特許第6832706号(P6832706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832706
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】固形医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4709 20060101AFI20210215BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   A61K31/4709
   A61K9/20
   A61P31/04
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-555090(P2016-555090)
(86)(22)【出願日】2015年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2015005344
(87)【国際公開番号】WO2016063544
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2018年8月23日
【審判番号】不服2020-2771(P2020-2771/J1)
【審判請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-216515(P2014-216515)
(32)【優先日】2014年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩
(72)【発明者】
【氏名】花田 真隆
【合議体】
【審判長】 井上 典之
【審判官】 前田 佳与子
【審判官】 小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/069297(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80, A61K9/00-9/72, A61P1/00-43/00
CAPLUS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤に含有される7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の溶出遅延抑制方法であって、
前記7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩として、CuKα放射を用いた粉末X線回折において、回折角2θとして、9.4度、および17.7度(それぞれ±0.2度)にピークを有する、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶を前記錠剤に含有させることを含む、溶出遅延抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩を含む固形医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩として、2種類の結晶(A形結晶とB形結晶)が知られている(特許文献1)
【0003】
医薬有効成分の中には、一定の条件に賦されるとゲル化するものが知られている(特許文献2〜8、非特許文献1〜2)。通常、固形製剤を経口投与すると、胃腸管内で速やかに崩壊し、医薬有効成分が溶出して体内に吸収される。しかしながら、ゲル化する医薬有効成分を含有する固形製剤を投与した場合には、医薬有効成分のゲル化により、固形製剤の崩壊遅延がおき、医薬有効成分の溶出が遅れるという問題が生じる。
【0004】
ゲル化による崩壊遅延を改善する従来技術としては、シクロデキストリンを添加し、ゲル形成を抑制またはゲル層の水透過性を確保する方法(非特許文献1〜2)、崩壊剤を添加する方法(非特許文献1)、ケイ酸類を加える方法(特許文献2〜4)、薬物を微小化しキャリアに吸着させる方法(特許文献5)、フィルム被膜を迅速に破壊させ、ゲル化が生じる前に薬物含有芯を崩壊させる方法(特許文献6)、酸または塩基性添加剤を使用する方法(特許文献7)、薬物をポリマー中に分散させる等の、分子分散の形態をとらせる方法(特許文献8)、糖アルコールを添加する方法(特許文献9〜11)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/069297号
【特許文献2】特開2006−298811号公報
【特許文献3】国際公開第2006/030826号
【特許文献4】特表2002−505290号公報
【特許文献5】特表2004−522782号公報
【特許文献6】特開昭62−123118号公報
【特許文献7】国際公開第2006/059716号
【特許文献8】特表2002−530338号公報
【特許文献9】国際公開第2013/145749号
【特許文献10】国際公開第2013/1457450号
【特許文献11】特開2013−43834号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】薬剤学 Vol.55,No.3(1995),175−182.
【非特許文献2】Pharm Tech Japan,vol.17,No4(2001)87−100(619−632).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の放出遅延を抑制可能な、新規な固形医薬組成物およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩を含有する固形医薬組成物において、粉末X線回折において、回折角2θとして、9.4度、および17.7度(それぞれ±0.2度)にピークを有する、当該塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)を用いることで放出遅延を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕CuKα放射を用いた粉末X線回折において、回折角2θとして、9.4度、および17.7度(それぞれ±0.2度)にピークを有する、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶を含有し、圧縮成形して得られる固形医薬組成物。
〔2〕さらに崩壊剤を含有する、〔1〕に記載の固形医薬組成物。
〔3〕前記結晶を含む造粒物と前記崩壊剤とを含有する〔2〕に記載の固形医薬組成物。
〔4〕〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載の固形医薬組成物の製造方法であって、
前記固形医薬組成物が錠剤であり、
前記結晶を含有する圧縮成形用原料を取得し、
得られた前記圧縮成形用原料を圧縮成形することを含み、
第16改正日本薬局方溶出試験法に準じて溶出試験を行った場合、溶出試験開始後30分で第一液への溶出率が60%以上である、前記固形医薬組成物の製造方法。
〔5〕前記固形医薬組成物が〔2〕または〔3〕に記載の前記固形医薬組成物であり、
前記結晶と前記崩壊剤とを混合して前記圧縮成形用原料を取得し、得られた前記圧縮成形用原料を直接圧縮成形する〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕前記固形医薬組成物が〔2〕または〔3〕に記載の前記固形医薬組成物であり、
前記製造方法が、前記結晶を含む造粒物を取得し、
得られた前記造粒物と崩壊剤とを混合して前記圧縮成形用原料を取得することを含む、〔4〕に記載の製造方法。
〔7〕錠剤に含有される7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の溶出遅延抑制方法であって、
前記7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩として、CuKα放射を用いた粉末X線回折において、回折角2θとして、9.4度、および17.7度(それぞれ±0.2度)にピークを有する、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶を前記錠剤に含有させることを含む、溶出遅延抑制方法。
〔8〕CuKα放射を用いた粉末X線回折において、回折角2θとして、9.4度、および17.7度(それぞれ±0.2度)にピークを有する、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶を含む粒状体、および
崩壊剤を含有する固形医薬組成物。
〔9〕前記崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである、〔2〕または〔3〕に記載の固形医薬組成物。
〔10〕前記崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである、〔5〕または〔6〕に記載の製造方法。
〔11〕前記崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである、〔8〕に記載の固形医薬組成物。
〔12〕直接打錠法により製造される、〔1〕または〔2〕に記載の固形医薬組成物。
〔13〕乾式造粒法により製造される、〔1〕から〔3〕のいずれか1つに記載の固形医薬組成物。
〔14〕前記造粒物を乾式造粒法により製造することにより取得する〔6〕に記載の製造方法。
〔15〕前記造粒物が乾式造粒法により製造される〔8〕に記載の固形医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の放出遅延を抑制できる新規な固形医薬組成物およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の無水物の結晶(A形結晶)の粉末X線回折パターンである。
図2図1に示す回折パターンにおける2θ=4.9度のピークの強度を100とした場合の相対強度0.7以上のピークについて記載する表である。
図3】7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)の粉末X線回折パターンである。
図4図3に示す回折パターンにおける2θ=4.8度のピークの強度を100とした場合の相対強度0.7以上のピークについて記載する表である。
図5】実施例1および比較例1で得られた製造直後の錠剤の溶出試験の結果である(溶出液:第一液)。
図6】実施例2および比較例2で得られた製造直後の錠剤の溶出試験の結果である(溶出液:第一液)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳細に説明する。
【0013】
本実施形態は、CuKα放射を用いた粉末X線回折において、回折角2θとして、9.4度、および17.7度(それぞれ±0.2度)にピークを有する、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(以下、B形結晶とも称す)を含有する固形医薬組成物に関する。
【0014】
7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩を含有する固形医薬組成物は、溶出遅延を生じやすい。ここで、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩には、その1つの形態として、A形結晶(無水和物)とB形結晶(水和物)が知られている。一般に、無水和物は水和物に比べ溶出が早いことが知られているが、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩においては、水和物であるB形結晶を用いた方が、優れた溶出を発揮することが判明した。すなわち、CuKα放射を用いた粉末X線回折において、回折角2θとして、4.8度、9.4度、10.3度、13.6度、14.2度、17.7度、21.5度、22.8度、25.8度、および27.0度にピークが見られるB形結晶を固形医薬組成物に含有させた場合には、溶出遅延を抑制することが可能である。B形結晶の特徴的なピークとしては、回折角2θとして、4.8度、9.4度、17.7度、22.8度、25.8度および27.0度に確認できるピークが挙げられ、特に特徴的なものは、9.4度および17.7度に確認できるピークが挙げられる。
ここで粉末X線回折は、例えば、理学電機製RINT2200を使用して行なうことができる。銅放射線を放射線として用い(CuKα放射)、測定条件は、管電流36mA、管電圧40kV、発散スリット1度、散乱スリット1度、受光スリット0.15mm、走査範囲1〜40度(2θ)、走査速度毎分2度(2θ)とすることができる。
【0015】
B形結晶を配合している本実施形態の固形医薬組成物は、他の上述の化合物の塩酸塩を含有する場合と比較して溶出率が高い。例えば、好ましい態様において、第16改正日本薬局方溶出試験法に準じて溶出試験を行うと、溶出試験開始30分後における第一液への溶出率は60%以上である。また、本実施形態の固形医薬組成物において、より好ましくは溶出試験開始30分後における第一液への溶出率が70%以上であり、さらにより好ましくは75%以上が挙げられる。
【0016】
本明細書において、固形医薬組成物とは、固体である含有成分により構成される医薬組成物をいう。本実施形態の固形医薬組成物は例えば経口用組成物とすることができる。具体的には、本実施形態の固形医薬組成物は、錠剤、顆粒剤(細粒剤)、カプセル剤、散剤などの経口用組成物とすることができ、好ましくは錠剤とすることができる。本実施形態の固形医薬組成物に含まれる各成分の割合は特に限定されず、剤形等に応じて当業者が適宜設定することができる。
【0017】
例えば本実施形態の固形医薬組成物が錠剤として調製される場合、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)の好ましい含有量としては、素錠の全体重量中10質量%以上70質量%以下とすることができる。さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下、特に好ましくは30質量%以上50質量%以下、より一層好ましくは35質量%以上45質量%以下が挙げられる。
また、本明細書において素錠とは、原料を打錠したものであり、コーティングを施す前の錠剤を意味する。
【0018】
本実施形態の固形医薬組成物については、上述のB形結晶を含む圧縮成形用原料を圧縮成形することを含んで製造することができる。また、本実施形態の固形医薬組成物は、通常の方法に従って製造することができ、製造方法は当業者が適宜選択することができる。当該通常の方法としては、造粒物を製造する工程を含む方法や直接打錠法などが挙げられる。本実施形態の固形医薬組成物が造粒物を製造する工程を経て製造される場合、当該造粒は乾式造粒法または湿式造粒法に従って行うことができる。本明細書において、造粒物(粒状体)とは、固体である構成成分を固めて得られる粒状の成形体をいう。
【0019】
本明細書中に記載されている「乾式造粒法」とは、原料粉体を圧縮成形した後に適当な大きさの粒子に破砕分級し、造粒物を得る方法である。乾式造粒法は水を用いないため、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)の他結晶への転移または非晶質への転移が起きず、放出遅延を抑制するという点で好ましい。
【0020】
本明細書中に記載されている「湿式造粒法」とは、水または結合剤溶液を、原料粉体に滴下または噴霧し、これを造粒して得られた湿潤状態の造粒物を乾燥する方法である。湿式造粒法として、押出し造粒法、流動層造粒法、転動造粒法、解砕造粒法、噴霧乾燥造粒法、攪拌造粒法が挙げられる。湿式造粒法を用いる場合は、水以外の有機溶媒を用いて造粒を行うことにより、低い温度で乾燥が可能であり、B形結晶から他結晶または非晶質への結晶転移を抑制することができる。このため、水以外の有機溶媒を用いて造粒を行うことが好ましい。
【0021】
湿式造粒法を用いる場合は、B形結晶の一部が結晶転移を起こし、溶出率が低下してしまうことがある。そのため、得られた造粒物と崩壊剤とを混合し、得られる混合物を打錠することが好ましい。
このようにして製造される錠剤は、造粒物(粒状体)と、崩壊剤を含有しており、崩壊剤は造粒物の周囲に配置されている。崩壊剤は、錠剤内部への速やかな水の浸透を促進するため、造粒物に含まれるB形結晶に水が到達しやすくなり、溶出率を向上させることが可能である。
なお、造粒物(粒状体)には、B形結晶に加えて、崩壊剤が含有されていてもよく、造粒物の外には、崩壊剤に加えて、他の添加物が含有されていてもよい。また、本実施形態の固形医薬組成物に複数の造粒物(粒状体)が含まれている場合、素錠表面にその一部が露出していてもよい。
【0022】
また、造粒工程を経ずに直接打錠法を用いて本実施形態の固形医薬組成物を製造することも可能である。「直接打錠法」とは、活性成分を含む原料に賦形剤等の必要な添加剤を加えた混合物を、造粒処理を行うことなく圧縮して成形し(直接圧縮成形)、素錠を得る方法である。直接打錠法は乾式造粒法と同様に水を用いないため、B形結晶から他結晶または非晶質への転移が起きにくく、放出遅延を抑制するという点で好ましい。
【0023】
本実施形態の固形医薬組成物においては、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)とともに、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等の添加剤が含まれるようにしてもよい。使用できる添加物は医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを適宜使用できる。
【0024】
本明細書中に記載されている賦形剤には、「セルロース系賦形剤」と「非セルロース系賦形剤」が含まれる。
本明細書中に記載されている「セルロース系賦形剤」とは、セルロースまたはその誘導体を構成成分とする賦形剤である。セルロース系賦形剤として、例えば結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。このうち、本実施形態の固形医薬組成物に含有され得るセルロース系賦形剤としては、錠剤に成形した際に高い硬度が出せるという点で、結晶セルロースが好ましい。
本明細書中に記載されている「非セルロース系賦形剤」とは、構造中にセルロース骨格を有しない賦形剤であり、例えばブドウ糖、果糖(フルクトース)等の単糖類、乳糖(ラクトース)、ショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)、トレハロース、マルトース等の二糖類、トウモロコシデンプン等のデンプン類、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等の単糖アルコール若しくはイソマル、マルチトール、ラクチトール等の二糖アルコール等の糖アルコール、等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の固形医薬組成物には、上述の賦形剤のうち1種または2種以上が含有されていてもよく、セルロース系賦形剤と非セルロース系賦形剤とを組み合わせて含有してもよい。例えば結晶セルロースと乳糖を併用して用いてもよい。
【0026】
賦形剤の好ましい含有量は以下の通りである。
1)本実施形態の固形医薬組成物が造粒物を含んでおり当該造粒物とその他の成分との混合物とを圧縮成形することにより得られ、賦形剤が造粒物外に存在する場合
造粒物外の賦形剤の含有量は、造粒物1質量部に対し0.1質量部以上0.8質量部以下が好ましい。さらに好ましくは0.2質量部以上0.7質量部以下、特に好ましくは0.4質量部以上0.6質量部以下が挙げられる。
2)本実施形態の固形医薬組成物が造粒物を含んでおり当該造粒物とその他の成分との混合物とを圧縮成形することにより得られ、賦形剤が造粒物内に存在する場合
造粒物中の賦形剤の含有量は、造粒物の全体量中5質量%以上50質量%以下が好ましい。さらに好ましくは10質量%以上40質量%以下、特に好ましくは15質量%以上30質量%以下、より一層好ましくは20質量%以上30質量%以下が挙げられる。
3)直接打錠法を用いる場合
直接打錠法を用いる場合、賦形剤の含有量は、固形医薬組成物全体量中(固形医薬組成物にコーティングが賦されている場合は素錠全体量中)10質量%以上80質量%以下が好ましい。さらに好ましくは20質量%以上70質量%以下、特に好ましくは30質量%以上60質量%以下、より一層好ましくは40質量%以上50質量%以下が挙げられる。
【0027】
崩壊剤は、水中または胃液中で固形医薬組成物に崩壊性を与える添加剤であり、膨潤性崩壊剤と導水性崩壊剤に分類される。硬度が高く、摩損度の低い組成物が得られるという点で、膨潤性崩壊剤を用いることが好ましい。
【0028】
膨潤性崩壊剤は、水を吸収し膨潤することにより、経口固形製剤を崩壊に導く崩壊剤であり、例えば、ヒドロキシプロピルスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンが挙げられ、より好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0029】
導水性崩壊剤は、毛管現象により経口固形製剤を崩壊に導く崩壊剤である。導水性崩壊剤が空隙を介して吸水することで、経口固形製剤内の粒子間結合力を低下させ、経口固形製剤は崩壊する。例えば、カルメロース、カルメロースナトリウム、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α化デンプン、部分α化デンプン、結晶セルロースが挙げられる。より好ましくは、カルメロースが挙げられる。
【0030】
本実施形態の固形医薬品組成物においては、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが含有されることが最も好ましい。
本明細書において、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとは、ヒドロキシプロポキシル基の含有量が5.0〜16.0重量%のヒドロキシプロピルセルロースをいう。なお、ヒドロキシプロポキシル基の含有量は、第十六改正日本薬局方の「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」の項に記載された方法により定量することができる。
【0031】
固形医薬組成物の崩壊性を高めるという点で、固形医薬組成物は、崩壊剤と7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)を含有する造粒物との混合物であることが好ましい。また、当該混合物において、造粒物は実質的に均一な状態で分散していることがより好ましい。
崩壊剤の含有量は、固形医薬組成物全体量中(固形医薬組成物にコーティングが賦されている場合は素錠全体量中)2質量%以上30質量%以下が好ましい。さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下、特に好ましくは5質量%以上15質量%以下、より一層好ましくは8質量%以上12質量%以下が挙げられる。
【0032】
結合剤は、医薬品粉末の混合物に結合力を与え、圧縮成形を容易にするために用いられる添加剤であり、例えばデンプン(溶性)、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、ポリビニルアルコール、ヒプロメロース、デキストリン、ポビドンが挙げられる。より好ましくはヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0033】
結合剤の含有量は、固形医薬組成物全体量中(固形医薬組成物にコーティングが賦されている場合は素錠全体量中)0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。さらに好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下、より一層好ましくは1.5質量%以上2.5質量%以下が挙げられる。
結合剤の含有量は、造粒物の全体量中0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。さらに好ましくは1.0質量%以上7.0質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以上5.0質量%以下、より一層好ましくは3.0質量%以上4.0質量%以下が挙げられる。
【0034】
以下に本実施形態の固形医薬組成物を錠剤として製造する場合の製造方法の一例を示して、本実施形態の固形医薬組成物の内容を更に詳細に説明するが、これらにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0035】
(一般的製造方法1)
1. 以下に示すA成分を、場合によりB成分(賦形剤)またはC成分(崩壊剤)と混合する。混合により得られた粉末には、さらにD成分(滑沢剤)を加えてもよい。
A成分:7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)
B成分:結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、および低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系賦形剤、ブドウ糖、果糖(フルクトース)等の単糖類、乳糖(ラクトース)、ショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)、トレハロース、マルトース等の二糖類、トウモロコシデンプン等のデンプン類、および、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等の単糖アルコール若しくはイソマル、マルチトール、ラクチトール等の二糖アルコール等の糖アルコールからなる群から選ばれる1種または2種以上の賦形剤
C成分:ヒドロキシプロピルスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースナトリウム、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α化デンプン、部分α化デンプン、結晶セルロースからなる群から選ばれる1種または2種以上の崩壊剤
D成分:ステアリン酸、ステアリン酸塩(アルミニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属塩)、ラウリル硫酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種または2種以上の滑沢剤
2. 得られた混合物(圧縮成形用原料)を、打錠機を用いて打錠することにより、錠剤(素錠)を得る。打錠後、得られた素錠を、ヒプロメロースやコリコートIR等のコーティング剤を用いて被覆してもよい。
【0036】
(一般的製造方法2)
1. A成分を、場合によりB成分(賦形剤)、C成分(崩壊剤)またはE成分(結合剤)と混合する。混合により得られた粉末には、さらにD成分(滑沢剤)を加えてもよい。
E成分:デンプン(溶性)、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、ポリビニルアルコール、ヒプロメロース、デキストリン、ポビドンからなる群から選ばれる1種または2種以上の結合剤
2. 例えば乾式造粒法に基づき造粒を行う。具体的には、得られた混合物を、ローラーコンパクターまたは打錠機(スラッグマシン)等の圧縮成形機で圧縮成形した後、ロールグラニュレーターまたは篩等の整粒装置を用いて粉砕、整粒し、造粒物を得る。
得られた造粒物には、さらにB成分(賦形剤)、C成分(崩壊剤)またはD成分(滑沢剤)を添加することもできる。
3. 得られた造粒物または造粒物と添加剤の混合物である圧縮成形用原料を、打錠機を用いて打錠することにより、錠剤(素錠)を得る。打錠後、得られた素錠を、ヒプロメロースやコリコートIR等のコーティング剤を用いて被覆してもよい。
【0037】
(一般的製造方法3)
1. A成分を、場合によりB成分(賦形剤)、C成分(崩壊剤)またはE成分(結合剤)と混合する。混合により得られた粉末には、さらにD成分(滑沢剤)を加えてもよい。
2. 例えば湿式造粒法に基づき造粒を行う。具体的には、得られた混合物を、水または有機溶媒を用いて造粒し、乾燥機で乾燥し、造粒物を得る。
得られた造粒物には、さらにB成分(賦形剤)、C成分(崩壊剤)またはD成分(滑沢剤)を添加することもできる。
3. 得られた造粒物または造粒物と添加剤の混合物である圧縮成形用原料を、打錠機を用いて打錠することにより、錠剤(素錠)を得る。打錠後、得られた素錠を、ヒプロメロースやコリコートIR等のコーティング剤を用いて被覆してもよい。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
以下の実施例において、NMRスペクトルは、日本電子JNM−EX400型核磁気共鳴装置を使用し、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用して測定した。MSスペクトルは日本電子JMS−T100LP型およびJMS−SX102A型質量分析計で測定した。元素分析はヤナコ分析CHN CORDER MT−6元素分析装置で行った。
【0040】
(参考例1)
ビス(アセタト−O)−〔6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O,O〕ボロン
窒素雰囲気下、無水酢酸21.4L(225mol)に、ホウ酸(触媒作成用)103g(1.67mol)を加え、70.0〜76.9°Cで30分間加熱撹拌した(撹拌速度69.5rpm)。内温24.6°Cまで冷却した後、1回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.6〜27.4°Cで30分撹拌した。2回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.7〜27.5°Cで30分撹拌した。3回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、24.7〜27.7°Cで30分撹拌した。4回目のホウ酸1.01kg(16.3mol)を加え、25.4〜29.4°Cで30分撹拌した。さらに、50.0〜56.9°Cで30分撹拌し、ホウ酸トリアセテート調整液とした。当該調整液に、6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸エチルエステル5.50kg(16.7mol)を加え、得られた混液を54.7〜56.9°Cで3時間撹拌した。当該混液を30.0°Cまで冷却し、室温で一夜放置した。混液を58.6°Cまで加熱し析出した化合物を溶解させ、アセトン16.5 Lを混液に加え、反応液(a)とした。
【0041】
窒素雰囲下、常水193Lおよびアンモニア水(28%)33.7 L(555mol)の混合液を、−0.6°Cまで冷却した。当該混合液に、前述の反応液(a)を添加し、アセトン11.0Lで洗い込んだ。15.0°Cまで冷却後、4.3〜15.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、常水55.0Lで洗浄し、湿潤粗結晶を14.1kg得た。設定温度65.0°Cで約22時間減圧乾燥し、粗結晶を6.93kg得た(収率96.7%)。
【0042】
得られた粗結晶に、窒素雰囲下、アセトン34.7Lを加え、加熱溶解した(温水設定温度57.0°C)。加熱時、ジイソプロピルエーテル69.3Lを晶析するまで滴下した(滴下量12.0 L)。晶析確認後、48.3〜51.7°Cで15分撹拌し、残りのジイソプロピルエーテルを滴下し、45.8〜49.7°Cで15分撹拌した。15°Cまで冷却後、6.5〜15.0°Cで30分撹拌した。析出した結晶をろ取し、アセトン6.93Lおよびジイソプロピルエーテル13.9Lで洗浄し、湿潤結晶を7.41kg得た。得られた湿潤結晶を設定温度65.0°Cで約20時間減圧乾燥し、ビス(アセタト−O)−〔6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O,O〕ボロンを 6.47kg得た(収率90.3%)。
【0043】
元素分析(%):C1715BFNOとして
計算値:C,47.58;H,3.52;N,3.26.
実測値:C,47.41;H,3.41;N,3.20.
H−NMR(CDCl,400 MHz)δ:2.04(6H,s),4.21(3H, d,J=2.9Hz),4.88(2H,dt,J=47.0,4.4Hz),5.21(2H,dt,J=24.9,3.9Hz),8.17(1H,t,J=8.8Hz),9.10(1H,s).
ESI MS(positive) m/z:430(M+H)+.
【0044】
(参考例2)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の製造
窒素雰囲気下、(3R,4S)−3−シクロプロピルアミノメチル−4−フルオロピロリジン3.56kg(15.4mol)、トリエチルアミン11.7 L(84.2mol)およびジメチルスルホキシド30.0Lの混液を、23.0〜26.3°Cで15分撹拌した。当該混液に23.0〜26.3°Cでビス(アセタト−O)[6,7−ジフルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボキシラト−O,O]ボロン6.00kg(14.0mol)を加え、反応液とした。反応液を23.7〜26.3°Cで2時間撹拌した。反応液に酢酸エチル120Lを加え、さらに常水120Lを加えた後、水酸化ナトリウム960g(2mol/Lとする量)および常水12.0Lの溶液を加え、5分間撹拌後、水層を分取した。水層に、酢酸エチル120Lを加え、5分間撹拌後、酢酸エチル層を分取した。酢酸エチル層を合わせて、常水120Lを加え、5分間撹拌後、静置し、水層を廃棄した。酢酸エチル層を減圧留去した。得られた残留物を、2−プロパノール60.0Lに溶解させ、室温で一夜放置した。当該溶液に塩酸5.24L(62.9mol)および常水26.2L(2mol/Lとする量)の溶液を加え、28.2〜30.0°Cで30分撹拌した。外温55.0°Cで加熱し、溶解後(47.1°Cで溶解確認)、冷却し晶析させた。39.9〜41.0°Cで30分撹拌し、冷却後(目安:20.0°Cまでは設定温度7.0°C、それ以下は−10.0°C)、2.2〜10.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、2−プロパノール60Lで洗浄し、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤粗結晶を9.57kg得た。
【0045】
(参考例3)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の無水物の結晶(以下、A形結晶または化合物1とも称す)の製造方法
7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤粗結晶9.57kgをエタノール60L、精製水10.8Lの混液に添加し、加熱溶解した。この溶解液を、フィルターを通すことによりろ過し、エタノール24.0Lおよび精製水1.20Lの混液で洗い込んだ。溶解を確認し、加熱したエタノール(99.5)96.0Lを71.2〜72.6°Cで添加した。その溶解液を冷却し(温水設定温度60.0°C)晶析確認後(晶析温度61.5°C)、59.4〜61.5°Cで30分撹拌した。段階的に冷却させ(50.0°Cまで温水設定温度40.0°C、40.0°Cまで温水設定温度30.0°C、30.0°Cまで温水設定温度20.0°C、20.0°Cまで設定温度7.0°C、15.0°Cまで設定温度−10.0°C、これ以降溜置き)、4.8〜10.0°Cで1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、エタノール30.0Lで洗浄し、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の湿潤結晶を5.25kg得た。得られた湿潤結晶を設定温度50.0°Cで約13時間減圧乾燥し、化合物1を4.83kg得た(収率72.6%)。
【0046】
国際公開第2013/069297号に基づく化合物1の粉末X線回折の結果を図1に示す。また、図1に示す回折パターンに含まれるピークの相対強度について記載する表を、図2に示す。
粉末X線回折は、理学電機製RINT2200を使用して行なった。銅放射線を放射線として用い、測定条件は、管電流36mA、管電圧40kV、発散スリット1度、散乱スリット1度、受光スリット0.15mm、走査範囲1〜40度(2θ)、走査速度毎分2度(2θ)とした。なお、後述する参考例4の結晶についても同様の条件で測定を行った。
【0047】
図1および図2から理解できるように4.9度、9.8度、10.8度、12.9度、14.7度、18.2度、21.7度、23.4度、24.7度および26.4度にピークが見られ、4.9度、10.8度、12.9度、18.2度、21.7度、24.7度および26.4度に特徴的なピークが確認できる。特に特徴的なピークが、10.8度、12.9度、および24.7度に確認できる。
元素分析値(%):C2124HClとして
計算値:C,53.00;H,5.30;N,8.83.
実測値:C,53.04;H,5.18;N,8.83.
H NMR(DMSO−d,400MHz)δ(ppm):0.77−0.81(2H,m),0.95−1.06(2H,m),2.80−2.90(2H,m),3.21−3.24(1H,m),3.35−3.39(1H,m),3.57(3H,s),3.65−3.78(3H,m),4.13(1H,dd,J=41.8,13.1Hz),4.64−4.97(3H,m),5.14(1H,dd,J=32.7,15.6Hz), 5.50(1H,d,J=53.7Hz),7.80(1H,d,J=13.7Hz), 8.86(1H,s),9.44(2H,brs),15.11(1H,brs).
ESI MS(positive) m/z:440(M+H)+.
【0048】
(参考例4)
7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)(以下、化合物2とも称す)
参考例2で得られた7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩30.0 g(63.0 mmol)を2−プロパノール600 mLおよび常水90.0 mLの混合溶媒に添加し、加熱溶解(内温72℃)した。溶解液を冷却し、晶析を確認(内温49℃)後、晶析温度付近で5分間撹拌した(内温48〜49℃)。晶析温度から内温が10℃程度上昇するまで溶解液を加熱し、その温度で30分間撹拌した(内温48〜60℃)。溶解液を徐々に冷却(毎分約1℃冷却)し、10℃以下で1時間撹拌した(内温2〜10℃)。析出した結晶をろ過し、2−プロパノール143mLおよび常水7.5mLの混合溶媒で洗浄して白色粉末の7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)を34.5g得た。
【0049】
国際公開第2013/069297号に基づく化合物2の粉末X線回折の結果を図3に示す。また、図3に示す回折パターンに含まれるピークの相対強度について記載する表を、図4に示す。
【0050】
図3および図4から理解できるように4.8度、9.4度、10.3度、13.6度、14.2度、17.7度、21.5度、22.8度、25.8度および27.0度にピークが見られ、4.8度、9.4度、17.7度、22.8度、25.8度および27.0度に特徴的なピークが確認できる。特に特徴的なピークが9.4度および17.7度に確認できる。
H NMR(DMSO−d、400MHz)δ(ppm):0.77−0.81(2H、m)、0.98−1.00(2H、m)、2.79−2.93(2H、m)、3.22(1H、dd、J = 8.4、12.2 Hz)、3.58(3H、s)、3.65−3.81(3H、m)、4.13(1H、dd、J = 13.2、42.1 Hz)、4.81−4.97(2H、m)、5.15(1H、dd、J = 15.7、32.8 Hz)、5.55(1H、d、J = 53.8 Hz)、7.79(1H、dd、J = 2.4、13.2 Hz)、8.85(s、1H)、9.56(2H、brs)、15.07(1H、brs).
【0051】
(実施例1)
表1記載の処方に従い、化合物2(B形結晶)、乳糖、結晶セルロースと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを乳棒乳鉢で混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、乳棒乳鉢で混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径7.5mmの臼、曲率半径9mmのR面杵)を用いて質量190mg、錠厚3.9mmとなるように、打錠した。さらに、ハイコーター(商品名)(HCT−MINI、フロイント産業社製)を用いてヒプロメロース、酸化チタン、ポリエチレングリコール400と黄色三二酸化鉄の混合物を水系コーティングした。
【0052】
(比較例1)
表1記載の処方に従った他は実施例1と同様の操作を行った。化合物2(B形結晶)の代わりに化合物1(A形結晶)を用いた。
【0053】
【表1】
【0054】
(試験例1)溶出試験(第一液)
実施例1および比較例1の各組成物(錠剤)を評価するために第十六改正日本薬局方溶出試験法装置2(パドル法)に準じて溶出試験を実施した。溶出試験の詳細な条件は下記の通りである。溶出試験の結果を図5に示す。
パドル回転数: 50rpm
試験液の温度: 37℃
試験液 : 第十六改正日本薬局方 溶出試験第一液 900mL
【0055】
図5の結果から分かる通り、化合物2(B形結晶)を含有する錠剤は、化合物1(A形結晶)を含有する錠剤に比べ、第一液への溶出率が高い。化合物2(B形結晶)を使用した場合、溶出試験開始後30分後で、第一液への溶出率が80%以上を達成しているが、化合物1(A形結晶)を使用してしまうと、溶出試験開始後30分後での第一液への溶出率が25%程度に留まる。
【0056】
上述の通りB形結晶以外の7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩は、水に接するとゲル化する性質がある。実施例1の固形医薬組成物では、他の当該塩酸塩と比較してゲル化しにくいB形結晶を使用することにより、当該塩酸塩の溶出率を著しく改善することに成功している。
【0057】
(実施例2)
表2記載の処方に従い、化合物2(B形結晶)、乳糖、結晶セルロースとヒドロキシプロピルセルロースを乳棒乳鉢で混合後,水を加えて練合した。当該練合物を目開き1.4mm篩を用いて造粒し、乾燥機で80℃、60分間乾燥した。得られた造粒物を目開き850μm篩を用いて篩過し、得られた篩過品を主薬顆粒とした。次に主薬顆粒、乳糖、結晶セルロースと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを乳棒乳鉢で混合した。さらに、当該混合品にステアリン酸マグネシウムを加え、乳棒乳鉢で混合した。当該混合品を打錠機(HT―AP―18SS−II、畑鉄工所、直径7.5mmの臼、曲率半径9mmのR面杵)を用いて質量190mg、錠厚3.9mmとなるように、打錠した。さらに、ハイコーター(商品名)(HCT−MINI、フロイント産業社製)を用いてヒプロメロース、酸化チタン、ポリエチレングリコール400と黄色三二酸化鉄の混合物を水系コーティングした。
【0058】
(比較例2)
表2記載の処方に従い、化合物2(B形結晶)の代わりに化合物1(A形結晶)を用いた以外は、実施例と同様に操作を行った。
【0059】
【表2】
【0060】
(試験例2)溶出試験(第一液)
実施例2および比較例2の各組成物(錠剤)を評価するために、試験例1と同様に溶出試験を行った。溶出試験の結果を図6に示す。
図6の結果から分かる通り、湿式造粒法により調製した錠剤についても、B形結晶を使用することにより、溶出試験開始後30分後で、第一液への溶出率が80%以上を達成している。一方、化合物1(A形結晶)を使用してしまうと、溶出試験開始後30分後で、第一液への溶出率が30%以下に留まる(比較例2)。他の当該塩酸塩と比較してゲル化しにくいB形結晶を使用することにより、当該塩酸塩の溶出率を著しく改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
回折角2θとして、9.4度、および17.7度(それぞれ±0.2度)にピークを有する、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の水和物の結晶(B形結晶)を使用することにより、7−{(3S,4S)−3−[(シクロプロピルアミノ)メチル]−4−フルオロピロリジン−1−イル}−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸塩酸塩の溶出遅延の抑制された固形医薬組成物を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6