特許第6832405号(P6832405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6832405熱成形シート積層用多層フィルム、熱成形用積層シート、及び、熱成形容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6832405
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】熱成形シート積層用多層フィルム、熱成形用積層シート、及び、熱成形容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20210215BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20210215BHJP
   B65D 1/28 20060101ALI20210215BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20210215BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   B32B27/32 C
   B32B5/18
   B65D1/28
   B65D1/34
   B65D65/40 D
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-172626(P2019-172626)
(22)【出願日】2019年9月24日
【審査請求日】2019年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239138
【氏名又は名称】株式会社エフピコ
(74)【代理人】
【識別番号】100117204
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 徳哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮大
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】西江 昌展
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−210110(JP,A)
【文献】 特開2019−111785(JP,A)
【文献】 特開2013−237206(JP,A)
【文献】 特開2015−66918(JP,A)
【文献】 特開2013−28711(JP,A)
【文献】 特開2012−40868(JP,A)
【文献】 特開2019−130708(JP,A)
【文献】 特開2006−137044(JP,A)
【文献】 特開2016−155584(JP,A)
【文献】 特開2008−207471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 57/00−83/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱成形用の耐熱性ポリスチレン系発泡シートに熱ラミネートにより積層される多層フィルムであって、
プロピレン系樹脂層と、混合樹脂層と、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層との間に位置し、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層とを積層させる接着剤層とを備え、
混合樹脂層は、石油樹脂を含まず、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が45:55〜70:30であるアロイ成分を主成分とし、さらに、アロイ成分100重量部に対してスチレン系熱可塑性エラストマー2〜15重量部を有している、熱成形シート積層用多層フィルム。
【請求項2】
熱成形用のポリスチレン系発泡シートに熱ラミネートにより積層される多層フィルムであって、
プロピレン系樹脂層と、混合樹脂層と、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層との間に位置し、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層とを積層させる接着剤層とを備え、
混合樹脂層は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が45:55〜90:10であるアロイ成分を主成分とし、さらに、アロイ成分100重量部に対してスチレン系熱可塑性エラストマー2〜15重量部と、アロイ成分100重量部に対して石油樹脂5〜30重量部とを有している、熱成形シート積層用多層フィルム。
【請求項3】
プロピレン系樹脂層と混合樹脂層との間に印刷層を備えている請求項1又は2記載の熱成形シート積層用多層フィルム。
【請求項4】
接着剤層は、ドライラミネート接着剤からなる請求項1乃至3の何れかに記載の熱成形シート積層用多層フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の多層フィルムの混合樹脂層に耐熱性ポリスチレン系発泡シートが熱ラミネートにより積層された積層シートであって、耐熱性ポリスチレン系発泡シートと多層フィルムの混合樹脂層との間の剥離強度が1.5N/25mm以上である、熱成形用積層シート。
【請求項6】
請求項5記載の熱成形用積層シートが、多層フィルムのプロピレン系樹脂層が容器内側となるように熱成形されてなる熱成形容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形用の耐熱性ポリスチレン系発泡シートに熱ラミネートにより積層される多層フィルム、この多層フィルムが耐熱性ポリスチレン系発泡シートに積層された熱成形用積層シート、及び、この熱成形用積層シートが熱成形された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた軽量性と断熱性を有するスチレン系樹脂発泡シートは、トレイ、丼、カップ等の種々の形状に熱成形されて各種の包装用容器に用いられている。なかでも、耐熱性ポリスチレン系発泡シートであれば、収容した食材を電子レンジで加熱する用途の容器などにも使用できるので、コンビニエンスストア等で販売する電子レンジ加熱食品用の容器としては好適である。
【0003】
電子レンジ用食品容器として使用する場合、油分を多く含むスパゲティ等の食材が入れられることがある。そのため、耐熱性ポリスチレン系発泡シートの容器内側、すなわち食品接触側に、耐油性に優れたプロピレン系樹脂フィルムが積層された形態で使用される。
【0004】
また、容器には種々の絵柄が使用されることもある。その絵柄は樹脂フィルムの食品非接触面に印刷される。共通の発泡シートに、異なる絵柄を有する複数種類の樹脂フィルムを貼り合わせることによって、複数種類の積層シートを作製する。例えば、容器の製造ロット毎に、異なる種類の樹脂フィルムが使用され、異なる絵柄の容器が製造される。製造工程においては、発泡シートと樹脂フィルムを積層して積層シートを形成する積層工程と、積層シートを熱成形して容器を形成する容器形成工程で成り立っている。積層工程では、発泡シートと樹脂フィルムは熱ラミネートにより積層されることが一般的である。
【0005】
しかしながら、プロピレン系樹脂フィルムを耐熱性ポリスチレン系発泡シートに貼り合わせる場合、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂とは相溶性に乏しいので、両者を熱ラミネート法で直接貼り合わせることは難しい。これに対して、下記特許文献1では、プロピレン系樹脂フィルムとスチレン系樹脂フィルムとを接着剤層を介して積層して多層フィルムを作製し、この多層フィルムのスチレン系樹脂層とポリスチレン系発泡シートとを対向させるようにして熱ラミネートして積層シートとする方法が提案されている。
【0006】
ところで、スパゲティ等の油分が多い食材を入れた場合、電子レンジの加熱条件によっては油分が高温になり、その影響がプロピレン系樹脂層を伝わって、耐熱性ポリスチレン系発泡シートとの熱接着を担うスチレン系樹脂層に到達して溶融させ、部分的に多層フィルムが剥離する現象(以下「デラミ(デラミネーション)」という。)を生じ、見た目の外観を損なうことがある。
【0007】
特に、昨今のコンビニエンスストア等に設置されている業務用の電子レンジは加熱時間短縮のため高出力化しており、デラミが発生する危険性が高まっている。これに対して、下記特許文献2では、ポリオレフィン系樹脂層の厚みを厚くすることによって、高温になった油分の熱がフィルムと基材である発泡シートとの固着界面への到達することを抑制し、デラミを防ぐ方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、プロピレン系樹脂層を厚くすると、当然のことながら材料が余分に必要となってコスト面で不利である。また、発泡シートを基材とする積層シートにおいては、非発泡であるフィルムの厚み増加が全重量に与える影響が大きいので、容器の軽量化が困難となる。
【0009】
さらに、プロピレン系樹脂層とスチレン系樹脂層との間に印刷層が形成されている場合には、プロピレン系樹脂層の厚み増加によって、印刷柄の視認性が低下するといった不利が生じることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2018−58620公報
【特許文献2】特開2018−69491公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、プロピレン系樹脂層を厚くすることなく、電子レンジ加熱で高温になった食材由来の油分の熱に起因するデラミを抑制することができる、熱成形シート積層用多層フィルム、熱成形用積層シート、及び、熱成形容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る熱成形シート積層用多層フィルムは、熱成形用の耐熱性ポリスチレン系発泡シートに熱ラミネートにより積層される多層フィルムであって、プロピレン系樹脂層と、混合樹脂層と、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層との間に位置し、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層とを積層させる接着剤層とを備え、混合樹脂層は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が45:55〜70:30であるアロイ成分を主成分とし、さらに、アロイ成分100重量部に対してスチレン系熱可塑性エラストマー2〜15重量部を有している。
【0013】
また、本発明に係る熱成形シート積層用多層フィルムは、熱成形用のポリスチレン系発泡シートに熱ラミネートにより積層される多層フィルムであって、プロピレン系樹脂層と、混合樹脂層と、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層との間に位置し、プロピレン系樹脂層と混合樹脂層とを積層させる接着剤層とを備え、混合樹脂層は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が45:55〜90:10であるアロイ成分を主成分とし、さらに、アロイ成分100重量部に対してスチレン系熱可塑性エラストマー2〜15重量部と、アロイ成分100重量部に対して石油樹脂5〜30重量部とを有している。
【0014】
特に、プロピレン系樹脂層と接着剤層との間、又は、接着剤層と混合樹脂層との間に印刷層を備えていることが好ましい。
【0015】
また、接着剤層は、ドライラミネート接着剤からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る熱成形用積層シートは、多層フィルムの混合樹脂層に耐熱性ポリスチレン系発泡シートが熱ラミネートにより積層された積層シートであって、耐熱性ポリスチレン系発泡シートと多層フィルムの混合樹脂層との間の剥離強度が1.5N/25mm以上必要である。
【0017】
また、本発明に係る熱成形容器は、熱成形用積層シートが、多層フィルムのプロピレン系樹脂層が容器内側となるように熱成形されてなるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プロピレン系樹脂層を厚くすることなく、電子レンジ加熱によって高温になった食材由来の油分の熱に起因するデラミを抑止することができ、しかも、コストメリットと軽量性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は、本発明の一実施形態における多層フィルムを示す部分拡大断面図、(b)は、同多層フィルムが積層された積層シートを示す部分拡大断面図。
図2】(a)は、本発明の他の実施形態における多層フィルムを示す部分拡大断面図、(b)は、同多層フィルムが積層された積層シートを示す部分拡大断面図。
図3】(a)は、本発明の他の実施形態における多層フィルムを示す部分拡大断面図、(b)は、同多層フィルムが積層された積層シートを示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る多層フィルムと、その多層フィルムが積層された積層シートと、その積層シートを用いた熱成形容器(以下、単に容器という。)について説明する。図1(a)に本実施形態における多層フィルム1の要部を断面図で示し、図1(b)に本実施形態における積層シート3の要部を断面図で示している。積層シート3は、図1(b)のように、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2とが積層された構成である。積層シート3は、真空、圧空等の熱成形によって容器に熱成形される。容器は、後述する多層フィルム1のプロピレン系樹脂層10を容器内面とする。
【0021】
<多層フィルム1>
多層フィルム1は、プロピレン系樹脂層10と、接着剤層12と、混合樹脂層11とを備えている。各層を積層する方法は、特に限定されない。例えば、プロピレン系樹脂層10と接着剤層12と混合樹脂層11を共押出しして積層する方法や、プロピレン系樹脂層10と混合樹脂層11をそれぞれ予めフィルムとして別々に作製し、これらのフィルムで、押出供給する接着剤層12を挟み込むようにして積層する押出ラミネート法や、プロピレン系樹脂層10と混合樹脂層11をそれぞれ予めフィルムとして別々に作製し、これらのフィルムの何れかにドライラミネート接着剤を接着剤層12として塗布して貼り合わせるドライラミネート法等が選択できる。その中でも特に、ドライラミネート法を採用することが好ましい。
【0022】
<プロピレン系樹脂層10>
プロピレン系樹脂層10は、プロピレン系樹脂からなる層である。プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体(プロピレン−エチレン共重合体等)等、又は、それらの混合物が挙げられる。プロピレン−αオレフィン共重合体としては、ランダム共重合体、及びブロック共重合体等が挙げられる。また、透明性を高めるために結晶核剤等が添加されていてもよい。
【0023】
プロピレン系樹脂層10を構成するプロピレン系樹脂の、DSC(示差走査熱量測定)で測定したTpm(融解ピーク温度)は、耐熱性の観点から、好ましくは150〜170℃であり、より好ましくは155℃〜170℃であり、さらに好ましくは160〜170℃である。また、メルトフローレート(MFR、JIS K−7210:1999)は、好ましくは2〜40g/10分、より好ましくは3〜12g/10分の範囲である。
【0024】
プロピレン系樹脂層10を予めフィルムとして作製する場合の加工形態は、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)や、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)等が挙げられるが、熱成形における加工性の観点から、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)が好ましい。
【0025】
プロピレン系樹脂層10の厚みは、好ましくは10〜50μm、より好ましくは15〜50μmである。プロピレン系樹脂層10の厚みがこれ以上薄くなると、予めフィルムを作製してドライラミネート法で貼り合わせる場合に、張力がかかったフィルムが破断する恐れがあることや、ドライラミネート接着剤を塗布するときに均一な塗布が難しくなるなど加工上の観点がある。厚みの上限については、これ以上厚くなると、コスト面で不利であり、また、発泡シート2を基材とする積層シート3においては、非発泡であるフィルムの厚み増が全重量に与える影響が大きいので、容器の軽量性というメリットを損なうことになる。尚、プロピレン系樹脂層10は、バリア層を含んでいてもよい。
【0026】
<接着剤層12>
接着剤層12は、プロピレン系樹脂層10と混合樹脂層11の積層方法として、ドライラミネート法を採用する場合は、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、水系アクリルウレタン系接着剤等のドライラミネート接着剤が挙げられるが、接着性能、及び、生産性の観点からウレタン系接着剤が好ましい。接着剤層12の厚み又は塗布量は、特に限定されないが、多層フィルム1の積層方法としてドライラミネート法を採用してドライラミネート接着剤を用いる場合は、好ましくは乾燥重量で0.5〜5g/mであり、より好ましくは1〜3g/mである。
【0027】
<混合樹脂層11>
混合樹脂層11は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が45:55〜70:30であるアロイ成分を有している。アロイ成分は、混合樹脂層11の主成分である。即ち、混合樹脂層11は、スチレン系樹脂を必要量含有したうえで、プロピレン系樹脂をスチレン系樹脂との重量比において少なくとも45:55以上の混合比率で含有する、プロピレンリッチの層である。さらに、混合樹脂層11は、アロイ成分100重量部に対して、スチレン系熱可塑性エラストマー2〜15重量部を有している。また、プロピレン系樹脂は、混合樹脂層11の全重量に対して43〜67重量%であることが好ましい。
【0028】
混合樹脂層11は、石油樹脂を含有していてもよい。混合樹脂層11が石油樹脂を含有する場合、混合樹脂層11の主成分であるアロイ成分は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が45:55〜90:10である。そして、混合樹脂層11は、アロイ成分100重量部に対して、スチレン系熱可塑性エラストマー2〜15重量部と、石油樹脂5〜30重量部を有する。また、プロピレン系樹脂は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーの合計重量(混合樹脂層11の全重量から石油樹脂の重量を除いた重量)に対して43〜86重量%であることが好ましい。
【0029】
混合樹脂層11を構成する基本成分は、耐熱性に寄与するプロピレン系樹脂と、耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との熱接着に寄与するスチレン系樹脂と、相溶化剤としてのスチレン系熱可塑性エラストマーである。スチレン系熱可塑性エラストマーは、耐熱性ポリスチレン系発泡シート2への熱接着にも寄与する。
【0030】
ここで、混合樹脂層11の機能について説明する。従来、プロピレン系樹脂フィルムをスチレン系発泡シートに貼り合わせる場合、予めプロピレン系樹脂フィルムとスチレン系樹脂フィルムとを接着剤層を介して積層した多層フィルムを作製し、この多層フィルムのスチレン系樹脂層とスチレン系発泡シートとを対向させて熱ラミネートして積層シートとしていた。今回、このスチレン系樹脂フィルムに相当する層を、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂とのアロイ成分を主成分とする混合樹脂層11とし、しかも、その混合樹脂層11をプロピレン系樹脂の混合比率が少なくとも45:55以上のプロピレンリッチの構成としたものである。それにより、混合樹脂層11は、耐熱性ポリスチレン系発泡シート2に対する熱接着性だけでなく、プロピレン系樹脂層10を熱伝導してくる、電子レンジ加熱で高温になった食材由来の油分の熱に対する耐熱性も併せ持つ。
【0031】
電子レンジ加熱で高温になった食材由来の油分の熱が、プロピレン系樹脂層10を熱伝導して混合樹脂層11に到達しても、混合樹脂層11の主成分がプロピレンリッチのものあるため、混合樹脂層11が溶融しにくい。そのため、デラミが生じにくくなる。すなわち、混合樹脂層11を設けることによって、プロピレン系樹脂層10の厚みを増した場合と同様の耐デラミ性を、プロピレン系樹脂層10の厚みを増すことなく実現することができる。
【0032】
混合樹脂層11が石油樹脂を含まない場合、耐熱性の観点から、混合樹脂層11の全重量に対して、プロピレン系樹脂の割合は43重量%以上であることが好ましい。プロピレン系樹脂の割合が42重量%以下であると、混合樹脂層11の耐熱性が低下する。また、混合樹脂層11が石油樹脂を含まない場合、混合樹脂層11の全重量に対して、プロピレン系樹脂の割合が67重量%以下であることが好ましい。68重量%以上であると、混合樹脂層11と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との接着強度が弱くなりやすい。混合樹脂層11と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との接着強度が弱くなると、例えば、容器の輸送時の振動や衝撃等によって、多層フィルム1が耐熱性ポリスチレン系発泡シート2から剥離する危険性が高まる。
【0033】
上記した三成分(プロピレン系樹脂、スチレン系樹脂、及び、スチレン系熱可塑性エラストマー)に、さらに石油樹脂を添加すれば、混合樹脂層11と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との接着強度を高めることができるので、アロイ成分に占めるプロピレン系樹脂の割合を、石油樹脂を添加しない場合に比して更に多くすることができる。
【0034】
石油樹脂の添加量は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の合計100重量部に対して、5〜30重量部であることが好ましい。石油樹脂が4重量部以下であると、混合樹脂層11の耐熱性ポリスチレン発泡シート2との間の接着性向上の効果が得られにくく、また、31重量部以上であると、混合樹脂層11の耐熱性が低下しやすい。
【0035】
混合樹脂層11が石油樹脂を含む場合、混合樹脂層11の全重量から石油樹脂の重量を除いた重量に対して、プロピレン系樹脂の割合が43重量%以上であることが好ましい。プロピレン系樹脂の割合が42重量%以下であると、混合樹脂層11の耐熱性が低下するので好ましくない。混合樹脂層11が石油樹脂を含む場合、混合樹脂層11の全重量から石油樹脂の重量を除いた重量に対して、プロピレン系樹脂の割合が86重量%以下であることが好ましい。プロピレン系樹脂の割合が87重量%以上であると、混合樹脂層11と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との接着強度が弱くなりやすい。
【0036】
混合樹脂層11のアロイ成分を構成するプロピレン系樹脂は、プロピレン系樹脂層10を構成するプロピレン系樹脂と同様のものであってよい。即ち、プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体(プロピレン−エチレン共重合体等)等、又は、それらの混合物が挙げられる。プロピレン−αオレフィン共重合体としては、ランダム共重合体、及びブロック共重合体等が挙げられる。
【0037】
混合樹脂層11のアロイ成分を構成するスチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体(GPPS)、多分岐スチレン重合体、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン共重合体、若しくは、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルの混合物、又は、これらの混合物が挙げられるが、好ましくは、スチレン単独重合体(GPPS)、多分岐スチレン重合体、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、又は、これらの混合物である。
【0038】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、未水添のスチレン系熱可塑性エラストマーである、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)、又は、水添されたスチレン系熱可塑性エラストマーである、SEBS(スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体)、SBBS(スチレン−ブチレン・ブタジエン−スチレンブロック共重合体)等が挙げられるが、水添されたスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0039】
スチレン系熱可塑性エラストマーの添加量は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の合計100重量部に対して、2〜15重量部であることが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーが1重量部以下になると、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂との相溶化が十分でなくなる。また、スチレン系熱可塑性エラストマーが16重量部以上になると、混合樹脂層11の耐熱性を低下させる可能性がある。
【0040】
石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、脂環族/芳香族共重合系石油樹脂等が挙げられるが、中でも脂環族/芳香族共重合系石油樹脂が好ましく、特にジシクロペンタジエンと芳香族炭化水素からなる共重合体の水添石油樹脂が好ましい。また、これらの石油樹脂をブレンドして用いてもよい。石油樹脂の軟化点は、混合樹脂層11の耐熱性に及ぼす影響の観点から、100〜150℃の範囲にあることが好ましい、石油樹脂の軟化点が100℃未満であると、耐熱性が低下する。また、軟化点が150℃を超えると、耐熱ポリスチレン系発泡シート2との接着性が低下しやすい。なお、石油樹脂の軟化点は、JIS K2207に準じた環球法を用いて測定した軟化点である。
【0041】
混合樹脂層11を、予めフィルムとして作製する場合の作製方法は、特に限定されないが、Tダイキャスト法やインフレーション法等から選定することができる。
【0042】
混合樹脂層11の厚みは、好ましくは10〜40μm、より好ましくは、15〜35μmの範囲である。フィルムの厚みの下限については、これ以上薄くなると、予めフィルムを作製してドライラミネート法で貼り合わせる場合に、張力がかかったフィルムが破断する恐れや、ドライラミネート接着剤を塗布するときにドライラミネート接着剤を均一に塗布できなくなるなどの加工上の観点からである。フィルムの厚みの上限については、これ以上厚くなると、コスト面で不利であり、また、発泡シート2を基材とする積層シート3においては、非発泡であるフィルムの厚み増が全重量に与える影響が大きいので、容器の軽量性というメリットを損なうことになる。
【0043】
プロピレン系樹脂層10の厚みと混合樹脂層11の厚みの合計は、好ましくは25〜85μmであり、より好ましくは40〜85μmである。プロピレン系樹脂層10の厚みと混合樹脂層11の厚みの合計が25μmを下回ると、電子レンジ加熱で高温になった食材由来の油分の熱が、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との接着界面まで熱伝導することを抑止する距離として不十分である。また、プロピレン系樹脂層10の厚みと混合樹脂層11の厚みの合計が85μmを上回ると、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との熱ラミネート時に熱接着界面まで十分熱が伝わらず、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との接着強度が弱くなりやすい。さらに、後述のように印刷層13を形成した場合には、プロピレン系樹脂層10が厚くなりすぎると、印刷柄の視認性を損なうので好ましくない。
【0044】
尚、図2及び図3に示すように、プロピレン系樹脂層10と混合樹脂層11との間に印刷層13を備えることが好ましい。図2に示す構成では、プロピレン系樹脂層10と接着剤層12との間に印刷層13が設けられている。プロピレン系樹脂層10をフィルムとして構成し、そのフィルムの片面に印刷層13を形成する。この構成では、プロピレン系樹脂層10は透明とされる。図3に示す構成では、接着剤層12と混合樹脂層11との間に印刷層13が設けられている。混合樹脂層11をフィルムとして構成し、そのフィルムの片面に印刷層13を形成する。この構成においても、プロピレン系樹脂層10は透明とされる。印刷層13を備える場合は、印刷柄の視認性の観点から、プロピレン系樹脂層10のヘーズ(JIS K7105に準拠)は15%以下であることが好ましい。
【0045】
<積層シート3>
積層シート3は、多層フィルム1の混合樹脂層11が耐熱性ポリスチレン系発泡シート2と対向するようにして、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2とが熱ラミネートによって貼り合わされたものである。
【0046】
耐熱性ポリスチレン系発泡シート2を構成する樹脂組成物としては、スチレンに耐熱性の付与に有効となるモノマーを共重合させたスチレン−アクリル酸共重合体、スチレンアクリル酸メチル共重合体、スチレンアクリル酸エチル共重合体、スチレンメタクリル酸共重合体、スチレンメタクリル酸メチル共重合体、スチレンメタクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン共重合体等、およびポリスチレンに耐熱性の付与に有効なポリフェニレンエーテルを添加した混合物等、又は、これらの混合物が挙げられるが、ポリスチレンにポリフェニレンエーテルを添加した混合物が好ましい。
【0047】
耐熱性ポリスチレン系発泡シート2は、押出発泡法によって製造することができる。この方法では、押出機等の樹脂供給手段に上記した耐熱性スチレン系樹脂組成物及び気泡核剤等の添加剤を配合した後に押出機にて加熱溶融し、更に発泡剤を添加して混練し、発泡剤含有樹脂を樹脂供給手段の先端に取付けたダイのスリットから押出し、発泡させながら冷却することにより得られる。
【0048】
耐熱性ポリスチレン系発泡シート2の見掛け密度は、0.05〜0.20g/cmの範囲であることが好ましく、0.06〜0.15g/cmの範囲であることがより好ましい。見掛け密度が0.05g/cm未満であると、容器強度が弱くなるおそれがあり、見掛け密度が0.20g/cmを超えると容器重量が重くなり好ましくない。
【0049】
また、耐熱性ポリスチレン系発泡シート2の厚みは0.8〜3.0mmの範囲であることが好ましく、1.0〜2.8mmの範囲がより好ましく、1.2〜2.6mmの範囲が更に好ましい。発泡シート2の厚みが0.8mm未満であると加熱成形時の2次発泡厚みが十分に得られず、容器強度が得られないおそれがある。一方発泡シート2の厚みが3.0mmを超えると、加熱成形時の厚みが厚く、型の再現性が悪くなり、また、容器の積み重ね高さが高くなり、効率的に輸送、保管できなくなるおそれが生じる。
【0050】
耐熱性を付与する樹脂成分としてポリフェニレンエーテルを用いた場合の具体的な一例としては、ポリスチレン(日本ポリスチレン(株)製「G120K」)70重量%、及び、ポリフェニレンエーテル(PPE)とスチレン系樹脂(PS)との混合樹脂(サビック社製「ノリルEFN4230」、PPE/PS=70/30)30重量%からなる樹脂成分100質量部に対して、消臭成分として東亜合成社製のリン酸ジルコニウム系消臭剤(商品名「ケスモンNS10」)を0.5質量部含有する樹脂組成物を押出し発泡して、厚み2.0mm、目付け180g/m2の耐熱発泡シート2を作製することができる。
【0051】
また、耐熱性を付与する樹脂成分としてスチレン−メタクリル酸共重合体を用いた場合の具体的な一例としては、スチレン−メタクリル酸共重合体(PSジャパン(株)製「G9001」)96重量%及びスチレン−ブタジエン共重合体(旭化成(株)製「タフプレンA」4重量%からなる樹脂成分100質量部に対して、タルク1重量部を含有する樹脂組成物を押出し、発泡剤として混合ブタンを用いて、目付け200g/m、厚み1.9mm、見掛け密度0.11g/cmの耐熱発泡シート2を作製することができる。
【0052】
多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2は熱ラミネートにより貼り合わせられる。ロール状に巻回された原反の多層フィルム1と原反の耐熱性ポリスチレン系発泡シート2をそれぞれ繰り出して、対向する一対の加熱ローラで多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2を挟み込んで貼り合わせる。この際、加熱ローラの温度は、好ましくは170〜230℃であり、より好ましくは185〜220℃である。
【0053】
多層フィルム1の混合樹脂層11と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との剥離強度は、JIS K 6854−1:1999に準じて、雰囲気温度25℃、90度剥離、試験片幅25mmの条件下で測定したときに、1.5N/25mm以上であることが好ましい。これを下回ると、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との剥離強度が弱く、容器の輸送時の振動や衝撃等によって、多層フィルム1が剥離する危険性が高まる。
【0054】
<熱成形容器>
積層シート3は熱成形により容器形状に成形される。具体的には、加熱されて軟化した積層シート3と金型との間の空間を真空状態にし、積層シート3を金型に密着させて成形を行う真空成形や、加熱されて軟化した積層シート3を圧縮空気により金型に密着させて成形を行う圧空成形を用いることができ、好ましくは、真空成形を行うとともに圧空成形を行う真空圧空成形を用いて形成することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。表1に実施例、比較例の内容を示している。
【0056】
【表1】
【0057】
[実施例1〜14、比較例2〜4]
<使用材料>
(混合樹脂層11(フィルム)の作製に用いた樹脂)
・プロピレン系樹脂(プロピレン単独共重合体):サンアロマー(株)製「PL500A」、融解ピーク温度(Tpm)164℃
・スチレン系樹脂:DIC(株)製「HP−100F−1」
・熱可塑性エラストマー(SBBS):旭化成(株)製「タフテックP2000」
・石油樹脂A:出光興産(株)製「アイマーブP−140」、軟化点140℃
・石油樹脂B:荒川化学工業(株)製「アルコンP140」、軟化点140℃
【0058】
<混合樹脂層11(フィルム)の作製>
表1に記載した配合にしたがって、プロピレン系樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、石油樹脂Aを混合し、単軸押出機(口径φ30mm)に供給して溶融混練し、単軸押出機の先端に接続した口径φ50mmのインフレーションダイから押出し、冷却しながら引取りロールの速度を調整することにより、各厚み(10μm、25μm、35μm)のフィルムを作製した。
【0059】
<多層フィルム1の作製>
プロピレン系樹脂層10としては、未延伸ポリプロピレンフィルム(サン・トックス(株)製「KL12」、厚み15μm、25μm、厚み50μm)を用いた。未延伸ポリプロピレンフィルムに、グラビアインキを印刷して印刷層13を形成した。その後、ウレタン系接着剤(DICグラフィックス(株)製、主剤「ディックドライ LX−401A」、硬化剤「ディックドライSP−60」)を印刷層13面にグラビアロールで塗布して接着剤層12を形成し、これに上記混合樹脂層11(フィルム)を貼り合わせた。
【0060】
<積層シート3>
上記多層フィルム1を、ポリフェニレンエーテル系の耐熱性ポリスチレン系発泡シート2(積水化成品工業(株)製、坪量110g/m、厚み1.8mm、見掛け密度0.07g/cm)に、熱ラミネート法で積層した。熱ラミネート条件は、加熱ロールの温度を220℃に設定し、多層フィルム1の総厚みに応じてロール速度を5〜14m/分の範囲で変更した。
【0061】
<熱成形容器>
上記積層シート3を、真空、圧空成形機を用いて、多層フィルム1が容器内側になるようにして、開口径184mm、底部径140mm(面積154cm)、深さ34mmの円形容器を作製した。
【0062】
[実施例15]
耐熱性ポリスチレン系発泡シート2として、スチレン−メタクリル酸共重合体(PSジャパン(株)製「G9001」)96重量%、及び、スチレン−ブタジエン共重合体(旭化成(株)製「タフプレンA」4重量%からなる樹脂成分100重量部に対して、タルク1重量部を含有する樹脂組成物を押出し、発泡剤として混合ブタンを用いて、目付け200g/m、厚み1.9mm、見掛け密度0.11g/cmで作製した、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体系の耐熱発泡シート2を用いた以外は、実施例1〜14、比較例2〜4と同様にして、評価を行った。なお、表1中、耐熱性ポリスチレン系発泡シート2の項目における「MMA系」の記載は、スチレン−メタクリル酸共重合体系の耐熱性ポリスチレン系発泡シート2を示したものである。
【0063】
[実施例16]
石油樹脂Bを用いた以外は、実施例1〜14、比較例2〜4と同様にし、評価を行った。
【0064】
[比較例1]
混合樹脂層11(フィルム)の代わりに、ポリスチレン系フィルム(エフピコアルライト(株)製、組成HIPS75%+GPPS25%)を用いた以外は、実施例1〜14、比較例2〜4と同様にし、評価を行った。
【0065】
なお、表1中、混合樹脂層11の項目に、石油樹脂を含まない場合は混合樹脂層11の全重量に対する、また石油樹脂を含む場合は混合樹脂層11の全重量から石油樹脂の重量を除いた重量に対する、プロピレン系樹脂の重量割合を示した。また、表1中、耐熱性ポリスチレン系発泡シート2の項目における「PPE系」の記載は、ポリフェニレンエーテル系の耐熱性発泡シート2を示したものである。
【0066】
<評価方法>
(1)剥離強度(接着強度)
実施例、比較例で作製した積層シート3の、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2と間の剥離強度を、JIS K 6854−1:1999に準じて測定した。具体的には、積層シート3から、幅25mm×長さ150mmの試験片を、長さ方向がシートの流れ方向と平行になるようにして切り出し、引張試験機((株)島津製作所製「AGS−X」)を用いて、引張速度500mm/分、90度剥離の条件で、雰囲気温度25℃における、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との剥離強度(単位:N/25mm)を測定した。なお、多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2とが熱接着界面で剥離せずに、多層フィルム1が耐熱性ポリスチレン系発泡シート2の発泡層ごと剥がれてしまう場合は、評価結果を「剥離せず」とした。
【0067】
(2)電子レンジテスト(デラミ評価)
実施例、比較例で作製した容器に、市販のスパゲティカルボナーラ400gを容器底部に隙間がないように敷きつめ、表2に示した所定のワット数と時間で加熱した。加熱後、容器からスパゲティを除去して、容器底部のデラミが発生している部分の面積を測定し、以下の評価基準で評価を行った。
◎:デラミが発生していない。
○:デラミ面積が、底部面積の2%未満
△:デラミ面積が、底部面積の2%以上5%未満
×:デラミ面積が、底部面積の5%以上(デラミ発生面積の割合を括弧内に表記。)
【0068】
<評価結果>
多層フィルム1と耐熱性ポリスチレン系発泡シート2との剥離強度、電子レンジテスト(デラミ評価)の結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2のように、実施例1〜16において、十分な剥離強度が得られ、また、容器の電子レンジテストも好結果が得られた。一方、混合樹脂層11(フィルム)に代えてPS系フィルムを用いた比較例1においては、剥離強度は問題ないレベルであったものの、容器の電子レンジテストでは、デラミが目立って発生した。
【0071】
比較例2は、混合樹脂層11に石油樹脂が混合されていない場合であって、混合樹脂層11のアロイ成分におけるプロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が75:25のものである。この比較例2の場合には、容器の電子レンジテストにおいては目立ったデラミが発生せず好結果が得られたものの、積層シート3の剥離強度が1.1N/25mmと小さく、十分な剥離強度が得られなかった。比較例2は、混合樹脂層11においてプロピレン系樹脂の比率が高くスチレン系樹脂の比率が低いため、耐熱性に関しては良好な結果が得られたものの、十分な剥離強度は得られなかったと考えられる。
【0072】
比較例3は、混合樹脂層11に石油樹脂が混合されていない場合であって、混合樹脂層11のアロイ成分におけるプロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が40:60のものである。この比較例3の場合には、積層シート3の剥離強度は十分であったものの、容器の電子レンジテスト、特に高温条件においてデラミが目立って発生した。比較例3は、混合樹脂層11においてプロピレン系樹脂の比率が低くスチレン系樹脂の比率が高いため、積層シート3の剥離強度は得られたものの、耐熱性が低く、デラミが発生したものと考えられる。
【0073】
比較例4は、混合樹脂層11に石油樹脂が混合されている場合であって、混合樹脂層11の石油樹脂がアロイ成分100重量部に対して37重量部のものである。この比較例4の場合には、積層シート3の剥離強度は十分であったものの、容器の電子レンジテスト、特に高温条件においてデラミが目立って発生した。比較例4は、混合樹脂層11において石油樹脂の含有比率が高いため、積層シート3の剥離強度は十分に得られたものの、耐熱性が低く、デラミが発生したものと考えられる。
【符号の説明】
【0074】
1 多層フィルム
2 発泡シート
3 積層シート
10 プロピレン系樹脂層
11 混合樹脂層
12 接着剤層
13 印刷層
【要約】
【課題】プロピレン系樹脂層を厚くすることなく、電子レンジ加熱で高温になった食材由来の油分の熱に起因するデラミを抑制することができる、熱成形シート積層用多層フィルム、熱成形用積層シート、及び、熱成形容器を提供する。
【解決手段】熱成形用の耐熱性ポリスチレン系発泡シートに熱ラミネートにより積層される多層フィルム1であって、プロピレン系樹脂層10と、混合樹脂層11と、プロピレン系樹脂層10と混合樹脂層11との間に位置し、プロピレン系樹脂層10と混合樹脂層11とを積層させる接着剤層12とを備え、混合樹脂層10は、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂の重量比が45:55〜70:30であるアロイ成分を主成分とし、さらに、アロイ成分100重量部に対してスチレン系熱可塑性エラストマー2〜15重量部を有している。
【選択図】図1
図1
図2
図3