(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6833418
(24)【登録日】2021年2月5日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】リポ多糖、リポ多糖製造方法及びリポ多糖配合物
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20210215BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20210215BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20210215BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20210215BHJP
A61K 31/739 20060101ALI20210215BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20210215BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20210215BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20210215BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20210215BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20210215BHJP
【FI】
C08B37/00 P
C12P1/04 Z
C12P19/04 C
A23L33/135
A61K31/739
A61K8/73
A61Q19/00
A61P17/00
A23K10/16
A23K20/163
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-177830(P2016-177830)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2018-44038(P2018-44038A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年7月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年 7月 5日にウェブサイトのアドレス http://www.macrophi.co.jp/seihin/index.htmに発表
(73)【特許権者】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
(73)【特許権者】
【識別番号】390025210
【氏名又は名称】杣 源一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
【審査官】
神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/030938(WO,A1)
【文献】
特開2015−023832(JP,A)
【文献】
特開2010−241945(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/061102(WO,A1)
【文献】
特開平04−049240(JP,A)
【文献】
特開平06−090745(JP,A)
【文献】
特開平06−078756(JP,A)
【文献】
特開平04−099481(JP,A)
【文献】
特開平06−141849(JP,A)
【文献】
特開平06−263650(JP,A)
【文献】
特開平08−245702(JP,A)
【文献】
特開平10−101690(JP,A)
【文献】
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology,2009年,Vol.59, No.9,pp.2339-2345,DOI 10.1099/ijs.0.009241-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
A23K
A23L
A61K
C12P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パントエア・バガンスから得られることを特徴とするリポ多糖。
【請求項2】
パントエア・バガンスからリポ多糖を得ることを特徴とするリポ多糖製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のリポ多糖が配合されていることを特徴とするリポ多糖配合物。
【請求項4】
前記リポ多糖配合物が医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、又は浴用剤であることを特徴とする請求項3記載のリポ多糖配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポ多糖、リポ多糖製造方法及びリポ多糖配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
リポ多糖はグラム陰性菌の細胞壁の外膜成分のひとつである。最も初めはコレラ菌から発見され、強い炎症を誘導するエンドトキシンとして知られてきた(非特許文献1)。しかし近年、リポ多糖は、環境中にも普遍的に存在し、経口・経皮の自然摂取により、免疫の活性化ひいては、種々の疾患の予防改善効果があることが明らかとなった(非特許文献2)。このため健康食品や化粧品に配合するための、小麦から単離されたパントエア・アグロメランスのリポ多糖(特許文献1)、稲から単離されたエンテロバクター・アスブリエ(古くはパントエア属に分類)のリポ多糖(特許文献2)、柿から単離されたアセトバクター・オキシダンス由来のリポ多糖(特許文献3)が産業化されている。
【0003】
ところで、リポ多糖はリピドAと呼ばれる脂質に糖鎖(コア多糖、O抗原多糖等)が結合した基本構造を持つ。リポ多糖の生物活性は、免疫系細胞等の膜表面にあるリポ多糖受容体であるTLR4にリピドA部分が結合することで起こる。リピドAや糖鎖の構造は、TLR4に結合できる程度には保存されているが、由来する菌の種類により、少しずつ異なる。
【0004】
リピドAや糖鎖構造が異なることで化学的性質や体内での動態も違ってくるため、異なる菌由来の新たなLPS(リポ多糖)は、特徴を持つ食品や化粧品の開発に有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4026722号公報
【特許文献2】特許第5449834号公報
【特許文献3】特許第5603537号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Katsuya INADA、”◆エンドトキシンとは?”、[online]、[平成28年9月10日検索]、インターネット<http://www.asahi-net.or.jp/~CP6K-IND/whatendotoxin.html#label1>
【非特許文献2】C Kohchi、外5名、”Applications of lipopolysaccharide derived from Pantoea agglomerans(IP-PA1) for health care based on macrophage network theory”、Journal of Bioscience and Bioengineering、2006年12月、102(6)、p.485-496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新たなリポ多糖を見出し、食品や化粧品などに使用可能な原料として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明のリポ多糖は、パントエア・バガンスから得られることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る本発明のリポ多糖製造方法は、パントエア・バガンスからリポ多糖を得ることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る本発明のリポ多糖配合物は、請求項1記載のリポ多糖が配合されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る本発明のリポ多糖配合物は、前記リポ多糖配合物が医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、又は浴用剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のリポ多糖と異なる性格を有する優れたリポ多糖、及び該リポ多糖配合物を提供することができるので、食品、化粧品分野等において健康に寄与する商品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、林檎から単離したグラム陰性細菌からの抽出LPSのSDS電気泳動を示す図である。
【
図2】
図2は、林檎から単離したグラム陰性細菌LPSのマクロファージ活性化能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
無農薬・無肥料栽培の林檎からのグラム陰性細菌の単離
無農薬・無肥料栽培された林檎の果皮表面を生理食塩水で湿らせた綿棒でこすり、この綿棒を3mlの生理食塩水に浸して撹拌後、100μlを寒天培地に塗布した。菌溶液を塗布した寒天培地を、37℃で1日培養した。
【0015】
寒天培地に出現した菌コロニーについて、劉の反応、ブドウ糖発酵試験、オキシダーゼ(酸化酵素)活性試験、IDテスト・EB−20「ニッスイ」(日水製薬社)を用いて、異なる種類のグラム陰性菌を選択し、16S遺伝子配列解析を行って菌の同定を行った。同定の結果、パントエア属菌、シュードモナス属菌、カルトバクテリウム属菌の4種類の菌が確認された。
【実施例2】
【0016】
林檎から単離したグラム陰性細菌からのLPS抽出
実施例1で同定したうちの4菌株を液体培地に植菌してから、37℃で培養した。培養後、1.5mlの培養液を遠心分離し、沈殿を回収。沈殿物にTAE(0.04M:Tris・acetate、0.001M:EDTA)、アルカリ溶液を添加し60℃で70分処理した。熱処理後、フェノールクロロホルム溶液を加えてから、再度60℃で15分処理し、遠心分離してから、上清を回収、プロテイナーゼKを加えて60℃で60分処理した。その後、水、酢酸ナトリウム、エタノールを加え、遠心分離後、沈殿を回収し、水を加えてLPS簡易精製サンプルを調製した。抽出・簡易精製したLPSを電気泳動で確認した。
図1は、SDS電気泳動後のゲルを銀染色した後の写真である。レーンMは分子量マーカー、レーン○1、○8は精製した小麦から単離したグラム陰性細菌LPS、レーン○2から○7は、小麦、林檎、柚子から単離したグラム陰性細菌から簡易精製した6種のLPSを電気泳動している。この結果、レーン○5の林檎から単離したグラム陰性細菌3−4株(パントエア・バガンスと同定)由来のLPSが、その他のLPSに比較して、高分子量側LPSのサイズが小さいことがわかった。
【実施例3】
【0017】
林檎から単離したグラム陰性細菌LPSのマクロファージ活性化能
LPSはマクロファージ細胞に働きかける事で、体の免疫力を活性化する。そこで、実施例2と同様の4菌株のLPSについて、NO産生量を指標として、マクロファージ細胞の活性化能を評価した。
【0018】
マクロファージ細胞を、96穴平底プレートに8×10
4細胞/プレートになるように播種し、37℃で7時間インキュベートし細胞を接着させた。続いて、各ウエルに2倍用量のLPS簡易精製サンプルを加え、24時間37℃でインキュベートした。培養後、培養上清を別のプレートに移し、グリース試薬を加え、室温で10分インキュベートし、吸光度計で、NO産生量を計測した。
図2は、その結果を示す。被検LPSは小麦または林檎から単離したグラム陰性細菌から簡易精製した5種のLPSで、縦軸はそれらのLPSの刺激によりマクロファージから分泌されたNOの量を示す。
【0019】
この結果、林檎から単離したグラム陰性細菌由来のLPSはいずれもNO誘導能をもち、マクロファージ活性化能を持つことが示された。このうち、林檎菌3−4株(パントエア・バガンス)は、すでに産業化されている小麦由来パントエア・アグロメランスと同程度の活性化能を示した。
【実施例4】
【0020】
林檎から単離したグラム陰性細菌LPSの原料化
実施例2において、分子量分布が、従来のLPSと異なっていたパントエア・バガンス3−4株を選び、20Lジャーファンメンターで培養した。培地(Glycerol、酵母エキス、NH4Cl、K2HPO4、KH2PO4、FeSO4・7H2O、CaCl2・7H2O、MgSO4・7H2O)10Lに、パントエア・バガンスの前培養液を5%添加し、30℃、pH6.5〜7.0、200〜300rpm、通気量20L/minで、48時間培養した。培養液を加熱処理し、遠心分離した上清から徐々にLPSを精製した。具体的には、上清に活性炭を混和し、遠心分離で活性炭を除去した後に、さらにセライトろ過、膜ろ過を行って食品用LPS素材(FL)を調整した。さらにFLからエタノール沈殿を行い、沈殿物を回収、凍結乾燥を経て、化粧品用LPS素材(CL)を得た。
【実施例5】
【0021】
パントエア・バガンスLPS原料を配合した化粧水の製造
実施例4のように調整したパントエア・バガンスLPS化粧品用原料を1%配合した化粧水を製造した。全成分は下記のとおりである。
水、BG、グリセリン、ジグリセリン、パントエア/コメヌカ発酵エキス液、ヒアルロン酸Na、シロキクラゲ多糖体、ソルビトール、セリン、グリシン、グルタミン酸、アラニン、リシン、アルギニン、トレオニン、プロリン、ベタイン、PCA-Na、ポリオクタニウム-51、ポリソルベート-20、セルロースガム、PEG-150、1,2-ヘキサンジオール、クエン酸、クエン酸Na、乳酸Na、メチルパラベン、プロピルパラベン
この化粧水について100人の女性にモニタ試験を行ったところ、半数以上の女性が肌の保湿感が高まり、肌が柔らかくなったと回答し、スキンケア製品に対する有用性が示された。