【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の実施の形態において、本発明は、疎水性有機液体化合物が最大99%(w/w)充填されるシリカベースのマイクロカプセル及びナノカプセルを製造する方法であって、
(i)PAOS、又は親水性基で部分的に置換される両親媒性PAOSと、(ii)疎水性有機液体とを含む、疎水性の水不溶性液体を、付加的な界面活性剤を用いることなく、またシリカナノ粒子のような任意の事前形成された(ナノ)粒子も用いずに、剪断力の下、シリカベースのカプセルを形成するのに十分な時間、水溶液中に乳化する工程を含む、方法に関する。
【0012】
上記第1の実施の形態において使用され得る疎水性有機液体の例は、アルカン(実施例1を参照されたい)、アルケン、アルキン、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、芳香族化合物、ポリマー(実施例2を参照されたい)等である。
【0013】
上述した特許文献4及び特許文献5はともに、少なくとも1つの非加水分解性有機基を含有するオルガノシリコーン(シリコーン樹脂)からカプセルを製造する方法を開示しているが、本発明は無機SiO
2カプセルに関するものである。その上、樹脂前駆体は水中で合成及び分散されるものである。それとは異なり、本発明で使用されるPAOSは疎水性であり、有機相により施される。
【0014】
機械的により安定なカプセルを得るために、PAOS又はR−PAOSの変換は、有機相の固化を伴う。
【0015】
第2の実施の形態において、本発明は、疎水性の水不溶性ポリマーが最大99%(w/w)充填されるシリカベースのマイクロカプセル及びナノカプセルを製造する方法であって、
a)(i)PAOSと、(ii)ラジカル重合性の疎水性有機モノマーと、(iii)開始剤とを含む、疎水性の水不溶性溶液を、剪断力の下、付加的な界面活性剤を用いることなく、またシリカナノ粒子のような任意の事前形成された(ナノ)粒子も用いずに、水溶液中に乳化する工程と、
b)得られるエマルションを、重合を誘起させるより高い温度に、シリカベースのカプセルを形成するのに十分な時間加熱する工程と、
c)混合物を室温まで冷却させる工程と、
d)こうして得られたポリマー内包SiO
2(polymer@SiO
2)カプセルを単離する工程と、
を含む、方法に関する。
【0016】
かかるコア−シェル粒子が、反射防止コーティングの製造のための重要成分として使用されてきたことから(国際公開第2008/028640号)、本実施の形態(第2の実施の形態)はコーティング産業にとって特に興味深いものとなり得る。
【0017】
この第2の実施の形態では、任意に、乳化温度で液体形態となり得る非(共)重合性の疎水性有機化合物を、工程a)に更に添加してもよい。スチレンをラジカル重合性の疎水性有機モノマーとして使用する場合、シリカベースのマイクロカプセル及びナノカプセルを得ることができ、この際、非(共)重合性の疎水性有機化合物が、ポリスチレン内包SiO
2コア−シェルマイクロカプセル及びナノカプセル内にカプセル化される(実施例6を参照されたい)。非(共)重合性の疎水性化合物は、アルカン、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、芳香族化合物、ポリマー等から選択される。
【0018】
特許文献3は、重合性ビニルモノマーに由来するポリマー成分とシリカ成分とを含む、シリカを組み合わせたポリマー粒子を開示しているが、各製造方法には、エマルションを安定化させる事前形成された粒子が必要であることが記載されている。それとは異なり、本発明では、エマルションがPAOSのみによって安定化される。本発明によれば、シリカ前駆体ポリマーであるPAOSは、その水不溶性と同時に、油/水界面における加水分解により誘起される顕著な両親媒性に起因して単独のエマルション安定化剤として利用される。
【0019】
第3の実施の形態において、本発明は、室温において結晶性で疎水性の水不溶性物質が最大99%(w/w)充填されるシリカベースのマイクロカプセル及びナノカプセルを製造する方法であって、
a)(i)PAOSと、(ii)室温において結晶性の疎水性有機化合物とを含む、疎水性の水不溶性混合物を、剪断力の下、結晶性有機材料の融点を超える温度で、付加的な界面活性剤を用いることなく、またシリカナノ粒子のような任意の事前形成された(ナノ)粒子も用いずに、水溶液中に乳化する工程と、
b)続いて、工程a)において得られるエマルションを、シリカベースのカプセルを形成するのに十分な時間、加熱する工程と、
c)混合物を室温まで冷却させる工程と、
d)こうして得られた結晶性の疎水性有機化合物内包SiO
2カプセルを単離する工程と、
を含む、方法に関する。
【0020】
高温で溶融可能な、室温(すなわち約23℃)において結晶性の疎水性有機化合物(固体)としては、蝋、例えば、アルカン、アルキルアルコールとアルキルカルボン酸とのエステル、又はそれらの混合物が挙げられる。本実施の形態(第2の実施の形態)は、蝋が重要な化粧品成分として広く使用される化粧品産業にとって特に興味深いものである。この技法を用いて、疎水性蝋を親水性とすることができるため、配合の可能性が大いに広がり得る。さらに、蝋は有機系相転移材料であるため、マイクロカプセル化によってそれらの加工性、例えば、ポリマーマトリックスと複合材料を形成する能力、及び再利用性が改善される。例えば、ドコサン及びミリスチルミリステートをここでは挙げることができる(実施例8及び実施例9を参照されたい)。この場合、カプセル化反応は、固体の融点を超える温度で起こる。縮合反応が終わったら系を室温まで冷却させる。
【0021】
任意に、疎水性有機化合物、例えば、乳化温度で液体形態であるアルカン、アルケン、アルキン、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、芳香族化合物、例えばポリ(ジメチルシロキサン)PDMSのようなポリマー等を、工程a)に、すなわち、室温において結晶性の疎水性有機化合物(固体)との混合物の形態で更に添加してもよい(実施例10を参照されたい)。疎水性有機化合物はオーガニックフレグランス及びオーガニックフレーバーとし得ることから、本選択肢は化粧品産業にとって特に興味深いものである。
【0022】
任意に、PAOS及び室温において結晶性の疎水性有機化合物に加えてPDMS等のポリマーを工程a)に添加して、PDMS内包結晶性の疎水性有機化合物内包SiO
2カプセルをもたらすこともできる(実施例11を参照されたい)。PDMSは、例えば皮膚の保護用の化粧品において広く使用される。
【0023】
第4の実施の形態において、本発明は、親水性の水溶性物質が最大95%(w/w)充填されるシリカベースのマイクロカプセル及びナノカプセルを製造する方法であって、
a)親水性の水溶性物質を含有する水溶液を、剪断力の下、付加的な界面活性剤を用いることなく、またシリカナノ粒子のような任意の事前形成された(ナノ)粒子も用いずに、(i)PAOSと、(ii)ラジカル重合性の疎水性有機モノマーと、(iii)開始剤とを含む、疎水性の水不溶性溶液中に乳化する工程と、
b)工程a)の油中水型エマルションを、剪断力の下、付加的な界面活性剤を用いることなく、またシリカナノ粒子のような任意の事前形成された(ナノ)粒子も用いずに、水溶液中に乳化する工程と、
c)工程b)のエマルションを、重合を誘起させるより高い温度に、シリカベースのカプセルを形成するのに十分な時間加熱する工程と、
d)混合物を室温まで冷却させる工程と、
e)こうして得られたシリカベースのカプセルを単離する工程と、
を含む、方法に関する。
【0024】
この第4の実施の形態では、親水性の水溶性物質を含有する水溶液を、純水、すなわち、H
2O自体(実施例13を参照されたい)、又は例えば過酸化物、塩、ビタミン、ペプチド、染料、炭水化物を含有する任意の水溶液(実施例14を参照されたい)等とすることもできる。
【0025】
任意に、乳化温度で液体形態となり得る非(共)重合性の疎水性有機化合物を、この第4の実施の形態の工程a)又は工程b)に更に添加してもよい。これにより、これらの物質は、カプセルのポリマー層内に組み込まれる。非(共)重合性の疎水性化合物は、アルカン、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、芳香族化合物又はポリマー等とすることができる。
【0026】
第5の実施の形態において、本発明は、親水性の水溶性物質が最大95%(w/w)充填されるシリカベースのマイクロカプセル及びナノカプセルを製造する方法であって、
a)親水性の水溶性物質を含有する水溶液を、剪断力の下、結晶性有機材料の融点を超える温度で、付加的な界面活性剤を用いることなく、またシリカナノ粒子のような事前形成された(ナノ)粒子も用いずに、(i)PAOSと、(ii)室温で結晶化する溶融有機化合物とを含む、疎水性の水不溶性混合物中に乳化する工程と、
b)工程a)の油中水型エマルションを、結晶性有機材料の融点を超える温度で、付加的な界面活性剤を用いることなく、またシリカナノ粒子のような任意の事前形成された(ナノ)粒子も用いずに、水溶液中に乳化する工程と、
c)続いて、工程b)において得られるエマルションを、シリカベースのカプセルを形成するのに十分な時間、加熱する工程と、
d)混合物を室温まで冷却させる工程と、
e)こうして得られたシリカベースのカプセルを単離する工程と、
を含む、方法に関する。
【0027】
任意に、乳化温度で液体形態となり得る1種以上の疎水性有機化合物を、工程a)又は工程b)に更に添加してもよい。これにより、これらの物質は、カプセルの蝋層内に組み込まれる。疎水性化合物は、アルカン、アルケン、アルキン、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、芳香族化合物又はポリマー等とすることができる。
【0028】
本発明の方法は、シリカ前駆体ポリマーであるPAOS又はR−PAOSを、シリカ源として、同時にエマルションの安定化剤として用いて、いずれの付加的な界面活性剤も事前形成された(ナノ)粒子も用いることなく、有機相の(部分)固化を伴って、疎水性又は親水性いずれかの物質を封入する、機械的に安定な0.01μm〜100μmのシリカベースのマイクロカプセルを得ることができる。
【0029】
好ましくは、本発明は、直径が10μm未満、好ましくは0.6μm未満であり、サイズ変化が20%未満であり、最大100%のカプセル化効率及び最大99%(w/w)のペイロードを有するカプセルの製造を可能にする。疎水性物質のペイロードのカプセル化は、好ましくは疎水性有機相の固化プロセスを伴って、ポリアルコキシシロキサン(PAOS)、好ましくはポリアルキルアルコキシシロキサン(R−PAOS)をシリカ前駆体として活用するものである。第1の工程では、PAOS又はR−PAOSが、有効な乳化剤として、また有機微小液滴の周りにシリカシェルを形成するための供給源として作用する。或る特定の温度及び水性相の好適なpH値における得られる分散液系のエージングは、コア−シェル構造を安定化させる。固化プロセスは、重合、ガラス化又は結晶化によって引き起こされ得る。得られるマイクロカプセルは、水中に安定な形態で分散し、粉末形態で単離された後、水に再分散することができる。
【0030】
親水性化合物のカプセル化のために、それらの水溶液を初めにPAOS又はR−PAOSを含有する有機相中で乳化し、得られる水中油型エマルションをその後、水に分散させて、水中油中水型二重エマルションとする。エージング後、親水性化合物の水溶液が、シリカベースのカプセル内に取り込まれる。加えて、疎水性有機物質は同時に、カプセルの有機相内にカプセル化され得る。
【0031】
本発明の方法は、水溶液中におけるPAOS若しくはR−PAOSと、充填される疎水性物質と、好ましくは重合性若しくは結晶性の疎水性化合物とで構成される疎水性混合物の水中油型エマルション、又は、内部水性相に充填される水溶性物質及びPAOS若しくはR−PAOS、好ましくは重合性若しくは結晶性の疎水性化合物と、充填される任意に疎水性の物質とで構成される疎水性混合物を含有する水中油中水型エマルションの形成に基づくものである。機械的に安定なカプセルを得るために、シリカへのPAOS又はR−PAOSの変換に加えて、油相が重合又は結晶化によって(部分的に)固化することが好ましいとされる。
【0032】
通常、外側の連続的な水溶液のpHは、1〜12、より好ましくは3〜11、更に好ましくは4〜10の範囲をとる。
【0033】
PAOSは、テトラアルコキシシランの部分縮合体であり、ポリメトキシシロキサン、ポリエトキシシロキサン、ポリプロポキシシロキサン、ポリブトキシシロキサン等、又は混合アルコキシ基を有するものであってもよい。それらの幾つか、例えばシリカ含有率40%(w/w)のポリエトキシシロキサン(SE40)、シリカ含有率48%(w/w)のポリエトキシシロキサン(SE48)及びシリカ含有率53%(w/w)のポリメトキシシロキサン(ME53)は、市販されている。PAOSは、文献の手順に従って合成することもできる(Abe, Y.; Shimano, R.; Arimitsu, K.; Gunji, T.,Preparation and Properties of High MolecularWeight Polyethoxysiloxanes Stable to Self-Condensationby Acid-Catalyzed Hydrolytic Polycondensationof Tetraethoxysilane. J. Polym. Sci.,Part A: Polym. Chem. 2003, 41, 2250-2255、独国特許出願公開第10261289号、又はZhu, X. M.; Jaumann, M.; Peter, K.; Moeller, M.; Melian, C.; Adams-Buda, A.; Demco, D. E.; Bluemich, B.,One-Pot Synthesis of Hyperbranched Polyethoxysiloxanes. Macromolecules 2006, 39, 1701-1708)。PAOSは、2種以上のアルコキシ基を含有していてもよく、例えばWang, H.; Agrawal, G.; Tsarkova, L.; Zhu, X.M.; Moeller, M.,Self-Templating Amphiphilic Polymer Precursors for Fabricating Mesostructured Silica Particles: A Water-Based Facile and Universal Method. Adv. Mater. 2013, 25, 1017-1021に記載されるポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルで部分的に置換されるポリエトキシシロキサンであってもよい。
【0034】
R−PAOSは、テトラアルコキシシランと、アルキルトリアルコキシシラン及び/又はジアルキルジアルコキシシランとの共縮合によって調製される。
【0035】
本発明で使用されるPAOS又はR−PAOSは好ましくは、500〜20000の範囲の分子量及び40%(w/w)〜60%(w/w)の範囲のシリカ含有率を有する。
【0036】
種々の水中油型又は水中油中水型エマルションは、両親媒性PAOS若しくはR−PAOS、例えば親水性基で部分的に置換されるポリエトキシシロキサン、例えばポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル、又は乳化プロセス中に部分的に加水分解されるPAOS若しくはR−PAOSのいずれかによって安定化される。
【0037】
両親媒性PAOS、すなわち親水性基で部分的に置換されるPAOSの置換度は、得られる分子の親水性−親油性バランス(HLB)が1〜16、より正確には2〜12、更に正確には3〜10の範囲をとるように調節されるものとする。HLB値は下記のように算出することができる。
HLB=20M
h/M
(式中、M
hは分子の親水性部分の分子質量であり、Mは分子全体の分子質量である)
【0038】
エマルションは、装置、例えば超音波発生装置、マイクロフルイダイザ、(高圧)ホモジナイザ、撹拌器等を用いて適切な剪断力の下で生成される。
【0039】
カプセル化される物質は、任意の疎水性液体及び高温で疎水性液体中に溶ける任意の固体を含む広範な疎水性物質とすることができる。疎水性物質は、純粋な化合物であっても混合物であってもよい。封入される物質は、水溶性の液体又は固体である広範な親水性化合物とすることができ、純粋な化合物であっても混合物であってもよい。親水性化合物は水に溶解して水溶液を形成してから、カプセル化される。
【0040】
重合性の疎水性モノマーは、ラジカル重合することができる任意の疎水性モノマーである。これらのモノマーは、スチレン、メチルスチレン、アルキルメタクリレート、アルキルアクリレート、アクリロニトリル等又はそれらの混合物とすることができる。2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するモノマー、例えばジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレートをモノマー混合物に添加してもよい。
【0041】
ラジカル重合では、開始剤をモノマー混合物に添加する。開始剤は、油溶性のものでなければならず、熱開始剤、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル等;又はアセトフェノン、アニソイン、ベンゾインアルキルエーテル等のような光開始剤とすることができる。ラジカル重合を開始するために、エマルションを加熱又はUV光により照射する必要がある。
【0042】
本発明による方法では、1時間〜3日間加熱し続けてもよい。
【0043】
充填されたシリカカプセルは、遠心分離又は濾過及びその後の乾燥によって単離することができる。
【0044】
述べたように、最終生成物の粒径は、0.01μm〜100μm、より好ましくは0.01μm〜10μm、更に好ましくは0.01μm〜0.6μmの範囲に制御することができる。本方法により得られる粒子は良好な機械強度を有する。これらの粒子は、例えば超音波処理の下で高剪断力を保持して、カプセル化特性及び粒径分布を維持することができる。粒子は、有機コアを除去して中空シリカ粒子を得るように500℃を超える温度でか焼してもよい。これにより、シリカカプセルにおけるカプセル化された物質のペイロードは、0から最大99重量%となり、二重エマルションに関する場合には(第4及び第5の実施の形態を参照されたい)最大95重量%となり得る。