(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子について説明する。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。
【0020】
また、以下で説明する実施の形態は、本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、製造工程の順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0021】
まず、
図1及び
図2を用いて、実施の形態に係る蓄電素子10の全般的な説明を行う。
【0022】
図1は、実施の形態に係る蓄電素子10の外観を示す斜視図である。
図2は、実施の形態に係る蓄電素子10の容器内に配置されている構成要素を示す斜視図である。具体的には、
図2は、蓄電素子10を、容器100の蓋体110と本体111とを分離して示す斜視図である。
【0023】
蓄電素子10は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。例えば、蓄電素子10は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、またはプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)に適用される。なお、蓄電素子10は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。また、蓄電素子10の形状に関しては、角型に限定されることなく、例えば円筒型などの他の形状であってもよい。
【0024】
図1に示すように、蓄電素子10は、容器100と、正極端子200と、負極端子300とを備えている。また、
図2に示すように、容器100の内部には、正極集電体120と、負極集電体130と、電極体400とが収容されている。
【0025】
なお、蓄電素子10は、上記の構成要素の他、正極集電体120及び負極集電体130の側方に配置されるスペーサ、容器100内の圧力が上昇したときに当該圧力を開放するための安全弁、または、電極体400等を包み込む絶縁フィルムなどを備えてもよい。また、蓄電素子10の容器100の内部には電解液(非水電解質)などの液体が封入されているが、当該液体の図示は省略する。なお、容器100に封入される電解液としては、蓄電素子10の性能を損なうものでなければその種類に特に制限はなく、様々なものを選択することができる。
【0026】
容器100は、矩形筒状で底を備える本体111と、本体111の開口を閉塞する板状部材である蓋体110とで構成されている。また、容器100は、電極体400等を内部に収容後、蓋体110と本体111とが溶接等されることにより、内部を密封する構造を有している。なお、蓋体110及び本体111の材質は、特に限定されないが、例えばステンレス鋼、アルミニウム、またはアルミニウム合金など溶接可能な金属であるのが好ましい。
【0027】
電極体400は、正極板と負極板とセパレータとを備え、電気を蓄えることができる部材である。電極体400の詳細な構成については、
図3等を用いて後述する。
【0028】
正極端子200は、正極集電体120を介して電極体400の正極と電気的に接続された電極端子である。負極端子300は、負極集電体130を介して電極体400の負極と電気的に接続された電極端子である。つまり、正極端子200及び負極端子300は、電極体400に蓄えられている電気を蓄電素子10の外部空間に導出し、また、電極体400に電気を蓄えるために蓄電素子10の内部空間に電気を導入するための導電性を持つ金属等の電極端子である。また、正極端子200及び負極端子300は、電極体400の上方に配置された蓋体110に、絶縁性を有するパッキン(図示せず)を介して取り付けられている。
【0029】
正極集電体120は、電極体400の正極と容器100の本体111の壁面との間に配置され、正極端子200と電極体400の正極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。
【0030】
負極集電体130は、電極体400の負極と容器100の本体111の壁面との間に配置され、負極端子300と電極体400の負極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。
【0031】
具体的には、正極集電体120及び負極集電体130は、蓋体110に固定されている。また、正極集電体120は、電極体400の正極側端部に接合され、負極集電体130は、電極体400の負極側端部に接合されている。電極体400は、容器100の内部において、正極集電体120及び負極集電体130により、蓋体110から吊り下げられた状態で保持される。
【0032】
次に、以上のように構成された蓄電素子10が備える電極体400の構成について、
図3を用いて説明する。
【0033】
図3は、実施の形態に係る電極体400の構成概要を示す斜視図である。なお、
図3では、積層されて巻回された極板等の要素を一部展開して図示している。また、
図3において符号Wが付された一点鎖線は、電極体400の巻回軸を表している。巻回軸Wは、極板等を巻回する際の中心軸となる仮想的な軸であり、本実施の形態では、電極体400の中心を通るX軸に平行な直線である。
【0034】
電極体400は、正極板410及び負極板420を有する電極体の一例である。本実施の形態では、
図3に示すように、電極体400は、セパレータ450と、負極板420と、セパレータ430と、正極板410とがこの順に積層され、かつ、巻回されることで形成されている。また、
図3に示すように、電極体400は、巻回軸Wと直交する方向(本実施の形態ではZ軸方向)に扁平な形状である。つまり、電極体400は、巻回軸Wの方向から見た場合に、全体として長円形状であり、長円形状の直線部分が平坦な形状となり、長円形状の曲線部分が湾曲した形状となる。このため、電極体400は、対向する一対の平坦部441と、対向する一対の湾曲部442とを有している。具体的には、一対の平坦部441は、巻回軸Wを挟んでZ軸方向で対向する部分である。また、一対の湾曲部442は、巻回軸Wを挟んでY軸方向で対向する部分である。
【0035】
本実施の形態において、正極板410は、アルミニウムからなる長尺帯状の金属箔(正極基材層411)の表面に、正極活物質を含む正極合材層414が形成されたものである。負極板420は、銅からなる長尺帯状の金属箔(負極基材層421)の表面に、負極活物質を含む負極合材層424が形成されたものである。正極活物質及び負極活物質の例については後述する。
【0036】
また、本実施の形態では、セパレータ430及び450は、樹脂からなる微多孔性のシートを基材として有している。
【0037】
このように構成された電極体400において、より具体的には、正極板410と負極板420とは、セパレータ430または450を介し、巻回軸Wの方向に互いにずらして巻回されている。そして、正極板410及び負極板420は、それぞれのずらされた方向の端部に、基材層の、活物質が塗工されていない部分である活物質未塗工部を有する。
【0038】
具体的には、正極板410は、巻回軸Wの方向の一端(
図3ではX軸方向プラス側の端部)に、正極活物質が塗工されていない活物質未塗工部411aを有している。また、負極板420は、巻回軸Wの方向の他端(
図3ではX軸方向マイナス側の端部)に、負極活物質が塗工されていない活物質未塗工部421aを有している。
【0039】
つまり、正極板410の露出した金属箔(活物質未塗工部411a)の層によって正極側端部が形成され、負極板420の露出した金属箔(活物質未塗工部421a)の層によって負極側端部が形成されている。正極側端部は正極集電体120と接合され、負極側端部は負極集電体130と接合される。本実施の形態では、これら接合の手法として、超音波接合が採用されている。なお、電極体400と正極集電体120及び負極集電体130との接合の手法として、超音波接合以外に、抵抗溶接またはクリンチ接合等の手法が採用されてもよい。また、蓄電素子10が備える電極体400の数は1には限定されず、2以上でもよい。
【0040】
以上のように構成された電極体400において、正極板410には、正極合材層414と活物質未塗工部411aとの境界を含む領域に絶縁層415が形成されている。絶縁層415は、バインダと無機粒子等の粒子とを含有する。つまり、正極板410は、正極基材層411及び正極合材層414に跨るように配置された絶縁層415を有しており、これにより、正極板410と負極板420との短絡防止の確実性が向上されている。以下、
図4〜
図6を用いて絶縁層415及びその周辺の構造についての説明を行う。
【0041】
図4は、実施の形態に係る電極体400の構成概要を示す断面図である。具体的には、
図4では、
図3のIV−IV断面における電極体400の正極側の一部が図示されている。
図5は、実施の形態に係る正極合材層414及び絶縁層415の断面形状例を示す図であり、
図6は、実施の形態に係る絶縁層415の第1領域415aの表面形状を示す拡大図である。
【0042】
図4及び
図5に示すように、本実施の形態に係る蓄電素子10は、正極板410及び負極板420を有する電極体400を備える。正極板410は、導電性の正極基材層411と、正極基材層411上に形成された正極合材層414と、少なくとも一部が、正極合材層414の端縁を含む部分である端縁部414a上、及び、正極基材層411上に連続して形成されている絶縁層415とを有する。
【0043】
このように、本実施の形態では、正極基材層411の正極合材層414から突出した部分(活物質未塗工部411a)の一部と正極合材層414の端縁部とを連続して覆うように、絶縁層415が形成されている。これにより、
図4に示すように厚み方向(Z軸方向)で互いに重なる部分を有する活物質未塗工部411aと負極板420との電気的な接触の可能性が低減される。つまり、正極板410と負極板420との短絡がより確実に防止される。
【0044】
また、絶縁層415の一部が、正極合材層414の端縁にオーバーラップするように絶縁層415が形成されるため、絶縁層415を、正極合材層414との間の隙間を開けずに隣り合わせるような、高い精度が要求される工程は不要である。
【0045】
また、絶縁層415のうち、活物質未塗工部411aを覆う領域を第1領域415aとし、端縁部414aを覆う領域を第2領域415bとする。
【0046】
ここで、
図6に示すように、第1領域415aの表面には、溝部4151が複数形成されている。溝部4151は、微細なクラックであり、分岐した形状であっても、一本形状であっても、複数の溝部4151同士が交差した形状であっても構わない。また、溝部4151の長さも如何様であってもよい。また溝部4151は、第1領域415aの表面に露出していなくともよく、第1領域415aをなす絶縁層415に、一部或いは全体が埋まるように形成されていてもよい。このように第1領域415aにおいては溝部4151が形成されているために、溝部4151がある部分の絶縁層415の肉厚は、溝部4151のない部分(他の部分)の絶縁層415の肉厚よりも薄くなる。つまり、溝部4151がある部分の絶縁層415は、他の部分よりも柔軟となり、正極基材層411に追従して変形しやすい特性を有する。つまり、絶縁層415における溝部4151を含む部分は、他の部分よりも柔軟な柔軟部419である。具体的には、絶縁層415における所定領域内において溝部4151を含む部分が柔軟部419である。一方、絶縁層415における所定領域内において溝部4151を含まない部分が「他の部分」である。ここで所定領域とは、溝部4151が存在することにより、領域全体として他の部分よりも柔軟性を発揮することができる範囲であればよい。
【0047】
ここで、本実施の形態に係る正極合材層414及び絶縁層415のそれぞれは、バインダと粒子とを含有する。
【0048】
正極合材層414に活物質粒子として含有される正極活物質としては、例えば、Li
xMO
y(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMn
2O
4、Li
xMnO
3、Li
xNi
yCo
(1−y)O
2、Li
xNi
yMn
zCo
(1−y−z)O
2、Li
xNi
yMn
(2−y)O
4など)、あるいは、Li
wMe
x(XO
y)
z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO
4、LiMnPO
4、LiNiPO
4、LiCoPO
4、Li
3V
2(PO
4)
3、Li
2MnSiO
4、Li
2CoPO
4Fなど、及び化学量論比以外の組成に調整したもの)から選択することができる。また、これらの化合物中の元素またはポリアニオンは一部他の元素またはアニオン種で置換されていてもよく、表面にZrO
2、MgO、Al
2O
3などの金属酸化物や炭素を被覆されていてもよい。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
また、絶縁層415が含有する粒子は例えば無機粒子である。この無機粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄、バリウムチタン酸化物、アルミナ−シリカ複合酸化物等の酸化物、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒化物、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性イオン結晶、シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレイ、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ベーマイト、アパタイト、ムライト、スピネル、オリビン等、または、これらを含む化合物等が挙げられる。また、上記の無機物は、SnO
2、スズ−インジウム酸化物(ITO)等の酸化物、カーボンブラック、グラファイト等の炭素質材料等の導電性粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記の電気絶縁性の無機粒子を構成する材料)で表面処理することで、電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。なお、絶縁層415が含有する粒子は、有機系の粒子であってもよい。
【0050】
また、絶縁層415が含有するバインダは、水系または非水系のバインダであり、正極合材層414が含有するバインダは、例えば絶縁層415が含有するバインダと同じ極性のバインダである。例えば、絶縁層415が水系のバインダを含有する場合、正極合材層414も水系のバインダを含有する。また、絶縁層415が非水系のバインダを含有する場合、正極合材層414も非水系のバインダを含有する。
【0051】
ここで、水系バインダは、水に分散又は溶解するバインダである。水系バインダとして
は、20℃において、水100質量部に対して1質量部以上溶解する水溶性バインダ(水に溶解する水系バインダ)が好ましい。例えば、水系バインダとしては、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレンオキサイド(ポリプロピレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリオレフィン、ニトリル−ブタジエンゴム、セルロースからなる群より選択された少なくとも1種が好ましく、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレンオキサイド(ポリプロピレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸からなる群より選択された少なくとも1種の水溶性バインダがより好ましい。
【0052】
また、非水系バインダは、水系バインダよりも水溶性が低いバインダ(溶剤系バインダ)である。非水系バインダとしては、20℃において、水100質量部に対して1質量部未満溶解するものが好ましい。例えば、非水系バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロースとキトサンピロリドンカルボン酸塩との架橋重合体、キチン又はキトサンの誘導体などが挙げられる。キトサンの誘導体としては、キトサンをグリセリル化した高分子化合物、キトサンの架橋体などが挙げられる。
【0053】
また、正極合材層414が非水系バインダを含有する場合には、当該非水系バインダとしては、結着性に優れるという点、又は、電気抵抗が低いという点で、ポリフッ化ビニリデン、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチルからなる群より選択された少なくとも1種が好ましい。
【0054】
なお、本実施の形態では、絶縁層415は、正極板410に備えられているが、正極板410に加えて、または正極板410に換えて、負極板420に絶縁層415が備えられてもよい。
【0055】
負極板420において負極基材層421上に形成された負極合材層424は、活物質粒子とバインダとを含有する。負極合材層424に活物質粒子として含有される負極活物質は、例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、及びウッド合金などのリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボンなど)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li
4Ti
5O
12など)、ポリリン酸化合物などが挙げられる。この中でも、特に黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素が好ましい。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0056】
また、負極合材層424が含有するバインダとしては、正極合材層414に用いられるバインダと同じものを採用することができる。
【0057】
次に、上記構成を有する電極体400の製造工程において、絶縁層415に対して溝部4151を形成するための方法について説明する。
【0058】
まず、正極合材層414が積層された正極基材層411を準備する。そして、正極基材層411における正極合材層414の端縁を含む部分である端縁部414a上、及び、正極基材層411上に対して、絶縁層415をなすバインダと粒子とを含有する絶縁ペーストを塗布する。塗布後において、溝部4151を形成する領域(第1領域415aに対応する領域)は、絶縁ペーストの厚みが10μm以上であることが望ましい。絶縁ペーストの厚みが10μm以上であると複数の溝部4151が形成されやすいためである。そして、塗布後の絶縁ペーストを乾燥させることによって、複数の不規則な溝部4151を有する絶縁層415が得られる。
【0059】
なお、溝部4151の他の形成方法としては、マスク法や、切削法などが挙げられる。
【0060】
マスク法は、溝部4151の形成位置に、予め溝部4151のパターンをなすマスクを形成しておき、絶縁ペーストを塗布してからマスクを剥がすことで、溝部4151を形成する手法である。切削法は、塗布後に硬化した絶縁層を切削することにより、溝部4151を形成する手法である。これらマスク法及び切削法であると、溝部4151のパターン、形状を制御することができるため、電極体400の特性に応じた溝部4151を形成することが可能である。
【0061】
以上のように、本実施の形態によれば、 絶縁層415は、他の部分よりも柔軟な柔軟部419を有しているので、柔軟部419があることにより絶縁層415全体が正極基材層411に追従して変形しやすい特性を有する。これにより、絶縁層415に物理的な負荷が作用したとしても、正極基材層411から絶縁層415が脱落することを抑制できる。したがって、安定した絶縁性を確保することができる。
【0062】
特に、製造時において、正極板410の正極側端部に対して、正極集電体120を接合する際には、正極側端部が束ねられて圧迫されることになる。これにより、絶縁層415には、物理的な負荷が作用するが、絶縁層415が柔軟部419によって全体として脱落しにくくなっているために、製造時においても絶縁層415の脱落を抑制することができる。
【0063】
また、柔軟部419が絶縁層415に形成された溝部4151を含む部分であるので、製造時に絶縁ペーストを乾燥させるだけで、簡単に溝部4151を形成することができ、ひいては柔軟部419を簡単に形成することができる。
【0064】
また、絶縁層415のうち、活物質未塗工部411aを覆う第1領域415aに溝部4151が形成されているので、第1領域415aを柔軟にすることができる。なお、絶縁層415の第2領域415bに対しても溝部4151を形成してもよい。これにより、絶縁層415全体が柔軟となり、絶縁層415全体の脱落を抑制することができる。
【0065】
また、絶縁層415が、正極基材層411上から連続して、正極合材層414の端縁部414a上に形成されているので、充放電によって合材層414が膨縮したとしても、絶縁層415と正極合材層414との間に発生する応力を緩和することができる。
【0066】
(実施例)
次に、本実施の形態に係る蓄電素子10の実施例について説明する。
【0067】
この実施例では、絶縁層をなす粒子とバインダとの比率と、絶縁層415の肉厚とについて具体的に説明する。
【0068】
図7は、実施例に係る絶縁層をなす粒子とバインダとの比率を異ならせて、各比率において絶縁層が脱落したか否かを示す表である。
【0069】
ここで、含有された粒子の異なる二種類の絶縁層において、バインダの比率を異ならせている。二種類の絶縁層においては同一のバインダが用いられている。粒子Aは、平均粒子径(D
50):0.7±0.16μm、比表面積:4.5±0.5m
2/gのAl
2O
3である。粒子Bは平均粒子径(D
50):約0.015μm、比表面積:100±15m
2/gのAl
2O
3である。バインダCは数平均分子量約50万のPVdFである。絶縁層の肉厚は、いずれも25μmとしている。また、
図7中、「○」は絶縁層の脱落がなかったことを示し、「×」は絶縁層の脱落が生じた場合を示している。
図7中、「-」はデータを取得していない。
【0070】
図7から分かるように、粒子Bを用いた絶縁層では、脱落を生じた比率(25%、30%、35%)がある。しかし、粒子Aを用いた絶縁層では、同じ比率であっても脱落は生じていない。このため、粒子Aを用いた絶縁層の方が脱落しにくい特性を有している。
【0071】
図8は、実施例に係る絶縁層の肉厚を異ならせて、各肉厚において絶縁層が脱落したか否かを示す表である。
【0072】
ここでは、粒子AとバインダCとを含む絶縁層であって、バインダ比率が10%の絶縁層が用いられている。
図8から分かるように、肉厚が5μm〜55μmの範囲では絶縁層の脱落がなく、肉厚が60μm〜70μmの範囲では絶縁層の脱落が生じている。このため、粒子AとバインダCとを含む絶縁層を用いる場合には、肉厚を60μm未満とすることがよい。なお、上述したように、乾燥によって絶縁層に溝部を形成するのであれば、絶縁層の肉厚は10μm以上であることが望ましいので、絶縁層の肉厚として好ましい範囲は、10μm以上、60μm未満である。
【0073】
(他の実施の形態)
以上、本発明に係る蓄電素子について、実施の形態に基づいて説明した。しかしながら、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を上記実施の形態に施したものも、あるいは、上記説明された複数の構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0074】
例えば、上記実施の形態では、
図4等に示すように、絶縁層415は、正極合材層414については、活物質未塗工部411a側の端縁部414aのみを覆っているが、絶縁層415は、正極合材層414の全域(略全域を含む)を覆ってもよい。これにより、正極合材層414の全域において、負極板420との短絡防止の確実性がより向上する。つまり、絶縁層415は、少なくとも一部が、正極(または負極)合材層の端縁を含む部分である端縁部上、及び、正極(または負極)基材層上に連続して形成されていればよい。
【0075】
ここで、絶縁層415Aが、正極合材層414の全域を覆っている場合においても、その絶縁層415Aの少なくとも一部に柔軟部が設けられていればよい。
【0076】
図9は、絶縁層415Aが、正極合材層414の全域を覆っている場合を示す断面図である。具体的には
図9は、
図5に対応する図である。
【0077】
図9に示すように、絶縁層415Aにおける電極体400の平坦部441に対応する領域の少なくとも一部に柔軟部419aが設けられていればよい。上述したように、正極板410の正極側端部に対して、正極集電体120を接合する際には、正極側端部が束ねられて圧迫される。このとき、主に平坦部441に対応した部分が束ねられるために、平坦部441に作用する負荷は湾曲部442よりも大きくなる。つまり、平坦部441は湾曲部442よりも絶縁層が脱落しやすい条件となる。しかし、絶縁層415Aにおける平坦部441に対応する領域に柔軟部419aが設けられていれば、絶縁層415Aの脱落を抑制することができる。
【0078】
また、正極集電体120が接合される領域や、その近傍領域は、接合時に最も負荷が作用する部位である。このため、絶縁層における平坦部441に対応する領域内であって、正極集電体120が接合される領域や、その近傍領域に柔軟部を設けることが、絶縁層の脱落を確実に抑制するうえで好ましい。
【0079】
また、上記実施の形態では、正極合材層414は、絶縁層415とは同じ極性のバインダを含有するとしたが、正極合材層414は、絶縁層415と異なる極性のバインダを含有してもよい。
【0080】
また、蓄電素子10が備える電極体は巻回型である必要はない。蓄電素子10は、例えば平板状極板を積層した積層型の電極体を備えてもよい。また、蓄電素子10は、例えば、長尺帯状の極板を山折りと谷折りとの繰り返しによって蛇腹状に積層した構造を有する電極体を備えてもよい。いずれの場合であっても、正極板及び負極板がセパレータを介して積層された構造を有するため、正極板または負極板が、活物質未塗工部と合材層の端縁部とを覆う絶縁層を備えることで、正極板と負極板との短絡防止の確実性が向上される。そして、絶縁層に柔軟部を設けることで、上述のように、絶縁層の脱落を抑制することができ、安定した絶縁性を確保することができる。
【0081】
また、電極体を収容する容器は、袋状のラミネートフィルムを用いてもよい。
【0082】
また、溝部4151の延在方向は、縦方向、横方向にとらわれない。
【0083】
図10は、溝部4151が縦方向に延在している場合を示す拡大図であり、
図11は、溝部4151が横方向に延在している場合を示す拡大図である。
図10及び
図11は、
図6に対応する図である。ここで、縦方向とは、電極体の巻回軸方向に平行な方向であり、横方向とは、縦方向に対して直交する方向である。
図10に示すように、溝部4151が全て縦方向に沿って延在していてもよい。また、
図11に示すように、溝部4151が全て横方向に延在していてもよい。
図6、
図10、
図11のいずれの場合においても、絶縁層415の脱落抑制効果を得ることができる。
【0084】
また、上記実施の形態では、柔軟部419の一例として溝部4151を含む部分を例示して説明した。しかし、柔軟部においては、絶縁層415における他の部分よりも柔軟であればその形態は如何様でもよい。溝部4151以外の柔軟部の例としては、絶縁層における柔軟にしたい領域(柔軟領域)の全体を、他の領域よりも薄くする形態や、柔軟領域の方が他の領域よりも柔軟な組成物で構成される形態などが挙げられる。
【0085】
また、上記実施の形態に記載された構成を任意に組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0086】
また、本発明は、上記説明された蓄電素子として実現することができるだけでなく、当該蓄電素子が備える電極体400としても実現することができる。また、本発明は、当該蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。