(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832073
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】全固体電池用正極活物質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20210215BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20210215BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20210215BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/45 Z
!H01M10/0562
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-64930(P2016-64930)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-182949(P2017-182949A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河野 羊一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信三
【審査官】
森 透
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−197462(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/035222(WO,A1)
【文献】
特表2006−523930(JP,A)
【文献】
特開2017−073367(JP,A)
【文献】
特開2014−093171(JP,A)
【文献】
特開2014−182885(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101659408(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 10/05−10/0587
C01B 25/42
C01M 24/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池用の正極活物質材料の製造方法であって、
化学式Li2MP2O7で表されるとともに、当該化学式中のMがCoとNiの一方あるいは双方を含む化合物からなる正極活物質の原材料を秤量して混合する混合ステップと、
前記混合ステップにより得た混合物を大気雰囲気中で仮焼成する一次焼成ステップと、
当該一次焼成ステップ後の前記混合物の粉体を当該一次焼成ステップよりも高い温度で大気雰囲気中で焼結させる二次焼成ステップと、
前記二次焼成ステップにより得た焼結体を粉砕する粉砕ステップと、
を含み、
前記二次焼成ステップでは、650℃以上680℃以下の温度で20時間以上30時間以下の時間で焼成すること、
を特徴とする全固体電池用正極活物質材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記粉砕ステップ、あるいは当該粉砕ステップによって得た粉砕物を解砕するステップを実行することで、1μm以上7μm以下の平均粒子径を有する正極活物質材料を得ることを特徴とする全固体電池用正極活物質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池に用いられる正極活物質材料の製造方法およびその製造方法で製造された正極活物質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、携帯情報端末、定置型蓄電設備などでは、高容量の二次電池が利用され、現在の二次電池の主流はリチウム二次電池である。リチウム二次電池用の正極活物質としては、LiCoO
2、LiMn
2O
4などが知られているが、これらの正極活物質は一つの遷移金属に対して一つのLiしか関与しないため、より高容量のリチウム二次電池を達成するためには、一つの遷移金属に対して複数のLiが関与する、所謂「多電子反応」を示す正極活物質を含む正極層材料を開発することが必要となる。そして多電子反応を示す正極活物質では、複数のLiがレドックス反応に寄与することから、より高電位で動作し、高容量とともに高いエネルギー密度も得られる。ところが一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いているため、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められている。そして多電子反応を示す正極活物質は、高電位で動作することから有機電解液を用いた従来のリチウム二次電池に用いることが難しい。
【0003】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料であり、従来のリチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。そして全固体電池は層状の正極(正極層)と層状の負極(負極層)との間に層状の固体電解質(電解質層)が狭持されてなる一体的な焼結体(以下、積層電極体とも言う)に集電体を形成した構造を有している。
【0004】
上述した「多電子反応」が期待できる全固体電池用の正極活物質としては、例えば、Li
2MP
2O
7の化学式(Mは遷移金属)で表される化合物があり、以下の非特許文献1や2にはMをFeとしたLi
2FeP
2O
7(ピロリン酸鉄リチウム)の特性などについて記載されている。また上記Li
2MP
2O
7において、遷移金属MとしてCoとNiの一方あるいは双方を含む化合物は、化学式の上では一つのMに対して2個のLiがレドックス反応に寄与することが可能であり、極めて高い容量とエネルギー密度を有した正極活物質として期待されている。
【0005】
なお全固体電池の本体となる上記積層電極体の製造方法としては、周知のグリーンシートを用いた方法がある。概略的には、正極活物質と固体電解質を含むスラリー状の正極層材料、負極活物質と固体電解質を含むスラリー状の負極層材料、および固体電解質を含むスラリー状の固体電解質層材料をそれぞれシート状(グリーンシート)に成形するとともに、固体電解質層材料のグリーンシートを正極層材料と負極層材料のグリーンシートで挟持した積層体を焼成して焼結体にすることで作製される。なお各層のグリーンシートを作製する方法としては、周知のドクターブレード法がある。ドクターブレード法では、無機酸化物などのセラミックス粉体にバインダ(ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリフッ化ビニリレン(PVDF)、アクリル、エチルメチルセルロースなど)および溶剤(無水アルコールなど)を混合して得たスラリーを塗布工程あるいは印刷工程により薄板状に成形してグリーンシートを作製する。そしてスラリーに含ませるセラミック粉体として正極活物質、固体電解質、および負極活物質のそれぞれの粉体を用いる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shin-ichi Nishimura,Megumi Nakamura,Ryuichi Natsui,and AtsuoYamada、「New Lithium Iron Pyrophosphate as 3.5V Class Cathode Material for Lithium Ion Battery」、J.Am.Chem.Soc.、2010,132(39),pp13596-13597
【非特許文献2】Hui Zhou,Shailesh Upreti,Natasha A.Chernova,Geoffroy Hautier,Gerbrand Ceder,and M. Stanley Whittingham、「Iron and Manganese Pyrophosphates as Cathodes for Lithium-Ion Batteries」、Chem. Mater.、2011,23(2),pp293-300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように全固体電池の製造方法の主体は、グリーシートからなる積層体を焼結させて積層電極体を作製することにあるが、上記化学式Li
2MP
2O
7で表され、遷移金属MとしてCoとNiの一方あるいは双方を含む化合物は、理論上では高容量、高エネルギー密度が得られる正極活物質として有望であるものの、現状では、その化合物をグリーンシート法によって製造される全固体電池の正極活物質として実際に使用するための検討がほとんどなされていない。すなわちグリーンシート法によって全固体電池を製造する過程で、正極活物質からなる焼結体を粉砕してセラミック粉体の状態にするための検討や、そのセラミック粉体からなる正極活物質(以下、正極活物質材料とも言う)と粉体状の固体電解質とを含んだグリーンを焼成によって積層電極体における正極層として確実に焼結させるための検討などがなされていない。
【0008】
そこで本発明は、遷移金属MとしてCoとNiの一方あるいは双方を含む含んだLi
2MP
2O
7で表される化合物をグリーンシート法によって製造される全固体電池の正極活物質として実際に使用できるようにするための全固体電池用正極活物質材料の製造方法を提供することを目的としている。またその製造方法によって作製された正極活物質材料を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、全固体電池用の正極活物質材料の製造方法であって、
化学式Li
2MP
2O
7で表されるとともに、当該化学式中のMがCoとNiの一方あるいは双方を含む化合物からなる正極活物質の原材料を秤量して混合する混合ステップと、
前記混合ステップにより得た混合物を大気雰囲気中で仮焼成する一次焼成ステップと、
当該一次焼成ステップ後の前記混合物の粉体を当該一次焼成ステップよりも高い温度で大気雰囲気中で焼結させる二次焼成ステップと、
前記二次焼成ステップにより得た焼結体を粉砕する粉砕ステップと、
を含み、
前記二次焼成ステップでは、650℃以上680℃以下の温度で20時間以上30時間以下の時間で焼成すること、
を特徴とする全固体電池用正極活物質材料の製造方法としている。
【0010】
また前記粉砕ステップ、あるいは当該粉砕ステップによって得た粉砕物を解砕するステップを実行することで、1μm以上7μm以下の平均粒子径を有する正極活物質材料を得ることを特徴とする全固体電池用正極活物質材料の製造方法とすれば好ま
しい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の全固体電池用正極活物質の製造方法によれば、Li
2MP
2O
7で表される化合物(MはCoとNiの一方あるいは双方を含む遷移金属)を全固体電池の正極活物質として実用化させることができる。そして当該製造方法によって製造される正極活物質材料は、多電子反応を示す正極活物質を含んだセラミック粉体であり、正極活物質材料を含む正極層を備えた全固体電池をグリーンシート法によって作製することができる。そのため大容量でエネルギー密度が高い全固体電池を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係る全固体電池用正極活物質材料の製造方法の流れを示す図である。
【
図2】上記正極活物質材料の温度と熱収縮率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
===本発明に想到する過程===
周知のごとく、焼結体は多結晶材料であり、全固体電池の正極層や負極層(以下、総称して電極層とも言う)ではセラミック粉体の状態にある正極活物質材料や負極活物質材料(以下、総称して電極活物質材料とも言う)では、粉体を構成する個々の粒子が結晶化している。そして結晶化した際には個々の粒子が同じ結晶相であることが必要である。すなわち異相が混在する電極活物質のグリーンシートと固体電解質層のグリーンシートから構成される積層体を焼成して積層電極体として焼結させると、その積層電極体の電極層内には異相界面が存在することになる。そして異相界面では歪みや欠陥が発生し易く、焼結性が悪化する。そこで本発明者は、上述したLi
2MP
2O
7で表される化合物(Mは少なくともCoとNiの一方を含む)を全固体電池の正極活物質として使用するために、グリーンシートに含ませるセラミック粉体の状態にある正極活物質材料の個々の粒子を同相にするための検討を行った。またその正極活物質材料を用いた全固体電池の容量をより高めるための検討も行った。そして本発明はこれらの検討事項に基づいて鋭意研究を重ねた結果なされたものである。
【0014】
===正極活物質材料の製造方法===
本発明の実施例に係る全固体電池用正極活物質材料の製造方法として、ピロリン酸コバルトリチウム(Li
2CoP
2O
7、以下LCPOとも言う)を正極活物質とした正極活物質材料の製造手順を挙げる。
図1に当該製造手順の流れを示した。まずLCPOの原料として(NH
4)
2HPO
4、Li
2CO
3、CoC
2O
4・2H
2Oを使用し、これらを化学量論比で秤量し(s1)、その原料を磁性乳鉢で混合した(s2)。そしてこのこれら原料の混合物をアルミナルツボに入れ、大気雰囲中、所定の温度で2時間加熱して仮焼き(以下、一次焼成とも言う)を行った(s3)。つぎに一次焼成後の上記混合物をメノウ乳鉢で粉砕して仮焼き粉体とし(s4)、その仮焼き粉体をアルミナルツボに入れて大気雰囲気中で本焼成(以下、二次焼成とも言う)して焼結体を得た(s5)。そしてその焼結体をメノウ乳鉢で粉砕して得たLCPOからなるセラミック粉体を正極活物質材料とする(s6)。
【0015】
このように上記の正極活物質材料の製造手順は、原料が異なるだけで他の正極活物質材料とほぼ同じである。しかし本実施例の製造方法では、二次焼成工程における温度と時間を最適化することで、作製された正極活物質材料中の粒子が全て同じ結晶相となるように制御している。しかも製造コストに鑑み、二次焼成を窒素雰囲気などではなく、大気雰囲気中で行うこととしている。すなわち二次焼成に際して焼成炉内を排気したり、炉内に不活性ガスを導入したりする必要がない。あるいは排気や不活性ガスの導入に必要な付帯装置がない安価な焼成炉を使用することが可能となる。なお上記製造手順における一次焼成工程(s3)は、周知のごとく、二次焼成工程(s5)よりも低い温度で原料を焼成することで、原料に含まれる炭酸や硝酸を離脱させて、原料を酸化させることである。すなわち一次焼成は大気雰囲気中であることが前提となる。したがって本実施例の製造方法によれば、一次焼成と二次焼成の双方を大気雰囲気中で行うことができる。
【0016】
<二次焼成条件の最適化>
上述したように、本実施例の製造方法では、大気雰囲気中で二次焼成工程を行うこととし、その二次焼成工程における温度と時間を最適化することで正極活物質材料中の粒子が全て同じ結晶相となるように制御している。そこでこの二次焼成工程における条件(温度、時間)を最適化するために、
図1に示した製造手順において、温度と時間を変えた様々な条件で二次焼成工程を行った。そしてその二次焼成後の焼結体に対してX線回折法を用いた結晶構造解析を行った。
【0017】
以下の表1に二次焼成工程の条件と当該結晶構造解析の結果との関係を示した。
【0018】
【表1】
表1に示した結果から、650℃以上680℃以下の温度で20時間以上30時間以下の時間で焼成することで結晶構造に異相がない焼結体が得られることがわかった。したがって本発明の実施例では、この二次焼成条件によって得られた焼結体を粉砕したものを正極活物質材料とすることになる。なお650℃未満の温度でも焼成時間を30時間よりも長くすることで同相の結晶構造が得られる可能性もあるが、闇雲に焼成時間を長くしても製造コストを増大させるだけである。もちろん焼成時間が長ければ焼成後に炉内を冷却させる時間も長くなり製造高ストがさらに嵩むことになる。そこで本発明の実施例では、30時間以下の時間で二次焼成した際に異相がない結晶構造が得られることを条件として規定した。
【0019】
===正極活物質材料の収縮率について===
本発明の実施例に係る製造方法で作製された正極活物質材料を用いて全固体電池を製造するためには、この正極活物質材料と粉体状の固体電解質とを含むスラリー状の正極層材料を用いてグリーンシートにすることになる。すなわち全固体電池における正極層内には正極活物質の他に電池容量に寄与しない固体電解質を含ませる必要がある。したがってより高容量の全固体電池を得るためには、正極層材料にイオン導電性が確保できる程度の固体電解質と、より多くの正極活物質とを含ませる必要がある。しかし従来の全固体電池では、正極層材料中に正極活物質材料と固体電解質とは質量比でほぼ同じ割合だけ含まれており、バインダや溶剤などを含めれば正極層材料内の正極活物質材料は50wt%未満である。
【0020】
そこで本発明者は、LCPOからなる粉体状の電極活物質材料を得るための最適な二次焼成条件を検討するのに並行して、より多くの正極活物質材料を正極層材料中に含ませることについても検討し、その検討過程でLCPOからなる粉体状の電極活物質材料は、スラリー状の正極層材料が正極層として焼結する際に収縮し、その収縮率が電極活物質材料の粒子径に応じて変化することに着目した。すなわち上記製造工程において、粉砕工程後の正極物質よりも大きな収縮率が得られれば、その収縮を見込んでより多くの正極活物質材料を正極層材料中に含ませることができると考えた。そして平均粒子径が異なる電極活物質材料を作製するとともに、焼結させた際の熱収縮率の差を調べた。平均粒子径が異なる電極活物質材料については、上述した製造工程によって製造した平均粒子径7μmの電極活物質材料をボールミルを用いてアルコール媒体中で所定時間解砕することで平均粒子径が1μm、2μm、3μm、5μmに調整された電極活物質材料を得た。したがって、解砕前の平均粒子径7μmの電極活物質材料と併せて、平均粒子径が異なる5種類の電極活物質材料を得た。
【0021】
以下の表2に解砕時間と電極活物質材料の平均粒子径D
50との関係を示した。
【0022】
【表2】
表2に示したように、解砕時間が長いほど平均粒子径D
50が小さくなる。そして12時間の解砕時間で平均粒子径1μmの電極活物質が得られた。もちろん、さらに長い時間を掛けて解砕すれば平均粒子径が1μm未満の微粉末からなる電極活物質材料も得られる。しかし解砕に長大な時間を掛ければ製造コストが増大する。また微粉末は僅かな気流によって容易に飛沫するので、取り扱いが難しいという問題もある。
【0023】
つぎに平均粒子径D
50が異なる5種類の正極活物質材料をそれぞれ50mg取り出すとともに、その取り出した正極活物質材料に所定の圧力(例えば、6t/cm
2)を掛けてペレットに成形した。そして正極活物質材料の平均粒子径D
50が異なる5種類のペレットをサンプルとして、各サンプルを焼成炉内に置いて熱収縮率を測定した。ここでは焼成炉内に100ml/minの流速で大気を導入しながら当該炉内を30℃から700℃まで100℃/hの速度で昇温させていったときの各サンプルの熱収縮率を熱機械分析装置(TMA)を用いて測定した。
図2に各サンプルの熱収縮率の変化を示した。この
図2では焼成炉内の昇温開始時点を起点とした経過時間(h)と、焼成炉内の温度(℃)および各サンプルのTMAの測定値(%)との関係が示されている。なおTMA測定値は、サンプルの体積変化率(%)を示しており、体積が膨張する場合はプラス「+」の数値となり、熱膨張率を示していることになる。収縮する場合はマイナス「−」の数値となり、その絶対値が熱収縮率となる。そして図示したように、各サンプルとも焼成炉内の温度が上昇するのに従って収縮し、また平均粒子径D
50が小さなサンプルほど大きく収縮していることが確認できた。
【0024】
なお当然のことながら、積層電極体として焼結させる際にも、正極層内の電極活物質材料中に異相の結晶を混在させないようにする必要がある。すなわち上記製造工程における二次焼成の条件の範囲内で積層電極体を焼結させる必要がある。そして
図2に示した平均粒子径D
50が異なる電極活物質材料を含む各サンプルの体積変化率の時間変化と炉内温度の時間変化とから、各サンプルは結晶相が同相となる650℃〜680℃の温度範囲内で熱収縮していることが確認できる。したがって電極活物質材料の平均粒子径D
50を1μm以上7μm以下に調整すれば、その電極活物質材料を用いることで全固体電池の容量を向上させることが期待できる。
【0025】
===その他の実施例===
本発明の実施例に係る全固体電池用正極活物質材料の製造方法では、LCPOからなる正極活物質材料を作製していたが、CoとNiとはその物性が近似しており、上記化学式Li
2MP
2O
7において、MをNiとした化合物や、MとしてCoとNiの双方を含む化合物であっても3個のLiが移動する多電子反応を示すため、その化合物を電極活物質として使用してもよい。
【0026】
正極活物質自体をセラミック粉体の状態にしていたが、正極活物質の電子伝導性を向上させるためにセラミック粉体の粒子表面に、ジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、炭素(C)などの導電剤をコーティングすることとしてもよい。導電剤を正極活物質材料にコーティングするためには、例えば、
図1に示した製造手順において、一次焼成工程(s3)によって得られた粉体に導電剤の粉体を混合し、その混合物を二次焼成すればよい。
【0027】
なおLi
2MP
2O
7は、リチウム金属に対して5V程度の高い電位を示す。したがって、この対リチウム金属電位では、現在の非水電解液電池で使用されている有機電解液の多くが酸化分解してしまう。そのため現時点では、上記実施例の方法で作製された正極活物質材料を有機電解液を用いたリチウムイオン2次電池に使用することができない。しかし、今後、耐酸化性を有する電解液が生産された場合には、この当該材料を有機電解液を用いた電池にも使用できる。すなわち、本発明の適用範囲は、全固体電池のみに限定されず、電解液を用いたリチウム二次電池にも及んでいる。
【符号の説明】
【0028】
s2 混合工程、s3 一次焼成工程、s5 二次焼成工程