(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記排気口が正方格子、長方格子又は三角格子から成る格子の格子点に配置されており、前記給気口が該格子における単位格子の重心に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の粉末充填装置。
前記排気口及前記び給気口が設けられた範囲を囲うように配置された複数の排気口である外周部排気口を前記蓋に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粉末充填装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者が調べたところ、このようなエアタッピング法を用いて充填対象容器に粉末を充填した場合、充填対象容器内の位置によって粉末の充填密度が異なり、充填密度が充填対象容器全体で必ずしも均一にならないことが明らかとなった。さらに詳細に調べたところ、充填対象容器内において充填密度の粗密が生じる位置は、使用するエアタッピング装置によっても相違することが判明した。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、充填対象容器内全体で充填密度が均一に近くなるように充填対象容器内に粉末を高密度充填することができる粉末充填装置、及び該粉末充填装置を用いた焼結磁石製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る粉末充填装置は、
充填対象容器が有する複数個の粉末充填部に粉末を充填する装置であって、
a) 粉末を収容するための内部空間
と、該内部空間の上
側に
設けられた蓋
と、該内部空間の下
側に
設けられた、前記粉末充填部と同数の複数個の下部開口とを有し、該複数個の下部開口が前記複数個の粉末充填部
と同じ間隔で設けられており、該内部空間と該複数個の粉末充填部が該複数個の下部開口を介して密閉空間を形成することが可能
な粉末収容室と、
b) 前記
複数個の下部開口
の各々に設けられたグリッド部材と、
c) 前記蓋に二次元状に設けられた3個以上の排気口と、
d) 前記蓋の、前記3個以上の排気口のうちいずれか3個の排気口に囲まれた領域の内部に設けられた給気口と、
e) 前記給気口を通して前記内部空間に圧縮気体をパルス状に繰り返し供給する気体供給部と
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る粉末充填装置では排気口は蓋に二次元状に、すなわち一本の直線上には載らない配置で、3個以上設けられており、これら3個以上の排気口のうちいずれか3個の排気口に囲まれた領域の内部に給気口が設けられている。ここで「3個の排気口に囲まれた領域」とは、これら3個の排気口を結ぶ直線で囲まれた領域(三角形)として規定される。「領域の内部」には、これら直線上も含まれる。排気口が4個以上設けられている場合、それら排気口について上記要件を満たす給気口が追加的に設けられていてもよい。
【0009】
前記蓋は、粉末収容室に固定されていてもよいし、取り外し可能であってもよい。
【0010】
本発明に係る粉末充填装置を使用する際には、まず、内部空間に粉末を収容する。蓋が取り外し可能である場合には該蓋を取り外してそこから内部空間に粉末を供給すればよく、蓋が粉末収容室に固定されている場合には別途粉末供給口を粉末収容室に設けておいてそこから粉末を内部空間に供給してもよいし、下部開口から供給してもよい。そして、充填対象容器の粉末充填部と密閉空間を形成するように下部開口に充填対象容器を装着したうえで、前記給気口を通して前記内部空間に圧縮気体をパルス状に繰り返し供給する。これにより、内部空間内の粉末の上部空間の圧力を交互に上昇及び下降させ、該粉末をグリッド部材を通して充填対象容器に高密度充填する。
【0011】
本発明に係る粉末充填装置では、給気口から前記内部空間に供給される圧縮気体は給気口から、横方向に拡がりながら下方に向い、粉末を下部開口側に押す。そして、圧縮気体は粉末層からの反作用により上に向かい、さらに横方向に拡がりながら排気口に達し、外部に排出される。その際、給気口が3個の排気口に囲まれた領域の内部に配置されていることにより、横方向に拡がった気体が偏りなく排気口から排出される。そのため、内部空間内で局所的に圧力が上昇又は低下することを抑えることができ、それにより、開口からグリッド部材を通して充填対象容器に、均一に近い密度になるように粉末を供給することができる。
【0012】
前記給気口は、前記3個の排気口から等距離の位置に配置されていることが望ましい。これにより、より一層、内部空間内での圧力分布が均一に近くなり、充填対象容器に均一に近い密度になるように粉末を供給することができる。ここで、給気口の位置は、前記等距離の位置からわずかにずれている、具体的には該距離の10%以下だけずれていても許容される。
【0013】
前記排気口は正方格子、長方格子又は三角格子から成る格子の格子点に配置されており、前記給気口は該格子における単位格子の重心に配置されていることが望ましい。これらの格子における単位格子の重心は、該単位格子が有する4個の格子点のうち3個を(結果的には残りの1個も)結ぶ直線で囲まれる領域内(前記の通り、直線上を含む)にあり、3個の排気口から等距離の位置にあるため、上述の理由により、内部空間内での圧力分布を均一に近くすることができる。
【0014】
本発明に係る焼結磁石製造装置は、
a) 充填対象容器が有する複数個の粉末充填部に焼結磁石の原料となる粉末を充填する装置であって、
a-1)
前記粉末を収容するための内部空間
と、該内部空間の上
側に
設けられた蓋
と、該内部空間の下
側に
設けられた、前記粉末充填部と同数の複数個の下部開口とを有し、該複数個の下部開口が前記複数個の粉末充填部
と同じ間隔で設けられており、該内部空間と該複数個の粉末充填部が該複数個の下部開口を介して密閉空間を形成することが可能
な粉末収容室と、
a-2) 前記
複数個の下部開口
の各々に設けられたグリッド部材と、
a-3) 前記蓋に二次元状に設けられた3個以上の排気口と、
a-4) 前記蓋の、前記3個以上の排気口のうちいずれか3個の排気口に囲まれた領域の内部に設けられた給気口と、
a-5) 前記給気口を通して前記内部空間に圧縮気体をパルス状に繰り返し供給する気体供給部と
を有する粉末充填装置と、
b) 前記粉末が
、前記複数個の粉末充填部の各々に充填されたままの状態で機械的圧力を印加することなく、該粉末に磁界を印加させることにより、該粉末を配向させる配向部と、
c) 前記粉末が
、前記複数個の粉末充填部の各々
に充填されたままの状態で機械的圧力を印加することなく、該粉末を加熱することにより焼結させる焼結部と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る焼結磁石製造方法は、
a)
充填対象容器が有する複数個の粉末充填部に焼結磁石の原料となる粉末
を充填する工程であって、
1)
前記粉末を収容するための内部空間
と、該内部空間の上
側に
設けられた蓋
と、該内部空間の下
側に
設けられた、前記粉末充填部と同数の複数個の下部開口とを有し、該複数個の下部開口が前記複数個の粉末充填部
と同じ間隔で設けられており、該内部空間と該複数個の粉末充填部が該複数個の下部開口を介して密閉空間を形成することが可能
な粉末収容室と、
2) 前記
複数個の下部開口
の各々に設けられたグリッド部材と、
3) 前記蓋に二次元状に設けられた3個以上の排気口と、
4) 前記蓋の、前記3個以上の排気口のうちいずれか3個の排気口に囲まれた領域の内部に設けられた給気口と、
5) 前記給気口を通して前記内部空間に圧縮気体をパルス状に繰り返し供給する気体供給部と
を有する粉末充填装置の前記内部空間に粉末を収容し、該内部空間に圧縮気体をパルス状に繰り返し供給することにより
、前記複数個の粉末充填部の各々に粉末を充填する粉末充填工程と、
b) 前記粉末が
、前記複数個の粉末充填部の各々に充填されたままの状態で機械的圧力を印加することなく、該粉末に磁界を印加させることにより、該粉末を配向させる配向工程と、
c) 前記粉末が
、前記複数個の粉末充填部の各々に充填されたままの状態で機械的圧力を印加することなく、該粉末を加熱することにより焼結させる焼結工程と
を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、充填密度が均一に近くなるように充填対象容器内に粉末を高密度充填することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜
図12を用いて、本発明に係る粉末充填装置及び焼結磁石製造装置の実施例を説明する。
【0019】
図1(a)は、本実施例の粉末充填装置10の全体の構成を示す概略図である。粉末充填装置10は、本体11、蓋12、及び気体供給源13を有している。
【0020】
本体11は直方体の箱状のものであって、天井部の全体が開放されており、底部には後述の下部開口111が設けられている。蓋12は、本体11と同じ横断面を有する直方体の箱状のものであって、底部の全体が開放されており、天井部には後述の給気口121及び排気口122が設けられている。本体11及び蓋12には、ステンレス鋼やアルミニウム等から成るものを用いることができる。
【0021】
蓋12の側壁の下端にはその全周に亘ってシール材123が設けられている。また、蓋12の上面には、それを下方に押すための、押さえシリンダ124の可動部と接続する接続具125が設けられている。本体11の上に蓋12を載置したうえで押さえシリンダ124によって蓋12を本体11側に押しつけることにより、本体11と蓋12の境界における気密性が確保され、前記下部開口111、前記給気口121及び前記排気口122以外が密閉された内部空間102を有する粉末収容室101が形成されるようになっている。なお、シール材123は、本体11の側壁の上端に設けてもよい。
【0022】
本体11の底部には、長方形の下部開口111が、該底部の長方形の長辺方向に等間隔に6個、短辺方向には長辺方向よりも長い等間隔で3個、合計18個設けられている。また、本体11の外側の底面には、これら18個の下部開口111の全体を囲むようにシール材113が設けられている(
図2参照)。
【0023】
各下部開口111にはグリッド部材15が取り付けられている。グリッド部材15は、縦及び横にそれぞれワイヤが一定間隔で複数本張設されて成る。本実施例では、平均粒径が3μmの粉末を充填対象容器への充填の対象として、グリッド部材15のワイヤの間隔は3mmとした。このように、グリッド部材15のワイヤの間隔は粉末の平均粒径よりも3桁大きいが、粉末の粒子が凝集することにより、単にグリッド部材15の上に粉末を載置しただけでは、粉末がワイヤの間を通過して落下することはない。
【0024】
本体11の側の底面にはスペーサ30を介して充填対象容器20が装着される。充填対象容器20は、長方形の平板状の本体21の上面側に平板状のキャビティ22が、粉末充填装置10の本体11の下部開口111と同じ間隔で長辺方向に6個、短辺方向に3個、合計18個設けられたものである(
図3参照)。キャビティ22の上面は該下部開口111と同形状である。また、スペーサ30は、板材に18個の貫通孔31が、該下部開口111と同形状且つ同じ配置で設けられ、これら18個の貫通孔31の全体を囲むようにシール材32が下面に設けられたものである。下から順に充填対象容器20、スペーサ30及び本体11を、キャビティ22、貫通孔31及び下部開口111の位置を合わせて重ね、押さえシリンダ124によって蓋12を介して本体11を充填対象容器20側に押しつけることにより、本体11とスペーサ30、及びスペーサ30と充填対象容器20の境界における気密性がシール材113及び32によって確保され、本体11の下部開口111が充填対象容器20で密閉されるようになっている。なお、本実施例の粉末充填装置10を使用する際に、本体11と充填対象容器20の間にスペーサ30を介することは必須ではなく、本体11の底面を直接充填対象容器20の上に重ねてもよい。スペーサ30を使用する目的は、粉末充填装置10の使用方法を説明する際に述べる。
【0025】
蓋12の天井部には、
図1(b)の上面図に示すように、給気口121が6個、排気口122が18個設けられている。なお、
図1(b)では、本体11、蓋12、スペーサ30及び充填対象容器20を重ねたときに充填対象容器20のキャビティ22が配置される位置を破線で示している。排気口122は、天井部の長方形の長辺方向に等間隔で6個、短辺方向には長辺方向よりも長い等間隔で3個、2次元状に配置されている。すなわち、これら排気口122は、長方格子の格子点上に配置されている。各排気口122の位置は、蓋12を本体11に装着した際に、下部開口111の長方形の重心の直上となる位置である。給気口121は、長辺方向には排気口122の2倍の間隔で3個、短辺方向には排気口122と同じ間隔で2個、2次元状に配置されている。ここで
図1(b)に示す4個の排気口122
1、122
2、122
3、122
4のうちいずれか3個を結ぶ直線で規定される三角形から成る領域に着目する。例えば、3個の排気口122
1、122
2、122
3を結ぶ直線で規定される三角形から成る領域122Aに着目すると、給気口121はこの直線上、すなわち上記の定義の通り領域122A内に配置されている。排気口122
1、122
2、122
4等、他の排気口の組み合わせでも同様である。また、排気口122
1と122
3、及び排気口122
2と122
4はそれぞれ、給気口121を対称点とする点対称の位置にある。従って、4個の排気口122
1、122
2、122
3、122
4のうち任意の3個を結ぶ直線で規定される三角形から成る領域は、給気口121を対称点とする点対称の位置にある2個の排気口を有している。さらに、給気口121は、排気口122が配置された長方格子の単位格子122Uの重心の位置とも一致している。以上のように、上記4個の排気口122
1、122
2、122
3、122
4は、いずれも排気口121と等距離の位置にある。
【0026】
後述のように本体11内に粉末を供給する際に蓋12を本体11の直上の位置から横に移動させるために、粉末充填装置10は蓋12の移動機構(図示せず)を有している。
【0027】
気体供給源13は、圧縮気体源131と、該圧縮気体源131から6本(
図1では、うち3本のみを示す)に分岐して各給気口121に接続される圧縮気体配管132と、それら6本の圧縮気体配管132にそれぞれ設けられた電磁弁133を有する。圧縮気体には、焼結磁石の原料合金粉末等の酸化しやすい粉末を取り扱う場合には窒素ガスや希ガスといった不活性ガスを用い、酸化が問題にならない粉末を取り扱う場合にはコストの点で空気を用いるのがよい。圧縮気体配管132の一部は、蓋12を本体11の直上と他の位置の間で移動させたり本体11に押しつける際に上下に移動させることができるように、可撓性を有している。本実施例で用いる電磁弁133は、1秒間につき数十回程度の高速で開閉を繰り返すことができる弁である。なお、電磁弁133は、圧縮気体配管132のうち6本に分岐する手前(圧縮気体源131側)の位置に1個のみ設けるようにしてもよい。
【0028】
排気口122は、本実施例では蓋12の外側にそのまま開放されているが、蓋12の外側に設けた排気管と接続し、該排気管に電磁弁を設けてもよい。このような電磁弁を用いる場合には、圧縮気体配管132の電磁弁133と開閉のタイミングを逆にする。
【0029】
酸化しやすい粉末を取り扱う場合には、粉末充填装置10のうち少なくとも本体11及び蓋12、並びに充填対象容器20及びスペーサ30を、内部を不活性ガスで満たした(無酸素雰囲気にした)外容器(図示せず)内に収容する。
【0030】
図4を用いて、本実施例の粉末充填装置10の動作を説明する。まず、本体11と蓋12が分離されている状態で、粉末Pを本体11内に供給する(a)。このとき粉末Pは、下部開口111に設けられたグリッド部材15の上に載るが、前述の理由により、グリッド部材15のワイヤの間を通過して落下することはない。
【0031】
次に、上面にスペーサ30が装着された充填対象容器20を、本体11の下部開口111と充填対象容器20のキャビティ22の位置を合わせるように本体11の直下に配置する。それと共に、本体11の上に蓋12を載置する。そして、押さえシリンダ124により、蓋12を下方に押す(b)。これにより、蓋12と本体11、本体11とスペーサ30、及びスペーサ30と充填対象容器20の間の気密性が、それぞれシール材123、113及び32により確保される。
【0032】
この状態で、電磁弁133を1秒間につき数十回の周期で繰り返し開閉することにより、圧縮気体源131から圧縮気体配管132及び給気口121を通して粉末収容室101の内部空間102に圧縮気体をパルス状に繰り返し供給する(c)。供給された圧縮気体は、排気口122の排気抵抗によって給気のタイミングからやや遅れて排気口122から排出される。これにより、粉末収容室101の内部空間102では圧力が前記周期で上昇及び下降を繰り返す。粉末Pは、この圧力によって同周期で繰り返し下方に押され(エアタッピング)、グリッド部材15のワイヤの間から下方に押し出されて充填対象容器20のキャビティ22へ落下してゆく。なお、圧縮気体の圧力、周期及び1周期中の圧縮気体を供給する時間の比(デューティ比)は、取り扱う粉末毎に当業者が予備実験を行って適宜定めればよい。
【0033】
この操作を所定時間行うことにより、キャビティ22内、及びその上にあるスペーサ30の貫通孔31のところまで粉末Pで満たされる。その後、押さえシリンダ124による押圧を解放し、充填対象容器20とスペーサ30を一体のままで、本体11から離す(d)。以上により、キャビティ22及び貫通孔31内に粉末Pを充填する操作が完了する。
【0034】
ここではスペーサ30を用いた例を説明したが、このスペーサ30は、次に述べる後処理によって更に粉末の充填密度を高くするために用いている。従って、エアタッピングにより得られる充填密度よりも高くする必要がなければ、スペーサ30を使用する必要はない。しかし、PLP法によりRFeB(R
2Fe
14B:RはNd等の希土類元素)系焼結磁石を製造する際には、エアタッピングだけでは必要な充填密度まで高くすることが難しいため、スペーサ30を使用して以下の高密度化処理を行うことが望ましい。
【0035】
図5を用いて高密度化処理を説明する。
まず、スペーサ30の上面よりもわずかに上にはみ出した粉末Pを、スクレーパ36で掻き取り、スペーサ30の上面と同一平面になるように粉末Pの上端をならす(a)。本実施例のスクレーパ36は第1〜第3の掻き取り部361〜363を有し、第1掻き取り部361から第3掻き取り部363に向かって、粉末Pと接する先端の高さが低くなっている。スクレーパ36全体を、第1掻き取り部361、第2掻き取り部362、第3掻き取り部363の順で粉末Pに接触するように移動させることにより、粉末Pを徐々に掻き取ることができる。次に、スペーサ30の貫通孔31と同形状のパンチ35を上側から該貫通孔31に挿入することにより、貫通孔31内の粉末Pを充填対象容器20のキャビティ22に押し込む(b)。これにより、キャビティ22に、粉末充填装置10による充填時よりも高い密度で粉末Pが充填される。
【0036】
ここで、各掻き取り部361〜363及びスペーサ30には、繰り返し使用することで摩耗が生じることを抑えるために、耐摩耗性に優れた材料を用いている。各掻き取り部361〜363は、以下の表1の組成を有する冷間ダイス鋼材であるSKD11(日本工業規格(JIS) G4404に規定)から成る。SKD11は、製造時の条件にも依るが、ロックウェル硬さ(HRC)が60以上という高い値を有する。スペーサ30は、ステンレス鋼(SUS304)に硬質クロムメッキを施すことにより、表面のHRCを63以上としている。スペーサ30が摩耗すると、各掻き取り部361〜363によって掻き取られる粉末Pの量が変化し、それによりキャビティ22に充填される粉末Pの量が変化してしまうため、各掻き取り部361〜363のHRCよりもスペーサ30の表面のHRCが高い方が望ましい。
【表1】
【0037】
図6に、本実施例の変形例の粉末充填装置10Aを示す。この粉末充填装置10Aは、上記実施例と同じ構成を備える本体11と下記の構成を備える蓋12Aから成る粉末収容室101Aを有する。蓋12Aは、その内部に、横方向に張設されたシリコーンゴム製の膜126と、膜126の直下に設けられた金属製の網から成る膜抑制部材127が設けられている。それ以外の粉末充填装置10Aの構成は、上記粉末充填装置10と同じである。
【0038】
粉末充填装置10Aの使用方法は、上記粉末充填装置10と同じである。給気口121から圧縮気体を粉末収容室101Aの内部空間102Aに導入すると、その圧縮気体自体は膜126を通過しないが膜126を下方に押す(
図6中の一点鎖線)ため、膜126の下側にある気体が粉末Pを押すこととなり、上記粉末充填装置10と同様に、粉末Pをグリッド部材15のワイヤの間から下方に押し出して充填対象容器20のキャビティ22に供給することができる。そして、膜126を用いることにより、給気口121から圧縮気体を粉末収容室101Aの内部空間102Aに導入した際に、本体11内の粉末Pが該内部空間102Aのうち膜126よりも上側、すなわち給気口121及び排気口122側の領域1021Aに飛散して給気口121や排気口122に詰まることを防止することができる。
【0039】
なお、膜抑制部材127が無いと、膜126が降下し過ぎて本体11内の粉末Pに接触してしまうおそれがある。膜126が粉末Pに接触すると、粉末Pに直接圧縮力が作用し、密度分布が生じる。そのため、蓋12A内で膜126の下に膜抑制部材127を設けることにより、膜126が粉末Pに接触することを防止している。
【0040】
膜126の材料は、可撓性を有するものであればシリコーンゴムには限られず、例えばポリウレタン等を用いることもできる。また、膜抑制部材127は、膜126が膜抑制部材127よりも下側まで降下することを防止し、且つ気体を通過させることができるものであれば網には限らず、例えば板材に多数の孔を空けたものや、棒材を横に並べたもの等であってもよい。
【0041】
図7に、給気口121及び排気口122の配置の変形例を示す。(a)は、排気口122を配置した長方格子の全ての単位格子の重心(別の表現では、該長方格子を縦及び横に半周期ずらした長方格子の全ての格子点上)に給気口121を配置したものである。(b)は、充填対象容器20のキャビティ22の位置とは無関係に、排気口122を正方格子の格子点上に配置すると共に、給気口121を該正方格子における単位格子の重心に配置したものである。(c)は、排気口122を三角格子の格子点上に配置したうえで、該三角格子の単位格子の重心に給気口121を配置したものである。(d)は、排気口122を長方格子の格子点(但し、
図1(b)の例における長方格子とは周期及び格子点の位置が異なる)上に配置したうえで、給気口121を該長方格子における単位格子の重心から、隣接する4個の排気口122との距離の10%の距離だけずれるよう(前述のように単位格子の重心の位置とは同視できない位置)に配置したものである。これらはいずれも、本発明における給気口121及び排気口122の位置の要件を満たしている。
【0042】
次に、本実施例の粉末充填装置の構成に基づいた計算、及び本実施例の粉末充填装置を用いた実験の結果を説明する。以下に示す実験には、膜126等を有する粉末充填装置10Aを用いたが、粉末Pが粉末収容室101の内部空間102に飛散する問題を除いて、粉末充填装置10を用いても同様の実験結果が得られる。計算では、膜126及び膜抑制部材127を無視して行った。給気口121及び排気口122の位置は、
図1(b)に示したもの(実施例1)と、
図7(d)に示したもの(実施例2)の2種類とした。
【0043】
エアタッピング時に本体11内の粉末Pに印加される圧力の空間分布を計算で求めた結果を、実施例1については
図8(a-1)に、実施例2については同図(b-1)に示す。また、充填対象容器への充填密度の分布を実験で求めた結果を、実施例1については同図(a-2)に、実施例2については同図(b-2)に示す。充填密度の分布の実験は、
図3に示した充填対象容器20の代わりに、充填対象容器20において18個のキャビティ22が設けられる領域の全体に1個のキャビティを有する充填対象容器を用いて行った。
図8(b-1)及び(b-2)には、仮想的に、充填対象容器20の18個のキャビティ22を重ねて示した。図中に示された濃淡は、圧力や充填密度の相違を示しており、色が濃い(黒色に近い)程、圧力が低く、充填密度が小さいことを示している。
図8より、圧力の空間分布の計算結果、キャビティ22への充填密度の分布の実験結果のいずれにおいても、実施例2よりも実施例1の方が、より均一に近いことがわかる。
【0044】
図9に、
図3に示した充填対象容器20の18個のキャビティ22に粉末を充填した場合の充填密度の平均値、及びキャビティ毎の粉末の質量のばらつきを実験で求めた結果をグラフで示す。グラフの横軸は、エアタッピングで圧縮気体を繰り返し供給し続けて粉末を供給した時間である給粉時間を示す。キャビティ毎の粉末の質量のばらつきは、18個のキャビティのうち質量が最大のものと最小のものの差の値で示す。キャビティの容量は2.06cm
3であり、
図9に示した粉末の質量のばらつきの値を該容量の値で除することにより、充填密度のばらつきが求められる。実施例2よりも実施例1の方が、充填密度の平均値はやや高く、キャビティ毎の粉末の質量(充填密度)のばらつきは大幅に小さいことがわかる。
【0045】
本発明に係る粉末充填装置は、更に以下の変形が可能である。本発明に係る粉末充填装置は、蓋に二次元状に設けられた3個以上の排気口と、該3個以上の排気口のうちいずれか3個の排気口に囲まれた領域の内部に設けられた給気口を有するが、さらに、それら排気口及び給気口が設けられた範囲を囲うように配置された複数の排気口(外周部排気口)を前記蓋に備えることができる。粉末収容室内では、給気口から供給された気体が粉末収容室内の外周部(側壁付近)において行き場を失い、それによって外周部の圧力が中央付近よりも高くなり易い。その結果、充填対象容器では粉末の充填密度が中央付近よりも外周部側の方が高くなるという不均一性が生じる。そこで、上述の外周部排気口を設けることにより、粉末収容室内の外周部寄りのところから気体を効率よく排気することができ、粉末収容室内の圧力をより均一に近づけることができるため、充填対象容器内の粉末の充填密度がより均一に近くなる。
【0046】
図10に、外周部排気口を有する粉末充填装置における給気口121、排気口122、及び外周部排気口1220の配置の例((a)実施例3、(b)実施例4)を示す。これら実施例3及び4の粉末充填装置では、給気口121、排気口122、及び外周部排気口1220以外の構成は、他の実施例と同じであるため、詳細な説明を省略する。以下、給気口121、排気口122、及び外周部排気口1220の構成を説明する。
【0047】
給気口121及び排気口122は、実施例3では
図1(b)に示した例と同じ配置で、実施例4では
図7(a)に示した例と同じ配置で、それぞれ蓋12に設けられている。外周部排気口1220は、実施例3及び4で共通の構成を有する。外周部排気口1220は、給気口121及び排気口122が配置された範囲122Xよりも粉末収容室101の外周部側(側壁寄り)に設けられており、範囲122Xの(
図10(a)における)左右にそれぞれ縦方向に1列で3個ずつ、範囲122Xの(同上)上下にそれぞれ横方向に1列で8個ずつ、設けられている。外周部排気口1220の間隔は、基本的には排気口122の間隔と同じである。なお、横方向の列中の両端にある外周部排気口1220は、等間隔の配置の場合よりも内側に寄って配置されているが、これは粉末収容室101の横断面の四隅に丸みを設けている(図示せず)ことから外周部排気口1220を粉末収容室101内に収めるためである。外周部排気口1220の径はいずれも同じであってもよいが、本実施例では、横方向に並ぶ外周部排気口1220の方が、縦方向に並ぶものよりも排気口122との距離が近いため径を小さくしている。
【0048】
実施例3及び4につき、エアタッピング時に本体11内の粉末Pに印加される圧力の空間分布を計算で求めた結果を
図11(a-1)及び(a-2)に、充填対象容器への充填密度の分布を実験で求めた結果を
図11(b-1)及び(b-2)に、それぞれ示す。実施例3と、外周部排気口1220以外の構成が実施例3と同じである実施例1(
図8(a-1)、(a-2))を対比すると、実施例3の方が、充填対象容器の端部付近で充填密度が高くなることが抑えられており、充填密度がより均一に近い。また、実施例3と実施例4を対比すると、給気口121を配置する密度が高い実施例4の方が、充填対象容器の中央付近における充填密度が高くなるため、端部付近との充填密度の差が小さくなり、充填対象容器全体での充填密度の均一性が良い。
【0049】
次に、
図12を用いて、本発明に係る焼結磁石製造装置の一実施例を説明する。本実施例の焼結磁石製造装置40は、粉末充填装置10(又は10A)と、粉末高密度化装置42と、蓋取付部43と、配向装置(上記配向部)44と、焼結炉(上記焼結部)45を有する。また、焼結磁石製造装置40は、粉末充填装置10、粉末高密度化装置42、蓋取付部43、配向装置44、焼結炉45の順に充填対象容器20を搬送する搬送装置(ベルトコンベア)46を有する。これらの各装置のうち焼結炉45以外の各装置は、内部が不活性ガス雰囲気である共通の外容器47に収容されており、焼結炉45内も別途不活性ガスが供給されることで不活性ガス雰囲気となっている。これら外容器47及び焼結炉45の内部を不活性ガス雰囲気にする構成要素により、前述の無酸素雰囲気収容部が構成されている。なお、粉末充填装置10のうち、圧縮気体源131の全体及び圧縮気体配管132の一部は外容器47の外に配置されている。
【0050】
粉末充填装置10は、焼結磁石の原料となる粉末を充填対象容器20に充填する装置であり、上述の通りの構成を有する。粉末高密度化装置42は上述のパンチ35及びスクレーパ36から成る。蓋取付部43は、粉末が充填された充填対象容器20に、該充填対象容器20の蓋(粉末充填装置10の蓋12とは異なる)を取り付ける装置である。この蓋は、配向装置44における磁界や焼結炉45におけるガスの対流等によって合金粉末が充填対象容器20から飛散することを防止するために用いられる。
【0051】
配向装置44は、コイル441と容器昇降装置442を有する。コイル441は略鉛直方向(上下方向)の軸を有しており、容器昇降装置442の上方に配置されている。容器昇降装置442は、容器搬送装置46で搬送されてきた充填対象容器20をコイル441内との間で昇降させる装置である。
【0052】
焼結炉45は、充填対象容器20を多数収容する焼結室451と、外容器47と連通する搬入口452と、搬入口452に設けられた断熱性を有する扉453を有する。
【0053】
焼結磁石製造装置40の動作を説明する。まず、容器搬送装置46により、充填対象容器20が粉末充填装置10に搬送され、上述のように、充填対象容器20のキャビティ22内に合金粉末が充填される。次に、容器搬送装置46により充填対象容器20が粉末高密度化装置42に搬送され、上述のようにパンチ35を用いて粉末を高密度化した後、スクレーパ36によって上部の余分な粉末が除去される。続いて、容器搬送装置46により充填対象容器20が蓋取付部43に搬送され、充填対象容器20に蓋が取り付けられる。その後、充填対象容器20は、搬送装置46によって配向装置44に搬送され、配向装置44において容器昇降装置442によってコイル441内に配置され、コイル441が生成する磁界によって充填対象容器20内の粉末が配向する。この配向処理の後、充填対象容器20は、容器昇降装置442によってコイル441内から降ろされ、搬送装置46によって焼結炉45に搬送され、焼結室451内で所定の温度(通常、800〜1100℃)に加熱することにより充填対象容器20内の粉末を焼結する。
【0054】
以上のように、焼結磁石製造装置40では、圧縮成形を行うことなく磁界中配向及び焼結がなされるPLP法によって焼結磁石を製造することができる。