特許第6834364号(P6834364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834364
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】変速機の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20210215BHJP
【FI】
   F16H57/04 N
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-215933(P2016-215933)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-71755(P2018-71755A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】民部 俊貴
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−213307(JP,A)
【文献】 特開2011−064306(JP,A)
【文献】 米国特許第05799540(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機のケース内に回転可能に設けられた第1シャフトと、
前記第1シャフトよりも下方の前記ケース内に回転可能に設けられ、前記第1シャフトと平行に延びると共に、少なくともその一部を前記ケース内の底部に貯留された潤滑油に浸漬させた第2シャフトと、
前記第1シャフトに相対回転可能に設けられた第1ギヤと、
前記第2シャフトに一体回転可能に設けられて、前記第1ギヤと噛合する第2ギヤと、
前記第1シャフトに設けられて、前記第1ギヤを前記第1シャフトと選択的に結合させる噛合装置と、
前記噛合装置の下方に位置する前記第2シャフトの外周部に周方向に所定のピッチで設けられた複数の突起部と、を備え
前記突起部は、シャフト径方向の断面形状を突出端側に向かうに従い縮小する三角形状に形成されると共に、変速機が所定の前進段にギヤインされた際の前記第2シャフトの回転方向側の一側面が前記第2シャフトの接線方向と直角又は前記回転方向側に傾けて形成された
ことを特徴とする変速機の潤滑構造。
【請求項2】
前記突起部を少なくとも一対備えると共に、当該一対の突起部が前記第2シャフトの外周にシャフト軸中心を挟んで対称に配置された
請求項1に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項3】
前記噛合装置が、前記第1シャフトに一体回転可能に設けられたハブと、前記ハブの外周に軸方向に移動可能に噛合するスリーブと、前記第1ギヤの前記ハブ側に一体回転可能に設けられたドグギヤと、前記ハブと前記ドグギヤとの間に配置されたシンクロナイザリングとを含み、
前記突起部が、前記ドグギヤと前記シンクロナイザリングとの間の下方に位置する前記第2シャフトの外周部に設けられた
請求項1又は2に記載の変速機の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、変速機においては、変速機ケース内の変速要素や摺動要素の摩耗、発熱等を抑制するために、これら各要素に潤滑油を供給している。例えば、特許文献1には、変速機ケースの底部に貯留された潤滑油に浸漬するカウンタシャフトの外周部に周方向に延びる環状突起を設け、当該環状突起に付着した潤滑油をカウンタシャフトの回転に伴う遠心力によって上方のシンクロ装置に向けて放出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−19510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1記載の技術では、カウンタシャフトの環状突起に付着した潤滑油を単に遠心力によって放出させているため、特にカウンタシャフトが低速回転する低速段走行時には、潤滑油の掻き上げ効率が低下する可能性がある。このため、シンクロ装置に十分な潤滑油を供給することができず、焼付きや摩耗の発生を効果的に防止できない虞がある。
【0005】
本開示の技術は、カウンタシャフトの低速回転時においても、潤滑油を効果的に掻き上げてシンクロ装置に供給することができる変速機の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の技術は、変速機のケース内に回転可能に設けられた第1シャフトと、前記第1シャフトよりも下方の前記ケース内に回転可能に設けられ、前記第1シャフトと平行に延びると共に、少なくともその一部を前記ケース内の底部に貯留された潤滑油に浸漬させた第2シャフトと、前記第1シャフトに相対回転可能に設けられた第1ギヤと、前記第2シャフトに一体回転可能に設けられて、前記第1ギヤと噛合する第2ギヤと、前記第1シャフトに設けられて、前記第1ギヤを前記第1シャフトと選択的に結合させる噛合装置と、前記噛合装置の下方に位置する前記第2シャフトの外周部に周方向に所定のピッチで設けられた複数の突起部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記突起部は、シャフト径方向の断面形状を突出端側に向かうに従い縮小する三角形状に形成されると共に、変速機が所定の前進段にギヤインされた際の前記第2シャフトの回転方向側の一側面が前記第2シャフトの径方向と平行又は前記回転方向側に傾けて形成されてもよい。
【0008】
また、前記突起部を少なくとも一対備えると共に、当該一対の突起部が前記第2シャフトの外周にシャフト軸中心を挟んで対称に配置されてもよい。
【0009】
また、前記噛合装置が、前記第1シャフトに一体回転可能に設けられたハブと、前記ハブの外周に軸方向に移動可能に噛合するスリーブと、前記第1ギヤの前記ハブ側に一体回転可能に設けられたドグギヤと、前記ハブと前記ドグギヤとの間に配置されたシンクロナイザリングとを含み、前記突起部が、前記ドグギヤと前記シンクロナイザリングとの間の下方に位置する前記第2シャフトの外周部に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、カウンタシャフトの低速回転時においても、潤滑油を効果的に掻き上げてシンクロ装置に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る変速機の潤滑構造を示す模式的な断面図である。
図2】本実施形態に係るカウンタシャフト及び突起部のシャフト軸方向の模式的な断面図である。
図3】本実施形態に係るカウンタシャフト及び突起部のシャフト径方向の模式的な断面図である。
図4】他の実施形態に係るカウンタシャフト及び突起部のシャフト径方向の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る変速機の潤滑構造について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0013】
図1に示すように、変速機ケース2内には、図示しないベアリングを介して回転自在に軸支されたメインシャフト10及び、カウンタシャフト20が互いに平行に配置されている。メインシャフト10は、本発明の第1シャフトに相当し、カウンタシャフト20は、本発明の第2シャフトに相当する。
【0014】
メインシャフト10には、ニードルベアリング11を介してメインギヤ12が相対回転可能に軸支されている。メインギヤ12は、本発明の第1ギヤに相当する。また、メインシャフト10には、メインギヤ12の側部に隣接して配置されて、メインギヤ12をメインシャフト10と選択的に同期結合(ギヤイン)させるシンクロ装置30が設けられている。
【0015】
カウンタシャフト20には、メインギヤ12と常時噛合するカウンタギヤ21が一体回転可能にスプライン結合されている。カウンタギヤ21は、本発明の第2ギヤに相当する。また、シンクロ装置30の下方に位置するカウンタシャフト20の外周部には、シンクロ装置30に潤滑油を供給するための複数の突起部22が設けられている。突起部22の詳細については後述する。
【0016】
シンクロ装置30は、本発明の噛合装置の一例であって、メインシャフト10にスプライン結合されたシンクロハブ31と、シンクロハブ31の外周歯と噛合する内周歯を有するシンクロスリーブ32と、メインギヤ12にスプライン結合されたドグギヤ33B(33Aは他のメインギヤ)と、シンクロハブ31と各ドグギヤ33A,Bとの間にそれぞれ配置されたシンクロナイザリング35A,Bとを備えている。
【0017】
シンクロ装置30は、図示しないシフトフォークによってシンクロスリーブ32がシフト移動されてシンクロナイザリング35A,Bを押圧すると同期荷重が生じ、シンクロスリーブ32とドグギヤ33A,Bとの回転数が同期すると、シンクロスリーブ32がさらに移動してドグギヤ33A,Bと完全に噛合することで、メインギヤ12をメインシャフト10と同期結合(ギヤイン)させるようになっている。
【0018】
次に、図2,3に基づいて、本実施形態に係る突起部22の詳細構成について説明する。
【0019】
図2に示すように、各突起部22は、好ましくは、ドグギヤ33A,Bとシンクロナイザリング35A,Bとの間の下方に位置するカウンタシャフト20の外周部に設けられている。突起部22のシャフト軸方向の断面形状は、先端側に向かうに従い縮小する略台形状に形成されている。
【0020】
また、図3に示すように、各突起部22のシャフト径方向の断面形状は、先端側に向かうに従い縮小する略三角形状に形成されている。各突起部22は、カウンタシャフト20の外周部に周方向に所定のピッチで設けられており、好ましくは、カウンタシャフト20の回転バランスが維持されるように、一対がカウンタシャフト20の軸中心を挟んで対照に配置されている。
【0021】
本実施形態において、各突起部22は、変速機が所定の前進段にギヤインされた際のカウンタシャフト20の回転方向側(以下、正回転方向側という)の一側面22Aと、カウンタシャフト20の接線Lとのなす角度θが0度よりも大きい90度以下の角度となるように形成されている。このように、突起部22の一側面22Aをカウンタシャフト20の接線方向と直角(径方向と平行)、又は、カウンタシャフト20の正回転方向側に傾斜させることで、変速機ケースの底部に貯留された潤滑油がカウンタシャフト20の回転に伴い突起部22の一側面22Aに効果的に捕集されて、シンクロ装置30に向けて確実に放出されるようになっている。
【0022】
以上のように構成された本実施形態の潤滑構造によれば、シンクロ装置30の下方に位置するカウンタシャフト20の外周部に複数の突起部22を設けると共に、各突起部22の一側面22Aがカウンタシャフト20の接線方向と直角又は正回転方向側に傾斜して設けられている。これにより、カウンタシャフト20の遠心力が弱い低速回転時においても、変速機ケースの底部に貯留された潤滑油が突起部22の一側面22Aによって確実に捕集されてシンクロ装置30に向けて放出されるようになり、シンクロ装置30の各摺動要素を効果的に潤滑することが可能になる。
【0023】
また、各突起部22をカウンタシャフト20の軸中心を挟んで対照に配置したことで、カウンタシャフト20の回転バランスを効果的に維持することができる。
【0024】
また、各突起部22をカウンタシャフト20に一体形成する簡素な構造としたことで、潤滑油を掻き上げるための別個のギヤやオイルキャッチャー等を設ける構造に比べ、部品点数の増加や変速機の重量増加等を効果的に防止することができる。
【0025】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0026】
例えば、突起部22の個数は、図示例の計8個(4対)に限定されず、カウンタシャフト20の回転バランスに影響を与えない1対以上であれば、被潤滑体であるシンクロ装置30の仕様等に応じて適宜最適な個数に設定することができる。
【0027】
また、突起部22の一側面22Aの形状は、平面状に限定されず、図4に示すように、カウンタシャフト20の逆回転方向側に凹む断面円弧状に形成されてもよい。
【0028】
また、噛合装置はシンクロ装置30に限定されず、シンクロナイザリングを含まないノンシンクロ装置であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
2 変速機ケース
10 メインシャフト
11 ニードルベアリング
12 メインギヤ
20 カウンタシャフト
21 カウンタギヤ
22 突起部
30 シンクロ装置
31 シンクロハブ
32 シンクロスリーブ
33A,B ドグギヤ
35A,B シンクロナイザリング
図1
図2
図3
図4