(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834303
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】発光分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/67 20060101AFI20210215BHJP
【FI】
G01N21/67 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-189772(P2016-189772)
(22)【出願日】2016年9月28日
(65)【公開番号】特開2018-54422(P2018-54422A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】松村 拓己
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/071493(WO,A1)
【文献】
登録実用新案第3200710(JP,U)
【文献】
特開平11−051867(JP,A)
【文献】
特公昭54−038918(JP,B2)
【文献】
実公昭59−007732(JP,Y2)
【文献】
米国特許第04289402(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成されている発光スタンドと、
前記発光スタンドの内部で、前記開口部と対向する位置に設置された対向電極と、
上方に移動して試料の上面を下端部で下方に押圧することで前記試料の下面を前記開口部を塞ぐように当接させる試料押棒、および、前記試料押棒が上方に移動することでON信号を出力するようにして前記試料押棒の上方、下方への移動に連動してON/OFF信号を出力するスイッチを有する試料押さえ機構と、
前記試料の下面と前記対向電極との間で放電を行うことで発生した発光光を検出する光検出器と、
前記発光光に基づいて、前記試料中に含まれる元素を分析するとともに、前記スイッチからのON/OFF信号が入力される制御部とを備える発光分析装置であって、
前記試料押さえ機構は、中央部に回転軸が形成され、前記試料押棒の上端部に右端部が連結された水平連結部材と、
中央部に回転軸が形成され、前記水平連結部材の左端部に下端部が連結されるとともに前記スイッチのボタンに上端部が連結される垂直連結部材と、
前記水平連結部材の左端部が上方に移動するように作用する弾性体とを備え、
前記制御部は、前記ON信号が入力されることで、前記試料の下面と前記対向電極との間で放電を行うことを可能にするように、前記スイッチから出力されるON/OFF信号に基づいて、前記試料の下面と前記対向電極との間で放電を行うか否かを判定することを特徴とする発光分析装置。
【請求項2】
前記試料押棒は、鉛直方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の発光分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーク放電、アーク放電、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)放電等の各種放電法やレーザ励起法等により、試料中に含まれる元素の濃度を算出する発光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼品種の多様化や高品質化や製鋼加工技術の発展に伴い、鉄鋼(固体金属試料)中に含まれる微量成分、特にマンガン、シリコン、硫黄、窒素、酸素、炭素等の元素の量を厳密にコントロールすることが要求されてきており、鉄鋼材や非鉄金属材等の生産工場等での製鋼・精練工程において、鉄鋼中に含まれる微量成分を定量することが重要になってきている。
【0003】
そこで、近年、鉄鋼中に含まれる微量成分の定量を迅速に行うことができる発光分光分析方法が広く利用されるようになってきている。
図5は、このような発光分光分析方法を用いる発光分析装置の一例を示す概略構成図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
発光分析装置101は、開口部2aが形成されている発光スタンド(放電室)2と、開口部2aと対向する位置に設置された対向電極3と、各元素に特有な波長を有する輝線スペクトルに分光する分光器4と、輝線スペクトルの強度を検出する光検出器5と、発光分析装置101全体の制御を行うコンピュータ110とを備える(例えば特許文献1参照)。
【0004】
発光スタンド2の上面には、円形状の開口部2aが形成されており、対向電極3は、発光スタンド2の内部で、開口部2aと対向する位置に設置されている。これにより、試料となる鉄鋼Sの下面が、開口部2aを塞ぐように当接されて、対向電極3に電圧が印加されると、鉄鋼Sの下面と対向電極3との間でスパーク放電を行うことができるようになっている。
【0005】
分光器4は、発光スタンド2の内部で、鉄鋼Sの下面と対向電極3との間でスパーク放電を行うことで発生した発光光が導入されるように配置されている。そして、分光器4は、発光光を、各元素に特有な波長を有する輝線スペクトルに分光する。
光検出器5は、各輝線スペクトルの強度をそれぞれ検出する複数の受光素子を有する。つまり、1個の受光素子は、対応付けられた元素に特有な波長を有する輝線スペクトルの強度を検出する。そして、複数の受光素子でそれぞれ検出された輝線スペクトルの強度は、コンピュータ110に出力されるようになっている。
【0006】
放電室筐体部150は、上面と右側壁と前側壁と左側壁と後側壁とドア151とを有する筐体部を備える。そして、筐体部は、開口部2aを覆うように発光スタンド2の上面に設置されており、筐体部と発光スタンド2の上面とで形成された空間内に、ドア151を開閉することで鉄鋼Sが配置されるようになっている。
【0007】
このような発光分析装置101を用いて、鉄鋼S中に含まれる元素の濃度を算出するには、測定者は、まずドア151を開けた後、鉄鋼Sの下面が発光スタンド2の開口部2aを塞ぐように鉄鋼Sを当接する。次にドア151を閉めた後、放電を行う入力信号を入力することで、対向電極3に電圧を印加することにより、鉄鋼Sの下面と対向電極3との間でアーク放電したりスパーク放電したりすることで発光させる。そして、発生した発光光を分光器4に導入することにより、分光器4で発光光を、各元素に特有な波長を有する輝線スペクトルに分光した後、光検出器5で輝線スペクトルの強度を検出している。
【0008】
ところで、測定者は、ドア151を開けることで、鉄鋼Sを分析位置(開口部2a上)に配置したり分析位置から取り除いたりしている。そこで、発光分析装置101では放電を行うので、安全面からインターロック機構が設けられている。このインターロック機構として、例えば、ドア151が開いているか否かを判定するスイッチを筐体部に設け、コンピュータ110はドア151が開いているときには、測定者によって放電を行う入力信号が入力されても、放電不可となるようにしている。
【0009】
一方、発光スタンド2の開口部2aを塞ぐように鉄鋼Sを載せて試料押さえ機構により押さえ付ける発光分光分析装置も開示されている。
例えば、試料押さえ機構は、発光スタンド2に固定された支持体と、その支持体に対して鉛直軸方向へ摺動自在に、かつ、その軸周りに回動自在に支持されたシャフトと、このシャフトの下端部に係合する錘と、そのシャフトの上端部に固定されてシャフトから横方向に突出する持出部材と、その持出部材に固定されるとともに下向きに伸びて鉄鋼Sの上面を押圧する試料押棒とを備える(例えば特許文献2参照)。
【0010】
そして、試料押さえ機構を備える発光分光分析装置では、インターロック機構として、例えば微弱な電流を試料押棒に常時流し、鉄鋼Sを押さえた際の導通を以て、コンピュータ110が、鉄鋼Sが開口部2aを塞いでいるか否かを検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−51867号公報
【特許文献2】実用新案登録第3200710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した発光分光分析装置101では、複数の試料(鉄鋼)Sを分析する場合には、試料Sを分析する度に測定者がドア151を開閉する必要があり、利便性が非常に悪いという問題点があった。
一方、試料押さえ機構を備える発光分光分析装置では、試料Sが導通する前提となっているため、酸化被膜(黒皮等)を有する鉄鋼や、ナンバリングしたシールを貼った試料には使用できないという問題点があった。
そこで、本発明は、利便性がよく、様々な種類の試料を安全に分析可能な発光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明の発光分析装置は、開口部が形成されている発光スタンドと、前記発光スタンドの内部で、前記開口部と対向する位置に設置された対向電極と、上方に移動して試料の上面を下端部で下方に押圧することで前記試料の下面を前記開口部を塞ぐように当接させる試料押棒、および、前記試料押棒が上方に移動することでON信号を出力するようにして前記試料押棒の上方、下方への移動に連動してON/OFF信号
を出力するスイッチを有する試料押さえ機構と、前記試料の下面と前記対向電極との間で放電を行うことで発生した発光光を検出する光検出器と、前記発光光に基づいて、前記試料中に含まれる元素を分析する
とともに、前記スイッチからのON/OFF信号が入力される制御部とを備える発光分析装置であって、前記試料押さえ機構は、中央部に回転軸が形成され、前記試料押棒の上端部に右端部が連結された水平連結部材と、中央部に回転軸が形成され、前記水平連結部材の左端部に下端部が連結されるとともに前記スイッチのボタンに上端部が連結される垂直連結部材と、前記水平連結部材の左端部が上方に移動するように作用する弾性体とを備え、前記制御部は、前記ON信号が入力されることで、前記試料の下面と前記対向電極との間で放電を行うことを可能にするように、前記スイッチから出力されるON/OFF信号に基づいて、前記試料の下面と前記対向電極との間で放電を行うか否かを判定するようにしている。
【0014】
本発明の発光分析装置によれば、例えば、測定者が試料押棒を上方に移動させた後、試料の下面が開口部を塞ぐように当接させ、試料押棒で試料の上面を押圧する。このとき、スイッチは、試料押棒が上方に移動すると、ON信号を制御部に出力する。そして、制御部は、ON信号が入力されていれば、試料の下面と対向電極との間で放電を行うことを可能にする。これにより、測定者等が放電を行う入力信号を入力すると、制御部は放電を行う。
一方、試料の下面が開口部を塞ぐように当接されていないときには、試料押棒が下方位置に配置されていることになる。このとき、スイッチは、試料押棒が下方位置に配置されているため、OFF信号を制御部に出力する。そして、制御部は、OFF信号が入力されていれば、試料の下面と対向電極との間で放電を行うことを不可能にする。これにより、測定者等が誤って放電を行う入力信号を入力しても、制御部は放電を行わない。したがって、試料がない状態で放電が行われることがなく安全である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の発光分析装置によれば、ドアを開ける必要がないため利便性がよく、様々な種類の試料を安全に分析することができる。
また、本発明の発光分析装置によれば、試料押棒の押し込みとテコとを利用することによりコンパクト化することができる。
【0016】
さらに、上記の発明において、前記試料押棒は、鉛直方向に対して傾斜しているようにしてもよい。
本発明の発光分析装置によれば、試料中の押圧位置(押圧点)を適宜に選択可能で多様な形状の試料に対応することができる。また、試料の押圧点が判りやすく、簡単な操作のもとに確実かつ安定した押圧力を得ることができるので、多様な形状の試料を正確かつ安定した力により押圧した状態で分析に供することができ、ひいては分析結果の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る発光分析装置の一例を示す概略構成図。
【
図3】持出ユニットの内部構成の一例を示す断面図。
【
図4】持出ユニットの内部構成の一例を示す断面図。
【
図5】従来の発光分析装置の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る発光分析装置の一例を示す概略構成図である。なお、上述した発光分析装置101と同様のものについては、同じ符号を付すことにより説明を省略する。
発光分析装置1は、開口部2aが形成されている発光スタンド(放電室)2と、開口部2aと対向する位置に設置された対向電極3と、各元素に特有な波長を有する輝線スペクトルに分光する分光器4と、輝線スペクトルの強度を検出する光検出器5と、発光分析装置1全体の制御を行うコンピュータ10と、試料Sを当接するための試料押さえ機構20とを備える。
【0020】
図2は、試料押さえ機構20の一例を示す斜視図である。試料押さえ機構20は、発光スタンド2に取り付けられ上方に伸びたシャフト部30と、シャフト部30の上端部に左部が固定されてシャフト部30から右方(
図1のX方向)に突出している略直方体形状の持出ユニット(持出部材部)40とを備える。
【0021】
シャフト部30は、鉛直方向に伸びた下側円筒状体31と、下側円筒状体31の上部に取り付けられた上側体(ブロック)32とを備える。そして、上側体32は、ブッシュを有し、下側円筒状体31に対して鉛直方向へ伸縮自在に、かつ、鉛直軸周りに回動自在に取り付けられている。
【0022】
図3および
図4は、持出ユニット40の内部構成の一例を示す断面図である。持出ユニット40は、略直方体形状のケース49と試料押棒41とを備え、ケース49内には、水平連結部材42と、垂直連結部材43と、ON/OFF信号を出力するマイクロスイッチ44とが配置されている。
【0023】
試料押棒41は、鉛直方向(Z方向)に対して傾斜するように伸びる円柱状体形状であり、ケース49の右部に、上下方向に移動可能となるように取り付けられている。そして、試料押棒41を上方に移動させた後(
図4中の矢印1参照)、試料Sの下面が開口部2aを塞ぐように当接させて、試料押棒41が下方に移動することで試料押棒41の下端部が試料Sの上面を下方に押圧するようになっている。
【0024】
水平連結部材42は、X方向に伸びた板金からなり、中央部に回転軸(Y方向)42aが形成されており、右端部が試料押棒41の上端部に連結されている。そして、水平連結部材42の左端部が上方に移動するように作用するバネ(弾性体)45が水平連結部材42の左端部に取り付けられている。これにより、試料押棒41が上方に移動すると、水平連結部材42の右端部も上方に移動する結果、水平連結部材42の左端部がバネ45に対抗して下方に移動するようになっている(
図4中の矢印2参照)。
【0025】
垂直連結部材43は、L字状の板金からなり、中央部に回転軸(Y方向)43aが形成されており、下端部が水平連結部材42の左端部に連結されるとともに、上端部がマイクロスイッチ44のボタンに連結されている。これにより、水平連結部材42の左端部が下方に移動すると、垂直連結部材43の下端部が下方に移動する結果、垂直連結部材43の上端部が右方に移動するようになっている(
図4中の矢印3参照)。
【0026】
マイクロスイッチ44は、垂直連結部材43の上端部が右方位置に配置されていると、ON信号をコンピュータ10に出力する一方、垂直連結部材43の上端部が左方位置に配置されていると、OFF信号をコンピュータ10に出力するようになっている。
【0027】
コンピュータ10においては、CPU(制御部)11と入力装置12とを備える。また、CPU11が処理する機能をブロック化して説明すると、試料Sの下面と対向電極3との間で放電を行う分析実行部11aと、試料S中に含まれる元素を分析する分析算出部11bと、試料Sの下面と対向電極3との間で放電を行うことを可能にするか否かを判定する判定部11cとを有する。
【0028】
判定部11cは、マイクロスイッチ44から出力されるON/OFF信号に基づいて、試料Sの下面と対向電極3との間で放電を行うことを可能にするか否かを判定する制御を行う。具体的には、OFF信号が入力されていると、試料Sの下面と対向電極3との間で放電を行うことを不可能とする不可能状態にし、ON信号が入力されることで、試料Sの下面と対向電極3との間で放電を行うことを可能とする可能状態にする。
【0029】
分析実行部11aは、入力装置12からの入力信号と、判定部11cからの判定結果とに基づいて、対向電極3に電圧を印加する制御を行う。具体的には、入力信号が入力されても、判定結果が不可能状態であると、対向電極3に電圧を印加しない一方、入力信号が入力され、判定結果が可能状態であると、対向電極3に電圧を印加する。
【0030】
ここで、発光分析装置1を用いて鉄鋼(試料)S中に含まれる元素の濃度を算出する分析方法について説明する。
まず、測定者は試料押棒41を上方に移動させた後、鉄鋼Sの下面が発光スタンド2の開口部2aを塞ぐように、鉄鋼Sを当接する。そして、試料押棒41がバネ45によって下方に移動することで、試料押棒41の下端部で鉄鋼Sの上面を押圧する。次に、測定者は入力装置12を用いて放電を行う入力信号を入力することで、対向電極3に電圧を印加することにより、鉄鋼Sの下面と対向電極3との間でアーク放電したりスパーク放電したりすることで発光させる。このとき、鉄鋼Sの下面が開口部2aを塞ぐように当接していなければ、測定者が入力装置12を用いて放電を行う入力信号を入力しても、不可能状態となっているので、対向電極3に電圧を印加することができない。
【0031】
そして、対向電極3に電圧を印加したときには、発生した発光光を分光器4に導入することにより、分光器4で発光光を、各元素に特有な波長を有する輝線スペクトルに分光した後、光検出器5で輝線スペクトルの強度を検出する。
【0032】
以上のように、本発明の発光分析装置1によれば、測定者はドアを開閉する必要がないため利便性がよく、様々な種類や形状の試料Sを安全に分析することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、試料中に含まれる元素の濃度を算出する発光分析装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 発光分析装置
2 発光スタンド
2a 開口部
3 対向電極
5 光検出器
11 制御部
20 試料押さえ機構
41 試料押棒
44 マイクロスイッチ
S 試料