(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、植物栽培室では、暖房を行う時期に室外と室内の温度差によって、室外と室内とを隔てる区画壁や天井の内面に沿って、境膜による断熱層(層流状態の薄い冷気層)が形成される。また、植物栽培室の地面付近には冷気が堆積する。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の暖房装置は、温風を利用した強制対流によって植物栽培室の暖房を行う。そのため、温風による空気の乱れ(例えば、秒速1.5mの温風の場合は乱気流が生じる)によって、境膜が剥離されて境膜の冷気が室内に拡散し、さらに地面付近の冷気も室内に拡散する。従って、暖房開始時に室内温度が一時的に大きく低下して熱負荷が大きくなり、エネルギー消費量が増大する。なお、境膜とは、二相境界に存在する、層流状態が保たれている極薄の領域のことである。この領域においては、熱の移動が熱伝導、物質の移動が分子拡散によって起こると考えられ、熱の移動がバルクの対流に比べて極めて遅いとされている。
【0007】
また、特許文献2に記載の暖房装置は、伝熱管群がハウス内床面に敷設されている。そのため、温水が流れる伝熱管群から生じる自然対流によって、地面付近の冷気が室内に拡散して室内の温度が一時的に低下し、エネルギー消費量が増大する。
【0008】
また、特許文献3に記載の栽培用装置は、通水管からの熱を効率よく植木鉢に伝達させる構成となっているため、供給された温熱の多くが植木鉢の土壌を温めるのに利用される。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、エネルギー消費量を抑制しつつ、植物栽培室の植物を広範囲に暖房できる植物栽培室用の暖房システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するべく、第1の発明は、植物栽培室用の暖房システムであって、植物栽培室において、加温対象の植物の近傍に延設されたヒートシンクと、ヒートシンクへ温熱を供給する熱源部とを備え、ヒートシンクは、自然対流によって植物を加温するためのフィンを有し、植物の側方において室内空間に露出した状態で、植物栽培室の地面から上方に離間した所定の高さに支持されている。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、ヒートシンクには、熱源部で加熱された冷媒が供給され、植物栽培室の室外の外気温を計測する外気温センサと、室内空間の設定温度から外気温センサの計測温度を引いた温度差に所定の係数を加えた温度を、ヒートシンクへ供給する冷媒の目標温度として、熱源部を制御する制御部とを備えている。
【0012】
第3の発明は、第2発明において、所定の係数は、30℃以上50℃以下の値である。
【0013】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、室内空間の温度を計測する室温センサを備え、制御部は、室温センサの計測温度が設定温度に達した場合に、熱源部からヒートシンクへの冷媒の供給を停止する、又は、冷媒の供給量を減少させ、室温センサは、加温対象の植物の上部における空気の温度を計測する。
【0014】
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、植物栽培室では、複数の植物が一方向に沿って並べられた植物列が複数存在しており、ヒートシンク及び熱源部が接続されて、冷媒が循環する冷媒回路を備え、冷媒回路は、複数の植物列に沿って延びる複数の分岐回路に分岐し、複数の分岐回路の各々では、植物列における複数の植物に対応して設けられた複数のヒートシンクが並列に接続されている。
【0015】
第6の発明は、植物栽培室に設置されたヒートシンクへ供給する冷媒を加熱する加熱装置であって、植物栽培室の室外の外気温を計測する外気温センサに接続され、植物栽培室の室内空間の設定温度から、外気温センサの計測温度を引いた温度差に所定の係数を加えた温度を目標温度として、ヒートシンクへ供給する冷媒の温度を制御する制御部を備えている。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明では、ヒートシンクが室内空間に露出しているため、ヒートシンクの表面と室内空気との温度差によってヒートシンクから温熱が放出され、自然対流が発生する。ヒートシンクは、自然対流によって植物を加温するための放熱フィンを有する。従って、特許文献3に記載の栽培用装置とは異なり、ヒートシンクから放出される温熱が、主に自然対流によってヒートシンクの上側領域に広がる。なお、ヒートシンクに接触する物体(例えば、植木鉢など)があったとしても、接触面積は小さく、その物体に対する熱伝導による放熱量に比べて、室内空気への放熱量が多くなる。そのため、ヒートシンク近傍の加温対象の植物を包むように、室内空気が加温される暖房領域が形成され、加温対象の植物を広範囲に暖房できる。自然対流における気体の流速は、極めて遅く、送風装置のように乱気流を発生させない。また、ヒートシンクが地面から上方に離間しているため、自然対流によってヒートシンク下側の冷気(地面付近の冷気)はほとんど乱されない。そのため、地面付近の冷気が拡散しにくく、熱負荷が小さい。第1の発明によれば、エネルギー消費量を抑制しつつ、植物栽培室の植物を広範囲に暖房できる。また、自然対流を利用して植物を加温するため、植物が過度に加温されることがなく、植物に急激な温度変化が生じず、植物を適切に加温することができる。
【0017】
第2の発明では、室内空間の設定温度から外気温センサの計測温度を引いた温度差に所定の係数を加えた温度を、ヒートシンクへ供給する冷媒の目標温度として、熱源部が制御される。ここで、外気温度センサの計測温度を引かない場合は、外気温が比較的高い暖房条件の時に、自然対流による上昇気流が強くなり過ぎ、上昇気流の主成分が植物栽培室の天井にまで到達する。その結果、天井付近の境膜の冷気が室内に拡散し、暖房開始時に室内温度が一時的に低下して熱負荷が大きくなり、エネルギー消費量が増大する。それに対し、外気温度センサの計測温度を引くことで、自然対流による上昇気流が強くなり過ぎることを防止し、上昇気流の主成分が植物栽培室の天井にまで到達することを抑制できる。従って、エネルギー消費量を抑制することができる。
【0018】
第3の発明では、所定の係数を30℃以上50℃以下の値にすることで、加温対象の植物に対し適正な範囲を加温することができる。
【0019】
第4の発明では、ヒートシンクへの冷媒の供給を停止する、又は、冷媒の供給量を減少させる制御に用いる室温センサが、加温対象の植物の上部における空気の温度を計測する。そのため、加温対象の植物に対し適正な範囲を加温することができる。
【0020】
第5の発明では、植栽列における複数の植物に対応して、複数のヒートシンクが設けられているため、各ヒートシンクで生じる自然対流によって各植物が加温される。そのため、加温対象の植物に対し適正な範囲を加温することができる。複数のヒートシンクは並列に接続されているため、複数のヒートシンクでは供給される冷媒の温度が略均一となるため、植栽列における複数の植物を均一な温度で加温することができる。
【0021】
第6の発明では、第2の発明と同様に、エネルギー消費量を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1−
図8を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0024】
まず植物栽培室10について説明する。植物栽培室10は、例えばビニールハウスである。本実施の形態では、後述する暖房システム20によって暖房するビニールハウスとして、互いに隣接する第1ハウス10aと第2ハウス10bとが設けられている。各ハウス10a,10bの室内は、
図1及び
図2に示すように、複数の植物15(例えば、マンゴー、パプリカなどの果樹や、水なすなどの果樹以外の植物)が所定の方向(
図2では左右方向)に沿って並ぶ植物列が複数存在している。隣り合う植物列の間は、人が通ることができるように間隔が空けられている。各ハウス10a,10bの屋根は、山型形状に形成されている。後述するヒートシンク28は、各ハウス10a,10bに植物15が存在する状態で設置される。なお、後述する暖房システム20によって暖房するビニールハウスは、
図3に示すように1室であってもよい。
【0025】
[1.植物栽培室用の暖房システムの基本構成について]
続いて、植物栽培室用の暖房システム20について説明する。暖房システム20は、
図2(a)に示すように、冷媒が循環する冷媒回路22を備えている。冷媒としては、例えば水が用いるが、フロン冷媒などを用いることもできる。冷媒回路22には、冷媒を循環させる循環ポンプ24と、冷媒を加熱する加熱装置26とが接続されている。加熱装置26としては、ボイラー給湯器を用いる。但し、他のタイプの加熱装置を用いることもできる。循環ポンプ24と加熱装置26は、室外ユニット23に収容されている。循環ポンプ24と加熱装置26は、各ヒートシンク28へ温熱を供給する熱源部を構成する。
【0026】
冷媒回路22では、配管によって複数のヒートシンク28が、循環ポンプ24及び加熱装置26に接続されている。冷媒回路22は、循環ポンプ24の吐出口の下流の分岐箇所31で、第1の一次分岐回路22aと第2の一次分岐回路22bとに分岐し、これらの一次分岐回路22a,22bは、循環ポンプ24の吸入口の上流の合流箇所32で合流している。第1の一次分岐回路22aは、第1ハウス10aを暖房するための回路である。第2の一次分岐回路22bは、第2ハウス10bを暖房するための回路である。
【0027】
各一次分岐回路22a,22bは、
図2(a)における左側(室外ユニット23側)で、複数の二次分岐回路38(
図2(a)では4つの二次分岐回路38)に分岐し、
図2(a)における右側で合流している。複数の二次分岐回路38は並列に接続されている。各二次分岐回路38では、複数のヒートシンク28(
図2(a)では4つのヒートシンク28)が並列接続されている。第1の一次分岐回路22aでは、複数の二次分岐回路38に分岐する箇所の手前に第1開閉弁V1が設けられている。第2の一次分岐回路22bでは、複数の二次分岐回路38に分岐する箇所の手前に第2開閉弁V2が設けられている。また、分岐箇所31の上流と合流箇所32の下流とは、第3開閉弁V3が設けられた短絡回路35によって接続されている。
【0028】
各二次分岐回路38では、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、上流側配管38aと下流側配管38bとの間に、複数のヒートシンク28が並列に接続されている。上流側配管38aと下流側配管38bは、植物列に沿って略水平に延びている。ヒートシンク28の入口に接続する入口側配管28cは上流側配管38aから上方に延び、ヒートシンク28の出口に接続する出口側配管28dは下流側配管38bから上方に延びている。各ヒートシンク28は、植物列に沿って延設され、対応する植物15の植木鉢29に載せられた状態で、室内空間に露出している。本実施の形態では、1つの植物15に対し1つのヒートシンク28が設けられている。ヒートシンク28の長さは、植物15の樹冠の幅に略等しくなっている。
【0029】
暖房システム20では、加熱装置26の運転及び循環ポンプ24の運転を行うことにより、暖房運転が行われる。暖房運転中は、加熱装置26で加熱された冷媒(温水)が、冷媒回路22を循環する。具体的に、加熱装置26から吐出された冷媒は、複数の一次分岐回路22a,22bに分岐し、各一次分岐回路22a,22bにおいてさらに複数の二次分岐回路38に分岐する。冷媒は、各二次分岐回路38を通過する際にヒートシンク28で放熱する。そして、各二次分岐回路38を通過した後に合流して、加熱装置26に戻る。
【0030】
各ヒートシンク28では、加熱装置26から供給された温熱が、接触する空気に放熱される。その結果、各ヒートシンク28から自然対流が生じる。自然対流は、
図1に示すように、ヒートシンク28付近から室内空間の上層手前まで上昇し、上層に溜まる冷気に冷却されて下降する。ある程度の流速の自然対流(自然対流の主成分)が生じる領域は、ヒートシンク28から温熱が供給されて暖房される暖房領域(
図1において、破線の矢印の内側領域)となる。
【0031】
[2.ヒートシンクの詳細について]
続いて、ヒートシンク28の構成や高さ位置について説明を行う。以下の説明は、1つのヒートシンク28についての説明であるが、他のヒートシンク28も同じである。
【0032】
ヒートシンク28は、
図4に示すように、冷媒回路22に接続される管部28aと、自然対流によって植物15を加温するための複数の放熱フィン28bとを備えている。ヒートシンク28では、複数の放熱フィン28bが管部28aの外周面から放射状に延びている。複数の放熱フィン28bのうち、基端側(中心側)が斜め方向に延びる放熱フィン28bは、途中で折れ曲がり、先端側が横方向に延びている。ヒートシンク28の断面寸法は、例えば幅が10cmで高さが10cmであるが、この寸法に特に限定されない。なお、ヒートシンク28としては、
図5−7に示す形態など様々な形態のものを用いることができる。
【0033】
ヒートシンク28は、植物15の近傍において、その植物15の樹冠の下方に位置するように設置される。ヒートシンク28は、植物15の側方において室内空間に露出した状態で、
図1及び
図2(b)に示すように、各ハウス10a,10bの地面16から上方に離間した所定の高さに支持されている。ヒートシンク28は、入口側配管28c、出口側配管28d、及び植木鉢29によって支持されている。なお、ヒートシンク28を支持する支持部材としては、これらに限定されない。ヒートシンク28の下端の高さ(地面16からの距離)は、ヒートシンク28による自然対流によって、地面16付近に堆積した冷気(冬季などに堆積した冷気)がその上側の空気(地面16付近より暖かい空気)に混ざらないように設定する。ヒートシンク28の下端の高さは、30cmに設定する。例えば、ヒートシンク28の下端の高さは、20cm以上50cm以下に設置できる。
【0034】
[3.植物栽培室用の暖房システムの制御について]
図8のフローチャートを参照して、暖房システム20の制御について説明する。暖房システム20は、冷媒回路22における冷媒の循環状態などを制御する制御部50を備えている。なお、以下では、第1ハウス10aの配管をAブロック、第2ハウス10bの配管をBブロックと言う。また、各ブロックについて、冷媒が循環している状態を「循環状態」と言い、冷媒が循環していない状態を「循環停止状態」と言う。
【0035】
ハウス10a,10bの室外には、
図2(b)に示すように、室外の外気温を計測する外気温センサ61が設けられている。また、第1ハウス10aと第2ハウス10bとの各々に、1つずつ室内空間の温度を計測する室温センサ62が設けられている。各室温センサ62は、加温対象の植物15の上部に設置され、その設置位置おける空気の温度を計測する。外気温センサ61の計測温度と、各室温センサ62の計測温度とは、制御部50に入力される。
【0036】
また、室外ユニット23には、室内空間の設定温度STを入力するための入力パネル(図示省略)が設けられている。入力パネルに入力された室内空間の設定温度STは、制御部50に入力される。
【0037】
暖房システム20の運転は、例えばビニールハウスの管理者が入力パネルのスイッチをONに切り替えることで開始される。なお、外気温センサ61の計測温度OTが所定の判定温度を下回った場合に、制御部50が暖房システム20の運転を自動的に開始するようにもできる。
【0038】
まずステップST1では、制御部50が、冷媒(温水)の目標温度WTを設定する。目標温度WTは、式1を用いて設定される。なお、冷媒の目標温度WTは、循環ポンプ24の出口温度でもよいし、各ヒートシンク28の入口温度であってもよい。
式1:WT=ST−OT+α
【0039】
式1において、STは室内空間の設定温度、OTは外気温センサ61の計測温度、αは加算係数を表す。制御部50は、室内空間の設定温度STから外気温センサ61の計測温度OTを引いた温度差に所定の加算係数αを加えた温度を、ヒートシンク28へ供給する冷媒の目標温度として、加熱装置26を制御する。
【0040】
加算係数αは、例えば、35℃以上45℃以下の値が用いられる。ビニールハウスは、植物15が存在する室内空間に対して、2重張りや3重張りにする場合がある。例えば、加算係数αは、1重張りの場合に45℃、2重張りの場合に40℃、3重張りの場合に35℃とすることができる。加算係数αを決める要素としては、室内空間と室外との間の断熱状態以外に、ヒートシンク28における放熱量(ヒートシンク28の大きさ(断面寸法など)、ヒートシンク28における冷媒流量)を用いることもできる。なお、加算係数αは、例えば、30℃以上50℃以下の値であればよい。
【0041】
ビニールハウスが2重張りの場合(加算係数αが40℃の場合)に、室内空間の設定温度STが25℃で、外気温センサ61の計測温度OTが2℃であれば、冷媒の目標温度WTは63℃に設定される。また、2重張りの場合に、室内空間の設定温度STが15℃で、外気温センサ61の計測温度OTが5℃であれば、冷媒の目標温度WTは50℃に設定される。なお、室内空間の設定温度STは、植物15の育成状態に応じて管理者が入力する。
【0042】
続いて、制御部50は、ステップST2において、制御部50は、第1開閉弁V1及び第2開閉弁V2をそれぞれ閉状態から開状態へ切り替え、循環ポンプ24の運転を開始させると共に、加熱装置26の運転を開始させる。第3開閉弁V3は閉状態から切り替えない。
【0043】
これにより、加熱装置26で加熱された冷媒が、循環ポンプ24から吐出され、分岐箇所31で第1の一次分岐回路22aと第2の一次分岐回路22bとに分配される。各一次分岐回路22a,22bでは、冷媒が複数の二次分岐回路38に分配されて、各二次分岐回路38のヒートシンク28で放熱する。各一次分岐回路22a,22bでは、各二次分岐回路38で放熱した冷媒が合流する。そして、第1の一次分岐回路22aを通過した冷媒と、第2の一次分岐回路22bを通過した冷媒とが、合流箇所32で合流して、加熱装置26に流入し、再び加熱される。
【0044】
続いて、制御部50は、ステップST3において、第1ハウス10aの室温センサ62の計測温度T
Aが設定温度STを超えているか否かを判定する。制御部50は、計測温度T
Aが設定温度STを超えていると判定した場合(第1ハウス10aの温度が設定温度OTに到達している場合)に、ステップST4において、第2ハウス10bの室温センサ62の計測温度T
Bが設定温度STを超えているか否かを判定する。制御部50は、計測温度T
Bが設定温度STを超えていると判定した場合(第2ハウス10bの温度が設定温度OTに到達している場合)に、ステップST5において、第1開閉弁V1及び第2開閉弁V2をそれぞれ閉状態へ切り替え、第3開閉弁V3を開状態へ切り替えることで、各一次分岐回路22a,22bに冷媒を供給せずにショートカットさせる短絡状態へ切り替える。
【0045】
続いて、制御部50は、ステップST6において、暖房システム20の運転を終了させるか否かを判定する。制御部50は、入力パネルにおいてスイッチがOFFに切り替えられている場合に、運転終了と判定する。これにより、フローチャートの処理は終了する。なお、外気温センサ61の計測温度OTが所定の判定温度以上となった場合に、運転終了と判定してもよい。
【0046】
また、ステップST3において計測温度T
Aが設定温度STを超えていないと判定した場合(第1ハウス10aの温度が設定温度OTに到達していない場合)、制御部50は、ステップST7において、Aブロックが循環状態であれば循環状態に維持し、循環停止状態であれば循環状態へ切り替える。Aブロックの循環状態では、少なくとも第1開閉弁V1が開状態となり第3開閉弁V3が閉状態となる。制御部50は、室温センサ62の計測温度が設定温度STに達した場合に、熱源部からヒートシンク28への冷媒の供給を停止する。
【0047】
次に、制御部50は、ステップST8において、第2ハウス10bの室温センサ62の計測温度T
Bが設定温度STを超えているか否かを判定する。制御部50は、計測温度T
Bが設定温度STを超えていると判定した場合に、ステップST9において、Bブロックが循環状態であれば循環停止状態に切り替え、循環停止状態であれば循環停止状態を維持する。一方、制御部50は、ステップST8において計測温度T
Bが設定温度STを超えていないと判定した場合に、ステップST10において、Bブロックが循環状態であれば循環状態に維持し、循環停止状態であれば循環状態へ切り替える。Bブロックの循環状態では、少なくとも第2開閉弁V2が開状態となり第3開閉弁V3が閉状態となる。ステップST9又はステップST10が終了すると、ステップST6に移行する。
【0048】
また、ステップST4において計測温度T
Bが設定温度STを超えていないと判定した場合(第2ハウス10bの温度が設定温度OTに到達していない場合)、制御部50は、ステップST11において、Bブロックが循環状態であれば循環状態に維持し、循環停止状態であれば循環状態へ切り替える。
【0049】
次に、制御部50は、ステップST12において、第1ハウス10aの室温センサ62の計測温度T
Aが設定温度STを超えているか否かを判定する。制御部50は、計測温度T
Aが設定温度STを超えていると判定した場合に、ステップST13において、Aブロックが循環状態であれば循環停止状態に切り替え、循環停止状態であれば循環停止状態を維持する。一方、制御部50は、ステップST12において計測温度T
Aが設定温度STを超えていないと判定した場合に、ステップST14において、Aブロックが循環状態であれば循環状態に維持し、循環停止状態であれば循環状態へ切り替える。ステップST13又はステップST14が終了すると、ステップST6に移行する。
【0050】
[4.実施の形態の効果等]
本実施の形態では、ヒートシンク28が室内空間に露出しているため、ヒートシンク28の表面と室内空気との温度差によってヒートシンク28から温熱が放出され、自然対流が発生する。ヒートシンク28は、自然対流によって植物15を加温するための放熱フィン28aを有する。従って、ヒートシンク28から放出される温熱が、主に自然対流によってヒートシンク28の上側領域に広がる。なお、ヒートシンク28に植木鉢29が接触しているが、接触面積は小さく、その植木鉢29に対する熱伝導による放熱量に比べて、室内空気への放熱量が多くなる。そのため、ヒートシンク28近傍の加温対象の植物15を包むように、室内空気が加温される暖房領域が形成され、加温対象の植物15を広範囲に暖房できる。また、ヒートシンク28が地面から上方に離間しているため、自然対流によってヒートシンク28下側の冷気(地面16付近の冷気)はほとんど乱されない。そのため、地面16付近の冷気が拡散しにくく、熱負荷が小さい。本実施の形態によれば、エネルギー消費量を抑制しつつ、植物栽培室の植物15を広範囲に暖房できる。また、自然対流を利用して植物15を加温するため、植物15が過度に加温されることがなく、植物15に急激な温度変化が生じず、植物15を適切に加温することができる。
【0051】
本実施の形態では、室内空間の設定温度STから外気温センサ61の計測温度OTを引いた温度差に所定の加算係数αを加えた温度を、ヒートシンク28へ供給する冷媒の目標温度WTとして、加熱装置26が制御される。そのため、自然対流による上昇気流が強くなり過ぎることを防止し、上昇気流の主成分が各ハウス10a,10bの天井にまで到達することを抑制できる。従って、エネルギー消費量を抑制することができる。
【0052】
本実施の形態では、所定の係数を30℃以上50℃以下の値にすることで、自然対流による暖房領域によって植物15が広く覆われ、且つ、植物15を覆わない暖房領域が狭くなり、加温対象の植物15に対し適正な範囲を加温することができる。
【0053】
本実施の形態では、ヒートシンク28への冷媒の供給を停止する室温センサ62が、加温対象の植物15の上部における空気の温度を計測する。そのため、加温対象の植物15に対し適正な範囲を加温することができる。なお、第1開閉弁V1及び第2開閉弁V2によって流量制御が可能な場合は、循環状態から循環停止状態へ切り替える代わりに、通常状態から冷媒の循環量を減少させた循環減少状態へ切り替える制御を適用することができる。
【0054】
本実施の形態では、植栽列における複数の植物15に対応して、複数のヒートシンク28が設けられているため、各ヒートシンク28で生じる自然対流によって各植物15が加温される。そのため、加温対象の植物15に対し適正な範囲を加温することができる。複数のヒートシンク28は並列に接続されているため、複数のヒートシンク28では供給される冷媒の温度が略均一となるため、植栽列における複数の植物15を均一な温度で加温することができる。
【実施例】
【0055】
植物栽培室用の暖房システムの省エネルギー効果を確認するために、本発明に係る暖房システムと、従来の温風式暖房システムとを比較した。
【0056】
暖房システムの設置場所は、鹿児島県大崎町に設けられた2棟のビニールハウス(植物栽培室)である。各ビニールハウスの敷地面積は400m
2であり、一方に従来の温風式暖房システムを設置し、他方に本発明に係る暖房システムを設置した。そして、2015年2月28日の午前2時00分(外気温は7.6℃)における各暖房システムの発熱量を計測した。また、2015年2月28日から3月8日までの9日間に亘って各暖房システムでボイラーの燃料として使用したA重油の消費量を計測した。
【0057】
<従来の暖房システム>
従来の暖房システムとして、温風式暖房機を用いた。この温風式暖房機では、温風式加温器が、ビニール製丸ダクトに温風を吐出する。丸ダクトは、口径が約300mmであり、果樹列の中間部に設置されている。ダクトには、1m間隔で直径2cmの吹出口が形成されている。温風式加温器は、ビニールハウス床面積の1m2当たり毎分0.2m3の温風(40℃から50℃の温風)をダクトに吐出する。ダクトからは、温風が天井方向に秒速1.5mの流速で吹き出される。
【0058】
図9は、ビニールハウス内の気温の経時変化を示すグラフである。従来の暖房システムは、植物の最上部に設けた温度センサの計測温度の目標値を15℃、差動設定を±0.5℃に設定した。そのため、温度センサの計測温度が14.5℃まで下がると、暖房運転が開始されて送風機が稼働した。これにより、外気温度と室内温度の温度差により壁面に発生する境膜による断熱層が剥離されて、冷気が拡散したため、ビニールハウス内の気温が1℃下がった。そして、温度センサの計測温度が15.5℃に到達すると、暖房運転を停止した。15.5℃になるまで30分間を要した。そして、温度センサの計測温度が再び14.5℃まで下がると、暖房運転を再開した。延べ50分間に亘る暖房運転での発熱量は33kWであった。また、ビニールハウス内温度の上限が15.5℃、下限が13.5℃となり、温度斑は、2℃を記録した。また、上述したように、暖房運転の開始時に、境膜の冷気の拡散による急激な温度低下現象が見られた。
【0059】
<本発明に係る暖房システム>
上述の実施の形態で説明した暖房システムを設置した。
図10は、ビニールハウス内の気温の経時変化を示すグラフである。温度センサの計測温度の目標値を15℃、差動設定を±0.5℃に設定して、暖房運転を行った。そのため、温度センサの計測値が14.5℃まで下がると、暖房運転が開始され、15.5℃に到達すると暖房運転が停止した。ヒートシンクに温熱が供給されると、毎秒10cm〜20cm程度の自然対流が発生し、自然対流によって熱が移動する。ビニールハウスの壁面の冷気境膜付近では、流速は観測されず、境膜の冷気は室内に拡散しなかった。
【0060】
暖房運転の停止後は、ヒートシンクに蓄熱された熱エネルギーが放出されるため、従来の暖房システムに比べて温度低下量が小さい。暖房運転の開始から次の開始まで50分を要し、その期間の発熱量は、19.8kWhであった。最高温度15.5℃、最低温度14.5℃、温度斑は1℃を記録した。また、従来の暖房システムで見られた暖房運転開始時の急激な温度低下は確認されなかった。
【0061】
図11は、延べ9日間における各暖房システムでの燃料消費量を示す。従来の温風式暖房システムの燃料消費量は、403.7リットルで、本発明に係る暖房システムの燃料消費量は、264.65リットルであった。本発明に係る暖房システムは、従来の温風式暖房システムに比べて38.5%燃料を節約できた。