付けられて撓んだ状態で、コーティング液45をバルーン30の外表面に供給可能である。
【0052】
なお、ディスペンシングチューブ94は、コーティング液45を供給可能であれば、円管状でなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、開口部95からコーティング液45を吐出可能であれば、鉛直方向に延在していなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、バルーン30の外表面から離れた位置でバルーン30へコーティング液45を供給してもよい。
【0053】
ディスペンシングチューブ94は、バルーン30への接触負担を低減し、かつバルーン30の回転に伴う接触位置の変化を撓みにより吸収できるように、柔軟な材料であることが好ましい。ディスペンシングチューブ94の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂等を適用できるが、可撓性を有して変形可能であれば、特に限定されない。
【0054】
ディスペンシングチューブ94の外径は、特に限定されないが、例えば0.1mm〜5.0mm、好ましくは0.15mm〜3.0mm、より好ましくは0.3mm〜2.5mmである。ディスペンシングチューブ94の内径は、特に限定されないが、例えば0.05mm〜3.0mm、好ましくは0.1mm〜2.0mm、より好ましくは0.15mm〜1.5mmである。ディスペンシングチューブ94の長さは、特に限定されないが、バルーン直径の5倍以内の長さであることがよく、例えば1.0mm〜50mm、好ましくは3mm〜40mm、より好ましくは5mm〜35mmである。
【0055】
結晶供給部110は、バルーン30に塗布されたコーティング液45に結晶微粒子120を付着させるために、結晶微粒子120を空中から供給する部位である。結晶微粒子120は、薬剤結晶42と同一の薬剤からなる結晶の微粒子である。結晶微粒子120は、バルーン30の外表面に薬剤結晶42を形成するための核となる。したがって、結晶微粒子120の大きさは、薬剤結晶42よりも小さい。結晶微粒子120の大きさは、例えば0.001〜10μm、好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.1〜1μmである。
【0056】
結晶供給部110は、バルーン30を収容可能な収容部111と、収容部111の内部で結晶微粒子120を吐出する吐出部115と備えている。結晶供給部110は、さらに、吐出部115に連通する微粒子供給管116と、吐出部115へ微粒子供給管116を介して結晶微粒子120を気体(例えば、空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などの不活性ガスなど)とともに送り出す結晶送達部112とを備えている。
【0057】
収容部111は、下方が解放されており、支持台70に支持されて回転するバルーン30を、上方から覆うことができる。収容部111は、バルーン30の遠位側に位置するカテーテル本体20が回転可能に導出される遠位側スリット118と、バルーン30の近位側に位置するカテーテル本体20が回転可能に導出される近位側スリット119とを備えている。遠位側スリット118および近位側スリット119は、収容部111の側壁の下端から上方へ延在する切り込みである。したがって、遠位側スリット118および近位側スリット119にカテーテル本体20が位置するように、収容部111をバルーン30に被せることで、バルーン30の回転を維持しつつ、バルーン30を収容部111に収容できる。また、収容部111が、バルーンカテーテル10のバルーン30以外の部位を覆わないことで、バルーン30以外への結晶微粒子120の付着を抑制できる。なお、結晶微粒子120を付着させたくない部位には、マスキングを施したり、他の部材を被せてもよい。吐出部115は、収容部111に収容されるバルーン30と略平行に、収容部111の内部に配置されている。吐出部115は、バルーン30に沿って並ぶ複数の吐出口117が形成されている。吐出口117は、気体とともに供給された結晶微粒子120を、収容部111の内部に吐出できる。複数の吐出口117が設けられることで、軸方向へ長尺なバルーン30に対して、結晶微粒子120を均一に付着させることができる。また、バルーン30に対して結晶微粒子120を均一に吐出できるように、吐出口117は、バルーン30からある程度離れていることが好ましい。吐出口117は、バルーン30の上方に位置するが、上方に位置しなくてもよい。また、吐出口117は、1つのみであってもよい。
【0058】
結晶送達部112は、結晶微粒子120を収容する微粒子容器114と、微粒子容器114内の結晶微粒子120に気体を混ぜて微粒子供給管116へ送り出す圧縮機113とを備えている。結晶送達部112は、制御部100によって制御される。
【0059】
制御部100は、例えばコンピュータにより構成され、回転機構部60、移動機構部80、コーティング液供給部90および結晶供給部110を統括的に制御する。したがって、制御部100は、バルーン30の回転速度、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する軸心方向への移動速度、ディスペンシングチューブ94からの薬剤吐出速度、結晶供給部110からの結晶微粒子120の供給量等を、統括的に制御できる。
【0060】
ディスペンシングチューブ94によりバルーン30に供給されるコーティング液45は、コート層40の構成材料を含む溶液または懸濁液であり、水不溶性薬剤、添加剤、溶媒を含んでいる。コーティング液45がバルーン30の外表面に供給された後、溶媒が揮発することで、バルーン30の外表面に、独立した長軸を有して延在する水不溶性の薬剤結晶42を有するコート層40が形成される。
【0061】
コーティング液45の粘度は、0.2〜500cP、好ましくは0.2〜50cP、より好ましくは0.2〜10cPである。
【0062】
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5〜8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
【0063】
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
【0064】
水不溶性薬剤は、パクリタキセルおよびパクリタキセル誘導体、タキサン、ドセタキセルならびにラパマイシンおよびラパマイシン誘導体、例えば、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジルおよびエポチロンが好ましく、パクリタキセルおよびラパマイシン、ドセタキセル、エベロリムスが特に好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
【0065】
添加剤41は、水溶性の低分子化合物を含む。水溶性の低分子化合物の分子量は、50〜2000であり、好ましくは50〜1000であり、より好ましくは50〜500であり、さらに好ましくは50〜200である。水溶性の低分子化合物は、水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは5〜10000質量部、より好ましくは5〜200質量部、さらに好ましくは8〜150質量部である。水溶性の低分子化合物の構成材料は、セリンエチルエステル、クエン酸エステル、ポリソルベート、水溶性ポリマー、糖、造影剤、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等、あるいはこれら二種以上の混合物等が使用できる。水溶性の低分子化合物は、親水基と疎水基を有し、水に溶解することを特徴とする。水溶性の低分子化合物は、非膨潤性または難膨潤性であることが好ましい。添加剤41は、バルーン30上でアモルファス(非晶質)であることが好ましい。水溶性の低分子化合物を含む添加剤41は、バルーン30の外表面上で水不溶性薬剤を均一に分散させる効果を有する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤41が溶解しやすくなることで、バルーン30の外表面上の水不溶性薬剤の結晶粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤の結晶粒子の付着量を増加させる効果を有する。添加剤41は、ハイドロゲルでないことが好ましい。添加剤41は低分子化合物であることで、水溶液に接すると膨潤することなく速やかに溶解する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤41が溶解しやすくなることで、バルーン30の外表面上の水不溶性の薬剤結晶42の粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤結晶42の付着量を増加させる効果を有する。添加剤41がウルトラビスト(Ultravist)(登録商標)のような造影剤からなるマトリクスである場合、結晶粒子がマトリクスに埋め込まれ、バルーン30の基材上からマトリクスの外側に向かって結晶が生成しない。これに対し、本実施形態の薬剤結晶42は、バルーン30の基材の表面から添加剤41の外側まで延在することができる。
【0066】
溶媒は、バルーン30のコート層40を形成する全範囲へのコーティング液45の塗布が完了するまで、塗布した全範囲でコーティング液45に残存しているように、揮発性が低いことが好ましい。溶媒は、有機溶媒および水の少なくとも一方を含んでいる。
【0067】
有機溶媒は、特に限定されず、テトラヒドロフラン、アセトン、グリセリン、酢酸、ベンゼン、クロロヘキサン、o−ジクロロベンゼン、o−キシレン、p−キシレン、シクロヘキサノール、スチレン、シクロヘキサン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテート、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、プロパノール、ブタノール、トルエン、エチレングリコール等である。中でも、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトンのうち、これらのいくつかの混合溶媒が好ましい。
【0068】
有機溶媒と水の混合例として、例えば、テトラヒドロフランと水、テトラヒドロフランとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンと水、アセトンとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンとエタノールと水が挙げられる。
【0069】
揮発性の低い溶媒は、例えば水、酢酸、ベンゼン、クロロヘキサン、グリセリン、エタノール、ヘキサン、エチルアセテート、o−ジクロロベンゼン、o−キシレン、p−キシレン、シクロヘキサノール、スチレン、シクロヘキサン、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、プロパノール、ブタノール、トルエン、エチレングリコール等が挙げられる。溶媒の揮発性は、例えば、溶液の粘度、溶液の濃度(溶媒の含有比率)等より調節できる。
【0070】
次に、本実施形態に係るバルーンカテーテルの製造方法を説明する。本製造方法では、上述した製造装置50を用いて、バルーン30の外表面に水不溶性の薬剤結晶42を形成する。
【0071】
初めに、バルーンカテーテル10の基端開口部27に接続した三方活栓を介して拡張用の流体をバルーン30内に供給する。次に、バルーン30を拡張させた状態で三方活栓を操作して拡張ルーメン23を密封し、バルーン30を拡張させた状態を維持する。バルーン30は、血管内での使用時の圧力(例えば8気圧)よりも低い圧力(例えば4気圧)で拡張される。なお、バルーン30を拡張させずに、バルーン30の外表面にコート層40を形成することもでき、その場合には、拡張用の流体をバルーン30内に供給する必要はない。
【0072】
次に、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の外表面と接触しない状態で、バルーンカテーテル10を支持台70に回転可能に設置し、ハブ26を回転機構部60に連結する。
【0073】
次に、移動台81の位置を調節して、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して位置決めする。このとき、バルーン30においてコート層40を形成する最も先端側の位置に、ディスペンシングチューブ94を位置決めする。一例として、ディスペンシングチューブ94の延在方向(吐出方向)は、
図7に示すように、バルーン30の回転方向と逆方向である。したがって、バルーン30は、ディスペンシングチューブ94を接触させた位置において、ディスペンシングチューブ94からのコーティング液45の吐出方向と逆方向に回転する。これにより、コーティング液45に物理的な刺激を与え、薬剤結晶の結晶核の形成を促すことができる。そして、ディスペンシングチューブ94の開口部95へ向かう延在方向(吐出方向)が、バルーン30の回転方向と逆方向であることで、バルーン30の外表面に形成される水不溶性薬剤の結晶は、結晶が各々独立した長軸を有する複数の薬剤結晶42を含む形態型を含んで形成されやすい。なお、ディスペンシングチューブ94の延在方向は、バルーン30の回転方向と逆方向でなくてもよく、したがって同方向とすることができ、または垂直とすることもできる。ディスペンシングチューブ94は、バルーン30の外表面から離れた位置でバルーン30へコーティング液45を供給してもよい。
【0074】
次に、回転機構部60によりバルーンカテーテル10を回転させる。続いて、送液ポンプ93により送液量を調節してコーティング液45をディスペンシングチューブ94へ供給しつつ、移動台81を移動させて、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の軸心方向に沿って徐々に基端方向へ移動させる。なお、バルーン30にコーティング液45を塗布する際には、収容部111は、バルーン30を覆っていない。ディスペンシングチューブ94の開口部95から吐出されるコーティング液45は、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に対して相対的に移動することで、バルーン30の外周面に螺旋を描きつつ塗布される。バルーン30が回転していることで、バルーン30の外周面に塗布されたコーティング液45が周方向に均一となりやすい。
【0075】
ディスペンシングチューブ94の移動速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜2mm/sec、好ましくは0.03〜1.5mm/sec、より好ましくは0.05〜1.0mm/secである。コーティング液45のディスペンシングチューブ94からの吐出速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜1.5μL/sec、好ましくは0.01〜1.0μL/sec、より好ましくは0.03〜0.8μL/secである。バルーン30の回転速度は、特に限定されないが、例えば10〜300rpm、好ましくは30〜250rpm、より好ましくは50〜200rpmである。コーティング液45を塗布する際のバルーン30の直径は、特に限定されないが、例えば1〜10mm、好ましくは2〜7mmである。
【0076】
そして、バルーン30を回転させつつディスペンシングチューブ94を徐々にバルーン30の軸心方向へ移動させる。これにより、バルーン30の外表面に、軸心方向へ向かって、コーティング液45の層を徐々に形成する。バルーン30のコーティングする範囲の全体に、コーティング液45の層が形成された後、移動機構部80およびコーティング液供給部90を停止させる。コーティング液45に含まれる溶媒は、揮発性が低いため、バルーン30のコート層40を形成する全範囲へのコーティング液45の塗布が完了した後も、バルーン30上のコーティング液45を塗布した全範囲において溶媒が残存している。
【0077】
次に、ディスペンシングチューブ94をバルーン30から離す。続いて、
図6に示すように、バルーン30の回転を維持しつつ、遠位側スリット118および近位側スリット119にカテーテル本体20が位置するように、収容部111をバルーン30に被せる。次に、制御部100が結晶送達部112を駆動させて、微粒子容器114内の結晶微粒子120を、気体とともに微粒子供給管116へ送り出す。結晶微粒子120は、微粒子供給管116を通って吐出部115へ到達し、吐出口117から吐出される。制御部100が所定の量の結晶微粒子120を吐出された後、結晶送達部112の駆動を停止する。すなわち、吐出される結晶微粒子120の量は、薬剤結晶42を形成するために結晶核として必要な量のみである。吐出された結晶微粒子120は、回転するバルーン30の外表面のコーティング液45に付着する。このとき、バルーン30が回転しているため、バルーン30の外表面のコーティング液45を均一に維持しつつ、コーティング液45に結晶微粒子120を均一に付着させることができる。コーティング液45に結晶微粒子120が付着すると、コーティング液45に含まれる薬剤が、結晶微粒子120を核として析出しやすくなり、結晶化が促される。さらに、薬剤の結晶化を、結晶微粒子120を核として、コーティング液45を塗布した全範囲で略同一条件で同時に促すことができる。このため、バルーン30の外表面に薬剤結晶42を均一に形成でき、かつ薬剤の形態型の制御が容易となる。所定の時間が経過して、溶媒が完全に揮発してコート層40が形成された後、制御部100がバルーン30の回転を停止させる。なお、バルーン30の回転の停止は、溶媒の揮発が完全に終了する前に行われてもよい。
【0078】
バルーン30の外表面に塗布されたコーティング溶液に含まれる有機溶媒は、水よりも先に揮発する。したがって、バルーン30の外表面に、水不溶性薬剤、水溶性低分子化合物および水が残された状態で、有機溶媒が揮発する。このように、水が残された状態で有機溶媒が揮発すると、水不溶性の薬剤が、水を含む水溶性低分子化合物の内部で析出し、結晶核から結晶が徐々に成長して、バルーン30の外表面に、結晶が各々独立した長軸を有する複数の結晶を含む形態型(morphological form)の薬剤結晶42が形成される。薬剤結晶42の基部は、バルーン30の外表面、添加剤41の表面または添加剤41内部に位置する(
図3を参照)。有機溶媒が揮発して薬剤結晶42が析出した後、水が有機溶媒よりもゆっくり蒸発し、水溶性低分子化合物を含む添加剤41が形成される。水が蒸発する時間は、薬剤の種類、水溶性低分子化合物の種類、有機溶媒の種類、材料の比率、コーティング溶液の塗布量等に応じて適宜設定されるが、例えば、1〜600秒程度である。
【0079】
次に、バルーン30を覆う収容部111をバルーン30から取り外し、バルーンカテーテル10を支持台70から取り外す。次に、バルーン30から拡張用流体を排出し、バルーン30を収縮させて折り畳む。これにより、バルーンカテーテル10の製造が完了する。
【0080】
バルーン30は、
図8(A)に示すように、内部に拡張用流体が注入された状態で断面略円形状を有する。この状態から、バルーン30は、突出する羽根部32が形成されることで、
図8(B)に示すように、羽根部32の外側面を構成する羽根外側部34aと、羽根部32の内側面を構成する羽根内側部34bと、羽根外側部34aと羽根内側部34bの間に位置する中間部34cとが形成される。この状態から、
図8(C)に示すように、径方向外側へ突出する羽根部32が、周方向へ折り畳まれる。バルーン30の羽根部32が折り畳まれると、羽根部32の外側面を構成する羽根外側部34aと、羽根部32の内側面を構成する羽根内側部34bと、羽根外側部34aと羽根内側部34bの間に位置する中間部34cとが形成される。バルーン30の羽根部32が折り畳まれると、羽根内側部34bと中間部34cが重なって接触し、バルーン30の外表面同士が対向して重なる重複部35が形成される。そして、中間部34cの一部および羽根外側部34aは、羽根内側部34bに覆われず、外側に露出する。また、バルーン30が折り畳まれた状態では、羽根部32の根元部と中間部34cとの間に、根元側空間部36が形成される。根元側空間部36の領域では、羽根部32と中間部34cとの間に、微小な隙間が形成される。一方、羽根部32の根元側空間部36よりも先端側の領域は、中間部34cに対して密接した状態となっている。羽根部32の周方向長さに対する根元側空間部36の周方向長さの割合は、1〜95%の範囲である。バルーン30の羽根外側部34aは、バルーン30を折り畳むためのブレードから周方向に擦れるような押圧力を受け、さらに加熱される。これにより、羽根外側部34aに設けられる長尺な薬剤結晶42がバルーン30の表面に倒れて寝やすい。なお、薬剤結晶42の全てが寝る必要はない。
【0081】
また、バルーン30の重複部35において重なる外表面は、外部に露出しないため、折り畳む際に、ブレードから押圧力が間接的に作用する。このため、バルーン30の重複部35において重なる外表面に設けられる薬剤結晶42に作用する力を、強くなり過ぎないように調節することが容易である。したがって、バルーン30の重複部35において重なる外表面に設けられる薬剤結晶42を寝かせるために望ましい力を作用させることができる。また、互いに対向する羽根内側部34bと中間部34cの領域のうち、根元側空間部36に面する領域、すなわち羽根内側部34bと中間部34cとが密接しない領域では、薬剤結晶42は押圧力を受け難い。したがって、この領域では、薬剤結晶42が寝にくい。また、互いに対向する羽根内側部34bと中間部34cの領域のうち、根元側空間部36に面しない領域、すなわち羽根内側部34bと中間部34cとが密接している領域では、薬剤結晶42は押圧力を受けやすい。したがって、この領域では、薬剤結晶42が倒れて寝やすい。
【0082】
次に、バルーンカテーテル10の使用方法を、血管内の狭窄部を治療する場合を例として説明する。
【0083】
まず、術者は、セルジンガー法等の公知の方法により、皮膚から血管を穿刺し、イントロデューサ(図示せず)を留置する。次に、バルーンカテーテル10のプライミングを行った後、ガイドワイヤルーメン24内にガイドワイヤ200(
図9を参照)を挿入する。この状態で、ガイドワイヤ200およびバルーンカテーテル10をイントロデューサの内部より血管内へ挿入する。続いて、ガイドワイヤ200を先行させつつバルーンカテーテル10を進行させ、バルーン30を狭窄部へ到達させる。なお、バルーンカテーテル10を狭窄部300まで到達させるために、ガイディングカテーテルを用いてもよい。
【0084】
次に、ハブ26の基端開口部27より、インデフレーターまたはシリンジ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張ルーメン23を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込む。これにより、
図9に示すように、折り畳まれたバルーン30が拡張し、狭窄部300が、バルーン30によって押し広げられる。このとき、バルーン30の外表面に設けられるコート層40が、狭窄部300に接触する。
【0085】
バルーン30を拡張させてコート層40を生体組織に押し付けると、コート層40に含まれる水溶性の低分子化合物である添加剤41が徐々にまたは速やかに溶けつつ、薬剤結晶42が生体へ送達される。コート層40の薬剤結晶42は、上述した製造方法によって、均一に形成されている。このため、薬剤を生体へばらつきなく良好に作用させることができる。
【0086】
この後、拡張用流体をハブ26の基端開口部27より吸引して排出し、バルーン30を収縮させて折り畳まれた状態とする。この後、イントロデューサを介して血管よりガイドワイヤ200およびバルーンカテーテル10を抜去し、手技が終了する。
【0087】
以上のように、本実施形態に係るバルーンカテーテル10の製造方法は、バルーン30の外表面に水不溶性の薬剤結晶42を含むコート層40が形成されたバルーンカテーテル10の製造方法であって、バルーン30の外表面に薬剤および溶媒を含むコーティング液45を塗布するステップと、バルーン30のコート層40を形成する全範囲へのコーティング液45の塗布が完了した後に、塗布した全範囲においてコーティング液45の溶媒が残存している状態で、バルーン30を当該バルーン30の軸心を中心として回転させつつ、薬剤の結晶微粒子120をコーティング液45に付着させるステップと、コーティング液45の溶媒を揮発させるステップと、を有する。
【0088】
上記のように構成したバルーンカテーテル10の製造方法は、コーティング液45の溶媒が塗布した全範囲において残存している状態で、バルーン30を回転させつつ結晶微粒子120をコーティング液45に付着させることができるため、回転によってコーティング液45を均一に維持しつつ、コーティング液45に結晶微粒子120を均一に付着させることができる。さらに、薬剤の結晶化を、結晶微粒子120を核として、コーティング液45を塗布した全範囲で略同一条件で同時に促すことができる。このため、各種条件や手技のぶれに関わらず、バルーン30の外表面に薬剤結晶42を均一に形成でき、かつ薬剤の形態型を容易に制御できる。
【0089】
また、本製造方法は、結晶微粒子120を付着させるステップにおいて、結晶微粒子120を気体とともに吹き付けることでコーティング液45に付着させる。これにより、バルーン30に供給されたコーティング液45に付着する結晶微粒子120の量を、高精度に調節できる。
【0090】
また、結晶微粒子120を付着させるステップにおいて、バルーン30を回転可能に収容する収容部111の内部に収容し、当該収容部111の内部で、コーティング液45に結晶微粒子120を付着させている。これにより、結晶微粒子120の飛散を抑制し、コーティング液45に付着する結晶微粒子120の量を、高精度に調節できる。また、結晶微粒子120の飛散を抑制することで、コストを低減でき、かつ作業者の安全を確保できる。
【0091】
また、溶媒は、水、酢酸、ベンゼン、クロロヘキサン、グリセリン、エタノール、ヘキサン、エチルアセテート、o−ジクロロベンゼン、o−キシレン、p−キシレン、シクロヘキサノール、スチレン、シクロヘキサン、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、プロパノール、ブタノール、トルエン、エチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、溶媒の揮発性が低くなり、バルーン30に塗布されたコーティング液45から溶媒が揮発し難くなる。このため、バルーン30のコート層40を形成する全範囲へのコーティング液45の塗布が完了するまで、塗布した全範囲においてコーティング液45の溶媒が残存した状態を維持できる。したがって、結晶微粒子120を付着させるタイミングで、薬剤の結晶化を、バルーン30のコーティング液を塗布した全範囲で略同一条件で同時に促すことができる。
【0092】
また、水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、薬剤結晶42により、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
【0093】
また、バルーンカテーテル10の製造装置50は、バルーン30の外表面に水不溶性の薬剤結晶42を含むコート層40が形成されたバルーンカテーテル10の製造装置50であって、バルーン30に回転力を作用させる回転機構部60と、回転するバルーン30の外表面に薬剤および溶媒を含むコーティング液45を塗布するコーティング液供給部90と、バルーン30の外表面の塗布されたコーティング液45に薬剤の結晶微粒子120を付着させる結晶供給部110と、を有する。
【0094】
上記のように構成したバルーンカテーテル10の製造装置50は、バルーン30に塗布したコーティング液45の溶媒が残存している状態で、回転機構部60によりバルーン30を回転させつつ、結晶供給部110によってコーティング液45に結晶微粒子120を付着させることができる。このため、回転によってコーティング液45を均一に維持しつつ、コーティング液45に結晶微粒子120を均一に付着させることができる。さらに、薬剤の結晶化を、結晶微粒子120を核として、コーティング液45を塗布した全範囲で略同一条件で同時に促すことができる。このため、各種条件や手技のぶれに関わらず、バルーン30の外表面に薬剤結晶42を均一に形成でき、かつ薬剤の形態型を容易に制御できる。
【0095】
また、結晶供給部110は、結晶微粒子120を気体とともに吐出する吐出口117を有している。これにより、バルーン30に供給されたコーティング液45に付着する結晶微粒子120の量を、高精度に調節できる。
【0096】
また、製造装置50は、バルーン30を回転可能に収容する収容部111をさらに有している。これにより、結晶微粒子120の飛散を抑制し、コーティング液45に付着する結晶微粒子120の量を、高精度に調節できる。また、結晶微粒子120の飛散を抑制することで、コストを低減でき、かつ作業者の安全を確保できる。
【0097】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述のバルーンカテーテル10は、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)であるが、オーバーザワイヤ型(Over−the−wire type)であってもよい。
【0098】
また、ディスペンシングチューブ94が移動せずに、バルーンカテーテル10が軸心に沿って移動してもよい。また、バルーン30を回転可能に収容する収容部111は、設けられなくてもよい。
【0099】
また、
図10に示す変形例のように、結晶微粒子120を供給する結晶供給部130は、薬剤および溶媒を含む薬剤含有液140を噴霧する噴霧口137を有してもよい。薬剤含有液140は、薬剤を含む溶液または懸濁液である。結晶供給部130は、バルーン30を収容可能な収容部111と、収容部111の内部で薬剤含有液140を霧状に噴霧する噴霧部135と備えている。結晶供給部130は、さらに、噴霧部135に連通する微粒子供給管136と、微粒子供給管136を介して薬剤含有液140を噴霧部135へ送り出す結晶送達部132とを備えている。なお、前述の実施形態と同一の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。薬剤含有液140に含まれる薬剤は、薬剤結晶42と同一の薬剤である。溶媒は、噴霧された後に空気中で揮発できるように、揮発性が高いことが好ましく、例えば、アセトン、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、アセトニトリル、水等を使用できる。
【0100】
噴霧部135は、収容部111に収容されるバルーン30と略平行に、収容部111の内部に配置されている。噴霧部135は、バルーン30に沿って並ぶ複数の噴霧口137が形成されている。噴霧口137は、気体とともに供給された結晶微粒子120を、収容部111の内部に霧状に噴霧できる。複数の噴霧口137が設けられることで、軸方向へ長尺なバルーン30に対して、結晶微粒子120を均一に付着させることができる。また、バルーン30に対して結晶微粒子120を均一に吐出できるように、噴霧口137は、バルーン30からある程度離れていることが好ましい。噴霧口137は、バルーン30の上方に位置するが、上方に位置しなくてもよい。また、噴霧口137は、1つのみであってもよい。
【0101】
結晶送達部132は、薬剤含有液140を収容する薬剤含有液用容器134と、薬剤含有液用容器134内の薬剤含有液140を微粒子供給管116へ送り出すポンプ133とを備えている。結晶送達部132は、制御部100によって制御される。
【0102】
結晶供給部130により結晶微粒子120を供給する際には、前述の実施形態と同様に、バルーン30にコーティング液45を塗布した後、ディスペンシングチューブ94をバルーン30から離す。続いて、バルーン30の回転を維持しつつ、収容部111をバルーン30に被せる。次に、制御部100は、結晶送達部132を駆動させて、薬剤含有液用容器134内の所定量の薬剤含有液140を、微粒子供給管116へ送り出す。薬剤含有液140は、微粒子供給管116を通って噴霧部135へ到達し、噴霧口137から噴霧される。噴霧された各々の液滴の溶媒は、空中で揮発し、液滴に含まれていた薬剤が結晶微粒子120となって浮遊する。所定の量の結晶微粒子120が形成された後、制御部100は、結晶送達部132の駆動を停止させる。浮遊している結晶微粒子120は、回転するバルーン30の外表面のコーティング液45に付着する。このとき、バルーン30が回転しているため、バルーン30の外表面のコーティング液45を均一に維持しつつ、コーティング液45に結晶微粒子120を均一に付着させることができる。コーティング液45に結晶微粒子120が付着すると、コーティング液45に含まれる薬剤が、結晶微粒子120を核として析出しやすくなり、前述の実施形態と同様に、結晶化が促される。所定の時間が経過して、溶媒が完全に揮発してコート層40が形成された後、制御部100は、バルーン30の回転を停止させる。なお、バルーン30の回転の停止は、溶媒の揮発が完全に終了する前に行われてもよい。
【0103】
以上のように、変形例の結晶供給部130は、薬剤および溶媒を含む薬剤含有液140を噴霧する噴霧口137を有している。このため、噴霧口137から薬剤含有液140を噴霧すると、霧状に浮遊した状態で溶媒が揮発して結晶微粒子120が形成され、当該結晶微粒子120がコーティング液45に付着する。これにより、均一な大きさの結晶微粒子120を形成しつつ、結晶微粒子120をコーティング液45に均一に付着させることができる。また、作成する結晶微粒子120の量を、薬剤含有液140の量によって容易かつ高精度に制御できる。
【0104】
また、
図11に示す他の変形例のように、結晶微粒子120を供給する結晶供給部150は、収容部111の内部に、結晶微粒子120を放出可能に保持する微粒子容器151を有してもよい。微粒子容器151は、多数の孔(吐出口)を有する網目状の底面152と、微粒子容器151を加振するための振動子153を有している。振動子153は、例えば圧電素子や、モータ駆動の錘である。振動子153は、制御部100によって駆動可能である。
【0105】
結晶供給部150により結晶微粒子120を供給する際には、前述の実施形態と同様に、バルーン30にコーティング液45を塗布した後、ディスペンシングチューブ94をバルーン30から離す。続いて、バルーン30の回転を維持しつつ、収容部111をバルーン30に被せる。次に、制御部100は、振動子153を駆動して微粒子容器151を振動させ、網目状の底面152から、結晶微粒子120を振るい落とす。振動子153を所定の時間駆動して所定量の結晶微粒子120を振るい落とした後、制御部100は、振動子153を停止させる。微粒子容器151から落とされた結晶微粒子120は、回転するバルーン30の外表面のコーティング液45に付着する。このとき、バルーン30が回転しているため、バルーン30の外表面のコーティング液45を均一に維持しつつ、コーティング液45に結晶微粒子120を均一に付着させることができる。コーティング液45に結晶微粒子120が付着すると、コーティング液45に含まれる薬剤が、結晶微粒子120を核として析出しやすくなり、前述の実施形態と同様に、結晶化が促される。所定の時間が経過して、溶媒が完全に揮発してコート層40が形成された後、制御部100は、バルーン30の回転を停止させる。なお、バルーン30の回転の停止は、溶媒の揮発が完全に終了する前に行われてもよい。