(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一仮フィラープレート挿入工程及び前記第二仮フィラープレート挿入工程では、前記既存免震装置と前記上部構造又は前記下部構造とを固定している前記固定ボルトとの干渉を避けるように、それぞれ平面視短冊状に形成された前記第一仮フィラープレート及び前記第二仮フィラープレートを挿入することを特徴とする請求項2に記載の免震装置の交換方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上部構造体(または下部構造体)の不陸調整のために、上部構造体(または下部構造体)とジャッキ装置との間の隙間にグラウト材が注入されることがある。この場合、免震装置を交換後、ジャッキ装置を撤去する際には、グラウト材が上部構造体(または下部構造体)に付着してしまうため、グラウト材を斫る作業の手間が生じるとともに、グラウト材を斫る作業の際に騒音が生じてしまうという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、免震装置を効率的に交換することができる免震装置の交換方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る免震装置の交換方法は、上部構造と下部構造との間に設けられた既存免震装置を新免震装置に交換する免震装置の交換方法であって、前記既存免震装置の周りにジャッキ装置を設置して該ジャッキ装置の高さを調整しつつ、前記既存免震装置を前記新免震装置に交換し、前記ジャッキ装置を設置する際には、前記ジャッキ装置と前記上部構造との間及び前記ジャッキ装置と前記下部構造との間の少なくとも一方において、グラウト材を充填
し、前記ジャッキ装置と前記上部構造との間に前記グラウト材を充填する際には、前記グラウト材と前記上部構造との間にシートを配置して、前記ジャッキ装置と前記下部構造との間に前記グラウト材を充填する際には、前記グラウト材と前記下部構造との間に前記シートを配置することを特徴とする。
【0007】
このように構成された免震装置の交換方法では、グラウト材と上部構造(または下部構造)との間にはシートが配置されている。よって、既存免震装置を新免震装置に交換して、ジャッキ装置を撤去する際には、グラウト材はジャッキ装置側に付着して、上部構造(または下部構造)には付着しない。したがって、上部構造(または下部構造)からグラウト材を斫る等の作業が生じず、免震装置を効率的に交換することができる。
【0008】
また、本発明に係る免震装置の交換方法では、前記既存免震装置は、複数設けられ、複数の前記既存免震装置を前記上部構造又は前記下部構造に固定している固定ボルトを緩めるボルト緩め工程と、全ての前記既存免震装置の周りにそれぞれ前記ジャッキ装置を設置し、全ての該ジャッキ装置のジャッキアップにより、前記上部構造を、前記既存免震装置の変形量と施工上の上越し量との合算した高さ分上昇させる第一ジャッキアップ工程と、全ての前記既存免震装置と前記上部構造又は前記下部構造との間に生じた隙間に、第一仮フィラープレートを挿入する第一仮フィラープレート挿入工程と、全ての前記ジャッキ装置のジャッキダウンにより、前記既存免震装置が前記上部構造を支持するように、前記上部構造を下降させる第一ジャッキダウン工程と、一の前記既存免震装置において、該一の免震装置の周りの前記ジャッキ装置のジャッキアップにより、前記上部構造を、前記第一ジャッキダウン工程でジャッキダウンした量と同等だけ上昇させる第二ジャッキアップ工程と、前記第一仮フィラープレート及び前記既存免震装置を撤去する既存免震装置撤去工程と、前記上部構造と前記下部構造との間に前記新免震装置を設置する新免震装置設置工程と、前記新免震装置と前記上部構造又は前記下部構造との間に第二仮フィラープレートを挿入する第二仮フィラープレート挿入工程と、前記ジャッキ装置のジャッキダウンにより、前記上部構造を、前記新免震装置が前記上部構造を支持するように下降させる第二ジャッキダウン工程と、前記第二ジャッキアップ工程、前記既存免震装置撤去工程、前記新免震装置設置工程、前記第二仮フィラープレート挿入工程及び前記第二ジャッキダウン工程を、全ての前記既存免震装置について順次行う繰り返し工程と、全ての前記ジャッキ装置のジャッキアップにより、前記ジャッキ装置が前記上部構造を支持するように、前記上部構造を上昇させる第三ジャッキアップ工程と、全ての前記新免震装置と前記上部構造又は前記下部構造との間に挿入された前記第二仮フィラープレートを撤去する第二仮フィラープレート撤去工程と、全ての前記ジャッキ装置のジャッキダウンにより、前記新免震装置が前記上部構造を支持するように、前記上部構造を下降させる第三ジャッキダウン工程と、を備えることが好ましい。
【0009】
このように構成された免震装置の交換方法では、ジャッキ装置が建築物を支持している期間は、第一ジャッキアップ工程、第一仮フィラープレート挿入工程及び第一ジャッキダウン工程の期間と、第三ジャッキアップ工程、第二仮フィラープレート撤去工程及び第三ジャッキダウン工程の期間である。これらの期間は、免震装置の交換作業等をともなわずそれぞれ約1日で済むため、ジャッキ装置により建築物が支持されている期間を短期間に抑えることができる。
また、第一ジャッキアップ工程、第三ジャッキアップ工程では、全ての免震装置の周りに設置されたジャッキ装置が、全てジャッキアップされるため、免震装置の周りの梁等の構造体に局所的な応力が作用することがない。また、第二ジャッキアップ工程では、一の免震装置の周りのジャッキ装置がジャッキアップされるが、ジャッキアップ量は、第一ジャッキダウン工程でジャッキダウンした量と同等である。ここで、第一ジャッキアップ工程では、既存免震装置の変形量と施工上の上越し量との合算した高さ分ジャッキアップされ、第一仮フィラープレート挿入工程では第一仮フィラープレートが挿入され、第一ジャッキダウン工程では、第一ジャッキアップ工程でのジャッキアップ量(既存免震装置の変形量と施工上の上越し量との合算した高さ分)から第一仮フィラープレートの厚さを差し引いた高さ程度ジャッキダウンされる。第二ジャッキアップ工程でのジャッキアップ量は、既存免震装置の変形量であり、免震装置の周りの梁等の構造体に作用する応力を抑えることができる。
【0010】
また、本発明に係る免震装置の交換方法は、前記第一仮フィラープレート挿入工程及び前記第二仮フィラープレート挿入工程では、前記既存免震装置と前記上部構造又は前記下部構造とを固定している前記固定ボルトとの干渉を避けるように、それぞれ平面視短冊状に形成された前記第一仮フィラープレート及び前記第二仮フィラープレートを挿入してもよい。
【0011】
このように構成された免震装置の交換方法では、第一仮フィラープレート挿入工程及び第二仮フィラープレート挿入工程では、それぞれ平面視短冊状に形成された第一仮フィラープレート及び第二仮フィラープレートを挿入することで、既存免震装置と上部構造又は下部構造とを固定している固定ボルトとの干渉を避けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る免震装置の交換方法によれば、免震装置を効率的に交換することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る免震装置の交換方法について、図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る免震装置の交換方法を実施対象となる免震装置10の配置を示す、建築物1の地下1階の平面図の一部である。
図2は、資機材搬入工程を示す模式的な断面図である。
図1に示すように、建築物1では、基礎スラブ2(下部構造)の上部に免震装置10を介して上部構造3が設けられている。ここで、便宜上、建築物1の一方向(
図1に示す紙面上下方向、第一方向)をX方向と称し、建築物1の一方向と直交する水平方向(
図1に示す紙面左右方向、第二方向)をY方向と称する。
【0016】
上部構造3は、X方向及びY方向に間隔を有して配置された柱4と、柱4同士を接合する梁5とを備えている。建築物1のY方向の一方側の柱4の列から順に、X1列、X2列…と称し、これらX1列,X2,X3,X4列と直交する列を
図1に示す紙面上側から順にY1列,Y2列,Y3,Y4…と称する。
【0017】
図2に示すように、免震装置10は、平面視略八角形に形成された上部フランジ11及び下部フランジ12、及びこれら上部フランジ11と下部フランジ12との間に設けられた積層ゴム13からなる。積層ゴム13は、例えば不図示の鋼板と不図示のゴムシートとを交互に積層させたものである。
【0018】
免震装置10は、柱4及び基礎スラブ2とそれぞれ固定ボルト16,17(
図3参照。
以下同じ。)で固定されている。固定ボルト16,17は、それぞれ柱4及び基礎スラブ2に埋め込まれたナット18,19に螺合されている。免震装置10は、支持する上部構造3の荷重により、鉛直方向にδ1mm(鉛直変形量、不図示。)収縮している。
【0019】
次に、建築物1の全ての免震装置10を、それぞれ新たな免震装置20に交換する免震装置の交換方法について説明する。
まず、資機材搬入工程を行う。
1階の作業範囲を養生した後、建築物1に水平方向に配置されたH型鋼等の横架材31に、資機材搬入用の電動トロリー付チェーンブロック等の搬入装置32を設置する。そして、新たな免震装置20、油圧式等のジャッキ装置41(
図3参照)、変位計測器(
図3参照)46等を吊り下げて搬入する。
【0020】
図3は、ジャッキ・変位計測器設置工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図3に示すように、ジャッキ・変位計測器設置工程を行う。
地下1階の全ての免震装置10の周囲において、ジャッキ装置41の設置場所を決定する。当該設置場所において、基礎スラブ2の上面及び梁5の下面にそれぞれシート40を設置する。基礎スラブ2に設けられたシート40の上に、滑り板42を設置し、滑り板42の上にジャッキ装置41を設置する。また、滑り板42と基礎スラブ2に設けられたシート40との隙間、及びジャッキ装置41と梁5に設けられたシート40との隙間に、グラウト材43を注入する。これにより、基礎スラブ2の上面の不陸や梁5の下面の不陸を吸収することができる。また、ジャッキ装置41のジャッキアップ量を計測する変位計測器46を設置する。
シート40として、厚さ約0.1mmのポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂製のシートや、厚さ約1mm以下のフッ素樹脂シートや、片面(基礎スラブ2の上面及び梁5の下面)側に粘着層が設けられたものや、厚さ約0.15mmの土間用防湿シートや、貼着テープや、厚さ約2.0mmの床用長尺シートや、アスファルトルーフィングシートや、ポリ塩化ビニル樹脂をシート状にしたものや、厚さ約2.0〜3.0mmのベニヤ板や、段ボール等を採用することができる。
また、基礎スラブ2の上面及び梁5の下面に凹凸を設けることで、シート40が基礎スラブ2の上面及び梁5の下面に沿って滑りにくくなる。
滑り板42として、ステンレス製鋼板等を採用することができる。また、転がり支承とすれば、ジャッキ装置41の下面の摩擦係数をさらに低く抑えることが可能となる。
滑り板42を設置することで、施工期間中に地震等よる水平変位に追従することができる。
なお、ジャッキ装置41は、柱4の荷重の1.5倍以上の耐力を負担できるように、ジャッキ装置41の種類を選別、設置箇所数を調整することが好ましい。また、変位計測器46は、ジャッキアップ量を0.1mm単位で計測可能なものが好ましい。
【0021】
図4は、免震装置ボルト緩め工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図4に示すように、免震装置ボルト緩め工程を行う。
全ての免震装置10において、免震装置10を基礎スラブ2に固定している固定ボルト17を緩めておく。なお、固定ボルト17を、固定ボルト17よりも強度の高い仮設取付ボルト(不図示)に交換しておいてもよい。これにより、免震装置10が基礎スラブ2に対して鉛直方向に相対移動可能となる。本実施形態では、固定ボルト17を約20mm緩めている。
【0022】
図5は、第一ジャッキアップ工程及び第一仮フィラープレート挿入工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図5に示すように、第一ジャッキアップ工程を行う。
変位計測器46でジャッキアップ量を計測しつつ、全てのジャッキ装置41をジャッキアップして、上部構造3を上昇させる。ジャッキアップ量δeは、免震装置10の鉛直変形量δ1mmと、施工上の上越し量αmmと、交換する新たな免震装置20(
図10参照)が既存の免震装置10よりも高い場合には、その高さの差をβmmを合算した高さである。
【0023】
図6は、第一仮フィラープレート挿入工程を示す模式的な平面図である。
次に、
図5及び
図6に示すように、第一仮フィラープレート挿入工程を行う。
全ての免震装置10と基礎スラブ2との間に生じた隙間に、第一仮フィラープレート51を挿入する。第一仮フィラープレート51は、平面視短冊状に形成されたものが複数枚間隔を有して配置され構成されている。各第一仮フィラープレート51間には、免震装置10を基礎スラブ2に固定している固定ボルト17が配置されている。これにより、第一仮フィラープレート51と固定ボルト17とが干渉しないようになっている。すなわち、固定ボルト17を取り外すことなく、第一仮フィラープレート51を挿入することができるため、施工期間中のいかなる時に地震が発生しても、免震装置10を有効に機能させることができる。なお、本実施形態では、第一仮フィラープレート51は、厚さ5mmのプレート51Aが3枚、厚さ2mmのプレート51Bが1枚積層され、合計17mmの厚さとされている。また、第一仮フィラープレート51は、強度が高く、圧縮剛性が高い材料が好ましく、鋼板等が採用できるが、軽量なアクリル板は施工上最適である。
【0024】
図7は、第一ジャッキダウン工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図7に示すように、第一ジャッキダウン工程を行う。
全てのジャッキ装置41の安全ナットを緩め、変位計測器46でジャッキダウン量を計測しつつ、ジャッキ装置41をジャッキダウンして、上部構造3を下降させる。ジャッキ装置41が柱4を支持できる高さまでジャッキダウンする。免震装置10を基礎スラブ2に固定している固定ボルト17を仮締めする。なお、本実施形態では、ジャッキダウン量は、δ1mm(鉛直変形量)であり、3mmとされている。
上記の第一ジャッキアップ工程から第一ジャッキダウン工程までは、約1日で行うことができる。
【0025】
図8は、第二ジャッキアップ工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図8に示すように、第二ジャッキアップ工程を行う。
ここからの作業は、所定の柱4の列毎に行う。本実施形態では、まずX1列の一の柱4について行うものとする。
変位計測器46でジャッキアップ量を計測しつつ、ジャッキ装置41をジャッキアップして、上部構造3を上昇させる。本工程でのジャッキアップ量は、第一ジャッキダウン工程でのジャッキダウン量と同等である。本実施形態では、第一ジャッキダウン工程でのジャッキダウン量はδ1mm(鉛直変形量)であり3mmとされているため、ジャッキアップ量は3mmとされている。また、柱4間スパンは最短で6mであるから、スパン間の変形角の最大値は1/2000とされている。スパン間の変形角が1/2000を超える場合には、隣接する列の柱4(X2列の柱4)についても第二ジャッキアップ工程を行うことが好ましい。
【0026】
図9は、既存免震装置撤去工程を示す模式的な平面図である。
次に、
図9に示すように、既存免震装置撤去工程を行う。
第一仮フィラープレート51を撤去し、免震装置10を柱4に固定している固定ボルト16及び免震装置10を基礎スラブ2に固定している固定ボルト17をそれぞれ外す。チェーンブロック(不図示)及びナイロンスリング(不図示)を用いて、免震装置10をジャッキ装置41を干渉しない方向に横引きする。免震装置10を半分程度移動させたら、仮支柱52を基礎スラブ2と柱4との間に挿入する。これにより、施工期間中に、地震等が発生し、万が一ジャッキ装置41が倒れた場合に、仮支柱52で柱4を支持させるフェイルセーフ機能を発揮する。そして、免震装置10を完全に撤去し、撤去した状態では、ジャッキ装置41が柱4を支持している。
【0027】
図10は、新免震装置設置工程及び本設フィラープレート挿入工程を示す模式的な断面図である。
図11は、下側の本設フィラープレートの挿入工程、第二仮フィラープレート挿入工程及び第二ジャッキダウン工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図10に示すように、新免震装置設置工程及び上側の本設フィラープレートの挿入工程を行う。
新たな免震装置20は、免震装置10と同様に、平面視略八角形に形成された上部フランジ21及び下部フランジ22、及びこれら上部フランジ21と下部フランジ22との間に設けられた積層ゴム23からなる。
【0028】
ここで、既存の免震装置10及び新たな免震装置20の高さは、それぞれ製品誤差等によるバラつきがあることがある。既存の免震装置10及び新たな免震装置20の製品納入時の高さの計測値から、各交換箇所において、新たな免震装置20の高さ(計測値)から既存の免震装置10の高さ(計測値)の差(高低差)を算出する。全交換箇所での高低差のうち最大値(最大高低差とする)となる交換箇所を基準とする。そして、各交換箇所での高低差が、最大高低差よりも小さい場合には、最大高低差と当該箇所での高低差との差に相当する厚みの本設フィラープレート61,62(
図11参照)を設置して調整する。
本実施形態で示す交換箇所では、最大高低差と当該箇所での高低差の差が12mmであるため、新たな免震装置20の上側に厚さ6mmの本設フィラープレート61と、下側に厚さ6mmの本設フィラープレート62とを設置するものとする。また、本設フィラープレート61,62は、免震装置20の上部フランジ11及び下部フランジ12と同様に、平面視八角形に形成されている。なお、最大高低差と当該箇所での高低差との差が小さい場合は、本設フィラープレートを免震装置20の上側のみ又は下側のみに設置すればよい。
また、高さ調整が必要ない場合には、本設フィラープレート61,62の設置は不要である。
【0029】
上側に本設フィラープレート61を載置した免震装置20を、基礎スラブ2と柱4との間に挿入する。免震装置20を半分程度移動させたら、仮支柱52を基礎スラブ2と柱4との間から撤去し、免震装置20を免震装置10が配置されていた位置に配置するように微調整する。所定の位置に配置できたら、免震装置20及び本設フィラープレート61をともに、柱4に固定する固定ボルト16(
図11参照)で仮締めする。なお、本設フィラープレート61を免震装置20の上側に接着剤等により接着させておいてもよい。
【0030】
次に、
図11に示すように、下側の本設フィラープレートの挿入工程及び第二仮フィラープレート挿入工程を実行する。
基礎スラブ2と免震装置20との間に、本設フィラープレート62及び第二仮フィラープレート63を挿入する。本設フィラープレート62は、第二仮フィラープレート63よりも上側に配置されている。本設フィラープレートとして、例えば鋼板等を採用することができる。第二仮フィラープレート63は、第一仮フィラープレート51と同様に、強度が高く、圧縮剛性が高い材料が好ましく、鋼板等が採用できるが、軽量なアクリル板が施工上最適であり、平面視短冊状に形成され、免震装置20を基礎スラブ2に固定する固定ボルト17と干渉しないように配置する。また、第二仮フィラープレート63は、免震装置20及び本設フィラープレート62をともに、固定ボルト17で仮締めする。なお、本実施形態では、第二仮フィラープレート63は、厚さ5mmのプレート63Aと、厚さ3mmのプレート63Bとが積層され、合計8mmの厚さとされている。なお、本設フィラープレート62を、免震装置20の下側に接着剤等により接着させておいてもよい。また、第二仮フィラープレート63を、本設フィラープレート62の上側(免震装置20と本設フィラープレート62との間)に配置してもよい。
【0031】
次に、第二ジャッキダウン工程を行う。
免震装置20が柱4を支持するように、ジャッキ装置41をジャッキダウンして、上部構造3を下降させる。免震装置20を固定している固定ボルト17の仮締めを再度行う。
【0032】
次に、繰り返し工程を行う。
上記の第二ジャッキアップ工程から第二ジャッキダウン工程を、X1列の他の柱4について行うも。その後、他の列(X2列、X3列…)においても、同様に列毎に順次免震装置10を交換していき、最終的には全部の免震装置10を交換する。
【0033】
図12は、第三ジャッキアップ工程及び第二仮フィラープレート撤去工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図12に示すように、第三ジャッキアップ工程及び第二仮フィラープレート撤去工程を行う。
全ての免震装置20において、免震装置20を基礎スラブ2に固定している固定ボルト17を緩める。この状態でも、固定ボルト17は、基礎スラブ2に埋め込まれたナット19に螺合されているため、施工期間中に地震が発生しても、免震装置20を有効に機能させることができる。
変位計測器46でジャッキアップ量を計測しつつ、全てのジャッキ装置41をジャッキアップして、ジャッキ装置41が柱4を支持するように、上部構造3を上昇させる。そして、第一仮フィラープレート51を引き抜き、撤去する。ジャッキアップ量は、δ1mm(鉛直変形量)であり、後工程の第二仮フィラープレート撤去工程で第二仮フィラープレート63を抜くことが可能な高さで、つまりδ1mm(鉛直変形量)であり、3mmとされている。本設フィラープレート62を免震装置20の下側に接着剤等により接着させておくと、ジャッキ装置41をジャッキアップした際に、本設フィラープレート62が免震装置20とともに持ち上がるため、第二仮フィラープレート63を引き抜きやすい。また、第二仮フィラープレート63を本設フィラープレート62の上側に配置しておくと、ジャッキ装置41をジャッキアップした際に、アクリル板等で構成された第二仮フィラープレート63が鋼板等で構成された本設フィラープレート62の上側に載った状態で、免震装置20と第二仮設フィラープレート63との間に隙間が生じるため、第二仮フィラープレート63を引き抜きやすい。
【0034】
図13は、第三ジャッキダウン工程を示す模式的な断面図である。
次に、
図13に示すように、第三ジャッキダウン工程を行う。
変位計測器46でジャッキダウン量を計測しつつ、ジャッキ装置41をジャッキダウンして、上部構造3を下降させる。なお、本実施形態では、ジャッキダウン量は、δ1mm(鉛直変形量)に第二仮フィラープレート63(プレート63A及びプレート63B)の厚さ8mmを加算した量であり、11mmとされている。全ての(既存の)固定ボルト16,17を新たな固定ボルト66,67に取替えて、本締めする。
【0035】
次に、ジャッキ・変位計測器撤去工程を行う。
図14は、ジャッキ・変位計測器撤去工程を示す模式的な断面図である。
図14に示すように、ジャッキ装置41をジャッキダウンすると、ジャッキ装置41の上にグラウト材43が付着して、梁5の下面にシート40が貼り付けられている。グラウト材43が付着したジャッキ装置41を撤去すると、滑り板42にグラウト材43が付着して、基礎スラブ2の上面にシート40が貼り付けられている。グラウト材43が付着した滑り板42を撤去し、梁5の下面及び基礎スラブ2の上面に貼り付けられたシート40を剥がし、変位計測器46を撤去する。
【0036】
次に、資機材撤去工程を行う。
図15は、資機材撤去工程を示す模式的な断面図である。
図15に示すように、免震装置10(
図14参照)、ジャッキ装置41、変位計測器(
図14参照)等の資機材を搬入装置32で吊り下げて搬出したら、作業が完了する。
【0037】
このように構成された免震装置の交換方法では、グラウト材43と梁5及び基礎スラブ2との間にはシート40が配置されている。よって、既存免震装置10を新免震装置20に交換して、ジャッキ装置41を撤去する際には、グラウト材43はジャッキ装置41や滑り板42側に付着して、梁5及び基礎スラブ2には付着しない。したがって、梁5及び基礎スラブ2からグラウト材43を斫る等の作業が生じず、免震装置を効率的に交換することができる。
【0038】
また、ジャッキ装置41が建築物1を支持している期間は、第一ジャッキアップ工程、第一仮フィラープレート挿入工程及び第一ジャッキダウン工程の期間と、第三ジャッキアップ工程、第二仮フィラープレート撤去工程及び第三ジャッキダウン工程の期間である。これらの期間は、免震装置10の交換作業等をともなわずそれぞれ約1日で済むため、ジャッキ装置41により建築物1が支持されている期間を短期間に抑えることができる。
また、第一ジャッキアップ工程、第三ジャッキアップ工程では、全ての免震装置10,20の周りに設置されたジャッキ装置41が、全てジャッキアップされるため、免震装置10,20の周りの梁5等の構造体に局所的な応力が作用することがない。また、第二ジャッキアップ工程では、所定の列の一の免震装置10,20の周りのジャッキ装置41がジャッキアップされるが、ジャッキアップ量は、第一ジャッキダウン工程でジャッキダウンした量と同等である。ここで、第一ジャッキアップ工程では、既存免震装置10の変形量と施工上の上越し量との合算した高さ分ジャッキアップされ、第一仮フィラープレート挿入工程では第一仮フィラープレート51が挿入され、第一ジャッキダウン工程では、第一ジャッキアップ工程でのジャッキアップ量(既存免震装置10の変形量と施工上の上越し量との合算した高さ分)から第一仮フィラープレート51の厚さを差し引いた高さ程度ジャッキダウンされる。第二ジャッキアップ工程でのジャッキアップ量は、既存免震装置10の変形量であり、免震装置10の周りの梁5等の構造体に作用する応力を抑えることができる。
【0039】
また、新免震装置設置工程では、免震装置10を交換する交換箇所の全てにおいて、免震装置20の高さから免震装置10の高さを差し引いた差である高低差を算出し、高低差が最大値(最大高低差)となる交換箇所を基準とする。本設フィラープレート挿入工程では、各交換箇所での高低差が最大高低差よりも小さい場合には、各交換箇所で、新免震装置20と柱4及び基礎スラブ2との間に本設フィラープレート61,62を挿入する。既存免震装置10の高さにばらつきがあった場合も、高さ調整のための本設フィラープレート61,62を設置することで調整することができる。
【0040】
また、第一仮フィラープレート挿入工程及び第二仮フィラープレート挿入工程では、それぞれ平面視短冊状に形成された第一仮フィラープレート51及び第二仮フィラープレート63を挿入することで、既存免震装置10と基礎スラブ2とを連結する固定ボルト17との干渉を避けることができる。
【0041】
また、既存免震装置撤去工程において、既存免震装置10を移動させるとともに、上部構造3の柱4を支持する仮支柱52を下部構造上に設置する。よって、既存免震装置10を移動した状態で、ジャッキ装置41及び仮支柱52が上部構造3を支持することができるため、地震等の際の安全性を確保することができる。
【0042】
また、本設フィラープレートは新たな免震装置20とともに基礎スラブ2及び柱4にボルト締めされるため、本設フィラープレートの厚みが厚いと水平力を受けた際に固定ボルト16,17に曲げが生じる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、本設フィラープレートを上側に設置される本設フィラープレート61と下側に設置される本設フィラープレート62とに分けて、各本設フィラープレート61,62の厚みを抑えているため、各固定ボルト16,17に生じる負荷を抑えることができる。
【0043】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0044】
例えば、ジャッキ装置41と基礎部ラブ2との隙間及びジャッキ装置41と梁5との隙間の両方に、シート40及びグラウト材43が設けられているが、いずれか一方の隙間にのみシート40及びグラウト材43が設けられていればよい。
【0045】
上記に示す実施形態において、建築物1の全ての免震装置10を、新たな免震装置20に交換する場合を例に挙げて説明したが、本発明は全ての免震装置10を交換する場合に限られず、全ての免震装置10のうち数台のみを交換する場合にも適用可能である。また、建築物1に免震装置10が1台のみ設置されており、当該免震装置10を交換する場合にも適用可能である。
【0046】
また、上記に示す実施形態では、免震装置10と基礎スラブ2とを固定している固定ボルト17を緩めているが、本発明はこれに限られない。免震装置10,20と梁5とを固定している固定ボルト16を緩め、免震装置10,20と梁5との間に第一仮フィラープレート51、第二仮フィラープレート63を挿入してもよい。なお、上部構造が鉄骨造で構成され、免震装置10,20と上部鉄骨支持部とがハイテンションボルトで緊結されている場合には、ハイテンションボルトを緩めるよりも、免震装置10と基礎スラブ2とを固定している固定ボルト17を緩める方が好ましい。
【0047】
また、上記に示す実施形態では、繰り返し工程で、X1列に設置された免震装置10を交換した後に、他の列(X2列、X3列…)の免震装置10を順次交換しているが、本発明はこれに限られず、交換する順序は適宜選択可能であり、例えば、X1列の所定の免震装置10を交換した後に、X2列の所定の免震装置10を交換してもよい。
【0048】
また、ジャッキアップ量が大きい場合には、ボルト緩め工程で免震装置10を基礎スラブ2に固定している固定ボルト17を緩めて、当該固定ボルト17よりも強度の高い仮取付ボルト(不図示。以下同じ。)を取り付けてもよい。この場合には、仮取付ボルトは強度が高いため、施工期間中に万が一地震等が発生した際も、免震装置10を有効に機能させることができる。