(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、絞り成形用シートとしてリチウムイオン電池の外装用のシートを例として、本発明を説明する。なお、前述のように、この外装用シートは、絞り成形してその収容部(凹部)に電池要素を収容した後、密封してリチウムイオン電池を製造することができる。そして、その後、揮発性溶剤(例えばメチルエチルケトン)を含むインクを使用するインクジェット印刷法で、その外表面に印刷することが可能である。
【0020】
図1は、本発明に係る絞り成形用シート1の例を示す断面図である。このシート1は、
多層構造を有する基材シートの片面に2層の塗布被膜を具備して構成されている。基材シートは多層構造を有しており、プラスチックシート11、少なくとも片面に腐食防止処理層13aが設けられたアルミニウム箔層13、シーラント層15を、それぞれ、接着剤層12,14を介して積層して構成されている。そして、塗布被膜1a,1bはプラスチックシート11の外表面に塗布されている。この2層の塗布被膜1a,1bのうち、プラスチックシート11に近い方の塗布被膜1aはシリコーンオイルの塗布被膜である。また、遠い方の塗布被膜1bはスリップ剤の塗布被膜で、塗布被膜1bは、塗布被膜1aに接触するように、塗布被膜1aの上に重ねて塗布されている。なお、この塗布被膜1bは、微細な島状に点在して設けられていてもよい。
【0021】
シリコーンオイルの塗布被膜1aは高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル又はポリエーテル変性シリコーンオイルから構成されている必要がある。後述する実験例から分かるように、この塗布被膜1aをその他の種類のシリコーンオイル、例えばジメチルシリコーンオイルで構成した場合には、インクジェット印刷に対する印刷適性が不十分である。
【0022】
また、このシリコーンオイルは、単一成分のシリコーンオイルで構成されていてもよいし、二成分以上のシリコーンオイルを混合した混合シリコーンオイルで構成されていてもよいが、全体としてその屈折率が1.40〜1.45の範囲内にあることが望ましい。変性シリコーンオイルの屈折率は、その変性シリコーンオイルに含まれる置換基(高級脂肪酸エステル基又はポリエーテル基)の割合を反映しており、置換基の割合が多いほど屈折率が大きくなる。この置換基を含まないストレートなジメチルシリコーンオイルを使用した場合には、前述のとおり、印刷適性が不十分となるが、置換基の割合が過剰の場合、したがって屈折率が過剰に大きい場合には、印刷適性を満足する塗布量の範囲、すなわち、塗布量マージンが狭くなる。後述する実験例から分かるように、屈折率が1.425の高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル(SR−3)を使用した場合には塗布量0.15〜3.00mg/m
2の範囲で印刷適性の顕著な改善効果が見られるが、屈折率が1.403のポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−2)を使用した場合には塗布量0.15〜1.20mg/m
2の範囲で印刷適性の顕著な改善効果が見られ、塗布量3.00mg/m
2では十分な改善効果が見られない。また、屈折率が1.45のポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−4)を使用した場合には塗布量1.20〜3.00mg/m
2の範囲で印刷適性の顕著な改善効果が見られ、塗布量0.15mg/m
2では十分な改善効果が見られない。また、屈折率が1.463のポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−5)を使用した場合には、塗布量の如何に拘わらず、印刷適性の十分な改善効果が見られない。このように、屈折率が1.42〜1.43の範囲の変性シリコーンオイルを使用した場合、その塗布量マージンが最も広く、これより屈折率が小さい場合、あるいは大きい場合のいずれの場合にも、塗布量マージンが狭くなる。
【0023】
なお、これら高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル及びポリエーテル変性シリコーンオイルは、いずれも、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社や信越化学社から市販されている。これら変性シリコーンオイルは、イソプロピルアルコール等の溶剤に分散してコーティング液とし、このコーティング液を塗布することにより、塗布被膜1aを形成することができる。塗布方法としては、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法等が利用できる。
【0024】
次に、スリップ剤としては、不飽和脂肪酸アミド等の脂肪酸アミドを使用できる。例えば、エルカ酸アミド又はオレイン酸アミドである。中でも、エルカ酸アミドを好適に使用することができる。
【0025】
スリップ剤の塗布被膜1bは、その塗布量が3.0〜10.0mg/m
2であることが
必要である。これより少ない場合、静摩擦係数が大きく、絞り成形適性が不十分である。また、これより多い場合には、絞り成形用シート1の保管・輸送の際に、隣接する絞り成形用シート1の反対側の面(内表面)にスリップ剤が転移して汚染する。このスリップ剤も、前述の変性シリコーンオイルと同様の方法で塗布することができる。すなわち、スリップ剤を溶剤に分散してコーティング液とし、このコーティング液を塗布することにより、塗布被膜1bを形成することができる。塗布方法も、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法等を利用できる。
【0026】
なお、この例では、アルミニウム箔層13とシーラント層15とを接着剤層14を介して接着しているが、この接着剤層14に代えて接着性樹脂によって接着してもよい。
図2は、このように接着性樹脂14’によってアルミニウム箔層13とシーラント層15とを接着した絞り成形用シート1’の例を示す断面図である。
【0027】
また、これらの例では、プラスチックシート11とアルミニウム箔層13とを、接着剤層12を介して接着しているが、この接着に先立って、アルミニウム箔層13表面に下地処理を施してもよい。
図3は、このように、アルミニウム箔層13表面に下地処理層13bを設けた後、接着剤層12を介してプラスチックシート11を接着した絞り成形用シート1”の例を示す断面図である。
【0028】
次に、これら第1の例から第3の例に使用する各材料のうち、基材シートを構成する材料について、逐次説明する。次に本発明に係る絞り成形用シート1,1’,1”の製造方法について説明し、最後に絞り成形用シート1,1’,1”の使用方法について説明する。
【0029】
(プラスチックシート11)
プラスチックシート11は、リチウムイオン電池を製造する際のヒートシール工程における耐熱性の付与、成形加工や流通の際に起こり得るピンホールの発生の抑制等の役割を果たす。特に大型用途のリチウムイオン電池の外装材の場合等は、耐擦傷性、耐薬品性、絶縁性等も付与できる。
【0030】
プラスチックシート11としては、絶縁性を有する樹脂により形成された樹脂フィルムが好ましい。該樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルムが挙げられる。
【0031】
プラスチックシート11は、単層のフィルムで構成されていてもよいし、複数のフィルムを積層した多層構造を有していてもよい。これらのフィルムとしては、例えば、延伸または無延伸ポリアミドフィルム、延伸または無延伸ポリエステルフィルム、延伸ポリアミドフィルムと延伸ポリエステルフィルムとの2層フィルム等が挙げられる。
【0032】
プラスチックシート11の厚みは、成形性、耐熱性、耐ピンホール性、絶縁性を向上させるという点で、6μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、薄膜化、高放熱性の点では、60μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましい。プラスチックシート11が多層構造のフィルムである場合、前記厚みは、その全体の厚さである。
【0033】
(アルミニウム箔層13)
アルミニウム箔層13を構成するアルミニウム箔としては、一般に用いられている軟質アルミニウム箔を用いることができる。さらなる耐ピンホール性、及び成形時の延展性を付与させる目的で、鉄を含むアルミニウム箔を用いることが好ましい。
【0034】
アルミニウム箔(100質量%)中の鉄の含有量は、0.1〜9.0質量%が好ましく
、0.5〜2.0質量%がより好ましい。鉄含有率が0.1質量%以上であると耐ピンホール性、延展性が十分に付与され、9.0質量%以下であると柔軟性が良好である。
【0035】
アルミニウム箔層13の厚みは、バリア性、耐ピンホール性、加工性の点から、9〜200μmが好ましく、15〜100μmがより好ましい。
【0036】
(腐食防止処理層13a)
腐食防止処理層13aは、電解液あるいはフッ酸によるアルミニウム箔層13の腐食を防止するために設けられる層である。
【0037】
腐食防止処理としては、脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理、腐食防止性能を有するコーティング剤を塗工するコーティングタイプの腐食防止処理あるいはこれら処理の2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0038】
上述した処理のうち脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、特に熱水変性処理や陽極酸化処理は、処理剤によって金属箔(アルミニウム箔)表面を溶解させ、耐腐食性に優れるアルミニウム化合物(ベーマイト、アルマイト)を形成させることから、金属箔から腐食防止処理層13aまで共連続構造を形成している形になるために、化成処理の定義に包含されるケースもあるが、後述する希土類元素酸化物ゾルを含有するコーティング剤を用いる方法のような、化成処理の定義に含まれない純粋なコーティング処理のみで腐食防止処理層13aを形成させることも可能である。
【0039】
まず、脱脂処理について説明すると、脱脂処理は大きく区分してウェットタイプ、ドライタイプが挙げられる。
【0040】
ウェットタイプの脱脂処理としては、酸脱脂、アルカリ脱脂などが挙げられる。酸脱脂に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸等の無機酸が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アルカリ脱脂に使用するアルカリとしては、例えば、エッチング効果が高いものとして水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものが挙げられる。また酸脱脂として、一ナトリウム二フッ化アンモニウムなどのフッ素含有化合物を上記無機酸で溶解させた酸脱脂剤を用いることで、金属箔の脱脂効果だけでなく不動態である金属のフッ化物を形成させることが可能であり、耐フッ酸性という点で有効である。アルカリ脱脂としては、水酸化ナトリウムなどを用いる方法が挙げられるウェットタイプの脱脂処理は、浸漬法やスプレー法で行われる。
【0041】
ドライタイプの脱脂処理としては、アルミの焼鈍工程で行う方法が挙げられる。また、フレーム処理、コロナ処理、特定波長の紫外線を照射により発生した活性酸素により汚染物質を酸化分解・除去するような脱脂処理、等も挙げられる。
【0042】
熱水変成処理としては、例えば、トリエタノールアミンを添加した沸騰水中に金属箔を浸漬処理することで得られるベーマイト処理が挙げられる。また、陽極酸化処理としては、例えば、アルマイト処理が挙げられる。また、化成処理としては、例えば、クロメート処理、ジルコニウム処理、チタニウム処理、バナジウム処理、モリブデン処理、リン酸カルシウム処理、水酸化ストロンチウム処理、セリウム処理、ルテニウム処理、あるいはこれらの混合相からなる各種化成処理が挙げられる。これらの熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理は、上述した脱脂処理を事前に施した方が好ましい。またこれらの化成処理は湿式型に限らず、これらの処理剤を樹脂成分と混合した塗布型タイプでも適用が可能である。
【0043】
次に、腐食防止性能を有するコーティング剤を塗工するコーティングタイプの腐食防止処理について説明する。
【0044】
この処理に用いられるコーティング剤としては、希土類元素酸化物ゾル、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものが挙げられる。特に、希土類元素酸化物ゾルを含有するコーティング剤を用いる方法が好ましい。
【0045】
希土類元素酸化物ゾルは、液体分散媒中に希土類元素酸化物の微粒子(例えば平均粒径100nm以下の粒子)が分散したものである。
【0046】
希土類元素酸化物としては、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジウム、酸化ランタン等が挙げられる。中でも酸化セリウムが好ましい。
【0047】
希土類元素酸化物ゾルの液体分散媒としては、例えば水、アルコール系溶剤、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤など各種溶媒を用いることができる。なかでも、水が好ましい。
【0048】
希土類元素酸化物ゾルは、希土類元素酸化物粒子の分散を安定化させるために、分散安定化剤として、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸、酢酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、乳酸などの有機酸、それらの塩等を含有することが好ましい。
【0049】
以上説明した腐食防止処理層13aにおいて、クロメート処理に代表される化成処理による腐食防止処理層13aは、アルミニウム箔との傾斜構造を形成させるため、特にフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸あるいはこれらの塩を配合した化成処理剤を用いてアルミニウム箔に処理を施し、次いでクロムやノンクロム系の化合物を作用させて化成処理層をアルミニウム箔に形成させるものである。しかし、前記化成処理は、化成処理剤に酸を用いていることから、作業環境の悪化やコーティング装置の腐食を伴う。
【0050】
一方、前述したコーティングタイプの腐食防止処理層13aは、クロメート処理に代表される化成処理とは異なり、アルミニウム箔層13に対して傾斜構造を形成させる必要がない。そのため、コーティング剤の性状は、酸性、アルカリ性、中性等の制約を受けることがなく、良好な作業環境を実現できる。加えて、クロム化合物を用いるクロメート処理は、環境衛生上、代替案が求められている点からも、コーティングタイプの腐食防止処理層13aが好ましい。
【0051】
腐食防止処理層13aは、必要に応じて、さらにカチオン性ポリマーを積層した積層構造としてもよい。
【0052】
カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーとからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフトさせた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンあるいはこれらの誘導体、アミノフェノール樹脂等が挙げられる。
【0053】
腐食防止処理層13aの単位面積あたりの質量は0.005〜0.200g/m
2の範囲内が好ましく、0.010〜0.100g/m
2の範囲内がより好ましい。0.005g/m
2以上であれば、アルミニウム箔層13に腐食防止機能を付与しやすい。また、前記単位面積当たりの質量が0.200g/m
2を超えても、腐食防止機能は飽和してあまり変らない。一方、希土類酸化物ゾルを用いた場合には、塗膜が厚いと乾燥時の熱によるキュアが不充分となり、凝集力の低下を伴うおそれがある。
【0054】
(下地処理層13b)
下地処理層13bは、アルミニウム箔層13と接着剤層12との接着性を向上させることで、アルミニウム箔層13とプラスチックシート11との間の密着性をさらに高める役割を果たす。該密着性がさらに高まることで、外装材の成形性等が向上する。
【0055】
下地処理層13bとしては、2以上の含窒素官能基を有する樹脂(A1)と、前記含窒素官能基と反応する反応性官能基を有する樹脂(A2)とから形成された架橋樹脂(A)を含有する層が挙げられる。この架橋樹脂(A)に加えて、希土類元素酸化物の微粒子(B)を含有するものであってもよいし、これら架橋樹脂(A)及び微粒子(B)に加えて、微粒子(B)の分散安定化剤(C)を含有するものであってもよい。また、アルミニウム箔層13との密着性を向上させる有機珪素化合物(D)や、前記樹脂(A1)と樹脂(A2)との架橋部位を形成する金属化合物(E)を含有するものであってもよい。
【0056】
これら各成分のうち、架橋樹脂(A)は耐熱密着性の向上に寄与するものである。すなわち、樹脂(A1)の含窒素官能基と樹脂(A2)の反応性官能基とが反応することで、窒素原子を含む架橋部位が形成される。該架橋部位が形成されることで、プラスチックシート11とアルミニウム箔層13との間の密着性が向上する。また、窒素原子を含む架橋部位を含有する下地処理層13bは、アルミニウム箔層13に対して良好な耐熱密着性を付与する。なお、樹脂(A1)の含窒素官能基としては、例えば、オキサゾリン基、アミノ基等が挙げられる。
【0057】
以上のように、この架橋樹脂(A)を構成する樹脂(A1)と樹脂(A2)とは互いに架橋するものである。このため、これらは適切に組み合わせられたものであることが望ましい。例えば、樹脂(A1)として2以上のオキサゾリン基を含有するオキサゾリン基含有樹脂を使用し、樹脂(A2)としてポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と他の重合性モノマーとの共重合体、およびそれらのイオン中和物からなる群から選ばれるアクリル系樹脂を使用して、これらを組み合わせて互いに架橋させることができる。また、樹脂(A1)として2以上のアミノ基を含有するアミノ基含有樹脂を使用し、樹脂(A2)としてグリシジル基含有化合物を使用して、これらを組み合わせて互いに架橋させることができる。
【0058】
なお、オキサゾリン基含有樹脂とアクリル系樹脂との組み合わせが望ましい。オキサゾリン基含有樹脂のオキサゾリン基とアクリル系樹脂のカルボキシ基とが反応することで形成されるアミドエステル部位を有していることで、プラスチックシート11とアルミニウム箔層13の密着性が向上するからである。また、密着性のさらなる向上を図るという点では、アルミニウム箔層13を構成するアルミニウム箔が両性化合物であることを利用することが好ましい。つまり、アミドエステル部位による効果だけではなく、アクリル系樹脂が有するカルボキシ基を「酸性基」として作用させ、酸・塩基相互作用を付与することで密着性がさらに向上する。このためには、後述するように、オキサゾリン基含有樹脂に含まれるオキサゾリン基に対してアクリル系樹脂に含まれるカルボキシ基が等量から過剰になるように配合することが好ましい。
【0059】
オキサゾリン基含有樹脂は、例えば、イソプロペニルオキサゾリン等のオキサゾリン基含有モノマーと、該オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能な、各種アクリル系モノマー、スチレン、アクリロニトリル等の他の重合性モノマーとを共重合させることにより得られる。
【0060】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のイオン塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩等)を主成分とする単独重合樹脂又は共重合樹脂であることが好まし
い。また、これのイオン中和物であってもよい。
【0061】
(メタ)アクリル酸と共重合させる他の重合性モノマーとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート系モノマー、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー等が挙げられる。また、他の重合性モノマーとして、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等を用いてもよい。
【0062】
また、このアクリル系樹脂のイオン中和物としては、前記樹脂のアンモニウム塩あるいはナトリウム塩等のイオン塩が挙げられる。
【0063】
オキサゾリン基含有樹脂とアクリル系樹脂との配合比は、各成分の共重合成分やそのモル比(あるいは質量比)によっても異なり特に限定されないが、オキサゾリン基含有樹脂:アクリル系樹脂=1:99〜99:1が好ましく、1:99〜45:55がより好ましい。オキサゾリン基含有樹脂とアクリル系樹脂の合計量に対するオキサゾリン基含有樹脂分の割合が1質量%以上であれば、充分な架橋密度が得られやすく、アミドエステル部位の量も多くなることで耐熱性および密着性が向上する。また、オキサゾリン基含有樹脂とアクリル系樹脂との合計量に対する樹脂オキサゾリン基含有樹脂の割合は少ないほど前述したカルボン酸による効果が得られやすく、45質量%以下であれば、オキサゾリン基と反応しなかったカルボキシ基によって密着性を向上させることが容易になる。
【0064】
次に、2以上のアミノ基を含有するアミノ基含有樹脂としては、1分子中に少なくとも2個のアミノ基を有している樹脂であれば特に限定されず、例えばポリアリルアミン、アミノフェノール樹脂等が挙げられる。また、グリシジル基含有化合物としては、1分子中に少なくとも2個のグリシジル基を有する樹脂が好ましく、例えばポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0065】
希土類元素酸化物の微粒子(B)としては、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジウム、酸化ランタン等が挙げられる。中でも酸化セリウムが好ましい。平均粒径は、例えば、100nm以下でよい。
【0066】
分散安定化剤(C)は微粒子(B)の分散を安定化させる分散安定化剤として配合されるもので、リン酸またはリン酸塩から成ることが望ましい。分散安定化剤(C)としてリン酸またはリン酸塩を使用することにより、本発明のシート1をリチウムイオン電池用外装材に使用した場合、リン酸のキレート能力を利用してアルミニウム箔層13との密着性を向上させ、また、フッ酸の影響で溶出した金属物イオンを捕獲(不動態形成)することよる電解液耐性を付与し、低温でもリン酸が脱水縮合起こしやすいことによって下地処理層13bの凝集力を向上する、などの効果が得られる。
【0067】
分散安定化剤(C)としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、これらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩が使用できる。
【0068】
下地処理層13b中、分散安定化剤(C)の含有量は、微粒子(B)100質量部に対し、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。
【0069】
下地処理層13b中、架橋樹脂(A)100質量部に対する微粒子(B)と分散安定化剤(C)との合計量は、200〜12000質量部が好ましい。
【0070】
次に、有機珪素化合物(D)は、下地処理層31が各種プロセスにより設けられる際に、アルミニウム箔層13との密着性を向上させる役割を果たすものである。有機珪素化合物(D)としては、下式(1)で表されるオルガノシラン、該オルガノシランの加水分解物、およびそれらの誘導体(以下、「有機珪素化合物(D1)」という。)、ならびに下式(2)で表される金属アルコキシド、該金属アルコキシドの加水分解物、およびそれらの誘導体(以下、「有機珪素化合物(D2)」という。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を使用できる。
【0071】
R
1−Si(OR
2)
3 …(1)
M(OR
3)
n …(2)
(ただし、式中、R
1はアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アミノ基、エポキシ基またはイソシアネート基を含む有機基であり、R
2はアルキル基であり、Mは金属イオンであり、R
3はアルキル基であり、nは前記金属イオンの価数と同じ数である。)
有機珪素化合物(D1)におけるR
1としては、アルキル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、ビニル基、アミノアルキル基、グリシドオキシアルキル基、イソシアネートアルキル基等が挙げられる。
【0072】
下地処理層13b中の有機珪素化合物(D)の含有量は、架橋樹脂(A)100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましく、0.3〜50質量部がより好ましい。有機珪素化合物(D)の含有量が架橋樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上であれば、密着性の向上効果が得られやすい。一方、有機珪素化合物(D)の含有量が架橋樹脂(A)100質量部に対して100質量部を超えても、密着性の向上効果が飽和状態となる。
【0073】
次に、含窒素官能基を有する樹脂(A1)と反応性官能基を有する樹脂(A2)との架橋部位を形成する金属化合物(E)としては、下地処理層13bを形成するコーティング組成物中に配合された際、この溶液状態においてイオン解離する金属化合物を使用できる。各種コーティング方法によって前記コーティング組成物をアルミニウム箔層13上に塗布した後に液体媒体を揮散させることで、樹脂(A1)と樹脂(A2)とが反応し、また金属化合物(E)から解離した金属イオンが架橋樹脂(A)に作用して(例えば前記アクリル系樹脂の未反応のカルボキシ基やオキサゾリン基含有樹脂の未反応のアミノ基に作用して)イオン架橋を形成する。
【0074】
金属化合物(E)としては、コーティング組成物中に配合された際にイオン解離し(溶媒に対して溶解性を有する)、解離した金属イオンが架橋樹脂(A)に作用してイオン架橋を形成するものであればよく、水溶性の金属化合物が好ましい。例えば、水溶液が酸性となる金属化合物(酸性金属化合物)および水溶液が塩基性となる金属化合物(塩基性金属化合物)が挙げられる。
【0075】
酸性金属化合物としては、例えば、各種金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、フッ酸塩等が挙げられる。前記金属化合物の前記金属としては、亜鉛、鉄、マンガン、銅、クロム、ジルコニウム、コバルト等が挙げられる。また、金属は、ナトリウム、カルシウム等のアルカリ(土類)金属であってもよい。
【0076】
塩基性金属化合物としては、例えば、炭酸ジルコニウムアンモニウム、フッ化ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0077】
酸性金属化合物を含む水溶液は酸性を示す。この場合、架橋樹脂(A)としては、同じく水溶性の酸性溶液という点で検討すると、オキサゾリン基含有樹脂とアクリル系樹脂とからなるものを用い、かつアクリル系樹脂として、ポリ(メタ)アクリル酸、または(メタ)アクリル酸と他の重合性モノマーの共重合体を用いることが必要となる。しかし、オキサゾリン基含有樹脂はオキサゾリン基(塩基性)を有することから、塗工前にコーティ
ング組成物中でオキサゾリン基含有樹脂とアクリル系樹脂が次第に反応し、塗工適性を低下させるおそれがある(コーティング組成物のポットライフへの影響)。この点では、樹脂アクリル系樹脂として、アンモニウム塩あるいはナトリウム塩といったイオン塩(イオン中和物)を用いて、塗工前のコーティング組成物中でのカルボキシル基とオキサゾリン基の反応を抑制し、コーティング組成物が乾燥・造膜する際に、カルボキシル基とオキサゾリン基が反応するようにすることが好ましい。また、この場合のアクリル系樹脂は、コーティング組成物の乾燥・造膜の際、不純物として残存しにくいアンモニウム塩であることがより好ましい。
【0078】
以上のように、下地処理層13bを形成するコーティング組成物は、塗工前の段階では塩基性の溶液であることが好ましいため、金属化合物(E)を含む水溶液も塩基性であることが好ましい。したがって、金属化合物(E)としては、コーティング組成物のポットライフや安定性の点から、塩基性金属化合物が好ましく、炭酸ジルコニウムアンモニウム、フッ化ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム化合物が特に好ましい。
【0079】
下地処理層13b中の金属化合物(E)の金属換算での含有量は、架橋樹脂(A)100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましい。金属化合物(E)の金属換算での含有量が架橋樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上であれば、金属化合物(E)による密着性の向上効果が得られやすい。金属化合物(E)の金属換算での含有量が架橋樹脂(A)100質量部に対して100質量部以下であれば、金属化合物(E)が未反応物として下地処理層31中に残存して凝集力が低下すること抑制しやすい。
【0080】
下地処理層13bは、架橋樹脂(A)を形成する樹脂(A1)および樹脂(A2)と、液体媒体(溶媒または分散媒)と、必要に応じて他の成分とを含むコーティング組成物をアルミニウム箔層13上に塗工し、乾燥キュアすることにより形成できる。下地処理層13bが微粒子(B)をさらに含む場合、微粒子(B)は、樹脂(A1)および樹脂(A2)と同じコーティング組成物に配合さてもよく、異なるコーティング組成物に配合されてもよい。異なるコーティング組成物に配合される場合、それらのコーティング組成物を順次塗工、乾燥することで、架橋樹脂(A)および微粒子(B)を含む層を形成することができる。
【0081】
下地処理層13bの厚みは、0.001〜1μmが好ましい。下地処理層13bの厚みが0.001μm以上であれば、基材層11とアルミニウム箔層13との間の密着性が充分に向上する。下地処理層13bの厚みが1μm以下であれば、成形性が向上し、また架橋反応に必要な熱量が大きくなりすぎず乾燥キュア工程が容易になるので生産性が向上する。
【0082】
(接着剤層12)
接着剤層12は、プラスチックシート11とアルミニウム箔層13とを接着する層である。接着剤層12としては、樹脂フィルムとアルミニウム箔のラミネートに用いられる接着剤として公知のものを用いて形成できる。該接着剤としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、カーボネートポリオールなどのポリオールからなる主剤と、2官能以上のイソシアネート化合物からなる硬化剤とを含有するポリウレタン系接着剤が挙げられる。前記主剤に対し前記硬化剤を作用させることでポリウレタン系樹脂が形成される。
【0083】
そして、これら各成分を溶剤に溶解又は分散して、プラスチックシート11とアルミニウム箔13の一方に塗布することにより、接着剤層12を形成することができる。そして、他方を重ねて圧着することにより、これらプラスチックシート11とアルミニウム箔13とを積層接着することができる。なお、塗布方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウェットラミネーション等の方法を採用することができるが、中でもドライラミネーションを採用することが望ましい。
【0084】
接着剤層12の厚みは、1〜10μmが好ましく、3〜5μmがより好ましい。1μm以上であると、接着剤としてのラミネート強度が向上し、10μm以下であると、外装材1を冷間成形により深絞り成形品としたときに、該深絞り成形品の絞り隅部においても、電解液雰囲気下でのプラスチックシート11とアルミニウム箔層13との間の浮きを充分に抑制できる。
【0085】
(接着剤層14)
接着剤層14は腐食防止処理層13aが形成されたアルミニウム箔層13とシーラント層15とを接着する層である。接着剤層14による貼り合せはドライラミネートで容易に可能である。
【0086】
接着剤層14を構成する接着剤としては、接着剤層12で挙げた接着剤と同様の接着剤が挙げられる。
【0087】
ただし、接着剤層14に用いる接着剤は、電解液が充填される側の面を貼り合せる接着剤であるため、電解液による膨潤や、フッ酸による加水分解に関して注意を払う必要がある。そのため、加水分解されにくい骨格を有する主剤を用いた接着剤、架橋密度を向上させた接着剤等を用いることが好ましい。
【0088】
接着剤層14も接着剤層12と同様の方法で形成することができる。すなわち、各成分を溶剤に溶解又は分散して、アルミニウム箔13とシーラント層15の一方に塗布し、他方を重ねて圧着することにより、これらを積層接着することができる。塗布方法も、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウェットラミネーション等の方法でよい。
【0089】
接着剤層14の厚みは、1〜10μmが好ましく、3〜5μmがより好ましい。1μm以上であると、電解液耐性とラミネート強度が向上し、10μm以下であると、ラミネート材の端面から透過する水分量が改善される。
【0090】
(接着性樹脂層14’)
接着性樹脂層14’は、接着剤層14の代わりに、腐食防止処理層13aが形成されたアルミニウム箔層13とシーラント層15とを接着する層である。
【0091】
接着性樹脂層14’を構成する熱接着性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂に対し、不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物、又は不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物のエステルをラジカル開始剤の存在下でグラフト変性してなる変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0092】
接着性樹脂層14’は、これら接着性樹脂を溶融状態で押出し、アルミニウム箔13とシーラント層15とをその両面に圧着する方法(サンドラミネート法)によって設けることがえきる。このサンドラミネートによって、接着性樹脂層14’が形成されると同時に、アルミニウム箔13とシーラント層15とが積層接着される。
【0093】
なお、接着性樹脂の押出温度としては200〜340℃が好ましい。また、接着性樹脂層14’の厚みは、3〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。接着性樹脂層14’の厚みが下限値以上であれば、優れた接着性が得られやすい。接着性樹脂層14’の厚みが上限値以下であれば、外装材1の側端面から透過する水分量が低減される。
【0094】
(絞り成形用シート1,1’,1”の製造方法)
絞り成形用シート1,1’,1”は、いずれも、所定の処理を施したアルミニウム箔13の片面にプラスチックシート11を積層接着する外表面積層工程、その反対面にシーラント層15を積層接着する内表面積層工程、プラスチックシート11の表面に塗布被膜11aを形成するシリコーンオイル塗布工程、塗布被膜11aの上に塗布被膜11bを形成するスリップ剤塗布工程を経て製造することができる。これら各工程の順序は任意でよいが、シリコーンオイル塗布工程とスリップ剤塗布工程とはこの順に行う必要がある。
【0095】
(絞り成形用シート1,1’,1”の使用方法)
絞り成形用シート1,1’,1”は、いずれも、塗布被膜11bが外表面に位置するように、これを絞り成形してリチウムイオン電池の外装材として使用できる。絞り成形法としては、成形金型を使用して、張り出し成形法等のプレス成形法や深絞り成形法を採用できる。そして、その収容部(凹部)に電池要素を収容した後、密封してリチウムイオン電池を製造することが可能である。また、こうして得られたリチウムイオン電池の外表面、すなわち、絞り成形用シート1,1’,1”の外表面に各種画像を印刷することができる。印刷はインクジェット印刷法を利用することができ、インクはメチルエチルケトンを溶媒とするインクや、これを主成分とする混合溶媒とするインクを使用することが可能である。
【実施例】
【0096】
以下、実験データによって本発明を説明する。なお、この実験データは、シリコーンオイルの種類及び塗布量と絞り成形用シートの物性との因果関係、スリップ剤の塗布量と絞り成形用シートの物性との因果関係を帰納的に考察することが目的であるから、実施例と比較例とを区別することなく、いずれも「実験例」と表記する。
【0097】
(絞り成形用シート)
この実験データで使用した基材シートは、前述の第1の例で説明したものである。すなわち、プラスチックシート11、アルミニウム箔13、シーラント層15を、それぞれ、接着剤層12,14を介して積層接着したものを使用した。
【0098】
なお、プラスチックシート11はナイロン系多層フィルム(グンゼ社の「Heptax」)を使用した。
【0099】
また、アルミニウム箔13は、焼鈍脱脂処理した厚み40μmの軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム製)を使用し、その片面に腐食防止処理層13aを形成し、他面に下地処理層13bを形成して使用した。
【0100】
すなわち、まず、次の塗布液CL−1、塗布液CL−2、塗布液CL−3をこの順に塗布して腐食防止処理層13aを形成した。
【0101】
塗布液CL−1‥酸化セリウム100質量部に対してリン酸のナトリウム塩を10質量部配合し、溶媒として蒸留水を用いて固形分濃度10質量%に調整したポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル
塗布液CL−2‥ポリアクリル酸アンモニウム塩(東亞合成製)90質量%とアクリル−イソプロペニルオキサゾリン共重合体(日本触媒製)10質量%とからなる混合物を、溶媒として蒸留水を用い、固形分濃度5質量%に調整した組成物
塗布液CL−3‥ポリアリルアミン(日東紡製)90質量%とポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス製)10質量%とからなる混合物を、溶媒として蒸留水を用い、固形分濃度5質量%に調整した組成物。
【0102】
また、次の下地処理剤PL−1を塗布して下地処理層13bを形成した。
【0103】
下地処理剤PL−1‥ポリアクリル酸アンモニウム塩(東亞合成製)90質量%とアクリル−イソプロペニルオキサゾリン共重合体(日本触媒製)10質量%とからなる混合物と、酸化セリウム100質量部に対してリン酸のナトリウム塩を10質量部配合したポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルとを混合したコーティング組成物。ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルの配合量は、前記混合物100質量部に対して、4000質量部とした。
【0104】
シーラント層15は、トータル厚みが30μmのランダムPP/ブロックPP/ランダムPPからなる2種3層からなる多層フィルム(オカモト製)を使用した。
【0105】
接着剤層12としては、ポリエステルポリオール系主剤に対して、トリレンジイソシアネートのアダクト体系硬化剤を配合したポリウレタン系接着剤(東洋インキ製)を使用し、ドライラミネーション法によって、プラスチックシート11とアルミニウム箔13とを積層接着した。
【0106】
また、接着剤層14としては、トルエンに溶解させた無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、イソシアヌレート構造のポリイソシアネート化合物を10質量部(固形分比)で配合した接着剤組成物を使用し、ドライラミネーション法によって、アルミニウム箔13とシーラント層15とを積層接着した。
【0107】
そして、この基材シートのプラスチックシート11面に、順に、シリコーンオイルとスリップ剤とを塗布して、シリコーンオイルの塗布被膜11aとスリップ剤の塗布被膜11bとを形成した。
【0108】
シリコーンオイルとしては、次のSR−1〜SR−5の5種類を使用し、これら各シリコーンオイルをイソプロピルアルコールに溶解して塗布した。各実験例で使用したシリコーンオイルの種類及び塗布量は、後述の表中に示す。
【0109】
SR−1‥ジメチルシリコーンオイル(信越化学社製,商品名:KF−96L−1.5CS),屈折率1.391
SR−2‥ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製,商品名:X−22−4272),屈折率1.403
SR−3‥高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製,商品名:TSF410),屈折率1.425
SR−4‥ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製,商品名:KF−351A),屈折率1.450
SR−5‥ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製,商品名KF−354L),屈折率1.463
また、スリップ剤としてはエルカ酸アミドを使用し、イソプロピルアルコールに溶解して塗布した。各実験例で使用したスリップ剤の塗布量は、後述の表中に示す。
【0110】
(絞り成形用シートの物性の測定)
こうして得られた絞り成形用シートのそれぞれについて、それぞれ、静摩擦係数、印刷適性、スリップ剤の移行の有無を測定した。その測定方法及び評価方法は次のとおりである。
【0111】
<静摩擦係数の測定>
静摩擦係数の測定は、JIS P8147:2010に記載された傾斜角法に基づき、幅60mm、長さ100mm及び質量1000gの金属製ブロックから成る錘に、作成したシートを巻き付け、スリップ剤塗布面の静摩擦係数を測定することによって行った。
【0112】
そして、静摩擦係数が0.25未満の場合「○」と評価し、0.25以上の場合「×」と評価した。
【0113】
<印刷適性の測定>
絞り成形用シートのそれぞれから10個の評価サンプルを作成し、これら10個の評価サンプルの印刷適性を評価した後、その評価データから総合的に印刷適性を判定した。
【0114】
すなわち、まず、これら評価サンプルに対して、メチルエチルケトンを溶媒とするインクを使用してインクジェット法でバーコードを印刷し、バーコードスキャナーでバーコードの読み込みが可能であるか否かを評価した。また、印刷画像の広がりやはじきがあるか否かについて、肉眼観察で評価した。その評価基準は以下のとおりである。
【0115】
○:バーコードの読み込みが可能であり、かつ、にじみによる印刷画像の広がりとはじきのいずれもがない。
△
1:10個の評価サンプルのすべてについてバーコードの読み込みが可能であるが、このうち、少なくとも1個のサンプルににじみが観察された。
△
2:10個の評価サンプルのすべてについてバーコードの読み込みが可能であり、少なくとも1個のサンプルに印刷画像のはじきが観察された。
△
12:10個の評価サンプルのすべてについてバーコードの読み込みが可能であり、少なくとも1個のサンプルに印刷画像のにじみが観察され、他のサンプルに印刷画像のはじきが観察された。
×
1:10個の評価サンプルのうち、少なくとも1個のサンプルについてにじみが観察され、バーコードの読み込みができなかった。
×
2:少なくとも1個のサンプルについて印刷画像のはじきが観察され、バーコードの読み込みができなかった。
×
12:少なくとも1個のサンプルについてにじみによる印刷画像の広がりが観察され、他のサンプルに印刷画像のはじきが観察され、かつ、これらのサンプルについてバーコードの読み込みができなかった。
【0116】
<スリップ剤の移行の有無の測定>
40mm角にカットした黒色の布をそれぞれの絞り成形用シートの上に重ね、500gの荷重をかけながら3mこすりつけて、この黒布に、スリップ剤の移行による白い変色が生じたか否かを観察した。変色のないものを「○」と評価し、あったものを「×」と評価した。
【0117】
これら測定の結果を表1〜表6に示す。なお、表1はジメチルシリコーンオイル(SR−1)を使用した絞り成形用シートの測定結果である。
【0118】
【表1】
【0119】
次に、表2はポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−2)を使用した絞り成形用シートの測定結果である。
【0120】
【表2】
【0121】
また、表3は高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル(SR−3)を使用した絞り成形用シートの測定結果である。
【0122】
【表3】
【0123】
また、表4はポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−4)を使用した絞り成形用シートの測定結果である。
【0124】
【表4】
【0125】
また、表5はポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−5)を使用した絞り成形用シートの測定結果である。
【0126】
【表5】
【0127】
最後に、表6はシリコーンオイルを塗布せず、スリップ剤だけを塗布した絞り成形用シートの測定結果である。
【0128】
【表6】
【0129】
<考察>
この結果から、スリップ剤の種類によらず、その塗布量を多くするほど静摩擦係数が低下する傾向にあることが理解できる。
【0130】
次に、表1から、シリコーンオイルとしてジメチルシリコーンオイルを使用した場合には、シリコーンオイルの塗布量及びスリップ剤の塗布量によらず、印刷適性が劣ることが分かる。
【0131】
一方、シリコーンオイルとして高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル又はポリエーテル変性シリコーンオイルを使用した場合には、シリコーンオイルの塗布量に応じて印刷適性が異なることが分かる(表2〜表5参照)。すなわち、シリコーンオイルの塗布量が過少の場合にはにじみによる印刷画像の広がりが観察され、過剰な場合にはその塗布被膜11aがインキをはじいて印刷適性が低下する。シリコーンオイルとして高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル又はポリエーテル変性シリコーンオイルを使用し、かつ、その塗布量が0.15〜3.00mg/m
2の場合には、いずれの場合でも印刷適性が改善され、バーコードスキャナーによるバーコードの読み込みが可能であるが、にじみやはじきがない塗布量はシリコーンオイルの屈折率によって異なる。
【0132】
すなわち、屈折率1.403のポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−2)の場合、塗布量0.15〜1.20mg/m
2の範囲でにじみやはじきが発生しない。なお、これより多い塗布量(3.00mg/m
2)ではバーコードの読み込みが可能であるが、はじきを発生する。
【0133】
これより屈折率が高い高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル(SR−3)の場合(屈折率1.425)には、にじみやはじきを発生しない塗布量の範囲は広く、塗布量0.15〜3.00mg/m
2の範囲でにじみやはじきを発生しない。
【0134】
しかしながら、屈折率がさらに高くなると、塗布量が少ないとにじみを発生する。屈折率1.45のポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−4)の場合には、塗布量1.20〜3.00mg/m
2の範囲でにじみやはじきを発生しないが、これより少ない塗布量(0.15mg/m
2)でにじみが発生する。
【0135】
そして、屈折率が1.45を越えるポリエーテル変性シリコーンオイル(SR−5)の場合には、塗布量を問わず、にじみとはじきのいずれかが発生する。
【0136】
このため、シリコーンオイルとして高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル又はポリエーテル変性シリコーンオイルを使用して、その塗布量を0.15〜3.00mg/m
2
の範囲とし、かつ、塗布量3.0mg/m
2以上のスリップ剤を塗布した場合には、静摩擦係数を小さくして絞り成形適性を向上することができ、しかも、印刷適性を損なわない絞り成形用シートを得ることが可能である。なお、屈折率が1.42〜1.43の範囲で塗布量マージンが最も広く、これより屈折率が小さい場合、あるいは大きい場合のいずれの場合にも、塗布量マージンが狭くなることも理解できる。
【0137】
もっとも、スリップ剤の塗布量を15.0mg/m
2とした場合には、このスリップ剤がブリードして、隣接するシート等に転移しやすいことも、表1〜5から理解できる。スリップ剤の塗布量を10.0mg/m
2の場合にはスリップ剤の転移が生じていないことから、その塗布量が3.0〜10.0mg/m
2の範囲にあればスリップ剤の転移が生じないと推論できる。