特許第6833459号(P6833459)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝メディカルシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6833459-X線診断装置 図000002
  • 特許6833459-X線診断装置 図000003
  • 特許6833459-X線診断装置 図000004
  • 特許6833459-X線診断装置 図000005
  • 特許6833459-X線診断装置 図000006
  • 特許6833459-X線診断装置 図000007
  • 特許6833459-X線診断装置 図000008
  • 特許6833459-X線診断装置 図000009
  • 特許6833459-X線診断装置 図000010
  • 特許6833459-X線診断装置 図000011
  • 特許6833459-X線診断装置 図000012
  • 特許6833459-X線診断装置 図000013
  • 特許6833459-X線診断装置 図000014
  • 特許6833459-X線診断装置 図000015
  • 特許6833459-X線診断装置 図000016
  • 特許6833459-X線診断装置 図000017
  • 特許6833459-X線診断装置 図000018
  • 特許6833459-X線診断装置 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6833459
(24)【登録日】2021年2月5日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】X線診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/10 20060101AFI20210215BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   A61B6/10 353
   A61B6/00 320Z
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-218027(P2016-218027)
(22)【出願日】2016年11月8日
(65)【公開番号】特開2018-75132(P2018-75132A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】今川 和夫
(72)【発明者】
【氏名】林 由康
(72)【発明者】
【氏名】小澤 政広
(72)【発明者】
【氏名】渕上 航
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−148866(JP,A)
【文献】 特開2012−075773(JP,A)
【文献】 特開2008−272290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 −6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板上に載置された被検体に照射するX線を発生するX線発生部と、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、を有する保持手段であって、前記X線発生部及び前記X線検出器を移動可能に保持する保持手段と、
前記X線検出器の出力に基づいて、前記被検体のX線画像を生成する画像生成手段と、
前記被検体に対する手技において使用される所定の器具の一部の形状を示す、X線画像から検出可能なランドマークの情報と、前記ランドマークの情報に対応する前記所定の器具の位置及びサイズとを関連付けて記憶する記憶手段と、
前記記憶された前記ランドマークの情報を参照することにより、前記生成されたX線画像から前記ランドマークを検出し、当該検出された前記ランドマークに対応する前記所定の器具の位置及びサイズを前記記憶手段から読み出して特定し、前記特定した位置及びサイズと、前記X線画像の幾何学的な撮影条件とに基づいて、前記所定の器具を含む干渉判定領域を設定し、前記設定された干渉判定領域に入った前記保持手段の移動を制御する処理手段と、
を具備するX線診断装置。
【請求項2】
記記憶手段は、前記保持手段が移動した軌跡を示す動作履歴を更に記憶し、
前記処理手段は、前記動作履歴に基づいて、前記軌跡に対応する領域を除外するように前記干渉判定領域を更新する、請求項1に記載のX線診断装置。
【請求項3】
前記処理手段は、前記動作履歴に基づいて、前記干渉判定領域内での移動速度を変更する、請求項に記載のX線診断装置。
【請求項4】
前記処理手段は、所定の条件を満たす場合をトリガとして、前記除外した領域を戻すように前記干渉判定領域を初期化する、請求項に記載のX線診断装置。
【請求項5】
前記処理手段は、前記保持手段と前記所定の器具との間の距離が小さくなる動作に応じて前記干渉判定領域が更新される場合には、前記除外された領域内での移動速度を低下させるように前記移動を制御する、請求項に記載のX線診断装置。
【請求項6】
前記処理手段は、前記設定された干渉領域に入った前記保持手段を減速又は停止させる、請求項1に記載のX線診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、循環器用のX線診断装置は、天板上に載置された被検体に対して手技を行う際に、X線発生部及びX線検出器を支持するCアームを移動させて、所望の角度から被検体を撮影可能となっている。この種のX線診断装置としては、X線撮影の際に、Cアーム等の移動体と、被検体及び寝台等の干渉物との接触を防止する干渉防止機能が広く用いられている。
【0003】
寝台等に対する干渉防止機能は、天板及び付属物等からなる寝台等を平板形状で表すモデルを用い、X線撮影の際に、移動体と当該モデルとの間のクリアランス(距離)を算出し、クリアランスがしきい値以下になると、警告音を鳴動させつつ、移動体を減速又は停止させる。
【0004】
被検体に対する干渉防止機能は、干渉物を半円筒形状(かまぼこ形状)で表した平均的なモデルを用い、X線撮影の際に、移動体と当該モデルとの間のクリアランスを算出し、クリアランスがしきい値以下になると、警告音を鳴動させつつ、移動体を減速又は停止させる。これにより、X線撮影の際に、移動体と干渉物との接触が防止され、安全性が担保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−272290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような干渉防止機能は、通常は特に問題ないが、本発明者の検討によれば、移動体が減速又は停止する領域では、安全性を担保する一方、臨床有用性(使い勝手)を低下させてしまう可能性がある。
【0007】
例えば、従来の干渉防止機能は、寝台及び患者以外を認識できないため、安全性を担保する観点から、移動体を減速又は停止させる領域を実際よりも広めに設定している。このため、従来の干渉防止機能によれば、移動体が無駄に減速又は停止するようにも見えることから、臨床有用性が低いという印象を医者等のユーザから持たれる可能性がある。
【0008】
目的は、干渉防止機能について、安全性を維持しつつ臨床有用性を向上し得るX線診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係るX線診断装置は、保持手段及び処理手段を具備する。
【0012】
前記保持手段は、天板上に載置された被検体に照射するX線を発生するX線発生部と、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、を有する保持手段であって、前記X線発生部及び前記X線検出器を移動可能に保持する。
【0013】
前記画像生成手段は、前記X線検出器の出力に基づいて、前記被検体のX線画像を生成する。
【0014】
前記処理手段は、前記X線画像から検出されたランドマークに基づいて、前記保持手段と干渉物との間の干渉判定領域を設定し、前記設定された干渉判定領域に基づいて、前記保持手段の移動を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、第1の実施形態に係るX線診断装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、同実施形態におけるX線診断装置の構成を示す斜視図である。
図3図3は、同実施形態におけるCT補助天板を説明するための斜視図である。
図4図4は、同実施形態における画像ファイルを説明するための模式図である。
図5図5は、同実施形態におけるテーブルを説明するための模式図である。
図6図6は、同実施形態における干渉物の位置及びサイズ等を説明するための模式図である。
図7図7は、同実施形態における干渉物の位置及びサイズ等を説明するための模式図である。
図8図8は、同実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
図9図9は、同実施形態におけるX線画像の一例を示す模式図である。
図10図10は、第2の実施形態に係るX線診断装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図11図11は、同実施形態における動作を説明するための模式図である。
図12図12は、第3の実施形態に係るX線診断装置の構成を示す模式図である。
図13図13は、同実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
図14図14は、第4の実施形態に係るX線診断装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図15図15は、同実施形態における動作を説明するための模式図である。
図16図16は、同実施形態における移動速度及び減速率を説明するための模式図である。
図17図17は、同実施形態における動作を説明するための模式図である。
図18図18は、同実施形態の変形例における移動速度及び減速率を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、各実施形態について図面を用いて説明する。尚、以下の実施形態では、X線発生部及びX線検出器(撮像系)がその端部に装着された床置きCアームを保持部とする循環器用のX線診断装置について述べるが、これに限定されるものではなく、例えば、保持部は天井吊りのCアームやΩアームであってよく、又、循環器診断と消化器診断に対応した汎用のX線診断装置であっても構わない。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係るX線診断装置の構成を示す模式図である。X線診断装置100は、被検体150に対しX線を照射すると共に被検体150を透過したX線を検出して投影データを生成するX線撮影部1と、投影データに基づいて画像データを生成する画像生成回路6と、得られた画像データを表示する表示回路7と、X線撮影部1のX線発生部2及びX線検出器3(撮像系)を保持し被検体150の周囲で所定方向に移動あるいは回動させる保持部を備えた保持装置8と、被検体150を載置した天板を所定方向へ移動させる寝台部9を備えている。
【0021】
更に、X線診断装置100は、保持装置8及び寝台部9の各々に設けられた後述の各種移動機構部に対し駆動信号を供給する機構駆動部10と、保持部及びこの保持部に取り付けられた撮像系の位置情報や寝台部9に設けられた天板の位置情報を検出する位置情報検出部11と、記憶回路12と、撮像系及び保持部の位置情報や天板の位置情報に基づいて撮像系及び保持部の被検体150に対する干渉の可能性を判定する処理回路13と、この判定結果に基づいて警報を発する警報発生部14と、被検体情報の入力、X線照射条件を含むX線撮影条件の設定、各種コマンド信号の入力等を行なう入力インタフェース回路15と、上述の各ユニットを統括的に制御して被検体150に対し安全かつ効率のよいX線撮影を可能にするシステム制御回路16を備えている。
【0022】
X線撮影部1は、図1に示すようにX線発生部2、X線検出器3、投影データ生成回路4及び高電圧発生部5を備え、被検体150を透過したX線量に基づいて投影データを生成する機能を有している。
【0023】
X線発生部2は、天板91上に載置された被検体150に照射するX線を発生する。X線発生部2は、X線管と、X線管から照射されたX線に対してX線錘(コーンビーム)を形成するX線絞り器を備えている。X線管は、X線を発生する真空管であり、陰極(フィラメント)より放出された電子を高電圧によって加速させてタングステン陽極に衝突させX線を発生させる。X線絞り器は、X線管と被検体150の間に位置し、X線管から照射されたX線ビームを所定の照射視野のサイズに絞り込む。
【0024】
X線検出器3は、被検体150を透過したX線を検出する。このようなX線検出器3としては、X線を直接電荷に変換するものと、光に変換した後、電荷に変換するものとが使用可能であり、ここでは前者を例に説明するが後者であっても構わない。即ち、本実施形態に係るX線検出器3は、被検体150を透過したX線を電荷に変換して蓄積する平面検出器と、この平面検出器に蓄積された電荷を読み出すための駆動パルスを生成するゲートドライバを備えている。
【0025】
平面検出器は、微小な検出素子を2次元的に配列して構成され、各々の検出素子は、X線を感知し入射X線量に応じて電荷を生成する光電膜と、この光電膜に発生した電荷を蓄積する電荷蓄積コンデンサと、電荷蓄積コンデンサに蓄積された電荷を所定のタイミングで読み出すTFT(薄膜トランジスタ)(何れも図示せず)を備えている。そして、蓄積された電荷はゲートドライバが供給する駆動パルスによって順次読み出される。
【0026】
次に、投影データ生成回路4は、平面検出器から行単位あるいは列単位でパラレルに読み出された電荷を電圧に変換する電荷・電圧変換器と、この電荷・電圧変換器の出力をデジタル信号に変換するA/D変換器と、デジタル変換されたパラレル信号を時系列的なシリアル信号に変換するパラレル・シリアル変換器を備えている。
【0027】
高電圧発生部5は、X線管の陰極から発生する熱電子を加速するために、陽極と陰極の間に印加する高電圧を発生させる高電圧発生器と、システム制御回路16から供給される指示信号に従い、高電圧発生器における管電流、管電圧、照射時間、照射タイミング等のX線照射条件を制御するX線制御部を備えている。
【0028】
画像生成回路6は、図示しない投影データ記憶回路と画像演算回路を備える。投影データ記憶回路は、X線撮影部1の投影データ生成回路4から供給される時系列的な投影データを順次保存して2次元投影データを生成する。一方、画像演算回路は、投影データ記憶回路にて生成された2次元投影データに対しフィルタリング処理等の画像処理を行なって画像データを生成し、更に、得られた複数の画像データに対し合成処理や減算(サブトラクション)処理等を行なう。ここで、投影データ生成回路4及び画像生成回路6は、X線検出器の出力に基づいて、被検体のX線画像を生成する画像生成手段を構成している。
【0029】
表示回路7は、医用画像などを表示するディスプレイと、ディスプレイに表示用の信号を供給する内部回路、ディスプレイと内部回路とをつなぐコネクタやケーブルなどの周辺回路から構成されている。内部回路は、画像生成回路6の画像演算回路から供給される画像データに被検体情報や投影データ生成条件等の付帯情報を重畳して表示データを生成し、得られた表示データに対しD/A変換とTVフォーマット変換を行なってディスプレイに表示する。
【0030】
一方、機構駆動部10は、撮像系を所望の方向へ移動させるために保持装置8に設けられた各種移動機構部に対して駆動信号を供給する撮像系移動機構駆動部101と、被検体150を載置した天板を所望の方向へ移動させるために寝台部9に設けられた移動機構部に対し駆動信号を供給する天板移動機構駆動部102と、撮像系移動機構駆動部101及び天板移動機構駆動部102を制御する機構駆動制御部103を備えている。特に、機構駆動制御部103は、処理回路13からシステム制御回路16を介して供給される撮像系及び保持部の被検体150に対する干渉判定結果に基づいて撮像系移動機構駆動部101を制御し、保持部に取り付けられた撮像系の移動あるいは回動を減速させる機能を有している。
【0031】
次に、保持装置8及び寝台部9の構成とこれらを構成する各ユニットの移動あるいは回動につき図2を用いて説明する。図2は、X線発生部2及びX線検出器3(撮像系)がその端部に取り付けられたCアームを保持部81とする保持装置8と被検体150が載置された天板91を有する寝台部9を示しており、この図では、以下の説明を容易にするために被検体150の体軸方向(即ち、天板91の長手方向)をy軸、保持部(Cアーム)81を保持するスタンド83の中心軸(回動軸)方向をz軸、y軸及びz軸と直交する方向をx軸としている。
【0032】
即ち、一方の端部(下端部)にX線発生部2が、又、他の端部(上端部)にX線検出器3が対向して取り付けられた保持部81は、保持部ホルダ82を介してスタンド83に保持され、保持部ホルダ82の側面には保持部81が矢印aの方向に対してスライド自在に取り付けられている。一方、保持部ホルダ82は、スタンド83に対し矢印bの方向に回動自在に取りつけられ、この保持部ホルダ82の回動に伴って保持部81もx軸を中心として回動する。又、保持部81の端部には撮像系がe方向に対しスライド自在に取り付けられている。そして、a方向に対する保持部81のスライド、b方向に対する保持部ホルダ82の回動及びe方向に対する撮像系のスライドにより、保持部81の端部に取り付けられた撮像系を天板91に載置された被検体150に対して任意の位置及び方向に設定することができる。
【0033】
一方、床面160に配置された床旋回アーム84の一方の端部は、床面160に対して回動軸z1(第1の回動軸)で回動自在に取り付けられ、床旋回アーム84の他の端部にはスタンド83が、回動軸z2(第2の回動軸)を中心に回動自在に取り付けられている。この場合、床旋回アーム84の回動軸z1及びスタンド83の回動軸z2は何れもz方向に対して設定される。
【0034】
即ち、保持部81の両端部に取り付けられた撮像系の位置情報は、保持部ホルダ82に対する保持部81のスライド移動距離、保持部ホルダ82のb方向に対する回動角度、床旋回アーム84のd方向に対する回動角度及びスタンド83のc方向に対する回動角度、保持部81に対する撮像系のスライド移動距離によって一義的に決定される。
【0035】
従って、保持部81、保持部ホルダ82、スタンド83及び床旋回アーム84を所定方向へ移動あるいは回動させるために機構駆動部10の撮像系移動機構駆動部101から保持装置8の各種移動機構部(即ち、保持部81をスライド移動させる保持部スライド機構部、保持部ホルダ82をb方向へ回動させる保持部ホルダ回動機構部、スタンド83をc方向へ回動させるスタンド回動機構部、床旋回アーム84をd方向へ回動させる床旋回アーム回動機構部及び撮像系をe方向へスライドさせる撮像系スライド機構部)の各々へ供給される駆動信号を検出(例えば、駆動パルス数を計数)することにより撮像系の位置情報を検出することが可能となる。
【0036】
一方、寝台部9の寝台92には、被検体150を載置した天板91を体軸方向(f方向)へ水平移動させるための水平移動機構部とg方向へ垂直移動させるための垂直移動機構部が設けられている。ここで、天板91のx軸に沿った横幅は、被検体150の足部側、胴部側及び頭部側の3段階で異なっており、頭部側に向かうに従って短くなっている。また、天板91は、図3に示すように、頭部側の長さを延長するCT(computed tomography)組合せ用の延長補助天板93が取り付け可能となっている。例えば、天板91の頭部側の一部91aを延長補助天板93裏側の天板ズレ止め93aの間にはめ込むと共に、天板91の足側の側部に設けられた取り付けレール91bに延長補助天板93の足側の両側部に設けられた取り付け部93bを取り付ければよい。このような延長補助天板93は、被検体を保護する曲面枠形状のガード93cを有し、x軸に沿った横幅が一定で且つ天板91の横幅よりも長い。
【0037】
図1へ戻って、位置情報検出部11は、機構駆動部10の撮像系移動機構駆動部101から保持装置8の各種移動機構部の各々に供給される駆動信号に基づいて保持部81及びこの保持部81に取り付けられた撮像系の位置情報を検出し、更に、天板移動機構駆動部102から寝台部9の各種移動機構部の各々に供給される駆動信号に基づいて寝台部9に設けられた天板91の位置情報を検出する。
【0038】
記憶回路12は、HDD(Hard Disk Drive)など電気的情報を記録するメモリと、それらメモリに付随するメモリコントローラやメモリインタフェースなどの周辺回路とを備えている。記憶回路12は、システム制御回路16及び処理回路13に実行されるプログラムと、被検体150のサイズ情報(半円筒形状の半径r1のモデル)、撮像系及び保持部のサイズ情報、天板91のサイズ情報を記憶している。これらのサイズ情報は、撮像系及び保持部の位置情報や天板91の位置情報と共に、干渉物の位置及びサイズの特定に用いられる。これに加え、記憶回路12は、X線画像から検出可能なランドマーク情報と、ランドマーク情報に対応する対象物の位置及びサイズとを関連付けて記憶している。ここで、ランドマーク情報としては、X線画像から検出可能な情報であればよく、例えば、類似度判定に用いる画像、又はパターン認識に用いる特徴量などが適宜、使用可能となっている。本明細書中では、ランドマーク情報が画像の場合を例に挙げて述べる。具体的には例えば、記憶回路12は、図4及び図5に示すように、ランドマーク画像G1を含む画像ファイルF1,F2,…を記憶すると共に、当該画像ファイルF1,F2,…を識別する画像ファイル名と、対象物の位置及びサイズとを関連付けて記述したテーブルTBとを記憶する。なお、これに限らず、記憶回路12は、ランドマーク画像と、対象物の位置及びサイズを示す付帯情報とを含む画像ファイルをランドマーク毎に記憶してもよい。この場合でも、ランドマーク画像と、対象物の位置及びサイズとを関連付けて記憶することに変わりはない。
【0039】
ここで、ランドマークとしては、例えば、(a)CARTO(登録商標)の磁気パッド、(b)延長補助天板93のエッジ、(c)頭部固定器具、(d)ファントム、及び(e)被検体150の下肢の骨、などが適宜、使用可能となっている。
【0040】
(a)始めに、磁気パッドの例について述べる。画像ファイルF1内のランドマーク画像G1は、ランドマークmk1のX線画像である。ランドマークmk1は、カテーテルアブレーション治療において磁気を利用し心腔内のマッピングを行うCARTOシステムに使用される3つの磁気パッドのうちの一つである。この磁気パッドは、当該マッピングのために磁気を発生させる装置であり、ロケーションパッド(Location Pad)と呼ばれる装置の所定位置に配置される。ランドマークmk1の磁気パッドは、目印(landmark)となる特徴的な形状を有しており、図6及び図7に示すように、ロケーションパッドLpの一部として天板91の裏側に装着される。なお、ロケーションパッドのサイズは、図5乃至図7に示すように、例えば、略立方体のサイズとして特定可能である。ロケーションパッドLpを取り付けた位置は、取り付け毎に天板91のy軸方向に沿って多少前後するものの、X線画像内のランドマークmk1の位置として特定可能である。ロケーションパッドLpが天板91の裏側に装着された場合、天板91の横幅が頭部側で狭くても、ロケーションパッドLpの横幅に応じて、干渉判定領域R0の横幅が延長される。
【0041】
(b)次に、延長補助天板93のエッジについて述べる。CT組合せ用の延長補助天板93は、アンギオグラフィの天板91よりも長めである事に加え、頭部側・胴部側で切り欠きをもつ天板91とは異なり、全部が横長で衝突し易い。このような延長補助天板93は、例えばガード93cを取り付けたエッジをランドマークとして検出することにより、位置及びサイズを特定可能である。なお、従来は、延長補助天板93の有無をディップスイッチのオン/オフ操作で設定していた。本実施形態では、X線画像内のランドマーク(延長補助天板93のエッジ)に基づいて、延長補助天板93があることを検出できるので、リアルタイムで使用し易い。なお、延長補助天板93は、エッジをランドマークとして使用可能なため、ガード93c等にランドマークを付ける必要がない。
【0042】
(c)次に、頭部固定器具について述べる。頭部固定器具は、上方から見た四隅をランドマークに用いる場合、被検体150毎に頭部のサイズが異なっていても、一律に位置及びサイズを特定できる。但し、頭部固定器具の四隅は、ランドマークにならない場合(特徴的な形状をもたない場合)がある。そのため、頭部固定器具としては、四隅にランドマークを有する器具を使うことが好ましい。
【0043】
(d)次に、ファントムについて述べる。ファントムは、医師が手技に用いるものではなく、サービスマンがキャリブレーション等に用いる。この種のファントムとしては、例えば、複数の位置決め用の鋼球がらせん状に表面に配列されたヘリックスファントムがある。ファントムの一部をランドマークとして検出した場合、サービスマンによるキャリブレーション中であって、X線検出器3がファントムや天板91等に接触する可能性が少ないことから、減速・停止を伴う干渉制御をオフにするように設定してもよい。
【0044】
(e)次に、下肢の骨について述べる。上記(a)〜(d)は、オプション器具であるが、この(e)は被検体150の一部である。下肢の骨は、特徴的な形状を有しており、ランドマークとして使用可能である。下肢(足)は、胴体回りよりも細い。一般に、図6及び図7に示すように、被検体150のサイズ(f1(r1,θ1))は、被検体150の体軸中心から半円筒形状(かまぼこ形状)で半径r1(例、30cm)のモデルで特定している。これに対し、本実施形態では、下肢付近のサイズ(f2(r2,θ1))を、被検体150の体軸中心から半円筒形状で半径r2(例、20cm)のモデルで特定し、半径r1のモデルよりも小さくすることができる。
【0045】
処理回路13は、記憶回路12内の処理プログラムを呼び出し実行することにより、プログラムに対応する特定機能13a、導出機能13b及び更新機能13cを実現するプロセッサである。なお、図1においては単一の処理回路13にて特定機能13a、導出機能13b及び更新機能13cが実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能を実現するものとしても構わない。
【0046】
ここで、特定機能13aは、記憶回路12内のランドマーク情報を参照することにより、画像生成回路6により生成されたX線画像から対象物の位置及びサイズを特定する機能である。例えばランドマーク情報が画像の場合、特定機能13aは、画像生成回路6により生成されたX線画像内のランドマーク画像に基づいて、記憶回路12から対象物の位置及びサイズを特定する機能である。また例えば、ランドマーク情報が特徴量の場合、特定機能13aは、画像生成回路6により生成されたX線画像から特徴量を抽出し、当該特徴量に基づいて、記憶回路12から対象物の位置及びサイズを特定する機能である。
【0047】
導出機能13bは、当該特定した位置及びサイズと、X線画像の幾何学的な撮影条件とに基づいて、対象物、天板及び被検体を含む干渉物の位置及びサイズを導出する機能である。
【0048】
更新機能13cは、当該導出した位置及びサイズに基づいて、X線発生部2及びX線検出器3を含む保持装置8全体と干渉物との間の干渉判定領域を更新する機能である。
【0049】
警報発生部14は、例えば、図示しないブザー又はスピーカを備え、システム制御回路16において撮像系あるいは保持部81が被検体150の周囲に設定された干渉判定領域に到達したことが検出されたならば、その検出結果に基づいて警報音を発生する。
【0050】
入力インタフェース回路15は、関心領域(ROI)の設定などを行うためのトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、及び表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチパネルディスプレイ等によって実現される。入力インタフェース回路15は、システム制御回路16に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換し、システム制御回路16へと出力する。なお、本明細書において入力インタフェース回路15はマウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース回路15の例に含まれる。
【0051】
システム制御回路16は、図示しないプロセッサとメモリを備え、入力インタフェース回路15にて入力あるいは設定された上述の各種情報がメモリに保存される。そして、プロセッサは、これらの入力情報や設定情報に基づいてX線診断装置100の各ユニットを統括的に制御し、被検体150に対し安全かつ効率のよいX線撮影を行なう。
【0052】
これに加え、システム制御回路16は、干渉防止機能に関し、処理回路13により更新された干渉判定領域に基づいて、保持装置8によるX線発生部2やX線検出器3の移動を制御する制御機能をもっている。
【0053】
次に、以上のように構成されたX線診断装置の動作について図8のフローチャート及び図9の模式図を用いて説明する。
被検体150のX線撮影に先立ち、X線診断装置100の操作者は、入力インタフェース回路15より被検体情報の入力やX線照射条件の設定を行ない、更に、保持装置8の保持部(Cアーム)81に取り付けられた撮像系や被検体150が載置された寝台部9の天板91を所定の位置(初期位置)に移動/回動させる。
【0054】
このとき、位置情報検出部11は、上述の天板91及び撮像系の移動/回動に際し機構駆動部10の天板移動機構駆動部102から寝台部9の水平移動機構部及び垂直移動機構部に供給される駆動信号に基づいて天板91の初期位置情報を検出し、同様にして、撮像系移動機構駆動部101から保持装置8の保持部スライド機構部、保持部ホルダ回動機構部、スタンド回動機構部、床旋回アーム回動機構部及び撮像系スライド機構部の各々に供給される駆動信号に基づいて保持部81及びこの保持部81に取り付けられた撮像系の初期位置情報を検出する。
【0055】
処理回路13は、位置情報検出部11から供給される天板91の初期位置情報と、記憶回路12内の被検体150のサイズ情報、撮像系及び保持部のサイズ情報、天板のサイズ情報に基づき、天板91に載置された被検体150の周囲に干渉判定領域を設定する。
【0056】
次に、操作者は、入力インタフェース回路15においてX線透視の開始コマンドを入力することにより被検体150に対するX線透視を開始し、このときX線撮影部1及び画像生成回路6によって生成される透視画像データの観測下にて撮像系を所望位置に向けて移動させる。
【0057】
一方、位置情報検出部11は、撮像系の移動に際して機構駆動部10の撮像系移動機構駆動部101から保持装置8の保持部スライド機構部及び保持部ホルダ回動機構部に供給される駆動信号と、保持部81及び撮像系の初期位置情報に基づき移動中の保持部81及び撮像系の位置情報を検出する。
【0058】
ここで、処理回路13は、図8に示すように、特定機能13aにより、画像生成回路6により生成されたX線画像と、記憶回路12内のランドマーク画像G1,…とに基づいて、X線画像からランドマーク画像を検出する(ステップST10)。例えば、処理回路13は、図4に示すランドマークmk1を示すランドマーク画像を、図9に示すX線画像G2から検出する。しかる後、処理回路13は、X線画像内のランドマーク画像に基づいて、記憶回路12から対象物の位置及びサイズを特定する(ステップST20)。この例では、対象物はロケーションパッドLpである。
【0059】
処理回路13は、導出機能13bにより、当該特定した位置及びサイズと、X線画像の幾何学的な撮影条件とに基づいて、対象物であるロケーションパッドLp、天板91及び被検体150を含む干渉物の位置及びサイズを導出する(ステップST30)。X線画像の幾何学的な撮影条件としては、保持部81及び撮像系の位置情報及びサイズ情報、被検体モデルの位置情報及びサイズ情報、天板91の位置情報及びサイズ情報などがある。
【0060】
続いて、処理回路13は、更新機能13cにより、当該導出した位置及びサイズに基づいて、X線発生部2及びX線検出器3を含む保持装置8全体と干渉物との間の干渉判定領域R0を更新する(ステップST40)。
【0061】
しかる後、システム制御回路16は、更新された干渉判定領域R0に基づき、撮像系の移動/回動に際し機構駆動部10を介して保持装置8によるX線発生部2やX線検出器3の移動を制御する(ステップST50)。例えば、システム制御回路16は、X線撮影の際に、常に、撮像系と干渉物との間のクリアランス(距離)を算出し、クリアランスがしきい値以下になる干渉判定領域R0に撮像系が入ると、警告音を鳴動させつつ、保持装置8を減速又は停止させる。一方、撮像系が干渉判定領域に到達していない場合、撮像系の移動/回動を通常速度で実行する。また、ステップST50の処理は、ランドマークをもつ対象物を移動又は除外しない場合に繰り返し実行される(ステップST60:No)。これは、対象物を移動又は除外しない場合、ステップST30で導出された干渉物の位置及びサイズが変わらないからである。なお、対象物を移動又は除外した場合、X線診断装置は、ステップST10に戻る。
【0062】
次いで、X透視画像データの観察下にて撮像系の低速度移動/回動を行ない、この撮像系が被検体150の所望位置に設定されたならば入力インタフェース回路15において撮像系の移動/回動を停止させるためのコマンド信号とX線撮影を開始するためのコマンド信号を入力する。
【0063】
そして、これらのコマンド信号を受信したシステム制御回路16は、予め設定されたX線撮影条件に基づいて被検体150に対するX線撮影を開始する。
【0064】
上述したように本実施形態によれば、X線画像内のランドマーク画像に基づいて、記憶手段(記憶回路12)から対象物の位置及びサイズを特定する。当該特定した位置及びサイズと、X線画像の幾何学的な撮影条件とに基づいて、対象物、天板91及び被検体150を含む干渉物の位置及びサイズを導出する。当該導出した位置及びサイズに基づいて、X線発生部2及びX線検出器3を含む保持装置8全体と干渉物との間の干渉判定領域R0を更新する。当該更新された干渉判定領域R0に基づいて、移動を制御する。従って、干渉防止機能について、安全性を維持しつつ臨床有用性を向上させることができる。
【0065】
補足すると、本実施形態では、干渉判定領域を手技中に変更できない従来とは異なる。具体的には本実施形態では、X線画像内のランドマーク画像に基づいて対象物を検出するため、対象物に応じて干渉物のサイズを変更し、撮像系と干渉物との間のしきい値に対応する干渉判定領域R0を変更できる。すなわち、本実施形態では、対象物(例、オプション機器の有無と、対象物の位置とが、対象物のランドマークを検出することで分かる。また、対象物のサイズが予め分かっているので、対象物のサイズに応じて干渉物のサイズを変更し、干渉判定領域を変更できる。
【0066】
これに加え、本実施形態では、従来の干渉防止機能では不可能な、実際の干渉物に最適化された必要最小限の干渉判定領域を設けることが可能である。従来の干渉防止機能は、寝台及び被検体以外を認識できないため、安全性を担保する観点から、平均的なモデルに基づき、移動体を減速又は停止させる領域を実際よりも広めに設定している。このため、無駄に減速又は停止するようにも見えることから、臨床有用性が低いという印象を医者等のユーザから持たれる可能性がある。これに対し、本実施形態では、寝台及び被検体以外の対象物を認識できるので、実際の干渉物に応じて最適化された必要最小限の干渉判定領域を設定することができる。
【0067】
これに加え、専用のセンサ・治具等を追加することなく、手技中に最適な干渉判定領域に更新することで安全性を担保しつつ手技効率の向上を実現することができる。
【0068】
また、従来の干渉判定領域は、固定的で使い勝手が悪かった。これに対し、本実施形態の干渉判定領域は、システム情報(X線画像)に応じてリアルタイムで常に更新することにより、流動的で使い勝手が良くなっている。
【0069】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係るX線診断装置について図1を参照しながら説明する。なお、前述した図面と同一部分には同一符号を用いて重複した説明を省略し、ここでは異なる部分について主に述べる。以下の各実施形態も同様にして重複した説明を省略する。
【0070】
第2の実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、より一層、無駄な減速又は停止を避ける観点から、既に動作済みの軌跡上には干渉物がないとみなして、干渉判定領域から除外する構成となっている。
【0071】
具体的には、記憶回路12は、前述したプログラムや情報などに加え、X線発生部2及びX線検出器3を含む保持装置8全体の移動した軌跡を示す動作履歴を保持する。
【0072】
これに伴い、処理回路13の更新機能13cは、前述した機能において、記憶回路12内の動作履歴に基づいて、当該軌跡に対応する領域を除外するように干渉判定領域を更新する。
【0073】
また、システム制御回路16は、前述した機能において、記憶回路12内の動作履歴に基づいて、干渉判定領域内での移動速度を変更してもよい。
【0074】
他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0075】
次に、以上のように構成されたX線診断装置について図10のフローチャート及び図11の模式図を用いて説明する。
【0076】
今、図10に示すように、前述同様に、ステップST10〜ST40が実行される。但し、記憶回路12には、保持装置8全体が移動した軌跡を示す動作履歴が書き込まれる。動作履歴の書き込みは、例えば位置情報検出部11が実行する。
【0077】
ステップST40の後、処理回路13は、図11に示すように、更新機能13cにより、記憶回路12内の動作履歴に基づいて、当該軌跡に対応する領域Rdを除外(削減)するように干渉判定領域R0を更新する(ステップST41)。なお、領域Rdを除外するのは、検査開始後、X線照射し始めた(被検体150が天板91上にいる)場合の動作のみである。これは、X線照射時には、被検体150が天板91上にいるからである。検査準備時には、被検体150が天板91上にいないので、もし検査準備時に領域Rdを除外すると、その後、除外した領域Rdに被検体150が載置される可能性があるからである。
【0078】
システム制御回路16は、更新した干渉判定領域に基づいて、移動を制御する(ステップST50)。このとき、システム制御回路16は、動作履歴に基づいて、干渉判定領域内での移動速度を変更してもよい。
【0079】
いずれにしても、システム制御回路16は、ある軌跡をX線検出器3が初めて移動する際には減速させる(時刻t1〜t2)。なお、ステップST41で除外された領域Rd内(例、同じ軌跡)をX線検出器3が戻るときには、干渉物が存在しない可能性が高いので、減速・停止せずに移動可能である(ステップST51)。このため、システム制御回路16は、除外された領域Rd内でX線検出器3を減速させずに移動させる。
【0080】
また、記憶回路12は、保持装置8全体が移動した軌跡を示す動作履歴が書き込まれ、当該動作履歴を保持する(ステップST52)。
【0081】
以下、同様にステップST60が実行され、ランドマークをもつ対象物を移動又は除外しない場合にステップST41〜ST52が繰り返し実行される(ステップST60:No)。これは、対象物を移動又は除外しない場合、また同様に、対象物を移動又は除外した場合、X線診断装置は、ステップST10に戻る。
【0082】
従って、本実施形態によれば、保持装置8全体の移動した軌跡を示す動作履歴を保持し、動作履歴に基づいて、当該軌跡に対応する領域を除外するように干渉判定領域を更新する。従って、第1の実施形態の効果に加え、同じ軌跡を通過する際の無駄な減速又は停止を避けることができ、より一層、臨床有用性を向上させることができる。
【0083】
例えば、特定の角度間(例、0°≦θ≦60°)および基準セット位置から同じ角度へ移動する場合には、無駄な減速又は停止をしないので、ストレスを感じることなく、迅速且つ円滑に位置決めを実行できる。また、手技によっては特定の角度間および基準セット位置から同じ角度へ移動する状況がよくあるので、より一層、臨床有用性を向上させることができる。
【0084】
以上のような第2の実施形態の効果は、動作履歴に基づいて、干渉判定領域内での移動速度を変更する場合であっても、同様に得ることができる。
【0085】
<第3の実施形態>
図12は、第3の実施形態に係るX線診断装置の構成を示す模式図である。
第3の実施形態は、第2の実施形態の変形例であり、領域Rdを除外して小さくなった干渉判定領域R0を、安全性を担保する観点から、所定の条件を満たした場合に初期値(領域Rdを除外する前の大きさ)に戻す構成となっている。
【0086】
詳しくは、第3の実施形態は、時間経過や、特定プログラム(3D撮影等)及び検査切り替え等によって、被検体150を動かしたときなどには、干渉物の位置が変わっていることから、干渉判定領域R0をデフォルト(初期最大判定領域)に戻す形態となっている。
【0087】
具体的には、処理回路13は、所定の条件を満たす場合をトリガとして、除外した領域Rdを戻すように干渉判定領域R0を初期化する初期化機能13dを更に備えている。
【0088】
ここで、所定の条件としては、例えば、(a)所定時間の経過、(b)天板91の移動、(c)所定プログラムの使用、(d)X線検出器3のパーク位置への移動、又は(e)検査終了、などが適宜、使用可能となっている。これら5個の条件は、少なくとも1個あればよく、任意の組合せで実装可能である。
【0089】
(a)所定時間の経過という条件は、例えば、手技が長引いた場合の被検体150の体動を意味することに基づいている。例えば、数時間実施されるEP(内視鏡的乳頭部切除術)においては、被検体150の体動などのため、最後の方では干渉判定領域R0が被検体150に接近している可能性がある。このため、所定時間の経過で初期値に戻すことが有効である可能性がある。
【0090】
(b)天板91の移動という条件は、天板91の高さを変えることが、被検体150の移動を意味することに基づいている。
【0091】
(c)所定プログラムの使用という条件は、被検体150や保持装置8が大きく移動する撮影プログラム種の選択(3D撮影等)を意味することに基づいている。撮影前と同じ位置に戻ったと初期化機能13dが判定した場合には、干渉判定領域を復元する。
【0092】
(d)パーク位置への移動という条件は、パーク位置への移動が、検査終了で次の被検体150の載置を意味することに基づいている。
【0093】
(e)検査終了という条件は、検査終了で次の被検体150の載置を意味することに基づいている。
【0094】
他の構成は、第2の実施形態と同様である。
【0095】
次に、以上のように構成されたX線診断装置について図13のフローチャートを用いて説明する。
【0096】
今、前述同様に、ステップST10〜ST52が実行される。
処理回路13は、初期化機能13dにより、所定の条件を満たすか否かを判定し(ステップST53)、所定の条件を満たす場合をトリガとして、除外した領域Rdを戻すように干渉判定領域R0を初期化する。例えば、所定時間が経過した場合をトリガとして、ステップST10に戻ることにより、干渉判定領域R0を初期化する(ステップST53:Yes)。一方、所定の条件を満たさない場合には、ステップST60に進む。
【0097】
以下、同様にステップST60が実行され、ランドマークをもつ対象物を移動又は除外しない場合にステップST41〜ST53が繰り返し実行される(ステップST60:No)。また、ステップST60において、対象物を移動又は除外した場合には、X線診断装置は、ステップST10に戻り、新たにステップST10からの処理を実行する。
【0098】
従って、本実施形態によれば、所定の条件を満たす場合をトリガとして、除外した領域Rdを戻すように干渉判定領域R0を初期化する構成により、第2の実施形態の効果に加え、より一層、安全性を担保することができる。
【0099】
補足すると、臨床有用性のみを重視して干渉判定領域R0を削り続けた結果、干渉を防止できない状況が発生することを阻止するため、適切な条件下で干渉判定領域R0を初期化している。従って、より一層、安全性を担保することができる。
【0100】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態に係るX線診断装置について図1を用いて説明する。
第4の実施形態は、第2又は第3の各実施形態の変形例であり、削除した領域Rd内での移動速度を、干渉判定領域内の移動速度より高い範囲で減速する等の連続的な制御(例、ファジー制御)を行い、臨床有用性と安全性とを両立させる形態である。
【0101】
補足すると、第2の実施形態の場合、削除した領域Rd内では通常速度で移動させ、干渉判定領域内では減速又は停止させるといった離散的なオン/オフを実施している。この場合、干渉物に接触しない範囲で非常に接近しており、少しの体動で接触するといった可能性がある。
【0102】
第4の実施形態は、このような可能性を考慮し、移動速度(又は減速率)を制御することにより、臨床有用性と安全性との両立を図っている。
【0103】
これに伴い、システム制御回路16は、前述した機能に加え、干渉判定領域を削った場合の移動速度をクリアランスによって調整する機能をもっている。具体的には、システム制御回路16は、保持装置8全体と干渉物との間のクリアランスが小さくなる動作に応じて干渉判定領域が更新される場合には、除外された領域Rd内での移動速度を低下させるように移動を制御する機能をもっている。
【0104】
例えば、干渉判定領域R0内に基準値を設けた場合には、システム制御回路16は、保持装置8全体と干渉物との間のクリアランスが基準値より小さいとき、除外された領域Rd内での移動速度を低下させるように移動を制御する機能をもっている。ここで、基準値は、干渉判定領域の内部に設定され、保持装置8全体と干渉物との接触リスクが高まる境界の距離を意味する。
【0105】
但し、システム制御回路16は、必ずしも基準値を境界として移動速度を切り替える場合に限定されない。例えば、干渉判定領域R0内に基準値を設けない場合には、システム制御回路16は、保持装置8全体と干渉物との間のクリアランスが小さくなるに従い、除外された領域Rd内での移動速度を、干渉判定領域R0外での移動速度よりも小さい値で連続的に又は断続的に低下させるように移動を制御する機能をもっている。
【0106】
他の構成は、第2又は第3の実施形態と同様である。
【0107】
次に、以上のように構成されたX線診断装置について図14のフローチャート、図15乃至図17の模式図を用いて説明する。以下の説明は、システム制御回路16の機能に関して、干渉判定領域R0内に基準値を設けた場合を例に挙げて述べる。
【0108】
今、前述同様に、ステップST10〜ST50が実行される。
システム制御回路16は、保持装置8全体と干渉物との間のクリアランスが基準値より小さいか否かを判定する(ステップST50−1)。ステップST50−1の判定の結果、図15に示すように、クリアランスCLが基準値より小さいとき、除外された領域Rd内での移動速度v2を低下させるように移動を制御し(ステップST50−2)、ステップST52に移行する。すなわち、クリアランスCLが小さいときには、干渉物に接触する可能性があるので、干渉判定領域R0外の移動速度v1よりも減速する必要がある。一方、干渉判定領域R0内の移動速度v3まで減速すると、臨床有用性が低くなる。そこで、この例では、図16(a)に示すように、両移動速度v1,v3の間の移動速度として、除外された領域Rdでの移動速度v2を定めている。なお、移動速度v2は、一定の値でもよい。ここで、各移動速度v2,v3は、干渉判定領域R0外の移動速度v1に対する減速率ηに基づいて調整してもよい。例えば図16(b)に示すように、除外された領域Rd内の減速率ηd(例、25±10%)は、干渉判定領域R0内の減速率η0(50%)よりも小さくすればよい(ηd<η0)。すなわち、各移動速度v2,v3は、次式に示すように調整してもよい。
【0109】
v2=(1−ηd)・v1、ηd=25±10%より、0.65・v1≦v2≦0.85・v1。なお、移動速度v2は、v2=0.75・v1のように一定の値でもよい。
【0110】
v3=(1−η0)・v1、η0=50%より、v3=0.5・v1。
【0111】
但し、クリアランスが小さいときの減速率ηd,η0の値は、これに限らず、大小関係(0<ηd<η0<1)を満たす範囲で所望の値に設定可能である。同様に、クリアランスが小さいときの移動速度v1,v2,v3の値も、大小関係(v3<v2<v1)を満たす範囲で所望の値に設定可能である。
【0112】
また、干渉判定領域R0内の移動速度v3は、最初に干渉判定領域R0内を移動するときの速度である。クリアランスが小さい場合、最初に移動した軌跡と同じ軌跡を移動する際には、移動速度v2で移動する。
【0113】
一方、ステップST50−1の判定の結果、否のとき、ステップST51に移行する。図17に示すように、クリアランスCLが基準値以上のときには、干渉物に接触する可能性がほぼないので、ステップST51では、干渉判定領域R0外の移動速度v1よりも減速する必要がない。そこで、この例では、最初に干渉判定領域R0内を移動するときに移動速度v3で移動し、最初に移動した軌跡と同じ軌跡を移動する際には、移動速度v1で移動する。
【0114】
しかる後、前述同様に、ステップST52以降の処理を実行する。
【0115】
従って、第4の実施形態によれば、保持装置8全体と干渉物との間のクリアランス(距離)が小さくなる動作に応じて干渉判定領域が更新される場合には、除外された領域Rd内での移動速度を低下させるように移動を制御する構成により、第2又は第3の実施形態の効果に加え、臨床有用性と安全性との両立を実現できる。
【0116】
また、第4の実施形態は、干渉判定領域R0内に基準値を設けた場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、干渉判定領域R0内に基準値を設けない場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0117】
干渉判定領域R0内に基準値を設けない場合、システム制御回路16は、図18(a)に示すように、保持装置8全体と干渉物との間のクリアランスが小さくなるに従い、除外された領域Rd内での移動速度v2を、干渉判定領域R0外での移動速度v1よりも小さい値で連続的に又は断続的に低下させるように移動を制御する。
【0118】
図18(a)中、実線は、比較用の図16中の移動速度v2を示している。
一点鎖線は、クリアランスが干渉判定領域R0の初期値以下になった際に、移動速度v1よりも小さい値の移動速度v2を断続的に低下させた場合の例を示している。すなわち、干渉判定領域R0の初期値近傍では、移動速度v2を固定値とし、干渉判定領域R0の初期値から離れた領域では、移動速度v2を変動値として低下させている。なお、断続的な低下の方法としては、前述した変動値(傾斜部)をもつ場合に限らず、傾斜部を持たずに階段状に低下させる手法を用いてもよい。
【0119】
二点鎖線は、クリアランスが干渉判定領域R0の初期値以下になった際に、移動速度v1よりも小さい値の移動速度v2を連続的に低下させた場合の例を示している。ここで、移動速度v2の傾きは、一定でもよく、折れ線のように変えてもよい。
【0120】
図18(b)は、図18(a)中の各線で示す移動速度v2に対応する減速率ηdを示している。すなわち、移動速度v2を低下する場合に限らず、減速率ηdを増加させてもよい。例えば、システム制御回路16は、図18(b)に示すように、保持装置8全体と干渉物との間のクリアランスが小さくなるに従い、除外された領域Rd内での減速率ηdを、干渉判定領域R0外での減速率よりも大きい値で連続的に又は断続的に増加させるように移動を制御してもよい。
【0121】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、X線画像内のランドマーク画像に基づいて、記憶手段(記憶回路12)から対象物の位置及びサイズを特定する。当該特定した位置及びサイズと、X線画像の幾何学的な撮影条件とに基づいて、対象物、天板91及び被検体150を含む干渉物の位置及びサイズを導出する。当該導出した位置及びサイズに基づいて、X線発生部2及びX線検出器3を含む保持装置8全体と干渉物との間の干渉判定領域R0を更新する。当該更新された干渉判定領域R0に基づいて、移動を制御する。従って、干渉防止機能について、安全性を維持しつつ臨床有用性を向上させることができる。
【0122】
なお、各実施形態は、撮像系がその端部に装着された床置きCアームを保持部81とする循環器用のX線診断装置について述べたが、これに限定されない。各実施形態は、例えば、保持部が天井吊りのCアームやΩアームであってもよく、又、循環器診断と消化器診断に対応した汎用のX線診断装置であっても構わない。
【0123】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(central processing unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0124】
各実施形態におけるX線発生部2は、特許請求の範囲におけるX線発生部の一例である。各実施形態におけるX線検出器3は、特許請求の範囲におけるX線検出器の一例である。各実施形態における保持装置8は、特許請求の範囲における保持手段の一例である。各実施形態における投影データ生成回路4及び画像生成回路6は、特許請求の範囲における画像生成手段の一例である。各実施形態における記憶回路12は、特許請求の範囲における記憶手段及び履歴保持手段の一例である。各実施形態における処理回路13及び特定機能13aは、特許請求の範囲における特定手段の一例である。各実施形態における処理回路13及び導出機能13bは、特許請求の範囲における導出手段の一例である。各実施形態における処理回路13及び更新機能13cは、特許請求の範囲における更新手段の一例である。各実施形態におけるシステム制御回路16は、特許請求の範囲における制御手段の一例である。各実施形態における処理回路13及び初期化機能13dは、特許請求の範囲における初期化手段の一例である。
【0125】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0126】
1…X線撮影部、2…X線発生部、3…X線検出器、4…投影データ生成回路、5…高電圧発生部、6…画像生成回路、7…表示回路、8…保持装置、9…寝台部、10…機構駆動部、11…位置情報検出部、12…記憶回路、13…処理回路、13a…特定機能、13b…導出機能、13c…更新機能、13d…初期化機能、14…警報発生部、15…入力インタフェース回路、16…システム制御回路、81…保持部、82…保持部ホルダ、83…スタンド、84…床旋回アーム、91…天板、92…寝台、93…延長補助天板、100…X線診断装置、101…撮像系移動機構駆動部、102…天板移動機構駆動部、103…機構駆動制御部、150…被検体、160…床面、CL…クリアランス、G1…ランドマーク画像、F1,F2…画像ファイル、Lp…ロケーションパッド、R0…干渉判定領域、Rd…除外した領域、TB…テーブル、mk1…ランドマーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18