(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パルプを主体とする基紙の少なくとも一方の面に、ゼラチン3〜10質量%、アルキルケテンダイマー0.1〜0.3質量%、水性ポリエステル樹脂0.1〜2.0質量%の濃度で含有する絵具受理層用塗料を塗布し、乾燥することで絵具受理層を設けることを特徴とする水彩画用紙の製造方法。
前記パルプのうち50質量%以上は、JIS P 8121によるカナダ標準濾水度(CSF)が500〜650ml(CSF)であるコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプであることを特徴とする請求項1に記載の水彩画用紙の製造方法。
ゼラチンを3〜10質量%、アルキルケテンダイマーを0.1〜0.3質量%、水性ポリエステル樹脂を0.1〜2.0質量%の濃度で含有することを特徴とする水彩画用紙の絵具受理層用塗料。
【背景技術】
【0002】
水彩画用紙は、原料パルプの種類とその配合割合により、最高級水彩画用紙、高級水彩画用紙、水彩画用紙の3種に区分される。一般的に最高級水彩画用紙はコットンパルプのみ、若しくはコットンパルプを高い割合で配合したもの、高級水彩画用紙はコットンパルプと木材パルプ等を併用したもの、水彩画用紙はコットンパルプを含有しないものである。これらの中でも最高級水彩画用紙及び高級水彩画用紙は、水が紙中へ速やかに吸収されることで画線が滲みにくいことから、上級者向けとされている。
【0003】
従来より、このような上級者向けの水彩画用紙について必要な特性を付与するために様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、水彩絵具の水が速やかに紙の内部に吸収されて画線がにじまず、均一な発色性を持ち、経時により紙が変色や強度劣化しにくいことを課題とし、30重量%以上がコットンパルプからなる製紙用繊維を350〜550mlC.S.F.に叩解し、かつエポキシ化高級脂肪酸アミドを0.1〜1.5重量%含有させて抄紙し、冷水抽出pHが6.0〜9.5である水彩画用紙が提案されている。
【0004】
また特許文献2には、絵筆等で描かれた場合に水彩絵具の水の吸収性に著しく優れ、均一な発色性を持ち、毛羽立ちが起こりにくく、安価な高級水彩画用紙と同等の性能を有することを課題とし、製紙用繊維を450〜650mlC.S.F.に叩解し、湿式含浸法により水溶性分子を製紙用繊維に対し1〜20重量%含有させて抄紙した水彩画用紙が提案されている。
【0005】
上記の通り、上級者向けの水彩画用紙には、水彩絵具を水に希釈し筆で描いた際に、画像に均一な発色性を発現する配慮がなされている。更に、近年では視認した画像を水彩画用紙上に再現良く描写するために、より絵具濃度が高く、且つ均一な発色性を有する水彩画用紙の提供が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載された技術では、絵具濃度や色ムラの点で十分とは言えなかった。
【0008】
本発明は、上述の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、水彩絵具で画像を描いた際に絵具濃度が高く、色ムラの発生も少なく、上級者向けとして好適な水彩画用紙を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し得る絵具受理層の処方について検討を重ねた結果、アルキルケテンダイマーと水性ポリエチレン樹脂を特定量含有することによって、目的とする水彩画用紙が得られることを見出した。
【0011】
すなわち本発明に係る水彩画用紙の製造方法は、パルプを主体とする基紙の少なくとも一方の面に、ゼラチン3〜10質量%、アルキルケテンダイマー0.1〜0.3質量%、水性ポリエステル樹脂0.1〜2.0質量%の濃度で含有する絵具受理層用塗料を塗布し、乾燥することで絵具受理層を設けることを特徴とするものである。
【0012】
このような構成によれば、水彩絵具で画像を描いた際に絵具濃度が高く、色ムラの発生も少なく、上級者向けとして好適な水彩画用紙が得られる。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記パルプのうち50質量%以上を、JIS P 8121によるカナダ標準濾水度(CSF)が500〜650ml(CSF)であるコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプとする。
【0014】
このような構成によれば、基紙中のコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプの配合割合が高く濾水度も適切な範囲であることから、適度な吸収性を有し色ムラが生じにくい水彩画用紙が得られる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記絵具受理層用塗料は、更に硫酸カリウムアルミニウム水和物を含有させる。
【0016】
このような構成によれば、絵具受理層に硫酸カリウムアルミニウム水和物を配合することで、ゼラチンと架橋してより耐水性を向上させることができる。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、JIS P−8133による冷水抽出pH値を7〜9とする。
【0018】
このような構成によれば、水彩画用紙が中性紙となるため、絵が完成した後に長期間保存する場合であっても、経時による色変化が少なく好ましい。
【0019】
また本発明は、水彩画用紙の絵具受理層用塗料に関する発明としても捉えることができる。
【0020】
本発明に係る水彩画用紙の絵具受理層用塗料は、ゼラチンを3〜10質量%、アルキルケテンダイマーを0.1〜0.3質量%、水性ポリエステル樹脂を0.1〜2.0質量%の濃度で含有することを特徴とするものである。
【0021】
このような構成によれば、上述の構成の絵具受理層用塗料を基紙に塗布することで、水彩絵具で画像を描いた際に絵具濃度が高く、色ムラの発生も少なく、上級者向けとして好適な水彩画用紙を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により製造した水彩画用紙は、アルキルケテンダイマー、水性ポリエステル樹脂を特定量含有することによって水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度がより高く均一な発色を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0025】
本発明に係る水彩画用紙の製造方法は、パルプを主体とする基紙の少なくとも一方の面に、ゼラチン3〜10質量%、アルキルケテンダイマー0.1〜0.3質量%、水性ポリエステル樹脂0.1〜2.0質量%の濃度で含有する絵具受理層用塗料を塗布し、乾燥することで絵具受理層を設けることを特徴とする。
【0026】
(基紙)
本発明において用いる基紙の原料パルプとしては、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、NBSP(針葉樹晒サルファイトパルプ)をなどの化学パルプ、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)等の木材パルプ、ケナフ、バガス、竹、コットン、マーセル化したコットンなどの非木材パルプなどを、単独で使用するか、又は任意の割合で混合して使用することが可能である。これらの中でも、適度な水彩絵具の吸収性を有し水彩絵具を水で塗りのばすときに色ムラをより少なくすることができることから、本発明においてはコットンパルプ、及び/又はマーセル化したコットンパルプを単独で用いるか、これらと化学パルプを併用することが好ましい。コットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプと化学パルプを併用する場合の配合割合は、コットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプの割合をパルプ全量の50質量%以上とすることが好ましく、絵具の吸収性の面から60質量%以上がより好ましく、70質量%以上であれば更に好ましい。
【0027】
また、原料パルプとしてコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプを用いる場合には、パルプスラリーにおけるパルプのJIS P 8121「パルプのろ水度試験方法」に規定されるカナダ標準濾水度(CSF)が500〜650mlの範囲であることが好ましい。コットンパルプの濾水度が500ml未満であると、抄紙後の基紙が十分な吸水性を持たないことで絵具受理層用塗料の吸収性が損なわれ、十分な塗布量が確保出来ないおそれがある。一方、コットンパルプの濾水度が650mlを越えると、基紙の地合いを整えることが難しく、さらに表面強度が弱くなるおそれがある。なお、LBKPやサルファイドパルプ等の化学パルプのカナダ標準濾水度(CSF)は、400〜600mlとして混合することが好ましい。
【0028】
本発明においては、基紙に填料を含有させてもよい。ここで用いる填料としては特に限定するものではなく、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、焼成クレー、二酸化チタン、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム等の一般的な填料から適宜選択して用いることができるが、水彩画用紙に白さを求める場合には、二酸化チタン及び/又は硫酸バリウムを使用することが好ましい。また、用いる填料の平均粒子径は、歩留まり等を考慮してマイクロトラックHRA(ハネウェル社製)を用いたレーザー法で測定した体積平均粒子径5μm以下のものを選択することが好ましい。
【0029】
本発明に係る水彩画用紙は、JIS P−8133による冷水抽出pH値が7〜9である中性紙とすることが好ましい。水彩画用紙は絵が完成した後に長期保存されることが多いために、紙表面の経時的色変化が起こりにくい中性紙が好ましいためである。JIS P−8133による冷水抽出pH値を7〜9の範囲とするためには、抄紙時の原料スラリーのpHを7〜9とすることが好ましい。
【0030】
本発明に係る水彩画用紙は多量に水分を含む筆で筆記されるため、用紙に耐水性を付与して表面の毛羽立ち等の肌の荒れを防止し、水彩絵具が乾燥した後の水彩画用紙の波うちや変形を防止する必要がある。そのため基紙には、紙力増強剤を含有させることが好ましい。ここで用いることができる紙力増強剤としては、例えば、ポリアミドエピクロロヒドリン系紙力増強剤、澱粉系紙力増強剤、ポリアクリルアミド系紙力増強剤、ポリビニルアルコール系紙力増強剤等が挙げられるが、湿潤紙力強度を向上させやすいことから、特にポリアミドエピクロロヒドリン系紙力増強剤が好ましい。
【0031】
本発明において基紙には、本発明の目的を損なわない範囲で、カチオン性澱粉、内添中性サイズ剤、硫酸バンド、嵩高剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤、ピッチコントロール剤などの各種助剤を適宜使用することができる。
【0032】
本発明において基紙の抄紙方法は特に限定するものではなく、円網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機、これらの抄紙機のコンビネーション抄紙機など従来から周知の抄紙機を使用して、単層または抄合わせにして抄造できる。抄合わせとする場合には、抄合わせ各層の層間剥離を防止するために層間用澱粉等の紙力剤をスプレー塗布しても良い。
【0033】
(絵具受理層)
本発明に係る水彩画用紙は、水彩絵具を塗布して乾燥させた後の色濃度がより高くなり且つ色ムラが発生しないように、基紙の少なくとも一方の面に絵具受理層を設ける。本発明において絵具受理層には、少なくともゼラチン、アルキルケテンダイマー、水性ポリエステル樹脂を含有させる。
【0034】
ここでゼラチンはバインダーとして配合するものであり、バインダーはゼラチンを主体として、絵具受理層全体に対して基紙片面当たりゼラチン3〜10質量%を含有させることが好ましい。絵具受理層中のゼラチンの含有割合が3質量%未満であると、絵具受理層表面に十分なゼラチン膜が形成されずに湿潤表面強度が不足するおそれがある。また、水彩絵具の保持性が劣り、水彩絵具で重ね塗りを行ったときに先に塗布した水彩絵具が脱落しやすくなるおそれもある。一方、絵具受理層中のゼラチンの含有割合が10質量%を超えると絵具受理層用塗料の粘度が高くなり、ポンプアップ不良、サイズプレスでの液ハネ、エアーナイフ方式でナイフが切れないなどの問題が生じ、安定して塗料を基紙の表面に塗布することが困難となるおそれがある。また、塗料の塗布工程や、塗布後の乾燥工程、配管などの汚れも生じやすくなるため、経済的にも不利となる。
【0035】
ゼラチンは澱粉やポリビニルアルコールなどの他のバインダーより高い絵具保持性を有しており、更に高い耐水性を付与することができるために筆で水彩絵具を重ね塗りする際に用紙表面が荒れるのを防止することができる。また、ゼラチンと硫酸カリウムアルミニウム水和物を併用することで、ゼラチンを架橋して耐水性の効果を増進することもできる。硫酸カリウムアルミニウム水和物を併用する場合には、配合割合はゼラチンに対して0.5〜5.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
本発明において絵具受理層には、アルキルケテンダイマーを含有させる。絵具受理層にアルキルケテンダイマーを含有させることで、水彩絵具の滲みを調整し、且つ水彩絵具が紙中に沈み込みすぎるのを防止することができる。アルキルケテンダイマーは中性条件下で効果が発現し、画像の長期保存が可能となる。アルキルケテンダイマー以外の中性サイズ剤は濡れ性が良くなり過ぎて色ムラが発生する。
【0037】
ここでアルキルケテンダイマーは、基紙の少なくとも一方の面の絵具受理層に片面当たり固形分で、絵具受理層全体に対して0.1〜0.3質量%の範囲で含有させる。絵具受理層中のアルキルケテンダイマーの含有量が0.1質量%未満であると、アルキルケテンダイマーの含有量が十分ではないために水彩絵具の紙中への吸収性が高くなり水彩絵具を塗布した際に筆跡や色ムラが発生しやすくなる。一方、アルキルケテンダイマーの含有量が0.3質量%を超えると水彩絵具の紙中への吸収性が低くなりすぎ、乾燥が遅く水彩絵具の保持性が損なわれてしまう。
【0038】
また絵具受理層には、浸透剤として水性ポリエステル樹脂を含有させる。水性ポリエステル樹脂は、水溶性あるいは水分散性を付与するために分子中に親水基としてスルホン酸塩基あるいはカルボン酸塩基を含有するように重合されており、一般的にSR剤(Soil Release剤)として利用されている。本願発明者らは、絵具受理層に水性ポリエステル樹脂を含有させることで用紙表面の濡れ性を向上させて水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度をより高いものにできることを見出した。
【0039】
ここで水性ポリエステル樹脂は、基紙の少なくとも一方の面の絵具受理層に片面当たり固形分で絵具受理層全体に対して0.1〜2.0質量%の範囲で含有させる。絵具受理層中の水性ポリエステル樹脂の含有量が0.1質量%未満であると水性ポリエステル樹脂の含有量が足りずに十分な水彩絵具の色濃度が得られにくくなる。一方、水性ポリエステル樹脂の含有量が2.0質量%を超えると、水彩絵具の吸水性が大きくなりすぎて水彩絵具を塗布した際に色ムラが発生したり、グラデーションなどの絵具適性を損なったりする。
【0040】
本願発明者らは、水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度を向上させるための浸透剤として、水性ポリエステル樹脂、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを検討したが、水性ポリエステル樹脂が最も優れた作用を有していた。
【0041】
更に、本発明では、基紙に設けた絵具受理層の表面に、蒸留水を4μl滴下した後の60秒後の接触角が100度以上116度未満となるように絵具受理層の組成を調整した。本来アルキルケテンダイマーは水彩絵具の滲み防止作用を付与し、一方水性ポリエステル樹脂は水彩絵具の紙中への浸透性を向上させる作用を付与するものであり、両者は相反する作用を有する添加剤である。本発明においては、アルキルケテンダイマーと水性ポリエステル樹脂を前述の含有量で基紙上に塗布することで紙表面の接触角を100度以上116度未満に調整し、これにより水彩絵具で水彩画用紙に画像を描写して乾燥後、絵具濃度が高く色ムラの発生が少なくなる作用を付与するものである。
【0042】
上述の接触角は動的接触角であり、以下の手順で測定される。試験対象となる水彩画用紙の絵具受理層表面に動的接触角試験機1100DAT(Fibro System AB製)を用いて蒸留水4μlを1滴滴下後60秒間の接触角を測定し、60秒後の接触角の数値により水彩画用紙表面の濡れ性を判断する。接触角は液体が固体に接触している場合には液体の自由表面が固体の平面となす角度を示し、この角度が鈍角になればなるほど濡れ性は悪くなり、逆に鋭角になればなるほど濡れ性は良くなる。接触角が116度を超えて濡れ性が悪くなりすぎると、水彩画用紙表面の水彩絵具の保持性と定着性が悪化し、これにより水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度が低くなり、色ムラも発生しやすくなる。逆に、接触角が100度未満となり濡れ性が良くなりすぎると、紙表面の水彩絵具の定着が早いために水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度は高くなるが、その一方で水彩絵具が筆からすぐに離れてしまうために水彩絵具を均一に塗布できずに水彩絵具の色ムラが発生しやすくなる。これらの理由から用紙表面の濡れ性は適度にあることが好ましい。
【0043】
本発明において絵具受理層用塗料の基紙への塗布方法は特に限定するものではなく、サイズプレス方式、デッピング方式、コーター塗工方式、スプレー方式など従来から周知の塗布方法を適宜選択して使用することができる。
【0044】
また本発明の絵具受理層用塗料には、本発明の効果を妨げない範囲で、消泡剤、防腐剤、粘度調整剤等の公知の各種添加剤を含有させてもよい。
【0045】
本発明の水彩画用紙は、エンボス加工により、表面に凹凸をつけて風合いを出すことも可能である。また、水彩画用紙の坪量は特に限定するものではないが、100〜400g/m
2であり、好ましくは120〜360g/m
2である。
【実施例1】
【0046】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限りそれぞれ固形分換算での質量部又は質量%を示す。
【0047】
コットンパルプ100部(600mlC.S.F)、填料として重質炭酸カルシウム(商品名:ソフトン1500、白石カルシウム社製)5.0部を添加したパルプスラリーを用いて米坪300g/m
2となるように、抄紙pH7.5で抄紙を行い基紙を得た。次に、濃度9質量%のゼラチン水溶液100部(ゼラチン固形分ではなくゼラチン水溶液としての部数)に中性サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)を0.1質量%、浸透剤として水性ポリエステル樹脂(商品名:SR−1800、高松油脂社製)を0.1質量%混合して絵具受理層用塗料を調製し、この絵具受理層用塗料を基紙の両面に、片面当たりの塗布量が乾燥固形分で7.2g/m
2となるように塗布して水彩画用紙を得た。
【実施例2】
【0048】
実施例1において、アルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)の配合量を0.3質量%に変更し、水性ポリエステル樹脂の種類を変更し(商品名:SR−1000、高松油脂社製)、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分5.8g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例3】
【0049】
実施例2において、水性ポリエステル樹脂(商品名:SR−1000、高松油脂社製)の配合量を2.0質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分6.8g/m
2に変更した以外は実施例2と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例4】
【0050】
実施例3において、アルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)の配合量を0.1質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分6.1g/m
2に変更した以外は実施例3と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例5】
【0051】
実施例1において、アルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)の配合量を0.2質量%に変更し、水性ポリエステル樹脂(商品名:SR−1800、高松油脂社製)の配合量を1.5質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分6.5g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0052】
実施例1において、浸透剤としての水性ポリエステル樹脂(商品名:SR−1800、高松油脂社製)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0053】
実施例1において、水性ポリエステル樹脂(商品名:SR−1800、高松油脂社製)の配合量を5.0質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分5.9g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0054】
実施例1において、アルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)の配合量を0.6質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分6.7g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0055】
実施例1において、アルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)の配合量を0.01質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分6.8g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0056】
実施例1において、中性サイズ剤をアルキルケテンダイマーから中性ロジン系サイズ剤(商品名:サイズパインNT−78、荒川工業化学社製)0.1質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分7.0g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0057】
各実施例及び比較例で得られた水彩画用紙の組成と評価結果を
図1に示す。なお同図において、水性ポリエステル樹脂1は高松油脂社製のSR−1800、水性ポリエステル樹脂2は高松油脂社製のSR−1000である。また
図1中の各評価は、以下の方法により行った。
【0058】
(接触角)
実施例及び比較例で得られた水彩画用紙の絵具受理層表面に動的接触角試験機1100DAT(Fibro System AB製)を用いて蒸留水4μlを1滴滴下後60秒間の接触角を測定し、60秒後の接触角の数値を接触角(度)とした。接触角が100〜116度の範囲であれば合格とする。
【0059】
(水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度)
実施例及び比較例で得られた水彩画用紙を幅1.5cm×長さ15cmの帯状に断裁して試験用紙を作成する。プラスチックカップの中に水彩絵具(商品名:キナクリドンレッド、ホルベイン画材社製)を蒸留水と重量比で1:9に希釈した溶液を作成し、そこに筆全体を浸ける。その後プラスチックカップの淵で筆を2回こすり、過剰な水彩絵具を落としてから試験用紙の表面に筆で6回重ね塗りを行い、画像が乾燥した後にX−Rite eXact(ビデオジェット・エックスライト社製)にて濃度測定を行った。水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度は4段階で評価し、○以上を実用上問題なしとした。
◎:乾燥後の画像の色濃度が0.81以上のもの。
○:乾燥後の画像の色濃度が0.75〜0.80のもの。
△:乾燥後の画像の色濃度が0.71〜0.74のもの(実用上問題あり)。
×:乾燥後の画像の色濃度が0.70以下のもの(実用上問題あり)。
【0060】
(発色の均一性:色ムラ)
プラスチックカップの中に水彩絵具(商品名:キナクリドンレッド、ホルベイン画材社製)を蒸留水と重量比で1:9に希釈した溶液を作成し、そこに筆全体を浸ける。その後プラスチックカップの淵で筆を1回こすり、実施例及び比較例で得られた水彩画用紙の表面に約10cmの線を1本引き、画像が乾燥した後に色ムラを目視で観察した。評価は4段階で行い、○以上を実用上問題なしとした。
◎:乾燥後の画像に色ムラがない。
○:乾燥後の画像にわずかに色ムラがある。
△:乾燥後の画像に若干色ムラがある(実用上問題あり)。
×:乾燥後の画像に部分的に色ムラがある(実用上問題あり)。
【0061】
図1の結果から明らかなように、実施例1〜5により得られた水彩画用紙は、水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度がより高く色ムラの少ない水彩画用紙を得ることができる。
【0062】
これに対して比較例1で得られた水彩画用紙は、水性ポリエステル樹脂を含有しないことで水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度が低くなった。
【0063】
また、比較例2で得られた水彩画用紙は、水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度については高く実用上問題ないが、水性ポリエステル樹脂を過剰に含有したことで紙表面に対する水彩絵具の染み込み方が不均一となり、若干色ムラが発生して特別に濃い部分ができた。
【0064】
また、比較例3で得られた水彩画用紙は、アルキルケテンダイマーを過剰に含有させたことで水彩絵具の定着性が悪くなり水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度が低く色ムラが若干発生した。
【0065】
また、比較例4で得られた水彩画用紙は、水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度に優れているが、アルキルケンダイマーの含有量を極端に減らしたことで水彩絵具を塗布した際に紙表面に対して素早く吸収され色ムラが若干発生した。
【0066】
また、比較例5で得られた水彩画用紙は、水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度に優れているが、アルキルケテンダイマーではなく中性ロジン系サイズ剤を用いたことで水彩絵具を塗布した際に紙表面に対して素早く吸収され色ムラが部分的に発生した。
【0067】
以上のように、本発明により製造した水彩画用紙は、水彩絵具の塗布乾燥後の色濃度がより高く均一な発色を有することができる。