特許第6832052号(P6832052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832052
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】植物栽培用被覆材
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/14 20060101AFI20210215BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   A01G9/14 S
   A01G13/02 E
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-157198(P2014-157198)
(22)【出願日】2014年7月31日
(65)【公開番号】特開2016-32464(P2016-32464A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2017年6月21日
【審判番号】不服2019-11551(P2019-11551/J1)
【審判請求日】2019年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000550
【氏名又は名称】オカモト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石丸 一臣
(72)【発明者】
【氏名】千葉 竜麻
【合議体】
【審判長】 森次 顕
【審判官】 長井 真一
【審判官】 住田 秀弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−369629(JP,A)
【文献】 特開2006−055002(JP,A)
【文献】 特開2001−148951(JP,A)
【文献】 特開2011−092058(JP,A)
【文献】 特開2003−325060(JP,A)
【文献】 特開2006−314218(JP,A)
【文献】 特開2007−222021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14- 9/26
A01G13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレーション製法により成形した透明な基体フィルムがそのままの状態で、花卉を含む植物の栽培施設に用いられる植物栽培用被覆材であって、
前記基体フィルムは、低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分として近赤外光領域にある光線の透過率を抑える昇温防止剤が配合される中間層と、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分とする内層とを積層した三層構造に形成され、前記中間層において前記エチレン−酢酸ビニル共重合体及び前記昇温防止剤とその他の合計100重量%に対し、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体77.25〜83.35重量%を含み、前記昇温防止剤4.00〜10.00重量%を含み、波長が290〜400nmの紫外線領域にある光線のうち325nmの光線の平均透過率を20〜45%とし、波長が400〜700nmの可視光領域にある光線の平均透過率を75〜85%とし、且つ波長が700〜1200nmの近赤外光領域にある光線のうち800nmの光線の平均透過率を70〜86%としたことを特徴とする植物栽培用被覆材。
【請求項2】
前記基体フィルムが、スイートピーを含むマメ科植物の花卉の栽培施設に用いられることを特徴とする請求項1記載の植物栽培用被覆材。
【請求項3】
前記基体フィルムが、ラン科植物の花卉の栽培施設に用いられることを特徴とする請求項1記載の植物栽培用被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花卉や野菜などの植物を温室で栽培する際に用いられる植物栽培用被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の植物栽培用被覆材は、冬場の保温対策としては有効である。
ところが、植物栽培用被覆材は、通気性に劣るため、春から秋までの日中には、温室内の栽培領域の温度が必要以上に上昇して、植物の健全な成長が阻害され、高温障害を生じることがあった。高温障害としては、生育不良,葉焼け,落葉,枯れ,病害虫の多発,収量の低下などが挙げられる。
特に植物が花卉の場合には、前述した高温障害に加えて、花付き(花の付き具合)や花色(花の色合い)など、商品価値に大きく影響する問題もあった。
このような植物の高温対策の一例として、酸化チタン及び紫外線吸収剤を含有する熱可塑性樹脂フィルムからなるニラ栽培用農業用被覆材がある(例えば、特許文献1参照)。
下記特許文献1に記載されたニラ栽培用農業用被覆材は、波長が380nm未満の紫外線領域の光線の透過率を5%未満とし、380以上400nm未満の紫外線領域にある光線の平均透過率が15%以下であり、400nm以上700nm未満の可視光領域にある光線の平均透過率が75%以上であり、且つ、波長が700nm以上2000nm未満の近赤外光領域にある光線の平均透過率が85%以下に設定している。それにより、近赤外光領域の光線の透過が減少して、ハウス内の温度上昇を抑えつつ農作物の育成に必要な波長が可視光領域にある光線を十分に透過させ、病害の発生原因となる紫外線を遮断することができる。さらに、波長が700nm以上2000nm未満の近赤外光領域の透過光線の直達光透過率を40〜75%にすることにより、ニラに対し直接照射する直達光が減少して和らげられ、ニラの葉の先端の変色や、葉自体のねじれ等による外観低下を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−222021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような従来のニラ栽培用農業用被覆材では、波長が400nm未満の紫外線の透過率を15%以下に抑えているため、ニラなどのネギ科緑黄色野菜を除く植物の温室栽培に用いると、紫外線不足が原因で植物の茎葉が徒長(通常以上に無駄に成長)し、正常に育った植物に比べ病弱や虚弱になって生育不良を生じるおそれがあった。
さらに、植物に対して直接照射される近赤外光の直達光透過率を40〜75%に減少させると、ニラなどを除く植物の場合には、近赤外光が不足して光合成活動を低下させ、生育不良を生じるという問題もあった。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、温室内の温度上昇を抑えながら植物の徒長や光合成速度の低下を防止して健全に成長させること、などが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明による植物栽培用被覆材は、以下の独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
[請求項1] インフレーション製法により成形した透明な基体フィルムがそのままの状態で、花卉を含む植物の栽培施設に用いられる植物栽培用被覆材であって、
前記基体フィルムは、低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分として近赤外光領域にある光線の透過率を抑える昇温防止剤が配合される中間層と、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分とする内層とを積層した三層構造に形成され、前記中間層において前記エチレン−酢酸ビニル共重合体及び前記昇温防止剤とその他の合計100重量%に対し、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体77.25〜83.35重量%を含み、前記昇温防止剤4.00〜10.00重量%を含み、波長が290〜400nmの紫外線領域にある光線のうち325nmの光線の平均透過率を20〜45%とし、波長が400〜700nmの可視光領域にある光線の平均透過率を75〜85%とし、且つ波長が700〜1200nmの近赤外光領域にある光線のうち800nmの光線の平均透過率を70〜86%としたことを特徴とする植物栽培用被覆材。
【発明の効果】
【0007】
このような特徴を有する本発明の植物栽培用被覆材は、波長が290〜400nmの紫外線領域にある光線の透過率を20%以上とすることにより、植物に対し必要な紫外線の透過光量が得られて徒長せずに成長する。さらに、波長700〜1200nmの近赤外光領域にある光線の透過率を86%以下とし、熱作用がある波長1200nm以上の近赤外光をカットすることにより遮熱性が得られる。この近赤外光に加えて、波長が400〜700nmの可視光領域にある光線の透過率を75%以上とすることにより、植物の光合成がエマーソン効果によって促進される。
したがって、温室内の温度上昇を抑えながら植物の徒長や光合成速度の低下を防止して健全に成長させることができる。特に花卉の場合には、花付き(花の付き具合)や花色(花の色合い)を改善することができる。野菜の場合には、収量を改善することができる。
その結果、波長400nm未満の紫外線の透過率が15%以下に抑えられる従来のものに比べ、紫外線の透過光量不足により病弱や虚弱になって生育不良を生じることがなく、特に花卉の場合には、商品価値の向上が図れる。野菜の場合には、生産量の向上が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る植物栽培用被覆材は、花卉や野菜などの植物を温室で栽培するため、ハウスやトンネルなどの栽培施設に用いられるものである。
詳しく説明すると、本発明の実施形態に係る植物栽培用被覆材は、少なくとも一層のオレフィン系樹脂を主成分とした透明な基体フィルムからなる。
基体フィルムは、波長が290〜400nmの紫外線領域にある光線の平均透過率を20%以上とし、波長が400〜700nmの可視光領域にある光線の平均透過率を75%以上とし、且つ波長が700〜1200nmの近赤外光領域にある光線の平均透過率を86%以下としている。
さらに、波長が700〜1200nmの近赤外光領域にある光線の平均透過率の下限値としては、70以上、すなわち70〜86%に設定することが好ましい。
このような透過率の範囲を実現するため、基体フィルムには、紫外線領域にある光線の透過率を抑えるための紫外線吸収剤や近赤外光領域にある光線の透過率を抑えるための近赤外線吸収剤などが配合されている。
【0009】
使用される公知の紫外線吸収剤としては、例えば(2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール)(最大吸収波長:353nm)や2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール(最大吸収波長:352nm)、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’.5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3’,5’−ジ第三ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ第三アミルフェニル−3’,5’−ジ第三ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール等のトリアジン類等があげられる。
また、酸化亜鉛、酸化セリウム等の無機酸化物系紫外線吸収剤も挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、一種又は二種以上を併用して用いられる。
【0010】
そして、基体フィルムの具体例としては、同一の樹脂からなる単層構造や、異なる複数の樹脂を一体的に積層した複数構造のものが用いられる。
複数構造の代表例としては、外層と中間層と内層からなる三層構造を用いることが好ましい。
また、その他の例として、外層と内層の二層構造や四層以上の多層構造を用いることも可能である。
以下、基体フィルムが三層構造である場合について説明する。
【0011】
[外層について]
外層は、引裂・引張・突き刺し強度・耐ピンホール特性等において総合的に優れた性質を持ったオレフィン系樹脂として、メタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレン(メタロセン系LLDPE)を主成分とする層にする。メタロセン系LLDPEの具体例としては、住友化学社製のFV203などが該当する。
さらに、外層には、紫外線領域にある光線の透過率を抑えるために紫外線吸収剤が配合され、その他にも光安定剤や酸化防止剤(抗酸化剤)などが配合されている。
紫外線吸収剤の具体例としては、昭島化学工業社製のベンゾフェノン系のMAF−23などが該当する。
光安定剤の具体例としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のチヌビン622−LDなどが該当する。
酸化防止剤の具体例としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のフェノール系のイルガノックス1010などが該当する。
【0012】
[中間層について]
中間層は、引っ張り強度に優れた性質を持ったオレフィン系樹脂として、酢酸ビニル(VA)が10%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分とする層にする。EVAの具体例としては、NUC(旧社名:日本ユニカー)社のNUC3224(VA15%)などが該当する。
さらに、中間層には、紫外線吸収剤と、近赤外光領域にある光線の透過率を抑えるための近赤外線吸収剤が配合され、その他にも光安定剤や酸化防止剤(抗酸化剤)に加えて、防曇剤,防霧剤,保温剤などが配合されている。
近赤外線吸収剤の具体例としては、東京インキ社製の昇温防止剤PEX ST−0049などが該当する。
防曇剤の具体例としては、花王社製のサンスルーザー810などが該当する。
防霧剤の具体例としては、AGCセイミケミカル社製のサーフロンなどが該当する。
保温剤としては、ハイドロタルサイトを用いることが好ましい。ハイドロタルサイトは、赤外線吸収性能とエチレン−酢酸ビニル共重合体やメタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレンとほとんど同一の屈折率を持つため、保温剤として優れた性質を有している。ハイドロタルサイトの具体例としては、協和化学工業製のDHT−4Aなどが該当する。
【0013】
[内層について]
内層は、酢酸ビニル(VA)が5〜10%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分とする層にする。EVAの具体例としては、NUC(旧社名:日本ユニカー)社のNUC3223(VA5%)などが該当する。
さらに、内層には、紫外線吸収剤,光安定剤,酸化防止剤(抗酸化剤),防曇剤,防霧剤などが配合されている。
【0014】
[製造方法]
インフレーション製法により、前記の内層を外側にして多層構造の基体フィルムをチューブ状に成形する。その後、チューブのサイドまたはセンターの1ケ所を切開し、ロール状に巻き取って基体フィルムとしている。
また、基体フィルムの成形時には、各樹脂層に必要に応じて、上述した添加剤以外にも各種の添加剤(滑剤,熱安定剤,着色剤,帯電防止剤等)を通常の量で配合させることができる。
【0015】
このような本発明の実施形態に係る植物栽培用被覆材によると、波長が290〜400nmの紫外線領域にある光線の透過率を20%以上とすることで、花卉や野菜などの植物に対し必要な紫外線の透過光量が得られて徒長せずに成長する。
さらに、波長700〜1200nmの近赤外光領域にある光線の透過率を86%以下とし、熱作用がある波長1200nm以上の近赤外光をカットすることで、遮熱性が得られる。
この近赤外光に加えて、波長が400〜700nmの可視光領域にある光線の透過率を75%以上とすることで、エマーソン効果により植物の光合成が促進される。
したがって、温室内の温度上昇を抑えながら植物の徒長や光合成速度の低下を防止して健全に成長させることができる。
その結果、紫外線の透過光量不足により病弱や虚弱になって生育不良を生じることがない。
特に、植物が花卉の場合には、花付き(花の付き具合)や花色(花の色合い)を改善することができる。
また、植物が野菜の場合には、収量を改善することができる。
【0016】
特に、近赤外光領域にある光線の透過率を70〜86%とした場合には、可視光領域にある光線と近赤外光領域にある光線が植物に花卉などの植物に対し十分に照射され、光合成がより促進される。
したがって、花卉の花付き(花の付き具合)や花色(花の色合い)又は収量を更に改善することができる。
その結果、特に花卉の場合には、商品価値の更なる向上が図れ、野菜の場合には、生産量の更なる向上が図れる。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1〜4及び比較例1〜5]
表1に示す実施例1〜4と表2に示す比較例1〜4は、それらに記載された成分をそれぞれの割合で混合し、インフレーション成形機によるインフレーション成形加工で、外層,中間層及び内層からなる三層構造のフィルム本体を、それぞれの厚みバランス(層比)と、フィルム本体の全体の厚みがそれぞれ設定寸法となるように加工した植物栽培用被覆材である。
外層,中間層及び内層の層比を1:3:1となし、フィルム本体の全体の厚みを0.1mmにしている。
実施例1〜3及び比較例1〜4の外層において、光安定剤を0.50重量%、酸化防止剤(抗酸化剤)を0.10重量%それぞれ配合したところが、共通の構成にしている。
実施例1〜3及び比較例1〜4の中間層において、保温剤を10.00重量%、光安定剤を0.50重量%、防曇剤を2.00重量%、酸化防止剤(抗酸化剤)を0.10重量%それぞれ配合したところが、共通の構成にしている。
実施例1〜3及び比較例1〜4の内層において、防曇剤を2.50重量%、光安定剤を0.50重量%、酸化防止剤(抗酸化剤)を0.10重量%、防霧剤を0.10重量%それぞれ配合したところが、共通の構成にしている。
【0018】
詳しく説明すると、実施例1では、外層においてメタロセン系LLDPEを99.35重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を77.25重量%,近赤外線吸収剤(PEX ST−0049)を10.00重量%,防霧剤を0.10重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、内層においてEVA(VA5%)を96.75重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が20%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が75%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が75%にそれぞれ設定されている。
実施例2では、外層においてメタロセン系LLDPEを99.20重量%,紫外線吸収剤を0.20重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を83.10重量%,近赤外線吸収剤(PEX ST−0049)を4.00重量%,防霧剤を0.10重量%,紫外線吸収剤を0.20重量%それぞれ配合し、内層においてEVA(VA5%)を96.60重量%,紫外線吸収剤を0.20重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が20%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が85%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が85%にそれぞれ設定されている。
実施例3では、外層においてメタロセン系LLDPEを99.35重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を81.25重量%,近赤外線吸収剤(PEX ST−0049)を6.00重量%,防霧剤を0.10重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%配合し、内層においてEVA(VA5%)を96.75重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が40%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が82%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が82%にそれぞれ設定されている。
実施例4では、外層においてメタロセン系LLDPEを99.35重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を83.35重量%,近赤外線吸収剤(PEX ST−0049)を4.00重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合して防霧剤は配合せず、内層においてEVA(VA5%)を96.75重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が45%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が85%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が86%にそれぞれ設定されている。
【0019】
一方、比較例1は、外層においてメタロセン系LLDPEを98.40重量%,紫外線吸収剤を1.00重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を84.30重量%,近赤外線吸収剤(PEX ST−0049)を2.00重量%,防霧剤を0.10重量%,紫外線吸収剤を1.00重量%それぞれ配合し、内層においてEVA(VA5%)を95.80重量%,紫外線吸収剤を1.00重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が0%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が88%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が87%にそれぞれ設定されている。
比較例2は、外層においてメタロセン系LLDPEを99.35重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を67.25重量%,近赤外線吸収剤(PEX ST−0049)を20.00重量%,防霧剤を0.10重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、内層においてEVA(VA5%)を96.75重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が20%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が70%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が65%にそれぞれ設定されている。
比較例3は、外層においてメタロセン系LLDPEを99.35重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を62.25重量%,近赤外線吸収剤(PEX ST−0049)を25.00重量%,防霧剤を0.10重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、内層においてEVA(VA5%)を96.75重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が20%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が65%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が60%にそれぞれ設定されている。
比較例4は、外層においてメタロセン系LLDPEを99.35重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合し、中間層においてEVA(VA15%)を87.35重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合して近赤外線吸収剤及び防霧剤は配合せず、内層においてEVA(VA5%)を96.75重量%,紫外線吸収剤を0.05重量%それぞれ配合している。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が20%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が92%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が90%にそれぞれ設定されている。
比較例5は、フィルム本体として、汎用の農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(全体の厚み0.1mm)を用い、その上に遮光ネットが配置されて農業用ポリオレフィン系特殊フィルムを常時覆っている。それにより、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が10%、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が10%、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が10%にそれぞれ設定されている。
【0020】
表1及び表2に示される評価結果(成長状態、高温障害の有無、花付き・花色又は収量、総合評価)は、以下の指標に基づくものである。
実施例1〜4及び比較例1〜5の植物栽培用被覆材を用い、植物として花卉と野菜の温室栽培を行った。
花卉としては、高温障害が発生し易いマメ科植物のスイートピーと、ラン科植物の胡蝶蘭で実験を行った。
野菜としては、高温障害が発生し易いバラ科植物のいちごで実験を行った。
栽培時期は、スイートピーが9月から翌年の6月、胡蝶蘭が10月から翌年の6月、スイートピーが9月から翌年の6月。それぞれ異なる場所にて栽培実験を行った。
また、胡蝶蘭の栽培については、必要に応じて日中の高温時に遮光ネットを併用した。
【0021】
「成長状態」は、実施例1〜4及び比較例1〜5の植物栽培用被覆材で栽培実験中の植物(スイートピー、胡蝶蘭、いちご)を観察し、3段階で評価した結果である。
「徒長や生育遅れが全く無い」を○、「一部の植物に僅かな徒長や生育遅れが見られるものの全体的には支障が無い」を△、「全体的に徒長や生育遅れが有る」を×と評価した。
「高温障害の有無」は、実施例1〜4及び比較例1〜5の植物栽培用被覆材で栽培実験中の植物(スイートピー、胡蝶蘭、いちご)を観察し、3段階で評価した結果である。
「生育不良,葉焼け,落葉,枯れ,病害が全く無い」を○、「一部の植物に僅かな生育不良,葉焼け,落葉,枯れ,病害が見られるものの全体的には支障が無い」を△、「全体的に生育不良,葉焼け,落葉,枯れ,病害が有る」を×と評価した。
「花付き・花色」は、実施例1〜4及び比較例1〜5の植物栽培用被覆材で栽培実験中の花卉(スイートピー、胡蝶蘭)を観察し、3段階で評価した結果である。
「花の付き具合や花の色合いに全く問題が無い」を○、「一部の花卉で花の付き具合や花の色合いに僅かな問題が見られるものの全体的には支障が無い」を△、「全体的に花の付き具合や花の色合いに問題が有る」を×と評価した。
「収量」は、実施例1〜4及び比較例1〜5の植物栽培用被覆材で栽培実験中の野菜(いちご)を観察し、3段階で評価した結果である。
「収量の低下が全く無い」を○、「一部の植物に僅かな収量の低下が見られるものの全体的には支障が無い」を△、「全体的に収量の低下が有る」を×と評価した。
「総合評価」とは、前述した「成長状態」「高温障害の有無」「花付き・花色」又は「収量」の評価結果から総合的な機能を3段階で評価した。
「最適」を○、「良」を△、「不向き」を×と評価した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
[評価結果]
実施例1〜4と比較例1〜5を比較すると、実施例1〜4は、成長状態、高温障害の有無、花付き・花色又は収量、総合評価のすべてにおいて良好な評価結果が得られている。
この評価結果から明らかなように、実施例1〜4は、温室内の温度上昇を抑えながら植物の徒長や光合成速度の低下を防止して健全に成長させることができる。
特に実施例3は、光線透過率が最適で良好な評価結果となった。
それよりも光線透過率が上下の実施例1,2,4は、実施例3に比べやや劣る評価結果となったものの、植物の生育に支障がなくて許容範囲内であった。
このような評価結果から、スイートピーなどの高温が苦手なマメ科植物を栽培しても、徒長や生育遅れが全く無く、高温障害が発生せず、花の付き具合や花の色合いに全く問題が無いことを見出した。
したがって、高温が苦手なスイートピーなどでも高温障害が生じることなく健全に成長させることができる。
【0025】
これに対して、比較例1〜5は、成長状態、高温障害の有無、花付き・花色又は収量、総合評価のいずれかで不良な評価結果になっている。
詳しく説明すると、比較例1は、波長325nmの紫外線で測定した平均透過率が20%未満の0%であるため、スイートピー及び胡蝶蘭の花付き・花色と、いちごの収量で不良な評価結果になった。
比較例2は、波長400〜700nmの可視光線で測定した平均透過率が75%未満の70%であるため、胡蝶蘭の花付き・花色と、いちごの収量で不良な評価結果になった。
比較例3は、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が70%未満の60%であるため、スイートピー及び胡蝶蘭の花付き・花色と、いちごの収量で不良な評価結果になった。
比較例4は、波長800nmの近赤外線で測定した平均透過率が85%よりも高い90%であるため、スイートピー及び胡蝶蘭の花付き・花色と、いちごの収量で不良な評価結果になった。
比較例5は、光線透過率が低過ぎるため、高温障害の有無の除いて不良な評価結果になった。