(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)表示装置が実用化され始めた。有機EL表示装置の特徴の1つにフレキシブルな表示装置が得られる点が挙げられる。有機EL表示装置は、画素ごとに少なくとも1つの有機EL素子(Organic Light Emitting Diode:OLED)と、各OLEDに供給される電流を制御する少なくとも1つのTFT(Thin Film Transistor)とを有する。以下、有機EL表示装置をOLED表示装置と呼ぶことにする。このようにOLEDごとにTFTなどのスイッチング素子を有するOLED表示装置は、アクティブマトリクス型OLED表示装置と呼ばれる。また、TFTおよびOLEDが形成された基板を素子基板ということにする。
【0003】
OLED(特に有機発光層および陰極電極材料)は、水分の影響を受けて劣化しやすく、表示むらを生じやすい。OLEDを水分から保護するとともに、柔軟性を損なわない封止構造を提供する技術として、薄膜封止(Thin Film Encapsulation:TFE)技術が開発されている。薄膜封止技術は、無機バリア層と有機バリア層とを交互に積層することによって、薄膜で十分な水蒸気バリア性(Water Vaper Transmission Rate:WVTR)を得ようとするものである。OLED表示装置の耐湿信頼性の観点から、薄膜封止構造のWVTRとしては、典型的には10
-4g/m
2/day以下が求められている。
【0004】
現在市販されているOLED表示装置に使われている薄膜封止構造は、厚さが約5μm〜約20μmの有機バリア層(高分子バリア層)を有している。このように比較的厚い有機バリア層は、素子基板の表面を平坦化する役割も担っている。しかしながら、有機バリア層が厚いと、OLED表示装置の屈曲性が制限されるという問題がある。
【0005】
また、量産性が低いという問題もある。上述の比較的厚い有機バリア層は、インクジェット法やマイクロジェット法などの印刷技術を用いて形成されている。一方、無機バリア層は、薄膜堆積技術を用いて真空(例えば、1Pa以下)雰囲気で形成されている。印刷技術を用いた有機バリア層の形成は大気中で行われ、無機バリア層の形成は真空中で行われるので、薄膜封止構造を形成する過程で、素子基板を真空チャンバーから出し入れすることになり量産性が低い。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1に開示されているように、無機バリア層と有機バリア層とを連続して製造することが可能な成膜装置が開発されている。
【0007】
また、特許文献2には、第1の無機材料層、第1の樹脂材、および第2の無機材料層を下からこの順で形成する際に、第1の樹脂材を第1の無機材料層の凸部(凸部を被覆した第1の無機材料層)の周囲に偏在させた薄膜封止構造が開示されている。特許文献2によると、第1の無機材料層によって十分に被覆されないおそれのある凸部の周囲に第1の樹脂材を偏在させることによって、その部分からの水分や酸素の侵入が抑制される。また、第1の樹脂材が第2の無機材料層の下地層として機能することで、第2の無機材料層が適正に成膜され、第1の無機材料層の側面を所期の膜厚で適切に被覆することが可能になる。第1の樹脂材は次の様にして形成される。加熱気化させたミスト状の有機材料を、室温以下の温度に維持された素子基板上に供給し、基板上で有機材料が凝縮し、滴状化する。滴状化した有機材料が、毛細管現象または表面張力によって、基板上を移動し、第1の無機材料層の凸部の側面と基板表面との境界部に偏在する。その後、有機材料を硬化させることによって、境界部に第1の樹脂材が形成される。特許文献3にも同様の薄膜封止構造を有するOLED表示装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2または3に記載されている薄膜封止構造は、厚い有機バリア層を有しないので、OLED表示装置の屈曲性は改善されると考えられる。また、無機バリア層と有機バリア層とを連続して形成することが可能なので、量産性も改善される。
【0010】
しかしながら、本発明者の検討によると、量産性の点で改善の余地が残されている。また、耐湿信頼性および/または耐屈曲性の点においても改善の余地が残されている。
【0011】
そこで、本発明は、量産性、耐湿信頼性および/または耐屈曲性が改善された、比較的薄い有機バリア層を有する薄膜封止構造を備える有機EL表示装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある実施形態による有機EL表示装置は、フレキシブル基板上に形成された有機EL素子と、前記有機EL素子上に形成された薄膜封止構造とを有し、前記薄膜封止構造は、第1無機バリア層と、前記無機バリア層に接する有機バリア層と、前記有機バリア層に接する第2無機バリア層とを有し、前記有機バリア層は、少なくとも平坦部上の一部に存在しており、かつ、前記有機バリア層の表面は酸化されている。ここで、「平坦部」とは、薄膜封止構造が形成される有機EL素子の表面の内の平坦な部分で、最も低いものを指す。ただし、有機EL素子の表面にパーティクル(微細なごみ)が付着している部分を除く。
【0013】
ある実施形態において、前記有機バリア層は、平坦部上に開口部を有し、平坦部上に存在している有機バリア層の面積は、前記開口部の面積よりも大きい。すなわち、平坦部上において、前記有機バリア層が存在している部分(「中実部」ということがある。)は、前記開口部の面積よりも大きく、平坦部上の前記有機バリア層(中実部および開口部を含む)の内、中実部の面積は平坦部上の前記アクリル樹脂層の面積の50%以上である。中実部の面積は平坦部上の前記アクリル樹脂層の面積の80%以上であることが好ましく、平坦部上の前記有機バリア層は、開口部を有しないことがさらに好ましい。
【0014】
ある実施形態において、前記平坦部上に存在している有機バリア層の厚さは10nm以上である。
【0015】
ある実施形態において、前記有機バリア層の平坦部上における最大厚さは200nm未満である。
【0016】
ある実施形態において、前記第1および第2無機バリア層は、厚さが200nm以上1000nm以下のSiN層である。前記SiN層は膜応力の絶対値が100MPa以下であることが好ましく、50MPa以下であることがさらに好ましい。前記SiN層の成膜温度は90℃以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の実施形態による有機EL表示装置の製造方法は、上記のいずれかの有機EL表示装置の製造方法であって、前記第1無機バリア層が形成された有機EL素子をチャンバー内に用意する工程と、前記チャンバー内に蒸気または霧状のアクリルモノマーを供給する工程と、前記第1無機バリア層上でアクリルモノマーを凝縮させ、液状の膜を形成する工程と、前記アクリルモノマーの前記液状の膜に紫外線を照射することによって、アクリル樹脂層を形成する工程と、前記アクリル樹脂層を部分的にアッシングすることによって、前記有機バリア層を形成する工程とを包含する。
【0018】
ある実施形態において、平坦部上に形成された前記アクリル樹脂層の50%超が残存するようにアッシングする工程を包含する。アッシングは、N
2O、O
2およびO
3の内の少なくとも1種のガスを用いたプラズマアッシング法で行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によると、量産性および/または耐湿信頼性が改善された、比較的薄い有機バリア層を有する薄膜封止構造を備える有機EL表示装置およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態によるOLED表示装置およびその製造方法を説明する。本発明の実施形態は、例示するものに限定されない。OLED表示装置は、複数の画素を有し、画素ごとに少なくとも1つの有機EL素子(OLED)を有しているが、以下では、簡単のために、1つのOLEDに対応する構造について説明する。
【0022】
図1(a)は本発明の実施形態によるOLED表示装置の模式的な部分断面図である。
【0023】
基板1上に、TFTを含む回路(バックプレーン)2が形成されており、その上に、OLED3が形成されている。OLED3はトップエミッションタイプである。OLED3の上に、本発明の実施形態によるOLED表示装置に特徴的な薄膜封止(TFE)構造10が形成されている。OLED3の最上部は、例えば、上部電極またはキャップ層(屈折率調整層)である。TFE構造10の上には偏光板4が配置されている。
【0024】
基板1は、例えば厚さが15μmのポリイミドフィルムである。TFTを含む回路2の厚さは例えば4μmであり、OLED3の厚さは例えば1μmであり、TFE構造10の厚さは例えば1μm以下である。
【0025】
図1(b)は、OLED3上に形成されたTFE10の部分断面図である。OLED3の直上に第1無機バリア層(例えばSiN層)12が形成されており、第1無機バリア層12の上に有機バリア層(例えばアクリル樹脂層)14が形成されており、有機バリア層14の上に第2無機バリア層(例えばSiN層)16が形成されている。有機バリア層14の表面(第2無機バリア層16側)は、アッシング処理によって、酸化されている。
【0026】
例えば、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16は、例えば厚さが400nmのSiN層であり、有機バリア層14は厚さが100nm未満のアクリル樹脂層である。第1無機バリア層12および第2無機バリア層16の厚さはそれぞれ独立に、200nm以上1000nm以下であり、有機バリア層14の厚さは50nm以上200nm未満である。TFE構造10の厚さは400nm以上2μm未満であることが好ましく、400nm以上1μm未満であることがさらに好ましい。
【0027】
図2は、本発明の実施形態によるOLED表示装置におけるTFE構造10の模式的な部分断面図であり、パーティクルPを含む部分を示している。
図3は、パーティクルPを覆う第1無機バリア層(SiN層)の模式的な断面図である。パーティクルPは、OLED表示装置の製造プロセス中に発生する微細なゴミで、例えば、ガラスの微細な破片、金属の粒子、有機物の粒子である。マスク蒸着法を用いると、特にパーティクルが発生しやすい。
【0028】
図3に示す様に、パーティクル(例えば直径が約1μm以上)Pが存在すると、第1無機バリア層にクラック(欠陥)12cが形成されることがある。これは、
図4に示す断面SEM像から、パーティクルPの表面から成長するSiN層12aと、OLED3の表面の平坦部分から成長するSiN層12bとが衝突(インピンジ)するために生じたと考えられる。このようなクラック12cが存在すると、TFE構造10のバリア性が低下する。なお、
図4のSEM像は、ガラス基板上に、パーティクルPとして、直径が1μmの球状シリカを配置した状態で、SiN膜をプラズマCVD法で堆積した試料の断面SEM像である。断面はパーティクルPの中心を通っていない。また、最表面は断面加工時の保護のためのカーボン層(C−depo)である。このように、直径が1μmの比較的小さな球状のシリカが存在するだけで、SiN層にクラック(欠陥)12cが形成される。
【0029】
実施形態のOLED表示装置におけるTFE構造10では、
図2に示す様に、有機バリア層14cが、第1無機バリア層12のクラック12cを充填するように形成されているので、バリア性を保持することができる。これは、
図5および
図6に示す断面SEM像で確認することができる。
図5および
図6においては、第1無機バリア層12上に第2無機バリア層16が直接形成された箇所には界面は観察されていないが、
図2では分かり易さのために、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とを異なるハッチングで示している。
【0030】
図5に示す断面SEM像は、
図4の断面SEM像と同様に、ガラス基板上に、直径が2.15μmの球状シリカを配置した状態で、成膜した試料の断面SEM像である。また、
図6に示す断面SEM像は、より大きなパーティクルP(直径4.6μmの球状シリカ)をガラス基板上に配置した状態で、成膜した試料の断面SEM像である。
図4の場合と同様に、パーティクルP(直径が2.15μmおよび4.6μmの球状シリカ)を覆うようにSiN膜をプラズマCVD法で堆積した後、有機バリア層14としてアクリル樹脂層を形成し、その後、再び、SiN膜をプラズマCVD法で堆積した試料の断面SEM像である。
図4と比較すれば分かるように、
図5に示す直径が約2倍のパーティクルPのみならず、
図6に示す約5倍大きなパーティクルPであっても、アクリル樹脂層の上に形成されたSiN膜は欠陥の無い緻密な膜であることがわかる。
【0031】
図2に示した有機バリア層14は、後述するように、例えばアクリル樹脂から形成される。特に、室温(例えば25℃)における粘度が、1〜100mPa・s程度のアクリルモノマー(アクリレート)を紫外線硬化することによって形成されたものが好ましい。このように低粘度のアクリルモノマーは、クラック12cに容易に浸透することができる。また、アクリル樹脂は可視光の透過率が高く、トップエミッションタイプのOLED表示装置に好適に用いられる。アクリルモノマーには必要に応じて、光重合開始剤が混合され得る。
【0032】
クラック12cに充填された有機バリア層14cの表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面と、OLED3の表面の平坦部上に形成された有機バリア層14bとの表面を連続的に滑らかに連結する。したがって、パーティクルP上の第1無機バリア層12および有機バリア層14上に形成される第2無機バリア層(SiN層)に欠陥が形成されることなく、緻密な膜が形成される。
【0033】
また、有機バリア層14の表面14sは、アッシング処理によって酸化されており、親水性を有しており、第2無機バリア層16との密着性が高い。
【0034】
有機バリア層14は、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12aの凸状部分を除いて全面に有機バリア層14が残存するように、アッシングすることが好ましいが、有機バリア層14は、OLED3の表面の平坦部の一部に開口部14aを有してもよい。アッシング処理は面内でばらつくので、平坦部に形成された有機バリア層14の一部が完全に除去され、第1無機バリア層12の表面が露出されることがある。この場合でも、有機バリア層14の内、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層(中実部)14bは、開口部14aよりも面積が大きくなるように制御する。すなわち、中実部14bの面積は平坦部上のアクリル樹脂層14の面積の50%超となるように制御する。中実部14bの面積は平坦部上のアクリル樹脂層14の面積の80%以上であることが好ましく、平坦部上の有機バリア層14は、開口部を有しないことがさらに好ましい。平坦部上に存在している有機バリア層の厚さは10nm以上であることが好ましい。
【0035】
本発明者が種々実験したところ、有機バリア層14は平坦部上の全面、すなわち第1無機バリア層12aの凸状部分を除いた全面に形成されていることが好ましく、その厚さは10nm以上であることが好ましい。
【0036】
有機バリア層14が第1無機バリア層12と第2無機バリア層16との間に介在すると、TFE構造10内部での各層間の密着性が高まる。特に、有機バリア層14の表面が酸化されているので、第2無機バリア層16との密着性が高い。その結果、OLED表示装置の耐湿信頼性を向上させることができる。
【0037】
また、平坦部上の有機バリア層14が全面に形成されていると(有機バリア層14が開口部14aを有しないと)、OLED表示装置に外力が掛かったときに、TFE構造10内に生じる応力(またはひずみ)が均一に分散される結果、破壊(特に、第1無機バリア層12および/または第2無機バリア層16の破壊)が抑制される。第1無機バリア層12と第2無機バリア層16と密着してほぼ均一に存在する有機バリア層14は、応力を分散および緩和するように作用すると考えられる。このように有機バリア層14は、OLED表示装置の耐屈曲性を向上させる効果も奏する。ただし、有機バリア層14の厚さが200nm以上になると、かえって耐屈曲性が低下することがあるので、有機バリア層14の厚さは200nm未満であることが好ましい。
【0038】
図7および
図8を参照して、有機バリア層14および第2無機バリア層16の形成工程、特に、アッシング工程を説明する。
図7に有機バリア層14の形成工程を示し、
図8に第2無機バリア層16の形成工程を示す。
【0039】
図7(a)に模式的に示す様にOLED3の表面のパーティクルPを覆う第1無機バリア層12を形成した後、第1無機バリア層12上に有機バリア層14を形成する。有機バリア層14は、例えば、蒸気または霧状のアクリルモノマーを、冷却された素子基板上で凝縮させ、その後、紫外線を照射することによって、アクリルモノマーを硬化させることによって得られる。低粘度のアクリルモノマーを用いることよって、第1無機バリア層12に形成されたクラック12c内にアクリルモノマーを浸透させることができる。なお、
図7(a)では、パーティクルP上の第1無機バリア層12a上に有機バリア層14dが形成されている例を示しているが、パーティクルPの大きさや形状、およびアクリルモノマーの種類に依存するが、アクリルモノマーがパーティクルP上の第1無機バリア層12a上に堆積(または付着)しない、あるいは、極微量しか堆積(または付着)しないことがある。有機バリア層14は、例えば、後述する
図12に示す成膜装置200を用いて形成され得る。当初の有機バリア層14の厚さは平坦部上で100nm以上500nm以下となるように調整される。形成された当初の有機バリア層14の表面14saは滑らかに連続しており、疎水性を帯びている。なお、簡単のために、アッシング前の有機バリア層にも同じ参照符号を付す。
【0040】
次に、
図7(b)に示すように、有機バリア層14をアッシングする。アッシングは、公知のプラズマアッシング装置、光励起アッシング装置、UVオゾンアッシング装置を用いて行い得る。例えば、N
2O、O
2およびO
3の内の少なくとも1種のガスを用いたプラズマアッシング、または、これらにさらに紫外線照射とを組合せて行われ得る。第1および第2無機バリア層としてSiN膜をCVD法で成膜する場合、原料ガスとして、N
2Oを用いるので、N
2Oをアッシングに用いると装置を簡略化できるという利点が得られる。
【0041】
アッシングを行うと、有機バリア層14の表面14sが酸化され、親水性に改質される。また、表面14sがほぼ一様に削られるとともに、極めて微細な凹凸が形成され、表面積が増大する。アッシングを行ったときの表面積増大効果は、無機材料である第1無機バリア層12に対してよりも有機バリア層14の表面に対しての方が大きい。したがって、有機バリア層14の表面14sが親水性に改質されることと、表面14sの表面積が増大することから、第2無機バリア層16との密着性が向上させられる。
【0042】
さらに、アッシングを進めると、
図7(c)に示す様に、有機バリア層14の一部に開口部14aが形成されることがある。
【0043】
さらに、アッシングを進めると、
図7(d)に示す様に、第1無機バリア層12のクラック12cの近傍にだけ有機バリア層14cが残る。有機バリア層14cの表面が、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面と、OLED3の表面の平坦部の表面とを連続的に滑らかに連結している。
【0044】
なお、第1無機バリア層12と有機バリア層14との密着性を改善するために、有機バリア層14を形成する前に、第1無機バリア層12の表面にアッシング処理を施しておいてもよい。
【0045】
次に、
図8を参照して、有機バリア層14上に第2無機バリア層16を形成した後の構造を説明する。
【0046】
図8(a)は、
図7(a)に示した有機バリア層14の表面14saをアッシングすることによって酸化し、親水性を有する表面14sに改質した後に、第2無機バリア層16を形成した構造を模試的に示している。ここでは、有機バリア層14の表面14saをわずかにアッシングした場合を示しており、パーティクルP上の第1無機バリア層12a上に形成された有機バリア層14dも残存している例を示しているが、パーティクルP上の第1無機バリア層12a上には有機バリア層14が形成されない(または残存しない)こともある。
【0047】
図8(a)に示す様に、有機バリア層14上に形成された第2無機バリア層16には欠陥が無く、また、有機バリア層14との密着性にも優れる。
【0048】
図8(b)〜(d)に示す様に、それぞれ
図7(b)〜(d)に示した有機バリア層14上に第2無機バリア層16を形成すると、欠陥が無く、有機バリア層14との密着性に優れた第2無機バリア層16が得られる。OLED3の平坦部上の有機バリア層14が完全に除去されても、有機バリア層14cの表面が、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面と、OLED3の表面の平坦部の表面とを連続的に滑らかに連結していれば、欠陥が無く、有機バリア層14との密着性に優れた第2無機バリア層16が得られる。
【0049】
有機バリア層14は、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12aの凸状部分を除いて全面に有機バリア層14が薄く残存するように、アッシングすることが好ましい。耐湿信頼性および/または耐屈曲性の観点から、上述したように、平坦部上の有機バリア層14の厚さは10nm以上200nm未満であることが好ましい。すなわち、
図8(b)の構造が最も好ましい。しかしながら、アッシング処理は面内でばらつくので、平坦部に形成された有機バリア層14の一部が完全に除去され、第1無機バリア層12の表面が露出されることがある。また、パーティクルPの材質、大きさもばらつくので、全面に有機バリア層14を残存させることができない場合も発生し得る。すなわち、
図8(c)または
図8(d)に示す構造を有する箇所が存在し得る。平坦部に形成された有機バリア層14の一部が完全に除去される場合でも、有機バリア層14の内、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層14bは、開口部14aよりも面積が大きくなるように制御することが好ましい。
【0050】
有機バリア層14をアッシングしすぎると
図9に示す様に、OLED3の平坦部上に形成された有機バリア層14bが完全に除去されるだけでなく、パーティクルPによって形成されたクラック12cに充填された有機バリア層14dが小さくなり、第2無機バリア層16が形成される下地の表面を滑らかな連続的な形状にする作用を有しなくなる。その結果、
図10に示す様に、第2無機バリア層16に欠陥16cが形成され、TFE構造のバリア特性を低下させることになる。たとえ欠陥16cが形成されなくとも、第2無機バリア層16の表面に鋭角な凹部16dが形成されると、その部分に応力が集中しやすく、外力によってクラックが発生しやすい。
【0051】
例えば、
図11に示す凸レンズ状シリカ(直径4.6μm)の右下部(
図11中のOA)では、有機バリア層14がエッチングされ過ぎた結果、第2無機バリア層16の膜厚が部分的に極端に薄くなっている。このような場合、たとえ第2無機バリア層16に欠陥が生じなくても、OLED表示装置の製造プロセスにおいて、または製造後に、TFE構造10に外力が掛かった際に、第2無機バリア層16にクラックが生じるおそれがある。
【0052】
TFE構造10に外力が掛けられる場合として、次のような場合を挙げることができる。例えば、OLED表示装置のフレキシブルな基板1を支持基板であるガラス基板から剥離する際、TFE構造10を含むOLED表示装置には曲げ応力が作用する。また、曲面ディスプレイを製造する過程で、所定の曲面形状に沿ってOLED表示装置を曲げる際にも、TFE構造10に曲げ応力が作用する。もちろん、OLED表示装置の最終的な利用形態が、OLED表示装置のフレキシビリティを利用する形態(例えば折り畳む、曲げる、あるいは、丸める)のときは、ユーザーが使用している間に種々の応力がTFE構造10に掛かることになる。
【0053】
これを防止するためには、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層の50%超が残存するように(有機バリア層(中実部)14bが開口部14aよりも面積が大きくなるように)、アッシング条件を調節することが好ましい。OLED3の平坦部上に残存する有機バリア層(中実部)14bは80%以上であることがさらに好ましく、100%であることが最も好ましい。
図8(a)〜(d)に示した様に、適度に残存する有機バリア層14上に形成された第2無機バリア層16の表面には90°以下を角度なす部分(
図10の凹部16d参照)が存在しないので、外力が掛かっても応力が集中することが抑制される。
【0054】
本発明の実施形態によるOLED表示装置の製造方法は、第1無機バリア層12が形成されたOLED3をチャンバー内に用意する工程と、チャンバー内に蒸気または霧状のアクリルモノマーを供給する工程と、第1無機バリア層上でアクリルモノマーを凝縮させ、液状の膜を形成する工程と、アクリルモノマーの液状の膜に紫外線を照射することによって、アクリル樹脂層を形成する工程と、アクリル樹脂層を部分的にアッシングすることによって、有機バリア層14を形成する工程とを包含する。
【0055】
図12に、有機バリア層14の形成に用いられる成膜装置200の構成を模式的に示す。
【0056】
成膜装置200は、チャンバー210と、ステージ212と、モノマー供給口(ノズル)222と、紫外線照射装置230とを有している。チャンバー210は、その内部の空間を所定の圧力(真空度)および温度に制御される。ステージ212は、第1無機バリア層が形成されたOLED3を複数有する素子基板20を受容する上面を有し、上面を例えば−20℃まで冷却することができる。ノズル222は、所定の流量で供給されるアクリルモノマー(液状)を蒸気または霧状で、チャンバー210内の空間に供給する。蒸気または霧状アクリルモノマー26pは、素子基板20の第1無機バリア層に付着または接触する。紫外線照射装置230は所定の波長、強度を有する紫外線232をステージ212の上面に向けて出射する。
【0057】
アクリルモノマー26は、容器202からチャンバー210内に所定の流量で供給される。容器202には、配管206を介してアクリルモノマー26が供給されるとともに、配管204から窒素ガスが供給される。容器202へのアクリルモノマーの流量は、マスフローコントローラ208によって制御される。
【0058】
成膜装置200を用いて、例えば以下の様にして、有機バリア層14を形成することができる。以下の例は、TFE構造10の試作やSEM写真に示した試料の作製に用いた条件の典型例の1つである。
【0059】
チャンバー210内に、アクリルモノマー26pとして、例えばRANDAP(新中村化学工業株式会社製)を供給する。素子基板20は、ステージ212上で、例えば−15℃に冷却されている。アクリルモノマー26pは素子基板の第1無機バリア層12上で凝縮され液状の膜になる。アクリルモノマー26pの供給量およびチャンバー210内の温度を制御することによって、アクリルモノマー(液状)の厚さを調整する。例えば、アクリルモノマーは、500nm/minで堆積することができる。したがって、約24秒で厚さが約200nmのアクリルモノマーの層を形成することができる。
【0060】
その後、チャンバー210内を排気し、蒸気または霧状のアクリルモノマー26pを除去した後、紫外線232を照射することによって、第1無機バリア層12上のアクリルモノマーを硬化させる。紫外線の強度は、例えば、12mW/cm
2(365nm)で、約10秒照射する。
【0061】
このように、有機バリア層14の形成工程のタクトタイムは約34秒であり、非常に量産性が高い。
【0062】
なお、第1無機バリア層12は、例えば、以下の様にして形成される。SiH
4およびN
2Oガスを用いたプラズマCVD法で、例えば、成膜対象の基板(OLED3)の温度を80℃以下に制御した状態で、400nm/minの成膜速度で、厚さ400nmの第1無機バリア層12を形成することができる。この様にして得られる第1無機バリア層12の屈折率は1.84で、400nmの可視光の透過率は90%(厚さ400nm)である。また、膜応力の絶対値は50MPaである。
【0063】
有機バリア層14のアッシングは、例えば、N
2Oガスを用いたプラズマアッシング法で行う。アッシングは、アッシング用のチャンバーで行う。アッシングレートは例えば500nm/minである。上述のように、厚さが200nmの有機バリア層14を形成したとき、平坦部上の有機バリア層(中実部)14bの厚さ(最大値)が20nm程度となるように、約22秒間、アッシングを行う。
【0064】
アッシング後は、N
2Oガスを排気し、第2無機バリア層16を形成するためのCVDチャンバーに搬送し、例えば、第1無機バリア層12と同じ条件で、第2無機バリア層16を形成する。
【0065】
このようにして、TFE構造10およびTFE構造10を備えるOLED表示装置100を作製することができる。本発明の実施形態によるOLED表示装置の製造方法は、一旦十分な厚さを有する有機バリア層を形成し、それをアッシングすることによって、所望の厚さの有機バリア層を得るものである。したがって、特許文献2、3に記載されている製造方法のように、樹脂材料を偏在させる必要がないので、プロセスマージンが広く、量産性に優れる。
【0066】
また、上述したように、有機バリア層14の表面が酸化されているので、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16との密着性が高く、耐湿信頼性に優れている。例えば、上記で具体的に例示したTFE構造10(ただし
図1のOLED3の代わりに厚さ15μmのポリイミドフィルム)のWVTRを評価したところ、室温換算で測定下限である1×10
-4g/m
2・day未満であった。
【0067】
さらに、平坦部上において、有機バリア層14が第1無機バリア層12と第2無機バリア層16との間のほぼ全面に存在する構造とすることによって、耐屈曲性に優れる。
【0068】
なお、無機バリア層として、SiN層の他、SiO層、SiON層、SiNO層、Al
2O
3層などを用いることもできる。有機バリア層を形成する樹脂としては、アクリル樹脂の他、ビニル基含有モノマーなどの紫外線硬化樹脂を用いることができる。