(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記NaCl型構造を有する材料が、MgO、TiO、NiO、TiN、TaN、NbN、HfN、ZrN、VN、CrN、TiC、TaC、NbC、HfCまたはZrCであることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
前記第1のヒートシンク層及び前記第2のヒートシンク層が、Ag、Au、Al、Cu、Rh、MoまたはWを主成分とすることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
前記第1のヒートシンク層及び前記第2のヒートシンク層の主成分の熱伝導率が、100W/m・K以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置(HDD)の記録容量を更に増大させるため、磁気記録媒体の高密度化の開発が行われている。このため、磁性層を構成する磁性粒子の粒径の微細化、熱安定特性の向上、記録特性の向上を同時に成立させることが困難となってきている。これは、トリレンマと呼ばれているが、次世代のハードディスク装置として期待される熱アシスト磁気記録方式は、このトリレンマを解決する方法として盛んに研究開発が行われている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式は、磁気ヘッドに搭載されたレーザー光発生部から発生したレーザー光によって磁気記録媒体に近接場光を照射し、磁気記録媒体の表面を局所的に加熱することにより、磁気記録媒体の保磁力を低下させて書き込みを行う記録方式である。熱アシスト磁気記録媒体は、近接場光によって加熱されるため、加熱温度や熱の広がりを制御する設計が施される。
【0004】
具体例としては、熱勾配や熱散逸性を高めるために高熱伝導率材料からなるヒートシンク層を設ける、磁性層を効果的に加熱するために磁性層の下に熱バリア層を設ける、磁気記録媒体からの反射を抑制するための反射制御層を形成することなどが挙げられる。
【0005】
このように熱アシスト磁気記録媒体では、熱制御の設計が非常に重要なため、様々な研究開発がなされ、報告されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、基板と磁気記録層の間に、CuZrまたはAgPdを含有するヒートシンク層が設けられている磁気記録媒体が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、熱アシスト磁気記録媒体の温度制御層として、膜厚を貫通して延在する低熱伝導率材料の領域と、低熱伝導率材料の領域を分離する高熱伝導率材料の領域としての、連続するマトリックスとを含む薄膜を用いることが開示されている。このとき、高熱伝導率材料として、Cu、Au、Agなどが例示されている。また、低熱伝導率材料として、SiO
2、ZrO
2などが例示されている。
【0008】
また、特許文献3には、基板と磁気記録層との間に配置されるヒートシンク層と、ヒートシンク層と磁気記録層との間に配置されるMgO−Ti(ON)層とを備える、スタックが開示されている。
【0009】
一方、特許文献4には、Moを主成分とする結晶質下地層と磁性層との間に、NaCl型構造を有するバリア層が形成されている磁気記録媒体が開示されている。このとき、結晶質下地層は、Si、Cから選択される1種以上の元素を1mol%〜20mol%の範囲で、または、酸化物を1vol%〜50vol%の範囲で含有する。
【0010】
さらに、特許文献5には、Au合金を含むプラズモン下層の上の磁気記録層を含む磁気媒体が開示されている。このとき、Au合金は、Auに実質的に混合しない1つ以上の合金構成要素を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す例のみに限定されるものではなく、特に制限のない限り、数量、構成、位置、材料などを変更してもよい。
【0021】
[磁気記録媒体]
図1に、本実施形態の磁気記録媒体の一例として、熱アシスト磁気記録媒体401を示す。
【0022】
熱アシスト磁気記録媒体401は、基板101上に、密着層102、配向制御層103が形成されている。また、熱アシスト磁気記録媒体401は、配向制御層103上に、第1のヒートシンク層104、第1のバリア層105、第2のヒートシンク層106、第2のバリア層107が順次積層されている。ここで、第1のバリア層は、酸化物、窒化物または炭化物を主成分とする。さらに、熱アシスト磁気記録媒体401は、第2のバリア層107上に、L1
0構造を有する合金を主成分とする磁性層108、保護層109、潤滑剤層110が形成されている。
【0023】
このような構造を用いることで、シグナルノイズ比(SNR)を維持しつつ、磁気ヘッドから照射されるレーザーパワー(LDI)を低減することが可能となり、その結果、磁気ヘッドの寿命を延ばし、高記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0024】
このような効果が得られるのは、酸化物、窒化物または炭化物を主成分とする第1のバリア層105が、第1のバリア層105よりも熱伝導率が高い第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106で挟まれている構造によって、磁気ヘッドから照射されるレーザー光の熱が効率的に使用できるようになるためであると考えられる。このとき、薄い第1のバリア層105が、厚い第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106で挟まれていることが好ましい。これにより、ヒートシンク層の効果を損なうことを抑制しつつ、第1のバリア層105と、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106との間に、熱伝導率の差が大きい界面を形成することができる。この界面によって、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106の内部により大きい熱勾配が生じ、この熱勾配によって、熱アシスト磁気記録媒体401の記録面に対して垂直な方向への熱の移動性がより高まると考えられる。
【0025】
第1のヒートシンク層104を構成する材料と、第2のヒートシンク層106を構成する材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106は、磁性層108に溜まる熱を、熱アシスト磁気記録媒体401の記録面に対して垂直な方向に拡散させて、熱アシスト磁気記録媒体401の記録面に対して水平な方向へ広がるのを抑制することで遷移幅を狭くすると共に、記録後に磁性層108に溜まった熱を速やかに散逸させるためのものである。このため、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106を構成する材料として、熱伝導率が高い材料を用いることが好ましい。
【0027】
第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106は、Ag、Au、Al、Cu、Rh、MoまたはWを主成分とするのが好ましい。
【0028】
以下、第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106の主成分について詳細に説明する。
【0029】
本願の発明者は、先ず、熱伝導率が174W/m・KであるWを第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106に用いて、シグナルノイズ比(SNR)を維持しつつ、磁気ヘッドから照射されるレーザーパワー(LDI)を低減することが可能な、基準となる熱アシスト磁気記録媒体401を設計した。
【0030】
具体的には、Wからなる厚さ25nm(設計基準)の第1のヒートシンク層104上に、MgOからなる厚さ2.5nmの第1のバリア層105、Wからなる厚さ5nmの第2のヒートシンク層106、MgOからなる厚さ4nmの第2のバリア層107、L1
0構造を有する合金を主成分とする磁性層108を積層した。
【0031】
この基準となる熱アシスト磁気記録媒体401の積層構造から、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106の熱勾配を算出した。また、L1
0構造を有する合金を主成分とする磁性層108の配向の制御に適した面心立方(FCC)構造または体心立方(BCC)構造を有する材料及びその熱伝導率から、第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106に使用することが可能な材料を検討した。これにより、第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106に適した材料として、Ag、Au、Al、Cu、Rh、Moを選定した。
【0032】
表1に、Ag、Au、Al、Cu、Rh、Mo、Wの熱伝導率と、基準となる熱アシスト磁気記録媒体401と熱勾配が近似するように設計された第1のヒートシンク層104の厚さを示す。
【0033】
【表1】
なお、Ag、Au、Al、Cu、Rh、Mo、Wの熱伝導率は、金属データブック 改訂4版(日本金属学会編)から参照した。
【0034】
第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106は、BCC構造を有し、(100)面配向している結晶質のMo、Wを主成分とするのが特に好ましい。これにより、磁性層108の(100)配向性を高めることができる。これは、第1のバリア層105、第2のバリア層107との間で配向性を大きく崩すことなく、第1のヒートシンク層104、第2のヒートシンク層106を形成することができるためである。また、熱アシスト磁気記録媒体401は、製造時に高温で加熱するが、W、Moは、融点が高い金属であるため、加熱による影響が小さい。
【0035】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、主成分とは、含有量が50at%以上、好ましくは60at%以上である元素または含有量が50mol%以上、好ましくは60mol%以上である化合物を指す。ここで、含有量が50at%以上である元素または含有量が50mol%以上である化合物が存在しない場合、主成分は、最も含有量の多い材料を指す。
【0036】
また、第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106は、熱伝導率を著しく低下させない範囲で、B
2O
3、GeO
2、MgO、SiO
2、TiO、TiO
2から選択される少なくとも1種の酸化物を含有してもよい。これにより、熱アシスト磁気記録媒体401の記録面に対して垂直な方向に熱を拡散させて、熱アシスト磁気記録媒体401の記録面に対して水平な方向への熱の広がりを抑制する効果を高めることができる。
【0037】
次に、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106の厚さについて説明する。
【0038】
第1のバリア層105は、磁気ヘッドから供給される熱を拡散させない障壁(バリア)としての効果を有しているため、第1のバリア層105の効果を磁性層108で効率的に用いるためには、第1のバリア層105は、磁性層108に近い方がよい。このため、第2のヒートシンク層106を第1のヒートシンク層104よりも薄くするのが好ましい。
【0039】
第2のヒートシンク層106の厚さは、0.5nm以上25nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106の熱伝導率は大きい方が好ましい。そのため、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106の主成分の熱伝導率を、好ましくは、100W/m・K以上とし、より好ましくは、120W/m・K以上とする。このような構成を採用することで、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106における、熱アシスト磁気記録媒体401の記録面に対して垂直な方向への熱伝導性が高まる。その結果、熱アシスト磁気記録媒体401の記録面に対して垂直な方向への熱勾配が急峻となり、熱アシスト磁気記録媒体401のSNRが高まる。
【0041】
第1のバリア層105の主成分は、NaCl型構造を有することが好ましい。
【0042】
NaCl型構造を有する酸化物としては、MgO、TiO、NiOなどが挙げられる。
【0043】
NaCl型構造を有する窒化物としては、TiN、TaN、NbN、HfN、ZrN、VN、CrNなどが挙げられる。
【0044】
NaCl型構造を有する炭化物としては、TiC、TaC、NbC、HfC、ZrCなどが挙げられる。
【0045】
また、第1のバリア層105の主成分は、酸素、窒素または炭素と、金属の原子数の比が1:1であることが好ましい。ここで、第1のバリア層105は、原子数の比が1:1ではない酸化物、窒化物、炭化物が混在していても良い。
【0046】
第1のバリア層105の厚さは、1nm以上10nm以下であることが好ましく、2.5nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。第1のバリア層105の厚さが1nm以上であることにより、第1のバリア層105が熱を拡散させない効果が大きくなり、10nm以下であることにより、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106が熱を散逸させる効果が大きくなる。
【0047】
また、第1のバリア層105は、複数の層が積層されている構造であっても良い。
【0048】
複数の層を構成する材料は、結晶構造、格子ミスフィット等を勘案して、選択することができる。
【0049】
本実施形態においては、第1のバリア層105が、第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106に挟まれている構造となるため、これらの層間の格子整合性を考慮することが好ましい。すなわち、第1のバリア層105の主成分として、NaCl構造を有する材料を採用することで、より良好な配向性を維持することができ、磁性層108の配向性をより良好にすることが可能となる。
【0050】
第1のバリア層105は、第1のバリア層105の主成分の組成からなるスパッタリングターゲットを用いるDCスパッタ或いはRFスパッタにより、形成することができる。また、第1のバリア層105は、金属のスパッタリングターゲットに、酸素、窒素、炭化水素を導入する反応性スパッタによっても、形成することが可能である。このとき、第1のバリア層105は、最終的に目的の組成を有する薄膜となっていれば、成膜方法に関係なく、熱を拡散させない効果を得ることができる。
【0051】
第1のバリア層105の熱伝導率は、第1のヒートシンク層104、第2のヒートシンク層106の熱伝導率よりも小さくする必要がある。そのため、第1のバリア層105のる主成分の熱伝導率を、好ましくは、80W/m・K以下とし、より好ましくは、30W/m・K以下とする。
【0052】
本実施形態においては、第1のヒートシンク層104と第1のバリア層105、及び、第1のバリア層105と第2のヒートシンク層106は、接して設けられている。このような構成を採用することで、磁気ヘッドから照射されるレーザーパワーを低減させる効果と、シグナルノイズ比を向上させる効果をより高めることができる。
【0053】
本実施形態においては、基板101と、第1のヒートシンク層104との間に、配向制御層103が設けられている。
【0054】
配向制御層としては、BCC構造を有する、Cr層、あるいは、Crを主成分とするBCC構造の合金層、または、B2構造を有する合金層を用いるのが好ましい。
【0055】
Crを主成分とするBCC構造の合金としては、CrMn、CrMo、CrW、CrV、CrTi、CrRu等が挙げられる。このとき、Crを主成分とするBCC構造の合金に、B、Si、C等を添加することで、結晶粒子サイズ、分散度等を改善することもできる。
【0056】
B2構造を有する合金としては、RuAl、NiAl等が挙げられる。
【0057】
本実施形態では、第2のヒートシンク層106と、磁性層108との間に、第2のバリア層107が設けられている。
【0058】
第2のバリア層107としては、NaCl型構造を有する、MgO、TiO、NiO、TiN、TaN、HfN、NbN、TiCを主成分とするのが好ましい。
【0059】
第2のバリア層107は、磁気ヘッドから供給される熱を拡散させずに、効率的に磁性層108で使えるようにする熱バリアの役割を果たす。ここで、第2のバリア層107は、磁性層108よりも低い熱伝導率であることが重要であり、この界面が形成されることによって、熱の拡散が抑えられる。
【0060】
また、第2のバリア層107は、L1
0構造を有する磁性層108の配向を制御する機能も有する。そのため、第2のバリア層107の主成分として、NaCl型構造を有し、L1
0磁性層の格子定数とのミスフィットが比較的小さい材料を用いることが好ましい。この観点からは、第2のバリア層は、MgO、TiNを主成分とするのが特に好ましい。
【0061】
磁性層108は、L1
0型結晶構造を有する合金を主成分とする。
【0062】
一般に、高記録密度を達成するためには、磁性層は、粒界偏析材料で分離されている粒径数nmの磁性粒子で形成されていることが好ましい。
【0063】
しかしながら、磁性粒子の体積が小さくなり熱的に不安定になるため、本実施形態においては、磁性層108は、磁気異方性エネルギーの高いL1
0型結晶構造を有する合金が主成分として用いられる。
【0064】
磁性層108は、磁性粒子が磁気的に孤立していることが好ましい。このとき、磁性粒子の大きさや磁性粒子間の交換結合を制御するため、FePt合金、CoPt合金などのL1
0型結晶構造を有する合金に、粒界偏析材料が添加されている。これにより、グラニュラー構造の磁性層108となり、粒子間の交換結合を低減すると共に、磁性粒子を微細化することができ、熱アシスト磁気記録媒体401のSNRをより高めることができる。
【0065】
粒界偏析材料としては、SiO
2、TiO
2、Cr
2O
3、Al
2O
3、B
2O
3、Ta
2O
5、ZrO
2、Y
2O
3、CeO
2、Fe
3O
4、GeO
2、TiO、ZnO、BN、Cから選択される少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0066】
熱アシスト磁気記録媒体の表面には、カーボンからなる保護層109及び潤滑剤層110が設けられている。
【0067】
保護層109に、水素、窒素などを添加してもよい。
【0068】
潤滑剤層110としては、パーフルオロポリエーテルからなる液体状の潤滑剤層などを用いることができる。
【0069】
本実施形態では、熱アシスト磁気記録媒体401の書き込み特性を向上させるために、軟磁性下地層をさらに形成してもよい。
【0070】
軟磁性下地層は、非晶質合金でもよいし、微結晶合金や多結晶合金であってもよい。
【0071】
軟磁性下地層の構造は、Ruを介して反強磁性結合している積層構造であってもよいし、単層であってもよい。
【0072】
軟磁性下地層を構成する材料としては、CoFeB、CoFeZr、CoFeTa、CoFeTaZr、CoFeTaB、CoFeNi、CoNiTa、CoNiZr、CoZrB、CoTaZr、CoNbZr、FeAlSi、FeTaCなどを用いることができる。
【0073】
[磁気記録再生装置]
図2に、本実施形態の磁気記録再生装置の一例を示す。
【0074】
図2に示す磁気記録再生装置は、熱アシスト磁気記録媒体401と、媒体駆動部402と、磁気ヘッド403と、ヘッド駆動部404と、記録再生信号処理系405から概略構成される。
【0075】
ここで、媒体駆動部402は、熱アシスト磁気記録媒体401を回転させ、記録方向に駆動する。磁気ヘッド403は、熱アシスト磁気記録媒体401に対する記録動作と再生動作とを行う。ヘッド駆動部404は、磁気ヘッド403を熱アシスト磁気記録媒体401に対して相対移動させる。記録再生信号処理系405は、磁気ヘッド403への信号入力と磁気ヘッド403からの出力信号の再生とを行う。
【0076】
磁気ヘッド403は、
図3に示すように、記録ヘッド508と再生ヘッド511を備える。
【0077】
記録ヘッド508は、主磁極501と、補助磁極502と、磁界を発生させるためのコイル503と、レーザー光を発生させるためのレーザーダイオード(LD)504と、磁気記録媒体を加熱する近接場光を発生させるための近接場光発生素子506と、導波路507とを有している。ここで、導波路507は、LD504から発生したレーザー光505を磁気ヘッド403の先端部に設けられている近接場光発生素子506へと導く。
【0078】
再生ヘッド511は、一対のシールド509で挟み込まれているTMR素子等の再生素子510を備える。
【0079】
図2に示す磁気記録再生装置は、レーザーパワー(LDI)とシグナルノイズ比(SNR)のバランスが良好な熱アシスト磁気記録媒体401を備えているので、磁気ヘッド403の寿命が長く、高記録密度の磁気記録再生装置を提供することができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明の効果をより詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の磁気記録媒体を好適に説明するための代表例であり、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1−1)
以下に示す方法により、熱アシスト磁気記録媒体(
図1参照)を作製した。
【0082】
まず、外径2.5インチのガラス基板101上に、Cr−50at%Ti(Crの含有量50at%、Tiの含有量50at%)からなる厚さ50nmの密着層102を成膜した後、320℃まで加熱した。次に、密着層102上に、Crからなる厚さ20nmの配向制御層103、Wからなる厚さ30nmの第1のヒートシンク層104、NaCl構造を有するMgOからなる厚さ2.5nmの第1のバリア層105、Wからなる厚さ5nmの第2のヒートシンク層106を順次成膜した。さらに、第2のヒートシンク層106上に、MgOからなる厚さ4nmの第2のバリア層107を成膜した後、620℃まで加熱した。次に、第2のバリア層107上に、(Fe−50at%Pt)−10mol%SiO
2−8mol%BN(Feの含有量50at%、Ptの含有量50at%の合金の含有量82mol%、SiO
2の含有量10mol%、BNの含有量8mol%)からなる厚さ8nmの磁性層108を成膜した。さらに、磁性層108上に、ダイヤモンド状炭素(DLC;Diamond Like Carbon)からなる厚さ4.0nmの保護層109を成膜した後、パーフルオロポリエーテルからなる厚さ1.5nmの液体状の潤滑剤層110を塗布により形成した。
【0083】
以上の工程により、熱アシスト磁気記録媒体を得た。
【0084】
得られた熱アシスト磁気記録媒体のX線回折スペクトルを測定したところ、L1
0−FePt(001)及びL1
0−FePt(002)とFCC−FePt(200)の混合ピークが確認された。また、Crからなる配向制御層103は、(100)配向性を示し、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106の合算ピークも(100)配向性を示した。
【0085】
(実施例1−2〜1−13)
第1のバリア層105を構成する材料を表2に示す材料に置き換えた以外は、実施例1−1と同様にして、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0086】
このとき、第1のバリア層105を構成する材料として、MgO(実施例1−1)、MgO−46mol%TiO(MgOの含有量54mol%、TiOの含有量46mol%)(実施例1−2)、TaN(実施例1−3)、ZrN(実施例1−4)、TiN(実施例1−5)、NbN(実施例1−6)、HfN(実施例1−7)、ZrC(実施例1−8)、TaC(実施例1−9)、TiC(実施例1−10)、NbC(実施例1−11)、MgO−38mol%TiO−10mol%TiN(MgOの含有量52mol%、TiOの含有量38mol%、TiNの含有量10mol%)(実施例1−12)、MgO−38mol%TiO−10mol%TaN(実施例1−13)をそれぞれ用いた。
【0087】
第1のバリア層105を構成する材料は、実施例1−1、1−2では、酸化物、実施例1−3〜1−7では、窒化物、実施例1−8〜1−11では、炭化物であり、それぞれがNaCl型の結晶構造を有している。このため、第1のバリア層105は、BCC構造を有するWからなる第1のヒートシンク層104上にエピタキシャル成長することができる。また、Wからなる第2のヒートシンク層106は、バリア層105上にエピタキシャル成長することができる。
【0088】
(比較例1−1〜1−6)
第1のバリア層105を構成する材料を表2に示す材料に置き換えた以外は、実施例1−1と同様にして、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0089】
このとき、比較例1−1では、第1のバリア層105を設けず、比較例1−2〜1−6では、第1のバリア層105を構成する材料として金属を用いた。
【0090】
なお、ヒートシンク層の効果がほぼ同じになるように、第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106の厚さの和が35nmになるように、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0091】
次に、実施例1−1〜1−13及び比較例1−1〜1−6の熱アシスト磁気記録媒体について、以下に示す方法により、シグナルノイズ比(SNR)、レーザーパワー(LDI)及びクロストラック方向の熱勾配(CT−TG)を評価した。
【0092】
(SNR、LDI、CT−TG)
電磁変換特性であるSNRは、レーザースポット加熱機構を搭載した磁気ヘッドを用いて、スピンスタンドテスターにより測定した。このとき、再生信号波形の半値幅と定義した記録トラック幅(MWW)が70nmになるようにレーザーダイオードに投入する電流(レーザーパワー;LDI)を調整し、SNRとLDIを確認した。
【0093】
また、同一の装置を用いてTc(キュリー温度)=700KとしたときのCT−TGを算出した。
【0094】
表2に、実施例1−1〜1−13及び比較例1−1〜1−6の熱アシスト磁気記録媒体のSNR、LDI、CT−TGの評価結果を示す。
【0095】
なお、SNRについては、第1のバリア層105が設けられていない比較例1−1の熱アシスト磁気記録媒体のSNRを参照値(ref.)とし、参照値からの差分をΔSNRとした。
【0096】
また、LDIについては、第1のバリア層105が設けられていない比較例1−1の熱アシスト磁気記録媒体のLDIを参照値(ref.)として、参照値に対する参照値からの差分の割合をΔLDI/LDIとした。
【0097】
さらに、第1のバリア層105を構成する材料の熱伝導率を表2に示す。ここで、酸化物、窒化物及び炭化物の熱伝導率は、Springer Handbook of Condensed Matter and Materials Dataから参照し、金属の熱伝導率は、金属データブック 改訂4版(日本金属学会編)から参照した。
【0098】
【表2】
第1のバリア層105を構成する材料が酸化物、窒化物または炭化物である実施例1−1〜1−13の熱アシスト磁気記録媒体は、ΔSNRが誤差範囲であり、第1のバリア層105が設けられていない比較例1−1の熱アシスト磁気記録媒体とのSNRの違いが見られなかった。一方、実施例1−1〜1−13の熱アシスト磁気記録媒体のLDIは、比較例1−1の熱アシスト磁気記録媒体のLDIに対して、3.5%〜5.4%の低減が見られた。このことから、実施例1−1〜1−13の熱アシスト磁気記録媒体のような酸化物、窒化物または炭化物を主成分とする第1のバリア層105を設けることで、SNRを維持しつつ、LDIを低減することが可能となることがわかる。
【0099】
実施例1−1〜1−13の熱アシスト磁気記録媒体の中で比較すると、Zr、Tiの窒化物及び炭化物、あるいはMgOを含む方が、Ta、Nb、Hfの窒化物及び炭化物よりもLDIの低減率がやや大きかった。
【0100】
一方、第1のバリア層105を構成する材料が金属である比較例1−1〜1−6の熱アシスト磁気記録媒体は、LDIの低減が見られなかった。また、比較例1−1〜1−6の熱アシスト磁気記録媒体は、SNRに関してもメリットが見られなかった。このことから、第1のバリア層105を構成する材料として、金属を用いた場合は、SNRとLDIのバランスの改善はなく、むしろ悪化させてしまう傾向が見られた。
【0101】
また、実施例1−1〜1−13の熱アシスト磁気記録媒体は、比較例1−1〜1−6の熱アシスト磁気記録媒体よりも、CT−TGが約30%高く、熱勾配が改善することがわかる。
【0102】
さらに、実施例1−1〜1−13の熱アシスト磁気記録媒体の第1のバリア層105を構成する材料の熱伝導率は、材料によって異なるが、第1のヒートシンク層104及び第2のヒートシンク層106を構成するWの熱伝導率174W/m・K(表1参照)よりも明らかに低い。
【0103】
(実施例2−1)
まず、外径2.5インチのガラス基板101上に、Cr−50at%Tiからなる厚さ50nmの密着層102を成膜した後、320℃まで加熱した。次に、密着層102上に、Crからなる厚さ20nmの配向制御層103、Wからなる厚さ25nmの第1のヒートシンク層104、ZrNからなる厚さ2.5nmの第1のバリア層105、W−10at%Taからなる厚さ5nmの第2のヒートシンク層106を順次成膜した。さらに、第2のヒートシンク層106上に、NaCl構造を有するMgOからなる厚さ4nmの第2のバリア層107を成膜した後、650℃まで加熱した。次に、第2のバリア層107上に、(Fe−50at%Pt)−35mol%Cからなる厚さ4nmの磁性層と、(Fe−50at%Pt)−12mol%SiO
2からなる厚さ4nmの磁性層を順次成膜し、2層からなる磁性層108を成膜した。さらに、磁性層108上に、DLCからなる厚さ4nmの保護層109を成膜した後、パーフルオロポリエーテルからなる厚さ1.5nmの液体状の潤滑剤層110を塗布により形成し、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0104】
(実施例2−2〜2−4)
第1のヒートシンク層104の厚さを、それぞれ30nm、35nm、40nmとした以外は、実施例2−1と同様にして、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0105】
(比較例2−1〜2−3)
第1のバリア層105を設けなかった以外は、それぞれ実施例2−1〜2−3と同様にして、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0106】
表3に、実施例2−1〜2−4及び比較例2−1〜2−3の熱アシスト磁気記録媒体のSNR、LDI、CT−TGの評価結果を示す。なお、SNRとLDIを確認する際のMWW(再生信号波形の半値幅と定義した記録トラック幅)も表3に示す。
【0107】
【表3】
第1のバリア層105を構成する材料が窒化物である実施例2−1〜2−3の熱アシスト磁気記録媒体は、第1のバリア層105が設けられていない比較例2−1〜2−3の熱アシスト磁気記録媒体と同一の第1のヒートシンク層の厚さで比べたとき、SNRの違いが見られなかった。一方、同一の第1のヒートシンク層の厚さで比べると、実施例2−1〜2−3の熱アシスト磁気記録媒体のLDIは、比較例2−1〜2−3の熱アシスト磁気記録媒体のLDIに対して、3mAの低減が見られた。このことから、実施例2−2〜2−4の熱アシスト磁気記録媒体は、SNRを維持しつつ、LDIを低減することが可能となることがわかる。
【0108】
(実施例3−1)
まず、外径2.5インチのガラス基板101上に、Cr−50at%Tiからなる厚さ50nmの密着層102を成膜した後、300℃まで加熱した。次に、密着層102上に、Cr−10at%Tiからなる厚さ30nmの配向制御層103、W−5mol%SiO
2(Wの含有量95mol%、SiO
2の含有量5mol%)からなる厚さ25nmの第1のヒートシンク層104、NbCからなる厚さ1nmの第1のバリア層105、W−5mol%SiO
2からなる厚さ5nmの第2のヒートシンク層106を順次成膜した。さらに、第2のヒートシンク層106上に、NaCl構造を有するMgOからなる厚さ5nmの第2のバリア層107を成膜した後、600℃まで加熱した。次に、第2のバリア層107上に、(Fe−46at%Pt)−15mol%SiO
2からなる厚さ8nmの磁性層108を成膜した。さらに、磁性層108上に、DLCからなる厚さ4nmの保護層109を成膜した後、パーフルオロポリエーテルからなる厚さ1.5nmの液体状の潤滑剤層110を塗布により形成し、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0109】
(実施例3−2〜3−5)
第1のバリア層105の厚さを、それぞれ2.5nm、5nm、10nm、20nmとした以外は、実施例3−1と同様にして、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0110】
(比較例3−1)
第1のバリア層105を設けなかった以外は、実施例3−1と同様にして、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0111】
なお、ヒートシンク層の効果がほぼ同じになるように、第1のヒートシンク層104と第2のヒートシンク層106の厚さの和が30nmになるように、熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0112】
表4に、実施例3−1〜3−5、比較例3−1の熱アシスト磁気記録媒体のSNR、LDIの評価結果を示す。このとき、SNRとLDIを確認する際のMWW(再生信号波形の半値幅と定義した記録トラック幅)を70nmとした。
【0113】
なお、SNRについては、比較例3−1の熱アシスト磁気記録媒体のSNRを参照値(ref.)とし、参照値からの差分をΔSNRとした。
【0114】
また、LDIについては、比較例3−1の熱アシスト磁気記録媒体のLDIを参照値(ref.)として、参照値に対する参照値からの差分の割合をΔLDI/LDIとした。
【0115】
【表4】
第1のバリア層105を構成する材料が炭化物である実施例3−1〜3−5の熱アシスト磁気記録媒体は、ΔSNRが誤差範囲であり、第1のバリア層105が設けられていない比較例3−1の熱アシスト磁気記録媒体とのSNRの違いが見られなかった。一方、実施例3−1〜3−5の熱アシスト磁気記録媒体のLDIは、比較例3−1の熱アシスト磁気記録媒体のLDIに対して、2.2%〜5.1%の低減が見られた。このことから、実施例3−1〜3−5の熱アシスト磁気記録媒体は、SNRを維持しつつ、LDIを低減することが可能となることがわかる。