(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レチノイドを、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への薬物送達を促進する成分として含む、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への薬物送達用担体と、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、皮膚移植片対宿主病(GVHD)を処置するための医薬組成物であって、
皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、HSP47に対する干渉核酸、リボザイム、およびアンチセンス核酸、これらを発現するベクター、またはこれらで形質転換された細胞である、前記医薬組成物。
皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体、ならびに、必要に応じてレチノイド以外の担体構成物質を、単独でまたは組み合わせて含む1つまたはそれ以上の容器を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物の調製キットであって、
皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、HSP47に対する干渉核酸、リボザイム、およびアンチセンス核酸、これらを発現するベクター、またはこれらで形質転換された細胞である、前記キット。
レチノイドを皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達促進成分として、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物を有効成分としてそれぞれ配合する工程を含む、皮膚移植片対宿主病(GVHD)を処置するための医薬組成物の製造方法であって、
皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、HSP47に対する干渉核酸、リボザイム、およびアンチセンス核酸、これらを発現するベクター、またはこれらで形質転換された細胞である、前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の1つの側面は、レチノイドを、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞(本明細書中で「標的細胞」と称することがある)への物質送達を促進する成分として含む、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体に関する。一態様において、本開示の担体は皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達を促進するための有効量のレチノイドを含む。また、本開示の担体の一態様は、レチノイドによって皮膚における細胞外マトリックス産生細胞に対する物質送達が促進される担体に関する。
【0013】
本開示において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、皮膚に存在する細胞外マトリックス産生能を有する細胞であり、例えば、皮膚に存在する線維芽細胞、周皮細胞、フィブロサイトおよび筋線維芽細胞を含む。皮膚に存在する細胞外マトリックス産生細胞は、皮膚に存在する細胞に由来するものばかりでなく、循環血液中のフィブロサイトに由来するものを含み得る。また、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、内皮間葉転換(EndoMT)により内皮細胞(例えば血管内皮細胞など)から転換された、または、上皮間葉転換(EMT)により上皮細胞(例えばケラチノサイトなど)から転換された、細胞外マトリックス産生細胞(例えば、線維芽細胞または筋線維芽細胞)であってもよい。
【0014】
皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、表皮、真皮および皮下組織からなる群から選択される1または2以上の部位に存在するものであってよい。一態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、真皮および/または皮下組織に存在する。一態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、皮膚の線維化病変に存在する。皮膚の線維化病変は、表皮、真皮および皮下組織からなる群から選択される1または2以上の部位に生じ得る。特定の態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、真皮および/または皮下組織の線維化病変に存在する。
【0015】
一態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、CRABP(cellular retinoic acid binding protein)を発現している。CRABPは、CRABP1およびCRABP2を含む。したがって、上記態様における細胞外マトリックス産生細胞は、CRABP1および/またはCRABP2を発現している。一態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、α−SMA(alpha-smooth muscle actin)を発現している。一態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、ビメンチンを発現している。一態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、HSP47(heat shock protein 47)を発現している。特定の態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞は、CRABPおよびHSP47を発現している。
【0016】
細胞におけるCRABP、α−SMA、ビメンチン、HSP47などのマーカーの発現は、例えば、同細胞における各マーカーの発現を検出することで確認することができる。CRABP1、CRABP2、α−SMA、ビメンチンおよびHSP47の遺伝子配列は既知であり、これらに対する抗体も開発されているため、その発現は、既知の核酸またはタンパク質検出手法、例えば、限定されずに、抗体を利用した免疫沈降法、EIA(enzyme immunoassay)(例えば、ELISA(emzyme-linked immunosorbent assay)など)、RIA(radio immuno assay)(例えば、IRMA(immunoradiometric assay)、RAST(radioallergosorbent test)、RIST(radioimmunosorbent test)など)、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、免疫細胞化学法、フローサイトメトリー法、CRABP1、CRABP2、α−SMA、ビメンチンまたはHSP47をコードする核酸もしくはそのユニークな断片または該核酸の転写産物(例えば、mRNA)もしくはスプライシング産物に特異的にハイブリダイズする核酸を利用した、種々のハイブリダイゼーション法、ノーザンブロット法、サザンブロット法、種々のPCR法などにより検出することができる。
【0017】
本開示において、「レチノイド」は、第1世代、第2世代および第3世代のレチノイドを含む、天然および合成のレチノイドを指す。天然に存在するレチノイドの例として、限定されないが、11−シス−レチナール、オール−トランスレチノール、パルミチン酸レチニル、オール−トランスレチノイン酸、および13−シス−レチノイン酸等が挙げられる。さらに、用語「レチノイド」は、レチノイン酸、レチノール、レチナール、ならびにそれらの誘導体およびアナログを包含する。一態様において、レチノイドは、4個のイソプレノイド単位がヘッド−トゥー−テイル式に連結した骨格を有する。
【0018】
レチノイドの非限定例としては、例えばレチノール(オールトランスレチノールを含む)、レチナール、レチノイン酸(トレチノインを含む)、レチノールと脂肪酸とのエステル、脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル、エトレチナート、イソトレチノイン、アダパレン、アシトレチン、タザロテン、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチノイン酸、レチナール、エトレチナート、イソトレチノイン、アシトレチン等の飽和誘導体などのレチノイド誘導体、およびフェンレチニド(4−HPR)、ベキサロテンなどのビタミンAアナログを挙げることができる。
【0019】
一態様において、レチノイドはレチノイン酸およびそのアナログ含む。一態様において、レチノイン酸アナログは、CRABP結合性である。CRABP結合性のレチノイン酸アナログの非限定例としては、例えば、SRI 2965-38、Ro 13-7410、Ro31-3689、St 80、SRI 6409-40、TTNN、TTAB、Ch 80、Az 80、Am 580、Am 555、Am 80、5,6−エポキシ−レチノイン酸、4−OH−レチノイン酸、4−オキソ−レチノイン酸、レチノイン酸グルクロニド、9−シス−レチノイン酸等が挙げられる(Trown et al., Cancer Res. 1980 Feb;40(2):212-20、Sani et al., Cancer Res. 1984;44(1):190-5、Lotan et al., Cancer Res. 1980;40(4):1097-102、Keidel et al., Eur J Biochem. 1993;212(1):13-26、Jetten et al., Cancer Res. 1987;47(13):3523-7など参照)。ある化合物のCRABPに対する結合性は、例えば、放射性標識したレチノイン酸を用いた競合結合アッセイなどにより決定することができる。
【0020】
レチノイドは、レチノイドと他の化合物とが結合したレチノイド結合体として存在してもよい。他の化合物は、前記レチノイドと同種のレチノイドであっても、前記レチノイドととは異なるレチノイドであっても、非レチノイド化合物(例えば、脂質など)であってもよい。レチノイドと他の化合物とは、縮合反応などにより直接結合していても、リンカーを介して結合していてもよい。
【0021】
一態様において、レチノイド結合体は、構造I
X−Y−Z I
式中、
Xはレチノイドまたは脂質であり、
Zはレチノイドであり、
Yはリンカーである、
を有する化合物である。
構造IにXおよびZとして含まれるレチノイドまたは脂質は、リンカーとの結合様式に応じて、遊離のレチノイドまたは脂質の一部であっても、リンカーとの付着点を提供するために、遊離のレチノイドまたは脂質に連結基を付加したものであってもよい。例えば、レチノイン酸と、末端にアミノ基を有するリンカーとを脱水縮合により結合させる場合、レチノイン酸の15位のカルボキシル基に含まれるOH基と、リンカーのアミノ基に含まれるHとが脱離するため、XおよびZはレチノイン酸からOH基を除いた部分となる。
【0022】
XおよびZは、それぞれ独立して1個または複数個のレチノイドを含んでもよい。XおよびZは、それぞれ独立して、例えば、1、2、3、4または5個のレチノイドを含んでもよい。Xおよび/またはZが複数個のレチノイドを含む場合、各レチノイドは同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
構造IにXとして含まれる脂質としては、限定されずに、例えば、1以上のアルキル鎖と、アミドを含む頭基とを含む脂質が挙げられる。特定の態様において、構造IにXとして含まれる脂質は、DODC、HEDODC、DSPE、DOPEおよびDC−6−14からなる群から選択される。
【0024】
本開示において、「リンカー」は、レチノイドを結合し得る任意のリンカーを含む。リンカーは直鎖状であっても分枝状であってもよい。一態様において、リンカーは化学結合である。化学結合は、単結合、二重結合および三十結合を含む。別の態様において、リンカーはポリエチレングリコール(PEG)を含む。PEGの平均分子量は特に限定されず、例えば、200〜5000、500〜3000、550〜2000等の範囲であってよい。PEGは、1個以上のアミド基および/またはアミノ基を含んでもよい。PEGは、リジン残基などの1個以上の連結基を含んでもよい。一態様において、PEGは、1個以上のアミド基および1個以上のリジン残基を含む。別の態様において、リンカーは、Glu、ヘキサノイル、Gly
3またはGluNHからなる群から選択される。
【0025】
一部の態様において、PEGは、ビス−アミド−PEG、トリス−アミド−PEG、テトラ−アミド−PEG、Lys−ビス−アミド−PEG−Lys、Lys−トリス−アミド−PEG−Lys、Lys−テトラ−アミド−PEG−Lys、Lys−PEG−Lysであってもよい。一部の態様において、PEGは、5〜50個、6〜40個、7〜30個、8〜25個、9〜20個、10〜15個などの繰り返し単位−CH
2CH
2O−を有する。
【0026】
以下に、XおよびZがそれぞれ2個のレチノイン酸であり、リンカーがLys−ビス−アミド−PEG−Lysである化合物の非限定例を示す。
【化1】
式中、q、r、sは、それぞれ独立して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。
【0027】
以下に、構造Iを有する化合物の非限定例を示す。
【表1】
【0031】
レチノイドまたはレチノイド結合体が立体異性体を含む場合、前記化合物は、その立体異性体のそれぞれ、または、立体異性体の任意の混合物を含む。レチノイドまたはレチノイド結合体はまた、1または2以上の置換基で置換されることもある。レチノイドまたはレチノイド結合体は、単離された状態のものはもちろんのこと、これを溶解または保持することができる媒体に溶解または混合した状態のレチノイドまたはレチノイド結合体をも含む。
【0032】
本開示の担体は、これらのレチノイドおよび/またはレチノイド結合体自体で構成してもよいし、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体を、これとは別の担体構成成分に結合または包含させることにより構成してもよい。したがって、本開示の担体は、レチノイドまたはレチノイド結合体以外の担体構成成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、特に限定されずに、医薬および薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体を包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。
【0033】
一態様において、レチノイドおよびレチノイド結合体以外の担体構成成分は脂質を含む。かかる脂質の非限定例としては、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類などが挙げられる。脂質のより具体的な例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどのステロール、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などが挙げられる。
【0034】
脂質はカチオン性脂質であっても、非カチオン性脂質、例えば、アニオン性脂質や中性脂質であってもよい。一態様において、担体はカチオン性脂質を含む。カチオン性脂質は、負の電荷を有する核酸分子などを細胞内に導入するのに特に有用である。別の態様において、担体はイオン化可能カチオン性脂質を含む。イオン化可能カチオン性脂質は、PKa以上のpHでは非イオン性であるが、PKaより低いpHでカチオン性となる性質を有する。一部の態様において、イオン化可能カチオン性脂質は3級アミンを有する。一部の態様において、イオン化可能カチオン性脂質のPKaは、7.0以上、7.5以上、7.6以上、7.8以上、8.0以上などであってよい。イオン化可能カチオン性脂質と区別するため、常時プラスに荷電されているカチオン性脂質を常時荷電カチオン性脂質と称することがある。
【0035】
脂質の別の非限定例としては、WO 2012/170952に記載された常時荷電カチオン性脂質およびPEG結合脂質(PEG−脂質)、WO 2013/185116に記載されたイオン化可能カチオン性脂質などが挙げられる。
前記常時荷電カチオン性脂質は、式I:
【化2】
式中、R
1およびR
2は独立して、C
10〜C
18アルキル、C
12〜C
18アルケニル、およびオレイル基からなる群から選択され、R
3およびR
4は独立して、C
1〜C
6アルキル、およびC
2〜C
6アルカノールからなる群から選択され、Xは、−CH
2−、−S−、および−O−からなる群から選択されるか、または不在であり、Yは、−(CH
2)
n、−S(CH
2)
n、−O(CH
2)
n−、チオフェン、−SO
2(CH
2)
n−、およびエステルから選択され、n=1〜4であり、a=1〜4であり、b=1〜4であり、c=1〜4であり、Zは対イオンである、
で表される化合物である。
【0036】
前記常時荷電カチオン性脂質の非限定例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0041】
前記PEG−脂質の非限定例としては、例えば1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DMPE)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DPPE)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DSPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DOPE)、PEGセラミドなどが挙げられる。PEGの分子量は特に限定されず、例えば、約200〜約5000、約500〜約3000、約550〜約2000、より具体的には、約550、約750、約1000、約1250、約2000等であってよい。PEGの非限定例としては、例えば、PEG550、PEG750、PEG1000、PEG1250、PEG2000等が挙げられる。
【0042】
前記イオン化可能カチオン性脂質は、式II:
【化3】
式中、nおよびmは、独立して、1、2、3または4であり、R
1およびR
2は、独立して、C
10〜C
18アルキルまたはC
12〜C
18アルケニルであり、Xは、−CH
2−、S、O、Nまたは不在であり、Lは、C
1〜4アルキレン、−S−C
1〜4アルキレン、−O−C
1〜4アルキレン、−O−C(O)−C
1〜4アルキレン、−S(O)
2−C
1〜4アルキレン、または
【化4】
であるか、
【化5】
と一緒になって
【化6】
である、
で表される化合物またはその薬学的に許容し得る塩である。
【0043】
前記イオン化可能カチオン性脂質の非限定例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0049】
上記脂質の製法はWO 2012/170952およびWO 2013/185116に記載されており、当業者であれば、これらの文献の記載に依拠して上記脂質を製造することができる。
【0050】
担体は、1種または2種以上の脂質を含んでいてもよい。一部の態様において、担体は、常時荷電カチオン性脂質とイオン化可能カチオン性脂質とを含む。イオン化可能カチオン性脂質を配合することにより、常時荷電カチオン性脂質による悪影響を低減することができる。特定の態様において、担体は、常時荷電カチオン性脂質、イオン化可能カチオン性脂質に加え、ヘルパー脂質、PEG−脂質およびステロールからなる群から選択される脂質を含む。担体に含まれる脂質の組合せの非限定例としては、例えば、脂質P2および脂質I8の組合せ、脂質P2、脂質I8、DOPE、コレステロールおよびPEG−DMPEの組合せ、DODC、DOPE、コレステロールおよびPEG−脂質の組合せ、脂質P9、DOPE、コレステロールおよびPEG−脂質の組合せ、DC−6−14、DOPEおよびコレステロールの組合せなどが挙げられる。担体に含まれる脂質の組合せの特定の非限定例としては、例えば、脂質P2:脂質I8(1:1のモル比)、脂質P2:脂質I8:DOPE:コレステロール:PEG−DMPE(4:4:6:5:1のモル比)、DODC:DOPE:コレステロール:PEG−脂質(25:5:19:1のモル比)、脂質P9:DOPE:コレステロール:PEG−脂質(25:5:19:1のモル比)、DC−6−14:DOPE:コレステロール(4:3:3のモル比)などが挙げられる。
【0051】
一態様において、レチノイドまたはレチノイド結合体以外の担体構成成分はポリマーを含む。かかるポリマーの非限定例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン(PEI)やポリリジン(例えば、ポリ−L−リジン(PLL))などのカチオン性ポリマー(ポリカチオン)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)などの非カチオン性ポリマーおよび/またはこれらの誘導体をベースとするものが挙げられる。
【0052】
本開示における担体は、特定の3次元構造を有してもよい。かかる構造としては、限定されずに、直鎖状または分枝状の線状構造、フィルム状構造、球状構造などが挙げられる。したがって、担体は、限定されずに、デンドリマー、デンドロン、ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などの任意の3次元形態を有してもよい。かかる担体の非限定例は、Marcucci and Lefoulon, Drug Discov Today. 2004 Mar 1;9(5):219-28、Torchilin, Eur J Pharm Sci. 2000 Oct;11 Suppl 2:S81-91等から知られている。
【0053】
本開示の担体は、カチオン性であっても、非カチオン性(例えば、アニオン性、ノニオン性、電気的に中性)であってもよい。一態様において、担体はカチオン性である。別の態様において、担体は、生理的条件下では電気的に中性(例えば、ゼータ電位が−10mV〜+10mVの範囲)であるが、エンドソーム内などの酸性条件下ではカチオン性となる。本開示の担体は、アルブミンおよび/または低密度リポタンパク質(LDL)に対する結合性を有していてもよい。また、担体は、担持する物質とリポプレックスまたはポリプレックスを形成し得るものであってもよい。リポプレックスは、例えば、カチオン性脂質と陰性電荷を有する物質(例えば、DNAやRNAなどの核酸)との間で、ポリプレックスは、例えば、ポリカチオンと陰性電荷を有する物質との間で、それぞれ形成され得る。
【0054】
担体は脂質構造体であってもよい。脂質構造体とは、任意の3次元構造、例えば、線状、フィルム状、球状などの形状を有する、脂質を構成成分として含む構造体を意味し、限定されずに、リポソーム、ミセル、脂質微小球、脂質ナノ小球、脂質エマルジョンなどを包含する。脂質構造体は、例えば、塩や、ショ糖、ブドウ糖、マルトース等の糖類、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコールなど、好ましくはショ糖やブドウ糖などの浸透圧調整剤を用いて浸透圧を調整することで、安定化させることができる。また、適度の塩や緩衝液などのpH調整剤を加えることによりpHを調整してもよい。したがって、脂質構造体の製造、保存などを、これらの物質を含む媒体中で行うことができる。この場合、浸透圧調整剤の濃度は、血液と等張になるように調整することが好ましい。例えば、ショ糖の場合、媒体中の濃度は、限定されずに、3〜15重量%、好ましくは5〜12重量%、より好ましくは8〜10重量%、特に9重量%であってもよく、ブドウ糖の場合は、媒体中の濃度は、限定されずに、1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%、より好ましくは4〜6重量%、特に5重量%であってもよい。
【0055】
本開示の担体へのレチノイドおよび/またはレチノイド結合体の結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイドおよび/またはレチノイド結合体を担体の他の構成成分に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。または、本開示の担体へのレチノイドおよび/またはレチノイド結合体の結合または包含は、該担体の作製時に、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体と、それ以外の担体構成成分とを混合することによっても可能となる。本開示の担体におけるレチノイドおよび/またはレチノイド結合体の量は、例えば、0.01〜1000nmol/μl、好ましくは0.1〜100nmol/μlとすることが可能である。また、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体と、レチノイドおよびレチノイド結合体以外の担体構成成分とを含む本開示の担体において、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体と、レチノイドおよびレチノイド結合体以外の担体構成成分とのモル比は、限定されずに、例えば、8:1〜1:4、または4:1〜1:2であってもよい。担体へのレチノイドおよび/またはレチノイド結合体の結合または包含は、該担体に送達物を担持させる前に行ってもよいし、担体、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体、および送達物を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、送達物を既に担持した状態の担体と、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体とを混合することなどによって行ってもよい。したがって、本開示はまた、既存の任意の薬物結合担体や薬物封入担体、例えば、DaunoXome(R)、Doxil、Caelyx(R)、Myocet(R)などのリポソーム製剤にレチノイドおよび/またはレチノイド結合体を結合させる工程を含む、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞に特異的な製剤の製造方法にも関する。
【0056】
レチノイドおよび/またはレチノイド結合体の、本開示の担体との結合または包含はまた、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体を、担体の他の成分と、化学的および/または物理的方法によって結合または包含することによっても実現できる。代替的に、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体の、本開示の担体との結合または包含はまた、形成親和性を有するレチノイドおよび/またはレチノイド結合体と担体の基本成分を、担体の調製の間に担体成分中に混合することにより行ってもよい。本開示の担体中に結合または包含されるレチノイドおよび/またはレチノイド結合体の量は、担体成分に対する重量比として、0.01%〜100%、好ましくは0.2%〜20%、より好ましくは1%〜5%であってよい。
【0057】
本開示の担体は、例えば、水性および非水性ゲル、クリーム、多重エマルジョン、マイクロエマルジョン、リポソーム、軟膏、水性および非水性溶液、ローション、エアゾール、炭化水素基剤および粉末を含んでよく、また可溶化剤、浸透促進剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコールおよびアミノ酸)、および親水性ポリマー(例えば、ポリカルボフィルおよびポリビニルピロリドン)などの賦形剤を含有することができる。一態様において、薬学的に許容し得る担体は、リポソームまたは経皮吸収促進剤である。既知のリポソームの例としては、以下が挙げられる:
・CellFectin、すなわち、カチオン性脂質N,N
I,N
II,N
III−テトラメチル−N,N
I,N
II,N
III−テトラパルミチル−スペルミンとジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)との、1:1.5(M/M)のリポソーム製剤(GIBCO BRL)、
・Cytofectin GSV、すなわち、カチオン性脂質とDOPEとの2:1(M/M)のリポソーム製剤(Glen Research)、
・DOTAP(N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)−N,N,N−トリメチル−アンモニウムメチルスルフェート)(Boehringer Manheim)、
・Lipofectamine、すなわち、ポリカチオン性脂質DOSPA、中性脂質DOPEおよびジアルキル化アミノ酸(DiLA2)の3:1(M/M)のリポソーム製剤(GIBCO BRL)、
・Lipotrust、すなわち、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14、コレステロールおよびジオレオイルホスファチジルエタノールアミンの4:3:3(M/M)のリポソーム製剤(Hokkaido System Science)。
【0058】
本開示はまた、レチノイドを皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達促進成分として配合する工程を含む、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体の製造方法に関する。レチノイドの配合手法としては、例えば、本明細書に記載の種々の手法を用いることができる。したがって、レチノイドの配合は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイドおよび/またはレチノイド結合体を担体の他の構成成分に結合させるかまたは包含させることや、担体の作製時に、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体と、それ以外の担体構成成分とを混合することなどによって行うことができる。レチノイドおよび/またはレチノイド結合体の配合量等は、本開示の担体について既に述べたとおりである。
【0059】
本開示の担体の送達物は特に制限されないが、投与部位から標的細胞が存在する病変部位へ、生物の体内を物理的に移動できるような大きさであることが好ましい。したがって、本開示の担体は、原子、分子、化合物、タンパク質、核酸等の物質はもとより、ベクター、ウイルス粒子、細胞、1以上の要素で構成された薬物放出システム、マイクロマシン等の物体をも運搬することができる。前記送達物は、好ましくは標的細胞に何らかの影響を与える性質を有し、例えば、標的細胞を標識するものや、標的細胞の活性または増殖を制御する(例えば、これを増強または抑制する)ものを含む。
【0060】
したがって、本開示の一態様において、担体の送達物は「皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」を含む。ここで、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性とは、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞が示す分泌、取り込み、遊走等の種々の活性を指すが、本開示においては、典型的に、これらのうち特に皮膚線維症の発症、進行および/または再発などに関与する活性を意味する。かかる活性としては、例えば、限定することなく、コラーゲン、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分などの産生・分泌、および、これらの細胞外マトリックス成分の分解活性の抑制などが挙げられる。
【0061】
したがって、本開示において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とは、皮膚線維症の発症、進行および/または再発に関係する同細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に抑制するいずれの薬物であってもよく、限定されずに、上記細胞外マトリックス成分などの産生・分泌を阻害する物質、細胞増殖抑制物質、アポトーシス誘導物質、TIMP(Tissue inhibitor of metalloproteinase)阻害物質等を包含する。
【0062】
細胞外マトリックス成分などの産生・分泌を阻害する物質としては、限定されずに、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分の発現を抑制する、干渉核酸、リボザイム、アンチセンス核酸などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。上記細胞外マトリックス成分のうち、コラーゲンの産生・分泌を阻害する薬物としてはさらに、限定することなく、例えば、様々なタイプのコラーゲンの合成過程で共通する細胞内輸送および分子成熟化に必須のコラーゲン特異的分子シャペロンであるHSP47の阻害物質、例えば、HSP47に対する干渉核酸、リボザイム、アンチセンス核酸などのHSP47発現阻害物質、もしくはHSP47のドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等などが挙げられる。
【0063】
細胞増殖抑制物質としては、限定されずに、例えば、イホスファミド、ニムスチン(例えば、塩酸ニムスチン)、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等のアルキル化剤、ゲムシタビン(例えば、塩酸ゲムシタビン)、エノシタビン、シタラビン・オクホスファート、シタラビン製剤、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(例えば、TS−1)、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等の代謝拮抗剤、イダルビシン(例えば、塩酸イダルビシン)、エピルビシン(例えば、塩酸エピルビシン)、ダウノルビシン(例えば、塩酸ダウノルビシン、クエン酸ダウノルビシン)、ドキソルビシン(例えば、塩酸ドキソルビシン)、ピラルビシン(例えば、塩酸ピラルビシン)、ブレオマイシン(例えば、塩酸ブレオマイシン)、ペプロマイシン(例えば、硫酸ペプロマイシン)、ミトキサントロン(例えば、塩酸ミトキサントロン)、マイトマイシンC等の抗腫瘍性抗生物質、エトポシド、イリノテカン(例えば、塩酸イリノテカン)、ビノレルビン(例えば、酒石酸ビノレルビン)、ドセタキセル(例えば、ドセタキセル水和物)、パクリタキセル、ビンクリスチン(例えば、硫酸ビンクリスチン)、ビンデシン(例えば、硫酸ビンデシン)、ビンブラスチン(例えば、硫酸ビンブラスチン)等のアルカロイド、アナストロゾール、タモキシフェン(例えば、クエン酸タモキシフェン)、トレミフェン(例えば、クエン酸トレミフェン)、ビカルタミド、フルタミド、エストラムスチン(例えば、リン酸エストラムスチン)等のホルモン療法剤、カルボプラチン、シスプラチン(CDDP)、ネダプラチン等の白金錯体、サリドマイド、ネオバスタット、ベバシズマブ等の血管新生阻害剤、L−アスパラギナーゼなどが挙げられる。
【0064】
アポトーシス誘導物質としては、限定することなく、例えば、compound 861、グリオトキシン、アトルバスタチンなどが挙げられる。
TIMP(例えば、TIMP1、TIMP2、TIMP3など)の阻害物質としては、限定することなく、例えば、TIMPに対する抗体などのTIMP活性阻害物質、TIMPに対する干渉核酸、リボザイム、アンチセンス核酸などのTIMP産生阻害物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
【0065】
また、本開示における「皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」は、皮膚線維症の発症、進行および/または再発の抑制に直接または間接に関係する皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に促進する何れの薬物であってもよい。
本開示の担体は、上記薬物の1種または2種以上を送達することができる。
【0066】
本開示における干渉核酸は、siRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、piRNA(Piwi-interacting RNA)、rasiRNA(repeat associated siRNA)などの二重鎖RNAおよびこれらの改変体を含む。本開示における核酸は、RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む。
【0067】
核酸は、既知の種々の修飾を有してもよい。修飾により、核酸の安定性の向上といった有益な特性を提供ことができる。修飾は、核酸の種々の部分、例えば、糖、核酸塩基、リン酸基およびホスホジエステル骨格などの1または2以上の部分におけるものであってよい。修飾糖部分の非限定例としては、2’−O−メチル、2’−メトキシエトキシ、2’−デオキシ、2’−フルオロ、2’−アリル、2’−O−[2−(メチルアミノ)−2−オキソエチル]、4’チオ、4’−(CH
2)
2−O−2’架橋、2’ロックド核酸、および2’−O−(N−メチルカルバメート)などが挙げられる。修飾核酸塩基の非限定例としては、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6−メチルおよび他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2−プロピルおよび他のアルキル誘導体、5−ハロウラシルおよび5−ハロシトシン、5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシン、6−アゾウラシル、6−アゾシトシンおよび6−アゾチミン、5−ウラシル(シュードウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、アミノ、チオール、チオアルキル、ヒドロキシおよび他の8−置換アデニンおよびグアニン、5−トリフルオロメチルおよび他の5−置換ウラシルおよびシトシン、7−メチルグアニンおよびアシクロヌクレオチドなどが挙げられる。ホスホジエステル骨格への修飾の非限定例としては、ホスホジエステル結合の、ホスホロチオエート、3’−(または−5’)デオキシ−3’−(または−5’)チオ−ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、3’−(または−5’)デオキシホスフィネート、ボラノホスフェート、3’−(または−5’)デオキシ−3’−(または5’−)アミノホスホルアミデート、水素ホスホネート、ボラノリン酸エステル、ホスホルアミデート、アルキルまたはアリールホスホネートおよびホスホトリエステルまたはリン結合などによる置換が挙げられる。
【0068】
本開示の担体の送達物としてはまた、限定されずに、皮膚線維症の発症、進行および/または再発を抑制する上記以外の薬物、例えば、限定することなく、TGF−β1阻害剤(抗TGF−β1抗体、TGF−β1ワクチンなどを包含する)、ペントキシフィリンおよびその代謝物、カルシウムチャネルブロッカー(ニフェジピンなど)、プロスタノイド受容体アゴニスト(イロプロストなど)、ACE阻害剤(カプトプリル、エナラプリルなど)、エンドセリン受容体阻害剤(ボセンタンなど)、PDE−5阻害剤(シルデナフィルなど)、インターフェロンγ、CD20阻害剤(抗CD20抗体、例えば、リツキシマブなど)、抗TNFα抗体(インフリキシマブなど)、mTOR阻害剤(シロリムス、エベロリムスなど)、サリドマイド、ヒドロキシクロロキン、タクロリムス、免疫抑制剤(ステロイド、アザチオプリン、シクロホスファミド、メトトレキサート、シクロスポリン、D−ペニシラミンなど)などを挙げることができる。これらの薬物はまた、後述の本開示の組成物と併用することもできる。ここで、「併用」とは、本開示の組成物と、上記薬物とを実質的に同時に投与すること、および、同じ処置期間内で時間的に間隔を空けて投与することを含む。前者の場合、本開示の組成物は上記薬物と混合して投与しても、混合せずに連続的に投与してもよい。後者の場合、本開示の組成物は上記薬物の前に投与しても後に投与してもよい。
本開示の一態様において、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物としては、HSP47の阻害剤、例えば、HSP47に対する干渉核酸などが挙げられる。HSP47に対する干渉核酸の非限定例は、WO 2011/072082等に記載されている。
【0069】
一部の態様において、HSP47に対する干渉核酸は、構造(A1):
5’ (N)x−Z 3’(アンチセンス鎖)
3’ Z’−(N’)y−z’’ 5’(センス鎖)
ここで、各々のNおよびN’は非修飾であっても、修飾されていてもよいヌクレオチドであるか、非定型部分であり、
各々の(N)xおよび(N’)yは、各々の連続するNまたはN’が次のNまたはN’に共有結合的に連結されたオリゴヌクレオチドであり、
各々のZおよびZ’は、独立して、存在するか、不在であるが、存在する場合は、独立して、それが存在する鎖の3’末端に共有結合的に付着した1〜5個の連続したヌクレオチドまたは非ヌクレオチド部分またはその組合せを含み、
z’’は存在しても、または不在であってもよいが、存在する場合は、(N’)yの5’末端に共有結合的に付着したキャッピング部分であり、
xおよびyの各々は、独立して18〜40の間の整数であり、
(N’)yの配列は、(N)xの配列に相補性を有し、(N)xは、HSP47をコードするmRNAに対するアンチセンス配列を含む、
を有する二本鎖核酸である。
【0070】
特定の態様において、HSP47に対する干渉核酸は、構造(A2):
5’ N
1−(N)x−Z 3’(アンチセンス鎖)
3’ Z’−N
2−(N’)y−z’’ 5’(センス鎖)
ここで、N
2、NおよびN’の各々は、非修飾リボヌクレオチドまたは修飾リボヌクレオチドまたは非定型部分であり、
(N)xおよび(N’)yの各々は、各々の連続するNまたはN’が隣接するNまたはN’に共有結合によって連結したオリゴヌクレオチドであり、
xとyの各々は、独立して17〜39の間の整数であり、
(N’)yの配列は(N)xの配列に相補性を有し、(N)xは、HSP47をコードするmRNAの連続する配列に相補性を有し、
N
1は(N)xに共有結合的に結合しており、HSP47をコードするmRNAに対してミスマッチであるか、または、標的RNAに対する相補的DNA部分であり、
N
1は、天然または修飾ウリジン、デオキシリボウリジン、リボチミジン、デオキシリボチミジン、アデノシンまたはデオキシアデノシンからなる群から選択される部分であり、
z’’は存在しても、または不在であってもよいが、存在する場合はN
2−(N’)yの5’末端に共有結合的に付着したキャッピング部分であり、
ZおよびZ’の各々は、独立して、存在するか、または不在であるが、存在する場合は、独立して、それが存在する鎖の3’末端に共有結合的に付着した、1〜5個の連続するヌクレオチド、連続する非ヌクレオチド部分またはその組合せである
を有する二本鎖核酸である。
【0071】
上記の構造(A1)および(A2)における非定型部分は、限定されずに、例えば、非ヌクレオチド部分(例えば、無塩基部分、逆位無塩基部分(逆位無塩基デオキシリボース部分、逆位無塩基リボース部分など)、炭化水素(アルキル)部分(非ヌクレオチドC3、C4またはC5部分など)、これらの誘導体など)、デオキシリボヌクレオチド、修飾デオキシリボヌクレオチド、ミラーヌクレオチド(L−DNA、L−RNAなど)、非塩基対ヌクレオチドアナログ、2’5’ヌクレオチド間リン酸結合で隣接するヌクレオチドと連結したヌクレオチド、架橋核酸(LNA、エチレン架橋核酸など)、結合修飾ヌクレオチド(PACEなど)および塩基修飾ヌクレオチドからなる群から選択される部分を含む。
【0072】
上記の構造(A1)および(A2)におけるキャッピング部分は、(N’)yの5’末端に共有結合的に連結できる部分を含み、限定されずに、例えば、無塩基リボース部分、無塩基デオキシリボース部分、無塩基リボースおよび無塩基デオキシリボース部分の修飾体(2’Oアルキル修飾体を含む)、逆位無塩基リボースおよび無塩基デオキシリボース部分およびその修飾体、C6−イミノ−Pi、C6−アミノ−Pi、ミラーヌクレオチド(L−DNA、L−RNAなど)、5’OMeヌクレオチド、および、ヌクレオチドアナログ、例えば、4’,5’−メチレンヌクレオチド、1−(β−D−エリスロフラノシル)ヌクレオチド、4’チオヌクレオチド、炭素環式ヌクレオチド、5’−アミノ−アルキルホスフェート、1,3−ジアミノ−2−プロピルホスフェート、3−アミノプロピルホスフェート、6−アミノヘキシルホスフェート、12−アミノドデシルホスフェート、ヒドロキシプロピルホスフェート、1,5−アンヒドロヘキシトールヌクレオチド、アルファ−ヌクレオチド、トレオ−ペントフラノシルヌクレオチド、非環式3’,4’−セコヌクレオチド、3,4−ジヒドロキシブチルヌクレオチド、3,5−ジヒドロキシペンチルヌクレオチド、5’5’−逆位無塩基部分、1,4−ブチレングリコールホスフェート、5’−アミノおよび架橋または非架橋メチルホスホネートおよび5’−メルカプト部分を含む。
【0073】
上記の構造(A1)および(A2)における非ヌクレオチド部分は、限定されずに、例えば、無塩基部分、例えばデオキシリボ無塩基部分(本明細書において「dAb」と称することがある)またはリボ無塩基部分(本明細書において「rAb」と称することがある)、2個の共有結合的に(好ましくはリン酸ベースの結合を介して)連結した無塩基部分(例えば、dAb−dAbまたはrAb−rAbまたはdAb−rAbまたはrAb−dAb)、アルキル部分(任意にプロパン[(CH
2)
3]部分(C3)、または、プロパノール(C3OH)およびプロパンジオール(「C3Pi」)を含むその誘導体)が挙げられる。いくつかの態様において、リン酸ベースの結合は、ホスホロチオエート、ホスホノアセテートまたはホスホジエステル結合を含む。いくつかの態様において、非ヌクレオチド部分は、C2、C3、C4、C5またはC6アルキル部分、任意に、C3[プロパン、−(CH
2)
3−]部分、または、プロパノール(C3OH)、プロパンジオール、およびプロパンジオールのホスホジエステル誘導体(「C3Pi」)を含むその誘導体を含む。
【0074】
種々の態様において、アルキル部分は、末端ヒドロキシル基、末端アミノ基または末端リン酸基を含む、C3アルキル、C4アルキル、C5アルキルまたはC6アルキル部分を含むアルキル誘導体を含む。いくつかの態様において、アルキル部分は、C3アルキルまたはC3アルキル誘導体部分である。いくつかの態様において、C3アルキル部分は、プロパノール、プロピルホスフェート、プロピルホスホロチオエートまたはこれらの組合せを含む。いくつかの態様において、非ヌクレオチド部分は、プロピルホスフェート、プロピルホスホロチオエート、プロピルホスホ−プロパノール、プロピルホスホ−プロピルホスホロチオエート、プロピルホスホ−プロピルホスフェート、(プロピルホスフェート)3、(プロピルホスフェート)2−プロパノール、(プロピルホスフェート)2−プロピルホスホロチオエートから選択される。
【0075】
一態様において、上記の構造(A1)および(A2)におけるHSP47をコードするmRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有する。
構造(A1)におけるアンチセンス鎖とセンス鎖との組合せの非限定例を表5に示す。
【表14】
【0076】
構造(A2)におけるアンチセンス鎖とセンス鎖との組合せの非限定例を表6に示す。
【表15】
【0077】
より具体的な態様において、構造(A1)および/または(A2)を有する核酸(構造(A1)においてx=y=19、構造(A2)においてx=y=18)は、以下の修飾の組合せを含む。
組合せ1:センス鎖が、3’末端の15、16、17、18および19位(5’>3’)における5個の連続する2’5’リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3Pi部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基部分を含み、アンチセンス鎖が、1、3、5、9、11、13、15、17および19位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチド、および3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
【0078】
組合せ2:センス鎖が、2、14および18位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3OH部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分を含み、アンチセンス鎖が、1、3、5、9、12、13および17位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチドおよび3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
組合せ3:センス鎖が、15、16、17、18および19位(5’>3’)における2’5’リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3OH部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分を含み、アンチセンス鎖が、2、4、6、8、11、13、15、17および19位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチドおよび3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
【0079】
組合せ4:センス鎖が、4、11、13および17位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、9位における2’5’リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3OH部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分を含み、アンチセンス鎖が、1、4、8、11および15位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、6位における2’5’リボヌクレオチドおよび3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む
組合せ5:センス鎖が、7、13、16および18位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、9位における2’5’リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3OH部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基部分を含み、アンチセンス鎖が、1、3、5、9、11、13、15、17および19位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチド、および3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
【0080】
組合せ6:センス鎖が、15、16、17、18および19位(5’>3’)における5個の連続する2’5’リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3Pi部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基部分を含み、アンチセンス鎖が、1、3、5、9、11、13、15、17および19位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチド、および3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
組合せ7:センス鎖が、2、14および18位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3OH部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分を含み、アンチセンス鎖が、1、3、5、9、11、13および17位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチドおよび3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
【0081】
組合せ8:センス鎖が、4、11、13および17位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3OH部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分を含み、アンチセンス鎖が、1、4、8、13および15位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、6位における2’5’リボヌクレオチドおよび3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
組合せ9:センス鎖が、2、4、11、13および17位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、3’末端に共有結合的に付着したC3OH部分および5’末端に共有結合的に付着した逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分を含み、アンチセンス鎖が、1、4、8、11および15位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、6位における2’5’リボヌクレオチドおよび3’末端に共有結合的に付着したC3Pi−C3OH部分を含む。
【0082】
上記組合せにおいて、C3Pi部分はプロピルホスフェート、C3OH部分はプロパノール、C3Pi−C3OH部分はプロピルホスホプロパノールを表す。特定の態様において、上記各部分は以下の構造を有する。左端のリン酸基は、核酸の3’末端に結合したリン酸基を表す。また、本開示において、核酸の「3’末端」は、5’末端とは反対側の末端を意味する。したがって、例えば、5’末端とは反対側の末端のヌクレオチドが、さらなる化学的部分との結合を可能にするリン酸基を3’位ではなく2’位に有する場合、かかる化学的部分は実際には核酸の2’末端に結合することになるが、本開示においてはこのような場合であっても便宜的に3’末端に結合すると表現することとする。
【化7】
【0083】
特定の態様において、HSP47に対する干渉核酸は、以下の構造を有する。
構造1:
【化8】
上記構造中、アンチセンス鎖(配列番号17)は、1、3、5、9、11、15、17および19位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチドを含み、ZはC3Pi−C3OH部分であり、センス鎖(配列番号16)は、15、16、17、18および19位(5’>3’)における2’5’リボヌクレオチドを含み、Z’はC3Pi部分であり、z’’は逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分である。
【0084】
構造2:
【化9】
上記構造中、アンチセンス鎖(配列番号25)は、2、4、6、8、11、13、15、17および19位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、7位における2’5’リボヌクレオチドを含み、ZはC3Pi−C3OHであり、センス鎖(配列番号24)は、15、16、17、18および19位(5’>3’)における2’5’リボヌクレオチドを含み、Z’はC3OH部分であり、z’’は逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分である。
【0085】
構造3:
【化10】
上記構造中、アンチセンス鎖(配列番号27)は、1、4、8、11および15位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、6位における2’5’リボヌクレオチドを含み、ZはC3Pi−C3OH部分であり、センス鎖(配列番号26)は、4、11、13および17位(5’>3’)における2’OMe糖修飾リボヌクレオチド、9位における2’5’リボヌクレオチドを含み、Z’はC3OH部分であり、z’’は逆位無塩基デオキシリボヌクレオチド部分である。
【0086】
本開示の担体が送達する物質や物体は、標識されていてもいなくてもよい。標識化により、標的細胞への送達の成否や、標的細胞の増減などをモニタリングすることが可能となり、特に試験・研究レベルのみならず、臨床レベルにおいても有用である。標識は、当業者に公知な任意のもの、例えば、任意の放射性同位体、磁性体、気体もしくは生理条件下で気体を発生する物質、核磁気共鳴する元素(例えば、水素、リン、ナトリウム、フッ素等)、核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質(例えば、金属原子もしくはこれを含む化合物)、標識化物質に結合する物質(例えば抗体など)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、ビオチンもしくはその誘導体、アビジンもしくはその誘導体、酵素などから選択することができる。標識はまた、担体構成成分に付してもよいし、独立した送達物として担体に担持させてもよい。
【0087】
本開示において「皮膚における細胞外マトリックス産生細胞用」または「皮膚における細胞外マトリックス産生細胞送達用」とは、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞を標的細胞として使用するのに適することを意味し、これは例えば、同細胞に、他の細胞、例えば正常細胞よりも迅速、高効率かつ/または大量に物質を送達できることを含む。例えば、本開示の担体は、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞に、他の細胞に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、さらには3倍以上の速度および/または効率で物質を送達することができる。本開示において「送達」は、送達物を目的の細胞に取り込ませるステップ、および、細胞に取り込まれた送達物を細胞の作用部位に到達させるステップを含む一連の過程を包含し、送達の促進は、これらのステップのいずれか1つ以上の促進を意味する。送達物を目的の細胞に取り込ませるステップは、限定されずに、送達物のエンドサイトーシス、ピノサイトーシスなどによる取り込みを含む。細胞に取り込まれた送達物を細胞の作用部位に到達させるステップは、限定されずに、エンドソーム脱出、細胞内の特定の部位(例えば、細胞核、細胞質、細胞膜、ミトコンドリアなど)への移行などを含む。
【0088】
送達の促進は、送達の個々のステップにおける送達物の挙動や、送達の最終的な結果としての送達物の作用を、送達促進成分を含まない同様の担体によるものと比較することなどにより評価することができる。例えば、細胞内への取り込みは、検出可能な標識を付した送達物の経時的な位置の変化を観察することなどにより、エンドソーム脱出は、エンドソームを特異的に染色した細胞における、検出可能な標識を付した送達物とエンドソームとの経時的な位置関係の変化を観察することなどにより、それぞれ評価することができる。また、送達物の作用は、送達物に応じた手法で評価することができる。例えば、送達物が特定の遺伝子に対する阻害性核酸である場合は、その遺伝子の発現レベルを決定することで、その作用を評価することができる。促進の程度は特に限定されず、送達促進成分を含まない同様の担体より例えば、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上の促進であってよい。
【0089】
本開示はまた、前記担体と、前記皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御するための、皮膚線維症またはGVDHによる線維化を処置するための、または線維化皮膚組織から正常皮膚組織を再生するための組成物、ならびに、前記担体の、これらの組成物の製造への使用に関する。本開示の組成物の一態様は、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達を促進するための有効量のレチノイドを含む。また、本開示の組成物の一態様は、レチノイドによって皮膚における細胞外マトリックス産生細胞に対する物質送達が促進される。
【0090】
本開示における皮膚線維症は、皮膚における細胞外マトリックス(例えば、コラーゲンなど)の過剰な蓄積を特徴とする病態を指し、限定されずに、例えば、偶発的および医原性(手術)の全ての可能な種類の皮膚損傷(外傷、術創、熱傷(化学熱傷、熱による熱傷または放射線熱傷を含む)、皮膚移植など)に関連する異常な瘢痕形成(肥厚性瘢痕、ケロイドなど)、強皮症(全身性強皮症、斑状強皮症など)、皮膚GVHD、デュピュイトラン拘縮、表皮水疱症、薬物(例えば、タキサン、ブレオマイシンなど)誘導性皮膚線維症、拘束性皮膚障害などの皮膚疾患や、晩発性皮膚ポルフィリン症、腎性全身性線維症、好酸球増加筋痛症候群、毒性油症候群などの疾患に伴う皮膚線維化などを含む。本開示におけるGVHDによる線維化は、皮膚のみならず、各種臓器(肺、肝臓など)における線維化を包含する。
【0091】
皮膚GVHDは、GVHDに伴う皮膚症状であり、cGVHDを有する対象で発症することが多い。GVHDは、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病などの白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫などのリンパ腫、多発性骨髄腫等)や固形腫瘍(特に転移性の固形腫瘍)などの腫瘍性疾患、骨髄異形成症候群(MDS)、再生不良性貧血などの処置の一環として行われる同種造血幹細胞移植後に、ドナーの白血球等がレシピエントの組織(特に正常組織)を攻撃することにより生じることのある病態であり、重篤化すると致死的となり得る。一方で、GVHDは、移植されたドナーの細胞が定着に成功したことを示す現象でもある。造血幹細胞移植を伴う腫瘍の治療には、移植の前に通常、放射線および/または化学療法剤などによる腫瘍の処置(移植前処置)が行われる。移植前処置は、対象とする腫瘍を可能な限り根絶することが望ましいといえるが、高齢対象(例えば、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上などのヒト対象)や、他の合併症(例えば、糖尿病、腎疾患、心疾患など)を患っている対象などにおいては、骨髄破壊的前処置などの強力な前処置は負担が大きいため、骨髄非破壊的前処置(NMAC)や強度減弱型前処置(RIC)などの、より強度の低い前処置が適用されることがある。
【0092】
これらの低強度前処置を腫瘍性疾患に適用する場合、腫瘍細胞が根絶されない可能性が高いため、移植したドナーの細胞が残存する腫瘍細胞を攻撃し、これを排除する、移植片対白血病(GVL)効果や移植片対腫瘍(GVT)効果が重要となる。したがって、GVL/GVT効果を可能な限り損なわずに、GVHDの悪影響を抑制することが、低強度前処置の適応となる対象にとっては特に有益である。本開示の組成物は、GVL/GVT効果の源泉であるドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えないことが示されているため、低強度前処置後のGVHD(特に皮膚GVHD)の処置や、低強度前処置後のGVHD(特に皮膚GVHD)を発症した対象の処置などに、特に有用である。本開示の一態様において、皮膚線維症は、低強度前処置後のGVHD、特に低強度前処置後の皮膚GVHDである。より特定の態様において、皮膚線維症は、腫瘍性疾患に対する低強度前処置後のGVHD、特に腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の皮膚GVHDである。
【0093】
一態様において、本開示は、前記担体と、前記皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、皮膚GVHDを処置するための組成物に関する。一部の態様において、前記組成物は低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを処置するための組成物である。特定の態様において、前記組成物は、高齢者または合併症罹患者において低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを処置するための組成物である。別の特定の態様において、前記組成物は、低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための組成物である。別の特定の態様において、前記組成物は、腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを処置するための組成物である。より特定の態様において、前記組成物は、(i)高齢者または合併症罹患者において低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための、(ii)高齢者または合併症罹患者において、腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを処置するための、(iii)腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための、または(vi)高齢者または合併症罹患者において、腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じた皮膚GVHDを、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための組成物である。
【0094】
別の態様において、本開示は、前記担体と、前記皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、GVHDに伴う線維化を処置するための組成物に関する。一部の態様において、前記組成物は、低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を処置するための組成物である。特定の態様において、前記組成物は、高齢者または合併症罹患者において低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を処置するための組成物である。別の特定の態様において、前記組成物は、低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための組成物である。別の特定の態様において、前記組成物は、腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を処置するための組成物である。より特定の態様において、前記組成物は、(i)高齢者または合併症罹患者において低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための、(ii)高齢者または合併症罹患者において、腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を処置するための、(iii)腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための、または(vi)高齢者または合併症罹患者において、腫瘍性疾患に対する低強度前処置後の同種造血幹細胞移植により生じたGVHDに伴う線維化を、ドナー由来の免疫細胞に有意な影響を与えずに処置するための組成物である。これらの態様において、GVHDに伴う線維化は、皮膚以外の組織、例えば肝臓、肺などにも生じ得る。また、GVHDに伴う線維化を処置するための組成物は、全身投与製剤(例えば、静脈内投与製剤など)であってよい。
【0095】
本開示において、「線維化皮膚組織から正常皮膚組織を再生する」とは、線維化によって変質した皮膚組織を、少なくとも線維化がより軽度であった状態、より好ましくは線維化が生じる前の状態に回復させることを意味する。すなわち、皮膚線維化が進むにつれ、皮膚組織は細胞外マトリックスを中心とした線維組織に置換されていくが、この流れを逆転させ、増生した線維組織を本来の正常組織に置換していくことが、本開示における線維化皮膚組織からの正常皮膚組織の再生である。したがって、本開示における線維化皮膚組織からの正常皮膚組織の再生は、線維化皮膚組織を完全に元の状態に回復させることばかりでなく、線維化皮膚組織を部分的に元の状態に回復させることも含む。正常皮膚組織の再生の程度は、生検試料などの組織学的検査により、組織構造の正常化、線維組織が占める領域の縮小、正常組織が占める領域の拡大などに基づいて評価してもよいし、本組成物による処置の前に線維化に起因する生化学的指標等の異常が認められている場合には、当該指標等の改善などによって評価してもよい。
【0096】
本開示の組成物においては、担体は、送達物をその内部に含んでも、送達物の外部に付着して存在しても、また、送達物と混合されていてもよい。したがって、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記組成物を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。さらに、本開示の組成物は、レチノイドを含む脂質担体と送達物との複合体、すなわちリポプレックスの形態をとってもよい。また、担体がレチノイドおよび/またはレチノイド結合体のみで構成される場合には、本開示の組成物は、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とレチノイドおよび/またはレチノイド結合体との複合体の形態をとってもよい。
【0097】
本開示の組成物は医薬として使用することができ(すなわち医薬組成物)、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、経胃、経腸、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる。
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。経皮投与に適した剤形としては、軟膏、クリーム、乳剤、貼付剤、パップ剤などが挙げられる。経皮投与製剤は、経皮吸収促進剤などの、経皮投与に有用な成分を含んでいてもよい。
【0098】
本開示はまた、レチノイドを皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達促進成分として、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物を有効成分としてそれぞれ配合する工程を含む、皮膚線維症もしくはGVHDによる線維化を処置するための医薬組成物または線維化皮膚組織から正常皮膚組織を再生するための組成物の製造方法に関する。レチノイドおよび/またはレチノイド結合体の配合手法は、配合された組成物においてレチノイドおよび/またはレチノイド結合体が皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達促進成分として機能できれば特に限定されないが、例えば、本明細書に記載の種々の手法を用いることができる。また、有効成分の配合手法も、有効成分が所定の効果を奏することができれば特に限定されず、任意の公知の手法を用いることができる。有効成分の配合は、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体と同時に行ってもよいし、レチノイドを配合する前、または配合した後に行ってもよい。例えば、組成物がレチノイドおよびレチノイド結合体以外の担体構成成分を含む場合、有効成分の配合は、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体が物質送達促進成分として既に配合された担体と有効成分とを混合することなどによって行ってもよいし、レチノイドおよび/またはレチノイド結合体、レチノイドおよびレチノイド結合体以外の担体構成成分および有効成分を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、有効成分をレチノイドおよびレチノイド結合体以外の担体構成成分に配合した後に、これとレチノイドおよび/またはレチノイド結合体とを混合することなどによって行ってもよい。
【0099】
レチノイドの配合量等は、本開示の担体について既に述べたとおりである。また、有効成分の配合量は、組成物として投与された場合に、皮膚線維症もしくはGVHDによる線維化の発症や再発を抑制し、病態を改善し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量、好ましくは、皮膚線維症もしくはGVHDによる線維化の発症および再発を予防し、またはこれを治癒し得る量、あるいは、線維化皮膚組織から正常皮膚組織を再生し得る量であってもよい。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は公知であるか、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。皮膚線維症のモデル動物としては、例えば強皮症モデルとしての、Asano et al., Curr Rheumatol Rep. (2013) 15:382に記載のもの(例えば、ROS(reactive oxygen species)誘発SS(systemic sclerosis)モデル、TopoI(DNA topoisomerase I)およびCFA(complete Freund's adjuvant)誘発SSモデル、Ang II(angiotensin II)誘発SSモデルやFra−2(Fos-related antigen 2)トランスジェニックマウス、Fli1(Friend leukemia virus integration 1)
ΔCTA(c-terminal activation domain)/ΔCTAモデルなど)が挙げられる。皮膚GVHDを伴うGVHDのモデル動物としては、限定されずに、マイナー組織適合抗原ミスマッチ移植モデル(B10.D2マウスからBALB/cマウスへの、骨髄細胞、脾臓細胞などの移植)などが挙げられる。有効成分の配合量は、組成物の投薬態様によって変化し得る。例えば、1回の投与に複数の単位の組成物を用いる場合、組成物1単位に配合する有効成分の量は、1回の投与に必要な有効成分の量の複数分の1とすることができる。かかる配合量の調整は当業者が適宜行うことができる。例えば、1日あたり体重1キログラムにつき約0.1mg〜約140mg程度の投与量レベルは、上記状態の処置に有用である(1日あたり1対象につき約0.5mg〜約7g)。単一の投薬形態を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、処置される宿主と、具体的な投与方法によって異なる。投薬単位形態は、一般的に、約1mg〜約500mgの活性成分を含む。
【0100】
任意の特定の対象のための具体的な用量レベルは、使用する具体的な化合物の活性、年齢、体重、一般健康状態、性別、食事、投与、投与時間、投与経路、および排出速度、併用薬剤および治療を受けている特定の疾患の重篤度を含む種々の要因に依存することが理解される。
本開示に係る医薬組成物は、1日1回、qid、tid、bid、または、医学的に適切な任意の間隔で、任意の期間投与することができる。しかし、治療剤はまた、1日を通して適切な間隔で投与される、2、3、4、5、6または7以上の下位用量を含む投薬単位で投薬することもできる。その場合、各々の下位用量に含まれる有効成分は、1日の合計投薬単位を達成するために、対応してより少なくてもよい。投薬単位はまた、例えば、数日間にわたって有効成分の持続的な一定の放出をもたらす従来の徐放製剤を用いて、数日にわたる単一の用量のために組み合わせることができる。徐放製剤は当該技術分野において周知である。投薬単位は、対応する複数の一日量を含んでもよい。組成物は、有効成分の複数の単位の合計が一緒になって十分な用量を含むように、組み合わせることができる。
【0101】
本開示の担体または組成物は、凍結乾燥された状態で提供されてもよい。本開示の担体または組成物を凍結乾燥する際には、凍結乾燥保護剤を利用してもよい。凍結乾燥保護剤の非限定例としては、スクロース、ラクチュロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ルチノース、ルチヌロース、キシロビオースなどの多糖類が挙げられる。
【0102】
本開示の担体または組成物はまた、用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供することができる。凍結乾燥形態は、用時調製可能な形態の一例である。この場合、本開示の担体または組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0103】
したがって、本開示はまた、レチノイドおよび/もしくはレチノイド結合体、および/または送達物、および/またはレチノイドおよびレチノイド結合体以外の担体構成物質を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む前記担体もしくは前記組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される前記担体または前記組成物の必要構成要素にも関する。本開示のキットは、上記のほか、本開示の担体および組成物の調製方法や投与方法、皮膚線維症もしくはGVHDによる線維化の処置などに関する指示、例えば説明書や、CD、DVD等の電子記録媒体などを含んでいてもよい。また、本開示のキットは、本開示の担体または組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本開示のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0104】
本開示はさらに、前記組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御するための、皮膚線維症もしくはGVHDによる線維化を処置するための、または線維化皮膚組織から正常皮膚組織を再生するための方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、後者については、皮膚線維症もしくはGVHDによる線維化の発症や再発を抑制し、病態を改善し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、皮膚線維症もしくはGVHDによる線維化の発症および再発を予防し、またはこれを治癒する量、あるいは、線維化皮膚組織から正常皮膚組織を再生し得る量であってもよい。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、担体に含まれるレチノイド、および本開示の方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。皮膚線維症またはGVHDのモデル動物については、上述のとおりである。
【0105】
本開示の方法において投与する組成物の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与経路、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、経胃、経腸、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0106】
本開示の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本開示において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、例えば、皮膚線維症の処置が企図される場合には、典型的には皮膚線維症に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。例えば、皮膚線維症の予防が意図される場合は、限定することなく、GVHD、晩発性皮膚ポルフィリン症、腎性全身性線維症、好酸球増加筋痛症候群、毒性油症候群などの皮膚線維症の原因となる疾患に罹患した対象が典型例となる。
用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、皮膚線維症の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、皮膚線維症発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0107】
一態様において、本開示の方法における対象は、低強度前処置と、これに続く同種骨髄幹細胞移植を受けたか、受ける可能性のある対象である。特定の態様において、かかる対象は、高齢対象(例えば、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上などのヒト対象)、および/または、他の合併症(例えば、糖尿病、腎疾患、心疾患など)を患っている対象である。別の特定の態様において、かかる対象は、腫瘍性疾患(例えば、造血器腫瘍など)に罹患している。より特定の態様において、かかる対象は、腫瘍性疾患に罹患している高齢対象、および/または、腫瘍性疾患とこれ以外の合併症とを患っている対象である。
一部の態様において、本開示の方法は、皮膚線維症またはGVHDを有するか、これを発症するリスクのある対象を同定するステップをさらに含む。一態様において、本開示の方法は、対象に対して同種造血幹細胞移植を行うステップをさらに含む。特定の態様において、本開示の方法は、対象に対して低強度前処置を行うステップ、および、前記対象に対して同種造血幹細胞移植を行うステップをさらに含む。
【0108】
本開示はまた、上記担体を利用した、皮膚における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達方法に関する。この方法は、限定されずに、例えば、上記担体に送達物を担持させる工程と、送達物を担持した担体を皮膚における細胞外マトリックス産生細胞を含む生物や媒体、例えば培養培地などに投与または添加する工程とを含む。これらの工程は、公知の任意の方法や、本明細書中に記載された方法などに従って適宜達成することができる。上記送達方法はまた、別の送達方法、例えば、皮膚を標的とする他の送達方法などと組み合わせることもできる。また、上記方法は、in vitroでなされる態様も、体内の皮膚における細胞外マトリックス産生細胞を標的とする態様も含む。本開示の担体によって輸送し得る物質については、上述のとおりである。
【実施例】
【0109】
例1 siRNA含有レチノイド結合リポソームの調製
siRNAとレチノイド結合体XR3とを含む、siRNA含有レチノイド結合リポソームをWO 2012/170952に記載されたとおりに調製した。まず、無水エタノールに、脂質P2、脂質I8、DOPE、コレステロール、PEG−DMPEおよびXR3を20:20:30:25:5:2のモル比で可溶化し、エタノール/脂質混合物を得た。siRNAを、50mMクエン酸緩衝液中に可溶化し、温度を35〜40℃に調整した。次に、エタノール/脂質混合物をsiRNA含有緩衝液に撹拌しながら加え、siRNA含有リポソームを形成させた。エタノール/脂質混合物の添加は、最終的な全脂質:siRNA比率が15:1(w:w)となるまで続けた。次いで、形成されたsiRNA含有リポソームを、10倍の体積のPBS(pH7.2)に対して透析ろ過し、エタノールを除去した。得られたリポソーム(「XR3(+)リポソーム」または「siRNA含有レチノイド結合リポソーム」と略すことがある)は、平均粒径50〜100nm、PDI<0.2、およびsiRNA封入効率>85%を示した。また、ゼータ電位を測定したところ、中性領域のpHで電気的に中性であった。
【0110】
使用したsiRNAの配列を以下に示す:
siRNA1
センス鎖:5'-GAGACACAUGGGUGCUAUA-3'(配列番号16)
アンチセンス鎖:5'-UAUAGCACCCAUGUGUCUC-3'(配列番号17)
siRNA2
センス鎖:5'-UCCUGAGACACAUGGGUGA-3'(配列番号26)
アンチセンス鎖:5'-UCACCCAUGUGUCUCAGGA-3'(配列番号27)
Scrambled siRNA
センス鎖:5'-CGAUUCGCUAGACCGGCUUCAUUGCAG-3'(配列番号32)
アンチセンス鎖:5'-GCAAUGAAGCCGGUCUAGCGAAUCGAU-3'(配列番号33)
【0111】
例2 皮膚筋線維芽細胞におけるHSP47の発現阻害
siRNA含有レチノイド結合リポソームが、皮膚線維化に関与すると考えられる皮膚筋線維芽細胞におけるHSP47の発現を阻害できることを確認するために、in vitroで調製した皮膚筋線維芽細胞に例1で作製したsiRNA含有レチノイド結合リポソームを作用させ、HSP47の発現を測定した。皮膚筋線維芽細胞は皮膚線維芽細胞をTGF−β1で誘導して調製した。まず、未処置のBALB/cマウスの皮膚片を、5mg/mlのIV型コラゲナーゼ(Sigma-Aldrich)を含むDMEMで1時間消化し、10%FCS加DMEM中で2〜3日培養した。こうして得られた初代皮膚線維芽細胞を、10%FCS加DMEM中24時間培養した後、FCSフリー培地中に12時間置き、組換えヒトTGF−β1(R&D Systems)を、siRNAの濃度として50nMのsiRNA含有レチノイド結合リポソームの存在下または非存在下で加えた。24時間後、細胞をISOGEN II(Nippon Gene)中に回収し、RNAを抽出した。ReverTra Ace
(R) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(Toyobo)を用いて、cDNAライブラリを作製した。TaqMan
(R) Fast Universal PCR Master Mix(Life Technologies)を用いて、HSP47の定量PCR(蛍光プローブ法)を行った。使用した蛍光プローブ(P)、プライマー(F/R)の各配列は以下のとおりであった。なお、蛍光プローブの5’末端はFAMで標識されている。
serpinh1-P:5'-AGCCACACTGGGATGAGAAGTTTCACCA-3'(配列番号34)
serpinh1-F:5'-CTGCTTGTGAACGCCATGTTC-3'(配列番号35)
serpinh1-R:5'-TCACCATGAAGCCACGGTTG-3'(配列番号36)
図1に示す結果から、siRNA1およびsiRNA2とも、皮膚筋線維芽細胞におけるHSP47の発現を有意に抑制することが分かる。
【0112】
例3 ブレオマイシン誘発皮膚線維化の処置
図2に示すレジメンに従い、C57BL/6マウスの背部を剃毛し、同一部位にブレオマイシン(BLM)2mg/kgを21日間にわたり連日皮下注射した。治療群には、ブレオマイシン投与開始の1日後より、4.5mg/kg・BWのsiRNA含有レチノイド結合リポソームを週3回静脈注射した(BLM+siRNA群)。siRNAとして、siRNA1を使用した。コントロール群には、ビヒクル(PBS)を投与した(BLM+PBS群)。
実験開始から22日目に、皮膚線維化の程度を、以下の(1)〜(6)に従い評価した。
【0113】
(1)皮膚線維化による真皮肥厚の評価:
マウスの背部から皮膚を採取し、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定した後にパラフィン包埋および切片の作製を行った。Masson's-Trichrome(MT)染色によって線維化の程度を評価した。真皮厚を1標本あたり5カ所計測してその平均を取り、線維化による真皮肥厚(skin thickness)の評価を行った。
(2)Collagen Dot density:
MT染色標本のうち長さ3mm分の画像を、画像解析ソフトImage Scopeに取り込んだ。Image Scopeの解析プログラムを用いて、線維化部位の色彩ベクトル値の総和を計算した。
(3)コラーゲンアッセイ:
皮膚穿孔器(デルマパンチ5mm、マルホ株式会社)を用いて皮膚を直径5mmの円形(面積:19.6mm
2)にくり抜いた皮膚サンプルを各個体につき2カ所から採取したものを併せて解析した。皮膚サンプルを2mlの0.5M酢酸+0.1mg/mlペプシン中でTissueRuptor(Qiagen)を用いてホモジェナイズし、4℃で48時間反応させた後、Sircol Collagen Assay Kit(Biocolor)およびGloMax
(R)-Multi Luminescence System(Promega)を用いてコラーゲン量を定量した。
【0114】
(4)ヒドロキシプロリンアッセイ
皮膚サンプルを6NのHClに入れ、110℃で24時間反応させた後、6NのNaOHで中和した。Chloramin T溶液と20分反応させ、Ehrlich溶液で発色させ、吸光度を測定した。
(5)mRNA抽出からのqPCR法:
皮膚サンプルを液体窒素にて急速凍結させた。RNAの抽出およびqPCRは例1と同様に行った。なお、HSP47に加え、Col1a1の発現も調査した。Col1a1に対する蛍光プローブ(P)、プライマー(F/R)の各配列は以下のとおりであった。なお、蛍光プローブの5’末端はFAMで標識されている。
col1a1-P:5'-CGGGGTCGGAGCCCTCGCTTCC-3'(配列番号37)
col1a1-F:5'-ACCGATGGATTCCCGTTCGA-3'(配列番号38)
col1a1-R:5'-CATTAGGCGCAGGAAGGTCAG-3'(配列番号39)
(6)免疫蛍光染色:
パラフィン切片を作製し、抗HSP47抗体(abcam)と二次抗体である抗ウサギIgG抗体Alexa Fluor 594を用いて染色した。
【0115】
ブレオマイシンを21日間皮下注射したマウスでは、投与局所に著明な線維化を生じ(
図3)、真皮の肥厚やコラーゲン沈着(collagen dot densityにより測定)の増加が見られた(
図4)。しかしながら、
図4に示すとおり、BLMとともにsiRNA含有レチノイド結合リポソームを投与したBLM+siRNA群では、BLM+PBS群と比較して真皮の肥厚が有意に抑制され、コラーゲン沈着も抑制される傾向にあった(p=0.057)。
また、qPCR法によってHSP47の発現を見たところ、ブレオマイシン投与によって上昇し、BLM+siRNA群では著明に低下していることがわかった(
図5B)。一方、Col1a1の発現に有意な変化は見られなかった(
図5A)。
皮膚のヒドロキシプロリン量を定量したところ、これもブレオマイシン投与で増加するが、siRNA投与で正常化することがわかった(
図5C)。
これらの結果により、皮膚線維化において、筋線維芽細胞が、HSP47依存性にコラーゲンを産生していることが判明した。またsiRNA含有レチノイド結合リポソームは皮膚線維症において有効な線維化阻害剤であることが示された。
【0116】
例4 皮膚GVHDの処置1
図6に示すように、レシピエントマウス(BALB/c)に全身放射線照射(6Gy)を行った後、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)が適合し、マイナー組織適合抗原のみが不一致であるドナーマウス(B10.D2)から採取した骨髄細胞8×10
6個と脾細胞2.5×10
7個とを輸注することによって同種移植群(Allo群)とした。コントロールとして、同様に全身放射線照射を行ったBALB/cマウスに、同じBALB/cマウスから採取した骨髄細胞と脾細胞とを移植し、同系移植群(Syn群)とした。
【0117】
図9に示すレジメンに従い、Allo群のレシピエントのうち半数に、移植後8日目(day8)からday26まで、4.5mg/kg・BWのsiRNA含有レチノイド結合リポソームを週3回静脈注射することによって、治療群(Allo+siRNA群)とした。siRNAとして、siRNA1を使用した。残りのAllo群のレシピエントには、コントロールとしてPBSのみを投与した(Allo+PBS群)。
day42に生存しているマウスの皮膚線維化の重症度を、上記(1)〜(6)に従い評価した。
【0118】
レシピエントマウスであるBALB/cに放射線照射後、ドナーであるB10.D2マウスから骨髄細胞および脾細胞の移植を行った(
図6)。6週間後(day42)に皮膚の線維化を評価したところ、コントロールとして同系移植を行ったSyn群と比較して、有意に真皮の肥厚やコラーゲン沈着が増加していた(
図7)。
また、皮膚切片の免疫蛍光染色により、Syn群とは対照的にAllo群ではHSP47陽性細胞が著明に増加していることが判明した(
図8)。
移植後day8〜day26まで週3回のsiRNA含有レチノイド結合リポソームの投与を行ったところ(
図9)、day42の皮膚で、コントロールであるAllo+PBS群に比較して真皮の肥厚やコラーゲン沈着が減少していた(
図11)。コラーゲンアッセイによる、コラーゲンの定量においても、siRNA含有レチノイド結合リポソーム投与群(Allo+siRNA群)では、Allo+PBS群に比較して有意に皮膚のコラーゲン量が減少していた(
図13)。
HSP47のqPCRを行ったが、HSP47の発現は、siRNA含有レチノイド結合リポソーム投与群で抑制されていなかった(
図12)。これは、解析前にsiRNA含有レチノイド結合リポソームを16日間休薬(
図9)していたためと考えられる。
【0119】
例5 皮膚GVHDの処置2
siRNAとしてsiRNA2を用い、siRNA含有レチノイド結合リポソームまたはビヒクル(PBS)の投与をday1からday41まで続けた以外は例4と同様の実験を行った。また、皮膚線維化の評価に加え、脾臓および胸腺に含まれる細胞の種類、比率等をフローサイトメトリーにて分析した。より具体的には、day42に胸腺および脾臓を採取して細胞懸濁液を調製した後、RBC lysis buffer(Biolegend)を用いて赤血球を溶解し、生細胞数をトリパンブルー染色後にカウントした。胸腺からの細胞懸濁液は抗CD4抗体および抗CD8抗体で染色し、フローサイトメトリー法でダブルボジティブ細胞を定量した。脾臓からの細胞懸濁液は、フローサイトメトリー法で、CD11b
−TCRb
+CD4
+細胞をCD4
+T細胞として、CD11b
−TCRb
+CD8
+細胞をCD8
+T細胞としてそれぞれ定量した。キメリズム解析は、脾臓からの細胞懸濁液を抗Ly9.1抗体で染色し、レシピエント細胞(Ly9.1陽性)の比率をフローサイトメトリー法で決定することにより行った。なお、免疫蛍光染色については、day42に背部の皮膚を採取してパラフィン切片を作製し、抗Hsp47抗体(Abcam)および/または抗α-SMA抗体(Abcam)で免疫染色し、DAPIで核染色した
【0120】
Allo群においては、day20頃からcGVHDの発症が認められた。
図14に示す結果から、day42において、Allo群の真皮において、Syn群に比べ、α−SMA陽性の筋線維芽細胞の数が増大しており、主に真皮の非血管部分に集積していることが分かる。なお、α-SMA陽性の周皮細胞は、常に血管壁と並んで存在していた。また、筋線維芽細胞はHSP47も発現していた。また、
図15に示す皮膚線維化の評価結果から、例3と同様、siRNA含有レチノイド結合リポソーム投与群(Allo+siRNA)において、真皮肥厚およびコラーゲン量とも、ビヒクル投与群(Allo+PBS)に比べ有意に低減していることが、
図16に示す結果から、HSP47の発現もビヒクル投与群(Allo)に比べ有意に低減していることが、それぞれ分かる。さらに、
図17〜18に示す胸腺細胞または脾細胞の分析結果から、siRNA含有レチノイド結合リポソームによる処置が、胸腺におけるCD4
+CD8
+細胞の数(
図17A)、脾臓におけるT細胞の数(
図17B、C)、および、ドナーT細胞および造血細胞の定着率(
図18)に有意な影響を与えないことが分かる。
【0121】
例6 siRNA含有レチノイド結合リポソームのin vivo分布
背部に100μgのBLMをday1〜day21の21日間連日投与して皮膚線維化を誘発させたC57BL/6マウスに対し、day22に蛍光色素Dy647で標識したレチノイド結合リポソーム(Dy647で標識したsiRNA1(40%)と未標識のsiRNA2(60%)との混合物を含む)を、4.5mg/kg・BWの用量で2時間毎に3回静脈注射した。最後の注射から2時間後に、皮膚線維化を誘発させた部位および正常な部位の皮膚サンプルを採取し、4%パラホルムアルデヒドで一晩インキュベート後、30%ショ糖で24時間インキュベートした。凍結切片を調製し、DAPIで染色後、蛍光顕微鏡で観察した。
図19に示すとおり、皮膚線維化を誘発させた部位の皮膚組織(Fibrotic)にはDy647による蛍光が観察され、リポソームにより病変部位に標識が送達されたことが確認される一方、正常な部位の皮膚組織(Normal)にはDy647による蛍光は認められなかった。また、
図20に示すとおり、siRNA含有レチノイド結合リポソームは、線維化誘発部位の真皮厚をコントロールに比べて有意に低減したが(「Fibrotic」対「Fibrotic + siRNA」)、正常部位の真皮厚には有意な影響を与えなかった(「Normal」対「Normal + siRNA」)。
【0122】
例7 確立した皮膚GVHDの改善
siRNA含有レチノイド結合リポソームまたはビヒクルの投与を、皮膚GVHDが確立した後のday21からday41まで行った以外は、例5と同様の処置を行った。
図21に示す結果から、siRNA含有レチノイド結合リポソームにより、確立した皮膚GVHDであっても改善が可能であることが分かる。
【0123】
上記結果が示すとおり、本開示の組成物は、ブレオマイシン誘発皮膚線維化および皮膚GVHDという異なる機序での皮膚線維化を抑制したことから、様々な疾患による皮膚線維化、皮膚の外傷性や手術による瘢痕の治療、ケロイド治療等に広く使用できると考えられる。
また、上記結果から、本開示の組成物が、全身投与により奏功し得ることが明らかとなった。cGVHDなどにおいては、皮膚に限らず全身の臓器の線維化が著明となり,このような広い範囲の臓器の線維化に対処するためには、本開示の組成物のような全身投与可能な薬物が好ましい。
【0124】
さらに、上記結果から、本開示の組成物が、同種骨髄幹細胞移植によるドナー由来の免疫細胞の数や組成に有意な影響を与えないことが明らかとなった。このことは、本開示の組成物がGVL/GVTに有意な影響を与えないことを示唆しており、低強度前処置による腫瘍治療などの、GVL/GVTを利用した治療に対する本開示の組成物の有用性を示している。
なお、cGVHDのモデルでの実験では、cGVHDによる腸管の炎症のため下痢が生じ、マウスの衰弱や死亡がみられた(
図9)。このことは、HSP47に対するsiRNAを含む本開示の組成物が、このような線維化に関与しない症状に関して影響しないことを示唆している。しかしながら、こうした線維化以外の症状については、他の治療法の併用により対応が可能と考えられる。また、このような重篤で致死性の疾患を持つモデル動物に上記の組成物を投与したにもかかわらず、コントロールであるPBS投与群に比較して、何ら有害な作用を示さなかったことは、本開示の組成物の高い安全性を示唆するものである。