(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、階段として、段板の踏面に蹴込面を一体に形成した略L字断面状に形成したり、段板と段板との間に底板部を設けたりして、段板と段板との間の空間部を塞いだものが知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
また、他の階段として、足を乗せる踏面を形成する段板と段板との間が開放されて、軽量かつ開放感を有して意匠性に優れたものが知られている(例えば、特許文献4、5参照)。
【0003】
そして、これらの従来技術では、段板に落下した雨水の排水が考慮されている。
特に、特許文献4,5に記載のもののように、段板と段板との間が開放されたいわゆるオープン階段では、段板と段板との間からの雨水の落下が問題となる。
【0004】
そこで、特許文献4に記載の技術では、段板の奥側端部に蹴込み板が立設され、段板の上面に、左右方向に排水勾配が設けられているとともに、排水勾配の最も低くなった段板の左右端部に溝が形成され、かつ、溝は、下段の段板上に雨水を導くよう奥側から手前側に傾斜されている。
したがって、段板の上面の雨水が奥側に落下するのが蹴込み板により規制されるとともに、排水勾配により左右端部の溝に集められ、この溝から下段の段板に落下することを繰り返し、階段の麓に流れる。よって、階段の下方への雨水の落下を抑制できる。
【0005】
また、特許文献5に記載の技術では、段板の奥側端部にリブが立設されるとともに、段板の左右端部に断面略三角形の止水堤部が突出して形成され、かつ、段板の上面の奥側部側から前縁部側に向かう排水勾配が形成されている。
したがって、段板の上面の雨水が奥側および左右に落下するのがリブおよび止水堤部により規制され、かつ、上面の排水勾配により、手前側端部から下段の段板に落下する。そして、これを順次繰り返すことにより、段板上の雨水は、途中に溜まることなく、階段下に排水される。
よって、階段の下方への雨水の落下を抑制できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上下の段板の間が開放された特許文献4,5に記載された階段は、開放感が得られるものの、段板の奥側に端部に蹴込み板あるいはリブが立設され、また、左右側部には、溝の一端縁を形成する凸部や、止水堤部が突出して形成されている。
このため、段板のこれらの突出部分に、人が身体の一部をぶつけるおそれがあり、この場合、これらの突出部分を有さないものと比較して、身体へ与えるダメージが大きくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、上述の従来の問題に着目して成されたもので、階段下への雨水の落下を抑制でき、さらに、衝突時のダメージ低減可能な段板、階段および建物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の段板は、
略水平に延在される平面視略長方形板状の踏板部を備え、上下に間隔を開けて並設して階段を形成する段板であって、
前記踏板部の第1の長辺の縁部から垂下された垂下フランジ部を備えるとともに、前記垂下フランジ部の下端部に、下方に山形状の水切部を備え、
前記踏板部の上面の第2の長辺の端部に沿って、水受け溝が形成されていることを特徴とする段板とした。
また、本発明の段板は、前記踏板部の上面が、少なくとも前記第1の長辺の方向に低くなる排水勾配を有することが好ましい。
さらに、本発明の段板は、前記踏板部の外周端縁部は、平坦形状に形成するのが好ましい。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明の階段は、
左右一対のささら桁に設けられた段板接合金具に、板状の段板受金具が架け渡され、
前記段板受金具に前記段板が、前記第1の長辺を階段手前に配置して支持され、かつ、上段側の前記段板の前記水切部と、下段側の前記段板の前記水受け溝と、が同一鉛直線上に配置されていることを特徴とする階段とした。
また、本発明の階段は、前記上段側の前記段板と、前記下段側の前記段板との間が開放されていることが好ましい。
さらに、本発明の階段は、前記段板が、前記段板接合金具により手前側よりも奥側の支持位置が高く設定され、少なくとも手前側ほど低くなる排水勾配が与えられていることが好ましい。
また、上記目的を達成するため、本発明の建物は、上記の階段が設けられていることを特徴とする建物とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明の段板では、段板の上面の雨水は、第1の長辺部を伝い、垂下フランジ部の下端部の水切部から、効率的に落下させることができる。
また、下段の段板では、上段の水切部から落下する水を水受け溝により受け止めて、下方へ落下するのを抑制できる。
したがって、本発明の段板を使用した階段では、階段下に水が落下するのを抑制できる。また、水の落下抑制に突起物を必要としないため、段板の外周端縁部に衝突した際のダメージを抑えることができる。
さらに、段板の踏板部が排水勾配を有するものでは、踏板部の上面の水は、排水勾配により垂下フランジ部を有した第1の長辺方向に排水され、垂下フランジ部を伝って水切部から落下する。これにより、排水をより円滑に行うことができる。
また、踏板部の外周端縁部は、平坦形状に形成したものでは、踏板部の外周端縁部に手を突くなどした際のダメージを一層抑えることができる。
【0012】
また、本発明の階段は、上段側の段板の水切部から落下する水を、下段側の段板の水受け溝で受け止めることができ、水が階段下に落下するのを抑制できる。
さらに、上段側の段板と、下段側の段板との間が開放されている階段では、開放感に富意匠性に優れる。
加えて、段板接合金具により手前側よりも奥側の支持位置が高く設定されて、段板の少なくとも手前側ほど低くなる排水勾配が与えられた階段では、排水を円滑に行うことができる。
そして、このような階段を備えた建物では、排水を円滑に行うことができる階段を備えた建物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
まず、実施の形態1の階段Aの構成を説明する。
図1は、実施の形態1の階段Aを示す斜視図である。
実施の形態1の階段Aは、建物の外階段として設けられたもので、
図1に示すように、左右一対のささら桁10,10と、ささら桁10,10の上に架け渡される複数段の段板20と、を備える。
【0015】
ささら桁10は、段板20を下方から支えるもので、金属製板材により形成され、本実施の形態1では、
図2に示すように、略コの字断面形状に形成されている。また、ささら桁10の上板11には、
図1に示すように、所定の間隔で、一対のボルト穴が開口11a,11aされている。
【0016】
なお、ささら桁10の断面形状は、コの字断面形状に限らず、L字状断面あるいは、四角筒状など他の形状に形成してもよい。また、各図において、矢印UPが上方を示し、矢印DNが下方を示し、矢印Lが左方向を示し、矢印Rが右方向を示し、矢印FRが階段Aの手前方向を示し、矢印RRが奥方向を示す。
【0017】
段板20は、ささら桁10,10に、段板接合金具30および段板受金具40を介して固定されている(
図3参照)。
段板20は、例えばプラスチック再生複合材によりハニカム構造などの強度を有した構造体により形成され、平面視長方形の板状で水平方向に延在された踏板部21と、この踏板部21の手前側の段鼻部分(第1の長辺)から垂下された垂下フランジ部22とによりL字断面形状に形成されている。
【0018】
踏板部21は、踏板部21の上面は、平滑面に滑り止め用の細かな溝が形成されて滑り止め部21aが設けられている。この滑り止め部21aの溝部分は全体で連続し、雨水は、この溝部分を後述する排水勾配WSL,WSFRの方向に伝って流れるように形成されている。このように、踏板部21は、滑り止め部21aとして溝は形成されているものの、外周端縁部21bは、平坦に形成されている。
なお、段板20の排水勾配WSL,WSFRの詳細については、後述する。
【0019】
段板接合金具30は、
図2、
図3に示すように、下板31、側板32、上板33により、上下方向の縦断面が略Z形状に形成されている。そして、下板31が、ささら桁10の上板11にボルト51、ナット52を締結して固定されている。また、上板33の下方からタッピンネジ53を、段板受金具40を貫通して段板20に締結し、段板20を段板接合金具30に固定している。
【0020】
段板受金具40は、左右のささら桁10,10に固定された左右一対の段板接合金具30,30に、左右方向に架け渡され、段板20への入力荷重を受け止める。この段板受金具40は、金属製の薄板により形成され、ベース板部41と踏み抜け防止部42と奥側フランジ部43とにより、略逆U字断面形状に形成されている。
【0021】
ベース板部41は、略長方形の平面形状に形成され、その全面が、段板20の踏板部21の裏面に接着剤により接着される。
踏み抜け防止部42は、ベース板部41の段鼻側の端部から下方に突出され、その下端部は、昇降時に万一、足先が当たった際に引っ掛かることの無いよう踏み面の奥方向に折曲されている。
【0022】
奥側フランジ部43は、ベース板部41の奥側の端部から下方に突出され、踏み抜け防止部42の上下方向寸法よりも短い寸法に形成されている。なお、段板接合金具30の上板33は、踏み抜け防止部42と奥側フランジ部43との間に収まる寸法に形成されている。
【0023】
次に、段板20の雨水などの排水構造について説明する。
図1に示すように、段板20の垂下フランジ部22の下端面は、手前方向(矢印FR方向)側ほど低くなるよう傾斜され、手前側端部に、断面が下方に山形で鋭角の水切部22aが形成されている。また、踏板部21の上面の奥側(矢印RR側であって第2の長辺側)の端部には、左右方向の全長に亘って水受け溝21cが形成されている。この水受け溝21cは、滑り止め部21aに形成した溝部分と同じ深さ形成されている。
【0024】
さらに、段板20は、下段側の踏板部21の水受け溝21cと、上段側の段板20の垂下フランジ部22の水切部22aの手前側端部とが、同一鉛直線上に配置されている。したがって、垂下フランジ部22の下端面の先端の水切部22aにより水切りされて落下する水は、その下段の段板20の水受け溝21cで受け止められる。
【0025】
次に、段板20の排水勾配について説明する。
踏板部21は、
図4Aに示すように、水平方向で左右の一方である左側の端部が右側の端部よりも低くなるように角度θLの排水勾配WSLが設定されている。この角度θLは、僅かであり、例えば、θL=1度程度で、人が傾斜を感じることが無い角度としている。
【0026】
さらに、踏板部21は、手前側と奥側とでは、手前側が低くなるように角度θFRの排水勾配WSFRが形成されている。この排水勾配WSFRの角度θFRも、θFR=1度程度で、人が傾斜を感じることが無い角度としている。なお、図では角度θL、θFR共に、視覚的に認識できるように、強調して表現している。
【0027】
上述した排水勾配WSLは、踏板部21の上面自体に傾斜を与えた形状に形成してもよいが、段板接合金具30の上板33と踏板部21との間にスペーサなどを介在させて、段板20自体を、僅かに傾かせて設置してもよい。本実施の形態1では、後者のように、段板20自体を傾斜させたものとする。
【0028】
(実施の形態1の作用)
実施の形態1の階段Aの作用として、踏板部21に雨水や掃除の際の水などにより濡れた場合の雨水の流れを説明する。
【0029】
上段の段板20の踏板部21の上の水は、滑り止め部21aの溝を伝い、左右方向の排水勾配WSLに沿って、左方向に流れるとともに、手前方向の排水勾配WSFRに沿って手前方向に流れる。
これにより、踏板部21の手前側において左側寄りに集まり、さらに、踏板部21の手前側端部の垂下フランジ部22に沿って下降し、水切部22aにより水切りされて、下段の段板20の水受け溝21cに落下する。
【0030】
この下段の段板20では、水受け溝21cに落下した水および踏板部21上の水が、滑り止め部21aの溝を伝って、上記と同様に、排水勾配WSL、WSFRに沿って、手前側に集まり、水切部22aから下段の段板20に落下する。これを順次繰り返し、最下段の段板20から、床などに落下する。
【0031】
以上のように、本実施の形態1の階段Aは、上下の段板20,20の間が開放され、階段下空間が明るく、意匠性に富む。また、段板20,20の間には、段板受金具40の踏み抜け防止部42を設けたため、開放感は保ちつつ、階段下から上方向の目線は遮ることができる。
【0032】
さらに、段板20の踏板部21は、全体に平面状に形成し、その外周端縁部21bには、上方や外方に突出した突起部を有しない平坦な形状に形成している。このため、バランスを崩すなどして、踏板部21の外周端縁部21bに手を掛けた場合などでも、衝撃を与えることがない。
【0033】
(実施の形態1の効果)
以下に、実施の形態1の段板20および階段Aの効果を列挙する。
1)実施の形態1の階段Aは、
略水平に延在される平面視略長方形板状の踏板部21を備え、踏板部21の手前側端部(第1の長辺)の縁部から垂下された垂下フランジ部22を備えるとともに、垂下フランジ部22の下端部に、下方に山形状の水切部22aを備え踏板部21の上面の奥側端縁部(第2の長辺の端部)に沿って、水受け溝21cが形成されている段板20により形成された階段であって、
左右一対のささら桁10,10に設けられた段板接合金具30,30に、板状の段板受金具40が架け渡され、
段板受金具40に段板20が、垂下フランジ部22側を階段手前に配置して支持され、かつ、上段側の段板20の水切部22aと、下段側の段板20の水受け溝21cと、が同一鉛直線上に配置されていることを特徴とする。
したがって、段板20の垂下フランジ部22の水切部22aから垂れ落ちる水は、その下段の段板20の水受け溝21cに受け止められ、階段下に落下するのが抑制される。
【0034】
2)実施の形態1の階段Aは、
上段側の段板20と、下段側の段板20との間が開放されていることを特徴とする。
したがって、開放感を有するとともに、階段下が明るく、意匠性に優れた階段Aを提供できる。
【0035】
3)実施の形態1の階段Aは、
段板20は、段板接合金具30により手前側よりも奥側の支持位置が高く設定され、少なくとも手前側ほど低くなる排水勾配WSFRが与えられていることを特徴とする。
したがって、段板20の踏板部21の上面の水は、排水勾配WSFRにより手前側に流れ、垂下フランジ部22の水切部22aから下段の段板20に落下する。これを順次繰り返すことにより、階段Aの水をスムーズに階段下へ排水することができる。
【0036】
なお、段板20の踏板部21の上面自体を、排水勾配を有した形状としても、同様の作用効果が得られる。
また、上記のように、段板20の支持位置の高さにより排水勾配を設定した場合、踏板部21を精度高く排水勾配を有した形状に形成する必要が無いため、製造がより容易となる。
【0037】
4)実施の形態1の段板20は、
略水平に延在される平面視略長方形板状の踏板部21を備え、上下に間隔を開けて並設して階段を形成する段板20であって、
踏板部21の第1の長辺(手前側)の縁部から垂下された垂下フランジ部22を備えるとともに、垂下フランジ部22の下端部に、下方に山形状の水切部22aを備え、
踏板部21の上面の第2の長辺(奥側)の端部に沿って、水受け溝21cが形成されていることを特徴とする。
したがって、この段板20を用いて、上記1)2)の効果を奏する階段Aを提供することができる。
【0038】
5)実施の形態1の段板20は、
踏板部21の外周端縁部21bは、平坦形状に形成されていることを特徴とする。
したがって、階段Aをオープン階段形式とした場合に、踏板部21の外周端縁部に手などを付いた場合にも、その際の衝撃を抑えることができる。
【0039】
6)実施の形態1の段板20は、
踏板部21の上面に、細かな溝を縦横に連続した滑り止め部21aを備えることを特徴とする。
したがって、踏板部21の上面が濡れた場合でも、水分は、滑り止め部21aの溝を通って排水勾配WSFR,WSLの方向に流れ、排水性に優れる。このため、溝により、滑り止め効果と、排水性向上効果とを得ることができる。
さらに、滑り止め部21aの溝が水受け溝21cに連通されていることを特徴とする。したがって、水受け溝21cで受け止められた水が、上記のように滑り止め部21aの溝を通って流れるため、排水性に優れる。
【0040】
7)実施の形態1の建物は、
上記階段Aを備えることを特徴とする。
したがって、上記1)〜3)の効果を有する階段Aを備える建物を提供することができる。
【0041】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0042】
例えば、実施の形態では、本発明を建物の外階段に適用した例を示したが、エントランスホールなど、建物内部の階段に適用することもできる。
さらに、実施の形態では、本発明を、段板と段板との間の蹴込部分が開放されたオープン階段に適用した例を示したが、これに限定されず、蹴込部分を閉塞した階段に適用することもできる。また、オープン階段に適用した場合でも、階段の一部の目線を遮りたい一部の箇所のみ蹴込部分を閉塞するようにしてもよい。
【0043】
また、実施の形態では、排水勾配は、左右方向の一方と手前側とが低くなるように二方向に形成した例を示したが、少なくとも垂下フランジ部側に排水が流れるように、手前側が低くなる排水勾配が形成されていればよい。
また、実施の形態では、踏板部の水受け溝は、第2の長辺(奥側)の端部に沿って左右方向に形成した例を示したが、これに連続して、踏板部の左右の一端、あるいは両端に、踏板部の手前側端部まで排水溝を連続して形成してもよい。この場合、排水溝は、左右方向の排水勾配の下流側に配置するのが好ましく、本実施の形態1のように、左側端部が低くなる排水勾配が設けられたものであれば、排水溝は踏板部の左側端部に形成するのが好ましい。また、排水勾配が、左右方向の中央が高く、左右両端部が低くなるような傾斜であれば、排水溝は、踏板部の左右両端部に形成するのが好ましい。
さらに、垂下フランジ部の水切部は、実施の形態では、手前方の端縁部を鋭角に形成した例を示したが、実施の形態とは逆に、奥側の端縁部が鋭角になる形状としたり、垂下フランジ部の中央が頂点の山形断面形状とすることもできる。