特許第6832938号(P6832938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6832938硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832938
(24)【登録日】2021年2月4日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20210215BHJP
   C08F 290/14 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C08J3/20 DCEZ
   C08F290/14
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-538023(P2018-538023)
(86)(22)【出願日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2017019602
(87)【国際公開番号】WO2018047417
(87)【国際公開日】20180315
【審査請求日】2020年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-177032(P2016-177032)
(32)【優先日】2016年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 葵
(72)【発明者】
【氏名】山下 千佳
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 友徳
(72)【発明者】
【氏名】大竹 裕美
【審査官】 河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/104195(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/104196(WO,A1)
【文献】 特開2016−028129(JP,A)
【文献】 特開2015−117375(JP,A)
【文献】 特開平05−043630(JP,A)
【文献】 特開平03−243606(JP,A)
【文献】 特開平03−199215(JP,A)
【文献】 特開平03−162406(JP,A)
【文献】 特開平01−156367(JP,A)
【文献】 特開2013−231102(JP,A)
【文献】 特開平02−269716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28
99/00
C08F283/01
290/00−290/14
299/00−299/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に少なくとも2つのフェノール骨格を有し、かつ分子内のフェノール骨格を形成する芳香環の一部又は全部に式(1)で表される2−アルケニル基が結合しているポリアルケニルフェノール化合物を含む(A)ポリアルケニルフェノール樹脂、及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物を含む硬化性樹脂混合物の製造方法であって、
前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物を融点以上に加熱して溶融させ、前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物が再結晶化しない温度範囲内で、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物と前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を混合することを特徴とする硬化性樹脂混合物の製造方法。
【化1】
(式(1)において、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。式(1)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)
【請求項2】
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を溶融させた状態で、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物と混合することを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を溶融させた状態で、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物へ添加し混合することを含む請求項1又は2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂が式(2)−1及び式(2)−2に示す構造単位を有するポリアルケニルフェノール化合物を含み、式(2)−1に示す構造単位の一分子あたりの平均数をm、式(2)−2に示す構造単位の一分子あたりの平均数をnとしたときに、mは1.1〜35の実数、m+nは1.1〜35の実数、nは式:m/(m+n)の値が0.4〜1となる実数である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【化2】
(式(2)−1及び式(2)−2において、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に式(1)で表される2−アルケニル基を表す。R及びRは各フェノール骨格単位で同じでもよく異なっていてもよい。Qはそれぞれ独立に式−CR−で表されるアルキレン基、炭素数5〜10のシクロアルキレン基、芳香環を有する二価の有機基、脂環式縮合環を有する二価の有機基、又はこれらを組み合わせた二価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)
【請求項5】
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂の数平均分子量が300〜5000である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物がビスマレイミド化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物100質量部に対して前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を40〜150質量部混合することを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂と前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物を加熱せずに混合して得られる混合物の数平均分子量をMn、前記硬化性樹脂混合物の数平均分子量をMn’としたときに、式:X=(Mn’/Mn)−1で表される数平均分子量変化Xが0〜2.0の範囲となるように、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物と前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を混合することを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法において、前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物の混合時にさらに(C)添加剤を混合することを含む、硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法で製造した硬化性樹脂混合物に(C)添加剤を混合することを含む硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記(C)添加剤が充填材を含む請求項又は10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記(C)添加剤が硬化促進剤を含む請求項又は10のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルケニルフェノール樹脂及び芳香族ポリマレイミド化合物を含む硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物の製造方法、並びにそれらの方法を用いて得られる硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高い耐熱性を有する硬化性樹脂として、マレイミド樹脂が知られている。マレイミド樹脂のみを硬化させた場合、その剛直な骨格により架橋点密度が大きくなるため硬くて脆い硬化物となる。そのため、マレイミド樹脂とジアミン、フェノールなどの硬化剤を組み合わせて硬化物とする手法が一般的である。硬化剤としてポリアルケニルフェノール化合物を用いると、ポリアルケニルフェノール化合物のアルケニル基とマレイミド樹脂の不飽和基が互いにラジカル重合し高度に架橋するため、硬化物の脆性を改善できることが知られている。
【0003】
多くのマレイミド樹脂に含まれる芳香族ポリマレイミド化合物はπ−πスタック構造を取るため結晶性が高く一般に高融点を有する。芳香族ポリマレイミド化合物をポリアルケニルフェノール化合物と混合した場合、芳香族ポリマレイミド化合物の結晶構造を崩して均一に分散することが困難であるため、これらの化合物が十分に相溶した混合物を得られない場合があった。
【0004】
高温条件において一度芳香族ポリマレイミド化合物を融解して一時的に結晶構造を破壊するという手法も可能であるが、芳香族ポリマレイミド化合物は反応性が高く自己重合が進行しやすいため、しばしば凝集し不溶な高分子量化合物に変化してしまう。そのため、結晶性の高い芳香族ポリマレイミド化合物とポリアルケニルフェノール化合物とをこれらの重合を抑制しつつ均一に分散することが望まれている。
【0005】
特許文献1には、芳香族ビスマレイミド化合物とアルケニルフェノール化合物を反応容器中で分散及び反応させて重合物を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−242471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1ではモノマー型のアルケニルフェノール化合物と芳香族ビスマレイミドの樹脂混合物の製造方法が記載されているに過ぎず、より高分子量のポリアルケニルフェノール樹脂については何らの言及もなかった。
【0008】
上述の現状に鑑みて、本発明の目的は、高結晶性及び高融点の芳香族ポリマレイミド化合物とポリアルケニルフェノール樹脂とを含んでおり流動性及び反応性に優れた硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、芳香族ポリマレイミド化合物を溶融させた後に、溶融した芳香族ポリマレイミド化合物とポリアルケニルフェノール樹脂を混合することにより重合が抑制された樹脂混合物が得られることを見出した。さらに、その樹脂混合物を用いることで、流れ性及び反応効率が優れた樹脂組成物を得られることを見出した。すなわち、本発明は以下の実施態様を含む。
[1]
分子内に少なくとも2つのフェノール骨格を有し、かつ分子内のフェノール骨格を形成する芳香環の一部又は全部に式(1)で表される2−アルケニル基が結合しているポリアルケニルフェノール化合物を含む(A)ポリアルケニルフェノール樹脂、及び(B)芳香族ポリマレイミド化合物を含む硬化性樹脂混合物の製造方法であって、
前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物を融点以上に加熱して溶融させ、前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物が再結晶化しない温度範囲内で、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物と前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を混合することを特徴とする硬化性樹脂混合物の製造方法。
【化1】
(式(1)において、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。式(1)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)
[2]
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を溶融させた状態で、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物と混合することを含む[1]に記載の製造方法。
[3]
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を溶融させた状態で、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物へ添加し混合することを含む[1]又は[2]のいずれかに記載の製造方法。
[4]
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂が式(2)−1及び式(2)−2に示す構造単位を有するポリアルケニルフェノール化合物を含み、式(2)−1に示す構造単位の一分子あたりの平均数をm、式(2)−2に示す構造単位の一分子あたりの平均数をnとしたときに、mは1.1〜35の実数、m+nは1.1〜35の実数、nは式:m/(m+n)の値が0.4〜1となる実数である、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
【化2】
(式(2)−1及び式(2)−2において、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に式(1)で表される2−アルケニル基を表す。R及びRは各フェノール骨格単位で同じでもよく異なっていてもよい。Qはそれぞれ独立に式−CR−で表されるアルキレン基、炭素数5〜10のシクロアルキレン基、芳香環を有する二価の有機基、脂環式縮合環を有する二価の有機基、又はこれらを組み合わせた二価の有機基を表し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)
[5]
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂の数平均分子量が300〜5000である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物がビスマレイミド化合物である、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物100質量部に対して前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を40〜150質量部混合することを含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂と前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物を加熱せずに混合して得られる混合物の数平均分子量をMn、前記硬化性樹脂混合物の数平均分子量をMn’としたときに、式:X=(Mn’/Mn)−1で表される数平均分子量変化Xが0〜2.0の範囲となるように、溶融した前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物と前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を混合することを含む、[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法で得られる硬化性樹脂混合物。
[10]
[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法において、前記(A)ポリアルケニルフェノール樹脂及び前記(B)芳香族ポリマレイミド化合物の混合時にさらに(C)添加剤を混合することを含む、硬化性樹脂組成物の製造方法。
[11]
[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法で製造した硬化性樹脂混合物に(C)添加剤を混合することを含む硬化性樹脂組成物の製造方法。
[12]
前記(C)添加剤が充填材を含む[10]又は[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]
前記(C)添加剤が硬化促進剤を含む[10]又は[11]のいずれかに記載の製造方法。
[14]
[10]〜[13]のいずれかに記載の製造方法で得られる硬化性樹脂組成物。
[15]
[9]に記載の硬化性樹脂混合物又は[14]に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により流れ性及び反応性に優れた硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物を得ることができる。良好な流れ性は、例えば、硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物のスパイラルフローの結果から、優れた反応性は、例えば硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物の硬化物のショアD硬度、曲げ強度、及びTgの値からそれぞれ確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明では、(B)芳香族ポリマレイミド化合物を融点以上に加熱して溶融させ、(B)芳香族ポリマレイミド化合物が再結晶化しない温度範囲内で、溶融した(B)芳香族ポリマレイミド化合物と(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を混合することにより、硬化性樹脂混合物を製造する。(A)ポリアルケニルフェノール樹脂を溶融させた状態で、溶融した(B)芳香族ポリマレイミド化合物と混合してもよい。硬化性樹脂混合物の製造時又は製造後に(C)添加剤を混合し、硬化性樹脂組成物を製造することもできる。硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物を例えば加熱することで硬化物を作製することもできる。ここで、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂はポリマーを含むため、(B)芳香族ポリマレイミド化合物と混合したときに混合方法により硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物中で様々なコンフォメーションを取り得るが、その特定は困難である。また、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物を硬化したときも、各成分が複雑に反応し合い種々の最終構造を形成するため、硬化物中におけるそれらの最終構造を特定することは困難である。
【0012】
(1)硬化性樹脂混合物の製造方法
(A)ポリアルケニルフェノール樹脂
ポリアルケニルフェノール樹脂は、分子内に少なくとも2つのフェノール骨格を有し、かつ分子内のフェノール骨格を形成する芳香環の一部又は全部に式(1)で表される2−アルケニル基が結合しているポリアルケニルフェノール化合物を含む樹脂である。
【0013】
【化3】
【0014】
式(1)において、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。式(1)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。
【0015】
式(1)におけるR、R、R、R及びRを構成する炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができる。炭素数5〜10のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等を挙げることができる。炭素数6〜12のアリール基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。式(1)で表される2−アルケニル基はアリル基、すなわちR、R、R、R及びRが全て水素原子であることが好ましい。
【0016】
ポリアルケニルフェノール樹脂を構成する化合物の基本骨格としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール樹脂、フェノール−ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等の公知のフェノール樹脂の骨格が挙げられる。ポリアルケニルフェノール樹脂において、フェノール骨格を形成する全芳香環のうち40〜100%、60〜100%、又は80〜100%の芳香環に2−アルケニル基が結合されていることが好ましい。中でも下記式(2)−1及び式(2)−2に示す構造単位を有するポリアルケニルフェノール化合物を含むポリアルケニルフェノール樹脂を好ましく使用することができる。
【0017】
【化4】
【0018】
式(2)−1及び式(2)−2に示す構造単位は、ポリアルケニルフェノール樹脂に含まれるポリアルケニルフェノール化合物を構成するフェノール骨格単位であり、これらのフェノール骨格単位の結合順序は特に限定されない。式(2)において、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基であり、Rはそれぞれ独立に式(1)で表される2−アルケニル基である。R及びRは各フェノール骨格単位で同じでもよく異なっていてもよい。Qはそれぞれ独立に式−CR−で表されるアルキレン基、炭素数5〜10のシクロアルキレン基、芳香環を有する二価の有機基、脂環式縮合環を有する二価の有機基、又はこれらを組み合わせた二価の有機基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基である。式(2)−1に示す構造単位の一分子あたりの平均数をm、式(2)−2に示す構造単位の一分子あたりの平均数をnとしたときに、mは1.1〜35の実数、m+nは1.1〜35の実数、nは式:m/(m+n)の値が0.4〜1となる実数である。
【0019】
を構成する炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができる。炭素数1〜5のアルコキシ基の具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基等が挙げられる。
【0020】
Qを構成する炭素数5〜10のシクロアルキレン基の具体例としてはシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、メチルシクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基等を挙げることができる。芳香環を有する二価の有機基の具体例として、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレニレン基、アントラニレン基、キシリレン基、4,4−メチレンジフェニル基等を挙げることができる。芳香環を有する二価の有機基の炭素数は6〜20又は6〜14とすることができる。脂環式縮合環を有する二価の有機基の具体例として、ジシクロペンタジエニレン基等を挙げることができる。脂環式縮合環を有する二価の有機基の炭素数は7〜20又は7〜10とすることができる。R及びRにおいて、炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができ、炭素数2〜6のアルケニル基の具体例としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等を挙げることができ、炭素数5〜10のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等を挙げることができ、炭素数6〜12のアリール基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることできる。Qがジシクロペンタジエニレン基、フェニレン基、メチルフェニレン基及びビフェニレン基であることが、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物としたときに硬化物の機械強度が高い点で好ましい。ポリアルケニルフェノール樹脂の粘度が低く芳香族ポリマレイミド化合物との混合に有利であることから、Qが−CH−であることが好ましい。
【0021】
mは1.1〜35の実数であり、好ましくは2〜30の実数であり、より好ましくは3〜10の実数である。mが1.1以上であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の硬化物を高温環境に置いたときの熱分解開始温度が適切であり、35以下であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の粘度が成形時の加工に好適な範囲となる。
【0022】
m+nは1.1〜35の実数であり、好ましくは2〜30の実数であり、より好ましくは3〜10の実数である。m+nが1.1以上であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の硬化物を高温環境に置いたときの熱分解開始温度が適切であり、35以下であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の粘度が成形時の加工に好適な範囲となる。
【0023】
nは、式:m/(m+n)の値が0.4〜1となる実数であり、好ましくは式:m/(m+n)の値が0.6〜1となる実数であり、より好ましくは式:m/(m+n)の値が0.8〜1となる実数である。式:m/(m+n)の値が1となる場合、nは0である。すなわち、この実施態様ではポリアルケニルフェノール化合物は式(2)−1に示す構造単位からなる。nが上記条件を満たす値であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の硬化性を用途に応じて十分なものとすることができる。
【0024】
ポリアルケニルフェノール樹脂の好ましい数平均分子量は300〜5000であり、より好ましくは400〜4000であり、さらに好ましくは500〜3000である。数平均分子量が300以上であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の硬化物を高温環境に置いたとき熱分解開始温度が適切であり、5000以下であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の粘度が成形時の加工に好適な範囲となる。
【0025】
(B)芳香族ポリマレイミド化合物
芳香族ポリマレイミド化合物とは、マレイミド基を2つ以上有し、これらのマレイミド基が同一又は異なる芳香環に結合しているものを意味する。芳香環として、ベンゼン等の単環、ナフタレン、アントラセン等の縮合環などが挙げられる。芳香族ポリマレイミド化合物の具体例としては、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン(4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド)等のビスマレイミド、トリス(4−マレイミドフェニル)メタン等のトリスマレイミド、ビス(3,4−ジマレイミドフェニル)メタン等のテトラキスマレイミド及びポリ(4−マレイミドスチレン)等のポリマレイミドが挙げられる。硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物中で良好に混合することから、芳香族ポリマレイミド化合物はビスマレイミド化合物であることが好ましい。ビスマレイミド化合物の具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス(3−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−プロピル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジプロピル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−ブチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジブチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−マレイミド−5−メチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−マレイミドフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェニルオキシ)フェニル]プロパン(ビスフェノールA−ジフェニルエーテルビスマレイミド)、ビス(4−マレイミドフェニル)エーテル、ビス(3−マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4−マレイミドフェニル)ケトン、ビス(3−マレイミドフェニル)ケトン、ビス(4−マレイミドフェニル)スルホン、ビス(3−マレイミドフェニル)スルホン、ビス[4−(4−マレイミドフェニルオキシ)フェニル]スルホン、ビス(4−マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(3−マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(4−マレイミドフェニル)スルホキシド、ビス(3−マレイミドフェニル)スルホキシド、1,4−ビス(4−マレイミドフェニル)シクロヘキサン、1,4−ジマレイミドナフタレン、2,3−ジマレイミドナフタレン、1,5−ジマレイミドナフタレン、1,8−ジマレイミドナフタレン、2,6−ジマレイミドナフタレン、2,7−ジマレイミドナフタレン、4,4’−ジマレイミドビフェニル、3,3’−ジマレイミドビフェニル、3,4’−ジマレイミドビフェニル、2,5−ジマレイミド−1,3−キシレン、2,7−ジマレイミドフルオレン、9,9−ビス(4−マレイミドフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−マレイミド−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−マレイミドフェニル)フルオレン、3,7−ジマレイミド−2−メトキシフルオレン、9,10−ジマレイミドフェナントレン、1,2−ジマレイミドアントラキノン、1,5−ジマレイミドアントラキノン、2,6−ジマレイミドアントラキノン、1,2−ジマレイミドベンゼン、1,3−ジマレイミドベンゼン、1,4−ジマレイミドベンゼン、1,4−ビス(4−マレイミドフェニル)ベンゼン、2−メチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、2,3−ジメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、2,5−ジメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、2,6−ジメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、4−エチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、5−エチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、4,6−ジメチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、2,4,6−トリメチル−1,3−ジマレイミドベンゼン、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−ジマレイミドベンゼン、4−メチル−1,3−ジマレイミドベンゼン等が挙げられる。市販品としては例えば、BMI(商品名、大和化成工業(株)製)シリーズ等が挙げられる。
【0026】
(B)芳香族ポリマレイミド化合物を100質量部としたとき、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂の配合量は30〜200質量部とすることが好ましく、40〜150質量部とすることがより好ましく、50〜130質量部であることがさらに好ましい。上記配合量が30質量部以上であれば硬化物の弾性率などの機械特性が適切な範囲であり、硬化物は十分な強度をもつ。一方、上記配合量が200質量部以下であれば硬化物の耐熱性及び機械強度が良好である。
【0027】
本発明ではポリアルケニルフェノール樹脂との混合前に芳香族ポリマレイミド化合物を溶融させる。芳香族ポリマレイミド化合物はその融点以上に加熱することで溶融させることができるが、加熱温度は重合が進行しない温度範囲である。具体的には、芳香族ポリマレイミド化合物の融点をT℃とすると、好ましくはT℃から(T+50)℃の温度範囲、より好ましくはT℃から(T+30℃)の温度範囲、さらに好ましくはT℃から(T+20)℃の温度範囲で芳香族ポリマレイミド化合物を溶融させる。T℃以上であれば、芳香族ポリマレイミド化合物が十分に溶融し、その後の混合工程で均一に分散した硬化性樹脂混合物を得ることができる。T+50℃以下であれば自己重合によるゲル化を抑制することができる。
【0028】
本発明では、芳香族ポリマレイミド化合物を融点以上に加熱して溶融させ、芳香族ポリマレイミド化合物が再結晶化しない温度範囲内でポリアルケニルフェノール樹脂を混合する。芳香族ポリマレイミド化合物が再結晶化しない温度範囲とは、芳香族ポリマレイミド化合物の融点未満であり、かつ加熱溶融により一旦透明となった芳香族ポリマレイミド化合物の温度を下げても芳香族ポリマレイミド化合物から粒状物が析出してこない温度範囲をいう。このことにより、芳香族ポリマレイミド化合物の重合をより効果的に抑制しつつ、芳香族ポリマレイミド化合物とポリアルケニルフェノール樹脂を十分に混合することができる。例えば、BMI−4000(大和化成工業株式会社)の場合は融点が165℃であり、したがって溶融後に130℃以上165℃未満に降温してから混合することができる。130℃以上であれば降温しても再結晶の発生を十分に避けることができ、透明の液状物のまま混合することができる。
【0029】
使用する混合方法、ポリアルケニルフェノール樹脂の分子量などによっては、ポリアルケニルフェノール樹脂を溶融させた状態で、溶融した芳香族ポリマレイミド化合物と混合してもよい。このことによりポリアルケニルフェノール樹脂と芳香族ポリマレイミド化合物をより均一に分散混合することができる。この実施態様において、芳香族ポリマレイミドを溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂へ添加し混合してもよく、溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂を芳香族ポリマレイミドへ添加し混合してもよい。溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂を芳香族ポリマレイミドへ添加し混合することが好ましい。ポリアルケニルフェノール樹脂を溶融させるための加熱温度は、ポリアルケニルフェノール樹脂の融点以上、芳香族ポリマレイミド化合物の重合が進行しない温度範囲であることが望ましい。ポリアルケニルフェノール樹脂は完全に溶融しなくてもよく、一部が溶融又は低粘度化した状態で混合することもできる。ポリアルケニルフェノール樹脂が液状である場合はそのまま混合することができる。
【0030】
ポリアルケニルフェノール樹脂と芳香族ポリマレイミド化合物の混合方法は特に限定されない。各成分を所定の配合割合で反応容器、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー、ディスパーなどの混合機に投入し、撹拌又は混練することにより、硬化性樹脂混合物を調製することができる。ラボスケールでは回転式混合機が容易に撹拌条件を変更できるため好ましく、工業的には生産性の観点から二軸ミキサーが好ましい。各混合機は撹拌条件を適宜変更して用いることができる。
【0031】
溶融した芳香族ポリマレイミド化合物とポリアルケニルフェノール樹脂は、ポリアルケニルフェノール樹脂と芳香族ポリマレイミド化合物を加熱せずに混合して得られる混合物の数平均分子量をMn、硬化性樹脂混合物の数平均分子量をMn’としたときに、式:X=(Mn’/Mn)−1で表される数平均分子量変化Xが0〜2.0の範囲となるように混合されることが好ましい。Xはより好ましくは0〜1.5、さらに好ましくは0〜1.0、さらにより好ましくは0〜0.8である。Xが2.0以下であれば、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物の高分子量成分の量が適切であり、硬化性樹脂混合物又は硬化性樹脂組成物は成形時に容易に流動可能である。
【0032】
(2)硬化性樹脂組成物の製造方法
(C)添加剤
硬化性樹脂混合物に、その硬化特性を阻害しない範囲で種々の添加剤を混合することにより硬化性樹脂組成物を調製することができる。添加剤は、ポリアルケニルフェノール樹脂及び芳香族ポリマレイミド化合物の混合時にさらに混合してもよく、ポリアルケニルフェノール樹脂及び芳香族ポリマレイミド化合物を混合して製造された硬化性樹脂混合物に後から混合してもよい。ポリアルケニルフェノール樹脂及び芳香族ポリマレイミド化合物の混合時に添加剤を混合する場合、ポリアルケニルフェノール樹脂又は芳香族ポリマレイミド化合物の再結晶化又はゲル化が抑制されるように添加方法、時間、量などを適宜選択することができる。
【0033】
添加剤としては、例えば(C−1)充填材、(C−2)硬化促進剤等が挙げられる。
【0034】
(C−1)充填材
充填材の種類に特に制限は無く、シリコーンパウダー等の有機充填材、シリカ、窒化ホウ素等の無機充填材などが挙げられ、用途により適宜選択することができる。
【0035】
例えば、硬化性樹脂組成物を半導体封止用途に使用する場合には、硬化物の熱膨張係数を低下させるために絶縁性である無機充填材を配合することが好ましい。無機充填材は特に限定されず、公知のものを使用することができる。無機充填材として、具体的には、非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの粒子が挙げられる。低粘度化の観点からは真球状の非晶質シリカが望ましい。無機充填材は、シランカップリング剤などで表面処理が施されたものであってもよいが、表面処理が施されていなくてもよい。無機充填材の平均粒径は0.1〜20μmが好ましく、最大粒径が50μm以下、特に20μm以下のものがより好ましい。平均粒径がこの範囲にあると硬化性樹脂組成物の粘度が使用時に適切であり、狭ピッチ配線部又は狭ギャップ部への注入性も適切である。ここでいう平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50である。硬化性樹脂組成物の無機充填材の含有量は、用途に応じて適宜決定することができる。例えば、半導体封止用途では、硬化性樹脂組成物の無機充填材の含有量は好ましくは50〜95質量%であり、より好ましくは55〜90質量%であり、さらに好ましくは65〜90質量%である。
【0036】
(C−2)硬化促進剤
硬化促進剤を使用することで硬化を促進することができる。硬化促進剤としては、例えば光ラジカル開始剤、熱ラジカル開始剤等のラジカル開始剤が挙げられる。硬化促進剤は好ましくは熱ラジカル開始剤である。より好ましい熱ラジカル開始剤としては、有機過酸化物を挙げることができる。有機過酸化物の中でも、さらに好ましくは10時間半減期温度が100〜170℃の有機過酸化物である。具体的にはジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等を挙げることができる。硬化促進剤の好ましい使用量は、ポリアルケニルフェノール樹脂及び芳香族ビスマレイミド化合物の総和100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、より好ましくは0.2〜4質量部であり、さらに好ましくは0.5〜3質量部である。硬化促進剤の使用量が0.1質量部以上であれば十分に硬化反応が進行し、5質量部以下であれば硬化性樹脂組成物の保存安定性が良好である。
【0037】
その他の添加剤として、カップリング剤、消泡剤、着色剤、蛍光体、変性剤、レベリング剤、光拡散剤、難燃剤などを使用することも可能である。カップリング剤は接着性付与の観点から配合してもよいが、その構造は特に限定されず、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などが挙げられる。カップリング剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。硬化性樹脂組成物へのカップリング剤の配合量は0.1〜5質量%が好ましい。上記配合量が0.1質量%以上であれば、カップリング剤の配合効果が充分発揮され、5質量%以下であれば、溶融粘度、硬化物の吸湿性、強度が良好である。
【0038】
硬化性樹脂組成物の調製方法は、硬化性樹脂混合物の製造方法と同様に特に限定されない。硬化性樹脂混合物及び添加剤を所定の配合割合でポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー、ディスパー、軸又は二軸(同方向又は異方向)押出機、ニーダーなどの混合機に投入し、混合して調製することができる。硬化性樹脂組成物の粉末化を行う場合は作業工程により発生した熱により樹脂が溶融しない方法であれば特に限定されないが、少量であればメノウ乳鉢を用いるのが簡便である。市販の粉砕機を利用する場合、粉砕に際して発生する熱量が少ないものが混合物の溶融を抑制するために好ましい。粉末の粒径については約1mm以下とすることができる。
【0039】
硬化性樹脂組成物のポリアルケニルフェノール樹脂及び芳香族ビスマレイミド化合物の合計含有量は、例えば5質量%以上、10質量%以上、又は20質量%以上、99.9質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下とすることができる。
【0040】
(3)硬化物の作製方法
硬化性樹脂混合物及び硬化性樹脂組成物は、加熱することにより硬化させることができる。熱硬化条件は、110〜300℃が好ましく、より好ましくは120〜280℃であり、さらに好ましくは130〜250℃である。110℃以上であれば硬化は適切な時間内に十分に進行し、300℃以下であれば成分の劣化又は揮発を防ぐことができ、設備の安全も保たれる。加熱時間は硬化温度にも依存するが、生産性の観点から0.5〜48時間の加熱が好ましい。この加熱は、複数回に分けて行ってもよい。特に高い硬化度を求める場合には、過度に高温で硬化させずに、例えば硬化の進行とともに昇温させて、最終的な硬化温度を250℃以下、好ましくは230℃以下とすることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0042】
実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
[原料]
・ポリアルケニルフェノール樹脂A:フェノールノボラック樹脂ショウノール(登録商標)BRG−558(昭和電工株式会社)を用いフェノール性水酸基のパラ位をアリル化した樹脂(水酸基当量159、数平均分子量Mn1600、重量平均分子量Mw5400、融点55℃)。製造方法は特開2016−28129号公報の実施例3に記載。
・ポリアルケニルフェノール樹脂B:フェノールアラルキル樹脂(HE−100C−12、エア・ウォーター社)を用いフェノール性水酸基のパラ位をアリル化した樹脂(水酸基当量222、数平均分子量Mn950、重量平均分子量Mw1950、融点20℃)。製造方法は特開2016−28129号公報の実施例を参照。
・ビスマレイミド化合物:BMI−4000(ビスフェノールA−ジフェニルエーテルビスマレイミド、融点165℃、大和化成工業株式会社)、BMI−1100H(4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、融点160℃、大和化成工業株式会社)
・重合開始剤:パークミルD(日油株式会社)
・シリカフィラー:MSR2212(球状シリカ、平均粒径25.5μm、株式会社龍森、シランカップリング剤KBM−403(信越化学工業株式会社)0.5質量%を用いて処理)
【0043】
実施例及び比較例で用いた分析方法及び特性評価方法は以下のとおりである。
[分析方法]
・分子量
GPCにより測定する。測定条件は以下のとおりである。
装置名:Shodex(登録商標) GPC−101
カラム:Shodex(登録商標) KF−802、KF−803、KF−805
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/min
検出器:Shodex(登録商標) RI(登録商標)−71
温度:40℃
前記の測定条件で、ポリスチレンの標準物質を使用して作成した検量線を用いて数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwを決定する。
【0044】
・数平均分子量変化Xの算出方法
各実施例又は比較例に記載の量のビスマレイミド化合物及びポリアルケニルフェノール樹脂をそれぞれ秤量してTHFに溶解し、その後混合したものの数平均分子量(Mn)と、各実施例又は比較例に記載した手順で混合した後の硬化性樹脂混合物の数平均分子量(Mn’)をそれぞれGPCにて測定し、数平均分子量変化XをMn’のMnからの増加割合として、式:X=(Mn’/Mn)−1を用いて算出する。数平均分子量はポリアルケニルフェノール樹脂、及び芳香族ポリマレイミド化合物のピークを含む全領域について積算して決定する。
【0045】
・曲げ強度
エー・アンド・デイ社製テンシロン試験機(型式:MSAT0002RTF/RTG)を用いて測定する。試験片形状は長さ750mm×幅10mm×厚さ3mmである。JIS K7171に準拠して、室温にて試験速度2mm/minで3点曲げ試験を5回行い、その平均値を曲げ強度とする。
【0046】
・ガラス転移温度(Tg)
熱機械測定(TMA)により測定する。エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS6100熱機械分析装置を使用し、温度範囲30〜300℃、昇温速度5℃/min、荷重20.0mNの条件で5mm×5mm×5mmの試験片を用いて測定を行ってTgを決定する。
【0047】
・スパイラルフロー
スパイラルフローは、電気機能材料工業会規格EIMS T 901に準拠して測定する。渦巻き状の溝を彫り込んだ試験金型とトランスファー成形機(株式会社松田製作所製)を用いて天板及び金型を180℃に加熱し、圧力100kg/cmにて成形し3分経過後にスパイラルフロー値を測定する。
【0048】
(1)硬化性樹脂混合物の製造
実施例1
BMI−4000 100質量部を反応容器に加え、170℃に加熱して撹拌した。BMI−4000が全て溶融し透明な液状物になったところで、150℃まで降温した。反応容器に、80℃に加熱し溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部を加え、150℃で10分間加熱撹拌して2つの樹脂を混合した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。加熱前の数平均分子量(Mn)は408であり、加熱後の数平均分子量(Mn’)は450であったので、Xは0.1(=450/408−1)であった。
【0049】
実施例2
BMI−4000 100質量部を170℃に加熱した二本ロールに添加した。BMI−4000が全て溶融し、透明な液状物となりロール上に巻きついたところで、150℃まで降温した。そこに、ポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部を加え、150℃で10分間加熱混練して2つの樹脂を混合した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0050】
実施例3
BMI−1100H 100質量部を反応容器に加え、160℃に加熱して撹拌した。BMI−1100Hが全て溶融し透明な液状物になったところで、150℃まで降温した。反応容器に、80℃に加熱し溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部を加え、150℃で10分間加熱撹拌して2つの樹脂を混合した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0051】
実施例4
BMI−4000 100質量部を反応容器に加え、170℃に加熱して撹拌した。BMI−4000が全て溶融し透明な液状物になったところで、150℃まで降温した。反応容器に、80℃に加熱し溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂B 100質量部を加え、150℃で10分間加熱撹拌して2つの樹脂を混合した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0052】
実施例5
BMI−4000 100質量部を反応容器に加え、170℃に加熱して撹拌した。BMI−4000が全て溶融し透明な液状物になったところで、150℃まで降温した。反応容器に、80℃に加熱し溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂A 200質量部を加え、150℃で10分間加熱撹拌して2つの樹脂を混合した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0053】
比較例1
BMI−4000 100質量部とポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部の両方を反応容器に加え、180℃に加熱して撹拌した。2つの樹脂それぞれが溶融したところからさらに180℃で30分間加熱撹拌した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0054】
比較例2
BMI−4000 100質量部とポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部の両方を反応容器に加え、150℃で10分間加熱撹拌した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0055】
比較例3
BMI−4000 100質量部を反応容器に加え、170℃に加熱して撹拌した。BMI−4000が全て溶融し、透明な液状物になったところで、100℃まで降温した。このときにBMI−4000中に結晶を含む粒状物が析出した。反応容器に、80℃に加熱し溶融させたポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部を加え、100℃で10分間加熱撹拌して2つの樹脂を混合した。その後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0056】
比較例4
BMI−4000 100質量部とポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部をミルミキサー(大阪ケミカル株式会社製、型式WB−1)を用いて25℃で2分間粉砕及び混合分散させた後、硬化性樹脂混合物を取り出した。
【0057】
比較例5
BMI−4000 100質量部とポリアルケニルフェノール樹脂A 100質量部の両方を反応容器に加え、170℃で15分加熱撹拌した。反応容器内でゲル化が進行し、硬化性樹脂混合物を取り出すことができなかった。
【0058】
(2)硬化性樹脂組成物の評価
上記のとおり混合して得られた硬化性樹脂混合物及び下記の表1に示す各成分を用い、同表に示す割合で配合し、溶融混練(東洋精機製2本ロール(ロール径8インチ)にて、110℃、10分)を行った。ついで、室温(25℃)にて1時間放冷、固化したのちミルミキサー(大阪ケミカル株式会社製、型式WB−1、25℃、30秒)を用いて粉砕することにより、目的とする粉末状の硬化性樹脂組成物を得た。この硬化性樹脂組成物を用いて、トランスファー成形機(松田製作所製)で、金型温度180℃、成形圧力100kgf/cm、硬化時間180秒の条件で曲げ試験用サンプルを作製した。
【0059】
ショアD硬度の測定は、トランスファー成形機を用いて、成形温度180℃、硬化時間2分経過後に、型開き行った後、ショアD硬度計を用いて試験片のショアD硬度を測定した。
【0060】
硬化性樹脂混合物の組成及び調製条件を表2に示す。硬化性樹脂混合物の数平均分子量変化X、及び硬化性樹脂組成物の特性評価の結果を表3に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表3より、実施例1〜5は混練時にゲル化が抑制され、硬化物も良好な物性値を有した。一方、(A)ポリアルケニルフェノール樹脂と(B)芳香族ポリマレイミド化合物を未溶融の状態で混合し、(B)の融点以上に加熱した比較例1および5は分子量が増加し、高粘度化した。また、(B)芳香族ポリマレイミド化合物が完全に溶融しない状態で(A)ポリアルケニルフェノール樹脂と混合した比較例2〜4はショア硬度、曲げ強度及びTgが総じて低く、硬化反応の効率が十分でないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の方法を用いることにより、加工性、耐湿性、耐熱性及び機械的強度に優れた硬化性樹脂組成物及びそれを用いて得られる電子部品を提供することができる。特にパワーデバイスなどの半導体封止材に用いた場合、成形時に加工性及び速硬化性に優れており、かつ成形後に機械強度及び耐熱性が高い硬化物を封止材として得ることができる。