(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834071
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】発泡性清酒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/022 20190101AFI20210215BHJP
【FI】
C12G3/022 119J
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-73597(P2017-73597)
(22)【出願日】2017年4月3日
(65)【公開番号】特開2018-174709(P2018-174709A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】397004940
【氏名又は名称】天山酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 潤
【審査官】
茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−275647(JP,A)
【文献】
特開昭61−289875(JP,A)
【文献】
特開平10−295356(JP,A)
【文献】
特開2009−089663(JP,A)
【文献】
特開2004−290015(JP,A)
【文献】
日本醸造協会誌,1994年,Vol. 89, No. 1,pp. 2-5,DOI: https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1988.89.2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/08
C12H 6/00−6/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上槽及び火入れ後の清酒であるベース酒と、米麹に含まれる酵素を失活させた後に酵母を添加し1次発酵させることにより製造され、酵母を含み、発酵活性を有する懸濁清酒を粗漉しして得られる活性酒とを、98:2から99:1の比率で混合し、酵母密度が1cm3あたり0.5〜3×106個、アルコール濃度が10%以上16%以下である混合清酒を調製する混合工程と、
前記混合清酒を販売容器に密封し、容器内の内圧が0.4〜0.7MPaとなるまで2次発酵させる2次発酵工程とを含むことを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性清酒の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の発泡性清酒の製造方法として、清酒に炭酸ガスを吹き込む方法(例えば、特許文献1参照)、密閉型耐圧醪タンクで2次発酵させる方法(例えば、特許文献2参照)、瓶等の販売容器内で2次発酵させる方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0003】
瓶容器内で2次発酵させることにより発泡性清酒を製造する従来の方法は、アルコール度数が低くても風味のバランスが崩れない発泡性清酒を製造することを目的とするものが多い(例えば、特許文献4参照)。そのため、辛口の発泡性清酒を望む消費者のニーズに十分応えられないという課題があった。
【0004】
また、瓶容器内で2次発酵させる方法では、発酵活性を有する酵母を含む状態で瓶容器に充填する必要があるため、1次発酵後に粗漉しした懸濁清酒が瓶容器に充填される。そのため、得られた発泡性清酒は、透明度の低いものになることが多い。そこで、透明な発泡性清酒を得ることを目的として、上槽により得られた清酒と、酵母を含み発酵活性の高い醪を粗漉しして得られた懸濁清酒とを、1:9〜15の混合比率で混合する混合工程と、当該混合清酒を瓶容器に充填し密閉する充填工程と、前記容器内の混合清酒を発酵させる2次発酵工程と、前記容器内部に堆積した滓を容器口部に集積させるべく容器を揺さぶりながら容器口部を下にして容器を徐々に立てる揺動工程と、所定の滓が容器口部に堆積した後に容器口部を冷却し、当該口部を下に向けた状態で開栓して滓を噴出させ、速やかに口部を上にした状態に容器を起こす滓引工程とを有することを特徴とする発泡性清酒の製造方法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−217756号公報
【特許文献2】特開2000−189148号公報
【特許文献3】特開平9−140371号公報
【特許文献4】特開平8−238084号公報
【特許文献5】特開2009−89663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献5に記載の方法では、清酒に対する懸濁清酒の混合比率が高いため、長期間にわたり(酵母が完全に自己消化をおこなう期間)2次発酵時を行った場合に、混合清酒中に残存している酵母を含む滓の比率も多くなり、清酒本来の風味が損なわれるおそれがある。また、瓶内2次発酵の期間は生酒の状態であるため、残存酵素によるオフフレーバーの生成も危惧される。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、長期間にわたり瓶内2次発酵を行っても、風味に優れた発泡性清酒を製造できる発泡性清酒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明は、上槽及び火入れ後の清酒であるベース酒と、
米麹に含まれる酵素を失活させた後に酵母を添加し1次発酵させることにより製造され、酵母を含み、発酵活性を有する懸濁清酒を粗漉しして得られる活性酒とを、
98:2から99:1の比率で混合し、
酵母密度が1cm3あたり0.5〜3×106個、アルコール濃度が10%以上16%以下である混合清酒を調製する混合工程と、前記混合清酒を販売容器に密封し、
容器内の内圧が0.4〜0.7MPaとなるまで2次発酵させる2次発酵工程とを含むことを特徴とする発泡性清酒の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ベース酒と活性酒の配合比率を9:1から200:1と、ベース酒の配合比率を従来法より大きくすることにより、清酒本来の風味を損なうことなく清酒に発泡性を付与できる。また、火入れ後の清酒をベース酒として用いることにより、長期間にわたり2次発酵を行った場合においても、ベース酒に含まれる麹の酵素によるオフフレーバーの生成を抑制できるため、清酒の風味を損なうことなく、十分に2次発酵を行わせることができる。更に、酵母を完全に自己消化させることにより、シャンパン同様の特徴的なフレーバーを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る発泡性清酒の製造方法のフローチャートである。
【
図2】2次発酵に伴う瓶内の炭酸ガス圧力の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。本発明の一実施の形態に係る発泡性清酒の製造方法(以下、「発泡性清酒の製造方法」と略称する場合がある。)は、
図1に示すように、上槽及び火入れ後の清酒であるベース酒と、酵母を含み、発酵活性を有する懸濁清酒を粗漉しして得られる活性酒とを、9:1から200:1の比率で混合し、混合清酒を調製する混合工程と、混合清酒を瓶容器に密封(充填及び打栓)し、2次発酵させる2次発酵工程とを含んでいる。
【0013】
ベース酒
発泡性清酒の製造方法における工程の1つであるベース酒の製造方法は、特に制限されず、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、例えば、洗米した白米を水に浸積した後蒸し、得られた蒸米に麹菌を撒いて米麹を作り、水と酵母を加えてもろみを作る(1次発酵)。1次発酵が終わり、液状になったもろみを上槽し、これに火入れを行い、菌類を死滅させると共に、酵素を失活させたものをベース酒として用いる。火入れの方法、温度及び火入れ時間は特に制限されない。さらに、清澄な清酒と滓(澱ともいう。)とに分離させる(滓下げ)。ベース酒の酒度は−50〜0、好ましくは−10〜0程度とする。必要に応じて、水、清酒等を混合することにより、アルコール度数及び酒質の調節を行ってもよい。
【0014】
活性酒
発泡性清酒の製造方法におけるもう1つの工程である活性酒の製造方法も、特に制限されず、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、活性酒は、酵母を含有し、発酵活性を有している必要があるため、1次発酵後の懸濁清酒を粗漉しすることにより得られる。ベース酒と同様、活性酒も、蒸米に麹菌と酵母を加え、1次発酵させる並行複発酵法により製造してもよいが、
図1に示したように、まず、蒸米に水と麹菌を加え、もろみを作成し、デンプンを糖化させた後にもろみを上槽し、火入れを行い、菌類を死滅させ、酵素を失活させた糖化液に酵母を添加し、1次発酵を行わせる単式複発酵法により製造するのが、オフフレーバーの生成を抑制する上でより好ましい。1次発酵後、得られた懸濁清酒を粗漉し(上槽、滓引きの一例)して活性酒を得るが、粗漉しは、例えば0.3mmのステンレススクリーンを用いて行ってもよいが、他の方法によって行ってもよい。活性酒の酵母密度は、例えば、1mLあたり1〜3×10
8個程度である。
【0015】
混合工程
上記の様にして得られたベース酒及び混合酒を、9:1から200:1、好ましくは98:2から99:1の比率で混合(調合)し、混合清酒を調製する。混合工程により得られる混合清酒の酵母密度は、1mLあたり0.5〜3×10
6個であることが好ましい。酵母密度を前記範囲内にすることにより、ベース酒によって決定される風味の保持と、2次発酵後の十分な炭酸ガス量とのバランスが最善になる。混合性酒のアルコール濃度は、2次発酵を阻害せず、かつ2次発酵後に販売酒規格に合致するアルコール濃度が得られる範囲、例えば10%以上16%以下であることが好ましい。
【0016】
2次発酵工程
次いで、混合清酒を、全容器内の酒質が均一となるよう攪拌しながら瓶容器に充填後、密封する。瓶容器は、例えばシャンパン瓶のような耐圧瓶が好ましい。充填後、単式王冠で密封する。混合清酒が充填及び密封された瓶容器を、一定期間一定温度に保持することにより2次発酵を行う。その間、2次発酵の進行と共に、経時的に炭酸ガス濃度が上昇する。容器は、例えば12〜25℃の温度で、例えば、3週間から3ヶ月間、瓶容器内で2次発酵を行う。この間に容器内で酵母が活性化し、2次発酵により瓶容器内で炭酸ガスが発生する。前記状態下で容器内の内圧が0.4〜0.7MPa(4〜7kg/cm
2)となったら2次発酵を終了する。
【0017】
2次発酵終了時には、滓が瓶等の瓶容器内に付着している。滓の除去は、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、容器として瓶を使用する場合には、例えば、シャンパンの製造時と同様、瓶を揺動させながら倒立させ、滓を瓶の口部付近に集結させた状態で−27℃に冷却した工業用アルコール等により凍結後、開栓して滓を噴出させる方法により行ってもよい。この場合、滓を除去するための一連の工程は、シャンパンの製造に用いられるピュピュトル、ジャイロパレット、回転式ネックフリーザー等の装置を用いて行うことができる。
【0018】
必要に応じて、滓の除去に伴う内容量の減少を補うために、既に滓引された同質の清澄な発泡性清酒を補充し、販売時の規格量に合わせてもよい。その後、必要に応じて、コルク打栓、ワイヤーによる固定、必要に応じて火入れによる殺菌の処理が行われる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0020】
発泡性清酒の製造試験
通常の並行複発酵法により製造後、火入れ及び滓下げを行い、中空糸膜でろ過したベース酒と、もろみを上槽後、火入れを行い、得られた糖化液に酵母を添加してアルコール発酵させた後、粗漉し滓下げした活性酒とを、98:2及び99:1の2通りの比率で混合した混合清酒(酵母密度は、それぞれ、9.0×10
5/mL、2.0×10
6/mLであった。)を調製し、瓶詰め、打栓後、20℃の温度で、3ヶ月間、2次発酵を行った。2次発酵終了後、シャンパンと同様の揺瓶及びネックフリージングにより滓の除去を行った。
【0021】
2次発酵に伴う瓶内炭酸ガス圧力の経時変化を
図2に示す。従来の方法よりも活性酒の配合比率が低いにもかかわらず、2次発酵により十分な量の炭酸ガスが発生していることが確認された。また、2次発酵前に火入れを行ったベース酒と、火入れにより酵素を失活させた後に1次発酵を行った活性酒とを混合して用いることにより、オフフレーバーの発生が抑制され、風味に優れた発泡性清酒(アルコール度数12.9%、日本酒度+9)が得られた。