【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 閲覧場所:独立行政法人日本スポーツ振興センター管理部調達管財課、閲覧期間:2015年12月14日から1か月間。 アドレス:http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/tabid/490/Default.aspx、ウェブサイト掲載日:2015年12月14日。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多くの階層に斜梁を備えている建築構造物においては、斜梁がブレースとして構造を強化するように作用するため、制振構造を導入するのが難しい。特にスタジアムなどのセットバックした建築構造物においては、例えば段床部の形成等の目的のため、斜梁は低層部を含む多くの階層に備えられており、上記したようなソフトファーストストーリー制振の導入も容易ではない。したがって、施工が長期化し、施工コストが嵩みがちな免震構造を、地震対策構造として採用せざるを得ない。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、制振構造を導入して施工コストを低減できる、斜梁を備えた建築構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明による斜梁を備えた建築構造物は、柱と水平梁を備えた柱梁架構と、水平面に対し斜め方向に延在して設けられ、前記柱梁架構により支持された斜梁と、を備え、前記斜梁に接合されている複数の前記柱と複数の前記水平梁とのいずれか一方または双方の一部には、目地が介在されて前記斜梁が縁切りされており、前記目地が介在された前記柱と前記水平梁とのいずれか一方または双方に対応する階層には、制振装置が設けられている。
このような構成によれば、斜梁と柱や水平梁との間が目地により縁切りされているため、斜梁がブレースとして作用しない。そのため、斜梁が設けられた階層においても、当該階層より上層の構造を揺らしつつ、当該階層に設置された制振装置により地震エネルギーを吸収する制振構造を導入可能となる。したがって、免震構造を導入する場合に比べると、免震層が不要となるので掘削土量や免震関係工事量を低減可能である。
また、制振構造における、例えばオイルダンパー等の制振装置は、柱や水平梁の建て方と同時に設置することが可能であるため、施工期間への影響が少ない。
以上により、施工期間を短縮し、施工コストを低減することができる。
【0011】
本発明の一態様においては、前記目地は、一階、二階を含む低階層の前記柱と前記水平梁とのいずれか一方または双方に設けられている。
このような構成によれば、地震による変形を目地が設けられた一階、二階を含む低階層に集中させることにより、ソフトファーストストーリー制振を導入することが可能となる。すなわち、より上層の階層においては、制振装置の設置や目地の介在が基本的には不要である。したがって、施工コストを低減することができる。
【0012】
本発明の一態様においては、前記目地は、一方の部材が前記目地の反対側の部材に対して水平方向に相対移動可能に設けられており、前記目地にはすべり支承が介装されている。
このような構成によれば、一方の部材が前記目地の反対側の部材に対して水平方向に相対移動可能に設けられた目地の、上に位置する柱や水平梁の下面と、下に位置する柱や水平梁の上面との間に、すべり支承が介装されることにより、斜梁の縁切りを実現しつつ、目地の上下の構造躯体間で荷重を確実に伝達することができる。これにより、強靭な躯体を実現することが可能となる。
【0013】
本発明の一態様においては、前記制振装置が複数の階層に設けられている。
このような構成によれば、複数の階層で地震エネルギーを吸収することが可能となる。これにより、一階層あたりの建築構造物の変形量を小さくしつつ、効果的に建築構造物の揺れを低減することが可能となる。
【0014】
本発明の一態様においては、前記目地が前記水平梁に設けられ、前記水平梁は、第1及び第2の水平部材を備え、該第1の水平部材は下方に開放された切欠き部を備え、前記第2の水平部材は上方に開放された切欠き部を備え、前記第1の水平部材の切欠き部の下面を、前記第2の水平部材の切欠き部の上面に対向させて、前記目地が形成されている。
このような構成によれば、水平梁における目地の形成を合理的に行うことが可能となり、建築構造物の制振性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制振構造を導入して施工コストを低減できる、斜梁を備えた建築構造物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態として示した斜梁7(7A、7B、7C)を備えた建築構造物1の側断面図である。
【0019】
本実施形態、及び後述する本実施形態の変形例においては、建築構造物1が、グラウンド2を有するスタジアムである場合を説明するが、建築構造物1は斜梁7を備える他の施設であっても構わない。以下、
図1等に示される側面図において、グラウンド2側の方向を「前方」、その反対側を「後方」、前方と後方を結ぶ方向に水平面内で交差する方向を「横方向」と適宜称する。
【0020】
建築構造物1は、柱4(4A、4B、4C)と水平梁5(5A、5B、5C)を備えた柱梁架構3を備えている。柱4は、基礎6上に立設されている。水平梁5は、隣接する柱4間に、水平方向Xに架設されている。柱4の高さは、建築構造物1のグラウンド2に向かう方向、すなわち前方に進むに従い、低くなっている。これにより、建築構造物1は、低層部ほど柱の数が多い中低層構造物となっている。
【0021】
本実施形態においては、柱4は基本的に鋼管柱4Bや鉄骨鉄筋コンクリート柱4Cであるが、後述するような、目地を備えた一部の柱のみ、鉄筋コンクリート柱4Aとして製作されている。また、水平梁5は鉄骨製である。本実施形態においては、各水平梁5の上に図示されない床スラブが形成されており、これにより、1階9Aから7階9Gまでの各階層9(9A、9B、9C、9D、9E、9F、9G)が形成されている。
【0022】
上記のような柱梁架構3の最上段には、屋根8が設けられている。また、柱梁架構3に支持されるように、斜梁7(7A、7B、7C)が、水平面に対し斜め方向に延在して設けられている。斜梁7上には、
図2に示されるように、床面が後方に向けて階段状にせりあがるように、段床部10(10A、10B)が設けられており、段床部10上には、観客席11が設けられている。
【0023】
本実施形態においては、斜梁7は鉄骨鉄筋コンクリート製である。また、斜梁7は、
図1に示されるように、最も前方に位置する前方斜梁7A、低層部の斜梁7B、及び2本の中高層部の斜梁7Cを備えており、前方からこの順で設けられている。
【0024】
前方斜梁7Aは、斜梁7のうち、最も前方に位置している斜梁7である。本実施形態においては、前方斜梁7Aによって、1階9Aの段床部10の下側が形成されている。前方斜梁7Aは、後述する低層部の斜梁7B、中高層部の斜梁7Cの各々が接続されている柱4とは、水平梁5によって接続されていない。したがって、前方斜梁7Aを備える構造躯体は、低層部の斜梁7B、中高層部の斜梁7Cを備える構造躯体とは、異なる構造躯体として構成されている。
【0025】
低層部の斜梁7Bは、前方斜梁7Aの後方に位置している斜梁7である。低層部の斜梁7Bは、前方斜梁7Aと略同等の傾斜角で、前方斜梁7Aの後方端部7cの後方に、前方斜梁7Aが間隔20を空けて延在するように設けられている。前方斜梁7Aと低層部の斜梁7Bの間には、
図2を用いて後述するように、段床部10が連続して形成されている。
【0026】
本実施形態においては、低層部の斜梁7Bによって、1階9Aの上側と、2階9Bの段床部10が形成されている。低層部の斜梁7Bの前方端部7aは鉄筋コンクリート柱4Aによって、後方端部7cは鋼管柱4Bによって、それぞれ支持されている。また、低層部の斜梁7Bの中央近傍7bには、2階9Bの床スラブを構成する2階の水平梁5Aが、後方端部7cには、3階9Cの床スラブを構成する3階の水平梁5Bが、それぞれ接合されている。
【0027】
2本の中高層部の斜梁7Cは、低層部の斜梁7Bの後方に位置している斜梁7である。2本の中高層部の斜梁7Cは、低層部の斜梁7Bと略同等の傾斜角で、低層部の斜梁7Bの後方端部7cの後方に設けられている。
【0028】
本実施形態においては、2本の中高層部の斜梁7Cの内の、一方によって3階9Cと4階9Dの段床部が、及び、他方によって5階9Eから7階9Gの段床部が、それぞれ形成されている。中高層部の斜梁7Cの各々は、鋼管柱4Bまたは鉄骨鉄筋コンクリート柱4Cによって支持されており、中高層部の水平梁5Cが接合されている。
【0029】
前方斜梁7A、低層部の斜梁7B、及び、2本の中高層部の斜梁7Cの各々は、上記のように柱梁架構3に接合されており、各斜梁7同士は直接には接合されていない。
【0030】
斜梁7、特に本実施形態においては、低層部の斜梁7Bに接合されている複数の柱4A、4Bと複数の水平梁5A、5Bの双方の一部、すなわち鉄筋コンクリート柱4Aと2階の水平梁5Aには、斜梁7Bとの接合部近傍に目地21、22が介在されて斜梁7Bが縁切りされている。以下、本構造を詳細に説明する。
【0031】
図2は、
図1のA矢視部分の拡大図である。上記のように、低層部の斜梁7Bは、前方斜梁7Aの後方端部7cの後方に、前方斜梁7Aと間隔20を空けて設けられている。
【0032】
低層部の斜梁7Bの前方端部7aは、鉄筋コンクリート柱4Aによって支持されている。鉄筋コンクリート柱4Aは、上側に位置する上側柱23と、下側に位置する下側柱24を備えている。上側柱23の下面23aと、下側柱24の上面24aは、互いに間隔をおいて対向するように設けられており、これにより、目地21が、上側柱23の下面23aと下側柱24の上面24aの間に、一方の部材が目地21の反対側の部材に対して水平方向に相対移動可能に設けられている。
【0033】
上側柱23の下面23aの下には、すべり支承25が接合されている。すべり支承25は、金属板25bの一方の表面に、4フッ化エチレン樹脂などによりすべり材層25aが形成されたものである。すべり支承25は、すべり材層25aを下側に向けて、金属板25bの、すべり材層25aが形成されていない表面を上側柱23の下面23aに対向、接触させて位置づけられている。すべり支承25は、一端が上側柱23内に埋設され、他端が下面23aから下方向に露出した鉄筋26が、金属板25bの図示されない孔を挿通し、その先端にナットが螺着されることによって、上側柱23に固定されている。
【0034】
下側柱24の上面24aの上にも、すべり支承25が接合されている。すべり支承25は、すべり材層25aを上側に向けて、金属板25bの、すべり材層25aが形成されていない表面を下側柱24の上面24aに対向、接触させて位置づけられている。すべり支承25は、一端が下側柱24内に埋設され、他端が上面24aから上方向に露出した鉄筋26が、金属板25bの図示されない孔を挿通し、その先端にナットが螺着されることによって、下側柱24に固定されている。
【0035】
このように、目地21には2つのすべり支承25が介装されている。上側柱23のすべり支承25のすべり材層25aと、下側柱24のすべり支承25のすべり材層25aは、互いに接触して設けられている。
【0036】
前方斜梁7Aの上には、コンクリート製の第1段床支持部12Aを介して、第1段床部10Aが形成されている。また、前方斜梁7Aの後方に位置する低層部の斜梁7Bの上には、同じくコンクリート製の第2段床支持部12Bを介して、第2段床部10Bが形成されている。
【0037】
第1段床支持部12Aと第2段床支持部12Bの間には、前方斜梁7Aと低層部の斜梁7Bの間に設けられた間隔20が上方に延在して介在している。第2段床部10Bの最前端は、間隔20と、第1段床部10Aの最後端の上方を覆うように前方へ突出している。第2段床部10Bの最前端の下面と、第1段床部10Aの最後端の上面の間には、段床部目地27が形成されている。
【0038】
観客席11は、基本的には下面11aが支持材28によって支持されて、第1段床部10A、第2段床部10Bの上面に固定されているが、上記のように前方へ突出した第2段床部10Bの最前端部分においては、その前側の側面10aに、観客席11の背面11bに固定された背面支持材29が固定されることによって、観客席11が支持されている。
【0039】
図3は、
図1のB矢視部分の拡大図である。2階の水平梁5Aは、後方に位置する第1水平部材40と、前方に位置する第2水平部材41を備えている。
【0040】
第1水平部材40は、上記のように鉄骨製であり、鉛直平面内に位置して前後方に延在するウェブ40aと、ウェブ40aの上下端の各々にウェブ40aに垂直に接合された、上フランジ40b、下フランジ40cを備えている。
【0041】
第1水平部材40は、下方に開放された切欠き部を備えている。詳細には、第1水平部材40のウェブ40aの高さ幅は、ウェブ40aの下側が前方端部において矩形形状に切り欠かれることにより小さくなっており、ウェブ40aの切り欠かれた部分の下端には、切欠上板40dがウェブ40aに垂直に接合されている。
【0042】
切欠上板40dの下側において、ウェブ40aの切り欠かれた部分の先端には、切欠側板40gが、ウェブ40a、下フランジ40c、切欠上板40dの各々に垂直に接合されている。切欠側板40gの上方には、切欠上板40dの上側に切欠側板40gが延在するように、中間補強板40fが設けられている。
【0043】
切欠上板40dの上側において、ウェブ40aの、切欠側板40gよりも更に前方に突出している突出部40iの先端には、先端補強板40eが、ウェブ40a、上フランジ40b、切欠上板40dの各々に垂直に接合されている。
【0044】
第1水平部材40は、
図1に示されるように、鋼管柱4B及び鉄骨鉄筋コンクリート柱4Cに接合されている。
【0045】
第2水平部材41は、第1水平部材40と同様に鉄骨製であり、鉛直平面内に位置して前後方に延在するウェブ41aと、ウェブ41aの上下端の各々に垂直に接合された、上フランジ41b、下フランジ41cを備えている。
【0046】
第2水平部材41は、上方に開放された切欠き部を備えている。詳細には、第2水平部材41のウェブ41aの高さ幅は、ウェブ41aの上側が後方端部において矩形形状に切り欠かれることにより小さくなっており、ウェブ41aの切り欠かれた部分の上端には、切欠下板41dがウェブ41aに垂直に接合されている。
【0047】
切欠下板41dの上側において、ウェブ41aの切り欠かれた部分の先端には、切欠側板41gが、ウェブ41a、上フランジ41b、切欠下板41dの各々に垂直に接合されている。切欠側板41gの下方には、切欠下板41dの下側に切欠側板41gが延在するように、中間補強板41fが設けられている。
【0048】
切欠下板41dの下側において、ウェブ41aの、切欠側板41gよりも更に後方に突出している突出部41iの先端には、先端補強板41eが、ウェブ41a、下フランジ41c、切欠下板41dの各々に垂直に接合されている。
【0049】
第2水平部材41の前方端部は、低層部の斜梁7Bに接合されている。
【0050】
第1水平部材40と第2水平部材41は、互いの切欠き部に突出部40i、41iが位置するように、対向して設けられている。具体的には、第1水平部材40と第2水平部材41は、切欠側板40gの前方表面と先端補強板41eの後方表面、切欠上板40dの下面40hと切欠下板41dの上面41h、及び、先端補強板40eの前方表面と切欠側板41gの後方表面の各々が、互いに対向するように設けられている。第1水平部材40と第2水平部材41の、上フランジ40bと上フランジ41bは、同一水平面内に位置している。下フランジ40cと下フランジ41cも同様に、同一水平面内に位置している。
【0051】
切欠側板40gの前方表面と先端補強板41eの後方表面の間には、縦目地43が形成されており、先端補強板40eの前方表面と切欠側板41gの後方表面の間には、縦目地44が形成されている。また、切欠上板40dの下面40hと切欠下板41dの上面41hの間には、目地22が、一方の部材が目地22の反対側の部材に対して水平方向に相対移動可能に設けられている。すなわち、第1水平部材40の切欠き部の下面40hを、第2水平部材41の切欠き部の上面41hに対向させて、目地22が形成されている。
【0052】
目地22には、目地21と同様に、すべり支承25が介装されている。より具体的には、第1水平部材40の切欠上板40dの下面40hの下に、すべり支承25が接合されている。すべり支承25は、すべり材層25aを下側に向けて、金属板25bの、すべり材層25aが形成されていない表面を切欠上板40dの下面40hに対向、接触させて位置づけられている。すべり支承25は溶接などによって、切欠上板40dの下面40hに固定されている。
【0053】
第2水平部材41の切欠下板41dの上面41hの上には、すべり板42が溶接されて設けられている。すべり板42の上面は、第1水平部材40の切欠上板40dの下面40hに設けられたすべり支承25のすべり材層25aと接触するように設けられている。
【0054】
図1に示されるように、目地21は、1階9Aの鉄筋コンクリート柱4Aに設けられている。また、目地22は、2階9Bの床スラブが形成される2階の水平梁5Aに設けられている。このように、目地21、22は、一階9A、二階9Bを含む低階層の柱4Aと水平梁5Aの双方に設けられている。
【0055】
建築構造物1は、各階に、ブレース15(15A、15B)を備えている。ブレース15は、2本が組となり、柱梁架構3に対して斜めになるように、なおかつ、2本の各々の下端が互いに対向して接合されている。これにより、2本のブレース15は略V字形状をなしている。
【0056】
4階9D、5階9E、及び6階9Fのブレース15Bに関しては、上端は柱4と水平梁5の接合部に、下端は水平梁5の上面に、各々接合されている。1階9A、2階9B、及び3階9Cのブレース15Aに関しては、上端は柱4と水平梁5の接合部に、下端は例えばオイルダンパー等の制振装置16を介して、水平梁5の上面に、各々接合されている。
【0057】
このように、制振装置16が複数の階層9A、9B、9Cに設けられている。上記のように、1階9Aの鉄筋コンクリート柱4Aと2階9Bの水平梁5Aには、目地21、22が介在されている。すなわち、目地21、22が介在された柱4Aと水平梁5Aに対応する階層9A、9Bには、制振装置16が設けられている。
【0058】
次に、上記の実施形態として示した、斜梁7を備えた建築構造物1の作用、効果について説明する。
【0059】
地震が発生して横方向の揺れが発生した場合には、基礎6及び各階の水平梁5が、横方向に、互いに相対的に移動しようとする。
【0060】
基礎6と、2階9Bの床スラブを構成する2階の水平梁5Aの間には、低層部の斜梁7Bが、基礎6に対しては鉄筋コンクリート柱4Aを介して、また、2階の水平梁5Aに対しては直接、接合されている。ここで、鉄筋コンクリート柱4Aと2階の水平梁5Aには、それぞれ、すべり支承25が介在された目地21、22が設けられているため、目地21、22の前方上側に位置する、低層部の斜梁7B、上側柱23と第2水平部材41からなる構造体は、目地21の反対側に位置する、下側柱24が接合された基礎6と、目地22の反対側に位置する、第1水平部材40すなわち2階の水平梁5Aの主要部分の間の、相対移動を阻害しない。
【0061】
図2に示されるように、低層部の斜梁7Bと、その前方に位置する前方斜梁7Aの間には、間隔20が設けられており、第1段床部10Aと第2段床部10Bの間には、段床部目地27が設けられている。更に、第1水平部材40と第2水平部材41の間には、
図3に示されるように、縦目地43、44が設けられている。
【0062】
これにより、基礎6と2階の水平梁5Aは、低層部の斜梁7Bに阻害されることなく、容易に相対移動することが可能である。
【0063】
この、基礎6と2階の水平梁5Aの間に作用する地震エネルギーは、基礎6と2階の水平梁5Aの間に設けられたブレース15A下端の、制振装置16によって吸収される。
【0064】
また、2階9Bの床スラブを構成する2階の水平梁5Aと、3階9Cの床スラブを構成する3階の水平梁5Bの間には、各々に対して直接、低層部の斜梁7Bが接合されている。ここで、2階の水平梁5Aには、すべり支承25が介在された目地22が設けられているため、目地22の前方に位置する、低層部の斜梁7Bと第2水平部材41からなる構造体は、目地22の反対側に位置する、第1水平部材40すなわち2階の水平梁5Aの主要部分と、低層部の斜梁7Bが剛に接合された3階の水平梁5Bの間の、相対移動を阻害しない。すなわち、2階の水平梁5Aと3階の水平梁5Bは、容易に相対移動することが可能である。
【0065】
この、2階の水平梁5Aと3階の水平梁5Bの間に作用する地震エネルギーは、2階の水平梁5Aと3階の水平梁5Bの間に設けられたブレース15A下端の、制振装置16によって吸収される。
【0066】
更に、低層部の斜梁7Bは、その後方端部7cが3階9Cの床スラブを構成する3階の水平梁5Bに接合されており、4階9D以上に位置する水平梁5Cには接合されていない。すなわち、低層部の斜梁7Bは、3階の水平梁5Bと4階9D以上の階層の層間移動を阻害しない。
【0067】
この、3階の水平梁5Bと4階9D以上に位置する水平梁5Cの間に作用する地震エネルギーは、3階の水平梁5Bと直上の水平梁5Cの間に設けられたブレース15A下端の、制振装置16によって吸収される。
【0068】
このように、1階9A、2階9B、3階9Cにおいては、低層部の斜梁7Bと柱梁架構3の間に目地21、22により縁切りを行い、剛性を小さくするとともに、制振装置16を集中的に設置し、地震エネルギーを効率よく吸収する構造となっている。
【0069】
すなわち、斜梁7と柱4や水平梁5との間が目地21、22により縁切りされているため、斜梁7がブレースとして作用せず、斜梁7が設けられた階層においても、当該階層より上層の構造を揺らしつつ、当該階層に設置された制振装置16により地震エネルギーを吸収する制振構造を導入可能となる。
【0070】
他方、4階9D以上の階層においては、柱梁架構3と中高層部の斜梁7Cを剛に接合し、なおかつ、ブレース15を制振装置16を介在させずに設けているため、剛性が高い構造となっている。すなわち、地震による変形を目地が設けられた一階9A、二階9Bを含む低階層に集中させる、ソフトファーストストーリー制振を導入することが可能となっている。
【0071】
上記のように、建築構造物1においては制振構造が導入されており、免震構造を導入する場合に比べると、免震層が不要となるので、掘削土量や免震関係工事量を低減可能である。
【0072】
また、ソフトファーストストーリー制振が導入されているため、上層の階層においては、制振装置の設置や目地の介在が基本的には不要である。
【0073】
また、制振構造における、例えばオイルダンパー等の制振装置16は、柱4や水平梁5の建て方と同時に設置することが可能であるため、施工期間への影響が少ない。
【0074】
更に、制振装置16が設置されている階層においては、構造躯体を変形させて地震エネルギーを制振装置16が吸収することを目的としているため、柱4等の主要構造部材の断面が、他に比べると小さくなるように、設計されている。
【0075】
以上の理由により、施工期間を短縮し、施工コストを低減することができる。
【0076】
また、水平方向に設けられた目地21、22の、上に位置する上側柱23や第1水平部材40の下面と、下に位置する下側柱24や第2水平部材41の上面との間に、すべり支承25が介装されることにより、斜梁7Bの縁切りを実現しつつ、目地21、22の上下の構造躯体間で荷重を確実に伝達することができる。これにより、強靭な躯体を実現することが可能となる。
【0077】
また、建築構造物1は、上記のように複数の階層で地震エネルギーを吸収する構造を備えているため、一階層あたりの建築構造物の変形量を小さくしつつ、効果的に建築構造物の揺れを低減することが可能となる。
【0078】
また、
図3に示されるように、第1水平部材40の切欠き部の下面を、第2水平部材41の切欠き部の上面に対向させることにより、目地22が形成されている。すなわち、水平梁5における目地22の形成を合理的に行うことが可能となり、建築構造物の制振性能を高めることができる。
【0079】
図1に示されるように、建築構造物1は、低層部ほど柱の数が多い中低層構造物である。本実施形態において詳説した構造は、このような建築構造物1に用いても、地震対策として有効に機能する。
【0080】
なお、本発明の斜梁を備えた建築構造物は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0081】
例えば、上記実施形態においては、目地は、柱と水平梁の双方に介在されたが、斜梁の縁切りがなされるのであれば、柱あるいは水平梁のいずれか一方のみに介在されていても構わない。
【0082】
また、上記実施形態においては、柱は鉄筋コンクリート、鋼管柱や、鉄骨鉄筋コンクリート製であり、水平梁は鉄骨製であり、及び、斜梁は鉄骨鉄筋コンクリート製であったが、各々が、他の種類の部材によって製作されていて構わない。
【0083】
また、上記実施形態においては、
図3に示されるように、2階の水平梁5Aの目地22において、第1水平部材40の切欠上板40dの下面40hの下にすべり支承25が接合されており、かつ、第2水平部材41の切欠下板41dの上面41hの上に、すべり板42が接合されていたが、これに限られない。
例えば、第1水平部材40の切欠上板40dの下面40hの下にすべり板が接合され、第2水平部材41の切欠下板41dの上面41hの上にすべり支承25が接合されていてもよい。
あるいは、鉄筋コンクリート柱4Aの目地21と同様に、上下共にすべり支承25が接合されていても構わない。
【0084】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。