(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834374
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】壁構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/16 20060101AFI20210215BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20210215BHJP
B65D 90/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
E02B3/16 A
E04G23/02 A
B65D90/00 M
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-219351(P2016-219351)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-76709(P2018-76709A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】榎田 忠宏
【審査官】
湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−352035(JP,A)
【文献】
特開2014−104379(JP,A)
【文献】
米国特許第04655638(US,A)
【文献】
特開昭57−066212(JP,A)
【文献】
特開昭62−178613(JP,A)
【文献】
特開昭61−158599(JP,A)
【文献】
実開昭62−044998(JP,U)
【文献】
特開平02−252898(JP,A)
【文献】
特開2006−204965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/16
E02B 3/06
B65D 90/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコンクリート製の構造体を幅方向に連設して成り、各構造体と構造体との間に設けられた目地に目地材が埋設された壁構造物の目地部分の補修方法であって、
前記壁構造物の前記目地が設けられた部分に穴を形成する工程と、
膨張性を有し且つ膨張した状態において弾性を有する膨張性止水膜が少なくとも側面に形成された柱状体を前記穴に挿入する工程と、を含む、ことを特徴とする壁構造物の補修方法。
【請求項2】
前記柱状体は有底柱状体であり、
前記柱状体を前記穴に挿入する工程の前に、
前記穴の底部に粘性及び止水性を有する充填剤を充填する工程を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の壁構造物の補修方法。
【請求項3】
前記柱状体は底面に前記膨張性止水膜が形成されている、ことを特徴とする請求項2に記載の壁構造物の補修方法。
【請求項4】
前記穴に挿入された柱状体が浮き上がるのを抑える抑え部材を固定する工程を含む、ことを特徴とする請求項3に記載の壁構造物の補修方法。
【請求項5】
前記構造体は鋼構造材の上部に配設されており、
前記穴の深さは、前記鋼構造材の頂部が露出する深さであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の壁構造物の補修方法。
【請求項6】
前記穴に挿入された前記柱状体の前記膨張性止水膜を浸漬し膨張させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の壁構造物の補修方法。
【請求項7】
前記柱状体は中空に形成され、
前記穴に挿入された前記柱状体の中空部分を充填する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の壁構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸に用いられる護岸壁などの壁構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二つの領域を隔てる壁構造物のうち、陸と海を隔てる護岸に用いられるものは、例えば、岸に沿って鋼矢板を打設し、鋼矢板の上方に笠コンクリートを形成することにより構築される。コンクリートは膨張、収縮するため、護岸用の壁構造物すなわち護岸壁では、笠コンクリートに隙間/目地が例えば所定間隔毎に設けられており、該目地にはエラストマー製の板状部材などの目地材が挿入されている。これにより、笠コンクリートが膨張したときに破損することを防止している。
【0003】
護岸壁の笠コンクリートの目地に設けた瀝青質目地板が経年劣化等により劣化すると、該劣化部分が陸側から海側への地下水の水みちとなりやすい。護岸壁からの漏水は、排水溝から海側への排水とはならないため、これを防止する必要がある。
護岸壁の劣化した目地部分の補修をする場合、従来、陸側と海側において目地の周辺の笠コンクリートをはつり、その後、劣化した目地材を交換していた。
【0004】
特許文献1には、コンクリート構造物にクラックが生じて漏水した場合の補修方法が開示されている。この補修方法では、クラックに沿ってV字形にはつり、多孔壁で構成したチューブをV字の谷部に敷設する。そして、その外側に急結セメントを埋め込むと共に先端が上記チューブに当接し他端が外方に臨むように接着剤注入用パイプを配置して、漏水のガイド孔と表面への一時止水を行う。その後、急結セメントの外側にモルタルを埋め込み、次いで上記接着剤注入用パイプから接着剤を圧入し、クラックへ進入硬化させて漏水を補修する。
【0005】
特許文献2には、コンクリート躯体間の目地材が劣化・脱落し、漏水が発生した場合の漏水補修方法が開示されている。この漏水補修方法では、柔軟性と遮水性とを有する基材と、該基材に接合され、柔軟性と遮水性とを有する変形自在な付着層とを備えたテープ状の漏水補修材として用いる。該漏水補修材は、コンクリート躯体間の目地部を覆うように張り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−4470号公報
【特許文献2】特開2010−133203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、陸側と海側において目地の周辺の笠コンクリートをはつる等する前述の従来の方法では、海側からも作業する必要があるので、作業のための足場を海側に組む必要があり、補修期間が長期化することや、補修期間中は船が接岸できないこと、満潮時には作業できないため補修作業時間が限定されること等の問題があった。
【0008】
また、特許文献1に開示された方法を用いて、護岸の笠コンクリートの目地部分を補修する場合、海側から作業するケースが一般的に考えられ、その場合、上述と同じ問題がある。陸側から作業することも可能であるが、その場合、陸側に大掛かりな掘削工事が伴い、コスト、工程面で課題がある。
【0009】
特許文献2に開示された方法を用いて護岸の笠コンクリートの目地部分を補修する場合、テープ状の漏水補修部材を用いるので、海側から作業するとしても足場を組む必要はないが、テープ状の漏水補修部材では耐久性が低く、補修作業が繰り返し必要となる。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、複数のコンクリート製のブロック体を幅方向に連設して成りブロック体間に設けられた目地に目地材が埋設された壁構造物の目地部分の補修を簡単に行うことができ、かつ、補修した部分の耐久性が高い壁構造物の補修方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、本発明は、複数のコンクリート製の構造体を幅方向に連設して成り、各構造体と構造体との間に設けられた目地に目地材が埋設された壁構造物の目地部分の補修方法であって、前記壁構造物の前記目地が設けられた部分に穴を形成する工程と、
膨張性を有し且つ膨張した状態において弾性を有する膨張性止水膜が少なくとも側面に形成された柱状体を前記穴に挿入する工程と、を含む、ことを特徴としている。
【0012】
前記柱状体は有底柱状体であり、前記柱状体を前記穴に挿入する工程の前に、前記穴の底部に粘性及び止水性を有する充填剤を充填する工程を含んでもよい。
【0013】
前記柱状体は底面に前記膨張性止水膜が形成されていてもよい。
【0014】
前記穴に挿入された柱状体が浮き上がるのを抑える抑え部材を固定する工程を含んでもよい。
【0015】
前記構造体は鋼構造材の上部に配設されており、前記穴の深さは、前記鋼構造材の頂部が露出する深さであってもよい。
【0016】
前記穴に挿入された前記柱状体の前記膨張性止水膜を浸漬し膨張させる工程を含んでもよい
【0017】
前記柱状体は中空に形成され、前記穴に挿入された前記柱状体の中空部分を充填する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の壁構造物の補修方法によれば、目地部分の補修を簡単に行うことができ、かつ、補修した部分の耐久性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る壁構造物の補修方法で補修される壁構造物の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る壁構造物の補修方法を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る壁構造物の補修方法を説明するための他の図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る壁構造物の補修方法を説明するための別の図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る壁構造物の補修方法を説明するための別の図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る補修方法の効果について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る壁構造物の補修方法で補修される壁構造物の一例を示す図である。
図1(A)は後述の笠コンクリートのみ断面で示した側面図、
図1(B)は同様に笠コンクリートのみ断面で示した地中内の平面図である。
【0022】
図1(A)の壁構造物1は、護岸であり、岸に沿って複数本の鋼矢板11が連続打設されることにより形成された鋼矢板壁10と、該鋼矢板壁10と間隔を置いて埋設された鋼矢板21から成る控え工20と、を備える。また、壁構造物1は、鋼矢板壁10の上部と控え工20の上部とを連結する支持部材としてのタイロッド30を備える。
【0023】
さらに、壁構造物1は、鋼矢板壁10の上部を囲む笠コンクリート40を備える。
この笠コンクリート40は、
図1(B)に示すように、本発明に係る「構造体」としてのコンクリートブロック体41を複数有する。より具体的には、笠コンクリート40は、壁構造物1の幅方向すなわち岸に沿ってコンクリートブロック体41が連設されることにより形成されたものである。
コンクリートブロック体41と隣接するコンクリートブロック体41との間には目地42が設けられており、目地42には目地材43が埋設されている。目地42は、例えば、15〜25m間隔で設けられており、目地材43としては、例えば、エラストマー製の板状部材や瀝青質目地板が用いられる。
【0024】
目地材43が経年劣化などにより破損していると、
図1(A)に示すように満潮面(HWL)や干潮面(LWL)が地下水レベルより高い場合等に、目地材43の劣化部分すなわち破損部分が地下水の水みちになりやすい。
【0025】
そのため、目地材43からの地下水の漏水があったときや、目地材43からの地下水の漏水を防ぐために所定の時期(例えば、壁構造物1の完成から所定期間経過後)に、本実施形態に係る壁構造物の補修方法は行われる。
【0026】
図2〜
図5は、本実施形態に係る壁構造物の補修方法を説明するための図である。
図2(A)、
図3(A)、
図4(A)及び
図5(A)は目地部分の平面図、
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)及び
図5(B)は鋼矢板壁10の頂部付近の部分拡大図、
図4(C)は後述のパイプの端部の部分拡大側面図である。なお、
図2以降では壁構造物の要部のみ図示している。
【0027】
(穴形成工程)
本実施形態に係る壁構造物1の補修方法、より具体的には、壁構造物1の目地42の部分の補修方法では、まず、
図2(A)及び
図2(B)に示すように、笠コンクリート40の目地42が設けられた部分に、鉛直方向上側から下側に向けて、コアボーリング等により円形の穴50を形成する。穴50は、本例では、内径がφ150mmであり、隣接するコンクリートブロック体41の両方にかかるように形成される。また、穴50の深さは、鋼矢板11の頂部が露出する深さ、例えば3000mmである。
【0028】
(充填工程)
穴形成工程に次いで、
図3(A)及び
図3(B)に示すように、ストレートアスファルト等のアスファルト51を穴50の底部に充填する。アスファルト51は粘性及び止水性を有する充填剤であり、アスファルト51の粘性は少なくとも目地材43の破損部から該アスファルト51が漏れ出すことがない粘性であればよい。アスファルト51は、該アスファルト51の層の厚さが100mm程度となるまで充填される。
穴形成工程で鋼矢板11の頂部全体が露出するように穴50を形成した場合、後述のパイプ52の下端と対向する穴50の底面は平坦とならないが、アスファルト51を充填することにより、穴50におけるパイプ52の下端との対向面を平坦にすることができる。
【0029】
(挿入工程)
充填工程後、
図4(A)及び
図4(B)に示すように、本発明の「柱状体」の一例である円筒状のパイプ52を穴50に挿入する。そして、パイプ52をアスファルト51に押し付けて固定する。パイプ52は、
図4(C)に示すように例えば底部が塞がれた鋼管53から成り、その側面及び底部に膨張性止水膜54が形成されている。膨張性止水膜54は、膨潤止水材を塗布した後に静置することにより空気中の水分を吸収し形成された塗膜であり、膨潤性を有し、少なくとも、膨張した状態において弾性を有する。上述の膨潤止水材としては、鋼矢板の止水性の向上のため鋼矢板の継手部(
図1(B)の符号21a参照)に用いられるものをパイプ52にも用いることができる。
パイプ52の外径は、より具体的には鋼管53の外径は、例えばφ120〜130mmであり、穴50の内径よりわずかに小さい。したがって、パイプ52の外側面と穴50の内周面との間には隙間がある。しかし、この隙間は、穴50に流れ込んだ地下水や雨水などを吸収して膨張した膨張性止水膜54により塞がれる。
【0030】
(抑え工程)
パイプ52は底面にも膨張性止水膜54が形成されているため、該膨張性止水膜54が膨張したときに、パイプ52に対して上方向に移動させるような力が働く。このような力が働いたときにパイプ52が浮き上がるのを抑えるための抑え部材として、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、アングル55を穴50の上部に取り付ける。アングル55は、例えば、鋼板からなり、その両端がコンクリートブロック体41にボルト等により固定される。
【0031】
上述のように、本実施形態に係る方法で壁構造物1を補修した場合、目地42の部分に穴50を形成し、該穴50に膨張性止水膜54が側面に形成されたパイプ52を挿入しているため、目地材43が劣化し水みちとなっても、該水みちを流れた地下水は穴50に至り、該地下水等により膨張した膨張性止水膜54により堰き止められる。したがって、地下水が壁構造物1から海側へ漏れるのを防ぐことができる。
【0032】
また、本実施形態に係る方法で壁構造物1を補修した場合、膨張性止水膜54は弾性を有するため、笠コンクリート40が膨張したり収縮したりしても、目地42の部分に隙間が生じることがなく、隣接するコンクリートブロック体41同士が接触して破損することもない。
【0033】
そして、本実施形態に係る補修方法では、海側から作業する必要がないため、足場を組む必要がないこと等から簡単に補修することができる。また、本実施形態に係る補修方法では、漏水補修部材としてテープ状のものを用いていないため、耐久性が高い。
【0034】
図6は、本実施形態に係る補修方法のさらなる効果について説明するための図であり、穴50の底部分を拡大して示す部分断面図である。
【0035】
前述のように、パイプ52の底部にも膨張性止水膜54が形成されており、パイプ52の上部にはアングル55が取り付けられており、パイプ52は上方向に移動できないようになっている。
また、
図6(A)に示すように穴50の周辺の笠コンクリート40にクラック41aが生じている場合がある。
【0036】
パイプ52は上述のように上方向に移動できないため、パイプ52の膨張性止水膜54が膨張すると、パイプ52からアスファルト51に対して下方向すなわち鋼矢板壁10の方向に向けて押し付ける力が働く。これにより、
図6(B)に示すように、クラック41aの穴50側の根本がアスファルト51により埋められる。
そのため、本実施形態に係る方法で補修した壁構造物1では、穴50の周辺すなわち鋼矢板壁10の頂部周辺に形成されていたクラック41aを水みちとした漏水を防ぐことができる。
【0037】
地下水は鋼矢板壁10を通過することができないため、内陸部から鋼矢板壁10に向かって流れた地下水の多くは鋼矢板壁10の頂部に至る。したがって、上述のように鋼矢板壁10の頂部周辺に形成されていたクラック41aを塞ぐことで、漏水が発生する確率を大幅に下げることができる。
【0038】
(追加工程)
本実施形態に係る壁構造物の補修方法では、上述の抑え工程の後に、穴50とパイプ52との間の隙間に意図的に注水し、膨張性止水膜54を浸漬し膨張させる膨張工程を追加してもよい。
【0039】
なお、以上の例では、膨張性止水膜54を膨潤性のものとしていたが、膨潤性に限らず、時間経過と共に膨張する性質を有するものであってもよい。
また、以上の例では、穴50の底部を充填する充填剤としてアスファルト51を用いているが、これに代えてコールタールを用いてもよい。
穴50の形状は、上述の例では円形であったが、円形に限られず角形等であってもよい。ただし、円形であれば容易に穴50を形成することができる。
また、以上の例では、パイプ52は鋼管としていたが、これに限られずポリ塩化ビニル管等であってもよい。ただし、鋼管であれば、耐久性を高くすることができる。
【0040】
以上では、本実施形態に係る方法で補修する壁構造物として護岸を例に説明していたが、コンクリート製の水槽や、コンクリート製のピット等も補修することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…壁構造物
10…鋼矢板壁
11…鋼矢板
20…円形鋼管
21…鋼矢板
30…タイロッド
40…笠コンクリート
41…コンクリートブロック体
41a…クラック
42…目地
43…目地材
50…穴
51…アスファルト
52…パイプ
53…鋼管
54…膨張性止水膜