特許第6832673号(P6832673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832673
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】水中部のひび割れ補修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20210215BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20210215BHJP
   E02B 3/06 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   E04G23/02 B
   E02B3/12
   E02B3/06
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-205831(P2016-205831)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2017-8718(P2017-8718A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2019年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−314062(JP,A)
【文献】 特開2005−023723(JP,A)
【文献】 特開2002−212559(JP,A)
【文献】 特開平02−225771(JP,A)
【文献】 特開2014−005629(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2001−0106981(KR,A)
【文献】 特開2013−204395(JP,A)
【文献】 特開2002−054149(JP,A)
【文献】 特許第6010655(JP,B1)
【文献】 特開平10−102494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E02B 3/06
E02B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の水中部にあるひび割れを補修する方法であって、
弾性材料からなる光透過性のシート材を、ひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、
前記シート材の表面に切れ目を入れることで形成される注入部を少なくとも2つ設けておき、
記注入部を通して水中不分離性の可塑性グラウト材を充填材料として注入することで前記ひび割れ内に前記充填材料を充填し、
前記充填材料の充填状態を前記光透過性のシート材を通して確認する、水中部のひび割れ補修方法。
【請求項2】
前記シート材の厚さは、1mm以上2mm以下である請求項に記載の水中部のひび割れ補修方法。
【請求項3】
前記注入部にハンドガンの先端部を通して前記充填材料を注入する請求項1または2に記載の水中部のひび割れ補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物における水中部のひび割れ補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸や岸壁、ダム等の種々のコンクリート構造物は、供用中に水と接する水中部においてひび割れ等の欠陥が発生することがある。かかる水中部のコンクリートのひび割れに関する従来の補修方法について図7を参照して説明する。図7の左側に示すように、コンクリート構造物の水中部Cに発生したひび割れCRの場合、地上から水中部C内のひび割れCRに向けて注入孔51を削孔してから、注入プラグ52,注入孔51を通してプランジャーポンプ等により充填材料を注入し、水中部Cのひび割れ表面にパテシール53を施していた。また、図7の右側のようなひび割れCR’の場合、地上から水中部C内のひび割れCR’に向けて注入孔56を削孔し、水中部Cの表面にひび割れCR’を覆うように木製等の型枠55を取り付け、型枠55に水抜きパイプ57を設け、型枠55の周囲をパテシール55aで止水してから、注入孔56を通してグラウト材をひび割れCR’内に充填していた。
【0003】
特許文献1は、水中において、漏水箇所にセメントミルクを注入して充填する充填材料注入経路の先端部に設けられた筐体部が、セメントミルクを漏水箇所に注入する注入口と、この注入口を筐体部の外部から視認できるように設けられた覗き窓と、筐体部の内部と外部とを連通、遮断自在にする開閉バルブとを備え、セメントミルクを注入口から漏水箇所に注入して充填する際、筐体部に設けられた覗き窓を介して、水中カメラによって撮像された映像によって、その注入状況を確認しながら、当該漏水箇所にあった注入量のセメントミルクを注入して充填することができるようにした水中用の注入装置、および、これを用いた充填材料注入監視方法を開示する。
【0004】
また、特許文献2は、水中施工用組成物、および、既設構造物の表面と5〜30mmの間隔を保つように型枠を設置してシール材充填部を形成し、補修部の少なくとも一部とシール材充填部の少なくとも一部とにその水中施工用組成物を充填させる水中施工方法を開示する。
【0005】
特許文献3は、コンクリート躯体の表裏に貫通したひび割れに対して、内部側に吸引部を設けると共に、外部側に充填材料供給部を設けることによって、内部側から亀裂空間の空気を吸引して亀裂空間の空気圧力を減圧させ、かかる負圧により充填材料を亀裂空間内に吸引して、亀裂空間に充填材料を充填するようにしたコンクリートクラックの補修方法およびその装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-102494号公報
【特許文献2】特開2015-224291号公報
【特許文献3】特開平09-209577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7の地上からの注入孔51,56の削孔は、水深が-1m程度までは可能であるが、補修箇所の水深が深くなると陸上からの注入孔の施工が困難になるという問題点があった。また、陸上部でのひび割れ補修のための充填材料の注入は、パテによりひび割れ全体を覆い、注入材の流出を防止しているのに対し、水中での施工は、パテによるひび割れへの被覆も可能であるが、ダイバーによる作業となるため作業性が悪く、施工に時間を要する問題があった。
【0008】
また、型枠を設置する場合でも型枠は重量があることや固定方法が問題になるなど水中ではできるだけ簡易な補修方法が望まれている。また、非可塑性のグラウト材を水中のひび割れの充填に使用した際には、充填材料の漏出を防止するために型枠とひび割れの周囲とをパテ等で完全に止水する必要がある。一方、水中部での補修方法として硬練りのエポキシモルタルで表面付近に塗りつける方法が用いられる場合もある。この場合、補修は構造物表面付近のみにとどまり、部材内部まで補修材を充填することは困難であった。
【0009】
特許文献1の充填材料注入監視方法は、水中での充填材料の注入状態を確かめるために、セメントミルクの注入口を筐体部の外部から視認する覗き窓を介して水中カメラで撮像し、その映像により注入状況を確認するが、水中カメラと画像表示装置とによる大規模の画像システムが必要になってしまう。
【0010】
特許文献2の水中施工方法は、既設構造物の表面と5〜30mmの間隔を保つように型枠を設置しなければならず、型枠の重量や固定方法が問題になる。引用文献3の補修方法は、陸上のコンクリート躯体の表裏に貫通したひび割れに対するもので、水中部や貫通していないひび割れには適用できない。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、水中で簡易な型枠の設置で充填材料の漏出を防止でき、充填材料の充填状況を目視で容易に把握可能な水中部のひび割れ補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための水中部のひび割れ補修方法は、コンクリート構造物の水中部にあるひび割れを補修する方法であって、弾性材料からなる光透過性のシート材を、ひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、前記シート材の表面に切れ目を入れることで形成される注入部を少なくとも2つ設けておき、記注入部を通して水中不分離性の可塑性グラウト材を充填材料として注入することで前記ひび割れ内に前記充填材料を充填し、前記充填材料の充填状態を前記光透過性のシート材を通して確認するものである。
【0013】
この水中部のひび割れ補修方法によれば、弾性材料からなる光透過性のシート材を、水中部の表面に固定してひび割れを覆うことで、水中で簡易な型枠を設置するので、従来の木製などの重量のある型枠が不要で、しかも、光透過性のシート材を通して充填される充填材料を視認でき、その充填状態を確認できる。また、充填材料として水中不分離性の可塑性グラウト材を使用するので、従来の非可塑性のグラウト材のように充填材料が水中部の表面とシート材との間から漏出することを防止できる。
【0014】
上記水中部のひび割れ補修方法において前記注入部を少なくとも2つ設ける。一方の注入部から充填材料を注入し、充填材料の充填状態に応じて注入の途中で、他方の注入部に変更して充填することができる。また、充填材料の注入に供しない注入部は、その注入部を通してひび割れ内から容易に排水できるので、排水部として機能する。また、注入部を3つ以上設けることで、より多段に注入部の位置を変更することができる。複数の注入部は、水中部の表面に存在するひび割れの形状、長さ、方向に合わせて形成されることが好ましい。
【0015】
また、前記シート材に切れ目を入れることで前記注入部を形成することができる。切れ目の形状は、十字状が好ましい。
【0016】
また、前記シート材の厚さは、1mm以上2mm以下であることが好ましい。1mm以上であることでシート材の剛性を確保でき、2mm以下であることで施工性・作業性を確保できる。
【0017】
また、前記注入部にハンドガンの先端部を通して前記充填材料を注入することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水中部のひび割れ補修方法によれば、水中で簡易な型枠の設置で充填材料の漏出を防止でき、充填材料の充填状況を目視で容易に把握可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態による水中部のひび割れ補修方法を説明するための図で、ひび割れが存在する水中部の表面を示す正面図(a)、水中部の表面に配置されたシート材を示す正面図(b)、および、シート材が配置された水中部のひび割れを示す縦断面図(c)である。
図2】本実施形態による水中部のひび割れ補修方法の各工程S01〜S09を説明するためのフローチャートである。
図3図1の光透過性の弾性シート材の十字状の切れ目に充填材料の注入のためハンドガンの先端を差し込んだ様子を概略的に示す部分断面図である。
図4図1の水中部のひび割れへの充填材料の充填段階(a)(b)を概略的に示す図1(c)と同様の断面図である。
図5図1の水中部のひび割れに充填された充填材料を正面から光透過性の弾性シート材を通して見た概略的な様子を示す正面図である。
図6図1(b)の弾性シート材の別の例を示す正面図である。
図7】従来の水中部のひび割れ補修方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による水中部のひび割れ補修方法を説明するための図で、ひび割れが存在する水中部の表面を示す正面図(a)、水中部の表面に配置されたシート材を示す正面図(b)、および、シート材が配置された水中部のひび割れを示す縦断面図(c)である。
【0021】
図1(a)のように、コンクリート構造物の水と接する水中部Cの表面Sに開口したひび割れCRが存在する場合、図1(b)(c)のように、水中部Cの表面Sに光透過性の弾性シート材11を複数のコンクリート釘等の固定手段を用いて固定する。弾性シート材11は、平面的には、図1(a)の水中部Cの表面Sにあらわれたひび割れCRを覆うような大きさに構成される。
【0022】
光透過性の弾性シート材11には、複数の十字状の切れ目12a〜12fが形成されている。切れ目12a〜12fは、弾性シート材11の表面にたとえばカッターナイフ等で簡単に切り込みにより形成することができる。複数の切れ目12a〜12fは、充填材料の注入時に注入部として機能するとともに、同じく注入時にひび割れCR内の水が排出される際の排水部として機能する。
【0023】
複数の切れ目12a〜12fは、水中部Cの表面Sに存在するひび割れCRの形状、長さ、方向に合わせて形成される。たとえば、図1(a)のように、ひび割れCRがほぼ鉛直方向にほぼ直線状に存在する場合、図1(b)のように複数の切れ目12a〜12fは、その十字状の中心が縦方向に直線上に等間隔で一列に並ぶように形成され、最下位の切れ目12aはひび割れCRの下端近くに、最上位の切れ目12fはひび割れCRの上端近くに位置するように形成される。また、複数の切れ目は、ひび割れが鉛直方向に対し傾斜している場合、その傾斜に合わせて形成され、また、途中で曲がっている場合は、その曲がりに合わせて形成される。
【0024】
また、光透過性の弾性シート材11としては、たとえば、半透明のシリコンゴムシートを用いることができる。弾性シート材11の厚さは、1mm〜2mmが好ましい。
【0025】
また、ひび割れに充填する充填材料として水中不分離性の可塑性グラウト材を使用する。可塑性グラウト材は、圧力を加えている段階では流動性があるが、圧力がなくなると流動性が失われる性質がある。型枠等のすき間等において可塑性グラウト材は、圧力がなくなり、流動性が失われるため、すき間等から流失せず、本実施形態のような使用に適している。この水中不分離性の可塑性グラウト材として、たとえば、ベントナイトを水で膨潤させて、それと水、セメント、砂および水中不分離剤や減水剤などの混和剤を用いた水中不分離モルタルとを練り混ぜることで得られる可塑性グラウトを用いることができる。
【0026】
また、水中不分離性の可塑性グラウト材として、特殊な起泡剤を用いたエアモルタルに可塑剤を加え、エアモルタルを瞬時に固結させてエアをグラウト内に封じ込め、この時、同時に可塑状になるようにした二液性注入工法により得られる可塑状空洞充填材料がある。かかる工法は、エアパック工法(登録商標)として公知である(パンフレット「エアパック工法」可塑状グラウト協会2007年10月発行、特許第3618275号公報参照)。
【0027】
さらに、水中不分離性の可塑性グラウト材として、セメントミルク材に含有される主材セメントを、低熱ポルトランドセメントとし、セメントミルク材に含有されるフライアッシュを、JIS規格II種相当の高品質フライアッシュである改質フライアッシュとし、セメントミルク材に含有される水中不分離性混和剤を、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸系増粘剤とした可塑性グラウト材がある(特開2016-175803号公報参照)。
【0028】
なお、本実施形態では、水中部Cに存在しその表面Sに開口するひび割れCRの幅Wが1mm〜10mm程度の場合、そのひび割れを補修の対象とするが、この下限値は、水中では1mm未満の幅の小さいひび割れを検出することが難しいために設定されたもので、1mm未満の幅のひび割れが検出された場合に一律に補修の対象としないという趣旨ではない。また、上限値は、ひび割れの幅が、通常、最大で10mm程度であるために設定されたもので、この上限値を超えた幅のひび割れでも補修の対象とすることは可能である。
【0029】
本実施形態による水中部のひび割れ補修方法について図1図4を参照して説明する。図2は、本実施形態による水中部のひび割れ補修方法の各工程S01〜S09を説明するためのフローチャートである。図3は、図1の光透過性の弾性シート材の十字状の切れ目に充填材料の注入のためハンドガンの先端を差し込んだ様子を概略的に示す部分断面図である。図4は、図1の水中部のひび割れへの充填材料の充填段階(a)(b)を概略的に示す図1(c)と同様の断面図である。図5は、図1の水中部のひび割れに充填された充填材料を正面から光透過性の弾性シート材を通して見た概略的な様子を示す正面図である。
【0030】
図2を参照して説明する。まず、コンクリート構造物の水中部に対しダイバー等が目視検査を行い(S01)、図1(a)のように水中部Cの表面Sにひび割れCRが検出され(S02)、このひび割れCRが補修対象と判断されると、次のように、補修工程がダイバー等により実行される。
【0031】
図1(b)のように、水中部Cの表面Sにひび割れCRを覆うようなサイズのシリコンゴム等の光透過性の弾性シート材11を用意し、この弾性シート材11を水中部Cの表面Sにコンクリート釘13等により固定する(S03)。弾性シート材11には、複数の十字状の切れ目12a〜12eが形成されている。
【0032】
次に、図3のように、ハンドガンタイプの注入器20に上述の充填材料を内部に詰め、注入器20の注入側に設けられた小径パイプ20bの先端にナイフ状に形成された先端部20cを、図1(b)の弾性シート材11の最下位に形成された十字状の切れ目12aに差し込み、注入器20をセットする(S04)。
【0033】
次に、注入器20の後端側に設けられた押し込み部20aを先端側に押すことで、注入器20の内部の充填材料を送り出し、図4(a)のように、ひび割れCR内に充填材料21を注入する(S05)。
【0034】
上述の充填材料の注入工程S05により、図4(a)のように、充填材料21がひび割れCRの下部から充填されていくが、その途中、注入の続行・中断を判断する(S06)。かかる判断は、図5のように、光透過性の弾性シート材11を通して、ひび割れCR内の充填材料21の充填状態を視認することで容易に行うことができる。
【0035】
また、図4(a)のような充填材料21のひび割れCR内への充填により、ひび割れCR内の水は、他の切れ目12b〜12eを通して外部に排出される。
【0036】
たとえば、図4(a)のように、注入器20をセットした高さ(切れ目12aの高さ)まで充填材料21が充填されたと判断されると、充填材料の注入を中断し(S06)、次に、注入位置を変更する否かを判断する(S07)。この注入位置変更の判断も、図5のように、光透過性の弾性シート材11を通して、ひび割れCR内の充填材料21の充填状態を視認することで容易に行うことができる。
【0037】
注入位置を変更すると判断した場合(S07)、注入器20を弾性シート材11の切れ目12aから引き抜き、上記工程S04に戻り、切れ目12aの上側の切れ目、たとえば、切れ目12cに注入器20をセットし、上記工程S05と同様に充填材料を注入する。かかる注入により、図4(b)のように、充填材料21が引き続きひび割れCR内に充填されていく。
【0038】
上記工程S04〜S07を繰り返すことで、充填材料21がひび割れCR内に充填されていくが、光透過性の弾性シート材11を通してひび割れCR内の充填材料21の充填状態を視認することにより、充填材料がひび割れCR内に完全に充填されたと判断されると、充填材料の注入が完了する(S08)。次に、弾性シート材11の除去や充填材料が充填された表面Sの後処理を必要に応じて行う(S09)。
【0039】
以上のように、本実施形態による水中部のひび割れ補修方法によれば、半透明のシリコンゴム等の光透過性の弾性シート材11を、水中部Cの表面Sに固定してひび割れCRを覆い、コンクリート釘13などで固定することで水中部に簡易な型枠を設置し、充填材料の充填が可能になるので、従来の重量のある木製などの型枠やパテによる被覆が不要で、しかも、光透過性の弾性シート材11を通して、ひび割れCR内に充填される充填材料を目視で把握できるので、充填材料の充填状態を容易に確認できる。
【0040】
また、本発明者の実験によれば、充填材料として、非可塑性のグラウト材を使用した場合には、弾性シート材と水中部のコンクリート表面との間から充填材料が漏出し、充填が不可能であったのに対し、充填材料として水中不分離性の可塑性グラウト材を使用することで、充填材料が水中部の表面と弾性シート材との間から漏出することを防止できることが確認された。水中不分離性の可塑性グラウト材は、水に強く、また可塑性であるので、水中部のひび割れへの充填材料として好適である。
【0041】
充填材料の注入は、弾性シート材11にカッター等により形成された切れ目を通して行うことで容易に実行可能である。また、本発明者の実験によれば、図1(a)のひび割れCRの幅wが5mmの場合、幅2cm高さ2cmの十字状の切れ目で充填が可能であった。また、弾性シート材の厚さは、3mm以上になると、注入器20の先端部20cを切れ目に通すことが困難になり、水中における施工性・作業性が低下するのに対し、厚さ1mm〜2mmの弾性シート材によれば、水中においてダイバーにより注入器20の先端部20cを切れ目に比較的容易に通すことができる。
【0042】
すなわち、図3のように、注入器20の先端部20cを弾性シート材11の切れ目12aに差し込もうとすると、切れ目12aの周囲が比較的容易に弾性変形をして先端部20cを容易に通すことができる。これにより、水中におけるダイバーの作業が容易となるので、弾性シート材の厚さは2mm以下が好ましい。また、弾性シート材の厚さが1mm未満であると、剛性が低下し、充填材料の保持効果が低下するので、1mm以上であることが好ましい。また、カッター等により形成された切れ目であると、充填材料の注入時にその注入に関与しない切れ目において充填材料の漏出を防止する効果がある。
【0043】
また、水中部のひび割れ内部には水が存在するが、図1(b)のように、弾性シート材11に複数の切れ目12a〜12eを設けることで、充填材料の注入に使用しない切れ目が排水部として機能し、かかる切れ目を通してひび割れCR内からの排水が容易に行われる。このため、注入器20による充填材料の注入を比較的小さい圧力で行うことができる。図7のような型枠55に設けた水抜きパイプ57による施工では、水を抜く圧力が高くなるので、充填材料を注入する際の圧力を高めにする必要があった。
【0044】
また、弾性シート材11に複数の切れ目12a〜12eを設けたので、下側の切れ目から充填材料を注入し、ある程度の注入が完了した段階で注入位置を上方の切れ目に変更して施工することができる。このとき、光透過性の弾性シート材11を通してひび割れCR内に充填される充填材料の充填状況がわかるので、充填状況を観察しながら注入位置をタイミングよく変更することができる。
【0045】
また、図1(b)では、複数(3つ以上)の切れ目を弾性シート材11に設けたが、これに限定されず、たとえば、切れ目を上下2箇所に設けてもよい。すなわち、図6のように、半透明のシリコンゴム等の光透過性の弾性シート材11Aの上下に、たとえば、図1(a)のひび割れCRの下部近傍位置および上部近傍位置に合わせて切れ目11f、11gを設ける。切れ目11f、11gは、下方が注入部として上方が排水部としてそれぞれ機能する。弾性シート材11Aは、図1(c)と同様に、複数のコンクリート釘13を用いて水中部Cの表面Sに固定され、上述の弾性シート材11と同様の効果を奏する。
【0046】
[実験結果]
実験例としてシリコンゴムシート(厚さ1,3,5mm、いずれも半透明)および比較例としてクロロレンゴム(厚さ1,3,5mm)を用いてコーキングガンを用いて水中にてひび割れへの充填材料の注入実験を実施した。その結果、半透明のシリコンゴムシート(厚さ1mm)が、水中でひび割れに充填するのに最もよい結果となった。また、シリコンゴムシートは半透明で充填状況が目視確認可能であるのに対し、黒いゴムシート(クロロレンゴム)では充填状況がわからず、過度に充填材料を充填してしまい、充填材料が漏出し易い結果となった。また、厚さ3mm,5mmのゴムシートでは、ゴムの反発力が大きく、コーキングガンの先端をシートに通し難い状況であった。厚さ1mmのシリコンゴムシートでは、シートに設けた切れ目からの充填材料の漏出もなく、いずれの切れ目からも充填材料を注入することができ、しかも半透明であるため充填高さが視認可能であった。
【0047】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、弾性シート材11に形成される切れ目の形状は、2本線からなる十字状が好ましいが、本発明ではこれに限定されず、たとえば、1本線からなる横線状「−」や縦線状「|」や斜め線状「/」、または、3本線が中心で交差する三本線状等であってもよい。
【0048】
また、光透過性の弾性シート材として、本実施形態および実験例では、半透明のシリコンゴムシートを用いたが、本発明ではこれに限定されず、たとえば、透明ないし半透明の塩化ビニール、ウレタンゴムシート等を用いてもよい。また、弾性シート材は、光透過性が必要であるが、水中においてひび割れ内の充填材料の充填状態を視認可能であればよい。
【0049】
また、本発明による補修方法が適用されるコンクリート構造物としては、護岸や岸壁、ダムがあるが、これらに限定されず、少なくともその一部が水に接する水中部を有するコンクリート構造物であれば、適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
従来、護岸や岸壁、ダム等のコンクリート構造物の水中部におけるひび割れの補修については、ダイバーによる水中における作業・施工となるためできるだけ簡易な補修方法が望まれているところ、本発明の水中部のひび割れ補修方法によれば、水中で弾性シート材のような簡易な型枠の設置により、充填材料の漏出を防止でき、充填材料の充填状況を目視で容易に把握可能であるので、水深が深い場合でも施工容易な補修方法を提供でき、また、大規模な画像システム等は不要で充填状況を確認できる。
【符号の説明】
【0051】
11,11A 光透過性の弾性シート材
12a〜12e 切れ目(注入部)
13 コンクリート釘
20 注入器
20c 先端部
21 充填材料
12f,12g 切れ目
C 水中部
S 表面
CR ひび割れ
W ひび割れの幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7