(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記膨潤剥離工程において、前記樹脂被覆材の前記導電体に対する剥離率が95質量%以上であり、かつ、前記油相に対する前記可塑剤の浸出率が5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の被覆電線の分離方法。
前記分離工程の完了時点で、前記樹脂被覆材の前記導電体に対する剥離率が95質量%以上であり、かつ、前記油相に対する前記可塑剤の浸出率が5質量%以下であることを特徴とする請求項3記載の被覆電線の分離方法。
【背景技術】
【0002】
線状の導電体(以下、導電線と称する)を塩化ビニル樹脂などの絶縁性の樹脂被覆材で覆った、いわゆる被覆電線は、自動車の電装部分、家電製品、通信機器、コンピュータなど、各種電気機器の基本的な構成部材として幅広く用いられている。こうした各種電気機器の廃棄に伴って生じる廃被覆電線は、導電線として主に銅などの有用な金属を多く含むため、リサイクルの目的で回収し、金属素材として再資源化されている。
しかしながら、被覆電線は、導電線の周囲に樹脂被覆材が密着して覆っているため、再資源化にあたっては、これら導電線と樹脂被覆材とを分離する必要がある。
【0003】
従来、被覆電線を導電線と樹脂被覆材に分離する方法として、例えば特許文献1では、被覆電線を剪断機によってチップ状に細かく剪断するとともに、導電線から樹脂被覆材を剥離させている。この後、水を用いた比重差分離によって、導電線と樹脂被覆材とを分別している。
特許文献2では、被覆電線を加熱して樹脂被覆材を炭化させ、その後、導電線から炭化した樹脂被覆材を取り除くことにより、導電線から樹脂被覆材を剥離させることを容易にしている。
特許文献3では、被覆電線を有機溶媒に浸漬して樹脂被覆材を膨潤させることにより、後工程において樹脂被覆材から導電線を引き抜くことを容易にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、被覆電線を剪断する際に導電線から樹脂被覆材を物理的に剥がすという構成のため、分離させた導電線に樹脂被覆材の細片が残留し、回収する導電体の純度が低下するという課題があった。また、導電線から樹脂被覆材を正確に分離するためには、破砕機のスクリーンのメッシュを細かくする必要があり、これにより粉砕時間が極端に長くなるために処理効率が悪いという課題があった。
【0006】
特許文献2に開示された方法は、樹脂被覆材の炭化物が導電線に付着し、回収する導電体の純度が低下するという課題があった。また、樹脂被覆材に含まれる塩化ビニル樹脂の熱分解により腐食性の塩化水素ガスが発生するため、反応装置や配管が劣化しやすく、排出ガスの処理が煩雑になる問題があった。加えて、樹脂被覆材は炭化物として分離するため、樹脂被覆材を材料資源としてリサイクルできないという課題もあった。
【0007】
特許文献3に開示された方法は、樹脂被覆材の膨潤工程、導電線の分離工程、分離した樹脂被覆材を溶剤に溶解する工程、および複数の分離工程などからなり、処理にあたって多くの工程が必要であり、処理効率が悪いという課題があった。また、樹脂被覆材に含まれる可塑剤が溶剤に溶出するため、溶剤の再生頻度あるいは入替頻度が多くなるという課題もあった。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な工程で被覆電線を導電体と被覆樹脂材とに分離することができ、また、分離後の導電体と被覆樹脂材を高純度のリサイクル材料として用いることを可能にする被覆電線の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の被覆電線の分離方法は、静置状態で油相と水相に分離する処理液を撹拌し、前記油相と前記水相のエマルジョンを形成する懸濁工程と、前記エマルジョンに、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含有する樹脂被覆材で導電体を被覆してなる被覆電線を浸漬して前記樹脂被覆材を膨潤させ、かつ、前記エマルジョンの撹拌によって、前記導電体から膨潤した前記樹脂被覆材を剥離させる膨潤剥離工程と、前記処理液から、前記導電体と前記樹脂被覆材とを回収する回収工程と、を少なくとも備え、前記処理液の油相には、ジクロロメタンを用い
、前記膨潤剥離工程において、前記エマルジョンに含まれる前記ジクロロメタンの濃度は、8.3容量%以上、9.1容量%以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の被覆電線の分離方法によれば、ジクロロメタンからなる油相と、水からなる水相とを懸濁させて処理液のエマルジョンを形成し、このエマルジョンに被覆電線を浸漬する。エマルジョンと樹脂被覆材が接触することで、導電体を覆う樹脂被覆材が膨潤する。膨潤により樹脂被覆材と導電体との間に空隙を生じるため、エマルジョンの撹拌によって、樹脂被覆材を導電体から容易に剥離させることができる。これにより、樹脂被覆材を導電体から引き剥がすなどの物理的な応力を加えずに、簡単に、かつ効率的に、被覆電線を導電体と樹脂被覆材とに分離することができる。
【0011】
また、油相と水相のエマルジョンを用いることで、水の分散による可塑剤の溶出抑制作用で可塑剤の大部分を樹脂被覆材に留めたまま、樹脂被覆材を膨潤して導電体と剥離することができる。これにより、例えば再蒸留などの手間の掛かる工程を経ずに、ジクロロメタンを処理液の油相として繰り返し用いることができ、被覆電線のリサイクルコストを低減することができる。
【0012】
また、樹脂被覆材を構成する塩化ビニル樹脂はジクロロメタンと水からなるエマルジョンによって膨潤しても溶解は殆どしないため、導電体の回収による金属材料の再利用に加えて、樹脂被覆材も樹脂材料としてそのまま再利用することが可能になり、被覆電線の全体を無駄なく再利用してリサイクル効率を高めることが可能になる。
【0013】
また、本発明は、前記回収工程の後工程であって、前記膨潤剥離工程によって前記導電体から前記樹脂被覆材が剥離していない未剥離の被覆電線に対して、前記導電体から前記樹脂被覆材を機械的に剥離させる分離工程を更に備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記膨潤剥離工程において、前記樹脂被覆材の前記導電体に対する剥離率が95質量%以上であり、かつ、前記油相に対する前記可塑剤の浸出率が5質量%以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、
静置状態で油相と水相に分離する処理液を撹拌し、前記油相と前記水相のエマルジョンを形成する懸濁工程と、前記エマルジョンに、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含有する樹脂被覆材で導電体を被覆してなる被覆電線を浸漬して前記樹脂被覆材を膨潤させ、かつ、前記エマルジョンの撹拌によって、前記導電体から膨潤した前記樹脂被覆材を剥離させる膨潤剥離工程と、前記処理液から、前記導電体と前記樹脂被覆材とを回収する回収工程と、前記膨潤剥離工程によって前記導電体から前記樹脂被覆材が剥離していない未剥離の被覆電線に対して、前記導電体から前記樹脂被覆材を機械的に剥離させる分離工程と、を少なくとも備え、前記処理液の油相には、ジクロロメタンを用い、前記膨潤剥離工程において、前記エマルジョンに含まれる前記ジクロロメタンの濃度は、5.7容量%以上、10.0容量%以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記分離工程の完了時点で、前記樹脂被覆材の前記導電体に対する剥離率が95質量%以上であり、かつ、前記油相に対する前記可塑剤の浸出率が5質量%以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記分離工程における機械的な剥離は、未剥離の被覆電線に対して、水中撹拌あるいはせん断により前記樹脂被覆材と前記導電体とを分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の被覆電線の分離方法によれば、簡易な工程で被覆電線を導電体と被覆樹脂材に分離することができ、また、分離後の導電体と被覆樹脂材を高純度のリサイクル材料として用いることを可能にする被覆電線の分離方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の被覆電線の分離方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る被覆電線の分離方法を段階的に示したフローチャートである。また、
図2は、本発明の第1実施形態に係る被覆電線の分離方法を段階的に示した模式図である。
本発明の被覆電線の分離方法によって被覆電線の処理を行う際には、
図2(a)に示すように、まず、処理液11を作成する(処理液作成工程S1)。処理液11は静置状態において油相11Aと水相11Bの2相に分離する分離液状処理液を用いる。
【0024】
処理液11の下相となる油相11Aは、ジクロロメタン(塩化メチレン:CH
2Cl
2、比重1.326)からなる。油相11Aとして用いるジクロロメタンは、例えば純度が99.9%のものであればよく、酸化に対する安定剤として、微量のアルコール、アミン、オレフィンなどを含んでいることも好ましい。一方、上相となる水相11Bは、水からなる。
【0025】
油相11Aは、水相11Bを構成する水と混和せず、被覆電線の樹脂被覆材に含まれる塩化ビニル樹脂を膨潤させるといった観点からジクロロメタンが選択されている。
【0026】
次に、
図2(b)に示すように、処理液11を撹拌し、油相11Aと水相11Bとのエマルジョン11C、即ち水とジクロロメタンとの懸濁液を形成する(懸濁工程S2)。エマルジョン11Cの形成にあたっては、例えば、2相に分かれている処理液11を撹拌子や撹拌羽根の回転によって撹拌させたり、超音波振動によって撹拌させたりするなど、各種撹拌方法を用いることができる。本実施形態では、被覆電線の導電体から樹脂被覆材の剥離を促進させるために、渦流による撹拌方法を用いる。
【0027】
懸濁工程S2で得られたエマルジョン11Cに含まれるジクロロメタンの濃度は、8.3容量%以上、9.1容量%以下とされている。即ち、処理液作成工程S1では、エマルジョン11Cの形成時にジクロロメタンの濃度が8.3容量%以上、9.1容量%以下の範囲になるように、ジクロロメタンと水との配合割合を決定すればよい。
【0028】
次に、
図2(c)に示すように、このようにして形成したジクロロメタンと水とのエマルジョン11Cに、被覆電線21を投入する。被覆電線21は、例えば銅からなる導電体を線状にした銅線(導電体)22と、この銅線22を覆うチューブ状の樹脂被覆材23からなる。樹脂被覆材23は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む。なお、ここでいう塩化ビニル樹脂とは、塩化ビニル重合体(ポリ塩化ビニル:PVC)であり、その重合度は800〜1500程度である。また、可塑剤は被覆電線としての柔軟性を確保するために含有され、例えば、フタル酸系、アジピン酸系、リン酸系、トリメリット酸系などが用いられる。可塑剤の代表例としては、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)が挙げられる。
【0029】
被覆電線21の投入形態については、例えば、長さ1cm程度に細断したもの、あるいは1mなど長尺のままのものなど、各種形態の被覆電線21を投入することができるが、0.5〜3cmが好ましい。本実施形態では、銅線22と樹脂被覆材23との分離を容易にするために、予め1cm程度の長さに細断した被覆電線21を用いている。
【0030】
そして、被覆電線21をエマルジョン11Cに所定時間以上浸漬することで、被覆電線21の樹脂被覆材23を膨潤させ、エマルジョン11Cの撹拌によって、
図2(d)に示すように、膨潤した樹脂被覆材23を銅線22から剥離させる(膨潤剥離工程S3)。
【0031】
膨潤剥離工程S3において、樹脂被覆材23を構成する塩化ビニル樹脂は、エマルジョン11Cに分散しているジクロロメタンに接することによって、塩化ビニル樹脂のポリマー鎖間にこのジクロロメタン分子が取り込まれ膨潤する。これにより、樹脂被覆材23の膨潤後の体積は、膨潤前の体積の例えば5倍程度まで膨らむ。膨潤によって、樹脂被覆材23と銅線22との間に空隙が生じる。なお、樹脂被覆材23は、膨潤後も化学結合は維持され、円筒形の形状は維持される。
【0032】
そして、エマルジョン11Cを維持するための撹拌によって、樹脂被覆材23がチューブ状の形状を維持したまま銅線22から剥離される(膨潤した樹脂被覆材23から銅線22が離脱する)。このような被覆電線21のエマルジョン11Cへの浸漬、撹拌時間は、40分〜80分が好ましい。
【0033】
また、この膨潤剥離工程S3において、処理液11のエマルジョン11Cに水が分散されていることにより、樹脂被覆材23に含まれる可塑剤がジクロロメタンへ溶出するのを抑制する。例えば、油相11Aを構成するジクロロメタンへの可塑剤の溶出率は5質量%以下である。目標値として可塑剤の溶出率を5質量%以下にすることで、ジクロロメタンの再利用効率を高めることができ、処理液11にかかるコストを低減することができる。
【0034】
以上のような膨潤剥離工程S3において、所定の剥離時間、例えば60分経過後の樹脂被覆材23が銅線22から剥離された剥離率は、例えば95質量%以上とされている。目標値として、剥離率を例えば95質量%以上にすることにより、ほぼすべての樹脂被覆材23が銅線22から剥離されることになり、後工程での樹脂被覆材23と銅線22との分離作業が不要になる。
【0035】
樹脂被覆材23が銅線22から充分に剥離したら、
図2(e)に示すように、エマルジョン11Cを静置して再び油相11Aと水相11Bの2相に分離させる。分離性が悪い場合は遠心分離により速やかに分離してもよい。この時、未分離の被覆電線21を水相11Bだけで撹拌させて分離すれば、エマルジョン11Cで撹拌時間を長くする場合と比較して、可塑剤のジクロロメタンへの溶出量を低減し、ジクロロメタンのリサイクル利用効率を高められる。
【0036】
そして、この2相となった処理液11から、分離された樹脂被覆材23と銅線22とを回収する(回収工程S4)。この回収工程S4では、濾過などの一般的な固液分離の方法によって、処理液11から樹脂被覆材23および銅線22を回収することができる。
【0037】
この後、本発明の被覆電線の分離方法に用いた処理液11は、樹脂被覆材23の膨潤などによって、剥離した樹脂被覆材23に取り込まれた分の油相11Aの成分であるジクロロメタンを追加するなどして、エマルジョン11Cの形成時にジクロロメタンの濃度が8.3容量%以上、9.1容量%以下の範囲になるジクロロメタンと水との配合割合が保たれるようにして、被覆電線の分離に繰り返し用いることができる。
なお、樹脂被覆材23の膨潤によってに取り込まれたジクロロメタンは、例えば乾燥により樹脂被覆材23から除去可能であり、除去したジクロロメタンは処理液11の油相11Aとして再利用可能である。
【0038】
一方、分離された樹脂被覆材23および銅線22は、例えば篩を用いる方法、比重差を利用する方法、渦電流を利用する方法などによってそれぞれ個別に回収し、それぞれ、リサイクル塩化ビニル樹脂材料、リサイクル金属材料(銅材料)として利用することができる。
【0039】
以上のように、本発明の被覆電線の分離方法によれば、ジクロロメタンからなる油相11Aと、水からなる水相11Bとを懸濁させて処理液11のエマルジョン11Cを形成し、このエマルジョン11Cに被覆電線21を浸漬することによって、銅線22を覆う樹脂被覆材23が膨潤し、樹脂被覆材23と銅線22との間に空隙が生じる。そして、エマルジョン11Cの撹拌によって、膨潤した樹脂被覆材23を銅線22から容易に剥離させることができる。これにより、樹脂被覆材を銅線から引き剥がすなどの物理的な応力を加えずに、簡単に、かつ効率的に被覆電線21を銅線22と樹脂被覆材23に分離することができる。
【0040】
また、こうした樹脂被覆材23の膨潤にあたって、処理液11を懸濁させたエマルジョン11Cを用いることで、水の分散による可塑剤の溶出抑制作用で、樹脂被覆材23に含まれる可塑剤が油相11Aを構成するジクロロメタンに殆ど溶出しない。これにより、例えば再蒸留などの手間の掛かる工程を経ずに、ジクロロメタンを処理液11の油相11Aとして繰り返し用いることができ、被覆電線21のリサイクルコストを低減することができる。
【0041】
また、樹脂被覆材23を構成する塩化ビニル樹脂はジクロロメタンと水からなるエマルジョンによって膨潤しても溶解は殆どしないため、銅線22の回収による金属材料の再利用に加えて、樹脂被覆材23も樹脂材料(リサイクル塩化ビニル樹脂)としてそのまま再利用することが可能になり、被覆電線21の全体を無駄なく再利用してリサイクル効率を高めることができる。
【0042】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る被覆電線の分離方法を段階的に示したフローチャートである。また、
図4は、本発明の第2実施形態に係る被覆電線の分離方法を段階的に示した模式図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、その詳細な説明を省略する。
第2実施形態に係る被覆電線の分離方法では、まず、
図4(a)に示すように、処理液31を作成する(処理液作成工程S11)。処理液31は静置状態において油相31Aと水相31Bの2相に分離する分離液状処理液を用いる。
【0043】
処理液31の下相となる油相31Aは、ジクロロメタン(塩化メチレン:CH
2Cl
2)からなる。油相31Aとして用いるジクロロメタンは、純度が90%のものであればよく、99%以上であればより好ましい。一方、上相となる水相31Bは、水からなる。
【0044】
次に、
図4(b)に示すように、この処理液31を撹拌し、油相31Aと水相31Bとのエマルジョン31C、即ち水とジクロロメタンとの懸濁液を形成する(懸濁工程S12)。懸濁工程S12で得られたエマルジョン31Cに含まれるジクロロメタンの濃度は、5.7容量%以上、10.0容量%以下とされている。即ち、処理液作成工程S11では、エマルジョン31Cの形成時にジクロロメタンの濃度が5.7容量%以上、10.0容量%以下の範囲になるように、ジクロロメタンと水との配合割合を決定すればよい。
【0045】
次に、
図4(c)に示すように、このようにして形成したジクロロメタンと水とのエマルジョン31Cに、リサイクルを行う被覆電線21を投入する。そして、被覆電線21をエマルジョン31Cに所定時間以上浸漬することで、被覆電線21の樹脂被覆材23を膨潤させ、エマルジョン31Cの撹拌によって、膨潤した樹脂被覆材23を銅線(導電体)22から剥離させる(膨潤剥離工程S13)。
【0046】
膨潤剥離工程S13において、樹脂被覆材23を構成する塩化ビニル樹脂は、エマルジョン31Cに分散しているジクロロメタンに接することによって、このジクロロメタン分子が塩化ビニル樹脂の内部に入り込み、塩化ビニル樹脂を膨潤させる。
【0047】
こうした樹脂被覆材23の膨潤によって、樹脂被覆材23と銅線22との間に空隙が生じる。そして、エマルジョン31Cを維持するための撹拌によって、樹脂被覆材23がチューブ状の形状を維持したまま銅線22から剥離される。このような被覆電線21のエマルジョン31Cへの浸漬、撹拌時間は、例えば、40分〜80分が好ましい。
【0048】
また、この膨潤剥離工程S13において、処理液31のエマルジョン31Cに水が分散されていることにより、樹脂被覆材23に含まれる可塑剤のジクロロメタンへの溶出を抑制する。例えば、油相31Aを構成するジクロロメタンへの可塑剤の溶出率は5質量%以下である。
【0049】
図4(e)に示すように、樹脂被覆材23が銅線22からある程度剥離したら、エマルジョン31Cを静置して再び油相31Aと水相31Bの2相に分離させる。そして、この2相となった処理液11から、分離された樹脂被覆材23、銅線22、および少量の未分離の被覆電線21を回収する(回収工程S14)。この回収工程S14では、濾過などの一般的な固液分離の方法によって、処理液31から樹脂被覆材23、銅線22、および少量の未分離の被覆電線21を回収することができる。
【0050】
次に、
図4(f)に示すように、処理液31から回収した未分離の被覆電線21に対して、銅線22から樹脂被覆材23を機械的に剥離させる(分離工程S15)。銅線22から樹脂被覆材23を機械的に剥離させる方法としては、例えば、撹拌子や撹拌羽根を用いた水中撹拌、カッターミルやシュレッダーを用いたせん断による分離などを挙げることができる。また、処理液31から回収した未分離の被覆電線21は、再び膨潤剥離工程に戻してもよい。
【0051】
こうした分離工程S15においては、未分離の被覆電線21であっても樹脂被覆材23はエマルジョン31Cとの接触によって膨潤することで、樹脂被覆材23と銅線(導電体)22との間に空隙を生じるため、通常の被覆電線から銅線と樹脂被覆材とを分離させる場合よりも、相当に小さな応力で容易に銅線22から樹脂被覆材23を剥離させることができる。このような分離工程S15の完了時点で、樹脂被覆材23の銅線(導電体)22に対する剥離率は95質量%以上とされている。
【0052】
この後、本発明の被覆電線の分離方法に用いた処理液31は、樹脂被覆材23の膨潤などによって、剥離した樹脂被覆材23に取り込まれた分の油相31Aの成分であるジクロロメタンを追加するなどして、エマルジョン31Cの形成時にジクロロメタンの濃度が5.7容量%以上、10.0容量%以下の範囲になるジクロロメタンと水との配合割合が保たれるようにして、被覆電線の分離に繰り返し用いることができる。
なお、樹脂被覆材23に取り込まれたジクロロメタンは、例えば乾燥により樹脂被覆材23から除去可能であり、樹脂被覆材23からジクロロメタンを回収することで、再び処理液31の油相31Aとして再利用可能である。
【0053】
一方、分離された樹脂被覆材23および銅線22は、例えば篩を用いる方法、比重差を利用する方法、渦電流を利用する方法などによってそれぞれ個別に回収し、それぞれ、リサイクル塩化ビニル樹脂材料、リサイクル金属材料(銅材料)として利用することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の効果について検証した。
被覆電線として、外形直径が1.1mm、導電体直径が0.6mmの複芯(本数30本、素線径0.18mm)の被覆電線(質量10.7g/m)を用意した。この被覆電線の導電体は銅(99.9%)製の撚線からなる。また、この銅線を覆う絶縁性の樹脂被覆材としては、塩化ビニル樹脂に可塑剤としてフタル酸ジイソノニルを17.5質量%含むものを用意した。被覆電線は、予め長さ1cm程度に細断した。
【0056】
処理液としては、油相と水相の2相からなるものを用いた。油相としては、ジクロロメタン(DCM)、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、トリクロロエチレン、アセトン、酢酸エチル(エチルアセテート)、シクロヘキサン、1,4−ジオキサンをそれぞれ用意した。また、水相としてはイオン交換水を用いた。
【0057】
油相と水相を所定の割合で混合した処理液を丸底フラスコに入れた後、被覆電線および磁気撹拌子を投入し、所定時間撹拌した。撹拌速度はマグネチックスターラーにより制御した。その後、濾過によって固液分離し、投入した電線数に対する未剥離の電線数を調べることで膨潤剥離工程後の剥離率を算出した。実施例1〜6および比較例2については、膨潤剥離工程後の未剥離電線をイオン交換水のみが入った丸底フラスコに投入し、磁器撹拌子で更に60分間撹拌した。その後は濾過によって固液分離し、投入した電線数に対する未剥離の電線数を調べることで分離工程後の剥離率(膨潤剥離工程及び分離工程の剥離率の合計)を算出した。
【0058】
表1に本発明例および比較例の処理液の構成を示す。なお、表1中の溶媒種がWaterの項目(比較例3)は、比較例として水相だけからなる処理液を示す。膨潤剥離工程において剥離率は0質量%であった。また、溶媒濃度が100.0%の項目(比較例1,9,12,18)は、比較例として油相だけからなる処理液を示す。膨潤剥離工程の剥離率は100質量%と高かったが、可塑剤浸出率も50質量%以上の高い値を示した。
撹拌時間は、それぞれの処理液のエマルジョン(比較例3を除く)を形成後に、細断した被覆電線を投入して撹拌した実時間を示している。温度は、被覆電線を投入して撹拌している時のエマルジョンの保持温度を示しており、18~23℃の範囲であった。
【0059】
以上のような検証例において、膨潤剥離工程完了後の可塑剤浸出率(質量%)、剥離率(質量%)および銅線から樹脂被覆材を機械的に剥離させる分離工程の完了時点での剥離率(質量%)を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
この結果から、剥離率95質量%以上、かつ可塑剤浸出率5質量%以下を満たす溶媒はジクロロメタンのみであることが分かる。また油相としてジクロロメタンを用い、エマルジョンに含まれるジクロロメタンの濃度を8.3容量%以上、9.1容量%以下にすることによって、樹脂被覆材に含まれる可塑剤のジクロロメタンへの浸出率を5質量%以下に抑えつつ、樹脂被覆材の銅線に対する剥離率を95質量%以上にできることが確認された。
【0062】
また、エマルジョンに含まれるジクロロメタンの濃度が5.7容量%以上、10.0容量%以下であっても、回収工程完了後に分離工程を行うことによって、樹脂被覆材に含まれる可塑剤のジクロロメタンへの浸出率を5質量%以下に抑えつつ、樹脂被覆材の銅線に対する剥離率を95質量%以上にできることが確認された。エマルジョンに含まれるジクロロメタンの濃度を8.3容量%以上、9.1容量%以下の場合(実施例2、3)、浸出率を5質量%以下であり膨潤剥離工程の剥離率が95質量%以上であったが、分離工程をさらに実施することにより、分離工程後の剥離率は100質量%に達した。