(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程Bにおいてアルカリを加えた後に、蒸留、ろ過及び分液の群から選ばれる少なくとも1種の処理を行う工程Cを具備する、請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
前記工程Bの前に、前記工程Aで得られた前記粗生成物に有機溶媒を加えて抽出処理をした後、前記粗生成物を含む前記有機溶媒の層を取り出す分液工程を具備する、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
前記有機溶媒が炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルカン及び炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルケンの群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載のエステル化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の製造方法では、下記一般式(1)
R
ACOOR
B (1)
(式中、R
A及びR
Bはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、エーテル性酸素原子含有アルキル基、又は、一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基であり、R
A及びR
Bはそれぞれ互いに同一又は異なっていてもよい)
で表されるエステル化合物の製造において、特に、下記一般式(2)
R
ACF
2OR
B (2)
(式中、R
A及びR
Bは式(1)と同義であり、R
A及びR
Bはそれぞれ互いに同一又は異なっていてもよい)
で表される化合物を、SiO
2を含む材料及びR
BOH(R
Bは式(1)と同義である)の存在下において、酸触媒に接触させることで前記エステル化合物及びフッ化水素を含む粗生成物を得る工程Aを具備し、さらに、前記粗生成物にアルカリを加える工程Bを具備する。
【0012】
上記製造方法によれば、高い純度でエステル化合物を回収することができ、しかも、簡便な方法で安価にエステル化合物を製造できる。そのため、例えば、医農薬中間体等として有用なジフルオロ酢酸エステル等のジフルオロエステル化合物の製造方法として適している。
【0013】
式(1)におけるアルキル基としては、炭素数が1〜20であることが好ましく、1〜12がより好ましく、1〜4が特に好ましい。アルキル基のさらなる具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、およびオクチル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状または分枝鎖状のいずれでもよい。
【0014】
式(1)におけるハロゲン化アルキル基としては、上記アルキル基において、水素原子の1個以上がハロゲン原子に置換された基が挙げられる。ハロゲン原子としては、特に限定されないが、フッ素原子が好ましい。ハロゲン化アルキル基は、全ての水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0015】
式(1)におけるエーテル性酸素原子含有アルキル基としては、アルコキシ基またはアルコキシアルキル基等が例示される。エーテル性酸素原子含有アルキル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12がより好ましく、1〜4が特に好ましい。
【0016】
その他、上記のエーテル性酸素原子含有アルキル基としては、エーテル性の酸素原子を二以上有した基であってもよい。
【0017】
式(1)における一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基としては、上記エーテル性酸素原子含有アルキル基において、水素原子の1個以上がハロゲン原子に置換された基が挙げられる。ハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基とは、例えば、ハロゲン含有(ポリ)エーテル基、すなわち、一個以上のハロゲン原子を有する(ポリ)エーテル基である。ハロゲン原子としては、特に限定されないが、フッ素原子が好ましい。一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基は、全ての水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0018】
上記の一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基の具体例としては、フルオロアルコキシ基、フルオロアルコキシアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、パーフルオロアルコキシアルキル基が挙げられる。
【0019】
その他、上記の一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基としては、エーテル性の酸素原子を二以上有した基であってもよい。
【0020】
式(2)で表される化合物は、式(1)で表されるエステル化合物を製造するための出発原料である。R
A及びR
Bは式(1)と同義である。
【0021】
式(2)におけるR
Aとしては、例えば、HCF
2であることが好ましい。この場合、式(1)で表されるエステル化合物を、より高純度で得ることが可能である。
【0022】
式(2)におけるR
Bとしては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が好ましく、この場合、式(1)で表されるエステル化合物を、より高純度で得ることができる。
【0023】
式(2)におけるR
A及びR
Bの組み合わせとしては、R
AがHCF
2、R
Bが炭素数1〜4のアルキル基あることが特に好ましい。この場合、所望の式(1)で表されるエステル化合物が高純度で得られやすい上に、得られた式(1)で表されるエステル化合物は、医農薬中間体等として特に有用であるからである。式(2)におけるR
AがHCF
2、R
Bが炭素数1〜4のアルキル基である場合、生成する式(1)で表されるエステル化合物は、ジフルオロ酢酸エステルである。
【0024】
工程Aで用いるSiO
2を含む材料は、SiO
2のみであってもよいし、SiO
2を構成成分として含有する材料であってもよい。SiO
2を含む材料がSiO
2である場合、SiO
2の純度は、特に限定的ではないが、80重量%程度以上であれば、高い収率で目的のエステル化合物を得ることができる。
【0025】
SiO
2を含む材料の具体例としては、シリカゲル、珪石、珪砂、ガラス、石英等が挙げられる。また、SiO
2を含む材料は、SiO
2と他の金属及び/又は金属酸化物との複合酸化物であってもよい。この複合酸化物としては、シリカ―チタニア複合酸化物、シリカ―アルミナ複合酸化物、シリカーアルミナ−鉄複合酸化物が例示される。
【0026】
SiO
2を含む材料は、例えば、市販品を使用することができる。SiO
2を含む材料としてはシリカゲル、珪石粉末、珪砂粉末などがより好ましい。これらは、通常、溶存水分として水を含むか、あるいは、表面に水酸基を有する。これによって、出発原料である式(2)で表される化合物の分解反応が進行しやすくなる。SiO
2を含む材料としては、特に、珪石粉末及びシリカゲルの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
SiO
2を含む材料の形状は特に限定されず、例えば、良好な反応性を維持するという観点から、粒径1μm〜2mm程度の粉末であることが好ましい。
【0028】
SiO
2を含む材料の使用量は、特に限定的ではなく、例えば、式(2)で表される化合物1モルに対して、SiO
2を含む材料(SiO
2換算)を0.5〜1.5モルとすることができる。
【0029】
工程Aで用いるR
BOH(R
Bは式(1)と同義である)としては、特に制限されず、例えば、従来からジフルオロ酢酸エステル等のジフルオロエステル化合物を製造する際に使用されている低級アルコール(例えば、炭素数が1〜4のアルキル基)とすることができる。このような低級アルコールとしては、エタノール及びメタノールが例示される。特に、工程Aで用いるR
BOHのR
Bは、工程Aで用いる式(2)で表される化合物のR
Bと同一とすることが好ましい。例えば、式(2)で表される化合物のR
Bがエチル基であれば、R
BOHはエタノールであることが好ましい。R
BOHは、異なる2種以上を併用してもよい。
【0030】
R
BOHの使用量は、原料として用いる式(2)で表される化合物1モルに対して0.03〜1モル程度とすることが好ましく、0.3〜0.6モル程度とすることがより好ましい。
【0031】
工程Aで用いる酸触媒としては、酸加水分解反応に対して活性を有する物質であれば特に制限されない。このような酸触媒の具体例としては、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化ホウ素、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸等が挙げられる。特に好ましい酸触媒は硫酸である。酸触媒は、異なる2種以上を併用してもよい。
【0032】
工程Aにおいて、SiO
2を含む材料及びR
BOHの存在下、式(2)で表される化合物を酸触媒に接触させる方法は特に限定されず、例えば、公知の方法に従って、接触させることができる。例えば、式(2)で表される化合物、SiO
2を含む材料、R
BOH及び酸触媒を同時に接触させる方法が挙げられる。より具体的には、式(2)で表される化合物、SiO
2を含む材料及びR
BOHを含む反応容器中に酸触媒を滴下する方法等を適用できる。
【0033】
酸触媒の使用量については、原料として用いる式(2)で表される化合物1モルに対して0.1〜0.5モル程度とすることが必要であり、0.2〜0.4モル程度とすることが好ましい。酸触媒の使用量を上記範囲とすることによって、20〜60℃という低い反応温度であっても、過剰な酸触媒を用いることなく、反応を進行させることができる。さらに、酸触媒を上記使用量でR
BOHと併用することによって、高い選択率で、式(1)で表されるエステル化合物を得ることができる。
【0034】
SiO
2を含む材料及びR
BOHの存在下、式(2)で表される化合物を酸触媒に接触させることで反応が進行する。
【0035】
上記反応の温度は、例えば、20〜60℃程度とすることができ、30〜50℃とすることが好ましい。この様な比較的低い反応温度とすることによって、原料や副生成物の揮発を抑制して、収率良く目的とする式(1)で表されるエステル化合物を得ることができる。
【0036】
反応時の雰囲気については、特に限定はないが、過剰の水分の存在下での反応を避ける場合は、大気圧で反応を行うことが好ましい。大気圧で反応を行う場合は、乾燥空気や窒素もしくは不活性ガス雰囲気中等で反応を行うことが好ましい。
【0037】
反応時の圧力も特に限定されない。反応系内にはSiO
2が含まれるので、反応の進行に伴って後述するようにSiF
4ガスが発生し、これにより容器内の圧力が上昇しやすくなる。この場合には、発生したSiF
4ガスを系外に除去して圧力を調節すればよい。
【0038】
反応時間は、通常、3時間〜48時間程度である。
【0039】
工程Aの反応においては、R
BOHを二回に分けて反応系に添加することもでき、この場合、式(1)で表されるエステル化合物の選択率及び収率を向上させることができる。この方法では、反応開始時に使用するR
BOHを式(2)で表される化合物1モルに対して、0.01〜0.5モル程度、好ましくは0.2〜0.3モル程度とし、反応開始から30分以上経過後、好ましくは1時間程度以上経過後、さらに好ましくは3時間程度以上経過後に、さらに、0.02〜0.5モル程度、好ましくは0.1〜0.3モル程度のR
BOHを添加することが好ましい。二回目にR
BOHを添加した後には、さらに反応を1〜10時間程度継続し、全体の反応時間を3〜48時間程度とすることが好ましい。この方法によれば、反応速度の低下が生じることなく、高い選択率で、収率よく式(1)で表されるエステル化合物を得ることができる。
【0040】
工程Aにおける反応では、目的生成物である式(1)で表されるエステル化合物の他、フッ化水素も副生する。従って、工程Aの反応により、前記エステル化合物及びフッ化水素を含む粗生成物が得られる。その他、工程Aで使用した各種原料(すなわち、未反応原料)も粗生成物に含まれ得る。
【0041】
また、反応系内にはSiO
2が含まれるので、式(2)で表される化合物の加水分解反応によって生じたHFが、系内でSiO
2と反応し得る。これにより、SiF
4も副生し得る。しかし、ここで生じたSiF
4は気体であるために、反応中あるいは反応後に容易に系外に除去することができる。ここで発生するSiF
4ガスは、例えば、コンデンサーを通じて、HF水溶液を仕込んだ洗浄塔に放出することで、ケイフッ酸として回収することができる。
【0042】
工程Bでは、工程Aで得られた上記粗生成物からフッ化水素等を除去して、式(1)で表されるエステル化合物を得る。この工程Bでは、前記エステル化合物及びフッ化水素を含む粗生成物にアルカリを加える操作を行う。
【0043】
アルカリの種類は特に限定的ではなく、例えば、無機物、有機物のいずれであってもよい。具体的なアルカリとしては、NaHCO
3、KHCO
3、Ca(OH)
2、Mg(OH)
2、NaOH、KOH等の無機物が挙げられ、その他、NaOR、KOR等(Rは例えば、炭素数1〜4のアルキル基)の金属アルコキシドであってもよい。これらのアルカリであれば、金属フッ化物が形成され、分離が容易になるので、高い純度のエステル化合物を製造しやすくなる。特に、アルカリがNaOR、KOR等の金属アルコキシドであれば、アルカリ処理による中和時に水を生成せず、不要な加水分解が抑制され得る点で好ましい。また、アルカリが無機物である場合は、中和時の加水分解が抑制される観点から、NaHCO
3、KHCO
3が好ましい。なお、アルカリは、異なる2種以上を併用してもよい。
【0044】
工程Bで粗生成物にアルカリを加えるにあたって、アルカリは固体状態で加えてもよいし、あるいは、アルカリをあらかじめ溶媒に溶解させてアルカリ溶液として加えてもよい。アルカリを溶解させる溶媒は、例えば、アルカリが無機物であれば水等であるが、デカン等の高沸点有機溶媒や、他の有機溶媒を用いてもよく、この場合、アルカリは無機物、有機物のいずれであってもよい。
【0045】
アルカリの使用量は限定的ではないが、副生成物を除去しやすいという観点から、式(2)で表される化合物1モルに対し、0.01〜0.2モルとすることができる。好ましいアルカリの使用量は、式(2)で表される化合物1モルに対し、0.01〜0.1モルである。
【0046】
粗生成物には、上述のように式(1)で表されるエステル化合物及びフッ化水素が含まれ、その他、上記した各々の未反応原料やSiF
4も含まれ得る。さらに、副生したフッ化水素は、H
2SiF
6をさらに副生させるため、このような化合物も副生成物として含まれる。これらの未反応原料や副生成物が含まれる粗生成物にアルカリが加えられると中和が起こり、フッ化水素、SiF
4、H
2SiF
6などがアルカリによって分解されてM
aSiF
6及びM
bFが沈殿物として生成し得る。ここで、Mは、上述したアルカリに由来するアルカリ金属、例えば、Na、K、Ca、Mgである。MがNa、Kであれば、aは2、bは1であり、MがCa、Mgであれば、aは1であり、bは0.5である。
【0047】
上記中和で生成したM
aSiF
6及びM
bFは沈殿物として生成するので、いずれも粗生成物から容易に除去することができる。この結果、粗生成物から式(1)で表されるエステル化合物を容易に取り出すことができ、高純度でエステル化合物を得ることができる。
【0048】
アルカリは、NaHCO
3及びナトリウムアルコキシドの群から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましく、この場合、上記中和反応が進行しやすい。ナトリウムアルコキシドは、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドが例示される。特に、アルカリがナトリウムアルコキシドである場合、次の反応
RONa + HF → NaF +ROH
(Rは式(1)と同義であり、特に、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい)により、HFを除去することができる。しかも、この反応では水の生成が抑制され、ROH(アルコール)が生成する。このROHは蒸留等の操作によって、水に比べて容易に分離することができるので、アルカリがナトリウムアルコキシドである場合は、HFをより簡便な方法で除去することが可能となる。
【0049】
アルカリ処理した粗生成物から式(1)で表されるエステル化合物を取り出す方法は特に限定されないが、例えば、蒸留、ろ過、分液等の処理によって式(1)で表されるエステル化合物を取り出すことができる。これらの処理は組み合わせてもよい。
【0050】
すなわち、本実施形態の製造方法では、前記工程Bにおいてアルカリ加えた後に、蒸留、ろ過及び分液の群から選ばれる少なくとも1種の処理を行う工程Cを具備することができる。これにより、アルカリ処理された粗生成物から、式(1)で表されるエステル化合物を簡便な方法で、かつ、純度よく、取り出すことができる。
【0051】
上記蒸留は、1kPa程度の減圧下で行ってもよいし、大気圧下で行ってもよい。上記ろ過は、蒸発による収率低下が起こりにくいという観点から、大気圧下又は加圧下で行うことが好ましい。上記分液の方法については特に制限はなく、0〜40℃程度の常温、大気圧下で行うことができる。この分液で使用する有機溶媒は特に限定されず、例えば、後述の有機溶媒と同様とすればよい。
【0052】
本実施形態の製造方法では、工程Bの前に、工程Aで得られた前記粗生成物に有機溶媒を加えて抽出処理をした後、前記粗生成物を含む前記有機溶媒の層を取り出す分液工程を具備することもできる。
【0053】
上記分液工程にて、粗生成物に有機溶媒を加えることで、有機溶媒の層には、粗生成物が抽出される。この抽出された粗生成物に含まれる成分は、主に式(1)で表されるエステル化合物であり、その他の上記各副生成物も有機溶媒の層へ抽出されるが、抽出前に比べると有機溶媒の層に含まれる副生成物の量は大きく低減される。
【0054】
上記抽出処理の後、有機溶媒の層を取り出し、他の層は除去する。この有機溶媒の層に含まれる粗生成物を、上述と同様のアルカリ処理を行うことで、中和反応が進行して副生成物が除去され、式(1)で表されるエステル化合物を高純度で得ることができる。上記同様、アルカリ処理の後は、必要に応じて工程Cを経ることもできる。
【0055】
上記分液工程を経ることで、未反応原料が多量に除去され、また、粗生成物に含まれる副生成物の量がより低減されるので、結果として、さらに高い純度で目的のエステル化合物を得ることができる。
【0056】
分液工程で使用する有機溶媒の種類は特に限定的ではないが、例えば、炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルカン及び炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルケンの群から選ばれる少なくとも1種であること好ましい。この場合、式(1)で表されるエステル化合物が有機溶媒層へ抽出されやすく、エステル化合物をより高収率、かつ、高純度で得ることができる。このような有機溶媒としては、例えば、n−デカンが挙げられる。有機溶媒は、異なる2種以上を併用してもよい。
【0057】
また、本実施形態の製造方法では、工程Bの前に、前記粗生成物を蒸留してもよい。この蒸留は、上記分液工程の前に行ってもよいし、あるいは、上記分液工程の前に行ってもよい。あるいは、工程Bの前に蒸留のみを行い、分液工程は行わなくてもよい。
【0058】
本実施形態の製造方法では、副生成物を十分に除去することができ、高純度で目的の式(1)で表されるエステル化合物を得ことができる。特に、本実施形態の製造方法では、従来、除去することが困難であったフッ化水素をより簡便な方法で除去することができる点で有利である。
【0059】
また、本実施形態の製造方法では、アルカリが添加される粗生成物には、SiO
2を含む材料が存在していることで、上述のように一部のフッ化水素が反応する。これにより、粗生成物中にフッ化水素量が減少するので、アルカリの使用量を少なくすることができる。この結果、アルカリによって、目的物のエステル化合物が加水分解されにくく、目的のエステル化合物を高い収率で得ることが可能となる。
【0060】
また、エステル化合物中にフッ化水素が不純物として含まれにくいことから、生成物を次工程に供給したとしても、反応器を腐食させる等の問題を起こしにくい。従って、例えば、医薬、農薬の中間体として有用な化合物であるジフルオロ酢酸エチル等に代表されるジフルオロエステル化合物を製造する方法として本実施形態の製造方法が好適である。
【0061】
また、従来のように蒸留だけでフッ化水素を除去する方法では、フッ化水素が除去されたとしても、副生したケイフッ化水素酸等が不純物として残存しやすいので、この不純物の分解によって生じたSiO
2が、例えば冷却管内に蓄積されて冷却管内の熱伝導率の低下を引き起こす。しかし、本実施形態の製造方法では、アルカリ処理することで、不純物として存在していたH
2SiF
6がより安定な塩(例えば、Na
2SiF
6)を形成する結果、SiO
2が冷却管内に蓄積することが防止されやすい。これにより、冷却管内の熱伝導率の低下が起こりにくく、目的物の式(1)で表されるエステル化合物の反応を連続して行ったとしても、安定した反応を続けることができる。その結果、エステル化合物の回収率の低下も抑制でき、しかも、長期間にわたって、高収率、かつ、高純度でエステル化合物を製造することができる。
【0062】
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、特に、フッ化水素が副生するような反応に対して特に好適である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
−20℃に冷却したコンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、クロマトグラフ用シリカゲル60g、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン300g、エタノール19.0gを仕込み、内温を50℃に加熱した。その後、98%硫酸100.8gを滴下した。反応中、発生するSiF
4ガスはコンデンサーを通じてHF水溶液を仕込んだ洗浄塔に放出し、ケイフッ酸として回収した。オートクレーブを50℃で18時間加熱撹拌した後、さらにエタノール28.4gを加え50℃で5時間加熱撹拌した。得られた反応混合物(粗生成物)を室温まで冷却し、オートクレーブを窒素で0.5MPaに加圧し、脱圧して酸性ガスをパージする作業を3回繰り返した。
【0065】
反応混合物をフッ素樹脂製分液ロートに移した後、そこへn−デカン300gを加えて洗浄分液し、上層を有機層として回収した。この有機層に5%NaHCO
3水溶液200gを加え、洗浄を行った(工程B)。その後、アルカリ処理した反応混合物を回収して1Lのガラスフラスコに仕込み、ガラス製精留塔を使用して大気圧で精留を行った。目的物が99.8%以上の留分を集め、185gのジフルオロ酢酸エチルを得た(収率73%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は5ppmであった。Fイオン濃度はイオンメーターを使用して測定し、ASTM規格 D−1179に準拠して分析した。以降の実施例及び比較例においても同様である。
【0066】
(実施例2−1)
工程Bにおいて、5%NaHCO
3水溶液200gの代わりにNaHCO
3を15gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法でジフルオロ酢酸エチルを得た(192g、収率75%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は13ppmであった。
【0067】
(実施例2−2)
工程Bにおいて、NaHCO
315gの代わりにナトリウムエトキシド5gに変更したこと以外は実施例2−1と同様の方法でジフルオロ酢酸エチルを得た(198g、収率78%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は11ppmであった。
【0068】
(実施例3)
−20℃に冷却したコンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、クロマトグラフ用シリカゲル60g、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン300g、エタノール19.0gを仕込み、内温を50℃に加熱した。その後、98%硫酸100.8gを1時間かけて滴下した。反応中、発生するSiF
4ガスはコンデンサーを通じてHF水溶液を仕込んだ洗浄塔に放出し、ケイフッ酸として回収した。オートクレーブを50℃で18時間加熱撹拌した後、さらにエタノール28.4gを加え50℃で5時間加熱撹拌した。得られた反応混合物(粗生成物)を室温まで冷却し、オートクレーブを窒素で0.5MPaに加圧し、脱圧して酸性ガスをパージする作業を3回繰り返した。
【0069】
反応混合物を単蒸留し、酸分やエタノールを含む粗体230gを得た。この粗体を、φ2.5cm×高さ30cm、スチル容量1Lのステンレス製精留塔に仕込み、NaHCO
330gを加えて室温で1時間撹拌した後(工程B)、大気圧で精留を行った。目的物が99.8%以上の留分を集め、219gのジフルオロ酢酸エチルを得た(収率86%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は8ppmであった。
【0070】
(比較例1)
−20℃に冷却したコンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、クロマトグラフ用シリカゲル60g、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン300g、エタノール19.0gを仕込み、内温を50℃に加熱した。その後、98%硫酸100.8gを滴下した。反応中、発生するSiF
4ガスはコンデンサーを通じてHF水溶液を仕込んだ洗浄塔に放出し、ケイフッ酸として回収した。オートクレーブを50℃で18時間加熱撹拌した後、さらにエタノール28.4gを加え50℃で5時間加熱撹拌した。得られた反応混合物(粗生成物)を室温まで冷却し、オートクレーブを窒素で0.5MPaに加圧し、脱圧して酸性ガスをパージする作業を3回繰り返した。
【0071】
反応混合物を単蒸留し、酸分やエタノールを含む粗体230gを得た。この粗体を、φ2.5cm×高さ30cm、スチル容量1Lのステンレス製精留塔に仕込み、大気圧で精留を行った。目的物が99.8%以上の留分を集め、213gのジフルオロ酢酸エチルを得た(収率83%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は140ppmであった。また、反応装置において、コンデンサーにはシリカの付着が見られた。
【0072】
以上の実施例及び比較例の結果から、エステル化合物及びフッ化水素を含む粗生成物にアルカリを加える処理を行う工程を経ることで、フッ化水素等のフッ素分を効率よく除去することができ、高純度でジフルオロ酢酸エチル等のエステル化合物を製造できることがわかる。