特許第6833182号(P6833182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6833182
(24)【登録日】2021年2月5日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】核酸含有培地を用いた細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20210215BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20210215BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20210215BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20210215BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12P21/00 C
   C12P21/08
   !C12N1/00 G
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-520805(P2017-520805)
(86)(22)【出願日】2016年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2016065625
(87)【国際公開番号】WO2016190394
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2019年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-107147(P2015-107147)
(32)【優先日】2015年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100128750
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 しのぶ
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 卓哉
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01818392(EP,A1)
【文献】 特開2004−033227(JP,A)
【文献】 GRAMER M.J. et al.,Biotechnology and Bioengineering, 2011, Vol.108, No.7, pp.1591-1602
【文献】 CHEN F. et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering, 2012, Vol.114, No.3, pp.347-352
【文献】 WONG N.S.C. et al.,Biotechnology and Bioengineering, 2010, Vol.107, No.2, pp.321-336
【文献】 KOCHANOWSKI N. et al.,Biotechnology and Bioengineering, 2008, Vol.100, No.4, pp.721-733
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質をコードする遺伝子を導入された動物細胞を培地中で培養する方法であって、
該培地が、15mg/L以上100mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩と、15mg/L以上50mg/L以下のチミジン又はその塩と、15mg/L以上50mg/L以下のデオキシシチジン又はその塩と、を含有する、上記方法。
【請求項2】
タンパク質が抗体である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項又はに記載の方法。
【請求項4】
タンパク質をコードする遺伝子を導入された動物細胞を培地中で培養する工程を含む、タンパク質を生産する方法であって、
該培地が、15mg/L以上100mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩と、15mg/L以上50mg/L以下のチミジン又はその塩と、15mg/L以上50mg/L以下のデオキシシチジン又はその塩と、を含有する、上記方法。
【請求項5】
タンパク質が抗体である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項又はに記載の方法。
【請求項7】
タンパク質をコードする遺伝子を導入された動物細胞を培養するために使用される培地であって、
該培地が、15mg/L以上100mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩と、15mg/L以上50mg/L以下のチミジン又はその塩と、15mg/L以上50mg/L以下のデオキシシチジン又はその塩と、を含有する、上記培地。
【請求項8】
タンパク質が抗体である、請求項に記載の培地。
【請求項9】
動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項又はに記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所望のタンパク質を生産する細胞を培養して、当該タンパク質を製造するための培養方法及びその方法を用いて所望のタンパク質を製造する方法に関する。詳細には、本発明は、所望のタンパク質を生産する細胞を培養して当該タンパク質を製造する方法において、培地中に核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン、又はそれらの塩)を添加することで細胞増殖の促進、生存率の維持及び当該タンパク質の生産性の向上を特徴とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所望のタンパク質を生産する細胞を培養して、当該タンパク質を製造する際、如何に生産性を向上させるかが課題であった。このような問題を解決するために、宿主細胞に対するセルエンジニアリング、発現タンパク質遺伝子搭載ベクターの改良、細胞培養用の培地開発、培養法の開発など種々の技術が検討されている(非特許文献1)。培地開発は生産性向上に対する1つの解決策であり、近年、細胞の栄養要求性や代謝について理解が進み、フィード培地などの培地組成最適化検討が行われている(非特許文献2)。培地開発において、核酸成分に関して培地中にチミジン(0.2-7mg/L)とウリジン(5-10mg/L)を添加することで、細胞増殖と生存率を改善させるといった報告がある(特許文献1)。しかしながら、動物細胞によるタンパク質生産を志向した場合、これらの成分及び/又は濃度では十分なタンパク質生産が得られるとは言い難い。
【0003】
また核酸成分であるウリジンに関しては添加することによる品質への影響を調査した事例が報告されているが(非特許文献3)、タンパク質の生産性向上については示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第1818392号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sadettin S. Ozturk及びWei-Shou Hu編, "Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies", (米国), CRC Press, 2005年8月30日
【非特許文献2】Biotechnology Progress 26: 1400-1410, 2010
【非特許文献3】Biotechnology and Bioengineering 107(2): 321-336, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、動物細胞の培養法であって、タンパク質の生産性が高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために動物細胞用培地について相当の創意検討を重ねた。その結果、動物細胞を培養する方法において、培地中に核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、及び/若しくはデオキシシチジン、又はそれらの塩)を添加することで細胞増殖の促進、生存率の維持、及び当該動物細胞が産生するタンパク質の生産性の向上という有利な効果を見出した。当該知見に基づいて、本発明は完成された。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を含むものである。
(1)培地中で動物細胞を培養する方法であって、該培地が5mg/L以上500mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩を含有する、方法。
(2)培地が5mg/L以上200mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩を含有する、上記(1)に記載の方法。
(3)培地が15mg/L以上100mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩を含有する、上記(1)に記載の方法。
(4)培地が15mg/L以上50mg/L以下のチミジン又はその塩をさらに含有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)培地が15mg/L以上50mg/L以下のデオキシシチジン又はその塩をさらに含有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(6)培地が15mg/L以上100mg/L以下のデオキシウリジン、15mg/L以上50mg/L以下のチミジン、及び15mg/L以上50mg/L以下のデオキシシチジン又はそれらの塩を含有する、上記(3)に記載の方法。
(7)動物細胞が、タンパク質をコードする遺伝子を導入された細胞である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(8)タンパク質が抗体である、上記(7)に記載の方法。
(9)動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、上記(7)に記載の方法。
(10)タンパク質を生産する方法であって、該タンパク質を発現する動物細胞を培地中で培養する工程を含み、該培地が10mg/L以上200mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩を含有する、方法。
(11)培地が15mg/L以上100mg/L以下のデオキシウリジン又はその塩を含有する、上記(10)に記載の方法。
(12)培地が15mg/L以上50mg/L以下のチミジン又はその塩をさらに含有する、上記(10)又は(11)に記載の方法。
(13)培地が15mg/L以上50mg/L以下のデオキシシチジン又はその塩をさらに含有する、上記(10)又は(11)に記載の方法。
(14)培地が15mg/L以上100mg/L以下のデオキシウリジン、15mg/L以上50mg/L以下のチミジン、及び15mg/L以上50mg/L以下のデオキシシチジン又はそれらの塩を含有する、上記(11)に記載の方法。
(15)動物細胞が、タンパク質をコードする遺伝子を導入された細胞である、上記(10)又は(11)に記載の方法。
(16)タンパク質が抗体である、上記(15)に記載の方法。
(17)動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、上記(15)に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法は、動物細胞の培養法及びタンパク質を生産する方法であり、細胞増殖の促進、細胞生存率の維持、及び当該動物細胞が産生するタンパク質の生産性の向上、という有利な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジンの添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図2図2は、培養期間における産生抗体濃度の推移について、デオキシウリジンの添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図3図3は、培養期間における生細胞密度の推移について、チミジン(25mg/L)、デオキシシチジン(25mg/L)の存在下での、デオキシウリジン(10−85mg/L)の添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図4図4は、培養期間における産生抗体濃度の推移について、チミジン(25mg/L)、デオキシシチジン(25mg/L)の存在下での、デオキシウリジン(10−85mg/L)の添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図5図5は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図6図6は、培養期間における細胞の生存率の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は生存率(%)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図7図7は、培養期間における産生抗体濃度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図8図8は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図9図9は、培養期間における産生抗体濃度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図10図10は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図11図11は、培養期間における産生抗体濃度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図12図12は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジンの添加による効果を評価した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図13図13は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を、ウリジン及びチミジンの添加による効果と比較した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図14図14は、培養期間における産生抗体濃度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を、ウリジン及びチミジンの添加による効果と比較した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図15図15は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を、ウリジン及びチミジンの添加による効果と比較した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図16図16は、培養期間における産生抗体濃度の推移についてデオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を、ウリジン及びチミジンの添加による効果と比較した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図17図17は、培養期間における生細胞密度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を、ウリジン及びチミジンの添加による効果と比較した結果を示すグラフである。縦軸は生細胞密度(106細胞/mL)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
図18図18は、培養期間における産生抗体濃度の推移について、デオキシウリジン、チミジン及びデオキシシチジンの単一又は組み合わせ添加による効果を、ウリジン及びチミジンの添加による効果と比較した結果を示すグラフである。縦軸は産生された抗体の力価(g/L)を示し、横軸は培養期間(日)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0013】
本発明は、核酸成分を含有する培地中で動物細胞を培養する方法、及び核酸成分を含有する培地中でタンパク質を発現する動物細胞を培養する工程を含むタンパク質を生産する方法に関する。
【0014】
核酸成分
本明細書中で核酸成分とは、デオキシウリジン(dU)、チミジン(dT)、及びデオキシシチジン(dC)又はそれらの塩からなる群より選択される物質を意味する。
【0015】
本発明の方法に用いる培地は、デオキシウリジン又はその塩を含む。好ましくは、本発明の方法に用いる培地は、チミジン及び/又はデオキシシチジン、あるいはその塩をさらに含む。
【0016】
デオキシウリジン、チミジン、及びデオキシシチジンの塩は、特に限定されないが、ナトリウム塩のような金属塩、アンモニウム塩のような無機塩、塩酸塩のようなハロゲン化水素酸塩、無機酸塩、有機酸塩、などが挙げられる。好ましい塩は、塩酸塩である。
【0017】
デオキシウリジン又はその塩を培地に添加して動物細胞を培養することにより、培養される動物細胞について細胞増殖の促進、タンパク質の生産性の向上の効果がある。
【0018】
デオキシウリジン、チミジン、及びデオキシシチジン、又はそれらの塩を培地に添加して動物細胞を培養することにより、培養される動物細胞について細胞増殖の促進、生存率の維持又は向上、及びタンパク質の生産性の向上の効果がある。デオキシウリジン、チミジン、及びデオキシシチジンの三成分を添加することで、デオキシウリジン単独又はチミジン単独で添加する場合と比較して、上記の効果に相乗効果が確認された。
【0019】
デオキシウリジン又はその塩は、例えば5mg/L以上500mg/L以下、好ましくは5mg/L以上200mg/L以下、10mg/L以上500mg/L以下、10mg/L以上200mg/L以下、15mg/L以上100mg/L以下、20mg/L以上100mg/L以下、25mg/L以上100mg/L以下、15mg/L以上85mg/L以下、20mg/L以上85mg/L以下、25mg/L以上85mg/L以下、の濃度で培地中に含有される。
【0020】
チミジン又はその塩は、例えば15mg/L以上50mg/L以下、好ましくは20mg/L以上50mg/L以下、25mg/L以上50mg/L以下、の濃度で培地中に含有される。
【0021】
デオキシシチジン又はその塩は、例えば15mg/L以上50mg/L以下、好ましくは20mg/L以上50mg/L以下、25mg/L以上50mg/L以下、の濃度で培地中に含有される。
【0022】
培地
本発明の方法に用いる培地は、動物細胞を増殖し得、上記の核酸成分を含有する限り特に限定されない。当業者は培養する細胞の種類に応じて適切な培地を選択することができる。例えば、CD CHO Medium(Life technologies社)、CD OptiCHO Medium(Life technologies社)、DMEM(Life technologies社)、EX−CELL(登録商標)302(Sigma社)、BD Select CD1000(ベクトン・ディッキンソン社)からなる群より選択される培地に、上記の核酸成分を添加した培地を使用できる。
【0023】
動物細胞
本発明の方法で培養する動物細胞は、特に限定されない。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ハイブリドーマ細胞、ヒト胎児腎(HEK293)細胞、マウス骨髄腫(Sp2/0又はNS0)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、アフリカミドリザル腎臓(COS)細胞などが挙げられる。
【0024】
好ましい態様において、動物細胞は所望のタンパク質を発現する動物細胞である。タンパク質を発現する動物細胞は、野生型において所望のタンパク質を発現する細胞であってもよく、あるいは所望のタンパク質をコードする遺伝子を導入された細胞であってもよい。
【0025】
タンパク質をコードする遺伝子を導入された細胞は、タンパク質をコードする遺伝子の細胞における発現を達成可能な発現ベクターで形質転換された組換え細胞である。発現ベクターは、DNAベクター又はRNAベクターであってもよく、典型的にはプラスミドベクター又はウイルスベクターであってもよい。
【0026】
動物細胞が発現するタンパク質は、当業者が適宜選択することができる。好ましい態様において、タンパク質は抗体である。
【0027】
動物細胞を培養する方法
動物細胞を培養する方法が提供される。当該方法は、核酸成分を含有する培地中で動物細胞を培養する工程を含む。
【0028】
核酸成分の種類およびその添加量の具体的態様は、上記の「核酸成分」の項目に説明したとおりである。また、使用する培地、および培養する動物細胞については、それぞれ上記の「培地」及び「動物細胞」の項目において説明したとおりである。
【0029】
培養条件は、動物細胞の種類に応じて当業者が適宜選択できる。例えば、CHO細胞の場合、36.5℃、5%COの条件下で培養することが好ましい。
【0030】
培養方法は、動物細胞の種類や培養条件に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、継代培養や生産培養に用いられる培養法であるフェドバッチ培養、バッチ培養、灌流培養、連続培養などに利用することができる。
【0031】
培養システムは、特に限定されない。タンク培養、ホロファイバー培養など、多様なシステムで培養することができる。
【0032】
培養スケールは、特に限定されない。フラスコ、バイオリアクター、タンクなど、多様なスケールで培養することができる。
【0033】
核酸成分を培地に添加するタイミング及び回数は特に限定されない。核酸成分を培地に添加するタイミングは、例えば、培養開始時に添加してもよく、あるいは培養開始後に添加してもよい。培養開始後に核酸成分を培地に添加する場合、培養開始から例えば1時間後、5時間後、10時間後、15時間後、24時間後(1日後)、36時間後、48時間後(2日後)、3日後、4日後、5日後に添加してもよい。核酸成分を添加する回数は、例えば、1回のみ添加してもよく、複数回(例えば、2回、3回、4回、5回)に分けて添加してもよい。
【0034】
動物細胞を、核酸成分を含む培地中で培養することにより、細胞増殖の促進、及び/又は細胞生存率の維持、あるいは動物細胞がタンパク質を発現する動物細胞である場合はタンパク質の生産性の向上という効果が奏される。具体的な核酸成分の種類および観察される効果の関係は、上記「核酸成分」の項目で説明したとおりである。
【0035】
タンパク質を生産する方法
タンパク質を発現する動物細胞を培養し、タンパク質を生産する方法が提供される。当該方法は、核酸成分を含有する培地中でタンパク質を発現する動物細胞を培養する工程を含む。核酸成分の種類およびその添加量は、上記の「核酸成分」の項目に説明したとおりである。また、使用する培地、および培養する動物細胞については、それぞれ上記の「培地」及び「動物細胞」の項目において説明したとおりである。さらに、培養条件、培養方法、培養スケール、及び核酸成分を培地に添加するタイミング及び回数は、上記「動物細胞を培養する方法」の項目において説明したとおりである。
【0036】
タンパク質を生産する方法は、核酸成分を含有する培地中でタンパク質を発現する動物細胞を培養する工程に加えて、当該動物細胞が発現したタンパク質を回収する工程を含んでもよい。タンパク質の回収は、発現したタンパク質の性質に応じて、当業者が適宜行うことができる。例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーが利用できる。例えば、タンパク質が抗体である場合、プロテインA又はプロテインGを結合させた担体を用いるアフィニティクロマトグラフィーが抗体の回収に利用できる。
【0037】
タンパク質を発現する動物細胞を、核酸成分を含む培地中で培養することにより、細胞増殖の促進、細胞生存率の維持、及び/又はタンパク質の生産性の向上という効果が奏される。具体的な核酸成分の種類および観察される効果の関係は、上記「核酸成分」の項目で説明したとおりである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
〔実施例1〕フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトThymic stromal lymphopoietin(TSLP)受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1 x 106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始2日目にデオキシウリジンを終濃度10, 25, 50, 100, 200mg/Lとなるように添加し、培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。図1、2に示すように、デオキシウリジンを添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約10x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は3.3g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約18x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は5.5g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。これより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。また、10mg/L- 200mg/Lのいずれの濃度で添加したときもデオキシウリジンを添加したことによる応答は得られ、細胞増殖や抗体産生の向上が確認された。10mg/mLのデオキシウリジン添加でも10〜12日目までの細胞培養段階での抗体産生の向上効果が観察された。
【0040】
〔実施例2〕フェドバッチ培養におけるチミジン及びデオキシシチジン存在下での詳細なデオキシウリジンの添加濃度とその効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトTSLP受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にチミジン及びデオキシシチジン塩酸塩(本明細書中の実施例で用いているデオキシシチジンはデオキシシチジン塩酸塩であり、デオキシシチジンに換算した値を濃度表記に用いた。)を終濃度25mg/Lとなるように添加し、さらに デオキシウリジンを終濃度10、25、40、55、70、85mg/Lとなるように添加し、培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。図3、4に示すように、デオキシウリジンを10mg/L添加した条件の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約27x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は5.9g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約32x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は6.8g/Lと、10mg/L添加条件に比べ高い値を得ることができた。これより、チミジン及びデオキシシチジン存在下において、デオキシウリジンは10mg/Lに比べ25mg/L以上の濃度で添加することで細胞増殖と抗体産生の向上効果が高いことが示唆された。
【0041】
〔実施例3〕フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトTSLP受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始2日目にデオキシウリジンを終濃度25mg/Lとなるように添加し、さらにチミジン、デオキシシチジンを表1に従ってそれぞれ終濃度0又は25mg/Lとなるように添加した。培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。図5、 6、 7に示すように、チミジン、デオキシシチジンを添加しないデオキシウリジンのみの条件(dU)の場合、14日間培養における最終日の生細胞密度は約7.6x106cells/mL、細胞生存率は約61%、抗体濃度は5.1g/Lであった。これに対し、チミジン及びデオキシシチジンをさらに25mg/Lで添加した条件(dU−dT−dC)の場合、14日間培養における最終日の生細胞密度は12x106cells/mL、細胞生存率は約78%、抗体濃度は5.8g/Lと、dU、デオキシウリジンとデオキシシチジンを添加した条件(dU−dC)及びデオキシウリジンとチミジンを添加した条件(dU−dT)に比べ高い値を得ることができた。これより、デオキシウリジン存在下において、チミジン、デオキシシチジンは両成分添加することで生存率が維持され、抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0042】
【表1】
【0043】
〔実施例4〕フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2009/088064に記載の抗ヒトα9抗体(RY9A2v12(M34L)012)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、及び/又はデオキシシチジンを表2に従ってそれぞれ終濃度0又は25mg/Lとなるように添加した。培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。図8、9に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約16x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は5.1g/Lであった。これに対し、デオキシウリジン、チミジン、及びデオキシシチジンを25mg/Lで添加した条件(dU−dT−dC)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約23x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は8.2g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。
【0044】
デオキシウリジン、チミジンは単成分添加効果が確認されたが、デオキシシチジンの単成分添加効果は確認されなかった。一方でチミジンは、単成分添加効果は確認されたものの、デオキシウリジン、デオキシシチジンそれぞれと組合せても相乗効果は確認されなかった。しかしながら、デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンの三成分全てを添加することで、相乗効果が確認され、最も効果が高いことが示唆された。
【0045】
【表2】
【0046】
〔実施例5〕フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、Fab’フラグメント発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2013/022083に記載の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント(1-15(N52D-A)-Fab’)を発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンを表3に従ってそれぞれ終濃度0、10、25又は50mg/Lとなるように添加した。培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、逆相HPLCにより抗体濃度測定を実施した。図10、11に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約20x106cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は4.6g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/L、チミジン、デオキシシチジンを50mg/Lで添加した条件(dU25mg/L-dTdC50mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約38x106cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は6.1g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。さらにデオキシウリジン存在下において、チミジン、デオキシシチジン両成分を添加することで細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0047】
【表3】
【0048】
〔実施例6〕バッチ培養におけるデオキシウリジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2009/088064に記載の抗ヒトα9インテグリン抗体(以下、「抗ヒトα9抗体」と記載する)(RY9A2v12(M34L)012)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度0.3x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジンを終濃度5、25、100、500又は1000mg/Lとなるように添加して5日間培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。図12に示すように、デオキシウリジンを添加しない条件(control)の場合、5日間培養における最高生細胞密度は約7x106cells/mLであるのに対し、デオキシウリジンを100mg/Lで添加した条件の場合約10x106cells/mLとcontrolに比べ高い値を得ることができた。また、5mg/L-500mg/Lのどの条件でもデオキシウリジンを添加することで細胞増殖の向上が確認された。
【0049】
〔実施例7〕フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトTSLP受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ終濃度25mg/Lとなるように添加した。比較条件として培養開始時にウリジン(U)を7mg/L、チミジンを0.24mg/L(EP1818392B1実施例中に記載の濃度)となるように添加した。それぞれ培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。図13、14に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約12x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は約2.9g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件(dU25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約21x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は約4.6g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。さらにデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ25mg/Lで添加した条件(dUdTdC25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約26x106cells/mLであり、最終日の抗体濃度は約5.9g/Lと、controlやdU25mg/Lに比べ高い値を得ることができた。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆され、さらにチミジン、デオキシシチジンを添加することで細胞増殖と抗体産生のさらなる向上効果があることが示唆された。また、ウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/Lで添加した条件(参考例)と比較しても優位に細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0050】
〔実施例8〕フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2009/088064に記載の抗ヒトα9抗体(RY9A2v12(M34L)012)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ終濃度25mg/Lとなるように添加した。比較条件として培養開始時にウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/L(EP1818392B1実施例中に記載の濃度)となるように添加した。それぞれ培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。図15に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約16x106cells/mLであり、これに対しデオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件(dU25mg/L)の場合は約21x106cells/mLであり、さらにデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ25 mg/Lで添加した条件(dUdTdC25mg/L)の場合は約31x106cells/mLとcontrolに比べ高い値を得ることができた。図16に示すように抗体濃度についてもデオキシウリジンを添加した条件(dU25mg/L)やデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンを添加した条件(dUdTdC25mg/L)で、controlに比べて高い抗体濃度を推移した。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆され、さらにチミジン、デオキシシチジンを添加することで細胞増殖と抗体産生のさらなる向上効果があることが示唆された。また、ウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/Lで添加した条件(参考例)と比較しても優位に細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0051】
〔実施例9〕フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、Fab’フラグメント発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2013/022083に記載の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント(1-15(N52D-A)-Fab’)を発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x106cells/mLで36.5℃、5%CO2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ終濃度25mg/Lとなるように添加した。比較条件として培養開始時にウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/L(EP1818392B1実施例中に記載の濃度)となるように添加した。それぞれ培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、逆相HPLCにより抗体濃度測定を実施した。図17、18に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約14x106cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は約2.2g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件(dU25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約26x106cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は約3.1g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。さらにデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ25mg/Lで添加した条件(dUdTdC25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約30x106cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は約4.2g/Lと、controlやdU25mg/Lに比べ高い値を得ることができた。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆され、さらにチミジン、デオキシシチジンを添加することで細胞増殖と抗体産生のさらなる向上効果があることが示唆された。また、ウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/Lで添加した条件(参考例)と比較しても優位に細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。
図1
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