(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832734
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】タンパク質低減米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20210215BHJP
【FI】
A23L7/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-25071(P2017-25071)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-130047(P2018-130047A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】竹森 利和
【審査官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−300193(JP,A)
【文献】
'バスマティライス(インディカ米)の炊き方 湯取り式レシピ・作り方’,29-03-2014 uploaded, [Retrieved on 17-09-2020], Retrieved from the Internet:<URL: https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1750012745/>
【文献】
山田千佳子ら,精白米の塩溶液浸漬による低アレルゲン化,日本食品科学工学会誌,2006年,Vol.53, No.11,pp.583-586
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米をアルカリイオン水で茹でるアルカリイオン水茹で工程と、前記アルカリイオン水茹で工程での茹で汁と前記米とを分離する分離工程と、を有するタンパク質低減米飯の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリイオン水茹で工程における前記アルカリイオン水のpHが8.0以上である請求項1に記載のタンパク質低減米飯の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリイオン水茹で工程における前記アルカリイオン水のpHが8.5以上である請求項1に記載のタンパク質低減米飯の製造方法。
【請求項4】
前記分離工程の後に前記米を蒸す蒸し工程を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のタンパク質低減米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の含有量を低減したタンパク質低減米飯を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓病患者やアレルギーを有する人のために、タンパク質の含有量を低減した米飯を提供する手法が提案されている。特許文献1では、炊飯器内の米および水に混ぜるための、タンパク質分解酵素を含有する低アレルゲン化剤が提案されている。特許文献2および特許文献3では、乳酸発酵処理により低タンパク質、低リン、低カリウムである米および米飯を得る方法が提案されている。特許文献4では、低タンパク質、低リン、低カリウム処理した米に更に乳化剤やαアミラーゼを添加した加工米が提案されている。また、米のタンパク質は米粒の表面近くに分布することから、米粒を削ることでタンパク質の含有量を低減する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−148248号公報
【特許文献2】特許第2706888号明細書
【特許文献3】特許第2557312号明細書
【特許文献4】特許第3347293号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の手法で得られる米や米飯は、薬品や酵素等で処理されているため、普通の米飯とは食味が異なる場合が多く、あまり普及していない。その上、発酵等の特殊な工程を経て生産されるため、価格も高い。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、おいしいタンパク質低減米飯を安価で製造する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためのタンパク質低減米飯製造方法の特徴構成は、米をアルカリイオン水で茹でるアルカリイオン水茹で工程と、前記アルカリイオン水茹で工程での茹で汁と前記米とを分離する分離工程と、を有する点にある。
【0012】
発明者は鋭意検討・試行錯誤の末、米をアルカリイオン水で茹で、その茹で汁と米とを分離することで、米に含有されるタンパク質を低減できることを見出し、本発明を完成した。上記の特徴構成によれば、米粒に加工を加えたり特殊な薬剤を添加することなく、タンパク質低減米飯を安価で製造することができる。ここでアルカリイオン水とは、水を電気分解して陰極側より生成される弱アルカリ性の電解水である。
【0013】
前記アルカリイオン水茹で工程における前記アルカリイオン水のpHは8.0以上とすると好適である。更にpHを8.5以上にすると、米に含有されるタンパク質を十分に低減できることが実験で確認されている。
【0014】
本発明に係るタンパク質低減米飯製造方法の別の特徴構成は、前記分離工程の後に前記米を蒸す蒸し工程を有する点にある。
【0015】
上記の特徴構成によれば、分離工程の後に米を蒸すことで、タンパク質低減米飯を食用可能な状態とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係るタンパク質低減米飯の製造方法について説明する。本実施形態に係るタンパク質低減米飯の製造方法は、少なくとも、塩水茹で工程と、分離工程とを有して構成される。塩水茹で工程の前に、浸漬工程を行うことも可能である。分離工程の後に、蒸し工程を行うことも可能である。
【0017】
本製造方法に供される原料である米としては、一般に流通する普通の米を使用することができ、事前の特別な処理・加工等を要しない。
【0018】
塩水茹で工程は、米を塩水で茹でる工程である。塩水の濃度は様々なものを用いることができるが、0.01質量%以上の塩分濃度の塩水を好適に用いることができる。塩水の塩分濃度としては、0.01質量%以上が好適であり、0.05質量%以上であれば更に好適であり、2.0質量%以下であれば好適であり、1.0質量%以下であれば更に好適である。
【0019】
塩水茹で工程としては、例えば沸騰した上述の塩水に洗米した米を入れ、所定の茹で時間、茹でることで行う。茹で時間は、米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、10分以上が好適であり、12分以上が更に好適であり、18分以下が好適であり、15分以下が更に好適である。
【0020】
塩水茹で工程の前に浸漬工程を行う場合には、これら工程を例えば以下の様に行う。浸漬工程として、洗米した米を、常温の塩水に所定の浸漬時間、浸漬する。そして塩水の加熱を開始し、沸騰してから所定の茹で時間、米を茹でる。浸漬時間としては、米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、30分以上が好適であり、1時間以上が更に好適であり、3時間以下が好適であり、2時間以下が更に好適である。
【0021】
分離工程は、塩水茹で工程での茹で汁(塩水)と米とを分離する工程である。分離工程としては、様々な態様が可能であるが、例えば塩水茹で工程を行った鍋の中身全てをザルに空けて、茹で汁(塩水)と米とを分離する。例えば、塩水茹で工程を、米を入れたザルを塩水に浸ける形態で行い、そのザルを上昇させて塩水から引き上げて、茹で汁(塩水)と米とを分離する。
【0022】
蒸し工程は、分離工程の後に米を蒸す工程である。蒸し工程としては、例えば米を高温の蒸気に所定の蒸し時間さらすことで行う。蒸し時間は、米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、5分以上が好適であり、10分以上が更に好適であり、60分以下が好適であり、30分以下が更に好適である。蒸気の温度は米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、90℃以上が好適であり、100℃以上が更に好適であり、120℃以下が好適であり、110℃以下が更に好適である。
【0023】
少なくとも塩水茹で工程と分離工程を行うことで、タンパク質低減米が製造される。米には様々なタンパク質が含有されるが、本実施形態に係る製造方法により、少なくともグルテリンとプロラミンとが低減された米飯が製造される。タンパク質の低減量は米の品種や各工程の条件により変化するが、本実施形態に係る製造方法によって、塩分を含まない水で茹でた場合に比べてグルテリンが15%から18%低減され、プロラミンが14%から25%低減されることが、後述の実験により確認されている。
【0024】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係るタンパク質低減米飯の製造方法について説明する。本実施形態に係るタンパク質低減米飯の製造方法は、少なくとも、アルカリイオン水茹で工程と、分離工程とを有して構成される。アルカリイオン水茹で工程の前に、浸漬工程を行うことも可能である。分離工程の後に、蒸し工程を行うことも可能である。
【0025】
本製造方法に供される原料である米としては、一般に流通する普通の米を使用することができ、事前の特別な処理・加工等を要しない。
【0026】
アルカリイオン水茹で工程は、米をアルカリイオン水で茹でる工程である。アルカリイオン水とは、水を電気分解して陰極側より生成される弱アルカリ性の電解水である。アルカリイオン水のpHは、電気分解の条件(電流・電圧)により調整が可能である。アルカリイオン水のpHは様々なものを用いることができるが、pH8.0以上のアルカリイオン水を好適に用いることができる。アルカリイオン水のpHとしては、8.0以上が好適であり、8.5以上であれば更に好適であり、12.0以下であれば好適であり、11.0以下であれば更に好適である。
【0027】
アルカリイオン水茹で工程としては、例えば沸騰した上述のアルカリイオン水に洗米した米を入れ、所定の茹で時間、茹でることで行う。茹で時間は、米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、10分以上が好適であり、12分以上が更に好適であり、18分以下が好適であり、15分以下が更に好適である。
【0028】
アルカリイオン水茹で工程の前に浸漬工程を行う場合には、これら工程を例えば以下の様に行う。浸漬工程として、洗米した米を、常温のアルカリイオン水に所定の浸漬時間、浸漬する。そしてアルカリイオン水の加熱を開始し、沸騰してから所定の茹で時間、米を茹でる。浸漬時間としては、米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、30分以上が好適であり、1時間以上が更に好適であり、3時間以下が好適であり、2時間以下が更に好適である。
【0029】
分離工程は、アルカリイオン水茹で工程での茹で汁(アルカリイオン水)と米とを分離する工程である。分離工程としては、様々な態様が可能であるが、例えばアルカリイオン水茹で工程を行った鍋の中身全てをザルに空けて、茹で汁(アルカリイオン水)と米とを分離する。例えば、アルカリイオン水茹で工程を、米を入れたザルをアルカリイオン水に浸ける形態で行い、そのザルを上昇させてアルカリイオン水から引き上げて、茹で汁(アルカリイオン水)と米とを分離する。
【0030】
蒸し工程は、分離工程の後に米を蒸す工程である。蒸し工程としては、例えば米を高温の蒸気に所定の蒸し時間さらすことで行う。蒸し時間は、米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、5分以上が好適であり、10分以上が更に好適であり、60分以下が好適であり、30分以下が更に好適である。蒸気の温度は米の品種や気温等に応じて適宜決定されるが、90℃以上が好適であり、100℃以上が更に好適であり、120℃以下が好適であり、110℃以下が更に好適である。
【0031】
少なくともアルカリイオン水茹で工程と分離工程を行うことで、タンパク質低減米が製造される。米には様々なタンパク質が含有されるが、本実施形態に係る製造方法により、少なくともグロブリンとプロラミンとが低減された米飯が製造される。タンパク質の低減量は米の品種や各工程の条件により変化するが、本実施形態に係る製造方法によって、pH7.0の水で茹でた場合に比べてグロブリンが16%から46%低減され、プロラミンが11%から44%低減されることが、後述の実験により確認されている。
【0032】
(実験1)
予備的実験として、水(塩水、アルカリイオン水でない)を用いて湯とり炊飯法で米飯を製造し、炊飯後のタンパク質(グルテリン、グロブリン、およびプロラミン)の含有量を測定した。そして炊き干し法により製造された米飯とタンパク質の含有量を比較した。
【0033】
湯とり炊飯法は次の様にして行った。300gの米を洗米し、1500gの沸騰水に投入して茹でた。茹で時間は7分、10分、12分、15分である。茹で時間の経過後、ザルにあけて米と茹で汁(糊液)を分離し、その後10分間蒸した。出来上がった米飯のタンパク質の量をSDS−PAGE法により測定した。
【0034】
比較対象のため、同量の米を炊き干し法により炊飯し、出来上がった米飯のタンパク質の量を湯とり炊飯法の米飯と同じ方法で測定した。
【0035】
炊き干し法による米飯のタンパク質の量を基準の100%として、湯とり炊飯法による米飯のタンパク質の量を%で表した。結果を表1に示す。
【0037】
表1に示される通り、塩水・アルカリイオン水でない、単なる水を用いた湯とり炊飯法では、炊き干し法に比べてタンパク質は減少しなかった。
【0038】
(実験2)
第1実施形態に係る製造方法、すなわち塩水を用いた製造方法によるタンパク質の低減を確認するため、塩水の塩分濃度を異ならせて炊飯を行い、出来上がった米飯のタンパク質の量を測定・比較した。
【0039】
米飯の製造は次の様にして行った。300gの米を洗米し、1500gの沸騰した塩水に投入して茹でた。茹で時間は12分である。茹で時間の経過後、ザルにあけて米と茹で汁(糊液)を分離し、その後10分間蒸した。出来上がった米飯のタンパク質の量をSDS−PAGE法により測定した。サンプルを作成した塩水の塩分濃度は、0質量%(比較例)、0.1質量%(実施例1)、1.0質量%(実施例2)である。
【0040】
また浸漬工程による影響を確認するため、浸漬工程を経たサンプルを作成した。浸漬工程は、塩分濃度1.0質量%、25℃で2時間(実施例3)、あるいは塩分濃度1.0質量%、55℃で2時間(実施例4)行った。その後の工程は実施例1と同様に行ってサンプルを作成した。
【0041】
比較例による米飯のタンパク質の量を基準の100%として、実施例1〜4の米飯のタンパク質の量を%で表した。結果を表2に示す。
【0043】
グルテリンに関しては、実施例1〜4の全てで減少した。減少量は15%から18%であった。グロブリンに関しては、実施例1および4では減少したが、実施例2および3では増加した。プロラミンに関しては、実施例1〜4の全てで減少した。減少量は14%から25%であった。以上の結果から、第1実施形態に係る製造方法により、少なくともグルテリンとプロラミンとが減少することが確認された。
【0044】
なお参考例として、実施例1と同様に塩分濃度0.1%で茹でを行った後、茹で汁を捨てずにそのまま炊き干し法による炊飯を行って、米飯を製造した。参考例に係る米飯のタンパク質の量は、グルテリン106%、グロブリン91%、プロラミン88%であった。
【0045】
(実験3)
第2実施形態に係る製造方法、すなわちアルカリイオン水を用いた製造方法によるタンパク質の低減を確認するため、アルカリイオン水のpHを異ならせて炊飯を行い、出来上がった米飯のタンパク質の量を測定・比較した。
【0046】
米飯の製造は次の様にして行った。300gの米を洗米し、1500gの沸騰したアルカリイオン水に投入して茹でた。茹で時間は12分である。茹で時間の経過後、ザルにあけて米と茹で汁(糊液)を分離し、その後10分間蒸した。出来上がった米飯のタンパク質の量をSDS−PAGE法により測定した。サンプルを作成したアルカリイオン水のpHは、7.0(比較例)、8.5(実施例5)、9.0(実施例6)、9.5(実施例7)、10.0(実施例8)、10.5(実施例9)、である。
【0047】
比較例による米飯のタンパク質の量を基準の100%として、実施例5〜9の米飯のタンパク質の量を%で表した。結果を表3に示す。
【0049】
グルテリンに関しては、実施例5,6,8および9では減少したが、実施例7では増加した。グロブリンに関しては、実施例5〜9の全てで減少した。減少量は16%から46%であった。プロラミンに関しては、実施例5〜9の全てで減少した。減少量は11%から44%であった。以上の結果から、第2実施形態に係る製造方法により、少なくともグロブリンとプロラミンとが減少することが確認された。
【0050】
(他の実施形態)
上述した分離工程で米から分離された茹で汁(塩水またはアルカリイオン水)には、タンパク質が多く含まれる。したがってこの茹で汁(糊液)を廃棄せず、飼料等に再利用・再資源化することで有効利用が可能である。
【0051】
なお上述の実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。