特許第6832770号(P6832770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832770
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】熱化学蒸着装置の基板ホルダー
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/458 20060101AFI20210215BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20210215BHJP
   C30B 25/12 20060101ALI20210215BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20210215BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C23C16/458
   C30B29/36 A
   C30B25/12
   H01L21/205
   H01L21/68 N
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-63995(P2017-63995)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-165395(P2018-165395A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2019年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 渉
(72)【発明者】
【氏名】藍郷 崇
(72)【発明者】
【氏名】藤本 辰雄
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】立川 昭義
(72)【発明者】
【氏名】清水 昌芳
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−071210(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0211148(US,A1)
【文献】 特開2015−141966(JP,A)
【文献】 特表2017−510088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/458
C30B 25/12
C30B 29/36
H01L 21/205
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる熱化学蒸着装置で用いられる円盤状の基板ホルダーであって、
開口部の形状が円形又は略円形をして基板が収容される凹部を複数有して、該凹部の内周側面が、凹部の底面部から開口部に向けて拡径するようにテーパー状に傾斜していること
前記凹部として、収容された基板の中心が基板ホルダーの同心円上に並ぶように配置された円配置凹部を有しており、これら円配置凹部におけるそれぞれの内周側面は、底面部に沿って水平方向に伸ばした仮想直線Lに対する傾斜角θが前記同心円の内側と外側とで異なること、
前記円配置凹部における同心円外側の内周側面の傾斜角θoutに比べて同心円内側の内周側面の傾斜角θinの方が小さく、同心円内側の内周側面の傾斜が同心円外側の内周側面の傾斜に比べて緩いこと、及び
前記円配置凹部における同心円内側の内周側面の傾斜角θinが15度以上40度未満の範囲内であり、前記円配置凹部における同心円外側の内周側面の傾斜角θoutが40度以上90度未満の範囲内であることを特徴とする熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
【請求項2】
基板ホルダーの中心に対応する位置に中心配置凹部を有して基板を収容し、基板ホルダーの同心円に対応する前記円配置凹部を1組又は2組以上有して基板を収容して、前記中心配置凹部の内周側面の傾斜角が15度以上40度未満であることを特徴とする請求項に記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
【請求項3】
前記基板が炭化珪素単結晶基板であり、前記単結晶薄膜が炭化珪素単結晶薄膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
【請求項4】
前記基板ホルダーが、カーボン製基材の表面に炭化珪素が10μm以上200μm以下の範囲で被覆されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱化学蒸着装置によって基板上に単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる際に用いられて、基板を保持するための基板ホルダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(以下、SiCと表記する)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、物理的、化学的に安定なことから、耐環境性半導体材料として注目されている。また、近年、高周波高耐圧電子デバイス等の基板としてエピタキシャルSiC単結晶ウェハの需要が高まっている。
【0003】
SiC単結晶基板(以下、単にSiC基板という場合がある)を用いて、電力デバイスや高周波デバイス等を作製する場合には、通常、SiC基板上に熱化学蒸着法(以降、熱CVD法と呼ぶ)によってSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させたエピタキシャルSiC単結晶ウェハを得るようにする。SiC基板上にさらにSiCのエピタキシャル成長膜を形成する理由は、N型またはP型の不純物のドーピング密度を制御した層を使ってデバイス層を形成するためである。
【0004】
この熱CVD法を利用する際には、一般に、熱化学蒸着装置における成長室内の基板ホルダー上にSiC基板を載せて、基板ホルダーを回転させながら、SiC基板の直上に例えばシランガスやクロロシランガス等のシリコン原料ガスとプロパンやメタン等の炭化水素ガスとを混合した原料ガスを水素等のキャリアガスと共に供給して、SiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる方法が採用されている(例えば非特許文献1参照)。その際、SiC基板を基板ホルダーに載せるために、基板ホルダー表面にSiC基板の厚さ相当の溝(凹部)を形成しておき、その中にSiC基板を配置してSiC基板を固定搭載し、SiC基板に対して略水平となるように横から上記のような原料ガスを流すのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところが、特許文献1で開示されているような基板ホルダーであると、成長を続けていくうちにエピタキシャル膜の表面に微細な粒子(以降、パーティクルと呼ぶ)が増えていく問題がある。これは、基板ホルダーの表面に炭化珪素膜が堆積していき、累積膜厚が200μm程度まで厚くなると、堆積膜が剥離しやすくなることが原因と考えられる。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献2では複数ある凹部を互いに連結した構造の基板ホルダーを開示している。これは凹部と凹部に挟まれた薄い壁部分が誘導加熱されやすく局所的に温度が上がりやすいために、この領域が特に堆積物が剥がれ易いためとして、これを回避するために考案されたものである。
【0007】
ところが、このような複数の溝が連結した構造とすると、特にドーピング密度が低い領域、例えば、10E15cm−3台の前半を目標とするようにエピタキシャル成長させると、連結部分に位置していたSiC基板の領域でドーピング密度が下がる傾向を示すことが分かった。このような面内のばらつきはデバイス化したときに設計値のばらつきに繋がり、歩留まり低下を招く。
【0008】
また、複数の溝が連結していると、連結領域からSiC基板の裏面に原料ガスが回りこむことが原因で、得られたエピタキシャルSiC単結晶ウェハには、意図しない膜が形成(堆積)されてしまう弊害もあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−159947号公報
【特許文献2】特開2015−141966号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Materials Science Forum Vols.45-648(2010),pp77-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる問題、すなわち、熱CVD法によるエピタキシャル成長において、剥離した堆積膜に由来するパーティクルの問題のほか、得られたエピタキシャルSiC単結晶ウェハにおける面内のドーピング密度のばらつきや、SiC基板裏面への意図しない膜の形成に関する問題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した問題を解決することに取り組んだ本発明者らは、従来使用されている基板ホルダーでは、少なくとも面内のドーピング密度のばらつきは改善が困難との結論に至り、個々のSiC基板を収容する凹部は連結させずに独立した構造を維持した上で、如何にパーティクルを抑制するかを鋭意検討した。その結果、凹部の底面部から開口部に向けて拡径するように、凹部の内周側面をテーパー状に傾斜させ、その傾斜の程度を基板ホルダーにおける相対的な位置関係のもとで設定することで、パーティクルの問題と共に、ドーピング密度のばらつきや基板の裏面側への意図しない膜の形成の問題をいずれも解決することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)基板上に単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる熱化学蒸着装置で用いられる円盤状の基板ホルダーであって、
開口部の形状が円形又は略円形をして基板が収容される凹部を複数有して、該凹部の内周側面が、凹部の底面部から開口部に向けて拡径するようにテーパー状に傾斜していることを特徴とする熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
(2)前記凹部として、収容された基板の中心が基板ホルダーの同心円上に並ぶように配置された円配置凹部を有しており、これら円配置凹部におけるそれぞれの内周側面は、底面部に沿って水平方向に伸ばした仮想直線Lに対する傾斜角θが前記同心円の内側と外側とで異なることを特徴とする(1)に記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
(3)前記円配置凹部における同心円外側の内周側面の傾斜角θoutに比べて同心円内側の内周側面の傾斜角θinの方が小さく、同心円内側の内周側面の傾斜が同心円外側の内周側面の傾斜に比べて緩いことを特徴とする(2)に記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
(4)前記円配置凹部における同心円内側の内周側面の傾斜角θinが15度以上40度未満の範囲内であり、前記円配置凹部における同心円外側の内周側面の傾斜角θoutが40度以上90度未満の範囲内であることを特徴とする(3)に記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
(5)基板ホルダーの中心に対応する位置に中心配置凹部を有して基板を収容し、基板ホルダーの同心円に対応する前記円配置凹部を1組又は2組以上有して基板を収容して、前記中心配置凹部の内周側面の傾斜角が15度以上40度未満であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
(6)前記基板が炭化珪素単結晶基板であり、前記単結晶薄膜が炭化珪素単結晶薄膜であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
(7)前記基板ホルダーが、カーボン製基材の表面に炭化珪素が10μm以上200μm以下の範囲で被覆されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の熱化学蒸着装置の基板ホルダー。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱化学蒸着法によるエピタキシャル成長の際に生ずるパーティクルの発生を効果的に抑制でき、しかも、例えば、炭化珪素単結晶薄膜等を成長させる際のドーピング密度のばらつきを抑えることができると共に、従来の技術で併発していた基板の裏面への堆積物の形成も回避できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明による基板ホルダーに設けられた円形又は略円形の開口部を有する凹部の構造を説明するための断面模式図である。
図2図2は、本発明による基板ホルダーを説明するための平面模式図であり、基板ホルダー内に円配置凹部が複数配置された例を示したものである。
図3図3は、円配置凹部を説明するための平面模式図である。
図4図4は、円配置凹部を説明するための断面模式図(図2におけるX−X断面)である。
図5図5は、円配置凹部の他の例を説明するための平面模式図である。
図6図6(a)〜(d)は、本発明による基板ホルダーに設けられた凹部の配置例を示したものであり、凹部における点線が同心円内側の内周側面に該当する箇所を表し、実線が同心円外側の内周側面に該当する箇所を表す。
図7図7は、実施例1に係る基板ホルダーを使ってエピタキシャル成長させた膜の面内のドーピング密度の測定結果を示す。
図8図8は、比較例1に係る基板ホルダーを使ってエピタキシャル成長させた膜の面内のドーピング密度の測定結果を示す。
図9図9は、実施例1に係る基板ホルダーと、比較例1に係るホルダーを使用して、熱化学蒸着装置で炭化珪素のエピタキシャル成長を繰り返し、累積膜厚とパーティクルの発生密度の挙動を調査した結果である。
図10図10は、従来の基板ホルダーに設けられた凹部の構造を説明するための断面模式図である。
図11図11は、比較例1で使用した基板ホルダーを説明するための平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、ここでは、好適な例として基板が炭化珪素(SiC)単結晶基板であり、単結晶薄膜がSiC単結晶薄膜の場合を説明するが、本発明の基板ホルダーは、これらの用途に制限されるものではない。
図1は、本発明の詳細を説明するため、円盤状基板ホルダー(以下、単に基板ホルダーという)1に設けられた一部の凹部6について断面図を示したものである。すなわち、本発明における基板ホルダー1は、開口部が円形又は略円形をしてSiC単結晶基板2が収容される凹部6を複数有しており、これらの凹部6の内周側面4は、凹部6の底面部3から開口部に向けて拡径するようにテーパー状に傾斜している(凹部6の内周側面4が結晶成長方向に拡大するようにθの角度だけ傾斜している)。図10に示した従来例のように、凹部6の内周側面4が傾斜していない場合(すなわち、θ=90度の場合)、内周側面4の頂点部に堆積したSiCがはがれやすいため(図中に破線で示した丸の部分)、パーティクルが発生し易くなるが、本発明のように内周側面4を傾斜させることで、エピタキシャル成長を繰り返したときでもパーティクルの発生を抑えることができる。
【0017】
ここで、SiC単結晶基板2が収容される凹部6の開口部が略円形であるとは、後述する円配置凹部の場合には、同心円の内側と外側とで内周側面4の傾斜角が異なることから、開口部の形状が楕円のように円の一部が歪むことを表したものであり、開口部が円形であるとは、同じく中心配置凹部の場合には、内周側面4の傾斜角が一定であるため、円が歪まずに真円(完全な円)となることを表したものである。また、本発明で言う内周側面4の傾斜角θとは、凹部6の底面部から水平方向に伸ばした仮想直線Lに対する内周側面4の傾斜角度(鋭角)を表すものである。
【0018】
また、基板ホルダー内に複数の凹部6を形成した場合には、基板ホルダーに対して各凹部は同心円の関係でないため、基板ホルダーを回転させたときに、SiC単結晶基板に対して凹部の内周側面は周方向にわたって異なる環境となる。そのため、本発明では、凹部の内周側面の傾斜を基板ホルダーの中心側に位置するものと外周側に位置するものとで傾斜角度を変えることができる。例えば、図2に示されるように、収容されたSiC単結晶基板2の中心Oが基板ホルダー1の同心円7上に並ぶように配置された円配置凹部6aについては、それぞれ内周側面4の傾斜角θが同心円7の内側と外側とで異なるようにすることができる。すなわち、円配置凹部6aにおいて、同心円7の内側の内周側面の傾斜角度をθinとし、同心円7の外側の内周側面4の傾斜角度をθoutとすると、θin≠θoutとすることができる。
【0019】
θin≠θoutとすることが望ましい理由は、以下の通りである。すなわち、円配置凹部6aの内周側面4は、垂直に近い(θが90度に近い)ほどパーティクルの発生確率が高くなるためθを極力小さくするのが有利であるが、あまり小さくなり過ぎると、円配置凹部6a内でのSiC単結晶基板2の固定が不安定になるため、基板ホルダー1の回転の影響でずれ易くなり、保持されなくなるおそれがある。特に、基板ホルダー1の外周側に位置する内周側面4は、遠心力に抗してSiC単結晶基板2を固定する必要があるため、基板ホルダー1の中心側に位置する内周側面4より傾斜を大きくする必要がある。そのため、基板ホルダー1の中心側に位置する内周側面の傾斜の方が基板ホルダー1の外周側に位置する内周側面の傾斜に比べて緩くなるようにして、θin<θoutとするのが好ましい。
【0020】
図3には、円配置凹部6aの平面図が示されており、図示外のSiC単結晶基板が載置される底面部3を取り囲む内周側面4の様子が詳しく描かれている。また、図4には、この円配置凹部6aの断面図(図2におけるX−X断面)が示されている。図3では、SiC単結晶基板の中心Oを通る基板ホルダー1の同心円7と、この同心円7が円配置凹部6aの開口部5と交わる点A、Bが示されており、弧ACBに相当する部分が同心円7の外側にあたる内周側面4aに相当する箇所であり、弧ADBに相当する部分が同心円7の内側にあたる内周側面4bに相当する箇所である。
【0021】
上述したように、同心円7の外側にあたる内周側面4aの傾斜角θoutに比べて、同心円7の内側にあたる内周側面4bの傾斜角θinの方が小さくなるようにするのがよく、より具体的には、同心円内側の内周側面4bの傾斜角θinが15度以上40度未満(15°≦θin<40°)の範囲内であり、同心円外側の内周側面4aの傾斜角θoutが40度以上90度未満(40°≦θout<90°)の範囲内となるようにするのがよい。ここで、同心円内側の内周側面4bの傾斜角θinが15度未満となると基板ホルダー1の回転によって遠心力を保持する必要はないものの、円配置凹部6a内でSiC単結晶基板2がずれやすくなってしまうおそれがある。また、同心円外側の内周側面4aの傾斜角θoutを90度未満にするのは前述したとおりである。内周側面4aと内周側面4bとの傾斜角の区切りとなる40度は、実験を重ねながら最適値を探り当てた結果である。ここで、点Aから点Dにかけての弧ADの間と、点Bから点Dにかけての弧BDの間は、それぞれ内周側面4bの傾斜角θinが漸減するように徐々に傾斜が緩くなるようにして、点Dでの内周側面4bの傾斜が最も緩くなるようにするのがよい。また、点Aから点Cにかけての弧ACの間と、点Bから点Cにかけての弧BCの間は、それぞれ内周側面4aの傾斜角θoutが漸増するように徐々に傾斜が強くなるようにして、点Cでの内周側面4aの傾斜が最も強くなるようにするのがよい。なお、点C、Dを通る直線は、基板ホルダー1の直径上のものである。
【0022】
一方で、図5に示したように、同心円7の外側にあたる内周側面4aと同心円7の内側にあたる内周側面4bとの境界部分において、それぞれの内周側面の傾斜角が徐々に変わる徐変範囲を設けるようにして(図中のA−E間及びB−F間が同心円7の外側の内周側面4aの徐変範囲であり、A−G間及びB-H間が同心円7の内側の内周側面4bの徐変範囲を示す)、それ以外では、同心円7の外側にあたる内周側面4aの傾斜角θoutと、同心円7の内側にあたる内周側面4bの傾斜角θinとが、それぞれ一定になるようにしてもよい。ここでの内周側面4aの傾斜角θoutや内周側面4bの傾斜角θinは上述した角度範囲となるようにし、また、徐変範囲における角度変化は、同心円7の外側の内周側面4aと同心円7の内側の内周側面4bとでそれぞれ5度から20度程度の範囲となるようにするのがよい。
【0023】
基板ホルダー1に設けられる複数の凹部6は、ホルダーの径と凹部の径の関係から形成できる数に制限がかかるが、最大限形成すると一つの処理で得られるエピタキシャルウェハは最大になるので、製造効率を高めることができる。一方、基板ホルダー1の外側周囲は、得られるSiC薄膜の膜厚やドープ密度が不均一になりやすいので、エピタキシャルSiC単結晶ウェハに求められる均一性が高い場合には、製造効率を犠牲にして凹部6の数を減らし、極力基板ホルダー1の中央に凹部6を寄せた方が良い。
【0024】
図6には、基板ホルダー1での複数の凹部6の配置例が示されている。このうち、図6(a)は、収容されたSiC単結晶基板の中心が基板ホルダー1の同心円上に並ぶように配置された3つの円配置凹部6aを備える例であり、図6(b)は、5つの円配置凹部6aのほかに、基板ホルダー1の中心でSiC単結晶基板を収容する中心配置凹部6bを備える例である。図6(c)及び(d)は、より多くのSiC単結晶基板を収容する基板ホルダー1の例であり、図6(c)では、12個の円配置凹部6aと中心配置凹部6bを備え、図6(d)では、同心円が異なる2組の円配置凹部6aと、その中央に位置する中心配置凹部6bを備えたものが示されている。これら図6(a)〜(d)の例では、円配置凹部6aにおける同心円内側の内周側面に該当する箇所は破線で示し、同心円外側の内周側面に該当する箇所は実線で示している。なお、中心配置凹部6bでは、基板ホルダー1の回転の際に遠心力が掛からないため(遠心力の偏りがないため)、円配置凹部6aにおける同心円内側の内周側面の傾斜角θinを適用することができる。つまり、中心配置凹部6bの内周側面の傾斜角は15度以上40度未満にするのがよい。
【0025】
また、本発明における基板ホルダー1の材質については、エピタキシャル成長時において1500℃を超える高温でも高い強度を有するカーボン製であるのが好ましい。ただし、カーボンが露出しているとパーティクルの発生原因になるため、耐熱性に優れた炭化珪素がその表面を被覆している構造とすることが好ましい。すなわち、より好ましくは、カーボン製基材の表面に炭化珪素が被覆された基板ホルダー1であるのがよい。ここで、炭化珪素の被覆層の厚みは10μm以上200μm以下の範囲であるのがよい。炭化珪素のエピタキシャル成長時のように原料ガスが流れている間は、ホルダー表面には堆積物が形成されるが、成長前後の原料ガスが流れていないときはキャリアガスである水素ガスによってエッチングが起きるなどダメージを受けやすい。そのため、耐久性を確保するためにも、少なくとも10μmの炭化珪素で被覆された被覆層が形成されているのが好ましい。ただし、あまり厚くなりすぎるとカーボン製基材から炭化珪素被覆が剥離しやすくなるため200μm以下が望ましい。
【0026】
本発明における基板ホルダーは、上記のようにSiC単結晶基板に対してSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる場合のほか、各種基板に対して熱CVD法によりエピタキシャル膜を成膜する際にも同様に用いることができ、剥離した堆積膜に由来するパーティクルの問題や基板裏面への意図しない膜の形成に関する問題等を解消することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の内容に制限されるものではない。
【0028】
(実施例1)
図2に示したように、5枚の円形状のSiC単結晶基板2を収容できるよう、お互い独立した凹部を5個有する基板ホルダー1を用いて、熱化学蒸着法によりエピタキシャルSiC単結晶ウェハを製造した。この基板ホルダー1は、カーボン製基材の表面に炭化珪素がおよそ80μmの膜厚で被覆されたものであり、収容されたSiC単結晶基板2の中心Oが基板ホルダー1の同心円7上に並ぶように配置された5つの円配置凹部6aを有している。これらの円配置凹部6aは、図5に示したように、同心円7の外側にあたる弧ECFに対応した内周側面4aの傾斜角θoutが45度であり、同心円7の内側にあたる弧GDHに対応した内周側面4bの傾斜角θinが25度である。また、これら内周側面4aと内周側面4bとの境界部分は、弧EAGと弧FBHに相当する徐変範囲(それぞれ周方向に約5mm)を備えており、E−A間で傾斜角がおよそ5度下がり、A−G間で傾斜角がおよそ15度下がるように、滑らかに(傾斜角の変化が連続的に)連結されている(弧FBHについても同様)。一方で、これらの円配置凹部6aには、いずれもSiC単結晶基板2が載置される直径d=101mmの底面部3が形成され、底面部3から基板ホルダー1の表面までの高さはh=0.4mmである。
【0029】
また、用いたSiC単結晶基板は、いずれも直径100mm、厚さ380μm、オフ角度4°であり、このSiC単結晶基板5枚を上記の基板ホルダー1の凹部6aに配置し、熱化学蒸着装置の成長室内に搭載した。基板ホルダー1の回転速度は30回転/分(rpm)とし、プロパンガスを毎分40cc(以下、sccmの単位を使う)、シランガスを100sccmで水素キャリアガスとともに成長室に導入した。水素ガスの流量は、毎分60リットル(以下、slmの単位を使う)とした。また、ドーピングガスとして、水素で1%に希釈した窒素/水素混合ガスを20sccmで導入した。そして、成長雰囲気は5kPaとし、これらのガスをSiC単結晶基板2に対して略水平となるように横から流して、1630℃で1時間のエピタキシャル成長を実施した。
【0030】
成長終了後、熱化学蒸着装置の成長室から基板ホルダー1を取り出したところ、5枚のSiC単結晶基板2は基板ホルダー1からずれることもなく、当初設置したとおりに収容されていることを確認した。その後、エピタキシャル成長させたSiC単結晶基板(エピタキシャルSiC単結晶ウェハ)のうちの1枚を使ってドーピング密度の評価を行った。評価方法は、フォーディメンジョン社製CV測定装置を使い、ウェハ表面の25点測定を行った。25点のドーピング密度の面内分布を図7に示す。
【0031】
この図7から分かるように、平均のドーピング密度が2E15cm−3と低ドープ領域にもかかわらず、ウェハ下部(第一オリフラ)でドーピング密度が高い領域〔図中の(i)の箇所〕を除けば、全面がほぼフラットなドーピング密度となっていることが分かった。
【0032】
次に、上記でドーピング密度を評価したものと同じウェハを使って、裏面の堆積物評価を行った。方法は、二次イオン質量分析装置(島津製作所製)を使い、裏面の最表層から深さ方向に構成元素および不純物元素の分布状態を調査した。その結果、珪素、炭素、窒素が最表層から深さ方向にかけて均一に分布しており、また不純物元素の存在は確認できなかった。これは、裏面に意図しない堆積物が形成されていないことを示している。
【0033】
(比較例1)
図11に示したように、5枚のSiC単結晶基板2を収容することができる底面部が連結した構造の連結凹部16を備えた基板ホルダーを用いて、実施例1と同じように熱化学蒸着法によりエピタキシャルSiC単結晶ウェハを製造した。この基板ホルダー1の材質は実施例1と同様に、カーボン製基材の表面に炭化珪素がおよそ80μmの膜厚で被覆されたものであり、底面部から基板ホルダー1の表面までの高さはh=0.4mmである。また、この連結凹部16の内周側面の傾斜角θは全ての箇所で90度である。この基板ホルダー1を用いて、5枚のSiC単結晶基板2に対して実施例1と同様にして1630℃で1時間のエピタキシャル成長を実施した。
【0034】
成長終了後、熱化学蒸着装置の成長室から基板ホルダー1を取り出したところ、5枚のSiC単結晶基板2は基板ホルダー1から目立つずれもなく、当初設置したとおりに収容されていることを確認した。その後、エピタキシャル成長させたSiC単結晶基板(エピタキシャルSiC単結晶ウェハ)のうちの1枚を使って、実施例1と同様にドーピング密度の評価を行った。面内25点のドーピング密度の面内分布を図8に示す。
【0035】
図8から分かるように、時計の針の2時、10時の方向のところで〔図中の(ii)の箇所〕ドーピング密度の大きな落ち込みが確認された。
【0036】
次に、同じウェハを使って、実施例1と同様に裏面の堆積物評価を行った。その結果、最表層にはSiC基板より濃度の低い窒素の層があることが確認された。また、光学顕微鏡観察では、荒れた表面になっていることが観察できた。これらは、裏面に意図しない堆積物が形成されていることを示している。
【0037】
また、実施例1の基板ホルダー(本発明ホルダー)と、比較例1の基板ホルダー(従来ホルダー)を使い、熱化学蒸着装置で炭化珪素のエピタキシャル成長を繰り返して行い、累積膜厚とパーティクルの発生密度の挙動を調査した。結果を図9に示す。この図9を得るにあたっては、1回で膜厚10μmのエピタキシャル成長を行い、成長ごとに新たなSiC単結晶基板を基板ホルダーに載せるようにして、得られたエピタキシャルSiC単結晶ウェハに付着していたパーティクルを測定して、基板ホルダーの累積膜厚に対するエピタキシャルSiC単結晶ウェハ上のパーティクル密度の変化を表記した。
【0038】
図9からわかるように、本発明に係る基板ホルダーを用いることによって、パーティクルの発生が効果的に抑えられていることが確認できた。
【符号の説明】
【0039】
1:基板ホルダー、2:SiC単結晶基板、3:底面部、4、4a、4b:内周側面、5:開口部、6:凹部、6a:円配置凹部、6b:中心配置凹部、7:基板ホルダーの同心円、16:連結凹部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11