(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834379
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】板ガラス製造方法及び板ガラス製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20210215BHJP
【FI】
C03B17/06
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-220610(P2016-220610)
(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公開番号】特開2018-76213(P2018-76213A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】玉村 周作
【審査官】
有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−190776(JP,A)
【文献】
特表2013−516386(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/007656(WO,A1)
【文献】
国際公開第2017/079405(WO,A1)
【文献】
特表2011−502099(JP,A)
【文献】
特表2016−505500(JP,A)
【文献】
特開2015−105215(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/158974(WO,A1)
【文献】
特開平05−193964(JP,A)
【文献】
特開2008−133174(JP,A)
【文献】
特開2010−215428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体から溶融ガラスを流下させて板ガラスとして成形するとともに、前記成形体の下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第一ローラと、前記第一ローラの下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第二ローラとを含む上下複数段のローラにより前記板ガラスを牽引することで前記板ガラスを連続的に製造する方法において、
前記板ガラスの連続的な製造の開始時において、
前記成形体から前記溶融ガラスの一部をガラス塊として垂下させる工程と、
前記ガラス塊を前記第一ローラにより挟持させるべく、前記第一ローラの前記幅方向における離間距離を、前記第二ローラの前記幅方向における離間距離よりも小さく設定する工程と、
前記ガラス塊を前記第一ローラ及び前記第二ローラにより挟持することで板状に変形させる工程と、を備えることを特徴とする、板ガラス製造方法。
【請求項2】
前記第一ローラは、前記第一ローラを支持する軸部を有するとともに、前記軸部の軸方向に移動可能に構成される、請求項1に記載の板ガラス製造方法。
【請求項3】
前記第一ローラは、前記ガラス塊を挟持した後に、前記第二ローラと同位置となるように前記成形体における幅方向の端部寄りの位置に移動する、請求項2に記載の板ガラス製造方法。
【請求項4】
前記第二ローラが前記板ガラスの幅方向の端部を挟持した後に、前記第一ローラは前記板ガラスに接触しないように離れる、請求項1又は2に記載の板ガラス製造方法。
【請求項5】
前記第一ローラが前記ガラス塊を挟持する圧力は、前記第二ローラが前記板ガラスを挟持する圧力よりも大きく設定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の板ガラス製造方法。
【請求項6】
前記第二ローラは、前記第二ローラを支持する軸部を有しており、
前記第一ローラの前記軸部の長さは、前記第二ローラの前記軸部の長さよりも長く設定される、請求項2又は3に記載の板ガラス製造方法。
【請求項7】
前記第一ローラの幅は、前記第二ローラの幅よりも大きく設定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の板ガラス製造方法。
【請求項8】
溶融ガラスの一部をガラス塊として垂下するとともに、前記溶融ガラスを板ガラスとして成形する成形体と、前記成形体の下方に配置されるとともに前記板ガラスを牽引する上下複数段のローラと、を備える板ガラス製造装置において、
前記ローラは、前記成形体の下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第一ローラと、前記第一ローラの下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第二ローラとを含み、
前記第一ローラの前記幅方向における離間距離を、前記第二ローラの前記幅方向における離間距離よりも小さく設定する構造を有し、
前記第一ローラ及び前記第二ローラは、前記ガラス塊を挟持して板状に変形させることが可能に構成されることを特徴とする、板ガラス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスから板ガラスを製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ(OLED)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板に代表されるように、各種分野に利用される板ガラスには、表面欠陥やうねりに対して厳しい製品品位が要求されるのが実情である。
【0003】
このような要求を満たすために、板ガラスの製造方法としてダウンドロー法が広く利用されている。このダウンドロー法としては、オーバーフローダウンドロー法やスロットダウンドロー法が公知である。
【0004】
オーバーフローダウンドロー法は、断面が略くさび形の成形体の上部に設けられたオーバーフロー溝に溶融ガラスを流し込み、このオーバーフロー溝から両側に溢れ出た溶融ガラスを成形体の両側の側壁部に沿って流下させながら、成形体の下端部で融合一体化し、一枚の板ガラスを連続成形するというものである。また、スロットダウンドロー法は、溶融ガラスが供給される成形体の底壁にスロット状の開口部が形成され、この開口部を通じて溶融ガラスを流下させることにより一枚の板ガラスを連続成形するというものである。
【0005】
特にオーバーフローダウンドロー法は、成形された板ガラスの表裏両面が、成形過程において、成形体の如何なる部位とも接触せずに成形されるので、非常に平面度がよく傷等の欠陥のない火造り面となる。
【0006】
例えば、オーバーフローダウンドロー法を用いる板ガラス製造装置として、特許文献1に開示されるように、成形体を内部に有する成形炉と、成形炉の下方に設置される徐冷炉と、徐冷炉の下方に設けられる冷却部及び切断部とを備えたものがある。この板ガラス製造装置は、成形体の頂部から溶融ガラスを溢れさせると共に、その下端部で融合させることで板ガラス(ガラスリボン)を成形し、この板ガラスを徐冷炉に通過させてその内部歪みを除去し、冷却部で室温まで冷却した後に、切断部で所定寸法に切断するように構成されている。徐冷炉内には、成形体によって成形された板ガラスを牽引する上下複数段のローラが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−197185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
成形炉による成形工程における準備段階において、成形体から溢れ出た溶融ガラスは、成形体の下端部において塊状(以下「ガラス塊」という)に構成される。成形工程を開始するにあたり、このガラス塊を引き伸ばし、徐冷炉内のローラに挟持させる準備作業を効率良く行う必要がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたものであり、成形工程の準備作業を効率良く行うことが可能な板ガラス製造方法及び板ガラス製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、成形体から溶融ガラスを流下させて板ガラスとして成形するとともに、前記成形体の下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第一ローラと、前記第一ローラの下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第二ローラとを含む上下複数段のローラにより前記板ガラスを牽引することで前記板ガラスを連続的に製造する方法において、前記板ガラスの連続的な製造の開始時において、前記成形体から前記溶融ガラスの一部をガラス塊として垂下させる工程と、前記ガラス塊を前記第一ローラにより挟持させるべく、前記第一ローラの前記幅方向における離間距離を、前記第二ローラの前記幅方向における離間距離よりも小さく設定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
板ガラスの製造開始時、すなわち成形工程の準備段階において、成形体の下端部に生じるガラス塊は、成形体の幅方向中央位置に形成される。本方法では、成形体の幅方向における第一ローラの離間距離を、第二ローラの離間距離よりも小さく設定することで、このガラス塊を第一ローラにより確実に挟持できる。ガラス塊は、第一ローラによって挟持されることによって冷却され、その幅が広がるとともに板状に変形する。この板状に変形した部分を下方の第二ローラによって挟持することにより、さらにその幅を拡張させ、所望の幅を有する板ガラスを成形できる。このような第一ローラ及び第二ローラの位置関係により、成形工程の準備作業を効率良く行うことが可能になる。
【0012】
上記の板ガラス製造方法において、前記第一ローラは、前記第一ローラを支持する軸部を有するとともに、前記軸部の軸方向に移動可能に構成され得る。これによれば、第一ローラを軸方向に移動可能に構成することにより、ガラス塊の位置や大きさに応じて、第一ローラの位置を調整できる。したがって、第一ローラは、好適な位置でガラス塊を確実に挟持できる。
【0013】
上記の板ガラス製造方法では、前記第一ローラは、前記ガラス塊を挟持した後に、前記第二ローラと同位置となるように前記成形体における幅方向の端部寄りの位置に移動することが望ましい。これによれば、第一ローラは、ガラス塊を第二ローラ側に案内することができ、このガラス塊を早期に第二ローラに挟持させることができる。
【0014】
また、前記第二ローラが前記板ガラスの前記端部を挟持した後に、前記第一ローラは前記板ガラスに接触しないように離れることが望ましい。第二ローラによって、所定幅の板ガラスが連続形成された状態において、第一ローラを板ガラスから離すことで、板ガラスの温度を急激に変化させることなく、この板ガラスを第二ローラにより安定して牽引できる。
【0015】
上記の板ガラス製造方法において、前記第一ローラが前記ガラス塊を挟持する圧力は、前記第二ローラが前記板ガラスを挟持する圧力よりも大きく設定されることが望ましい。これによれば、第一ローラによりガラス塊を確実に挟持し、第二ローラにこのガラス塊の一部が向かうように、当該ガラス塊の幅を好適に拡張させることが可能になる。
【0016】
上記の板ガラス製造方法において、前記第二ローラは、前記第二ローラを支持する軸部を有しており、前記第一ローラの前記軸部の長さは、前記第二ローラの前記軸部の長さよりも長く設定されることが望ましい。このように第一ローラの軸部を長く構成することにより、第一ローラの軸方向における移動範囲を可及的に大きくすることができる。したがって、第一ローラは、板ガラスの寸法や温度条件等によって変化するガラス塊の大きさや位置に対応して、当該ガラス塊を確実に挟持できる。
【0017】
上記板ガラス製造方法において、前記第一ローラの幅は、前記第二ローラの幅よりも大きく設定されることが望ましい。これによれば、第一ローラは、ガラス塊を確実に挟持できる。さらに、第一ローラは、ガラス塊を冷却する能力が向上し、挟持したガラス塊を効果的に第二ローラの方向に拡張させることができる。
【0018】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであり、溶融ガラスの一部をガラス塊として垂下するとともに、前記溶融ガラスを板ガラスとして成形する成形体と、前記成形体の下方に配置されるとともに前記板ガラスを牽引する上下複数段のローラと、を備える板ガラス製造装置において、前記ローラは、前記成形体の下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第一ローラと、前記第一ローラの下方に配置されるとともに前記成形体の幅方向において離間してなる一組の第二ローラとを含み、前記ガラス塊を前記第一ローラにより挟持させるべく、前記第一ローラの前記幅方向における離間距離を、前記第二ローラの前記幅方向における離間距離よりも小さく設定する構造を有することを特徴とする。
【0019】
成形工程の準備段階において、成形体の下端部に生じるガラス塊は、成形体の幅方向中央位置に形成される。上記の板ガラス製造装置では、成形体の幅方向における第一ローラの離間距離を、第二ローラの離間距離よりも小さく設定することで、このガラス塊を第一ローラにより確実に挟持できる。第一ローラが挟持したガラス塊は、当該第一ローラに冷却されることで、その幅が次第に引き伸ばされ、第二ローラに挟持されることになる。これにより、板ガラスは所定の幅を維持した状態で連続的に成形され得る。このような第一ローラ及び第二ローラの位置関係により、板ガラス製造装置は、成形工程の準備作業を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、成形工程の準備作業を効率良く行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】板ガラス製造方法の一工程を示す板ガラス製造装置の正面図である。
【
図5】板ガラス製造方法の一工程を示す板ガラス製造装置の正面図である。
【
図6】板ガラス製造方法の一工程を示す板ガラス製造装置の側面図である。
【
図7】板ガラス製造方法の一工程を示す板ガラス製造装置の正面図である。
【
図8】板ガラス製造方法の一工程を示す板ガラス製造装置の正面図である。
【
図9】板ガラス製造方法の一工程を示す板ガラス製造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図9は、本発明に係る板ガラス製造方法及び板ガラス製造装置の一実施形態を示す。
【0023】
図1及び
図2に示すように、板ガラス製造装置1は、成形炉2と、成形炉2の下方に位置する徐冷炉3とを主に備える。板ガラス製造装置1は、上流側に設けられる溶解炉から供給される溶融ガラスGMを成形炉2により板ガラスGRに成形した後、この板ガラスGRの内部歪みを徐冷炉3にて除去する。
【0024】
成形炉2は、炉壁の内側にオーバーフローダウンドロー法を実行する成形体4と、成形体4から溢れ出た溶融ガラスGMを板ガラスGRとして引き抜くエッジローラ5とを備える。
【0025】
成形体4は、長尺状に構成されるとともに、頂部にその長手方向に沿って形成されたオーバーフロー溝6を有する。また、成形体4は、互いに対向する一対の側壁部を構成する垂直面部7及び傾斜面部8を備える。垂直面部7の下端部には、傾斜面部8が繋がるように形成される。一対の傾斜面部8は、下方に向かって漸次接近することで交差し、成形体4の下端部9を構成している。
【0026】
図1に示すように、エッジローラ5は、成形体4の直下方において、板ガラスGRにおける幅方向Xの各端部GRa,GRbを挟持するように、正面視において左右一組として構成される。また、
図2に示すように、エッジローラ5は、板ガラスGRにおける幅方向Xの端部GRa,GRbを挟持するように、板ガラスGRの板厚方向Yに並設されるローラ対として構成される。なお、以下では、成形体4の長手方向を「幅方向」といい、成形体4の幅方向と板ガラスGRの幅方向とに共通の符号Xを用いる(
図1、
図4、
図5、
図7及び
図8参照)。
【0027】
この成形炉2では、成形体4のオーバーフロー溝6に溶融ガラスGMを流し込み、このオーバーフロー溝6から両側に溢れ出た溶融ガラスGMを垂直面部7及び傾斜面部8に沿って流下させながら、下端部9で融合一体化し、一枚の板ガラスGRを連続成形する。なお、成形体4は、上記の構成に限らず、スロットダウンドロー法を実行する構成であってもよい。
【0028】
図1及び
図2に示すように、徐冷炉3は、上下方向に複数段(図例では四段)として構成されるローラ(アニーラローラ)10〜13を有する。以下、これら複数段のローラ10〜13を、上から順に、第一ローラ10乃至第四ローラ13という。
図2に示すように、各ローラ10〜13は、板ガラスGRを板厚方向Yにおいて挟持するローラ対として構成される。また、各ローラ10〜13は、板ガラスGRにおける幅方向Xの各端部GRa,GRbを挟持するように、正面視(
図1参照)において左右一組となるように構成される。
【0029】
各ローラ10〜13は、当該ローラ10〜13を支持する軸部10a〜13aを個別に備える。各ローラ10〜13は、各軸部10a〜13aの一端部に支持される片持ちローラである。第一ローラ10の軸部10aの長さL1は、他のローラ11〜13の軸部11a〜13aの長さL2〜L4よりも長く設定される。第二ローラ11、第三ローラ12及び第四ローラ13の各軸部11a〜13aは、その長さL2〜L4が等しくなるように構成される。
【0030】
図3に示すように、各ローラ10〜13の各軸部10a〜13aには、冷却装置14が設けられる。冷却装置14は、中空状に構成される軸部10a〜13aの内部に冷却配管15を配置してなる。冷却配管15は、空気等の冷却媒体を吐出する口部15aを有する。口部15aから吐出される冷却媒体は、軸部10a〜13aを流通することにより、当該軸部10a〜13a及びローラ10〜13を冷却する。
【0031】
板ガラスGRの板厚方向Yにおいて対となる各ローラ10〜13は、その軸間距離を変更可能に構成される。また、各ローラ10〜13は、その軸方向、すなわち成形体4又は板ガラスGRにおける幅方向Xに沿って移動可能に構成される。以下、成形体4の端部4a,4bから中央部4cに向かう方向を「軸方向内方」といい、中央部4cから端部4a,4bに向かう方向を「軸方向外方」という。
【0032】
第一ローラ10の幅W1は、他のローラ11〜13の幅W2〜W4よりも大きくなるように構成される。第二ローラ11の幅W2と、第三ローラ12の幅W3と、第四ローラ13の幅W4とは、等しくなるように構成される。
【0033】
第一ローラ10は、主として板ガラスGRの成形準備工程において、成形体4から溢れ出た溶融ガラスGMにより形成されるガラス塊GLを挟持するためのものである。第二ローラ11乃至第四ローラ13は、第一ローラ10により挟持されるガラス塊GLが変形して板状に構成された場合に、その一部を挟持するとともに、所定幅となった板ガラスGRにおける幅方向Xの端部GRa,GRbを挟持するためのものである。
【0034】
以下、上記構成の板ガラス製造装置1により板ガラスGRを成形する方法(板ガラス製造方法)について説明する。板ガラスGRの製造開始時において、成形体4から流下する溶融ガラスGMを各ローラ5,10〜13に挟持させる作業(成形工程の準備作業)を行う必要がある。すなわち、溶解炉から供給される溶融ガラスGMは、成形体4のオーバーフロー溝6に注入されるとともに、このオーバーフロー溝6から溢れ出て垂直面部7及び傾斜面部8を伝い、下端部9にて合流する。このとき、左右一組のエッジローラ5は、合流して落下(垂下)しようとする溶融ガラスGMの一部を挟持する(
図4参照)。なお、本発明において、板ガラスGRの製造開始時とは、板ガラスGRの成形工程の準備作業が必要となる場合をいい、例えば板ガラス製造装置1の操業が一旦中断した後、板ガラスGRの成形を再開する場合も含むものとする。
【0035】
図4に示すように、溶融ガラスGMは、成形体4における幅方向Xの中央部4cにおいて、ガラス塊GLを形成する。このガラス塊GLは、成形体4から周期的に複数回にわたって落下(垂下)する。第一ローラ10は、成形体4における幅方向Xの端部4a,4b寄りの位置にて待機している。この待機位置では、第一ローラ10は、幅方向Xにおいて他のローラ11〜13と同位置にある。したがって、第一ローラ10の離間距離D1は、他のローラ11〜13の離間距離D2〜D4と等しい。
【0036】
ガラス塊GLが形成されると、
図5に示すように、第一ローラ10は、待機位置から成形体4における幅方向Xの中央部4c寄りの位置(初期挟持位置)に向かって移動し、このガラス塊GLを挟持する(第一ローラ10によるガラス塊GLの挟持工程)。この場合において、
図6に示すように、ローラ対である第一ローラ10は、互いに接近することにより(二点鎖線で示す)、ガラス塊GLを落下(垂下)途中で挟持する。
【0037】
ここで、ガラス塊GLの幅は、後に成形される板ガラスGRの幅よりも小さい為、第一ローラ10は、成形体4の中央部4c寄りの位置、すなわち、後に成形される板ガラスGRにおける幅方向Xの中央部GRc寄りの位置に配置される。換言すれば、正面視において左右一組とされる第一ローラ10における軸方向(幅方向X)における離間距離D1は、他のローラ11〜13の左右組における軸方向の離間距離D2〜D4よりも小さくなる(
図5参照)。
【0038】
ガラス塊GLは、成形される板ガラスGRの寸法や温度条件によってその大きさが変化する。このため、第一ローラ10は、軸方向への移動によってその離間距離D1が調整される。板ガラスGRの板厚方向Yにおいて対となる第一ローラ10は、ガラス塊GLを挟持する圧力が、他のローラ11〜13が板ガラスGRを挟持する圧力よりも大きくなるように設定される。
【0039】
第一ローラ10は、ガラス塊GLを挟持することによって冷却し、当該ガラス塊GLの幅を拡張させる。このようなガラス塊GLの拡張に対応するように、第一ローラ10は、
図7に示すように、成形体4の中央部4c寄りの位置から軸方向外方へと移動する。これに伴い、ガラス塊GLの幅はさらに拡張される。これによりガラス塊GLは、第二ローラ11に近づく。
【0040】
左右の組である第二ローラ11は、ガラス塊GLの一部を挟持すべく軸方向内方へと移動する。これにより、各第二ローラ11は、互いに接近することとなり、その離間距離D2が小さくなる。このとき、第二ローラ11の離間距離D2は、第一ローラ10の離間距離D1と略等しいか、又は若干大きくなるように設定される。その後、第二ローラ11は、第一ローラ10によって拡張されたガラス塊GLの一部を挟持する。第二ローラ11は、ガラス塊GLの一部を挟持すると、元の位置へと戻る(離間距離D2が再び大きくなる)。第一ローラ10及び第二ローラ11のこのような動作により、ガラス塊GLはその幅が広がり、徐々に板状へと変形する。これに伴い、このガラス塊GLに連なる上流側(上方側)の溶融ガラスGMもその幅を拡張しながら板形状に成形される。
【0041】
第二ローラ11によってさらに幅が拡張されたガラス塊GLは、第三ローラ12に到達する。これにより、第三ローラ12は、ガラス塊GLの一部を挟持し下方に案内する。その後、第四ローラ13は、ガラス塊GLの一部を挟持し下方に案内する(
図8参照)。このように、第二ローラ11乃至第四ローラ13に挟持されることにより、ガラス塊GLに連なる板状の溶融ガラスGMは、さらに幅を拡張し、その結果、所期の幅を有する板ガラスGRが第二ローラ11乃至第四ローラ13に牽引されることとなる(
図1参照)。
【0042】
第二ローラ11乃至第四ローラ13は、溶融ガラスGMが所定幅の板ガラスGRに成形された場合に、当該板ガラスGRにおける幅方向Xの端部GRa,GRbを挟持するように、幅方向X(軸方向)において、一定の離間距離D2〜D4で離間される(
図1参照)。この場合、各離間距離D2〜D4は等しくなるように設定されるが、これに限定されず、板ガラスGRの状態に応じて異なるように設定され得る。
【0043】
第一ローラ10は、第二ローラ11乃至第四ローラ13により板ガラスGRが挟持されると、板ガラスGRの挟持を解除する。すなわち、
図9に示すように、対の第一ローラ10は、その軸間距離が大きくなり、板ガラスGRから離れる。これにより、第一ローラ10が板ガラスGRに接触しなくなるため、板ガラスGRは、第一ローラ10によって冷却されることはない。その後、この第一ローラ10を軸方向外方に移動させて板ガラスGRからさらに離間させてもよい。この場合、左右一組の第一ローラ10の離間距離D1は、他のローラ11〜13の離間距離D2〜D4よりも大きくなってもよい。
【0044】
以上説明した本実施形態に係る板ガラス製造装置1及び板ガラス製造方法によれば、板ガラスGRの製造開始時(成形工程の準備作業時)において、第一ローラ10を、成形体4の下方において、当該成形体4における幅方向Xの中央部4c寄りの位置(板ガラスGRにおける幅方向の中央部GRc寄りの位置)に配置することにより、第一ローラ10の離間距離D1を第二ローラ11の離間距離D2よりも小さく設定する。これにより、成形工程の準備段階で生じるガラス塊GLを確実に挟持できる。
【0045】
ガラス塊GLは、第一ローラ10によって挟持されることによって冷却され、その幅が広がるとともに板状に変形する。この板状に変形した部分を下方の第二ローラ11によって挟持することにより、さらに溶融ガラスGMその幅を拡張させ、所望の幅を有する板ガラスGRを成形できるようになる。これにより、板ガラス製造装置1及び板ガラス製造方法は、成形工程の準備作業を効率良く行うことが可能になる。
【0046】
また、第一ローラ10を軸方向に移動可能に構成することにより、ガラス塊GLの発生位置や大きさに応じて、第一ローラ10の位置を調整することができる。したがって、第一ローラ10は、好適な位置でこのガラス塊GLを確実に挟持することができる。さらに、第一ローラ10は、ガラス塊GLを挟持した後に、第二ローラ11と同位置となるように、軸方向外方へと移動する。第一ローラ10が、成形体4における幅方向Xの端部4a,4b寄りの位置に移動することで、ガラス塊GLを第二ローラ11側に案内し、このガラス塊GLを早期に第二ローラ11に挟持させることができる。
【0047】
また、第二ローラ11が板ガラスGRの端部GRa,GRbを挟持した後に、第一ローラ10が板ガラスGRに接触しないように離れることで、第一ローラ10の冷却効果を板ガラスGRに及ぼすことなく、第二ローラ11乃至第四ローラ13によって均一な厚さの板ガラスGRを好適に牽引させることができる。また、第一ローラ10がガラス塊GLを挟持する圧力は、第二ローラ11が板ガラスGRを挟持する圧力よりも大きく設定されることから、板ガラスGRよりも厚さが大きなガラス塊GLを第一ローラ10によって確実に挟持できる。しかも、第一ローラ10により、ガラス塊GLの一部が第二ローラ11に向かうように、ガラス塊GLの幅を好適に拡張させることが可能になる。
【0048】
また、第一ローラ10の軸部10aの長さL1を第二ローラ11乃至第四ローラ13の各軸部11a〜13aの長さL2〜L4よりも長く設定することにより、第一ローラ10の軸方向における移動範囲を可及的に大きくすることができる。また、第二ローラ11乃至第四ローラ13の軸部11a〜13aの長さを短くすることにより、第二ローラ11乃至第四ローラ13の芯ぶれを最小化し、板ガラスGRを好適に牽引させることが可能になる。
【0049】
第一ローラ10の幅W1を他のローラ11〜13の幅W2〜W4よりも大きく設定されることで、第一ローラ10にガラス塊GLを確実に挟持させ、かつ、ガラス塊を冷却する能力を向上させることができる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
上記の実施形態では、ガラス塊GLを挟持した後に第一ローラ10を軸方向外方に移動させる例を示したが、これに限定されない。第一ローラ10は、ガラス塊GLを挟持した状態でその位置に留まったままでもよい。
【0052】
上記の実施形態では、第一ローラ10及び第二ローラ11を軸方向に移動させてこれらにガラス塊GLを挟持させる例を示したが、これに限定されず、第三ローラ12及び第四ローラ13を軸方向に移動させてこれらにガラス塊GLを挟持させてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 板ガラス製造装置
4 成形体
10 第一ローラ
10a 第一ローラの軸部
11 第二ローラ
11a 第二ローラの軸部
GL ガラス塊
GM 溶融ガラス
GR 板ガラス
L1 第一ローラの軸部の長さ
L2 第二ローラの軸部の長さ
W1 第一ローラの幅
W2 第二ローラの幅