(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
胸から下の部分又はウェストの部分に左前身頃下接合部を有し、胸よりもウェストの寸法を小さくすべく胸から前記左前身頃下接合部まで続くダーツ又はタックを設けた左前身頃と、
前記左前身頃の前記左前身頃下接合部に縫着された左前身頃下と、
前記左前身頃に肩でつながるとともに、左身八つ口の下方において互いに分離され、胸から下の部分又はウェストの部分に左後身頃下接合部を有し、肩から前記左後身頃下接合部まで続きウェストの寸法を小さくするダーツ又はタックを設けた左後身頃と、
前記左後身頃の前記左後身頃下接合部に縫着された左後身頃下と、
前記左後身頃に、背中部分の後ろ中心で縫着され、胸から下の部分又はウェストの部分に右後身頃下接合部を有し、肩から前記右後身頃下接合部まで続きウェストの寸法を小さくするダーツ又はタックを設けた右後身頃と、
前記右後身頃の前記右後身頃下接合部に縫着された右後身頃下と、
前記右後身頃に、肩でつながるとともに、右身八つ口の下方において前記右後身頃と分離され、胸から下の部分又はウェストの部分に右前身頃下接合部を有し、胸よりもウェストの寸法を小さくすべく胸から前記右前身頃下接合部まで続くダーツ又はタックを設けた右前身頃と、
前記右前身頃の前記右前身頃下接合部に縫着された右前身頃下と、
前記左前身頃と前記左後身頃とに縫着された左袖と、
前記右前身頃と前記右後身頃とに縫着された右袖と、
前記左後身頃の脇であって、前記左後身頃下接合部に取り付けられた左後身頃脇紐と、
前記右後身頃の脇であって、前記右後身頃下接合部に取り付けられ、ウェストの位置で前記左後身頃脇紐と結ぶことにより前記左後身頃と前記右後身頃とを身体に密着させて、衣紋を抜く右後身頃脇紐と、
前記右前身頃の脇であって、前記右前身頃下接合部に取り付けた右前身頃脇ループと、
前記左前身頃の脇であって、前記左前身頃下接合部に取り付けた左前身頃脇ループと、
前記左前身頃の襟の内側であってウェストの位置に取り付けられ、前記右前身頃脇ループに通して後方に運ぶ左前身頃襟紐と、
前記右前身頃の襟の内側であって、ウェストの位置に取り付けられ、前記左前身頃脇ループに通して後方に運び、前記左前身頃襟紐の後方に運ばれたものと背中で交差させて身体の前に持ってきて結び、前記左前身頃と前記右前身頃とを身体に密着させるとともに、襟と裾とを調整する右前身頃襟紐と、
を有する上衣と、
筒状のスカートからなり、襟を有する下衣と
からなる二部式着物を用いた着付け方法であって、
前記上衣の袖に左右の腕を通す腕通しステップと、
前記左後身頃脇紐と前記右後身頃脇紐とを前で結び、前記左後身頃と前記右後身頃とを身体に密着させ、衣紋を抜く後身頃紐結びステップと、
前記右前身頃襟紐を前記左前身頃脇ループに通し、後方に運ぶとともに、前記左前身頃襟紐を前記右前身頃脇ループに通し、後方に運ぶループ通しステップと、
前記左前身頃襟紐と前記右前身頃襟紐とを背中で交差させて、身体の前で結び、襟と裾とを調整する前身頃紐結びステップと、
前記下衣に両足を通して、腰まで引き上げる下衣着用ステップと
からなる二部式着物の着付け方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では着丈を調節すること、特許文献2では御端折りを形成することで一部式着物と同様の外観を得ること、特許文献3では簡単に美しい御端折りを形成することを課題として捉えて、それに対する解決手段を提供している。
特許文献4では着付けしやすく着崩れを防ぐために、上衣と下衣にわけ、その分割の形状とそれらを締めるための紐の取り付け位置とその引き回しを工夫することにより解決手段を提供する。
これらに見られるように、従来の二部式着物では、着付けの簡便さに焦点が当てられている。平常着(普段着)としての位置づけである。
上衣についていうと、上衣の裾を出して、上着感覚で羽織る形式のものが主流である。帯を締めること、外出着・正装を前提としていない。
下衣についていうと、紐の付いた巻きスカート式が一般的である。紐で結ぶ形式の下衣は、素人には形をつくることが難しい。また、着崩れしやすい。さらに、紐で結ぶ形式の下衣は、着ているうちに崩れた際にあとから調整することも困難である。
【0005】
婦人用の一部式着物にあっては、左右の両脇に身八つ口(左身八つ口、右身八つ口)という大きな開口部があり、着崩れした際に、身八つ口から手を入れて着崩れを修正することができるようになっている。
従来の二部式着物にあっては、いずれも身八つ口の下方においては、前身頃と後身頃とが繋がっている(
図7(b)参照)。本発明の発明者は身八つ口の下方において、前身頃と後身頃とを分離させることで、着付けが短時間ででき、しかも身体にフィットする二部式着物を提供できると考えた。
本発明は、短時間で着ることができ、身体にフィットする二部式着物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る二部式着物は、上衣および下衣に分離可能な二部式着物であって、前記上衣は、左身八つ口の下方において、左前身頃と左後身頃とが分離されており、右身八つ口の下方において、右前身頃と右後身頃とが分離されており、左後身頃の脇に取り付けられた左後身頃脇紐と、右後身頃の脇に取り付けられた右後身頃脇紐と、左前身頃の脇に取り付けられた左前身頃脇紐と、右前身頃の脇に取り付けられた右前身頃脇紐とを有し、前記右前身頃の襟の内側に、前記左前身頃脇紐を通す右前身頃ループを取り付け、前記左前身頃の襟の内側に、前記右前身頃脇紐を通す左前身頃ループを取り付けたものである。これにより、短時間で着ることができ、着崩れのしにくい二部式着物を提供できる。また、万一、着用中に調整が必要になる場合にも、調整しやすい。
また、本発明に係る二部式着物は、上衣および下衣に分離可能な二部式着物であって、前記上衣は、左身八つ口の下方において互いに分離された左前身頃と左後身頃と、右身八つ口の下方において互いに分離された右前身頃と右後身頃と、前記左後身頃の脇に取り付けられた左後身頃脇紐と、前記右後身頃の脇に取り付けられた右後身頃脇紐と、前記右前身頃の襟の内側に取り付けた右前身頃襟紐と、前記左前身頃の襟の内側に取り付けた左前身頃襟紐と、前記右前身頃襟紐を通すべく、前記左前身頃の脇に取り付けた左前身頃脇ループと、前記左前身頃襟紐を通すべく、前記右前身頃の脇に取り付けた右前身頃脇ループとを有する二部式着物としてもよい。すなわち、前身頃に設ける紐をつける位置とループをつける位置とを取り替えてもよい。これによっても、短時間で着付けができ、着崩れのしにくい二部式着物を提供できる。
【0007】
前記左前身頃、前記左後身頃、前記右前身頃、前記右後身頃のそれぞれに胸部分よりもウェスト部分の寸法が小さくなるように、タック又はダーツを設けることができる。これにより、身体にフィットした外観形状を実現することができる。
【0008】
前記左前身頃、前記左後身頃、前記右前身頃、前記右後身頃のそれぞれのウェスト部分よりも下方において、水平方向の広がりを設けることができる。これにより、上衣と下衣のつながりの外観の見栄えを保ちやすい。
【0009】
前記下衣は、筒状のスカートとすることができる。これにより、短時間での着用が可能となる。
【0010】
前記下衣の上部に天地方向に延在するファスナーを設ける、又は前記下衣の上部に水平方向に延在する幅広ゴムを設けることができる。これにより、下衣着用のフィット感を増すことができる。
【0011】
また、本発明に係る二部式着物の着付け方法は、左身八つ口の下方において互いに分離された左前身頃と左後身頃と、右身八つ口の下方において互いに分離された右前身頃と右後身頃と、前記左後身頃の脇に取り付けられた左後身頃脇紐と、前記右後身頃の脇に取り付けられた右後身頃脇紐と、前記左前身頃の脇に取り付けられた左前身頃脇紐と、前記右前身頃の脇に取り付けられた右前身頃脇紐とを有し、前記右前身頃の襟の内側に、前記左前身頃脇紐を通す右前身頃ループを取り付け、前記左前身頃の襟の内側に、前記右前身頃脇紐を通す左前身頃ループを取り付けた上衣と、筒状のスカートからなる下衣とからなる二部式着物を用いた着付け方法であって、
前記上衣の袖に左右の腕を通す腕通しステップと、
前記左後身頃脇紐と前記右後身頃脇紐とを前で結ぶ後身頃紐結びステップと、
前記左前身頃脇紐を前記右前身頃ループに通し、前記右前身頃脇紐を前記左前身頃ループに通すループ通しステップと、
前記左前身頃脇紐と前記右前身頃脇紐とを背中で交差させて、身体の前で結ぶ前身頃紐結びステップと、
前記下衣に両足を通して、腰まで引き上げる下衣着用ステップとからなる。これにより、着崩れがしにくく、着用中の調整もしやすい。
さらにまた、本発明に係る二部式着物の着付け方法は、左身八つ口の下方において互いに分離された左前身頃と左後身頃と、右身八つ口の下方において互いに分離された右前身頃と右後身頃と、前記左後身頃の脇に取り付けられた左後身頃脇紐と、前記右後身頃の脇に取り付けられた右後身頃脇紐と、前記右前身頃の襟の内側に取り付けた右前身頃襟紐と、前記左前身頃の襟の内側に取り付けた左前身頃襟紐と、前記右前身頃襟紐を通すべく、前記左前身頃の脇に取り付けた左前身頃脇ループと、前記左前身頃襟紐を通すべく、前記右前身頃の脇に取り付けた右前身頃脇ループとを有する上衣と、筒状のスカートからなる下衣とからなる二部式着物を用いた着付け方法であって、前記上衣の袖に左右の腕を通す腕通しステップと、前記左後身頃脇紐と前記右後身頃脇紐とを前で結ぶ後身頃紐結びステップと、前記右前身頃襟紐を前記左前身頃脇ループに通し、前記左前身頃襟紐を前記右前身頃脇ループに通すループ通しステップと、前記右前身頃襟紐と前記左前身頃襟紐とを背中で交差させて、身体の前で結ぶ前身頃紐結びステップと、前記下衣に両足を通して、腰まで引き上げる下衣着用ステップとからなる。これにより、着崩れがしにくく、着用中の調整もしやすい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る二部式着物は、上述のように構成されているので、短時間で着ることができ、身体にフィットする。
また、本発明に係る二部式着物の着付け方法は、上述のように構成されているので、形を整えやすい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にあっては、帯(帯揚・帯締など)を締めることを前提とする二部式着物を提案する。
御端折りのない「対丈(ついたけ)式」の二部式着物とする。すなわち、上衣の裾を下衣(スカート)の中に入れることとする。
正装や外出着までを想定する。
小物の組合せも楽しめるものとする。
上衣の両サイド(身八つ口の下方の脇の前身頃と後身頃と)を切り離した構成を独自の裁断技術(洋装でいうパターン)により実現する。上衣の前身頃、後身頃のそれぞれにタックを設ける。上衣の前身頃、後身頃、それぞれの左右両脇に脇紐を設ける。下衣のウェスト位置に幅広のゴム(たとえば5センチ幅のゴム)を設ける。これらの組合せにより、自然の布のドレープをつくり出す。洋裁の技術を取り入れることで伝統的な着物のもつ着姿を実現する。
着用に用いる時間は、着付けに不慣れな人でも5分程度で可能である。慣れれば、1分40秒程度で着用可能である。
上衣の右襟(左襟)の内側に、左(右)前身頃脇紐を通すことのできるループを設けることで、胸元・襟元の着崩れを防止する。また、このループは、着用中の調整を可能にする役割をも有する。
下衣は、「前あわせ」(おくみ、巻きスカート部)を縫い込んだ筒式のスカートとする。
下衣(スカート)は、洋式のパターン技術と、両サイド内側の適切な位置に幅広のゴムを設けることで、伝統的なラインを実現でき、動きまわった場合の裾回りなど、着崩れしにくい構造となっている。
下衣(スカート)の幅広ゴムにより、ウェストラインを上下調節可能である。これにより着丈を調節できるため、身長によるサイズ調整に対応可能である。
化繊素材や一般的な洋服地布(90〜92/110〜120センチメートルなど)、反物や、伝統的和服素材(正絹)を素材として用いることにも対応可能である。
着物リフォームにも適している。
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。図中の符号が同一のものは、同様の構成、機能を有する。
【0015】
≪縫製手順≫
本発明の二部式着物は、和布(反物)によって作ることもできるが、ここでは、洋布に型紙を当てて部品をつくり、それらを縫い合わせて完成させることとする。以下、縫製の手順を説明する。部品と他の部品との縫い合わせる作業について主に説明する。それぞれの部品の周囲をどのように処理するかについては、適宜省略する。
<左身頃と右身頃とを後中心で縫いつける>
図1は、本発明に係る二部式着物の身頃(前身頃、後身頃)10を構成する布を袖に縫い付ける前の状態で広げて示す図である。
図1に描くものは、左前身頃と左後身頃がつながっている左身頃10Lである。
図1に描く左身頃と左右対称の右身頃10R(図示省略)が、右前身頃と右後身頃とが繋がっている部分である。それら2枚の身頃(左身頃10Lと右身頃10R)は、背中部分(後中心11)で互いに縫い付けられる。身頃10は、
図1でほぼ真ん中を水平に横切る線である肩12で折られる。
【0016】
<袖を縫い付ける>
次に袖を縫いつける。袖は、
図4(a)に描かれた袖20(20L)である。袖20Lと左右対称な袖20Rは描くのを省略している。ほぼ真ん中にある水平線が、身頃10の肩に続く線である。袖付け21は、身頃10の袖接合部13に縫い付けられる。身頃10Lに袖20Lが縫い付けられると同様に、身頃10Rに袖20Rが縫い付けられる。
【0017】
<タック又はダーツを縫う>
身頃10L、10Rには、前身頃タックT01、後身頃タックT02が設けられる。前身頃、後身頃をそれぞれ身体にフィットさせるべく、立体的にするためである。これらのタックは、タックの代わりにダーツとしてもよい。ここでタックは、折り込んで縫い合わせて立体的にする技術である。ダーツは、折りたたまずに余分な布を切り取って縫い合わせて立体的にする技術である。
【0018】
<前身頃下、後身頃下を縫い合わせる>
タックの処理をした後、身頃の前身頃下接合部16,17に前身頃下30(
図2参照)を縫い付ける。また、身頃の後身頃下接合部18に後身頃下35(
図2参照)を縫い付ける。
【0019】
<おくみ及び襟を縫い合わせる>
身頃10L、10Rにそれぞれおくみ37を縫い合わせる。おくみ37には、前身頃接合部38と襟接合部39とがある。前身頃接合部38とおくみ接合部15とが縫い合わされる。
襟は、表襟40(
図2参照)と裏襟42(
図3参照)との間に配色布41(
図3参照)をはさんで構成する。
そのようにして構成された襟を身頃の襟接合部14及び、おくみの襟接合部39に縫い合わせる。
【0020】
<前身頃脇紐、後身頃脇紐を縫いつける>
前身頃脇紐51は、2本設けられる(51R、51L)。そして、前身頃の左右両脇の前身頃脇紐接合部52に縫い付ける。
後身頃脇紐55は、2本設けられる(55R、55L)。そして、後身頃の左右両脇の前身頃脇紐接合部56に縫い付ける。
脇紐を縫い付ける脇紐接合部は、ウェストに当たる部分ということができる。
【0021】
<スカートの縫製>
後スカート61は、左右対称のものもう一枚と合わせてスカートの後側を構成する。それら2枚は、後中心(
図2の後スカートの右端の直線部分)で縫い合わされる。
左スカート62及び右スカート65は、それぞれカーブを有する側が後スカートと縫い合わされる。左スカート62の直線部分をもつ端は、おくみ接合部63であり、そこには右前おくみ64が縫い合わされる。この右前おくみ64があることにより、着物らしい外観を表現することができる。
【0022】
≪着付け方法(ループを用いない着付け)≫
図5及び
図6は、本発明に係る二部式着物の着付け方法を示す図である。
図5(a)は、上衣に両腕を通す状態を示す。
図5(b)は、後身頃両脇にある左後身頃脇紐55L及び右後身頃脇紐55Rを手探りで探している状態を示す。
図5(c)は、二つの後身頃脇紐をそれぞれ左右の両脇を通して前に持ってきた状態を示す。ここで、まだ掴んでいない前身頃脇紐は、二本とも下に垂れ下がった状態であることがわかる。
【0023】
図5(d)は、左手で二本の後身頃脇紐を前で抑えた状態で、右手で後身頃のセンター(後中心)が背中の位置にしっかりと合っていること、また衣紋を抜く(首の後ろの襟を開ける)ことが適切にできていることを確かめるようすを示す。
図5(e)は、二本の後身頃脇紐を身体の前で結ぶ状態を示す。
図5(f)は、後身頃脇紐がしっかりと結べていることを確かめる状態を示す。
【0024】
図5(g)は、二本の前身頃脇紐の位置を確認する状態を示す。
図5(h)は、二本の前身頃脇紐を身体の後で交差させる状態を示す。
図5(i)は、左右の前身頃を身体の前で重ねる状態を示す。
【0025】
図6(j)は、左右の前身頃を身体の前で重ねた状態で、うしろから前身頃脇紐をもってくる状態を示す。
図6(k)は、前身頃脇紐を身体の前で結ぶ状態を示す。
図6(l)は、前身頃脇紐の結び目を整える状態を示す。
【0026】
図6(m)は、下衣(スカート)を手にもつ状態を示す。
図6(n)は、下衣に片足を通す状態を示す。
図6(o)は、下衣に両足を通し、上に引き上げる状態を示す。
【0027】
図6(p)は、腰回りの調整をする状態を示す。
図6(q)は、姿見を正面から見て概観を確かめる状態を示す。
図6(r)は、姿見で後の外観を確かめる状態を示す。
図5(a)から
図6(r)までに要した時間は、1分43秒であった。初めてこの二部式着物を着る人でも、5分以内で切ることができるものと期待できる。
【0028】
≪ループを設けた実施例≫
図5、
図6には、右襟の内側、左襟の内側にループを設けていない場合についての着付け方法を示してある。前述したようにループ45を右襟の内側に縫い付けることで、左前身頃脇紐をループ45に通してから結ぶことが可能となる。それを行うことで、着崩れがしづらく、また、着用中の調整がしやすいという効果が得られる。ループ45は、上身頃の襟下から18センチメートルのところに下を合わせて縫い付けることができる(
図8参照)。このループを縫い付ける位置は、胸から下の部分またはウェストの部分にあたる。
同様にループを左襟の内側に縫い付けてループ46を設けて、右前身頃脇紐をループ46に通して結ぶこととすることができる。ループ46もループ45と同様に、上身頃の襟下から18センチメートルのところに下を合わせて縫い付けることができる(
図8参照)。
ループ45、ループ46は、襟の内側(裏側)に設けるのが望ましい。表と裏との境界部分に設けてもよい。
図6で説明したように、左右の前身頃脇紐の結び目は、下衣によって隠される。したがって、結び目が目立たない。
【0029】
図7には、二部式着物を後ろから見た図を描いてある。
図7(a)は、本発明の二部式着物であり、
図7(b)は、従来例である。従来例では、身八つ口の下方において、前身頃と後身頃とは縫い付けられている。
本発明にあっては、身八つ口の下方において、前身頃と後身頃とが分離されており、後身頃脇紐55R、55Lが後身頃の脇に縫い付けられ、前身頃脇紐51R、51Lが前身頃脇紐の脇に縫い付けられている。
図7では、本発明の最も根本となるアイデアを示す。すなわち従来例が身八つ口の下方において、前身頃と後身頃とが縫い付けられた構成であるのに対し、本発明の二部式着物にあっては、身八つ口の下方において前身頃と後身頃とが分離されているのが第一の特徴である。そして、左右の前身頃、左右の後身頃の脇に脇紐が縫い付けられていることが第二の特徴である。
【0030】
≪部品を縫い合わせて仕上げた実施例(実施例1)≫
図8は、
図1、
図2、
図3、
図4に示した本発明に係る二部式着物の部品を縫い合わせて仕上げた状態を示している。
図8(a)は、前から見た図である。
図8(b)は、後ろから見た図である。前身頃脇紐51R、51Lは、前身頃の脇であって、前身頃下接合部17(
図1を参照)のすぐ上、すなわち前身頃の一番下の位置に縫い付けられる。
図8(a)では、後身頃脇紐を描くのを省略している。
後身頃脇紐55R、55Lは、後身頃下接合部18のすぐ下、すなわち後身頃下35の最上部の位置に縫い付けられる(
図1、
図2を参照)。
図8(b)では、前身頃脇紐を描くのを省略している。
また、左前身頃に設けるループ46の位置が
図8に示されている。前述したように上身頃の襟下から18センチメートルのところに下を合わせて縫い付ける。また、ループ46を襟の裏側に縫い付けるが、位置をわかりやすくするために、実線で図示している。
右前身頃に設けるループ45の位置もまた、ループ46と同様に上身頃の襟下から18センチメートルのところに下を合わせて縫い付ける。ループ45も、襟の裏側に縫い付ける。
【0031】
≪裾部分を三角状に外側に出す実施例(実施例2)≫
図9には、前後上身頃(前身頃及び後身頃)の身八つ口の部分において、裾部分を裾の端から脇下まで三角状に外側に出すこととした実施例(実施例2)を示すものである。これにより脇の開きを防止することができる。
図9(a)は、前から見た図であり、
図9(b)は、後から見た図である。左右の前身頃下30及び左右の後身頃下35がそれぞれ外側に三角状に出ており、裾部分が広がっている。これにより長時間、着用しても、脇が開くことを防止できる。
このことは、前記左前身頃、前記左後身頃、前記右前身頃、前記右後身頃のそれぞれのウェスト部分よりも下方において、水平方向の広がりを設けたと表現することもできる。
【0032】
≪下衣(スカート)≫
図10は、下衣を仕上げた状態を示す図である。
図10(a)は、前から見た図である。
図10(b)は、後ろから見た図である。
図10(c)は、幅広ゴムを取り付ける様子を説明する図である。
図10(a)のスカート側襟66は、上衣の襟に連続する部分である。下衣の左脇には、最上部にホックHを設けて、その下にファスナーFを上下に延在させる。これにより着る人が、着脱がしやすい。
さらに、後ろ側の内側には、幅広の平ゴムを水平方向に延在させて設ける。
図10(b)及び
図10(c)に示すG1、G2、G3、G4は、ゴム縫い付け位置を示している。
図10(c)に示すように、下衣の布地を水平方向にたるませた状態で幅広の平ゴムを縫い付ける。これにより、ウェストサイズがさまざまの人が着用可能となる。
この下衣を単独に着用して、通常のスカートとして用いることも可能である。
【0033】
≪着付け方法(ループを用いる着付け)≫
図11、
図12、
図13は、ループ(紐通し)を用いる着付け方法(a1)から(i3)までをる示す図である。
図11(a1)は、両腕を袖に通す様子を示す。
図11(a2)は、右後身頃脇紐をつかむ様子を示す。
図11(a3)は、右後身頃脇紐を右手でつかみつつ、左後身頃脇紐を左手でつかむ様子を示す。
図11(b1)は、右後身頃脇紐と、左後身頃脇紐とを体の前で結ぶ様子を示す。
図11(b2)は、右後身頃脇紐と、左後身頃脇紐との結び目を整える様子を示す。
図11(b3)は、衣紋を抜く動作を示す。首の後ろと襟の間が適切な間隔になるように、たとえば、姿見を見て調整する。調整のためには、後身頃の裾部分を両手でつかんで下に引っ張るようにする。
図11(c1)は、左前身頃脇紐を、右前身頃ループに通し始める動作を示す。
図11(c2)は、左前身頃脇紐を、右前身頃ループに通しつつある動作を示す。
図11(c3)は、ループに通し終えた左前身頃脇紐を左手に持ち、右手で左前身頃をつかむ様子を示す。
【0034】
図12(d1)は、左手で左前身頃を持ち、ループに通し終えた左前身頃脇紐を右手に持ち、左前身頃脇紐を左前身頃の内側(身体に近い側)を通して後方に運ぶ動作を示す。
図12(d2)は、右手で左前身頃の襟をつかみ、左手で左前身頃脇紐をつかんで、左前身頃脇紐と左前身頃との位置関係を調整する様子を示す。
図12(d3)は、左前身頃と身体の間に位置する左前身頃脇紐を左ひじで押さえつつ、左手で左前身頃ループをつかみ、右手で右前身頃脇紐の先端をつかんで左前身頃ループに通そうとする動作を示す。
図12(e1)は、右前身頃脇紐を左前身頃ループに通す動作を示す。
図12(e2)は、左前身頃脇紐と、右前身頃脇紐とを背中で交差させて身体の前に持ってきた状態を示す。
図12(e3)は、左前身頃脇紐と、右前身頃脇紐とを身体の前で結ぶ動作を示す。
図12(f1)は、襟を調整する動作を示す。
図12(f2)は、裾を調整する動作を示す。
図12(f3)は、下衣を手にして、上下、前後、左右を確認する動作を示す。
【0035】
図13(g1)は、下衣に足を通す動作を示す。
図13(g2)は、両足を通した下衣を引き上げる動作を示す。
図13(g3)は、下衣の左に設けられたファスナーを引き上げる動作を示す。
図13(h1)は、下衣によって、上衣の裾が隠れることを確認する動作をしめす。
図13(h2)は、腕の動作が自由にできることを確認し、上衣の裾が下衣側に引かれ過ぎていないことを確認する動作を示す。
図13(h3)は、左から見た姿を確認する動作を示す。
図13(i1)は、後から見た姿を確認する動作を示す。
図13(i2)は、右から見た姿を確認する動作を示す。
図13(i3)は、正面から見た姿を確認する動作を示す。
【0036】
図11の(a1)から
図13の(i3)まで、27枚の図に描かれた動作を1分56秒で行うことができた。ループをつかわない着付けが1分43秒であったので、それより、13秒長い時間がかかっている。しかし、ループを用いることにより、さらに着くずれがしづらい。
【0037】
≪前身頃の紐の位置と、ループの位置とを入れ替えた実施例(実施例3)≫
前身頃の紐の位置は、
図7、
図8、
図9に描いたものにおいては、脇であり、ループ(紐通し)の位置は、襟の内側であった。
実施例3では、紐を取り付ける位置と、ループ(紐通し)を取り付ける位置とを逆転させる。これによっても実施例1、実施例2と同様の効果を奏する。
すなわち、左右の前身頃の脇に縫い付ける紐を、左右の襟の内側に縫い付ける。この紐は、もはや脇紐と呼ぶのは不適切であるので、襟紐(左前身頃襟紐、右前身頃襟紐)と呼ぶ。
また、左右の襟の内側に取り付けるループを、左右の前身頃の脇に縫い付ける。このループは、左前身頃脇ループ、右前身頃脇ループと呼ぶ。
【0038】
≪実施例3の着付け方法≫
実施例3の場合の着付けは、左身八つ口の下方において互いに分離された左前身頃と左後身頃と、右身八つ口の下方において互いに分離された右前身頃と右後身頃と、前記左後身頃の脇に取り付けられた左後身頃脇紐と、前記右後身頃の脇に取り付けられた右後身頃脇紐と、前記右前身頃の襟の内側に取り付けた右前身頃襟紐と、前記左前身頃の襟の内側に取り付けた左前身頃襟紐と、前記右前身頃襟紐を通すべく、前記左前身頃の脇に取り付けた左前身頃脇ループと、前記左前身頃襟紐を通すべく、前記右前身頃の脇に取り付けた右前身頃脇ループとを有する上衣と、筒状のスカートからなる下衣とからなる二部式着物を用いた着付け方法であって、前記上衣の袖に左右の腕を通す腕通しステップと、前記左後身頃脇紐と前記右後身頃脇紐とを前で結ぶ後身頃紐結びステップと、前記右前身頃襟紐を前記左前身頃脇ループに通し、前記左前身頃襟紐を前記右前身頃脇ループに通すループ通しステップと、前記右前身頃襟紐と前記左前身頃襟紐とを背中で交差させて、身体の前で結ぶ前身頃紐結びステップと、前記下衣に両足を通して、腰まで引き上げる下衣着用ステップとからなる。
ループを襟に設ける場合の着付けでは、脇紐をいったん前方に引っ張ってループを通してから、背中側にもっていく。
それに対し、ループを脇に設ける場合の着付けでは、襟紐を後に持っていって、ループを通して、そのまま背中側に持っていく。
この着付け方法の違いがある。
いずれの場合であっても、着崩れがしづらい着付けができ、着やすい二部式着物を提供可能である。
【0039】
本発明の二部式着物は、伝統的、正調の着物に適用し、生地の質の高いものとすることができる。また、現代の生活様式で育った若い人の着物、料理店や旅館などで接待をする仲居さんのユニフォーム、外国人観光客のみやげもの、国際的なイベントの衣装、マスゲームのユニフォームなどにも利用可能である。
新品としての適用のみならず、古着などのお直しに適用することもできる。