特許第6832907号(P6832907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832907
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】抗TROP2抗体−薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20210215BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20210215BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20210215BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C07K16/30ZNA
   C12N15/13
   C12P21/08
   A61K47/68
   A61K31/4745
   A61P35/00
【請求項の数】15
【全頁数】106
(21)【出願番号】特願2018-227733(P2018-227733)
(22)【出願日】2018年12月5日
(62)【分割の表示】特願2017-79392(P2017-79392)の分割
【原出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2019-69951(P2019-69951A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-267548(P2013-267548)
(32)【優先日】2013年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】我妻 利紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 淳
(72)【発明者】
【氏名】岡嶌 大祐
(72)【発明者】
【氏名】濱田 洋文
(72)【発明者】
【氏名】山口 美樹
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0293513(US,A1)
【文献】 特表2009−538629(JP,A)
【文献】 特表2008−521828(JP,A)
【文献】 特表2005−511627(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/025825(WO,A1)
【文献】 特開2012−100671(JP,A)
【文献】 特表2013−534906(JP,A)
【文献】 Ikuo MITSUI et al.,Jpn. J. Cancer Res.,1995年,86,p.776-782
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式で示されるリンカー及び薬物と、抗TROP2抗体と、が結合した抗体−薬物コンジュゲート
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
(式中、
-(Succinimid-3-yl-N)-は次式:
【化1】
で示される構造であり、このものの3位で抗TROP2抗体とチオエーテル結合によって結合し、1位の窒素原子上でこれを含むリンカー構造内のメチレン基と結合し、
-(NH-DX)は次式:
【化2】
で示される、1位のアミノ基の窒素原子が結合部位となっている基を示す。)
【請求項2】
抗TROP2抗体が、配列番号23に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号24に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号25に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号27に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号28に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、請求項1に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項3】
抗TROP2抗体が、
配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、
配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、
配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、並びに、
配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、
からなる群から選択される重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域を含む抗体である、請求項1に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項4】
抗TROP2抗体が、
配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、並びに、
配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
からなる群から選択される重鎖及び軽鎖からなる抗体である、請求項1に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項5】
抗TROP2抗体が、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域を含む抗体である、請求項3に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項6】
抗TROP2抗体が、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体である、請求項4に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項7】
抗TROP2抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、請求項4に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項8】
抗TROP2抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、請求項6に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項9】
薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が2から8個の範囲である請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項10】
薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が3から8個の範囲である請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート、その塩、又はそれらの水和物を含有する医薬。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート、その塩、又はそれらの水和物を含有する抗腫瘍薬及び/又は抗癌薬。
【請求項13】
肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、子宮頸癌、頭頸部癌、又は食道癌に適用するための請求項12に記載の抗腫瘍薬及び/又は抗癌薬。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート、その塩、又はそれらの水和物を活性成分とし、薬学的に許容される製剤成分とを含有する医薬組成物。
【請求項15】
肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、子宮頸癌、頭頸部癌、又は食道癌に適用するための請求項14記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗TROP2抗体と抗腫瘍性薬物とをリンカー構造部分を介して結合させた、抗腫瘍薬として有用な抗体−薬物コンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞表面に発現し、かつ細胞に内在化できる抗原に結合する抗体に、細胞毒性を有する薬物を結合させた抗体−薬物コンジュゲート(Antibody-Drug Conjugate;ADC)は、癌細胞に選択的に薬物を送達できることによって、癌細胞内に薬物を蓄積させ、癌細胞を死滅させることが期待できる(非特許文献1〜3参照)。ADCとして例えば、抗CD33抗体に
カリチアマイシンを結合させたMylotarg(登録商標;ゲムツズマブオゾガマイシン)が急性骨髄性白血病の治療薬として認可されている。また、抗CD30抗体にオーリスタチンEを結合させたAdcetris(登録商標;ブレンツキシマブベドティン)がホジキンリンパ腫と未分化大細胞リンパ腫の治療薬として最近認可された(非特許文献4参照)。これまでに認可されたADCに含有される薬物は、DNA又はチューブリンを標的としている。
【0003】
抗腫瘍性の低分子化合物としてトポイソメラーゼIを阻害して抗腫瘍作用を発現する化合物であるカンプトテシン誘導体が知られている。その中で下式
【0004】
【化1】
【0005】
で示される抗腫瘍性化合物(エキサテカン、化学名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-2,3-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13(9H,15H)-ジオン)は、水溶性のカンプトテシン誘導体である(特許文献1、2)。この化合物は、現在臨床で用いられているイリノテカンとは異なり、抗腫瘍効果の発現には酵素による活性化を必要としない。また、イリノテカンの薬効本体であるSN-38や、同じく臨床で用いられているトポテカンよりもトポイソメラーゼI
阻害活性が強く、invitroで種々の癌細胞に対して、より強い殺細胞活性を有している。
特にP-glycoproteinの発現によってSN-38等に耐性を示す癌細胞に対しても効果を示した
。また、マウスのヒト腫瘍皮下移植モデルでも強い抗腫瘍効果を示し、臨床試験が行われたものの上市には至っていない(非特許文献5〜10参照)。エキサテカンがADCとして
有効に作用するかについては明らかではなかった。
【0006】
DE-310は、生分解性のカルボキシメチルデキストランポリアルコールポリマーにエキサテカンを、GGFGペプチドスペーサーを介して結合させた複合体である(特許文献3)。エキサテカンを高分子プロドラッグ化することによって、高い血中滞留性を保持させ、さらに腫瘍新生血管の透過性の亢進と腫瘍組織滞留性を利用して、受動的に腫瘍部位への指向
性を高めたものである。DE-310は、酵素によるペプチドスペーサーの切断によって、活性本体であるエキサテカン、及びグリシンがアミノ基に結合しているエキサテカンが持続的に遊離され、その結果薬物動態が改善される。非臨床試験における種々の腫瘍の評価モデルにおいて、DE-310は、ここに含まれるエキサテカンの総量がエキサテカン単剤の投与時よりも減少しているのにも拘らず、単剤の投与時よりもより高い有効性を示した。DE-310に関しては臨床試験が実施されて有効例も確認され、活性本体が正常組織よりも腫瘍に集積することが確認されたとの報告がある一方、ヒトにおける腫瘍へのDE-310及び活性本体の集積は正常組織への集積と大差なく、ヒトでは受動的なターゲティングは見られなかったとの報告もある(非特許文献11〜14参照)。結果としてDE-310も上市には至らず、エキサテカンがこの様なターゲティングを指向した薬物として有効に機能するかについては明らかではなかった。
【0007】
DE-310の関連化合物として、-NH-(CH2)4-C(=O)-で示される構造部分を-GGFG-スペーサ
ーとエキサテカンの間に挿入し、-GGFG-NH-(CH2)4-C(=O)-をスペーサー構造とする複合体も知られているが(特許文献4)、同複合体の抗腫瘍効果については全く知られていない。
【0008】
ヒトTROP2(TACSTD2:tumor−associated calcium signal transducer 2,GA733−1,EGP−1,M1S1;以下、hTROP2と表記する)は、323アミノ酸残基からなる1回膜貫通型の1型細胞膜蛋白質である。以前より、ヒト栄養膜細胞(trophoblasts)と癌細胞に共通する、免疫抵抗性に関与する細胞膜蛋白質の存在(非特許文献15)が示唆されていたが、ヒト絨毛癌細胞株の細胞膜蛋白質に対するモノクローナル抗体(162−25.3,162−46.2)により認識される抗原分子が特定され、ヒト栄養膜細胞に発現する分子の一つとしてTROP2と命名された(非特許文献16)。後に同じ分子が他の研究者によって発見され、胃癌細胞株を免疫して得られたマウスモノクローナル抗体GA733によって認識される腫瘍抗原GA733−1(非特許文献17)、非小細胞肺癌細胞免疫によって得られたマウスモノクローナル抗体RS7−3G11により認識される上皮糖蛋白質(EGP−1;非特許文献18)とも呼ばれたが、1995年にTROP2遺伝子がクローニングされ、これらが同一の分子であることが確認された(非特許文献19)。hTROP2のDNA配列及びアミノ酸配列は公的データベース上に公開されており、例えばNM_002353,NP_002344(NCBI)等のアクセッション番号により参照可能である。
hTROP2遺伝子は約50%の相同性を持つヒトTrop−1(EpCAM,EGP−2,TACSTD1)と共にTACSTD遺伝子ファミリーを構成している(非特許文献21)。hTROP2蛋白質は、N末端26アミノ酸残基から成るシグナル配列、248アミノ酸残基から成る細胞外ドメイン、23アミノ酸残基から成る細胞膜貫通ドメイン、26アミノ酸残基から成る細胞内ドメインで構成されている。細胞外ドメインには4つのN結合型糖鎖付加部位があり、見かけ上の分子量は理論計算値35キロダルトンより10キロダルトン前後増加することが知られている(非特許文献19)。
これまでhTROP2の生理学的リガンドは同定されておらず、分子機能は明らかにされていないが、腫瘍細胞においてカルシウムシグナルを伝達することが示され(非特許文献20)、またCa2+依存性キナーゼであるプロテインキナーゼCにより細胞内セリン303残基がリン酸化されること(非特許文献18)や、細胞内ドメインにPIP2結合配
列を有することから、腫瘍細胞におけるシグナル伝達機能が示唆されている(非特許文献22)。
臨床検体を用いた免疫組織化学解析により、hTROP2は種々の上皮細胞癌種において過剰発現していること、かつ、正常組織においてはいくつかの組織の上皮細胞での発現に限られ、その発現量も腫瘍組織と比較して低いことが示されている(非特許文献23〜27)。またhTrop2の発現は大腸癌(非特許文献23)、胃癌(非特許文献24)
、膵臓癌(非特許文献25)、口腔癌(非特許文献26)、グリオーマ(非特許文献27)において予後不良と相関することも報告されている。
さらに大腸癌細胞を用いたモデルから、hTROP2の発現が腫瘍細胞の足場非依存的細胞増殖及び免疫不全マウスでの腫瘍形成に関与していることが報告されている(非特許文献28)。
【0009】
この様な癌との関連性を示唆する情報から、これまでに複数の抗hTROP2抗体が樹立され、その抗腫瘍効果が検討されている。この中にはコンジュゲート化されていない抗体単独でヌードマウス異種移植モデルにおける抗腫瘍活性を示すもの(特許文献5〜8)の他、抗体と抗細胞薬剤とのADCとして抗腫瘍活性を示すもの(特許文献9〜12)等が
開示されている。しかしながら、それらの活性の強さや適用範囲はまだ十分ではなく、hTROP2を治療標的とする未充足医療ニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−59061号公報
【特許文献2】特開平8−337584号公報
【特許文献3】国際公開第1997/46260号
【特許文献4】国際公開第2000/25825号
【特許文献5】国際公開第2008/144891号
【特許文献6】国際公開第2011/145744号
【特許文献7】国際公開第2011/155579号
【特許文献8】国際公開第2013/077458号
【特許文献9】国際公開第2003/074566号
【特許文献10】国際公開第2011/068845号
【特許文献11】国際公開第2013/068946号
【特許文献12】米国特許第7999083号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ducry, L., et al., Bioconjugate Chem. (2010) 21, 5-13.
【非特許文献2】Alley, S. C., et al., Current Opinion in Chemical Biology (2010) 14,529-537.
【非特許文献3】Damle N.K., Expert Opin. Biol. Ther. (2004) 4, 1445-1452.
【非特許文献4】Senter P. D., et al., Nature Biotechnology (2012) 30, 631-637.
【非特許文献5】Kumazawa, E., Tohgo, A., Exp. Opin. Invest. Drugs (1998) 7, 625-632.
【非特許文献6】Mitsui, I., et al., Jpn J. Cancer Res. (1995) 86, 776-786.
【非特許文献7】Takiguchi, S., et al., Jpn J. Cancer Res. (1997) 88, 760-769.
【非特許文献8】Joto, N. et al., Int J Cancer (1997) 72, 680-686.
【非特許文献9】Kumazawa, E. et al., Cancer Chemother. Pharmacol. (1998) 42,210-220.
【非特許文献10】De Jager, R., et al., Ann N Y Acad Sci (2000) 922, 260-273.
【非特許文献11】Inoue, K. et al., Polymer Drugs in the Clinical Stage, Edited byMaeda et al. (2003) 145-153.
【非特許文献12】Kumazawa, E. et al., Cancer Sci (2004) 95, 168-175.
【非特許文献13】Soepenberg, O. et al., Clinical Cancer Research, (2005) 11, 703-711.
【非特許文献14】Wente M. N. et al.,Investigational New Drugs (2005) 23, 339-347.
【非特許文献15】Faulk WP, et al., Proc. Natl. Acad. Sci.75(4), 1947-1951 (1978).
【非特許文献16】Lipinski M, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 78(8), 5147-5150 (1981).
【非特許文献17】Linnenbach A J, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 86(1), 27-31 (1989).
【非特許文献18】Basu A, et al., Int. J. Cancer, 62(4), 472-479 (1995).
【非特許文献19】Fornaro M, et al., Int. J. Cancer, 62(5), 610-618 (1995).
【非特許文献20】Ripani E, et al., Int. J. Cancer, 76(5), 671-676 (1998).
【非特許文献21】Calabrese G, et al., Cell Genet., 92(1-2), 164-165 (2001).
【非特許文献22】El Sewedy T, et al., Int. J. Cancer, 75(2), 324-330 (1998).
【非特許文献23】Ohmachi T, et al., Clin. Cancer Res., 12(10), 3057-3063 (2006).
【非特許文献24】Muhlmann G, et al., J. Clin. Pathol., 62(2), 152-158 (2009).
【非特許文献25】Fong D, et al., Br. J. Cancer, 99(8), 1290-1295 (2008).
【非特許文献26】Fong D, et al., Mod. Pathol., 21(2), 186-191 (2008).
【非特許文献27】Ning S, et al., Neurol. Sci., 34(10), 1745-1750 (2013).
【非特許文献28】Wang J, et al., Mol. Cancer Ther., 7(2), 280-285 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
抗体による腫瘍の治療においては、抗体が抗原を認識して腫瘍細胞に結合しても抗腫瘍効果が十分でない場合が観察されることもあり、より効果の高い抗腫瘍抗体が必要とされる場合がある。また、抗腫瘍性の低分子化合物においては、抗腫瘍効果に優れていても副作用や毒性面等、安全性上の問題を有するものが多く、安全性をより高めてより優れた治療効果を獲得することが課題となっている。すなわち、本発明は、抗腫瘍効果と安全性面に優れる、優れた治療効果を有する抗腫瘍薬を獲得して提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、抗TROP2抗体が腫瘍細胞を標的にできる抗体であること、すなわち、腫瘍細胞を認識できる特性、腫瘍細胞に結合できる特性、或は腫瘍細胞に内在化できる特性等を備えた抗体であることから、抗腫瘍性化合物であるエキサテカンを、リンカー構造部分を介して同抗体に結合させた抗体−薬物コンジュゲートに変換することによって、同抗体を利用した細胞障害性が獲得できること、さらに抗腫瘍性化合物を腫瘍細胞により確実に移動させて当該化合物の抗腫瘍効果を腫瘍細胞で特異的に発揮させることができ、したがって抗腫瘍効果の確実な発揮とともに抗腫瘍性化合物の投与量を当該化合物の単体投与時よりも減少させることができること、さらにはこれらによって通常細胞への抗腫瘍性化合物の影響を緩和させることができること、すなわちこれらによってより高い安全性を達成できること、が可能と考えた。
このために本発明者らは特定の構造のリンカーを創出し、このリンカーを介して抗TROP2抗体とエキサテカンとを結合させた抗体−薬物コンジュゲートを獲得することに成功し、同コンジュゲートが優れた抗腫瘍効果を発揮することを見出して本発明を完成させたのである。
【0014】
すなわち本願発明は、
[1]次式
【化2】

で示される抗腫瘍性化合物と抗TROP2抗体とを次式:
-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-
で示される構造のリンカーを介して、抗TROP2抗体のヒンジ部に存在するジスルフィド結合部分において形成させたチオエーテル結合によって結合させたことを特徴とする抗体−薬物コンジュゲートに関するものである。
【0015】
ここで、抗TROP2抗体はL1の末端において結合し、抗腫瘍性化合物は、1位のアミノ基の窒素原子を結合部位として、-(CH2)n2-C(=O)-部分のカルボニル基に結合する。
式中、n1は、0から6の整数を示し、
n2は、0から5の整数を示し、
L1は、-(Succinimid-3-yl-N)-(CH2)n3-C(=O)-を示し、
ここで、n3は、2から8の整数を示し、
L2は、-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-又は単結合を示し、
ここで、n4は、1から6の整数を示し、
LPは、2から7個のアミノ酸で構成されるペプチド残基を示し、
Laは、-O-又は単結合を示し、
-(Succinimid-3-yl-N)-は次式:
【化3】

で示される構造であり、このものの3位で抗TROP2抗体と結合し、1位の窒素原子上でこれを含むリンカー構造内のメチレン基と結合する。
【0016】
さらに本願発明は以下の各々に関するものでもある。
[2]LPのペプチド残基が、フェニルアラニン、グリシン、バリン、リシン、シトルリン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸から選ばれるアミノ酸からなるペプチド残基である[1]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[3]LPが、以下の群から選ばれるペプチド残基である[1]又は[2]に記載の抗体−薬物コンジュゲート:
-GGF-、
-DGGF-、
-(D-)D-GGF-、
-EGGF-、
-GGFG-、
-SGGF-、
-KGGF-、
-DGGFG-、
-GGFGG-、
-DDGGFG-、
-KDGGFG-、及び
-GGFGGGF-;
ここで『(D-)D』はD-アスパラギン酸を示す。
[4]LPが、4個のアミノ酸で構成されるペプチド残基である[1]又は[2]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[5]LPが、テトラペプチド残基の-GGFG-である[1]から[4]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【0017】
[6]n3が2から5の整数であって、L2が単結合である[1]から[5]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[7]n3が2から5の整数であって、L2が-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-であり、n4が2又は4である[1]から[5]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[8]-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-が、4から7原子の鎖長を有する部分構造である
[1]から[7]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[9]-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-が、5又は6原子の鎖長を有する部分構造である
[1]から[7]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[10]-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-が、
-NH-CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、又は
-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-である[1]から[9]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コ
ンジュゲート。
[11]-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-が、
-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、又は
-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-
である[1]から[9]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【0018】
[12]-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-に薬物を結合させた薬物−リンカー構造部分が、次の群から選ばれる1種の薬物−リンカー構造である[1]から[9]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート:
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
【0019】
ここで、-(Succinimid-3-yl-N)-は次式:
【化4】

で示される構造であり、このものの3位で抗TROP2抗体と結合し、1位の窒素原子上でこれを含むリンカー構造内のメチレン基と結合する。
-(NH-DX)は次式:
【化5】

で示される、1位のアミノ基の窒素原子が結合部位となっている基を示す。
-GGFG-は、-Gly-Gly-Phe-Gly-のテトラペプチド残基を示す。
【0020】
[13]-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-に薬物を結合させた薬物−リンカー構造部分が、次の群から選ばれる1種の薬物−リンカー構造である[1]から[9]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート:
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
【0021】
ここで、-(Succinimid-3-yl-N)-、-(NH-DX)、及び-GGFG-は、上記の通りである。
【0022】
[14]次式
【化6】

で示される抗腫瘍性化合物と抗TROP2抗体とを次式:
-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-
で示される構造のリンカーを介して、抗TROP2抗体のヒンジ部に存在するジスルフィド結合部分において形成させたチオエーテル結合を介して結合させたことを特徴とする抗体−薬物コンジュゲート。
ここで、抗TROP2抗体はL1の末端において結合し、抗腫瘍性化合物は-(CH2)n2-C(=O)-部分のカルボニル基に結合する。
式中、n1は、0から6の整数を示し、
n2は、0から5の整数を示し、
L1は、-(Succinimid-3-yl-N)-(CH2)n3-C(=O)-を示し、
ここで、n3は、2から8の整数を示し、
L2は、-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-又は単結合を示し、
ここで、n4は、1から6の整数を示し、
LPは、-GGFG-のテトラペプチド残基を示し、
Laは、-O-又は単結合を示し、
-(Succinimid-3-yl-N)-は次式:
【化7】

で示される構造であり、このものの3位で抗TROP2抗体と結合し、1位の窒素原子上でこれを含むリンカー構造内のメチレン基と結合する。
【0023】
[15]n1が3であり、n2が0であり、n3が2であり、L2が-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-であって、n4が2であり、Laが単結合であるか、
n1が1であり、n2が1であり、n3が5であり、L2が単結合であり、Laが-O-であるか、又

n1が2であり、n2が1であり、n3が5であり、L2が単結合であり、Laが-O-である[14
]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[16]n3が2又は5であって、L2が単結合である[14]又は[15]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[17]n3が2又は5であって、L2が-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-であり、n4が2又
は4である[14]又は[15]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[18]-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-が、
-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、又は
-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-
である[14]から[17]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【0024】
[19]-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-に薬物を結合させた薬物−リンカー構造部分が、次の群から選ばれる1種の薬物−リンカー構造である[14]から[18]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート:
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX);
【0025】
ここで、-(Succinimid-3-yl-N)-は次式:
【化8】

で示される構造であり、このものの3位で抗TROP2抗体と結合し、1位の窒素原子上でこれを含むリンカー構造内のメチレン基と結合する。
-(NH-DX)は次式:
【化9】

で示される、1位のアミノ基の窒素原子が結合部位となっている基を示す。
-GGFG-は、-Gly-Gly-Phe-Gly-のテトラペプチド残基を示す。
【0026】
[20]-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-に薬物を結合させた薬物−リンカー構造部分が、次の群から選ばれる1種の薬物−リンカー構造である[14]から[18]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート:
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
ここで、-(Succinimid-3-yl-N)-、-(NH-DX)及び-GGFG-は、上記の通りである。
【0027】
[21]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が1から10個の範囲である[1]から[20]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。[22]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が2から8個の範囲である[1]から[20]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[23]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が3から8個の範囲である[1]から[20]のいずれか一に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【0028】
[24][1]から[23]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート、その塩、又はそれらの水和物を含有する医薬。
[25][1]から[23]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート、その塩、又はそれらの水和物を含有する抗腫瘍薬及び/又は抗癌薬。
[26]肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、子宮頸癌、頭頸部癌、又は食道癌に適用するための[25]に記載の抗腫瘍薬及び/又は抗癌薬。
[27][1]から[23]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート、その塩、又はそれらの水和物を活性成分とし、薬学的に許容される製剤成分とを含有する医薬組成物。
[28]肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、子宮頸癌、頭頸部癌、又は食道癌に適用するための[27]に記載の医薬組成物。
[29][1]から[23]のいずれか一項に記載の抗体−薬物コンジュゲート、その塩、又はそれらの水和物を投与することを特徴とする腫瘍及び/又は癌の治療方法。
【0029】
[30]次式で示される化合物:
(maleimid-N-yl)-(CH2)n3-C(=O)-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-(NH-DX)
を抗TROP2抗体又はその反応性誘導体と反応させ、該抗体のヒンジ部に存在するジスルフィド結合部分においてチオエーテル結合を形成させる方法によって薬物−リンカー部分を該抗体に結合させることを特徴とする抗体−薬物コンジュゲートの製造方法。
【0030】
式中、n3は、整数の2から8を示し、
L2は、-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-又は単結合を示し、
ここで、n4は、1から6の整数を示し、
LPは、フェニルアラニン、グリシン、バリン、リシン、シトルリン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸から選ばれる2から7個のアミノ酸で構成されるペプチド残基を示し、
n1は、0から6の整数を示し、
n2は、0から5の整数を示し、
Laは、-O-又は単結合を示し、
(maleimid-N-yl)-は、次式
【化10】

で示される、窒素原子が結合部位となっている基である。
-(NH-DX)は、次式
【化11】

で示される、1位のアミノ基の窒素原子が結合部位となっている基である。
【0031】
[31]薬物−リンカー部分を抗TROP2抗体に結合させる方法が、該抗体を還元処理して反応性誘導体に変換する方法である[30]に記載の製造方法。
【0032】
[32]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が1から10個の範囲である[30]又は[31]に記載の製造方法。
[33]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が2から8個
の範囲である[30]又は[31]に記載の製造方法。
[34]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が3から8個の範囲である[30]又は[31]に記載の製造方法。
[35][30]から[34]のいずれかの製造方法によって得られる抗体−薬物コンジュゲート。
【0033】
[36]抗TROP2抗体を還元条件で処理した後に以下の群から選ばれる化合物を反応させることを特徴とする、該抗体のヒンジ部のスルフィド結合部分においてチオエーテル結合を形成させて得られる抗体−薬物コンジュゲート:
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-
CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、及び
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)。
【0034】
ここで、(maleimid-N-yl)-は、次式
【化12】

で示される、窒素原子が結合部位となっている基である。
-(NH-DX)は、次式
【化13】

で示される、1位のアミノ基の窒素原子が結合部位となっている基である。
-GGFG-は、-Gly-Gly-Phe-Gly-のテトラペプチド残基を示す。
【0035】
[37]抗TROP2抗体を還元条件で処理した後に以下の群から選ばれる化合物を反応させることを特徴とする、該抗体のヒンジ部のスルフィド結合部分においてチオエーテル結合を形成させて得られる抗体−薬物コンジュゲート:
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、及び
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)。
ここで、(maleimid-N-yl)-、-(NH-DX)、及び-GGFG-は、上記の通りである。
【0036】
[38]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が1から10個の範囲である[36]又は[37]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[39]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が2から8個の範囲である[36]又は[37]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
[40]選択された1種の薬物−リンカー構造の1抗体あたりの平均結合数が3から8個の範囲である[36]又は[37]に記載の抗体−薬物コンジュゲート。
【発明の効果】
【0037】
特定の構造のリンカーを介して抗腫瘍性化合物エキサテカンを結合させた抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートによって、優れた抗腫瘍効果及び安全性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】cTINA1抗体重鎖のヌクレオチド配列(配列番号7)及びアミノ酸配列(配列番号8)を示す。
図2】cTINA1抗体軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号9)及びアミノ酸配列(配列番号10)を示す。
図3】hTINA1−H1重鎖のヌクレオチド配列(配列番号11)及びアミノ酸配列(配列番号12)を示す。
図4】hTINA1−H2重鎖のヌクレオチド配列(配列番号13)及びアミノ酸配列(配列番号14)を示す。
図5】hTINA1−H3重鎖のヌクレオチド配列(配列番号15)及びアミノ酸配列(配列番号16)を示す。
図6】hTINA1−L1軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号17)及びアミノ酸配列(配列番号18)を示す。
図7】hTINA1−L2軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号19)及びアミノ酸配列(配列番号20)を示す。
図8】hTINA1−L3軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号21)及びアミノ酸配列(配列番号22)を示す。
図9】TINA1抗体のCDRH1のアミノ酸配列(配列番号23)、CDRH2のアミノ酸配列(配列番号24)、CDRH3のアミノ酸配列(配列番号25)、CDRL1のアミノ酸配列(配列番号26)、CDRL2のアミノ酸配列(配列番号27)、及びCDRL3のアミノ酸配列(配列番号28)を示す。
図10】抗CD9抗体、抗CD46抗体、抗CD55抗体、抗CD59抗体、抗CD71抗体、抗CD73抗体、抗CD147抗体、抗CD276抗体、抗EpCAM抗体、抗EGFR抗体、及び抗TROP2抗体(TINA1抗体)の細胞内在化能を示す。
図11】抗CD59抗体、抗CD71抗体、抗EGFR抗体、抗EpCAM抗体、及び抗TROP2抗体(TINA1抗体)の細胞内在化能を示す。
図12】各種抗TROP2抗体の細胞内在化能を示す。
図13】抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)、又は(12)が、ヒト大腸癌細胞株COLO205皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図14】抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)、又は(12)が、ヒト膵臓腺癌細胞株BxPC−3皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図15】抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)、又は(12)が、ヒト膵臓腺癌細胞株Capan−1皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図16】抗体−薬物コンジュゲート(2)、(5)、(7)、又は(10)が、ヒト大腸癌細胞株COLO205皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図17】抗体−薬物コンジュゲート(2)、(5)、(7)、又は(10)が、ヒト膵臓癌細胞株BxPC−3皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図18】抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、又は(9)が、ヒト大腸癌細胞株COLO205皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図19】抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、又は(9)が、ヒト膵臓癌細胞株BxPC−3皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図20】抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、又は(9)が、ヒト卵巣癌細胞株NIH:OVCAR−3皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図21】抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、又は(9)が、ヒト胃癌細胞株NCI−N87皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図22】抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、又は(9)が、ヒト肺癌細胞株NCI−H292皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図23】抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、又は(9)が、ヒト咽頭癌細胞株FaDu皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図24】抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、又は(9)が、ヒト膵臓腺癌細胞株CFPAC−1皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図25】抗体−薬物コンジュゲート(8)又は(13)が、ヒト膵臓腺癌細胞株CFPAC−1皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図26】抗体−薬物コンジュゲート(8)又は(13)が、ヒト膵臓腺癌細胞株HPAC皮下移植BALB/c−nu/nuマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
図27】抗体−薬物コンジュゲート(8)又は(13)が、ヒト食道癌組織皮下移植NOD−scidマウスに対して示す抗腫瘍効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0040】
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、抗TROP2抗体に、リンカー構造部分を介して抗腫瘍性化合物を結合させた抗腫瘍性薬物であり、以下に詳細に説明する。
【0041】
[抗体]
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートに使用される抗TROP2抗体は、いずれの種に由来してもよいが、好ましくは、ヒト、ラット、マウス、及びウサギを例示できる。ヒト以外の種に由来する場合は、周知の技術を用いて、キメラ化又はヒト化することが好ましい。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。
抗TROP2抗体は腫瘍細胞を標的にできる抗体であり、すなわち腫瘍細胞を認識できる特性、腫瘍細胞に結合できる特性、そして腫瘍細胞内に取り込まれて内在化する特性等を備えており、抗腫瘍活性を有する化合物を、リンカーを介して結合させて抗体−薬物コンジュゲートとすることができる。
抗体の腫瘍細胞への結合性は、フローサイトメトリーを用いて確認することができる。腫瘍細胞内への抗体の取り込みの確認方法としては、(1)治療抗体に結合する二次抗体(蛍光標識)を用いて細胞内に取り込まれた抗体を蛍光顕微鏡で可視化するアッセイ(Cell Death and Differentiation (2008) 15, 751-761)、(2)治療抗体に結合する二次
抗体(蛍光標識)を用いて細胞内に取り込まれた蛍光量を測定するアッセイ(Molecular Biology of the Cell Vol. 15, 5268-5282, December 2004)、又は(3)治療抗体に結
合するイムノトキシンを用いて、細胞内に取り込まれると毒素が放出されて細胞増殖が抑制されるというMab-ZAPアッセイ(Bio Techniques 28:162-165, January 2000)等を挙げ
ることができる。なお、イムノトキシンとしては、ジフテテリア毒素の触媒領域とプロテインGとのリコンビナント複合蛋白質も使用可能である。
抗体−薬物コンジュゲートは抗腫瘍効果を発揮する化合物を結合させてあるので、抗体自体が抗腫瘍効果を有することは、好ましいが、必須ではない。抗腫瘍性化合物の細胞障害性を腫瘍細胞において特異的・選択的に発揮させる目的からは、抗体が内在化して腫瘍細胞内に移行する性質のあることが重要であり、好ましい。
【0042】
抗TROP2抗体は、この分野で通常実施される方法を用いて、抗原となるポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原の由来はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来する抗原を動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種抗原に結合する抗体とヒト抗原との交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗体を選別できる。
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature(1975)256, p.495-497;Kennet, R.ed., Monoclonal Antibodies, p.365-367, Plenum Press,N.Y.(1980))に従って
、抗原に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによってハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
なお、抗原は抗原蛋白質をコードする遺伝子を遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、抗原遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現した抗原を精製すればよい。上記の遺伝子操作による抗原発現細胞、或は抗原を発現している細胞株、を動物に免疫する方法を用いることによっても抗体を取得できる。
抗TROP2抗体は、公知の手段によって取得することができる。
【0043】
本発明で使用できる抗TROP2抗体は、特に制限はないが、例えば、本願の配列表で示されたアミノ酸配列で特定されるものを好適に使用することができる。本発明において使用されるTROP2抗体としては、以下の特性を有するものが望ましい。
(1)以下の特性を有することを特徴とする抗体;
(a)TROP2に特異的に結合する
(b)TROP2と結合することによってTROP2発現細胞に内在化する活性を有する
(2)TROP2がヒトTROP2である上記(1)に記載の抗体。
(3)重鎖における相補性決定領域として配列番号23に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号24に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号25に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに軽鎖における相補性決定領域として配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号27に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号28に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を有する上記(1)又は(2)に記載の抗体。
(4)定常領域がヒト由来定常領域である上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の抗体。
(5)ヒト化されている上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の抗体。
(6)(a)配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列、(b)配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列、(c)配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列、(d)(a)乃至(c)の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(e)(a)乃至(c)の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加された
アミノ酸配列からなる群から選択されたアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域、並びに(f)配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、(g)配
列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、(h)配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、(i)(f)乃至(h)の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(j)(f)乃至(h)の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸
配列からなる群から選択されたアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、を有する上記(5)に記載の抗体。
(7)配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域からなる群から選択される重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域を有する上記(6)に記載の抗体。
(8)配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域からなる群から選択される重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域を有する上記(7)に記載の抗体。
(9)配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配
列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる群から選択される重鎖及び軽鎖からなる上記(6)又は(7)に記載の抗体。
(10)配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、並びに配列番号16に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる群から選択される重鎖及び軽鎖からなる上記(6)又は(7)に記載の抗体。
(11)配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる群から選択される重鎖及び軽鎖からなる上記(8)に記載の抗体。
(12)重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の抗体。
(13)上記(1)乃至(12)のいずれかに記載の抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターによって形質転換された宿主細胞を培養する工程及び当該工程で得られた培養物から目的の抗体を採取する工程を含む当該抗体の製造方法によって得られる抗体。
【0044】
以下に、本発明において使用される抗TROP2抗体について説明する。
本明細書において、「癌」と「腫瘍」は同じ意味に用いている。
本明細書において、「遺伝子」という語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNA、及びそのcRNAも含まれる。
本明細書において、「ポリヌクレオチド」という語は核酸と同じ意味で用いており、DNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、及びプライマーも含まれる。
本明細においては、「ポリペプチド」と「蛋白質」は区別せずに用いている。
本明細書において、「細胞」には、動物個体内の細胞、培養細胞も含んでいる。
本明細書において、「TROP2」は、TROP2蛋白質と同じ意味で用いている。
本明細書における「CDR」とは、相補性決定領域(CDR:Complemetarity deterring region)を意味する。抗体分子の重鎖及び軽鎖にはそれぞれ3箇所のCDRがあることが知られている。CDRは、超可変領域(hyper
variable domain)とも呼ばれ、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域内にあって、一次構造の変異性が特に高い部位であり、重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖の一次構造上において、それぞれ3ヶ所に分離している。本明細書中においては、抗体のCDRについて、重鎖のCDRを重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRH1、CDRH2、CDRH3と表記し、軽鎖のCDRを軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRL1、CDRL2、CDRL3と表記する。これらの部位は立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対する特異性を決定している。
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック社製)中、68℃でハイブリダイズすること、又はDNAを固定したフィルターを用いて0.7−1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1−2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度SSCとは150mM NaCl、15mMクエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することによって同定することができる条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることをいう。
【0045】
1.TROP2
TROP2は、ヒト栄養膜細胞(trophoblasts)に発現するTACSTDファミリーのひとつであり、ヒト栄養膜細胞と癌細胞に共通する免疫抵抗性に関与する、1回膜貫通型の1型細胞膜蛋白質である。
本発明で用いるTROP2蛋白質は、ヒト、非ヒト哺乳動物(ラット、マウス等)のTROP2発現細胞から直接精製して使用するか、或は当該細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、TROP2をin vitroにて合成する、或は遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、TROP2 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、或は他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってTROP2を発現させることによって、該蛋白質を得ることが出来る。また、前記の遺伝子操作によるTROP2発現細胞、或はTROP2を発現している細胞株をTROP2蛋白質として使用することも可能である。
TROP2のDNA配列及びアミノ酸配列は公的データベース上に公開されており、例えばNM_002353,NP_002344(NCBI)等のアクセッション番号により参照可能である。
また、上記TROP2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、当該蛋白質と同等の生物活性を有する蛋白質
もTROP2に含まれる。
ヒトTROP2蛋白質は、N末端26アミノ酸残基から成るシグナル配列、248アミノ酸残基から成る細胞外ドメイン、23アミノ酸残基から成る細胞膜貫通ドメイン、26アミノ酸残基から成る細胞内ドメインで構成されている。
【0046】
2.抗TROP2抗体の製造
本発明のTROP2に対する抗体は、この分野で通常実施される方法を用いて、TROP2又はTROP2のアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原となるTROP2の生物種はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来するTROP2を動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種TROP2に結合する抗体とヒトTROP2との交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗体を選別できる。
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein,Nature(1975)256,p.495−497;Kennet,R.ed.,Monoclonal Antibodies,p.365−367,Plenum Press,N.Y.(1980))に従って、TROP2に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエロ
ーマ細胞とを融合させることによってハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
なお、抗原となるTROP2はTROP2遺伝子を遺伝子操作によって宿主細胞に発現させることによって得ることができる。
具体的には、TROP2遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現したTROP2を精製すればよい。
また、上記の遺伝子操作によるTROP2発現細胞、或はTROP2を発現している細胞株をTROP2蛋白質として使用することも可能である。以下、具体的にTROP2に対する抗体の取得方法を説明する。
【0047】
(1) 抗原の調製
抗TROP2抗体を作製するための抗原としては、TROP2又はその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、或はこれらに任意のアミノ酸配列や担体が付加された誘導体を挙げることができる。
TROP2は、ヒトの腫瘍組織或は腫瘍細胞から直接精製して使用することができ、また、TROP2をin vitroにて合成する、或は遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。
遺伝子操作では、具体的には、TROP2のcDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、或は他の原核生物又は真核生物の宿主細胞を形質転換してTROP2を発現させることによって、抗原を得ることができる。
また、膜蛋白質であるTROP2の細胞外領域と抗体の定常領域とを連結した融合蛋白質を適切な宿主・ベクター系において発現させることによって、分泌蛋白質として抗原を得ることも可能である。
TROP2のcDNAは例えば、TROP2のcDNAを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、TROP2 cDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という;Saiki,R. K.,et al.,Science(1988)239,p.487−489 参照)を行う、いわゆるPCR法によって取得することができる。
ポリペプチドのin vitro合成としては、例えばロシュ・ダイアグノスティックス社製のラピッドトランスレーションシステム(RTS)を挙げることができるが、これに限定されることはない。
原核細胞の宿主としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)等を挙げることができる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。また、ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を有するものが好ましい。
真核細胞の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175−182、ATCC CRL−1650;ATCC:American Type Culture Collection)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL−1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G. and Chasin,L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,p.4126−4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
上記の様にして得られる形質転換体は、この分野で通常実施される方法に従って培養することができ、該培養によって細胞内又は細胞外に目的のポリペプチドが産生される。
該培養に用いられる培地は、当業者であれば採用した宿主細胞に応じて慣用される各種
のものを適宜選択することができ、大腸菌であれば、例えば、LB培地に必要に応じて、アンピシリン等の抗生物質やIPMGを添加して用いることができる。
上記培養によって、形質転換体の細胞内又は細胞外に産生される組換え蛋白質は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法によって分離・精製することができる。
該方法としては、具体的には例えば、通常の蛋白質沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せ等を例示できる。
また、発現させる組換え蛋白質に6残基からなるヒスチジンタグを繋げることによって、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。或は、発現させる組換え蛋白質にIgGのFc領域を繋げることによって、プロテインAカラムで効率的に精製することができる。
上記方法を組合せることによって容易に高収率、高純度で目的とするポリペプチドを大量に製造できる。
上記に述べた形質転換体自体を抗原として使用することも可能である。また、TROP2を発現する細胞株を抗原として使用することも可能である。この様な細胞株としては、ヒト化肺癌株NCI−H322、PC14、NCIH−H2122、又はLCAM1、ヒト前立腺癌株PC3、ヒト膵臓癌株BxPC−3、Capan−1、又はPK−1、ヒト卵巣癌株SKOV3並びにヒト大腸癌株COLO205を挙げることができるが、TROP2を発現する限り、これらの細胞株に限定されることはない。
【0048】
(2) 抗TROP2モノクローナル抗体の製造
TROP2と特異的に結合する抗体の例として、TROP2と特異的に結合するモノクローナル抗体を挙げることができるが、その取得方法は、以下に記載する通りである。
モノクローナル抗体の製造にあたっては、一般に下記の様な作業工程が必要である。
すなわち、
(a)抗原として使用する生体高分子の精製、又は抗原発現細胞の調製、
(b)抗原を動物に注射することによって免疫した後に血液を採取し、その抗体価を検定して脾臓摘出の時期を決定してから、抗体産生細胞を調製する工程、
(c)骨髄腫細胞(以下「ミエローマ」という)の調製、
(d)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、
(e)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)、
(g)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、又はハイブリドーマを移植した動物の飼育、
(h)この様にして製造されたモノクローナル抗体の生理活性、及びその結合特異性の検討、或は標識試薬としての特性の検定
等である。
以下、モノクローナル抗体の作製法を上記工程に沿って詳述するが、該抗体の作製法はこれに制限されず、例えば脾細胞以外の抗体産生細胞及びミエローマを使用することもできる。
【0049】
(a)抗原の精製
抗原としては、前記した様な方法で調製したTROP2又はその一部を使用することができる。
また、TROP2発現組換え体細胞によって調製した膜画分、又はTROP2発現組換え体細胞自身、さらに、当業者に周知の方法を用いて化学合成した本発明の蛋白質の部分ペプチドを抗原として使用することもできる。
さらに、TROP2発現細胞株を抗原として使用することもできる。
【0050】
(b)抗体産生細胞の調製
工程(a)で得られた抗原と、フロインドの完全又は不完全アジュバント、或はカリミョウバンの様な助剤とを混合し、免疫原として実験動物に免疫する。この他に、抗原発現細胞を免疫原として実験動物に免疫する方法もある。実験動物は公知のハイブリドーマ作製法で用いられる動物を支障なく使用することができる。具体的には、例えばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等を使用することができる。ただし、摘出した抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞の入手容易性等の観点から、マウス又はラットを被免疫動物とするのが好ましい。
また、実際に使用するマウス及びラットの系統には特に制限はなく、マウスの場合には、例えば各系統A、AKR、BALB/c、BDP、BA、CE、C3H、57BL、C
57BL、C57L、DBA、FL、HTH、HT1、LP、NZB、NZW、RF、R
III、SJL、SWR、WB、129等が、またラットの場合には、例えば、Wistar、Low、Lewis、Sprague、Dawley、ACI、BN、Fischer等を用いることができる。
これらのマウス及びラットは例えば日本クレア株式会社、日本チャ−ルス・リバー株式会社等の実験動物飼育販売業者より入手することができる。
被免疫動物としては、後述のミエローマ細胞との融合適合性を勘案すれば、マウスではBALB/c系統が、ラットではWistar及びLow系統が特に好ましい。
また、抗原のヒトとマウスでの相同性を考慮し、自己抗体を除去する生体機構を低下させたマウス、すなわち自己免疫疾患マウスを用いることも好ましい。
なお、これらのマウス又はラットの免疫時の週齢は、好ましくは5〜12週齢、さらに好ましくは6〜8週齢である。
TROP2又はこの組換え体によって動物を免疫するには、例えば、Weir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987);Kabat,E.A.and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles
C Thomas Publisher Springfield,Illinois(1964)等に詳しく記載されている公知の方法を用いることができる。
これらの免疫法のうち、本発明において好適な方法を具体的に示せば、例えば以下の通りである。
すなわち、まず、抗原である膜蛋白質画分、又は抗原を発現させた細胞を動物の皮内又は腹腔内に投与する。ただし、免疫効率を高めるためには両者の併用が好ましく、前半は皮内投与を行い、後半又は最終回のみ腹腔内投与を行うと、特に免疫効率を高めることができる。
抗原の投与スケジュールは、被免疫動物の種類、個体差等によって異なるが、一般には、抗原投与回数3〜6回、投与間隔2〜6週間が好ましく、投与回数3〜4回、投与間隔2〜4週間がさらに好ましい。
また、抗原の投与量は、動物の種類、個体差等によって異なるが、一般には0.05〜5mg、好ましくは0.1〜0.5mg程度とする。
追加免疫は、以上の通りの抗原投与の1〜6週間後、好ましくは1〜4週間後、さらに好ましくは1〜3週間後に行う。免疫原が細胞の場合には、1×106乃至1×107個の細胞を使用する。
なお、追加免疫を行う際の抗原投与量は、動物の種類、大きさ等によって異なるが、一般に、例えばマウスの場合には0.05〜5mg、好ましくは0.1〜0.5mg、さらに好ましくは0.1〜0.2mg程度とする。免疫原が細胞の場合には、1×106乃至
1×107個の細胞を使用する。
上記追加免疫から1〜10日後、好ましくは2〜5日後、さらに好ましくは2〜3日後に被免疫動物から抗体産生細胞を含む脾臓細胞又はリンパ球を無菌的に取り出す。その際
に抗体価を測定し、抗体価が十分高くなった動物を抗体産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効率を高めることができる。
ここで用いられる抗体価の測定法としては、例えば、RIA法又はELISA法を挙げることができるがこれらの方法に制限されない。本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載する様な手順によって行うことができる。
まず、精製又は部分精製した抗原をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な蛋白質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)によって覆い、該表面を洗浄後、第一抗体として段階希釈した試料(例えばマウス血清)に接触させ、上記抗原に試料中の抗体を結合させる。
さらに第二抗体として酵素標識されたマウス抗体に対する抗体を加えてマウス抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することによって、抗体価を算出する。
被免疫動物の脾臓細胞又はリンパ球からの抗体産生細胞の分離は、公知の方法(例えば、Kohler et al.,Nature(1975)256,p.495;Kohler et al.,Eur.J.Immunol.(1977)6,p.511;Milstein et al.,Nature(1977),266,p.550;Walsh,Nature,(1977)266,p.495)に従って行うことができる。例えば、脾臓細胞の場合には、脾臓を細切して細胞をステンレスメッシュで濾過した後、イーグル最小必須培地(MEM)に浮遊させて抗体産生細胞を分離する一般的方法を採用することができる。
【0051】
(c)骨髄腫細胞(以下、「ミエローマ」という)の調製
細胞融合に用いるミエローマ細胞には特段の制限はなく、公知の細胞株から適宜選択して用いることができる。ただし、融合細胞からハイブリドーマを選択する際の利便性を考慮して、その選択手続が確立しているHGPRT(Hypoxanthine−guanine phosphoribosyl transferase)欠損株を用いるのが好ましい。
すなわち、マウス由来のX63−Ag8(X63)、NS1−ANS/1(NS1)、P3X63−Ag8.U1(P3U1)、X63−Ag8.653(X63.653)、SP2/0−Ag14(SP2/0)、MPC11−45.6TG1.7(45.6TG)、FO、S149/5XXO、BU.1等、ラット由来の210.RSY3.Ag.1.2.3(Y3)等、ヒト由来のU266AR(SKO−007)、GM1500・GTG−A12(GM1500)、UC729−6、LICR−LOW−HMy2(HMy2)、8226AR/NIP4−1(NP41)等である。これらのHGPRT欠損株は例えば、ATCC等から入手することができる。
これらの細胞株は、適当な培地、例えば8−アザグアニン培地(RPMI−1640培地にグルタミン、2−メルカプトエタノール、ゲンタマイシン及びウシ胎児血清(以下「FBS」という)を加えた培地に8−アザグアニンを加えた培地)、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;DMEM)で継代培養するが、細胞融合の3乃至4日前に正常培地(例えば、10% FCSを含むASF104培地(味の素株式会社製))で継代培養し、融合当日に2×107以上の細胞数を確保しておく。
【0052】
(d)細胞融合
抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、公知の方法(Weir,D.M.,Handbookof Experimental Immunology Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987);Kabat,E.A.and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles C Tho
mas Publisher Springfield,Illinois(1964)等)に従い、細胞の生存率を極度に低下させない程度の条件下で適宜実施することができる。
その様な方法として、例えば、ポリエチレングリコール等の高濃度ポリマー溶液中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合する化学的方法、電気的刺激を利用する物理的方法等を用いることができる。このうち、上記化学的方法の具体例を示せば以下の通りである。
すなわち、高濃度ポリマー溶液としてポリエチレングリコールを用いる場合には、分子量1500〜6000、好ましくは2000〜4000のポリエチレングリコール溶液中で、30〜40℃、好ましくは35〜38℃の温度で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを1〜10分間、好ましくは5〜8分間混合する。
【0053】
(e)ハイブリドーマ群の選択
上記細胞融合によって得られるハイブリドーマの選択方法は特に制限はないが、通常HAT(ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン)選択法(Kohler et al.,Nature(1975)256,p.495;Milstein et al.,Nature(1977)266,p.550)が用いられる。
この方法は、アミノプテリンで生存し得ないHGPRT欠損株のミエローマ細胞を用いてハイブリドーマを得る場合に有効である。すなわち、未融合細胞及びハイブリドーマをHAT培地で培養することによって、アミノプテリンに対する耐性を持ち合わせたハイブリドーマのみを選択的に残存させ、かつ増殖させることができる。
【0054】
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)
ハイブリドーマのクローニング法としては、例えばメチルセルロース法、軟アガロース法、限界希釈法等の公知の方法を用いることができる(例えばBarbara, B.M.and Stanley,M.S.:Selected Methods in Cellular Immunology,W.H.Freeman and Company,San Francisco(1980)参照)。これらの方法のうち、特にメチルセルロース法等の三次元培養法が好適である。例えば、細胞融合によって形成されたハイブリドーマ群をClonaCell−HY Selection Medium D(StemCell Technologies社製 #03804)等のメチルセルロース培地に懸濁して培養し、形成されたハイブリドーマコロニーを回収することでモノクローンハイブリドーマの取得が可能である。回収された各ハイブリドーマコロニーを培養し、得られたハイブリドーマ培養上清中に安定して抗体価の認められたものをTROP2モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0055】
この様にして樹立されたハイブリドーマ株の例としては、TROP2ハイブリドーマTINA1を挙げることができる。なお、本明細書中においては、TROP2ハイブリドーマTINA1が産生する抗体を、「TINA1抗体」又は単に「TINA1」と記載する。
TINA1抗体の重鎖可変領域は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する。また、TINA1抗体の軽鎖可変領域は、配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する。
【0056】
(g)ハイブリドーマの培養によるモノクローナル抗体の調製
この様にして選択されたハイブリドーマは、これを培養することによって、モノクローナル抗体を効率よく得ることができるが、培養に先立ち、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることが望ましい。
このスクリーニングにはそれ自体既知の方法が採用できる。
本発明における抗体価の測定は、例えば上記(b)の項目で説明したELISA法によ
って行うことができる。
以上の方法によって得たハイブリドーマは、液体窒素中又は−80℃以下の冷凍庫中に凍結状態で保存することができる。
クローニングを完了したハイブリドーマは、培地をHT培地から正常培地に換えて培養される。
大量培養は、大型培養瓶を用いた回転培養、或はスピナー培養で行われる。この大量培養における上清から、ゲル濾過等、当業者に周知の方法を用いて精製することによって、本発明の蛋白質に特異的に結合するモノクローナル抗体を得ることができる。
また、同系統のマウス(例えば、上記のBALB/c)、或はNu/Nuマウスの腹腔内にハイブリドーマを注射し、該ハイブリド−マを増殖させることによって、本発明のモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。
腹腔内に投与する場合には、事前(3〜7日前)に2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン(2,6,10,14−tetramethylpentadecane;プリスタン)等の鉱物油を投与すると、より多量の腹水が得られる。
例えば、ハイブリドーマと同系統のマウスの腹腔内に予め免疫抑制剤を注射し、T細胞を不活性化した後、20日後に106〜107個のハイブリドーマ・クローン細胞を、血清を含まない培地中に浮遊(0.5ml)させて腹腔内に投与し、通常腹部が膨満し、腹水がたまったところでマウスより腹水を採取する。この方法によって、培養液中に比べて約100倍以上の濃度のモノクローナル抗体が得られる。
上記方法によって得たモノクローナル抗体は、例えばWeir,D.M.:Handbook of Experimental Immunology,Vol.I,II,III,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1978)に記載されている方法で精製することができる。
かくして得られるモノクローナル抗体は、TROP2に対して高い抗原特異性を有する。
【0057】
(h)モノクローナル抗体の検定
かくして得られたモノクローナル抗体のアイソタイプ及びサブクラスの決定は以下の様に行うことができる。
まず、同定法としてはオクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、又はRIA法を挙げることができる。
オクテルロニー法は簡便ではあるが、モノクローナル抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。
一方、ELISA法又はRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに第二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることによって、モノクローナル抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定することが可能である。
また、さらに簡便な方法として、市販の同定用のキット(例えば、マウスタイパーキット;バイオラッド社製)等を利用することもできる。
さらに、蛋白質の定量は、フォーリンロウリー法及び280nmにおける吸光度(1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/ml)より算出する方法によって行うことができる。
さらに、(2)の(a)乃至(h)の工程を再度実施して別途に独立してモノクローナル抗体を取得した場合においても、TINA1抗体と同等の細胞傷害活性を有する抗体を取得することが可能である。この様な抗体の一例として、TINA1抗体と同一のエピトープに結合する抗体を挙げることができる。新たに作製されたモノクローナル抗体が、TINA1抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に結合すれば、該モノクローナル抗体がTINA1抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。また、TINA1抗体のTROP2に対する結合に対して該モノクローナル抗体が競合する(即ち、該モノクローナル抗体がTINA1抗体とTROP2の結合を妨げる)ことを確認する
ことによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、該モノクローナル抗体が抗TROP2抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。エピトープが同一であることが確認された場合、該モノクローナル抗体がTINA1抗体と同等の抗原結合能又は生物活性を有していることが強く期待される。
【0058】
(3) その他の抗体
本発明の抗体には、上記TROP2に対するモノクローナル抗体に加え、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト抗体等も含まれる。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,6851−6855,(1984)参照)。
ヒト化抗体としては、相補性決定領域(CDR)のみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986)321,p.522−525参照)、CDR移植法によって、CDRの配列に加えて一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第90/07861号)を挙げることができる。
但し、TINA1抗体由来のヒト化抗体としては、TINA1抗体の6種全てのCDR配列を保持する限り、特定のヒト化抗体に限定されることはない。なお、TINA1抗体の重鎖可変領域は、配列表の配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(TAGMQ)、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(WINTHSGVPKYAEDFKG)、及び配列番号25に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(SGFGSSYWYFDV)を保有している。また、TINA1抗体の軽鎖可変領域は、配列表の配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(KASQDVSTAVA)、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(SASYRYT)、及び配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(QQHYITPLT)を保有している。
【0059】
マウス抗体TINA1のヒト化抗体の実例としては、(1)配列表の配列番号12、14、又は16の20乃至140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、(2)上記(1)のアミノ酸配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(3)上記(1)のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列のいずれか一つからなる重鎖可変領域を含む重鎖、並びに(4)配列番号18、20、又は22の21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、(5)上記(4)のアミノ酸配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(6)上記(4)のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列のいずれか一つからなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の任意の組合せを挙げることができる。
なお、本明細書における「数個」とは、1乃至10個、1乃至9個、1乃至8個、1乃至7個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、又は1若しくは2個を意味する。
【0060】
また、本明細書におけるアミノ酸の置換としては保存的アミノ酸置換が好ましい。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸側鎖に関連のあるアミノ酸グループ内で生じる置換である。好適なアミノ酸グループは、以下の通りである:酸性グループ=アスパラギン酸、グルタミン酸;塩基性グループ=リシン、アルギニン、ヒスチジン;非極性グループ=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;非帯電極性ファミリー=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。他の好適なアミノ酸グループは次の通りである:脂肪
族ヒドロキシグループ=セリン及びスレオニン;アミド含有グループ=アスパラギン及びグルタミン;脂肪族グループ=アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;並びに芳香族グループ=フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン。かかるアミノ酸置換は元のアミノ酸配列を有する物質の特性を低下させない範囲で行うのが好ましい。
【0061】
上記の重鎖及び軽鎖の好適な組合せの抗体としては、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0062】
さらに好適な組合せの抗体としては、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載目のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載目のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234番目のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列
番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0063】
優れた好適な組み合わせとしては、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至140に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる可変領域を有する軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0064】
また、別の好適な組合せとしては、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番12に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号12に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番14に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、並びに配列番号16に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0065】
優れた好適な組み合わせとしては、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至470に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0066】
さらに優れた好適な組合せとしては、配列番号12においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号18においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、配列番号14においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号20においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる抗体、並びに配列番号16においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号22においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる
軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0067】
上記の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列と高い相同性を示す配列を組み合わせることによって、上記の各抗体と同等の生物活性を有する抗体を選択することが可能である。この様な相同性は、一般的には80%以上の相同性であり、好ましくは90%以上の相同性であり、より好ましくは95%以上の相同性であり、最も好ましくは99%以上の相同性である。また、重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列に1乃至数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を組み合わせることによっても、上記の各抗体と同等の生物活性を有する抗体を選択することが可能である。
【0068】
二種類のアミノ酸配列間の相同性は、Blast algorithm version 2.2.2(Altschul, Stephen F.,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaeffer, Jinghui Zhang, Zheng Zhang, Webb Miller, and David J.Lipman(1997),「Gapped BLAST and PSI−BLAST:a new generation of protein database search programs」,Nucleic Acids Res.25:3389−3402)のデフォルトパラメーターを使用することによって決定することができる。Blast algorithmは、インターネットでwww.ncbi.nlm.nih.gov/blastにアクセスすることによっても使用することができる。
【0069】
なお、配列表の配列番号12、14、又は16に示される重鎖アミノ酸配列中で、1乃至19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、20乃至140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、141乃至470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。配列番号12の配列は図3に、配列番号14の配列は図4に、配列番号16の配列は図5に各々記載されている。
また、配列表の配列番号18、20、又は22に示される軽鎖アミノ酸配列中で、1乃至20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、130乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。配列番号18の配列は図6に、配列番号20の配列は図7に、配列番号22の配列は図8に各々記載されている。
【0070】
本発明の抗体としては、さらに、TROP2に結合する、ヒト抗体を挙げることができる。抗TROP2ヒト抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗TROP2ヒト抗体は、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka,K.et al.,Nature Genetics(1997)16,p.133−143;Kuroiwa,Y.et.al.,Nucl.Acids Res.(1998)26,p.3447−3448;Yoshida,H.et.al.,Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10,p.69−73(Kitagawa,Y.,Matsuda,T.and Iijima,S.eds.),Kluwer Academic Publishers,1999.;Tomizuka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,p.722−727等を参照。)によって取得することができる。
【0071】
この様なヒト抗体産生マウスは、具体的には、内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりに酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome,YAC)ベクター等を介してヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物として、ノックアウト動物及びトランスジェニック
動物の作製及びこれらの動物同士を掛け合わせることによって作り出すことができる。
また、遺伝子組換え技術によって、その様なヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターによって真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することによって、この抗体を培養上清中から得ることもできる。
ここで、宿主としては例えば真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞を用いることができる。
【0072】
また、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone,I.M.et.al,Investigative Ophthalmology & Visual Science.(2002)43(7),p.2301−2308;Carmen,S.et.al.,Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002),1(2),p.189−203;Siriwardena,D.et.al.,Ophthalmology(2002)109(3),p.427−431等参照。)も知られている。
例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージ表面に発現させて、抗原に結合するファージを選択するファージディスプレイ法(Nature Biotechnology(2005),23,(9),p.1105−1116)を用いることができる。
抗原に結合することで選択されたファージの遺伝子を解析することによって、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。
抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによってヒト抗体を取得することができる(国際公開第92/01047号、同92/20791号、同93/06213号、同93/11236号、同93/19172号、同95/01438号、同95/15388号;Annu.Rev.Immunol(1994)12,p.433−455;Nature Biotechnology(2005)23(9),p.1105−1116)。
新たに作製されたヒト抗体が、TINA1抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に結合すれば、該ヒト抗体がTINA1抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。また、TINA1抗体のTROP2に対する結合に対して該ヒト抗体が競合する(すなわち、該ヒト抗体が、TINA1抗体とTROP2の結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、該ヒト抗体がTINA1抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。エピトープが同一であることが確認された場合、該ヒト抗体がTINA1抗体と同等の生物活性を有していることが強く期待される。
以上の方法によって得られたキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体は、公知の方法等によって抗原に対する結合性を評価し、好適な抗体を選抜することができる。
【0073】
抗体の性質を比較する際の別の指標の一例としては、抗体の安定性を挙げることができる。示差走査カロリメトリー(DSC)は、蛋白の相対的構造安定性のよい指標となる熱変性中点(Tm)を素早く、また正確に測定することができる装置である。DSCを用いてTm値を測定し、その値を比較することによって、熱安定性の違いを比較することができる。抗体の保存安定性は、抗体の熱安定性とある程度の相関を示すことが知られており(Lori Burton,et.al.,Pharmaceutical Development and Technology(2007)12,p.265−273)、熱安定性を指標に、好適な抗体を選抜することができる。抗体を選抜するための他の指標としては、適切な宿主細胞における収量が高いこと、及び水溶液中での凝集性が低いことを挙げることができる。例えば収量の最も高い抗体が最も高い熱安定性を示すとは限ら
ないので、以上に述べた指標に基づいて総合的に判断して、ヒトへの投与に最も適した抗体を選抜する必要がある。
【0074】
本発明の抗体には抗体の修飾体も含まれる。当該修飾体とは、本発明の抗体に化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N−結合又はO−結合炭水化物鎖の化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N−結合又はO−結合への糖鎖付加、N末又はC末のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによってN末にメチオニン残基が付加したもの等が含まれる。また、本発明の抗体又は抗原の検出又は単離を可能にするために標識されたもの、例えば、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾物の意味に含まれる。この様な本発明の抗体の修飾物は、抗体の安定性及び血中滞留性の改善、抗原性の低減、抗体又は抗原の検出又は単離等に有用である。
【0075】
また、本発明の抗体に結合している糖鎖修飾を調節すること(グリコシル化、脱フコース化等)によって、抗体依存性細胞傷害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、国際公開第1999/54342号、同2000/61739号、同2002/31140号等が知られているが、これらに限定されるものではない。本発明の抗体には当該糖鎖修飾を調節された抗体も含まれる。
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。抗体遺伝子の具体例としては、本明細書に記載された抗体の重鎖配列をコードする遺伝子、及び軽鎖配列をコードする遺伝子を組み合わせたものを挙げることができる。宿主細胞を形質転換する際には、重鎖配列遺伝子と軽鎖配列遺伝子は、同一の発現ベクターに挿入されていることが可能であり、又別々の発現ベクターに挿入されていることも可能である。
真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞や、真核微生物を用いることができる。特に動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175−182、ATCC CRL−1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL−1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1980)77,p.4126−4220)を挙げることができる。
原核細胞を使用する場合は、例えば、大腸菌、枯草菌を挙げることができる。
これらの細胞に目的とする抗体遺伝子を形質転換によって導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによって抗体が得られる。当該培養においては抗体の配列によって収量が異なる場合があり、同等な結合活性を持つ抗体の中から収量を指標に医薬としての生産が容易なものを選別することが可能である。よって、本発明の抗体には、上記形質転換された宿主細胞を培養する工程、及び当該工程で得られた培養物から目的の抗体又は当該抗体の機能性断片を採取する工程を含むことを特徴とする当該抗体の製造方法によって得られる抗体も含まれる。
【0076】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリシン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A,705:129−134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リシンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry,360:75−83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用等)には影響を及ぼさない。したがって、本発明に係る抗体には、当該修飾を受けた抗体及び当該
抗体の機能性断片も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2のアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等も包含される。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明に係る抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明に係る抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であってもよいし、いずれか二種を組み合わせたものであってもよい。各欠失体の量比は本発明に係る抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明に係る抗体の主成分としては2本の重鎖の双方でカルボキシル末端のひとつのアミノ酸残基が欠失している場合を挙げることができる。
【0077】
本発明の抗体のアイソタイプとしては、例えばIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)等を挙げることができるが、好ましくはIgG1又はIgG2を挙げることができる。
【0078】
抗体の生物活性としては、一般的には抗原結合活性、抗原と結合することによって該抗原を発現する細胞に内在化する活性、抗原の活性を中和する活性、抗原の活性を増強する活性、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(CDC)活性及び抗体依存性細胞媒介食作用(ADCP)を挙げることができるが、本発明に係る抗体が有する機能は、TROP2に対する結合活性であり、好ましくはTROP2と結合することによってTROP2発現細胞に内在化する活性である。さらに、本発明の抗体は、細胞内在化活性に加えて、ADCC活性、CDC活性及び/又はADCP活性を併せ持っていても
よい。
【0079】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばカラムクロマトグラフィー、フィルター濾過、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring
Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))が、これらに限定されるものではない。
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等を挙げることができる。
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液体クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムを挙げることができる。例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D,POROS,Sepharose F.F.(ファルマシア)等を挙げることができる。
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
【0080】
[抗腫瘍性化合物]
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートに結合される抗腫瘍性化合物について述べる。本発明で使用される抗腫瘍性化合物としては、抗腫瘍効果を有する化合物であっ
て、リンカー構造に結合できる置換基、部分構造を有するものであれば特に制限はない。抗腫瘍性化合物は、リンカーの一部又は全部が腫瘍細胞内で切断されて抗腫瘍性化合物部分が遊離して抗腫瘍効果が発現される。リンカーが薬物との結合部分で切断されれば抗腫瘍性化合物が未修飾の構造で遊離され、その本来の抗腫瘍効果が発揮される。
本発明で使用される抗腫瘍性化合物として、カンプトテシン誘導体であるエキサテカン((1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-2,3-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13(9H,15H)-ジオン;次式:)
【0081】
【化14】
【0082】
を好適に使用することができる。このエキサテカンは、優れた抗腫瘍活性を有しているものの、抗腫瘍薬として市販されるには至っていない。同化合物は、公知の方法で容易に取得でき、1位のアミノ基をリンカー構造への結合部位として好適に使用することができる。また、エキサテカンはリンカーの一部が結合した状態で腫瘍細胞内で遊離される場合もあるが、この様な構造であっても優れた抗腫瘍効果が発揮される優れた化合物である。
エキサテカンはカンプトテシン構造を有するので、酸性水性媒体中(例えばpH3程度)
ではラクトン環が形成された構造(閉環体)に平衡が偏り、一方、塩基性水性媒体中(例えばpH10程度)ではラクトン環が開環した構造(開環体)に平衡が偏ることが知られている。この様な閉環構造及び開環構造に対応するエキサテカン残基を導入した薬物コンジュゲートであっても同等の抗腫瘍効果が期待され、いずれの状態のものも本発明の範囲に包含されることはいうまでもない。
【0083】
他の抗腫瘍性化合物として例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、シクロシチジン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキセート、白金系抗腫瘍剤(シスプラチン又はその誘導体)、タキソール又はその誘導体、その他のカンプトテシン又はその誘導体(特開平6-87746号公報に記載された抗腫瘍剤)等
を挙げることができる。
【0084】
抗体−薬物コンジュゲートにおいて、抗体1分子への薬物の結合数は、その有効性、安全性に影響する重要因子である。抗体−薬物コンジュゲートの製造は、薬物の結合数が一定の数となるよう、反応させる原料・試薬の使用量等の反応条件を規定して実施されるが、低分子化合物の化学反応とは異なり、抗体−薬物コンジュゲートは異なる数の薬物が結合した混合物として得られるのが通常である。抗体1分子への薬物の結合数は平均値、すなわち、平均薬物結合数として特定され、表記される。本発明でも原則として断りのない限り、すなわち、異なる薬物結合数をもつ抗体−薬物コンジュゲート混合物に含まれる特定の薬物結合数をもつ抗体−薬物コンジュゲートを示す場合を除き、薬物の結合数は平均値を意味する。抗体分子へのエキサテカンの結合数はコントロール可能であり、1抗体あたりの薬物平均結合数として、1から10個程度のエキサテカンを結合させることができ
るが、好ましくは2から8個であり、より好ましくは3から8個である。なお、当業者であれば本願の実施例の記載から抗体に必要な数の薬物を結合させる反応を設計することができ、エキサテカンの結合数をコントロールした抗体−薬物コンジュゲートを取得することができる。
【0085】
[リンカー構造]
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートにおいて抗腫瘍性化合物を抗TROP2抗体に結合させるリンカー構造について述べる。当該リンカーは、次式:
-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-
の構造を有しており、抗体はL1の末端(L2が結合するのとは反対側の末端)で結合し、抗腫瘍性化合物は-La-(CH2)n2-C(=O)-部分のカルボニル基で結合する。
n1は、0から6の整数を示すが、好ましくは1から5の整数であり、より好ましくは1から3である。
【0086】
1.L1
L1は、
-(Succinimid-3-yl-N)-(CH2)n3-C(=O)-
の構造で示される。
ここで、n3は、2から8の整数であり、『-(Succinimid-3-yl-N)-』は、次式
【0087】
【化15】
【0088】
で示される構造を有する。この部分構造における3位が抗TROP2抗体への結合部位である。この3位での該抗体との結合は、チオエーテルを形成して結合することが特徴である。この構造部分の1位の窒素原子は、この構造が含まれるリンカー内に存在するメチレンの炭素原子と結合する。すなわち、-(Succinimid-3-yl-N)-(CH2)n3-C(=O)-L2-は次式で示される構造である(ここで、「抗体−S−」は抗体由来である。)。
【0089】
【化16】
【0090】
式中、n3は、2から8の整数であるが、好ましくは2から5である。
【0091】
L1の具体例としては、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-
等を挙げることができる。
【0092】
2.L2
L2は、
-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-
で示される構造であるが、L2は存在しなくともよく、この場合L2は単結合となる。また、n4は、1から6の整数であり、好ましくは2から4である。L2は末端のアミノ基でL1に結合し、反対の末端のカルボニル基でLPと結合する。
【0093】
L2の具体例としては、
-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-
等を挙げることができる。
【0094】
3.LP
LPは、2から7個のアミノ酸で構成されるペプチド残基である。すなわち、2から7個のアミノ酸がペプチド結合したオリゴペプチドの残基によって構成される。LPは、N末端においてL2に結合し、C末端においてリンカーの-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-部分の
アミノ基に結合する。
【0095】
LPを構成するアミノ酸は特に限定されることはないが、例えば、L-又はD-アミノ酸であり、好ましくはL-アミノ酸である。また、α−アミノ酸の他、β−アラニン、ε−アミノカプロン酸、γ−アミノ酪酸等の構造のアミノ酸であってもよく,さらには例えばN−メチル化されたアミノ酸等の非天然型のアミノ酸であってもよい。
LPのアミノ酸配列は、特に限定されないが、構成するアミノ酸として、フェニルアラニン(Phe;F)、チロシン(Tyr;Y)、ロイシン(Leu;L)、グリシン(Gly;G)、アラニン(Ala;A)、バリン(Val;V)、リシン(Lys;K)、シトルリン(Cit)、セリン(Ser;S)、グルタミン酸(Glu;E)、アスパラギン酸(Asp;D)等を挙げることができる。
これらのうちで好ましくは、フェニルアラニン、グリシン、バリン、リシン、シトルリン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸を挙げることができる。アミノ酸の種類によって、薬物遊離のパターンをコントロールすることができる。アミノ酸の数は、2から7個でよい。
【0096】
LPの具体例として、
-GGF-、
-DGGF-、
-(D-)D-GGF-、
-EGGF-、
-GGFG-、
-SGGF-、
-KGGF-、
-DGGFG-、
-GGFGG-、
-DDGGFG-、
-KDGGFG-、
-GGFGGGF-
を挙げることができる。上記の『(D-)D』はD-アスパラギン酸を意味する。本発明の抗体
−薬物コンジュゲートの特に好ましいLPとして、-GGFG-のテトラペプチド残基を挙げることができる。
【0097】
4.La-(CH2)n2-C(=O)-
La-(CH2)n2-C(=O)-におけるLaは、-O-の構造であるか、又は単結合である。n2は、0から5の整数であるが、好ましくは0から3であり、より好ましくは0または1である。
La-(CH2)n2-C(=O)-としては以下の構造のものを挙げることができる。
-O-CH2-C(=O)-、
-O-CH2CH2-C(=O)-、
-O-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-O-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-O-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-CH2-C(=O)-、
-CH2CH2-C(=O)-、
-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-。
これらのうちでは、
-O-CH2-C(=O)-、
-O-CH2CH2-C(=O)-
である場合か、Laが単結合でn2が0である場合が好ましい。
【0098】
リンカーの-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-で示される構造の具体例として、
-NH-CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
等を挙げることができる。
【0099】
より好ましくは、
-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、
-NH-CH2CH2-O-C(=O)-
である。
【0100】
リンカーの-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-は、鎖長として4から7原子の鎖長である
ものが好ましいが、さらに好ましくは5又は6原子の鎖長を有するものである。
【0101】
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、腫瘍細胞内に移動した後にはリンカー部分が切断され、NH2-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-(NH-DX)で示される構造の薬物誘導体が遊離して抗腫瘍作用を発現すると考えられる。本発明の抗体−薬物コンジュゲートから遊離されて抗腫瘍効果を発現する抗腫瘍性誘導体としては、先に挙げたリンカーの-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-で示される構造の末端がアミノ基となった構造部分を有する
抗腫瘍性誘導体を挙げることができるが、特に好ましいものは次のものである。
NH2-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
NH2-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
NH2-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
NH2-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)。
なお、NH2-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)の場合は同分子内にあるアミナール構造が不安定
であるため、さらに自己分解して
HO-CH2-C(=O)-(NH-DX)
が遊離されることが確認された。これらの化合物は本発明の抗体−薬物コンジュゲートの製造中間体としても好適に用いることができる。
【0102】
薬物をエキサテカンとする本発明の抗体−薬物コンジュゲートにおいては、下記の構造の薬物−リンカー構造部分[-L1-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-(NH-DX)]を抗体
に結合させたものが好ましい。これらの薬物−リンカー構造部分は、1抗体あたりの平均結合数として、1から10を結合させればよいが、好ましくは2から8であり、より好ましくは3から8である。
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
これらのうちでより好ましくは、次のものである。
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
さらに、好ましくは、次のものである。
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
【0103】
本発明の抗体−薬物コンジュゲートにおいて、抗TROP2抗体と薬物とを結合するリンカー構造は、これまで述べたリンカー各部において示した好ましい構造のものを結合することで好ましいリンカーを構築することができる。この様なリンカ−構造として以下の構造のものを好適に使用することができる。なお構造の左端が抗体との結合部位であり、右端が薬物との結合部位である。
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-。
これらのうちでより好ましくは、次のものである。
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-。
さらに、好ましくは、次のものを挙げることができる。
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-、
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-。
【0104】
[製造方法]
次に、本発明の抗体−薬物コンジュゲート或はその製造中間体の代表的な製造方法について説明する。なお、以下において、化合物を示すために、各反応式中に示される化合物の番号を用いる。すなわち、『式(1)の化合物』、『化合物(1)』等と称する。またこれ以外の番号の化合物についても同様に記載する。
【0105】
1.製造方法1
式(1)で示される、チオエーテルを介して抗体と薬物−リンカー構造が結合している抗体−薬物コンジュゲートは、例えば下記の方法によって製造することができる。
【0106】
【化17】
【0107】
[式中、ABは、スルフヒドリル基を有する抗体を示し、L1’は、L1で示されるリンカー構造において、リンカー末端がマレイミジル基(次式)
【0108】
【化18】
【0109】
となった構造(ここで、窒素原子が結合部位となっている)を示すが、具体的には、L1のうちの-(Succinimid-3-yl-N)-(CH2)n3-C(=O)-において-(Succinimid-3-yl-N)-部分がマレイミジル基となった基を示す。また、-(NH-DX)は次式:
【0110】
【化19】
【0111】
で示される構造であり、エキサテカンの1位のアミノ基の水素原子1個が除かれて生成する基を示す。]
【0112】
なお、上記の反応式において、式(1)の化合物では、薬物からリンカー末端までの構造部分1個が1個の抗体に対して結合した構造として解釈され得るが、これは説明のための便宜的な記載であって、実際には当該構造部分が抗体分子1個に対して複数個が結合している場合が多い。この状況は以下の製造方法の説明においても同様である。
【0113】
後述する方法によって入手しうる化合物(2)と、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)を反応させることによって、抗体−薬物コンジュゲート(1)を製造することができ
る。
スルフヒドリル基を有する抗体(3a)は、当業者周知の方法で得ることができる(Hermanson, G.T,Bioconjugate Techniques, pp.56-136, pp.456-493, Academic Press(1996))。例えば、Traut’s試薬を抗体のアミノ基に作用させる;N−サクシンイミジル
S−アセチルチオアルカノエート類を抗体のアミノ基に作用させた後、ヒドロキシルアミンを作用させる;N−サクシンイミジル 3−(ピリジルジチオ)プロピオネートを作用させた後、還元剤を作用させる;ジチオトレイトール、2−メルカプトエタノール、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)等の還元剤を抗体に作用さ
せて抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元してスルフヒドリル基を生成させる;等の方法を挙げることができるがこれらに限定されることはない。
具体的には、還元剤としてTCEPを、抗体内ヒンジ部ジスルフィド1個当たりに対して0.3乃至3モル当量用い、キレート剤を含む緩衝液中で、抗体と反応させることで、
抗体内ヒンジ部ジスルフィドが部分的又は完全に還元された抗体を得ることができる。キレート剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)やジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)等を挙げることができる。これらを1mM乃至20mMの濃度で用いればよい。緩衝液としては、リン酸ナトリウムやホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム溶液等を用いることができる。具体的には、抗体は4℃乃至37℃で1乃至4時間TCEPと反応させることで部分的又は完全に還元されたスルフヒドリル基を有する抗体(3a)を
得ることが出来る。
ここでスルフヒドリル基を薬物−リンカー部分に付加させる反応を実施することでチオエーテル結合によって薬物−リンカー部分を結合させることができる。
スルフヒドリル基を有する抗体(3a)1個あたり、2乃至20モル当量の化合物(2
)を使用して、抗体1個当たり2個乃至8個の薬物が結合した抗体―薬物コンジュゲート(1)を製造することができる。具体的には、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)を
含む緩衝液に、化合物(2)を溶解させた溶液を加えて反応させればよい。ここで、緩衝液としては、酢酸ナトリウム溶液、リン酸ナトリウムやホウ酸ナトリウム等を用いればよい。反応時のpHは5乃至9であり、より好適にはpH7付近で反応させればよい。化合物(2)を溶解させる溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチル−2−ピリドン(NMP)等の有機溶媒を用いることができる。
化合物(2)を溶解させた有機溶媒溶液を、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)を
含む緩衝液に1乃至20%v/vを加えて反応させればよい。反応温度は、0乃至37℃、より好適には10乃至25℃であり、反応時間は、0.5乃至2時間である。反応は、未反応の化合物(2)の反応性をチオール含有試薬によって失活させることによって終了できる。チオール含有試薬は例えば、システインまたはN−アセチル−L−システイン(NAC)である。より具体的には、NACを、用いた化合物(2)に対して、1乃至2モル当量加え、室温で10乃至30分インキュベートすることにより反応を終了できる。
製造した抗体−薬物コンジュゲート(1)は、以下の共通操作によって濃縮、バッファー交換、精製、抗体濃度及び抗体一分子あたりの薬物平均結合数の測定を行い、抗体−薬物コンジュゲート(1)の同定を行うことができる。
【0114】
共通操作A:抗体又は抗体−薬物コンジュゲート水溶液の濃縮
Amicon Ultra(50,000 MWCO,Millipore Corporation)の容器内に抗体又は抗体−薬物コンジュゲート溶液を入れ、遠心機(Allegra X−15R,Beckman Coulter,Inc.)を用いた遠心操作(2000G乃至3800Gで5乃至20分間遠心)にて、抗体又は抗体−薬物コンジュゲート溶液を濃縮した。
共通操作B:抗体の濃度測定
UV測定器(Nanodrop 1000,Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて、メーカー規定の方法に従い、抗体濃度の測定を行った。その際に、抗体ごとに異なる280nm吸光係数(1.3mLmg-1cm-1乃至1.8mLmg-1cm-1)を用いた。
共通操作C−1:抗体のバッファー交換
Sephadex G−25担体を使用したNAP−25カラム(Cat.No.17−0852−02,GE Healthcare Japan Corporation)を、メーカー規定の方法に従い、塩化ナトリウム(137mM)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA,5mM)を含むリン酸緩衝液(10mM,pH6.0;本明細書でPBS6.0/EDTAと称する)にて平衡化させた。このNAP−25カラム一本につき、抗体水溶液2.5mLをのせた後、PBS6.0/EDTA3.5mLで溶出させた画分(3.5mL)を分取した。この画分を共通操作Aによって濃縮し、共通操作Bを用いて抗体濃度の測定を行った後に、PBS6.0/EDTAを用いて10mg/mLに抗体濃度を調整した。
共通操作C−2:抗体のバッファー交換
Sephadex G−25担体を使用したNAP−25カラム(Cat.No.17−0852−02,GE Healthcare Japan Corporation)を、メーカー規定の方法に従い、塩化ナトリウム(50mM)及びEDTA(2mM)を含むリン酸緩衝液(50mM,pH6.5;本明細書でPBS6.5/EDTAと称する)にて平衡化させた。このNAP−25カラム一本につき、抗体水溶液2.5mLをのせた後、PBS6.5/EDTA3.5mLで溶出させた画分(3.5mL)を分取した。この画分を共通操作Aによって濃縮し、共通操作Bを用いて抗体濃度の測定を行った後に、PBS6.5/EDTAを用いて20mg/mLに抗体濃度を調整した。
共通操作D:抗体−薬物コンジュゲートの精製
市販のリン酸緩衝液(PBS7.4,Cat.No.10010−023,Invitrogen)、塩化ナトリウム(137mM)を含むリン酸ナトリウム緩衝液(10mM,pH6.0;本明細書でPBS6.0と称する)又はSorbitol(5%)を含む酢酸緩衝液(10mM,pH5.5;本明細書でABSと称する)のいずれかの緩衝液でNAP−25カラムを平衡化させた。このNAP−25カラムに、抗体−薬物コンジュゲート反応水溶液(約1.5mL)をのせ、メーカー規定の量の緩衝液で溶出させることで、抗体画分を分取した。この分取画分を再びNAP−25カラムにのせ、緩衝液で溶出させるゲルろ過精製操作を計2乃至3回繰り返すことで、未結合の薬物リンカーや低分子化合物(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、N−アセチル−L−システイン(NAC)、ジメチルスルホキシド)を除いた抗体−薬物コンジュゲートを得た。
共通操作E:抗体−薬物コンジュゲートにおける抗体濃度及び抗体一分子あたりの薬物平均結合数の測定(1)
抗体−薬物コンジュゲートにおける結合薬物濃度は、抗体−薬物コンジュゲート水溶液の280nm及び370nmの二波長におけるUV吸光度を測定した後に下記の計算を行うことで、算出することができる。
ある波長における全吸光度は系内に存在する全ての吸収化学種の吸光度の和に等しい(吸光度の加成性)ことから、抗体と薬物のコンジュゲーション前後において、抗体及び薬物のモル吸光係数に変化がないと仮定すると、抗体−薬物コンジュゲートにおける抗体濃度及び薬物濃度は、下記の関係式で示される。

280=AD,280+AA,280=εD,280D+εA,280A 式(I)
370=AD,370+AA,370=εD,370D+εA,370A 式(II)

ここで、A280は280nmにおける抗体−薬物コンジュゲート水溶液の吸光度を示し
、A370は370nmにおける抗体−薬物コンジュゲート水溶液の吸光度を示し、AA,280は280nmにおける抗体の吸光度を示し、AA,370は370nmにおける抗体の吸光度
を示し、AD,280は280nmにおけるコンジュゲート前駆体の吸光度を示し、AD,370は370nmにおけるコンジュゲート前駆体の吸光度を示し、εA,280は280nmにおけ
る抗体のモル吸光係数を示し、εA,370は370nmにおける抗体のモル吸光係数を示し
、εD,280は280nmにおけるコンジュゲート前駆体のモル吸光係数を示し、εD,370は370nmにおけるコンジュゲート前駆体のモル吸光係数を示し、CAは抗体−薬物コン
ジュゲートにおける抗体濃度を示し、CDは抗体−薬物コンジュゲートにおける薬物濃度
を示す。
ここで、εA,280、εA,370、εD,280、εD,370は、事前に用意した値(計算推定値又は化合物のUV測定から得られた実測値)が用いられる。例えば、εA,280は、抗体のアミ
ノ酸配列から、既知の計算方法(Protein Science, 1995, vol.4, 2411-2423)によって
推定することが出来る。εA,370は、通常、ゼロである。εD,280及びεD,370は、用いる
コンジュゲート前駆体をあるモル濃度に溶解させた溶液の吸光度を測定することで、ランベルト・ベールの法則(吸光度=モル濃度×モル吸光係数×セル光路長)によって、得る
ことができる。抗体−薬物コンジュゲート水溶液のA280及びA370を測定し、これらの値を式(I)及び(II)に代入して連立方程式を解くことによって、CA及びCDを求めることができる。さらにCDをCAで除することで1抗体あたりの薬物平均結合数が求めることができる。
【0115】
共通操作F:抗体−薬物コンジュゲートにおける抗体一分子あたりの薬物平均結合数の測定(2)
抗体−薬物コンジュゲートにおける抗体一分子あたりの薬物平均結合数は、前述の共通操作Eに加え、以下の方法を用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によっても求めることができる。
[F−1.HPLC分析用サンプルの調製(抗体−薬物コンジュゲートの還元)]
抗体−薬物コンジュゲート溶液(約1mg/mL、60μL)をジチオトレイトール(DTT)水溶液(100mM、15μL)と混合する。混合物を37℃で30分インキュベートすることで、抗体−薬物コンジュゲートのL鎖及びH鎖間のジスルフィド結合を切断したサンプルを、HPLC分析に用いる。
[F−2.HPLC分析]
HPLC分析を、下記の測定条件にて行う。
HPLCシステム:Agilent 1290 HPLCシステム(Agilent T
echnologies)
検出器:紫外吸光度計(測定波長:280nm)
カラム:PLRP−S(2.1×50mm、8μm、1000Å;Agilent T
echnologies、P/N PL1912−1802)
カラム温度:80℃
移動相A:0.04%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液
移動相B:0.04%TFAを含むアセトニトリル溶液
グラジエントプログラム:29%−36%(0分−12.5分)、36%−42%(12.5−15分)、42%−29%(15分−15.1分)、29%−29%(15.1分−25分)
サンプル注入量:15μL
[F−3.データ解析]
〔F−3−1〕 薬物の結合していない抗体のL鎖(L)及びH鎖(H)に対して、薬物の結合したL鎖(薬物が一つ結合したL鎖:L)及びH鎖(薬物が一つ結合したH鎖:H、薬物が二つ結合したH鎖:H、薬物が三つ結合したH鎖:H)は、結合した薬物の数に比例して疎水性が増して保持時間が大きくなることから、L、L、H、H、H、Hの順に溶出される。L及びHとの保持時間比較により検出ピークをL、L、H、H、H、Hのいずれかに割り当てることができる。
〔F−3−2〕 薬物リンカーにUV吸収があるため、薬物リンカーの結合数に応じて、L鎖、H鎖及び薬物リンカーのモル吸光係数を用いて下式に従ってピーク面積値の補正を行う。
【0116】
【数1】
【0117】
【数2】
【0118】
ここで、各抗体におけるL鎖及びH鎖のモル吸光係数(280nm)は、既知の計算方法(Protein Science, 1995, vol.4, 2411-2423)によって、各抗体のL鎖及びH鎖のア
ミノ酸配列から推定される値を用いることができる。hTINAの場合、そのアミノ酸配列に従って、L鎖のモル吸光係数として34690を、H鎖のモル吸光係数として95000を推定値として用いた。また、薬物リンカーのモル吸光係数(280nm)は、各薬物リンカーをメルカプトエタノール又はN−アセチルシステインで反応させ、マレイミド基をサクシニイミドチオエーテルに変換した化合物の実測のモル吸光係数(280nm)を用いた。
〔F−3−3〕 ピーク面積補正値合計に対する各鎖ピーク面積比(%)を下式に従って計算する。
【0119】
【数3】
【0120】
〔F−3−4〕 抗体−薬物コンジュゲートにおける抗体一分子あたりの薬物平均結合数を、下式に従って計算する。
薬物平均結合数=(Lピーク面積比×0+Lピーク面積比×1+Hピーク面積比×0+Hピーク面積比×1+Hピーク面積比×2+Hピーク面積比×3)/100×2
【0121】
製造方法1における式(2)で示される化合物は次式:
(maleimid-N-yl)-(CH2)n3-C(=O)-L2-LP-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-C(=O)-(NH-DX)
で示される化合物である。
式中、
n3は、整数の2から8を示し、
L2は、-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-又は単結合を示し、
ここで、n4は、1から6の整数を示し、
LPは、フェニルアラニン、グリシン、バリン、リシン、シトルリン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸から選ばれる2から7個のアミノ酸で構成されるペプチド残基を示し、
n1は、0から6の整数を示し、
n2は、0から5の整数を示し、
Laは、-O-又は単結合を示し、
(maleimid-N-yl)-は、次式
【0122】
【化20】
【0123】
で示される、マレイミジル基(2,5-dioxo-2,5-dihydro-1H-pyrrol-1-yl基)であって、窒素原子が結合部位となっている基であり、
-(NH-DX)は、次式
【0124】
【化21】
【0125】
で示される、1位のアミノ基の窒素原子が結合部位となっている基である。
【0126】
L2は、単結合であるか、-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-である場合にはn4が整数の2から4であることが製造中間体として好ましい。
LPのペプチド残基としては、フェニルアラニン、グリシン、バリン、リシン、シトルリン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸から選ばれるアミノ酸からなるペプチド残基である化合物が製造中間体として好ましい。この様なペプチド残基のうち、LPが4個のアミノ酸で構成されるペプチド残基である化合物が製造中間体として好ましい。より具体的には、LPが-GGFG-のテトラペプチド残基である化合物が製造中間体として好ましい。
【0127】
また、-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-としては、-NH-CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-、-NH-CH2-O-CH2-、又は-NH-CH2CH2-O-CH2-である化合物が製造中間体として好ましく、より好ましくは、-NH-CH2CH2CH2-、-NH-CH2-O-CH2-、又は-NH-CH2CH2-O-CH2である化合物である。
【0128】
さらに、式(2)で示される化合物は、n3が整数の2から5であり、L2が単結合であり、-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-が、-NH-CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-、-NH-CH2-O-CH2-、又は-NH-CH2CH2-O-CH2-である化合物が製造中間体として好ましい。より好ましくは、-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-が、-NH-CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2-、-NH-CH2-O-CH2-、又は-NH-CH2CH2-O-CH2-である化合物である。さらに、n3が、
整数の2又は5である化合物が好ましい。
【0129】
また、式(2)で示される化合物は、n3が整数の2から5であり、L2が-NH-(CH2CH2-O)n4-CH2CH2-C(=O)-であって、n4が整数の2から4であり、-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-が、-NH-CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-、-NH-CH2-O-CH2-、又は-NH-CH2CH2-O-CH2-である化合物が製造中間体として好ましい。より好ましくは、n4が整数の2又は4の化合物である。さらに、-NH-(CH2)n1-La-(CH2)n2-が、-NH-CH2CH2CH2-、-NH-CH2-O-CH2-、又は-NH-CH2CH2-O-CH2-である化合物が好ましい。
【0130】
この様な本発明化合物の製造に有用な中間体として好ましいものとしては以下のものを例示することができる。
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
【0131】
上記の製造中間体化合物の群から選ばれる薬物−リンカー化合物を、抗TROP2抗体又はその反応性誘導体と反応させることによって抗TROP2抗体のヒンジ部に存在するジスルフィド結合部分においてチオエーテル結合を形成させて本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートを製造することができる。この場合、抗TROP2抗体の反応性誘導体を使用することが好ましく、特に抗TROP2抗体を還元処理して得られる反応性誘導体が好ましい。
【0132】
以下のものが製造中間体としてより好ましい化合物である。
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)。
【0133】
また、上記の中間体化合物群の中では次式:
(maleimid-N-yl)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-(NH-DX)、
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、又は
(maleimid-N-yl)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-(NH-DX)、
で示される化合物がさらに好ましい化合物である。
【0134】
なお、コンジュゲートの量を確保するために、同様な条件で作製して得られた平均薬物数が同程度の複数のコンジュゲート(例えば±1程度)を混合して新たなロットにすることができる。その場合、平均薬物数は混合前の平均薬物数の間に収まる。
【0135】
2.製造方法2
先の製造方法で使用した中間体である式(2)で示される化合物及びそれらの薬理上許容される塩は例えば下記の方法によって製造することができる。
【0136】
【化22】
【0137】
[式中、L1’は末端マレイミジル基を示し、P1、P2及びP3は保護基を示す。]
【0138】
カルボン酸(5)を活性エステル、混合酸無水物、又は酸ハロゲン化物等に誘導し、塩
基存在下、NH2-DX(4)またはその薬理上許容される塩と反応させることによって化合物(6)を製造することができる。NH2-DX(4)は、エキサテカン(化学名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-2,3-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-1H,12H-ベンゾ[de]ピ
ラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13(9H,15H)-ジオン)を示す。
この反応は、ペプチド合成に通常用いる反応試薬や条件を準用すればよい。活性エステルには各種のものがあるが、例えばp−ニトロフェノール等のフェノール類、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール或はN−ヒドロキシスクシンイミド等とカルボン酸(5)をN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド或は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩等の縮合剤を用いて反応させれば製造できる。また、活性エステルは、カルボン酸(5)とペンタフルオロフェニルトリフルオロアセテート等との反応;カルボン酸(5)と1−ベンゾトリアゾリルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファイトとの反応;カルボン酸(5)とシアノホスホン酸ジエチルとの反応(塩入法);カルボン酸(5)とトリフェニルホスフィン及び2,2’−ジピリジルジスルフィドとの反応(向山法);カルボン酸(5)と4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロライド(DMTMM)等のトリアジン誘導体との反応;等によっても製造することができる。また、カルボン酸(5)を塩基存在下に塩化チオニル、オキザリルクロリド等の酸ハロゲン化物で処理することによって製造できる酸ハライド法等によって反応を行うこともできる。
上記の様に得たカルボン酸(5)の活性エステル、混合酸無水物、又は酸ハロゲン化物を化合物(4)と適当な塩基存在下に不活性な溶媒中で−78℃〜150℃の反応温度で反応させることによって化合物(6)を製造することができる。なお、「不活性な溶媒」とはその溶媒が採用された反応において実施される目的とされた反応を阻害することのない溶媒を意味する。
【0139】
上記の各工程に用いる具体的な塩基としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムエトキシド、カリウムブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルコキシド、水酸化物、又は水素化物;n−ブチルリチウム等のアルキルリチウム、又はリチウムジイソプロピルアミドの様なジアルキルアミノリチウムに代表される有機金属塩基;リチウムビス(トリメチルシリル)アミド等のビスシリルアミンの有機金属塩基;さらにはピリジン、2,6−ルチジン、コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)等の三級アミン或は含窒素複素環化合物等の有機塩基等を挙げることができる。
【0140】
本反応に用いる不活性な溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン等のアミド系溶媒;を挙げることができ、これらに加えて場合によってはジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール系の溶媒等を使用することも可能である。さらにはこれ等を混合して使用することもできる。
【0141】
化合物(6)の末端アミノ基の保護基P1としては、tert−ブチルオキシカルボニル基や9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等、ペプチド合成に通常用いられているアミノ基の保護基を用いることができる。他のアミノ基の保護基としては、アセチル基等のアルカノイル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;パラメトキシベンジルオキシカルボニル基、パラ(又はオルト)ニトロベンジルオキシカルボニル基等のアリールメトキシカルボニル基;
ベンジル基、トリフェニルメチル基等のアリールメチル基;ベンゾイル基等のアロイル基;2,4−ジニトロベンゼンスルホニル基、オルトニトロベンゼンスルホニル基等のアリールスルホニル基;を挙げることができる。保護基P1は、アミノ基を保護する化合物の性質等に応じて選択すればよい。
得られた化合物(6)の末端アミノ基の保護基P1を脱保護させることによって化合物(7)を製造することができる。この脱保護は、その保護基に応じた試薬や条件を選択すればよい。
N末端をP2で保護したペプチドカルボン酸(8)を活性エステル、混合酸無水物等に誘導し、得られた化合物(7)に反応させることによって、化合物(9)を製造することができる。ペプチドカルボン酸(8)と化合物(7)のペプチド結合を形成する反応条件や試薬、塩基、及び不活性な溶媒は、化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。保護基P2は、化合物(6)の保護基で述べたものから適宜選択して使用すればよく、アミノ基を保護する化合物の性質等に応じて選択すればよい。また、ペプチド合成に通常用いられている様に、ペプチドカルボン酸(8)を構成するアミノ酸又はペプチドを順次反応と脱保護を繰り返し、伸長させて化合物(9)を製造することもできる。
得られた化合物(9)のアミノ基の保護基P2を脱保護させることによって化合物(10)を製造することができる。この脱保護は、その保護基に応じた試薬や条件を選択すればよい。
カルボン酸(11)を活性エステル、混合酸無水物、又は酸ハロゲン化物等に誘導し、得られた化合物(10)に反応させることによって、化合物(2)又はを製造することができる。カルボン酸(11)と化合物(10)のペプチド結合を形成する反応条件や試薬、塩基、及び不活性溶媒は、化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。
【0142】
化合物(9)は例えば下記の方法でも製造することができる。
N末端をP2で保護したペプチドカルボン酸(8)を活性エステル、混合酸無水物等に誘導し、塩基存在下、カルボキシ基をP3で保護したアミン化合物(12)と反応させることによって化合物(13)を製造することができる。ペプチドカルボン酸(8)と化合物(12)のペプチド結合を形成する反応条件や試薬、塩基、及び不活性な溶媒は、化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。
化合物(13)のアミノ基の保護基P2は、通常用いられる保護基で保護されていてよい。
具体的には水酸基の保護基としては、メトキシメチル基等のアルコキシメチル基;ベンジル基、4−メトキシベンジル基、トリフェニルメチル基等のアリールメチル基;アセチル基等のアルカノイル基;ベンゾイル基等のアロイル基;tert−ブチルジフェニルシリル基等のシリル基;等を挙げることができる。カルボキシ基は、メチル基、エチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、アリル基、又はベンジル基等のアリールメチル基とのエステル等として保護することができる。アミノ基は、tert−ブチルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルキルオキシカルボニル基;アリルオキシカルボニル基、又は9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、パラメトキシベンジルオキシカルボニル基、パラ(又はオルト)ニトロベンジルオキシカルボニル基等のアリールメトキシカルボニル基;のほか、アセチル基等のアルカノイル基;ベンジル基、トリフェニルメチル基等のアリールメチル基;ベンゾイル基等のアロイル基;2,4−ジニトロベンゼンスルホニル基、オルトニトロベンゼンスルホニル基等のアリールスルホニル基;等を挙げることができる。
カルボキシ基の保護基P3としては、有機合成化学、中でもペプチド合成においてカルボキシ基の保護基として通常用いられている保護基を使用すればよく、具体的にはメチル基、エチル基、tert−ブチル等のアルキルエステル、アリルエステル、ベンジルエステル等であり上記の保護基から適宜選択して使用すればよい。この場合に、アミノ基の保護基とカルボキシ基の保護基が異なる方法又は条件で除去できることが好ましい。例えばP2
がtert−ブチルオキシカルボニル基であり、P3がベンジル基である組み合わせ等を代表的なものとして挙げることができる。それらの保護基はアミノ基とカルボキシ基を保護する化合物の性質等に応じて上述したものから選択すればよく、それらの保護基の切断に際してもその保護基に応じた試薬や条件を選択すればよい。
得られた化合物(13)のカルボキシ基の保護基P3を脱保護させることによって化合物(14)を製造することができる。この脱保護は、その保護基に応じた試薬や条件を選択すればよい。
得られた化合物(14)を活性エステル、混合酸無水物、又は酸ハロゲン化物等に誘導し、塩基存在下、化合物(4)と反応させることによって化合物(9)を製造することができる。この反応はペプチド合成に通常用いる反応試薬や条件を準用すればよく、反応条件や試薬、塩基、及び不活性な溶媒は化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。
【0143】
化合物(2)は、例えば下記の方法でも製造することができる。
化合物(13)のアミノ基の保護基P2を脱保護させることによって化合物(15)を製造することができる。この脱保護は、その保護基に応じた試薬や条件を選択すればよい。
カルボン酸誘導体(11)を活性エステル、混合酸無水物、又は酸ハロゲン化物等に誘導し、塩基存在下、得られた化合物(15)と反応させることによって化合物(16)を製造することができる。ペプチドカルボン酸(11)と化合物(15)のアミド結合を形成する反応条件や試薬、塩基、及び不活性な溶媒は、化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。
得られた化合物(16)のカルボキシ基の保護基を脱保護させることによって化合物(17)を製造することができる。この脱保護は、化合物(14)の製造におけるカルボキシ基の脱保護と同様に行うことができる。
化合物(17)を活性エステル、混合酸無水物、又は酸ハロゲン化物等に誘導し、塩基存在下、化合物(4)と反応させることによって化合物(2)を製造することができる。この反応はペプチド合成に通常用いる反応試薬や条件を準用すればよく、反応条件や試薬、塩基、及び不活性な溶媒は化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。
【0144】
3.製造方法3
中間体の式(2)で示される化合物は下記の方法によっても製造することもできる。
【0145】
【化23】
【0146】
[式中、L1’は末端がマレイミジル基に変換された構造のL1であり、P4は保護基を示す。]
【0147】
化合物(11)を活性エステル、混合酸無水物等に誘導し、塩基存在下、C末端をP4で保護したペプチドカルボン酸(18)と反応させることによって化合物(19)を製造することができる。ペプチドカルボン酸(18)と化合物(11)のペプチド結合を形成する反応条件や試薬、塩基、及び不活性な溶媒は、化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。化合物(18)のカルボキシ基の保護基P4は先に述べた保護基から適宜選択して使用すればよい。
得られた化合物(19)のカルボキシ基の保護基を脱保護させることによって化合物(20)を製造することができる。この脱保護は、化合物(14)の製造におけるカルボキシ基の脱保護と同様に行うことができる。
得られた化合物(20)を活性エステル、又は混合酸無水物等に誘導し、化合物(7)に反応させることによって、化合物(2)を製造することができる。この反応はペプチド合成に通常用いる反応試薬や条件を準用すればよく、反応条件や試薬、塩基、及び不活性な溶媒は化合物(6)の合成で述べたものから適宜選択して使用すればよい。
【0148】
4.製造方法4
以下に、製造方法2に記載の製造中間体(10)のうち、n1=1、La=Oの化合物(10
b)の製造方法について詳述する。式(10b)で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物は、例えば下記の方法で製造することができる。
【0149】
【化24】
【0150】
[式中、LPは前記と同じものを示し、Lはアシル基であって、アセチル基等のアルカノイ
ル基若しくはベンゾイル基等のアロイル基であるか、又は水素原子等を示し、X及びYは1から3個のアミノ酸からなるオリゴペプチドを、P5及びP7はアミノ基の保護基を、P6はカルボキシ基の保護基を示す。]
【0151】
式(21)で示される化合物は、特開2002−60351号公報に記載される手法や文献(J. Org. Chem., 51巻,3196頁,1986年)記載の方法、又はその方法を応用し、必
要に応じて保護基の除去や官能基変換を行うことによって、製造することができる。この他、末端アミノ基が保護されたアミノ酸又はアミノ基が保護されたオリゴペプチドの酸アミドをアルデヒド又はケトンと処理することによって得ることができる。
化合物(21)を、不活性な溶媒中、酸または塩基存在下で冷却下から室温の温度条件で水酸基を有する化合物(22)と反応させることによって、化合物(23)を製造することができる。
ここで使用できる酸としては例えば、フッ化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸;テトラフルオロボレート、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウム、塩化鉄等のルイス酸;等を挙げることができる。これらのうちではスルホン酸類、特にパラトルエンスルホン酸が好ましい。さらに塩基としては、既に述べられた塩基の中から適宜選択して使用すればよく、特にカリウム tert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;リチウム ジイソプロピルアミド等のジアルキルアミノリチウムに代表される有機金属塩基;リチウム ビス(トリメチルシリル)アミド等のビスシリルアミンの有機金属塩基;等が好ましい。反応に用いる溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;等が用いられる。上記の溶媒は水との混合物としてもよい。また、P5に例示されるアミノ基の保護基としては、通常、アミノ基の保護に用いられる基であれば特に制限はない。代表的なものとして製造方法2で記載したアミノ基の保護基を挙げることができるが、本反応中においてP5に例示されるアミノ基の保護基が切断される場合がある。その場合には、必要に応じて適当なアミノ基の保護試薬と適宜反応させて再度保護基を導入すればよい。
化合物(24)は、化合物(23)の保護基P6を除去することによって製造することができる。ここで、P6として例示されるカルボキシ基の保護基としては、製造方法2に代表的なものが記載されており、ここから適宜選択することができる。化合物(23)においては、アミノ基の保護基P5とカルボキシ基の保護基P6が異なる方法又は条件で除去できる保護基であることが望ましい。例えば、P5が9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基であり、P6がベンジル基である組み合わせ等を代表的なものとして挙げることができる。それらの保護基は、アミノ基及びカルボキシ基を保護する化合物の性質等に応じて選択すればよく、それらの保護基の除去に際してもその保護基に応じた試薬や条件を選択すれば
よい。
カルボン酸(24)を活性エステル、混合酸無水物、又は酸ハロゲン化物等に誘導し、塩基存在下、化合物(4)又はその薬理上許容される塩と反応させることによって化合物(25)を製造し、得られた化合物(25)の保護基P5を除去することによって化合物(26)を製造することができる。化合物(4)とカルボン酸(24)との反応及び保護基P6を除去する反応では、製造方法2で述べた試薬や反応条件と同様のものを用いればよい。
化合物(26)と末端アミノ基が保護されたアミノ酸又はアミノ基が保護されたオリゴペプチド(27)を反応させることによって化合物(9b)を製造し、得られた化合物(9b)の保護基P7を除去することによって化合物(10b)を製造することができる。P7として示されるアミノ基の保護基としては、通常、アミノ基の保護に用いられる基であれば特に制限はなく、代表的なものとして製造方法2で記載したアミノ基の保護基を挙げることができ、その除去に際しても保護基に応じた試薬や条件を選択すればよい。化合物(26)と化合物(27)との反応では、ペプチド合成に通常使用される反応試薬や条件を準用すればよい。上記の方法で製造した化合物(10b)は、上述の製造方法に従って本発明化合物(1)に導くことができる。
【0152】
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、大気中に放置したり、又は再結晶する等して精製することにより、水分を吸収し、吸着水が付着したり、水和物になる場合が有り、その様な水を含む化合物及び塩も本発明に包含される。
また、本発明には、種々の放射性または非放射性同位体でラベルされた化合物も包含される。本発明の抗体−薬物コンジュゲートを構成する原子の1以上に、原子同位体の非天然割合も含有し得る。原子同位体としては、例えば、重水素(2H)、トリチウム(3H)、ヨウ素−125(125I)または炭素−14(14C)等を挙げることができる。また、本発明化合物は、例えば、トリチウム(3H)、ヨウ素−125(125I)または炭素−14(14C)等の放射性同位体で放射性標識され得る。放射性標識された化合物は、治療または予防剤、研究試薬、例えば、アッセイ試薬、及び診断剤、例えば、インビボ画像診断剤として有用である。本発明の抗体−薬物コンジュゲートの全ての同位体変異種は、放射性であると否とを問わず、本発明の範囲に包含される。
【0153】
[医薬]
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、癌細胞に対して細胞傷害活性を示すことから、医薬として、特に癌に対する治療剤及び/又は予防剤として使用することが
できる。
すなわち本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、癌治療の主要な治療法である化学療法のための薬剤として選択して使用することができ、その結果として、癌細胞の成長を遅らせ、増殖を抑え、さらには癌細胞を破壊することができる。これ等によって、癌患者において、癌による症状からの解放や、QOLの改善を達成でき、癌患者の生命を保って治療効果が達成される。癌細胞の破壊には至らない場合であっても、癌細胞の増殖の抑制やコントロールによって癌患者においてより高いQOLを達成しつつより長期の生存を達成させることができる。
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、薬物単独での使用の他、アジュバント療法において他の療法と組み合わせる薬剤としても使用でき、外科手術や、放射線療法、ホルモン療法等と組み合わせることができる。さらにはネオアジュバント療法における薬物療法の薬剤として使用することもできる。
以上のような治療的使用の他、抗体の抗原への結合性によって微細な転移癌細胞に結合して癌細胞の増殖を押さえ、さらには破壊する効果も期待することができる。すなわち、特に原発性の癌細胞においてTROP2の発現が確認されたときに本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートを投与することよって癌転移の抑制や、予防効果を期待することができる。例えば、転移過程で体液中にある癌細胞を抑制、破壊する効果や、いずれか
の組織に着床した直後の微細な癌細胞に対する抑制、破壊等の効果が期待できる。また、特に外科的な癌の除去後においての癌転移の抑制、予防効果が期待でき、これらによって癌の転移抑制効果が期待できる。
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、患者に対しては全身療法として全身的に投与する他、癌組織に局所的に投与して治療効果を期待することができる。
【0154】
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートが適用される癌の種類としては、肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、子宮頸癌、頭頸部癌、食道癌等を挙げることができるが、治療対象となる癌細胞において抗体−薬物コンジュゲート中の抗体が認識できるタンパクを発現している癌細胞であればこれらには限定されることはない。
【0155】
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、哺乳動物に対して好適に投与することができるが、より好ましくはヒトである。
【0156】
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートが含まれる医薬組成物において使用される物質としては、投与量や投与濃度において、この分野において通常使用される製剤添加物その他から適宜選択して適用することができる。
【0157】
本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、1種以上の薬学的に適合性の成分を含む薬学的組成物として投与され得る。例えば、上記薬学的組成物は、代表的には、1種以上の薬学的キャリア(例えば、滅菌した液体)を含む。ここで液体には、例えば、水及び油(石油、動物起源、植物起源又は合成起源の油)が含まれる。油は、例えば、ラッカセイ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等であってよい。水は、上記薬学的組成物が静脈内投与される場合に、より代表的なキャリアである。食塩水溶液、ならびにデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液もまた、液体キャリアとして、特に、注射用溶液のために使用され得る。適切な薬学的賦形剤は、当該分野で公知である。上記組成物はまた、所望であれば、微量の湿潤剤又は乳化剤、或はpH緩衝化剤を含み得る。適切な薬学的キャリアの例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載される。その処方は、投与の態様に対応する。
【0158】
種々の送達システムが公知であり、本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートを投与するために使用され得る。導入方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、及び皮下の経路を挙げることができるが、これらに限定されることはない。投与は、例えば、注入またはボーラス注射によるものであり得る。特定の好ましい実施形態において、上記リガンド薬物結合体の投与は、注入によるものである。非経口的投与は、好ましい投与経路である。
【0159】
代表的実施形態において、上記薬学的組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した薬学的組成物として、常習的手順に従って処方される。代表的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌の等張性の水性緩衝液中の溶液である。必要である場合、上記医薬はまた、可溶化剤及び注射部位での疼痛を和らげるための局所麻酔剤(例えば、リグノカイン)を含み得る。一般に、上記成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたはサシェ等に密封してシールされた容器中の乾燥凍結乾燥粉末または無水の濃縮物として、別個に、または単位剤形中で一緒に混合して、のいずれかで供給される。上記医薬が注入によって投与される形態である場合、それは、例えば、滅菌の製薬グレードの水または食塩水を含む注入ボトルで投薬され得る。上記医薬が注射によって投与される場合、注射用滅菌水または食塩水のアンプルは、例えば、上記成分が投与前に混合され得るように、提供され得る。
【0160】
本発明の医薬組成物は、本願の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートのみを含む医薬
組成物であってもよいし、抗TROP2抗体−薬物コンジュゲート及び少なくとも一つのこれ以外の癌治療剤を含む医薬組成物であってもよい。本発明の抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、他の癌治療剤と共に投与することもでき、これによって抗癌効果を増強させることができる。この様な目的で使用される他の抗癌剤は、抗体−薬物コンジュゲートと同時に、別々に、或は連続して個体に投与されてもよいし、それぞれの投与間隔を変えて投与してもよい。この様な癌治療剤として、abraxane、paclitaxel、cisplatin、gemcitabine、irinotecan(CPT−11)、paclitaxel、pemetrexed、sorafenib、vinblastin又は国際公開第2003/038043号に記載の薬剤、更にLH−RHアナログ(リュープロレリン、ゴセレリン等)、エストラムスチン・フォスフェイト、エストロジェン拮抗薬(タモキシフェン、ラロキシフェン等)、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン等)等を挙げることができるが、抗腫瘍活性を有する薬剤であれば限定されることはない。
【0161】
この様な医薬組成物は、選択された組成と必要な純度を持つ製剤として、凍結乾燥製剤或は液状製剤として製剤化すればよい。凍結乾燥製剤として製剤化する際には、この分野において使用される適当な製剤添加物が含まれる製剤であってもよい。また液剤においても同様にして、この分野において使用される各種の製剤添加物を含む液状製剤として製剤化することができる。
【0162】
医薬組成物の組成及び濃度は投与方法によっても変化するが、本発明の医薬組成物に含まれる抗TROP2抗体−薬物コンジュゲートは、抗体−薬物コンジュゲートの抗原に対する親和性、すなわち、抗原に対する解離定数(Kd値)の点において、親和性が高い(Kd値が低い)ほど、少量の投与量であっても薬効を発揮させことができる。したがって、抗体−薬物コンジュゲートの投与量の決定に当たっては、抗体−薬物コンジュゲートと抗原との親和性の状況に基づいて投与量を設定することもできる。本発明の抗体−薬物コンジュゲートをヒトに対して投与する際には、例えば、約0.001〜100mg/kgを1回或は1〜180日間に1回の間隔で複数回投与すればよい。
【実施例】
【0163】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されるものではない。また、本明細書において、特に記載のない試薬、溶媒及び出発材料は、市販の供給源から容易に入手可能である。
【0164】
[実施例1:マウスの免疫とハイブリドーマの取得]
1−1)マウス免疫に用いる細胞の準備
5×106個のNCI−H322細胞(ヒト非小細胞肺癌細胞株、ATCC CRL−
5806;ATCC:American Type Culture Collection)をRPMI−1640(Roswell Park Memorial Institute−1640)培地(10ml)で5日間培養後に回収し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で2回洗浄し、PBS(500μl)中に再懸濁した。
【0165】
1−2)マウスへの免疫
BALB/cマウス(6週齢)に対し、1回目の免疫はNCI−H322細胞(1×107個)を腹腔内へ免疫した。2〜5回目は1週間間隔で1×106個のNCI−H322細胞を腹腔内へ免疫した。6回目の最終免疫では、NCI−H322細胞を1×106
胞/200μl PBSで尾静脈ならびに腹腔内へそれぞれ免疫した。脾臓細胞は最終免疫から3日後に摘出した。
【0166】
1−3)免疫したマウスの脾臓細胞の準備
免疫済みマウスの脾臓を摘出し、すりつぶしてRPMI 1640 10%FBS(ウシ胎児血清)(+)培地に懸濁した。細胞懸濁液をセルストレイナー(100μm、BD
Falcon社)に通した後、1500rpmで5分間、室温にて遠心して上清を廃棄した。Tris−NH4Cl溶液(20mM Tris−HCl pH7.5、0.83
%NH4Cl;10mL)を加え、室温で5分間処理した。細胞懸濁液にRPMI 16
40FBS(+)培地(10ml)を加え、セルストレイナーに通した後、1500rpmで5分間、室温にて遠心した。上清を廃棄し、脾臓細胞をRPMI 1640 FBS(−)培地(10ml)で再懸濁した。
【0167】
1−4)ミエローマ細胞の準備
P3U1細胞(マウスミエローマ細胞株)を回収し、1500rpmで5分間、室温にて遠心した。P3U1細胞にEDTA(0.02%)溶液(10ml)を加え、37℃で5分間処理した。P3U1細胞懸濁液を1500rpmで5分間、室温にて遠心した。上清を廃棄し、RPMI 1640 FBS(−)培地(10ml)で再懸濁した。
【0168】
1−5)細胞融合
脾臓細胞とミエローマ細胞を5:1になるように混合し、遠心分離(1200rpm、5分間)した。得られた沈殿画分の細胞群をよくほぐした後、攪拌しながら、ポリエチレングリコール−4000(PEG−4000;1mL)を約1分かけて徐々に加えた。その後該細胞液に1分毎にRPMI培地(1mL)を数回加えた後、RPMI培地を加えて全量を50mLとした。該細胞懸濁液を遠心分離(900rpm、5分間)し、得られた沈殿画分の細胞をゆるやかにほぐした後、HAT培地(10%ウシ胎児血清及びHAT Media Supplementを加えた MI1640培地;100mL)中にゆるやかに懸濁した。該懸濁液を96ウェル培養用プレートに200μL/ウェルずつ分注し、37℃、5%CO2のインキュベーター中で、50%コンフルエントとなるまで培養し
た。
【0169】
1−6)変異型アデノウイルスウイルスFZ33でのハイブリドーマのスクリーニング
NCI−H322細胞を、96ウェルプレートに5×103細胞/ウェルで播種し、3
7℃で48時間培養した。細胞を150μl/ウェルのPBSで2回洗浄し、各ウェルに対して、各ハイブリドーマ培養上清(50μl)を加え4℃で1時間反応させた。150μl/ウェルのPBSで2回洗浄し、アデノウイルスAx3CAZ3−FZ33(抗体に結合するようにZ33ファイバーが改変されたβ−ガラクトシダーゼ発現アデノウイルス(米国特許出願公開第2012/0237518号明細書を参照))を3×106vp/
100μl(1×103vp/細胞)の濃度になるようにRPMI1640(−)培地で
希釈し、この希釈溶液を100μl/ウェルで加えた。4℃で1時間反応後、150μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。RPMI1640 FBS(+)培地を100μl/ウェルで加えて37℃で24時間培養した。Galacto−Light Plus Reporter Gene Assay System(Applied Biosystems社)を使用したβ−Galレポーター遺伝子アッセイで処理したNCI−H32
2細胞を200μl/ウェルのPBSで洗浄し、Lysis Solutionを50μl/ウェルで加えて室温で10分間静置した。この細胞溶解液(10μL)をGalacton−Plus Galacto Reaction Buffer Diluentで100倍に希釈し、White microwell SH 96 well plate(Nunc社)に加えて室温で1時間反応させた。Accelerator IIを150μl/ウェルで加え、マルチラベルカウンターWallac 1420ARVOsx(Perkin Elmer社)を用いて化学発光を5秒間測定し、1秒あたりの平均値をRLU(発光量)として、NCI−H322細胞へのウイルス感染量を表した。この
様に行ったハイブリドーマ群のスクリーニングにおいて、測定値(RLU)が群全体(最
小値1383RLU、平均値10914RLU、最大値78746RLU)の中で、5000RLU以上のクローンを選抜した。まず、1次スクリーニングとして、一回の細胞融合で得られた960ウェルのハイブリドーマウェルのうち81ウェルの陽性ウェルを選抜した。さらに、確認スクリーニングとして、1次スクリーニングと同様の手法により、デュプリケート(duplicate)でアッセイを行って、両方の測定値が5000RLU以上のウェルを陽性とし、1次スクリーニングで得られた81ウェルから52ウェルの陽性ウェルを選抜した。選抜したクローンは2〜4回サブクローニングを行い、モノクローナルなハイブリドーマ細胞株44株を樹立した。
【0170】
[実施例2:ハイブリドーマからの抗体の精製]
プリスタン(Pristane;2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン;0.5ml)を腹腔内投与して予め2週間飼育した8〜10週齢のマウス又はヌードマウスに、実施例1で得られたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に注射した。さらに10〜21日してハイブリドーマを腹水癌化させた後に腹水を採取した。得られた腹水を遠心分離して固形分を除去後、40〜50%硫酸アンモニウムで塩析し、カプリル酸沈殿法、DEAE−セファロースカラム、プロテインG−カラムによる精製を行い、IgG又はIgM画分を集め、精製モノクローナル抗体とした。
【0171】
[実施例3:ハイブリドーマの産生する抗体の結合する抗原の同定]
実施例2において調製されたハイブリドーマの産生する抗体の一つであるTINA1について抗原の同定を行った。
【0172】
3−1)ビオチンラベルした細胞表面蛋白質のTINA1抗体を用いた免疫沈降
5×106個のNCI−H322細胞を回収し、PBSで3回洗浄した。EZ−Lin
k Sulfo−NHS−Biotin(PIERCE社)を0.1mg/mlの濃度でPBSに懸濁した。NCI−H322細胞をBiotin/PBS溶液中、室温で30分間ローテートした後に100mMグリシン/PBS溶液(25ml)で2回洗浄し、その後、PBS(25ml)で3回洗浄した。洗浄後の細胞を溶解バッファー(150mM NaCl、50mM Tris−HCl pH7.6、1%NP−40 + Protease inhibitor、Complete EDTA free(Roche社)1粒/50ml;2ml)中に再懸濁し、4℃で30分間処理した。Protein G
Sepharose(Protein G Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare社))のバッファーを溶解バッファーに置換して得られたProtein G Sepharose/溶解バッファー(50%スラリー;30μl)を細胞溶解液に加え、4℃で1時間ローテートした後に4℃で5分間遠心し、上清を回収した。この上清にTINA1抗体(3μg)を加え、4℃で1時間ローテートした後にProtein G Sepharose/溶解バッファー(50%スラリー;60μl)を加え、4℃で2時間ローテートした。溶解バッファー(1ml)でProtein G Sepharoseを6回洗浄した後に1×SDSサンプルバッファー/5% 2−ME(2−メルカプトエタノール)buffer(62.5mM Tris−HCl(25℃でpH6.8)、2%(w/v)SDS、10% glycerol及び0.01%(w/v)phenol red)に再懸濁した。100℃で5分間懸濁液を処理した後、溶液を回収し、SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)のためのサンプルとした。
【0173】
3−2)SDS−PAGE及びウエスタンブロッティング
3−1)で調製したSDS−PAGEサンプルをReady Gels J 5−20%(BioRad社)を用いて20mAで泳動した後、ゲルよりメンブレンへ0.1mA/cm2でブロッティングした。メンブレンをPBS−T(PBS(−)−0.05% Tween20)で5分間洗浄した後、1時間ブロッキングを行った。メンブレンをPBS
−Tで5分間3回洗浄した後にStreptavidin−horseradish peroxidase conjugate(Amersham社;PBS−Tで2000倍に希釈して使用)と1時間反応させた。メンブレンをPBS−Tで10分間4回洗浄した後に、ECL western blotting detection reagents(Amersham社)及びHyperfilm ECL(Amersham社)を用いて目的のバンドを検出した。実施例3−1)の手順によりビオチンラベルしたNCI−H322細胞を、既に質量分析によって抗原がTROP2であることが確定しているKCI7A3抗体及びTINA1抗体で免疫沈降して得られた免疫沈降物を、それぞれDTT非添加或はDTT添加でSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングにより解析した。KCI7A3抗体とTINA1抗体を用いたいずれの場合においても、DTT非添加では分子量46kDaのバンドが、DTTを添加したサンプルでは分子量37kDaのバンドが検出された。
【0174】
3−3)FACS解析
バンドパターンからTINA1抗体の抗原がTROP2であることが予測できたため、質量分析を行わずにcDNAの遺伝子導入による強制発現解析を行った。FACS解析の結果、ヒトTROP2発現CHOK1細胞ではTINA1抗体は強陽性反応を示したため、TINA1抗体の抗原はTROP2であることが示された。また、肺癌細胞株PC14、肺癌細胞株NCI−H322、肺癌細胞株NCI−H2122、肺癌細胞株LCAM1、肺癌細胞株LC2/ad、膵癌細胞株MIAPaCa2、膵癌細胞株PK−1、前立腺癌細胞株PC3、大腸癌細胞株HCT116、メラノーマ細胞株A375、卵巣癌細胞株SKOV3、造血系腫瘍細胞株RPMI8226、造血系腫瘍細胞株K562、PBMC(ヒト末梢血単核細胞)及びヒト血小板を使用して同様なFACS解析を行った。調査した肺癌細胞株はいずれもTROP2陽性であり、肺癌以外の細胞株ではPC3、PK1、SKOV3が陽性であった。一方、正常血液細胞はいずれも陰性であった。
【0175】
[実施例4:抗体内在化活性の測定]
4−1)抗体内在化活性評価系
抗体の内在化及びイムノトキシン活性の測定を目的にリコンビナント複合蛋白質であるDT3Cを作製した。このDT3Cは、ジフテリア毒素(DT)の触媒領域とプロテインGの抗体結合領域を3個兼ね備えた蛋白質である。DT3Cは抗体のFc部分に特異的に結合し安定で、細胞内へ取り込まれると蛋白質合成阻害により細胞死を誘導する。この系を用いることで抗体の内在化とイムノトキシンによる殺細胞効果を同時に観察することができる(Yamaguchi, M., Hamada, H., et al., Biochemical and BiophysicalResearch Communications 454 (2014) 600-603)。
【0176】
4−2)DT3Cによる内在化ならびにイムノトキシン活性の評価
96wll Plateに4μg/mLのDT3C(25μL)を加え、さらに実施例1又はこれに準じた方法で取得された11種のハイブリドーマの培養上清(25μL)を加え、室温で30分インキュベーションした。なお、TINA1抗体産生ハイブリドーマ以外のハイブリドーマが産生する抗体の認識する抗原は、CD9、CD46、CD55、CD59、CD71、CD73、CD147、CD276、EpCAM、又はEGFRであることを予め確認した。2×104個/mL(20% Low IgG FBS加RP
MI1640培地)のNCI−H322細胞(50μL)を播種し、室温で30分インキュベーションした後、37℃ CO2インキュベータで3日間培養した。培養後に上清を
除き、10%WST−10%FBS−RPMI1640(100μL)を加え、37℃ CO2インキュベータ内で1時間インキュベーションし、生細胞数をマイクロプレートリ
ーダー(OD450〜OD640、infinite200、テカンジャパン株式会社)で測定した。評価したハイブリドーマ細胞の培養上清の中で、CD59、CD71、EGFR、EpCAM、及びTROP2に対する抗体で強い内在化ならびにイムノトキシン活性が認
められた(図10)。
【0177】
4−3)CD59、CD71、EGFR、EpCAM、及びTROP2に対する抗体での内在化ならびにイムノトキシン活性の相違
96well platにDT3C(0、0.004、0.04、0.4、4、40μg/mL)希釈溶液(25μL)を加え、各抗体(40μg/mL;25μL)を加え、室温で30分インキュベーションした。さらに、2×104個/mL(20%LowIg
GFBS加RPMI1640培地)のNCI−H322細胞(50μL)を播種し、室温で30分インキュベーションした後、37℃ CO2インキュベータで3日間培養した。
培養後に上清を除き、10%WST−1加10%FBS−RPMI1640(100μL)を加え、37℃ CO2インキュベータ内で1時間インキュベーションし、生細胞数を
プレートリーダー(OD450〜OD640)で測定した。評価した抗体の中で、TROP2に対する抗体であるTINA1の内在化ならびにイムノトキシン活性が最も強かった(図11)。
【0178】
4−4)抗TROP2抗体の各クローンにおける内在化ならびにイムノトキシン活性の相違
実施例1又はこれに準じて取得されたTINA1(免疫原:肺癌株NCI−H322)、KCL7A3、及びKCL2D6(免疫原:膵臓癌株KCL−MOH1)、Pr1E11及びPr8H10(免疫原:前立腺癌株Pc−1)、NY16及びNY17(免疫原:膵臓癌株PK−1)並びに市販の77220(R&D System)の各抗TROP2抗体の内在化ならびにイムノトキシン活性について実施例4−3)と同様に評価した。その結果、8種の抗TROP2抗体の中でTINA1抗体が最も強い活性を有していた(図12)。
【0179】
[実施例5:TINA1抗体遺伝子の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定とキメラTINA1(以下cTINA1)抗体の作製]
5−1)TINA1抗体遺伝子の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
5−1−1)TINA1抗体産生ハイブリドーマからのmRNAの調製
TINA1抗体の可変領域を含むcDNAを増幅するため、TINA1抗体産生ハイブリドーマよりmRNA Isolation kit(Roche applied science社)を用いてmRNAを調製した。
【0180】
5−1−2)cDNA(5’−RACE−Ready cDNA)の合成
cDNA(5’−RACE−Ready cDNA)の合成は実施例5−1−1)で調製したmRNA(100ng)とSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社)を用いて実施した。
【0181】
5−1−3)5’−RACE PCRによるTINA1抗体の重鎖可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
重鎖遺伝子の可変領域のcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM(Universal Primer A Mix:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)、及び5’−AGAGTTCCAGGTCAAGGTCACTGGCTCAGG−3’(配列番号33:プライマー mG2aVR2)の配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。UPMはSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社)に付属のものを使用し、mG2aVR2はデータベースのマウス重鎖(IgG2a)の定常領域の配列から設計した。
このプライマーの組み合わせと、実施例5−1−2)で合成したcDNA(5’−RA
CE−Ready cDNA)を鋳型とした5’−RACE PCRによりTINA1抗体の重鎖の可変領域を含むcDNAを増幅した。PCRは、PolymeraseとしてKOD−plus(TOYOBO社)を用い、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社)のマニュアルに従い、タッチダウンPCRプログラムで実施した。
5’−RACE PCRで増幅した重鎖の可変領域を含むcDNAをMinElute
PCR Purification Kit(QIAGEN社)を用いて精製後、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングし、クローニングした重鎖の可変領域を含むcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。シークエンスプライマーとして、データベースのマウス重鎖の定常領域の配列から設計した上記プライマー mG2aVR2、及びNUP(Nested Universal Primer A:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)を用いた。
シークエンス解析は遺伝子配列解析装置(「ABI PRISM 3700 DNA Analyzer」或は「Applied Biosystems 3730xl Analyzer」、Applied Biosystems社)を用いて実施し、シークエンス反応は、Gene Amp 9700(Applied Biosystems社)を用いた。
決定されたTINA1抗体の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列表の配列番号1に示し、アミノ酸配列を配列番号2に示した。
【0182】
5−1−4)5’−RACE PCRによるTINA1抗体の軽鎖可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
TINA1抗体の軽鎖遺伝子の可変領域のcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM(Universal Primer A Mix:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)及び5’−AGTCCAACTGTTCAGGACGCCATTTTGTCG−3’(配列番号34:プライマー mKVR2)の配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。UPMはSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社)に付属のものを使用し、mKVR2はデータベースのマウス軽鎖の定常領域の配列から設計した。
このプライマーの組み合わせと、実施例5−1−2)で合成したcDNA(5’−RACE−Ready cDNA)を鋳型とした5’−RACE PCRによりTINA1抗体の軽鎖の可変領域を含むcDNAを増幅した。PCRは、PolymeraseとしてKOD−plus−(TOYOBO社)を用い、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社)のマニュアルに従い、タッチダウンPCRプログラムで実施した。
5’−RACE PCRで増幅した軽鎖の可変領域を含むcDNAをMinElute
PCR Purification Kit(QIAGEN社)を用いて精製後、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングし、クローニングした軽鎖の可変領域を含むcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。
シークエンスプライマーとして、データベースのマウス軽鎖の定常領域の配列から設計した上記プライマーmKVR2及びNUPを用いた。
シークエンス解析及びシークエンス反応には、上述の装置を用いた。
決定されたTINA1抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列表の配列番号3に示し、アミノ酸配列を配列番号4に示した。
【0183】
5−2)cTINA1抗体の作製
5−2−1)キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKの構築
プラスミドpcDNA3.3−TOPO/LacZ(Invitrogen社)を制限酵素XbaI及びPmeIで消化して得られる約5.4kbのフラグメントと、配列番号5に示すヒトκ鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を、In−Fusion Advantage PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて結合して、pcDNA3.3/LKを作製した。
pcDNA3.3/LKを鋳型として、下記プライマーセットでPCRを行い、得られた約3.8kbのフラグメントをリン酸化後セルフライゲーションすることによりCMVプロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、及びヒトκ鎖定常領域を持つ、キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを構築した。
プライマーセット
5’−tataccgtcgacctctagctagagcttggc−3’(配列番号35:プライマー 3.3−F1)
5’−gctatggcagggcctgccgccccgacgttg−3’(配列番号36:プライマー 3.3−R1)
【0184】
5−2−2)キメラ及びヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1の構築
pCMA−LKをXbaI及びPmeIで消化してκ鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域を取り除いたDNA断片と、配列番号6に示すヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG1定常領域のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片を、In−Fusion
Advantage PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて結合して、CMVプロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、ヒトIgG1重鎖定常領域をもつキメラ及びヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1を構築した。
【0185】
5−2−3)cTINA1抗体重鎖発現ベクターの構築
実施例5−1−3)で得られたTINA1抗体の重鎖の可変領域を含むcDNAをテンプレートとして、KOD−Plus−(TOYOBO社)と下記のプライマーセットで重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅し、キメラ及びヒト化IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1を制限酵素BlpIで切断した箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて挿入することにより、cTINA1抗体重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/cTINA1」と命名した。cTINA1抗体重鎖のヌクレオチド配列を配列番号7に示し、アミノ酸配列を配列番号8に示した。配列番号7のヌクレオチド配列及び配列番号8のアミノ酸配列は、図1にも記載されている。
cTINA1抗体重鎖用プライマーセット
5’−CCAGATGGGTGCTGAGCCAGATCCAGTTGGTGCAGTCTGGACCTGAG−3’(配列番号37:プライマー TINA1H−F)
5’−CTTGGTGGAGGCTGAGCTGACGGTGACCGCGGTCCCTGCGCCCCAGAC−3’(配列番号38:プライマー TINA1H−R)
【0186】
5−2−4)cTINA1抗体軽鎖発現ベクターの構築
実施例5−1−4)で得られたTINA1抗体の軽鎖の可変領域を含むcDNAをテンプレートとして、KOD−Plus−(TOYOBO社)と下記のプライマーセットで軽鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDAN断片を増幅し、キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現汎用ベクターpCMA−LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて挿入することにより、cTINA1抗体の軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/cTINA1」と命名した。cTINA1抗体の軽鎖のヌクレオチド配列を配列表の配列番号9に示し、アミノ酸配列を配列番号10に示した。配列番号9のヌク
レオチド配列及び配列番号10のアミノ酸配列は、図2にも記載されている。
cTINA1抗体軽鎖用プライマーセット
5’−ATCTCCGGCGCGTACGGCGACATTGTGATGACCCAGTCTCACAAATTC−3’(配列番号39:プライマー TINA1L−F)
5’−GGAGGGGGCGGCCACAGCCCGTTTCAGCTCCAGCTTGGTCCCAGC−3’(配列番号40:プライマー TINA1L−R)
【0187】
5−2−5)cTINA1抗体の小スケール生産
FreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)はマニュアルに従い、継代、培養をおこなった。
対数増殖期の1×107個のFreeStyle 293F細胞(Invitroge
n社)をFreeStyle293 expression medium (Invitrogen社)で9.6mLに希釈した後に、30mL Square Storage Bottle(Nalgene社)に播種し、37℃、8%CO2インキュベーター
内で90rpmで一時間振とう培養した。Polyethyleneimine(Polyscience #24765;30μg)をOpti−Pro SFM(Invitrogen社;200μL)に溶解し、次にPureLink HiPure Plasmidキット(Invitrogen社)を用いて調製した軽鎖発現ベクター(6μg)及び重鎖発現ベクター(4μg)をOpti−Pro SFM(Invitrogen社;200μL)に添加した。Polyethyleneimine/Opti−Pro SFM混合液(200μL)に、発現ベクター/Opti−Pro SFM混合液(200μL)を加え穏やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8%CO2インキュベーターで7日間、90rpmで振とう
培養して得られた培養上清をMinisart−Plus filter(Sartorius社)でろ過して評価用のサンプルとした。
pCMA−G1/cTINA1とpCMA−LK/cTINA1との組合せによって取得されたヒトキメラTINA1抗体を「cTINA1抗体」と命名した。
【0188】
[実施例6:マウス抗TROP2モノクローナル抗体のヒト化抗体の設計]
6−1)TINA1のヒト化バージョンの設計
6−1−1)TINA1の可変領域の分子モデリング
TINA1の可変領域の分子モデリングは、相同性モデリングとして公知の方法(MethodsinEnzymology,203,121−153(1991))によって実行された。Protein Data Bank(Nuc. Acid Res.35,D301−D303(2007))に登録されるヒト免疫グロブリンの可変領域の1次配列(X線結晶構造から誘導される三次元構造が入手可能)を、先に決定されたTINA1の可変領域と比較した。結果として、1ZEAが、TINA1の重鎖の可変領域に対して同様にフレームワーク中に欠損がある抗体の中で、最も高い配列相同性を有するとして選択された。また、3IU4が、TINA1の軽鎖の可変領域に対して最も高い配列相同性を有するとして選択された。フレームワーク領域の三次元構造は、TINA1の重鎖及び軽鎖に対応する1ZEA及び3IU4の座標を組み合わせて、「フレームワークモデル」を得ることによって作製された。次いで、それぞれのCDRについての代表的なコンホメーションがフレームワークモデルに組み込まれた。
最後に、エネルギーの点でTINA1の可変領域の可能性のある分子モデルを得るために、不利な原子間接触を除くためのエネルギー計算を行った。上記手順を、市販の蛋白質立体構造解析プログラムDiscovery Studio(Accelrys,Inc.)を用いて行った。
【0189】
6−1−2)ヒト化TINA1に対するアミノ酸配列の設計
ヒト化TINA1抗体の構築を、CDRグラフティング(Proc.Natl.Aca
d.Sci.USA86,10029−10033(1989))として公知の方法によって行った。アクセプター抗体は、フレームワーク領域内のアミノ酸相同性に基づいて選択された。TINA1のフレームワーク領域の配列を、抗体のアミノ酸配列のKabatデータベース(Nuc.Acid Res.29,205−206(2001))の全て
のヒトフレームワークと比較し、結果として、HuPR1A3抗体がフレームワーク領域についての74%の配列相同性に起因して、アクセプターとして選択された。HuPR1A3についてのフレームワーク領域のアミノ酸残基を、TINA1についてのアミノ酸残基と整列させ、異なるアミノ酸が使用される位置を同定した。これらの残基の位置は、上で構築されたTINA1の三次元モデルを使用して分析され、そしてアクセプター上にグラフティングされるべきドナー残基が、Queen et.al.,(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029−10033(1989))によって
与えられる基準によって選択された。選択されたいくつかのドナー残基をアクセプター抗体に移入することによって、ヒト化TINA1配列を以下の実施例に記載される様に構築した。
【0190】
6−2)TINA1重鎖のヒト化
6−2−1)hTINA1−H1タイプ重鎖:
配列表の配列番号8に示されるTINA1重鎖のアミノ酸番号21(イソロイシン)をバリンに、アミノ酸番号28(プロリン)をアラニンに、アミノ酸番号30(ロイシン)をバリンに、アミノ酸番号35(グルタミン酸)をアラニンに、アミノ酸番号36(スレオニン)をセリンに、アミノ酸番号38(アルギニン)をリシンに、アミノ酸番号39(イソロイシン)をバリンに、アミノ酸番号57(グルタミン)をアルギニンに、アミノ酸番号58(リシン)をグルタミンに、アミノ酸番号59(メチオニン)をアラニンに、アミノ酸番号62(リシン)をグルタミンに、アミノ酸番号65(リシン)をグルタミン酸に、アミノ酸番号67(イソロイシン)をメチオニンに、アミノ酸番号87(フェニルアラニン)をバリンに、アミノ酸番号88(アラニン)をスレオニンに、アミノ酸番号89(フェニルアラニン)をイソロイシンに、アミノ酸番号91(ロイシン)をアラニンに、アミノ酸番号92(グルタミン酸)をアスパラギン酸に、アミノ酸番号95(アラニン)をスレオニンに、アミノ酸番号102(イソロイシン)をロイシンに、アミノ酸番号104(アスパラギン)をセリンに、アミノ酸番号107(アスパラギン)をセリンに、アミノ酸番号111(スレオニン)をアラニンに、アミノ酸番号112(スレオニン)をバリンに、アミノ酸番号114(フェニルアラニン)をチロシンに、アミノ酸番号132(アラニン)をグルタミンに、アミノ酸番号135(アラニン)をロイシンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化TINA1重鎖を「hTINA1−H1タイプ重鎖」と命名した。
hTINA1−H1タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号12に記載されている。配列番号12のアミノ酸配列の1乃至19番目のアミノ残基からなる配列、20乃至140番目のアミノ酸残基からなる配列、141乃至470番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域、重鎖定常領域に相当する。配列番号12のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号11に記載されている。配列番号11のヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなる配列、58乃至420番目のヌクレオチドからなる配列、421乃至1410番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域配列、重鎖定常領域配列をコードしている。配列番号11のヌクレオチド配列及び配列番号12のアミノ酸配列は、図3にも記載されている。
【0191】
6−2−2)hTINA1−H2タイプ重鎖:
配列表の配列番号8に示されるTINA1重鎖のアミノ酸番号21(イソロイシン)をバリンに、アミノ酸番号28(プロリン)をアラニンに、アミノ酸番号30(ロイシン)をバリンに、アミノ酸番号35(グルタミン酸)をアラニンに、アミノ酸番号36(スレ
オニン)をセリンに、アミノ酸番号38(アルギニン)をリシンに、アミノ酸番号39(イソロイシン)をバリンに、アミノ酸番号57(グルタミン)をアルギニンに、アミノ酸番号58(リシン)をグルタミンに、アミノ酸番号59(メチオニン)をアラニンに、アミノ酸番号62(リシン)をグルタミンに、アミノ酸番号65(リシン)をグルタミン酸に、アミノ酸番号67(イソロイシン)をメチオニンに、アミノ酸番号87(フェニルアラニン)をバリンに、アミノ酸番号88(アラニン)をスレオニンに、アミノ酸番号89(フェニルアラニン)をイソロイシンに、アミノ酸番号92(グルタミン酸)をアスパラギン酸に、アミノ酸番号95(アラニン)をスレオニンに、アミノ酸番号102(イソロイシン)をロイシンに、アミノ酸番号104(アスパラギン)をセリンに、アミノ酸番号107(アスパラギン)をセリンに、アミノ酸番号111(スレオニン)をアラニンに、アミノ酸番号112(スレオニン)をバリンに、アミノ酸番号114(フェニルアラニン)をチロシンに、アミノ酸番号132(アラニン)をグルタミンに、アミノ酸番号135(アラニン)をロイシンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化TINA1重鎖を「hTINA1−H2タイプ重鎖」と命名した。
hTINA1−H2タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号14に記載されている。配列番号14のアミノ酸配列の1乃至19番目のアミノ残基からなる配列、20乃至140番目のアミノ酸残基からなる配列、141乃至470番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域、重鎖定常領域に相当する。配列番号14のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号13に記載されている。配列番号13のヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなる配列、58乃至420番目のヌクレオチドからなる配列、421乃至1410番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域配列、重鎖定常領域配列をコードしている。配列番号13のヌクレオチド配列及び配列番号14のアミノ酸配列は、図4にも記載されている。
【0192】
6−2−3)hTINA1−H3タイプ重鎖:
配列表の配列番号8に示されるTINA1重鎖のアミノ酸番号28(プロリン)をアラニンに、アミノ酸番号30(ロイシン)をバリンに、アミノ酸番号36(スレオニン)をセリンに、アミノ酸番号38(アルギニン)をリシンに、アミノ酸番号39(イソロイシン)をバリンに、アミノ酸番号58(リシン)をグルタミンに、アミノ酸番号65(リシン)をグルタミン酸に、アミノ酸番号67(イソロイシン)をメチオニンに、アミノ酸番号87(フェニルアラニン)をバリンに、アミノ酸番号88(アラニン)をスレオニンに、アミノ酸番号92(グルタミン酸)をアスパラギン酸に、アミノ酸番号95(アラニン)をスレオニンに、アミノ酸番号102(イソロイシン)をロイシンに、アミノ酸番号104(アスパラギン)をセリンに、アミノ酸番号107(アスパラギン)をセリンに、アミノ酸番号111(スレオニン)をアラニンに、アミノ酸番号112(スレオニン)をバリンに、アミノ酸番号114(フェニルアラニン)をチロシンに、アミノ酸番号132(アラニン)をグルタミンに、アミノ酸番号135(アラニン)をロイシンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化TINA1重鎖を「hTINA1−H3タイプ重鎖」と命名した。
hTINA1−H3タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号16に記載されている。配列番号16のアミノ酸配列の1乃至19番目のアミノ残基からなる配列、20乃至140番目のアミノ酸残基からなる配列、141乃至470番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域、重鎖定常領域に相当する。配列番号16のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号15に記載されている。配列番号15のヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなる配列、58乃至420番目のヌクレオチドからなる配列、421乃至1410番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、重鎖可変領域配列、重鎖定常領域配列をコードしている。配列番号15のヌクレオチド配列及び配列番号16のアミノ酸配列は、図5にも記載されている。
【0193】
6−3)TINA1軽鎖のヒト化
6−3−1)hTINA1−L1タイプ軽鎖:
配列表の配列番号10に示されるTINA1軽鎖のアミノ酸番号23(バリン)をグルタミンに、アミノ酸番号28(ヒスチジン)をプロリンに、アミノ酸番号29(リシン)をセリンに、アミノ酸番号30(フェニルアラニン)をセリンに、アミノ酸番号31(メチオニン)をロイシンに、アミノ酸番号33(スレオニン)をアラニンに、アミノ酸番号40(セリン)をスレオニンに、アミノ酸番号62(グルタミン)をリシンに、アミノ酸番号63(セリン)をアラニンに、アミノ酸番号80(アスパラギン酸)をセリンに、アミノ酸番号83(スレオニン)をセリンに、アミノ酸番号90(アラニン)をアスパラギン酸に、アミノ酸番号93(フェニルアラニン)をロイシンに、アミノ酸番号98(バリン)をロイシンに、アミノ酸番号100(アラニン)をプロリンに、アミノ酸番号103(ロイシン)をフェニルアラニンに、アミノ酸番号120(アラニン)をグルタミンに、アミノ酸番号126(ロイシン)をイソロイシンに、アミノ酸番号129(アラニン)をスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化TINA1軽鎖を「hTINA1−L1タイプ軽鎖」と命名した。
hTINA1−L1タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号18に記載されている。配列番号18のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号18のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号17に記載されている。配列番号17のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号17のヌクレオチド配列及び配列番号18のアミノ酸配列は、図6にも記載されている。
【0194】
6−3−2)hTINA1−L2タイプ軽鎖:
配列表の配列番号10に示されるTINA1軽鎖のアミノ酸番号28(ヒスチジン)をプロリンに、アミノ酸番号29(リシン)をセリンに、アミノ酸番号30(フェニルアラニン)をセリンに、アミノ酸番号31(メチオニン)をロイシンに、アミノ酸番号33(スレオニン)をアラニンに、アミノ酸番号40(セリン)をスレオニンに、アミノ酸番号62(グルタミン)をリシンに、アミノ酸番号63(セリン)をアラニンに、アミノ酸番号80(アスパラギン酸)をセリンに、アミノ酸番号83(スレオニン)をセリンに、アミノ酸番号90(アラニン)をアスパラギン酸に、アミノ酸番号93(フェニルアラニン)をロイシンに、アミノ酸番号98(バリン)をロイシンに、アミノ酸番号100(アラニン)をプロリンに、アミノ酸番号103(ロイシン)をフェニルアラニンに、アミノ酸番号120(アラニン)をグルタミンに、アミノ酸番号126(ロイシン)をイソロイシンに、アミノ酸番号129(アラニン)をスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化TINA1軽鎖を「hTINA1−L2タイプ軽鎖」と命名した。
hTINA1−L2タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号20に記載されている。配列番号20のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号20のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号19に記載されている。配列番号19のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号19のヌクレオチド配列及び配列番号20のアミノ酸配列は、図7にも記載されている。
【0195】
6−3−3)hTINA1−L3タイプ軽鎖:
配列表の配列番号10に示されるTINA1軽鎖のアミノ酸番号28(ヒスチジン)をプロリンに、アミノ酸番号29(リシン)をセリンに、アミノ酸番号30(フェニルアラニン)をセリンに、アミノ酸番号31(メチオニン)をロイシンに、アミノ酸番号33(スレオニン)をアラニンに、アミノ酸番号40(セリン)をスレオニンに、アミノ酸番号62(グルタミン)をリシンに、アミノ酸番号63(セリン)をグルタミンに、アミノ酸番号80(アスパラギン酸)をセリンに、アミノ酸番号83(スレオニン)をセリンに、アミノ酸番号90(アラニン)をアスパラギン酸に、アミノ酸番号93(フェニルアラニン)をロイシンに、アミノ酸番号98(バリン)をロイシンに、アミノ酸番号100(アラニン)をプロリンに、アミノ酸番号103(ロイシン)をフェニルアラニンに、アミノ酸番号120(アラニン)をグルタミンに、アミノ酸番号126(ロイシン)をイソロイシンに、アミノ酸番号129(アラニン)をスレオニンに、置き換えることを伴い設計されたヒト化TINA1軽鎖を「hTINA1−L3タイプ軽鎖」と命名した。
hTINA1−L3タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号22に記載されている。配列番号22のアミノ酸配列の1乃至20番目のアミノ残基からなる配列、21乃至129番目のアミノ酸残基からなる配列、130乃至234番目のアミノ酸残基からなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域に相当する。配列番号22のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号21に記載されている。配列番号21のヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなる配列、61乃至387番目のヌクレオチドからなる配列、388乃至702番目のヌクレオチドからなる配列が、それぞれシグナル配列、軽鎖可変領域配列、軽鎖定常領域配列をコードしている。配列番号21のヌクレオチド配列及び配列番号22のアミノ酸配列は、図8にも記載されている。
【0196】
[実施例7:hTINA1抗体発現ベクターの構築と抗体の生産]
7−1)hTINA1の重鎖発現ベクターの構築
7−1−1)hTINA1−H1発現ベクターの構築
配列表の配列番号11に示すhTINA1−H1のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至437に示されるhTINA1−H1の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片をテンプレートとして、KOD−Plus−(TOYOBO社)と下記のプライマーセットでhTINA1−H1の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を増幅し、キメラ及びヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1を制限酵素BlpIで切断した箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて挿入することによりhTINA1−H1発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hTINA1−H1」と命名した。
プライマーセット
5’−agctcccagatgggtgctgagc−3’(配列番号41:プライマー EG−Inf−F)
5’−gggcccttggtggaggctgagc−3’(配列番号42:プライマー EG1−Inf−R)
【0197】
7−1−2)hTINA1−H2発現ベクターの構築
配列表の配列番号13に示すhTINA1−H2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至437に示されるhTINA1−H2の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成し(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)、実施例7−1−1)と同様の方法でhTINA1−H2発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hTINA1−H2」と命名した。
【0198】
7−1−3)hTINA1−H3発現ベクターの構築
配列表の配列番号15に示すhTINA1−H3のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至437に示されるhTINA1−H3の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成し(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)、実施例7−1−1)と同様の方法でhTINA1−H3発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hTINA1−H3」と命名した。
【0199】
7−2)hTINA1の軽鎖発現ベクターの構築
7−2−1)hTINA1−L1発現ベクターの構築
配列表の配列番号17に示すhTINA1−L1のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるhTINA1−L1の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片をテンプレートとして、KOD−Plus−(TOYOBO社)と下記のプライマーセットでhTINA1−L1の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を増幅し、キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて挿入することによりhTINA1−L1発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hTINA1−L1」と命名した。
プライマーセット
5’−ctgtggatctccggcgcgtacggc−3’(配列番号43:プライマー CM−LKF)
5’−ggagggggcggccaccgtacg−3’(配列番号44:プライマー
KCL−Inf−R)
【0200】
7−2−2)hTINA1−L2発現ベクターの構築
配列表の配列番号19に示すhTINA1−L2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるhTINA1−L2の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成し(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)、実施例7−2−1)と同様の方法でhTINA1−L2発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hTINA1−L2」と命名した。
【0201】
7−2−3)hTINA1−L3発現ベクターの構築
配列表の配列番号21に示すhTINA1−L3のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるhTINA1−L3の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成し(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)、実施例7−2−1)と同様の方法でhTINA1−L3発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hTINA1−L3」と命名した。
【0202】
7−3)hTINA1抗体の生産と精製
7−3−1)hTINA1抗体の小スケール生産
実施例5−2−5)と同様の方法で生産した。
pCMA−G1/hTINA1−H1とpCMA−LK/hTINA1−L1との組合せによって取得されたhTINA1抗体を「hTINA1−H1L1」、pCMA−G1/hTINA1−H2とpCMA−LK/hTINA1−L1との組合せによって取得されたhTINA1抗体を「hTINA1−H2L1」、pCMA−G1/hTINA1−H2とpCMA−LK/hTINA1−L2との組合せによって取得されたhTINA1抗体を「hTINA1−H2L2」、及びpCMA−G1/hTINA1−H3とpCMA−LK/hTINA1−L3との組合せによって取得されたhTINA1抗体を「hTINA1−H3L3」と命名した。
【0203】
7−3−2)hTINA1抗体の生産
hTINA1−H1L1、hTINA1−H2L1、hTINA1−H2L2、及びhTINA1−H3L3を以下の方法で生産した。
FreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)はマニュアルに従い、継代、培養をおこなった。対数増殖期の1.2×109個のFreeStyle 293
F細胞(Invitrogen社)を3L Fernbach Erlenmeyer Flask(CORNING社)に播種し、FreeStyle293 expression medium(Invitrogen社)で希釈して1.0×106細胞/ml
に調製した後に、37℃、8%CO2インキュベーター内で90rpmで一時間振とう培
養した。Polyethyleneimine(Polyscience #24765;3.6mg)をOpti−Pro SFM(Invitrogen社;20ml)に溶解し、次にPureLink HiPure Plasmidキット(Invitrogen社)を用いて調製した軽鎖発現ベクター(0.8mg)及び重鎖発現ベクター(0.4mg)をOpti−Pro SFM(Invitrogen社;20ml)に添加した。Polyethyleneimine/Opti−Pro SFM混合液(20ml)に、発現ベクター/Opti−Pro SFM混合液(20ml)を加えて穏やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8%CO2インキュベーターで7日間、90rpmで振とう培養して得られた培養上清を
Disposable Capsule Filter (ADVANTEC #CCS−045−E1H)でろ過した。
【0204】
7−3−3)hTINA1抗体の精製
上記7−3−2)で得られた培養上清から抗体を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー(4−6℃)とセラミックハイドロキシアパタイト(室温)の2段階工程で精製した。rProteinAアフィニティークロマトグラフィー精製後とセラミックハイドロキシアパタイト精製後のバッファー置換工程は4−6℃で実施した。最初に、培養上清を、PBSで平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrapカラム)にアプライした。培養上清がカラムに全て入った後、カラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide−A−Lyzer Dialysis Cassette)によりPBSに置換した後、5mMリン酸ナトリウム/50mM MES/pH7.0のバッファーで5倍希釈した抗体溶液を、5mM NaPi/50mM MES/30mM NaCl/pH7.0のバッファーで平衡化されたセラミックハイドロキシアパタイトカラム(日本バイオラッド、Bio−Scale CHTType‐I Hydroxyapatite Column)にアプライした。塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出を実施し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide−A−Lyzer Dialysis Cassette)によりHBSor(25mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0)への液置換を行った。最後にCentrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社,4℃)にて濃縮し、IgG濃度を20mg/ml以上に調製し精製サンプルとした。
【0205】
[参考例1:hRS7抗体発現ベクターの作製と抗体の生産]
hRS7抗体は、国際公開第2003/074566号に記載されている軽鎖、及び重鎖のアミノ酸配列をもとに作製した。
1−1)hRS7抗体重鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号29に示すhRS7抗体重鎖のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至437に示されるhRS7抗体重鎖の可変領域をコードするDNA配列を含むD
NA断片を合成し(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)、実施例7−1−1)と同様の方法でhRS7抗体重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hRS7」と命名した。hRS7抗体重鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号30に示した。
【0206】
1−2)hRS7抗体軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号31に示すhRS7抗体軽鎖のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるhRS7抗体軽鎖の可変領域をコードするDNA配列を含むDNA断片を合成し(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)、実施例7−2−1)と同様の方法でhRS7抗体軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hRS7」と命名した。hRS7抗体重鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号32に示した。
【0207】
1−3)hRS7抗体の生産と精製
1−3−1)hRS7抗体の生産
hRS7抗体はpCMA−G1/hRS7とpCMA−LK/hRS7との組合せにより実施例7−3−2)と同様の方法で生産した。
【0208】
1−3−2)hRS7抗体の精製
上記1−3−1)で得られた培養上清から実施例7−3−3)と同様の方法で精製した。
【0209】
[実施例8:hTINA1抗体及びhRS7抗体の抗原結合能の測定]
8−1)小スケール生産の抗体(培養上清)を用いた抗原結合能の測定
抗体と抗原(Recombinant Human TROP−2 Fc chimera)との解離定数測定は、Biacore 3000(GEヘルスケアバイオサイエンス(株))を使用し、固定化した抗ヒトIgG(Fab)抗体に抗体をリガンドとして捕捉(キャプチャー)し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。抗ヒトIgG(Fab)抗体(Human Fab capture kit、GEヘルスケアバイオサイエンス(株))は、センサーチップCM5(BIAcore,Inc.)へアミンカップリング法にて約2000RU共有結合させた。リファレンスセルにも同様に固定化した。ランニングバッファーとしてHBS−EP+(10mM HEPES pH7.4、0.15M NaCl,3mM EDTA、0.05%Surfactant
P20)を用いた。抗ヒトIgG(Fab)抗体を固定化したチップ上に、抗体を含む培養上清を約80秒間添加した後、抗原の希釈系列溶液(1−1000nM)を流速30μl/分で300秒間添加し、引き続き600秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、20%DMSOを含む10mM Gly−HCl pH1.5を流速10μl/分で60秒間添加した。データの解析には、分析ソフトウェア(BIAevaluation software, version 4.1)のBivalent結合モデルを用いて、結合速度定数kon、解離速度定数koff及び解離定数(KD;KD=koff/kon)を算出した。
【0210】
【表1】
【0211】
8−2)精製抗体を用いた抗原結合能の測定
抗体と抗原(Recombinant Human TROP−2 Fc chimera)との解離定数測定は、Biacore 3000(GEヘルスケアバイオサイエンス(株))を使用し、固定化した抗ヒトIgG(Fab)抗体に抗体をリガンドとして捕捉(キャプチャー)し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。抗ヒトIgG(Fab)抗体(Human Fab capture kit、GEヘルスケアバイオサイエンス(株))は、センサーチップCM5(BIAcore,Inc.)へアミンカップリング法にて約2000RU共有結合させた。リファレンスセルにも同様に固定化した。ランニングバッファーとしてHBS−EP+(10mM HEPES pH7.4、0.15M NaCl,3mM EDTA、0.05%Surfactant
P20)を用いた。抗ヒトIgG(Fab)抗体を固定化したチップ上に、抗体を約1分間添加した後、抗原の希釈系列溶液(1−1000nM)を流速30μl/分で300秒間添加し、引き続き600秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、ランニングバッファーにて希釈した25mM NaOHを流速100μl/分で3秒間、2回添加した。データの解析は、上記方法により行った。
【0212】
【表2】
【0213】
[実施例9:hTINA1-H1L1 ADCの作製(1)]
【0214】
【化25】
【0215】
工程1:tert−ブチル (4−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−4−オキソブチル)カーバメート
4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)ブタン酸(0.237g、1.13mmoL)をジクロロメタン(10mL)に溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド(0.130g、1.13mmoL)、及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.216g、1.13mmoL)を加えて1時間撹拌した。エキサテカンのメシル酸塩(0.500g、0.94mmoL)、及びトリエチルアミン(0.157mL、1.13mmoL)を加えたN,N−ジメチルホルムアミド溶液(10mL)に滴下し、室温にて一日間撹拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノ−ル=8:2(v/v)]にて精製し、標記化合物(0.595g、定量的)を得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.87(3H,t,J=7.2Hz),1.31(9H,s),1.58(1H,t,J=7.2Hz),1.66(2H,t,J=7.2Hz),1.89−1.82(2H,m),2.12−2.21(3H,m),2.39(3H,s),2.92(2H,t,J=6.5Hz),3.17(2H,s),5.16(1H,d,J=19.2Hz),5.24(1H,d,J=18.8Hz),5.42(2H,s),5.59−5.55(1H,m),6.53(1H,s),6.78(1H,t,J=6.3Hz),7.30(1H,s),7.79(1H,d,J=11.0Hz),8.40(1H,d,J=8.6Hz).
MS(APCI)m/z:621(M+H)+
【0216】
工程2:4−アミノ−N−[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]ブタンアミドトリフルオロ酢酸塩
上記工程1で得た化合物(0.388g、0.61mmoL)をジクロロメタン(9mL)に溶解した。トリフルオロ酢酸(9mL)を加えて4時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノール:水=7:3:1(v/v/v)の分配有機層]にて精製し、標記化合物(0.343g、定量的)を得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d)δ:0.87(3H,t,J=7.2Hz),1.79−1.92(4H,m),2.10−2.17(2H,m),2.27(2H,t,J=7.0Hz),2.40(3H,s),2.80−2.86(2H,m),3.15−3.20(2H,m),5.15(1H,d,J=18.8Hz),5.26(1H,d,J=18.8Hz),5.42(2H,s),5.54−5.61(1H,m),6.55(1H,s),7.32(1H,s),7.72(3H,brs),7.82(1H,d,J=11.0Hz),8.54(1H,d,J=8.6Hz).
MS(APCI)m/z:521(M+H)+
【0217】
工程3:N−(tert−ブトキシカルボニル)グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−(4−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−4−オキソブチル)グリシンアミド
N−(tert−ブトキシカルボニル)グリシルグリシル−L−フェニルアラニルグリシン(0.081g、0.19mmoL)をジクロロメタン(3mL)に溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド(0.021g、0.19moL)及び、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.036g、0.19mmoL)を加えて3.5時間撹拌した。その反応溶液を上記工程2で得た化合物(0.080g、0.15mmoL)を加えたN,N−ジメチルホルムアミド溶液(1.5mL)に滴下し、室温にて4時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノ−ル=8:2(v/v)]にて精
製し、標記化合物(0.106g、73%)を得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.87(3H,t,J=7.4Hz),1.36(9H,s),1.71(2H,m),1.86(2H,t,J=7.8Hz),2.15−2.19(4H,m),2.40(3H,s),2.77(1H,dd,J=12.7,8.8Hz),3.02(1H,dd,J=14.1,4.7Hz),3.08−3.11(2H,m),3.16−3.19(2H,m),3.54(2H,d,J=5.9Hz),3.57−3.77(4H,m),4.46−4.48(1H,m),5.16(1H,d,J=19.2Hz),5.25(1H,d,J=18.8Hz),5.42(2H,s),5.55−5.60(1H,m),6.53(1H,s),7.00(1H,t,J=6.3Hz),7.17−7.26(5H,m),7.31(1H,s),7.71(1H,t,J=5.7Hz),7.80(1H,d,J=11.0Hz),7.92(1H,t,J=5.7Hz),8.15(1H,d,J=8.2Hz),8.27(1H,t,J=5.5Hz),8.46(1H,d,J=8.2Hz).
MS(APCI)m/z:939(M+H)+
【0218】
工程4:グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−(4−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−4−オキソブチル)グリシンアミドトリフルオロ酢酸塩
上記工程3で得た化合物(1.97g、2.10mmoL)をジクロロメタン(7mL)に溶解した。トリフルオロ酢酸(7mL)を加えて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、トルエンを加えて共沸し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノール:水=7:3:1(v/v/v)の分配有機層]にて精製し、標記化合物(1.97g、99%)を得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d)δ:0.87(3H,t,J=7.4Hz),1.71−1.73(2H,m),1.82−1.90(2H,m),2.12−2.20(4H,m),2.40(3H,s),2.75(1H,dd,J=13.7,9.4Hz),3.03−3.09(3H,m),3.18−3.19(2H,m),3.58−3.60(2H,m),3.64(1H,d,J=5.9Hz),3.69(1H,d,J=5.9Hz),3.72(1H,d,J=5.5Hz),3.87(1H,dd,J=16.8,5.9Hz),4.50−4.56(1H,m),5.16(1H,d,J=19.2Hz),5.25(1H,d,J=18.8Hz),5.42(2H,s),5.55−5.60(1H,m),7.17−7.27(5H,m),7.32(1H,s),7.78−7.81(2H,m),7.95−7.97(3H,m),8.33−8.35(2H,m),8.48−8.51(2H,m).
MS(APCI)m/z:839(M+H)+
【0219】
工程5:N−{3−[2−(2−{[3−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)プロパノイル]アミノ}エトキシ)エトキシ]プロパノイル}グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−(4−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−4−オキソブチル)グリシンアミド
上記工程4で得た化合物(100mg,0.119mmoL)のN,N−ジメチルホルムアミド(1.20mL)溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(20.8μL,0.119mmoL)、3−(2−(2−(3−マレインイミドプロパンアミド)エトキシ)エトキシ)プロパン酸N−スクシンイミジル(50.7mg,0.119mmoL)を加え
、室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノール=5:1(v/v)]にて精製し、標記化合物(66.5mg,48%)を淡黄色固体として得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.85(3H,t,J=7.4Hz),1.65−1.74(2H,m),1.77−1.90(2H,m),2.07−2.19(4H,m),2.30(2H,t,J=7.2Hz),2.33−2.36(2H,m),2.38(3H,s),2.76(1H,dd,J=13.7,9.8Hz),2.96−3.18(9H,m),3.42−3.44(4H,m),3.53−3.76(10H,m),4.43(1H,td,J=8.6,4.7Hz),5.14(1H,d,J=18.8Hz),5.23(1H,d,J=18.8Hz),5.38(1H,d,J=17.2Hz),5.42(1H,d,J=17.2Hz),5.52−5.58(1H,m),6.52(1H,s),6.98(2H,s),7.12−7.17(1H,m),7.18−7.25(4H,m),7.29(1H,s),7.69(1H,t,J=5.5Hz),7.78(1H,d,J=11.3Hz),7.98−8.03(2H,m),8.11(1H,d,J=7.8Hz),8.16(1H,t,J=5.7Hz),8.23(1H,t,J=5.9Hz),8.44(1H,d,J=9.0Hz).
MS(APCI)m/z:1149(M+H)+
【0220】
工程6:抗体−薬物コンジュゲート(1)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(10.0mL)を50mLチューブに採取し、10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.317mL;抗体一分子に対して4.6当量)及び1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.500mL)を加えた。本溶液のpHが7.4±0.1内であることを確認した後に、37℃で1時間インキュベートすることによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を常温水浴で10分間インキュベートした後にジメチルスルホキシド(0.567mL)を添加した。次いで上記工程5で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.635mL;抗体一分子に対して9.2当量)を加え、チューブローテーター(MTR−103、アズワン株式会社)を用いて室温で40分間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.127mL;抗体一分子に対して18.4当量)を加え、さらに室温にて20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を35.0mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E(εD,280=4964(実測値)εD,370=18982(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.70mg/mL,抗体収量:94.5mg(95%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):6.6。
【0221】
[実施例10:hTINA1-H1L1 ADCの作製(2)]
【0222】
【化26】
【0223】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(2)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(2.00mL)を4mLチューブに採取し、10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.0690mL;抗体一分子に対して5.0当量)及び1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.100mL)を加えた。本溶液のpHが7.4±0.1内であることを確認した後に、37℃で1時間インキュベートすることによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間インキュベートした後に実施例9工程5で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.127mL;抗体一分子に対して9.2当量)を加え、15℃水浴にて1時間インキュベートし、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0190mL;抗体一分子に対して13.8当量)を加え、チューブローテーターを用いて室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を9.00mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E(εD,280=4964(実測値)εD,370=18982(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.08mg/mL,抗体収量:18.7mg(94%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):6.1。
【0224】
[実施例11:hTINA1-H1L1 ADCの作製(3)]
【0225】
【化27】
【0226】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(3)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(5.0mL)を15mL容器に採取し、撹拌下1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.0813mL)を加えた後、37℃で10分間撹拌した。撹拌下10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.0745mL;抗体一分子に対して2.3当量)を加えた後、本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認し、37℃で1時間撹拌することによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間撹拌した後に実施例9工程5で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.162mL;抗体一分子に対して5.0当量)をゆっくり滴下しながら加え、15℃水浴にて1時間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0418mL;抗体一分子に対して12.9当量)を加え、室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を21.0mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E及びF(εD,280=4964(実測値)εD,370=18982(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.19mg/mL,抗体収量:46.0mg(92%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):3.6;共通操作Fにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):3.6。
【0227】
[実施例12:hTINA1-H1L1 ADCの作製(4)]
【0228】
【化28】
【0229】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(4)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10.0mg/mLに調製した。本溶液(5.00mL)を15mL容器に採取し、撹拌下1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.0813mL)を加えた後、37℃で10分間撹拌した。撹拌下10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.162mL;抗体一分子に対して5.0当量)を加えた後、本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認し、37℃で1時間撹拌することによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間撹拌した後に実施例9工程5で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.389mL;抗体一分子に対して12.0当量)をゆっくり滴下しながら加え、15℃水浴にて1時間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0418mL;抗体一分子に対して12.9当量)を加え、室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を21.0mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E及びF(εD,280=4964(実測値)εD,370=18982(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.19mg/mL,抗体収量:46.0mg(92%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):7.0;共通操作Fにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):7.0。
【0230】
[参考例13:hRS7 ADCの作製(5)]
【0231】
【化29】
【0232】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(5)
抗体の還元:参考例1にて作製したhRS7を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.56を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(2.0mL)を4mLチューブに採取し、10mM
TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.0690mL;抗体一分子に対して5.0当量)及び1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.100mL)を加えた。本溶液のpHが7.4±0.1内であることを確認した後に、37℃で1時間インキュベートすることによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間インキュベートした後に実施例9工程5で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.127mL;抗体一分子に対して9.2当量)を加え、15℃水浴にて1時間インキュベートし、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0190mL;抗体一分子に対して13.8当量)を加え、チューブローテーターを用いて室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を9.00mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E(εD,280=4964(実測値)εD,370=18982(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.04mg/mL,抗体収量:18.4mg(92%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):6.2。
【0233】
[実施例14:hTINA1-H1L1 ADCの作製(6)]
【0234】
【化30】
【0235】
工程1:({N−[(9H−フルオレン−9−イルメトキシ)カルボニル]グリシル}アミノ)メチルアセテート
N−9−フルオレニルメトキシカルボニルグリシルグリシン(4.33g,12.2mmol)、テトラヒドロフラン(120ml)、及びトルエン(40.0ml)からなる混合物に、ピリジン(1.16ml,14.7mmol及び四酢酸鉛(6.84g,14.7mmol)を加え、5時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却した後、不溶物をセライト濾過によって除き、減圧下濃縮した。得られた残留物を酢酸エチルに溶解し、水及び飽和食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下で留去した後、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[ヘキサン:酢酸エチル=9:1(v/v)〜酢酸エチル]にて精製し、標記化合物(3.00g,67%)を無色固体として得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ:2.07(3H,s),3.90(2H,d,J=5.1Hz),4.23(1H,t,J=7.0Hz),4.46(2H,d,
J=6.6Hz),5.26(2H,d,J=7.0Hz),5.32(1H,brs),6.96(1H,brs),7.32(2H,t,J=7.3Hz),7.41(2H,t,J=7.3Hz),7.59(2H,d,J=7.3Hz),7.77(2H,d,J=7.3Hz).
【0236】
工程2:ベンジル [({N−[(9H−フルオレン−9−イルメトキシ)カルボニル]グリシル}アミノ)メトキシ]アセテート
上記工程1で得た化合物(3.68g,10.0mmoL)及びベンジルグリコレート(4.99g,30.0mmoL)のテトラヒドロフラン(40.0mL)溶液に、カリウム tert−ブトキシド(2.24g,20.0mmoL)を0℃で加え、室温にて15分間撹拌した。反応溶液に酢酸エチル、水を0℃で加え、酢酸エチル、クロロホルムで抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をジオキサン(40.0mL)、水(10.0mL)に溶解し、炭酸水素ナトリウム(1.01g,12.0mmoL)、クロロギ酸9−フルオレニルメチル(2.59g,10.0mmoL)を加え、室温で2時間撹拌した。反応溶液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[ヘキサン:酢酸エチル=100:0(v/v)〜0:100]にて精製し、無色油状の標記化合物(1.88g、40%)を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ:3.84(2H,d,J=5.5Hz),4.24(3H,t,J=6.5Hz),4.49(2H,d,J=6.7Hz),4.88(2H,d,J=6.7Hz),5.15−5.27(1H,m),5.19(2H,s),6.74(1H,brs),7.31−7.39(7H,m),7.43(2H,t,J=7.4Hz),7.61(2H,d,J=7.4Hz),7.79(2H,d,J=7.4Hz).
【0237】
工程3:[({N−[(9H−フルオレン−9−イルメトキシ)カルボニル]グリシル}アミノ)メトキシ]酢酸
上記工程2で得た化合物(1.88g、3.96mmoL)をエタノール(40.0mL)、酢酸エチル(20.0ml)に溶解した。パラジウム炭素触媒(376mg)を加え、水素雰囲気下、室温にて2時間撹拌した。不溶物をセライト濾過によって除き、溶媒を減圧留去し、標記化合物(1.52g、定量的)を無色固体として得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:3.62(2H,d,J=6.3Hz),3.97(2H,s),4.18−4.32(3H,m),4.60(2H,d,J=6.7Hz),7.29−7.46(4H,m),7.58(1H,t,J=5.9Hz),7.72(2H,d,J=7.4Hz),7.90(2H,d,J=7.4Hz),8.71(1H,t,J=6.5Hz).
【0238】
工程4:9H−フルオレン−9−イルメチル(2−{[(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)メチル]アミノ}−2−オキソエチル)カーバメート
氷冷下、エキサテカンのメシル酸塩(0.283g,0.533mmoL)、N−ヒドロキシスクシンイミド(61.4mg,0.533mmoL)、及び上記工程3で得た化合物(0.205g,0.533mmoL)のN,N−ジメチルホルムアミド(10.0mL)溶液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(92.9μL,0.533mmoL)及びN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.143g,0.693mmoL)を加え、室温にて3日間撹拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノール:水=7:3:1
(v/v/v)の分配有機層]にて精製し、標記化合物(0.352g,82%)を淡茶色固体として得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.81(3H,t,J=7.4Hz),1.73−1.87(2H,m),2.06−2.20(2H,m),2.34(3H,s),3.01−3.23(2H,m),3.58(2H,d,J=6.7Hz),3.98(2H,s),4.13−4.25(3H,m),4.60(2H,d,J=6.7Hz),5.09−5.22(2H,m),5.32−5.42(2H,m),5.50−5.59(1H,m),6.49(1H,s),7.24−7.30(3H,m),7.36(2H,t,J=7.4Hz),7.53(1H,t,J=6.3Hz),7.66(2H,d,J=7.4Hz),7.75(1H,d,J=11.0Hz),7.84(2H,d,J=7.4Hz),8.47(1H,d,J=8.6Hz),8.77(1H,t,J=6.7Hz).
MS(ESI)m/z:802(M+H)+
【0239】
工程5:N−[(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド
上記工程4で得た化合物(0.881g,1.10mmoL)のN,N−ジメチルホルムアミド(11.0mL)溶液に、ピペリジン(1.1mL)を加え、室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、標記化合物を含む混合物を得た。本混合物は、これ以上の精製は行わずに次の反応に用いた。
【0240】
工程6:N−[(9H−フルオレン−9−イルメトキシ)カルボニル]グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−[(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド
氷冷下、上記工程5で得た混合物(0.439mmoL)、N−ヒドロキシスクシンイミド(0.101g,0.878mmoL)、及びN−[(9H−フルオレン−9−イルメトキシ)カルボニル]グリシルグリシル−L−フェニルアラニン(特開2002−60351号公報;0.440g,0.878mmoL)のN,N−ジメチルホルムアミド(50.0mL)溶液に、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.181g,0.878mmoL)を加え、室温にて4日間撹拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノール=9:1(v/v)]にて精製し、標記化合物(0.269g,58%)を淡橙色固体として得た。
MS(ESI)m/z:1063(M+H)+
【0241】
工程7:グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−[(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド
上記工程6で得た化合物(0.269g,0.253mmoL)のN,N−ジメチルホルムアミド(4.00mL)溶液に、ピペリジン(0.251mL,2.53mmoL)を加え、室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、標記化合物を含む混合物を得た。本混合物は、これ以上の精製は行わずに次の反応に用いた。
【0242】
工程8:N−[6−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ヘキサノイル]グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−[(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド
上記工程7で得た化合物(0.253mmoL)のN,N−ジメチルホルムアミド(10.0mL)溶液に、6−マレイミドヘキサン酸N−スクシンイミジル(0.156g,0.506mmoL)を加え、室温で3日間撹拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム〜クロロホルム:メタノール=9:1(v/v)]にて精製し、標記化合物(0.100g,38%)を淡黄色固体として得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.83(3H,t,J=7.2Hz),1.09−1.21(2H,m),1.33−1.47(4H,m),1.75−1.90(2H,m),2.00−2.23(4H,m),2.36(3H,s),2.69−2.81(1H,m),2.94−3.03(1H,m),3.06−3.22(2H,m),3.23−3.74(6H,m),3.98(2H,s),4.39−4.50(1H,m),4.60(2H,d,J=6.7Hz),5.17(2H,s),5.39(2H,s),5.53−5.61(1H,m),6.50(1H,s),6.96(2H,s),7.11−7.24(5H,m),7.28(1H,s),7.75(1H,d,J=11.0Hz),7.97(1H,t,J=5.7Hz),8.03(1H,t,J=5.9Hz),8.09(1H,d,J=7.8Hz),8.27(1H,t,J=6.5Hz),8.48(1H,d,J=9.0Hz),8.60(1H,t,J=6.5Hz).
MS(ESI)m/z:1034(M+H)+
【0243】
工程9:抗体−薬物コンジュゲート(6)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(10.0mL)を50mLチューブに採取し、10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.317mL;抗体一分子に対して4.6当量)及び1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.500mL)を加えた。本溶液のpHが7.4±0.1内であることを確認した後に、37℃で1時間インキュベートすることによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を常温水浴で10分間インキュベートした後にジメチルスルホキシド(0.567mL)を添加した。次いで上記工程8で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.635mL;抗体一分子に対して9.2当量)を加え、チューブローテーターを用いて室温で40分間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.127mL;抗体一分子に対して18.4当量)を加え、さらに室温にて20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を35.0mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E(εD,280=5178(実測値)εD,370=20217(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.70mg/mL,抗体収量:94.5mg(95%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):6.4。
【0244】
[実施例15:hTINA1-H1L1 ADCの作製(7)]
【0245】
【化31】
【0246】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(7)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(2.0mL)を4mLチューブに採取し、10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.0690mL;抗体一分子に対して5.0当量)及び1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.0299mL)を加えた。本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認した後に、37℃で1時間インキュベートすることによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間インキュベートした後に実施例14工程8で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.127mL;抗体一分子に対して9.2当量)を加え、15℃水浴にて1時間インキュベートし、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0190mL;抗体一分子に対して13.8当量)を加え、チューブローテーターを用いて室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を9.00mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E(εD,280=5178(実測値)εD,370=20217(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.04mg/mL,抗体収量:18.4mg(92%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):5.7。
【0247】
[実施例16:hTINA1-H1L1 ADCの作製(8)]
【0248】
【化32】
【0249】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(8)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(30.0mL)を100mL容器に採取し、撹拌下1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.4875mL)を加えた後、37℃で10分間撹拌した。撹拌下10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.9721mL;抗体一分子に対して5.0当量)を加えた後、本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認し、37℃で1時間撹拌することによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間撹拌した後に実施例14工程8で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(2.33mL;抗体一分子に対して12.0当量)をゆっくり滴下しながら加え、15℃水浴にて1時間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.251mL;抗体一分子に対して12.9当量)を加え、室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を98.0mL得た。その後、製造方法1に記載した共通操作Aによる濃縮操作を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を17.5mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E及びF(εD,280=5178(実測値)εD,370=20217(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:14.6mg/mL,抗体収量:256mg(85%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):6.7;共通操作Fにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):7.0。
【0250】
[実施例17:hTINA1-H1L1 ADCの作製(9)]
【0251】
【化33】
【0252】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(9)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(5.0mL)を15mL容器に採取し、撹拌下1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.0813mL)を加えた後、37℃で10分間撹拌した。撹拌下10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.0778mL;抗体一分子に対して2.4当量)を加えた後、本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認し、37℃で1時間撹拌することによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間撹拌した後に実施例14工程8で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.162mL;抗体一分子に対して5.0当量)をゆっくり滴下しながら加え、15℃水浴にて1時間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0418mL;抗体一分子に対して12.9当量)を加え、室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を21.0mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E及びF(εD,280=5178(実測値)εD,370=20217(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.26mg/mL,抗体収量:47.5mg(95%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):3.5;共通操作Fにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):3.6。
【0253】
[参考例18:hRS7 ADCの作製(10)]
【0254】
【化34】
【0255】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(10)
抗体の還元:参考例1にて作製したhRS7を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.56を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(2.0mL)を4mLチューブに採取し、10mM
TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.0690mL;抗体一分子に対して5.0当量)及び1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.0299mL)を加えた。本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認した後に、37℃で1時間インキュベートすることによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間インキュベートした後に実施例14工程8で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.1269mL;抗体一分子に対して9.2当量)を加え、15℃水浴にて1時間インキュベートし、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0190mL;抗体一分子に対して13.8当量)を加え、チューブローテーターを用いて室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を9.00mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E(εD,280=5178(実測値)εD,370=20217(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.07mg/mL,抗体収量:18.6mg(93%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):5.6。
【0256】
[実施例19:hTINA1-H1L1 ADCの作製(11)]
【0257】
【化35】
【0258】
工程1:tert−ブチル [2−(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)エチル]カーバメート
エキサテカンのメシル酸塩(3.10g、5.47moL)を、4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)ブタン酸の代わりに{2−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]エトキシ}酢酸(J.Med.Chem.,1992年,35巻,2928頁;1.55g,6.01mmol)を用いて、実施例1の工程1と同様に反応させ、標記化合物(2.56g,73%)を淡黄色固体として得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.87(3H,t,J=7.3Hz),1.26(9H,s),1.81−1.91(2H,m),2.13−2.22(2H,m),2.40(3H,s),3.08−3.26(4H,m),3.43−3.53(2H,m),4.00(1H,d,J=15.1Hz),4.05(1H,d,J=15.1Hz),5.14(1H,d,J=18.7Hz),5.22(1H,d,J=18.7Hz),5.40(1H,d,J=16.6Hz),5.44(1H,d,J=16.6Hz),5.59−5.66(1H,m),6.53(1H,s),6.86(1H,t,J=5.4Hz),7.31(1H,s),7.79(1H,d,J=10.9Hz),8.49(1H,d,J=9.1Hz).
MS(APCI)m/z:637(M+H)+
【0259】
工程2:2−(2−アミノエトキシ)−N−[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アセトアミドトリフルオロ酢酸塩
上記工程1で得た化合物(1.50g,2.36mol)を、実施例1の工程2と同様に反応させ、標記化合物(1.50g,定量的)を淡黄色固体として得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.87(3H,t,J=7.5Hz),1.81−1.92(2H,m),2.15−2.23(2H,m),2.41(3H,s),3.05(2H,t,J=5.1Hz),3.15−3.23(2H,m),3.71(2H,t,J=5.1Hz),4.10(2H,s),5.19(1H,d,J=18.7Hz),5.24(1H,d,J=18.7Hz),5.43(2H,s),5.58−5.66(1H,m),6.55(1H,s),7.33(1H,s),7.73−7.84(4H,m),8.55(1H,d,J=9.1Hz).
MS(APCI)m/z:537(M+H)+
【0260】
工程3:N−(tert−ブトキシカルボニル)グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−[2−(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)エチル]グリシンアミド
上記工程2で得た化合物(554mg,0.85mmol)を、実施例1の工程3と同様に反応させ、標記化合物(775mg,95%)を得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.85(3H,t,J=7.3Hz),1.36(9H,s),1.78−1.89(2H,m),2.13−2.22(2H,m),2.39(3H,s),2.71(1H,dd,J=13.4,9.8Hz),2.95(1H,dd,J=13.4,4.3Hz),3.09−3.23(1H,m),3.23−3.32(2H,m),3.40−3.62(8H,m),3.73(1H,dd,J=16.5,5.5Hz),4.03(2H,s),4.39−4.47(1H,m),5.17(1H,d,J=18.9Hz),5.25(1H,d,J=18.9Hz),5.41(1H,d,J=16.8Hz),5.45(1H,d,J=16.8Hz),5.57−5.64(1H,m),6.54(1H,s),6.99(1H,t,J=5.8Hz),7.13−7.26(5H,m),7.31(1H,s),7.76−7.82(2H,m),7.90(1H,t,J=5.2Hz),8.13(1H,d,J=7.9Hz),8.27(1H,t,J=5.8Hz),8.49(1H,d,J=8.5Hz).
MS(APCI)m/z:955(M+H)+
【0261】
工程4:グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−[2−(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−
2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)エチル]グリシンアミドトリフルオロ酢酸塩
上記工程3で得た化合物(630mg,0.659mmol)を、実施例1の工程4と同様に反応させ、標記化合物(588mg,92%)を得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.86(3H,t,J=7.3Hz),1.79−1.90(2H,m),2.13−2.22(2H,m),2.39(3H,s),2.71(1H,dd,J=13.4,10.1Hz),2.99(1H,dd,J=13.4,4.3Hz),3.09−3.23(1H,m),3.24−3.32(3H,m),3.41−3.71(7H,m),3.86(1H,dd,J=16.8,5.8Hz),4.04(2H,s),4.52(1H,td,J=9.0,4.1Hz),5.17(1H,d,J=18.9Hz),5.25(1H,d,J=18.9Hz),5.41(1H,d,J=16.5Hz),5.45(1H,d,J=16.5Hz),5.56−5.65(1H,m),6.55(1H,s),7.13−7.26(5H,m),7.32(1H,s),7.80(1H,d,J=11.0Hz),7.87−8.01(4H,m),8.29−8.36(2H,m),8.46−8.55(2H,m).
MS(APCI)m/z:855(M+H)+
【0262】
工程5:N−[6−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−1−イル)ヘキサノイル]グリシルグリシル−L−フェニルアラニル−N−[2−(2−{[(1S,9S)−9−エチル−5−フルオロ−9−ヒドロキシ−4−メチル−10,13−ジオキソ−2,3,9,10,13,15−ヘキサヒドロ−1H,12H−ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2−b]キノリン−1−イル]アミノ}−2−オキソエトキシ)エチル]グリシンアミド
上記工程4で得た化合物(240mg,0.247mmol)を、ジイソプロピルエチルアミンの代わりにトリエチルアミン(31.4μL,0.22mmoL)を、3−(2−(2−(3−マレインイミドプロパンアミド)エトキシ)エトキシ)プロパン酸N−スクシンイミジルの代わりに6−マレイミドヘキサン酸N−スクシンイミジル(95.3mg,0.31mmoL)を用いて、実施例1の工程5と同様に反応させ、標記化合物(162mg,62%)を得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:0.86(3H,t,J=7.6Hz),1.13−1.22(2H,m),1.40−1.51(4H,m),1.78−1.90(2H,m),2.09(2H,t,J=7.6Hz),2.14−2.21(2H,m),2.39(3H,s),2.74(1H,dd,J=13.6,9.7Hz),2.96(1H,dd,J=13.6,4.5Hz),3.08−3.24(1H,m),3.24−3.30(1H,m),3.33−3.40(4H,m),3.47−3.68(7H,m),3.72(1H,dd,J=16.6,5.7Hz),4.03(2H,s),4.42(1H,td,J=8.6,4.2Hz),5.17(1H,d,J=18.7Hz),5.25(1H,d,J=18.7Hz),5.40(1H,d,J=17.2Hz),5.44(1H,d,J=17.2Hz),5.57−5.64(1H,m),6.52(1H,s),6.99(2H,s),7.13−7.25(5H,m),7.31(1H,s),7.74−7.81(2H,m),7.99(1H,t,J=5.7Hz),8.03−8.11(2H,m),8.22(1H,t,J=5.7Hz),8.47(1H,d,J=9.1Hz).
MS(APCI)m/z:1048(M+H)+
【0263】
工程6:抗体−薬物コンジュゲート(11)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0
/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(3.0mL)を15mL容器に採取し、撹拌下1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.0488mL)を加えた後、37℃で10分間撹拌した。撹拌下10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.0972mL;抗体一分子に対して5.0当量)を加えた後、本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認し、37℃で1時間撹拌することによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃水浴で10分間撹拌した後に実施例11a工程8で得た化合物の10mMジメチルスルホキシド溶液(0.233
3mL;抗体一分子に対して12.0当量)をゆっくり滴下しながら加え、15℃水浴にて1時間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.0251mL;抗体一分子に対して12.9当量)を加え、室温で20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記溶液を、製造方法1に記載した共通操作Dによる精製を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を14mL得た。
特性評価:製造方法1に記載した共通操作E及びF(εD,280=5193(実測値)εD,370=20347(実測値)を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:1.93mg/mL,抗体収量:27.0mg(90%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):7.1;共通操作Fにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):7.0。
【0264】
[参考例2:hRS7-CL2A-SN38の作製(12)]
【0265】
【化36】
【0266】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(12)
抗体の還元:参考例1にて作製したhRS7を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、PBS6.0/EDTAにて10mg/mLに調製した。本溶液(10.0mL)を50mLチューブに採取し、10mM TCEP(東京化成工業株式会社)水溶液(0.317mL;抗体一分子に対して4.6当量)及び1Mリン酸水素二カリウム水溶液(Nacalai Tesque,Inc.;0.500mL)を加えた。本溶液のpHが7.4±0.1内であることを確認した後に、37℃で1時間インキュベートすることによって、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を常温水浴で10分間インキュベートした後にジメチルスルホキシド(0.567mL)を添加した。次いで、米国特許公開第2011/0293513号明細書に従って合成したCL2A−SN38の10mM
ジメチルスルホキシド溶液(0.635mL;抗体一分子に対して9.2当量)を加え、チューブローテーターを用いて室温で40分間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、100mM NAC(Sigma−Aldrich Co.LLC)水溶液(0.127mL;抗体一分子に対して18.4当量)を加え、さらに室温にて20分間撹拌し、薬物リンカーの反応を停止させた。
精製:上記反応溶液について、製造方法1−共通操作Dに記載したゲルろ過精製操作を2回繰り返し、次いでポリソルベート80(0.01%)を含有する25mMトレハロース溶液にて同様にNAP−25カラムによるゲルろ過精製操作を1回行った後に得られる溶出液(35mL)を凍結乾燥操した。
特性評価:凍結乾燥前の溶出液について製造方法1に記載した共通操作Eを使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:2.78mg/mL,抗体収量:97.3mg(97%),抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):5.6
【0267】
[実施例20:hTINA1-H1L1 ADCの作製(13)]
【0268】
【化37】
【0269】
工程1:抗体−薬物コンジュゲート(13)
抗体の還元:実施例7にて作製したhTINA1−H1L1を、製造方法1に記載した共通操作B(280nm吸光係数として1.54を使用)及びCを用いて、媒体をPBS6.0/EDTAに置換し、10mg/mLの抗体濃度に調製した。本溶液(100mL)をポリカーボネート製の250mL三角フラスコ容器に入れ、マグネティックスターラ
ー撹拌下、室温で1Mリン酸水素二カリウム水溶液(1.4mL)を加えた後、10mM
TCEP水溶液(1.62mL;抗体一分子に対して2.5当量)を加えた。本溶液のpHが7.0±0.1内であることを確認した後に、撹拌を停止し、37℃で2時間インキュベートすることにより、抗体内ヒンジ部のジスルフィド結合を還元した。
抗体と薬物リンカーのコンジュゲーション:上記溶液を15℃に冷却後、撹拌下、DMSO(3.24mL)をゆっくり滴下して加えた。次いで、実施例14工程8の化合物を10mM含むDMSO溶液(1.76mL;抗体一分子に対して5.0当量)をゆっくり滴下して加えた。この溶液を15℃にて、1時間撹拌し、薬物リンカーを抗体へ結合させた。次に、撹拌下、100mM NAC水溶液(0.324mL;抗体一分子に対して5.0当量)を加え、さらに室温で20分間インキュベートし、未反応の薬物リンカーの反応性を停止させた。
精製:撹拌下、上記溶液に20%酢酸水(約0.52mL)とABS(100mL)をゆっくり加え、本溶液のpHを5.5±0.1にした。この溶液を精密ろ過(0.45μm、PVDF膜)することにより白濁物を除いて、ろ液を約200mL得た。このろ液に対して、限外ろ過膜(メルク株式会社、Pellicon XL Cassette、Ultracell 30KDa)、チューブポンプ(米国コールパーマー社マスターフレックスポンプ model 77521−40、ポンプヘッド model 7518−00)及びチューブ(米国コールパーマー社マスターフレックスチューブ L/S16)で構成された限外ろ過装置を用い、限外ろ過精製を行った。すなわち、反応液に精製緩衝液としてABS(計1600mL)を滴下しながら、限外ろ過精製を行うことで、未結合の薬物リンカー及び他の低分子量試薬を除去するとともに緩衝液をABSへ置換し、さら
に濃縮まで行った。得られた精製溶液に対して、精密ろ過(0.22μm、PVDF膜)を行い、標記抗体−薬物コンジュゲートを含有する溶液を88mL得た。
特性評価:共通操作Eと共通操作F(εD,280=5178εD,370=20217を使用)を使用して、下記の特性値を得た。
抗体濃度:9.96mg/mL,抗体収量:876mg(88%),共通操作Eにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):3.8;共通操作Fにて測定された抗体一分子あたりの薬物平均結合数(n):3.8。
【0270】
[実施例21:ADCの抗腫瘍効果の評価]
21−a)ADCの抗腫瘍効果(1)
マウス:5−6週齢の雌BALB/c−nu/nuマウス(日本チャールス・リバー株式会社)を実験使用前にSPF条件下で4−7日間馴化した。マウスには滅菌した固形飼料(FR−2,Funabashi Farms Co.,Ltd)を給餌し、滅菌した水道水(5−15ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加して調製)を与えた。
測定、計算式:全ての研究において、腫瘍の長径及び短径を電子式デジタルキャリパー(CD−15C,Mitutoyo Corp.)で1週間に2回測定し、腫瘍体積(mm3)を計算した。計算式は以下に示す通り。
腫瘍体積(mm3)=1/2×長径(mm)×[短径(mm)]2
【0271】
抗体−薬物コンジュゲートは全て生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)で希釈し、10mL/kgの液量を尾静脈内投与した。ATCCから購入したヒト大腸癌細胞株COLO205を生理食塩水に懸濁した2×106cellsを雌BALB/c−nu/nuマウ
スの右側腹部に皮下移植し(Day0)、Day7に無作為に群分けを実施した。抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)、(12)をDay7、14、21に全て10mg/kgの用量で尾静脈内投与した。陰性対照として薬物を結合していないhTINA1−H1L1抗体及びhRS7抗体を25mg/kgの用量で同様に投与した。抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)の投与によって腫瘍体積が抗体−薬物コンジュゲート(12)の投与に比べて著しく減少し、いずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図13)。なお、図中、横軸は日数、縦軸は腫瘍体積を示す。
【0272】
21−b)ADCの抗腫瘍効果(2)
ATCCから購入したヒト膵臓腺癌細胞株Bx−PC3を雌BALB/c−nu/nuマウスに移植し、更に固形継代した腫瘍片を雌BALB/c−nu/nuマウス右側腹部に皮下移植して(Day0)、Day16に無作為に群分けを実施した。抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)、(12)をDay16、23、30に全て10mg/kgの用量で尾静脈内投与した。陰性対照として薬物を結合していないhTINA1−H1L1抗体及びhRS7抗体を25mg/kgの用量で同様に投与した。抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)の投与によって腫瘍体積が抗体−薬物コンジュゲート(12)の投与に比べて著しく減少し、いずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図14)。
【0273】
21−c)ADCの抗腫瘍効果(3)
ATCCから購入したヒト膵臓腺癌細胞株Capan−1を雌BALB/c−nu/nuマウスに移植し、更に固形継代した腫瘍片を雌BALB/c−nu/nuマウス右側腹部に皮下移植して(Day0)、Day18に無作為に群分けを実施した。抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)、(12)をDay18、25、32に全て10mg/kgの用量で尾静脈内投与した。陰性対照として薬物を結合していないhTINA1−H1L1抗体及びhRS7抗体を25mg/kgの用量で同様に投与した。抗体−薬物コンジュゲート(1)、(6)の投与によって腫瘍体積が抗体−薬物コンジュゲート(12)の投与に比べて著しく減少し、いずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図15)。
【0274】
21−d)ADCの抗腫瘍効果(4)
実施例21−a)と同様にCOLO205を雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day11に無作為に群分けを実施した。Day11、18、25に抗体−薬物コンジュゲート(2)、(5)を全て10mg/kg、抗体−薬物コンジュゲート(7)、(10)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(2)、(5)、(7)、(10)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図16)。
【0275】
21−e)ADCの抗腫瘍効果(5)
実施例21−b)と同様にBx−PC3を雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day25に無作為に群分けを実施した。抗体−薬物コンジュゲート(2)、(5)、(7)、(10)をDay25、32に全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(2)、(5)、(7)、(10)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図17)。
【0276】
21−f)ADCの抗腫瘍効果(6)
実施例21−a)と同様にCOLO205を雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day9に無作為に群分けを実施した。Day9、16に抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)を全て10mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図18)。
【0277】
21−g)ADCの抗腫瘍効果(7)
実施例21−b)と同様にBx−PC3を雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day21に無作為に群分けを実施した。Day21、28に抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図19)。
【0278】
21−h)ADCの抗腫瘍効果(8)
ATCCから購入したヒト卵巣癌細胞株NIH:OVCAR−3 8×106cell
sをMatrigel(Becton,Dickinson and Company)に懸濁し、雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day25に無作為に群分けを実施した。Day25に抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図20)。
【0279】
21−i)ADCの抗腫瘍効果(9)
ATCCから購入したヒト胃癌細胞株NCI−N87 1×10cellsを生理食塩水に懸濁し、雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day6に無作為に群分けを実施した。Day6に抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図21)。
【0280】
21−j)ADCの抗腫瘍効果(10)
ATCCから購入したヒト肺癌細胞株NCI−H292 5×106cellsを生理
食塩水に懸濁し、雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day9に無作為に群分けを実施した。Day9に抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、
(8)、(9)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図22)。
【0281】
21−k)ADCの抗腫瘍効果(11)
ATCCから購入したヒト咽頭癌細胞株FaDu 3×106cellsを生理食塩水
に懸濁し、雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day11に無作為に群分けを実施した。Day11に抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図23)。
【0282】
21−l)ADCの抗腫瘍効果(12)
ATCCから購入したヒト膵臓腺癌細胞株CFPAC−1 4×106cellsを生
理食塩水に懸濁し、雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day14に無作為に群分けを実施した。Day14に抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(3)、(4)、(8)、(9)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図24)。
【0283】
21−m)ADCの抗腫瘍効果(13)
実施例21−lと同様に、CFPAC−1を雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day14に無作為に群分けを実施した。Day14に抗体−薬物コンジュゲート(8)、(13)を全て1mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(8)、(13)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図25)。
【0284】
21−n)ADCの抗腫瘍効果(14)
ATCCから購入したヒト膵臓腺癌細胞株HPAC 3×106cellsを生理食塩
水に懸濁して雌BALB/c−nu/nuマウスに皮下移植し(Day0)、Day12に無作為に群分けを実施した。Day12に抗体−薬物コンジュゲート(8)、(13)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(8)、(13)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図26)。
【0285】
21−o)ADCの抗腫瘍効果(15)
公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団から入手したヒト食道癌組織をNOGマウス(公益財団法人 実験動物中央研究所)の皮下に移植し増殖させて得た腫瘍片を、さらに雌NOD−scidマウス(日本チャールス・リバー株式会社)に皮下移植し(Day0)、Day27に無作為に群分けを実施した。Day27に抗体−薬物コンジュゲート(8)、(13)を全て3mg/kgの用量で尾静脈内投与した。抗体−薬物コンジュゲート(8)、(13)の投与によっていずれも腫瘍増殖抑制効果を発揮した(図27)。
【0286】
[実施例22:ADCの抗細胞効果の評価]
TROP2抗原陽性細胞株であるBxPC3、NCI−H292、NIH:OVCAR−3、CFPAC−1、FaDu、ヒト肺腺癌細胞株Calu−3(ATCC)、ヒト卵巣癌細胞株CaOV3(ATCC)、及びTROP2抗原陰性細胞株であるヒト肺癌細胞株Calu−6(ATCC)、ヒト皮膚黒色腫細胞株A375(ATCC)を各ADCの抗細胞効果の評価に使用した。BxPC3及びNCI−H292は10%ウシ胎児血清(Moregate)を含むRPMI1640 Medium(Gibco)で、NIH:OVCAR−3は20%ウシ胎児血清及び0.01mg/mL Insulin(Inv
itrogen)を含むRPMI1640 Mediumで、CFPAC−1は10%ウシ胎児血清を含むIscove‘s Modified Dulbecco’s Medium(Gibco)で、FaDu、Calu−3及びCalu−6は10%ウシ胎児血清を含むEagle’s Minimum Essential Medium(ATCC)で、CaOV3及びA375は10%ウシ胎児血清を含むDulbecco’s Modified Eagle Medium(Gibco)で、それぞれ2.2×106
cells/mLに調製し、96穴細胞培養用マイクロプレートに90μLずつ播種した。更にRPMI1640 Mediumで100nM、20nM、4nM、0.8nM、0.16nM、0.032nM、0.0064nMに希釈した抗体−薬物コンジュゲート(4)、(8)もしくは比較のためRPMI1640 Mediumを10μLずつ添加して、37℃、5%CO下で6日間培養した。培養後、マイクロプレートをインキュベーターから取り出し、室温で30分間静置した。培養液と等量のCellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を添加し、プレートミキサーで10分間攪拌して細胞を溶解後にプレートリーダーで発光量を計測した。
6日間培養後の細胞増殖阻害率は次式で算出した。
細胞増殖阻害率(%)=a÷b×100
a:6日間培養後の検体添加ウェルの平均値−培養開始時の検体未添加ウェルの平均値
b:6日間培養後の培地添加ウェルの平均値−培養開始時の検体未添加ウェルの平均値
またGI50値は次式で算出した。
GI50(nM)=antilog((50−f)×(LOG10(d)−LOG10(c))÷(f−e)+LOG10(d))
c:検体濃度c
d:検体濃度d
e:検体濃度cにおける細胞増殖阻害率
f:検体濃度dにおける細胞増殖阻害率
c、dは細胞増殖阻害率50%を挟む2点でc>d。
【0287】
抗体−薬物コンジュゲート(4)及び(8)は、TROP2抗原陽性細胞株であるBxPC3、NCI−H292、NIH:OVCAR−3、CFPAC−1、FaDu、Calu−3、CaOV3に対して、GI50<1(nM)の抗細胞効果を示した。一方、TROP2抗原陰性細胞株であるCalu−6,A375に対しては抗細胞効果を示さなかった(>100(nM))。
【配列表フリーテキスト】
【0288】
配列番号1:TINA1抗体の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列配列番号2:TINA1抗体の重鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号3:TINA1抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列配列番号4:TINA1抗体の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号5:ヒトκ鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列配列番号6:ヒト重鎖分泌シグナル及びヒトIgG1定常領域をコードするヌクレオチド配列
配列番号7:cTINA1抗体重鎖のヌクレオチド配列
配列番号8:cTINA1抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号9:cTINA1抗体軽鎖のヌクレオチド配列
配列番号10:cTINA1抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号11:hTINA1−H1のヌクレオチド配列
配列番号12:hTINA1−H1のアミノ酸配列
配列番号13:hTINA1−H2のヌクレオチド配列
配列番号14:hTINA1−H2のアミノ酸配列
配列番号15:hTINA1−H3のヌクレオチド配列
配列番号16:hTINA1−H3のアミノ酸配列
配列番号17:hTINA1−L1のヌクレオチド配列
配列番号18:hTINA1−L1のアミノ酸配列
配列番号19:hTINA1−L2のヌクレオチド配列
配列番号20:hTINA1−L2のアミノ酸配列
配列番号21:hTINA1−L3のヌクレオチド配列
配列番号22:hTINA1−L3のアミノ酸配列
配列番号23:TINA1抗体のCDRH1のアミノ酸配列
配列番号24:TINA1抗体のCDRH2のアミノ酸配列
配列番号25:TINA1抗体のCDRH3のアミノ酸配列
配列番号26:TINA1抗体のCDRL1のアミノ酸配列
配列番号27:TINA1抗体のCDRL2のアミノ酸配列
配列番号28:TINA1抗体のCDRL3のアミノ酸配列
配列番号29:hRS7抗体重鎖のヌクレオチド配列
配列番号30:hRS7抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号31:hRS7抗体軽鎖のヌクレオチド配列
配列番号32:hRS7抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号33:プライマー mG2aVR2
配列番号34:プライマー mKVR2
配列番号35:プライマー 3.3−F1
配列番号36:プライマー 3.3−R1
配列番号37:プライマー TINA1H−F
配列番号38:プライマー TINA1H−R
配列番号39:プライマー TINA1L−F
配列番号40:プライマー TINA1L−R
配列番号41:プライマー EG−Inf−F
配列番号42:プライマー EG1−Inf−R
配列番号43:プライマー CM−LKF
配列番号44:プライマー KCL−Inf−R
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]