特許第6832908号(P6832908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ビー・ケミカル株式会社の特許一覧

特許6832908カチオン電着塗料組成物及び硬化電着塗膜の形成方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832908
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物及び硬化電着塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20210215BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20210215BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20210215BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210215BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D5/44 A
   C09D7/63
   C09D5/02
   B05D1/18
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-236635(P2018-236635)
(22)【出願日】2018年12月18日
(65)【公開番号】特開2020-97686(P2020-97686A)
(43)【公開日】2020年6月25日
【審査請求日】2020年10月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】小谷 誠之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐子
(72)【発明者】
【氏名】古谷 康幸
(72)【発明者】
【氏名】小幡 桂悟
(72)【発明者】
【氏名】筒井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】新井 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 浩美
【審査官】 川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−140489(JP,A)
【文献】 特開2018−178082(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/101103(WO,A1)
【文献】 特開平08−151543(JP,A)
【文献】 特開昭63−042397(JP,A)
【文献】 特開平06−346008(JP,A)
【文献】 特開2010−083933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/00
B05D 1/18
C25D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SP値が10.5を超え、15.0以下であるシリコーン化合物(A)と、
塗膜形成樹脂(B)と、を含み、
前記塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、前記シリコーン化合物(A)を0.01質量部以上4.5質量部以下で含み、
前記シリコーン化合物(A)が、ポリエーテル変性シリコーン化合物である、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記シリコーン化合物(A)の前記SP値が12.0以上15.0以下である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、前記シリコーン化合物(A)を0.04質量部以上4.5質量部以下で含む、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記シリコーン化合物(A)が、水系溶媒中に溶解又は分散可能である、請求項1からのいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
一般式(1)
(化1)
{R−(OA)ni−}mQ (1)
(ただし、一般式(1)において、Qは非還元性の二又は三糖類のm個の1級水酸基から水素原子を除いた反応残基、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、Rは炭素数1〜3のアルキル基、炭素数3のアルケニル基及び/又は水素原子を表し、m個のR及びm個の(OA)niは同じでも異なっていてもよく、niは0〜100の整数、mは2〜4の整数、iは1〜mの整数を表し、m個のniは同じでも異なってもよいが少なくとも1個は1以上であり、OAの総数(Σni×m)は20〜100である。)
で表されるポリオキシアルキレン化合物を必須成分としてなることを特徴とする界面活性剤を含まない、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物に、被塗物を浸漬し、電着塗装を行い、未硬化の電着塗膜を形成すること、及び
前記未硬化の電着塗膜を加熱硬化させて、被塗物上に硬化電着塗膜を形成することを含む、硬化電着塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カチオン電着塗料組成物及び硬化電着塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料組成物に対して、汚染物質の混入によるハジキ発生が、問題となっている。
【0003】
特許文献1は、顔料分散用樹脂、セルロース、体質顔料及び水を含有する、電着塗料用顔料分散ペーストを開示する。特許文献1によると、所定の体質顔料を、所定量含むことにより、耐ハジキ性の向上を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−092293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、カチオン電着塗料組成物は、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜外観を共に備えることが要求されている。しかし、特許文献1に係る発明は、ハジキ防止性(耐ハジキ性ともいう)の向上を目指すため、塗膜平滑性が劣り、塗装ムラが生じる等、塗膜外観が劣るおそれがある。
また、特許文献1においては、所定の構造を有するゲル化微粒子重合体を用い、ハジキ防止性の向上を試みている。しかし、特許文献1に記載のゲル化微粒子重合体は、粒子内架橋することにより形成された重合体であるため、塗膜平滑性の低下等、塗膜外観の悪化が生じ得る。
【0006】
このように、カチオン電着塗料組成物は、一般的に、ハジキ防止性を向上させると、塗膜平滑性が劣り、塗装ムラが生じる等、塗膜外観が劣る傾向がある。これに対して、良好な塗膜平滑性、塗装ムラが生じない等、良好な塗膜外観を得るためには、ハジキ防止性が劣る傾向がある。
したがって、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜平滑性及び塗装ムラが生じない等、良好な塗膜外観とはトレードオフの関係にあり、良好なハジキ防止性と、前記のような良好な塗膜外観とを両立して導くことができるカチオン電着塗料組成物が要求されている。
【0007】
上記問題を鑑み、本開示は、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜平滑性及び塗装ムラが生じない等、良好な塗膜外観とを両立して導くことができるカチオン電着塗料組成物を提供することを目的とする。また、本開示は、所定のカチオン電着塗料組成物を用いる硬化電着塗膜の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示は下記態様を提供する。
[1]本開示のカチオン電着塗料組成物は、SP値が10.5を超え、15.0以下であるシリコーン化合物(A)と、
塗膜形成樹脂(B)と、を含み、
塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、シリコーン化合物(A)を0.01質量部以上4.5質量部以下で含む。
[2]ある態様において、カチオン電着塗料組成物は、シリコーン化合物(A)のSP値が12.0以上15.0以下である。
[3]ある態様において、カチオン電着塗料組成物は、シリコーン化合物(A)が、ポリエーテル変性シリコーン化合物(A−1)、ポリエステル変性シリコーン化合物(A−2)及びポリアクリル変性シリコーン化合物(A−3)からなる群から選択される少なくとも1つである。
[4]ある態様において、カチオン電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、前記シリコーン化合物(A)を0.04質量部以上4.5質量部以下で含む。
[5]ある態様において、カチオン電着塗料組成物は、シリコーン化合物(A)が、水系溶媒中に溶解又は分散可能である。
[6]本開示は、別の態様において、上記カチオン電着塗料組成物に、被塗物を浸漬し、電着塗装を行い、未硬化の電着塗膜を形成すること、及び
未硬化の電着塗膜を加熱硬化させて、被塗物上に硬化電着塗膜を形成することを含む、硬化電着塗膜の形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るカチオン電着塗料組成物は、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜外観とを共に備える塗膜を形成できる。さらに、硬化電着塗膜の形成方法によると、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜外観とを共に備える硬化電着塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係るカチオン電着塗料組成物を完成するに至った経緯を説明する。
例えば、カチオン電着塗料組成物を用いて塗膜形成を行う場合、被塗物である鋼板等に残存し得る油分に起因する塗膜のハジキ、塗装設備、乾燥炉内等に存在し得る油分に起因する塗膜のハジキが生じ得る。
【0011】
例えば、ハジキを防止するために、主成分にアクリル系樹脂を含むハジキ防止剤が使用されている。このようなハジキ防止剤を含む電着塗料組成物から電着塗膜を形成した後、更に上塗り塗料組成物等の塗料組成物を塗装し、上塗り塗膜等を形成することがある。
【0012】
ところで、電着塗膜の上に塗装される塗料組成物、例えば、上塗り塗料組成物は常に改良されており、様々な成分を含み得る。このため、電着塗料組成物は、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜外観を共に備えることに加えて、電着塗膜に対して塗装される、新規な塗料組成物から形成された塗膜との密着性を向上させることも要求されている。
しかし、アクリル系樹脂のハジキ防止剤を含む電着塗料組成物を用いた場合、依然として、ハジキ防止性と密着性の向上が必要である。
【0013】
さらに、溶剤の使用量を低減し環境に対する負荷を低減することも、必要である。
【0014】
本発明者らは、上記従来技術の有する問題を解決すべく、鋭意研究したところ、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜平滑性及び塗装ムラが生じない等、良好な塗膜外観とを共に備える塗膜を形成でき、更に、種々の塗料組成物等に対しても良好な密着性を示すことができる本発明を完成させた。
【0015】
(カチオン電着塗料組成物)
本開示に係るカチオン電着塗料組成物は、
SP値が10.5を超え、15.0以下であるシリコーン化合物(A)と、
塗膜形成樹脂(B)と、を含み、
前記塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、前記シリコーン化合物(A)を0.01質量部以上4.5質量部以下で含む。
以下に、各組成について説明する。
【0016】
(シリコーン化合物(A))
本開示に係るシリコーン化合物(A)は、SP値が10.5を超え、SP値が15.0以下である。また、本開示に係るカチオン電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、シリコーン化合物(A)を0.01質量部以上4.5質量部以下で含む。
本開示の電着塗料組成物は、このような所定のシリコーン化合物を所定量含むことにより、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜平滑性及び塗装ムラが生じない等、良好な塗膜外観を共に備える塗膜を形成できる。さらに、良好な塗料安定性、例えば、良好な濾過性、ブツ発生の抑制等を示すことができる。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、本開示に係る特定のシリコーン化合物(A)を特定量含むことにより、本開示のカチオン電着塗料組成物は、水系で安定して存在でき、良好な塗料安定性有するものと考えられる。
【0017】
より詳細には、本開示の電着塗料組成物は、所定のシリコーン化合物(A)を所定量含むことにより、例えば、後述する突沸油ハジキ評価及び混入油ハジキ評価で示されるような、油分が存在するメカニズムが異なる場合であっても、良好なハジキ防止性を示すことができる。
したがって、例えば、間接炉、乾燥炉など乾燥、硬化工程等で用いられる装置由来の油分、すなわち、塗装後、硬化前に混入し得る油分に対しても良好なハジキ防止性を示すことができる。例えば、塗装後、硬化前に混入し得る油分は、焼き付け温度付近などの高温の状態で混入される場合がある。
更に、塗料組成物に油分が混在する場合、被塗物に油分が残存し得るような条件で塗膜を形成しても、良好なハジキ防止性を示すことができる。
【0018】
その上、得られる電着塗膜は良好な外観を示すことができ、例えば、ブツ(小さな突起様の不純物)の発生も抑制できる。更に、均一塗膜表面を有し、塗装ムラが生じない等、良好な塗膜外観を有することもできる。
また、本開示の電着塗料組成物は、良好な塗料安定性、例えば、水系での安定性を有する。その上、カチオン塗料組成物の製造に際し、本開示に係るシリコーン化合物(A)であれば、溶剤による希釈を行なうことなく、水系溶媒に分散できるので、環境に対する負荷も低減できる。
さらに、本開示のカチオン電着塗料組成物から形成した電着塗膜上に、既知の塗料組成物、例えば、上塗り塗料組成物を塗装し、硬化させると、電着塗膜と上塗り塗膜とは、良好な密着性を示すことができる。
このような効果は、後述する数値範囲であっても奏することができる。
【0019】
本開示に係るシリコーン化合物(A)は、SP値が10.5を超え、SP値が15.0以下である。ある態様において、シリコーン化合物(A)は、SP値が11.0以上15.0以下であり、例えば、SP値は12.0以上15.0以下である。別の態様において、シリコーン化合物(A)は、SP値が12.3以上であり、15.0未満であり、例えば、SP値は12.5以上15.0未満である。
シリコーン化合物(A)のSP値がこのような範囲内であることにより、得られた塗膜の外観を損ねず、油分の侵入経路が様々な条件であっても、良好なハジキ防止性を有する。
更に、例えば、上塗り塗膜等とも良好な密着性を示すことができる。
また、シリコーン化合物(A)のSP値がこのような範囲内であることにより、耐ハジキ性を良好に確保でき、その上、本開示に係る所定の組成を有する塗料組成物は、塗料安定性を示すことができる。
その上、本発明のカチオン電着塗料組成物は、所定のSP値を有するシリコーン化合物(A)を含むので、水系での安定性にも優れる。また、良好な濾過性を有し、ブツ発生を抑制できる。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、シリコーン化合物(A)のSP値がこのような範囲内であることにより、塗料安定性を損ねることなく、良好なハジキ防止性と外観を高位に両立できるものと考えられる。
【0020】
SP値とは、solubility parameter(溶解性パラメーター)の略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0021】
例えば、SP値は次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。
【0022】
サンプルとして、有機溶剤0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを、ホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解したものを使用する。このサンプルに対して測定温度20℃で、50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。貧溶媒は、高SP貧溶媒としてイオン交換水を用い、低SP貧溶媒としてn−ヘキサンを使用して、それぞれ濁点測定を行う。有機溶剤のSP値δは下記計算式によって与えられる。
δ=(Vml1/2δml+Vmh1/2δmh)/(Vml1/2+Vmh1/2
=V/(φ+φ
δ=φδ+φδ
Vi:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0023】
なお、シリコーン化合物(A)が、複数種のシリコーン化合物(A)を含む場合、シリコーン化合物(A)のSP値は、各化合物のSP値を用いて、シリコーン化合物(A)成分中における固形分質量比を元に平均値を算出することによって、求めることができる。
【0024】
本開示に係るカチオン電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、シリコーン化合物(A)を0.01質量部以上4.5質量部以下で含む。ある態様において、カチオン電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、シリコーン化合物(A)を0.04質量部以上4.5質量部以下で含み、例えば、0.04質量部以上4.0質量部以下で含む。
ある態様において、カチオン電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部に対して、シリコーン化合物(A)を0.04質量部以上、3.0質量部以下で含み、例えば、0.04質量部以上2.5質量部以下、ある態様では、0.05質量部以上2.0質量部以下で含む。
【0025】
シリコーン化合物(A)の量がこのような範囲内であることにより、得られた塗膜の外観を損ねず、混入油ハジキ評価、突沸油ハジキ評価などで起こり得る、メカニズムの異なる種々のハジキに対しても、良好なハジキ防止性を有する。更に、例えば、上塗り塗膜等、種々の塗膜とも良好な密着性を示すことができる。
その上、本発明のカチオン電着塗料組成物は、水系での安定性にも優れ、良好な濾過性を有し、ブツ発生を抑制できる。
【0026】
本明細書において、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量は、電着塗装後の硬化反応によって塗膜を形成する樹脂成分の固形分質量の総量を意味する。
例えば、塗膜形成樹脂(B)が複数種の樹脂を含む場合、塗膜形成樹脂(B)に含まれる樹脂固形分100質量部とは、硬化後に塗膜を形成する複数種の樹脂固形分の合計が100質量部であることを意味する。
ある態様において、塗膜形成樹脂(B)がアミン化樹脂(B−1)及び硬化剤(B−2)を含む場合、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部とは、アミン化樹脂(B−1)の樹脂固形分及び硬化剤(B−2)の樹脂固形分の合計が100質量部であることを意味する。
【0027】
例えば、本開示に係る特定のシリコーン化合物(A)は、水系溶媒中に溶解又は分散可能である。ある態様において、本開示に係る特定のシリコーン化合物(A)は、単体で水に容易に分散することができる。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、本開示に係る特定のシリコーン化合物(A)は、所定のSP値を有するので、水系で安定して存在でき、水系溶媒中に溶解又は分散可能であり、単体で水に容易に分散することができるものと考えられる。
なお、本明細書において、シリコーン化合物(A)が水系溶媒中に溶解又は分散可能であるとは、本開示に係るシリコーン化合物(A)を、本開示で示される所定量で、常温にて、水系溶媒と混合した場合、容易に溶解又は均一に分散できることを意味する。また、単体で水に容易に分散するとは、分散剤、界面活性剤などを用いなくても、シリコーン化合物(A)が、常温で、水系溶媒に均一に分散できることを意味する。
【0028】
シリコーン化合物(A)がこのような性質を有することにより、良好な塗料安定性を有することができ、例えば、水系での安定性を有する。その上、カチオン塗料組成物の製造に際し、シリコーン化合物(A)を、溶剤による希釈を行なうことなく、水系溶媒に分散できるので、環境に対する負荷も低減できる。
【0029】
ある態様において、シリコーン化合物(A)は、ポリシロキサンを主骨格に有する。例えば、ポリシロキサンは、分子中にSi原子を3〜20個有し、例えば、3〜10個有する。ある態様においてシリコーン化合物(A)は、ポリジメチルシロキサンを主骨格に有する。
【0030】
ある態様において、シリコーン化合物(A)は、ポリエーテル変性シリコーン化合物(A−1)、ポリエステル変性シリコーン化合物(A−2)及びポリアクリル変性シリコーン化合物(A−3)からなる群から選択される少なくとも1つである。本開示のカチオン電着塗料組成物は、これら変性シリコーン化合物を単独で含んでもよく、組合せて含んでもよい。
このようなシリコーン化合物(A)を含むことにより、本開示のカチオン電着塗料組成物は、より良好なハジキ防止性と、より良好な塗膜外観とを共に備えることができ、その上、より良好な塗料安定性を示すことができる。
【0031】
ある態様において、シリコーン化合物(A)は、ポリエーテル変性シリコーン化合物(A−1)と、ポリエステル変性シリコーン化合物(A−2)及びポリアクリル変性シリコーン化合物(A−3)から選択される少なくとも1種とを含む。
シリコーン化合物(A)は、このような組合せを含むことにより、より安定な水和性を備えることができる。
また、このようなシリコーン化合物(A)を有する、本開示のカチオン電着塗料組成物は、優れたハジキ防止性を有することができる。また、より良好な、塗料の安定性を示すことができる。更に、本開示のカチオン電着塗料組成物から形成した電着塗膜と、上塗り塗膜等との密着性をより良好にできる。
【0032】
ポリエーテル変性シリコーン化合物(A−1)として、ポリシロキサンの末端および/または側鎖に、ポリエーテル鎖が導入された化合物等が挙げられる。例えば、ポリシロキサンにポリエーテル鎖以外の置換基を更に有してもよい。
ある態様において、ポリエーテル変性シリコーン化合物(A−1)は、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサン等の側鎖に、ポリエーテル鎖が導入された化合物である。
ポリエーテル変性シリコーン化合物(A−1)を含むことで、本開示のカチオン電着塗料組成物は、より優れたハジキ防止性、より優れた塗膜外観、例えば、良好な塗膜平滑性及び塗装ムラが生じない等の効果を示すことができる。また、より良好な、塗料の安定性を示すことができる。
更に、本開示のカチオン電着塗料組成物から形成した電着塗膜と、上塗り塗膜等との密着性をより良好にできる。
【0033】
ポリエステル変性シリコーン化合物(A−2)として、ポリシロキサンの末端および/または側鎖に、ポリエステル鎖が導入された化合物等が挙げられる。例えば、ポリシロキサンにポリエステル鎖以外の置換基を更に有してもよい。
ある態様において、ポリエステル変性シリコーン化合物(A−2)は、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサン等の側鎖に、ポリエステル鎖が導入された化合物である。
ポリエステル変性シリコーン化合物(A−2)を含むことで、本開示のカチオン電着塗料組成物は、より優れたハジキ防止性、塗膜外観を示すことができる。また、より良好な、塗料の安定性を示すことができる。更に、本開示のカチオン電着塗料組成物から形成した電着塗膜と、上塗り塗膜等との密着性をより良好にできる。
【0034】
ポリアクリル変性シリコーン化合物(A−3)として、ポリシロキサンの末端および/または側鎖に、ポリアクリル鎖が導入された化合物等が挙げられる。例えば、ポリシロキサンにポリアクリル鎖以外の置換基を更に有してもよい。
ある態様において、ポリアクリル変性シリコーン化合物(A−3)は、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサン等の側鎖に、ポリアクリル鎖が導入された化合物である。
ポリアクリル変性シリコーン化合物(A−3)を含むことで、本開示のカチオン電着塗料組成物は、より優れたハジキ防止性、塗膜外観を示すことができる。また、より良好な、塗料の安定性を示すことができる。更に、本開示のカチオン電着塗料組成物から形成した電着塗膜と、上塗り塗膜等との密着性をより良好にできる。
【0035】
(塗膜形成樹脂(B))
本開示に係る塗膜形成樹脂(B)は、特に限定されず、カチオン電着塗料組成物において一般的に用いられる、塗膜形成樹脂(B)を含み得る。例えば、塗膜形成樹脂(B)は、アミン化樹脂(B−1)及び硬化剤(B−2)を含む。
【0036】
ある態様において、塗膜形成樹脂(B)がアミン化樹脂(B−1)及び硬化剤(B−2)を含む場合、塗膜形成樹脂(B)の樹脂固形分100質量部とは、これらの樹脂固形分の合計が100質量部であることを意味する。また、この例の他に、塗膜形成樹脂(B)が複数種の樹脂を含む場合、塗膜形成樹脂(B)に含まれる樹脂固形分の100質量部とは、複数種の樹脂固形分の合計が100質量部であることを意味する。
【0037】
(アミン化樹脂(B−1))
アミン化樹脂(B−1)は、電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂(B)に含まれる。
アミン化樹脂(B−1)として、エポキシ樹脂骨格中のオキシラン環を、アミン化合物で変性して得られるアミン変性エポキシ樹脂であってよい。一般に、アミン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を、1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩などのアミン化合物との反応によって開環して調製される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基をメタノール、エタノールなどの低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって調製することができる。
例えば、耐チッピング性を有するために、アミン化樹脂(B−1)を選択してもよい。
【0038】
上記出発原料樹脂は、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸などにより鎖延長して用いることができる。
【0039】
また、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良などを目的として、一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物またはオクチル酸などのモノカルボン酸化合物を付加して用いることもできる。
【0040】
上記エポキシ樹脂のオキシラン環とアミン化合物とを反応させることによって、アミン変性エポキシ樹脂が得られる。オキシラン環と反応させるアミン化合物として、1級アミンおよび2級アミンが挙げられる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。さらに、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンを用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。例えば、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。なお、オキシラン環と反応させるアミンとして、必要に応じて、3級アミンを併用してもよい。
【0041】
1級アミン、2級アミン、3級アミンとして、上述のものを用いることができる。また、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンの具体例として、例えば、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどが挙げられる。また、必要に応じて用いてもよい3級アミンの具体例として、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどが挙げられる。これらのアミン類は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記エポキシ樹脂のオキシラン環と反応させるアミン化合物は、2級アミンが50〜95質量%、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンが0〜30質量%、1級アミンが0〜20質量%の量範囲で含むものが好ましい。
【0043】
アミン化樹脂(B−1)の数平均分子量は、1,000〜5,000の範囲であるのが好ましい。数平均分子量が1,000以上であることにより、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が良好となる。一方で、数平均分子量が5,000以下であることにより、アミン化樹脂(B−1)の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、また、得られたアミン化樹脂(B−1)の乳化分散の取扱いが容易になる。アミン化樹脂(B−1)の数平均分子量は2,000〜3,500の範囲であるのがより好ましい。
本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0044】
アミン化樹脂(B−1)のアミン価は、20〜100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。アミン化樹脂(B−1)のアミン価が20mgKOH/g以上であることにより、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(B−1)の乳化分散安定性が良好となる。一方で、アミン価が100mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中のアミノ基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがなくなる。アミン化樹脂(B−1)のアミン価は、20〜80mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0045】
アミン化樹脂(B−1)の水酸基価は、150〜650mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。水酸基価が150mgKOH/g以上であることにより、硬化電着塗膜において硬化が良好となり、塗膜外観も向上する。一方で、水酸基価が650mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがなくなる。アミン化樹脂(B−1)の水酸基価は、180〜300mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0046】
本発明の電着塗料組成物において、数平均分子量が1,000〜5,000の範囲内であり、アミン価が20〜100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が150〜650mgKOH/gであるアミン化樹脂(B−1)を用いることによって、被塗物により優れた耐食性を付与することができる。
【0047】
アミン化樹脂(B−1)としては、必要に応じて、アミン価および/または水酸基価の異なるアミン化樹脂(B−1)を併用してもよい。2種以上の異なるアミン価、水酸基価のアミン化樹脂(B−1)を併用する場合は、使用するアミン化樹脂(B−1)の質量比に基づいて算出する平均アミン価および平均水酸基価が、上記の数値範囲であるのが好ましい。また、併用するアミン化樹脂(B−1)としては、アミン価が20〜50mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50〜300mgKOH/gであるアミン化樹脂(B−1)と、アミン価が50〜200mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が200〜500mgKOH/gであるアミン化樹脂(B−1)との併用が好ましい。このような組合せを用いると、エマルションのコア部がより疎水となりシェル部が親水となるため優れた耐食性を付与することができるという利点がある。
【0048】
アミン化樹脂(B−1)は、例えば、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂等を含んでもよい。
【0049】
(硬化剤(B−2))
本開示に係る塗膜形成樹脂(B)は、硬化剤(B−2)を含み得る。硬化剤(B−2)は、加熱条件下においてアミン化樹脂(B−1)と硬化反応し、塗膜を形成する。硬化剤(B−2)として、メラミン樹脂またはブロックイソシアネート硬化剤が好適に用いられる。硬化剤(B−2)として好適に用いることができるブロックイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートを、封止剤でブロック化することによって調製することができる。
【0050】
ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレットおよび/またはイソシアヌレート変性物など);が挙げられる。
【0051】
封止剤の例としては、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0052】
ブロックイソシアネート硬化剤のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好になるという利点がある。
【0053】
ブロックイソシアネート硬化剤は、脂肪族ジイソシアネートを封止剤でブロック化することによって調製された硬化剤と、芳香族ジイソシアネートを封止剤でブロック化することによって調製された硬化剤とを併用することが好ましい。
【0054】
ブロックイソシアネート硬化剤は、アミン化樹脂(B−1)の1級アミンと優先的に反応し、さらに水酸基と反応して硬化する。
【0055】
メラミン樹脂として、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られる部分または完全メチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をアルコール成分で部分的にまたは完全にエーテル化して得られる部分または完全アルキルエーテル型メラミン樹脂、イミノ基含有型メラミン樹脂、及びこれらの混合型メラミン樹脂が挙げられる。ここで、アルキルエーテル型メラミン樹脂としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合アルキル型メラミン樹脂などが挙げられる。
【0056】
硬化剤(B−2)としては、メラミン樹脂またはフェノール樹脂などの有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を、ブロックイソシアネート硬化剤と併用してもよい。
【0057】
本開示に係るカチオン電着塗料組成物の調製において、例えば、アミン化樹脂(B−1)および硬化剤(B−2)それぞれを、有機溶媒中に溶解させて、溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和することにより、樹脂エマルションを調製するのが好ましい。
中和酸として、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。本開示においては、例えば、アミン化樹脂(B−1)および硬化剤(B−2)を含む樹脂エマルションを、ギ酸、酢酸および乳酸からなる群から選択される1種またはそれ以上の酸によって中和するのがより好ましい。
【0058】
中和酸は、アミン化樹脂(B−1)が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率として、10〜100%となる量で用いるのがより好ましく、20〜70%となる量で用いるのがさらに好ましい。本明細書において、アミン化樹脂(B−1)が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率を、中和率とする。中和率が10%以上であることにより、水への親和性が確保され、水分散性が良好となる。
【0059】
硬化剤(B−2)の含有量は、硬化時にアミン化樹脂(B−1)中の、1級アミノ基、2級アミノ基または水酸基などの活性水素含有官能基と反応して、良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましい硬化剤(B−2)の含有量は、アミン化樹脂(B−1)と硬化剤(B−2)との固形分質量比(アミン化樹脂(B−1)/硬化剤(B−2))で表して90/10〜50/50、より好ましくは80/20〜65/35の範囲である。アミン化樹脂(B−1)と硬化剤(B−2)との固形分質量比の調整により、造膜時の塗膜(析出膜)の流動性および硬化速度が改良され、塗装外観が向上する。
【0060】
(顔料分散ペースト)
本開示に係るカチオン電着塗料組成物は、必要に応じて顔料分散ペーストを含んでもよい。顔料分散ペーストは、一般に顔料分散樹脂および顔料を含む。
【0061】
(顔料分散樹脂)
顔料分散樹脂は、顔料を分散させるための樹脂であり、例えば、水性媒体中に分散されて使用される。顔料分散樹脂として、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミン基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂を用いることができる。水性溶媒としてはイオン交換水または少量のアルコール類を含む水などを用いることができる。
【0062】
(顔料)
顔料は、電着塗料組成物において一般的に用いられる顔料である。顔料として、例えば、通常使用される無機顔料および有機顔料、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料など、が挙げられる。
【0063】
(その他の添加剤)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられている添加剤
を更に含み得る。ただし、本発明のカチオン電着塗料組成物、特に、本開示に係る所定のシリコーン化合物(A)の有する効果を損なわない範囲で、添加剤は含まれる。
添加剤は、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなどの有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、公知のはじき防止剤、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩などの無機防錆剤等、を必要に応じて含んでもよい。また、これら以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などを配合してもよい。これらの添加剤は、樹脂エマルション製造の際の第2混合時に添加されてもよいし、顔料分散ペーストの製造時に添加されてもよいし、または樹脂エマルションと顔料分散ペーストとの混合時または混合後に添加されてもよい。
【0064】
(電着塗装および硬化電着塗膜の形成方法)
本開示は、別の態様において、本開示に係る所定のカチオン電着塗料組成物に、被塗物を浸漬し、電着塗装を行い、未硬化の電着塗膜を形成すること、及び
未硬化の電着塗膜を加熱硬化させて、被塗物上に硬化電着塗膜を形成することを含む、硬化電着塗膜の形成方法を提供する。
このように、本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて、被塗物に対し電着塗装および硬化電着塗膜の形成を行うことができる。
【0065】
本開示の硬化電着塗膜の形成方法によると、特定のシリコーン化合物を特定量含む本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて、被塗物に対し電着塗装し、および硬化電着塗膜を形成するので、良好なハジキ防止性を示すと共に、良好な塗膜平滑性及び塗装ムラが生じない等、良好な塗膜外観を備える塗膜を形成できる。
また、油分が存在するメカニズムが異なる場合であっても、良好なハジキ防止性を示す塗膜を形成できる。
したがって、本開示の硬化電着塗膜の形成方法によると、例えば、間接炉、乾燥炉など乾燥、硬化工程等で用いられる装置由来の油分、すなわち、塗装後、硬化前に混入し得る油分に対しても良好なハジキ防止性を示す塗膜を形成できる。更に、例えば、塗装後、硬化前に混入し得る油分は、焼き付け温度付近などの高温の状態で混入される場合があり、このような油分に対しても良好なハジキ防止性を示す塗膜を形成できる。
また、本開示の硬化電着塗膜の形成方法によると、塗料組成物に油分が混在する場合、被塗物に油分が残存し得るような条件で塗膜を形成しても、良好なハジキ防止性を示す塗膜を形成できる。
その上、本開示の硬化電着塗膜の形成方法によると、用いるカチオン電着塗料組成物は、良好な塗料安定性、例えば、水系での安定性を有する。また、本開示に係る特定のシリコーン化合物(A)であれば、溶剤による希釈を行なうことなく、水系溶媒に分散できるので、環境に対する負荷も低減できる。
【0066】
本開示のカチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装において、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬し、この被塗物を陰極とし、陽極との間に、電圧を印加する(電着塗装工程)。これにより、電着塗膜(未硬化の電着塗膜)が被塗物上に析出する。
電着塗装工程において、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、50〜450Vの電圧を印加することによって、電着塗装が行われる。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0067】
電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜5分とすることができる。
【0068】
電着塗膜の膜厚は、加熱硬化により最終的に得られる硬化電着塗膜の膜厚が好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜25μmとなるような膜厚とする。電着塗膜の膜厚が5μm未満であると、耐食性が劣るおそれがある。一方40μmを超えると、塗料組成物の浪費につながる。
【0069】
上述のようにして得られる電着塗膜(未硬化の電着塗膜)を、電着過程の終了後、そのまま、または水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間加熱することによって、加熱硬化した硬化電着塗膜が形成される。
【0070】
ある態様において、本開示の塗料組成物であれば、加熱硬化した電着塗膜の算術平均粗さ(Ra(2.5))、すなわち、2.5mm以上の波長をカットした(Ra)が、0.1以上0.3以下の塗膜を形成でき、例えば、0.15以上0.25以下の塗膜を形成できる。本開示の塗料組成物であれば、算術平均粗さ(Ra(2.5))がこのような範囲内である塗膜を形成でき、良好な平滑性を有し、優れた外観を有する塗膜を形成できる。例えば、算術平均粗さ(Ra)は、JIS−B0601に準拠して測定できる。
【0071】
(被塗物)
本発明の電着塗料組成物を塗装する被塗物としては、通電可能な種々の被塗物を用いることができる。使用できる被塗物として例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛−鉄合金系めっき鋼板、亜鉛−マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板などが挙げられる。
これら被塗物は、既知の化成処理などを施した被塗物であってもよい。
【実施例】
【0072】
以下の実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0073】
実施例及び比較例において、シリコーン化合物1〜4として、以下のものを使用した。
シリコーン化合物1:TEGOWet265 Evonik製
(SP値=12.7、ポリエーテル変性シリコーン化合物)
シリコーン化合物2:TEGOWet260 Evonik製
(SP値=14.8、ポリエーテル変性シリコーン化合物)
シリコーン化合物3:KF-949 信越化学製
(SP値=10.0、ポリエーテル変性シリコーン化合物)
シリコーン化合物4:TEGOWet KL260 Evonik製
(SP値=15.3、ポリエーテル変性シリコーン化合物)
【0074】
製造例1 顔料分散樹脂の製造
2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネートの調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、メチルイソブチルケトン(MIBK)39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を撹拌下、乾燥窒素雰囲気で2時間かけて滴下し、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(固形分90.0質量%)を得た。
【0075】
4級化剤の調製
反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノn−ブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で30分撹拌して4級化剤を調製した。
【0076】
顔料分散樹脂の製造
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:DER−331J、ダウケミカル社製)710.0部とビスフェノールA289.6部とを反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃で1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間撹拌し、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、目的とする、4級アンモニウム基を有するエポキシ樹脂(顔料分散樹脂)を得た(固形分50質量%)。
【0077】
製造例2−1 アミン化樹脂(B−1−1)の製造
メチルイソブチルケトン92部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA382部、オクチル酸63部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を140℃に保持し、エポキシ当量が1110g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が120℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73質量%のメチルイソブチルケトン溶液)78部とジエタノールアミン92部の混合物を添加し、120℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂)を得た。この樹脂の数平均分子量は2,560、アミン価は50mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は14mgKOH/g)、水酸基価は240mgKOH/gであった。
【0078】
製造例3−1 ブロックイソシアネート硬化剤(B−2−1)の製造
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1680部およびMIBK732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、トリメチロールプロパン346部をMEKオキシム1067部に溶解させたものを60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK27部を加えて固形分が78質量%のブロックイソシアネート硬化剤(B−2−1)を得た。イソシアネート基価は252mgKOH/gであった。
【0079】
製造例3−2 ブロックイソシアネート硬化剤(B−2−2)の製造
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート1340部およびMIBK277部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK349部を加えてブロックイソシアネート硬化剤(B−2−2)を得た(固形分80質量%)。イソシアネート基価は251mgKOH/gであった。
【0080】
製造例4−1 樹脂エマルション1の製造
製造例2−1で得られたアミン化樹脂(B−1−1)350部(固形分)と、製造例3−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(B−2−1)75部(固形分)および製造例3−2で得られたブロックイソシアネート硬化剤(B−2−2)75部(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15部)になるように添加した。次に、ギ酸を添加量が樹脂中和率40%相当分になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が40%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、樹脂エマルション1(塗膜形成樹脂1)、を得た。
【0081】
(実施例1)
イオン交換水110.1部に、製造例1で得られた顔料分散樹脂を56.7質量部加え、室温で1時間、1000rpmにて撹拌した。その後、顔料であるカーボンブラック8部、サテントン(焼成カオリン)86.6部を加え、次いで、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌し、固形分濃度47質量%の顔料ペーストを得た。
ステンレス容器に、イオン交換水1997部、製造例4−1の樹脂エマルション1 1539部および上記で調製した顔料ペースト436部、シリコーン化合物1を0.05質量部(樹脂エマルションの樹脂固形分100質量部に対する量)を加えて混合し、40℃で16時間エージングして、カチオン電着塗料組成物を調製した。
【0082】
(実施例2〜4)
シリコーン化合物1を、表1で示す量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。
【0083】
(実施例5〜8)
シリコーン化合物1に代わり、シリコーン化合物2を用い、表1で示す量でシリコーン化合物2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。
【0084】
(比較例1〜8)
比較例1〜4は、表1で示すシリコーン化合物を用い、表2記載の量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。
比較例5及び6は、ハジキ防止剤として、メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルからなるアクリル樹脂(SP=11.5)を、表2に記載の量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。なお、表2において、シリコーン化合物量を記載した項目は、樹脂エマルションの樹脂固形分100質量部に対するアクリル樹脂(固形分)の量である。
【0085】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0086】
硬化電着塗膜の形成
冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次にサーフファインGL1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)に常温30秒浸漬し、次いでサーフダインEC3200(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、ジルコニウム化成処理剤)に35℃で2分間浸漬した。その後、脱イオン水による水洗を行った。
上記で得られたカチオン電着塗料組成物に、硬化後の電着塗膜の膜厚が20μmとなるように2−エチルヘキシルグリコールを必要量添加した。
その後、電着塗料組成物に鋼板を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始し、30秒間昇圧し180Vに達してから150秒間保持する条件で電圧を印加して、被塗物(冷延鋼板)上に未硬化の電着塗膜を析出させた。得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で15分間加熱硬化させて、膜厚20μmの硬化電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
【0087】
ハジキ防止性の評価(突沸油ハジキ性)
上記被塗物(冷延鋼板)上に未硬化の電着塗膜を析出させた未硬化塗膜上に、アルミニウム製の小容器を配置し、その容器内に水と潤滑油とを入れて未硬化塗膜を160℃で15分焼きつけ硬化させた。その他の電着条件は、上記外観評価で作成した硬化電着塗膜の形成と同一である。
この焼き付け時において小容器内の油が電着塗膜上に飛散する。そしてこの油飛散がハジキの原因となり得る(突沸油ハジキ)。また、突沸油ハジキ性の評価は、カチオン電着塗料組成物の塗装後におけるハジキ防止性を評価することが想定されている。
【0088】
上記条件で加熱硬化された硬化電着塗膜の状態を目視し、以下の基準で評価した。
【0089】
◎ ハジキ個数が3個以下
○ ハジキ個数が4個以上10個以下
○△ ハジキ個数が11個以上15個以下
△ ハジキ個数が16個以上30個以下
× ハジキ個数が30個以上
【0090】
ハジキ防止性の評価(混入油ハジキ性)
油分として、10%−ブチルセロソルブ溶液を調整した。
10Lの電着塗料組成物中に、上記溶液を、油分が50ppmとなるよう混入し、500rpmで24時間撹拌した。
鋼板をL型に折り曲げたL型鋼板のうち、少なくとも水平部(長さ5cm)が電着塗料組成物に浸かるよう、L型鋼板を配置した。このとき、L型鋼板の水平部が電着塗料組成物の液面と水平になり、L型鋼板の垂直部が塗料組成物の液面と垂直になるようにL型鋼板を配置した。L型鋼板において、乾燥塗膜が20μmとなるように電着し、未硬化塗膜を形成した。
得られた未硬化塗膜を、160℃で15分焼きつけ硬化させた。その他の電着条件は、上記外観評価で作成した硬化電着塗膜の形成と同一である。混入油ハジキ性の評価は、カチオン電着塗料組成物の塗装前及び塗装時におけるハジキ防止性を評価することが想定されている。
L型鋼板の水平部の下面における塗膜表面を目視観察し、ハジキ数をカウントして、以下の評価基準に従って評価した。
【0091】
◎ ハジキ無し
○ ハジキ個数が3個以下
○△ ハジキ個数が4個以上10個以下
△ ハジキ個数が11個以上15個以下
× ハジキ個数が16個以上
【0092】
外観評価(目視評価)
上記電着塗装板により得られた電着塗膜を有する電着塗装板について、塗膜外観における異常の有無を目視で評価した。評価基準は以下の通りとした。
評価基準
○ 均一な塗膜外観を有している;
○△ ややムラがあると視認される部分があるものの、全体としてほぼ均一な塗膜外観を有している;
△ 塗膜外観が不均一である
× 塗膜外観が極めて不均一である。
【0093】
外観評価(Ra(2.5))
SJ−210 (Mitytoyo 製)を用いて、塗膜表面の算術平均粗さ(Ra(2.5))(2.5mm以上の波長を除去)を測定した。塗膜の厚さは20μmとし、測定を5回行い、その平均をとった。
測定条件は、カットオフ波長2.5mm以上、走査速度0.5mm/秒とした。
【0094】
電着塗料組成物の保存安定性(塗料安定性)
実施例1〜8及び比較例1〜6で得られた電着塗料組成物を、40℃で1ヶ月間保管した。保管後の塗料組成物の濾過性を、以下の基準で判断し、電着塗料組成物の保存安定性を評価した。この試験においては、濾過性の評価が「○」のものを保存安定性が高いと判断する。
○ 508メッシュ(NBCメッシュテック社製:N−NO.508S、オープニング
:20μm)を塗料組成物が容易に通過する
△ 508メッシュの通過にやや時間を有するものの、製造作業上は問題ない
× 508メッシュを通過できず、製造作業上において問題となる
【0095】
分散性評価
99gのイオン交換水に、1gのシリコーン化合物を加え、23℃、1000rpmの速度で1時間撹拌した。撹拌後、室温で24時間静置し、系の状態を観察した。評価基準は、以下のとおりである。
◎:濁りなし
○:白濁しているものの、相分離せず、均一に分散している
△:白濁しており、一部相分離が観察された
×:完全に相分離した
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
このように、本開示の塗料組成物は、突沸油ハジキ及び混入油ハジキのように、油が存在(混入)するメカニズムが異なる場合であっても、良好なハジキ防止性を示すことができる。したがって、例えば、間接炉、乾燥炉など塗装工程で用いられる装置由来の油分に対しても良好なハジキ防止性を示すことができ、さらに、仮に、塗料組成物に油分が混在しても良好なハジキ防止性を示すことができる。
また、塗料組成物の水(水系溶媒)への分散性も良好であり、環境に対する負荷も低減できる。
その上、得られる電着塗膜は良好な外観を示すことができる。また、本開示の電着塗料組成物は、良好な塗料安定性、例えば、水系での安定性を有するので、廃棄を抑制でき、環境に対する負荷も低減できる。
さらに、本開示のカチオン電着塗料組成物から形成した電着塗膜上に、既知の塗料組成物、例えば、上塗り塗料組成物を塗装し、硬化させると、電着塗膜と上塗り塗膜とは、良好な密着性を示すことができた。
【0099】
一方、比較例1及び2は、シリコーン化合物のSP値が本発明の範囲内である。しかし、樹脂固形分100質量部に対するシリコーン化合物の量は、本発明の範囲外である。このようなシリコーン化合物は、外観が著しく劣ることが分かる。よって、塗膜外観が極めて不均一となり、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜外観の両立ができなかった。
比較例3は、シリコーン化合物のSP値が本発明の範囲外であるため、塗料安定性が悪く、作業性が悪かった。また、水(水系溶媒)に対する分散性が不十分であった。
比較例4は、シリコーン化合物のSP値が本発明の範囲外であるため、ハジキ防止性能が不十分であり、良好なハジキ防止性と、良好な外観を両立できなかった。
比較例5および6は、本発明に係るシリコーン化合物を、SP値が本発明の範囲内であるアクリル樹脂に置き換え、その量を本発明の範囲に調整した比較例である。しかし、いずれの比較例も、ハジキ防止性、良好な外観および塗料安定性をバランスよく有することはできなかった。むしろ、これらの効果が劣る傾向にある。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示に係るカチオン電着塗料組成物は、良好なハジキ防止性と、良好な塗膜外観を両立して備えるカチオン電着塗膜を形成できる。更に、本開示に係るカチオン電着塗料組成物は、良好な塗料安定性を示すことができる。