(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光ファイバへの前記レーザ光の照射は、前記移動制限部材の姿勢の傾斜動作および前記ファイバ送出し機構による前記光ファイバの送出し動作の双方が停止している期間中に行われる請求項1に記載の屈曲光ファイバの製造方法。
前記レーザ光の照射領域が前記光ファイバから外れた第1位置と、前記第1位置とともに前記光ファイバを挟み、かつ、前記照射領域が前記光ファイバから外れた第2位置との間を、前記光ファイバを横切るように前記軸方向に沿って前記レーザ光を走査させる請求項1または2に記載の屈曲光ファイバの製造方法。
光ファイバの屈曲部位が位置する、前記レーザ光の照射領域の平均温度がガラス軟化点以上を維持する時間が500ms以下となるよう、前記軸方向に沿った前記レーザ光の走査が制御される請求項1〜3の何れか一項に記載の屈曲光ファイバの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0017】
(1)本実施形態の一態様として、当該屈曲光ファイバの製造方法は、屈曲形状部を有する屈曲光ファイバを製造するため、前工程と、装着工程と、屈曲光ファイバ製造工程と、を少なくとも備え、屈曲光ファイバ製造工程は、弾性屈曲工程と、加熱工程と、を含む。前工程では、石英系ガラスからなる光ファイバが用意されるとともに、屈曲付与機構が用意される。屈曲付与機構は、所定の軸方向に沿って延びる回転軸と、光ファイバの長手方向に直交する方向への当該光ファイバの移動を制限するよう光ファイバを保持した状態で回転軸を中心に回転可能な移動制限部材と、を有する。装着工程では、前記光ファイバの一方の端部が前記屈曲付与機構に装着される一方、光ファイバの他方の端部が、ファイバ送出し機構に固定される。屈曲付与機構への光ファイバの装着は、移動制限部材に対して回転軸側から光ファイバの一方の端部を貫通させることにより、達成される。屈曲光ファイバ製造工程では、長手方向に沿って互いに離間した複数の屈曲部位が光ファイバに形成されることにより、前工程において用意された光ファイバに屈曲形状部が設けられる。
【0018】
ここで、屈曲光ファイバ製造工程の一部を構成する弾性屈曲工程では、ファイバ送出し機構により光ファイバ屈曲付与機構側へ送出しながら、光ファイバの送出し方向に対して移動制限部材の姿勢を、回転軸を中心に所定角度だけ傾斜させることにより、光ファイバに屈曲部位が形成される。この弾性屈曲工程では、光ファイバの送出しと移動制限部材の姿勢傾斜とが並行して行われることにより、光ファイバの、屈曲部位が形成されるべき一部(レーザ照射位置)が、常に回転軸と交差するように位置調節される。また、屈曲光ファイバ製造工程の一部を構成する加熱工程では、光ファイバを横切るように軸方向に沿ってレーザ光を走査させることにより屈曲部位を加熱により軟化させ、それにより、屈曲部位の応力が開放される。本実施形態では、光ファイバの送出し方向に対する移動制限部材の傾斜角度を、弾性屈曲工程を実行する毎に段階的に大きくなるよう変更しながら、加熱工程を断続的に繰り返すことにより、長手方向に沿って互いに離間した複数の屈曲部位が光ファイバに形成される。
【0019】
(2)本実施形態の一態様として、光ファイバへのレーザ光の照射は、移動制限部材の姿勢の傾斜動作およびファイバ送出し機構による光ファイバの送出し動作の双方が停止している期間中に行われるのが好ましい。
【0020】
(3)本実施形態の一態様として、レーザ光の照射領域は、回転軸の中心軸の、軸方向に沿って延びた延長線上に設定されており、光ファイバを挟んだ第1位置と第2位置との間で、光ファイバを横切るように軸方向に沿って走査されるのが好ましい。なお、第1位置は、レーザ光の照射領域が光ファイバから外れた位置である。また、第2位置は、第1位置とともに光ファイバを挟み、かつ、照射領域が光ファイバから外れた位置である。
【0021】
(4)本実施形態の一態様として、光ファイバの屈曲部位が位置する、レーザ光の照射領域の平均温度(以下、「ファイバ温度」と記す)がガラス軟化点以上を維持する時間が500ms以下となるよう、軸方向に沿ったレーザ光の走査速度および/または回数が制御されるのが好ましい。
【0022】
(5)本実施形態の一態様として、光ファイバは、軸方向に沿って配列された複数の光ファイバ要素を含んでもよい。この場合、装着工程において、これら複数の光ファイバ要素それぞれの一方の端部は、移動制限部材に保持される。また、これら複数の光ファイバ要素それぞれの他方の端部は、前記ファイバ送出し機構に固定される。なお、光ファイバまたは複数の光ファイバ要素それぞれは、1以上のコアを含んでもよい。すなわち、本実施形態に係る屈曲光ファイバの製造方法は、単一コアを有する光ファイバの他、2以上のコアを含むマルチコア光ファイバに対しても適用可能である。
【0023】
(6)本実施形態の一態様として、レーザ光は、波長1.5μm以上の赤外レーザ光を含んでもよい。
【0024】
(7)本実施形態の一態様として、弾性屈曲工程において付与される移動制限部材の、1回当たりの傾斜角度は、5°以下であるのが好ましい。
【0025】
(8)本実施形態の一態様として、移動制限部材は一対の突起であってもよく、この場合、一対の突起により規定される空隙の幅は、光ファイバのクラッド外径の2倍以上かつ4倍以下であるのが好ましい。なお、移動制限部材が一対の突起で構成される場合、「移動制限部材の姿勢」は、これら突起それぞれの断面中心を結ぶ線分により規定されるものとする。
【0026】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0027】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明に係る屈曲光ファイバの製造方法の具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る光接続部品の製造方法を実施するための製造装置の構成例を示す図である。
図1に示された製造装置の各部の構成として、
図2には、
図1に示された屈曲付与機構20の平面構造および側面構造が示され、
図3には、本実施形態の装着工程および屈曲光ファイバ製造工程の一部を構成する加熱工程を説明するため、
図1の製造装置に装着されに光ファイバの平面図が示され、また、
図4には、
図1に示された製造装置におけるファイバ送出し機構を後方から見た正面図が示されている。
【0029】
図1に示されたように、本実施形態に係る光ファイバの製造方法を実施する製造装置は、制御部660と、光ファイバ10の一部に屈曲部位を形成するための屈曲形成機構と、ファイバ送出し機構と、作業ステージ600と、を備える。光ファイバ10と平行にX軸、作業ステージ600に垂直にZ軸、X軸とZ軸に垂直にY軸をとる。作業ステージ600上の屈曲形成機構は、光ファイバ10の一部に屈曲部位を形成するための屈曲付与機構20、特に、光ファイバ10の一方の端部(以下、「先端部」と記す)を挟む一対の突起(移動制限部材を構成し、以下、「屈曲レバー」と記す)22A、22Bを保持した状態で回転させるための回転機構620(例えばステッピングモータ等)と、光ファイバ10を横切るようにY軸に沿ってレーザ光を走査させるレーザ走査機構120と、これら回転機構620およびレーザ走査機構120を所定位置で保持する支持台610と、により構成されている。回転機構620は、回転軸310を介して、矢印M1で示された方向に回転可能な状態で屈曲付与機構20を保持する。回転軸310を中心に屈曲付与機構20を回転させることにより、一対の屈曲レバー22A、22Bの姿勢(一対の屈曲レバー22A、22Bそれぞれの断面中心を結ぶ線分により規定)が変えられる。
【0030】
一方、作業ステージ600上のファイバ送出し機構は、ファイバ固定部品500と、ファイバ固定部品500を保持する把持ステージ630と、把持ステージ630の移動方向(矢印M2で示された方向)を規定するレール640と、レール640に沿って把持ステージ630を移動させるための駆動部650と、により構成されている。また、レーザ走査機構120からのレーザ光照射、回転機構620における回転軸310の回転動作、および駆動部650による把持ステージ630の移動動作は、制御部660により一括制御される。
【0031】
屈曲付与機構20は、
図2の例に示されたように、回転機構620に取り付けられ、かつ、Y軸方向に沿って延びた回転軸310と、その中心部分が回転軸310に固定された、円盤状の支持板21と、支持板21の主面上に、軸方向に沿って延びた状態でそれぞれ固定された一対の屈曲レバー22A、22Bと、を有する。なお、
図2の左側は、Y軸方向に沿って
図1の製造装置を見たときの屈曲付与機構20の正面図であり、
図2の右側は、X軸方向に沿って
図1の製造装置を見たときの屈曲付与機構20の側面図である。また、以下の説明では、回転軸310と一対の屈曲レバー22A、22Bとの距離、具体的には、回転軸310の断面中心から一対の屈曲レバー22A、22Bの断面中心間の中間位置までの距離をrと規定する(
図5B参照)。
【0032】
図2に示されたように、一対の屈曲レバー22A、22Bそれぞれは、支持板21の主面から軸方向(Y軸方向)に沿って延び、これら一対の屈曲レバー22A、22Bの間には所定幅の空隙220が設けられている。光ファイバ10の先端部は、この空隙220を貫通するよう配置されることにより、該光ファイバ10の長手方向に直交する方向への当該光ファイバ10の移動が制限される。また、回転機構620が回転軸310を介して支持板21を回転させると、該支持板21に固定された一対の屈曲レバー22A、22Bの姿勢が変更する。したがって、光ファイバ10を挟んだ状態一対の屈曲レバー22A、22Bの姿勢が変更されることにより、光ファイバ10の一部に屈曲部位が形成される。なお、一対の屈曲レバー22A、22Bにより規定される空隙220の幅は、光ファイバ10のクラッド外径の2倍以上かつ4倍以下であるのが好ましい。具体的には500μm以下であるのが好ましい。空隙220の幅がこのような範囲に設定されることにより、ZX面内で光ファイバ10の長手方向に直交する方向の当該光ファイバ10の移動、具体的には屈曲光ファイバ製造工程における加熱工程の前後における光ファイバ10の先端部の変動が効果的に制限される。すなわち、
図7に示されたように、レーザ光の走査による光ファイバ10の加熱前は、光ファイバ10自身の弾性力により一方の屈曲レバー22Aが光ファイバ10の先端部(
図7中の実線で示された部分)の移動を制限するように機能する。一方、加熱後は、光ファイバ10に形成された屈曲部位における応力が解放されるため、光ファイバ10の先端部は、
図7中の破線で示されたように変動する。この場合、一方の屈曲レバー22Aは、光ファイバ10の先端部が
図7中の矢印M3で示された方向に跳ね上がるのを抑制するよう機能し、他方の屈曲レバー22Bが、光ファイバ10の端面10a側が矢印M3とは逆方向に下がるのを抑制するよう機能する。
【0033】
次に、
図3は、本実施形態の装着工程および屈曲光ファイバ製造工程の一部を構成する加熱工程を説明するため、
図1の製造装置に装着されに光ファイバを示す平面図である。なお、
図3は、Z軸方向に沿って
図1の製造装置を見たときの光ファイバ10の装着状態を示す平面図である。
【0034】
図3に示された例において、用意される光ファイバ10は、石英系ガラスからなり、コア11およびクラッド12を有する。光ファイバ10の数は、1本でもよいし、複数本が並列配置されていてもよい。また、光ファイバ10は、単一コアを有するシングルコア光ファイバであっても、複数コアを有するマルチコア光ファイバであってもよい。光ファイバ10の、屈曲部位が形成される領域では、樹脂被覆層が除去され、該光ファイバ10のガラス部分が露出されているが、それ以外の領域では樹脂被覆層が設けられていてもよい。光ファイバ10の先端には光コネクタ等の接続部品が設けられていてもよい。
図3に示された例では、並列配置された3本の光ファイバ(光ファイバ要素)10の、端面10aを含む先端部側を、屈曲付与機構20の一対の屈曲レバー22A、22Bにより規定される空隙220に対して貫通させることにより(光ファイバ10の先端部が一対の屈曲レバー22A、22Bにより挟まれた状態)、光ファイバ10の先端部が屈曲付与機構20に装着される。一方、端面10bを含む光ファイバ10の他方の端部(以下、「後端部」と記す)は、把持ステージ630に保持されたファイバ固定部品500に固定されることで、当該光ファイバ10の後端部がファイバ送出し機構に固定される。
【0035】
また、レーザ走査機構120から照射されるレーザ光は、光ファイバ10を横切るようにY軸方向に沿って走査させる。
図3の例では、レーザ光の照射領域は、
図3に示されたように領域AR0(斜線領域)内にY軸方向に沿って並列に配列された3本の光ファイバ10全てが含まれるサイズを有する。また、光ファイバ10に対するレーザ光の照射位置は、ファイバ送出し機構のファイバ送出し動作により調整される。なお、レーザ光の照射領域は、複数本の光ファイバ全てが含まれるサイズを有さなくともよい。すなわち、レーザ光の照射領域は、配置される光ファイバの本数の増減に対応すべく、光ファイバ1本分以上のサイズを有すればよい。ただし、加熱工程におけるレーザ光の走査は、3本の光ファイバ10から外れた第1位置および第2位置の間を、3本の光ファイバ10を横切るようにY軸に沿って行われる。具体的に、第1位置は、
図3の3本の光ファイバ10から外れたレーザ光の照射領域AR1の中心O
1に相当し、第2位置は、
図3の3本の光ファイバ10から外れたレーザ光の照射領域AR2の中心O
2に相当する。したがって、レーザ走査機構120は、
図3中の矢印S1で示した方向に沿ってレーザ光を走査させることになる。なお、レーザ光の照射領域AR0〜AR2は、何れも、回転軸310の中心軸の、Y軸(軸方向)に沿って延びた延長線上に設定されている。
【0036】
上述のように、光ファイバ10の後端部は、ファイバ送出し機構に固定されるが、具体的には、
図4に示されたように、光ファイバ10の後端部は、光ファイバ10とファイバ固定部品500との相対位置が変動しないように、該ファイバ固定部品500により把持される。なお、
図4は、
図1に示された製造装置におけるファイバ送出し機構を後方から見た正面図であり、具体的にはX軸方向から
図1の製造装置を見たときの当該製造装置の側面図である。
【0037】
具体的に、光ファイバ10の後端部は、
図4に示されたように、光ファイバ10とファイバ固定部品500との相対位置が変動しないように、ファイバ固定部品500により把持される。なお、ファイバ固定部品500は、光ファイバ10のZ方向に沿った移動を制限するリッド500aと、光ファイバ10が設置されるV溝510を有するV溝基板500bにより構成される。このファイバ固定部品500は、固定治具550により、把持ステージ630の上部に固定されている。また、レール640には、その長手方向に沿ってらせん状にネジ溝が形成されるとともに、該レール640が貫通する把持ステージ630の貫通孔の内周面にもネジ山が形成されている。レール640が把持ステージ630の貫通孔に挿入された状態で、レール640のネジ溝と把持ステージ630のネジ山はかみ合っており、X軸(レール640の中心軸に一致)を中心に駆動部650がレール640を回転させることにより、把持ステージ630は、少なくとも矢印M2で示された方向(X軸方向)に移動し得る。
【0038】
本実施形態に係る屈曲光ファイバの製造方法は、レーザを加熱源とし、光ファイバ10に対して離間的にレーザを照射することで該光ファイバ10の一部に屈曲形状部を形成する製造方法であって、以下、本実施形態の屈曲光ファイバ製造工程を、
図5A、
図5B、および
図6〜
図9を用いて詳細に説明する。
【0039】
まず、光ファイバ10および
図2の例に示されたような形状を有する屈曲付与機構20を用意し(前工程)、
図1の製造装置に対して
図3に示されたように、光ファイバ10が装着される(装着工程)。
【0040】
屈曲光ファイバ製造工程では、まず、
図5A中に実線で示されたように、
図1の製造装置に装着された光ファイバ10に屈曲部位を形成する弾性屈曲工程が実施される。なお、
図5Bには、
図5A中の各部の配置が示されている。すなわち、
図5Bにおいて、回転軸310と一対の屈曲レバー22A、22Bとの距離(回転半径)rは、回転軸310の断面中心から一対の屈曲レバー22A、22Bの断面中心間の中間位置までの距離で規定される。また、回転軸310の断面中心とファイバ固定部品500の端面(屈曲付与機構20側の端面)との距離はLである。
【0041】
弾性屈曲工程において、制御部660は、回転機構620が回転軸310をファイバ送出し方向(
図1のX軸方向)に対して一対の屈曲レバー22A、22Bの姿勢を角度θ(例えば5°以下が好ましい)だけ傾斜させる。同時に、制御部660は、レール640に沿って矢印M2で示された方向に、一定距離xだけ把持ステージ630を移動させるよう駆動部650を制御する。把持ステージ630の移動により、回転軸310の断面中心とファイバ固定部品500の端面との距離は(L−x)になる。
【0042】
一対の屈曲レバー22A、22Bの姿勢が角度θだけ傾斜すると、該一対の屈曲レバー22A、22Bの位置は、回転軸310を中心にして矢印M1(回転軸310の回転方向)に沿って移動する。これにより、光ファイバ10に屈曲部位が形成される。ただし、一対の屈曲レバー22A、22Bの姿勢傾斜だけでは、光ファイバ10の屈曲部位は、レーザ光の照射領域AR0〜AR2が設定された回転軸310の中心軸の延長線(Y軸に平行な仮想線)よりも下にずれてしまう。そこで、本実施形態では、光ファイバ10の後端部が固定されたファイバ固定部品500を屈曲付与機構20側にxだけ移動させることで、光ファイバ10に形成された屈曲部位が回転軸310の中心軸の延長線上に位置させている。このような光ファイバ10の送出し動作により、屈曲部位の形成位置(すなわち、レーザ光の照射位置)を、光ファイバ10の長手方向に沿ってずらすことが可能になる。
【0043】
上述のような弾性屈曲工程に続いて、加熱工程では、
図3に示されたように、照射領域AR1とAR2との間で、照射領域AR0を有するレーザ光を矢印S1で示された方向に沿って走査させることにより、弾性屈曲工程により光ファイバ10に形成された屈曲部位が加熱される。照射されるレーザ光の波長は、波長1.5μm以上の赤外レーザ光である。また、レーザ光の照射領域は、回転軸310の中心軸の、Y軸(軸方向)方向に沿って延びた延長線(仮想線)上、すなわち、屈曲付与機構20の回転中心に設定されており、上述の弾性屈曲工程において光ファイバ10に形成された屈曲部位の位置変動(光ファイバ10へのレーザ光照射距離の変動)を避けるため、この加熱工程は、屈曲付与機構20(一対の屈曲レバー22A、22Bの移動動作)および屈曲付与機構20および送出し機構(把持ステージ630の移動動作)の双方が停止している期間中に行われる。
【0044】
このレーザ光の照射動作により、光ファイバ10の屈曲部位における応力は緩和され、光ファイバ10の形状は、
図5Aの破線で示された形状に変化する。この時、一対の屈曲レバー22A、22B付近における光ファイバ10(光ファイバ10の先端部)の形状変化が
図7に示されている。すなわち、
図7に示されたように、レーザ光の走査による光ファイバ10の加熱前は、光ファイバ10自身の弾性力により一方の屈曲レバー22Aが光ファイバ10の先端部(
図7中の実線で示された部分)の移動を制限している。一方、加熱後は、光ファイバ10に形成された屈曲部位における応力が解放されるため、光ファイバ10の先端部は、
図7中の破線で示されたように変動する。この場合、一方の屈曲レバー22Aが、光ファイバ10の先端部が
図7中の矢印M3で示された方向に跳ね上がるのを抑制するとともに、他方の屈曲レバー22Bが、光ファイバ10の端面10a側が矢印M3とは逆方向に下がるのを抑制する。なお、光ファイバ10の先端を押し下げる際、所望の角度になるよう、一対の屈曲レバー22A、22Bにより規定される空隙の幅は、光ファイバ10の上側への僅かな移動が引っかかりなく行えるよう、500μm以内(光ファイバ10のファイバ外径の2倍〜4倍の範囲)であるのが好ましい。
【0045】
なお、レーザ光の走査は、
図3に示されたように、中心O
1(第1位置)で特定される照射領域AR1と中心O
2(第2位置)で特定される照射領域AR2の間で、矢印S1で示された方向(3本の光ファイバ10を横切るY軸方向に一致)に沿って行われる。なお、照射領域AR1および照射領域AR2の何れも3本の光ファイバ10から外れている。これは、ビームプロファイルの影響を低減するためである。過剰照射によって光ファイバ10が過度に軟化し、自重で想定以上に屈曲することを防ぐため、レーザ光の照射領域における温度の計測結果に基づいて、照射時間が決められる。例えば、
図6は、ファイバ温度(光ファイバ10の屈曲部位が配置された、レーザ光の照射領域の平均温度)の時間変化を示すグラフであり、照射領域AR1と照射領域AR2の間で、レーザ光を一往復させる動作を、断続的に複数回行ったときの測定結果である。本実施形態では、制御部660が、各光ファイバ10の表面温度がガラス軟化点以上を維持する時間が500ms以下となるよう、レーザ走査機構120を制御している。
【0046】
この時の光ファイバ10の表面温度は放射温度計を用いて測定される。放射温度計は、レーザ光照射による短時間の急激な温度変化を記録するため、ミリ秒オーダの高い応答速度を有するものが好ましい。温度測定範囲は、3本の光ファイバ10が並列配置された幅方向を丁度覆う程度の範囲とし、測定温度は当該範囲の平均温度で規定される。そのため、測定された温度は、3本の光ファイバ10間の空隙を含んだ平均値となり、実際の光ファイバ表面の温度とは異なる場合がある。したがって、本実施形態でのガラスの軟化点とは当該放射温度計を用いて、光ファイバ10が軟化し始めた時の実際的な測定値を指す。
【0047】
上述のように、弾性屈曲工程における「屈曲付与機構20による光ファイバ10の先端部の押し下げ動作」と「ファイバ送り出し機構による光ファイバ10の後端の前進移動動作」により生じる応力は、加熱工程におけるレーザ光の走査(加熱による光ファイバ10の屈曲部位の軟化)により、緩和する。これにより、光ファイバ10の屈曲部位は上側へ僅かに移動し(
図5Aの破線で示された形状)、押し下げた角度分だけ屈曲させた光ファイバ10の曲げ加工を実現することができる。
【0048】
本実施形態の屈曲光ファイバ製造工程では、上述の弾性屈曲工程および加熱工程が最終的に終的に所望の曲率を得るまで繰り返される。
【0049】
図8は、上述の本実施形態の製造方法により製造された、屈曲光ファイバにおける屈曲形状部の拡大図である。また、
図9は、上述の本実施形態の製造方法により製造された屈曲光ファイバと比較例の製造方法により製造された屈曲光ファイバの屈曲形状部それぞれにおける曲率(=1/曲率半径R)の測定結果を示す図である。その長手方向に沿って複数の屈曲部位が形成された、光ファイバ(屈曲光ファイバ)10の屈曲形状部は、開始端R1から終了端R2までの区間に相当する。この屈曲光ファイバ10において、レーザ光照射跡、破断、細径化は認められなかった。
【0050】
なお、
図8に示されたように、屈曲光ファイバ10の曲率半径はRで与えられる。屈曲形状部における曲げ角θ
totalは、開始端R1から端面10aを含む屈曲光ファイバ10の先端部までの直線部分と、終了端R2から端面10bを含む屈曲光ファイバ10の後端部までの直線部分との成す角度で規定され、上述の弾性屈曲工程および加熱工程がn(≧1)回行われた場合、nθに相当する(1回の曲げ角度θは5°以下)。また、
図9において、グラフG910は、本実施形態の製造方法により製造された屈曲光ファイバの測定結果を示し、グラフG920は、比較例に係る屈曲光ファイバの測定結果を示す。比較例に係る屈曲光ファイバは、上記特許文献1の製造方法により製造されたものである。また、
図9中に示された横軸「n箇所屈曲されたファイバm本の各点の曲率(=1/R)」は、
図8に示された屈曲光ファイバ10の屈曲形状部(開始端R1から終了端R2までの区間)における各点の曲率に相当する。
【0051】
上記特許文献1に記載された連続的加熱による屈曲光ファイバの製造方法で複数の屈曲光ファイバそれぞれの曲率を安定させるためには、屈曲部位が形成されるべき複数の光ファイバの配置幅方向と長手方向の両方で温度分布が均一であることが求められる。例え、2方向に均一な温度分布を実現できたとしても、連続加熱では複数の光ファイバそれぞれの中芯に熱が集中する傾向がある。そのため、
図9に示されたように、各光ファイバにおける屈曲形状部の曲率を安定して制御することには困難が伴う(グラフG920)。一方、本実施形態の製造方法(レーザ光の照射による断続的な屈曲)では、レーザ光の出力条件を制御することで屈曲部位が形成される光ファイバの温度を正確に管理できるため、
図9のグラフに示されたように、安定した曲率を実現することができる(グラフG910)。