特許第6833329号(P6833329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6833329
(24)【登録日】2021年2月5日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】目標経路生成装置及び操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/045 20120101AFI20210215BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20210215BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20210215BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20210215BHJP
   B60W 40/109 20120101ALI20210215BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   B60W30/045
   G08G1/16 C
   B62D6/00
   B60W10/20
   B60W40/109
   B60W30/10
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-63602(P2016-63602)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-177844(P2017-177844A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(72)【発明者】
【氏名】小林 こずえ
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−035986(JP,A)
【文献】 特開2015−003565(JP,A)
【文献】 特開2007−290555(JP,A)
【文献】 特開2007−191156(JP,A)
【文献】 特開2005−014778(JP,A)
【文献】 特開2007−030746(JP,A)
【文献】 特開2015−228090(JP,A)
【文献】 特開2013−173518(JP,A)
【文献】 特開2008−012989(JP,A)
【文献】 特開2014−019405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 10/30
B60W 30/00 − 60/00
B62D 6/00 − 6/10
B60T 7/12 − 8/1769
B60T 8/32 − 8/96
G08G 1/00 − 99/00
G01C 21/00 − 21/36
G01C 23/00 − 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車線を走行している車両を旋回させて停車予定位置に停車させるための、前記車両の操舵制御の目標となる、前記車線に対する偏揺角度である目標偏揺角度を生成する目標経路生成部と、
前記車両の車速を検出する車速検出部と、
前記車両の旋回開始予定位置から前記停車予定位置までの前記車線と直交する方向における横距離を検出する横距離検出部と、
前記旋回開始予定位置から前記停車予定位置までの前記車線の方向における縦距離を検出する縦距離検出部と、
前記車速検出部が検出した前記車速に基づいて、前記車両が旋回した場合に前記車両に作用する最大横加速度が基準横加速度よりも小さくなる基準旋回半径を算出する旋回半径算出部と、を備え
前記目標経路生成部は、前記旋回半径算出部が検出した前記基準旋回半径、前記横距離検出部が検出した前記旋回開始予定位置から前記停車予定位置までの前記横距離、及び前記縦距離検出部が検出した前記旋回開始予定位置から前記停車予定位置までの前記縦距離、に基づいて、前記目標偏揺角度を算出する、
目標経路生成装置。
【請求項2】
前記車速検出部が検出した前記車速に基づいて、前記車両が旋回した場合に前記車両に作用する最大横加速度が基準横加速度よりも小さくなる基準旋回半径を算出する旋回半径算出部を更に備え、
前記目標経路生成部は、前記旋回半径算出部が算出した前記基準旋回半径にて前記車両が旋回した場合の前記車線に対する最大偏揺角度を、前記目標偏揺角度とする、
請求項に記載の目標経路生成装置。
【請求項3】
前記車速検出部が検出した前記車速、基準横加速度、及び前記基準旋回半径に基づいて前記基準旋回半径を算出する前記旋回半径算出部を更に備え、
前記目標経路生成部は、前記旋回半径算出部が算出した前記基準旋回半径にて前記車両が旋回した場合の前記車線に対する最大偏揺角度を、前記目標偏揺角度とする、
請求項に記載の目標経路生成装置。
【請求項4】
前記目標経路生成部は、前記旋回開始予定位置から前記基準旋回半径で旋回する仮想経路を第一仮想経路とし、前記第一仮想経路に続いて前記車線に対して傾斜する方向に直進する仮想経路を第二仮想経路とし、前記第二仮想経路に続いて前記基準旋回半径で旋回して前記停車予定位置に至る仮想経路を第三仮想経路とした場合の、前記第二仮想経路において直進する方向を、前記目標偏揺角度とする、
請求項に記載の目標経路生成装置。
【請求項5】
前記目標経路生成部は、前記車線と直交する方向において、前記第一仮想経路の終点を、前記旋回開始予定位置と前記停車予定位置の中央位置よりも前記旋回開始予定位置側の位置とする、
請求項に記載の目標経路生成装置。
【請求項6】
前記縦距離検出部は、前記車両から前記停車予定位置までの前記車線の方向における縦距離を検出し、
前記目標経路生成部は、前記縦距離検出部が検出した前記車両から前記停車予定位置までの前記縦距離が基準縦距離以下になると、前記目標偏揺角度を0°とする、
請求項の何れか一項に記載の目標経路生成装置。
【請求項7】
前記横距離検出部は、前記車両から前記停車予定位置までの前記車線と直交する方向における横距離を検出し、
前記目標経路生成部は、前記横距離検出部が検出した前記車両から前記停車予定位置までの前記横距離が基準横距離以下になると、前記目標偏揺角度を0°とする、
請求項の何れか一項に記載の目標経路生成装置。
【請求項8】
請求項1〜の何れか一項に記載の目標経路生成装置と、
前記目標経路生成装置が生成した前記目標偏揺角度を目標として前記車両の操舵制御を行う操舵制御部と、を備える、
操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、車線を走行している車両を停車予定位置に停車させる目標経路を生成する目標経路生成装置及び操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者が適切に運転操作を実施できない状況にあれば、車両を安全性の高い避難先へ適切に退避させる装置が記載されている。この装置では、通過した場合のリスクが所定の基準よりも低い地点を組み合わせて、自車両の現在地から退避目的地に至る目標経路を生成する。特許文献1には、リスクとして、他車両への追突、ガードレールや防護壁への接触が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−228090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車線を走行しているバスをバス停留所に停車させる際は、バスを路肩側に旋回させて、バス停留所に停車させる。このとき、バスを停留所との隙間を開けずに停車させることが好ましい。なお、バスが停留所との隙間を空けずに停車すること「正着」という。しかしながら、バスを正着させるためには、運転者に高度な技量が求められる。そこで、バスの現在位置から停留所の停車位置までの目標経路を生成し、この目標経路に基づいてバスの自動運転又は運転支援を行うことで、バスを正着させることが考えられる。
【0005】
そこで、特許文献1に記載された装置により生成される目標経路に基づいてバスの自動運転又は運転支援を行うことが考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された装置では、目標経路を具体的な経路として特定するとともに、当該目標経路に沿って車両を走行させる。このため、外乱等により目標経路を外れた際は、目標経路に戻るために急な操舵が行われて、大きな横揺れ(横加速度)が生じる可能性がある。このため、バスのように乗客を乗せて走行する車両の場合では、乗客の乗り心地が悪くなる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明の一側面は、乗り心地の悪化を抑制できる目標経路を生成できる目標経路生成装置及び操舵制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る目標経路生成部は、車線を走行している車両を旋回させて停車予定位置に停車させるための目標経路を生成する目標経路生成部を備え、目標経路生成部は、車線に対する偏揺角度である目標偏揺角度を、目標経路として生成する。この目標経路生成措置では、車線に対する偏揺角度である目標偏揺角度が目標経路として生成される。このため、目標経路が具体的な経路として生成される場合に比べて、車両の操舵自由度が高くなる。これにより、急な操舵が行われる可能性が低くなるため、乗客の乗り心地が悪くなるのを抑制することができる。
【0009】
上記目標経路生成部において、車両の車速を検出する車速検出部と、車両の旋回開始予定位置から停車予定位置までの車線と直交する方向における横距離を検出する横距離検出部と、旋回開始予定位置から停車予定位置までの車線の方向における縦距離を検出する縦距離検出部と、を更に備え、目標経路生成部は、車速検出部が検出した車速、横距離検出部が検出した横距離、及び縦距離検出部が検出した縦距離、から、目標偏揺角度を算出してもよい。旋回する車両に作用する最大横加速度は車速と相関があり、停車予定位置に至るまでに乗客の乗り心地が悪くならない車両の旋回半径は、横距離及び縦距離と相関がある。そこで、この目標経路生成装置では、車速、横距離及び縦距離から目標偏揺角度を算出することで、車両が旋回した場合に車両に作用する最大横加速度を基準横加速度よりも小さくすることができる。このため、例えば、この目標偏揺角度を目標として車両の操舵制御を行うことで、旋回時に乗客の乗り心地が悪くなるのを抑制することができる。
【0010】
更に、車速検出部が検出した車速に基づいて、車両が旋回した場合に車両に作用する最大横加速度が基準横加速度よりも小さくなる基準旋回半径を算出する旋回半径算出部を更に備え、目標経路生成部は、旋回半径算出部が算出した基準旋回半径にて車両が旋回した場合の車線に対する最大偏揺角度を、目標偏揺角度とする、この目標経路生成装置では、基準旋回半径にて車両が旋回した場合の車線に対する最大偏揺角度を目標偏揺角度とするため、旋回時に乗客の乗り心地が悪くなるのを更に抑制することができる。
【0011】
更に、目標経路生成部は、旋回開始予定位置から基準旋回半径で旋回する経路を第一経路とし、第一経路に続いて車線に対して傾斜する方向に直進する経路を第二経路とし、第二経路に続いて基準旋回半径で旋回して停車予定位置に至る経路を第三経路とした場合の、第二経路において直進する方向を、目標偏揺角度としてもよい。この目標経路生成装置では、旋回開始予定位置から基準旋回半径で旋回するとともに基準旋回半径で旋回して停車予定位置に至ることを想定して目標偏揺角度を算出するため、目標偏揺角度を容易に算出することができる。
【0012】
更に、目標経路生成部は、車線と直交する方向において、第一経路の終点を、旋回開始予定位置と停車予定位置の中央位置よりも旋回開始予定位置側の位置としてもよい。この目標経路生成装置では、第一経路の終点が旋回開始予定位置と停車予定位置の中央位置よりも旋回開始予定位置側に位置するため、第二経路を、第一経路及び第三経路の接線とすることができる。これにより、旋回時に乗客の乗り心地が悪くなるのを更に抑制することができるとともに、車両の旋回と直進との切り替えを円滑にすることができる。
【0013】
上記の目標経路生成装置において、目標経路生成部は、縦距離検出部が検出した縦距離が基準縦距離以下になると、目標偏揺角度を0°としてもよい。この目標経路生成装置では、縦位置が基準縦距離以下になると目標偏揺角度を0°とするため、車両を円滑にバス停留所などの停車予定位置に正着させることができる。
【0014】
本発明の一側面に係る操舵制御装置は、上記の何れかの目標経路生成装置と、目標経路生成装置が生成した目標経路を目標として車両の操舵制御を行う操舵制御部と、を備える。この操舵制御装置では、上述した目標経路生成装置が生成した目標経路を目標として車両の操舵制御を行うため、乗客の乗り心地が悪くなるのを抑制することができる。
【0015】
上記の操舵制御装置において、操舵制御部は、車両が目標経路に近づくように車両の操舵制御を行ってもよい。この操舵制御装置では、目標経路に近づけるように車両の操舵制御を行うため、目標経路から外れたとしても目標経路に戻るために急な操舵が行われるのを抑制することができる。これにより、乗客の乗り心地が悪くなるのを更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一側面によれば、乗り心地の悪化を抑制できる目標経路を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る操舵制御装置の概略構成を示す図である。
図2】目標経路を説明するための図である。
図3】目標経路の計算方法を説明するための図である。
図4】目標経路の算出方法を説明するための図である。
図5】ECUの処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1及び図2示すように、操舵制御装置(目標経路生成装置)1は、路線バス等の大型の車両Mに搭載されて、バス停留所などの停車位置に車両Mを正着させる装置である。このため、操舵制御装置1は、車線DLを走行している車両Mを旋回させて停車予定位置Bに停車させるための目標経路Cを生成するとともに、この生成した目標経路Cを目標として車両Mの操舵制御を行う。以下、操舵制御装置1について詳しく説明する。
【0020】
操舵制御装置1は、車速検出部2と、車線検出部3と、横距離検出部4と、縦距離検出部5と、ECU(Electronic Control Unit)6と、操舵アクチュエータ7と、を備えている。
【0021】
車速検出部2は、車両Mの速度を検出するセンサである。車速検出部2としては、例えば、車両Mの車輪又は車輪と一体に回転するドライブシャフト等に対して設けられ、車輪の回転速度を検出するセンサであってもよい。車速検出部は、検出した車速の情報をECU6に送信する。
【0022】
車線検出部3は、車両Mが走行している車線DLを検出する。車線検出部3は、カメラ、レーダ、GPSシステム等を用いて、車両Mが走行している車線DLを検出することができる。カメラを用いる場合、例えば、車線DLを区画する白線Wを画像検出し、この画像検出した白線Wのラインを車線DLとして検出する。レーダを用いる場合、例えば、車線DLを区画する白線Wの凹凸を検出し、この検出した白線Wのラインを車線DLとして検出する。GPSシステムを用いる場合、例えば、GPSによる車両Mの現在位置と地図情報とを対比して車線の位置を算出し、この算出した位置を車線DLとして検出する。車線検出部3は、検出した車線DLの情報をECU6に送信する。
【0023】
横距離検出部4は、旋回開始予定位置Aから停車予定位置Bまでの、車線DLと直交する方向における横距離Yを検出する。旋回開始予定位置Aは、車両Mを停車予定位置Bに停車させるために旋回を開始し始める位置である。旋回開始予定位置Aは、例えば、車線DLの方向において車両Mの現在位置よりも所定の設定距離だけ前方の位置、車線DLの方向において停車予定位置Bよりも所定の設定距離だけ後方の位置、車両M及び停車予定位置Bの周囲環境に基づいて随時設定される位置、とすることができる。なお、周囲環境とは、周囲の道路形状、障害物(駐車車両)の有無等である。停車予定位置Bは、バス停留所などの停車位置において、車両Mが路肩の縁石Sとの隙間を開けずに停車する位置である。つまり、車両Mが正着する位置である。
【0024】
横距離検出部4は、レーダ、GPSシステム等を用いて、横距離Yを検出することができる。レーダを用いる場合、例えば、路肩の縁石Sをレーザで検出するとともに、車両Mから路肩の縁石Sまでの距離をレーザで測距する。そして、この測距した距離を、横距離Yとして検出する。GPSシステムを用いる場合、例えば、GPSによる車両Mの現在位置と地図情報とを対比し、車両Mから路肩の縁石Sまでの距離を算出する。そして、この算出した距離を横距離Yとして検出する。なお、これらの方法により車両Mの車幅方向中心から路肩の縁石Sまでの距離を検出した場合は、この検出した距離から車両Mの車幅の半分の距離を減算する。横距離検出部4は、検出した横距離Yの情報をECU6に送信する。
【0025】
縦距離検出部5は、旋回開始予定位置Aから停車予定位置Bまでの車線DLの方向における縦距離Lを検出する。
【0026】
縦距離検出部5は、レーダ、GPSシステム等を用いて、縦距離Lを検出することができる。レーダを用いる場合、例えば、停車予定位置となるバス停留所などの目印をレーザで検出するとともに、車両Mから目印までの距離をレーザで測距する。そして、旋回開始予定位置Aまでの距離と、目印までの距離と、車線DLに対する目印の偏揺角度とから、縦距離Lを検出する。GPSシステムを用いる場合、例えば、GPSによる車両Mの現在位置と地図情報とを対比して、停車予定位置となるバス停留所などの目印と、旋回開始予定位置Aと、の位置関係を求める。そして、この求めた位置関係から、縦距離Lを検出する。縦距離検出部5は、検出した縦距離Lの情報をECU6に送信する。
【0027】
ECU6は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、CAN(Controller Area Network)通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECU6では、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU6は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。ECU6には、CAN通信回路を介して、車速検出部2、車線検出部3、横距離検出部4、縦距離検出部5、及び操舵アクチュエータ7が接続されている。
【0028】
操舵アクチュエータ7は、ECU6からの制御信号に基づいて、車両Mの操舵角を変化させるアクチュエータである。操舵アクチュエータ7は、例えば、電動パワーステアリングシステムのアシストモータ等によって構成されていてもよい。
【0029】
次に、図3及び図4も参照して、ECU6の機能的構成について説明する。ECU6は、旋回半径算出部11と、目標経路生成部12と、操舵制御部13と、備えている。
【0030】
旋回半径算出部11は、車速検出部2が検出した車速Vに基づいて、車両Mが旋回した場合に車両Mに作用する最大横加速度が基準横加速度Gmaxよりも小さくなる基準旋回半径Rを算出する。具体的には、基準旋回半径Rは、次の式(1)により算出することができる。
【数1】

基準横加速度Gmaxの値は、例えばECU6のROMに記憶されており、旋回半径算出部11により参照される。基準横加速度Gmaxは、例えば、安全性や乗り心地の観点等から経験的に又は実験的に設定される。例えば、当該値を超えた場合にドライバが不快に感じる値が基準横加速度Gmaxとして設定されてもよいし、当該値を超えた場合に車両Mの車両挙動が不安定になってしまう値が基準横加速度Gmaxとして設定されてもよい。車両挙動を考慮して基準横加速度Gmaxを設定する場合、バスやトラック等の重心が高い車両Mにおいては、より車両挙動が不安定となりやすい点を考慮することが好ましい。
【0031】
目標経路生成部12は、車線DLを走行している車両Mを停車予定位置Bに停車させるための目標経路Cを生成する。目標経路Cは、車線DLに対する偏揺角度である目標偏揺角度ψにより与えられる。目標経路生成部12は、旋回半径算出部11が算出した基準旋回半径R、横距離検出部4が検出した横距離Y、及び縦距離検出部5が検出した縦距離L、から、目標偏揺角度ψを算出する。また、目標経路生成部12は、旋回半径算出部11が算出した基準旋回半径Rにて車両Mが旋回した場合の車線DLに対する最大偏揺角度を、目標偏揺角度ψとする。
【0032】
ここで、目標経路Cの算出原理について、詳しく説明する。
【0033】
まず、図3に示すように、旋回開始予定位置Aから停車予定位置Bまでを、第一経路C1、第二経路C2、第三経路C3の3つの仮想経路に分ける。第一経路C1は、旋回開始予定位置Aから基準旋回半径Rで旋回する経路である。第二経路C2は、第一経路C1に続いて車線DLに対して傾斜する方向に直進する経路である。第三経路C3は、第二経路C2に続いて基準旋回半径Rで旋回して停車予定位置Bに至る経路である。そして、第二経路C2において直進する方向を、目標偏揺角度ψとする。
【0034】
この場合、縦距離Lは、図3の幾何学的関係から、次の式(2)により算出される。
【数2】

加法定理により式(2)を変形すると、次の式(3)が得られる。
【数3】

式(2)に式(3)を代入し、これを二次方程式として解くと、次の式(4)が得られる。
【数4】

また、横距離Yの半分までで旋回運動を終わらせるとすると、次の式(5)が得られる。横距離Yの半分までで旋回運動を終わらせるとは、車線DLと直交する方向において、第一経路C1の終点を、旋回開始予定位置Aと停車予定位置Bの中央位置よりも旋回開始予定位置A側の位置とすることを意味する。
【数5】

加法定理により、次の式(6)が得られる。
【数6】

式(5)に式(6)を代入すると、次の式(7)が得られる。
【数7】

ここで、基準旋回半径Rの範囲は、次の式(8)の範囲となる。
【数8】

式(8)を満たす角度(ψ/2)は、図4に示す角度αよりも小さいことになる。図4から、角度αは次の式(9)の関係となる。
【数9】

従って、式(7)を満たす角度(ψ/2)は、以下の式(10)を満たすことになる。
【数10】

そして、式(4)と式(9)とを合わせると、次の式(11)が得られる。
【数11】

式(11)を二乗して整理すると、次の式(12)が得られる。
【数12】

式(12)の左辺は、式(4)の平方根内の式であることから、正となる。このため、目標偏揺角度ψは、次の式(12)により得られる。
【数13】

式(13)から分かるように、目標偏揺角度ψは、基準旋回半径R、横距離Y及び縦距離Lの関数となる。
【0035】
そこで、目標経路生成部12は、式(13)から、基準旋回半径R、横距離Y及び縦距離Lに基づく目標偏揺角度ψを算出する。そして、目標経路生成部12は、この算出した目標偏揺角度ψを目標経路として生成する。
【0036】
ところで、式(13)で算出した目標偏揺角度ψを目標経路とし続けると、車両Mは路肩の縁石Sに衝突する。そこで、目標経路生成部12は、縦距離検出部5が検出した縦距離が基準縦距離以下になると、目標偏揺角度ψを0°とする。目標偏揺角度ψが0°とは、車両Mの向きが車線DLと平行になることをいう。基準縦距離としては、例えば、Rtan(ψ/2)とすることができる。なお、横距離検出部4が検出した横距離が基準横距離以下になった場合に、目標偏揺角度ψを0°としてもよい。この場合、基準横距離としては、例えば、X/4とすることができる。
【0037】
操舵制御部13は、目標経路生成部12が生成した目標経路(目標偏揺角度ψ)を目標として車両Mの操舵制御を行う。具体的には、操舵制御部13は、目標経路生成部12が生成した目標経路に車両Mが近づくように、車両Mの操舵制御を行う。車両Mの操舵制御は、操舵アクチュエータ7を駆動制御することにより行う。
【0038】
次に、図5を参照して、本実施形態の操舵制御装置1による操舵制御方法について説明する。なお、ECU6は、所定の周期で処理を実行する。但し、処理の遅延等によって、開始から終了に至るまでの処理の途中で次の処理を開始する場合、ECU6は、現在の処理を終了して次の処理を開始してもよい。
【0039】
まず、旋回半径算出部11は、車速検出部2が検出した車速Vを取得する(S1)。そして、旋回半径算出部11は、取得した車速Vに基づいて、基準旋回半径Rを算出する(S2)。基準旋回半径Rは、上述した式(1)から算出される。
【0040】
次に、目標経路生成部12は、旋回半径算出部11が算出した基準旋回半径R、横距離検出部4が検出した横距離Y、及び縦距離検出部5が検出した縦距離L、を取得する(S3)。そして、目標経路生成部12は、取得した基準旋回半径R、横距離Y及び縦距離Lに基づいて、目標偏揺角度ψを算出する(S4)。目標偏揺角度ψは、上述した式(13)から算出される。
【0041】
次に、操舵制御部13は、縦距離検出部5が検出した縦距離が基準縦距離以下であるか否かを判定する(S5)。
【0042】
そして、基準縦距離以下ではないと判定した場合(S5:NO)、操舵制御部13は、目標経路生成部12が生成した目標経路(目標偏揺角度ψ)を目標として車両Mの操舵制御を行う(S6)。一方、基準縦距離以下であると判定した場合(S5:YES)、操舵制御部13は、目標偏揺角度ψを0°に設定変更して(S7)、目標経路(目標偏揺角度ψ)を目標として車両Mの操舵制御を行う(S6)。
【0043】
次に、操舵制御部13は、車両Mが停車予定位置Bに到達したか否かを判定する(S8)。車両Mが停車予定位置Bに到達したか否かの判定は、横距離検出部4が検出した横距離及び縦距離検出部5が検出した縦距離の何れもがゼロ又は略ゼロになったか否かにより判断する。
【0044】
そして、停車予定位置Bに到達していないと判定した場合(S8:NO)、操舵制御部13は、ステップS1に戻り、再度上述した処理を繰り返す。この場合、ステップS2及びステップS4の処理は省略してもよい。一方、停車予定位置Bに到達したと判定した場合(S8:YES)、操舵制御部13は、操舵制御処理を終了する。
【0045】
このように、本実施形態に係る操舵制御装置1では、車線DLに対する偏揺角度である目標偏揺角度ψが目標経路として生成される。このため、目標経路が具体的な経路として生成される場合に比べて、車両Mの操舵自由度が高くなる。これにより、急な操舵が行われる可能性が低くなるため、乗客の乗り心地が悪くなるのを抑制することができる。
【0046】
また、旋回する車両Mに作用する最大横加速度は車速Vと相関があり、停車予定位置Bに至るまでに乗客の乗り心地が悪くならない車両Mの旋回半径は、横距離Y及び縦距離Lと相関がある。そこで、車速V、横距離Y及び縦距離Lから目標偏揺角度ψを算出することで、車両Mが旋回した場合に車両Mに作用する最大横加速度を基準横加速度Gmaxよりも小さくすることができる。このため、この目標偏揺角度ψを目標として車両の操舵制御を行うことで、旋回時に乗客の乗り心地が悪くなるのを抑制することができる。
【0047】
また、基準旋回半径Rにて車両Mが旋回した場合の車線DLに対する最大偏揺角度を目標偏揺角度ψとするため、旋回時に乗客の乗り心地が悪くなるのを更に抑制することができる。
【0048】
また、旋回開始予定位置Aから基準旋回半径Rで旋回するとともに基準旋回半径Rで旋回して停車予定位置Bに至ることを想定して目標偏揺角度ψを算出するため、目標偏揺角度ψを容易に算出することができる。
【0049】
また、第一経路C1の終点が旋回開始予定位置Aと停車予定位置Bの中央位置よりも旋回開始予定位置A側に位置するため、第二経路C2を、第一経路C1及び第三経路C3の接線とすることができる。これにより、旋回時に乗客の乗り心地が悪くなるのを更に抑制することができるとともに、車両Mの旋回と直進との切り替えを円滑にすることができる。
【0050】
また、縦位置が基準縦距離以下になると目標偏揺角度を0°とするため、車両Mを円滑にバス停留所などの停車予定位置Bに正着させることができる。
【0051】
また、操舵制御部13が、目標経路生成部12が生成した目標経路を目標として車両Mの操舵制御を行うため、乗客の乗り心地が悪くなるのを抑制することができる。
【0052】
また、操舵制御部13が、目標経路に近づけるように車両Mの操舵制御を行うため、目標経路から外れたとしても目標経路に戻るために急な操舵が行われるのを抑制することができる。これにより、乗客の乗り心地が悪くなるのを更に抑制することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
例えば、上記実施形態では、旋回開始予定位置における車両の車速として、現在の車速を用いるものとして説明したが、旋回開始予定位置における車両の車速は、現在の車速から予測した車速を用いてもよい。また、上記実施形態では、第一経路と第三経路とは、同じ基準旋回半径で旋回するものとして説明したが、第三経路では車速が小さくなるため、第三経路での旋回半径として、基準旋回半径よりも小さい旋回半径を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…操舵制御装置、2…車速検出部、3…車線検出部、4…横距離検出部、5…縦距離検出部、6…ECU、7…操舵アクチュエータ、11…旋回半径算出部、12…目標経路生成部、13…操舵制御部、A…旋回開始予定位置、B…停車予定位置、C…目標経路、C1…第一経路、C2…第二経路、C3…第三経路、DL…車線、L…縦距離、M…車両、R…基準旋回半径、S…路肩の縁石、W…白線、Y…横距離、ψ…目標偏揺角度。
図1
図2
図3
図4
図5