(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832704
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ホスフィンオキシド母材及び金属ドーパントを含むn−ドープされた半導体材料
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20210215BHJP
C07F 9/53 20060101ALI20210215BHJP
C07F 9/572 20060101ALI20210215BHJP
C07F 9/655 20060101ALI20210215BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20210215BHJP
H05B 33/26 20060101ALI20210215BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20210215BHJP
【FI】
H05B33/22 A
C07F9/53
C07F9/572 ACSP
C07F9/655
H05B33/12 C
H05B33/14 A
H05B33/26 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】38
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2016-542211(P2016-542211)
(86)(22)【出願日】2014年12月23日
(65)【公表番号】特表2017-502518(P2017-502518A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2014079191
(87)【国際公開番号】WO2015097232
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年10月4日
【審判番号】不服2019-14242(P2019-14242/J1)
【審判請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】13199413.9
(32)【優先日】2013年12月23日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】14171326.3
(32)【優先日】2014年6月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503180100
【氏名又は名称】ノヴァレッド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ツェルナー,マイク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー,アンスガー
(72)【発明者】
【氏名】ローゼノー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ローテ,カルステン
(72)【発明者】
【氏名】ビルンシュトック,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】カンツラー,トビーアス
(72)【発明者】
【氏名】デンカー,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ファデル,オムラネ
(72)【発明者】
【氏名】ブローム,フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】カリシュ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ギルゲ,カイ
(72)【発明者】
【氏名】アンガーマン,イェンス
【合議体】
【審判長】
樋口 信宏
【審判官】
関根 洋之
【審判官】
福村 拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−73581(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/008281(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/079678(WO,A1)
【文献】
特開2012−188692(JP,A)
【文献】
特開2020−25121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H05B 33/12
H05B 33/26
C07F 9/53
C07F 9/572
C07F 9/655
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n−ドーパントとして1以上の金属元素と、1以上のホスフィンオキシド基を含む1以上の電子輸送母材化合物とを含む電気的にドープされた半導体材料であって、
前記金属元素は、酸化数IIで1以上の安定な化合物を形成する元素から選択され、
前記電子輸送母材化合物は、同一条件下でサイクリックボルタンメトリーにより測定されるとき、トリス(2−ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシアルミニウムよりも低い還元電位であって、かつN2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタフェニル−9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,2’,7,7’−テトラミンよりも高い還元電圧を有し、
前記金属元素は、亜鉛以外の金属元素である、半導体材料。
【請求項2】
請求項1に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記金属元素は、実質的に元素の状態で含まれている、半導体材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記電子輸送母材化合物は、式(I)の化合物である、半導体材料:
【化1】
ここで、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、C
1−C
30アルキル、C
3−C
30シクロアルキル、C
2−C
30ヘテロアルキル、C
6−C
30アリール、C
2−C
30ヘテロアリール、C
1−C
30アルコキシ、C
3−C
30シクロアルコキシ、C
6−C
30アリールオキシから選ばれ、置換基R
1,R
2及びR
3のそれぞれは任意に、さらにホスフィンオキシド基を含み、置換基R
1,R
2及びR
3のうち1以上は、10以上の非局在化電子からなる共役系を含む。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記金属元素は、その第1イオン化電位及び第2イオン化電位の合計が25eVよりも低い、半導体材料。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記10以上の非局在化電子からなる共役系がホスフィンオキシド基に直接に結合している、半導体材料。
【請求項6】
請求項3又は4に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記10以上の非局在化電子からなる共役系は、スペーサ基Aによってホスフィンオキシド基から離れている、半導体材料。
【請求項7】
請求項6に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記スペーサ基Aは、2価の、6員環の芳香族炭素環基又は複素環基である、半導体材料。
【請求項8】
請求項7に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記スペーサ基Aは、フェニレン、アジン−2,4−ジイル、アジン−2,5−ジイル、アジン−2,6−ジイル、1,3−ジアジン−2,4−ジイル、及び1,3−ジアジン−2,5−ジイルから選択される、半導体材料。
【請求項9】
請求項3〜8の何れか一項に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記10以上の非局在化電子からなる共役系は、C14−C50アリール又はC8−C50ヘテロアリールである、半導体材料。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、1以上の金属カチオンと1以上のアニオンとからなる金属塩添加物をさらに含む、半導体材料。
【請求項11】
請求項10に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記金属カチオンは、Li+又はMg2+である、半導体材料。
【請求項12】
請求項10又は11に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記金属塩添加物は、前記金属カチオンに結合した窒素原子及び酸素原子を含む、5、6又は7員環を含む金属錯体、及び式(II)の構造を有する錯体から選択される、半導体材料:
【化2】
ここで、A
1は、C
6−C
30アリーレン、又は芳香族環にO,S及びNから選択される1以上の原子を含むC
2−C
30ヘテロアリーレンであり、A
2とA
3のそれぞれは独立して、C
6−C
30アリール、及び芳香族環にO,S及びNから選択される1以上の原子を含むC
2−C
30へテロアリールから選択される。
【請求項13】
請求項10〜12の何れか一項に記載された電気的にドープされた半導体材料であって、前記アニオンは、ホスフィンオキシド基で置換されたフェノレート、8−ヒドロキシキノリノレート及びピラゾールボレートからなる群から選択される、半導体材料。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載された半導体材料を製造する方法であって、
1以上のホスフィンオキシド基を含む前記電子輸送母材化合物と、酸化数IIで1以上の安定な化合物を形成する元素から選択される前記金属元素とが、減圧下で同時蒸発及び同時蒸着される工程を含み、
前記電子輸送母材化合物は、同一条件下でサイクリックボルタンメトリーにより測定されるとき、トリス(2−ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシアルミニウムよりも低い還元電位であって、かつN2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタフェニル−9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,2’,7,7’−テトラミンよりも高い還元電圧を有し、
前記金属元素は、亜鉛以外の金属元素である、方法。
【請求項15】
請求項14に記載された方法であって、前記金属元素は、Mg,Ca,Sr,Ba,Yb,Sm,Eu及びMnから選択される、方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載された方法であって、前記金属元素は、3000℃よりも低い標準沸点を有する、方法。
【請求項17】
請求項14〜16の何れか一項に記載された方法であって、前記金属元素は、その第1イオン化電位及び第2イオン化電位の合計が16eVよりも高い、方法。
【請求項18】
請求項14〜17の何れか一項に記載された方法であって、前記金属元素は、実質的に空気に安定である、方法。
【請求項19】
請求項14〜18の何れか一項に記載された方法であって、前記金属元素は、線形蒸発源から蒸発される、方法。
【請求項20】
請求項14〜19の何れか一項に記載された方法によって製造される、電気的にドープされた半導体材料。
【請求項21】
陰極、陽極、及び前記陰極と陽極との間に請求項1〜13及び20の何れか一項に記載された電気的にドープされた半導体材料を含む、電子デバイス。
【請求項22】
前記陰極と前記陽極との間に、発光層をさらに含む、請求項21に記載の電子デバイス。
【請求項23】
請求項21または22に記載された電子デバイスであって、前記電気的にドープされた半導体材料が、電荷発生層、電子輸送層又は電子注入層で含まれている、電子デバイス。
【請求項24】
請求項23に記載された電子デバイスであって、前記電荷発生層、電子輸送層又は電子注入層は、5nmよりも厚い、電子デバイス。
【請求項25】
請求項23又は24に記載された電子デバイスであって、前記電子輸送層は、発光層により近い第1の区画と前記陰極により二つ近い第2の区画とを含み、前記第1の区画及び第2の区画はその組成が異なっている、電子デバイス。
【請求項26】
請求項25に記載された電子デバイスであって、前記第1の区画は、第1の電子輸送母材からなる、電子デバイス。
【請求項27】
請求項25に記載された電子デバイスであって、前記第1の区画は、前記第1の電子輸送母材と、1以上の金属カチオン及び1以上のアニオンからなる金属塩添加物とを含む、電子デバイス。
【請求項28】
請求項27に記載された電子デバイスであって、前記第1の区画は、前記第1の電子輸送母材と金属塩添加物とからなり、前記第2の区画は、請求項1〜13及び20の何れか1項に記載された電気的にドープされた半導体材料からなる、電子デバイス。
【請求項29】
請求項28に記載された電子デバイスであって、前記第2の区画は、第2の電子輸送母材と金属元素とからなる、電子デバイス。
【請求項30】
請求項26〜29の何れか一項に記載された電子デバイスであって、前記第1の区画は、50nmよりも薄い、電子デバイス。
【請求項31】
請求項23〜30の何れか一項に記載された電子デバイスであって、前記電子輸送層又は電子注入層は、発光層に隣接し、前記発光層は、同一条件下でサイクリックボルタンメトリーにより測定された場合に、前記隣接する電子輸送層又は前記電子注入層の電子輸送母材化合物よりも負である還元電位を有する化合物からなる、電子デバイス。
【請求項32】
請求項23〜31の何れか一項に記載された電子デバイスであって、前記電子輸送層又は前記電子注入層は、半導体金属酸化物からなる陰極に隣接する、電子デバイス。
【請求項33】
請求項32に記載された電子デバイスであって、前記半導体金属酸化物は、酸化インジウムスズである、電子デバイス。
【請求項34】
請求項32又は33に記載された電子デバイスであって、前記陰極は、スパッタリングにより製造される、電子デバイス。
【請求項35】
請求項22に記載された電子デバイスであって、前記発光層は、青色又は白色の光を発光する、電子デバイス。
【請求項36】
請求項22に記載された電子デバイスであって、前記発光層は、1以上のポリマーを含む、電子デバイス。
【請求項37】
請求項36に記載された電子デバイスであって、前記ポリマーは、青色の光を発光するポリマーである、電子デバイス。
【請求項38】
請求項22〜37の何れか一項に記載された電子デバイスであって、タンデム型OLEDである、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された電子的性質を有する有機半導体材料、その合成方法、本発明の半導体材料の改良された電子的性質を利用する電子デバイス、特に、電子輸送層(an electron transporting layer)及び/又は電子注入層に本発明の有機半導体材料を含むデバイス、及び本発明の半導体材料で使用することができる電子輸送母材化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化学により提供される材料に基づく1以上の部品を含む電子デバイスの中で、有機発光ダイオード(OLED)は、目立った位置を占めている。1987年のタンらによる効率的なOLEDの実証(C.W.Tang et al., Appl. Phys. Letter. 51(12),913 (1987))以来、OLEDは高級な市販ディスプレイの有望な候補から発展してきた。OLEDは、一連の実質的に有機材料からなる薄層を含んでいる。この層は、典型的には1nmから5μmの範囲の厚さを有する。この層は、通常、真空蒸着、或いは溶液(例えばスピンコーティング又はジェットプリンティング)により形成される。
【0003】
OLEDは、陰極からの電子の形の電荷キャリアの、及び陽極からの正孔の形の電荷キャリアの、電極に挟まれた有機層への注入後に発光する。電荷キャリアの注入は、印加した外部電圧に基づいて行われ、続いて発光ゾーンにおける励起子(exciton)が形成され、これら励起子の放射的再結合が行われる。電極のうち1以上は透明又は半透明であり、多くの場合には、酸化インジウムスズ(ITO)のような透明な酸化物であり、又は金属薄膜層である。
【0004】
OLED発光層(LEL)又は電子輸送層(ETL)で使用される母材化合物のうち、1以上のホスフィンオキシド基を含む化合物は重要な位置を占めている。ホスフィンオキシド基が半導体母材の電子注入性及び/又は電子輸送性を大きく改良する理由は、まだ、十分に理解されていない。ホスフィンオキシド基の高い双極子モーメントが何らかの方法で積極的な役割を果たしていると信じられている。特に、1以上の縮合芳香族基又は縮合複素環基がホスフィンオキシド基に直接、結合しているトリアリールホスフィンオキシドをこの用途に使用することが推奨されている(例えば、JP 4876333 B2参照)。
【0005】
電気的性質、特に導電性を改良するための電荷輸送伝導半導体材料への電気的ドーピングは、20世紀の90年代以降より知られている(例えば、US 5093698 A)。特に、熱的真空蒸着により調製されるETLへのn−ドーピングを行う単純な方法は、現在最も頻繁に使用される標準的な方法であり、例えばディスプレイの工業的製造において使用されているが、この方法は一蒸発源から母材化合物を蒸発させ、別の蒸発源から高度に電気的に陽性な金属を蒸発させ、固体基板上に同時蒸着させることである。トリアリールホスフィンオキシド母材化合物における有用なn−ドーパントとして、アルカリ金属及びアルカリ土類金属がJP 4725056 B2で推奨され、その実施例でセシウムがドーパントとして成功したことが記載されている。実際、最も電気的に陽性な金属としてのセシウムは母材材料の選択において最も広い自由度を提供し、これがセシウムのみが前記引用文献においてn−ドーピング金属として選択された理由であるようにみえる。
【0006】
工業的用途においては、ドーパントとしてのセシウムはいくつかの深刻な欠点を有している。第1に、反応性が非常に高く、水分や空気に非常に敏感であり、取り扱いが困難であり、その使用に関して不可避に伴う、高い安全性のための及び火災危険性を低減するための大きい追加費用を招く。第2に、そのきわめて低い標準沸点(678℃)は、高い真空条件下で高度に揮発的である可能性を示している。実際、真空熱蒸着(VTE)のための工業的装置で使用される10
-3Pa未満の圧力では、セシウム金属は少し高い温度ですでに相当蒸発する。10
-3Pa未満の圧力で有機半導体材料に使用される典型的な母材化合物の蒸着温度が典型的には150〜400℃の間であることを考慮すると、装置全体にける冷たい部分(例えば、有機母材蒸発源からの熱放射を遮蔽する部分)を汚染する望ましくない蒸着に至る、制御できないセシウムの蒸発を避けることは、真に挑戦的な課題である。
【0007】
これらの欠点を克服し、有機電子デバイスへのn−ドーピングのために、セシウムの工業的な使用を可能にするいくつかの方法が発表されている。安全な取り扱いのため、セシウムは、好ましくは操作温度に加熱する間に、ちょうど真空排気蒸発源側に開く密閉容器に供給されてもよい。このような技術的な解決は、例えばWO 2007/065685に記載されているものの、セシウムの高い揮発性を解決しない。
【0008】
US 7507694 B2及びEP 1648042 B1は、低温で溶融し、純粋な場合に比べて相当に低いセシウム蒸気圧を示すセシウム合金で別の解決法を提供している。10
-4Paのオーダーの圧力及び約450℃までの温度でセシウム蒸気を出すWO 2007/109815のビスマス合金は、別の解決法を示す。しかし、全てのこれら合金は依然、空気、水分に鋭敏である。さらに、この解決法は、蒸発している間にセシウムの濃度が減少するに伴い、合金の蒸気圧が変化するという事実に、別の短所がある。これは、例えば、蒸発源の温度をプログラムすることによる適切な蒸着速度制御を要するという、新たな問題を生み出す。これまで、工業的スケールでのそのような方法の堅牢性に関する品質保証(QA)の懸念は、大量生産工程においてこの技術的解決法をより広く適用することを妨げている。
【0009】
セシウム(Cs)ドーピングに替わり使用可能であるのは、セシウムのように比較的低いイオン化電位と一般の有機母材の揮発性に匹敵する揮発性とを有するW
2(hpp)
4のような、高度に電気的に陽性である遷移金属錯体である。実際に、WO 2005/086251に最初に電気的ドーパントとして開示された錯体は、いくつかの炭化水素母材を除き大抵の電子輸送母材に対し非常に効率的である。その空気及び水分に対する高い鋭敏性にも関わらず、これらの金属錯体は、WO 2007/065685に記載の容器で供給されるならば、工業的用途に関し満足すべきn−ドーピングの解決法を提供する。その主要な短所は、含まれる配位子が比較的、化学的に複雑であるために生じる高価格であること、最終錯体生成のため多段階の合成が必要であること、及び保護容器の使用が必要であること、及び/又はその容器の再使用と再充填とに関連するQA上の問題及び後方支援の問題から生じる追加の費用である。
【0010】
別の代替物は、例えば、適切な波長の紫外線(UV)又は可視光で供給される追加のエネルギーによって、比較的安定な前駆体から、ドープされた母材においてその場(in situ)で生成される強いn−ドーパントである。この解決法の適切な化合物は、例えばWO 2007/107306 A1に示されている。それにも関わらず、現在の技術水準の工業的蒸発源は、蒸発する材料に負荷される蒸発源の全操作サイクル(例えば、300℃、一週間)の間、全く分解することなく、蒸発源の操作温度にまで加熱することを可能にする、非常に高い熱的安定性を有する材料を必要としている。そのような長い熱的安定性を有する有機n−ドーパント又は有機n−ドーパント前駆体を提供することは、今日まで真の技術的な課題である。さらに、(母材中に蒸着されたドーパント前駆体のその場での活性化により)所望のドーピングレベルを再現性良く達成するための一定の、再現性のある追加のエネルギー供給を保証しなければならない製造装置の複雑な配列は、技術的課題を加え、大量生産におけるCA問題を加える潜在的な原因となる。
【0011】
ユークら(Yook et al, Advanced Functional Materials 2010, 20, 1797-1802)は、空気に安定なCs前駆体として研究室でアジ化セシウムの使用に成功した。この化合物は300℃より高温での加熱下で金属セシウムと窒素原子とに分解することが知られている。この方法は、しかし、大きなスケールではそのような分解反応の制御が困難であるため、現在の工業的VTE源では、殆ど使用できない。さらに、この反応の副生成物としての窒素ガスの遊離は、特に、大量生産において望まれる高い分解速度では、膨張するガスが蒸発源から固体アジ化セシウム粒子を弾き出し、ドープされた半導体材料の蒸着層に欠陥を多く発生させるという、高いリスクをもたらす。
【0012】
電子輸送母材への電気的なn−ドーピングの他の方法は、金属塩又は金属錯体でドープすることである。最も頻繁に使用されるそのようなドーパントの例は、リチウム8−ヒドロキシ−キノリノレート(8-hydroxy-quinolinolate)(LiQ)である。これは、ホスフィンオキシド基を含む母材では特に有利である(例えば、WO 2012/173370参照)。金属塩ドーパントの主要な短所は、これらが基本的に隣接層への電子注入のみを改良し、ドープされた層の導電性を増加させないことである。電子デバイスにおける稼働電圧を低下させるためにこれらを利用することは、従って、全く薄い電子注入層又は電子輸送層に限られ、例えば、約25nmより厚いETLを使用する(高い導電性を有する酸化還元−ドープETLに関しては十分あり得る)ことによる光共振器の調整は、殆どできない。さらに、ドープされた層に新しい電荷キャリアを発生することが必須である場合には、例えば、タンデムOLEDの機能のために必要な電荷発生層(CGL、pn−接合とも呼ばれる)においては、電気的ドーパントとしての金属塩は、通常失敗する。
【0013】
先に述べた理由により、特に約30nmより厚いETLへの電気的ドーピングのため、現在、技術的実施においては工業的な酸化還元n−ドーパントとしてリチウムが好適である(US 6013384 B2参照)。この金属は、比較的安価であり、他のアルカリ金属とは異なり幾分反応性が低く、特に、非常に低い揮発性(標準沸点は約1340℃)によって、350〜550℃の間の温度でVTE装置中での蒸発が可能である。
【0014】
それにも関わらず、Liを電子輸送母材の通常のタイプの大部分にドープすることを可能にするその高いn−ドーピング能力と全く相応して、この金属は、また高い反応性を有する。これは乾燥窒素とでさえ、室温で反応し、現在の工業的QA標準に従う高い再現性のある製造方法を実現するためには、高純度の希ガス下のみで貯蔵、取り扱われなければならない。さらに、Liを、150〜300℃の範囲の蒸発温度を有する母材化合物と同時蒸着する場合には、母材蒸発温度と比較して相当に高い蒸発温度のため、VTE装置で交差汚染問題をすでに引き起こしている。
【0015】
多くの文献では、代替n−ドーパントとして殆ど全ての既知の金属元素が提案されている。これらの金属元素は、弱い還元性及び高い揮発性のZn,Cd,Hg、低い還元性のAl,Ga,In,Tl,Bi,Sn,Pb,Fe,Co,Niを含み、また、Ru,Rh,Irのような貴金属及び/又はMo,W,Nb,Zrのような最も高い既知の沸点を有する耐火性金属を含む(例えば、JP 2009/076508又はWO 2009/106068参照)。あいにく、実際は、例としてここに引用されたこれら二つの文献だけでなく、化学的文献及び特許文献全体を通して、これらの提案のいくつかが一度でも実験的に試されたといういかなる証拠も欠いている。
【0016】
より具体的には、WO 2009/106068は、加熱されたノズルで、ガス状の前駆体化合物の高温での分解により使用可能であると主張して、全ての考えられる限りのドーパントを記載しているだけでなく、有機電子デバイスのn−ドーパントとして、半金属元素の全ての名称を挙げて請求項において主張しようと非常に努めているものの、調製されたドープ材料と主張されている材料の物理的パラメータ、及び/又は調製されたとしているデバイスの技術的性能を記録した一つの数値も記載されていない。
【0017】
他方、WO 2009/106068の優先日より前に公開されたUS 2005/0042548は、段落0069において(即ち、7ページの左欄の最後の2行と右欄の最初の3行を参照)、一酸化炭素配位子を遊離するUV照射によって活性化されるのであれば、鉄ペンタカルボニルは有機ETMにおいてn−ドーパントに使用できると教示している。配位的に不飽和な鉄化合物は、次に母材と反応し、ドーピングの効果が観察される。WO 2009/106068において実用的な例と主張されたものの中で使用された金属カルボニルが、エネルギーを加えることにより活性化され、有機母材のn−ドーパントとして既知であることを示す先行技術の点から、WO 2009/106068の出願人が、電気的に白熱色になるまで加熱されたセラミックのノズルを通って流れる鉄ペンタカルボニルの噴出(引用したPCT出願の12ページのドイツ語本文の最終段落を参照)により、目標のバソクプロイン(bathocuproin)層に何らかのドーピングの効果を実際に得たならば、この効果は、彼らが示唆するような鉄原子によるのではなく、むしろUS 2005/0042548に記載されたのと同じUV照射により生成された配位的に不飽和な鉄カルボニル錯体により生じた可能性があるように全く思われる。この疑問は引用したPCT出願の13ページ第4段落により、さらに支持されている。このPCT出願は、鉄ペンタカルボニルの流れが、鉄ペンタカルボニル錯体のCO基の吸収振動数と一致する波長を有する赤外線レーザーで照射された場合に、同一の結果が冷たいノズルにより得られることを教示している。ここにおいて、レーザーによる活性化は裸の金属原子又は金属原子の固まりを生じるのではなく、UV光による活性化によって形成される反応性の高い錯体と同じように、依然いくつかのカルボニル配位子を保持している反応性の高い配位的に不飽和なイオン錯体を生じる可能性がずっと高いようである。
【0018】
アルカリ土類金属又はランタノイド金属のような強いマイナスの標準酸化還元電位を有する金属が、酸化還元n−ドーピングを扱う各文書でアルカリ金属以外の代替n−ドーパントとして基本的に引用されているにも関わらず、アルカリ金属と異なる何れかの金属に関して、n−ドーピングが証明された記録は非常に稀である。
【0019】
マグネシウムはアルカリ金属と比較してずっと反応性が低い。マグネシウムは通常の温度では液体の水とさえ、非常にゆっくりと反応し、空気中ではその金属性の光沢を保ち、数ヶ月間重量は増えない。よって、マグネシウムは実用上、空気に安定であると考えてもよいだろう。さらに、マグネシウムは低い標準沸点(約1100℃)を有し、有機母材と同時蒸着する最適の温度範囲でのVTE加工に非常に有望である。
【0020】
他方、本出願の著者らは多くの技術水準のETMに関して行ったスクリーニングの中で、Mgが通常のETMに関しては十分なドーピング強度を有さないことを確認した。唯一の好ましい結果は、EP 2452946 A1に示されているようにマグネシウムでドープされた、特定の種類のトリアリールホスフィンオキシド母材(金属にキレート化するためにデザインされた特別なトリス−ピリジル基を含む)からなる薄い電子注入層を含むOLEDで達成された。EP 2452946 A1に記載された、マグネシウムで試験された実施例の母材の構造的な特異性と、非常に好ましい(絶対的なエネルギースケールで真空準位よりずっと下にあるLUMO準位の点から)ドープ性とにも関わらず、このn−ドープされた半導体材料で達成された肯定的な結果は、実質的に空気に安定な金属によるn−ドーピングに焦点を当てた、さらなる研究を促した。
【0021】
先行技術の短所を克服し、n−ドーパントとして実質的に空気に安定な金属を利用して効果的にn−ドープされた半導体材料を提供すること、特に、フェロセニウム/フェロセン標準系に対して約−2.25Vよりも低い値の電気化学的酸化還元電位(LUMOの準位と単純な線型関係にあり、LUMOの準位そのものを測定するよりもはるかに容易に測定が可能である)を有するETMよりも、真空準位に近い最低空軌道(LUMO)エネルギーレベルを有するETMにおいてn−ドープされた半導体材料を提供することが、本発明の目的である。
【0022】
本発明の他の目的は、実質的に空気に安定であって、電子デバイスで使用するための電気的にドープされた半導体材料に(好ましくは標準的なVTE加工及び現代の蒸発源を用いて)うまく埋め込むことができる代替金属元素を提供することである。
【0023】
本発明の第3の目的は、実質的に空気に安定な金属をn−ドーパントとして利用して半導体材料を製造する方法を提供することである。
【0024】
本発明の第4の目的は、より良い特性を有するデバイスを提供すること、特に低い電圧で稼働するデバイス、さらには、低い電圧及び高い効率で稼働するOLEDを提供することである。
【0025】
本発明の第5の目的は、本発明による半導体材料に使用可能な新しい母材化合物を提供することである。
【発明の開示】
【0026】
(発明の概要)
本発明の目的は、n−ドーパントとして1以上の金属元素と、電子輸送母材として1以上のホスフィンオキシド基を有する1以上の化合物とを含む、電気的にドープされた半導体材料により達成される。ここで金属元素は、酸化数IIの状態で1以上の安定な化合物を形成する元素から選択される。電子輸送母材の化合物は、同一条件下でサイクリックボルタンメトリーにより測定される場合に、トリス(2−ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシアルミニウムよりも低い還元電位、好ましくは9,9’,10,10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントラセン又は2,9−ジ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、より好ましくは2,4,7,9−テトラフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、さらに好ましくは9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)−2−フェニルアントラセンよりも低い還元電位、最も好ましくは2,9−ビス(2−メトキシフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、さらに好ましくは9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,7−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも低い還元電位を有し、かつ、N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタフェニル−9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,2’,7,7’−テトラミンよりも高い還元電位、好ましくはトリフェニレンよりも高い還元電位、より好ましくはN4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミンよりも高い還元電位、さらにより好ましくは4,4’−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)−1,1’−ビフェニルよりも高い還元電位、最も好ましくはビス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドよりも高い還元電位、これほどではないが、なお好ましくは3−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−4−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾールよりも高い還元電位及び、さらに、それ程でもないが、なお好ましくはピレンよりも高い還元電位を有する。
【0027】
好ましくは、金属元素は、実質的に元素の状態で、電気的にドープされた半導体材料に存在する。
【0028】
「安定な化合物」とは、常温25℃で、熱力学的に及び/又は速度論的に十分に安定で合成可能であり、金属元素に関して酸化状態IIが立証され得る化合物であると理解されるべきである。
【0029】
電子輸送母材化合物は、式(I)の化合物であることが好ましい。
【0031】
ここで、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、C
1−C
30アルキル、C
3−C
30シクロアルキル、C
2−C
30ヘテロアルキル、C
6−C
30アリール、C
2−C
30ヘテロアリール、C
1−C
30アルコキシ、C
3−C
30シクロアルコキシ、C
6−C
30アリールオキシから選ばれ、置換基R
1,R
2及びR
3のそれぞれは任意に、さらにホスフィンオキシド基を含み、置換基R
1,R
2及びR
3のうち1以上は、10以上の非局在化電子からなる共役系を含む。
【0032】
非局在化電子の共役系の例は、パイ結合とシグマ結合とが交互に存在する系である。その原子の間にパイ結合を有する1以上の2原子構造単位は、任意に1以上の孤立電子対を有する原子により置き換えられる。典型的には、O,S,Se,Teから選択される2価の原子により、或いはN,P,As,Sb、Biから選ばれる3価の原子により置き換えられる。好ましくは、非局在化電子の共役系は、ヒュッケル則に従う1以上の芳香族環を含む。さらに好ましくは、非局在化電子の共役系は、10以上の非局在化電子を含む縮合芳香族骨格、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、キノリン、インドール、カルバゾール骨格を含む。また、好ましくは、非局在化電子の共役系は、2以上の直接に結合した芳香族環からなっていてもよく、そのような系の最も単純な例は、ビフェニル、ビチエニル、フェニルチオフェン、フェニルピリジン等である。
【0033】
また、好ましくは、金属元素は、25eVよりも低い第1イオン化電位及び第2イオン化電位の合計を有し、より好ましくは24eVよりも低い、より好ましくは23.5eVよりも低い、最も好ましくは23.1eVよりも低いイオン化電位の合計を有する。
【0034】
好ましい実施態様の一つでは、10以上の非局在化電子からなる共役系がホスフィンオキシド基に直接に結合している。
【0035】
別の好ましい実施態様では、10以上の非局在化電子からなる共役系は、スペーサ基Aによってホスフィンオキシド基から離れている。スペーサ基Aは、好ましくは2価の、6員環の芳香族炭素環基又は複素環基であり、より好ましくは、スペーサ基Aは、フェニレン、アジン−2,4−ジイル、アジン−2,5−ジイル、アジン−2,6−ジイル、1,3−ジアジン−2,4−ジイル及び1,3−ジアジン−2,5-ジイルから選ばれる。
【0036】
10以上の非局在化電子からなる共役系は、C
14−C
50アリール又はC
8−C
50ヘテロアリールであることがさらに好ましい。
【0037】
好ましい実施態様の一つにおいては、電気的にドープされた半導体材料は、さらに1以上の金属カチオンと1以上のアニオンとからなる金属塩添加物を含む。好ましくは、金属カチオンは、Li
+又はMg
2+である。また、好ましくは、金属塩添加物は、金属カチオンに結合した窒素原子及び酸素原子を含む、5、6又は7員環を含む金属錯体、及び式(II)の構造を有する錯体から選択される。
【0039】
ここで、A
1は、C
6−C
30アリーレン、又は芳香族環にO,S及びNから選択される1以上の原子を含むC
2−C
30ヘテロアリーレンであり、A
2とA
3のそれぞれは独立して、C
6−C
30アリール、及び芳香族環にO,S及びNから選択される1以上の原子を含むC
2−C
30へテロアリールから選択される。同程度に好ましくは、アニオンがホスフィンオキシド基、8−ヒドロキシキノリノレート及びピラゾリルボレートで置換されたフェノレートからなる群から選択される。金属塩添加物は、好ましくは、第2の電気的n−ドーパントとして機能し、より好ましくは、元素の状態で存在し第1の電気的n−ドーパントとして機能する金属元素と相乗的に機能する。
【0040】
本発明の第2の目的は、前記何れかの電気的にドープされた半導体材料の電気的n−ドーパントとして、Mg,Ca,Sr,Ba,Yb,Sm,Eu及びMnから選択される金属を使用することにより達成される。
【0041】
本発明の第3の目的は、半導体材料を製造する方法により達成される。この方法は、1以上のホスフィンオキシド基を含む電子輸送母材化合物と、酸化数IIの状態で1以上の安定な化合物を形成する元素から選択される金属原子とが同時蒸発され、減圧下で同時蒸着される工程を含む。電子輸送母材化合物は、同一条件下でサイクリックボルタンメトリーにより測定される場合に、トリス(2−ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシアルミニウムよりも低い還元電位、好ましくは9,9’,10,10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントラセン又は2,9−ジ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、より好ましくは2,4,7,9−テトラフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、さらに好ましくは9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)−2−フェニルアントラセンよりも低い還元電位、最も好ましくは2,9−ビス(2−メトキシフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、さらに好ましくは9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,7−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも低い還元電位を有し、かつ、N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタフェニル−9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,2’,7,7’−テトラミンよりも高い還元電位、好ましくはトリフェニレンよりも高い還元電位、より好ましくは4,4’−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)−1,1’−ビフェニルよりも高い還元電位、さらにより好ましくはビス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドよりも高い還元電位、最も好ましくは3−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−4−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾールよりも高い還元電位を有する。
【0042】
好ましくは、金属元素は、3000℃よりも低い標準沸点、より好ましくは2200℃よりも低い標準沸点、さらに好ましくは1800℃よりも低い標準沸点、最も好ましくは1500℃よりも低い標準沸点を有している。標準沸点とは、標準気圧(101.325kPa)における沸点であると理解されるべきである。また、好ましくは、金属元素は、第1イオン化電位及び第2イオン化電位の合計が16eVよりも高く、ややより好ましくは17eVよりも高く、さらに好ましくは18eVよりも高く、さらにより好ましくは20eVよりも高く、最も好ましくは21eVよりも高く、それほどでもないがなお好ましくは22eVよりも高く、さらにそれほどでもないがなお好ましくは23eVよりも高い。金属元素は実質的に空気に安定であることが好ましい。好ましくは、金属元素は、Mg,Ca,Sr,Ba,Yb,Sm,Eu及びMnから選択され、より好ましくはMg及びYbから選択される。最も好ましくは、金属元素はMgである。また好ましくは、金属元素は線形蒸発源(linear evaporation source)から蒸発される。本発明の第1の目的は、また、上述した本発明の製造方法の何れかによって調製される、電気的にドープされた半導体材料によって達成される。
【0043】
本発明の第4の目的は、陰極、陽極、並びにn−ドーパントとして、実質的にその元素の状態の1以上の金属元素、及び1以上のホスフィンオキシド基を含む1以上の電子輸送母材化合物、を含む電気的にドープされた半導体材料、を含む電子デバイスにより達成される。ここで金属元素は、酸化数IIで1以上の安定な化合物を形成する。電子輸送母材化合物は、同一条件下でサイクリックボルタンメトリーにより測定される場合に、9,9’,10,10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントラセン又は2,9−ジ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、より好ましくは2,4,7,9−テトラフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、さらに好ましくは9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)−2−フェニルアントラセンよりも低い還元電位、さらにより好ましくは2,9−ビス(2−メトキシフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンよりも低い還元電位、最も好ましくは9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,7−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも低い還元電位を有し、かつ、N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタフェニル−9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,2’,7,7’−テトラミンよりも高い還元電位、好ましくはトリフェニレンよりも高い還元電位、より好ましくはN4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミンよりも高い還元電位、さらにより好ましくは4,4’−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)−1,1’−ビフェニルよりも高い還元電位、最も好ましくはビス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドよりも高い還元電位、それほどでもないがなお好ましくは3−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−4−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾールよりも高い還元電位、さらにそれほどでもないがなお好ましくはピレンよりも高い還元電位を有し、前記製造方法により陰極と陽極との間に調製され得る。
【0044】
本発明の電子デバイスの好ましい実施態様は、前述のような本発明の半導体材料の好ましい実施態様を含む。より好ましくは、本発明の電子デバイスの好ましい実施態様は、前記本発明の製造方法の何れかの実施態様により調製される本発明の半導体材料を含む。
【0045】
好ましくは、電気的にドープされた半導体材料は、電子輸送層又は電子注入層を形成する。より好ましくは、電子輸送層又は電子注入層は、発光層に隣接する。発光層は、同一条件下でサイクリックボルタンメトリーにより測定される場合には、隣接する電子輸送層又は電子注入層の電気輸送母材化合物よりも低い還元電位を有する化合物からなる。
【0046】
発光層は、青色又は白色を発光することがさらに好ましい。好ましい実施態様の一つでは、発光層は1以上のポリマーを含む。より好ましくは、ポリマーは青い光を発光するポリマーである。
【0047】
また好ましくは、電子輸送層又は電子注入層の厚さは、5nmよりも厚く、好ましくは10nmよりも厚く、より好ましくは15nmよりも厚く、さらにより好ましくは20nmよりも厚く、最も好ましくは25nmよりも厚い。
【0048】
好ましい実施態様の一つでは、電子輸送層又は電子注入層は、半導体金属酸化物からなる陰極に隣接する。好ましくは、半導体金属酸化物は酸化インジウムスズである。また、好ましくは、陰極はスパッタリングにより調製される。
【0049】
本発明のさらに別の実施態様は、前記範囲の酸化還元電位を有するホスフィンオキシド電子輸送母材化合物と、2価金属とを含み、金属がドープされたpn−接合を含むタンデムOLEDスタック(stack)である。
【0050】
本発明の第5の目的は、以下の化合物からなる群から選択される化合物により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】
図1は、本発明が組み入れられ得るデバイスの略図を示す。
【
図2】
図2は、本発明が組み入れられ得るデバイスの略図を示す。
【
図3】
図3は、二つのn−ドープされた半導体材料の吸収曲線を示す。「○」は、強い還元性ラジカルを形成する化合物F1を10重量%ドープされた比較母材化合物C10を表す。「△」は、Mgを5重量%ドープされた化合物E10を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
<デバイスの構成>
図1は、陽極(10)、発光層を含む有機半導体層(11)、電子輸送層(ETL)(12)、及び陰極(13)の積層を示す。他の層は、本明細書で説明するように、これら層の間に挿入され得る。
【0054】
図2は、陽極(20)、正孔注入及び輸送層(21)、正孔輸送層(22)の積層を示し、正孔輸送層は電子ブロッキング、発光層(23)、ETL(24)、及び陰極(25)の機能を集合させることができる。他の層は、本明細書で説明するように、これら層の間に挿入され得る。
【0055】
用語「デバイス」は、有機発光ダイオードを含む。
【0056】
<材料の性質−エネルギー水準>
イオン化電位(IP)を決定する方法は、紫外分光法である(UPS)。この方法は、固体状態の材料のイオン化電位を測定することが一般的である。しかし、ガス相でIPを測定することも可能である。両者の値は、固体状態の効果により識別される。この効果は、例えば、光イオン化方法の間に生じる正孔の分極化エネルギーである。分極エネルギーの典型的な値は、約1eVであるが、値のさらに大きい食い違いも起こり得る。IPは、光電子の大きな速度論的エネルギー領域、つまり最も弱く結合された電子のエネルギーの領域、での光電子放射スペクトルの発生に関係する。UPSに関連する方法、逆光電子分光法(IPES)は、電子親和性(EA)を決定するために使用され得る。しかし、この方法は一般的ではない。溶液での電気化学的測定は、固体状態の酸化電位(E
OX)及び還元電位(E
red)を決定する別の方法である。適切な方法は、例えば、サイクリックボルタンメトリーである。混同を避けるため、主張しているエネルギー水準は、標準的手順で測定されるとき、サイクリックボルタンメトリーで十分に確定された酸化還元電位を有する標準化合物と比較して決定される。酸化還元電位を電子親和性とイオン化電位とに転換するため、単純なルールがしばしば使用される。つまり、IP(eVで)=4.8eV+e
*E
OX(ここでE
OXは、フェロセニウム/フェロセン(Fc
+/Fc)に対するボルトで与えられる)、及びEA(eVで)=4.8eV+e
*E
red(E
redは、Fc
+/Fcに対するボルト)で、それぞれ与えられる(B.W.D'Andrade, Org. Electron. 6, 11-20 (2005))。e
*は元素の電荷である。他の標準電極、又は他の標準酸化還元ペアでの電気化学的電位の再計算のための、転換係数は知られている(A.J.Bard, L.R.Faulkner, "Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications", Wiley, 2. Ausgabe 2000)。使用する溶液の影響に関する情報は、N.G.Connelly et al., Chem. Rev. 96, 877 (1996) に見出すことができる。例え厳密に正しくなくても、用語「HOMOのエネルギー」E
(HOMO)と「LUMOのエネルギー」E
(LUMO)とをイオン化エネルギーと電子親和性との同義語として、それぞれ使用することは一般的である(Koopmans定理)。イオン化電位及び電子親和性は、大きい方の値が、遊離している電子と吸収されている電子とのそれぞれのより強い結合を表すよう通常、示されると考えられる。フロンティア分子軌道(HOMO,LUMO)のエネルギーの水準はこれと対応する。従って、大まかな近似では、次の式が妥当である。つまり、IP=−E
(HOMO)であり、EA=E
(LUMO)である(ゼロエネルギーは真空に割り当てられる)。
【0057】
選択された標準化合物に関しては、テトラヒドロフラン(THF)溶液におけるFc
+/Fcに対する標準サイクリックボルタンメトリーによる還元電位の値である次の値を得た。
【0058】
【化4】
【0059】
トリス(2−ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)フェノキシアルミニウム、CAS 1269508−14−6,−2.21V,B0;
【0060】
【化5】
【0061】
9,9’,10,10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントラセン(TPBA)、CAS 172285−72−2,−2.28V,B1;
【0062】
【化6】
【0063】
2,9−ジ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、CAS 338734−83−1,−2.29V,B2;
【0064】
【化7】
【0065】
2,4,7,9−テトラフェニル−1,10−フェナントロリン、CAS 51786−73−3,−2.33V,B3;
【0066】
【化8】
【0067】
9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)−2−フェニルアントラセン(PADN)、CAS 865435−20−7,−2.37V,B4;
【0068】
【化9】
【0069】
2,9−ビス(2−メトキシフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、CAS 553677−79−5,−2.40V,B5;
【0070】
【化10】
【0071】
9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,7−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)(SPPO13)、CAS 1234510−13−4,−2.41V,B6;
【0072】
【化11】
【0073】
N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7',N7'−オクタフェニル−9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,2’,7,7’−テトラミン(スピロTAD)、CAS 189363−47−1,−3.10V,B7;
【0074】
【化12】
【0075】
トリフェニレン、CAS 217−59−4,−3.04V,B8;
【0076】
【化13】
【0077】
N4,N4'−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(アルファ−NPD)、CAS 123847−85−8,−2.96V,B9;
【0078】
【化14】
【0079】
4,4’−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)−1,1’−ビフェニル(CBP)、CAS 58328−31−7,−2.91V,B10;
【0080】
【化15】
【0081】
ビス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)(フェニル)ホスフィンオキシド(BCPO)、CAS 1233407−28−7,−2.86V,B11;
【0082】
【化16】
【0083】
3−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−4−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、−2.76V,B12;
【0084】
【化17】
【0085】
ピレン、CAS 129−00−0,−2.64V,B13。
【0086】
本発明の電気的にドープされた半導体材料の母材化合物の例は、
【0087】
【化18】
【0088】
(9−フェニル−9H−カルバゾール−2,7−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィンオキシド)(PPO27)、CAS 1299463−56−1,−2.51V,E1;
【0089】
【化19】
【0090】
[1,1’−ビナフタレン]−2,2’−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)(BINAPO)、CAS 86632−33−9,−2.69V,E2;
【0091】
【化20】
【0092】
スピロ[ジベンゾ[c,h]キサンテン−7,9’−フルオレン]−2’,7−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、−2.36V,E3;
【0093】
【化21】
【0094】
ナフタレン−2,6−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、−2.41V,E4;
【0095】
【化22】
【0096】
[1,1’:4’,1”−テルフェニル]−3,5−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、−2.58V,E5;
【0097】
【化23】
【0098】
3−フェニル−3H−ベンゾ[b]ジナフト[2,1−d:1’,2’−f]ホスフィン−3−オキシド、CAS 597578−38−6,−2.62V,E6;
【0099】
【化24】
【0100】
ジフェニル(4−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)フェニル)ホスフィンオキシド、−2.81V,E7;
【0101】
【化25】
【0102】
(9,9−ジヘキシル−9H−フルオレン−2,7−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、−2.52V,E8;
【0103】
【化26】
【0104】
(3−(3,11−ジメトキシジベンゾ[c,h]アクリジン−7−イル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド(WO 2013/079217 A1に記載されている)、−2.29V,E9;
【0105】
【化27】
【0106】
(3−(2,12−ジメトキシジベンゾ[c,h]アクリジン−7−イル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド(WO 2013/079217 A1に記載されている)、−2.24V,E10;
【0107】
【化28】
【0108】
ジフェニル(5−(ピレン−1−イル)ピリジン−2−イル)ホスフィンオキシド(WO 2014/167020 に記載されている)、−2.34V,E11;
【0109】
【化29】
【0110】
ジフェニル(4−(ピレン−1−イル)フェニル)ホスフィンオキシド(PCT/EP2014/071659に記載されている)、−2.43V,E12;
である。
【0111】
本発明の半導体材料の好ましい母材化合物は、化合物E1,E2,E5,E6,E8である。
【0112】
対照化合物として、
【0113】
【化30】
【0114】
(4−(ジベンゾ[c,h]アクリジン−7−イル)フェニル)ジフェニルホスフィンオキシド(WO 2011/154131 A1に記載されている)、−2.20V,C1;
【0115】
【化31】
【0116】
(6,6’−(1−(ピリジン−2−イル)エタン−1,1−ジイル)ビス(ピリジン−6,2−ジイル))ビス(ジフェニルホスフィンオキシド)(EP 2452946に記載されている)、−2.21V,C2;
【0117】
【化32】
【0118】
2−(4−(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン−2−イル)フェニル)−1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール、CAS 561064−11−7,−2.32V,C3;
【0119】
【化33】
【0120】
7−(4’−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−[1,1’−ビフェニル]−4−イル)ジベンゾ[c,h]アクリジン(WO 2011/154131 A1に記載されている)、−2.24V,C4;
【0121】
【化34】
【0122】
7−(4’−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)フェニル)ジベンゾ[c,h]アクリジン(WO 2011/154131 A1に記載されている)、−2.22V,C5;
【0123】
【化35】
【0124】
1,3,5−トリス(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(TPBI)、CAS 192198−85−9,−2.58V,C6;
【0125】
【化36】
【0126】
4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(Bphen)、CAS 1662−01−7,−2.47V,C7;
【0127】
【化37】
【0128】
1,3−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾール−5−イル]ベンゼン(Bpy−OXD)、−2.28V,C8;
【0129】
【化38】
【0130】
(9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)アントラセン−2−イル)ジフェニルホスフィンオキシド、CAS 1416242−45−9,−2.19V,C9;
【0131】
【化39】
【0132】
4−(ナフタレン−1−イル)−2,7,9−トリフェニルピリド[3,2−h]キナゾリン(EP 1971371による)、−2.18V,C10;
が用いられる。
【0133】
<基板>
基板は、柔軟又は堅く、透明、不透明、反射性、又は半透明であり得る。OLEDで発生される光が基板を透過しなければならない場合(底部発光)には、基板は透明か半透明であるべきである。OLEDで発生される光が基板と反対の方向に発光されなければならない場合、いわゆるトップ発光タイプの場合には、基板は不透明でよい。OLEDは透明にもなり得る。基板は陰極又は陽極に隣接して配置することができる。
【0134】
<電極>
電極は陽極と陰極であり、それらはある程度の導電性を提供しなければならず、好ましくは導体である。好ましくは、「第1電極」は陰極である。この電極の1以上は半透明又は透明でありデバイスの外部への光伝達を可能にする。典型的な電極は、複数の層又は積層であり、金属及び/又は透明な導電性酸化物を含む。他の可能な電極は薄いバスバー(busbar)(例えば、薄い金属グリッド)からなり、バスバー同士の間隔はある導電性を有する、グラフェン(graphene)、炭素ナノチューブ(carbon nanotube)、ドープされた有機半導体のような透明な材料で満たされて(コートされて)いる。
【0135】
一実施態様では、陽極は基板に最も近い電極であり、非反転(non-inverted)構造と呼ばれる。別の態様では、陰極は基板に最も近い電極であり、反転構造と呼ばれる。
【0136】
陽極の典型的な材料はITO及びAgである。陰極の典型的な材料はMg:Ag(10体積%のMg),Ag,ITO,Alである。混合物や多層も可能である。
【0137】
好ましくは、陰極は、Ag,Al,Mg,Ba,Ca,Yb,In,Zn,Sn,Sm,Bi,Eu,Liから選択され、より好ましくはAl、Mg,Ca,Baから選択され、より好ましくはAl又はMgから選択される。Mg及びAlの合金を含む陰極もまた好ましい。
【0138】
陰極材料を広い範囲から選ぶことができ、低い仕事関数を有する金属に加えて、他の金属又は導電性金属酸化物も陰極材料として使用することができるのは、本発明の有利な点である。陰極が基板に先に形成される(その場合には、デバイスは反転デバイスである)こと、又は、非反転デバイスの陰極が金属の真空堆積又はスパッタリングによって形成されることも、同様に十分可能である。
【0139】
<正孔輸送層(HTL)>
HTLは、陽極から発光層(LEL)への正孔の輸送、又はCGLから発光層への正孔の輸送を行う、大きなギャップを有する半導体を含む層である。HTLは、陽極とLELとの間、或いはCGLの正孔発生側とLELとの間に含まれる。HTLは別の材料、例えば、p−ドーパントと混合されることができ、その場合には、HTLは、p−ドープされているといわれる。HTLは、異なった組成を持ち得る、いくつかの層からなることができる。HTLのp−ドーピングは、その抵抗値を下げると共に、ドープされていない半導体の場合に生じる高い抵抗によるエネルギーの損失を避ける。ドープされたHTLはまた、抵抗を大きく増やすことなく1000nm以上にまで非常に厚く形成され得るので、光学的スペーサとしても使用することができる。
【0140】
好適な正孔輸送材料(HTM)には、例えば、窒素原子上の孤立電子対と共役した非局在化されたパイ電子系がジアミン分子の少なくとも二つの窒素原子の間に与えられている場合には、ジアミン類の化合物がなり得る。例としては、N4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(HTM1)、N4,N4,N4”,N4”−テトラ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−[1,1’:4’,1”−テルフェニル]−4,4”−ジアミン(HTM2)がある。ジアミンの合成は、文献によく記載されている。多くのジアミンHTMは、容易に市販品を入手することができる。
【0141】
<正孔注入層(HIL)>
正孔注入層は、陽極から、又は、CGLの正孔を生成する側から、隣接したHTLへ、正孔の注入を促進する層である。典型的なHILは、非常に薄い層(<10nm)である。正孔注入層は、純粋なp−ドーパントの層であってもよく、1mmの厚さであってもよい。HTLがドープされるとき、注入機能は、既にHTLによって与えられているので、HILは必要でない可能性がある。
【0142】
<発光層(LEL)>
発光層は、1以上の発光材料を含まなければならず、任意に追加層を含み得る。LELが2以上の材料の混合物を含む場合には、電荷キャリアの注入は、異なる材料内で生じ、例えば、エミッタではない材料内で生じ、又は電荷キャリアの注入はエミッタへも直接行われる。多くの異なるエネルギー遷移プロセスは、LEL内部、又は互いに隣接するLEL内部で起こることができ、異なるタイプの発光を生じさせる。例えば、励起子は、ホスト材料内で形成されることができ、一重項又は三重項の励起子として、一重項又は三重項エミッタであり得るエミッタ材料に移されて、発光する。異なるタイプのエミッタの混合物が、高い効率を実現するために提供され得る。白色光は、エミッタホストとエミッタドーパントからの発光を用いて達成することができる。発明の好ましい実施態様の一つでは、発光層は、1以上のポリマーを含む。
【0143】
ブロッキング層は、LEL内への電荷キャリアの閉じ込めを向上するために使用され得る。これらのブロッキング層は、さらにUS 7,074,500 B2に説明されている。
【0144】
<電子輸送層(ETL)>
ETLは、陰極或いは、CGL又はEIL(下記参照)から、LELに電子を輸送する、ギャプの大きい半導体を含む。ETLは、陰極とLELとの間に、又はCGLの電子発生側とLELとの間に含まれている。ETLは、電気的n−ドーパントと混合されることができ、その場合にETLは、n−ドープされているといわれる。ETLは、いくつかの層により構成することができ、それらは異なる組成を有する。ETLの電気的n−ドーピングは、その抵抗を下げ、及び/又は隣接する層へ電子を注入する性能を向上し、ドーピングされていない半導体のドープされないことによる高い抵抗(及び/又は低い注入性能)によるエネルギーの損失を避ける。電気的ドーピングが新しい電荷キャリアを作り、ドープされていないETMと比較して、ドープされた半導体材料の導電性を実質的に増大する場合には、ドープされたETLは、ドープされたETLを含むデバイスの稼働電圧に大きな増大を伴うことなく、1000nm以上にまで非常に厚く形成され得るので、光学的スペーサとしても使用することができる。新しい電荷キャリアを作ると考えられている電気的ドーピングの好ましい方法は、いわゆる、酸化還元ドーピングである。n−ドーピングの場合には、酸化還元ドーピングは、ドーパントから母材分子へ電子を移すことに相当する。
【0145】
実質的に元素の状態でドーパントとして使用される金属によって電気的にn−ドーピングされる場合には、金属原子から母材分子への電子の移動は、金属カチオンと母材分子のアニオンラジカルとを生じると考えられている。アニオンラジカルから隣接する中性母材分子への一電子のホッピングが、酸化還元n−ドープされた半導体における電荷移動の、現在考えられている機構である。
【0146】
しかしながら、電気的酸化還元ドーピングの点から、金属によりn−ドープされた半導体、特に、本発明の半導体材料の全ての性質を理解することは困難である。従って、本発明の半導体材料は、好適にも、酸化還元ドーピングに、ETMと金属原子及び/又はその固まりとを混合することによる、未だ知られていない好ましい効果を組み合わせていると考えられている。本発明の半導体材料は、添加される金属元素のかなりの部分を、実質的に元素の状態で含むと考えられている。用語「実質的に元素」は、電子的状態とそのエネルギーの点から、金属カチオンの状態、又はプラスに荷電された金属原子の固まりの状態よりも、自由原子の状態、又は金属原子の固まりの状態に近い形であると理解されるべきである。
【0147】
理論により限られることはないが、先行技術のn−ドープされた有機半導体材料と本発明のn−ドープされた半導体材料との間には、重要な相違があると考えられ得る。アルカリ金属又は、先行技術のW
2(hpp)
4のような強い酸化還元n−ドーパントは、一般的な有機ETM(Fc
+/Fcに対してほぼ−2.0Vと−3.0Vの間にある還元電位を有する)において、添加されるドーパントである原子と分子の数に釣り合う量の電荷キャリアを形成すると考えられ、そして、選択した母材に、あるレベルを超えて、そのような強いドーパントを増やすことは、まさにドープされた材料の電気的性質に実質的な利益をもたらさないという経験がある。
【0148】
他方、本発明の比較的弱いドーパントは、ホスフィンオキシド基を含む母材の中で、特にFc
+/Fcに対してほぼ−2.3Vと−2.8Vの間にある還元電位に相当する、絶対的スケールでより深いLUMO水準を有するホスフィンオキシド基を含む母材の中で、全く異なって挙動する。これらは、部分的には、自由電荷キャリアの量を向上させる「古典的」酸化還元機構によっても機能するが、しかし、ドーパントの量と弱く関連して機能するように見える。
【0149】
換言すれば、Fc
+/Fcに対してほぼ−2.3Vと−2.8Vの間にある還元電位により、白色又は青色のOLEDに特に適している、より深いLUMOを有するETMでは、n−ドーパントとして添加された、金属元素の原子の一部のみが、相当する金属カチオンを形成しながら酸化還元機構によって母材分子と反応する。母材の量が、添加された金属元素の量よりも相当に高い、高希釈においてすら、金属元素のかなりの部分は、実質的に元素の状態で存在している。さらに本発明の金属元素は、同等の量で本発明の母材と混合される場合には、添加された金属元素の多くが、結果として得られたドープされた半導体材料の中で実質的に元素の状態で存在していると考えられている。この仮説は、なぜ本発明の金属元素が、弱いドーパントであるにも関わらず、先行技術のより強いドーパントよりも、ドープされる母材に対して非常に大きい比率で、効果的に使用できるかに関して合理的な説明を与えているように思われる。本発明のドープされた半導体材料における金属元素の適用可能な含量は、およそ0.5重量%から25重量%の範囲にあり、好ましくは1重量%から20重量%の範囲にあり、より好ましくは2重量%から15重量%の範囲にあり、最も好ましくは3重量%から10重量%の範囲にある。本発明のOLEDで使用される薄層の光学的性質とドーピングにより生じるその変化の測定は、多くの技術的障害がある技術的課題であるが、著者らにより行われた偏光解析 (ellipsometric) による測定は、前記仮説を支持しているように思われる。リチウムのような強い還元性アルカリ金属、W
2(hpp)
4のような金属錯体、又は、WO 2007/107306に記載の、その場所(in situ)で生成される強い還元性ラジカルでドープされたETMと比較して、本発明の半導体材料を含むドープされた層は、特に高いドーパントの量で、比較的低い光学的吸収を示す。全く驚くべきことに、同じことは、本発明のドーパントとして有用な金属元素とイオン化電位が等しいにも関わらず、1以上のホスフィンオキシド基を含むETMで乏しい機能しか示さないことが見出された、Alのような典型的な3価の金属にも当てはまるように思われる。本発明の金属元素でドープされたホスフィンオキシドETMで観測される好ましい効果は、2価の金属と、ホスフィンオキシド基とのまだ知られていない相互作用、つまり、酸化状態IIで安定な化合物を形成できない金属ではあり得ない或いは非常に弱い相互作用に帰されなければならない可能性がかなりあるようである。
【0150】
正孔ブロッキング層及び電子ブロッキング層は、いつもの通り使用され得る。
【0151】
本発明の一態様では、ETLは二つの
区画(ゾーン
)を含む。第1の
区画はLELに近く、第2の
区画は陰極に近い。好ましい実施態様の一つでは、第1の
区画は第1のETMを含み、第2の
区画は第2のETMを含む。より好ましくは、第1のETMのLUMOの水準は、第2のETMのLUMOの水準と比較して、LELの基礎を形成するエミッタホストのLUMOの水準に近い。また好ましくは、第1の
区画はETMのみを含み、電気的にドープされていない。別の好ましい実施態様では、第2の
区画は、第1の電気的ドーパンントとして働く金属元素の他に、第2の電気的ドーパントも含む。より好ましくは、第2の電気的ドーパントは、1以上のアニオンと1以上のカチオンとを含む金属塩である。別の実施態様では、金属塩は第1の
区画と第2の
区画とに含まれている。さらに別の実施態様では、金属塩は、好ましくは第1の
区画に含まれ、しかし、金属元素は好ましくは第2の
区画に含まれる。好ましい実施態様では、第1の
区画及び第2の
区画は互いに隣接している。また、好ましくは、第1の
区画は、LELに隣接している。また、好ましくは、第1の
区画は陰極に隣接してもよい。
【0152】
任意に、第1の
区画及び第2の
区画の両者は、同一のETMを含む。
【0153】
異なる機能を有する他の層も含むことができ、デバイスの構造は、当業者によって知られているように適合され得る。例えば、金属、金属錯体又は金属塩からなる電子注入層(EIL)は、陰極とETLの間で使用することができる。
【0154】
<電荷発生層(CGL)>
OLEDは、反転接触として、又はスタック型OLEDにおける接触端子として、電極との結合に使用できるCGLを含み得る。CGLは、最も相違の大きい配置と名称とを持ち得る(例えばpn−接合、接触端子、トンネル接合(tunnel junction)等)。最良の例は、US 2009/0045728 A1、US 2010/0288362 A1に開示されたようなpn−接合である。金属層及び/又は絶縁層もまた使用することができる。
【0155】
<スタック型OLED>
OLEDがCGLで分離された2以上のLELを含むとき、OLEDはスタック型OLEDと呼ばれ、そうでない場合には単一素子OLEDと呼ばれる。二つの最近接のCGLの間にある、又は電極の一つと最近接のCGLとの間にある層のグループは、電気ルミネッセンス素子(ELU)と呼ばれる。従って、スタック型OLEDは、「陽極/ELU
1/{CGL
X/ELU
1+X}
X/陰極」として表すことができ、ここでXは、正の整数であり、各CGL
X又は各ELU
1+Xは、等しいか又は異なる。CGLはまた、US 2009/0009072 A1で開示されたような隣接する2層のELUにより形成され得る。さらにスタック型OLEDは、例えば、US 2009/0045728 A1、US 2010/0288362 A1、及びそれらの中に記載された参照文献に述べられている。
【0156】
<有機層の堆積>
本発明のディスプレイのいかなる有機半導体層も、真空熱蒸着(VTE)、有機気相堆積法、レーザー誘起熱移動(laser induced thermal transfer)、スピンコーティング、ブレードコーティング、スロットダイコーティング、インクジェットプリンティング等のような、既知の技術により堆積され得る。本発明のOLEDを調製する好ましい方法は、真空熱蒸着である。ポリマーである材料は、好ましくは、適切な溶媒の溶液からコーティング技術により加工される。
【0157】
好ましくは、ETLは蒸着により形成される。ETLに追加の材料を使用するとき、ETLは、電子輸送母材(ETM)と追加材料との同時蒸着によって形成されることが好ましい。追加の材料は、ETLに均一に混合されてもよい。本発明の一実施態様では、追加の材料は、ETLの中で濃度が変動するが、この濃度は層の重なりの厚さの方向に変化する。ETLが、下位層(sub-layers)から構築され、これらの下位層の全てではなく幾つかで、追加材料を含むことも予測される。
【0158】
<電子ドーピング>
最も信頼できる、同時に、効率的なOLEDは、電気的にドープされた層を含むOLEDである。一般的に、電気的ドーピングは、ドーパントを含まない、無添加の電荷輸送母材と比較して、ドープされた層の電気的性質、特に、導電性及び/又は注入性能の改良を意味する。酸化還元ドーピング、又は電荷移動ドーピングと通常呼ばれる狭い意味では、正孔輸送層は、適切なアクセプター物質により(p−ドーピング)、又は電子輸送層はドナー物質により(n−ドーピング)、それぞれドープされる。酸化還元ドーピングにより、有機固体における電荷キャリアの密度(及びそのために、導電性)は、かなり増加され得る。換言すれば、酸化還元ドーピングは、ドープされていない母材の電荷キャリアの密度と比較して、半導体母材の電荷キャリアの密度を増やす。有機発光ダイオードにおけるドープされた電荷キャリア輸送層の使用(アクセプター様分子の混合による正孔輸送層のp−ドーピング、ドナー様分子の混合による電子輸送層のn−ドーピング)は、例えば、US 2008/203406及びUS 5,093,698に記載されている。
【0159】
US 2008227979は、無機及び有機ドーパントによる有機輸送材料の電荷移動ドーピングを、詳細に開示している。基本的には、効率的な電子移動は、ドーパントから母材に起こり、母材のフェルミレベルを上昇する。p−ドーピングの場合には、ドーパントのLUMOエネルギー水準は、母材のHOMOエネルギー水準よりもさらに負(negative)であり、又はせいぜい多くても母材のHOMOエネルギー水準よりもわずかに正(positive)であり、好ましくは多くて0.5eVだけ正である。n−ドーピングの場合には、ドーパントのHOMOエネルギー水準は、好ましくは母材のLUMOエネルギー水準よりも正であり、又はせいぜい多くてもわずかにより負であり、好ましくは多くても0.5eVだけ低い。さらに、ドーパントから母材へのエネルギー移動のためのエネルギー水準の相違は、+0.3eVよりも小さい。
【0160】
既知の、酸化還元的にドープされた正孔輸送材料の典型的な例は、テトラフルオロテトラシアノキノンジメタン(F4TCNQ)(そのLUMO水準は、約−5.2eVである)でドープされた銅フタロシアニン(CuPc)(そのHOMO水準は約−5.2eVである);F4TCNQでドープされた亜鉛フタロシアニン(ZnPc)(HOMO=−5.2eV);2,2’−(ペルフルオロナフタレン−2,6−ジイリデン)ジマロノニトリル(PD1)でドープされたα-NPD;2,2’,2”−(シクロプロパン−1,2,3−トリイリデン)トリス(2−(p−シアノテトラフルオロフェニル)アセトニトリル)(PD2)でドープされたα−NPDである。本出願のデバイスの例における全てのp−ドーピングは、3mol%のPD2によって行われた。
【0161】
既知の、酸化還元的にドープされた電子輸送材料の典型的な例は、アクリジンオレンジベース(AOB)でドープされたフラーレンC60;ロイコクリスタルバイオレット(leuco crystal violet)でドープされたペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−二無水物(PTCDA);テトラキス(1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミド[1,2−a]ピリミジナト)ジタングステン(II)(W
2(hpp)
4)でドープされた2,9−ジ(フェナントレン−9−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン;3,6−ビス−(ジメチルアミノ)−アクリジンでドープされたナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA);ビス(エチレンジチオ)テトラチアフルバレン(BEDT−TTF)でドープされたNTCDAである。
【0162】
本発明においては、Fc
+/Fc標準に対しTHF中でのサイクリックボルタンメトリー(CV)により測定された高い負(negative)の酸化還元電位として表される、高い還元強度を有する古典的な酸化還元ドーパントが、必ずしも有機電子輸送母材での最良のn−ドーパントではない。具体的には、驚くべきことに、1以上のホスフィンオキシド基を有するETMにおいては、2価の金属は、その電気化学的酸化還元電位が、アルカリ金属やW
2(hpp)
4のような有機金属錯体と比較して相当に小さい負であるにも関わらず、アルカリ金属やW
2(hpp)
4のような有機金属錯体よりもn−ドーパントとして優れていることが見出された。さらに驚くべきことに、この2価の金属の有利な点は、Fc
+/Fcに対し約−2.25Vよりもさらに負である酸化還元電位を有するETMで、いっそう明らかになることが見出されたことである。
【0163】
酸化還元ドーパントに加え、ドープされた層を含むデバイスで、金属塩を含まない同じデバイスと比較して低い稼働電圧を得るときに、ある金属塩が電気的n−ドーピングのために代替的に使用できる。ときに「電気的にドープする添加物」と呼ばれるこれらの金属塩が、電子デバイスの電圧を低くすることに寄与する真の機構は未だ知られていない。稼働電圧に対する添加物の正の効果は、これらの添加物でドープされた層が非常に薄い場合にのみ達成されるので、添加物はドープされた層の導電性ではなく、隣接する層との間の境界面での電位的な障壁を変えると信じられている。通常、電気的にドープされた又は添加物がドープされた層は、50nmよりも薄く、好ましくは40nmよりも薄く、より好ましくは30nmよりも薄く、さらにより好ましくは20nmよりも薄く、最も好ましくは15nmよりも薄い。製造方法が十分に精密であるならば、好適にも、添加物がドープされた層は10nmよりも薄くすることができ、或いは5nmよりもさらに薄くすることができる。
【0164】
本発明において第2の電気的添加物として有効な金属塩の典型的な代表例は、1又は2の元素電荷を有する金属カチオンを含む塩である。好ましくは、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属の塩が使用される。塩のアニオンは、好ましくは十分な揮発性を有し、高度の真空条件下、特に電子輸送母材の堆積に適した温度及び圧力範囲に匹敵する温度及び圧力範囲において、その堆積を可能にする、塩を提供するアニオンである。
【0165】
そのようなアニオンの例は、8−ヒドロキシキノリノレートアニオンである。その金属塩は、例えば、電気的なドーピング添加物としてよく知られている、式D1で表されるリチウム8−ヒドロキシキノリノレート(LiQ)である。
【0166】
【化40】
【0167】
本発明の電子輸送母材における電気的ドーパントとして有用な別の種類の金属塩は、出願PCT/EP2012/074127(WO 2013/079678)に開示された、一般式(II)を有する化合物である。
【0168】
【化41】
【0169】
ここで、A
1はC
6−C
20アリーレンであり、A
2,A
3のそれぞれは独立してC
6−C
20アリールから選択され、ここでアリール又はアリーレンは非置換でもよく、又はCとHを含む基で置換されていてもよく、又はさらにLiO基で置換されていてもよい。ただし、アリール基又はアリーレン基の与えられたCの数は前記基にある全ての置換基も含む。用語「置換又は非置換アリーレン」は、置換又は非置換アレーンから生じる2価のラジカルを表し、隣接する構造部分(式(I)においては、OLi基とジアリールホスフィンオキシド基)は、アリーレン基の芳香族環に直接、結合している。本出願の実施例では、この種類のドーパントは化合物D2により表される。
【0170】
【化42】
【0171】
ここで、Phはフェニルである。
【0172】
本発明の電子輸送母材における電気的ドーパントとして有用なさらに別の種類の金属塩は、出願PCT/EP2012/074125(WO 2013/079676)に開示された、一般式(III)を有する化合物である。
【0173】
【化43】
【0174】
ここで、Mは金属イオンであり、A
4〜A
7のそれぞれは独立して、H、置換又は非置換C
6−C
20アリール、及び置換又は非置換C
2−C
20ヘテロアリールから選択され、nは金属イオンの原子価である。本出願の実施例では、この種類のドーパントは化合物D3により表される。
【0175】
【化44】
【0176】
〔本発明の有利な効果〕
本発明の電気的にドープされた半導体材料の好ましい効果は、電子輸送材料とドーパントとの本発明の組み合わせではなく、本技術分野で知られた母材とドーパントとの他の組み合わせを含む同等のデバイスと比較して示されている。使用されたデバイスは実施例に詳細に述べられている。
【0177】
第1のスクリーニング段階では、実施例1のデバイスにドーパントとして、5重量%のMgを含む32の母材化合物が試験された。ホスフィンオキシド母材を含み、化合物D0(−2.21V、標準条件下での使用)よりも高い、Fc
+/Fcに対する還元電位(THF中のサイクリックボルタンメトリーにより測定された)によって表されるLUMO水準を有する電子輸送母材は、デバイスの稼働電圧及び/又は量子効率の点で、C1及びC2よりも良い性能を示し、かつ、それらのLUMO水準にも関わらず、ホフィンオキシド基を欠く母材よりも非常に良い性能を示した。これら所見は、いくつかの他の2価の金属、即ち、Ca,Sr,Ba,Sm及びYbに関しても確認された。
【0178】
それにも関わらず、ホスフィンオキシド基と、分子のLUMOエネルギー水準に最も大きな寄与をするパイ電子の共役系との間のスペーサとして、1以上のフェニレン基を含む母材化合物に関しては、ドーピング金属が、20eVよりも低い第1イオン化電位及び第2イオン化電位の合計を有する場合には、サイクリックボルタンメトリーにより測定された母材化合物の酸化還元電位は、同一条件下で測定された4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンの酸化還元電位よりも負であることが好適である。
【0179】
さらに好ましくは、第1イオン化電位及び第2イオン化電位の合計が20eVよりも低い金属をドーピングする場合には、サイクリックボルタンメトリーで測定された母材化合物の酸化還元電位は、同一条件下で、(9−フェニル−9H−カルバゾール−2,7−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィンオキシド)(E1)の酸化還元電位よりも負である。
【0180】
これらの結果は表1にまとめられている。ここで、電圧と効率の相対的変化(両者共に10mA/cm
2の電流密度で測定された)は、標準として使用された先行技術のC2/Mg系に対して計算される。全体的な成績は、効率の相対的変化から相対的な電圧変化を差し引いて計算される。
【0181】
【表1】
【0182】
【0183】
研究の第2段階では、種々の金属を母材E1,E2及びC1のデバイス2として試験がなされた。二つの異なるETLの厚さ;40nm(U
1とU
3)及び80nm(U
2とU
4)、二つの異なるドーピング濃度;5重量%(U
1とU
2)及び25重量%(U
3とU
4)とし、全てにおいて電流密度は10mA/cm
2である。
【0184】
表2にまとめられている結果は、最も反応性の低いアルカリ金属(Li)と比較して相当に低い反応性及び高い空気安定性にも関わらず、酸化状態IIで安定な化合物を形成することができる金属が、ホスフィンオキシド母材においてn−ドーピングに特に適しているという驚くべき発見に導いた。試験された2価の金属のうち、第1イオン化電位及び第2イオン化電位の合計が非常に高い亜鉛のみがn−ドーパントとして機能せず、他方、典型的な酸化状態IIIを有するアルミニウムは、ドープされたETLに実行不可能なほどの高い光吸収を当該ETLに与える高い25重量%濃度で存在する場合にのみ、適切に低い稼働電圧を与えた。「光学的密度」を表す「OD」として割り当てられた透過率は、低いドーピング濃度での測定は再現性が悪かったため、表2では25重量%のドーピング濃度(OD
3は40nmの層の厚さに対して、OD
4は80nmの層の厚さに対して)のみに対して示している。
【0185】
典型的な3価のビスマスは、全く驚くべきことに、少なくともE1において、良好なドーピング作用を示した例えばマンガンと、そのイオン化電位が殆ど異ならないにも関わらず、n−ドーパントとして完全に機能しなかった。
【0186】
U
1−U
2及びU
3−U
4の相違による低い値は、高い導電性を有するドープされた材料に帰すことが可能である(デバイスの電圧は、ドープされた層の厚さに弱く依存するに過ぎない)。
【0187】
【表2】
【0188】
【0189】
C1のような、深いLUMOを有する母材においては、C1に基づく多くのドープされた半導体材料の良好な導電性にも関わらず、稼働電圧は、本発明の範囲にあるLUMO水準を有する母材を含むデバイスよりも驚くほど高いことが多い。明らかに、半導体材料の良好な導電性は、それを含むデバイスの低い稼働電圧には十分な条件ではない。この発見に基づき、本発明のドープされた半導体材料は、適切な導電性に加えて、ドープされた層から隣接する層への効率的な電荷の注入も可能にしていると考えられる。
【0190】
第3の研究段階では、観測された効果は、他の(alternative)エミッタシステムを含む実施例3のOLEDにおいて確認され、さらに実施例4〜7に記載された発明のさらなる実施態様が実施された。表3にまとめられた達成された結果は、より深いLUMO及び金属錯体化構造を含む特定の構造のために、Mgによりドープされ得ると考えられた先行技術の(C1のような)ホスフィンオキシド母材と比較して、これらの母材が本発明で使用される比較的弱い還元性金属でドープすることがより困難であるにも関わらず、高いLUMO水準を有するホスフィンオキシドETL母材の驚くべき優越性を確認した。
【0191】
この一連の実験は、他のエミッタを使う場合にも、本発明のE1とE2のような好ましい母材化合物は、発明の概要に記載された範囲内にない他のホスフィンオキシド母材化合物よりも良好に機能し、ホスフィンオキシド基を欠く母材と比較してずっと良好に機能することを示す。
【0192】
結果は、発明の概要で定められた母材と組み合わされる場合に、十分に空気に安定な金属ですら、良好な蒸着性のような、さらに技術的に有利な特徴を持つ場合に、本技術分野で入手可能なデバイスと十分同じ程度に、或いはそれよりも良く機能する、電気的にドープされた半導体材料及びデバイスを与えることができることを示す。
【0193】
【表3】
【0194】
【化45】
【実施例】
【0195】
補助的な材料
【0196】
【化46】
【0197】
4,4’,5,5’−テトラシクロヘキシル−1,1’,2,2’,3,3’−ヘキサメチル−2,2’,3,3’−テトラヒドロ−1H,1’H−ビイミダゾール、CAS 1253941−73−9,F1;
【0198】
【化47】
【0199】
2,7−ジ(ナフタレン−2−イル)スピロ[フルオレン−9,9’−キサンテン]、LUMO(Fc
+/Fcに対するCV)−2.63V,WO 2013/149958,F2;
【0200】
【化48】
【0201】
N3,N3’−ジ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−N3,N3’−ジメシチル−[1,1’−ビフェニル]−3,3’−ジアミン、WO 2014/060526,F3;
【0202】
【化49】
【0203】
ビフェニル−4−イル(9,9−ジフェニル−9H−フルオレン−2−イル)−[4−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)フェニル]アミン、CAS 1242056−42−3,F4;
【0204】
【化50】
【0205】
1−(4−(10−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)アントラセン−9−イル)フェニル)−2−エチル−1H−ベンゾ[b]イミダゾール、CAS 1254961−38−0,F5。
【0206】
<補助的な手順>
(サイクリックボルタンメトリー)
特定の化合物に対して与えられる酸化還元電位は、アルゴンで脱気した、試験される物質の0.1M乾燥THF溶液に、0.1Mテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート支持電解質を添加して、白金作用電極の間で、かつ、塩化銀で覆われた銀ワイヤーからなる仮標準電極Ag/AgClを測定溶液に直接浸して、スキャン速度100mV/sで、アルゴン雰囲気下で測定した。第1の測定は、作用電極に設定した最も広い電位幅で行い、その範囲を続く測定で適切に調節した。最後の3回の測定は、標準としてフェロセン(0.1M濃度)を添加して行った。標準Fc
+/Fc酸化還元対に関して観測された陰極及び陽極の電位の平均を差し引いた後の、試験された化合物の陰極及び陽極のピークに対応する電位の平均は、最終的に先に示した値を与えた。提示した標準化合物と同様に全ての試験されたホスフィンオキシド化合物は、十分に確定された可逆的な電気化学的挙動を示した。
【0207】
(合成例)
ホスフィンオキシドETL母材化合物の合成は、先に掲げた特定の化合物に関して引用され、これらの化合物に関して使用される典型的な多段階の方法を述べた多くの刊行物によく記載されている。化合物E6は、Bull. Chem. Soc. Jpn., 76, 1233-1244 (2003) に従い、特に化合物E2のアニオン転移により合成した。
【0208】
新しい化合物に関しては、しかし、化合物E5及びE8に関して具体的に以下に例示されているような、典型的な手順を用いた。全ての合成段階は、アルゴン雰囲気下で行った。市販の材料は、それ以上の精製を行わずに使用した。溶媒は、適切な手段により乾燥させ、アルゴンで飽和して脱気した。
【0209】
<合成例1>
[1,1’:4’,1”−テルフェニル]−3,5−ジイルビス−ジフェニルホスフィンオキシド、E5
ステップ1: 3,5−ジブロモ−1,1’:4’,1”−テルフェニル
【0210】
【化51】
【0211】
全ての成分〔10.00g(1.0eq,50.50mmol)の[1,1’−ビフェニル]−4−イル−ホウ酸、23.85g(1.5eq,75.75mmol)の1,3,5−トリブロモベンゼン、1.17g(2.0mol%,1.01mmol)のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、50mLの水に含まれる10.70g(2eq,101mmol)の炭酸ナトリウム、100mLのエタノール及び310mLのトルエン〕を互いに混合し、21時間還流しながら撹拌した。反応混合物を室温にまで冷却し、200mLのトルエンで希釈した(3層が現れた)。水層を100mLのトルエンで抽出し、合わせた有機層を200mLの水で洗浄した後、乾燥し、乾固するまで濃縮した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO
2、ヘキサン/DCM 4:1 v/v)により精製した。合わされたフラクションを濃縮し、ヘキサン中で懸濁して濾別し、9.4gの白色に輝く固体を得た(収率48%、HPLC純度99.79%)。
【0212】
ステップ2: [1,1’:4’,1”−テルフェニル]−3,5−ジイルビス−ジフェニルホスフィンオキシド
【0213】
【化52】
【0214】
全ての成分〔前ステップで得られた5.00g(1.0eq,12.9mmol)の3,5−ジブロモ−1,1’:4’,1”−テルフェニル、12.0g(5.0eq,64.4mmol)のジフェニルホスフィン、114mg(5mol%,6.44×10
-4mol)の塩化パラジウム(II)、3.79g(3.0eq,38.6mmol)の酢酸カリウム及び100mLのN,N−ジメチルホルムアミド〕を互いに混合し、21時間還流しながら撹拌した。次に反応混合物を室温にまで冷却し、水(100mL)を加え、混合物を30分間撹拌した後、濾過した。固体をDCM(100mL)に再溶解し、H
2O
2(30重量%水溶液)を滴下した後、この溶液を室温で一晩撹拌した。次に、有機層をデカンテーション(decanted)して、水(100mL)で2回洗浄し、MgSO
4を用いて乾燥させ、乾固するまで濃縮した。得られた油を、固体が形成されるように、熱MeOH(100mL)中で粉末化した。濾過後直ちに、得られた固体をMeOHで洗浄し、乾燥して、9.7gの粗生成物を得た。この粗生成物をDCMに再溶解し、短いシリカカラムを用いたクロマトグラフを行い、酢酸エチルで溶出した。溶出物を乾固するまで濃縮した後、得られた固体を熱MeOH(100mL)中で粉末化し、続いて熱酢酸エチル(50mL)中で粉末化した。乾燥後、所望の化合物を70%の収率(5.71g)で得た。
【0215】
純粋な昇華された化合物はアモルファスであり、DSC曲線では検出可能な融点が無く、86℃でガラス転移が生じ、490℃で分解を始めた。
【0216】
<合成例2>
(9,9−ジヘキシル−9H−フルオレン−2,7−ジイル)ビス−ジフェニルホスフィンオキシド、E8
【0217】
【化53】
【0218】
2,7−ジブロモ−9,9−ジヘキシルフルオレン(5.00g,1.0eq,10.2mmol)をフラスコに入れ、アルゴンで脱気した。次に脱水THF(70mL)を加え、混合物を−78℃にまで冷却し、9.7mLのn−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液、2.4eq,24.4mmol)を滴下した。得られた溶液を−78℃で1時間撹拌し、次いで、−50℃まで次第に温めた。純粋なクロロジフェニルホスフィン(4.0mL,2.2eq,22.4mmol)をゆっくりと加えた後、混合物を室温になるまで一晩、撹拌下で放置した。MeOH(20mL)を加えて反応を止めた後、溶液を乾固するまで濃縮した。固体をDCM(50mL)に再溶解し、H
2O
2(30重量%水溶液、15mL)を滴下した後、この混合物を撹拌下で放置した。24時間後、有機層を分離して、続いて水及び食塩水で洗浄し、MgSO
4を用いて乾燥させ、乾固するまで濃縮した。クロマトグラフィーによる精製(シリカ、ヘキサン/酢酸エチル 1:1 v/vから純酢酸エチルへのグラジエントをかけた溶出)によって、所望の化合物を34%の収率(2.51g)で得た。この物質をさらに、真空下、昇華により精製した。
【0219】
純粋な昇華された化合物はアモルファスであり、DSC曲線では検出可能なピークが無く、485℃で分解した。
【0220】
(デバイスの実施例)
<実施例1(青いOLED)>
第1の青色発光デバイスを、以下のようにして作製した。即ち、PD2でドープされたHTM2の40nmの層(母材とドーパントとの重量比は97:3重量%)をITO−ガラス基板に堆積し、続いてHTM1の90nmのドープされていない層を堆積した。次いで、NUBD370(Sun Fine Chemicals)でドープされたABH113(Sun Fine Chemicals)(97:3重量%)の青い蛍光発光層を20nmの厚さで堆積した。試験される本発明の化合物又は比較化合物の36nmの層を、所望量の金属元素(通常、5重量%のMg)と共に、ETLとして発光層に堆積した。次いで、100nmの厚さのアルミニウム層を陰極として堆積した。
【0221】
10mA/cm
2の電流密度で観測された電圧と量子効率とを表1に示す。
【0222】
<実施例2(有機ダイオード)>
同様なデバイスを実施例1のようにして作製した。実施例1との相違は、エミッタが除かれ、2種の異なる厚さのETL(40nmと80nm)と、2種の異なるドーパント濃度(5重量%と25重量%)とで母材−ドーパントの各組み合わせが試験された。10mA/cm
2の電流密度で観測された電圧と、測定された場合にはデバイスの光学的吸収とを、表2に示した。
【0223】
<実施例3(青色又は白色OLED)>
同様のデバイスを実施例1のようにして作製した。実施例1との相違は、種々のエミッタシステムを備えるETLにおいて、本発明の半導体材料と、比較例の半導体材料とを組み合わせた種々の組成があることである。結果を実施例1と同様に評価し、表3にまとめた。
【0224】
<実施例4(青いOLED)>
実施例1のデバイスにおけるAl陰極が、Mg又はBaでドープされたETLと組み合わされた、スパッタされた酸化インジウムスズ(ITO)陰極によって置き換えられている。結果は、本発明の技術的解決が、透明な半導体酸化物で作製された陰極を備えた、トップ発光のOLEDにも適用可能であることを示した。
【0225】
<実施例5(透明なOLED)>
実施例1のような、p−サイド(ITO陽極を備えた基板、HTL、EBL)と、実施例4のような、スパッタされた100nmの厚さのITO陰極とを有する透明なデバイスにおいて、青い発光ポリマーを含む高分子の発光層(Cambridge Display Technologyにより供給)の試験に成功した。表4に示した結果(デバイスのn−サイド組成と共に、全てのケースにおいて、F2からなる20nmの厚さのHBLと、重量比7:3のE2及びD3からなり、表に記載された厚さを有するETL1とを含む)は、本発明のETLが、約−2.8V(Fc
+/Fc標準に対するこれらの酸化還元電位に換算して)の非常に高いLUMO水準を有する高分子のLELにすら適用可能であることを示している。金属でドープされたETLが無い場合には、純粋な金属で作製されたEILがITO電極の下に堆積されているときでも、デバイスは(10mA/cm
2の電流密度で)非常に高い電圧を有した。
【0226】
【表4】
【0227】
<実施例6(線形蒸発源を用いた金属堆積)>
線形蒸発源におけるMgの蒸着挙動を試験した。Mgをスピッティング(spitting)させずに、1nm/s程の高い速度で線形源から堆積させることができ、他方、ポイント(point)蒸発源が、同じ堆積速度で、Mg粒子を吐出(spit)することが実証された。
【0228】
<実施例7(同一のETLに金属+金属塩を電気的にドーピングする)>
組み合わされた2成分ドーピングシステムであるLiQ+Mg又はW
2(hpp)
4と組み合わされた母材を含む混合ETLは、塩+金属の組み合わせが優れていることを示した。
【0229】
<実施例8(タンデム型OLED)>
ITO基板上に、以下の層を真空熱蒸着によって堆積した。即ち、8重量%のPD2でドープされた92重量%の補助的な材料F4からなる10nmの厚さのHTL、純粋なF4の135nmの厚さの層、NUBD370(Sun Fine Chemicals)でドープされたABH113(Sun Fine Chemicals)(97:3重量%)からなる25nmの厚さの青い蛍光発光層、ABH036(Sun Fine Chemicals)からなる20nmの厚さの層、5重量%のMgでドープされた95重量%の本発明の化合物E12からなる10nmの厚さのCGL、10重量%のPD2でドープされた90重量%の補助的な材料F4からなる10nmの厚さのHTL、純粋なF4の30nmの厚さ層、純粋なF3の15nmの厚さ層、30nmの厚さの独自の(proprietary)蛍光性の(phosphorescent)黄色発光層、補助的な材料F5からなる35nmの厚さのETL、1nmの厚さのLiF層、及びアルミニウム陰極を堆積した。このダイオードは6.81Vで稼働し、24.4%のEQEを有した。
【0230】
<実施例9(タンデム型白色OLED)>
実施例8を、Mgの代わりにYbを用いたCGLで繰り返した。このダイオードは6.80Vで稼働し、23.9%のEQEを有した。
【0231】
<実施例10(タンデム型白色OLED)>
実施例9を、化合物E12の代わりに化合物E6を用いたCGLで繰り返した。このダイオードは6.71Vで稼働し、23.7%のEQEを有した。
【0232】
これまでに説明し、請求項及び添付した図面で開示された特徴は、それぞれ又は組み合わせの両方の場合において、本発明を、様々な態様で実現するために重要であろう。本発明に関連する物理化学的性質の標準値(第1イオン化電位及び第2イオン化電位、標準沸点、標準酸化還元電位)を、表5にまとめた。
【0233】
【表5】
【0234】
1 Yiming Zhang, Julian R. G. Evans, Shoufeng Yang: Corrected Values for Boiling Points and Enthalpies of Vaporization of Elements in Handbooks. From: Journal of Chemical & Engineering Data. 56, 2011, p.328-337; the values fit with values given in articles for individual elements in current German version of Wikipedia.
2 http://en.wikipedia.org/wiki/Ionization_energies_of_the_elements_%28data_page%29
【符号の説明】
【0235】
CGL 電荷発生層
CV サイクリックボルタンメトリー
DCM ジクロロメタン
DSC 示差走査熱量計
EIL 電子注入層
EQE エレクトロルミネッセンスの外部量子効率
ETL 電子輸送層
ETM 電子輸送母材
EtOAc 酢酸エチル
Fc
+/Fc フェロセニウム/フェロセン標準系
h 時間
HIL 正孔注入層
HOMO 最高被占軌道
HTL 正孔輸送層
HTM 正孔輸送母材
ITO 酸化インジウムスズ
LUMO 最低空軌道
LEL 発光層
LiQ リチウム8−ヒドロキシキノリノレート
MeOH メタノール
mol% モルパーセント
OLED 有機発光ダイオード
QA 品質保証
RT 室温
THF テトラヒドロフラン
UV 紫外線(光)
vol% 体積パーセント
v/v 体積/体積(比)
VTE 真空熱蒸着
wt% 重量(質量)パーセント