(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
700℃以上1200℃以下で焼成して、固体酸化物形燃料電池の空気極および空気極集電層のうちの少なくとも1方を形成するために用いられる空気極用組成物であって、
コバルトを含むペロブスカイト型酸化物と、
前記焼成の際に前記ペロブスカイト型酸化物由来の前記コバルトと反応してストロンチウムとコバルトとを含む酸化物を生成するストロンチウムを含んだストロンチウムレジネートと、
を含み、
前記ストロンチウムレジネートが、前記ペロブスカイト型酸化物100質量部に対して、ストロンチウム元素基準で0.02質量部以上2.5質量部以下となるように調製されている、固体酸化物形燃料電池の空気極用組成物。
前記ストロンチウムレジネートが、前記ペロブスカイト型酸化物100質量部に対して、ストロンチウム元素基準で1質量部以下となるように調製されている、請求項1に記載の空気極用組成物。
前記ペロブスカイト型酸化物と前記炭酸ストロンチウムとの合計を100質量%としたときに、前記炭酸ストロンチウムの割合が0.02質量%以上2.5質量%以下である、請求項4に記載の空気極用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない構成材料や、SOFCの製造プロセス、SOFCシステムの構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態において、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の空気極用組成物は、第1成分としてのペロブスカイト型酸化物と、第2成分としてのストロンチウムレジネートと、を含んでいる。本実施形態の空気極用組成物は、典型的には、さらに第3成分として有機溶媒を含み、ペースト状に調製されている(以下、ペースト状の空気極用組成物を、単に「空気極用ペースト」ということがある。)。なお、ペースト状とは、インク状やスラリー状等を包含する用語である。
【0020】
第1成分であるペロブスカイト型酸化物としては、結晶構造中にコバルト(Co)元素を含むものであれば特に限定されず、従来からSOFCの空気極の形成に用いられているもののなかから、1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。典型例として、次の一般式(1):A(Co
1−xM
x)O
3−δ (1)
(ただし、Aは、1価のアルカリ金属、2価のアルカリ土類金属および3価の希土類のうちのいずれかに分類される金属元素の1種または2種以上であり、xは、0≦x<1を満たす実数であり、0<xのとき、Mは、3価以上の金属元素であって、遷移金属、典型金属および希土類のいずれかに分類される金属元素のうちの1種または2種以上であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。);で示される酸化物が挙げられる。
【0021】
式(1)中のMは、Co以外の遷移金属元素のうちの1種または2種以上であることが好ましい。具体例として、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、チタン(Ti)等が挙げられる。また、xは、電気伝導性向上等の点から、好ましくは0≦x≦0.9であり、例えば0.2≦x≦0.8である。
【0022】
式(1)中のAは、Ln(ランタノイド)元素およびAe(アルカリ土類金属)元素のうちの1種または2種以上であることが好ましい。言い換えれば、一好適例として次の一般式(2):(Ln
1−yAe
y)(Co
1−xM
x)O
3−δ (2)
(ただし、Lnは、原子番号57〜71のランタノイド元素のうちの1種または2種以上であり、yは、0≦y<1を満たす実数であり、0<yのとき、Aeは、アルカリ土類金属元素のうちの1種または2種以上であり、xは、0≦x<1を満たす実数であり、0<xのとき、Mは、3価以上の金属元素であって、遷移金属、典型金属および希土類のいずれかに分類される金属元素のうちの1種または2種以上であり、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。);で示される酸化物が挙げられる。
【0023】
Lnの具体例としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)等が挙げられ、なかでもLaが好ましい。Aeの具体例としては、カルシウム(Ca)やストロンチウム(Sr)等が挙げられ、なかでもSrが好ましい。また、電気伝導性向上や、他部材(例えば固体電解質)との反応性を抑制する点から、yは、好ましくは0≦y≦0.8であり、例えば0.1≦y≦0.5である。
【0024】
一般式(2)で示される酸化物のなかでも、構成元素にLaとCoとを含むランタンコバルト系のペロブスカイト型酸化物(LaCoO
3)が好ましい。なお、ランタンコバルト系酸化物とは、LaおよびCoを構成金属元素とする酸化物の他、LaおよびCo以外に他の1種以上の金属元素を含む酸化物を包含する用語である。ランタンコバルト系酸化物の一典型例として、ランタンストロンチウムコバルト(LSC、例えば、La
0.6Sr
0.4CoO
3)や、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF、例えば、La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3)等が挙げられる。
【0025】
ペロブスカイト型酸化物の形態については特に限定されないが、典型的には粉末形態である。当該粉末を構成する粒子の平均粒径(レーザー回折・光散乱法に基づく体積基準の累積50%粒径。以下同じ。)は、概ね20μm以下であることが適当であり、Coの偏析を抑制して、均質な空気極を実現する点から、好ましくは0.01μm以上10μm以下、より好ましくは0.3μm以上5μm以下である。
【0026】
第2成分であるストロンチウムレジネートとしては、ストロンチウム(Sr)を構成元素とする有機金属化合物のなかから、1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。ストロンチウムレジネートを構成する有機成分の種類は特に制限されない。ストロンチウムレジネートの一好適例として、オクチル酸、2−エチルヘキサン酸、アビエチン酸、ナフテン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸、ネオデカン酸等の高炭素数(例えば炭素数8以上)のカルボン酸のストロンチウム塩;スルホン酸のストロンチウム塩;ストロンチウムを含むアルキルメルカプチド(アルキルチオラート)、アリールメルカプチド(アリールチオラート)、メルカプトカルボン酸エステル;ストロンチウムを含むアルコキシド;等が挙げられる。
【0027】
ストロンチウムレジネートは、典型的には、溶媒(典型的には有機溶媒)中に当該ストロンチウムレジネートを分散または溶解させた溶液、所謂、レジネートペーストの形態で市販、あるいは使用される。レジネートペーストを構成する溶媒は、例えばアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒等であり得る。
【0028】
本実施形態の空気極用組成物は、第1成分であるペロブスカイト型酸化物100質量部に対して、第2成分であるストロンチウムレジネートの割合が、ストロンチウム元素基準で0.02〜2.5質量部となるように調製されている。これにより、発電性能の優れた空気極を実現することができ、高い出力電圧を長期に亘って安定的に発揮することができる。好ましくは、第1成分であるペロブスカイト型酸化物100質量部に対して、第2成分であるストロンチウムレジネートの割合が、ストロンチウム元素基準で0.02〜1質量部となるように調製されている。これによって、特に初期の出力電圧を向上することができる。したがって、高い発電性能を長期に亘って安定的に発揮することができ、本発明の効果をより高いレベルで奏することができる。
【0029】
第3成分である有機溶媒としては特に限定されず、従来からSOFCの空気極の形成に用いられているもののなかから、1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。具体例として、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、オクタノール、エチレングリコール、α−テルピネオール等の、−OH基を有するアルコール系溶媒;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の、−O−結合基を有するエーテル系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート等の、−COO−結合基を有するエステル系溶媒;エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。なかでも、アルコール系溶媒を好ましく用いることができる。一好適例として、上記レジネートペーストに含まれる溶媒と相溶性のある有機溶媒を用いることができる。例えば、上記レジネートペーストに含まれる溶媒と同じ系統の(同じ官能基や結合基を有する)有機溶媒を好ましく用いることができる。
【0030】
なお、空気極用組成物は、上記した2成分あるいは3成分のみで構成されていてもよく、上記以外に他の任意成分を1種または2種以上含んでいてもよい。任意成分の一例としては、バインダや、分散剤、増粘剤、可塑剤、焼結助剤、造孔材(気孔形成材)、酸化防止剤等が例示される。なかでも、塗工性や作業性、SOFCの一体性を向上させる観点からは、バインダを含むことが好ましい。また、ガス拡散性を向上させる観点からは、造孔材や可塑剤を含むことが好ましい。
【0031】
バインダは、SOFCの製造工程における脱バインダ処理(典型的には、500℃以上の加熱焼成)で蒸発除去し得るものであれば特に限定されない。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子;メタクリル酸エステル等のエステル系ポリマー;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、等のアクリル系ポリマー;ポリエチレンオキサイド等のエチレン系ポリマー;ポリアクリロニトリル、ポリメタリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリウレタン等のウレタン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンポリフッ化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系重合体;スチレンブタジエンゴム等のゴム類;等が例示される。
【0032】
分散剤としては、例えばカルボン酸系の高分子界面活性剤が例示される。造孔材としては、例えばカーボン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、澱粉等が例示される。可塑剤としては、例えばプロピレングリコール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル等のグリコールエーテル類;フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類;等が例示される。
【0033】
空気極用ペースト全体に占めるペロブスカイト型酸化物の割合は特に限定されないが、質量比で、概ね50質量%以上、典型的には60〜90質量%、例えば70〜80質量%とするとよい。空気極用ペースト全体に占めるストロンチウムレジネートの割合は、ストロンチウム元素基準の上記割合を満たす限りにおいて特に限定されないが、質量比で、概ね0.1〜20質量%、典型的には0.5〜10質量%、例えば1〜5質量%とするとよい。また、空気極用ペーストにおけるストロンチウムレジネートの濃度は、概ね0.14mmol/L〜0.023mol/L、例えば0.3mmol/L〜0.01mol/Lとするとよい。これによって、空気極用ペーストの塗工性を向上することができる。また、上記ストロンチウム元素基準の割合をより安定的に実現することができる。
【0034】
上記ペロブスカイト型酸化物の質量に対する上記ストロンチウムレジネートの質量の比は、概ね0.0016〜0.23、典型的には0.007〜0.125、例えば0.014〜0.0625とするとよい。これによって、空気極用ペーストの保存安定性を向上することができる。また、上記ストロンチウム元素基準の割合をより安定的に実現することができる。
【0035】
空気極用ペースト全体に占める有機溶媒の割合は特に限定されないが、質量比で、概ね10〜40質量%、典型的には15〜30質量%とするとよい。空気極用ペーストの固形分濃度(NV)は、概ね50〜90質量%、典型的には60〜80質量%、例えば65〜75質量%とするとよい。これによって、空気極用ペーストの均質性や塗工性、保存安定性のうちの少なくとも1つを向上することができる。
空気極用ペーストがバインダを含む場合、空気極用ペースト全体に占めるバインダの割合は特に限定されないが、質量比で、概ね1〜10質量%、例えば2〜7質量%とするとよい。これによって、空気極をより良く作製することができる。
【0036】
(第2実施形態)
第2実施形態において、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の空気極用組成物は、第1成分としてのペロブスカイト型酸化物と、第2成分としての炭酸ストロンチウムと、を含んでいる。本実施形態の空気極用組成物は、典型的には粉末状に調製されている(以下、粉末状の空気極用組成物を、単に「空気極用粉末」ということがある。)。第1成分としてのペロブスカイト型酸化物は、上記した第1実施形態と同様である。また、本実施形態の空気極用組成物は、第1実施形態と同様に、上記した2成分以外の成分、例えば有機溶媒や任意成分を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0037】
第2成分である炭酸ストロンチウム(SrCO
3)としては、一般に市販されているものを購入してもよいし、従来公知の方法で作製してもよい。炭酸ストロンチウムの形態については特に限定されないが、典型的には粉末形態である。当該粉末を構成する粒子の平均粒径は、概ね20μm以下であることが適当であり、好ましくは0.01μm以上10μm以下、より好ましくは0.3μm以上5μm以下である。なかでも、第1成分であるペロブスカイト型酸化物の平均粒径D1と、第2成分である炭酸ストロンチウムの平均粒径D2との比(D2/D1)が、概ね0.2〜5、例えば0.5〜2であるとよい。これにより、空気極の均質性を高めると共に、Coの偏析をより良く抑制することができる。
【0038】
本実施形態の空気極用組成物は、第1成分であるペロブスカイト型酸化物100質量部に対して、第2成分である炭酸ストロンチウムの割合が、ストロンチウム元素基準で0.01〜1.5質量部となるように調製されている。これにより、発電性能の優れた空気極を実現することができ、高い出力電圧を長期に亘って安定的に発揮することができる。好ましくは、第1成分であるペロブスカイト型酸化物100質量部に対して、第2成分である炭酸ストロンチウムの割合が、ストロンチウム元素基準で0.01〜0.5質量部、好ましくは0.01〜0.1質量部となるように調製されている。これによって、特に初期の出力電圧を向上することができる。したがって、高い発電性能を長期に亘って安定的に発揮することができ、本発明の効果をより高いレベルで奏することができる。
【0039】
空気極用粉末全体に占めるペロブスカイト型酸化物の割合は特に限定されないが、質量比で、概ね50質量%以上、典型的には80質量%以上、例えば90〜98質量%とするとよい。空気極用粉末全体に占める炭酸ストロンチウムの割合は、ストロンチウム元素基準の上記割合を満たす限りにおいて特に限定されないが、質量比で、概ね0.001〜5質量%、典型的には0.01〜3質量%、例えば0.1〜1質量%とするとよい。
また、ペロブスカイト型酸化物粉末と上記炭酸ストロンチウム粉末との合計を100質量%としたときに、炭酸ストロンチウム粉末の割合は、概ね0.01〜3質量%、好ましくは0.02〜2.5質量%とするとよい。これによって、上記ストロンチウム元素基準の割合をより安定的に実現することができる。
【0040】
(第3実施形態)
図1に模式的に示すように、第3実施形態に係るSOFCの単セル50は、燃料極10と固体電解質層20と反応抑止層30と空気極40とを備えている。本実施形態のSOFC50は、所謂、燃料極支持型である。SOFC50は、空気極40の耐久性が従来に比べて向上しているため、優れた発電性能(例えば、動作温度700℃における出力電圧が0.85V以上)を長期に亘って発揮することができる。したがって、SOFC50は長期間安定して使用可能な信頼性の高いものである。
【0041】
本実施形態の燃料極10は、燃料極支持体12と燃料極活性層14とを備えている。燃料極支持体12は、電極として機能と、SOFC50を支持する基体としての機能とを兼ね備える。燃料極支持体12の構成材料は、従来この種のSOFCの燃料極に用いられる材料(触媒活性を有する導電性材料)と同様でよい。一好適例として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等の金属、若しくは金属酸化物が挙げられる。なかでもニッケルは、他の金属に比べて安価であり、且つ高い触媒活性を示す(燃料ガスとの反応性が十分に大きい)ことから好ましい。
【0042】
あるいは、上述のような金属若しくは金属酸化物と、後述する固体電解質層20の構成材料(典型的には酸化物イオン伝導体)とを混合した複合材料を用いることもできる。一好適例として、ニッケル系の金属材料(例えばNiO)と安定化ジルコニア(例えば、イットリア安定化ジルコニア)とのサーメットが挙げられる。これにより、燃料極10と固体電解質層20との熱膨張の整合性を向上して、より耐久性に優れたSOFCを実現することができる。複合材料の混合比は特に限定されないが、通常、金属若しくは金属酸化物:酸化物イオン伝導体の質量比が、90:10〜40:60程度であり、例えば80:20〜45:55であるとよい。これにより、電気伝導性と耐久性とをより高いレベルで両立することができる。
【0043】
燃料極支持体12の平均厚み(すなわち、積層方向の長さ)は特に限定されないが、ガス拡散性を向上する観点や抵抗を低減する観点から、概ね2mm以下、典型的には1.5mm以下、例えば1mm以下であるとよい。また、強度保持の観点からは、概ね0.1mm以上、例えば0.5mm以上であるとよい。燃料極支持体12は、ガス拡散性や還元反応性の向上のために多孔質構造を有している。燃料極支持体12の気孔率(水銀圧入法の測定によって得られる気孔容積Vb(cm
3)を、見かけの体積Va(cm
3)で除して、100を掛けることにより算出した値。以下同じ。)は特に限定されないが、ガス拡散性を向上する観点から、概ね20体積%以上、典型的には30体積%以上、例えば30〜50体積%であるとよい。
【0044】
燃料極活性層14は、燃料極支持体12の表面、すなわち固体電解質層20の側の面に配置され、燃料極支持体12よりも高い触媒活性を有する。燃料極活性層14の構成材料は、従来この種のSOFCの燃料極に用いられる材料と同様でよい。燃料極活性層14の構成材料は、燃料極支持体12の構成材料と同じであってもよく、一部または全部の構成材料が異なっていてもよい。SOFC50の一体性を高める観点からは、燃料極支持体12と燃料極活性層14とに、少なくとも同種の金属若しくは金属酸化物を含むことが好ましい。また、燃料極活性層14と固体電解質層20との熱膨張の調和を高める観点からは、燃料極活性層14と固体電解質層20とに、少なくとも同種の酸化物イオン伝導体を含むことが好ましい。これによって、SOFCのハーフセルの密着性や接合性を高めることができる。したがって、界面剥離等の不具合を高いレベルで抑制することができ、信頼性に優れたSOFC50を実現することができる。
【0045】
燃料極活性層14の平均厚みは特に限定されないが、抵抗を低減する観点から、概ね80μm以下、典型的には70μm以下、例えば50μm以下であるとよい。また、触媒活性点を増やして、当該層としての機能を高いレベルで発揮する観点からは、概ね20μm以上、例えば25μm以上であるとよい。燃料極活性層14は、燃料極支持体12と同様に多孔質構造である。燃料極活性層14の気孔率は特に限定されないが、ガスとの接触面積を十分に確保する観点やガス拡散性を向上する観点から、概ね1体積%以上、例えば5体積%以上であるとよい。また、電気伝導性や機械的強度を高いレベルで維持する観点からは、通常、燃料極支持体12の気孔率よりも低く、概ね30体積%以下、典型的には20体積%以下、例えば15体積%以下であるとよい。
【0046】
なお、本実施形態では、燃料極10が燃料極支持体12と燃料極活性層14との2層構造を有しているが、これには限定されない。燃料極10は、例えば3層以上の構造であってもよいし、例えば気孔率が一定な単層構造であってもよい。
【0047】
固体電解質層20は、燃料極活性層14の表面、すなわち反応抑止層30の側の面に配置され、酸素イオンを伝導させると共に、燃料ガスと空気とを分離する役割を併せ持つ。固体電解質層20の構成材料は、従来この種のSOFCの固体電解質に用いられる材料(典型的には酸化物イオン伝導体)と同様でよい。一好適例として、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)等の元素を含む酸化物が挙げられる。なかでも、イットリア(Y
2O
3)等の安定化剤で安定化されたジルコニア(ZrO
2)、例えばYSZ(Yttria stabilized zirconia)や、ガドリニア(Gd
2O
3)等のドープ剤をドープしたセリア(CeO
2)、例えばGDC(Gadolinium doped Ceria)が好ましい。安定化剤やドープ剤の含有割合は特に限定されないが、酸化物イオン伝導体全体を100mol%としたときに、凡そ5〜10mol%であることが好ましい。
【0048】
固体電解質層20の平均厚みは特に限定されないが、一般に電気抵抗は厚みに比例して増大するため、抵抗を低減する観点からは、概ね30μm以下、典型的には20μm以下、例えば15μm以下であるとよい。これにより、一層高い出力電圧を実現することができる。また、ガスのリークやクラック等の不具合の発生を抑制する観点からは、平均厚みが概ね3μm以上、例えば5μm以上であるとよい。固体電解質層20の気孔率は特に限定されないが、ガスのリークを防止する観点から、通常は5体積%以下、例えば2体積%以下であるとよい。一方で、極端に緻密な(例えば気孔率が0.1体積%以下の)固体電解質層20を形成するためには原子レベルでの積み上げが必要となり、特殊で煩雑な操作が必要となる。したがって、作業性や生産性、低コストの観点からは、概ね0.2体積%以上、例えば0.5体積%以上であるとよい。
【0049】
反応抑止層30は、固体電解質層20の表面、すなわち空気極40の側の面に配置され、固体電解質層20と空気極40との界面を安定化する役割を担う。例えば、固体電解質層20に酸化ジルコニウム系の材料を含む場合には、反応抑止層30の効果がより良く発揮される。反応抑止層30の構成材料は、従来この種のSOFCの反応抑止層に用いられる材料と同様でよい。一好適例として、YSZやGDCが挙げられる。
【0050】
反応抑止層30の平均厚みは特に限定されないが、通常、固体電解質層20の平均厚みに比べて薄く、低抵抗化の観点や当該層の機能をより良く発揮させる観点からは、概ね1〜5μmであるとよい。反応抑止層30の気孔率は、通常、固体電解質層20と概ね同等であり、典型的には0.2〜5体積%、例えば0.5〜2体積%であるとよい。
【0051】
なお、本実施形態では、固体電解質層20と空気極40との間に反応抑止層30を有しているが、SOFC50は反応抑止層30を有していなくてもよい。その場合、SOFC50は、燃料極10と固体電解質層20と空気極40とを備え、固体電解質層20の表面に空気極40が直接配置される。
【0052】
空気極40は、電極としての機能を備える。空気極40は、ここで開示される空気極用組成物の焼成体で構成されている。具体的には、例えば、第1実施形態に示すようなコバルトを含むペロブスカイト型酸化物とストロンチウムレジネートと任意成分とを有機溶媒中で混合してなる空気極用ペースト、または、第2実施形態に示すようなコバルトを含むペロブスカイト型酸化物と炭酸ストロンチウムと任意成分とを混合してなる空気極用粉末を、スクリーン印刷等の手法で反応抑止層30の上に付与し、例えば700℃〜1200℃(好ましくは800℃〜1100℃)で1〜5時間程度焼成することによって、形成されている。
【0053】
空気極40は、例えば、コバルトを含むペロブスカイト型酸化物と、ストロンチウム元素とを含み、上記ペロブスカイト型酸化物粉末100質量部に対して、上記ストロンチウム元素の割合が0.01質量部以上2.5質量部以下である。より詳しくは、空気極40は、例えば、コバルトを含むペロブスカイト型酸化物と、ストロンチウムレジネートに由来するストロンチウム元素とを含み、上記ペロブスカイト型酸化物粉末100質量部に対して、上記ストロンチウムレジネートに由来するストロンチウム元素の割合が0.02質量部以上2.5質量部以下である。あるいは、空気極40は、コバルトを含むペロブスカイト型酸化物と、炭酸ストロンチウムに由来するストロンチウム元素とを含み、上記ペロブスカイト型酸化物粉末100質量部に対して、上記炭酸ストロンチウムに由来するストロンチウム元素の割合が0.01質量部以上1.5質量部以下である。
【0054】
なお、測定対象に含まれるストロンチウム元素の由来(起源)は、例えばX線回折法(X-ray diffraction:XRD)やラマン分光法によって明らかにすることができる。具体的には、例えば測定対象がペースト状である場合には、まず、当該ペースト状の測定対象を600〜800℃程度の温度で熱処理する。次に、上記熱処理によって得られた焼成物、あるいは固形状の測定対象(例えば空気極40)を、一般的なX線回折装置(例えば、(株)リガク製のRINT‐TTRIII、CuKα線(管電圧50kV,管電流300mA))を用いて測定する。得られたXRDチャートから、SrOおよびSrCO
3のピーク位置を読み取り、ストロンチウム元素の定性(由来の特定)を行うことができる。
また、ピークのS/N比が小さい(悪い)場合には、放射光XRDによってストロンチウム元素の定性を行うとよい。例えば、Spring−8(ビームラインBL19B2)において、粉末回折測定装置(大型デバイシェラーカメラ)を用い、測定対象を波長λ=0.4Åで10分間露光させて測定を行うとよい。これにより、例えば測定対象に含まれるストロンチウム元素が微量である場合等にも、ストロンチウム元素の定性を精度よく行うことができる。
【0055】
空気極40の平均厚みは特に限定されないが、十分な触媒活性点を得る観点や、抵抗を低減する観点から、概ね5μm以上、典型的には5〜50μm、例えば10〜30μmであるとよい。空気極40は、ガス拡散性や酸化反応性の向上のために多孔質構造を有している。空気極40の気孔率は特に限定されないが、概ね10体積%以上、典型的には10〜30体積%、例えば15〜25体積%であるとよい。
【0056】
図2は、SOFC50を備えたSOFCシステム(発電システム)100を模式的に示す分解斜視図である。SOFCシステム100は、
図1に示すSOFC50と同様の積層構造を有するSOFC(単セル)50a,50bが、金属製のインターコネクタ60,60aを介して複数層積み重なったスタックとして構成されている。図面中央に配されるインターコネクタ60aは、その両面を2つの単セル50a,50bで挟まれており、一方のセル対向面62がセル50bの空気極40と対向し、他方のセル対向面66がセル50aの燃料極10と対向している。インターコネクタ60aのセル対向面62,66と、それぞれ対応する単セル50a,50bの対向面との間には、接合材を付与してなる封止部(図示せず)が形成されている。また、セル対向面62,66には複数の溝が形成されており、供給されたガスが流れるガス流路64,68を構成している。
【0057】
SOFCシステム100の作動時には、燃料極10側のガス流路68に燃料ガス(ここでは水素(H
2)ガス)が、空気極40側のガス流路64に酸素(O
2)含有ガス(ここでは空気(Air))が、それぞれ供給される。SOFCシステム100に電流を印加すると、空気極40において酸素が還元され、酸化物イオンとなる。そして、該酸化物イオンが反応抑止層30と固体電解質層20とを介して燃料極10に到達し、燃料ガスを酸化して電子を放出することにより電気エネルギーを発生させる。
【0058】
(第4実施形態)
ここで開示される空気極用組成物は、上述した空気極40を形成する用途に加えて、例えば空気極の集電層を形成する用途においても好適に用いることができる。かかる集電層は、空気極と他部材とを電気的および/または物理的に接続するためのものであり得る。空気極と電気的・物理的に接続される他部材としては、金属製の部材やセラミック製の部材、例えばSOFCのスタックのガス管やインターコネクタ等が挙げられる。一具体例では、
図2に示す態様において、単セル50a,50bの空気極40の表面に、それぞれ当該空気極用組成物を付与して、インターコネクタ60,60aのセル対向面62と重ね合わせ、850〜900℃で焼成する。これにより、単セル50a,50bの空気極40の表面に集電層を形成して、単セル50a,50bとインターコネクタ60,60aとを電気的・物理的に接合することができる。ここで開示される空気極用組成物を用いて形成された集電層は、従来に比べて耐久性が向上している。このため、長期にわたって安定的に空気極と他部材とを接合することができる。
【0059】
なお、本実施形態において、空気極の構成材料は、従来この種のSOFCの空気極に用いられる材料と同様でよい。例えば上述した空気極40のようにコバルトを含むペロブスカイト型酸化物を含んでいてもよいし、コバルトを含むペロブスカイト型酸化物を含まずに、その他の材料(例えばコバルトを含まないペロブスカイト型酸化物)から構成されていてもよい。
【0060】
なお、
図1および
図2で開示されるSOFCは平型(Planar)であるが、他にも種々の構造、例えば従来公知の多角形型、円筒型(Tubular)あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat Tubular)等とすることができ、形状やサイズは特に限定されない。また、平型のSOFCとしては、ここで開示される燃料極支持型(ASC:Anode-Supported Cell)の他にも、例えば電解質を厚くした電解質支持型(ESC:Electrolyte-Supported Cell)や、空気極を厚くした空気極支持型(CSC:Cathode-Supported Cell)等を用いることができる。その他、燃料極の下に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセル(MSC:Metal-Supported Cell)とすることもできる。
【0061】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0062】
<試験例I.ストロンチウム(Sr)レジネートを用いた検討例>
〔例1〕
先ず、平均粒径0.5μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と、平均粒径0.5μmのイットリア安定化ジルコニア(8mol%Y
2O
3−ZrO
2、8YSZ)粉末とを、NiO:8YSZ=60:40の質量比率で混ぜ合わせ、混合粉末を得た。かかる混合粉末と、溶媒(キシレン)と、バインダ(ポリビニルブチラール)と、造孔材(カーボン)と、可塑剤(フタル酸エステル)とを、48〜58:24:8.5:5〜15:4.5の質量比率で攪拌混合することにより、燃料極支持体形成用の組成物を調製した。これをドクターブレード法によってシート成形し、厚みが0.5〜1.0mmの燃料極支持体を得た。
【0063】
次に、NiO粉末と、YSZ粉末と、溶媒(α−テルピネオール)と、バインダ(エチルセルロース)とを、48:32:18:2の質量比率で攪拌混合することにより、燃料極活性層形成用の組成物を調製した。これを、上記作製した燃料極支持体の表面にスクリーン印刷して、厚みが約10μmの燃料極活性層を形成した。
【0064】
次に、平均粒径0.5μmの8YSZ粉末と、溶媒(α−テルピネオール)と、バインダ(エチルセルロース)とを、65:31:4の質量比率で攪拌混合することにより、固体電解質層形成用の組成物を調製した。これを、上記作製した燃料極活性層の表面にスクリーン印刷して、厚みが約10μmの固体電解質層を形成した。
【0065】
次に、平均粒径0.5μmのガドリニアドープセリア(10mol%Gd
2O
3−CeO
2、10GDC)粉末と、溶媒(α−テルピネオール)と、バインダ(エチルセルロース)とを、65:31:4の質量比率で攪拌混合することにより、反応抑止層形成用の組成物を調製した。これを、上記作製した固体電解質層の表面にスクリーン印刷して、厚みが約5μmの反応抑止層を形成した。
このようにして積層成形された燃料極支持体−燃料極活性層−固体電解質層−反応抑止層のグリーンシート積層体を、大気雰囲気中において1400℃で2時間共焼成し、SOFCのハーフセルを得た。
【0066】
次に、第1成分であるペロブスカイト型酸化物としての平均粒径0.5μmのLSCF(La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3)粉末と、第2成分であるストロンチウム(Sr)レジネートペースト(オクチル酸のストロンチウム塩 SrO換算で10質量%配合)とを混合し、ペースト状の混合物を得た。混合割合は、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後のSrレジネート由来のストロンチウム元素の割合が0.02質量部となるように、LSCF粉末とSrレジネートとを100:0.07の質量比率で混合、調製した。かかる混合物と、溶媒(α−テルピネオール)と、バインダ(エチルセルロース)とを、80:17:3の質量比率で攪拌混合することにより、空気極形成用の組成物を調製した。これを上記共焼成したハーフセルの反応抑止層側の表面にスクリーン印刷して、厚みが約30μmの空気極を形成した。
そして、これを大気雰囲気中において1100℃で2時間共焼成することによって、燃料極支持体−燃料極活性層−固体電解質層−反応抑止層−空気極の順に積層されたSOFCを得た。
【0067】
〔例2〜例4〕
例2では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後のSrレジネート由来のSr元素の割合が1質量部となるように、LSCF粉末とSrレジネートとを100:3.5の質量比率で混合、調製したこと以外は例1と同様にSOFCを得た。
例3では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後のSrレジネート由来のSr元素の割合が2質量部となるように、LSCF粉末とSrレジネートとを100:7.1の質量比率で混合、調製したこと以外は例1と同様にSOFCを得た。
例4では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後のSrレジネート由来のSr元素の割合が2.5質量部となるように、LSCF粉末とSrレジネートとを100:8.8の質量比率で混合、調製したこと以外は例1と同様にSOFCを得た。
【0068】
〔参考例1〜参考例3〕
参考例1では、上記空気極形成用の組成物調製時に第2成分であるSrレジネートを混合しなかったこと以外は例1と同様にSOFCを得た。
参考例2では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後のSrレジネート由来のSr元素の割合が0.01質量部となるように、LSCF粉末とSrレジネートとを100:0.035の質量比率で混合、調製したこと以外は例1と同様にSOFCを得た。
参考例3では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後のSrレジネート由来のSr元素の割合が3質量部となるように、LSCF粉末とSrレジネートとを100:10.5の質量比率で混合、調製したこと以外は例1と同様にSOFCを得た。
【0069】
〔Srの含有割合〕
なお、「焼成後のSrレジネート由来のSr量」は、大気雰囲気下において1100℃の温度で2時間焼成した後のSrレジネートを示差熱−熱重量測定(Thermogravimetry−Differential Thermal Analysis:TG−DTA)で分析し、以下の式:
Sr含有割合(質量部)=〔(TG焼成後の残渣の質量)×100×Srの原子量(87.62)〕/〔(TG焼成前の仕込みの質量)×SrOの分子量(103.62)〕
;に基づいて計算した。結果を表1に示す。
【0071】
〔空気極のSEM−EDX観察〕
上記のようにして得られた空気極の断面出しをして、当該断面を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、2500倍の倍率で観察し、エネルギー分散型X線分光分析装置(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscope)を用いてCo元素のマッピングを行った。結果を表1に示す。表1において、Coの偏析が認められたものは「×(有)」、Coの偏析が認められなかったものは「○(無)」と表している。
【0072】
表1に示すように、Sr含有割合が0.01質量%以下の参考例1,2では、EDXマッピングの結果からCoの偏析が認められた。
一方、Sr含有割合が0.02質量%以上の例1〜4および参考例3では、Coの偏析が認められなかった。この理由としては、例えば、Srレジネートに含まれるSrがCoと反応して、ストロンチウムとコバルトの酸化物(SrCoOx)が生成され、Coの偏析が緩和されたこと等が考えられる。
【0073】
〔発電性能(出力電圧)〕
上記のようにして得られたSOFCを、温度700℃、電流密度0.5A/cm
2で動作させ、出力電圧(V)を測定した。なお、燃料極供給ガスは、H
2ガス(50ml/min)とし、空気極供給ガスは、空気(100ml/min)とした。結果を表1に示す。表1において、出力電圧が0.80V未満のものは「×」、出力電圧が0.80V以上0.85V未満のものは「○」、出力電圧が0.85V以上のものは「◎」と表している。
【0074】
表1に示すように、Sr含有割合が3質量%の参考例3では、相対的に出力電圧が低かった。これは、第2成分であるSrレジネートの焼成物(Sr化合物)が高抵抗なためと考えられる。
一方、Sr含有割合が3質量%未満の例1〜4および参考例1,2では、0.80V以上の出力電圧が得られた。特に、Sr含有割合が1質量%以下である例1,2では、0.85V以上の出力電圧が得られた。
【0075】
〔発電性能(耐久性)〕
上記SOFCを、温度700℃、電流密度0.5A/cm
2で連続的に動作させ、上記測定した(初期の)出力電圧と、1000時間経過後の出力電圧とから、出力低下率(%)を算出した。結果を表1に示す。表1において、出力低下率が1%未満のものは「○」、1%以上のものは「×」と表している。
【0076】
表1に示すように、Sr含有割合が0.01質量%以下の参考例1,2や、Sr含有割合が3質量%の参考例3では、耐久性が低かった。この理由として、参考例1,2では、Coの偏析部分で抵抗が増大し、電極反応が不均質になったことが考えられる。また、参考例3では、Sr成分が固体電解質に拡散して抵抗となり、酸素イオン伝導性が低下したことが考えられる。
一方、Sr含有割合が0.02〜2.5質量%の例1〜例4では、出力低下率が1%未満に抑えられ、参考例1〜3に比べて高い耐久性を示していた。
【0077】
このように、ペロブスカイト型酸化物粉末100質量部に対するストロンチウムレジネートの割合を、ストロンチウム元素基準で0.02〜2.5質量%とすることで、空気極の劣化を抑制して、初期の出力電圧が高く、かつ、耐久性にも優れたSOFCを実現することができる。
【0078】
<試験例II.炭酸ストロンチウムを用いた検討例>
〔例5〜例8〕
例5では、上記空気極形成用の組成物調製時に、第2成分として、Srレジネートペーストに換えて炭酸ストロンチウム(SrCO
3)粉末を使用し、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後の炭酸ストロンチウム由来のストロンチウム元素の割合が0.01質量部となるようにLSCF粉末と炭酸ストロンチウムとを100:0.02の質量比率で混合、調製したこと以外は上記試験例I.の例1と同様にSOFCを得た。
例6では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後の炭酸ストロンチウム由来のストロンチウム元素の割合が0.6質量部となるようにLSCF粉末と炭酸ストロンチウムとを100:1の質量比率で混合、調製したこと以外は上記例5と同様にSOFCを得た。
例7では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後の炭酸ストロンチウム由来のストロンチウム元素の割合が1.2質量部となるようにLSCF粉末と炭酸ストロンチウムとを100:2の質量比率で混合、調製したこと以外は上記例5と同様にSOFCを得た。
例8では、上記空気極形成用の組成物調製時に、焼成後のLSCF100質量部に対して焼成後の炭酸ストロンチウム由来のストロンチウム元素の割合が1.5質量部となるようにLSCF粉末と炭酸ストロンチウムとを100:2.5の質量比率で混合、調製したこと以外は上記例5と同様にSOFCを得た。
【0079】
〔参考例4、参考例5〕
参考例4では、上記空気極形成用の組成物調製時に、第2成分として、炭酸ストロンチウムに換えて硫酸ストロンチウム(SrSO
4)を使用し、LSCF粉末と炭酸ストロンチウムとを100:1の質量比率で混合、調製したこと以外は例5と同様にSOFCを得た。
参考例5では、上記空気極形成用の組成物調製時に、LSCF粉末と炭酸ストロンチウムとを100:5の質量比率で混合、調製したこと以外は参考例4と同様にSOFCを得た。
そして、上記試験例I.と同様に、空気極の断面のSEM−EDX観察と、発電性能(出力電圧および耐久性)の評価を行った。試験例I.における参考例1の評価結果とあわせて、例5〜例8および参考例4,5の評価結果を表2に示す。また、代表例として、参考例1,4,5と例6に係る空気極のSEM−EDX観察の結果(倍率2500倍)を
図3に示す。なお、
図3では、Coの偏析部分に矢印を付して示している。
【0081】
表2および
図3に示すように、第2成分として硫酸塩を使用した参考例4,5では、第2成分のSr含有割合を2.5質量部まで高めた場合でも、Coの偏析を解消する効果が低かった。
一方、炭酸塩を使用した例5〜例8では、Coの偏析が認められなかった。このことから、第2成分として炭酸塩を使用することは、Coの偏析を抑制する観点から非常に有利であることがわかった。
【0082】
また、表2に示すように、Sr含有割合が2.5質量%である参考例5は、相対的に出力電圧が低かった。
一方、Sr含有割合が1.5質量%以下の例5〜例8および参考例4では、0.80V以上の出力電圧が得られた。特に、Sr含有割合が0.5質量%以下(ここでは0.1質量%以下)である例5では、0.85V以上の出力電圧が得られた。
【0083】
また、表2に示すように、第2成分として硫酸塩を使用した参考例4,5では、SOFCの耐久性が低かった。この理由としては、上記したCoの偏析部分の影響に加えて、電極中に残存した硫黄(S)成分の影響が考えられる。つまり、発電中に、硫黄成分がSOFC内で飛散、拡散して、例えば固体電解質層やスタック部材の劣化を引き起こしたことが考えられる。
一方、例5〜例8では、SOFCの耐久性が相対的に高かった。
【0084】
このように、空気極形成用の組成物調製時に、第2成分として、ストロンチウムレジネートペーストに換えて炭酸ストロンチウム(SrCO
3)粉末を使用する場合にも、上記ストロンチウムレジネートを使用する試験例I.の場合と同様に、空気極の劣化を抑制して、初期の出力電圧が高く、かつ、耐久性に優れたSOFCを実現することができる。
【0085】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。