(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変速機構と、駆動源と前記変速機構との間に設けられ、前記駆動源側に接続されたインペラと、前記変速機構側に接続されたタービンとを有し、作動油を介して前記インペラと前記タービンとの間の動力の伝達が可能であるとともに、前記駆動源側と前記タービンとの間を機械的に接続して動力の伝達を制御可能なロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータと前記変速機構との間に配置され、前記トルクコンバータと前記変速機構との間での動力の伝達を制御可能な変速クラッチと、を有する変速機の制御装置であって、
前記ロックアップクラッチは、前記ロックアップクラッチを押圧するピストンを介して設けられた第1油圧室と、第2油圧室との作動油の差圧により締結力を調整できるようになっており、
前記変速クラッチが伝達可能な許容トルクが、前記駆動源に対してドライバが要求していると想定されるドライバ要求トルク以下のトルクに維持されている状態において、前記第1油圧室と前記第2油圧室との作動油の油圧の調整を開始させて、前記ロックアップクラッチを完全に締結させるロックアップクラッチ制御手段と、
前記油圧の調整の開始後、前記タービンの回転数と前記変速機構のインプットシャフトの回転数との回転数差が所定の回転数以上になるまでの間、前記駆動源のトルクを前記ドライバ要求トルクよりも大きいトルクに制御する駆動源制御手段と、
を備える変速機の制御装置。
前記ロックアップクラッチの締結が完全に行われた後において、前記駆動源のトルクを前記ドライバ要求トルクよりも一時的に減少させ、その後、前記駆動源のトルクを前記ドライバ要求トルクに変化させて、前記タービンの回転数と前記変速機構の前記インプットシャフトの回転数とを同期させるように制御する駆動源制御手段を更に備える
請求項1又は請求項2に記載の変速機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る変速機の制御装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る変速機を示す模式的な構成図である。
【0017】
車両に備えられる変速機1は、駆動源の一例であるエンジン10の出力軸11に接続されている。
【0018】
変速機1は、トルクコンバータ(トルコン)12と、変速クラッチ20と、変速機構30と、制御装置2と、トルコン用作動油調整部85と、クラッチ用作動油調整部86と、変速調整部87と、エンジン回転数センサ92と、タービン回転数センサ93と、インプットシャフト回転数センサ94と、車速センサ95(出力回転数センサともいう)と、アクセル開度センサ96と、シフトポジションセンサ97とを備えている。制御装置2は、エンジン電子制御装置(エンジンECU)70と、変速機電子制御装置(変速機ECU)80とを備えている。
【0019】
ここで、変速機1の詳細を説明する前に、変速機1に相当するモデルと、変速機1の各部の状態値を表す記号を説明する。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係る変速機に相当するモデル及び変速機の各部の状態値を表す記号を示す図である。
【0021】
図1に示す変速機1の制御に関わる部分については、
図2に示すモデルのように表すことができる。本明細書においては、変速機1の各部の状態を示す状態値については、
図2に示すように記号又は添字付き記号で表すこととする。
【0022】
ここで、記号について説明すると、Tは、トルクを表し、ωは、回転数を表し、Iは、慣性モーメントを表し、iは、ギヤ比を表している。一方、記号に付けられる添字について説明すると、eは、エンジンを表し、lckは、ロックアップクラッチを表し、iはインペラを表し、tは、タービンのシャフトを表し、cは、変速クラッチを表し、oは、変速機構のアウトプットシャフトを表し、lは、駆動輪側の負荷を表している。
【0023】
図1の説明に戻り、トルクコンバータ12は、エンジン10の出力軸11に接続されたインペラ13と、インペラ13と対向するように配置され、変速クラッチ20の入力軸19と接続されるタービン14と、出力軸11と入力軸19(タービンのシャフト)との間を機械的に断接可能なロックアップクラッチ15とを有する。ロックアップクラッチ15は、ロックアップクラッチ15を押圧して移動させるピストン15Aを有する。ピストン15Aは、トルクコンバータ12内において、トルコン用作動油調整部85から作動油が供給される第1油圧室16と、第2油圧室17とを画成している。ロックアップクラッチ15は、トルコン用作動油調整部85から第1油圧室16に供給される作動油の油圧と、第2油圧室17に供給される作動油の油圧との差圧に応じて、締結力を調整可能となっている。
【0024】
ここで、本実施形態では、ロックアップクラッチ15と出力軸11側の部材とが接触して同一の回転数で回転しつつ、出力軸11からのトルクがロックアップクラッチ15を介して入力軸19に伝達される状態を完全締結状態と称し、ロックアップクラッチ15と出力軸11側の部材とが接触して異なる回転数で回転しつつ、出力軸11からのトルクがロックアップクラッチ15を介して入力軸19に伝達される状態をロックアップクラッチ15のスリップ状態(半クラッチ状態)と称し、ロックアップクラッチ15が入力軸11側の部材と接触していない状態をロックアップクラッチ15の断状態と称する。
【0025】
変速クラッチ20は、例えば、湿式クラッチであって、トルクコンバータ12のタービン14に接続された入力軸19と一体回転する入力側ディスク20Aと、変速機30のインプットシャフト31と一体回転する出力側ディスク20Bとを有し、入力側ディスク20Aと出力側ディスク20Bとの間の駆動力の断接を行うことができるようになっている。変速クラッチ20の締結力、すなわち、入力側ディスク20Aと出力ディスク20Bとの間の締結力は、クラッチ用作動油調整部86から供給される作動油の圧力により調整できるようになっている。本実施形態では、変速クラッチ20を締結させるために作動油が供給される図示しない油圧室の容積が、ロックアップクラッチ15の第1油圧室16及び第2油圧室17の容積よりも小さく、ロックアップクラッチ15の締結力を調整する際に必要な作動油の量よりも、変速クラッチ20の締結力を調整する際に必要な作動油の量の方が少なくなっているので、変速クラッチ20の締結力を、ロックアップクラッチ15の締結力よりも迅速かつ高精度に制御することができる。
【0026】
ここで、本実施形態では、入力側ディスク20Aと出力側ディスク20Bとが接触して同一の回転数で回転しつつ、入力側ディスク20Aから出力側ディスク20Bにトルクが伝達される状態を完全締結状態と称し、入力側ディスク20Aと出力側ディスク20Bとが異なる回転数で回転しつつ、入力側ディスク20Aから出力側ディスク20Bにトルクが伝達される状態を変速クラッチ20のスリップ状態(半クラッチ状態)と称し、入力側ディスク20Aと出力側ディスク20Bとが機械的に接触していない状態を変速クラッチ20の断状態と称する。
【0027】
変速機構30は、変速クラッチ20の出力側ディスク20Bと接続されたインプットシャフト31から入力された駆動力を変速させて、図示しない駆動輪に接続されたアウトプットシャフト32に伝達する。変速機構30は、例えば、平行軸歯車式の変速機構(すなわち、マニュアルトランスミッション)、遊星歯車式の変速機構、又は無段変速機構であってよい。
【0028】
トルコン用作動油調整部85は、変速機ECU80の制御指示に従って、トルクコンバータ12の第1油圧室16に供給する作動油の圧力と、第2油圧室17に供給する作動油の圧力とのそれぞれを調整する。
【0029】
クラッチ用作動油調整部86は、変速機ECU80の制御指示に従って、変速クラッチ20の締結力を調整するために変速クラッチ20に供給する作動油の圧力を調整する。
【0030】
変速調整部87は、変速機ECU80の制御指示に従って、変速機構30の変速段の変更を行う。
【0031】
エンジン回転数センサ92は、エンジン10の出力軸11の回転数(エンジン回転数ω
e)を検出し、エンジンECU70に出力する。タービン回転数センサ93は、入力軸19の回転数(タービン14の回転数(タービン回転数ω
t)と対応)を検出し、変速機ECU80に出力する。インプットシャフト回転数センサ94は、インプットシャフト31の回転数(インプットシャフト回転数ω
c)を検出し、変速機ECU80に出力する。車速センサ95は、アウトプットシャフト32の回転数(アウトプットシャフト回転数ω
o)を検出し、変速機ECU80に出力する。アウトプットシャフト回転数ω
oからは、車速を特定することができる。アクセル開度センサ96は、アクセル開度を検出し、エンジンECU70に出力する。シフトポジションセンサ97は、操作レバーにより指定(選択)された位置(シフトポジション)を検出し、変速機ECU80に出力する。操作レバーでは、例えば、車両の停車中に使用するP(パーキング)レンジ、車両の変速機をニュートラルにする際に選択するN(ニュートラル)レンジ、自動変速を行う際に選択するD(ドライブ)レンジ、変速を運転者の操作で行う際に選択するM(マニュアル)レンジ、Mレンジでのシフトアップを指定するためのプラス(+)、Mレンジでのシフトダウンを指定するためのマイナス(−)等を選択することができる。
【0032】
エンジンECU70は、主にエンジン10の各種制御を行うもので、公知のCPU、ROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うために、エンジンECU70には、各種センサ類(92,96)のセンサ値が入力される。なお、エンジンECU70は、変速機ECU80と通信ネットワークを介して接続されており、相互に各種情報を交換することができるようになっている。
【0033】
エンジンECU70は、駆動源制御手段の一例としてのエンジン制御部71を一部の機能要素として有する。
【0034】
エンジン制御部71は、エンジン10における燃料噴射量等を制御してエンジン10のトルク(エンジントルクT
e)を制御する。例えば、エンジン制御部71は、アクセル開度センサ96からのアクセル開度や、車速(例えば、変速機ECU80から取得)に基づいて、エンジン10に対してドライバが要求していると想定されるドライバ要求エンジントルクT
ed(ドライバ要求トルク)を決定し、変速機ECU80に出力する。また、エンジン制御部71は、後述するロックアップ油圧制御開始時後、タービン回転数ω
tとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定の回転数以上になるまでの間、エンジントルクT
eをドライバ要求エンジントルクT
edよりも大きいトルクに制御し、タービン回転数ω
tとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定の回転数以上になった後は、エンジントルクT
eをインペラトルクT
iと一致させるように制御する。インペラトルクT
iは、T
i=C×ω
e2により推定することができる。ここで、係数Cは、トルクコンバータ12のポンプ容量係数であり、トルクコンバータ12の設計値により定まる値である。
【0035】
また、エンジン制御部71は、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われた後において、エンジントルクT
eをドライバ要求エンジントルクT
edよりも一時的に減少させ、その後、エンジントルクT
eをドライバ要求エンジントルクT
edに変化させて、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとを同期させるように制御する。
【0036】
変速機ECU80は、主にトルクコンバータ12、変速クラッチ20、変速機構30の各種制御を行うもので、公知のCPU、ROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うために、変速機ECU80には、各種センサ類(93〜95、97)のセンサ値が入力される。
【0037】
変速機ECU80は、開始判定手段の一例としての統括制御部81と、ロックアップクラッチ制御手段の一例としてのトルコン制御部82と、第1クラッチ制御手段及び第2クラッチ制御手段の一例としてのクラッチ制御部83と、変速制御部84とを一部の機能要素として有する。
【0038】
なお、本実施形態では、エンジンECU70と、変速機ECU80とは、別のハードウエアとして構成した例を示しているが、エンジンECU70と、変速機ECU80とを一体のハードウエアで構成してもよく、また、エンジンECU70の機能要素と、変速機ECU80の機能要素とを、2つ以上のハードウエアに分散させて設けるようにしてもよい。
【0039】
統括制御部81は、ロックアップクラッチ15を締結させてエンジン10から駆動輪までの駆動力の伝達経路を確立する処理(ロックアップクラッチ締結処理)を統括して制御する。統括制御部81は、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を締結する所定の条件を満たすか否かを判定し、所定の条件を満たす場合には、その旨をクラッチ制御部83に通知する。ロックアップクラッチ15を締結する所定の条件としては、例えば、エンジン回転数ω
eが、ロックアップクラッチ15を締結するとトルクコンバータ12の図示しないダンパが共振してしまう回転数よりも高い所定の回転数となったこととしてもよい。なお、統括制御部81が実行する他の処理については、後述する。
【0040】
トルコン制御部82は、許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致した場合(クラッチ制御部83から許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致した旨の通知を受け取った場合)に、ロックアップクラッチ15を締結するように、トルコン用作動油調整部85の図示しないバルブをオンにすることにより、第1油圧室16と第2油圧室17との作動油の油圧の制御を開始する。ここで、ロックアップクラッチ15を締結するように、トルコン用作動油調整部85により、第1油圧室16と第2油圧室17との作動油の油圧の制御を開始した時を、ロックアップ油圧制御開始時ということとする。なお、トルコン制御部82が実行する他の処理については、後述する。
【0041】
クラッチ制御部83は、統括制御部81からトルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を締結する所定の条件を満たす旨の通知を受けた場合に、変速クラッチ20をスリップ状態として、変速クラッチ20の許容トルクT
cが、タービントルクT
tに一致するように制御する。ここで、許容トルクT
cについては、予め実験的に把握されている、変速クラッチ20における、クラッチ用作動油調整部86により供給されている作動油の油圧と、変速クラッチ20の許容トルクT
cとの関係に基づいて、クラッチ用作動油調整部86から供給される作動油の油圧を特定可能な情報(作動油の油圧そのもの、又は、作動油圧を調整するバルブを制御する電流量等)から特定することができる。また、タービントルクT
tについては、予め把握されている、トルクコンバータ12における、エンジン回転数ω
eとタービン回転数ω
tとの速度比に対応するトルク比trと、トルクコンバータ12の設計により決まるポンプ容量係数Cと、センサから検出されたエンジン回転数ω
eとを用いて特定することができる。より具体的には、タービントルクT
tは、T
t=tr×C×ω
e2により特定することができる。
【0042】
また、クラッチ制御部83は、許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致したか否か判定し、許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致した場合には、その旨をトルコン制御部82に通知する。
【0043】
また、クラッチ制御部83は、ロックアップ油圧制御開始時後、少なくともタービン回転数ω
tとインプットシャフト回転数ω
cとに差が発生するまで(例えば、ロックアップクラッチ15が完全に締結されるまで)、変速クラッチ20の許容トルクT
cを、ロックアップ油圧制御開始時のタービントルクT
t(目標クラッチトルクT
FLU)と一致させるように、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ20に供給する作動油の油圧を調整することにより、変速クラッチ20のスリップ状態を制御する。なお、本実施形態では、ロックアップ油圧制御開始時のタービントルクT
tである目標クラッチトルクT
FLUは、ドライバ要求エンジントルクT
edよりも低いトルクとなっている。なお、クラッチ制御部83が実行する他の処理については、後述する。
【0044】
変速制御部84は、シフトポジションセンサ97から送信される操作レバーの指定位置、アクセル開度(エンジンECU70から取得)、車速センサ95からの車速等の情報に基づいて、変速が必要であるか否かを判定し、変速が必要であれば変速先の変速段を特定し、変速機構30をその変速段に設定するように変速調整部87に制御指示を出力する。
【0045】
次に、変速機1におけるロックアップクラッチ締結処理について説明する。ロックアップクラッチ締結処理は、ロックアップクラッチ15をロックアップ(完全締結)させることを伴うエンジン10から駆動輪までの駆動力伝達経路を確立する処理である。
【0046】
図3は、本発明の一実施形態に係るロックアップクラッチ締結処理のフローチャートである。
図4(A)は、本発明の一実施形態に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部の回転数の時間変化を示す図である。
図4(B)は、本発明の一実施形態に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部のトルクの時間変化を示す図である。なお、
図4における時間軸の1、2、・・・は、制御フェーズ1、制御フェーズ2、・・・を示している。
【0047】
ロックアップクラッチ締結処理は、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が締結されていない場合、例えば、車両の発進直後や、車両の速度が低下した場合等に実行される。ロックアップクラッチ締結処理における初期の状態は、制御フェーズにおける制御開始前フェーズであり、制御開始前フェーズにおいては、変速クラッチ20は、完全に締結されている状態となっている。
【0048】
制御開始前フェーズは、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が断状態であり、変速クラッチ20が完全に締結されている状態である。制御開始前フェーズにおいては、変速機1における運動方程式は、以下に示す式(1)、式(2)、式(3)で表すことができる。
【0049】
【数1】
ここで、制御開始前フェーズにおいて、ドライバによりアクセルが踏まれてアクセル開度が大きくなった場合を例にして、ロックアップクラッチ締結処理の各ステップを説明する。制御開始前フェーズにおいて、アクセル開度が大きくなると、
図4(A)及び図(B)に示すように、ドライバ要求エンジントルクT
edが高くなり、エンジントルクT
eが高くなるように制御される。この結果、タービントルクT
tが上昇し、エンジン回転数ω
e、インプットシャフト回転数ω
cが上昇する。なお、本実施形態では、ドライバ要求エンジントルクT
edが高くなって所定の値で一定となるようにアクセル開度が維持されている場合を例に説明する。
【0050】
統括制御部81は、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を締結する所定の条件(例えば、エンジン回転数ω
eが、トルクコンバータ12の図示しないダンパが共振してしまう回転数よりも高い所定の回転数であること)を満たすか否かを判定する(ステップS11)。この結果、所定の条件を満たさない場合(ステップS11:NO)には、制御開始前フェーズのままであるので、統括制御部81は、ステップS11を再び実行する。
【0051】
一方、所定の条件を満たす場合(ステップS11:YES)には、制御フェーズは、制御開始前フェーズから制御フェーズ1に移り、統括制御部81は、所定の条件を満たす旨をクラッチ制御部83に通知する。
【0052】
所定の条件を満たす旨の通知を受けたクラッチ制御部83は、変速クラッチ20をスリップ状態として、変速クラッチ20の許容トルクT
cが、タービントルクT
tに一致するようにする制御を開始する(ステップS12)。
【0053】
制御フェーズ1においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が断状態であり、変速クラッチ20がスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(1)、式(2)、式(3)で表すことができる。
【0054】
制御フェーズ1においては、許容トルクT
cが、タービントルクT
tに一致するように制御されているので、
図4(B)に示すように、許容トルクT
cが、徐々に減少してタービントルクT
tに近づくこととなる。
【0055】
次いで、クラッチ制御部83は、許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致したか否か判定し(ステップS13)、許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致していない場合(ステップS13:NO)には、制御フェーズ1のままであるので、クラッチ制御部83は、ステップS13を再び実行する。
【0056】
一方、許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致した場合(ステップS13:YES)には、制御フェーズは、制御フェーズ2に移り、クラッチ制御部83は、その旨をトルコン制御部82に通知する。
【0057】
トルコン制御部82は、クラッチ制御部83から許容トルクT
cがタービントルクT
tに一致した旨の通知を受け取った場合には、ロックアップクラッチ15のロックアップを開始する、すなわち、ロックアップクラッチ15を締結するように、トルコン用作動油調整部85の図示しないバルブをオンにすることにより、第1油圧室16と第2油圧室17との作動油の油圧の制御を開始する(ステップS14)。なお、この時点が、ロックアップ油圧制御開始時となる。これにより、ロックアップクラッチ15により伝達可能なトルク(ロックアップクラッチ許容トルクT
lck)が徐々に上昇することとなる。なお、ロックアップクラッチ許容トルクT
lckは、トルコン用作動油調整部85により、第1油圧室16と第2油圧室17との差圧を制御することにより得られるものであり、詳細な制御が困難であって、制御への応答が不明であるので、
図4(B)に示すように変化しているとは限らない。
【0058】
次いで、制御フェーズは、制御フェーズ3に移り、クラッチ制御部83は、変速クラッチ20の許容トルクT
cを、ロックアップ油圧制御開始時のタービントルクT
t(目標クラッチトルクT
FLU)と一致させるように、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ20に供給する作動油の油圧を調整することにより、変速クラッチ20のスリップ状態を制御することを開始する(ステップS15)。ここで、目標クラッチトルクT
FLUは、ドライバ要求エンジントルクT
edよりも低いトルクとなっている。したがって、変速クラッチ20の後段側には、大きなトルクの変化が生じないので、ロックアップクラッチ許容トルクT
lckが上昇しても大きなショックが発生しないので、ショックの発生を低減することができる。また、許容トルクT
cを、タービン回転数ω
tの増加により大きく低下してしまうタービントルクT
tではなく、一定の値である目標クラッチトルクT
FLUに一致させるように制御しているので、変速クラッチ20の後段側のトルクが大きく低下してしまうことを防止できる。
【0059】
また、エンジン制御部71は、エンジントルクT
eをドライバ要求エンジントルクT
edよりも大きいトルクになるように、具体的には、エンジン回転数ω
eが現在よりも高い所定の回転数となるように制御する(ステップS16)。なお、このステップを実行するためには、エンジン回転数ω
eを現在の回転数よりも高い回転数にできる、すなわち、エンジントルクT
eを上げることができる状態にあることが前提となる。なお、このような状態でない場合には、ステップS16を実行せずに後続のステップを実行するようにすればよい。このようにエンジントルクT
eを制御することにより、エンジン回転数ω
eとタービン回転数ω
tとの回転数差を大きくしてタービントルクT
tを上昇させることができる。この結果、タービン回転数ω
tを上昇させる時間を短縮することができる。
【0060】
制御フェーズ2及び制御フェーズ3においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15がスリップ状態であり、変速クラッチ20がスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(4)、式(5)、式(3)で表すことができる。
【0061】
【数2】
制御フェーズ3においては、エンジン回転数ω
eを比較的高い所定の回転数まで上昇させ、タービントルクT
tをできるだけ高い状態となるように維持するので、エンジン回転数ω
eを所定値まで上昇させていない場合に比してタービン回転数ω
tが速く上昇することとなる。
【0062】
次いで、統括制御部81は、タービン回転数ω
tがインプットシャフト回転数ω
cよりも高い回転数となったか否かを判定し(ステップS17)、タービン回転数ω
tがインプットシャフト回転数ω
cよりも高い回転数でない場合(ステップS17:NO)には、制御フェーズ3のままであるので、統括制御部81は、ステップS17を再び実行する。
【0063】
一方、タービン回転数ω
tがインプットシャフト回転数ω
cよりも高い回転数となった場合(ステップS17:YES)には、制御フェーズは、制御フェーズ4に移り、統括制御部81は、タービン回転数ω
tとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定値より大きくなったか否かを判定し(ステップS18)、回転数差が所定値よりも大きくなっていない場合(ステップS18:NO)には、統括制御部81は、ステップS18を再び実行する。
【0064】
一方、タービン回転数ω
tとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定値よりも大きくなった場合(ステップS18:YES)には、統括制御部81は、その旨をエンジン制御部71に通知する。
【0065】
タービン回転数ω
tとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定値よりも大きくなった旨を受け取ったエンジン制御部71は、エンジントルクT
eをインペラトルクT
iと一致させるように制御する(ステップS19)。
【0066】
なお、ステップS19の時点においては、クラッチ制御部83は、変速クラッチ20の許容トルクT
cを、目標クラッチトルクT
FLUと一致させるようにする制御を継続して実行している。したがって、変速クラッチ20の後段側には、大きなトルクの変化が生じないので、ロックアップクラッチ許容トルクT
lckが上昇しても大きなショックが発生することがなく、ショックの発生を低減することができる。
【0067】
制御フェーズ4においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15がスリップ状態であり、変速クラッチ20がスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(4)、式(6)、式(7)で表すことができる。
【0068】
【数3】
制御フェーズ4においては、エンジン回転数ω
eが比較的高い所定の回転数で維持されているので、タービン回転数ω
tの上昇が比較的速く、エンジントルクT
eを低下させた後には、エンジン回転数ω
eとタービン回転数ω
tとが早期に一致するようになる。この結果、制御フェーズ2から、エンジン回転数ω
eとタービン回転数ω
tとが一致するまでに要する時間を、制御フェーズ3及び制御フェーズ4においてエンジントルクT
eを増加させない場合に比して、効果的に短縮することができる。
【0069】
次いで、統括制御部81は、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数となったか否かを判定し(ステップS20)、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数でない場合(ステップS20:NO)には、制御フェーズ4のままであるので、統括制御部81は、ステップS20を再び実行する。
【0070】
一方、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数となった場合(ステップS20:YES)には、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われたと考えられるので、制御フェーズは、制御フェーズ5に移り、統括制御部81は、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数となった旨をエンジン制御部71とクラッチ制御部83に通知する。
【0071】
エンジン制御部71は、エンジントルクT
eをドライバ要求エンジントルクT
edよりも一時的に減少させ、その後、エンジントルクT
eをドライバ要求エンジントルクT
edに変化させて、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとを同期させるように制御する。本実施形態では、エンジン制御部71は、式(8)を満たすように制御する(ステップS21)。なお、ω
・ec(式(8)では、ωの上に1つのドット(・)、明細書では便宜的にこの様に表記する)は、予め設定されたエンジン回転角速度の目標値を示しており、
図4(A)に示すエンジン回転数ω
eの低下速度に相当する値となっている。このように、エンジントルクT
eを一時的に低下させるので、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとを迅速に同期させることができる。
【0072】
【数4】
また、クラッチ制御部83は、変速クラッチ20の許容トルクT
cを、ドライバ要求エンジントルクT
edと一致させるように上昇させる(ステップS21)。ここで、上記したように、エンジントルクT
eを一時的に低下させるので、変速クラッチ20の許容トルクT
cを、ドライバ要求エンジントルクT
edと一致させるように上昇させる際におけるショックの発生を抑えることができる。
【0073】
制御フェーズ5においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が完全に締結された状態であり、変速クラッチ20がスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(9)、式(7)で表すことができる。
【0074】
【数5】
制御フェーズ5においては、エンジントルクT
eがドライバ要求エンジントルクT
edよりも一時的に減少し、その後、ドライバ要求エンジントルクT
edに一致する。また、許容トルクT
cは、徐々に上昇していき、ドライバ要求エンジントルクT
edと一致する。また、エンジン回転数ω
e(タービン回転数ω
tと同じ)は、低下していきインプットシャフト回転数ω
cに徐々に近づく。
【0075】
次いで、統括制御部81は、エンジン回転数ω
eとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定値(ステップS18の所定値とは無関係)よりも小さくなったか否かを判定し(ステップS22)、エンジン回転数ω
eとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定値よりも小さくなっていない場合(ステップS22:NO)には、制御フェーズ5のままであるので、統括制御部81は、ステップS22を再び実行する。
【0076】
一方、エンジン回転数ω
eとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定値よりも小さくなった場合(ステップS22:YES)には、変速クラッチ20を完全に締結したとしても締結する際のショックが比較的少ないと考えられるので、制御フェーズは、制御フェーズ6に移り、統括制御部81は、エンジン回転数ω
eとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定値よりも小さくなった旨をクラッチ制御部83に通知する。
【0077】
また、クラッチ制御部83は、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ20に供給する作動油の油圧を調整することにより、変速クラッチ20の許容トルクT
cを、変速クラッチ20が完全に締結された際のトルク(完全締結時トルクT
MAX)と一致させるようにする(ステップS23)。
【0078】
次いで、統括制御部81は、変速クラッチ20の許容トルクT
cが、完全締結時トルクT
MAXと一致したか否かを判定し(ステップS24)、変速クラッチ20の許容トルクT
cが、完全締結時トルクT
MAXと一致していない場合(ステップS24:NO)には、変速クラッチ20が完全に締結されておらず、制御フェーズ6のままであるので、統括制御部81は、ステップS24を再び実行する。
【0079】
一方、変速クラッチ20の許容トルクT
cが、完全締結時トルクT
MAXと一致した場合(ステップS24:YES)には、変速クラッチ20が完全に締結されたことを意味し、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を介してのエンジン10から駆動輪までの駆動力伝達経路が完全に確立されたことを意味しているので、統括制御部81は、エンジン制御部71を通常の制御状態に戻し、ロックアップクラッチ締結処理を終了する。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置2によると、トルコン制御部82が、変速クラッチ20が伝達可能な許容トルクT
cが、ドライバ要求エンジントルクT
edよりも低いトルクに維持されている状態において、第1油圧室16と第2油圧室17との作動油の油圧の調整を開始させて、ロックアップクラッチ15を完全に締結させ、エンジン制御部71が油圧の調整の開始後、タービン回転数ω
tとインプットシャフト回転数ω
cとの回転数差が所定の回転数以上になるまでの間、エンジントルクT
eをドライバ要求エンジントルクT
edよりも大きいトルクに制御するようにしたので、エンジントルクT
eを上昇させても、変速クラッチ20の後段側には、大きなトルクの変化が生じず、大きなショックが発生することがなく、また、タービン回転数ω
tの上昇を速くすることができ、エンジン回転数ω
eとタービン回転数ω
tとを早期に同期させることができ、ロックアップを伴う駆動力の伝達経路を迅速に確立することができる。
【0081】
次に、変形例に係る変速機1について説明する。なお、上記した実施形態に係る変速機と同様な部分には同様な符号を付し、異なる点を中心に説明する。
【0082】
変形例に係る変速機1のクラッチ制御部83は、同期制御手段の一例であり、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われた後において、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ20に供給する作動油の油圧を調整することにより、変速クラッチ20の許容トルクT
cを一時的に増加させ、その後、許容トルクT
cをドライバ要求エンジントルクT
edに変化させて、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとを同期させるように制御する。
【0083】
次に、変形例に係る変速機1におけるロックアップクラッチ締結処理について説明する。
【0084】
図5は、本発明の変形例に係るロックアップクラッチ締結処理のフローチャートである。
図6(A)は、本発明の変形例に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部の回転数の時間変化を示す図である。
図6(B)は、本発明の変形例に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部のトルクの時間変化を示す図である。なお、
図6における時間軸の1、2、・・・は、制御フェーズ1、制御フェーズ2、・・・を示している。
【0085】
ステップS20において、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数となった場合(ステップS20:YES)には、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われたと考えられるので、制御フェーズは、制御フェーズ5に移り、統括制御部81は、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数となった旨をクラッチ制御部83に通知する。ここで、統括制御部81と、クラッチ制御部83とは、変速機ECU80に設けられているので、通信による遅延の影響なしに、その旨をクラッチ制御部83に迅速に通知することができる。
【0086】
クラッチ制御部83は、変速クラッチ20の許容トルクT
cを一時的に増加させ、その後、許容トルクT
cをドライバ要求エンジントルクT
edに変化させて、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとを同期させるように制御する。本実施形態では、クラッチ制御部83は、式(10)を満たすように制御する(ステップS25)。
【0087】
【数6】
なお、ω
・ec(式(10)では、ωの上に1つのドット(・)、明細書では便宜的にこの様に表記する)は、予め設定されたエンジン回転角速度の目標値を示しており、
図6(A)に示すエンジン回転数ω
eの低下速度に相当する値となっている。このように、許容トルクT
cを一時的に増加させるので、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとを迅速に同期させることができる。ここで、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとを同期するためには、例えば、エンジン10のトルクを制御することも考えられるが、本実施形態では、エンジン10のトルク制御よりも応答遅れが少ない変速クラッチ20の許容トルクT
cを制御するようにしているので、タービン回転数ω
tと、インプットシャフト回転数ω
cとをより早期に同期させることができるとともに、その際に発生するショックの発生を効果的に低減することができる。
【0088】
以上説明したように、変形例に係る制御装置2によると、クラッチ制御部83が、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われた後において、変速クラッチ20の許容トルクT
cを一時的に増加させ、その後、許容トルクT
cをドライバ要求エンジントルクT
edに変化させて、タービン回転数ω
tと変速機構30のインプットシャフト回転数ω
cとを同期させるように制御するようにしたので、ロックアップクラッチ15のロックアップを伴う駆動力の伝達経路の確立を迅速に行うことができる。
【0089】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0090】
例えば、上記実施形態では、目標クラッチトルクT
FLUは、ドライバ要求エンジントルクT
edよりも低いトルクとなっていたが、本発明はこれに限られず、ドライバ要求エンジントルクT
edと同じトルクであってもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、駆動源としてエンジン10を例にあげていたが、本発明はこれに限られず、例えば、駆動源を電気モータとしてもよく、また、駆動源をエンジンと電気モータとを組み合わせたものとしてもよい。