(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態に係る表面汚染密度分布算出装置10は、対象エリア31内(
図2)の複数位置における空間線量率を計測し作成した第1空間線量率分布データD1が保持される第1メモリ領域11と、対象エリア31に配置される第1構造物32を第1空間線量率分布データD1と共通の座標系で設定した第1構造物データD2が保持される第2メモリ領域12と、モデルエリア35(
図3)の第2空間線量率分布データS1、モデルエリア35の第2構造物データS2及びモデルエリア35の第2表面汚染密度分布データS3の関係を示す演算式Tが保持される第3メモリ領域13と、この演算式Tに第1空間線量率分布データD1及び第1構造物データD2を入力し対象エリア31の第1表面汚染密度分布データD3を出力させる第1演算部21と、を備えている。
【0012】
図2に示すように、表面汚染密度を評価する対象エリア31内には、複数の線量計36(図示は一つのみ)が、二次元的又は三次元的に配置されている。これら線量計36により計測された複数の空間線量率の値は、対応する線量計の座標値に紐付けされて、第1空間線量率分布データD1を形成する。なお、本実施形態においては複数の線量計36を二次元的又は三次元的に配置する例を示しているが、対象エリア内の二次元的又は三次元的な複数位置における空間線量率が計測できれば構わない。すなわち、本実施形態において、1つの線量計36を二次元的又は三次元的な複数の位置に順次移動させて複数の空間線量率を計測するように構成しても構わない。
【0013】
なお対象エリア31内に配置される複数の線量計の間隔は、特に限定はないが、点数を多くしてこの間隔を密にして得た第1空間線量率分布データD1である程、最終的に導かれる第1表面汚染密度分布データD3の精度が向上する。
このようにして計測された第1空間線量率分布データD1は、第1メモリ領域11に保持される。
【0014】
対象エリア31の周辺及び/又はその内側には、第1構造物32が配置されており、第1空間線量率分布データD1と共通の座標系で設定した第1構造物データD2が、第2メモリ領域12に保持される。
この第1構造物データD2には、天井や壁等といったガンマ線と相互作用する構造物の形状情報および位置情報を含むものであり、さらに構造物の密度、材質等といったガンマ線との相互作用(透過、散乱など)に影響を及ぼす情報も含まれる。
【0015】
空間に点線源として存在する放射性物質から放出されるガンマ線は、等方的に放出されるため、この点線源からの距離の2乗に反比例して空間線量率(Sv/h)は減衰していく。また、
図2に示すように、現実に放射能汚染された対象エリア31では、放射性物質33が、面状に一定の範囲に広がって存在する場合があり、点線源として存在するとは限らない。
【0016】
そして、対象エリア31で計測される空間線量率は、放射性物質33から放出されるガンマ線が直接カウントされる場合の他に、壁などの第1構造物32で散乱したガンマ線も重畳してカウントされたものである。さらに、対象エリア31に存在する線源は、複数に分散している場合もある。
このために、計測した空間線量率から、換算により対象エリア31に存在する放射性物質33の汚染濃度である表面汚染密度(Bq/m
2)を求める場合は、上述した条件を考慮する必要がある。
【0017】
図3に示されるモデルエリア35は、対象エリア31とは異なり、その第2空間線量率分布データS1、その第2構造物データS2及びその第2表面汚染密度分布データS3の関係が、既知の体系である。
これら三つのデータS1,S2,S3は、実測データに基づく場合の他に、シミュレーション解析に基づいて得ることができる。一般に普及しているシミュレーション解析の一例であるモンテカルロ解析は、透過や遮蔽といった物質間の相互作用を考慮することにより、第2構造物データS2を仮想的に配置したモデルエリア35において、仮想的に設定した第2表面汚染密度分布データS3から放出されるガンマ線による第2空間線量率分布データS1を、高精度で計算することが可能である。
【0018】
より具体的には、モデルエリア35の床面およびこの床面から所定高さまでの水平面を任意個数のメッシュに分割し、床面の注目位置37における表面汚染密度が各々のメッシュに寄与する空間線量率を解析により求めることができる。そして、空間線量率分布は、モデルエリア35全体に存在する汚染から放出されるガンマ線による空間線量率を、それぞれのメッシュ毎に重ね合わせて表わされる。
【0019】
さらに複数のモデルエリア35(35a,35b,35c…)の体系において重回帰分析を適用し、第2空間線量率分布データS1と第2構造物データS2のサイズ情報、距離情報及び材質情報等を入力パラメータとして、注目位置37における表面汚染密度が出力となるように、機械学習処理を行ない、演算式Tを作成する。
【0020】
種々の構造物が配置されたエリアにおける表面汚染密度と空間線量率分布とは、相関があり、両者の関係を機械学習で回帰式などの数式化することが可能である。
このような、機械学習としては、重回帰式分析で相関式を算出しても、ディープラーニングを用いてもよく、連続値で出力するだけでなく、汚染濃度をレベルに応じて分類するものでもよい。
このようにして、モデルエリア35の第2空間線量率分布データS1、第2構造物データS2及び第2表面汚染密度分布データS3の関係を示す演算式Tが、複数のモデルエリア35(35a,35b,35c…)から機械学習により作成される。そしてこの演算式Tは、第3メモリ領域13に保持される。
【0021】
なお第2空間線量率分布データS1は、注目位置37を基準とした相対位置に応じて並び替えることや、絶対位置による並び替えを行い、設定することができる。
また、第2表面汚染密度分布データS3を構成する放射性物質の核種として、例えばCs137、Cs134、Co60のようにエネルギーや放出率が異なる核種を設定することもできる。
【0022】
さらに、第2構造物データS2として構造物の材質や、注目位置37の位置にたいし、想定条件の範囲においてパラメータを複数設定して学習させ、演算式Tを算出することができる。
これにより、ガンマ線が飛程距離とともに広がり強度が減衰していく作用に加え、汚染源の大きさや、構造物による散乱や透過の作用を反映させた演算式Tを導くことが可能となる。この演算式Tは、特定のエリアや構造物に限定されることなく一般化されたものとなる。
【0023】
演算式Tは、第1構造物32の対象エリア31における距離情報をパラメータとして規定したり、第1空間線量率分布データD1における平均線量値をパラメータとして規定したり、第1空間線量率分布データD1における距離情報をパラメータとして規定したり、第1空間線量率分布データD1における平均線量値と最大線量値との比をパラメータとして規定したり、対象エリア31に存在する放射性核種の種類をパラメータとして規定したりすることができる。
【0024】
第1演算部21は、第1メモリ領域11から第1空間線量率分布データD1を取得し、第2メモリ領域12から第1構造物データD2を取得する。そして第1演算部21は、これらデータを演算式Tに入力し、対象エリア31の第1表面汚染密度分布データD3を出力させる。この出力された第1表面汚染密度分布データD3は、表示部28において、対象エリア31のマップ上に重ね書きして表示される。
【0025】
第1実施形態によれば、予め複数のモデルエリア35を対象として機械学習により、空間線量率分布データ、構造物データ及び表面汚染密度分布データの関係を表す演算式Tを作成しておく。そして、対象エリア31において計測した空間線量率分布データの値をこの演算式Tに入力するだけで、この対象エリア31における表面汚染密度分布データを導くことが可能となる。
このために、従来のような、対象エリア31に配置されている構造物を考慮して、空間線量率分布データと表面汚染密度分布データとの応答関数を正確に求めるといった必要性がない。これにより、例えば複雑な構造物が存在する管理エリア等であっても、対象エリア31に配置されている構造物におけるガンマ線の散乱や透過といった複雑な相互作用を考慮した表面汚染密度分布データを、時間を要することなく瞬時に導くことができる。
【0026】
(第2実施形態)
次に
図1を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
第2実施形態に係る表面汚染密度分布算出装置の第3メモリ領域13には、第1空間線量率分布データD1及び第1構造物データD2の少なくとも一方に基づいて選択される複数の演算式T(T1,T2,T3…)が保持されており、第1演算部21は対象エリア31を分割したメッシュ毎に演算式Tを複数の中から選択し実行する。
【0027】
機械学習により汚染濃度である表面汚染密度を算出するための演算式Tを1つのみ算出する場合、パラメータが多岐にわたるため、汚染の強さや計測条件等といった諸条件のバラツキ加減によっては、算出される表面汚染密度の精度が悪化することがある。
そこで、演算式Tを作成するためのデータ(第2空間線量率分布データS1、第2構造物データS2、第2表面汚染密度分布データS3)を条件に応じて複数のグループに分類する。そしてこの分類されたグループ毎に演算式Tを算出する。
【0028】
このグループの分類方法として、例えば、壁などの構造物が、空間線量率に影響を及ぼすガンマ線散乱の度合いによる分類を考える場合がある。このガンマ線散乱は、壁の近く数メートルの範囲では空間線量率に影響を及ぼすが、この範囲から離れると影響は激減する。
【0029】
このような影響が確実に補正された演算式Tを得るには、モデルエリア35を、構造物におけるガンマ線散乱の影響が大きいグループと小さいグループとに分類したうえで、機械学習し演算式T(T1,T2,T3…)を算出することが有効である。この場合、回帰式のパラメータとして、構造物(壁等)からの距離を組み込む場合、分類したグループに対応して距離の逆数としたり距離の累乗等としたりしたものを適用する。
【0030】
第1空間線量率分布データD1及び第1構造物データD2を演算式Tに入力して出力される第1表面汚染密度分布データD3には、誤差が内包されている。この誤差要因として、表面汚染密度のレベルがゼロか少ない注目位置37が、周囲の汚染箇所から放出されるガンマ線の影響を受けて、表面汚染密度のレベルを過剰評価してしまう事が挙げられる。
【0031】
このような誤差要因を少なくするために、第1空間線量率分布データD1を事前に、メッシュ単位で評価し、分布の仕方によってグループに分類し、それぞれのグループに対応した演算式T(T1,T2,T3…)を選択し第1演算部21において演算を実行する。
このようなグループの分類方法として例えば、第1空間線量率分布データD1の線量データの平均値と最大値の相関を評価する方法等が挙げられる。
【0032】
図4のグラフは、周囲の汚染が少ないデータ群と強い汚染があるデータ群とにおいて、線量率分布の最大値に対する線量率分布の平均値を示している。
このように注目位置37(
図3)の周囲に汚染が少ない場合、最大値と平均値の比が大きくならず、おおむね線形の相関が得られる。一方で、注目位置37の近傍に汚染がある場合、汚染箇所に近い空間線量率は大きく変化するため、最大値と平均値の比が大きくなる。
このような関係を利用して、空間線量率分布の最大値/平均値の値に対し設けた閾値に応じて、モデルエリア35おメッシュをいくつかのグループに分類し、それぞれのグループ毎に演算式T(T1,T2,T3…)を作成する。これにより汚染の評価精度を向上させることができる。
【0033】
図5のグラフは、周囲の汚染が少ないデータ群と強い汚染があるデータ群とにおいて、測定位置に対する空間線量の分布を示している。
汚染のある位置の近傍においては、空間線量率の変化率が大きく計測される。そのため、空間線量率の変化率として、位置による空間線量率の1次微分、2次微分の値をグループ分類の閾値に用いることで、表面汚染密度の評価精度を向上させることができる。
このようなモデルエリア35のメッシュのグループへの分類は、構造物との距離による分類、
図4に示すような空間線量率分布による分類と組み合わせることができ、そのようにして分類したグループ毎に演算式Tを算出することも可能である。さらに、核種データに基づく分類を組み合わせることも可能である。
【0034】
第2実施形態によれば、壁などの構造物によるガンマ線散乱の影響や、周囲の汚染による評価位置の表面汚染密度の過大評価を軽減することができる。つまり、誤差が生じやすい条件に対応して複数の演算式Tを作成することにより、評価精度を向上させることができる。
【0035】
(第3実施形態)
次に
図6を参照して本発明における第3実施形態について説明する。なお、
図6において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は同一符号で示し、重複する説明を省略する。
第3実施形態に係る表面汚染密度分布算出装置10は、さらに、演算式Tに第1構造物データD2及び第1表面汚染密度分布データD3を入力し仮想的空間線量率分布データD4を出力させる第2演算部22と、この仮想的空間線量率分布データD4と第1空間線量率分布データD1との差分値D5を計算する差分計算部25と、この差分値D5に基づいて演算式Tを修正する修正部26と、を備えている。
【0036】
演算式Tは、複数のモデルエリア35(35a,35b,35c)のデータにより作成されたものであるために、汚染評価を行う対象エリア31の空間線量率分布と表面汚染密度分布との関係に適合するか否かについては、保証の限りでない。
そこで、第2演算部22において、第1構造物データD2と第1演算部21の出力である第1表面汚染密度分布データD3とを入力とし、仮想的空間線量率分布データD4を出力する逆演算を行う。
【0037】
演算式Tが、対象エリア31の空間線量率分布と表面汚染密度分布との関係に適合するものであれば、この仮想的空間線量率分布データD4と第1空間線量率分布データD1とは一致するはずである。一方で、仮想的空間線量率分布データD4と第1空間線量率分布データD1とのずれが大きい場合、演算式Tは対象エリア31の汚染評価に不適合であると判断される。
【0038】
なお、この不適合/適合の判定は、差分計算部25において仮想的空間線量率分布データD4と第1空間線量率分布データD1との差分値D5が閾値を超えるか/超えないかによって判定される。この閾値は、目標とする精度によって適宜決定される。
不適合と判定された場合は、修正部26において、差分値D5に基づき演算式Tを修正した修正演算式T´が新たに適用される。
なお、この修正演算式T´は、別の演算式Tが再選定される場合や、機械学習部15で
再度学習を行い新たな演算式Tを作成していく場合もある。
【0039】
第3実施形態によれば、対象エリア31に適合する演算式Tに基づいて、空間線量率分布から表面汚染密度分布が導き出されるので、表面汚染密度の算出精度の向上を図ることができる。
【0040】
図7のフローチャートに基づいて、表面汚染密度分布算出方法及び表面汚染密度分布算出プログラムの実施形態を説明する(適宜、
図1,2,3参照)。
対象エリア31内の複数位置における空間線量率を計測する(S11)。そして、対象エリア31の第1空間線量率分布データD1を作成し第1メモリ領域11に保持する(S12)。次に対象エリア31に配置される第1構造物32を第1空間線量率分布データD1と共通の座標系で設定した第1構造物データD2を第2メモリ領域12に保持する(S13)。
【0041】
複数個(n個)のモデルエリア35のそれぞれに第2構造物データS2及び第2表面汚染密度分布データS3を設定し、それぞれのモデルエリア35における第2空間線量率分布データS1を解析的に求める(S14,S15,S16)。
機械学習により、複数個(n個)のモデルエリア35の第2空間線量率分布データS1、第2構造物データS2及び第2表面汚染密度分布データS3の関係を示す演算式Tを作成し、第3メモリ領域13に保持する(S17)。
【0042】
次に、この演算式Tに、第1空間線量率分布データD1及び第1構造物データD2を入力し、対象エリア31の第1表面汚染密度分布データD3を演算する(S18)(以上、第1実施形態)。
【0043】
さらに演算式Tに、第1構造物データD2及び第1表面汚染密度分布データD3を入力し、仮想的空間線量率分布データD4を演算する(S19)。
次に、仮想的空間線量率分布データD4と第1空間線量率分布データD1との差分値D5を計算し(S20)、この差分値D5に基づいて演算式Tの適合性を判断する(S21)。ここで不適合の判断がなされれば、演算式Tを修正して、再度(S18)の演算を試行する。そして、適合の判断がなされれば、(S18)で直近に演算された第1表面汚染密度分布データD3がそのまま採用されて、フローは終了する(END)。
【0044】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の表面汚染密度分布算出装置によれば、表面汚染密度を評価する対象エリアとは別個のモデルエリアを想定し、このモデルエリアにおける空間線量率分布、構造物及び表面汚染密度分布の関係を表す演算式を機械学習で作成する。そして、演算式を用いて、対象エリアで計測した空間線量率分布及び対象エリアに配置された構造物を入力情報として、その表面汚染密度分布を、高精度で簡便に出力することを可能とする。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
例えば上述の説明において、構造物としての壁に周囲を囲まれたエリアが放射能汚染されている場合を想定し、その表面汚染密度分布を導く実施形態を示したが、本発明の適用はこのような場合に限定されるものではなく、あらゆる構造物の配置形態に適用することが可能である。
【0046】
また、これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
また、表面汚染密度分布算出装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、表面汚染密度分布算出プログラムにより動作させることが可能である。
【0047】
以上説明した表面汚染密度分布算出装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0048】
また表面汚染密度分布算出装置で実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態に係る表面汚染密度分布算出装置で実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。
また、表面汚染密度分布算出装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。