特許第6832009号(P6832009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832009
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/04 20060101AFI20210215BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20210215BHJP
   H01L 41/04 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   H02N2/04
   H01L41/09
   H01L41/04
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-93778(P2017-93778)
(22)【出願日】2017年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-191465(P2018-191465A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】502254796
【氏名又は名称】有限会社メカノトランスフォーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】徐 世傑
(72)【発明者】
【氏名】矢野 健
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】八鍬 和夫
【審査官】 小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−051399(JP,A)
【文献】 特開2012−175746(JP,A)
【文献】 特開昭58−188672(JP,A)
【文献】 特表2005−522163(JP,A)
【文献】 特開2018−189574(JP,A)
【文献】 国際公開第98/19304(WO,A1)
【文献】 米国特許第6233124(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/04
H01L 41/04
H01L 41/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ方向に伸縮変位するように並列に配置され、それぞれ対応する位置に第1の端部および第2の端部を有する第1の圧電素子および第2の圧電素子と、
前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子の変位を拡大し、拡大された変位を出力する変位拡大機構と、
前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に電圧を印加して、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子を伸縮駆動させる駆動部と
を備え、
前記変位拡大機構は、
中央に凹部を有するU字状をなし、その底部に前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子の前記第1の端部を固定する固定部材と、
前記固定部材の前記凹部を挟んで一方側の側部および前記第1の圧電素子の前記第2の端部に、前記第1の圧電素子の伸縮により前記第1の圧電素子の伸縮方向と直交する方向に揺動可能に接続された第1のアームと、
前記固定部材の前記凹部を挟んで他方側の側部および前記第2の圧電素子の前記第2の端部に、前記第2の圧電素子の伸縮により前記第2の圧電素子の伸縮方向と直交する方向に揺動可能に接続された第2のアームと
を有し、
前記第1のアームと前記第2のアームの先端部に出力部材が接続され、
前記駆動部は、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子が互いに反対方向に所定の量で変位するように前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に電圧を印加し、これにより前記第1のアームと前記第2のアームが同方向にほぼ同一量変位して、前記出力部材に拡大された変位が与えられることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記駆動部は、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に、一方が伸びる方向に、他方がそれに対して縮む方向に変位するように電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記駆動部は、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子の第1の端子に、前記駆動部の出力電圧を印加し、前記第1の圧電素子の第2の端子に前記駆動部の最小電圧を印加し、前記第2の圧電素子の第2の端子に前記駆動部の最大電圧を印加する駆動回路を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1のアームは、それぞれ可撓性を有するヒンジを介して前記固定部材の前記一方側の側部および前記第1の圧電素子の前記第2の端部に接続され、前記第2のアームはそれぞれ可撓性を有するヒンジを介して前記固定部材の前記他方側の側部および前記第2の圧電素子の前記第2の端部に接続されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に対して、それぞれ伸縮方向に圧縮力を与える第1の与圧機構および第2の与圧機構をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記第1の圧電素子の前記第2の端部には、第1のキャップ部材が取り付けられ、前記第1のアームは、前記第1のキャップ部材と前記ヒンジにより連結され、
前記第2の圧電素子の前記第2の端部には、第2のキャップ部材が取り付けられ、前記第2のアームは、前記第2のキャップ部材と前記ヒンジにより連結されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
前記第1のキャップ部材および前記第2のキャップ部材は、それぞれ可撓性を有するヒンジを介して連結部材により連結されていることを特徴とする請求項6に記載の圧電アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の変位を変位拡大機構により拡大して所定の駆動動作を行う圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子に電圧を与えることにより印加電圧に応じた伸縮変位が生じる圧電アクチュエータは、エネルギー効率が高く、高速応答が可能であり、小型化、薄型化に適している等の優れた点を有しているため、種々の分野の駆動装置として適用されている。ここで、伸縮変位の縮退動作は、圧電素子が伸びた後に、本来の長さに戻ることを含む。
【0003】
しかし、圧電素子は発生する変位が数μmから数十μmと小さいため、圧電素子を実際のアクチュエータ等に適用する場合、圧電素子の変位を拡大する変位拡大機構が用いられている(例えば特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載された変位拡大機構付き圧電アクチュエータは、図7に示すように、圧電素子101および変位拡大機構120を有している。
【0005】
変位拡大機構120は、長尺状の圧電素子101の一端を底部に固定するU字状をなすベース102と、圧電素子101の他端に設けられたキャップ103と、第1のアーム113と、第2のアーム114とを有している。
【0006】
第1のアーム113は、第1のヒンジ104を介してベース102の一方の先端部に接続され、第2のヒンジ105を介してキャップ103に接続されている。第1のアーム113は、Γ字状をなし、ベース102の先端部からベース102の側面に沿ってベース102の底部近傍まで延びている。一方、第2のアーム114は、第3のヒンジ106を介してベース102の他方の先端部に接続され、第4のヒンジ107を介してキャップ103に接続されている。第2のアーム114は、第のアーム113と左右対称に設けられている。また、第3のヒンジ106および第4のヒンジ107は、第1のヒンジ104および第2のヒンジ105と左右対称に設けられている。
【0007】
第1のアーム113および第2のアーム114の先端の間には、ハの字を上下逆にした位置関係で第1の板ばね115および第2の板ばね116が配置されている。また、第1の板ばね115と第2の板ばね116が接合される逆ハの字の先端部分にはセンターピース117が接合されている。
【0008】
圧電素子101に電圧が印加されて圧電素子が伸長変位すると、第1のアーム113および第2のアーム114は、各々てこ機構として動作し、第1のアーム113と第2のアーム114の先端間の距離を互いに狭めるように変位する。すると、逆ハの字をなす第1の板ばね115および第2の板ばね116はセンターピース117を下方向に突き出すように変位する。したがって、センターピースに出力部材を装着することにより、出力部材を、第1のヒンジ104〜第4のヒンジ107および第1のアーム113と第2のアーム114により構成される第1段目の変位拡大機構と、第1の板ばね115および第2の板ばね116により構成される第2段目の変位拡大機構により大きな変位で駆動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−48955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されたような変位拡大機構付き圧電アクチュエータにおいては、周囲の温度に変化があった場合や、圧電素子を高い頻度で駆動して圧電素子自身からの自己発熱によって温度が上昇する場合に、圧電素子の熱膨張により、出力部材の初期位置が変化することがある。
【0011】
また、圧電素子には、ステップ状の電圧や一定の電圧等を印加した後、時間経過とともに、伸び量が安定せず変化してしまうクリープと称する現象が生じる。クリープは、クローズドループ制御の場合は補正することができるが、オープンループ制御では補正することができない。
【0012】
このように圧電素子の熱膨張やクリープにより出力部材の位置がずれると、出力部材を高精度で駆動することが困難になる場合がある。
【0013】
したがって、本発明は、圧電素子の熱膨張やクリープによる出力部材の位置ずれを抑制することができる圧電アクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供する。
【0015】
(1)同じ方向に伸縮変位するように並列に配置され、それぞれ対応する位置に第1の端部および第2の端部を有する第1の圧電素子および第2の圧電素子と、
前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子の変位を拡大し、拡大された変位を出力する変位拡大機構と、
前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に電圧を印加して、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子を伸縮駆動させる駆動部と
を備え、
前記変位拡大機構は、
中央に凹部を有するU字状をなし、その底部に前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子の前記第1の端部を固定する固定部材と、
前記固定部材の前記凹部を挟んで一方側の側部および前記第1の圧電素子の前記第2の端部に、前記第1の圧電素子の伸縮により前記第1の圧電素子の伸縮方向と直交する方向に揺動可能に接続された第1のアームと、
前記固定部材の前記凹部を挟んで他方側の側部および前記第2の圧電素子の前記第2の端部に、前記第2の圧電素子の伸縮により前記第2の圧電素子の伸縮方向と直交する方向に揺動可能に接続された第2のアームと
を有し、
前記第1のアームと前記第2のアームの先端部に出力部材が接続され、
前記駆動部は、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子が互いに反対方向に所定の量で変位するように前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に電圧を印加し、これにより前記第1のアームと前記第2のアームが同方向にほぼ同一量変位して、前記出力部材に拡大された変位が与えられることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【0016】
(2)前記駆動部は、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に、一方が伸びる方向に、他方がそれに対して縮む方向に変位するように電圧を印加することを特徴とする(1)に記載の圧電アクチュエータ。
【0017】
(3)前記駆動部は、前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子の第1の端子に、前記駆動部の出力電圧を印加し、前記第1の圧電素子の第2の端子に前記駆動部の最小電圧を印加し、前記第2の圧電素子の第2の端子に前記駆動部の最大電圧を印加する駆動回路を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の圧電アクチュエータ。
【0018】
(4)前記第1のアームは、それぞれ可撓性を有するヒンジを介して前記固定部材の前記一方側の側部および前記第1の圧電素子の前記第2の端部に接続され、前記第2のアームはそれぞれ可撓性を有するヒンジを介して前記固定部材の前記他方側の側部および前記第2の圧電素子の前記第2の端部に接続されていることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【0019】
(5)前記第1の圧電素子および前記第2の圧電素子に対して、それぞれ伸縮方向に圧縮力を与える第1の与圧機構および第2の与圧機構をさらに有することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【0020】
(6)前記第1の圧電素子の前記第2の端部には、第1のキャップ部材が取り付けられ、前記第1のアームは、前記第1のキャップ部材と前記ヒンジにより連結され、
前記第2の圧電素子の前記第2の端部には、第2のキャップ部材が取り付けられ、前記第2のアームは、前記第2のキャップ部材と前記ヒンジにより連結されていることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【0021】
(7)前記第1のキャップ部材および前記第2のキャップ部材は、それぞれ可撓性を有するヒンジを介して連結部材により連結されていることを特徴とする(6)に記載の圧電アクチュエータ。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1の圧電素子と第2の圧電素子とを互いに反対方向に所定の量で変位するように第1の圧電素子および第2の圧電素子に電圧を印加し、第1のアームおよび第2のアームを第1の圧電素子および第2の圧電素子の伸縮方向と直交する同方向にほぼ同一量変位して、出力部材に拡大した変位を与えるので、熱膨張による出力部材の初期位置のずれや、圧電素子のクリープによる位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る圧電アクチュエータを示す正面図である。
図2図1の圧電アクチュエータを示す斜視図である。
図3図1の圧電アクチュエータにおいて、第1の圧電素子を伸長させ、第2の圧電素子を縮退させた際の拡大された変位の方向を示す図である。
図4図1の圧電アクチュエータにおいて、第1の圧電素子を縮退させ、第2の圧電素子を伸長させた際の拡大された変位の方向を示す図である。
図5】駆動回路の好適な例を示す図である。
図6】圧電素子のクリープ現象を説明するための図である。
図7】従来の変位拡大機構付き圧電アクチュエータの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る圧電アクチュエータを示す正面図、図2は、その斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の圧電アクチュエータ1は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3と、これらの変位を拡大する変位拡大機構10と、第1の圧電素子2および第2の圧電素子を駆動する駆動部30とを有する。
【0025】
変位拡大機構10は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3の一端を固定する固定部材11を有している。固定部材11は中央に凹部24が形成されたU字状をなしており、凹部24を挟んで両側が第1の側部11aおよび第2の側部11b、凹部24の底が底部11cとなっている。第1の圧電素子2および第2の圧電素子3は、それぞれ第1与圧機構4および第2与圧機構5により予め圧縮力が与えられた状態で凹部24内に並列に配置されており、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3の基端部(第1の端部)が固定部材11の底部11cに固定されている。第1の圧電素子2および第2の圧電素子3は、それらの長手方向である図1のX方向に伸縮変位するようになっている。固定部材11は、ボルトにより基材(図示せず)に取り付けられるようになっており、厚さ方向に貫通する複数の取り付け穴25が設けられている。なお、伸縮変位の縮退動作は、圧電素子が伸びた後に、本来の長さに戻ることを含む。
【0026】
また、変位拡大機構10は、さらに、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3の先端部(第2の端部)にそれぞれ設けられた第1のキャップ部材12および第2のキャップ部材13と、第1のキャップ部材12および固定部材11の第1の側部11aの先端部にそれぞれ第1ヒンジ14および第2ヒンジ15を介して接続された第1のアーム16と、第2のキャップ部材13および固定部材11の第2の側部11bの先端部にそれぞれ第3ヒンジ17および第4ヒンジ18を介して接続された第2のアーム19と、第1のキャップ部材12および第2のキャップ部材13を第5ヒンジ21および第6ヒンジ22を介して連結する連結部材23とを有している。第1のアーム16および第2のアーム19は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3の長手方向に沿って延びており、同じ長さを有している。
【0027】
第1のアーム16は、第1ヒンジ14および第2ヒンジ15が接続された基端部16aと基端部16aに着脱自在に取り付けられた長尺状の先端部16bを有している。また、第2のアーム19も同様に、第3ヒンジ17および第4ヒンジ18に接続された基端部19aと基端部19aに着脱自在に取り付けられた長尺状の先端部19bとを有する。先端部16bおよび19bとしては、必要な変位に応じて種々の長さのものを用いることができる。
【0028】
なお、第1〜第6ヒンジ14,15,17,18,21,22は、可撓性を有する材料によって形成さている。
【0029】
第1のアーム16は、第1の圧電素子2の伸縮変位により、Y方向、すなわちA方向およびB方向に揺動可能となっている。すなわち、第1のアーム16は、第1の圧電素子2が伸長した際には、第2ヒンジ15が支点、第1ヒンジ14が力点、第1のアーム16の先端部が作用点となって、第1のアーム16の先端には、てこの原理により第1の圧電素子2の変位方向であるX方向と直交するY方向に沿った矢印A方向に拡大した変位が現れる。また、第1の圧電素子2が縮退した際には、同様の原理により、第1のアーム16の先端部には、矢印Aと反対の矢印Bの方向に拡大された変位が現れる。
【0030】
一方、第2のアーム19は、第2の圧電素子3の伸縮変位により、Y方向、すなわちA方向およびB方向に揺動可能となっている。すなわち、第2のアーム19は、第2の圧電素子3が伸長した際には、第4ヒンジ18が支点、第3ヒンジ17が力点、第2のアーム19の先端部が作用点となって、第2のアーム19の先端には、てこの原理により第2の圧電素子3の変位方向と直交する矢印B方向に拡大した変位が現れる。また、第2の圧電素子3が縮退した際には、同様の原理により、第2のアーム19の先端部には、矢印Bと反対の矢印Aの方向に拡大された変位が現れる。
【0031】
このとき、第1のアーム16と第2のアーム19は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3が互いに反対方向に所定量で変位することにより、同じ方向にほぼ同一量の変位で揺動するようになっている。
【0032】
第1のアーム16の先端部および第2のアーム19の先端部には、装着部材61および62により、Y方向に延びる出力部材60が装着されている。
【0033】
なお、固定部材11、第1のキャップ部材12および第2のキャップ部材13、ヒンジ14,15,17,18,21,22、第1のアーム16、第2のアーム19、連結部材23からなる変位拡大機構10は、ワイヤカット放電加工等の一体加工手段により作製することができる。また、変位拡大機構10を構成する材料としては、インバー合金、スーパーインバー合金、ステンレス鋼等、熱膨張が小さく、比較的熱伝導性のよい材料を挙げることができる。
【0034】
第1の圧電素子2および第2の圧電素子に反対方向に所定の量で変位するように電圧を印加することにより、変位拡大機構10の第1のアーム16および第2のアーム19をA方向またはB方向の同じ方向にほぼ同じ量変位させることができ、数倍〜数十倍程度に拡大したY方向の変位を出力部材60に伝達することができる。
【0035】
第1の圧電素子2および第2の圧電素子3は、同じ材料からなっており、同じ大きさを有している。これらは、板状(例えば、10mm×10mm)の圧電体が電極を挟んで複数積層されて全体として直方体(例えば40mmの長さ)として構成されている。第1の圧電素子2および第2の圧電素子3は、側面に電圧を印加するための電気端子(図示せず)を備えており、この電気端子間に電圧が印加されることにより、伸縮するように構成されている。圧電体を構成する圧電材料としては、圧電効果を有するセラミック材料が用いられ、そのような材料として、典型的にはチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O;PZT)を挙げることができる。圧電素子2および3の形状は直方体に限らず、例えば三角柱や六角柱等の多角柱であっても、円柱であってもよい。
【0036】
第1の与圧機構4および第2の与圧機構5は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3の伸縮方向に予め圧縮力が与えられるように構成されている。圧電素子は、脆性材料であるセラミックス材料で構成されており、引張り力に対して弱いことから、予め圧縮力を与えることが重要である。
【0037】
第1の与圧機構4は、例えば、第1の圧電素子2の一端面および他端面に固定される一対のヘッドピース40a,40bと、一対のヘッドピース40a,40b間に架け渡されるように設けられた圧縮力付与部材41とを有している。また、第2の与圧機構5は、例えば、第2の圧電素子3の一端面および他端面に固定される一対のヘッドピース50a,50bと、一対のヘッドピース50a,50b間に架け渡されるように設けられた圧縮力付与部材51とを有している。この第1および第2の与圧機構4および5により、第1および第2の圧電素子2および3から生じる力に対して1/5〜1/2程度の圧縮力を与える。圧縮力付与部材41、51は例えば2本である。
【0038】
第1および第2の与圧機構4および5を構成する材料としては、圧縮力付与可能な剛性を有し、比較的強度が高く、さらに耐候性や耐食性に優れ、熱膨張係数が小さいものが好ましい。このような材料としては、インバー合金、スーパーインバー合金、炭素繊維、ステンレス鋼を挙げることができる。
【0039】
なお、与圧機構を設けずに変位拡大機構に与圧機構としての機能をもたせてもよい。
【0040】
駆動部30は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3に所定の電圧を印加して充放電させることによりこれらを伸縮駆動するドライバー31と、ドライバー31に第1の圧電素子2および第2の圧電素子3を伸縮させるための指令を与える制御部32とを有している。ドライバー31は、電源と駆動回路とを有している。駆動部30は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3に、一方が伸びる方向に、他方がそれに対して縮む方向に変位するように電圧を印加することができる。
【0041】
このように構成される圧電アクチュエータ1においては、駆動部30の制御部32からの指令に基づきドライバー31が第1の圧電素子2および第2の圧電素子3に所定の電圧を与えることにより、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3がX方向に伸縮変位し、それにともなって、変位拡大機構10により出力部材60に対して拡大された変位が出力される。
【0042】
このとき駆動部30は、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3に互いに反対方向に所定の量で変位するように電圧を印加する。具体的には、図3に示すように、第1の圧電素子2が所定量伸長変位したときに、第2の圧電素子3は所定量縮退変位し、これにともなって、第1のアーム16および第2のアーム19の先端部が圧電素子の変位量の数倍から数十倍の変位量でA方向に変位する。逆に、図4に示すように、第1の圧電素子2が所定量縮退変位したときに、第2の圧電素子3は伸長変位し、これにともなって、第1のアーム16および第2のアーム19の先端部が圧電素子の変位量の数倍から数十倍の変位量でB方向に変位する。このとき、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3に互いに反対方向に所定の量で変位するように所定波形の電圧を印加して、第1のアーム16および第2のアーム19をほぼ同一量変位させることができ、出力部材60にA方向またはB方向の拡大された変位を与えることができる。
【0043】
例えば、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3に、一方が伸びる方向に、他方がそれに対して縮む方向に変位するように電圧を印加することにより、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3を互いに反対方向に所定の量で変位させることができる。このときの基準電圧は、最低電圧で圧電素子が正常動作するように所定のプラス電圧に適宜設定すればよい。
【0044】
印加電圧は、基準電圧に対して+方向および−方向に同じ大きさの一定周期の波形、一定周期であって+方向と−方向で値が異なる波形や、周期的であっても一定周期でない波形、周期的でない波形等、圧電アクチュエータにより実現しようとする動作に応じて任意の波形のものを用いることができる。
【0045】
常に第1の圧電素子2および第2の圧電素子3が反対方向に所定の量で変位するような電圧を与えることができる駆動回路としては、図5に示すようなものを好適に用いることができる。
【0046】
図5の駆動回路は、アンプ70を有する。アンプ70は入力端子71を有し、入力端子71には、例えば0〜10Vの電圧が入力される(Vin)。本例では、アンプ70は入力電圧を20倍に増幅し、増幅された電圧は出力端子72から出力される(Vout)。出力端子72に接続される電圧は、配線74を介して第1の圧電素子2および第2の圧電素子3の第1の端子に印加される。また、第1の圧電素子2の第2の端子は最小電圧(接地電位(0V))であり、第2の圧電素子3の他方の端子には、アンプ70の最大電圧出力端子73から常に最大電圧である200Vの電圧が印加される。このようにすることにより、基準電圧を100Vにして、常に第1の圧電素子2および第2の圧電素子3に逆方向の電圧が印加され、第1の圧電素子2および第2の圧電素子を反対方向に所定の量で変位させることができる。
【0047】
ところで、圧電アクチュエータ1を動作させる際に、周囲の温度変化があった場合や、圧電素子を高い頻度で駆動して圧電素子自身からの自己発熱によって温度が上昇する場合に、熱膨張により圧電素子の長さが変化する。その際に、上記特許文献1に示したような従来の圧電アクチュエータでは、圧電素子の長さの変化により、出力部材の初期位置は変化する。
【0048】
これに対し、本実施形態の圧電アクチュエータ1では、熱膨張により第1の圧電素子2と第2の圧電素子3の長さが変化しても、それぞれ第1のアーム16および第2のアーム19を介して拡大された変位が反対方向で同一量となり、その変動がキャンセルされる。そのため、出力部材60の初期位置の変化をほぼゼロとすることができる。
【0049】
また、圧電素子には、図6に示すように、ステップ状の電圧や一定の電圧等を印加した後、時間経過とともに、伸び量が安定せず変化してしまうクリープと称する現象が生じる。クリープ速度は時間対数的に減少する。クリープ現象は、クローズドループ制御の場合は補正することができるが、オープンループ制御では補正することができない。したがって、上記特許文献1に示したような従来の圧電アクチュエータでは、フィードバック制御による対策を講じる必要があるが、制御が複雑になる。
【0050】
これに対し、本実施形態の圧電アクチュエータ1では、第1の圧電素子2および第2の圧電素子3にクリープが生じても、これらは互いに反対方向に変位するため、クリープによる長さ変化が相殺され、クリープ現象による位置ずれを軽減することができる。このため、クローズドループ制御を行う必要がない。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では圧電素子を与圧機構により予め圧縮力を与えた例を示したが、与圧機構は必須ではない。
【0052】
また、変位拡大機構は、上記実施形態に限定されるものではなく、並列に配置された2つの圧電素子の伸縮変位を、拡大して変位方向に直交する方向の変位として出力するものであればよく、例えば、特許文献1のように、圧電素子を固定する固定部材の側面に沿って底部に延びるアームを有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1;圧電アクチュエータ
2;第1の圧電素子
3;第2の圧電素子
4;第1の与圧機構
5;第2の与圧機構
10;変位拡大機構
11;固定部材
11a;第1の側部
11b;第2の側部
11c;底部
11d;凹部
12,13;キャップ部材
14,15,17,18,21,22;ヒンジ
16;第1のアーム
19;第2のアーム
23;連結部材
24;凹部
30;駆動部
60;出力部材
70;アンプ
71;入力端子
72;出力端子
73;最大電圧出力端子
74,75;配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7