(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正工程において、前記解析基準レベルと、前記実測基準レベルとに基づいて、前記所定部分から上流の前記基準レベルに対応する前記配管の管軸方向の位置における前記配管内の温度を調整して、前記温度分布の解析値を算出することにより、前記温度分布の解析値を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の流速の評価方法。
前記補正工程において、前記温度分布の実測値を指数関数で近似させて前記実測基準レベルを算出し、算出した前記実測基準レベルに前記解析基準レベルが一致するように、前記温度分布の解析値を補正する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流速の評価方法。
前記補正工程において、前記温度分布の実測値を指数関数で近似させて前記実測基準レベルを算出し、算出した前記実測基準レベルに基づいて、前記所定部分から上流の前記基準レベルに対応する前記配管の管軸方向の位置における前記配管内の温度を推定し、推定した前記配管内の温度に基づいて前記温度分布の解析値を算出することにより、前記温度分布の解析値を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の流速の評価方法。
前記流速設定工程において、想定された流速の範囲の中点の流速に対して前記算出工程により算出された前記温度分布の解析値から得られた前記解析値の特徴量と、計測された前記実測値の特徴量との大小関係に応じて、新たな点の流速を設定する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の流速の評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態による流速の評価方法、及び評価システムについて、図面を参照して説明する。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態による流速計測システム100の概略構成例を示す図である。また、
図2は、第1の実施形態による流速計測システム100の要部構成例を示す図である。
本実施形態に係る流速計測システム100(流速の評価システムの一例)は、例えば、ボイラーなどの蒸気製造装置20と負荷設備30との間に配設される配管10内を流れる流体(例えば、蒸気)の流速を計測可能なシステムである。
【0021】
図1に示すように、流速計測システム100は、加熱部2と、プレヒーター2bと、温度計測部3と、制御ユニット4(流速算出部)と、流速計5と、配管10とを備えている。
【0022】
配管10は、例えば、蒸気製造装置20(ボイラーなど)と負荷設備30との間に配設されている。蒸気製造装置20からの蒸気が配管10を流れ、負荷設備30に送られる。また、負荷設備30において、蒸気又は蒸気の熱が利用される。負荷設備30から排出された蒸気はドレンとして回収され、還水槽(不図示)に集約された後、蒸気製造装置20に再度給水される。また、配管10の周りには保温材12(断熱材)が巻かれている。
【0023】
ここで、本実施形態では、流速計測システム100に流速計5を備える構成を示すが、他の構成例として、流速計5が備えられない構成が用いられてもよい。つまり、流速計5を用いて流速を計測する構成が用いられてもよく、又は、他の情報から流速を計算する(推定的な計算でもよい)構成が用いられてもよい。
【0024】
加熱部2(熱交換器の一例)は、配管10の表面10aと熱交換することで所定部分を加熱するためのものである。すなわち、加熱部2は、配管10の表面10aの所定部分で熱交換を行う。本実施形態において、加熱部2は、例えば、リング状のヒーターから構成されており、
図2(b)に示すように、配管10の表面10aの所定位置において周方向に亘って配置される。これにより、加熱部2は、配管10の所定部分(当該加熱部2の設置部分11)において、当該配管10の表面10aを均一に加熱する。加熱部2は、制御ユニット4に電気的に接続されており、その動作が制御される。
なお、ここでいう熱交換器は、温度の高い物体から温度の低い物体へ熱を移動させるものである。ヒーターは、熱交換器の一例である。
なお、
図2において、矢印B11は、流体が配管10内を流れる向きの例を示している。
【0025】
プレヒーター2bは、配管10内を流れる流体を加熱する。このプレヒーター2bは、配管10内を流れる気体の流体の液化を防止するために設けられている。例えば、配管10内を流れる流体が蒸気である場合に、プレヒーター2bが当該蒸気を加熱することで、当該蒸気が液化して配管10内や負荷設備30内に水滴が付着することを防止する。
【0026】
温度センサー群3Aは、配管10における表面10aの加熱部2の設置部分11の両側(上流側及び下流側)に配置されている。各温度センサー群3Aは、上記設置部分11からの距離に応じて設置位置が決定される。例えば、設置部分11の上流側を例に挙げると、各温度センサー群3Aは、
図2(a)に示すように、設置部分11の端面からの距離が0mm(ミリメートル)、6mm、14mm、24mm、36mm、50mm、66mm、84mm、104mm、126mm、150mm、176mmに設置されている。ここで、設置部分11の端面からの距離が0mmとは、温度センサー群3Aが加熱部2の端面に沿って配置されることを意味する。なお、
図2(b)では、配管10の断面構造として、設置部分11の下流側端面の近傍(A−A矢視による断面)を図示し、
図2(c)では、設置部分11の下流側端面からの距離が24mm近傍(B−B矢視による断面)とを図示している。
【0027】
図2(a)に示されるように、温度センサー群3Aは、設置部分11から離間するに従って、隣接する温度センサー群3A間の距離が2mmずつ大きくなるように配置されている。したがって、温度センサー群3Aは、設置部分11(加熱部2)に近い程、センサーが密集して配置されたものとなっている。これにより、設置部分11の近傍において配管10の表面10aの温度を精度良く検出することが可能とされている。
【0028】
温度計測部3は、複数(本実施形態では、例えば、12個)の温度センサー群3Aから構成される。各温度センサー群3Aは、配管10の表面10aにおいて、当該配管10の管軸方向に沿って配置される。各温度センサー群3Aは、それぞれ配管10の表面10aの温度を計測する温度センサー3aを複数含む。本実施形態において、各温度センサー群3Aは4つの温度センサー3aから構成される。4つの温度センサー3aは、配管10の表面10aにおいて、周方向に均等に配置されている。すなわち、4つの温度センサー3aは、配管10の周方向において、90度ずつ位置を違えるように配置されている。各温度センサー群3Aは、4つの温度センサー3aが計測した値の平均値を計測値として出力する。このように温度センサー群3Aは、配管10の表面10aにおける複数個所を計測した値の平均を計測値とすることで信頼性の高い計測結果(温度)を出力することが可能である。
【0029】
なお、各温度センサー群3Aを構成する温度センサー3aの数は、
図2に示す4つに限られず1つ以上であればよい。例えば、各温度センサー群3Aが、2つの温度センサー3aから構成され、2つの温度センサー3aが、配管10の周方向に左右均等に(配管10の周方向において180度位置を違えるように)配置されていてもよい。上記のように、各温度センサー群3Aが複数の温度センサー3aを備え、配管10の表面10aにおける複数個所を計測した値の平均を計測値とすることで信頼性の高い計測結果(温度)を出力することが可能である。
【0030】
上述した構成に基づき、温度計測部3は、各温度センサー群3Aの計測結果から配管10の管軸方向における表面10aの温度分布を計測することが可能である。温度計測部3は、計測した温度分布を制御ユニット4に送信する。
また、配管10は、表面10aの少なくとも一部が保温材12により覆われている。本実施形態において、保温材12(断熱材)は、配管10の表面10aに設けられた加熱部2、及び温度計測部3(各温度センサー3a)を覆うように管軸方向に亘って設置されている。
【0031】
次に、
図3を参照して、制御ユニット4の構成例について説明する。
図3は、本実施形態における制御ユニット4の一例を示すブロック図である。
図3に示すように、制御ユニット4は、計算装置40と、入力装置60と、表示装置70とを備えている。また、計算装置40は、変換器41と、記憶部42と、制御部50とを備えている。制御ユニット4は、流速算出部の一例である
【0032】
入力装置60は、例えば、キーボードやマウスなどのポインティングデバイス等であり、初期設定値などのパラメータや仮データを受け付けて、計算装置40に出力する。
表示装置70は、例えば、液晶ディスプレイ装置などであり、入力されたデータに関する情報、及び計算に関する情報などを表示することができる。
【0033】
変換器41は、例えば、A/D変換器(アナログ/デジタル変換器)であり、流速計測システム100の温度計測部3から送信された計測データ(温度分布)を変換する。
記憶部42は、変換器41を介して入力された温度計測部3の計測結果や、入力装置60を介して受け付けたパラメータや仮データなどの各種情報を記憶する。また、記憶部42は、例えば、配管10の表面10aにおける温度分布と、配管10の内部を流れる流体の流速との関係を示す関係情報を予め(流速の計測よりも前に)記憶している。記憶部42は、例えば、流体の流速ごとに、当該流速と温度分布とが対応付けられた関係情報を記憶している。
【0034】
制御部50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などを含むプロセッサであり、制御ユニット4(計算装置40)を統括的に制御する。制御部50は、変換器41を介して温度計測部3の計測データ(温度分布)を取得し、記憶部42に記憶させる。制御部50は、入力装置60を介して受け付けたパラメータや仮データなどの情報を、記憶部42に記憶させる。そして、制御部50は、記憶部42に記憶されているこれらの情報に基づいて、配管10の内部を流れる蒸気の流速を算出する。制御部50は、例えば、温度計測部3の計測結果(配管10の表面10aにおける温度分布)を用い、記憶部42に記憶された情報から配管10の内部を流れる蒸気の流速を算出する。
【0035】
制御部50は、温度計測部3が配管10の表面10aにおける温度分布を計測すると、例えば、記憶部42が記憶する上述した関係情報を参照して、温度計測部3が計測した温度分布に最も近い(例えば、差の絶対値の合計が最も小さい)温度分布に対応付けられている流速を読み出して、流速の計測値とする。
また、制御部50は、算出部51と、流速設定部52と、補正部53と、流速決定部54とを備えている。
【0036】
算出部51は、配管10の内部を流れる流体の1点以上の流速に対する温度分布の解析値(理論値)を算出する。算出部51は、例えば、記憶部42が記憶している温度計測部3の計測結果や、パラメータ、仮データなどの情報に基づいて、例えば、有限要素法などを用いて、流速に対する温度分布の解析値(理論値)を算出する。ここで、パラメータには、例えば、配管10の内径、肉厚、材質、熱伝導率、保温材12の厚さ等であり、仮データには、配管10の内部の入力温度などが含まれる。
【0037】
また、算出部51は、算出した温度分布の解析値(理論値)に基づいて、温度分布の後述する特徴量を算出する。温度分布の特徴量は、例えば、半値幅、最高温度、又は、温度分布波形の面積などがある。すなわち、温度分布の特徴量は、流速の増加に応じて減少する特徴量である。温度分布の算出部51は、算出した温度分布の特徴量を、解析に使用することが可能なパラメータとして、記憶部42に記憶させてもよい。
【0038】
流速設定部52は、温度分布の解析値(理論値)から得られた温度分布の解析値の特徴量と、配管10に関して計測された温度分布の実測値の特徴量に基づいて、流速を設定する。流速設定部52は、例えば、想定された流速の範囲の中点の流速に対して算出部51により算出された温度分布の解析値から得られた解析値の特徴量と、計測された実測値の特徴量との大小関係に応じて、新たな点の流速を設定する。流速設定部52は、例えば、3点以上の流速を設定する。
【0039】
補正部53は、配管10に関して計測された温度分布の実測値に基づく温度分布の基準レベルを示す実測基準レベル(ベースライン温度)に基づいて、算出部51により算出された温度分布の解析値を補正する。補正部53は、例えば、温度分布の解析値から得られたベースライン温度(解析基準レベル)と、計測された温度分布から得られたベースライン温度(実測基準レベル)との大小関係に応じて、パラメータの1つである配管10の内部の入力温度を調整して、温度分布の解析値(理論値)を補正する。ここで、配管10の内部の入力温度は、例えば、加熱部2(所定部分)から上流の基準レベルに対応する配管10の管軸方向の位置における配管10内の温度である。
【0040】
流速決定部54は、流速設定部52により設定された流速に対する温度分布の解析値であって、補正部53により補正された温度分布の解析値に基づいて、流速を決定する。流速決定部54は、例えば、温度分布と流速とを対応付けた関係情報に基づいて、流速を決定する。具体的に、流速決定部54は、例えば、温度分布の解析値(理論値)と、温度分布の実測値との2乗誤差に基づいて、流速を決定する。
なお、算出部51、流速設定部52、補正部53、及び流速決定部54の詳細については、後述する。
【0041】
このように、記憶部42は、温度分布と流速とを対応付けた関係情報を記憶する。そして、加熱部2が、リングヒーター(リング状のヒーター)で所定箇所を加熱し、配管10の温度分布が定常状態になった状態で、温度計測部3が、配管10における温度分布を計測する。そして、制御ユニット4は、関係情報を参照して、計測で得られた温度分布に最も近い温度分布に対応付けられている流速を流速計測値とする。
【0042】
次に、記憶部42が記憶する関係情報の取得方法について説明する。
関係情報は、配管10の温度定常状態における熱の伝わりを、有限要素法で解析して求めることができる。以下では、制御ユニット4が有限要素法の計算を行う場合を例に説明するが、他のコンピュータを用いて有限要素法の解析を行うようにしてもよい。
配管10に有限要素法を適用するために、配管10の領域をセル(部分領域)に分割する。
【0043】
図4は、配管10の領域のセルへの分割例を示す説明図である。
同図に示す領域A11は、管内の領域(流体が流れる領域)を示す。領域A12は、配管10の領域(管壁の領域)を示す。領域A13は、配管10の周りに巻かれた断熱材(保温材12)の領域を示す。領域A14は、断熱材の外側の空気の領域を示す。また、矢印B11は、流体が配管10内を流れる向きの例を示している。
【0044】
有限要素法を適用するためのセル分割にて、
図4に示すように、配管10の管壁の領域A12を均等な厚みで3層に分割する。この3層と、流体の領域A11、断熱材の領域A13、及び外部の空気の領域A14とで、配管10の半径方向に6層に分割されている。
また、配管10の軸方向(長手方向)に関しては、例えば3mm幅など比較的小さい幅で均等に分割する。
また、加熱部2としてリング状のヒーターを用い、
図4に示すように、配管10の長手方向における加熱部2の厚みを無視する。特に、加熱部2が、配管10の管壁の領域A12のセルのうち1つのみに入熱するものとして近似する。また、加熱部2自体の容量の影響は無視する(容量が十分に小さいものとする)。
【0045】
隣接する接点との熱移動は、管内面と管内の流体との対流熱伝達、管壁内(
図4の領域A12内)での熱伝導、管壁から断熱材への熱伝導、及び断熱材内での熱伝導、断熱材外表面と周囲空気との対流熱伝達による熱移動とする。また、加熱部2から十分離れた管端の部分のセルの外縁を断熱条件とする。
以下の熱バランスによる方程式(以下の式(1))をセルごとに設定しておき、制御ユニット4が、有限要素法を用いて解析することで、セル間の温度差を算出する。有限要素法の解法(連立方程式の解法)として、例えば、Newton-Raphson法を用いることができる。
但し、制御ユニット4が用いる解法は、Newton-Raphson法に限られず、連立方程式に適用することが可能ないろいろな解法を用いることができる。
【0046】
ここで、定常状態では、隣接するセルからの入熱量の和が0になる。なお、熱量の放出は、入熱量マイナスとして表す。
座標(i,j)に位置するセルにおける熱バランスは、式(1)のように表される。
【0047】
Q
i,j−1+Q
i,j+1+Q
i−1,j+Q
i+1,j=0 ・・・ (1)
【0048】
ここで、座標(i,j)に位置するセルに隣接するセルの座標を、(i,j−1)、(i,j+1)、(i−1,j)、(i+1,j)とする。また、Q
i,j−1、Q
i,j+1、Q
i−1,j、Q
i+1,jは、それぞれ、添え字で示す座標に位置するセルからの入熱量を示す。なお、隣接するセルが無い場合は、当該セルからの入熱量を0とする。
上記のように、セルごとに熱バランスによる方程式(式(1))を設定する。当該方程式の設定は、例えば、流速計測システム100のユーザーが行って、制御ユニット4の記憶部42に記憶させる。そして、制御ユニット4は、流速の設定値ごとに有限要素法による解析を行って、温度分布と流速との関係を示す関係情報を取得する。
【0049】
式(1)のQ
i,j−1、Q
i,j+1、Q
i−1,j、Q
i+1,jには、例えば、以下の式(2)、式(3)、式(4)のいずれかの右辺を適用する。
【0050】
対流熱伝達:配管10のセルのうち最内側のセルへの流体(配管10内の流体)からの入熱量は、式(2)のように示される。
【0051】
対流熱伝達による入熱量=α・A・Δt ・・・ (2)
【0052】
ここで、α[W(ワット)/(m
2(平方メートル)・K(ケルビン))]は、対流熱伝達率を示す。
また、A[m
2]は、伝熱面積を示す。ここでは、配管10のセルが管内の流体に接する面積である。
また、Δt[K]は、隣接するセルとの温度差を示す。ここでは、配管10と管内の流体との接触部分における温度差を示す。
【0053】
半径方向熱伝導:配管10内における配管10の半径方向の熱伝導による入熱量は、式(3)のように示される。すなわち、管の半径方向に隣接する管のセル(管をメッシュに切ったセル)からの入熱量は、式(3)のように示される。
【0054】
半径方向熱伝導による入熱量=2π・λ・L・Δt/ln(ro/ri)
・・・ (3)
【0055】
ここで、πは、円周率を示す。
また、λ[W/(m(メートル)・K)]は、配管10の素材(例えば鋼鉄)の熱伝導率を示す。
また、L[m]は、管軸方向(配管10の軸方向)におけるセルの長さを示す。
また、Δt[K]は、上記のように、隣接するセルとの温度差を示す。ここでは、配管10の半径方向に隣接する配管10のセル同士の接触部分における温度差を示す。
また、lnは、自然対数を示す。また、ro/ri[m]は、半径方向におけるセル間の距離(例えば、セルの中心間の距離)を示す。ここで、roは、セルの外側の半径を示し、riは、セルの内側の半径を示す。
【0056】
管軸方向熱伝導:配管10内における配管10の軸方向(長手方向)の熱伝導による入熱量は式(4)のように示される。すなわち、管軸方向に隣接する配管10のセルからの入熱量は式(4)のように示される。
【0057】
管軸方向熱伝達による入熱量=λ・A・Δt/L ・・・ (4)
【0058】
ここで、λ、Lは、上記のとおりである。
また、A[m
2]は、上記のように、伝熱面積を示す。ここでは、配管10のセル同士(配管10の半径方向に隣接する配管10のセル)が接する面積である。
また、Δt[K]は、上記のように、隣接するセルとの温度差を示す。ここでは、管軸方向に隣接する配管10のセル同士の接触部分における温度差を示す。
【0059】
また、対流熱伝達に関して、以下の式(5)を用いる。
【0060】
N
ud=0.022・X
WT・R
ed0.8・P
r0.4 ・・・ (5)
【0061】
ここで、N
udは、ヌセルト数(Nusselt Number)を示す。
また、R
edは、レイノルズ数(Reynolds Number)を示す。
また、Prは、プラントル数(Prandtl Number)を示す。
また、X
WTは、温度を修正する係数であり、加熱部2(ヒーター)からの距離に応じた値を取る。特に、X
WTは、加熱部2の近傍について温度を高くする(すなわち、熱伝達を大きくする)。以下では、X
WTを熱伝達率修正係数と称する。
【0062】
なお、本実施形態では、熱伝達率修正係数X
WTを使用することで精度を向上させる場合を示すが、他の構成例として、精度が十分であれば、熱伝達率修正係数X
WTを使用しない構成(熱伝達率修正係数XWT=1とみなす構成)が用いられてもよい。
【0063】
ヌセルト数N
udは、式(6)のように示される。
【0064】
N
ud=αi・di/λ ・・・ (6)
【0065】
ここで、λは、上記のとおりである。
また、di[m]は、配管10の内径を示す。
また、αi[W/(m2・K)]は、配管10の内部における熱伝導率を示す。
【0066】
また、レイノルズ数R
edは、式(7)のように示される。
【0067】
R
ed=u×di/ν ・・・ (7)
【0068】
ここで、u[m/s(秒)]は、配管10内を流れる流体の流速を示す。
また、ν[m2/s]は、配管10内を流れる流体の動粘性係数を示す。
また、di[m]は、配管10の内径を示す。
【0069】
また、プラントル数P
rは、式(8)のように示される。
【0070】
P
r=ν×ρ×Cp/λ ・・・ (8)
【0071】
ここで、ν、λは、上記のとおりである。
また、ρ[kg(キログラム)/m
3(立方メートル)]は、流体の密度を示す。
また、Cp[kJ(キロジュール)/(kg・K)]は、流体の比熱を示す。
【0072】
式(5)のヌセルト数N
udは、式(2)の対流熱伝達率αと比例し、ヌセルト数N
udから対流熱伝達率αを求めることができる。式(5)のように熱伝達率修正係数X
WTを導入してヌセルト数N
udの値を高精度に求めることで、対流熱伝達率αの値を高精度に求めることができる。また、対流熱伝達率αの値を高精度に得られることで、有限要素法を用いての解析でセル間の温度差を高精度に求めることができ、これにより、配管10における温度分布の解析値の精度を高めることができる。
【0073】
また、対流熱伝達に関して、以下の式(9)も用いる。
【0074】
W = Y
HT・G・C
p・ΔT ・・・ (9)
【0075】
ここで、Cpは、上記のとおりである。
また、W[J(ジュール)/s]は、加熱部2による加熱量を示す。
また、G[kg/s]は、配管10を流れる流体の全流量を示す。
また、ΔT[℃(度)]は、加熱部2のヒーターの加熱による流体の上昇温度を示す。
また、Y
HTは、管断面を流れる流体の全量のうち、加熱部2のヒーターからの熱の伝達に寄与する流体の量(加熱部2のヒーターの加熱による熱を受けた流体の量)の割合を示す。具体的には、管断面における流体全体の面積をSとし、管断面における流体のうちヒーターの加熱による熱を受けた部分の面積をS1として、Y
HT=(S1/S)と表される。以下では、Y
HTを温度境界係数と称する。
【0076】
上述したように、配管10内に蒸気を流して温度分布、及び流速を実測し、温度分布の解析値(一般的な熱伝達の式を適用して有限要素法を用いた解析で得られた値)と実測値とを比較したところ、加熱部2のヒーター設置位置の近傍で、温度実測値が解析値よりも高くなった。上述した加熱部2のヒーター設置位置から上流側での温度のずれに加えて、加熱部2のヒーター設置位置から下流側でも、温度実測値が解析値よりも高くなった。この温度のずれの一因として、配管10内を流れる流体のうち、ヒーターからの熱を伝達するのは配管10の内面に近い一部のみであることが考えられる。そこで、温度境界係数Y
HTを導入して再計算をおこなったところ、解析値と実測値とがよりよく一致した。特に、熱伝達率修正係数X
WT、温度境界係数Y
HTの両方を導入することで、解析値と実測値とがよりよく一致した。
【0077】
なお、温度境界係数Y
HTの値を1より小さくすることは、ヒーターからの熱の伝達に寄与する流体の量を少なくすることに相当する。ヒーターからの熱の伝達に寄与する流体の量が少ないと、式(2)の温度差Δtの値(配管10と配管10内の流体との接触部分における温度差)が大きく算出される。温度境界係数Y
HTを導入して式(2)の温度差Δtの値を高精度に算出することで、配管10における温度分布の解析値の精度を高めることができる。
【0078】
流速計5は、流速計測部の一例であり、配管10内を流れる流体の流速を計測する。流速計5を備えることで、流速計測システム100は、配管10における温度分布と、配管10内を流れる流体の流速とを計測する。これにより、流速計測システム100は、配管10の表面10aにおける温度分布と、配管10の内部を流れる流体の流速との実測値における対応関係を取得する。
本実施形態では、流速計測システム100の制御ユニット4は、上述した、配管10の温度定常状態における熱の伝わりを有限要素法で解析する機能を有している。
【0079】
ここで、配管10内を流れる流体の様々な流速について温度分布、及び流速を計測すれば、記憶部42に記憶させる関係情報を取得することができる。しかしながら、関係情報をすべて実測にて取得しようとすると計測回数が多くなり、流速計測システム100のユーザーにとって、流速計測システム100を設定する負担(例えば、流体の流速を調節する負担)が大きくなる。
そこで、制御ユニット4(制御部50)が、配管10の温度定常状態における熱の伝わりを流体の流速ごとに有限要素法で解析して関係情報を取得する。これにより、ユーザーが流速計測システム100を設定する負担を低減させることができる。制御ユニット4は、関係情報設定部の一例である。
【0080】
制御ユニット4(制御部50)は、上述した式(1)〜式(9)に基づいて、配管10の温度定常状態における熱の伝わりを解析する。その際、制御ユニット4は、熱伝達率修正係数X
WTの値、及び温度境界係数Y
HTの値を予め(関係情報を取得するための解析を行う前に)設定しておく。制御ユニット4(制御部50)は、温度境界係数値取得部の一例である。
【0081】
制御ユニット4(制御部50)は、例えば、熱伝達率修正係数X
WTの値と温度境界係数Y
HTの値との組み合わせを複数用意しておく。そして、制御ユニット4は、流速計測システム100が実測した流速(流速計5が計測した流速)について、熱伝達率修正係数X
WTの値と温度境界係数Y
HTの値との組み合わせごとに、有限要素法による解析を行って配管10における温度分布を算出する。そして、制御ユニット4(制御部50)は、配管10における温度分布の実測値に最も近い解析値を得られた、熱伝達率修正係数X
WTの値と温度境界係数Y
HTの値との組み合わせを採用する。
【0082】
このように、本実施形態では、配管10の温度分布から配管10の内部を流れる流体の流速を求める方法として、温度分布と流速との関係を予め求めておき、得られた関係を用いて温度分布を流速に換算する方法が用いられ、この場合に、流速を精度良く求めるために、温度分布と流速との関係を精度良く求めておく。
【0083】
次に、図面を参照して、制御ユニット4(制御部50)によるフィッティングを使用する解析処理について説明する。
図5は、配管10の軸方向の距離と配管10の表面10aの温度との関係の例を示す図である。なお、
図5(a)は、流速5[m/s]の場合の配管10の軸方向の距離と配管10の表面10aの温度との関係を示している。また、
図5(b)は、流速20[m/s]の場合の配管10の軸方向の距離と配管10の表面10aの温度との関係を示している。また、
図5(c)は、流速35[m/s]の場合の配管10の軸方向の距離と配管10の表面10aの温度との関係を示している。
【0084】
図5に示されるグラフにおいて、横軸は配管10の軸方向の距離[m]を表わしており、縦軸は配管10の表面10aの温度[℃]を表わしている。
図5(a)〜
図5(c)のそれぞれにおいて、配管10の軸方向の距離と配管10の表面10aの温度との関係の特性(流速5[m/s]の場合の温度分布の特性201、流速20[m/s]の場合の温度分布の特性202、流速35[m/s]の場合の温度分布の特性203)の例を示してある。
各特性201〜203は、横軸に関して、左右対称の形状(又は、左右対称に近い形状)を有しており、当該左右対称の横軸の中心の位置(又は、横軸の中心に近い位置)が加熱部2の位置に対応する。
【0085】
図6は、温度分布の特性における特徴量の例を示す図である。
図6(a)は、温度分布の特性201における半値幅P1の例を示す図である。また、
図6(b)は、温度分布の特性201における最高温度P2の例を示す図である。ここで、最高温度P2は、例えば、ピークの温度を示す。
【0086】
また、
図6(c)は、温度分布の特性201における温度分布波形の面積P3の例を示す図である。
温度分布波形の面積P3は、本実施形態では、ベースライン温度BT1と温度分布波形(山形の線)とで囲まれる領域の面積としてある。この場合、面積P3は、ベースライン温度BT1に左右されず、感度が良い。
図6(c)の例において、ベースラインとしては、例えば、左のベースライン上の点(例えば、右端の方の点)と右のベースライン上の点(例えば、左端の方の点)とを結んだ線が用いられている。
【0087】
なお、他の構成例として、温度分布波形の面積P3としては、他の面積が用いられてもよい。具体例として、温度分布波形の面積P3としては、横軸(縦軸の値が0)と温度分布波形(山形の線)とで囲まれる領域の面積が用いられてもよく、又は、当該横軸の代わりに縦軸の値が0でない線(当該横軸に平行な線、又は、非平行な線)が用いられてもよく、また、面積を求める領域を区切る横軸の値の最小値又は最大値のうちの一方又は両方が設定されてもよい。
ここで、
図6は、
図5に示されるグラフに対応する例を示した図である。
通常、流速が大きくなると、半値幅P1は小さくなり、最高温度P2は小さくなり、温度分布波形の面積P3は小さくなる。
【0088】
ここで、上記のように、解析に使用することが可能なパラメータ(温度分布の特徴量)として、半値幅、最高温度、又は温度分布波形の面積などがある。本実施形態では、解析のパラメータとして、温度分布波形の面積を使用する例を説明するが、他の構成例として、最高温度が使用されてもよく、又は、半値幅が使用されてもよく、又は、半値幅、最高温度、温度分布波形の面積のうちの2以上を組み合わせたものが使用されてもよい。
【0089】
図7は、温度分布の解析値及び実測値の一例を示す図である。
図7に示されるグラフにおいて、横軸は配管10の軸方向の距離[m]を表わしており、縦軸は配管10の表面10aの温度[℃]を表わしている。
図7に示す例では、温度分布の解析値204と、実測値205とが、ベースライン温度付近で一致していない場合の一例を示している。ここで、ベースライン温度BT0は、実測値205のベースラインの温度を示し、ベースライン温度BT1は、解析値204のベースラインの温度を示している。
【0090】
図7に示すような場合には、制御ユニット4は、解析値のベースライン温度BT1と実測値のベースライン温度BT0とに基づいて、配管10の内部の入力温度を調整して、有限要素法を用いて再解析を行うことで、温度分布の解析値204を補正する。制御ユニット4は、例えば、解析値のベースライン温度BT1が、実測値のベースライン温度BT0より大きい場合には、入力温度を減少方向に調整して、再び、温度分布の解析値を算出する。また、制御ユニット4は、例えば、解析値のベースライン温度BT1が、実測値のベースライン温度BT0より小さい場合には、入力温度を増加方向に調整して、再び、温度分布の解析値を算出する。これにより、補正後の解析値206が、実測値205に一致するようにフィッティングされる。
このように、ベースライン温度に着目して、温度分布の解析値を補正することにより、配管10における温度分布の解析値の精度をさらに高めることができる。
【0091】
なお、ベースライン温度は、加熱部2より上流におけるベースライン温度を用いてもよいし、加熱部2より下流におけるベースライン温度を用いてもよい。また、ベースライン温度は、加熱部2より上流におけるベースライン温度と、加熱部2より下流におけるベースライン温度との平均値を用いてもよい。
【0092】
なお、制御ユニット4は、温度分布の実測値を指数関数で近似させて、実測値のベースライン温度BT0を算出し、温度分布の解析値を指数関数で近似させて解析値のベースライン温度BT1を算出する。ここで、実測値のベースライン温度BT0、及び解析値のベースライン温度BT1は、以下の式(10)により算出することができる。
【0093】
T=A・exp(B・X)+C ・・・ (10)
【0094】
ここで、T[℃]は、配管10の表面10aの温度を示す。また、X[m]は、配管10の軸方向の位置を示す。また、A、及びBは、係数を示し、C[℃]は、ベースライン温度を示す。
【0095】
図8は、流速と温度分布波形の面積との関係の例を示す図である。
図8に示されるグラフにおいて、横軸は流速[m/s]を表わしており、縦軸は温度分布波形の面積を表わしている。当該グラフに、流速と温度分布波形の面積との関係に関し、実測値301の例と、解析値311の例を示してある。ここで、解析値311は、例えば、複数の実測値301に対してフィッティングの処理を行った結果として得られた特性(流速と温度分布波形の面積との関係の特性)である。本例では、解析値311を求めるフィッティングにおいて、2次関数の解析値が用いられている。
【0096】
図9は、流速と2乗誤差(温度分布の実測値と温度分布の解析値との2乗誤差)との関係の例を示す図である。
図9に示されるグラフにおいて、横軸は流速[m/s]を表わしており、縦軸は2乗誤差を表わしている。当該グラフに、流速と2乗誤差との関係に関し、実測値401の例と、解析値411の例とを示してある。ここで、解析値411は、例えば、複数の実測値401に対してフィッティングの処理を行った結果として得られた特性(流速と2乗誤差との関係の特性)である。本例では、解析値411を求めるフィッティングにおいて、2次関数の解析値が用いられている。
【0097】
次に、図面を参照して、本実施形態による流速計測システム100の動作について説明する。
図10は、本実施形態による流速計測システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
まず、流速計測システム100の制御ユニット4において、所定の測定値(計測値)を入力する(ステップS101)。制御ユニット4の制御部50は、例えば、変換器41を介して、温度計測部3及び流速計5からの測定値を取得し、取得した測定値を記憶部42に記憶させる。この測定値は、例えば、配管10内の流体(例えば、蒸気等)の温度の測定値、及び当該流体の圧力の測定値である。
【0098】
次に、制御ユニット4において、所定のパラメータを入力する(ステップS102)。制御ユニット4の制御部50は、例えば、入力装置60を介して、所定のパラメータを取得し、取得した所定のパラメータを記憶部42に記憶させる。このパラメータは、例えば、配管10の内径、肉厚、材質、熱伝導率、保温材12の厚さ等のパラメータである。ここで、本実施形態では、当該パラメータが入力装置60から入力されるが、他の構成例として、当該パラメータのうちの一部、又は全部が、予め記憶部42に記憶されていて使用されてもよい。
【0099】
なお、ステップS101の処理と、ステップS102の処理とは、逆の順序で行われてもよい。また、ステップS101の処理、及びステップS102の処理の段階では、特定の流速を想定していない。
【0100】
次に、制御ユニット4は、1点の流速を設定する(ステップS103)。すなわち、制御ユニット4の流速設定部52は、1点目の流速として、想定される流速の範囲のうちの中点(又は中点付近)の流速を設定する。流速設定部52は、一例として、想定される流速の範囲が2〜40[m/s]である場合、中点(又は中点付近)の流速は20[m/s]を1点目の流速として設定する。
【0101】
次に、制御ユニット4は、設定した流速で温度分布の解析値を算出する(ステップS104)。例えば、制御ユニット4の算出部51は、記憶部42が記憶するパラメータに基づいて、1点目の流速(例えば、20[m/s])における温度分布の解析値を、有限要素法お用いて算出する。なお、ここで、パラメータの1つである配管10の入力温度の値は、例えば、仮の温度値を用いる。
【0102】
次に、制御ユニット4は、ベースライン温度に基づいて、入力温度を調整する(ステップS105)。例えば、制御ユニット4の補正部53は、算出部51によって算出された温度分布の解析値におけるベースライン温度(解析基準レベル)と、温度分布の実測値におけるベースライン温度(実測基準レベル)とに基づいて、入力温度を調整する。なお、補正部53は、調整した配管10の入力温度をパラメータとして、温度分布の解析値を再度算出して、解析値のベースライン温度と実測値のベースライン温度とが一致するように、温度分布の解析値を補正してもよい。また、ベースライン温度に基づいて入力温度を調整する処理の詳細については、
図11を参照して後述する。
【0103】
次に、制御ユニット4は、設定した流速で波形面積(温度分布波形の面積)の解析値を算出する(ステップS106)。すなわち、算出部51は、温度分布の解析値に基づいて、温度分布波形の面積を算出する。
【0104】
次に、制御ユニット4は、解析値の波形面積及び実測値の波形面積に基づいて、次の1点の流速を設定する(ステップS107)。流速設定部52は、例えば、解析値の波形面積が、実測値の波形面積より大きい場合に、さらに速い流速を設定する。この場合、流速設定部52は、例えば、20〜40[m/s]の中点(又は中点付近)の流速(例えば、30[m/s])を次の1点の流速として設定する。また、流速設定部52は、例えば、解析値の波形面積が、実測値の波形面積より小さい場合に、さらに遅い流速を設定する。この場合、流速設定部52は、例えば、2〜20[m/s]の中点(又は中点付近)の流速(例えば、10[m/s])を次の1点の流速として設定する。
【0105】
このように、流速設定部52は、想定された流速の範囲の中点の流速に対して算出部51により算出された温度分布の解析値から得られた解析値の特徴量と、計測された実測値の特徴量との大小関係に応じて、新たな点の流速を設定する。
【0106】
次に、制御ユニット4は、設定した流速で温度分布の解析値を算出する(ステップS108)。算出部51は、ステップS105において調整された配管10の入力温度の値をパラメータに加えて、有限要素法を用いて、設定した流速で温度分布の解析値を算出する。
【0107】
次に、制御ユニット4は、流速の設定を終了するか否かを判定する(ステップS109)。制御ユニット4の流速設定部52は、流速の設定を終了するか否かを判定する。流速設定部52は、流速の設定を終了すると判定した場合(ステップS109:YES)に、処理をステップS110に進める。また、流速設定部52は、流速の設定を終了しないと判定した場合(ステップS109:NO)に、処理をステップS106に戻す。
ステップS106からステップS109の処理を繰り返すことで、制御ユニット4は、複数の流速の設定を設定する。
【0108】
ステップS110において、制御ユニット4は、設定した各流速に対して、温度分布の解析値と実測値との2乗誤差を算出する。制御ユニット4の流速決定部54は、設定した各流速に対して、例えば、ステップS105の配管10の入力温度の調整により補正された温度分布の解析値と、温度分布の実測値との2乗誤差を算出する。
【0109】
次に、制御ユニット4は、流速と2乗誤差との関係をフィッティングにより求める(ステップS111)。流速決定部54は、例えば、
図9に示すように、2次関数を用いて、フィッティングして、流速と2乗誤差との関係(解析値)を算出する。
【0110】
次に、制御ユニット4は、フィッティングの結果(解析値)に基づいて、流速の候補を決定する(ステップS112)。流速決定部54は、例えば、
図9に示すように、フィッティングの結果(解析値)において2乗誤差が最も小さくなる流速を、流速の候補として決定する。ここで、
図9に示す例では、流速Q1が、2乗誤差が最小値の流速であり、流速決定部54は、流速Q1を流速の候補として決定する。
【0111】
次に、制御ユニット4は、流速の候補における2乗誤差が規定値以下であるか否かを判定する(ステップS113)。すなわち、流速決定部54は、決定した流速の候補において、有限要素法を用いて得られる温度分布の解析値(理論値)と、計測された温度分布の実測値とについて、両者の2乗誤差を算出する。そして、流速決定部54は、算出された2乗誤差が所定の規定値以下であるか否かを判定する。規定値としては、任意の値が用いられてもよく、例えば、予め設定されてもよい。流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値以下である場合(ステップS113:YES)に、処理をステップS114に進める。また、流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値以下でない場合(ステップS113:NO)に、処理をステップS115に進める。
【0112】
ステップS114において、制御ユニット4(流速決定部54)は、流速の候補を流速として正式に決定して、処理を終了する。
また、ステップS115において、制御ユニット4は、流速(3点以上の流速の組合せ)を変更して、温度分布の解析値を算出する。すなわち、流速決定部54は、算出部51に、ステップS105において調整された配管10の入力温度の値をパラメータに加えて、有限要素法を用いて、変更した流速で温度分布の解析値を算出させる。ステップS115の処理後に、流速決定部54は、処理をステップS110に戻して、ステップS110からステップS113の処理を繰り返す。
【0113】
ここで、流速(3点以上の流速の組み合わせ)を変更する方法としては、一例として、もとの3点以上の流速のうちの1点の流速を除いて、その代わりに候補とした1点の流速を加える方法が用いられてもよい。また、除く対象とする1点の流速としては、一例として、これら複数点の流速のうちで最も2乗誤差が大きい点の流速が用いられてもよい。
このように、制御ユニット4は、流速の候補に対する2乗誤差が所定の規定値以下になるまで、流速を調整する。
【0114】
なお、他の構成例として、
図10に示される処理において新たな点の流速を設定するために使用された流速の一部(例えば、4点以上の流速を設定する場合には、1点目の流速など)が除かれて、
図10に示されるステップS110の処理における3点以上の流速が設定されてもよい。例えば、
図10に示されるステップS106からステップS109までの処理において4点以上のZ(Zは4以上の整数)点の流速が設定される場合には、(Z−3)以下の数の点の流速が除かれて、ステップS110の処理が行われてもよい。
【0115】
また、上述した
図10に示すフローチャートにおいて、ステップS104、ステップS108、及びステップS115は、算出工程に対応し、ステップS106からステップS109は、流速設定工程に対応し、ステップS105、ステップS108、及びステップS115は、補正工程に対応する。また、ステップS110からステップS115は、流速決定工程に対応する。
【0116】
なお、算出工程において、制御ユニット4(算出部51)は、配管10の内部を流れる流体の1点以上の流速に対する温度分布の解析値を算出する。流速設定工程において、制御ユニット4(流速設定部52)は、温度分布の解析値から得られた温度分布の解析値の特徴量と、配管10に関して計測された温度分布の実測値の特徴量に基づいて、流速を設定する。補正工程において、制御ユニット4(補正部53)は、配管10に関して計測された温度分布の実測値に基づくベースライン温度に基づいて、算出工程により算出された温度分布の解析値を補正する。流速決定工程において、制御ユニット4(流速決定部54)は、流速設定工程により設定された流速に対する温度分布の解析値であって、補正工程により補正された温度分布の解析値に基づいて、流速を決定する。
また、上述の流速決定工程は、流速設定工程で使用された流速の一部、又は全部を用いるようにしてもよい。
【0117】
次に、
図11を参照して、本実施形態によるベースライン温度に基づく入力温度の調整動作について説明する。
図11は、本実施形態によるベースライン温度に基づく入力温度の調整動作の一例を示すフローチャートである。ここで、
図11に示す処理は、
図10のステップS105の詳細な処理に対応する。
図11に示すように、まず、制御ユニット4の補正部53は、温度分布の実測値のベースライン温度を算出する(ステップS201)。補正部53は、例えば、上述した式(10)を用いて、温度分布の実測値を指数関数で近似させて、温度分布の実測値のベースライン温度を算出する。
【0118】
次に、補正部53は、設定した流速に対応する温度分布の解析値のベースライン温度を算出する(ステップS202)。補正部53は、例えば、上述した式(10)を用いて、温度分布の解析値を指数関数で近似させて、温度分布の解析値のベースライン温度を算出する。
【0119】
次に、補正部53は、解析値のベースライン温度と、実測値のベースライン温度とに基づいて、入力温度を変更する(ステップS203)。補正部53は、例えば、解析値のベースライン温度が、実測値のベースライン温度より大きい場合に、配管10の入力温度の値を減少方向に調整する。また、補正部53は、例えば、解析値のベースライン温度が、実測値のベースライン温度より小さい場合に、配管10の入力温度の値を増加方向に調整する。補正部53は、ステップS203の処理後に、入力温度の調整動作の処理を終了する。
【0120】
以上説明したように、本実施形態による流速の評価方法は、熱交換工程と、算出工程と、流速設定工程と、補正工程と、流速決定工程とを含んでいる。熱交換工程において、加熱部2が、配管10の表面10aの所定部分で熱交換を行う。算出工程において、算出部51が、配管10の内部を流れる流体の1点以上の流速に対する温度分布の解析値を算出する。流速設定工程において、流速設定部52が、温度分布の解析値から得られた温度分布の解析値の特徴量と、配管10に関して計測された温度分布の実測値の特徴量(例えば、温度分布波形の面積など)に基づいて、流速を設定する。補正工程において、補正部53が、配管10に関して計測された温度分布の実測値に基づく温度分布の基準レベルを示す実測基準レベル(実測値のベースライン温度)に基づいて、算出工程により算出された温度分布の解析値を補正する。流速決定工程において、流速決定部54が、流速設定工程により設定された流速に対する温度分布の解析値であって、補正工程により補正された温度分布の解析値に基づいて、流速を決定する。
【0121】
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、補正工程により実測基準レベル(実測値のベースライン温度)に基づいて、温度分布の解析値(理論値)を補正するため、高精度に流体の流速を評価することができる。すなわち、本実施形態による流速の評価方法は、例えば、配管10の内部を流れる流体の温度を配管10の外から計測するヒーター法において、高精度に流体の流速を評価することができる。
また、本実施形態による流速の評価方法は、流速の評価に要する時間を短縮化することができる。
【0122】
また、本実施形態では、補正工程において、補正部53は、温度分布の解析値に基づく温度分布の基準レベルを示す解析基準レベル(解析値のベースライン温度)と、実測基準レベル(実測値のベースライン温度)とに基づいて、温度分布の解析値を補正する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、ベースライン温度のずれを適切に補正することができる。
【0123】
また、本実施形態では、補正工程において、補正部53は、解析基準レベル(解析値のベースライン温度)と、実測基準レベル(実測値のベースライン温度)との大小関係に応じて、新たな点の流速を設定する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、簡易手法により、ベースライン温度のずれを適切に補正することができる。
【0124】
また、本実施形態では、補正工程において、補正部53は、解析基準レベル(解析値のベースライン温度)と、実測基準レベル(実測値のベースライン温度)とに基づいて、所定部分から上流の基準レベルに対応する配管10の管軸方向の位置における配管10内の温度(入力温度)を調整して、温度分布の解析値を算出することにより、温度分布の解析値を補正する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、温度分布の解析値を再度算出して解析基準レベル(解析値のベースライン温度)と、実測基準レベル(実測値のベースライン温度)とが一致するように合わせ込むことができるため、ベースライン温度のずれを精度良く補正することができる。
【0125】
また、本実施形態では、有限要素法を用いた最初の1回の温度分布の解析値(理論値)のベースライン温度と、実測値のベースライン温度とで入力温度のパラメータを調整し、2回目以降の温度分布の解析値(理論値)の算出の際に、調整された入力温度のパラメータとして使用する。そのため、本実施形態による流速の評価方法は、例えば、補正により有限要素法の実行回数が増加しないため、流速の評価に要する時間を増加させずに、高精度に流体の流速を評価することができる。
【0126】
また、本実施形態では、補正工程において、補正部53は、温度分布の実測値を指数関数で近似させて実測基準レベル(実測値のベースライン温度)を算出し、算出した実測基準レベルに解析基準レベル(解析値のベースライン温度)が一致するように、温度分布の解析値を補正する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、実測基準レベル(実測値のベースライン温度)の算出及び温度分布の解析値の補正を、簡易な手法により正確に行うことができる。
【0127】
また、本実施形態では、温度分布の特徴量は、半値幅、最高温度、又は、温度分布波形の面積のうちの1以上である。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、簡易な手法により適切に流速を設定することができる。
【0128】
また、本実施形態では、流速設定工程において、流速設定部52は、想定された流速の範囲の中点の流速に対して算出工程により算出された温度分布の解析値から得られた解析値の特徴量と、計測された実測値の特徴量との大小関係に応じて、新たな点の流速を設定する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、簡易な手法により、さらに適切に流速を設定することができる。
【0129】
また、本実施形態では、流速設定工程において、流速設定部52が、3点以上の流速を設定し、流速決定工程において、流速決定部54が、流速設定工程により設定された3点以上の流速に対する、補正された温度分布の解析値に基づいて、流速を決定する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、流速の評価に要する時間を短縮化させつつ、適切に流速を決定することができる。
【0130】
また、本実施形態では、流速決定工程は、第1−1工程(ステップS110)と、第1−2工程(ステップS111)と、第1−3工程(ステップS112)と、第1−4工程(ステップS113)と、第1−5工程(ステップS114)と、第1−6工程(ステップS115)とを含んでいる。第1−1工程において、流速決定部54は、流速設定工程により設定された流速のそれぞれに対応する、補正された温度分布の解析値と(計測された)温度分布の実測値との2乗誤差を算出する。第1−2工程において、流速決定部54は、流速と2乗誤差との関係を(フィッティングにより)求める。第1−3工程において、流速決定部54は、流速と2乗誤差との関係に基づいて、流速の候補を決定する。第1−4工程において、流速決定部54は、決定された流速の候補において、2乗誤差が所定の規定値以下であるか否かを判定する。第1−5工程において、流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値以下であると判定した場合に、流速の候補を流速として正式に決定する。また、第1−6工程において、流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値を超えると判定した場合には、流速を変更して、再び第1−1工程へ移行する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、流速を決定するのに要する時間を、短縮化することができるとともに、配管10に関して計測された温度分布の実測値から適切に流速を決定することができる。
【0131】
また、本実施形態による流速計測システム100(評価システム)は、加熱部2(熱交換器)と、算出部51と、流速設定部52と、補正部53と、流速決定部54とを備えている。加熱部2は、配管10の表面10aの所定部分で熱交換を行う。算出部51は、配管10の内部を流れる流体の1点以上の流速に対する温度分布の解析値を算出する。流速設定部52は、温度分布の解析値から得られた温度分布の解析値の特徴量と、配管10に関して計測された温度分布の実測値の特徴量に基づいて、流速を設定する。補正部53は、配管10に関して計測された温度分布の実測値に基づく温度分布の基準レベルを示す実測基準レベルに基づいて、算出部51により算出された温度分布の解析値を補正する。流速決定部54は、流速設定部52により設定された流速に対する温度分布の解析値であって、補正部53により補正された温度分布の解析値に基づいて、流速を決定する。
これにより、本実施形態による流速計測システム100は、上述した流速の評価方法と同様に、高精度に流体の流速を評価することができる。また、本実施形態による流速計測システム100は、流速の評価に要する時間を短縮化することができる。
【0132】
[第2の実施形態]
次に、図面を参照して、第2の実施形態による流速の評価方法、及び評価システム(流速計測システム100)について説明する。
本実施形態による流速計測システム100の構成は、基本的に、上述した第1の実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態による流速計測システム100の動作は、基本的に、
図10に示される第1の実施形態と同様であるが、本実施形態では、ベースライン温度に基づく入力温度の調整する処理が、第1の実施形態と異なる。
以下、
図12を参照して、ベースライン温度に基づく入力温度の調整する処理について説明する。
【0133】
図12は、本実施形態によるベースライン温度に基づく入力温度の調整動作の一例を示すフローチャートである。ここで、
図12に示す処理は、
図10のステップS105の詳細な処理の別の一例を示している。
図12に示すように、まず、制御ユニット4の補正部53は、温度分布の実測値のベースライン温度を算出する(ステップS301)。補正部53は、例えば、上述した式(10)を用いて、温度分布の実測値を指数関数で近似させて、温度分布の実測値のベースライン温度(式(10)のC)を算出する。なお、ここでのベースライン温度は、例えば、加熱部2から十分に離れた上流の配管10の表面10aの温度である。
【0134】
次に、補正部53は、実測値のベースライン温度から有限要素法を用いて配管10内の入力温度を算出する(ステップS302)。ここで、座標(i,j)に位置するセルにおける配管10の半径方向の熱バランスは、式(11)のように表される。
【0135】
Q
i,j−1+Q
i,j+1=0 ・・・ (11)
【0136】
ここで、座標(i,j)に位置するセルに半径方向に隣接するセルの座標を、(i,j−1)、(i,j+1)とする。また、Q
i,j−1、Q
i,j+1は、それぞれ、添え字で示す座標に位置するセルからの入熱量を示す。
【0137】
また、対流熱伝達:配管10のセルのうち最内側のセルへの流体(配管10内の流体)からの入熱量は、上述した式(2)と同様の式(12)のように示される。
【0138】
対流熱伝達による入熱量Q=α・A・Δt ・・・ (12)
【0139】
ここで、α[W/(m
2・K)]、A[m
2]、Δt[K]は、上述した式(2)と同様である。
【0140】
また、半径方向熱伝導:配管10内における配管10の半径方向の熱伝導による入熱量は、上述した式(3)と同様に、式(13)のように示される。
【0141】
半径方向熱伝導による入熱量Q=2π・λ・L・Δt/ln(ro/ri)
・・・ (13)
【0142】
ここで、π、λ[W/(m・K)]、L[m]、Δt[K]、ln、ro/ri[m]は、上述した式(3)と同様である。
【0143】
補正部53は、上記の式(11)〜式(13)の3つの式からΔtを算出し、上流の管外壁面温度(ベースライン温度)をΔtにより補正して入力温度を算出する。ここで、Δtは、セル毎における外側と内側の温度差である。補正部53は、例えば、配管10の鋼材でセルが5つ設定されていたとすると、算出したベースライン温度にΔtを5つ分加算して(内側の温度が高いので)、配管10内の壁面温度を算出し、次に配管10内の流体の温度を算出する。補正部53は、上記の式(11)〜式(13)の3つの式を連立方程式とし、例えば、行列を用いて当該連立方程式を解くことにより、Δtを求める。補正部53は、Δtに基づいて、配管10内の流体の温度(入力温度)を算出(推定)する。
【0144】
次に、補正部53は、算出した配管10内の入力温度に変更する(ステップS303)。すなわち、補正部53は、算出した配管10内の入力温度をパラメータとして設定する(記憶部42に記憶させる)。ステップS303の処理後に、補正部53は、ベースライン温度に基づく入力温度の調整動作を終了する。
【0145】
以上説明したように、本実施形態による流速の評価方法では、補正工程において、補正部53が、温度分布の実測値を指数関数で近似させてベースライン温度(実測基準レベル)を算出する。補正部53は、算出したベースライン温度に基づいて、所定部分から上流の基準レベルに対応する配管10の管軸方向の位置における配管10内の温度(入力温度)を推定し、推定した配管10内の温度に基づいて温度分布の解析値を算出することにより、温度分布の解析値を補正する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、ベースライン温度のずれを適切に補正することができる。また、本実施形態による流速計測システム100は、流速の評価方法と同様に、ベースライン温度のずれを適切に補正することができる。
【0146】
[第3の実施形態]
次に、図面を参照して、第3の実施形態による流速の評価方法、及び評価システム(流速計測システム100)について説明する。
本実施形態による流速計測システム100の構成は、基本的に、上述した第1の実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
なお、上述した第1及び第2の実施形態では、流速の設定の際に、ベースライン温度に基づいて温度分布の解析値を補正する場合の例を説明したが、本実施形態では、流速の設定した後に、ベースライン温度に基づいて温度分布の解析値を補正する場合の一例について説明する。
【0147】
図13は、本実施形態による流速計測システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
図13において、ステップS401からステップS404までの処理は、
図10に示すステップS101からステップS104までの処理と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0148】
また、ステップS405からステップS408までの処理は、
図10に示すステップS106からステップS109までの処理と同様であるので、ここではその説明を省略する。なお、ステップS407において、算出部51は、調整される前の配管10の入力温度の値を仮のパラメータとして、有限要素法を用いて、設定した流速で温度分布の解析値を算出する。
また、ステップS408において、流速設定部52は、流速の設定を終了すると判定した場合(ステップS408:YES)に、処理をステップS409に進める。また、流速設定部52は、流速の設定を終了しないと判定した場合(ステップS408:NO)に、処理をステップS405に戻す。
【0149】
ステップS409において、制御ユニット4の補正部53は、ベースライン温度に基づいて、設定した各流速に対する温度分布の解析値を補正する。補正部53は、例えば、温度分布の実測値を指数関数で近似させて実測値のベースライン温度を算出し、各流速に対する温度分布の解析値を指数関数で近似させて、各流速に対する解析値のベースライン温度を算出する。そして、補正部53は、実測値のベースライン温度と、解析値のベースライン温度とに基づいて、各流速に対する温度分布の解析値を補正する。
具体的に、各流速に対して、補正部53は、実測値のベースライン温度と解析値のベースライン温度との差分を算出し、例えば、当該差分をオフセット値として、実測値のベースライン温度と解析値のベースライン温度とが一致するように、温度分布の解析値を補正する。
【0150】
次のステップS410からステップS415までの処理は、
図10に示すステップS110からステップS115までの処理と同様であるので、ここではその説明を省略する。なお、ステップS415において、算出部51は、調整される前の配管10の入力温度の値を仮のパラメータとして、有限要素法を用いて、設定した流速で温度分布の解析値を算出し、処理をステップS409に進める。
【0151】
なお、上述した
図13に示すフローチャートにおいて、ステップS404、ステップS407、及びステップS415は、算出工程に対応し、ステップS405からステップS408は、流速設定工程に対応し、ステップS409は、補正工程に対応する。また、ステップS410からステップS415は、流速決定工程に対応する。
【0152】
以上説明したように、本実施形態による流速の評価方法では、補正工程において、補正部53が、解析値のベースライン温度(解析基準レベル)と、実測値のベースライン温度(実測基準レベル)とに基づいて、温度分布の解析値を補正する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、ベースライン温度のずれを適切に補正することができる。また、本実施形態による流速計測システム100は、流速の評価方法と同様に、ベースライン温度のずれを適切に補正することができる。
【0153】
また、本実施形態では、補正工程において、補正部53が、実測値のベースライン温度と解析値のベースライン温度との差分を算出し、当該差分をオフセット値として、実測値のベースライン温度と解析値のベースライン温度とが一致するように、温度分布の解析値を補正する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、オフセット値を補正するという簡易な手法により、温度分布の解析値を適切に補正することができる。また、本実施形態による流速の評価方法は、例えば、補正のために有限要素法の再実行を必要としないため、流速の評価に要する時間を増加させずに、高精度に流体の流速を評価することができる。
【0154】
[第4の実施形態]
次に、図面を参照して、第4の実施形態による流速の評価方法、及び評価システム(流速計測システム100)について説明する。
本実施形態による流速計測システム100の構成は、基本的に、上述した第1の実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
なお、本実施形態では、流速決定工程が、上述した第1〜第3の実施形態と異なる場合の一例である。本実施形態では、第1の実施形態に対して、他の流速決定工程を実施する例を説明しるが、第2、及び第3の実施形態に対して本実施形態の流速決定工程を実施するようにしてもよい。
【0155】
図14は、本実施形態による流速計測システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
図14において、ステップS501からステップS509までの処理は、
図10に示すステップS101からステップS109までの処理と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0156】
ステップS510において、制御ユニット4は、設定した各流速と、波形面積の解析値との関係の解析値(理論値)を算出する。すなわち、制御ユニット4の流速決定部54は、設定した3点以上のうちの各流速において、流速と温度分布の波形面積(解析値)との関係をフィッティングにより算出する。ここで、フィッティングには、例えば、2次関数が用いられる。
【0157】
次に、制御ユニット4は、流速の候補を決定する(ステップS511)。流速決定部54は、例えば、流速と温度分布の波形面積との関係のフィッティングの結果(解析値)と、計測された温度分布の実測値の波形面積とに基づいて、フィッティングの結果において実測値の波形面積に対応する流速を求めて、当該流速を流速の候補として決定する。
【0158】
次に、制御ユニット4は、流速の候補に対して、温度分布の解析値と実測値との2乗誤差を算出する(ステップS512)。流速決定部54は、流速の候補に対して、例えば、ステップS505の配管10の入力温度の調整により補正された温度分布の解析値と、温度分布の実測値との2乗誤差を算出する。
【0159】
次に、制御ユニット4(流速決定部54)は、流速の候補における2乗誤差が規定値以下であるか否かを判定する(ステップS513)。なお、規定値としては、任意の値が用いられてもよく、例えば、予め設定されてもよい。流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値以下である場合(ステップS513:YES)に、処理をステップS514に進める。また、流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値以下でない場合(ステップS513:NO)に、処理をステップS515に進める。
【0160】
ステップS514において、制御ユニット4(流速決定部54)は、流速の候補を流速として正式に決定して、処理を終了する。
また、ステップS515において、制御ユニット4は、流速(3点以上の流速の組合せ)を変更して、温度分布の解析値を算出する。すなわち、流速決定部54は、算出部51に、ステップS505において調整された配管10の入力温度の値をパラメータに加えて、有限要素法を用いて、変更した流速で温度分布の解析値を算出させる。そして、ステップS515の処理後に、流速決定部54は、処理をステップS510に戻して、ステップS510からステップS513の処理を繰り返す。
【0161】
なお、上述した
図14に示すフローチャートにおいて、ステップS504、ステップS508、及びステップS515は、算出工程に対応し、ステップS506からステップS509は、流速設定工程に対応し、ステップS505、ステップS508、及びステップS515は、補正工程に対応する。また、ステップS510からステップS515は、流速決定工程に対応する。
【0162】
以上説明したように、本実施形態による流速の評価方法では、流速決定工程は、第2−1工程(ステップS510)と、第2−2工程(ステップS511)と、第2−3工程(ステップS512及びステップS513)と、第2−4工程(ステップS514)と、第2−5工程(ステップS515)とを含んでいる。第2−1工程において、流速決定部54は、流速設定工程により設定された流速のそれぞれにおいて、流速と有限要素法を用いて得られた)温度分布の特徴量との関係の解析値を算出する。第2−2工程において、流速決定部54は、算出された解析値と、計測された実測値の特徴量とに基づいて、流速の候補を決定する。第2−3工程において、流速決定部54は、決定された流速の候補において、補正された温度分布の解析値と(計測された)温度分布の実測値との2乗誤差が所定の規定値以下であるか否かを判定する。第2−4工程において、流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値以下であると判定した場合に、流速の候補を流速として正式に決定する。また、第2−5工程において、流速決定部54は、2乗誤差が所定の規定値を超えると判定した場合には、流速を変更して、再び第2−1工程へ移行する。
これにより、本実施形態による流速の評価方法は、流速を決定するのに要する時間を、短縮化することができるとともに、配管10に関して計測された温度分布の実測値から適切に流速を決定することができる。
【0163】
なお、本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、上記の各実施形態において、流速決定部54は、2乗誤差を用いて流速を決定する例を説明したが、これに限定されるものではなく、他の誤差が用いられてもよい。
【0164】
また、上記の各実施形態において、配管10内を流れる流体は、蒸気又は空気である場例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、配管10内を流れる熱水の流速を計測する場合にも、上記の各実施形態に係る構成を適用することが可能である。また、配管10内を流れる流体がフロン、アンモニア、LNG(Liquefied Natural Gas)等であってもよく、これらの流体の流速を計測する場合にも本実施形態に係る構成を適用することが可能である。
【0165】
また、上記の各実施形態において、配管10と熱交換を行う熱交換器として加熱部2を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、熱交換器としては、配管10の表面10aを冷却する冷却器を用いてもよく、冷却することで配管10の管軸方向に生じた温度分布に基づいて配管10内を流れる蒸気の流速を計測しても良い。この場合において、蒸気が飽和蒸気或いはそれに近い過熱蒸気の時は、凝縮が生じる可能性が有ることから熱伝達率算出の際はそれを考慮する必要がある。
【0166】
また、流速計測システム100(
図1)において、プレヒーター2bは必須の構成ではない。流速計測システム100の構成を、プレヒーター2bを備えていない構成としてもよい。
【0167】
なお、上記の各実施形態において、以下のような構成が用いられてもよい。
一構成例として、配管の内部を流れる流体の流速と前記配管の表面の温度分布との関係を示す関係情報を求める関係情報設定方法であって、前記配管の表面の所定部分で熱交換を行う熱交換工程と、前記配管を流れる流体のうち、前記配管の表面の所定部分で行われる熱交換による熱の伝達に寄与する流体の量的割合を示す温度境界係数の値を取得する温度境界係数値取得工程と、前記温度境界係数値取得工程で取得した温度境界係数の値に基づいて前記関係情報を求める関係情報設定工程と、を含む関係情報設定方法が用いられてもよい。
一構成例として、関係情報設定方法において、前記温度境界係数値取得工程では、前記流体の流速ごとに前記温度境界係数の値を取得する、構成が用いられてもよい。
一構成例として、関係情報設定方法において、前記所定部分で熱交換が行われた前記配管の管軸方向における前記配管の表面の温度分布を計測する温度計測工程と、前記流体の流速を計測する流速計測工程と、を含み、前記温度境界係数値取得工程では、前記温度計測工程で計測した前記温度分布、及び、前記流速計測工程で計測した流速に基づいて前記温度境界係数の値を設定する、構成が用いられてもよい。
一構成例として、配管の内部を流れる流体の流速が計測対象の流速となっている状態で、前記配管の表面の所定部分で熱交換を行う流速計測時熱交換工程と、前記流速計測時熱交換工程にて前記所定部分で熱交換が行われた前記配管の管軸方向における前記表面の温度分布を計測する流速計測時温度分布計測工程と、前記流速計測時温度分布計測工程で計測した前記温度分布、及び、関係情報設定方法にて得られた関係情報に基づいて、前記配管の内部を流れる前記流体の流速を求める流速取得工程と、を含む流速計測方法が用いられてもよい。
【0168】
一構成例として、配管の内部を流れる流体の流速と前記配管の表面の温度分布との関係を示す関係情報を求める関係情報設定システムであって、前記配管の表面の所定部分で熱交換を行う熱交換器と、前記配管を流れる流体のうち、前記配管の表面の所定部分で行われる熱交換による熱の伝達に寄与する流体の量的割合を示す温度境界係数の値を取得する温度境界係数値取得部と、前記温度境界係数値取得部が取得した温度境界係数の値に基づいて前記関係情報を求める関係情報設定部と、を備える関係情報設定システムが用いられてもよい。
一構成例として、関係情報設定システムにおいて、前記温度境界係数値取得部は、前記流体の流速ごとに前記温度境界係数の値を取得する、構成が用いられてもよい。
一構成例として、関係情報設定システムにおいて、前記所定部分で熱交換が行われた前記配管の管軸方向における前記配管の表面の温度分布を計測する温度計測部と、前記流体の流速を計測する流速計測部と、を備え、前記温度境界係数値取得部は、前記温度計測部が計測した前記温度分布、及び、前記流速計測部が計測した流速に基づいて前記温度境界係数の値を設定する、構成が用いられてもよい。
一構成例として、関係情報設定システムの前記関係情報設定部が設定した関係情報を記憶する記憶部と、配管の内部を流れる流体の流速が計測対象の流速となっている状態で、前記配管の表面の所定部分で熱交換を行う熱交換器と、前記所定部分で熱交換が行われた前記配管の管軸方向における前記配管の表面の温度分布を計測する温度計測部と、前記温度計測部が計測した温度分布、及び、前記記憶部が記憶している関係情報に基づいて、前記流体の流速を算出する流速算出部と、を備える流速計測システムが用いられてもよい。
【0169】
なお、以上に示した実施形態に係る装置(例えば、計算装置40)の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、処理を行ってもよい。すなわち、上述した計算装置40が備える各構成は、内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した計算装置40が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述した計算装置40が備える各構成における処理を行ってもよい。
【0170】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、オペレーティング・システム(OS:Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disk)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
さらに、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0171】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。