【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
〔実施例1〕
フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトThymic stromal lymphopoietin(TSLP)受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1 x 10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始2日目にデオキシウリジンを終濃度10, 25, 50, 100, 200mg/Lとなるように添加し、培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図1、2に示すように、デオキシウリジンを添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約10x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は3.3g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約18x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は5.5g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。これより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。また、10mg/L- 200mg/Lのいずれの濃度で添加したときもデオキシウリジンを添加したことによる応答は得られ、細胞増殖や抗体産生の向上が確認された。10mg/mLのデオキシウリジン添加でも10〜12日目までの細胞培養段階での抗体産生の向上効果が観察された。
【0040】
〔実施例2〕
フェドバッチ培養におけるチミジン及びデオキシシチジン存在下での詳細なデオキシウリジンの添加濃度とその効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトTSLP受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にチミジン及びデオキシシチジン塩酸塩(本明細書中の実施例で用いているデオキシシチジンはデオキシシチジン塩酸塩であり、デオキシシチジンに換算した値を濃度表記に用いた。)を終濃度25mg/Lとなるように添加し、さらに デオキシウリジンを終濃度10、25、40、55、70、85mg/Lとなるように添加し、培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図3、4に示すように、デオキシウリジンを10mg/L添加した条件の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約27x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は5.9g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約32x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は6.8g/Lと、10mg/L添加条件に比べ高い値を得ることができた。これより、チミジン及びデオキシシチジン存在下において、デオキシウリジンは10mg/Lに比べ25mg/L以上の濃度で添加することで細胞増殖と抗体産生の向上効果が高いことが示唆された。
【0041】
〔実施例3〕
フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトTSLP受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始2日目にデオキシウリジンを終濃度25mg/Lとなるように添加し、さらにチミジン、デオキシシチジンを表1に従ってそれぞれ終濃度0又は25mg/Lとなるように添加した。培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図5、 6、 7に示すように、チミジン、デオキシシチジンを添加しないデオキシウリジンのみの条件(dU)の場合、14日間培養における最終日の生細胞密度は約7.6x10
6cells/mL、細胞生存率は約61%、抗体濃度は5.1g/Lであった。これに対し、チミジン及びデオキシシチジンをさらに25mg/Lで添加した条件(dU−dT−dC)の場合、14日間培養における最終日の生細胞密度は12x10
6cells/mL、細胞生存率は約78%、抗体濃度は5.8g/Lと、dU、デオキシウリジンとデオキシシチジンを添加した条件(dU−dC)及びデオキシウリジンとチミジンを添加した条件(dU−dT)に比べ高い値を得ることができた。これより、デオキシウリジン存在下において、チミジン、デオキシシチジンは両成分添加することで生存率が維持され、抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0042】
【表1】
【0043】
〔実施例4〕
フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2009/088064に記載の抗ヒトα9抗体(RY9A2v12(M34L)012)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、及び/又はデオキシシチジンを表2に従ってそれぞれ終濃度0又は25mg/Lとなるように添加した。培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図8、9に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約16x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は5.1g/Lであった。これに対し、デオキシウリジン、チミジン、及びデオキシシチジンを25mg/Lで添加した条件(dU−dT−dC)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約23x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は8.2g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。
【0044】
デオキシウリジン、チミジンは単成分添加効果が確認されたが、デオキシシチジンの単成分添加効果は確認されなかった。一方でチミジンは、単成分添加効果は確認されたものの、デオキシウリジン、デオキシシチジンそれぞれと組合せても相乗効果は確認されなかった。しかしながら、デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンの三成分全てを添加することで、相乗効果が確認され、最も効果が高いことが示唆された。
【0045】
【表2】
【0046】
〔実施例5〕
フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、Fab’フラグメント発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2013/022083に記載の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント(1-15(N52D-A)-Fab’)を発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンを表3に従ってそれぞれ終濃度0、10、25又は50mg/Lとなるように添加した。培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、逆相HPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図10、11に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約20x10
6cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は4.6g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/L、チミジン、デオキシシチジンを50mg/Lで添加した条件(dU25mg/L-dTdC50mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約38x10
6cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は6.1g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。さらにデオキシウリジン存在下において、チミジン、デオキシシチジン両成分を添加することで細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0047】
【表3】
【0048】
〔実施例6〕
バッチ培養におけるデオキシウリジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2009/088064に記載の抗ヒトα9インテグリン抗体(以下、「抗ヒトα9抗体」と記載する)(RY9A2v12(M34L)012)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度0.3x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジンを終濃度5、25、100、500又は1000mg/Lとなるように添加して5日間培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図12に示すように、デオキシウリジンを添加しない条件(control)の場合、5日間培養における最高生細胞密度は約7x10
6cells/mLであるのに対し、デオキシウリジンを100mg/Lで添加した条件の場合約10x10
6cells/mLとcontrolに比べ高い値を得ることができた。また、5mg/L-500mg/Lのどの条件でもデオキシウリジンを添加することで細胞増殖の向上が確認された。
【0049】
〔実施例7〕
フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2015/020193に記載の抗ヒトTSLP受容体抗体(完全ヒト型T7-27)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ終濃度25mg/Lとなるように添加した。比較条件として培養開始時にウリジン(U)を7mg/L、チミジンを0.24mg/L(EP1818392B1実施例中に記載の濃度)となるように添加した。それぞれ培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図13、14に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約12x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は約2.9g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件(dU25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約21x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は約4.6g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。さらにデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ25mg/Lで添加した条件(dUdTdC25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約26x10
6cells/mLであり、最終日の抗体濃度は約5.9g/Lと、controlやdU25mg/Lに比べ高い値を得ることができた。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆され、さらにチミジン、デオキシシチジンを添加することで細胞増殖と抗体産生のさらなる向上効果があることが示唆された。また、ウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/Lで添加した条件(参考例)と比較しても優位に細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0050】
〔実施例8〕
フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、IgG発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2009/088064に記載の抗ヒトα9抗体(RY9A2v12(M34L)012)を組換え発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ終濃度25mg/Lとなるように添加した。比較条件として培養開始時にウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/L(EP1818392B1実施例中に記載の濃度)となるように添加した。それぞれ培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、プロテインAカラムHPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図15に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約16x10
6cells/mLであり、これに対しデオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件(dU25mg/L)の場合は約21x10
6cells/mLであり、さらにデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ25 mg/Lで添加した条件(dUdTdC25mg/L)の場合は約31x10
6cells/mLとcontrolに比べ高い値を得ることができた。
図16に示すように抗体濃度についてもデオキシウリジンを添加した条件(dU25mg/L)やデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンを添加した条件(dUdTdC25mg/L)で、controlに比べて高い抗体濃度を推移した。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆され、さらにチミジン、デオキシシチジンを添加することで細胞増殖と抗体産生のさらなる向上効果があることが示唆された。また、ウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/Lで添加した条件(参考例)と比較しても優位に細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。
【0051】
〔実施例9〕
フェドバッチ培養におけるデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン添加効果
動物細胞用培地を増殖培地とし、Fab’フラグメント発現遺伝子導入CHO細胞株(WO/2013/022083に記載の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメント(1-15(N52D-A)-Fab’)を発現させたCHO細胞株)を初期生細胞密度1x10
6cells/mLで36.5℃、5%CO
2の条件下でフェドバッチ培養を開始した。培養開始時にデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ終濃度25mg/Lとなるように添加した。比較条件として培養開始時にウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/L(EP1818392B1実施例中に記載の濃度)となるように添加した。それぞれ培養2日目よりフィード培地を毎日添加して、14日目まで培養を行った。適宜サンプリングを行い、トリパンブルー染色法により生細胞密度を、逆相HPLCにより抗体濃度測定を実施した。
図17、18に示すように、核酸成分(デオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジン)を添加しない条件(control)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約14x10
6cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は約2.2g/Lであった。これに対し、デオキシウリジンを25mg/Lで添加した条件(dU25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約26x10
6cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は約3.1g/Lと、controlに比べ高い値を得ることができた。さらにデオキシウリジン、チミジン、デオキシシチジンをそれぞれ25mg/Lで添加した条件(dUdTdC25mg/L)の場合、14日間培養における最高生細胞密度は約30x10
6cells/mLであり、最終日のタンパク質濃度は約4.2g/Lと、controlやdU25mg/Lに比べ高い値を得ることができた。これらより、デオキシウリジンは細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆され、さらにチミジン、デオキシシチジンを添加することで細胞増殖と抗体産生のさらなる向上効果があることが示唆された。また、ウリジンを7mg/L、チミジンを0.24mg/Lで添加した条件(参考例)と比較しても優位に細胞増殖と抗体産生の向上効果があることが示唆された。