特許第6832286号(P6832286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6832286-再剥離型粘着シート 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832286
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】再剥離型粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20210215BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20210215BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20210215BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C09J7/38
   C09J11/08
   C09J133/06
   C09J133/02
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-545121(P2017-545121)
(86)(22)【出願日】2016年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2016076800
(87)【国際公開番号】WO2017064959
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2019年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-203946(P2015-203946)
(32)【優先日】2015年10月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 淳
(72)【発明者】
【氏名】小坂 尚史
【審査官】 武重 竜男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−224873(JP,A)
【文献】 特開2006−219526(JP,A)
【文献】 特開2008−037959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00−201/10
B32B27/00−27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材とアクリル粘着剤層とを含む積層構造を有し、
前記アクリル粘着剤層は、架橋剤によって架橋されている第1のアクリル系重合体と、第2のアクリル系重合体とを含有し、
前記アクリル粘着剤層において、酢酸エチルに不溶のゲル分の割合は30〜80質量%であり、且つ、酢酸エチルに可溶のゾル分の重量平均分子量は700000以上であり、
前記アクリル粘着剤層は、水分散型アクリル系重合体と水溶性架橋剤とを含有する水分散型粘着剤組成物の乾燥養生物である、再剥離型粘着シート。
【請求項2】
前記水分散型アクリル系重合体は、ノニオン系反応性乳化剤および/またはアニオン系反応性乳化剤に由来するモノマーユニットを含む、請求項に記載の再剥離型粘着シート。
【請求項3】
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、および、当該(メタ)アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して0.5〜5質量部のカルボキシル基含有モノマー、を含むモノマー成分組成に由来するモノマーユニット構成を有する、請求項1又は2に記載の再剥離型粘着シート。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸n−ブチルおよび/またはメタクリル酸n−ブチルである、請求項に記載の再剥離型粘着シート。
【請求項5】
前記カルボキシル基含有モノマーは、アクリル酸および/またはメタクリル酸である、請求項またはに記載の再剥離型粘着シート。
【請求項6】
前記架橋剤の重量平均分子量は3000〜200000である、請求項1からのいずれか一つに記載の再剥離型粘着シート。
【請求項7】
前記架橋剤は、オキサゾリン基含有化合物である、請求項1から6のいずれか一つに記載の再剥離型粘着シート。
【請求項8】
前記アクリル粘着剤層における前記架橋剤の含有量は、前記アクリル系重合体100質量部に対して0.5〜5質量部である、請求項1からのいずれか一つに記載の再剥離型粘着シート。
【請求項9】
180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度0.3m/分)は1N/25mm以上である、請求項1からのいずれか一つに記載の再剥離型粘着シート。
【請求項10】
第1の180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度3m/分)は、第2の180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度0.3m/分)より大きい、請求項1からのいずれか一つに記載の再剥離型粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体に貼り合わされた後に剥離可能な粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な技術分野において、いわゆる再剥離型粘着シートが利用されている。再剥離型粘着シートは、被着体に貼り合わされた後に被着体から剥離され得る粘着面をなす粘着剤層を有する。このような再剥離型粘着シートは、例えば、偏光フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルムなどの各種光学材料の製造および加工の過程や、家具の製造および輸送の過程で、被着体表面を保護するための保護フィルムとして利用されている。各種光学材料の製造・加工過程では、具体的には、光学材料表面の傷・汚れの防止や、光学材料切断加工時のクラック抑制などの目的で、再剥離型粘着シートは、光学材料表面に貼り合わされて使用される。そして、当該粘着シートは、光学材料の製造・加工過程の所定の時点で、または光学材料の使用前に、光学材料から剥がされる。再剥離型粘着シートについては、例えば、下記の特許文献1〜3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−046118号公報
【特許文献2】特開平11−000961号公報
【特許文献3】特開2001−064607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば上述のようにして使用される再剥離型粘着シートには、被着体に対する粘着力の程度についても、被着体からの剥離性(剥がしやすさ)の程度についても、用途に応じた要求がある。一方、再剥離型粘着シートの粘着剤層は、粘着力を発現するための主剤として高分子材料を含有するところ、そのような粘着剤層について、粘着力の経時的な変化(特に、粘着力の経時的上昇)が問題点として顕在化することがある。粘着剤層の粘着力の経時的上昇は、粘着剤層ないし再剥離型粘着シートの剥離性を低下させてしまう場合がある。
【0005】
再剥離型粘着シートの粘着剤層内の高分子材料の架橋度が増すほど、即ち粘着剤層のいわゆるゲル分率が高いほど、当該粘着剤層の経時的な粘着力上昇は抑制される傾向にある。しかしながら、粘着剤層のゲル分率が高いほど、当該粘着剤層の粘着力は低下する傾向にある。すなわち、粘着剤層のゲル分率の観点からは、一般に、粘着剤層の粘着力と粘着力上昇抑制とはトレードオフの関係にある。そのため、粘着力上昇の充分な抑制を粘着剤層の高ゲル分率化だけに頼って実現すると、当該粘着剤層において充分な粘着力を得られにくい。
【0006】
また、再剥離型粘着シートの粘着剤層については、そのゲル分率を抑えて粘着力を確保しつつ、剥離調整剤(界面活性剤やシリコーン系剥離剤など)の配合によって粘着力上昇を抑制することも考えられる。しかしながら、そのような方策によると、再剥離型粘着シートを剥離した後の被着体表面に、剥離調整剤の残渣が生じやすい。すなわち、比較的に低分子量である剥離調整剤は、粘着剤層内を移動して被着体表面に至り、被着体を汚染してしまいやすいのである。被着体が上述のような光学材料である場合には、そのような汚染は光学材料の光学特性に影響を与えてしまう。
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、良好な粘着力と当該粘着力の経時的上昇の抑制(粘着力の経時的安定性)を実現しつつ低汚染性を実現するのに適した再剥離型粘着シートを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、再剥離型粘着シートが提供される。この粘着シートは、基材とアクリル粘着剤層とを含む積層構造を有する。アクリル粘着剤層は、被着体に貼り合わされた後に当該被着体から剥離され得る粘着面を有し、架橋剤によって架橋されている第1のアクリル系重合体と、第2のアクリル系重合体とを含む。アクリル粘着剤層において、酢酸エチルに不溶のゲル分の割合は30〜80質量%であり、且つ、酢酸エチルに可溶のゾル分の重量平均分子量は700000以上である。本発明において、アクリル系重合体(第1のアクリル系重合体,第2のアクリル系重合体)とは、アクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルに由来するモノマーユニットを、質量比で最も多い主たるモノマーユニットとして含む重合体をいうものとする。本発明において、アクリル粘着剤層とは、そのようなアクリル系重合体を質量比で最も多い高分子材料として含む粘着剤層をいうものとする。
【0009】
本発明の再剥離型粘着シートのアクリル粘着剤層は、上述のように、架橋剤によって架橋されている第1のアクリル系重合体と、第2のアクリル系重合体とを含む。架橋剤によって架橋されている第1のアクリル系重合体は、アクリル粘着剤層内で高分子鎖の3次元ネットワークをなす。アクリル粘着剤層のゲル分(酢酸エチル不溶分)のうち質量比で最も多いのは、この高分子鎖3次元ネットワークの構造体であり、当該ゲル分の割合は上述のように30〜80質量%である。これに対し、アクリル粘着剤層のゾル分(酢酸エチル可溶分)は20〜70質量%であり、当該ゾル分のうち質量比で最も多いのは第2のアクリル系重合体である。この第2のアクリル系重合体は、アクリル粘着剤層のゾル分の重量平均分子量が700000以上となる程度に、比較的重合度が大きくて長い。このような第2のアクリル系重合体は、アクリル粘着剤層内の上記の高分子鎖3次元ネットワーク構造体によって移動や配向変化を阻まれやすく、従ってアクリル粘着剤層内で移動や配向変化を生じにくい。
【0010】
粘着剤層のゲル分率が低いほど当該粘着剤層の粘着力は高い傾向にあるところ、本発明におけるアクリル粘着剤層では、上述のように、ゲル分の割合は80質量%以下に抑えて設定される。すなわち、当該アクリル粘着剤層のゲル分率は80質量%以下である。また、粘着剤層中のゾル分に含まれる重合体の分子量が大きく且つ粘着剤層のゾル分の含有割合が大きいほど当該粘着剤層の粘着力は高い傾向にあるところ、本発明におけるアクリル粘着剤層は、上述のように、重量平均分子量700000以上のゾル分を20質量%以上含む。これら構成を複合的に具備する本再剥離型粘着シートないしそのアクリル粘着剤層は、良好な粘着力を実現するのに適する。
【0011】
粘着剤層のゲル分率が高いほど当該粘着剤層の粘着力の経時的上昇は抑制される傾向にあるところ、本発明におけるアクリル粘着剤層では、上述のように、ゲル分の割合は30質量%以上に設定される。すなわち、当該アクリル粘着剤層のゲル分率は30質量%以上である。また、本発明におけるアクリル粘着剤層内の第2のアクリル系重合体は、上述のように、粘着剤層内の第1のアクリル系重合体による3次元ネットワークによって移動や配向変化を阻まれやすく、従ってアクリル粘着剤層内で移動や配向変化を生じにくい。このような構成は、粘着剤層内で第2のアクリル系重合体が移動して或は配向を変えて当該第2のアクリル系重合体の有する官能基が被着体表面と相互作用することに起因する粘着剤層の粘着力上昇を、抑制するのに資する。これら構成を複合的に具備する本再剥離型粘着シートないしそのアクリル粘着剤層は、粘着力の経時的上昇を抑制するのに適する。
【0012】
加えて、本発明におけるアクリル粘着剤層に含まれる第2のアクリル系重合体は上述のように粘着剤層内で移動および配向変化を生じにくいため、本再剥離型粘着シートないしそのアクリル粘着剤層は、粘着剤層内を移動して被着体表面に至る成分によって被着体が汚染されるのを、抑制するのに適する。
【0013】
以上のように、本発明に係る再剥離型粘着シートは、良好な粘着力と当該粘着力の経時的上昇の抑制(粘着力の経時的安定性)とを実現しつつ低汚染性を実現するのに、適するのである。
【0014】
好ましくは、本再剥離型粘着シートのアクリル粘着剤層は、水分散型アクリル系重合体と水溶性架橋剤とを含有する水分散型粘着剤組成物の乾燥養生物である。粘着剤組成物の乾燥養生物とは、重合体成分および溶媒等を含有する粘着剤組成物が乾燥および養生(エージング)を経て生じたものであって、粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合には、架橋剤に起因する重合体成分の架橋反応が乾燥養生によって所定程度に進行したものをいう。アクリル粘着剤層が、水分散型アクリル系重合体と水溶性架橋剤とを含有する水分散型粘着剤組成物の乾燥養生物である、という構成は、本粘着シートの製造において、粘着剤組成物用の溶媒として揮発性有機化合物を使用するのを回避するうえで好適である。
【0015】
好ましくは、上記の水分散型アクリル系重合体は、ノニオン系反応性乳化剤および/またはアニオン系反応性乳化剤に由来するモノマーユニットを含む。このような構成は、本粘着シートの製造過程でエマルション重合によって水分散型アクリル系重合体を適切に生じさせつつ、製造された粘着シートにおいて、粘着剤層内を移動して被着体表面に至る成分によって被着体が汚染されるのを抑制するうえで、好適である。
【0016】
好ましくは、アクリル粘着剤層中のアクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、当該(メタ)アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して0.5〜5質量部のカルボキシル基含有モノマーとを含むモノマー成分組成に由来するモノマーユニット構成を有する。アクリル粘着剤層中のアクリル系重合体のための(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、好ましくは、アクリル酸n−ブチルおよび/またはメタクリル酸n−ブチルである。アクリル粘着剤層中のアクリル系重合体のためのカルボキシル基含有モノマーは、好ましくは、アクリル酸および/またはメタクリル酸である。これら構成は、アクリル粘着剤層のゲル分率を30〜80質量%とするうえで好適である。
【0017】
好ましくは、アクリル粘着剤層中の架橋剤の重量平均分子量は3000〜200000である。このような構成は、アクリル粘着剤層のゾル分の重量平均分子量を700000以上とするうえで好適である。当該ゾル分の高分子量化の観点からは、アクリル粘着剤層中の架橋剤の重量平均分子量は3000以上であるのが好ましい。分子量分布に幅のある一群の重合体における、架橋剤との架橋反応に関しては、当該架橋剤の分子量ないしサイズが大きいほど、重合体の高分子量成分から架橋反応の進行することが抑制される傾向にあるからである。一方、架橋反応の効率的進行の観点からは、アクリル粘着剤層中の架橋剤の重量平均分子量は200000以下であるのが好ましい。
【0018】
好ましくは、アクリル粘着剤層中の架橋剤は、オキサゾリン基含有架橋剤である。このような構成は、アクリル粘着剤層において、ゲル分率を30〜80質量%としつつゾル分の重量平均分子量を700000以上とするうえで、好適である。
【0019】
好ましくは、アクリル粘着剤層における架橋剤の含有量は、アクリル系重合体の総量100質量部に対して0.5〜5質量部である。アクリル粘着剤層のゲル分率を確保して粘着力の経時的上昇を抑制するという観点からは、架橋剤の当該含有量は0.5質量部以上であるのが好ましい。アクリル粘着剤層中の未反応架橋剤を低減して粘着シートないしアクリル粘着剤層の低汚染性を実現するという観点からは、架橋剤の当該含有量は5質量部以下であるのが好ましい。
【0020】
好ましくは、本再剥離型粘着シートの180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度0.3m/分)は、1N/25mm以上である。このような構成は、良好な接着力を実現するうえで好適である。
【0021】
好ましくは、本再剥離型粘着シートの第1の180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度3m/分)は、本再剥離型粘着シートの第2の180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度0.3m/分)より大きい。粘弾性理論によると、粘着剤よりなる粘着剤層について、相対的に高速での剥離は相対的に低温での剥離に、相対的に低速での剥離は相対的に高温での剥離に、対応づけて評価することができる。高速条件での上記第1の180°剥離粘着力が低速条件での上記第2の180°剥離粘着力より大きいという構成は、本再剥離型粘着シートのアクリル粘着剤層と被着体との界面における局所的な剥離(浮き)等の剥離を低温環境下で抑制するうえで好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一の実施形態に係る再剥離型粘着シートの部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一の実施形態に係る再剥離型粘着シートたる粘着シート10の部分断面模式図である。粘着シート10は、基材11と粘着剤層12とを含む積層構造を有する。粘着シート10は、例えば、偏光フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルムなどの各種光学材料の製造および加工の過程や、家具の製造および輸送の過程で、被着体表面を保護するための保護フィルムとして利用することができるものである。
【0024】
粘着シート10の基材11は、粘着シート10において支持体として機能する部位である。基材11は、粘着シート10ないし基材11において高い透明性を実現するという観点からは、透明性を有する樹脂製基材であるのが好ましい。そのような基材11をなすための樹脂材料としては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、アクリル、ポリスチレン、アセテート、ポリエーテルスルホン、およびトリアセチルセルロースが挙げられる。基材11は、一種類の材料からなってもよいし、二種類以上の材料からなってもよいし、樹脂材料以外の添加成物を含有してもよい。また、基材11の粘着剤層側表面は、好ましくは、粘着剤層12との密着性の向上のための表面処理が施されている。そのような表面処理としては、コロナ処理やプラズマ処理等の物理的処理、および、下塗り処理等の化学的処理が、挙げられる。このような基材11の厚さは、例えば10〜150μmであり、好ましくは15〜100μmであり、より好ましくは20〜80μmである。
【0025】
粘着シート10の粘着剤層12は、アクリル系重合体を質量比で最も多い高分子材料として含むアクリル粘着剤層であって、被着体に貼り合わされた後に被着体から剥離され得る粘着面12aを有する。粘着剤層12は、架橋剤によって架橋されている第1のアクリル系重合体と、第2のアクリル系重合体とを含有して、酢酸エチルに不溶のゲル分の割合は30〜80質量%とされ、且つ、酢酸エチルに可溶のゾル分の重量平均分子量は700000以上とされている。このような粘着剤層12は、例えば、アクリル系重合体と、架橋剤と、溶媒とを含有する粘着剤組成物が乾燥および養生(エージング)を経て生ずる乾燥養生物である。粘着シート10の製造のための粘着剤組成物の溶媒として揮発性有機化合物を使用するのを回避するという観点からは、粘着剤層12は、水分散型アクリル系重合体と水溶性架橋剤と溶媒たる水とを含有する水分散型粘着剤組成物の乾燥養生物であるのが好ましい。
【0026】
粘着剤層12内のアクリル系重合体(第1のアクリル系重合体,第2のアクリル系重合体)は、アクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルに由来するモノマーユニットを、質量比で最も多い主たるモノマーユニットとして含む重合体である。以下では、「(メタ)アクリル」をもって、「アクリル」および/または「メタクリル」を表す。
【0027】
アクリル系重合体のモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、および(メタ)アクリル酸エイコシルなど、炭素数が1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。粘着剤層12内のアクリル系重合体のモノマーユニットをなすための好ましい(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸n−ブチルが挙げられる。粘着剤層12内のアクリル系重合体のモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、一種類の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いてもよい。
【0028】
粘着剤層12内のアクリル系重合体における、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニットの含有率は、例えば50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。すなわち、粘着剤層12内のアクリル系重合体を形成するための原料のモノマー成分組成における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は、例えば50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステル含有率を伴うモノマー成分組成に由来するモノマーユニット構成を、粘着剤層12内のアクリル系重合体は有することとなる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル含有率に関するこのような構成は、アクリル系粘着剤の接着性等の基本特性を粘着剤層12にて適切に発現させるうえで好適である。
【0029】
粘着剤層12内のアクリル系重合体(第1のアクリル系重合体,第2のアクリル系重合体)は、好ましくは、カルボキシル基含有モノマーに由来するモノマーユニットを含む。アクリル系重合体のモノマーユニットにおけるカルボキシル基は、架橋剤との反応を生ずる架橋点として機能し得る。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、およびイソクロトン酸が挙げられる。これらのうち、アクリル酸(AA)およびメタクリル酸(MAA)が好ましい。粘着剤層12内のアクリル系重合体のモノマーユニットをなすためのカルボキシル基含有モノマーとしては、一種類のカルボキシル基含有モノマーを用いてもよいし、二種類以上のカルボキシル基含有モノマーを用いてもよい。
【0030】
粘着剤層12内のアクリル系重合体における、カルボキシル基含有モノマー由来のモノマーユニットの含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来のモノマーユニット100質量部に対し、例えば0.5〜5質量部であり、好ましくは0.8〜4.5質量部、より好ましくは1〜4質量部、より好ましくは1.5〜3質量部である。すなわち、粘着剤層12内のアクリル系重合体を形成するための原料のモノマー成分組成におけるカルボキシル基含有モノマーの含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル100質量部に対し、例えば0.5〜5質量部であり、好ましくは0.8〜4.5質量部、より好ましくは1〜4質量部、より好ましくは1.5〜3質量部である。このようなカルボキシル基含有モノマー含有量を伴うモノマー成分組成に由来するモノマーユニット構成を、粘着剤層12内のアクリル系重合体は有することとなる。カルボキシル基含有モノマー含有量に関するこのような構成は、アクリル系重合体が適切に架橋構造をなすうえで好適である。
【0031】
粘着剤層12内のアクリル系重合体は、上述の(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびカルボキシル基含有モノマー以外の他のモノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのようなモノマーユニットのための共重合性モノマーとしては、例えば、モノマーユニット内に少なくとも一つの水酸基を有することとなる水酸基含有モノマー、および、モノマーユニット内に少なくとも一つの窒素原子を有することとなる窒素原子含有モノマーが挙げられる。粘着剤層12内のアクリル系重合体のモノマーユニットをなすためのそのような共重合性モノマーとしては、一種類のモノマーを用いてもよいし、二種類以上のモノマーを用いてもよい。また、後述するように反応性乳化剤を用いてアクリル系重合体を形成する場合には、当該反応性乳化剤もアクリル系重合体のモノマーユニットをなすこととなる。
【0032】
以上のような構成のアクリル系重合体の粘着剤層12における含有率は、例えば90〜99.5質量%である。
【0033】
アクリル系重合体を架橋するための上記架橋剤としては、高分子型の架橋剤が好ましい。高分子型架橋剤の重量平均分子量は、例えば3000〜200000である。粘着剤層12の上記酢酸エチル可溶分(ゾル分)の高分子量化の観点からは、粘着剤層12中の架橋剤の重量平均分子量は、好ましくは3000以上、より好ましくは5000以上、より好ましくは15000以上、より好ましくは25000以上、より好ましくは40000以上である。分子量分布に幅のある一群の重合体における、架橋剤との架橋反応に関しては、当該架橋剤の分子量ないしサイズが大きいほど、重合体の高分子量成分から架橋反応の進行することが抑制される傾向にあるからである。一方、架橋反応の効率的進行の観点からは、アクリル粘着剤層中の架橋剤の重量平均分子量は、好ましくは200000以下、より好ましくは150000以下、より好ましくは100000以下である。市販の高分子型架橋剤としては、例えば、株式会社日本触媒製のオキサゾリン基含有ポリマーたる「エポクロス Kシリーズ」および「エポクロス WSシリーズ」、並びに、ニットーボーメディカル株式会社製の「PAA(ポリアリルアミン)」および「PAS(ポリアミンシリーズ)」が挙げられる。オキサゾリン基含有架橋剤は、オキサゾリン基がカルボキシル基と高い反応性を示すという点で好ましい。
【0034】
粘着剤層12における架橋剤の含有量は、アクリル系重合体(第1のアクリル系重合体,第2のアクリル系重合体)の総量100質量部に対し、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは1〜4質量部、より好ましくは1.5〜3質量部である。粘着剤層12のゲル分率を確保して粘着力の経時的上昇を抑制するという観点からは、架橋剤の当該含有量は0.5質量部以上であるのが好ましい。粘着剤層12中の未反応架橋剤を低減して粘着シート10ないし粘着剤層12の低汚染性を実現するという観点からは、架橋剤の当該含有量は5質量部以下であるのが好ましい。
【0035】
粘着剤層12は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。そのような成分としては、例えば、粘着付与剤、シランカップリング剤、着色剤、顔料、染料、剥離調整剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、重合禁止剤、無機または有機の充填剤、金属粉、粒子状物、および箔状物が挙げられる。これら成分の含有量は、使用目的に応じて決定され、本発明の効果を損なわない範囲においてアクリル系重合体100質量部に対して例えば10質量部以下である。
【0036】
粘着剤層12においては、上述のように、酢酸エチルに不溶のゲル分の割合(即ちゲル分率)は30〜80質量%に設定される。当該ゲル分率は、好ましくは40〜77質量%、より好ましくは50〜75質量%である。粘着剤層12のゲル分率は、次のようにして算出することができる。
【0037】
まず、ゲル分率同定対象の粘着剤層または粘着剤から約0.1g(質量:W1mg)の試料を採取して平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(質量:W2mg)で包んで凧糸(質量:W3mg)で縛り、包みを得る。次に、この包みを、約50mLの酢酸エチル溶液に浸漬し、室温(典型的には23℃)にて7日間、当該酢酸エチル溶液中で静置させる。次に、酢酸エチル不溶分たるゲル分を内包する包みを酢酸エチル溶液から取り出し、この包みを130℃で1時間乾燥させる。その後、当該包み全体の質量(W4mg)を測定する。そして、W1〜W4の値を下記式に代入することによってゲル分率を算出する。
【0038】
ゲル分率(質量%)=[(W4−W2−W3)/W1]×100
【0039】
粘着剤層12においては、上述のように、酢酸エチルに可溶のゾル分の重量平均分子量は700000以上に設定される。当該ゾル分の重量平均分子量は、好ましくは1000000以上、より好ましくは1200000以上である。ゾル分の重量平均分子量は、次のようにして求めることができる。
【0040】
まず、ゾル分分子量同定対象の粘着剤層または粘着剤から約0.1gの試料を採取して平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜で包んで凧糸で縛り、包みを得る。次に、この包みを、約50mLの酢酸エチル溶液に浸漬し、室温(典型的には23℃)にて7日間、当該酢酸エチル溶液中で静置させる。次に、酢酸エチル不溶分を内包する包みと、酢酸エチル可溶分たるゾル分を含有する酢酸エチル溶液とを分離する。次に、ゾル分含有酢酸エチル溶液を30℃での減圧乾燥し付し、酢酸エチルを蒸散させて固形分を得る。次に、この固形分を秤量する。次に、ゾル分の分子量をGPC(ゲル・パーミェーション・クロマトグラフィー)により測定する。例えば、GPC測定装置(商品名「HLC−8120GPC」,東ソー株式会社製)を使用して、下記の測定条件の下、ポリスチレン換算値によって、ゾル分の重量平均分子量を求めることができる。
〔GPCの測定条件〕
・カラム:TSKgel GMHHR−H(S)(東ソー株式会社製)を2本直列
・カラムサイズ:7.8mmφ×30cm
・カラム温度:40℃
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流量:0.5ml/min
・試料注入量:100μl
・試料濃度:0.1質量%
・標準試料:ポリスチレン
・検出器:示差屈折率計(RI)
【0041】
粘着シート10においては、良好な接着力を実現するという観点から、その180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度0.3m/分)が1N/25mm以上に設定されるのが好ましい。また、粘着シート10においては、その第1の180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度3m/分)が第2の180°剥離粘着力(対SUS304板,剥離温度23℃,剥離速度0.3m/分)より大きくなるように設定されるのが好ましい。粘弾性理論によると、粘着剤よりなる粘着剤層について、相対的に高速での剥離は相対的に低温での剥離に、相対的に低速での剥離は相対的に高温での剥離に、対応づけて評価することができる。高速条件での上記第1の180°剥離粘着力が低速条件での上記第2の180°剥離粘着力より大きいという構成は、粘着シート10の粘着剤層12と被着体との界面における局所的な剥離(浮き)等の剥離を低温環境下で抑制するうえで好適である。180°剥離粘着力については、JIS Z 0237に準じて例えば次のようにして測定することができる。
【0042】
まず、粘着力測定対象の粘着シートからの切り出し等によって試験片(幅20mm×長さ100mm)を用意する。次に、試験片を被着体たるSUS304板に貼り合わせ、5kgのローラーを1往復させることによって試験片と被着体とを圧着させる。そして、温度23℃かつ相対湿度60%の環境下での20分間の放置の後、剥離粘着力測定装置(商品名「小型卓上試験機EXtest」,株式会社島津製作所製)を使用して、剥離温度23℃および剥離速度3m/分(第1の180°剥離粘着力に係る測定条件)または剥離速度0.3m/分(第2の180°剥離粘着力に係る測定条件)の条件で、試験片について、SUS304板に対する180°剥離粘着力を測定する。
【0043】
粘着シート10の粘着剤層12の厚さは、例えば1〜200μmであり、好ましくは1〜50μmであり、より好ましくは1〜20μmである。
【0044】
粘着シート10は、粘着剤層12の粘着面12aを被覆するようにセパレーター(剥離ライナー)が設けられていてもよい。セパレーターは、粘着シート10の粘着剤層12が露出しないように保護するための要素であり、粘着シート10を被着体に貼付する際に粘着シート10から剥がされる。これに対し、上述の基材11は、粘着シート10の使用時には粘着剤層12とともに被着体に付されることとなる。セパレーターとしては、例えば、剥離処理層を有する基材、フッ素ポリマーからなる低接着性基材、および、無極性ポリマーからなる低接着性基材が挙げられる。セパレーターの表面は、離型処理、防汚処理、または帯電防止処理が施されていてもよい。セパレーターの厚さは、例えば5〜200μmである。
【0045】
以上のような構成の粘着シート10は、例えば、粘着剤層12を形成するための粘着剤組成物を作製し、この粘着剤組成物を基材11上に塗布し、塗布された粘着剤組成物を乾燥および養生(エージング)することによって、製造することができる。基材11上に塗布される粘着剤組成物としては、その溶媒として揮発性有機化合物を使用するのを回避するという観点から、水分散型アクリル系重合体と水溶性架橋剤と溶媒たる水とを含有する水分散型粘着剤組成物であるのが好ましい。粘着剤層12を形成するための水分散型粘着剤組成物は、例えば次のようにして作製することができる。
【0046】
まず、上述のアクリル系重合体を形成するために必要なモノマー成分と乳化剤と水とを含む混合物を撹拌し、モノマーエマルションを調製する。製造される粘着シート10において、粘着剤層12内を移動して被着体表面に至る成分によって被着体が汚染されるのを抑制するという観点から、乳化剤としては、形成されるアクリル系重合体にモノマーユニットとして取り込まれるノニオン系反応性乳化剤および/またはアニオン系反応性乳化剤を使用するのが好ましい。次に、モノマーエマルションに重合開始剤を加え、所定温度に加熱して乳化重合を行う。重合方式としては、バッチ式ないし回分式の乳化重合であってもよいし、連続式の乳化重合であってもよい。また、得られるアクリル系重合体において分子量分布を狭くしてシャープな物性を実現するという観点からは、いわゆる滴下重合よりも一括重合の方が好ましく、且つ、重合時間を比較的に短く設定するのが好ましい。重合時間は、例えば0.5〜3時間である。重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、およびレドックス系重合開始剤が挙げられる。アゾ系重合開始剤としては、例えば、特開2002−69411号公報に開示されているアゾ系重合開始剤を用いることができる。このような乳化重合を経ることによって、水溶媒にアクリル系重合体エマルションが分散する水分散液が得られる。次に、所定量の水分散液に所定量の架橋剤を加えて混合する。以上のようにして、アクリル系重合体を含有する水分散型粘着剤組成物を作製することができる。このような水分散型粘着剤組成物から形成される粘着剤層12は、水分散型アクリル系重合体と水溶性架橋剤とを含有する水分散型粘着剤組成物の乾燥養生物となる。
【0047】
再剥離型粘着シートである粘着シート10の粘着剤層12は、上述のように、架橋剤によって架橋されている第1のアクリル系重合体と、第2のアクリル系重合体とを含む。架橋剤によって架橋されている第1のアクリル系重合体は、粘着剤層12内で高分子鎖の3次元ネットワークをなす。粘着剤層12のゲル分(酢酸エチル不溶分)のうち質量比で最も多いのは、この高分子鎖3次元ネットワークの構造体であり、当該ゲル分の割合は上述のように30〜80質量%である。これに対し、粘着剤層12のゾル分(酢酸エチル可溶分)は20〜70質量%であり、当該ゾル分のうち質量比で最も多いのは第2のアクリル系重合体である。この第2のアクリル系重合体は、粘着剤層12のゾル分の重量平均分子量が700000以上となる程度に、比較的重合度が大きくて長い。このような第2のアクリル系重合体は、粘着剤層12内の上記の高分子鎖3次元ネットワーク構造体によって移動や配向変化を阻まれやすく、従って粘着剤層12内で移動や配向変化を生じにくい。
【0048】
粘着剤層のゲル分率が低いほど当該粘着剤層の粘着力は高い傾向にあるところ、粘着シート10の粘着剤層12では、上述のように、ゲル分率は80質量%以下に抑えて設定される。また、粘着剤層中のゾル分に含まれる重合体の分子量が大きく且つ粘着剤層のゾル分の含有割合が大きいほど当該粘着剤層の粘着力は高い傾向にあるところ、粘着シート10の粘着剤層12は、上述のように、重量平均分子量700000以上のゾル分を20質量%以上含む。これら構成を複合的に具備する粘着シート10ないしその粘着剤層12は、良好な粘着力を実現するのに適する。
【0049】
粘着剤層のゲル分率が高いほど当該粘着剤層の粘着力の経時的上昇は抑制される傾向にあるところ、粘着シート10の粘着剤層12では、上述のように、ゲル分率は30質量%以上に設定される。また、粘着シート10の粘着剤層12内の第2のアクリル系重合体は、上述のように、粘着剤層内の第1のアクリル系重合体による3次元ネットワークによって移動や配向変化を阻まれやすく、従って粘着剤層12内で移動や配向変化を生じにくい。このような構成は、粘着剤層12内で第2のアクリル系重合体が移動して或は配向を変えて当該第2のアクリル系重合体の有する官能基が被着体表面と相互作用することに起因する粘着剤層12の粘着力上昇を、抑制するのに資する。これら構成を複合的に具備する粘着シート10ないしその粘着剤層12は、粘着力の経時的上昇を抑制するのに適する。
【0050】
加えて、粘着シート10の粘着剤層12に含まれる第2のアクリル系重合体は上述のように粘着剤層12内で移動および配向変化を生じにくいため、粘着シート10ないしその粘着剤層12は、粘着剤層12内を移動して被着体表面に至る成分によって被着体が汚染されるのを、抑制するのに適する。
【0051】
以上のように、再剥離型の粘着シート10は、良好な粘着力と当該粘着力の経時的上昇の抑制(粘着力の経時的安定性)とを実現しつつ低汚染性を実現するのに、適するのである。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
容器内で、水60質量部と、アクリル酸n−ブチル(BA)55質量部と、メタクリル酸n−ブチル(BMA)45質量部と、アクリル酸(AA)2質量部と、アニオン系反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH1025」,第一工業製薬株式会社製)3質量部とを含む混合物をホモミキサーによって撹拌し、実施例1のモノマーエマルションを調製した。次に、環流冷却器、窒素導入管、温度計、および攪拌機を備える反応容器内で、当該モノマーエマルション165質量部と水溶性アゾ重合開始剤(商品名「V−50」,和光純薬工業株式会社製)0.03質量部とを混合し、撹拌しつつ56℃で2時間の乳化重合反応(一括重合)を行った。次に、当該反応液を30℃に冷却した後、10質量%のアンモニア水溶液を加えることによって反応液をpH8に調整したうえで、アクリル系重合体エマルションが水に分散する実施例1の水分散液(40質量%)を調製した。
【0054】
次に、実施例1の水分散液と、オキサゾリン基含有の高分子架橋剤(商品名「エポクロスWS−500」,重量平均分子量70000,株式会社日本触媒製)とを、水分散液中のアクリル系重合体100質量部に対して架橋剤(固形分)が2質量部となる量比で混合し、実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
【0055】
次に、フィルムキャスティングナイフ(商品名「BYKガードナー・フィルムキャスティングナイフ」,株式会社東洋精機製作所製)を使用して、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム(商品名「ルミラーs10」,東レ株式会社製)のコロナ処理面上に、実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物を塗布した。次に、前記PETフィルム上の水分散型アクリル系粘着剤組成物について、熱風循環式オーブンを使用して、130℃で3分間の乾燥に付した後、50℃で3日間の養生(エージング)に付した。以上のようにして、実施例1の粘着シート(粘着剤層厚さ10μm)を製造した。
【0056】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして得たモノマーエマルション165質量部と、重合開始剤としての過酸化アンモニウム(シグマアルドリッチ社製)0.03質量部とを、環流冷却器、窒素導入管、温度計、および攪拌機を備える反応容器内で混合し、撹拌しつつ75℃で2時間の乳化重合反応(一括重合)を行った。次に、当該反応液を30℃に冷却した後、10質量%のアンモニア水溶液を加えることによって反応液をpH8に調整したうえで、アクリル系重合体エマルションが水に分散する実施例2の水分散液(40質量%)を調製した。次に、実施例2の水分散液と、オキサゾリン基含有の高分子架橋剤(商品名「エポクロスWS−500」,株式会社日本触媒製)とを、水分散液中のアクリル系重合体100質量部に対して架橋剤(固形分)が1質量部となる量比で混合し、実施例2の水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。次に、実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物に代えて実施例2の水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いた点以外は実施例1と同様にして塗布、乾燥、養生を行い、実施例2の粘着シート(粘着剤層厚さ10μm)を製造した。
【0057】
〔比較例1〕
実施例1と同様の原料を用いて行う乳化重合反応およびその後のpH調整を経て、アクリル系重合体エマルションが水に分散する比較例1の水分散液(40質量%)を調製した。次に、この比較例1の水分散液と、アジリジン架橋剤(商品名「CX−100」,DSM Coating Resins社製)とを、水分散液中のアクリル系重合体100質量部に対して架橋剤(固形分)が0.5質量部となる量比で混合し、比較例1の粘着剤組成物を調製した。次に、実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物に代えて比較例1の粘着剤組成物を用いた点以外は実施例1と同様にして塗布、乾燥、養生を行い、比較例1の粘着シート(粘着剤層厚さ10μm)を製造した。
【0058】
〔比較例2〕
実施例2と同様の原料を用いて行う乳化重合反応およびその後のpH調整を経て、アクリル系重合体エマルションが水に分散する比較例2の水分散液(40質量%)を調製した。次に、実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物に代えて比較例2の水分散液(架橋剤を含有しない)を用いた点以外は実施例1と同様にして塗布、乾燥、養生を行い、比較例2の粘着シート(粘着剤層厚さ10μm)を製造した。
【0059】
〔比較例3〕
容器内で、水40質量部と、アクリル酸n−ブチル(BA)55質量部と、メタクリル酸n−ブチル(BMA)45質量部と、アクリル酸(AA)2質量部と、アニオン系反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH1025」,第一工業製薬株式会社製)3質量部とを含む混合物をホモミキサーによって撹拌し、比較例3のモノマーエマルションを調製した。次に、環流冷却器、窒素導入管、温度計、および攪拌機を備える反応容器内で、水20質量部と水溶性アゾ重合開始剤(商品名「V−50」,和光純薬工業株式会社製)0.03質量部とを混合し、56℃にて、撹拌しつつ当該混合物に比較例3のモノマーエマルション145質量部を3時間かけて滴下した。次に、56℃で3時間、乳化重合反応を行った。次に、当該反応液を30℃に冷却した後、10質量%のアンモニア水溶液を加えることによって反応液をpH8に調整したうえで、アクリル系重合体エマルションが水に分散する比較例3の水分散液(40質量%)を調製した。次に、実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物に代えて比較例3の水分散液(架橋剤を含有しない)を用いた点以外は実施例1と同様にして塗布、乾燥、養生を行い、比較例3の粘着シート(粘着剤層厚さ10μm)を製造した。
【0060】
〔比較例4〕
容器内で、水40質量部と、アクリル酸n−ブチル(BA)55質量部と、メタクリル酸n−ブチル(BMA)45質量部と、アクリル酸(AA)2質量部と、アニオン系反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH1025」,第一工業製薬株式会社製)3質量部とを含む混合物をホモミキサーによって撹拌し、比較例4のモノマーエマルションを調製した。次に、環流冷却器、窒素導入管、温度計、および攪拌機を備える反応容器内で、水20質量部と水溶性アゾ重合開始剤(商品名「V−50」,和光純薬工業株式会社製)0.3質量部とを混合し、56℃にて、撹拌しつつ当該混合物に比較例4のモノマーエマルション145質量部を3時間かけて滴下した。次に、56℃で3時間、乳化重合反応を行った。次に、当該反応液を30℃に冷却した後、10質量%のアンモニア水溶液を加えることによって反応液をpH8に調整したうえで、アクリル系重合体エマルションが水に分散する比較例4の水分散液(40質量%)を調製した。次に、比較例4の水分散液と、オキサゾリン基含有の高分子架橋剤(商品名「エポクロスWS−500」,株式会社日本触媒製)とを、水分散液中のアクリル系重合体100質量部に対して架橋剤(固形分)が2質量部となる量比で混合し、比較例4の粘着剤組成物を調製した。次に、実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物に代えて比較例4の粘着剤組成物を用いた点以外は実施例1と同様にして塗布、乾燥、養生を行い、比較例4の粘着シート(粘着剤層厚さ10μm)を製造した。
【0061】
〈ゲル分率〉
実施例1,2および比較例1〜4の各粘着シートの粘着剤層について、次のようにしてゲル分率を求めた。まず、粘着剤層から約0.1g(質量:W1mg)の試料を採取して平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(商品名「ニトフロン NTF1122」,質量:W2mg,日東電工株式会社製)で包んで凧糸(質量:W3mg)で縛り、包みを得た。次に、この包みを、約50mLの酢酸エチル溶液に浸漬し、室温(典型的には23℃)にて7日間、当該酢酸エチル溶液中で静置させた。次に、酢酸エチル不溶分たるゲル分を内包する包みを酢酸エチル溶液から取り出し、この包みを130℃で1時間乾燥させた。その後、当該包み全体の質量(W4mg)を測定した。そして、W1〜W4の値を下記式に代入することによってゲル分率(質量%)を算出した。その結果を表1に掲げる。
【0062】
ゲル分率(質量%)=[(W4−W2−W3)/W1]×100
【0063】
〈ゾル分の重量平均分子量〉
実施例1,2および比較例1〜4の各粘着シートの粘着剤層について、次のようにしてゾル分の重量平均分子量を求めた。具体的には、まず、粘着剤層から約0.1gの試料を採取して平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(商品名「ニトフロン NTF1122」,日東電工株式会社製)で包んで凧糸で縛り、包みを得た。次に、この包みを、約50mLの酢酸エチル溶液に浸漬し、室温(典型的には23℃)にて7日間、当該酢酸エチル溶液中で静置させた。次に、酢酸エチル不溶分を内包する包みと、酢酸エチル可溶分たるゾル分を含有する酢酸エチル溶液とを分離した。次に、ゾル分含有酢酸エチル溶液を30℃での減圧乾燥し付し、酢酸エチルを蒸散させて固形分を得た。次に、この固形分を秤量した。次に、GPC測定装置(商品名「HLC−8120GPC」,東ソー株式会社製)を使用して、下記の測定条件の下、ポリスチレン換算値によってゾル分の重量平均分子量(Mw)をGPC(ゲル・パーミェーション・クロマトグラフィー)により求めた。その結果を表1に掲げる。
〔GPCの測定条件〕
・カラム:TSKgel GMHHR−H(S)(東ソー株式会社製)を2本直列
・カラムサイズ:7.8mmφ×30cm
・カラム温度:40℃
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流量:0.5ml/min
・試料注入量:100μl
・試料濃度:0.1質量%
・標準試料:ポリスチレン
・検出器:示差屈折率計(RI)
【0064】
〈粘着力測定〉
実施例1,2および比較例1〜4の各粘着シートについて、次のようにして粘着力を測定した。まず、粘着力測定に付される試験片(幅20mm×長さ100mm)を粘着シートから切り出した。次に、試験片を被着体たるSUS304板に貼り合わせ、5kgのローラーを1往復させることによって試験片と被着体とを圧着させた。そして、温度23℃かつ相対湿度60%の環境下での20分間の放置の後、剥離粘着力測定装置(商品名「小型卓上試験機EXtest」,株式会社島津製作所製)を使用して、剥離温度23℃および剥離速度0.3m/分の条件で、試験片について、JIS Z 0237に準じてSUS304板に対する180°剥離粘着力(初期粘着力,第2の180°剥離粘着力)を測定した。また、実施例1,2および比較例1〜4の各粘着シートの粘着剤層について、剥離速度0.3m/分を剥離速度3m/分に変えた点以外は上記と同様の条件で、SUS304板に対する別の180°剥離粘着力(第1の180°剥離粘着力)を測定した。その結果を表1に掲げる。
【0065】
〈粘着力の経時的変化〉
実施例1,2および比較例1〜4の各粘着シートについて、次のようにして粘着力の経時的変化を調べた。まず、粘着力測定に付される試験片(幅20mm×長さ100mm)を粘着シートから切り出した。次に、試験片を被着体たるSUS304板に貼り合わせ、5kgのローラーを1往復させることによって試験片と被着体とを圧着させた。次に、試験片を80℃で24時間静置した。そして、温度23℃かつ相対湿度60%の環境下での2時間の放置の後、剥離粘着力測定装置(商品名「小型卓上試験機EXtest」,株式会社島津製作所製)を使用して、剥離温度23℃および剥離速度0.3m/分の条件で、試験片について、JIS Z 0237に準じてSUS304板に対する180°剥離粘着力(80℃での24時間静置後の粘着力)を測定した。その結果を表1に掲げる。
【0066】
〈汚染性〉
実施例1,2および比較例1〜4の各粘着シートについて、次のようにして汚染性を調べた。まず、粘着シートから試験片(幅25mm×長さ100mm)を切り出した。次に、試験片を被着体たるSUS304板に貼り合わせ、5kgのローラーを1往復させることによって試験片と被着体とを圧着させた。次に、試験片を80℃で24時間静置した後、当該試験片をSUS304板から剥離して、SUS304板における当該剥離箇所を目視で観察した。その結果、実施例1,2および比較例1,4の粘着シートでは、SUS304板において粘着シートが貼付されていた箇所(剥離箇所)と貼付されていない箇所との間で差異が見られなかった。これに対し、比較例2,3の粘着シートでは、SUS304板において粘着シートが貼付されていた箇所(剥離箇所)が激しく白化していた。これらの結果を表1に掲げる。
【0067】
[評価]
実施例1,2の粘着シートは、1.0N/25mm以上の良好な初期粘着力を示し、粘着力の経時的上昇(80℃での24時間静置後の上記粘着力と上記初期粘着力との差)が1.5N/25mm以下に抑制され、且つ、低汚染性が実現されている。これに対し、比較例1,4の粘着シートは、粘着力の経時的上昇(80℃での24時間静置後の上記粘着力と上記初期粘着力との差)が1.5N/25mmを超えて大きかった。また、比較例2,3の粘着シートは、粘着力測定において粘着剤層の凝集破壊が生じてしまった。
【0068】
【表1】
【符号の説明】
【0069】
10 粘着シート(再剥離型粘着シート)
11 基材
12 粘着剤層(アクリル粘着剤層)
12a 粘着面
図1