特許第6833907号(P6833907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6833907
(24)【登録日】2021年2月5日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】回転子および回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20210215BHJP
【FI】
   H02K1/27 501A
   H02K1/27 501M
   H02K1/27 501G
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-99642(P2019-99642)
(22)【出願日】2019年5月28日
(62)【分割の表示】特願2019-502110(P2019-502110)の分割
【原出願日】2018年9月11日
(65)【公開番号】特開2019-154232(P2019-154232A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年12月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-174264(P2017-174264)
(32)【優先日】2017年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 将
(72)【発明者】
【氏名】久田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松原 正克
(72)【発明者】
【氏名】松岡 佑将
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−080713(JP,A)
【文献】 特開2014−007853(JP,A)
【文献】 特開平10−112946(JP,A)
【文献】 特開2013−183574(JP,A)
【文献】 特開2012−110227(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0270949(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線の回りで円周方向に並んだ複数の磁極のそれぞれについて見たときに、前記磁極の円周方向の端および前記中心軸線を通って放射方向に延びる軸をq軸、前記q軸に対して円周方向に電気的に90度離間した軸をd軸としたとき、前記q軸上に前記中心軸線に向かって延在する空隙部が各々形成されており、前記円周方向に隣り合う一対の前記空隙部の間に、一方の前記空隙部に面して形成された第1ブリッジ部と他方の前記空隙部に面して形成された第2ブリッジ部と前記第1ブリッジ部および前記第2ブリッジ部に隣接して形成された磁石埋め込み孔とを有するフラックスバリアバンドが前記d軸を横断して形成されている回転子鉄心と、
保磁力と磁化方向厚との積が大きい固定磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第1ブリッジ部に隣接して配置された第1永久磁石と、
保磁力と磁化方向厚との積が前記第1永久磁石よりも小さい可変磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第2ブリッジ部に隣接して配置された第2永久磁石と、
を備え、
前記第2永久磁石は、保磁力と磁化方向厚との積が異なる2種類の磁石を積層して構成され、保磁力と磁化方向厚との積が大きい方の磁石が前記回転子鉄心の外周側に位置するように配置されている
回転子。
【請求項2】
中心軸線の回りで円周方向に並んだ複数の磁極のそれぞれについて見たときに、前記磁極の円周方向の端および前記中心軸線を通って放射方向に延びる軸をq軸、前記q軸に対して円周方向に電気的に90度離間した軸をd軸としたとき、前記q軸上に前記中心軸線に向かって延在する空隙部が各々形成されており、前記円周方向に隣り合う一対の前記空隙部の間に、一方の前記空隙部に面して形成された第1ブリッジ部と他方の前記空隙部に面して形成された第2ブリッジ部と前記第1ブリッジ部および前記第2ブリッジ部に隣接して形成された磁石埋め込み孔とを有するフラックスバリアバンドが前記d軸を横断して形成されている回転子鉄心と、
保磁力と磁化方向厚との積が大きい固定磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第1ブリッジ部に隣接して配置された第1永久磁石と、
保磁力と磁化方向厚との積が前記第1永久磁石よりも小さい可変磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第2ブリッジ部に隣接して配置された第2永久磁石と、
を備え、
前記回転子鉄心の各磁極は、前記第1永久磁石および前記第2永久磁石と前記回転子鉄心の外周面との間に形成された磁路と、前記第1永久磁石と第2永久磁石との間に設けられたブリッジ部と、前記磁路において前記外周面から前記ブリッジ部まで延在する空隙と、を有している
回転子。
【請求項3】
中心軸線の回りで円周方向に並んだ複数の磁極のそれぞれについて見たときに、前記磁極の円周方向の端および前記中心軸線を通って放射方向に延びる軸をq軸、前記q軸に対して円周方向に電気的に90度離間した軸をd軸としたとき、前記q軸上に前記中心軸線に向かって延在する空隙部が各々形成されており、前記円周方向に隣り合う一対の前記空隙部の間に、一方の前記空隙部に面して形成された第1ブリッジ部と他方の前記空隙部に面して形成され前記第1ブリッジ部よりも太く形成された第2ブリッジ部と前記第1ブリッジ部および前記第2ブリッジ部に隣接して形成された磁石埋め込み孔とを有するフラックスバリアバンドが前記d軸を横断して形成されている回転子鉄心と、
保磁力と磁化方向厚との積が大きい固定磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第1ブリッジ部に隣接して配置された第1永久磁石と、
保磁力と磁化方向厚との積が前記第1永久磁石よりも小さい可変磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第2ブリッジ部に隣接して配置された第2永久磁石と、
を備える回転子。
【請求項4】
前記第1永久磁石は、前記第1ブリッジ部と前記d軸との間に配置され、前記第2永久磁石は前記第2ブリッジ部と前記d軸との間に配置されている請求項1、2、3のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項5】
前記空隙部の各々は、前記第1永久磁石および第2永久磁石の配設位置よりも前記中心軸線側に深く延在している請求項1、2、3のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項6】
前記第1永久磁石および第2永久磁石は、前記回転子鉄心の外周方向に向いた第1側面をそれぞれ有し、
前記第1永久磁石および第2永久磁石の少なくとも一方は、前記d軸と前記第1側面との成す角度が90度よりも大きい角度で配置されている請求項1、2、3のいずれか1項に記載の回転子。
【請求項7】
固定子鉄心および電機子巻線を有する固定子と、
請求項1からのいずれか1項に記載の回転子と、
を備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、回転電機の回転子、およびこれを備える回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石の目覚しい研究開発により、高磁気エネルギー積の永久磁石が開発され、このような永久磁石を用いた永久磁石型の回転電機が電車や自動車の電動機あるいは発電機として適用されつつある。通常、永久磁石型の回転電機は、円筒状の固定子と、この固定子の内側に回転自在に支持された回転子と、を備えている。回転子は、回転子鉄心と、この回転子鉄心内に埋め込まれ、複数の磁極を形成する複数の永久磁石と、を備えている。
【0003】
このような永久磁石型の回転電機は、可変速駆動回転電機に適している。永久磁石型の回転電機では、永久磁石の鎖交磁束が常に一定の強さで発生しているため、永久磁石による誘導電圧(逆起電圧)は回転速度に比例して高くなる。そのため、低速から高速まで可変速運転する場合、高速回転では永久磁石による誘導電圧が極めて高くなる。永久磁石による誘導電圧がインバータ等の電子部品に印加されてその耐電圧以上になると、電子部品が絶縁破壊する。そのため、永久磁石の磁束量が耐電圧以下になるように削減された設計を行うことが考えられるが、その場合には回転電機の低速域での出力及び効率が低下する。
【0004】
低速から高速まで定出力に近い可変速運転を行う場合、永久磁石の鎖交磁束は一定であるため、高速回転域では回転電機の電圧が電源電圧上限に達し、出力に必要な電流が流れなくなる。その結果、高速回転域では出力が大幅に低下し、さらには高速回転まで広範囲に可変速運転することが困難となる。
【0005】
最近では、可変速範囲を拡大する方法として、固定子巻線の電流で作る磁界により不可逆的に磁束密度が変化する程度の低保磁力の永久磁石(以下、可変磁力磁石という)と、可変磁力磁石の2倍以上の保磁力を有する高保磁力の永久磁石(以下、固定磁力磁石という)を配置し、電源電圧の最大電圧以上となる高速回転域では可変磁力磁石と固定磁力磁石による全鎖交磁束が減じるように、電流による磁界で可変磁力磁石を磁化させて全鎖交磁束量を調整する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2012/014260号
【特許文献2】特開2013−176292号公報
【特許文献3】国際公開2014/188757号
【特許文献4】特開2015−159691号公報
【特許文献5】特開2014−07852号公報
【特許文献6】特表2017−528107号公報
【特許文献7】特表2018−522524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
永久磁石型の回転電機は、回転子のd軸電流により、可変磁力磁石の鎖交磁束量を最大から0まで大きく変化でき、また磁化方向も正逆の両方向にできるという優れた特性を有する。その反面、可変磁力磁石を増磁させる場合に大きな磁化電流が必要となり、電動機を駆動するためのインバータを大型化する必要がある。
永久磁石の特性上、減磁の場合よりも増磁の場合に大きな磁化電流が要求される。上記回転電機は、2種類の磁石が磁気的に並列に配置された構成のため、固定磁力磁石の鎖交磁束の影響で、可変磁力磁石の増磁に大きな磁界が必要となる。
【0008】
永久磁石型の回転電機のトルクは、永久磁石トルク成分と、リラクタンストルク成分とを含んでいる。そして、トルクが最大となる電流位相角は、磁石トルク成分とリラクタンストルク成分とで異なる。磁石トルクの電流位相に対して、リラクタンストルクの電流位相は周波数が2倍であり、逆位相となる。そのため、回転電機の総トルクは、2つのトルク成分の最大値の合計値よりも低下する。すなわち、回転電機としての最大トルク点では、永久磁石の磁束が有効に活用されていない。むしろ、回転電機の最大トルク点では、永久磁石の一部は負のトルクを生じている。
正逆両方向に回転可能な回転電機が提案されているが、上記事情から、両方向に回転可能とすることは困難であり、実現には至っていない。
【0009】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その課題は、広範囲で可変速運転を可能とし、損失低減、効率向上が可能な回転子、および回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、回転子は、中心軸線の回りで円周方向に並んだ複数の磁極のそれぞれについて見たときに、前記磁極の円周方向の端および前記中心軸線を通って放射方向に延びる軸をq軸、前記q軸に対して円周方向に電気的に90度離間した軸をd軸としたとき、前記q軸上に前記中心軸線に向かって延在する空隙部が各々形成されており、前記円周方向に隣り合う一対の前記空隙部の間に、一方の前記空隙部に面して形成された第1ブリッジ部と他方の前記空隙部に面して形成された第2ブリッジ部と前記第1ブリッジ部および前記第2ブリッジ部に隣接して形成された磁石埋め込み孔とを有するフラックスバリアバンドが前記d軸を横断して形成されている回転子鉄心と、
保磁力と磁化方向厚との積が大きい固定磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第1ブリッジ部に隣接して配置された第1永久磁石と、
保磁力と磁化方向厚との積が前記第1永久磁石よりも小さい可変磁力磁石で構成され、前記磁石埋め込み孔内に前記第2ブリッジ部に隣接して配置された第2永久磁石と、を備え、前記第2永久磁石は、保磁力と磁化方向厚との積が異なる2種類の磁石を積層して構成され、保磁力と磁化方向厚との積が大きい方の磁石が前記回転子鉄心の外周側に位置するように配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る永久磁石型の回転電機を示す断面図。
図2A図2Aは、前記回転電機の回転子を拡大して示す断面図。
図2B図2Bは、前記回転子の複数磁極を拡大して示す断面図。
図3A図3Aは、前記回転電機の固定子の一部および回転子の一部を示す断面図。
図3B図3Bは、前記回転電機の固定子の一部および回転子の一部を示す断面図。
図4図4は、第2の実施形態に係る永久磁石型の回転電機の回転子を示す断面図。
図5図5は、第3の実施形態に係る永久磁石型の回転電機の回転子を示す断面図。
図6図6は、第3の実施形態に係る回転子の一部を拡大して示す断面図。
図7図7は、第1変形例に係る回転子の一部を拡大して示す断面図。
図8図8は、第4の実施形態に係る永久磁石型の回転電機の固定子および回転子の一部を拡大して示す断面図。
図9図9は、第2変形例に係る永久磁石型の回転電機の固定子および回転子の一部を拡大して示す断面図。
図10図10は、第3変形例に係る永久磁石型の回転電機の固定子および回転子の一部を拡大して示す断面図。
図11図11は、第5の実施形態に係る永久磁石型の回転電機の回転子を示す断面図。
図12図12は、トルクと電流位相との関係を示す図。
図13図13は、本実施形態に係る永久磁石型の回転電機をハイブリッド電気自動車の発電機に適用した一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る永久磁石型の回転電機の断面図、図2Aは、回転電機の回転子を示す断面図、図2Bは、回転子の複数磁極を拡大して示す回転子の断面図である。
図1に示すように、回転電機10は、例えば、インナーロータ型の回転電機として構成され、図示しない固定枠に支持された環状あるいは円筒状の固定子12と、固定子12の内側に中心軸線Cの回りで回転自在に、かつ固定子12と同軸的に支持された回転子14と、を備えている。回転電機10は、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)において、発電機あるいは駆動モータに好適に適用される。
【0014】
固定子12は、円筒状の固定子鉄心16と固定子鉄心16に巻き付けられた電機子巻線18とを備えている。固定子鉄心16は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板を多数枚、同芯状に積層して構成されている。固定子鉄心16の内周部には、複数のスロット20が形成されている。複数のスロット20は、円周方向に等間隔を置いて並んでいる。各スロット20は、固定子鉄心16の内周面に開口し、この内周面から放射方向に延出している。また、各スロット20は、固定子鉄心16の軸方向の全長に亘って延在している。複数のスロット20を形成することにより、固定子鉄心16の内周部は、回転子14に面する多数の固定子ティース21を構成している。そして、複数のスロット20に電機子巻線18が埋め込まれ、固定子ティース21に巻き付けられている。
【0015】
図1および図2Aに示すように、回転子14は、両端が図示しない軸受により回転自在に支持された回転シャフト22と、この回転シャフト22の軸方向ほぼ中央部に固定された円筒形状の回転子鉄心24と、回転子鉄心24内に埋め込まれた複数の永久磁石26、27と、を有している。回転子14は、固定子12の内側に僅かな隙間を置いて同軸的に配置されている。すなわち、回転子14の外周面は、僅かな隙間(ギャップ部)をおいて、固定子12の内周面に対向している。回転子鉄心24は中心軸線Cと同軸的に形成された内孔25を有している。回転シャフト22は内孔25に挿通および嵌合され、回転子鉄心24と同軸的に延在している。
【0016】
回転子鉄心24は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板を多数枚、同芯状に積層した積層体として構成されている。回転子鉄心24は、円周方向に並んだ複数、例えば、8極の磁極40を有している。回転子鉄心24において、それぞれ隣合う磁極間の境界(磁極の円周方向の端)および中心軸線Cを通り回転子鉄心24の径方向あるいは放射方向に延びる軸をq軸、およびd軸に対して電気的に90°離間した軸をd軸としている。ここでは、各磁極40の円周方向の中心を通って延びる軸をd軸(磁極中心軸)とし、d軸に対して電気的、磁気的に直角な方向をq軸としている。d軸およびq軸は、回転子鉄心24の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で並んでいる。本実施形態の回転電機10は、8極の場合で説明しており、8本のd軸および8本のq軸を有しているが、他の極数でも同様に適用できる。
【0017】
図1および図2Aに示すように、回転子鉄心24に複数の永久磁石が設けられている。本実施形態では、複数の永久磁石は、回転子鉄心24に埋め込まれ回転子鉄心24の外周面近傍に配置されている。極数に合わせて、8つの第1永久磁石26および8つの第2永久磁石27が設けられている。回転子鉄心24の1磁極に、第1永久磁石26および第2永久磁石27が設けられている。
【0018】
図2Aおよび図2Bに示すように、回転子鉄心24の外周面に複数の空隙部、例えば、V字状の切欠き35が形成されている。各切欠き35は、q軸上に形成され、回転子鉄心24の軸方向全長に亘って延在している。切欠き35は、回転子鉄心24の外周面から中心軸線Cに向かって延在している。本実施形態において、各切欠き35は、第1永久磁石26および第2永久磁石27の配設位置よりも中心軸線C側により深く形成されている。
【0019】
回転子鉄心24の各磁極40は、円周方向に隣合う一対の切欠き35の間にd軸を横断して形成されたフラックスバリアバンドFBを有している。フラックスバリアバンドFBは、一方の切欠き35に面して形成された第1ブリッジ部44aと、他方の切欠き35に面して形成された第2ブリッジ部44bと、第1ブリッジ部44aおよび前記第2ブリッジ部44bに隣接して形成された磁石埋め込み孔、すなわち、第1ブリッジ部と第2ブリッジ部との間に延在する少なくとも1つの磁石埋め込み孔と、を有している。本実施形態では、フラックスバリアバンドFBは、d軸上に形成されたセンターブリッジ部(第3ブリッジ部)36を有し、磁石埋め込み孔は、第1ブリッジ部44aとセンターブリッジ部36との間に形成された第1磁石埋め込み孔34aと、第2ブリッジ部44bとセンターブリッジ部36との間に形成された第2磁石埋め込み孔34bと、を含んでいる。
【0020】
回転子鉄心24の円周方向において、各d軸の両側に第1磁石埋め込み孔34aおよび第2磁石埋め込み孔34bが形成されている。各磁石埋め込み孔34a、34bは、回転子鉄心24を軸方向に貫通して延びている。第1および第2磁石埋め込み孔34a、34bは、ほぼ矩形の断面形状を有し、それぞれd軸とほぼ直交する方向に延在している。第1および第2磁石埋め込み孔34a、34bは、d軸上の幅の狭い磁路狭隘部(センターブリッジ部)36を挟んで隣接対向し、直線状に並んでいる。
【0021】
更に、回転子鉄心24に複数の空隙孔(透孔)30が形成されている。空隙孔30は、それぞれ回転子鉄心24を軸方向に貫通して延びている。空隙孔30は、内孔25の周囲に設けられ、それぞれd軸上に位置している。空隙孔30は、例えば、円形の断面形状を有している。
【0022】
図2Aおよび図2Bに示すように、第1永久磁石26は、第1磁石埋め込み孔34a内に配置され、第1ブリッジ部44aに隣接して位置している。第2永久磁石27は、第2磁石埋め込み孔34b内に配置され、第2ブリッジ部33bに隣接して位置している。これにより、第1および第2永久磁石26、27は、回転子鉄心24の各磁極40に埋め込まれている。第1永久磁石26および第2永久磁石27は、例えば、断面が矩形状の細長い板状に形成され、回転子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しい長さを有している。第1永久磁石26は、細長い矩形状の第1側面(表面)26aと、この第1側面26aとほぼ平行に対向する細長い矩形状の第2側面(裏面)26bと、を有している。第2永久磁石27は、細長い矩形状の第1側面(表面)27aと、この第1側面27aとほぼ平行に対向する細長い矩形状の第2側面(裏面)27bと、を有している。第1永久磁石26および第2永久磁石27は、軸方向(長手方向)に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しくなるように形成される。
第1永久磁石26および第2永久磁石27は、回転子鉄心24のほぼ全長に亘って埋め込まれている。第1永久磁石26および第2永久磁石27は、第1および第2磁石埋め込み孔34a、34bに装填され、接着剤等により回転子鉄心24に固定されている。これにより、第1永久磁石26および第2永久磁石27は、第1および第2磁石埋め込み孔34a、34b内に位置決めされている。第1永久磁石26および第2永久磁石27は、d軸上のブリッジ部36を挟んで隣接対向している。第1永久磁石26および第2永久磁石27は、それぞれd軸とほぼ直交する方向に延在し、互いに直線状に並んでいる。
【0023】
第1永久磁石26および第2永久磁石27の磁化方向は、永久磁石の表面(第1側面)および裏面(第2側面)と直交する方向としている。各d軸の両側に位置する第1永久磁石26および第2永久磁石27は、磁化方向が同一となるように配置され、また、q軸の両側に位置する第2永久磁石27および第1永久磁石26は、磁化方向が逆向きとなるように配置されている。複数の永久磁石26、27を上記のように配置することにより、回転子鉄心24の外周部において各d軸上の領域は1つの磁極40を中心に形成し、各q軸上の領域は磁極間部42を中心に形成している。本実施形態では、回転電機10は、円周方向に沿ってN極とS極とを交互に配置した、8極(4極対)、48スロットで、単層分布巻で巻線した永久磁石型の回転電機を構成している。
【0024】
第1永久磁石26および第2永久磁石27は、保磁力と磁化方向厚との積が異なる2種類の永久磁石を用いている。例えば、第1永久磁石26は、保磁力と磁化方向厚との積が大となる永久磁石(以下、固定磁力磁石という)で構成し、第2永久磁石27は、保磁力と磁化方向厚との積が小となる、すなわち、第1永久磁石26よりも小さい、永久磁石(以下、可変磁力磁石という)で構成している。
第1永久磁石(固定磁力磁石)26は、例えば、NdFeB磁石あるいは保磁力の高いSmCo系磁石等を用いることができる。第2永久磁石(可変磁力磁石)27は、例えば、フェライト磁石、アルニコ磁石または保磁力を小さく設定したSmCo系磁石を使用することができる。
【0025】
本実施形態では、可変磁力磁石27として、例えば、保持力150〜400kA/m程度のSmCo系磁石を用い、また、固定磁力磁石26として、保磁力1500kA/m程度のNdFeB磁石を用いている。本実施形態において、固定磁力磁石26と可変磁力磁石27とは磁化方向厚さがほぼ等しいことから、固定磁力磁石26は、最大使用温度範囲内の全範囲で、保磁力と磁化方向厚との積が、可変磁力磁石27の保磁力と磁化方向厚との積よりも大きい。可変磁力磁石27の保磁力は、固定磁力磁石26の1/10〜1/4であり、電機子巻線18を流れる電流で作る磁界により不可逆的に磁束量が変化する程度の保持力としている。
【0026】
このように、低保磁力の可変磁力磁石27を用いることにより、外部磁界により永久磁石の磁化状態を変化させることができ、低速から高速までの広範囲で可変速運転を可能としている。また、第1永久磁石26として保磁力の高い固定磁力磁石を用いることにより、優れた特性の回転電機を得ることが可能となる。
【0027】
本実施形態において、回転電機10は、回転子14が1方向に回転する回転電機として構成されている。
【0028】
図2Aに示すように、回転子14の回転方向を矢印A方向(反時計方向)とし、1磁極40で見た場合、矢印の方向を回転方向Aの下流側DS、矢印と反対の方向を回転方向Aの上流側USとしている。1磁極において、第1永久磁石(固定磁力磁石)26は、d軸に対して、回転方向Aの下流側(磁極40の一端側)DSに配置され、また、第2永久磁石(可変磁力磁石)27は、d軸に対して、回転方向Aの上流側(磁極40の他端側)USに配置されている。本実施形態では、第1永久磁石26および第2永久磁石27は、d軸と平行な方向に磁化されている。また、第1永久磁石26および第2永久磁石27は、隣合う磁極40間で、磁化方向が逆向きとなるように、磁化されている。
【0029】
これにより、回転子14の中心軸線Cから合計した磁石磁束の向きである磁極方向(d軸方向)に対して、2種類以上の第1永久磁石26および第2永久磁石27が非対称に配置されている。すなわち、第1永久磁石26および第2永久磁石27は、d軸に対して、保磁力と磁化方向厚との積が左右非対称となるように配置されている。回転子鉄心24の外周面と固定子鉄心16の内周面との間の隙間をギャップ部とした場合、トルクを発生させる電流ベクトルと磁石磁界とが対向するギャップ部に近い箇所(+矢印の箇所)に、保持力の高い第1永久磁石(固定磁力磁石)26が配置され、電流ベクトルと磁石磁界とが対向しないギャップ部に近い箇所(−矢印の箇所)に、保持力の低い第2永久磁石(可変磁力磁石)27が配置されている。
【0030】
上記のように構成された回転電機10の動作、作用を説明する。
本実施形態では、固定子12の電機子巻線18に通電時間が短時間(0.1ms〜100ms程度)となるパルス的な電流を流して磁界を形成し、可変磁力磁石27に磁界を作用させる。可変磁力磁石27を磁化するための磁界を形成するパルス電流(磁化電流)は固定子12の電機子巻線18のd軸電流成分とする。
【0031】
固定磁力磁石26と可変磁力磁石27の厚さがほぼ同等とすると、d軸電流によって発生する作用磁界による永久磁石の磁化状態変化は、保磁力の大きさにより変わる。すなわち、作用磁界による永久磁石の磁化状態変化は、保磁力の大きさと永久磁石の厚みとの積で概算することができる。本実施形態では、可変磁力磁石(SmCo磁石)27の保磁力は400kA/mとし、固定磁力磁石(NdFeB磁石)26の保磁力は1500kA/mとする。また、第1永久磁石26、第2永久磁石27の磁化方向の磁石厚みは同一で5mmとしている。磁化に要する起磁力は磁化に要する磁界と永久磁石の厚みとの積で概算する。SmCo磁石(可変磁力磁石)の90%の着磁磁界が約800kA/mとすると、磁化に要する起磁力は800kA/m×5×0.001=4000Aとなる。一方、NdFeB磁石(固定磁力磁石)の90%の着磁磁界が約3000kA/mとすると、磁化に要する起磁力は3000kA/m×5×0.001=15000Aとなる。
【0032】
可変磁力磁石27であるSmCo磁石の磁力可変に必要な起磁力は、固定磁力磁石26であるNdFeB磁石の約27%となる。従って、SmCo磁石の磁力を可変できる電流では、NdFeB磁石の磁力は変わらずに維持される。これより、2種類の永久磁石を並列に並べて配置した構成とすると、NdFeB磁石の磁力をベース分として維持して、SmCo磁石の磁力を変化させることにより、永久磁石の全鎖交磁束量を調整することができる。
【0033】
初めに磁石の磁化方向とは逆方向の磁界を発生する負のd軸電流(磁化電流)を電機子巻線18にパルス的に通電する。負のd軸電流によって変化した磁石内の磁界が400kA/m以上になったとすると、可変磁力磁石27の保磁力は400kA/mであるため、可変磁力磁石27の磁力は不可逆的に大幅に低下する。一方、固定磁力磁石26の保磁力は1500kA/mであるため、磁力は不可逆的に低下しない。その結果、パルス的なd軸電流が0になると、可変磁力磁石27のみが減磁した状態となり、磁極40全体の永久磁石による鎖交磁束量を減少させることができる。これにより、無負荷運転(回生)時の損失低減、鉄損低減を図ることができる。
【0034】
次に、第1および第2永久磁石26、27の磁化方向と同方向の磁界を発生する正のd軸電流を電機子巻線18に通電する。可変磁力磁石(SmCo磁石)27を着磁するために必要な磁界を発生させる。正のd軸電流(磁化電流)によって変化した可変磁力磁石27内の磁界が600kA/mであるとすると、減磁していた可変磁力磁石27は着磁されて最大に磁力を発生する。一方、固定磁力磁石(NdFeB磁石)26の保磁力は1500kA/mであるので磁力は不可逆的に変化しない。その結果、パルス的な正のd軸電流が0になると可変磁力磁石27のみが増磁した状態となり、磁極40全体の永久磁石26、27による鎖交磁束量を増加することができる。これにより元の最大の鎖交磁束量に戻すことが可能となる。従って、負荷運転(力行)時の損失低減、出力増加を図ることが可能となる。
【0035】
以上のようにd軸電流による瞬時的な磁界を第2永久磁石(可変磁力磁石)27と第1永久磁石(固定磁力磁石)26に作用させることにより、可変磁力磁石27の磁力を不可逆的に変化させて、磁極40全体の永久磁石の全鎖交磁束量を任意に変化させることが可能となる。
【0036】
この場合、回転電機10の最大トルク発生時には磁極40の第1、第2永久磁石26、27の磁束が加え合わさるように可変磁力磁石27を磁化させ、トルクの小さな軽負荷時や、中速回転域と高速回転域では、電流による磁界で可変磁力磁石27を磁化させて磁束を減少させる。また、磁極40の第2永久磁石27を不可逆変化させて鎖交磁束量を最小にした状態で回転子14が最高回転速度になったときに、第1、第2永久磁石26、27による誘導起電圧が、回転電機10の電源であるインバータの電子部品の耐電圧以下となるようにしている。
【0037】
図3Aおよび図3Bは、固定子および回転子の一部をそれぞれ示す断面図である。図3Aに示すように、回転電機10の回生運転時、電流ベクトルを磁極40の磁極中心から電気的に90°進めた位相に入力する。図3Bに示すように、回転電機10の通常運転(力行)時、電流ベクトルを磁極40の磁極中心から電気的に90°遅れた位相に入れる。そのため、回生と力行とで、第1永久磁石26および第2永久磁石27に作用する反磁界の場所が相違している。図3Aに示すように、回生運転時、d軸に対して、回転方向Aの下流側(左側)に大きな反磁界が作用し、回転方向Aの上流側(右側)に作用する反磁界が小さくなる。そのため、少なくとも下流側だけに、反磁界に強い固定磁力磁石26を用いることにより、反磁界による影響を受けなくすることができる。また、上流側(右側)に、反磁界に弱い可変磁力磁石27を配置することにより、可変磁束メモリモータを実現することが可能となる。すなわち、可変磁力磁石27に作用する反磁界が小さいため、可変磁力磁石27を小さな磁化電流で容易に減磁あるいは磁化反転することができる。
【0038】
図13は、回転電機10を備えたハイブリッド自動車の一例を概略的に示している。このハイブリッド自動車は、例えば、4つの車輪60と、車軸62a、62bを介して車輪60を支持したシャーシ64と、を備えている。シャーシ64上に、例えば、前輪の車軸62aを駆動する駆動電動機68、本実施形態の回転電機10を適用した発電機70、発電機70を駆動する内燃機関としてのエンジン72、発電機70で発電した電力を蓄えるリチウム二次電池などの高電圧バッテリ74、および、高電圧バッテリ74から供給される直流電流を交流電流に変換して駆動電動機68を駆動するインバータ75および制御装置76が設けられている。
【0039】
通常走行(EVモード)時、ハイブリッド自動車は、高電圧バッテリ74から供給される電力により、駆動電動機68を駆動する。駆動電動機68の駆動トルクは車軸62aを介して車輪60を伝達され、これにより、自動車が走行する。高電圧バッテリ74の蓄電量が低下した場合、エンジン72を駆動し、エンジン72からの出力により発電機70を駆動する(HEVモード)。発電機70で発電された電力は高電圧バッテリ74に蓄電する。この場合、発電機70の回転子14は、エンジン72の出力により回転駆動され、電機子巻線18に起電力を発生させる。
【0040】
このように、EVモード時、発電機70はゼロ出力であり、回転子14は連れ回り回転した状態となる。この際、可変磁力磁石27の磁化を減磁することにより、損失低減、鉄損低減を図り、低損失運転を実現することができる。また、HEVモード時、発電機70は主に回生状態で運転される。この際、可変磁力磁石27を増磁して磁極40の磁束量を増加することにより、損失低減、発電出力増加を図ることが可能となる。
以上のように、第1の実施形態によれば、保磁力と磁化方向厚との積が異なる2種類以上の永久磁石を、磁極中心軸に対して、保磁力と磁化方向厚との積が左右非対称となるように配置した構成とすることにより、低速から高速までの広範囲で可変速運転を可能とし、損失低減、効率向上が可能な永久磁石型の回転電機を提供することができる。
【0041】
次に、他の実施形態および変形例に係る回転電機について説明する。以下に説明する他の実施形態および変形例において、前述した第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化し、前述した第1の実施形態と異なる部分を中心に詳しく説明する。
【0042】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る回転電機の回転子の一部を示す断面図である。
第2の実施形態によれば、第2永久磁石27は、保磁力と磁化方向厚との積が異なる2種類の磁石を積層して構成されている。例えば、第2永久磁石27は、保磁力と磁化方向厚との積が大きい固定磁力磁石29aと、保磁力と厚さとの積が小さい可変磁力磁石29bとを組み合わせて構成されている。固定磁力磁石29aと可変磁力磁石29bとは、同一の長さおよび同一の幅に形成されている。固定磁力磁石29aと可変磁力磁石29bとは、同一の厚さでも、あるいは、異なる厚さに形成されていてもよい。
【0043】
固定磁力磁石29aと可変磁力磁石29bとは、回転子鉄心24の径方向に積層された状態で、共通の磁石埋め込み孔34b内に装填されている。固定磁力磁石29aが外周側で、可変磁力磁石29bが内周側に配置されている。すなわち、回転子鉄心24の外周面と固定子鉄心の内周面との間の隙間をギャップ部とした場合、固定磁力磁石29aがギャップ部の近く(回転子鉄心24の外周面の近く)に配置され、可変磁力磁石29bがギャップ部から離れた位置に配置されている。
【0044】
通常、永久磁石に作用する反磁界は、回転子14の外周側(ギャップ部側)の方が、内周側よりも大きくなる。上記のように、第2永久磁石27は、外周側に保磁力の大きい固定磁力磁石29aを配置することにより、反磁界の影響を受けにくい。また、可変磁力磁石29bを内周側に配置することにより、回転子14に大きな回生電流ベクトルを掛けた場合でも、可変磁力磁石29bには大きな反磁界が作用しない。従って、一層、保磁力の小さい可変磁力磁石を用いることができ、より小さい磁化電流により可変磁力磁石29bを減磁あるいは磁化反転することが可能となる。
【0045】
なお、第1永久磁石26と第2永久磁石27とは、厚さが同一の場合に限らず、互いに異なる厚さに形成してもよい。第2の実施形態において、回転電機10の他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。
上記のように構成された第2の実施形態によれば、低速から高速までの広範囲で可変速運転を可能とし、損失低減、効率向上が可能な永久磁石型の回転電機が得られる。
【0046】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態に係る回転電機の回転子の一部を示す断面図、図6は、上記回転子の1磁極部分を拡大して示す断面図である。
前述した第1の実施形態では、第1永久磁石26および第2永久磁石27は、磁極中心軸(d軸)に対して、直角(磁極角度90°)に設けられている。一方、第3の実施形態によれば、第1永久磁石26および第2永久磁石27の少なくとも一方は、合計磁石磁束の向き(磁極中心軸、d軸)と第1側面26aあるいは27aとの成す角度(磁極角度θ)が、90°より大きい磁極角度となるように配置されている。本実施形態では、第1永久磁石26および第2永久磁石27の両方が、90°より大きい磁極角度θで配置されている。これにより、第1永久磁石26および第2永久磁石27間の配置角度αが180°よりも大きい角度となっている。
第1永久磁石26のd軸側の端および第2永久磁石27のd軸側の端は、回転子鉄心24の外周面に接近して位置している。これらの端と回転子鉄心24の外周面との間に、幅の狭い磁路狭隘部(ブリッジ部)37が形成される。
【0047】
上記のように第1永久磁石26および第2永久磁石27の少なくとも一方を90°よりも大きい磁極角度θを付けて配置することにより、永久磁石を回転子鉄心24の外周面に近づけ、表面磁石型とほぼ同様に、マグネットトルクを大きくすることができる。第2永久磁石27と第1永久磁石26との間に磁路狭隘部37を形成することにより、回生電流ベクトルによる反磁界を流れ難くくし、第2永久磁石(可変磁力磁石)27に作用する反磁界量を少なくすることが可能となる。従って、保磁力の小さい可変磁力磁石を用いることができ、より小さい磁化電流により可変磁力磁石27を減磁あるいは磁化反転することが可能となる。更に、上記配置とした場合、第1永久磁石および第2永久磁石の厚さを大きくすることが可能となる。
第3の実施形態において、回転電機10の他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。上記のように構成された第3の実施形態によれば、低速から高速までの広範囲で可変速運転を可能とし、損失低減、効率向上が可能な永久磁石型の回転電機が得られる。
【0048】
(第1変形例)
図7は、第3の実施形態の第1変形例に係る回転子の一部を示す断面図である。第1変形例によれば、第1永久磁石26のみに90°よりも大きい磁極角度θを付けて配置している。第2永久磁石27は、90°の磁極角度で配置している。この場合においても、第1永久磁石26のd軸側端は、回転子鉄心24の外周面の近傍に位置し、この外周面との間に磁路狭隘部37を形成している。
第1変形例においても、マグネットトルクの向上、および、第2永久磁石(可変磁力磁石)27に作用する反磁界量の低減を図ることができる。
【0049】
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態に係る回転電機の1磁極部分を拡大して示す断面図である。
前述したように、回生電流ベクトルにより発生する磁界は、回転子鉄心24の磁路を介して、可変磁力磁石27にも反磁界として作用する。そこで、本実施形態によれば、回転子鉄心24において、第1および第2永久磁石26、27と回転子鉄心24の外周面との間に形成された磁路に、磁束の流れを妨げる磁束壁(フラックスバリア)として作用する1つあるいは複数の空隙を設けている。
【0050】
図8に示すように、第4の実施形態によれば、第1永久磁石26と第2永久磁石27との間で、磁極中心軸(d軸)上に位置する1つの空隙50が設けられている。空隙50は、回転子鉄心24の外周面から第1永久磁石26と第2永久磁石27との間のブリッジ部36まで延在し、永久磁石間の磁路をほぼ完全に分断している。この空隙50により、回生電流ベクトルにより発生する反磁界の流れを妨げ、第2永久磁石(可変磁力磁石)27に作用する反磁界量を大幅に低減することができる。従って、一層、保磁力の小さい可変磁力磁石を用いることができ、より小さい磁化電流により可変磁力磁石27を減磁あるいは磁化反転することが可能となる。
なお、空隙50は、磁路を完全に分断している必要はなく、反磁界が永久磁石間をまたぎ難いように磁路が細くなるように形成されていれば良い。
【0051】
(第2変形例)
図9は、第2変形例に係る回転電機の1磁極部分を拡大して示す断面図である。
第2変形例では、回転子鉄心24において、第1および第2永久磁石26、27と回転子鉄心24の外周面との間に形成された磁路に、磁束壁(フラックスバリア)として作用する複数の空隙50を設けている。複数の空隙50は、d軸上、およびd軸の両側に複数ずつ設けられている。各空隙50は、回転子鉄心24の外周面に開口していても、あるいは、開口していなくても、いずれでもよい。複数の空隙50は、d軸に対して、左右対称に設けても、あるいは、左右非対称に設けても、いずれでもよい。
【0052】
(第3変形例)
図10は、第3変形例に係る回転電機の1磁極部分を拡大して示す断面図である。
第3変形例では、磁束壁として作用する複数の空隙50を、d軸の片側のみに設けている。ここでは、複数の空隙50は、回転子鉄心24の磁路において、d軸から第1永久磁石26側に並んで設けられている。あるいは、複数の空隙50は、d軸から第2永久磁石27側に並んで設けてもよい。
上述した第2変形例および第3変形例のいずれにおいても、空隙50により、回生電流ベクトルにより発生する反磁界の流れを妨げ、第2永久磁石(可変磁力磁石)27に作用する反磁界量を大幅に低減することができる。
【0053】
(第5の実施形態)
図11は、第4の実施形態に係る回転電機の回転子の一部を示す断面図である。
第5の実施形態によれば、回転子鉄心24において、q軸近傍の鉄心磁路を増やすことで、左右非対称にリラクタンストルクを発生させる構成としている。図11に示すように、d軸に対して、左右非対称に鉄心磁路を増加している。ここでは、d軸に対して、第2永久磁石27側のみ鉄心磁路を増加している。回転子鉄心24の外周部において、各q軸の回転方向Aの下流側に、すなわち、第2永久磁石(可変磁力磁石)27側に、鉄心追加部44を設けている。回転子鉄心24は、各磁極40において、フラックスバリアバンドFBは、第1永久磁石26の一端側に位置し切欠き35に面する第1ブリッジ部44aと、第2永久磁石27の他端側に位置し他の切欠き35に面する第2ブリッジ部44bと、を有している。第2ブリッジ部44bは、第1ブリッジ部44aよりも太く形成されている。言い換えると、回転子鉄心24の外周部でq軸上に形成されている各切欠き35の約半分の領域を鉄心で埋め、鉄心追加部(第2ブリッジ部)44bとしている。これにより、各切欠き35は、q軸と、第1ブリッジ部44aと、の間のみに形成されている。
【0054】
図12は、マグネットトルクおよびリラクタンストルクと電流位相との関係を示している。図12において、破線はマグネットトルクを示し、実線は、本実施形態のd軸に対して非対称に鉄心磁路を増加した回転子のリラクタンストルクを示し、更に、一点鎖線は、比較例として、d軸に対して左右対称に鉄心磁路を増加した回転子のリラクタンストルクを示している。
図12に一点鎖線で示すように、d軸に対して左右対称に鉄心磁路を増加した場合、マグネットトルクとリラクタンストルクのそれぞれが最大となる電流位相が電気的に45°ずれている。これに対して、本実施形態のように、第2永久磁石27側のみに鉄心磁路を増加した非対称構造とした場合、実線で示すように、マグネットトルクが最大となる電流位相とリラクタンストルクが最大となる電流位相との差を小さくすることができる。特に、下側の回生トルクが最大となる電流位相の差を小さく(45°よりも小さく)することができる。これにより、回生時のマグネットトルクとリラクタンストルクとの合計トルクが増大する。
【0055】
第5の実施形態によれば、d軸に対して左右非対称に鉄心磁路を増加させることにより、回生時の最大トルクを増大することが可能となる。同時に、鉄心追加部(第2ブリッジ部)44bを設けることにより、回生電流ベクトルにより発生する反磁界量が低減する。これにより、第2永久磁石(可変磁力磁石)27に作用する反磁界量を低減することができる。以上のことから、第5の実施形態においても、低速から高速までの広範囲で可変速運転を可能とし、損失低減、トルク向上、効率向上が可能な永久磁石型の回転電機を提供することができる。
【0056】
なお、この発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、回転子の磁極数、寸法、形状等は、前述した実施形態に限定されることなく、設計に応じて種々変更可能である。永久磁石は、上述した実施形態に限定されることなく、種々選択可能である。永久磁石は、保磁力と厚さとの積が異なる2種類以上の永久磁石を適用可能であり、前述した第1永久磁石および第2永久磁石の2つに限らず、3種類以上の永久磁石を使用可能である。回転子は、永久磁石埋め込み型に限らず、永久磁石を回転子鉄心の外周面上に配置した表面磁石型の回転子としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…回転電機、12…固定子、14…回転子、16…固定子鉄心、
18…電機子巻線、20…スロット、22…回転軸、24…回転子鉄心、
26…第1永久磁石(固定磁力磁石)、27…第2永久磁石(可変磁力磁石)、
29a…固定磁力磁石、29b…可変磁力磁石、34a、34b…埋め込み孔、
35…切欠き、44a…第1ブリッジ部、44b…第2ブリッジ部、50…空隙
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13