(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832051
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】燃料電池又は燃料電池スタックを動作させるための方法及び調整装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20210215BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20210215BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20210215BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/04 Z
H01M8/12
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-85577(P2014-85577)
(22)【出願日】2014年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-212114(P2014-212114A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2017年4月6日
【審判番号】不服2019-1530(P2019-1530/J1)
【審判請求日】2019年2月4日
(31)【優先権主張番号】13164356.1
(32)【優先日】2013年4月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597087033
【氏名又は名称】ヘクシス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス マイ
(72)【発明者】
【氏名】ハンスペーター クラトリ
【合議体】
【審判長】
窪田 治彦
【審判官】
佐々木 芳枝
【審判官】
上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−94478(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0197743(US,A1)
【文献】
特開2006−344488(JP,A)
【文献】
特開2010−238616(JP,A)
【文献】
特開2006−85959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池又は燃料電池スタック(1)を動作させる方法であって、
前記燃料電池又は前記燃料電池スタックは、所与の燃料ガス流れでは、動作温度によって決まる電気最大パワーを出力することができ、そして動作持続期間によって決まる経年劣化を示し、
前記経年劣化は、動作持続期間が累積するにつれて電気内部抵抗の増加を引き起こす、方法において、
前記方法では、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックでは、前記動作温度の開始値(T0)が事前に決定され、その値は、前記燃料電池又は前記燃料電池スタックに対して予め定められた最大規定動作温度(Tmax)より小さい値となるように決定され、
前記燃料電池又は前記燃料電池スタック(1)は、前記燃料電池又は前記燃料電池スタック(1)の電気出力電圧(U)を、出力電気パワーが、前記燃料電池又は前記燃料電池スタックでは、その値で最大になる出力電圧値(Uopt)に達するまでの期間、経年劣化の進むのにつれて低下させ、その後に、燃料ガス流れ(Pgas)を、前記燃料電池又は前記燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れ(Pmax)に達するまでの期間、経年劣化の進むのにつれて増加させ、その後に、前記燃料電池又は前記燃料電池スタックの前記動作温度(T)を経年劣化の進むのにつれて上昇させることで、前記経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下が部分的に、又は完全に補償されるように調整されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記動作温度の前記開始値(T0)は、前記電気最大パワーがその温度で得られる前記動作温度より低い、又はそれに等しく、
前記動作温度の前記開始値(T0)は、具体的には、740℃と800℃の間に在る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動作温度(T)は、前記燃料電池又は前記燃料電池スタックに対する前記最大規定動作温度(Tmax)に達するまでの期間、経年劣化の進むのにつれて上昇させる、請求項1又は2の一項に記載の方法。
【請求項4】
前記出力電気パワー(P)に対する上側閾値が事前に決定され、前記経年劣化の結果としての前記出力電気パワーの低下が前記上側閾値の下を切るまでの期間、電気出力電圧(U)の低下が遅延され、
前記上側閾値は、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックの前記電気最大パワーの多くとも90%に達する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
開始値(U0)が前記電気出力電圧に対して事前に決定されており、その開始値は、前記出力電気パワーが、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値(Uopt)より高い、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
開始値(Pgas0)が、前記燃料ガス流れに対して事前に決定されており、その開始値は、前記燃料電池又は前記燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れ(Pmax)より小さい、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記燃料電池又は前記燃料電池スタックの出力電圧(U)は、前記燃料電池又は前記燃料電池スタック(1)の出力(9)に接続される調整可能な電圧変換器又は調整可能なインバータを介して調整される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
燃料電池、燃料電池スタック(1)又は燃料電池スタック・システムのための調整装置(8)であって、
請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法によって前記燃料電池又は前記燃料電池スタック又は前記燃料電池スタック・システムを制御する、及び/又は調整する、調整装置(8)。
【請求項9】
前記燃料電池又は前記燃料電池スタック(1)の出力(9)に接続することができる調整可能な電圧変換器又は調整可能なインバータを、前記燃料電池又は前記燃料電池スタックの出力電圧(U)を前記調整可能な消費者及び/又は前記調整可能な電流シンクを介して調整するためにさらに含む、請求項8に記載の調整装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の調整装置(8)を有する燃料電池又は燃料電池スタック又は燃料電池スタック・システム。
【請求項11】
前記出力電気パワー(P)に対する上側閾値が事前に決定され、前記経年劣化の結果としての前記出力電気パワーの低下が前記上側閾値の下を切るまでの期間、電気出力電圧(U)の低下が遅延され、
前記上側閾値は、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックの前記電気最大パワーの多くとも80%に達する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記出力電気パワー(P)に対する上側閾値が事前に決定され、前記経年劣化の結果としての前記出力電気パワーの低下が前記上側閾値の下を切るまでの期間、電気出力電圧(U)の低下が遅延され、
前記上側閾値は、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックの前記電気最大パワーの多くとも95%に達する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブル又は請求項
10のプリアンブルに記載の燃料電池又は燃料電池スタックを動作させるための方法及び調整装置に関し、さらにまた、かかる調整装置を有する燃料電池、燃料電池スタック及び燃料電池スタック・システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、具体的には、固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)タイプの高温燃料電池によって、燃料から得られるエネルギーをエネルギーの変換を通じて利用できるようになっている。これに関して、電気化学プロセスによって生成される電気エネルギー、さらにまたプロセスの高温排ガスの形態で発生する熱エネルギーの両方を使用することができる。2つの抽出物(educt)のガス状流れが、セルを通じて別々に誘導される。第1の抽出物、具体的には環境大気は酸化成分を含み、第2の抽出物は還元成分を含む。好都合にも、メタンを含有するガスは、第2の抽出物(たとえば天然ガス)として使用され、それは、誘導されて改質装置を通過し、その後セルに入り、そしてそこで、たとえば、プロセス熱を供給するとき、水そして事によると空気を、還元されることになる成分、すなわち水素及び一酸化炭素中に追加して導入することによって変換される。高温排ガスは、好都合にも、改質装置中で必要なプロセス熱の源として使用することができる。
【0003】
燃料電池バッテリを動作させる方法は、たとえば欧州特許第1205993A1号から知ることができる。この方法では、要求パワーに依存する、燃料電池バッテリの調整が述べられている。
【0004】
実際には、燃料電池及び燃料電池スタックは、一般に、動作温度が一定で動作し、及び要求パワー及びガス組成が変化しない限り、燃料ガス流れが一定で動作する。さらに、その動作は、一般に、所与の燃料ガス流れでは達成可能な電気最大パワーの近くで行われる、というのは燃料ガスの利用が最善であるからである。
【0005】
次に示すように、一定の動作温度及び一定の燃料ガス流れによる動作は、理想的でない。
【0006】
燃料電池又は燃料電池スタックの内部抵抗及びこの方法での電気損失は、温度を上昇させるにつれて減少する。他方では、内部抵抗が0での効率
の理論レベルは、次の方程式[1]によって、より低温でより高い。
【0007】
【数1】
ただし、
G=ギブス・エネルギー
H=エンタルピー
T=温度
S=エントロピー
である。
【0008】
内部抵抗に、及び効率の理論レベルに対する温度の影響によって利益が生じないので、内部抵抗にさらに依存する理想的な動作温度が与えられる。
【0009】
図3Aは、出力電気パワーPの通常の程度を、所与の燃料ガス流れで新しい状態で、燃料電池又は燃料電池スタックの動作温度Tの関数として示す。出力電気パワーの最大値P
max0をはっきりと認識することができる。
【0010】
燃料電池又は燃料電池スタックの内部抵抗は、材料の劣化(経年劣化)によって時がたてば増加し、そして理想的な動作温度は、時がたてばより高温に移る。
【0011】
図3Bは、出力電気パワーPの通常の程度を、750℃の動作温度及び一定に維持された燃料ガス流れで20,000時間の動作時間の後、燃料電池又は燃料電池スタックの動作温度Tの関数として示す。出力電気パワーの最大値は、燃料電池又は燃料電池スタックの新しい状態では、最大値P
max0に比べて低下し、そして
図3Aに示すパワーの程度と比較して、より高い動作温度に移っている。
【0012】
さらに、材料の劣化は、また、動作温度によって決まる。より低い温度では、材料の劣化は、確かにより少ないが、しかし内部抵抗は、より低い温度の結果として増加し、したがって材料の劣化が著しくより激しい。
【0013】
内部抵抗に、そしてこの方法での効率の電気レベルに対する上述の影響のほかに、材料の劣化によるさらなる害を与える作用は、ユーザが、時間が経つにつれて燃料電池又は燃料電池スタックから出力される電気パワーが低下することに直面するということに在る。
【0014】
上記に述べた関連性は、一般に、燃料電池又は燃料電池スタックが、これまで通常であったように、一定の動作温度で動作しているとき、考慮されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第1205993A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、燃料電池又は燃料電池スタック、及び調整装置を動作させる方法、さらにまたこの方法を実行するための燃料電池及び燃料電池スタックを提供することであり、この方法によって、燃料電池又は燃料電池スタックの寿命が延び、そして出力電気パワーに対する経年劣化による作用を低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1で定義される方法及び請求項
10で定義される調整装置、さらにまた請求項
12で定義される燃料電池、燃料電池スタック及び燃料電池スタック・システムに関する本発明によってかなえられる。
【0018】
本発明による、燃料電池又は燃料電池スタックを動作させるための方法であって、該燃料電池又は該燃料電池スタックは、所与の燃料ガス流れでは、動作温度によって決まる電気最大パワーを出力することができ、そして動作持続期間が累積するにつれて電気内部抵抗の増加を引き起こす動作持続期間によって決まる経年劣化を示す、方法は、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックでは、好都合にも燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度より低い、動作温度の開始温度が事前に決定されることと、燃料電池又は燃料電池スタックの動作温度を経年劣化の進むのにつれて上昇させることで、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下が部分的に又は完全に補償されるように、燃料電池又は燃料電池スタックが調整されることとを特徴とする。都合良く、動作温度は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度に達するまでの期間、経年劣化が進むのにつれて上昇させる。
【0019】
動作温度の開始値は、都合良く、電気最大パワーがその温度で得られる動作温度より小さい、又はそれと等しい。SOFC燃料電池では、動作温度の開始値は、通常740℃と800℃の間に在る。
【0020】
都合良く、出力電気パワーのための上側閾値が事前に決定され、この上側閾値は、たとえば、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックの電気最大パワーのせいぜい80%、又はせいぜい90%、又はせいぜい95%にすることができる。
【0021】
好都合な実施例では、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料電池又は燃料電池スタックの電気出力電圧を経年劣化の進むのにつれて低下させることで補償され、たとえば、出力電圧についての開始値は、事前に決定することができ、その値は、電気出力パワーが、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値より高い。
【0022】
都合良く、出力電圧は、電気出力電圧が、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値に達するまでの期間、低下させる。
【0023】
さらなる好都合な実施例では、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料ガス流れを経年劣化の進むのにつれて増加させることで補償され、たとえば、燃料ガス流れに関する開始値は事前に決定することができ、その値は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れより小さい。
【0024】
都合良く、燃料ガス流れは、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れに達するまでの期間、増加させる。
【0025】
上記に述べた実施例は、たとえば電気出力電圧のための開始値が事前に決定され、その値は、電気出力パワーが、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値より高い;及び/又は燃料ガス流れのための開始値が事前に決定され、その値は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れより小さい、及び動作温度の開始値が事前に決定され、その値は、燃料電池又は燃料電池スタックの最大規定動作温度より小さい;そこでは、場合に応じて、第1のフェーズでは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、電気出力電圧が、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値に達するまで、電気出力電圧を低下させることで補償される;場合に応じて、第2のフェーズでは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れに達するまで、燃料ガス流れを増加させることで補償される;そして場合に応じて、第3のフェーズでは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度に達するまで、燃料電池又は燃料電池スタックの動作温度を上昇させることで補償される点において、様々なシーケンスで、ペアとして、又は3つで結合することができる。
【0026】
実施例と独立して、必要なら、燃料電池又は燃料電池スタックの電流電圧特性線が、動作の間、そのラインの勾配がその間で最小になる時間の間隔で検出され、勾配の最小の値又は勾配の最小と関連付けられる値R
minが個別に決定され、そこで、動作点についての基準点が、その決定値を事前に決定されたオフセット値R
offsetに数学的に結び付けることによって、具体的には決定値に事前に決定されたオフセット値を加算することによって決定され、そして燃料電池又は燃料電池スタックの出力電圧は、そのように決定された基準点を使用して調整される。
【0027】
都合良く、燃料電池又は燃料電池スタックの出力電圧は、燃料電池又は燃料電池スタックの出力に接続される調整可能な消費者又は調整可能な電流シンクを介して調整される。
【0028】
本発明は、燃料電池又は燃料電池スタック又は燃料電池スタック・システムのための調整装置をさらに含み、それは、上記に述べた実施例及びその変形のいずれか1つによる方法によって、燃料電池又は燃料電池スタック又は燃料電池スタック・システムをそれぞれ制御する、及び/又は調整するために取り付けられる。
【0029】
好都合な実施例では、調整装置は、調整可能な消費者又は調整可能な電流シンクをさらに含み、調整可能な消費者又は調整可能な電流シンクは、燃料電池又は燃料電池スタックの出力電圧を調整可能な消費者又は調整可能な電流シンクを介して調整するために、燃料電池又は燃料電池スタックの出力に接続することができ、該調整可能な消費者は、たとえば燃料電池中で生成される電流を電力網中に導入するために、その出力を電力網に接続することができる電圧変換器又はインバータとすることができる。
【0030】
本発明は、上記の記述による調整装置又は調整装置の実施例を有する燃料電池又は燃料電池スタックをさらに含む。
【0031】
本発明による燃料電池又は燃料電池スタックを動作させる方法及び調整装置、さらにまた燃料電池及び燃料電池スタックは、経年劣化作用が、動作温度の開始値が低いことによって低減される、且つ燃料電池及び燃料電池スタックの寿命は延ばすことができ、そしてユーザには、同時に、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下を部分的に、又は完全に補償する調整によって、寿命の大部分の間、実質的に一定の電気パワーが提供されるという利点を有する。
【0032】
実施例及びその変形の上記の記述は、実例としてだけで働く。さらなる好都合な実施例は、従属請求項及び図面に由来する。その上、また、述べる、又は示す実施例及びその変形からの個別の特徴は、新しい実施例を形成するために、本発明のフレームワーク中で互いに結合することができる。
【0033】
次の事項では、実施例によって、及び図面によって本発明を詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明による調整装置を有する燃料電池スタックの実施例を示す図である。
【
図2】本発明による方法の実施例を例示する概略フローチャート図である。
【
図3A】新しい状態の燃料電池又は燃料電池スタックに関して、動作温度の関数として出力電気パワーの通常の程度を示す図である。
【
図3B】所定の動作時間の直後での燃料電池又は燃料電池スタックに関して、動作温度の関数として出力電気パワーの通常の程度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明による調整装置8を有する燃料電池スタック1の実施例を示す。調整装置を有する燃料電池スタックの構成は、次の事項で燃料電池システム10としても言及する。燃料電池スタック1は、たとえば固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)タイプの高温燃料電池から組み立てることができ、それは、通常、600℃〜1000℃の温度で動作し、燃料のエネルギーの使用をエネルギーの変換によって使用できるようにしている。これに関し、電気化学プロセスによって生成される電気エネルギーとプロセスの高温ガスの排ガスの形態で生じる熱エネルギーの両方を使用することができる。動作の間、2つの抽出物A、Bのガス状の流れが、別々に誘導されてセルを通過する。たとえば環境大気とすることができる第1の抽出物Aは、酸化成分を含み、第2の抽出物Bは還元成分を含む。
【0036】
都合良く、メタンを含有するガス(たとえば天然ガス)を第2の抽出物Bとして使用し、それは、誘導されて、
図1に示していない改質装置を通過し、その後セルに入り、そこで、たとえば、プロセス熱を供給するとき、水W及び事によれば空気を追加して還元成分の水素及び一酸化炭素中に導入することによって変換される。高温排ガスは、都合良く、改質装置が必要とするプロセス熱の源として使用することができる。
【0037】
燃料電池スタック1は、一般に熱交換器2に接続され、そこでは、燃料電池スタックからの高温排ガスから熱を取り去ることができる。熱交換器2は、都合良く、加熱回路2’に接続される。排ガスCは、その後、自由大気中に誘導することができる、又は排ガス中の残留酸素は、
図1に例示していない追加のバーナ中で使用することができる。
【0038】
本発明による燃料電池又は燃料電池スタック1又は燃料電池スタック・システムは、調整装置8を含み、それは、本発明による後で述べる方法の1つによって燃料電池又は燃料電池スタック又は燃料電池スタック・システムを制御する、及び/又は調整するために取り付けられる。
【0039】
本発明による、燃料電池又は燃料電池スタック1を動作させるための方法であって、該燃料電池又は該燃料電池スタックは、所与の燃料ガス流れでは、動作温度によって決まる電気最大パワーを出力することができ、且つ動作持続時間が累積するにつれて電気内部抵抗の増加を引き起こす動作持続時間によって決まる経年劣化を示し、そして一般に出力電気パワーが低下する、方法は、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックでは、動作温度の開始値が事前に決定され、その値は、好都合にも燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度より小さいことと、経年劣化の結果による出力電気パワーの低下が、燃料電池又は燃料電池スタックの動作温度を経年劣化の進むのにつれて上昇させることで、部分的に、又は完全に補償されるように、燃料電池又は燃料電池スタックが調整されることとを特徴とする。
【0040】
本方法の有利な実施例及びその変形は、記述の次の部分において述べる。
【0041】
必要なら、燃料電池スタック1の、又は熱交換器2の入力側に、又は出力側に、送風機11を配置することができ、それによって、ガス通気、たとえば燃料電池スタックを通過する抽出物A(たとえば、環境大気)の通気を増加することができる。
【0042】
燃料電池又は燃料電池スタックの好都合な実施例では、送風機11は、調整装置8に接続され、その調整装置は、燃料電池スタックの動作温度を検出し、送風機の回転数を適合させることを介してその動作温度を調整する、及び/又は制御するために、たとえばライン13を介して、燃料電池スタックの内部中の示していない温度センサに接続することができる。
【0043】
さらにまた、燃料電池スタックのための抽出物A、Bのための供給ラインの少なくとも1つ中に、たとえば燃料ガス流れを調整する、又は制御するために、質量流量調整器12を設けることができる。質量流量調整器は、たとえば調整弁12bと、制御ユニットを介して調整弁に接続される質量流量センサ12aとを含むことができる。
【0044】
好都合な実施例では、質量流量調整器12の制御ユニットは、質量流量を制御する、及び/又は調整するために、調整装置8に接続される。
【0045】
さらなる好都合な実施例では、調整装置8は、燃料電池スタック1の電気出力9に接続される。この実施例の調整装置8は、測定調整ユニット6を含み、それは、燃料電池スタックの電流電圧特性線をその勾配がその間で最小になる時間の間隔で、たとえば電流センサ4及び/又は電圧センサ5によって検出するために、そして勾配の最小に関する値、又は検出された電流電圧特性線から電流の最小と相互に関連付けられる値R
minを決定するために取り付けられ、それによって、動作点に関する基準点が、決定値を事前に決定されたオフセット値(R
offset)に数学的に結び付けることによって、たとえば事前に決定されたオフセット値を検出された値に加算することによって、又は決定値とオフセット値を乗算することによって決定され、そして燃料電池スタック1の出力電圧が、そのように決定された基準点を使用して、たとえば基準点又は燃料電池スタックの出力電圧又は出力電流のための基準点から導き出された所望の値として調整される。
【0046】
さらなる好都合な実施例では、調整装置8は、調整可能な消費者又は調整可能な電流シンク3を含み、その調整可能な消費者又は調整可能な電流シンクは、燃料電池又は燃料電池スタック1の出力電圧を調整可能な消費者又は調整可能な電流シンクを介して調整するために、燃料電池又は燃料電池スタックの出力9に接続することができる。その目的のために、測定調整ユニット6は、調整可能な消費者又は調整可能な電流シンクに、たとえばライン7を介して接続することができる。
【0047】
都合良く、調整可能な消費者3は、電圧変圧器又はインバータであり、その出力は、電流網3’に、燃料電池スタック中で生成された電流をその電流網に注入するために、接続することができる。
【0048】
本発明による、燃料電池又は燃料電池スタック1を動作させるための方法の実施例は、次に
図1及び2を参照して述べる。本方法では、燃料電池又は燃料電池スタックは、所与の燃料ガス流れでは、電気最大パワーP
el.maxを有し、その電気最大パワーは、動作温度に依存して出力することができ、さらにまた電気内部抵抗の増加を動作持続時間が累積するにつれて引き起こす動作持続時間によって決まる経年劣化を有し、そして、経年劣化は、その対策がなければ、出力電気パワーP
elが一般に減少する。本発明は、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックでは、動作温度の開始値T
0が事前に決定され、その値は、好都合にも燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度より小さい、そして燃料電池又は燃料電池スタック1は、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下が、燃料電池又は燃料電池スタックの動作温度Tを経年劣化の進むのにつれて上昇させることで部分的に、又は完全に補償されるように調整されることそれ自体を特徴とする。
【0049】
動作温度の開始値T
0は、都合良く、電気最大パワーがその温度で得られる動作温度より低い、又はそれと等しく、通常740℃と800℃の間に在る。
【0050】
都合良く、動作温度Tは、経年劣化が進むのにつれて、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度T
maxに達するまでの期間、上昇させる(
図2のステップ27)。これは、
図2に示す実施例の終了基準28に対応し、ステップ27、28及び28bによって形成されるループが、T≧T
maxまでの期間、継続されている。ステップの条件P
el<
Pelが、待機ループを表し、それは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下が所定のパワー値
Pelの下を切るまでの期間、動作温度Tの上昇を遅延させる。終了基準T≧T
maxが満たされたとき、本方法は、たとえば、28aにジャンプするという命令によって継続することができる。
【0051】
28aにジャンプするという命令は、たとえば、燃料電池スタック1を予め決定できる時間枠内に交換しなければならないということを示す警告を引き起こすことができる。
【0052】
都合良く、出力電気パワーに対する上側閾値
Pelが事前に決定され、この上側閾値は、たとえば、新しい燃料電池又は新しい燃料電池スタックの電気最大パワーのせいぜい80%、又はせいぜい90%、又はせいぜい95%にすることができる(
図2の条件22)。
【0053】
好都合な実施例では、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料電池又は燃料電池スタックの電気出力電圧Uを経年劣化の進むのにつれて低下させることで補償され、たとえば、開始値U
0は、出力値に対して事前に決定することができ、その開始値は、電気出力パワーが、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値U
optより高い。
【0054】
都合良く、出力電圧Uは、電気出力パワーが、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧U
optに達するまでの期間、低下させる(
図2のステップ23)。これは、
図2に示す本実施例の終了基準24に対応し、ステップ23、24及び24bによって形成されるループが、U≦U
optまでの期間、継続されている。ステップ24bの条件P
el<
Pelは、待機ループを表し、それは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下が所定のパワー値
Pelの下を切るまでの期間、出力電圧Uの低下を遅延させる。終了基準U≦U
optが満たされたとき、本方法は、たとえば、24aにジャンプするという命令によって継続することができる。
【0055】
さらなる好都合な実施例では、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料ガス流れP
gasを経年劣化の進むのにつれて増加させることで補償され、たとえば、燃料ガス流れに対する開始値P
gas0は、事前に決定することができ、その値は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れP
maxより小さい。
【0056】
都合良く、燃料ガス流れP
maxは、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れP
maxに達するまでの期間、増加させる(
図2のステップ25)。これは、
図2に示す実施例の終了基準26に対応し、ステップ25、26及び26bによって形成されるループが、P
gas≧P
maxまでの期間、継続されている。ステップ26bの条件P
el<
Pelは、待機ループを表し、それは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下が所定のパワー値
Pelの下を切るまでの期間、燃料ガス流れP
gasの増加を遅延させる。終了基準P
gas≧P
maxが満たされたとき、本方法は、たとえば、26aにジャンプするという命令によって継続することができる。
【0057】
上記に述べた実施例及びその変形は、たとえば、電気出力電圧Uのための開始値U
0が事前に決定され、その値は、電気出力パワーが、所与のガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値U
optより高い、及び/又は燃料ガス流れP
gasのための開始値P
gas0が事前に決定され、その値は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れP
maxより小さく、そして動作温度Tの開始値T
0が事前に決定され、その値は、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度T
maxより小さい(
図2のステップ21)、そこでは、場合に応じて、第1のフェーズでは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、電気出力電圧Uを、電気出力パワーがその値で最大待機ループになる出力電圧値U
optに達するまで低下させることで補償される、場合に応じて、第2のフェーズでは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料ガス流れP
gasを、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定燃料ガス流れP
maxに達するまで増加させることで補償される、そして、場合に応じて、第3のフェーズでは、経年劣化の結果としての出力電気パワーの低下は、燃料電池又は燃料電池スタックの動作温度Tを、燃料電池又は燃料電池スタックに対する最大規定動作温度T
maxに達するまで上昇させることで補償される点において、様々なシーケンスにおいて、ペアで、又は3つで互いに結合することができる。
【0058】
実施例とは独立に、必要なら、燃料電池又は燃料電池スタックの電流電圧特性線は、動作の間、その勾配がその間で最小になる時間の間隔で検出することができ、勾配の最小に関する値、又は勾配の最小と関連付けられる値R
minが、それぞれ、検出された電流電圧特性線から決定され、そこでは、動作点に対する基準点が、決定値を事前に決定されたオフセット値R
offsetに数学的に結び付けることによって、たとえば事前に決定されたオフセット値を決定値に加算することによって、又は事前に決定されたオフセット値によって乗算することによって決定され、そして燃料電池又は燃料電池スタックの出力電圧は、そのように決定された基準点を使用して調整される。
【0059】
都合良く、出力電圧Uに関する基準点は、このようにして決定され、そこでは、このようにして決定された基準点は、電気出力パワーが、所与の燃料ガス流れ及び所与の動作温度では、その値で最大になる出力電圧値U
optについての近似値として使用することができる。
【0060】
実施例の好都合な変形では、燃料電池又は燃料電池スタックは、電圧によって管理される、これは、燃料電池又は燃料電池スタックが、セル電圧に対する、又は出力電圧に対する所望の値に調整され、その所望値は、上記で決定された基準点より小さい、又は等しいことを意味する。
【0061】
勾配の最小に関する値は、たとえば、勾配の最小における燃料電池又は燃料電池スタックの内部抵抗又はASRとしても呼ばれる面積固有抵抗(area specific resistance)の値、又は勾配の最小と関連付けられる値R
minとすることができ、場合に応じて、その勾配の最小に関する値は、勾配が最小において、燃料電池又は燃料電池スタックの内部抵抗又は面積固有抵抗の値に結び付けることができる。面積固有抵抗ASRは、内部抵抗が、それぞれ、燃料電池の電気化学的に活性な表面とともに増加することで、又は内部抵抗が、中継器ユニットの電気化学的に活性な表面の燃料電池スタックの反復単位とともに増加することで、燃料電池の内部抵抗から計算される。
【0062】
都合良く、勾配の最小に関する値又は勾配の最小と関連付けられる値R
minは、電流電圧特性線から数学的に、たとえば数値的に、又は電流電圧特性線の数学的な導出によって決定される。
【0063】
さらなる好都合な実施例では、燃料電池又は燃料電池スタックの電流電圧特性線は、少なくとも200時間、又は少なくとも500時間の後、又は少なくとも1000時間の後、或いは200時間毎、又は500時間毎、又は1000時間毎の動作の間に決定され、そして基準点が、検出された電流電圧特性線から新たに決定される。
【0064】
都合良く、燃料電池又は燃料電池スタック1の出力電圧は、調整可能な消費者又は調整可能な電流シンク3を介して調整され、それは、燃料電池又は燃料電池スタックの出力9に接続され、そこでは、調整可能な消費者3は、たとえば電圧変圧器又はインバータとすることができ、その出力3’は、燃料電池又は燃料電池スタック中で生成される電流を電流網に導入するために、電流網に接続することができる。
【0065】
本発明による燃料電池又は燃料電池スタックを調整するための本方法及び調整装置、さらにまた燃料電池及び燃料電池スタックは、動作温度の開始値が低いことによって、経年劣化が低減され、そして燃料電池及び燃料電池スタックの寿命を延ばすことができるという利点を有する。さらに、燃料電池又は燃料電池スタックは、それぞれ、たとえ動作条件が、時間が経つにつれて変化したときでさえ、安全に動作させることができる。さらなる利点は、本方法で使用される調整のおかげで、寿命の大部分にわたって実質的に一定の電気パワーをユーザに提供できること自体に在る。
【符号の説明】
【0066】
1 燃料電池又は燃料電池スタック
2 熱交換器
2’ 加熱回路
3 調整可能な消費者又は調整可能な電流シンク
3’ 電流網
4 電流センサ
5 電圧センサ
6 測定調整ユニット
7 ライン
8 調整装置
9 出力
10 燃料電池システム
11 送風機
12 質量流量調整器
12a 質量流量センサ
12b 調整弁
13 ライン
A 抽出物
B 抽出物
C 排ガス
W 水