特許第6834233号(P6834233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6834233耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834233
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/18 20060101AFI20210215BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20210215BHJP
   C08F 4/38 20060101ALI20210215BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C08F2/18
   C08F2/38
   C08F4/38
   C08F220/18
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-156566(P2016-156566)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-24742(P2018-24742A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】河野 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
(72)【発明者】
【氏名】萩森 公一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−135846(JP,A)
【文献】 特開2015−203102(JP,A)
【文献】 特開2014−177622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/12−2/42
C08F 4/28−4/38
C08F 220/00−220/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)とN−置換マレイミド単量体(B)とを含む単量体混合物の懸濁重合により耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を製造する方法であって、該単量体混合物に、該単量体混合物100質量部に対して、10時間半減期温度が40〜60℃であるラジカル重合開始剤(D−1)0.1〜0.5質量部と、10時間半減期温度が70〜90℃であるラジカル重合開始剤(D−2)0.01〜0.3質量部と、アルキルメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーを添加し、40〜60℃で重合反応を開始し、1〜20℃/hrの昇温速度で100〜140℃まで連続的または段階的に昇温し、反応開始から5〜12時間で重合反応を完結させる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法であって、
前記単量体混合物の合計100質量%中の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有量が50〜92質量%で、N−置換マレイミド単量体(B)の含有量が8〜30質量%で、芳香族ビニル単量体(C)の含有量が0〜20質量%であることを特徴とする耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記単量体混合物100質量部に対して、アルキルメルカプタンを0.05〜1.0質量部、α−メチルスチレンダイマーを0.05〜1.0質量部添加することを特徴とする耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記単量体混合物が更に芳香族ビニル単量体(C)を含むことを特徴とする耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色性に優れた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法に関する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方又は双方をさす。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタアクリレート(PMMA)に代表される(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、優れた発色性、表面硬度、耐候性および高い機械的性質を持ち合せているため、高発色材料として建材や自動車分野で幅広く使用されている。しかしながら、(メタ)アクリル酸エステル樹脂は耐熱性が低く、その利用分野の拡大には耐熱性の向上が求められていた。
【0003】
(メタ)アクリル酸エステル樹脂の耐熱性を改良する手法としてN−置換マレイミドを共重合させる手法が知られており、より高い耐熱性を付与するためには、N−置換マレイミド単量体比率を高くすればよい。しかし、N−置換マレイミド単量体比率を高くすると、ポリマー中にマレイミド単量体が多く残存し易く、得られた樹脂を加工する際にマレイミド化合物が揮発する問題がある。また、(メタ)アクリル酸エステル樹脂の分子量調整、熱安定性向上のために、製造時に連鎖移動剤としてアルキルメルカプタン類を添加することが一般的であるが、アルキルメルカプタン類のマレイミドへのマイケル付加により、生成物が着色しやすくなる問題もある。さらに、水系ではN−置換マレイミドの加水分解によりアミン化合物が発生し、これに端を発する着色が起こりやすい。特に、分解によりアリールアミンが発生するN−アリールマレイミドを用いた場合は、着色への影響が大きいことが知られている。
【0004】
これらのことから、N−置換マレイミドを使用した耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂は高発色材料、特に白色系への利用が制限されている。
【0005】
従来、N−置換マレイミドを使用した耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性を改良する手法として、シクロヘキシルマレイミド等のN−シクロアルキルマレイミドを使用することが提案されている(特開昭63−304013号公報)。しかしながら、N−シクロアルキルマレイミドはN−アリールマレイミドに比べ耐熱性の改善効果が低い。また、10時間半減期温度の異なる2種類の重合開始剤を用いて重合を行うことで加熱着色の改良、残存マレイミド量の低減を図ることが提案されているが(特開昭63−304013号公報、特開平3−188111号公報)、未だ不十分であり、特に、N−アリールマレイミドを使用した上で着色を抑制する手法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−304013号公報
【特許文献2】特開平3−188111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、発色性に優れた、耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、特定の重合開始剤を特定量併用し、連鎖移動剤としてアルキルメルカプタンと共にα−メチルスチレンダイマーを併用し、特定の条件で懸濁重合することにより、N−置換マレイミドとしてN−アリールマレイミドを使用した場合でも、発色性に優れた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] (メタ)アクリル酸エステル単量体(A)とN−置換マレイミド単量体(B)とを含む単量体混合物の懸濁重合により耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を製造する方法であって、該単量体混合物に、該単量体混合物100質量部に対して、10時間半減期温度が40〜60℃であるラジカル重合開始剤(D−1)0.1〜0.5質量部と、10時間半減期温度が70〜90℃であるラジカル重合開始剤(D−2)0.01〜0.3質量部と、アルキルメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーを添加し、40〜60℃で重合反応を開始し、1〜20℃/hrの昇温速度で100〜140℃まで連続的または段階的に昇温し、反応開始から5〜12時間で重合反応を完結させることを特徴とする耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法。
【0011】
[2] [1]において、前記単量体混合物100質量部に対して、アルキルメルカプタンを0.05〜1.0質量部、α−メチルスチレンダイマーを0.05〜1.0質量部添加することを特徴とする耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法。
【0012】
[3] [1]又は[2]において、前記単量体混合物が更に芳香族ビニル単量体(C)を含むことを特徴とする耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法。
【0013】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記単量体混合物の合計100質量%中の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有量が50〜92質量%で、N−置換マレイミド単量体(B)の含有量が8〜30質量%で、芳香族ビニル単量体(C)の含有量が0〜20質量%であることを特徴とする耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、N−アリールマレイミド等のN−置換マレイミドを用いて発色性に優れた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)とN−置換マレイミド単量体(B)と芳香族ビニル単量体(C)を含む単量体混合物の懸濁重合により耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を製造する方法であって、該単量体混合物に、該単量体混合物100質量部に対して、10時間半減期温度が40〜60℃であるラジカル重合開始剤(D−1)0.1〜0.5質量部と、10時間半減期温度が70〜90℃であるラジカル重合開始剤(D−2)0.01〜0.3質量部と、アルキルメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーを添加し、40〜60℃で重合反応を開始し、1〜20℃/hrの昇温速度で100〜140℃まで連続的または段階的に昇温し、反応開始から5〜12時間で重合反応を完結させることを特徴とする。
【0017】
[作用機構]
本発明の製造方法によれば、40〜60℃という比較的低温で重合反応を開始することでN−置換マレイミドをポリマー中に取り込まれやすくし、一方で重合終了温度を100〜140℃と、ある程度高くすることで残存N−置換マレイミドを少なくする。また、急激な反応の進行は着色の原因と成ることから、α−メチルスチレンダイマーの添加と昇温速度を特定の範囲にすることで重合速度を抑制し、さらにアルキルメルカプタンの添加でポリマー重合の高粘度効果を抑制することで急激な反応による耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の着色を抑制する。また、懸濁重合における水中でのN−置換マレイミドの加水分解を抑制するために、5〜12時間という急激な反応が進行しない程度の時間で重合反応を完結させる。
本発明によれば、このような条件を採用することで、発色性に優れた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を製造することができる。
【0018】
[単量体混合物]
本発明の(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法における反応原料となる単量体混合物は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)とN−置換マレイミド単量体(B)とを含むビニル系単量体混合物であり、好ましくは更に芳香族ビニル単量体(C)を含む。
【0019】
<(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)>
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)メタクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニルなどが挙げられ、これらの中でもメタクリル酸メチルが最も好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)は必要に応じて2種以上を併用することもできる。併用する場合、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の全量に対して、メタクリル酸メチルを25質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0020】
単量体混合物中の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有量は特に制限はないが、単量体混合物の合計100質量%中、通常50〜92質量%、好ましくは59〜87質量%、より好ましくは65〜87質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有量が上記範囲内にあると、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性、耐候性、表面硬度などの(メタ)アクリル酸エステル樹脂としての機能が発現されやすい。
【0021】
<N−置換マレイミド単量体(B)>
本発明に用いられるN−置換マレイミド単量体(B)としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、N−フェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のN−置換アリールマレイミド類、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド等のN−置換アルキルマレイミド類、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換シクロアルキルマレイミド類などが挙げられる。これらのうち、耐熱性向上効果が高いN−フェニルマレイミドが好ましい。これらのN−置換マレイミド単量体(B)についても、必要に応じて2種類以上を併用することができるが、併用する場合、N−置換マレイミド単量体(B)の全量に対して、N−フェニルマレイミドを25質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0022】
単量体混合物中のN−置換マレイミド単量体(B)の含有量は特に制限はないが、単量体混合物の合計100質量%中、通常8〜30質量%、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%である。N−置換マレイミド単量体(B)の含有量が上記下限未満では得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の耐熱性が劣る傾向にあり、上記上限を超えると機械強度、発色性が劣る傾向にある。
【0023】
<芳香族ビニル単量体(C)>
本発明に用いられる芳香族ビニル単量体(C)としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらの中でもスチレンおよびα−メチルスチレンが好ましい。これらの芳香族ビニル単量体(C)についても、必要に応じて2種類以上を併用することもできる。併用する場合、芳香族ビニル単量体(C)の全量に対して、スチレンおよび/またはα−メチルスチレンを25質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0024】
単量体混合物中の芳香族ビニル単量体(C)の含有量は特に制限はないが、単量体混合物の合計100質量%中、通常0〜20質量%、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%である。単量体混合物中の芳香族ビニル単量体(C)の含有量が多いほど、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)とN−置換マレイミド単量体(B)の共重合性が良好となり、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が良好となる傾向にあるが、上記上限を超えると、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の透明性が低下し、発色性が悪化する傾向にある。
【0025】
<他の単量体>
本発明で用いる単量体混合物には、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)、N−置換マレイミド単量体(B)、芳香族ビニル単量体(C)以外に、これらと共重合可能な他の単量体を必要に応じて添加してもよい。共重合可能な他の単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類、アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸類などが挙げられる。
【0026】
これらの他の単量体は、耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の要求特性に応じて添加すればよいが、耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の耐熱性、発色性、表面硬度、耐候性および高い機械的性質といった基本的な特性を維持しやすい観点から、単量体混合物100質量%中の他の単量体の含有量は、20質量%以下、特に10質量%以下であることが好ましい。
【0027】
[ラジカル重合開始剤]
本発明では、ラジカル重合開始剤として、10時間半減期温度が40〜60℃であるラジカル重合開始剤(D−1)と10時間半減期温度が90℃以下であるラジカル重合開始剤(D−2)を併用する。
【0028】
<ラジカル重合開始剤(D−1)>
10時間半減期温度が40〜60℃であるラジカル重合開始剤(D−1)としては、特に制限はないが、例えば、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレートなどの過酸化物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
10時間半減期温度が40〜60℃であるラジカル重合開始剤(D−1)の添加量は、単量体混合物100質量部に対して0.1〜0.5質量部、好ましくは0.1〜0.3質量部である。10時間半減期温度が40〜60℃であるラジカル重合開始剤(D−1)の添加量が上記下限未満であると、低温での反応が進行しにくいために得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が劣り、上記上限を超えると急激な反応が生じやすく、やはり得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が劣るものとなる。
【0030】
<ラジカル重合開始剤(D−2)>
10時間半減期温度が70〜90℃であるラジカル重合開始剤(D−2)としては、特に制限はないが、例えば、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどの過酸化物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
10時間半減期温度が70〜90℃であるラジカル重合開始剤(D−2)の添加量は、単量体混合物100質量部に対して0.01〜0.3質量部、好ましくは0.03〜0.25質量部である。10時間半減期温度が70〜90℃であるラジカル重合開始剤(D−2)の添加量が上記下限未満であると、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂中の残存N−置換マレイミドが増加し発色性が劣るものとなり、上記上限を超えると、残存ラジカル重合開始剤による高温での副反応により着色が生じ、やはり得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が劣るものとなる。
【0032】
なお、ラジカル重合開始剤(D−1)とラジカル重合開始剤(D−2)とは、1:0.01〜1の質量比で単量体混合物100質量部に対して合計で0.15〜0.7質量部添加することが好ましい。また、ラジカル重合開始剤(D−1)とラジカル重合開始剤(D−2)の10時間半減期温度は、20℃以上差があることが好ましい。
また、本発明では、ラジカル重合開始剤として、10時間半減期温度が40〜60℃又は70〜90℃の範囲外にあるラジカル重合開始剤、例えば10時間半減期温度が40℃未満のラジカル重合開始剤や10時間半減期温度が60℃を超え70℃未満のラジカル重合開始剤や、10時間半減期温度が90℃を超えるラジカル重合開始剤を使用しないことが重要である。
【0033】
<連鎖移動剤>
本発明においては、アルキルメルカプタンとα−メチルスチレンダイマーの2種類の連鎖移動剤を併用する。
【0034】
アルキルメルカプタンとしては、これらに限定されるわけではないが、例えば、n−ブチルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどが挙げられ、その中でもn−オクチルメルカプタンやt−ドデシルカプタンが特に好ましく用いられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
アルキルメルカプタンの添加量は、単量体混合物100質量部に対して0.05〜1.0質量部、特に0.2〜0.7質量部とすることが好ましい。アルキルメルカプタンの添加量が上記下限未満では高粘度効果が生じやすく、急激な反応が生じて、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が低下する傾向にある。また、アルキルメルカプタンの添加量が上記範囲を超えると、アルキルメルカプタンとN−置換マレイミド単量体(B)により形成されるマイケル付加物が生じ、結果的にN−置換マレイミド単量体(B)が残存し、やはり得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が低下する傾向にある。
【0036】
α−メチルスチレンダイマーは反応速度を緩和することにより、得られる共重合体の黄味・加熱着色を効果的に抑制する成分である。α−メチルスチレンダイマーの添加量は、単量体混合物100質量部に対して0.05〜1.0質量部、特に0.1〜0.4質量部とすることが好ましい。α−メチルスチレンダイマーの添加量が上記下限未満であると、急激な反応が生じて、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が低下し、上記上限を超えると比較的低温での反応が進行し難くなり、結果として、やはり得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が低下する傾向にある。
【0037】
なお、アルキルメルカプタンとα−メチルスチレンダイマーとは、1:0.1〜1の質量比で単量体混合物100質量部に対して合計で0.3〜1.2質量部添加することが好ましい。
【0038】
[懸濁分散剤]
本発明の(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造には、懸濁分散剤や分散助剤を用いてもよい。
【0039】
懸濁分散剤としては、例えば、アニオン系水溶性高分子、ノニオン系水溶性高分子、水難溶性無機塩等が挙げられる。
【0040】
アニオン系水溶性高分子としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム、メタクリル酸ナトリウム−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等の1種又は2種以上が挙げられる。中でも、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0041】
ノニオン系水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルアミン等の水溶性高分子の1種又は2種以上が挙げられる。好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、更に好ましくはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体である。
【0042】
水難溶性無機塩としては、例えば、硫酸バリウム、第三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の1種又は2種以上が挙げられる。好ましくは第三リン酸カルシウムである。
【0043】
懸濁分散剤は、単量体混合物100質量部に対して0.1〜3質量部用いることが好ましい。
【0044】
分散助剤(懸濁助剤)としては、カルボン酸塩(例えば、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等)、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等のアルキル基および/又はアルケニル基を有する二塩基酸もしくはその塩の1種又は2種以上が挙げられる。
【0045】
分散助剤としては、製造時の安定性、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性等の点から、アルケニルコハク酸カリウムを用いることが好ましい。
【0046】
分散助剤は、単量体混合物100質量部に対して0.0001〜1質量部用いることが好ましい。
【0047】
[重合反応]
本発明の耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法における重合方法としては、後述の重合温度、昇温条件、反応時間以外には特に制限はなく、公知の懸濁重合方法を用いることができる。以下に限定されるわけではないが、例えば、水溶媒、単量体混合物、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、必要に応じて用いられる懸濁分散剤や分散助剤を加え(以下、単量体混合物にラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、水溶媒、その他の成分を添加したものを「反応原料混合物」と称す場合がある。)、撹拌しながら加熱することで耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を製造することができる。その際の各成分の添加方法としては、一括、連続、遂次添加のいずれでもよい。
【0048】
本発明の耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の製造方法では、反応原料混合物に対して、40〜60℃の温度で重合反応を開始し、連続的または段階的に1時間当たりの昇温速度が1〜20℃となるように100〜140℃まで昇温し、5〜12時間で重合反応を完結させる。
【0049】
重合開始温度が40℃未満であると、夏場などの気温が高い場合に温度制御が難しくなり、60℃を超えると得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂が着色しやすく発色性に劣るものとなる。このため、重合開始温度は40〜60℃とする。
【0050】
反応中の昇温速度が1℃/hr未満であると後述の反応を完結させる温度に達し得ない、または反応中に昇温速度を上げる必要があり、20℃/hrを超えると、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂が着色しやすく発色性に劣るものとなる。このため、昇温速度は1〜20℃/hr、好ましくは3〜12℃/hrとする。なお、昇温速度は、重合反応中、一定であってもよく変化してもよいが、重合反応中のいずれの期間においても、1時間当たりの昇温速度として1〜20℃、好ましくは3〜12℃とする。
【0051】
反応を完結させる温度が100℃未満であると、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂中に残存マレイミドが増加し、140℃を超えると、高温での副反応が生じやすくなり、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂が着色しやすく発色性に劣るものとなる。反応を完結させる温度は、100〜140℃、好ましくは100〜125℃とする。
なお、ここで、反応を完結させる温度とは、通常重合反応の最高温度に該当する。ただし、本発明では、反応開始から反応温度を上げてゆき、最高温度で反応を完結するものに限定されず、最高温度に到達した後、当該最高温度から降温した温度で反応を終了してもよい。いずれの場合であっても、本発明における重合反応の最高温度は100〜140℃、好ましくは100〜125℃の範囲となるようにする。
【0052】
重合反応時間が5時間未満であると残存マレイミド量が増加するか急激な反応が生じやすく、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が劣るものとなる。重合反応時間が12時間を超えると、高温の水溶媒中にある時間が長くなり、加水分解による着色が生じやすく、得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性が劣るものとなる。このため、重合反応時間は5〜12時間、好ましくは7〜10時間とする。
【0053】
なお、ここで、重合反応時間とは、40〜60℃の温度で重合反応を開始してから重合反応を終了し、反応生成物を冷却に供するまでの時間をいう。
【0054】
[耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の物性]
<ガラス転移温度(Tg)>
本発明の製造方法により得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、耐熱性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上、特に130℃以上であることが好ましい。このガラス転移温度(Tg)の上限には特に制限はないが、通常170℃程度である。
なお、耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0055】
<表面硬度>
本発明の製造方法により得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、表面硬度の観点から、後述の実施例の項に記載される方法で測定される表面硬度(鉛筆硬度)がH以上、特に2H以上であることが好ましい。
【0056】
[耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の添加剤]
本発明の製造方法により得られる耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤や、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、硬化剤、硬化促進剤、帯電防止剤、導電性付与剤、応力緩和剤、離型剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、衝撃付与剤、摺動性改良剤、相溶化剤、核剤、強化剤、流動調節剤、染料、増感剤、着色剤、増粘剤、沈降防止剤、ドリップ防止剤、消泡剤、カップリング剤、光拡散性微粒子、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤、防汚剤、導電性高分子などを添加することができる。これらの添加剤の加方法としては、重合前の単量体又は単量体混合物に溶解させて重合反応系に供する方法、または得られた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂と混合後、ペレット化する方法など任意に選択できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[原料]
実施例及び比較例において使用した原料について下記に示す。
【0059】
<単量体原料>
メタクリル酸メチル:三菱レイヨン株式会社製、アクリエステル(登録商標)M(表1,2中、「MMA」と記載する。)
N−フェニルマレイミド:株式会社日本触媒製、イミレックス(登録商標)−P(表1,2中、「PMID」と記載する。)
スチレン:NSスチレンモノマー株式会社社製(表1,2中、「ST」と記載する。)
α−メチルスチレン:三井化学株式会社製(表1,2中、「AMS」と記載する。)
【0060】
<ラジカル重合開始剤>
t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート:日油株式会社製、パーヘキシルND(10時間半減期温度:44.5℃)(表1,2中、「ND」と記載する。)
t−ブチルパーオキシピバレート:日油株式会社製、パーブチルPV(10時間半減期温度:54.6℃)(表1,2中、「PV」と記載する。)
1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノート:日油株式会社製、パーオクタO(10時間半減期温度:65.3℃)(表1,2中、「オクタO」と記載する。)
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノート:日油株式会社製、パーブチルO(10時間半減期温度:72.1℃)(表1,2中、「ブチルO」と記載する。)
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン:日油株式会社製、パーヘキサHC(10時間半減期温度:87.1℃)(表1,2中、「HC」と記載する。)
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボナート:日油株式会社製、パーブチルE(10時間半減期温度:99.0℃)(表1,2中、「ブチルE」と記載する。)
【0061】
[連鎖移動剤]
t−ドデシルメルカプタン:アルケマ株式会社製(表1,2中、「TDM」と記載する。)
α−メチルスチレンダイマー:三井化学株式会社製、MSD−100(表1,2中、「MSD」と記載する。)
【0062】
[懸濁分散剤・分散助剤]
第三リン酸カルシウム:宇部マテリアルズ株式会社製
アルケニルコハク酸カリウム:花王株式会社製、ラテムルDSK
【0063】
[着色剤]
酸化チタン:伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社製、Tioxide(登録商標)R−FC5
【0064】
[評価]
実施例及び比較例で得られた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の評価方法は以下の通りである。
【0065】
<発色性>
耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂100質量部に対し、酸化チタン6質量部を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200〜270℃、93kPa真空にて溶融混練後に、ペレタイザーを用いてペレット化した。
上記の酸化チタンを添加してペレット化した耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を、射出成形機(東芝機械社製、「IS55FP−1.5A」)によりシリンダー温度200〜270℃、金型温度80℃の条件で射出成形して、縦100mm、横100mm、厚さ3mmの成形品を得た。
得られた成形品について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM−3500d」)を用いてb*を、SCE方式にて測定した。b*の値が小さいほど黄色味が少なく、発色性が良好である。
【0066】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査熱量測定(DSC)により求めた。具体的には、耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂試料を窒素雰囲気下、10℃/minで、35℃から250℃まで昇温した後、35℃まで冷却し、再度250℃まで昇温した場合に観測されるガラス転移温度を求めた。ガラス転移温度が高いほど、耐熱性に優れる。
【0067】
<表面硬度>
上記の発色性の評価で成形した縦100mm、横100mm、厚さ3mmの成形品について、JIS K5600に準拠し、750gの荷重で鉛筆硬度を測定した。鉛筆硬度が高いほど、表面硬度が高い。
【0068】
[実施例1]
メタクリル酸メチル74質量%、N−フェニルマレイミド20質量%、α−メチルスチレン6質量%の単量体混合物100質量部に、パーヘキシルND 0.2質量部、パーヘキサHC 0.2質量部、t−ドデシルメルカプタン0.4質量部、α−メチルスチレンダイマー0.3質量部をあらかじめ混合し、純水200質量部に第三リン酸カルシウム0.4質量部、アルケニルコハク酸カリウム0.003質量部を添加し、撹拌機付の20リットル耐圧反応槽に仕込み、40℃から重合を開始させた。重合反応における昇温速度は5〜10℃/hrで9時間反応を行い、120℃にて重合を終了後、冷却、洗浄、濾過、乾燥工程を経てビーズ状の重合体である耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を得た。得られた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の評価結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2〜12、比較例1〜12]
表1,2に示す成分配合及び重合反応条件としたこと以外は、実施例1と同様に耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂を製造した。得られた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の評価結果を表1,2に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
実施例1〜12に示したように、本発明の製造方法によれば、耐熱性、表面硬度を低下させることなく、N−置換マレイミドを用いた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の発色性を良好なものとすることができる。
【0073】
比較例1〜3はラジカル重合開始剤の組み合わせが本発明の範囲外であり、比較例4,5はラジカル重合開始剤の添加量が本発明の範囲外であるため、得られた耐熱(メタ)アクリル酸エステル樹脂の黄味が強く、発色性に劣った。比較例6,7は連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンとα−メチルスチレンダイマーを併用しておらず、比較例8は昇温速度が速すぎ、比較例9〜12は反応終了温度または反応時間が本発明の好適範囲外であるため、やはり発色性に劣るものであった。