(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記注入する段階は、前記p型不純物を前記予め定められた領域に注入する前に、前記窒化物半導体層に対するn型不純物を前記窒化物半導体層の予め定められた他の領域に注入することを含み、
前記n型不純物を注入する段階の前に、前記予め定められた他の領域上に直接接して、シリコンおよび酸素の一種類以上を含む第3の保護膜を形成する段階をさらに備え、
前記第3の保護膜を除去した後に、前記第1の保護膜を前記原子層堆積法により形成する
請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、第1実施形態におけるGaN層20にp型領域24を形成する製造方法100を示す図である。窒化物半導体層としてのGaN層20は、MOSFET(Metal‐Oxide‐Semiconductor Field‐Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)またはダイオード等の半導体装置に用いられてよい。
【0019】
本例の製造方法100は、p型不純物をGaN層20に注入する段階(S10)と、第1の保護膜30を原子層堆積法(Atomic Layer Deposition。以下、ALDと略記する。)により形成する段階(S20)と、GaN層20と第1の保護膜30とを有する被処理積層体41をアニールする段階(S30)と、第1の保護膜30を除去する段階(S40)とを備える。本例では、S10からS40の順に、各段階が実行される。
【0020】
なお、本明細書においては、窒化物半導体の例としてGaNのみを記載する。ただし、窒化物半導体層はアルミニウム(Al)およびインジウム(In)の一以上の元素をさらに含んでもよい。つまり、窒化物半導体は、混晶半導体Al
xIn
yGa
1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1)であってもよい。
【0021】
図2のS10〜S40は、製造方法100の各段階を示す図である。S10において、マスク90‐1を介してn型のGaN層20のn型領域22にp型不純物をイオン注入する。具体的には、マスク90‐1の開口94‐1の形状に対応した予め定められた領域にMgをイオン注入する。p型領域24は、最上部がGaN層20のおもて面14に露出し、かつ、おもて面14から所定の深さ範囲を有する。p型領域24は、S30のアニールを経た後に、正孔が多数キャリアとなる領域である。S10およびS20においては十分なp型が発現していないが、p型不純物が注入された領域であることを示すために、点線にてp型領域24を示す。なお、n型領域22は、電子が多数キャリアである領域である。
【0022】
なお、本例においてはp型不純物をイオン注入する例を記載するが、他の例においては、GaN層20の予め定められた領域にn型不純物をイオン注入してよい。この場合においても、本例の第1の保護膜30をALD形成する段階(S20)と、被処理積層体41とをアニールする段階(S30)とを適用してよい。
【0023】
本例のp型不純物は、GaNに対するp型不純物である。GaNに対するp型不純物は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Be(ベリリウム)およびZn(亜鉛)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、p型不純物としてMgを用いる。また、本例のn型不純物は、GaNに対するn型不純物である。GaNに対するn型不純物は、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、およびO(酸素)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、n型不純物としてSiを用いる。
【0024】
マスク90の材料は、GaN層20に対して選択的に除去可能な二酸化シリコン(SiO
2)であってよく、フォトリソグラフィープロセスで用いられるフォトレジストであってもよい。マスク90の開口94は既知のフォトリソグラフィープロセスにより形成することができる。
【0025】
S20において、GaN層20をALD装置80の反応チャンバ内に載置する。その後、少なくともp型領域24上に直接接する第1の保護膜30をALDにより形成する。本例においては、おもて面14の全面に直接接する第1の保護膜30を形成する。これにより、第1の保護膜30およびGaN層20を有する被処理積層体41を形成する。
【0026】
第1の保護膜30は、GaN層20から窒素原子が分解して放出されることを抑制する機能を有する。後述の実験例において述べるように、本願の発明者は、第1の保護膜30とおもて面14との密着性が低いほどアニール中におもて面14に荒れが生じやすいことを見出した。これは、第1の保護膜30とおもて面14との密着性が低いほど、窒素原子の放出を抑制する保護膜の機能が低下するからであると推測される。
【0027】
窒素原子が放出されて形成されたGaN層20の窒素空孔は、ドナー型欠陥(つまり、ドナーとして機能する空孔欠陥)として機能する。ドナー型欠陥は、半導体装置の電気特性に悪影響を与えるだけでなく、正孔を補償する。それゆえ、窒素空孔を低減するべく、第1の保護膜30とおもて面14とを密着させることにより、おもて面14の荒れを低減することは、十分なp型特性を発現させるために重要である。
【0028】
本例においては、第1の保護膜30をALDにより形成するので、スパッタリング法(Sputtering。以下、SPTと略記する。)または有機金属成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition。以下、MOCVDと略記する。)に比べて、第1の保護膜30形成時において、第1の保護膜30とおもて面14との界面における密着性を向上させることができる。さらに、第1の保護膜30をALDにより形成することにより、後続のアニール段階(S30)においても、界面に間隙が少ない良好な密着性を維持することができる。
【0029】
S30においては、被処理積層体41を1300℃以上の温度でアニール装置85においてアニールする。本例では、1400℃で30秒間、被処理積層体41をアニールする。これにより、イオン注入により生じた欠陥を修復することができ、正孔として機能するようp型不純物を活性化することができる。それゆえ、S30以降ではp型領域24を実線で示す。
【0030】
S40においては、第1の保護膜30を除去する。本例では、GaN層20上に設けた第1の保護膜30をGaN層20に対して選択的に全てエッチングにより除去する。これにより、p型領域24を有するGaN層20が完成する。
【0031】
図3は、S20における原子層堆積法を説明する図である。第1の保護膜30は、窒化物であってよい。つまり、第1の保護膜30は、窒化アルミニウム(以下、AlNと略記する。)または窒化シリコン(以下、Si
3N
4と略記する。)であってよい。なお、AlNは、Al原子とN原子とが完全に1:1でなくてもよい。Si
3N
4も、Si原子とN原子とが完全に3:4でなくてもよい。すなわち、AlNおよびSi
3N
4において組成比のずれは許容される。
【0032】
本例においては、第1の保護膜30としてAlNを形成するべく、ALD装置80の反応チャンバ内にGaN層20を載置して、アルミニウム原子含有ガスと窒素原子含有ガスとを交互にGaN層20上に供給する。この点においてALDは、材料ガスをGaN層20上に一斉に供給するMOCVDおよび分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy。以下、MBEと略記する。)とは異なり、レイヤー・バイ・レイヤー(layer‐by‐layer)で第1の保護膜30を形成することができる。よって、GaN層20のおもて面14に対して密着性の高い膜を形成することができる。
【0033】
本例のアルミニウム原子含有ガスは、トリメチルアルミニウム(Trimethylaluminium。以下、TMAと略記する。)である。ただし、アルミニウム原子含有ガスは、トリエチルアルミニウム(Triethylaluminium)等のアルキルアルミニウムであってもよい。また、本例の窒素原子含有ガスは、水素(H
2)および窒素(N
2)を有するガスである。ただし、窒素原子含有ガスは、アンモニア(NH
3)であってもよい。
【0034】
AlNをALDにより形成する段階は、以下の段階(a)から段階(d)の1サイクルを複数回繰り返してよい。本例では、200サイクルから800サイクル繰り返す。段階(a):GaN層20上にTMAを供給する、段階(b):GaN層20が載置された反応チャンバを排気する、段階(c):GaN層20上に、窒素を有するガスのプラズマを照射する、および段階(d):反応チャンバを排気する。
【0035】
本例の段階(a)においては、圧力15mTorrとした反応チャンバ内にTMAのガスを供給する。これにより、GaN層20のおもて面14にTMA分子を化学吸着させる。
【0036】
本例の段階(b)においては、反応チャンバ内に不活性の窒素ガス(N
2ガス)を充填することにより、おもて面14に吸着せず反応チャンバ内に滞留しているTMAガスをパージ(purge)する。また、パージと共にまたはパージ後に反応チャンバを排気することにより、化学吸着しなかったTMA分子を反応チャンバから排出する。排気後の反応チャンバの圧力は10mTorrとする。
【0037】
本例の段階(c)においては、GaN層20のおもて面14に水素および窒素を有するガスのプラズマを照射する。プラズマ化した水素は、TMAにおけるAlとメチル基との結合を分離するのに用いられてよい。また、プラズマ化した窒素は、Alと反応することによりAlとNとの結合を形成してよい。これにより、AlNの一原子層を形成することができる。
【0038】
本例の段階(d)においては、段階(b)と同様に、窒素ガスを充填することにより、反応チャンバ内の水素および窒素をパージする。また、パージと共にまたはパージ後に反応チャンバを排気することにより、反応チャンバの圧力を15mTorrとする。これにより、第1サイクルが終了する。続いて第2サイクルの段階(a)を実行する。
【0039】
なお、第1の保護膜30としてSi
3N
4をALDにより形成する他の例においては、シリコン原子含有ガスと窒素原子含有ガスとを交互にGaN層20上に供給する。この場合、段階(a)において、TMAに代えて、Siを有するトリス(ジメチルアミノ)シラン(Tris(dimethylamino)silane)を供給する。なお、段階(b)から段階(d)はAlNの例と同じであってよい。
【0040】
反応チャンバ内に載置されたGaN層20は、段階(a)〜(d)の間、所定の温度になるよう加熱されてよい。GaN層20の所定温度は600℃以下であってよい。GaN層20を600℃よりも高温にすると、GaN層20自身が分解し始める。GaN層20を600℃以下とすることにより、GaN層20の分解を抑制することができる。
【0041】
GaN層20の所定温度は300℃以上となるよう加熱されてよい。300℃以上の温度で第1の保護膜30を形成することにより、反応チャンバ内に残留している酸素が第1の保護膜30に取り込まれることを低減することができる。
【0042】
GaN層20の所定温度は、300℃以上600℃以下、400℃以上600℃以下または500℃以上600℃以下としてよく、300℃以上500℃以下または300℃以上400℃以下としてよく、400℃以上500℃以下または530℃以上570℃以下としてもよい。本例においては、GaN層20の温度を550℃とする。
【0043】
第1の保護膜30は、アニール温度に耐得る程度に耐熱性が高く、熱処理においてGaN層20と良好な密着性を有し、かつ、第1の保護膜30からGaN層20へ不純物が拡散しないことが望ましい。さらに、アニール後に第1の保護膜30を除去するので、第1の保護膜30は下地であるGaN層20に対してエッチング選択性を有することが望ましい。
【0044】
本例では、上述の様に第1の保護膜30に取り込まれる酸素が低減されているので、後続のアニール段階において第1の保護膜30からGaN層20へn型不純物が拡散を低減することができる。なお、第1の保護膜30からn型不純物の拡散を低減するという観点から、n型不純物としてのSiを有するSi
3N
4よりもAlNの方が第1の保護膜30として望ましい。
【0045】
本例の第1の保護膜30は、2nm以上100nm以下の厚みを有する。厚みの下限値は、後述するように第1の保護膜30上にさらに第2の保護膜32を形成する際に、GaN層20へのダメージを低減できる最小の厚みであるとしてよい。この観点から、第1の保護膜30の厚み30の下限は、5nmとしてよく、10nmとしてよく、15nmとしてもよい。
【0046】
第1の保護膜30の厚みの上限は、p型領域24またはこれを有する半導体装置を形成するのに許容される時間に対応する厚みであってよい。本例では、第1の保護膜30をALDによりレイヤー・バイ・レイヤーで形成するので、SPTおよびMOCVD、MBEと比べて成膜レートが低い。例えば、GaN層20を550℃としてALDにより100nmのAlNを形成する場合、6時間以上もの時間を要する。それゆえ、半導体装置の製造方法において許容される時間を考慮して、第1の保護膜30を製造する時間(即ち、第1の保護膜30の厚み)を定めてよい。
【0047】
S40においては、第1の保護膜30を除去する。第1の保護膜30がAlNである場合には、水酸化カリウム水溶液(KOHaq)によりAlNをGaN層20に対して選択的に除去することができる。また、第1の保護膜30がSi
3N
4である場合には、リン酸水溶液(H
3PO
4aq)によりSi
3N
4をGaN層20に対して選択的に除去することができる。
【0048】
図4Aは、第1実験例におけるMOCVD‐AlN膜を示す三次元立体図である。
図4Aは、MOCVD‐AlN膜の形成時(As‐deposited)における1000nm四方のMOCVD‐AlN膜の上面斜視図である。なお、本明細書において、MOCVD‐AlN膜とは、MOCVDにより形成したAlN膜を意味する。
【0049】
本例では、GaN層20を600℃とし、反応チャンバ内の圧力を200Torrとした。また、TMA、アンモニア(NH
3)、水素(H
2)および窒素(N
2)を反応チャンバ内にそれぞれ供給した。当該条件で10分間AlN膜を形成して、18nmの厚みを有するAlN膜を形成した。
【0050】
図4Bは、第2実験例におけるALD‐AlN膜を示す三次元立体図である。
図4Bは、ALD‐AlN膜の形成時(As‐deposited)における1000nm四方のALD‐AlN膜の上面斜視図である。なお、本明細書において、ALD‐AlN膜とは、ALDにより形成したAlN膜を意味する。
【0051】
本例では、上述の製造方法100によりAlN膜を形成した。これにより、18nmの厚みを有するAlN膜を形成した。
【0052】
図4Aおよび
図4Bの対比から明らかな様に、
図4BのALD‐AlN膜は、MOCVD‐AlN膜と比べて凹凸が少ない。つまり、ALD‐AlN膜の方がMOCVD‐AlN膜よりも平坦である。ALD‐AlN膜およびMOCVD‐AlN膜は共に厚みが18nmであるから、平坦なALD‐AlN膜の方がMOCVD‐AlN膜よりもGaN層20との接触面積が多いと言える。つまり、ALD‐AlN膜の方が、MOCVD‐AlN膜よりもGaN層20のおもて面14との密着性が高い。したがって、密着性の高いALD‐AlN膜の方が、MOCVD‐AlN膜よりも窒素原子の放出を抑制する保護膜の機能が優れていると言える。
【0053】
図5は、第3実験例におけるSPT‐AlN膜のアニール温度依存性を示す図である。本明細書において、SPT‐AlN膜とは、SPTにより形成したAlN膜を意味する。
図5上部の4つの像は、第1の保護膜30としてのSPT‐AlN膜およびGaN層20の断面を示すSEM(Scanning Electron Microscope)像である。これに対して、下部の4つの像は、対応する上部のSPT‐AlN膜を除去した後におけるGaN層20のおもて面14を示すAFM(Atomic Force Microscope)像である。
【0054】
最も左側のSEM像およびAFM像は、アニールする前(即ち、SPT‐AlN膜形成時(As‐deposited))の像である。その右隣のSEM像およびAFM像は、1300℃で30秒間アニールした後の像である。最も右側の左隣のSEM像およびAFM像は、1350℃で30秒間アニールした後の像である。最も右側のSEM像およびAFM像は、1400℃で30秒間アニールした後の像である。
【0055】
アニール温度が1350℃および1400℃のSEM像から視認できる様に、アニール温度が1350℃以上である場合には、SPT‐AlN膜の結晶化が顕著になる。特に、SPT‐AlN膜中の結晶粒が、GaN層20からSPT‐AlN膜に向かう方向と平行な方向において、柱状に成長する。
【0056】
結晶粒が柱状に成長することにより、GaN層20のおもて面14とSPT‐AlN膜との間に空隙が発生することが視認できる。このように、第1の保護膜30をSPTにより形成する場合、アニール時に形成される空隙に起因して、第1の保護膜30とGaN層20との間の良好な密着性を維持することができない。
【0057】
各AFM像のおもて面14のラフネス(Rrms)を1000nm角のAFM像から得られた高さ分布の二乗平均平方根(root mean square)により示す。As−depositedのRrmsは0.138nmである。アニール温度1300℃のRrmsは、0.226nmである。これに対して、アニール温度1350℃においては、第1の保護膜30とおもて面14との間の間隙の発生に起因して、Rrmsが3.116nmと、著しく高くなった。アニール温度1400℃においてはアニール温度1350℃よりも低くなったが、それでもアニール温度1400℃のRrmsは1.291nmであった。アニール温度1400℃においてアニール温度1350℃よりもRrmsが低下したのは、高温においてより分解が促進されたことにより、凹凸構造がエッチングされたからと考えられる。
【0058】
図6は、第2実施形態におけるGaN層20にp型領域24を形成する製造方法200を示す図である。本例の製造方法200は、p型不純物をGaN層20に注入する段階(S110)と、第1の保護膜30をALDにより形成する段階(S120)と、第2の保護膜32を形成する段階(S125)と、GaN層20、第1の保護膜30および第2の保護膜32を有する被処理積層体42を1300℃以上の温度でアニールする段階(S130)と、第1の保護膜30および第2の保護膜32を除去する段階(S140)とを備える。本例では、S110からS140の順に、各段階が実行される。
【0059】
第2の保護膜32は、第1の保護膜30を形成する第1の方法とは異なる方法により、第1の保護膜30上に直接接して設けられてよい。本例において、第1の方法はALDであり、第2の方法はSPTである。
【0060】
本例において、第1の保護膜30はALD‐AlN膜であり、第2の保護膜32はSPT‐AlN膜である。ただし、第1の保護膜30と第2の保護膜32とは、互いに異なる材料で材料であってもよい。つまり、構成元素が異なってもよい。第1の保護膜30がALD‐AlN膜である場合に、第2の保護膜32はSPTで成膜された窒化シリコン膜であってよい。
【0061】
第2の保護膜32としては、第1の保護膜30と同程度の熱膨張率αを有し、且つ、第1の保護膜30と同程度の耐熱性を有していればよい。同程度の熱膨張率とは、熱膨張率の差異が±50%以内であることを意味してよい。また、同程度の耐熱性とは、被処理積層体42をアニールする段階(S140)で溶融しないことを意味してよい。
【0062】
第2の保護膜32は、第1の保護膜30よりも厚くてよい。本例において、第2の保護膜32の厚みは200nmであり、第1の保護膜30の厚みは70nmである。結晶性の低い第2の保護膜32を第1の保護膜30よりも厚くすることで、第1の保護膜30にクラック(crack)が生じることを防ぐことができる。また、第1の保護膜30単体の場合と比較して保護膜の物理的強度を向上させることができる。
【0063】
また、第2の保護膜32により第1の保護膜30を押え付けることにより、第1の保護膜30単体の場合と比較して第1の保護膜30とおもて面14との密着性を向上させることができる。さらに、第1の保護膜30よりも耐熱性の高い材料を第2の保護膜32に用いれば、第1の保護膜30単体の場合と比較して保護膜の耐熱性を向上させることもできる。
【0064】
なお、本例においてはp型不純物をイオン注入する例を記載するが、他の例においては、GaN層20の予め定められた領域にn型不純物をイオン注入してよい。この場合においても、本例の第1の保護膜30をALDにより形成する段階(S120)と、第2の保護膜32を形成する段階(S125)と、被処理積層体42を1300℃以上の温度でアニールする段階(S130)とを適用してよい。
【0065】
図7のS110〜S140は、製造方法200の各段階を示す図である。S110、S120およびS130は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。本例のS125においては、第1の保護膜30上に直接接して、第1の保護膜30の全面に第2の保護膜32を設ける。第2の保護膜32は、スパッタリング装置(SPT装置82と略記する。)を用いて形成してよい。また、本例のS140において、第1の保護膜30はALD‐AlN膜であり、第2の保護膜32はSPT‐AlN膜であるので、両者ともにKOHaqにより除去する。
【0066】
図8Aは、第2実施形態において、1400℃でアニールした後におけるGaN層20上のALD‐AlN膜およびSPT‐AlN膜の断面を示すSEM像である。
図8Aから明らかな様に、1400℃でのアニール後においても、第1の保護膜30としてのALD‐AlN膜とGaN層20のおもて面14との間には間隙が無く、良好な密着性を維持している。
【0067】
図8Bは、第2実施形態において、1400℃でアニールした後に、ALD‐AlN膜およびSPT‐AlN膜を除去した状態の、GaN層20のおもて面14を示すAFM像である。おもて面14のラフネス Rrmsは、0.233nmとなった。当該Rrmsの値は、
図5の第3実験例におけるアニール温度1400℃の場合(間隙が生じた例)と比較すると、約1/6である。以上により、SPT‐AlN膜のみを設ける第3実験例と比較して、保護膜として第1の保護膜30および第2の保護膜32の積層を設ける優位性が明らかとなった。
【0068】
図9は、第3実施形態におけるGaN層20にp型領域24を形成する製造方法300を示す図である。本例においては、第1の保護膜30をALDにより形成する段階(S220)の後に、p型不純物を予め定められた領域にイオン注入する。つまり、本例では第1の保護膜30を介してGaN層20にp型不純物をスルードーピング(through doping)する。なお、本明細書において、また、nまたはpの右肩に記載した+または−について、+はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が高く、−はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が低いことを意味する。
【0069】
製造方法300は、第1の保護膜30を形成する段階(S220)と、第1の保護膜30を介してp型不純物を注入する段階(S222)と、第1の保護膜30およびGaN層20を有する被処理積層体43をアニールする段階(S230)とを備える。本例では、S220、S222およびS230の順に各段階が実行される。なお、S220およびS230は、第2実施形態におけるS120およびS130と同じであるので説明を省略する。
【0070】
図10のS220〜S230は、製造方法300の各段階を示す図である。S222においては、マスク90‐3および第1の保護膜30を介してGaN層20のn型領域22にp型不純物をイオン注入する。これにより、p型領域24を形成する。なお、第2実施形態と同様に、第1の保護膜30はALD‐AlN膜である。
【0071】
イオン注入によりAlN膜中のAlまたはNがはじき出されてGaN層20中に注入されたとしても、GaN層20のp型またはn型特性に影響を与えない。また、第1の保護膜30をスルー膜とすることにより、イオン注入時のおもて面14のダメージを低減することができる。スルー膜として用いた第1の保護膜30の上面(おもて面14と接触する面とは反対側の面)は多少荒れるが、第1の保護膜30をそのままアニール段階(S230)において利用しても保護膜として機能し得る。
【0072】
本例の変形例として、S222とS230との間に、第2の保護膜32を形成する段階(S225)をさらに設けてもよい。S225は、第2実施形態のS125と同じであってよい。これにより、第2の保護膜32を設けることの利益を享受できる。
【0073】
図11は、第4実施形態における縦型MOSFET400を示す概要図である。本例は第1の保護膜30を利用して、縦型MOSFET400を形成する例である。縦型MOSFET400は、電流の導通および非導通をスイッチングする機能を有してよい。
【0074】
本例の縦型MOSFET400は、n
+型のGaN基板10、GaN層20、ゲート絶縁膜52、ゲート電極54、ソース電極64およびドレイン電極74を有する。GaN層20は、GaN基板10上に直接接して設けられたホモエピタキシャル層である。上述の実施形態と同様に、おもて面14とは、GaN層20の一主面である。また、裏面16とは、GaN層20と接しないGaN基板10の主面である。GaN基板10とGaN層20との境界を境界12とする。
【0075】
本例において「上」とは、GaN基板10の裏面16からGaN層20のおもて面14に向かう方向を意味する。また、「下」とは、当該「上」と逆方向を意味する。「上」および「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。「上」および「下」は、層および膜等の相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎない。本例の「上」および「下」を第1から第3実施形態に類推適用してもよい。
【0076】
GaN層20は、n型領域22、p型領域24、n
+型領域26およびp
+型領域28を有する。おもて面14の少なくとも一部には、GaN層20に不純物が注入された領域が露出してよい。本例において、不純物が注入された領域とは、おもて面14から所定の深さ範囲に形成されたp型領域24、n
+型領域26およびp
+型領域28である。
【0077】
n型領域22は、縦型MOSFET400のドリフト層として機能する。p型領域24において、ゲート絶縁膜52の直下であってn型領域22とn
+型領域26との間における部分は、チャネル形成領域25として機能する。n
+型領域26は、ソース領域として機能する。n
+型領域26は、電子の通過経路を提供する機能を有する。p
+型領域28は、ソース電極64との接触抵抗を低減する機能、および、オフ時の正孔引き抜き経路を提供する機能を有する。
【0078】
ゲート絶縁膜52は、少なくともp型領域24およびn型領域22の上部に直接接して設けられる。ゲート電極54は、ゲート絶縁膜52上に直接接して設けられる。ソース電極64は、n
+型領域26およびp
+型領域28に電気的に接続して設けられる。また、ドレイン電極74は、GaN基板10の裏面16と直接接して設けられる。
【0079】
ゲート端子50、ソース端子60およびドレイン端子70を、それぞれ円中にG、DおよびSを付けて示す。例えば、ドレイン電極74が所定の高電位を有し、かつ、ソース電極64が接地電位を有する場合に、ゲート端子50からゲート電極54に閾値電圧以上の電位が与えられると、チャネル形成領域25に電荷反転層が形成され、ドレイン端子70からソース端子60へ電流が流れる。また、ゲート電極54に閾値電圧よりも低い電位が与えられるとチャネル形成領域25における電荷反転層が消滅し、電流が遮断される。
【0080】
図12のS310〜S350は、縦型MOSFET400の製造方法を示す図である。S310は、GaN基板10上にエピタキシャル形成されたGaN層20にn型およびp型不純物をイオン注入する段階を示す。S320は、GaN層20のおもて面14上に第1の保護膜30を形成する段階を示す。S330は、GaN基板10、GaN層20および第1の保護膜30を有する被処理積層体44をアニールする段階を示す。S340は、第1の保護膜30を除去する段階を示す。S350は、ゲート絶縁膜52、ゲート電極54、ソース電極64およびドレイン電極74を形成する段階を示す。
【0081】
GaN層20は、10
7cm
−2以下の貫通転位密度を有する自立型のGaN基板10上にMOCVDによりエピタキシャル形成されてよい。S310においては、S10およびS110と同様にマスク90を用いてn型およびp型不純物をイオン注入してよい。本例のS320は、第1の保護膜30のみを用いるが、第2実施形態と同様に、第1の保護膜30および第2の保護膜32を積層した保護膜としてもよい。S330は、S30、S130およびS230と同じである。S340は、S40、S140およびS240と同じである。
【0082】
S350において、ゲート絶縁膜52としてのSiO
2膜であってよく、ゲート電極54として多結晶シリコンであってよい。ソース電極64は、おもて面14と直接接する下層のTi(チタン)層と上層のAl層とを有する積層体であってよい。ドレイン電極74は、GaN基板10の裏面16と直接接する上層のTi層と下層のAl層とを有する積層体であってよい。S350の後、ゲート端子50、ソース端子60およびドレイン端子70と、ゲート電極54、ソース電極64およびドレイン電極74とを配線によりそれぞれ接続する。これにより、縦型MOSFET400が完成する。
【0083】
図13のS405〜S450は、第5実施形態における縦型MOSFET400の製造方法を示す図である。本例は、第3の保護膜34を介してスルードーピングを行う点において第4実施形態と異なる。他の点は、第4実施形態と同じであってよい。本例においては、S405からS450の順に、各段階が実行される。
【0084】
S405は、GaN層20のおもて面14上に直接接して第3の保護膜34を形成する段階を示す。第3の保護膜34は、シリコン(Si)および酸素(O)の一種類以上を含んでよい。本例の第3の保護膜34は、二酸化シリコン(SiO
2)である。本例の第3の保護膜34は、おもて面14の全面に直接接して設けられる。ただし、第3の保護膜34は、少なくともn
+型領域26上に直接接して設けられればよい。
【0085】
第3の保護膜34は、第1の保護膜30および第2の保護膜32とは異なる目的で設けられる。本例においては、イオン注入時のおもて面14のダメージを低減するべく、第3の保護膜34を設ける。それゆえ、アニール時においては、第3の保護膜34は、除去する。第3の保護膜34は、数nm以上1μm未満の厚みを有してよい。本例の第3の保護膜34は、20nmの厚みを有する。
【0086】
S410は、マスク90‐4および第3の保護膜34を介してn型不純物をイオン注入する段階を示す。これにより、開口94‐4の形状に対応した予め定められた他の領域にn
+型領域26を形成する。
【0087】
S414は、第3の保護膜34を除去する段階を示す。S420は、第1の保護膜30をALDにより形成する段階を示す。これにより、GaN基板10、GaN層20および第1の保護膜30を有する被処理積層体45を形成する。
【0088】
S422は、第3実施形態のS322と同様に、第1の保護膜30をスルー膜として用いることにより、GaN層20にp型不純物をイオン注入して、p型領域24を形成する段階を示す。S424は、第1の保護膜30をスルー膜として用いることにより、GaN層20にp型不純物をイオン注入して、p
+型領域28を形成する段階を示す。
【0089】
S424の後に、マスク90‐6を除去する。その後、S430において被処理積層体45をアニールする。被処理積層体45のアニールは、S30、S130、S230およびS330と同様である。なお、マスク90‐6の除去の後、かつ、被処理積層体45をアニールする前に、第1の保護膜30上に第2の保護膜32をさらに設けてもよい。つまり、第2実施形態のS125を適用してもよい。これにより、本例においても、第2の保護膜32を設けることの利益を享受してよい。
【0090】
S430の後に、S440において第1の保護膜30を除去する。S440は、S340と同様である。S450においてゲート絶縁膜52等を形成する。S450は、S350と同様である。なお、S430、S440およびS450の図示は省略する。
【0091】
図14は、第6実施形態における縦型MOSFET600を示す概要図である。本例の縦型MOSFET600のGaN層20は、ゲート絶縁膜52およびゲート電極54が設けられるトレンチ55を有する。また、トレンチ55の底部56にイオン注入によりp型領域59を設ける。係る点が、第4および第5実施形態における縦型MOSFET400と異なる。
【0092】
図15のS510〜S550は、縦型MOSFET600の製造方法を示す図である。本例は、トレンチ55の底部56にイオン注入によりp型領域59を設ける点、および、第1の保護膜30をトレンチ55に設ける点において第4および第5実施形態と異なる。他の点は、第4および第5実施形態と同じであってよい。本例においては、S510からS550の順に、各段階が実行される。
【0093】
S510は、p型領域24、n
+型領域26およびp
+型領域28をイオン注入により形成する段階を示す。S510においては、第3実施形態のS222および第5実施形態のS422と同様に、第1の保護膜30を介したスルードーピングを適用してよい。また、S510においては、第5実施形態のS410と同様に、第3の保護膜34を介したスルードーピングを適用してもよい。S518は、GaN層20を異方性ドライエッチングすることにより、p型領域24を貫通するトレンチ55を形成する段階を示す図である。
【0094】
S519は、トレンチ55の底部56にイオン注入によりp型領域59を設ける段階を示す。p型領域59は、アニールする段階(S530)において活性化される。これにより、p型領域59は、トレンチ55の底部56の角部(つまり、底部56と側部58との境界部)における電界集中を抑制する機能を有する。これにより、ゲート絶縁膜52の劣化を抑制することができる。
【0095】
S520は、おもて面14と、トレンチ55の底部56および側部58とを被覆するように第1の保護膜30を設ける段階を示す。これにより、GaN基板10、GaN層20および第1の保護膜30を有する被処理積層体46を形成する。本例の第1の保護膜30も、ALD‐AlN膜であるので、SPTおよびMOCVDと比べてトレンチ55を確実に被覆することができる。なお、第1の保護膜30上に第2の保護膜32をさらに設けてもよい。つまり、第2実施形態のS125を適用してもよい。これにより、本例においても、第2の保護膜32を設けることの利益を享受してよい。
【0096】
S530は、被処理積層体46をアニールする段階を示す。S540は、第1の保護膜30を除去する段階を示す。S550は、ゲート絶縁膜52等を形成する段階を示す。これらは、第4実施形態のS330、S340およびS350とそれぞれ同じであるので、説明を省略する。
【0097】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0098】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。