特許第6833719号(P6833719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6833719高周波回路及び高周波回路を備えるフロントエンド回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6833719
(24)【登録日】2021年2月5日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】高周波回路及び高周波回路を備えるフロントエンド回路
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/00 20060101AFI20210215BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20210215BHJP
【FI】
   H04B1/00 257
   H04B1/40
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-558734(P2017-558734)
(86)(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公表番号】特表2018-518890(P2018-518890A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】EP2016058917
(87)【国際公開番号】WO2016180613
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2019年3月28日
(31)【優先権主張番号】102015107305.6
(32)【優先日】2015年5月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500480274
【氏名又は名称】スナップトラック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】エラ、ユハ
(72)【発明者】
【氏名】シュミッドハマー、エドガー
(72)【発明者】
【氏名】コルブ、ガブリエレ
(72)【発明者】
【氏名】ヨボビッチ、ラトコ
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−268878(JP,A)
【文献】 特開2013−058990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/00
H04B 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波回路(HF−S)であって、
−第1ポート(P1)と、共通ポート(PG)と、第2ポート(P2)とを有するダイプレクサ(DI)と、
−送信ポート(TX)と、共通ポート(PG)と、受信ポート(RX)とを有する第1周波数帯域用の第1デュプレクサ(DU)と、
−送信ポート(TX)と、共通ポート(PG)と、受信ポート(RX)とを有する第2周波数帯域用の第1デュプレクサ(DU)と、
−前記第1周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)の前記共通ポート(PG)と前記ダイプレクサ(DI)の前記第1ポート(P1)との間の第1信号経路(SP1)と、ここにおいて、前記第1信号経路(SP1)に位相器は配置されない、
−前記第2周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)の前記共通ポート(PG)と前記ダイプレクサ(DI)の前記第2ポート(P2)との間の第2信号経路(SP2)と、
−前記第2周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)及び前記ダイプレクサ(DI)のインピーダンスを、少なくとも1つの相互変調積が低減されるように、前記周波数帯域のうちの一方の送信周波数の少なくとも1つの高調波と整合させるように構成された、前記第2信号経路(SP2)中の移相器(PS)と、ここにおいて、前記移相器(PS)は、その位相シフトにおいてチューナブルである、
を備える、高周波回路。
【請求項2】
前記ダイプレクサ(DI)は、セラミックダイプレクサである、請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
前記第1周波数帯域は、2GHz帯域であり、前記第2周波数帯域は、1GHz帯域である、請求項1又は2に記載の高周波回路。
【請求項4】
前記第1周波数帯域は、2.5GHz帯域であり、前記第2周波数帯域は、1GHz帯域である、請求項1又は2に記載の高周波回路。
【請求項5】
前記第1周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)と並列に、前記第1信号経路(SP1)と相互接続可能な、前記第1周波数帯域の第2の又は複数の更なるデュプレクサ(DU)を更に備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高周波回路。
【請求項6】
前記ダイプレクサ(DI)の前記第1ポート(P1)を前記第1周波数帯域の前記デュプレクサ(DU)のうちの1つ又は複数と相互接続可能なスイッチレイアウト(SW)を更に備える、請求項5に記載の高周波回路。
【請求項7】
前記第2周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)と並列に、前記第2信号経路(SP2)と相互接続可能な、前記第2周波数帯域の第2の又は複数の更なるデュプレクサ(DU)を更に備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の高周波回路。
【請求項8】
前記ダイプレクサ(DI)の前記第2ポート(P2)を前記第2周波数帯域の前記デュプレクサ(DU)のうちの1つ又は複数と相互接続可能なスイッチレイアウト(SW)を更に備える、請求項7に記載の高周波回路。
【請求項9】
前記第2周波数帯域のデュプレクサ(DU)1つ当たり、1つの移相器(PS)が前記第2信号経路(SP2)に設けられている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の高周波回路。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の高周波回路(HF−S)を備える、モバイルデバイス。
【請求項11】
第1送信信号を、第1周波数帯域用の第1デュプレクサ(DU)の送信ポートへ供給することと、
前記第1周波数帯域用の第1デュプレクサ(DU)は、前記送信ポート(TX)と、共通ポート(PG)と、受信ポート(RX)とを備え、
第1信号経路(SP1)は、前記第1周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)の前記共通ポート(PG)と、ダイプレクサ(DI)の第1ポート(P1)との間にあり、前記ダイプレクサ(DI)は、前記第1ポート(P1)と、共通ポート(PG)と、第2ポート(P2)とを有し、ここにおいて、前記第1信号経路(SP1)に位相器は配置されない、
第2送信信号を、第2周波数帯域用の第1デュプレクサ(DU)の送信ポートへ供給することと、
前記第2周波数帯域用の第1デュプレクサ(DU)は、前記送信ポート(TX)と、共通ポート(PG)と、受信ポート(RX)とを備え、
第2信号経路(SP2)は、前記第2周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)の前記共通ポート(PG)と、前記ダイプレクサ(DI)の前記第2ポート(P2)との間にあり、
前記第2信号経路(SP2)中に配置された位相器(PS)によって、前記第2周波数帯域用の前記第1デュプレクサ(DU)及び前記ダイプレクサ(DI)のインピーダンスを、前記周波数帯域のうちの一方の送信周波数の少なくとも1つの高調波と整合させることにより、前記第2周波数帯用の前記第1デュプレクサ(DU)によって発生する少なくとも1つの相互変調積を低減することと、ここにおいて、前記移相器(PS)は、その位相シフトにおいてチューナブルである、
ワイヤレス通信の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路、例えば、モバイル無線通信機器のフロントエンド回路において用いることができる高周波回路に関する。
【0002】
モバイル無線通信機器のフロントエンド回路は、1つ又は複数の受信用又は送信用増幅器を1つ又は複数のアンテナと接続する。この接続は、モバイル無線通信機器の信号品質に関する要求が満たされ、同時に複数の伝送システムと伝送周波数とを用いることができるように互いに接続された、信号経路と高周波フィルタを介して行われる。
【0003】
米国特許第7,212,789B2号から、チューナブルデュプレクサを備える高周波回路が知られている。
【0004】
すでに一般のFDDシステム(FDD=frequency division duplexing=周波数分割複信)においては、送信周波数と受信周波数を同時に使用する一方で、データ転送速度を上げるため、様々な送信周波数を同時にあるいは様々な受信周波数を同時に使用できる(キャリアアグリゲーション)。インターバンドキャリアアグリゲーションシステムにおいては、2つのFDD受信周波数を1つのFDD送信周波数と同時に使用できる。また、2つのFDD送信周波数を1つの受信周波数又は複数の受信周波数と同時に使用できる(Txキャリアアグリゲーション)。
【0005】
しかし、そのように様々な周波数帯域を共用することにより通常の高周波回路において問題が生じるのは、通常の高周波回路が、特に様々な信号経路の分離に関して、更なる高周波出力と整合しないからである。
【0006】
従って、課題は、回路に様々な周波数帯域の高周波信号が与えられるときでも様々な信号経路間の良好な分離を可能にする、高周波回路を提供することである。特に、相互変調積による信号経路の妨害を低減しなければならない。
【0007】
この課題は請求項1に記載の高周波回路により解決される。従属請求項は有利な態様を記載する。
【0008】
このために、高周波回路は、ダイプレクサと、第1周波数帯域用第1デュプレクサと、第2周波数帯域用第1デュプレクサとを備える。ダイプレクサは、第1ポートと、共通ポートと、第2ポートとを有する。第1周波数帯域用第1デュプレクサは、送信ポートと、共通ポートと、受信ポートとを有する。同様に、第2周波数帯域用第1デュプレクサは、送信ポートと、共通ポートと、受信ポートとを有する。回路は、第1周波数帯域の第1デュプレクサの共通ポートとダイプレクサの第1ポートとの間の第1信号経路を更に備える。更に、高周波回路は、第2周波数帯域の第1デュプレクサの共通ポートとダイプレクサの第2ポートとの間の第2信号経路を備える。また、回路は、第2信号経路に配置された移相器を備える。移相器は、第2周波数帯域の第1デュプレクサ及び1つの周波数帯域の少なくとも1つの高調波のためのダイプレクサのインピーダンスを少なくとも1つの相互変調積が低減されるように整合させるために設けられる。
【0009】
インピーダンス整合は、この場合、特に、第2信号経路の第1デュプレクサの共通ポート及びダイプレクサの第2ポートのインピーダンスに関する。
【0010】
高調波は、この場合、特に、例えば、第1周波数帯域の送信周波数の二次又は三次高調波であってよい。
【0011】
そのような高周波回路の信号分離の改善は、従って、相互変調積の低減に帰するものである。フロントエンド回路の通常の高周波回路においては、用いられるダイプレクサのアイソレーション度が非常に劣悪でありえるため、望ましくないことに、信号経路に入力された高周波信号が、ダイプレクサの下流のデュプレクサにおける非線形効果により、相互変調積を発生させることが知られていた。その周波数は、デュプレクサの通過帯域に存在する。そして、そのような望ましくない高周波信号を通常の高周波フィルタによっては更には除去できないのは、その周波数が望ましい信号の周波数と類似しているからである。
【0012】
移相器により、この相互変調積の発生を効率的に阻害するか、あるいは少なくとも非常に大きく減少させる結果、望ましくない一方で顕著に低減された相互変調積が更に妨害することはない。
【0013】
この場合、この高周波回路は、フロントエンド回路の通常の回路トポロジーに適合することで、回路構成を比較的更に複雑にすることなく、信号品質が比較的大きく向上する。
【0014】
ダイプレクサは、セラミックダイプレクサであってよい。
【0015】
この場合、そのようなセラミックダイプレクサは、例えばセラミック等の絶縁材料からなる基体を含んでよい。基体には、その内面がメタライゼーションにより被覆された、キャビティが備えられてよい。そのようなダイプレクサは、一般的には、すでに非常に高い直線性を有する。
【0016】
第1周波数帯域は、2ギガヘルツ帯域であり、第2周波数帯域は、1ギガヘルツ帯域であってよい。そして、第1周波数帯域は、およそ、周波数1〜2GHz、特に1.4〜2.2GHzである。そして、第2周波数帯域は、およそ、周波数≦1GHzである。
【0017】
また、第1周波数帯域と第2周波数帯域は、3つの周波数領域から選択されてもよい:ローバンド(LB、約650〜1000MHz)、ミッドバンド(MB、1700〜2200MHz)及びハイバンド(HB、およそ周波数f>2500MHz)。
【0018】
特に、モバイル無線通信機器の周波数帯域1,2,3,4,5,7,8,12,17,19,20,21,26又は28は、例えば送信周波数におけるキャリアアグリゲーション用に、第1周波数帯域あるいは第2周波数帯域として考えられる。この場合、モバイル無線通信機器の帯域5,8,12,17,19,20,26及び28は、LBに割り当てられる。モバイル無線通信機器の帯域1,2,3,4,21は、MBに割り当てられ、周波数帯域7は、HBに割り当てられる。
【0019】
このように、例えば、以下の周波数帯域ペアを共用できる。
LBとLB:5と12、5と17;
LBとMB:3と5、1と5、3と20、1と19、3と8、4と12、4と17、3と26、3と19、19と21;
MBとMB:1と21、2と4;
MBとHB:1と7、3と7、4と7;
LBとHB:7と20、7と28、5と7。
【0020】
また、高周波回路は、2つ目又はそれ以上の更なる第1周波数帯域のデュプレクサを更に備えてもよい。この場合、2つ目又はそれ以上の更なる第1周波数帯域のデュプレクサは、一方で、第1周波数帯域の第1デュプレクサと並列に接続可能であって、他方で、第1信号経路と接続可能である。この場合、伝送操作が、同時あるいは順次に、第1周波数帯域の様々なデュプレクサを介して可能である。
【0021】
また、高周波回路は、ダイプレクサの第1ポートを2つ目又はそれ以上の更なる第1周波数帯域のデュプレクサと接続可能なスイッチ装置を更に備えてもよい。この場合、スイッチ装置により、デュプレクサをダイプレクサと接続するか、個別に調整できる。いつでも、常にデュプレクサを1つのみダイプレクサと接続できる。しかしまた、ある時点においては、デュプレクサを全くダイプレクサと接続しないことも、あるいは同時に複数のデュプレクサをダイプレクサと接続することもできる。
【0022】
また、高周波回路は、2つ目又はそれ以上の更なる第2周波数帯域のデュプレクサを更に備えてもよい。2つ目又はそれ以上の更なる第2周波数帯域のデュプレクサは、一方で、第2周波数帯域の第1デュプレクサと並列に接続可能であって、他方で、第2信号経路と接続可能である。
【0023】
また、高周波回路は、ダイプレクサの第2ポートを1つ又は複数の更なる第2周波数帯域のデュプレクサと接続可能なスイッチ装置を更に備えてもよい。
【0024】
上記第1周波数帯域の状態と同様に、ダイプレクサと接続される第2周波数帯域のデュプレクサの数も従って個別に調整できる。
【0025】
移相器はチューナブルであってよい。チューナブル移相器としては、特に、その特性周波数及び/又は関連する周波数の位相シフトを調整可能な移相器がある。
【0026】
第2周波数帯域のデュプレクサ1つ当たり、1つの移相器が第2信号経路に備えられてよい。
【0027】
高周波回路が複数の移相器を備える場合、上記代替例から任意にこれらを選択してよい。但し、複数の又は全ての移相器は、同一のタイプであってもよい。
【0028】
移相器は、ダイプレクサから発せられた望ましくない信号を、ダイプレクサに反射してよい。対応する周波数領域の望ましい信号は、ダイプレクサを基本的に伝送損失なしに通過できる。移相器は、特に、所定の周波数を有する信号の位相の移相度を調整可能なチューナブル移相器であってよい。例えば、移相器によって生じた位相シフトは、好ましくは、信号の周波数を直線的に変える。
【0029】
移相器として構成される移相器は、特に、インダクタンスと静電容量のオールパスフィルタであってよい。
【0030】
また、ストリップラインを移相器として用いてもよい。
【0031】
特に、高周波回路は、モバイル無線通信機器、例えばモバイル無線通信機器のフロントエンド回路において接続されてよい。そのフロントエンド回路がそのような高周波回路を備えるモバイル無線通信機器は、使用者に向上したデータレートと同時に劣化していない信号品質を提供する。
【0032】
更に、第1又は第2周波数帯域当たりのデュプレクサの数は、限定されない。第1及び第2周波数帯域は、互いに独立して、1、2、3、4、又はそれ以上のデュプレクサを備えてよい。
【0033】
第1周波数帯域は1、2、3、4、5又はそれ以上のデュプレクサを備えてよい。また、第2周波数帯域は1、2、3、4、5又はそれ以上のデュプレクサを備えてよい。
【0034】
以下、高周波回路の主な原理及びいくつかの限定的でない実施形態を、概略図を基に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
これら図について、
図1】高周波回路の主な構成、
図2】第1周波数帯域の複数のデュプレクサを備える実施形態、
図3】第2周波数帯域の複数のデュプレクサを備える実施形態、
図4】チューナブル移相器を備える実施形態、
図5】第1周波数帯域の複数のデュプレクサと第2周波数帯域の複数のデュプレクサとを備える実施形態、
図6】一般的なダイプレクサの特性伝送曲線、
図7】多少より良好なアイソレーション度を有する一般的なダイプレクサの特性伝送曲線、
図8】位相シフトの様々な値についてそれぞれが相互変調積の程度を示す様々な曲線に基づく、高周波回路内の移相器の効果、
図9】位相シフトの様々な値についてそれぞれが相互変調積の程度を示す様々な曲線に基づく、改善されたダイプレクサを備える高周波回路内の移相器の効果、
図10】中心周波数について移相器による位相回転に対する相互変調積の大きさの従属関係。
【0036】
図1は、第1周波数帯域の第1デュプレクサDU−HB−1と、第2周波数帯域の第1デュプレクサDU−LB−1と、ダイプレクサD1とを備える高周波回路HF−Sの簡単な実施形態を示す。第2周波数帯域の第1デュプレクサDU−LB−1を、第2信号経路SP2がダイプレクサDIの第2ポートP2と接続する。第2信号経路SP2において、移相器PSが接続される。第1周波数帯域の第1デュプレクサDU−LB−1の共通ポートPGを、第1信号経路SP1がダイプレクサDIの第1ポートP1と接続する。ダイプレクサDIの共通ポートPGは、通信機器のアンテナと接続されてよい。両方のデュプレクサはそれぞれ、送信ポートTXと受信ポートRXを有する。送信及び受信ポートを介して、両方のデュプレクサは、1つ又は複数のモバイル無線通信機器のトランシーバ回路と接続されてよい。
【0037】
従来の高周波回路の操作において問題となるのは以下の状況である:両方のデュプレクサの両方の送信ポートTXを介して、送信信号が信号経路SP1、SP2を介してダイプレクサDIに到達し、結合される。ダイプレクサDIの最終的なアイソレーション度に応じて、送信信号の一部は、第1周波数帯域から、第2信号経路SP2における第2周波数帯域のデュプレクサの方向に結合される。一般的には、デュプレクサ自身が、線形のみではない挙動を示す回路であり、この場合、様々なTX信号が第2周波数帯域のデュプレクサDU−LB−1のTXフィルタにおいて重畳する。第2周波数帯域のデュプレクサの非線形効果により、相互変調積が発生し、相互変調積は、場合によっては受信フィルタRXを通過でき、通信機器の同時受信を妨害するかあるいは完全に阻害する。通信機器が例えば同時に帯域3と5で送信する場合、1710MHz−824MHz=886MHzの相互変調積が発生する。これは帯域5の受信周波数帯域(RX)内であり、従って、受信フィルタをほぼ減衰せずに通過できる。
【0038】
本発明の高周波回路HF−Sにおいては、ダイプレクサDIから第2信号経路2に漏れた信号が移相器によりその位相角に移相する結果、デュプレクサにおける第2信号経路SP2用の送信信号との混合が発生することはない。このように、886MHzの相互変調積の発生がすでに阻害されるか、あるいはその強度が低減されるため、受信操作は問題なく可能である。
【0039】
図2は、第1周波数帯域用の3つのデュプレクサDU−HB−1、DU−HB−2、DU−HB−3が備えられた実施形態を示す。個別のスイッチSWを用いて、デュプレクサのそれぞれを第1信号経路SP1に接続できる。
【0040】
ほぼそれと同様に、図3は、第2周波数帯域用の3つのデュプレクサDU−LB−1、DU−LB−2、DU−LB−3が備えられた、高周波回路HF−Sの実施形態を示す。スイッチを用いて、3つのデュプレクサのそれぞれを個別に第2信号経路SP2に接続できる。この場合、3つのデュプレクサはそれぞれ、特別にそれに割り当てられた移相器PSを用いることができる。スイッチは、好ましくは移相器とダイプレクサとの間に接続される。
【0041】
図4は、3つの異なる移相器の代わりに、移相器を1つだけ第2信号経路SP2に接続することができる様子を示す。この移相器PSは、以下の目的で備えられ、以下のことに好適である:
3つの全ての第2周波数帯域のデュプレクサの相互変調積を阻害するか、あるいは低減すること。
【0042】
図5は、第1周波数帯域においてと同様に第2周波数帯域においても、3つのデュプレクサがそれぞれ備えられる実施形態を示す。
【0043】
図6は、比較的低いアイソレーション度を有する一般的なダイプレクサの特性曲線を示す。
【0044】
図7は、高いアイソレーション度を有する一般的なダイプレクサの特性曲線を示す。
【0045】
図8は、図6のダイプレクサが用いられた場合における、Tx帯域B5及びB7両方のキャリアアグリゲーションにおける相互変調妨害の大きさを示す。この場合、異なる曲線は、移相器による別の位相シフトをそれぞれ示す。相互変調積は、880MHzの周波数成分を有する:
B7−Tx(2540MHz)−2×B5−Tx(2×830MHz)=B5−Rx(880MHz)。高周波回路は、移相器として、その位相シフトを調整可能なチューナブル移相器を備える。選択された位相シフトに応じて、最高約30dBだけ低減された相互変調妨害を達成することができる。
【0046】
それに対応して、図9は、移相器としてチューナブル移相器のほかに、図7の高いアイソレーション度を有する「より良好な」ダイプレクサを含む高周波回路の様々なアイソレーション度の値を示す。更に、図8に示される異なる曲線は、移相器によって変化した位相シフトについてのアイソレーション度を示す。図7と同様に、相互変調妨害の低減を、好適な位相シフトを選択することで最高30dBだけ改善できる。
【0047】
全体として、図6〜9は、より劣悪なダイプレクサと同様により良好なダイプレクサも備える高周波回路が、明らかに、新規な回路トポロジーから有利な点を得ることを示している。
【0048】
図10は、それぞれ、図6に示される両方のダイプレクサの一方と、移相器として構成される移相器とを備える高周波回路の相互変調積の強度を示す。改善されたアイソレーション度が実際に相互変調積を低減させたことが示されているが、移相器が対応して最適に割り当てられるか、あるいは調整された場合のみにおいてである。
【0049】
また、高周波回路は、記載又は図示される実施形態に限定されない。高周波回路は、特に、更なる回路部品、信号経路、フィルタ、スイッチを含んでよい。
【0050】
参照符号リスト
DB−HP: ダイプレクサのハイパスフィルタの通過帯域
DB−LP: ダイプレクサのローパスフィルタの通過帯域
DI: ダイプレクサ
DU: デュプレクサ
DU−HB−1: 第1周波数帯域の第1デュプレクサ
DU−HB−2: 第1周波数帯域の第2デュプレクサ
DU−HB−3: 第1周波数帯域の第3デュプレクサ
DU−LB−1: 第2周波数帯域の第1デュプレクサ
DU−LB−2: 第2周波数帯域の第2デュプレクサ
DU−LB−3: 第2周波数帯域の第3デュプレクサ
HF−S: 高周波回路
IS: ダイプレクサのアイソレーション度
PG: 共通ポート
RX: 受信ポート
PS: 移相器
SD: スイッチ
SP1: 第1信号経路
SP2: 第2信号経路
TX: 送信ポート
以下に本願発明の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[C1]
高周波回路(HF−S)において、
−第1ポート(P1)と、共通ポート(PG)と、第2ポート(P2)とを有するダイプレクサ(DI)と、
−送信ポート(TX)と、共通ポート(PG)と、受信ポート(RX)とを有する第1周波数帯域用第1デュプレクサ(DU)と、
−送信ポート(TX)と、共通ポート(PG)と、受信ポート(RX)とを有する第2周波数帯域用第1デュプレクサ(DU)と、
−前記第1周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)の前記共通ポート(PG)と前記ダイプレクサ(DI)の前記第1ポート(P1)との間の第1信号経路(SP1)と、
−前記第2周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)の前記共通ポート(PG)と前記ダイプレクサ(DI)の前記第2ポート(P2)との間の第2信号経路(SP2)と、
−前記第2信号経路(SP2)において、前記第2周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)及び前記ダイプレクサ(DI)のインピーダンスを、少なくとも1つの相互変調積が低減されるように、前記周波数帯域のうちの一方の少なくとも1つの高調波と整合させるために設けられる移相器(PS)と、を備える、高周波回路。
[C2]
前記ダイプレクサ(DI)は、セラミックダイプレクサである、C1に記載の高周波回路。
[C3]
前記第1周波数帯域は、2GHz帯域であり、前記第2周波数帯域は、1GHz帯域である、C1又は2に記載の高周波回路。
[C4]
前記第1周波数帯域は、2.5GHz帯域であり、前記第2周波数帯域は、1GHz帯域である、C1又は2に記載の高周波回路。
[C5]
前記第1周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)と並列に接続可能であって、前記第1信号経路(SP1)と接続可能な、2つ目又はそれ以上の更なる前記第1周波数帯域のデュプレクサ(DU)を更に備える、C1〜4のいずれか一項に記載の高周波回路。
[C6]
前記ダイプレクサ(DI)の前記第1ポート(P1)を1つ又は複数の前記第1周波数帯域の前記デュプレクサ(DU)と接続可能なスイッチ装置(SW)を更に備える、C5に記載の高周波回路。
[C7]
前記第2周波数帯域の前記第1デュプレクサ(DU)と並列に接続可能であって、前記第2信号経路(SP2)と接続可能な、2つ目又はそれ以上の更なる前記第2周波数帯域のデュプレクサ(DU)を更に備える、C1〜6のいずれか一項に記載の高周波回路。
[C8]
前記ダイプレクサ(DI)の前記第2ポート(P2)を1つ又は複数の前記第2周波数帯域の前記デュプレクサ(DU)と接続可能なスイッチ装置(SW)を更に備える、C7に記載の高周波回路。
[C9]
前記移相器(PS)は、その位相シフトにおいてチューナブルである、C1〜8のいずれか一項に記載の高周波回路。
[C10]
前記第2周波数帯域のデュプレクサ(DU)1つ当たり、1つの移相器(PS)が前記第2信号経路(SP2)に備えられる、C1〜9のいずれか一項に記載の高周波回路。
[C11]
C1〜10のいずれか一項に記載の高周波回路(HF−S)を備える、モバイル無線通信機器。
[C12]
モバイル無線通信機器のフロントエンド回路における、C1〜11のいずれか一項に記載の高周波回路(HF−S)の使用。
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