特許第6831970号(P6831970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 名城大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ 学校法人日本医科大学の特許一覧

<>
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000002
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000003
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000004
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000005
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000006
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000007
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000008
  • 特許6831970-腫瘍モデル 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831970
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】腫瘍モデル
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20210215BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   G09B23/30
   G09B9/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-208047(P2016-208047)
(22)【出願日】2016年10月24日
(65)【公開番号】特開2018-72394(P2018-72394A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) 「微小血管・薄幕構造を有する精密脳モデルの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 敏男
(72)【発明者】
【氏名】市川 明彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 明之
(72)【発明者】
【氏名】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大
(72)【発明者】
【氏名】森田 明夫
【審査官】 田中 洋行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−076035(JP,A)
【文献】 特表2015−502563(JP,A)
【文献】 特開2016−177235(JP,A)
【文献】 特開2010−156894(JP,A)
【文献】 特開2010−277003(JP,A)
【文献】 特開2015−138192(JP,A)
【文献】 委託研究開発 実施状況報告書(成果)平成27年度 研究開発課題名:微小血管・薄膜構造を有する精密脳モデルの研究開発,ImPACT [online],2017年,[2020年12月22日検索],URL,https://www.jst.go.jp/impact/report/data/program15/h27/khr_2703.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00−29/14
G09B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性高分子を含有する複数の粒子が、水を含有した結合材により結合されて集合体をなし、前記集合体が非水溶性膜にて包囲されている腫瘍モデルであって、
前記粒子の大きさは、1〜50μmであり、
前記吸水性高分子が、ポリ(メタ)アクリル酸、及び/又はポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩に由来する構造を有し、
前記結合材がポリビニルアルコール系樹脂、ホウ砂、及び水を含有する腫瘍モデル。
【請求項2】
前記粒子は、略球形である請求項1に記載の腫瘍モデル。
【請求項3】
前記非水溶性膜は、ラバースプレーの塗布膜である請求項1又2に記載の腫瘍モデル。
【請求項4】
前記集合体の外縁部には、水溶性の膜に由来する構造が存在している請求項1〜3のいずれか1項に記載の腫瘍モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外科手術等の手技練習用には種々のモデルが提案されている。例えば、水溶性有機ポリマーと、粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目構造中に水が包含されているハイドロゲルが提案されている(例えば特許文献1参照)。これは、手技練習用臓器モデルとして好適であることが開示されている。
ところで、人体における腫瘍には様々な種類がある。例えば、硬さに注目してみると、掻き出して取り除けるほど柔らかい腫瘍もあれば、軟骨のように硬い腫瘍もある。このように腫瘍は、硬さという特性のみに着目しても幅が広い。
このような状況の下、腫瘍除去の手術シミュレーションに用いるための様様な腫瘍モデルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−138192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来から提案されている腫瘍モデルでは、実際の腫瘍とは特性が相違するため、更なる改良が求められていた。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、従来の腫瘍モデルよりも実際の腫瘍に特性が類似する腫瘍モデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の腫瘍モデルは、吸水性高分子を含有する複数の粒子が、水を含有した結合材により結合されて集合体をなし、前記集合体が非水溶性膜にて包囲されている腫瘍モデルである。前記粒子の大きさは、1〜50μmであり、前記吸水性高分子が、ポリ(メタ)アクリル酸、及び/又はポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩に由来する構造を有し、前記結合材がポリビニルアルコール系樹脂、ホウ砂、及び水を含有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る腫瘍モデルは、実際の腫瘍と特性が類似する。よって、手術シミュレーション等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】腫瘍モデルの断面の模式図である。
図2】腫瘍モデルの製造方法を示す模式図である。
図3】腫瘍モデルの製造方法を示す模式図である。
図4】腫瘍モデルの製造方法を示す模式図である。
図5】乾燥実験の結果を示す写真である。
図6】医師Aの官能試験の結果を示す表である。
図7】医師Bの官能試験の結果を示す表である。
図8】医師Cの官能試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
本発明の腫瘍モデルにおいて、集合体の外縁部には、水溶性の膜に由来する構造が存在していることが好ましい。腫瘍モデルを作製する過程において、吸水性高分子を含有する複数の粒子が結合された集合体は、そのままの状態では、ハンドリングが難しい。集合体を水溶性の膜に包むと、集合体のハンドリング性が向上し、腫瘍モデルの作製が容易となる。なお、腫瘍モデルの作製過程において水溶性の膜が使用されるが、この水溶性の膜は、完成した腫瘍モデルにおいては、膜の形状が維持されていてもよいし、膜が溶解又は分散していてもよい。
【0011】
本発明の腫瘍モデルにおいて、前記吸水性高分子、ポリ(メタ)アクリル酸、及び/又はポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩に由来する構造を有する。以下の作用効果を奏する。すなわち、ポリ(メタ)アクリル酸、及び/又はポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩に由来する構造を有するので、吸水性高分子が透明となり、腫瘍モデル内に血管モデル等を形成した場合でも、血管モデル等が見やすい。よって、手術シミュレーション等に極めて有用である。
【0012】
本発明の腫瘍モデルにおいて、前記結合材がポリビニルアルコール系樹脂、ホウ砂、及び水を含有する。以下の作用効果を奏する。すなわち、結合材がポリビニルアルコール系樹脂、ホウ砂、及び水を含有するので、結合材が透明となり、腫瘍モデル内に血管モデル等を形成した場合でも、血管モデル等が見やすい。よって、手術シミュレーション等に極めて有用である。
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の腫瘍モデルは、吸水性高分子を含有する複数の粒子が、水を含有した結合材により結合されて集合体をなし、前記集合体が非水溶性膜にて包囲されている。図1では、その一例が模式図にて示されている。符号1は腫瘍モデルを示し、符号3は吸水性高分子を含有する粒子を示し、符号5は水を含有した結合材を示し、符号7は集合体を示し、符号9は非水溶性膜を示す。なお、符号11は、水溶性の膜に由来する構造体を示す。
【0014】
〔吸水性高分子〕
吸水性高分子は、ポリ(メタ)アクリル酸、及び/又はポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩に由来する構造を有する。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち一方又は両方)を意味する。高分子の重量平均分子量は、特に限定されず、例えば、200〜1億であるものが挙げられるが、高吸水性の樹脂としては1000万以上のものが好ましい。高分子の製品形態として、粉末状又は顆粒状のものが販売されている。より具体的には、粉末状又は顆粒状の高吸水性ポリマーとしては、ケミカルテクノス社のCP−1(型番)等を用いることができる。
【0015】
〔粒子〕
粒子は、吸水性高分子の粉末に水を吸収させることにより形成できる。水の吸水量は、特に限定されないが、吸水性高分子の重量に対して、好ましくは、10〜1000倍であり、より好ましくは50〜300倍である。モデルとする腫瘍の硬さに応じて吸水量を調整することで、より性状をそれぞれの腫瘍に類似させることができる。
粒子の形状は特に限定されない。粒子の形状は、略球形が好ましい。粒子を細胞の形状に近づけ、腫瘍モデルの性状を実際の腫瘍に類似させるためである。また、粒子の大きさは、1〜50μmであり、特に好ましくは1〜5μmである。
このような粒子の大きさとするためには、適宜、吸水性高分子の粉末を粉砕する方法が採用される。また、粒径を揃えるために、セルストレーナー等を用いてふるい分けることができる。粒径を揃えることで、より腫瘍に類似させることできる。
【0016】
〔結合材〕
本発明における結合材は、水を含有した結合材である。結合材は、複数の粒子同士を結合する。結合材は、ポリビニルアルコール系樹脂、ホウ砂、及び水を含有する。
ポリビニルアルコール系樹脂は、水に溶解させて水溶液にできれば、重合度、ケン化度等には特に制限はない。ポリビニルアルコール系樹脂は、重合度の異なるもの、ケン化度の異なるもの、共重合変性してないもの、共重合変性してあるもの等を使用することができ、種類の異なるポリビニルアルコール系樹脂を2種類以上ブレンドして使用してもよい。
【0017】
ポリビニルアルコール系樹脂は、脂肪族ビニルエステルを塊状重合、溶液重合、懸濁重合あるいは乳化重合等の公知の方法で重合し、その後、ケン化することによって得られる。ケン化は、例えばメタノール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類とアルコール類との混合溶媒中で行うことができる。ケン化には、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、ナトリウムメチラート等のアルコラート等をケン化触媒として用いる方法が好適に採用される。
【0018】
脂肪族ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。また、脂肪族ビニルエステルに共重合可能な不飽和単量体と脂肪族ビニルエステルとの共重合を行ってもよい。脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類やクロトン酸、アクリル酸等の不飽和一塩基酸またはその塩、マイレン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和二塩基酸またはその塩、あるいはマレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等の不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン等のアミド基含有単量体、ラウリルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、トリメトキシビニルシラン等のシリル基含有単量体、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等の水酸基含有単量体、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等のアセチル基含有単量体、ビニルスルホン酸ソーダ、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ等のビニルスルホン酸基含有単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有単量体、スチレン等の芳香族系単量体を挙げることができるが、これに限らない。
【0019】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂溶液として、ホウ砂は、ホウ砂液として、これらを混合することにより、結合材を調製することが好ましい。
この場合におけるポリビニルアルコール系樹脂の水溶液の濃度は、特に限定されない。好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは5〜10質量%である。
ホウ砂液の濃度は、特に限定されないが、取り扱い性の観点から飽和ホウ砂液が好ましい。
【0020】
以下、種々の値について好ましい数値範囲を例示するが、これらの数値の範囲は、実際の腫瘍に特性が類似する腫瘍モデルを提供する観点から好ましい範囲である。
結合材は、次の割合で混合されたものが好ましい。すなわち、水(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液(B)と、飽和ホウ砂液(C)との混合比率は質量基準にて、A:B:C=0.1:1:0.2〜30:1:40が好ましく、さらに0.5:1:1〜6:1:8が好ましく、特に1:1:2〜3:1:4が好ましい。
【0021】
結合材中のポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、特に限定されない。結合材100質量部に対し、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、好ましくは、0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜3.2質量部であり、特に好ましくは1〜2質量部である。
また、結合材中のホウ砂の含有量は、特に限定されない。結合材100質量部に対し、ホウ砂の含有量は、好ましくは、1〜10質量部であり、より好ましくは3.2〜4.3質量部であり、特に好ましくは3.8〜4.2質量部である。
ポリビニルアルコール系樹脂、及びホウ砂の含有量をこの範囲内とすると、複数の粒子を結合して集合体を形成し易い。なお、結合材の残部は、水であることが好ましいが、アルコール等の他の溶媒が混合されていてもよい。
【0022】
複数の粒子の合計質量(D)と、結合材の質量(E)との比率は、特に限定されないが、質量基準にて、D:E=1:0.1〜1:10が好ましく、さらに1:0.5〜1:1.5が好ましく、特に1:0.8〜1:1.2が好ましい。
複数の粒子に含まれる吸水性高分子の合計質量(F)と、結合材の質量(G)との比率は、特に限定されないが、質量基準にて、F:G=1:10〜1:300が好ましく、さらに1:50〜1:150が好ましく、特に1:80〜1:120が好ましい。
【0023】
〔非水溶性膜〕
非水溶性膜を構成する材質は特に限定されない。材質としては、高分子材料であるゴムを好適に使用することができる。
ゴムとしては、天然ゴム、合成ゴムのいずれも用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
天然ゴムとは、天然植物から得られるゴム状高分子物質であり、化学構造的に、シス−1,4−ポリイソプレン構造を有するものであれば、形状、色調等は特に限定されない。
合成ゴムとしては、特に限定されず、幅広い材質のものが使用できる。合成ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム等を挙げることができる。
また、ゴムとして、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、塩素系熱可塑性エラストマー、エンジニアリングプラスチックス系エラストマーといった熱可塑性エラストマーも使用できる。
【0024】
非水溶性膜の厚さは、特に限定されない。非水溶性膜の厚さは、例えば20〜1000μm、好ましくは30〜700μm、より好ましくは50〜500μmとすることができる。この範囲内では、腫瘍モデルの性状が実際の腫瘍に類似する傾向にある。
非水溶性膜の形成方法は特に限定されない。例えば、非水溶性膜の成分を含有する塗布液を、塗布し乾燥させる方法を用いることができる。塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法等の各種方法を挙げることができる。塗布条件は、塗布方法に応じて、塗布液の濃度や所望の膜厚を考慮し、適宜調整できる。
【0025】
塗布液には、有機溶剤が用いられることが好ましい。有機溶剤としては、第1種有機溶剤、第2種有機溶剤、第3種有機溶剤のいずれを用いてもよく、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。有機溶剤として、例えば、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエチレン、1,1,2,2−テトラクロルエタン、トリクロルエチレン、二硫化炭素、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブ、オルト−ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ノルマル−ブチル、酢酸ノルマル−プロピル、酢酸ノルマル−ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、ジクロルメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロルエチレン、テトラヒドロフラン、1,1,1−トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、1−ブタノール、2−ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル−ノルマル−ブチルケトン、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビンが挙げられる。
【0026】
〔水溶性の膜〕
水溶性の膜は、水に溶ける性質を有していれば特に限定されず、幅広い膜が使用される。膜の材質としては、デンプン、ゼラチン、多糖類等が好適に例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。多糖類としては、アミロース、アミロペクチン、マンナン、プルラン、グアガム、大豆多糖、寒天、セルロース、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸Na、アラビノキシラン、および、これらの誘導体が挙げられる。
水溶性の膜の厚さは、特に限定されないが、例えば5〜500μmとすることができ、好ましくは10〜300μmとすることができ、より好ましくは20〜80μmとすることができる。
【0027】
〔腫瘍モデル内容物の硬さ〕
腫瘍モデルの硬さは、特には限定されない。1〜100kN/mが好ましい。この範囲の硬さとすると、手術器具を用いた手術練習用の軟性腫瘍モデルとして好適である。ここで、硬さは、非水溶性と水溶性の2種の膜を除いた粒子と結合材の混合物で測定する。50ml遠沈管にサンプルを30ml充填し、貫入速度:10mm/秒、測定時間:3秒、測定温度:室温と設定し、IMADA社製のデジタルフォースゲージによって1秒あたり10回の更新速度で力の値を取得し、計30回の中からピーク値を摘出した。これを5サンプル計測し、それより導出した平均値を示す。
【0028】
〔腫瘍モデルの製造〕
腫瘍モデルの製造方法は特に限定されない。例えば、次の方法が好適に採用される。
まず、図2に示すように、吸水性高分子を含有する粒子3を用意する。次に、図3に示すように、粒子3を結合材5と混合して、集合体7を形成する。そして、図4に示すように、集合体7を水溶性の膜13で覆う。さらに、水溶性の膜13の外を非水溶性膜9で覆う(図1参照)。この腫瘍モデル1においては、図4の水溶性の膜13は、溶解又は膨潤して水溶性の膜に由来する構造体11(図1参照)に変化している。
【0029】
より具体的には、以下の手順により、腫瘍モデルを製造することができる。
(1)吸水性高分子を乳鉢で砕き、セルストレーナー(例えば、40μm)で選別する。
(2)吸水性高分子の粒子に純水(濾過水)を吸収させる(重量比100〜500倍)。
(3)純水(濾過水)にホウ砂(硼砂)を混ぜ、飽和ホウ砂液を調製する。
(4)水とポリビニルアルコール系樹脂を混ぜ、これに更に飽和ホウ砂液を混合して結合材とする。
(5)結合材と、純水を吸収させた吸水性高分子の粒子とを混合し、軟性腫瘍様組織を製作する。
(6)軟性腫瘍様組織を所定の大きさ(例えば、3mm〜20mm)に取り分け、オブラートで包む。
(7)更に外膜を作成するためにラバーをスプレーで塗布し、乾燥させる。
【0030】
〔本実施形態の腫瘍モデルの効果〕
本実施形態に係る腫瘍モデルは、実際の腫瘍と特性が類似する。よって、手術シミュレーション等に有用である。また、粒子の形状、大きさ、結合材等を調整することで、種々の性状を有する腫瘍に類似した腫瘍モデルになる。さらに、集合体が非水溶性膜にて包囲されているので取り扱いが容易である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により更に具体的に説明する。以下、比率は、特に言及しない限り、質量基準の比率で示す。
【0032】
1.予備的な腫瘍モデルの形成
以下の実験例では次に挙げる原料を使用した。
<吸水性高分子(吸水性ポリマー)>
商品名:高吸水性樹脂
形式:CP−1
製造元:ケミカルテクノス

<内膜用オブラート>
商品名:丸型オブラート
原材料:馬鈴薯デンプン
製造元:(株)瀧川オブラート

<外膜用ラバースプレー>
商品名:油性ラバースプレー
製造元:(株)ディーエスエム

<粘着性結合材用ホウ砂>
商品名:ホウ砂
組成:ホウ砂(Na・10HO)99.0〜103.0%を含有
製造元:(株)健栄製薬

<粘着性結合材用ポリビニルアルコール(PVA溶液)>
商品名:液体せんたく糊
組成:ポリビニルアルコール8%
製造元:(株)第一石鹸
【0033】
(実験例1)
次の比率、すなわち、吸水性高分子の粒子に自重の100倍の水を吸収させた。粒子同士に接着性はなかった。

吸水性高分子:水=1:100
【0034】
(実験例2)
次の比率で、PVA溶液にホウ砂液を投入した。マテル社製玩具のスライムと同様のサンプルが形成された。

水:PVA溶液:飽和ホウ砂溶液=1:1:2
【0035】
(実験例3)
次の比率で、モデルを形成した。乾燥状態の吸水性高分子に直接PVA溶液及びホウ砂液を投入した。吸水性高分子が吸水するために時間を要した。

吸水性高分子:(水:PVA溶液:飽和ホウ砂溶液)
=1:(25:25:50)
【0036】
(実験例4)
次の比率で、モデルを形成した。吸水性高分子の粒子を予め吸水させた。吸水後の吸水性高分子の粒子に、PVA溶液及びホウ砂液を投入した。

(吸水性高分子:水):(水:PVA溶液:飽和ホウ砂溶液)
=(1:100):(25:25:50)
【0037】
(実験例5)
次の比率で、モデルを形成した。吸水性高分子の粒子を予め吸水させた。吸水後の吸水性高分子の粒子に、PVA溶液及びホウ砂液を投入した。混合後、セルストレーナーで余分の液を除去した。

(吸水性高分子:水):(水:PVA溶液:飽和ホウ砂溶液)
=(1:100):(37.5:12.5:50)
【0038】
(実験例6)
次の比率で、モデルを形成した。吸水性高分子の粒子を予め吸水させた。吸水後の吸水性高分子の粒子に、PVA溶液及びホウ砂液を投入した。混合後、セルストレーナーで余分の液を除去した。

(吸水性高分子:水):(水:PVA溶液:飽和ホウ砂溶液)
=(1:100):(33.3:16.7:50)
【0039】
2.予備的な腫瘍モデルの評価
各実験例では、50ml遠沈管にサンプルを30ml充填し、上部が円柱状、下部が円錐状の腫瘍モデルを形成した。貫入速度:10mm/秒、測定時間:3秒、測定温度:室温と設定し、腫瘍モデルの硬さをIMADA社製のデジタルフォースゲージによって1秒あたり10回の更新速度で力の値を取得し、計30回の中からピーク値を摘出した。これを5サンプル計測し、それより平均値を導出した。また、各腫瘍モデルに対して応力をかけて、状態を観察した。さらに、実験例3の腫瘍モデルについて、実際の手術器具を用いて官能試験を行った。
【0040】
2.1 腫瘍モデルの内容物の硬さ等(予備的な腫瘍モデルの硬さ等)
(実験例1)
硬さは、4.18±0.39kN/mであった。吸水性高分子の粒子同士が接着していなかった。腫瘍モデルに応力を加えると変形してしまい、元の状態には戻らなかった。腫瘍モデルを押して穴を開けると、その状態のままとなり、変形はそのまま残った。この腫瘍モデルは、吸水性高分子の粒子が密集しているため硬く、腫瘍とは非類似であった。
【0041】
(実験例2)
硬さは、0.57±0.19kN/mであり、柔らかく粘性が高かった。腫瘍モデルは、混合した直後は、ダマになり硬いが、時間の経過とともに均等になり柔らかくなった。腫瘍モデルの粘性は高かった。この腫瘍モデルは、腫瘍とは非類似であった。
【0042】
(実験例3)
硬さは、7.24±2.48kN/mであった。吸水性高分子の粒子同士が接着していた。腫瘍モデルは、手でちぎることができる程度の接着性であった。吸水性高分子粘着性結合材より水分を吸収するため、製作サンプルごとの硬さのばらつきが大きかった。時間の経過とともに、吸水性高分子への吸水が行われ、吸水性高分子の粒子の均一化が行われた。この腫瘍モデルは、腫瘍と類似していた。
【0043】
(実験例4)
硬さは、0.41±0.19kN/mであった。予め吸水性高分子の粒子に吸水させたので、吸水性高分子の各粒子は同程度の大きさであった。吸水性高分子の各粒子の間に結合材が入り込むため、実験例1よりも吸水性高分子の粒子が密集しておらず、柔らかかった。この腫瘍モデルは、腫瘍と類似していた。
【0044】
(実験例5)
硬さは、0.85±0.10kN/mであった。実験例4よりも水分量が高いため混合時は軟らかいが、余分の液を除去した後の硬さの測定値は実験例4よりも大きなものになった。この腫瘍モデルは、腫瘍と類似していた。
【0045】
(実験例6)
硬さは、0.93±0.08kN/mであった。実験例5よりも水分量は低いため、余分の液を除去した後の硬さの測定値は実験例4よりもわずかに大きなものになった。この腫瘍モデルは、腫瘍と類似していた。
【0046】
2.2 手術器具を用いた官能試験
実験例3の腫瘍モデルについて、実際の手術器具を用いて官能試験を行った。この腫瘍モデルを切った感触は、髄膜腫に類似していることが分かった。
【0047】
3.腫瘍モデルの形成
予備的に作製した実験例5、実験例6の腫瘍モデルを所定の大きさ(3mm〜20mm)に取り分け、同サイズのオブラートで包んだ。更に外膜を作製するためにラバーをスプレーで塗布し、乾燥させた。このようにして作製された実施例の腫瘍モデルは、実験例5、実験例6の腫瘍モデルと同様に、特性が腫瘍に類似していた。さらに外膜により、腫瘍モデルのハンドリングが容易となった。
また、2層の膜(非水溶性外膜と水溶性内膜)で覆った(コーティングした)腫瘍モデルと、未コーティングの腫瘍モデルの乾燥実験を行った。それぞれの腫瘍モデルを製作して常温静置したところ、図5に示すように、7日後の未コーティングの腫瘍モデルでは収縮したものが多いが、外膜で覆った腫瘍モデルでは形を保ったものが多く、乾燥が防がれていると考えられる。このように、外膜により、腫瘍モデルの乾燥が抑制され、保存性に優れていた。また、実験例6の腫瘍モデルについて、実際の手術器具を用いて官能試験を行い、3名の医師にアンケートを行った。その結果を図6〜8に示す。評価は各項目について5段階であり、数字の大きい方が良い評価を示す。アンケートの結果、本実施例の腫瘍モデルは腫瘍と特性が類似し、非常に高い評価であった。
【0048】
4.実施例の効果
本実施例に係る腫瘍モデルは、実際の腫瘍と特性が類似する。よって、実際の手術器具を用いた手術の練習用として非常に有用である。また、外膜により、腫瘍モデルの乾燥が抑制され、保存性に優れていた。
【0049】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る腫瘍モデルは、実際の腫瘍と特性が類似する。よって、手術シミュレーション等に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8