(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832750
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】吊物の位置決め装置
(51)【国際特許分類】
A63J 5/04 20060101AFI20210215BHJP
【FI】
A63J5/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-42477(P2017-42477)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-143556(P2018-143556A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】304039065
【氏名又は名称】カヤバ システム マシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】副島 正浩
【審査官】
槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−080906(JP,A)
【文献】
特開平09−239161(JP,A)
【文献】
特開2009−248942(JP,A)
【文献】
特開平10−094679(JP,A)
【文献】
特開2002−113269(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2009−0040201(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63J 1/00 − 99/00
A63K 1/00 − 99/00
E04B 1/99
E04H 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が固定端とされて、舞台上に設置される吊物の上端に設けた動滑車に掛け回され、前記吊物を前記舞台に対して前記舞台の奥行方向で複数位置に位置決めする位置決め用索と、
前記位置決め用索の他端に連結されて伸縮駆動可能な電動シリンダとを備え、
前記吊物を正面反射板とした
ことを特徴とする吊物の位置決め装置。
【請求項2】
一端が固定端とされて、舞台上に設置される吊物の上端に設けた動滑車に掛け回され、前記吊物を前記舞台に対して複数位置に位置決めする位置決め用索と、
前記位置決め用索の他端に連結されて伸縮駆動可能な電動シリンダとを備え、
前記位置決め用索は、ブラケットを介して前記電動シリンダに連結され、
前記電動シリンダは、前記舞台の上方に設置される簀子にヒンジ結合される固定部と、前記固定部に対して軸方向に移動可能であって前記ブラケットにヒンジ結合される可動部とを有し、
前記可動部の移動を案内するとともに前記電動シリンダを水平に保つガイド部材を備えた
ことを特徴とする吊物の位置決め装置。
【請求項3】
前記電動シリンダは、外力による伸縮の阻止が可能である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の吊物の位置決め装置。
【請求項4】
前記電動シリンダは、前記吊物の位置調整範囲でストロークしても伸長側と収縮側にそれぞれストローク余裕を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の吊物の位置決め装置。
【請求項5】
ターンバックルを有して連結する連結具を備え、
前記位置決め用索の前記一端は、前記舞台の上方に設置される簀子に対して前記連結具を介して連結されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の吊物の位置決め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吊物の位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の吊物の位置決め装置としては、たとえば、舞台上に設置される音響反射板における正面反射板の位置決めに適用されたものが例としてあげられる。
【0003】
音響反射板は、多目的ホールや劇場等の舞台上で音響機器を利用しない演奏を行う場合に演奏音が舞台に設置される幕類等に吸収されるのを防いで、演奏音を客席に反射して聴衆に効率的に届くようにする音響空間を提供するものである。
【0004】
音響空間を構築するには、舞台の正面奥に配置される正面反射板と、舞台袖の両側に配置される側面反射板と、舞台上方に配置される天井反射板とでなる音響反射板を設ければよいが、多目的ホールでは、コンサートのほか演劇といった演目にあった舞台構築が必要である。
【0005】
そのため、多目的ホールでは、演目に応じて音響反射板を格納、展開できるように、音響反射板を可動させる機構を取り入れており、音響反射板を可動とする機構としては、ホールの天井から索で吊り下げて必要に応じて音響反射板を舞台に下ろすものがある。
【0006】
そして、正面反射板は、駆動用索の利用で昇降できるようになっていて、位置決め装置は、位置決め用索を利用してオーケストラの編成の大小に応じて正面反射板の位置を舞台の奥行方向で二箇所に位置決めを行う。
【0007】
詳しくは、駆動用索は、一端が舞台の天井に固定され他端が舞台上方の簀子に設けた駆動用ウインチに連結され、位置決め用索は、一端が前記天井の駆動用索の固定位置よりも客席側に固定されるとともに他端が前記簀子に設けた位置決め用ウインチに連結される。
【0008】
また、駆動用索の固定部と駆動用ウインチの直下には、それぞれ定滑車が設けられており、駆動用索の一端側および他端側がそれぞれ対応する定滑車に掛け回されていて、駆動用索は、これら定滑車を支点として動滑車の舞台の奥行方向への移動を許容する。他方、位置決め用索の固定部と位置決め用ウインチの直下には、それぞれ定滑車が設けられており、位置決め用索の一端側および他端側がそれぞれ対応する定滑車に掛け回されていて、位置決め用索は、これら定滑車を支点として動滑車の舞台の奥行方向への移動を許容する。
【0009】
たとえば、駆動用ウインチと位置決め用ウインチで駆動用索と位置決め用索の繰り出し長さを調整して、駆動用索と位置決め用索の繰り出し長さを等しくすれば、正面反射板を大編成に対応する舞台奥に位置決めできる。正面反射板を舞台奥から小編成に対応する舞台手前へ位置決めする場合、位置決め用索が鉛直になるように長さ調整するとともに駆動用索を繰り出せばよい。さらに、正面反射板を舞台上方へ収納するには、駆動用ウインチで駆動用索を巻き取ればよい(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−80906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、正面反射板の位置決めには位置決め用索を利用しており、正面反射板の設置位置に応じて位置決め用索の繰り出し長さを調節し、駆動用索を繰り出しおよび巻取するようにすれば、正面反射板を所望する位置に設置できる。
【0012】
ところで、正面反射板の昇降の際の駆動用索の繰出し或いは巻取長さに対して、正面反射板の位置調整の際の位置決め用索の繰出し或いは巻取り長さは非常に短い。そして、正面反射板の昇降時には、位置決め用索の繰り出し長さの調整は行われないので、位置決め用索ウインチは、正面反射板の位置調整のみに使用される。
【0013】
しかしながら、位置決め用索に用いるウインチのドラムの径は、規格上、索の径の数十倍としなければならない。よって、正面反射板の大編成と小編成の設置位置の間隔によっては、位置決め用ウインチは、位置決め用索の繰り出し長さの調節の際にドラムを半回転もさせない場合もある。
【0014】
このように、位置決め用索の繰り出しおよび巻き取り長さが非常に短いにも関わらず、従来の位置決め装置では、大型で高価なウインチを利用している。よって、従来の位置決め装置には、スペースが限られた簀子上に大きな設置スペース
を確保しなくてはならず、装置が非常に高価となってしまう問題がある。これは、正面反射板だけでなくバトン等を含む吊物の位置決め装置に共通する課題である。
【0015】
そこで、本発明は、設置の際に大きなスペースの確保がいらず、かつ、安価な吊物の位置決め装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記した目的を達成するために、本発明の吊物の位置決め装置は、一端が固定端とされて、舞台上に設置される吊物の上端に設けた動滑車に掛け回され、吊物を舞台に対して
舞台の奥行方向で複数位置に位置決めする位置決め用索と、位置決め用索の他端に連結されて伸縮駆動可能な電動シリンダとを備え
、前記吊物を正面反射板としている。このように構成された吊物の位置決め装置は、位置決め用索の繰り出し長さの調整を電動シリンダのストロークによって賄って
正面反射板の位置決めを行える。
【0017】
また、吊物の位置決め装置は、
一端が固定端とされて、舞台上に設置される吊物の上端に設けた動滑車に掛け回され、吊物を舞台に対して複数位置に位置決めする位置決め用索と、位置決め用索の他端に連結されて伸縮駆動可能な電動シリンダとを備え、位置決め用索がブラケットを介して電動シリンダに連結され、電動シリンダが簀子にヒンジ結合される固定部と固定部に対して直動するとともにブラケットにヒンジ結合される可動部とを有し、可動部の移動を案内するとともに電動シリンダを水平に保つガイド部材を備えていてもよい。このように構成された吊物の位置決め装置は、簀子に撓みや公差があっても可動部の先端を適正な位置に案内でき、位置決め用索からの横力の入力を回避できる。
【0018】
吊物の位置決め装置は、
外力による伸縮の阻止が可能な電動シリンダを利用してもよい。このように構成された吊物の位置決め装置は、電動シリンダで吊物の傾きを防止できる。
【0019】
さらに、吊物の位置決め装置は、
吊物の位置調整範囲でストロークしても伸長側と収縮側にそれぞれストローク余裕を有する電動シリンダを利用してもよい。このように構成された吊物の位置決め装置は、長期間の使用により、或いは、温度変化によって位置決め用索の全長が変化しても、全長の変化に合わせて電動シリンダのストローク範囲を伸長側或いは収縮側へシフトすれば当該変化を吸収でき、位置決め用索の連結具の調整作業の頻度を緩和できる。
【0020】
さらに、吊物の位置決め装置は、
ターンバックルを有して連結する連結具を備え、位置決め用索の前記一端が舞台の上方に設置される簀子に対して連結具を介して連結されてもよい。このように構成された正面反射板の位置決め装置によれば、連結具の調整で位置決め用索の全長の変化を吸収できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、設置の際に大きなスペースの確保がいらず、かつ、吊物の位置決め装置が安価となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】正面反射板を大編成位置に位置決めした状態における一実施の形態の吊物の位置決め装置の側面図である。
【
図2】正面反射板を小編成位置に位置決めした状態における一実施の形態の吊物の位置決め装置の側面図である。
【
図3】一実施の形態の吊物の位置決め装置における電動シリンダの平面図である。
【
図4】
図3の電動シリンダとブラケットのAA断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図示した実施の形態に基づいて、この発明を説明する。本実施の形態における吊物の位置決め装置1は、
図1および
図2に示すように、多目的ホールにおける舞台Sに音響空間を構築する音響反射板の一部である正面反射板2を吊物としている。そして、本例の吊物の位置決め装置1は、舞台Sの奥側の大編成のオーケストラを収容するための大編成位置と舞台Sの手前側の小編成のオーケストラを収容するための小編成位置との二位置に正面反射板2を位置決めするようになっている。
【0024】
多目的ホールは、
図1に示すように、舞台Sと客席Gとを備えており、舞台Sの天井C1と客席Gの天井C2上方との間には垂れ壁Hが設けられていて、舞台Sの上方の天井C1の高さは、客席Gの上方の天井C2よりも高くなっている。また、舞台Sの上方には、天井C1に間隔を空けてウインチの設置や道具類を吊り下げるための二段に形成された簀子Tが設けられている。なお、舞台Sの奥とは、客席Gから見た際の舞台Sの奥を指しており、舞台Sの手前とは、客席Gから見た際の舞台Sの手前を指している。したがって、舞台Sの奥行方向とは、
図1中で左右方向を示しており、舞台Sの間口方向とは、
図1中紙面を貫く方向を指している。
【0025】
音響反射板は、
図1に示すように、客席Gに対面するように舞台Sに対して間口方向に沿って設置される正面反射板2と、正面反射板2の両端から舞台Sに対して客席G側へ向けて設置される図外の一対の側面反射板と、正面反射板2および各側面反射板の上方に配置される天井反射板3とで構成される。正面反射板2、各側面反射板および天井反射板3とで舞台S上に客席G側のみ開口する箱形の音響反射板が構成されると、音響反射板の内方に音響空間が形成される。本例では、天井反射板3の客席側端を垂れ壁Hの下端近くに配置するようにしているが、垂れ壁Hの舞台S側に垂れ壁Hに沿って昇降して舞台Sの上下画角を変更可能なプロセニアムを用いる場合には、プロセニアムの下端に合わせて天井反射板3を配置すればよい。
【0026】
天井反射板3は、本体3aと、本体3aの舞台奥側にヒンジ結合された後端3bとを備えた折り畳み可能の反射板とされている。そして、この天井反射板3は、三つの索31,32,33で吊り下げられており、そのうち索31,33の一端が簀子Tに連結され簀子Tに設置したウインチ34,36に接続されている。そして、ウインチ34,36の操作で、索31,33の繰り出し長さを調節して天井反射板3を舞台Sの上方への格納と
図1および
図2に示す使用位置へ位置決めできるようになっている。そして、大編成のオーケストラを収容する場合には、
図1に示すように、本体3aに沿って後端3bを舞台奥側へ伸ばして両者を面一となるように配置して、本体3aおよび後端3bを共に反射板として機能させる。他方、小編成のオーケストラを収容する場合には、
図2に示すように、本体3aに対して後端3bを客席G側へ向けて跳ね上げて折り畳んで本体3aのみを反射板として機能させる。このように、本例では、天井反射板3が折り畳み可能の反射板として、有効奥行長さを変更可能としている。
【0027】
正面反射板2は、
図1に示すように、音を反射する板状の本体2aと、本体2aの上端に設けた動滑車2bとを備えて構成されている。動滑車2bには、一端が簀子Tに連結されて固定端とされて他端が簀子Tに設置された駆動用ウインチWに連結される駆動用索4が掛け回されている。また、簀子Tには、駆動用索4の一端の簀子Tへの連結部位と駆動用ウインチWの双方の下方にそれぞれ定滑車5,6が設けられており、駆動用索4は、これら定滑車5,6にガイドされて下方へ垂らされている。そして、駆動用ウインチWは、駆動用索4を巻き取って繰り出し長を短くすると正面反射板2を上昇させ、駆動用索4を繰り出して繰り出し長を長くすると正面反射板2を下降させる。
【0028】
吊物の位置決め装置1は、簀子Tに設置した電動シリンダ7と、一端が簀子Tに連結されて固定端とされるとともに他端が電動シリンダ7に連結されて正面反射板2の動滑車2bに掛け回される位置決め用索8とを備えて構成されている。本例では、電動シリンダ7は、一つの正面反射板2に対して間口方向に間隔を空けて複数設置されていて、位置決め用索8は、一つの電動シリンダ7に対して三本が連結されるようになっている。また、簀子Tには、位置決め用索8の一端の簀子Tへの連結部位の下方とその近傍にそれぞれ定滑車9,10が設けられており、各位置決め用索8は、それぞれ定滑車9,10にガイドされて下方へ垂らされて動滑車2bに掛け回されている。なお、位置決め用索8の一端は、簀子Tに対してターンバックルを備えた連結具Jを介して連結されており、連結具Jのターンバックルの操作によって、位置決め用索8の簀子Tへの固定点から電動シリンダ7への連結点までの長さを調節可能となっている。
【0029】
そして、位置決め用索8をガイドする定滑車9,10は、駆動用索4をガイドする定滑車5,6よりも舞台Sの手前側に配置されていて、
図2に示すように、小編成のオーケストラに対応する正面反射板2の設置位置の上方に設けられている。また、定滑車9,10でガイドされる位置決め用索8の一端側と他端側の間隔は、動滑車2bの位置決め用索8が掛け回される部位の直径と略等しくなるように設定されていて、動滑車2bで折り返した位置決め用索8の両側が平行に配置される。このようにすると、定滑車9,10でガイドされる位置決め用索8に吊られた状態で正面反射板2が舞台Sに対して奥行方向へ変位しても位置決め用索8同士が干渉しにくくなるとともに、定滑車9,10の設置位置の設定も容易で設置スペースも少なくて済む。
【0030】
電動シリンダ7は、
図3に示すように、モータMを備えた筒状の固定部7aと、固定部7a内に軸方向移動自在に挿入されてモータMの駆動によって固定部7aに対して軸方向へ移動可能な筒状の可動部7bとを備え、伸縮駆動可能とされている。本例では、電動シリンダ7は、固定部7aに対して可動部7bが周方向へ回り止めされており、可動部7b側に図示しないナットが設けられ、固定部7a内にモータMによって駆動されて前記ナットに螺合する螺子軸が設けられている。よって、モータMを駆動すると、螺子軸が回転駆動され固定部7aに対して可動部7bが周方向へ回り止めされる関係で、送り螺子の要領でナットが螺子軸上を軸方向に移動するので、電動シリンダ7が伸縮するようになっている。また、モータMと螺子軸との間には、図外の減速機が設けられており、減速機を通じてモータMの動力を螺子軸に伝達するようになっている。そして、減速機は、本例では、セルフロック機能付の減速機とされており、モータM側から螺子軸を駆動できるが、外力で可動部7b側から軸力が入力されても電動シリンダ7が伸縮できないようになっている。なお、減速機にセルフロック機能を持たせるのではなくて、前述の螺子軸とナットとでセルフロック機能を実現してもよい。また、電動シリンダ7は、モータMの駆動によって固定部7aに対して可動部7bが軸方向へ相対移動するものであればよいので、構造は前述した構造に限られない。さらに、減速機その他にセルフロック機能を持たせるのではなく、固定部7aに対する可動部7bの軸方向の相対移動を阻止するブレーキを設けるようにしてもよい。
【0031】
そして、
図3に示すように、可動部7bの先端には、環状の取付部7cが設けられており、本例では、三本の位置決め用索8が連結されるブラケット11がこの取付部7cにヒンジ結合されている。ブラケット11は、プレート11aと、プレート11aから取付部7c側へ延びて取付部7cを挟む位置に配置される一対の取付片11bと、プレート11aから位置決め用索8側へ延びる四つの索取付片11cと、取付部7c内に挿入されるともに取付片11bを貫いて
図3中上下両側へ突出する取付ピン11dと、取付ピン11dの両端に回転自在に装着される一対のローラ11eと、索取付片11cを貫通してこれらに固定される索取付ロッド11fとを備えて構成されている。
【0032】
そして、各位置決め用索8の他端である電動シリンダ7側端は、ループ加工されていて、環状のアイ部が形成されており、索取付片11c間にアイ部を挿入して、索取付ロッド11fをアイ部に挿入しつつ索取付片11cに装着すると、ブラケット11に三つの位置決め用索8が連結される。また、ブラケット11は、電動シリンダ7の可動部7bにおける取付部7cに取付ピン11dで連結される。
【0033】
また、簀子Tには、
図3および
図4に示すように、断面C型であって互いに開口側を可動部7bの先端のストローク範囲に向け合って可動部7bの両側にそれぞれ配置されるガイド部材12が設けられている。ガイド部材12は、簀子Tに対して舞台Sに対して平行であって舞台Sの奥行方向に沿って取り付けられている。そして、ガイド部材12内には、取付ピン11dの両端に設けたローラ11eが挿入されており、ローラ11eは、ガイド部材12内を走行できるようになっている。
【0034】
さらに、電動シリンダ7は、
図3に示すように、固定部7aの端部側方には、トラニオン7dが設けられており、簀子Tにはトラニオン7dを回転自在に保持する保持部13が設けられている。よって、固定部7aが簀子Tに対してトラニオン7dを中心として
図1中上下方向へ回転可能に連結され、可動部7bはブラケット11にヒンジ結合される。他方、可動部7bは、ブラケット11の取付ピン11dにヒンジ結合されてはいるものの、取付ピン11dの両端のローラ11eがガイド部材12を走行するので、可動部7bは、ガイド部材12によって案内されて舞台Sの奥行方向へ移動できる。よって、電動シリンダ7は、簀子Tに水平横置きに取付けられて、固定部7aに対して可動部7bを舞台Sの奥行方向に沿って相対移動させて伸縮するようになっている。
【0035】
このように、電動シリンダ7は、固定部7aが簀子Tにヒンジ結合され、可動部7bが位置決め用索8に連結されたブラケット11にヒンジ結合されるとともに、ガイド部材12によって水平に保たれるよう設置されるので、簀子Tに寸法公差や撓みがあっても無理なく簀子Tに設置できる。なお、電動シリンダ7は、簀子Tに固定部7aを固定的に取付けて設置されてもよいが、電動シリンダ7は最伸長すると長尺で簀子Tに撓みや公差があると可動部7bの先端が定滑車10に対して上下方向にずれてしまう場合がある。そうすると、位置決め用索8の
張力によって電動シリンダ7に無用な横荷重が作用してしまう場合があるが、前述の構造を採用すると、簀子Tの撓みや公差によらず、定滑車10の近傍まで延びるガイド部材12で可動部7bの先端を適正な位置に案内できるので、このような横力の入力を回避できる。また、正面反射板2が
図1の破線で示す格納位置に配置されて、位置決め用索8で正面反射板2の重量を全く分担しない状態となっても、電動シリンダ7が水平姿勢に保たれて電動シリンダ7がトラニオン7dを中心として可動部7b側が下方へ回転しないので、電動シリンダ7の配線や信号線を傷めることもない。
【0036】
つづいて、このように構成された吊物の位置決め装置1の作動について説明する。
図1に示すように、駆動用ウインチWで駆動用索4を最大限に巻き取ると、正面反射板2を破線で示す舞台Sの奥側の上方の格納位置に配置できる。この状態では、正面反射板2は、駆動用索4の張力のみで吊られた状態となっており、吊物の位置決め装置1における位置決め用索8は、破線で示すように、弛んで自重で撓んだ状態となっている。この状態では、電動シリンダ7を伸長させてあるが収縮させておいてもよい。
【0037】
次に、正面反射板2を大編成のオーケストラを収容する大編成位置に位置決めするには、電動シリンダ7を予め定めた設定範囲内で最伸長させて位置決め用索8の繰り出し長さを設定された範囲で最長とする。そして、駆動用ウインチWで駆動用索4を繰り出して、正面反射板2を格納位置から徐々に下降させる。正面反射板2が下降して下端が舞台Sに近づくと、位置決め用索8でも正面反射板2の重量を分担して支持するようになり、正面反射板2が
図1中で実線で示す大編成位置に位置決めされる状態では、駆動用索4と位置決め用索8の張力が釣り合って両者が等分に正面反射板2の重量を支持するようになる。このように正面反射板2が大編成位置に位置決めされると、正面反射板2の舞台Sの手前側への傾きに対しては駆動用索4で、正面反射板2の舞台Sの奥側への傾きに対しては位置決め用索8で阻止される。電動シリンダ7は、外力で伸縮しないようにロック状態となり、駆動用ウインチWにもブレーキが設けられているので、正面反射板2の傾きを防止できる。
【0038】
さらに、正面反射板2を大編成位置から小編成のオーケストラを収容する
図2に示す小編成位置に位置決めするには、電動シリンダ7を収縮させて位置決め用索8の繰り出し長さを短くして正面反射板2を舞台Sから一端浮かせ、続き、駆動用ウインチWで駆動用索4を繰り出しつつ、電動シリンダ7を収縮させて位置決め用索8の繰り出し長さを短くしていく。すると、正面反射板2の分担する重量が駆動用索4から位置決め用索8へ移っていき、最終的に、位置決め用索8が定滑車9,10から鉛直に吊り下げられる状態となり、正面反射板2が
図2に示す小編成位置に位置決めされる。このように正面反射板2が小編成位置に位置決めされると、位置決め用索8で正面反射板2の傾きが阻止される。
【0039】
このように吊物の位置決め装置1は、位置決め用索8の繰り出し長さの調整を電動シリンダ7のストロークによって賄って吊物としての正面反射板2の位置決めを行える。なお、大編成位置と小編成位置の中間に正面反射板2の停止位置を一つ或いは複数設定してもよく、これらの停止位置への位置決めも電動シリンダ7の伸縮によって行える。つまり、正面反射板2の位置決めの際に位置決め用索8における繰り出し長さの調整量は、電動シリンダ7のストローク量で対応でき、従来のように高価なウインチを利用する必要がなくなるのである。正面反射板2の舞台S上での位置調整は、位置決め用索8の繰り出し長さの調整量が比較的少ないので、本発明の吊物の位置決め装置1は、正面反射板2の位置決めに好適である。
【0040】
以上より、本発明の吊物の位置決め装置1によれば、高価で大型なウインチに比して簀子Tへの設置スペースを取らず安価な電動シリンダ7を利用しているので、吊物の位置決め装置1を簀子Tに設置する際に大きなスペースの確保が不要となり、かつ、吊物の位置決め装置1が安価となる。
【0041】
なお、電動シリンダ7で正面反射板2を大編成位置に位置決めした状態でも、電動シリンダ7の伸長側へのストロークに余裕を持たせてあり、電動シリンダ7で正面反射板2を小編成位置に位置決めした状態でも、電動シリンダ7の収縮側へのストロークに余裕を持たせている。つまり、本例では、電動シリンダ7は、正面反射板2の位置調整範囲でストロークしても伸長側と収縮側にそれぞれストローク余裕を有している。なお、具体的には、電動シリンダ7の正面反射板2の位置決めにあたってストロークする範囲は前述した所定の範囲に設定してあり、伸長側にも収縮側にもストローク余裕が生じるように位置決め用索8の全長を初期設定してある。したがって、長期間の使用により、或いは、温度変化によって位置決め用索8の全長が変化しても、ある程度は、全長の変化に合わせて電動シリンダ7を正面反射板2の位置調整時に使用するストロークさせる範囲を伸長側或いは収縮側へのシフトによって当該変化を吸収できる。よって、位置決め用索8の全長が変化すると連結具Jによる調整を行うといった面倒な作業の頻度を緩和できる。
【0042】
なお、本例では、吊物として正面反射板2の位置決めを行う例を挙げて本発明を説明しているが、本発明の吊物の位置決め装置1は、正面反射板2の他にもホールや劇場にて位置決めが必要な簀子Tから吊り下げられる器具等、吊物全般に器具の位置決めに利用できる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1・・・吊物の位置決め装置、2・・・正面反射板(吊物)、2b・・・動滑車、7・・・電動シリンダ、7a・・・固定部、7b・・・可動部、8・・・位置決め用索、11・・・ブラケット、12・・・ガイド部材、S・・・舞台、T・・・簀子